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医学研究のはなし

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医学研究のはなし
医学研究のはなし
2016年1月
1
遺伝子とは
例えば、お酒に強い人と弱い人、
これら人間の体質を決めているのが
遺伝子です。
遺伝子は父母から引き継がれ、
私たちの姿かたちなどの性質を決めています。
体の中にある60兆の細胞すべてが、
2万種類以上ある全遺伝子を持ちます。
2
どうして遺伝子は大事なの?1
父母から引き継いだ遺伝子は
姿かたちだけではなく、
私たちの体質を決めています。
生まれつきの遺伝子の個人差を
遺伝子多型と言います。
3
遺伝子多型と体質
4
上の写真はある食事会の写真です
お酒を飲み初めてすぐの状況です。
の二人は、赤くなりやすさが全然違います
5
二人のお酒の反応の違いはアルデヒ
ド脱水素酵素2(ALDH2)の遺伝子の配
列が1箇所違う(遺伝子多型)によっ
て起こります。
酵素活性
が普通
酵素活性
が弱い
6
ALDH2の3つの遺伝子型
飲める
ある程度飲める
全然飲めない
7
お酒とがん
•
•
お酒ががんのリスクを
上げる事が知られてい
ます。
世界保健機関(WHO)は、
お酒をタバコなどと同じ
Group 1 (確実な発が
ん因子)としています。
•
お酒と関連が強いがん
としては、食道がん、頭
頸部がん、肝臓がん、
大腸がん、乳がんが知
られています。
8
なぜお酒でがんのリスクが上がる?
• お酒の中に入っているアルコー
ルは、体の中に入ってアセトアル
デヒドという有害な物質になりま
す(右図)。
• このアセトアルデヒドが細胞の中
の遺伝子に傷を付けてがん化に
つながります。
• アルデヒド脱水素酵素2 (ALDH2)
はこのアセトアルデヒドを解毒す
る酵素です。酵素が弱いと、アセ
トアルデヒドが体にたまりやすく
なります。
アルコールの代謝
アルコール
アセトアルデヒド
(発がん物質)
¬ALDH2酵素が
働くところ
酢酸
9
お酒による食道がんのなりやすさが
ALDH2の遺伝子型で全然違います
125
のまない
少量
中等量
大量
相対危険度(なりやすさ)
100
75
50
118
25
0
1
1.88
2.83
ALDH2普通
6.58
0.4
1.71
11.9
ALDH2弱い
Oze et al. Cancer Sci 2010. 10
お酒による頭頚部がんのなりやすさが
ALDH2の遺伝子型で全然違います
6
相対危険度(なりやすさ)
のまない
少量
4
中等量
大量
2
1.3
1
0.61
0.67
1.03
1.03
5.34
0.53
0
ALDH2普通
ALDH2弱い
Oze et al. Cancer Sci 2010. 11
18
16
ALDH2弱い
且つ
大量飲酒
14
12
10
8
ALDH2弱い
且つ
中等量飲酒
6
4
2
年齢
12
75-79
70-74
65-69
60-64
55-59
50-54
45-49
40-44
35-39
30-34
25-29
0
20-24
累積罹患率(%)
80歳までの発が
んリスクが
ALDH2の遺伝子
型とお酒の飲み
方の組合わせで
全然違います。
赤枠のヒトは飲
み方を変えるこ
とでリスクを大き
く下げることが出
来ます。
ある年齢までに食道がんにかかる可能性
お酒とALDH2とがん まとめ
• ALDH2酵素はアセトアルデヒドを解毒する酵素です。
• ALDH2遺伝子多型のため、酵素の活性がヒトによっ
て全く異なります(遺伝子型で体質が決まる)。
• アセトアルデヒドの元であるお酒の摂取とALDH2遺伝
子型の組合わせによって、お酒でなりやすくなる種類
のがんのなりやすさに大きな個人差ができます。
13
自分の体質を知って、生活を決める
• アルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)遺伝子多型と飲
酒の組合わせを例に、遺伝子多型を知ることで、
自分の生活習慣を変えることで、病気のリスクを
変えることが出来る可能性をお示ししました。
• 今後このようなリスクとなる遺伝子と生活習慣の
組合わせを数多く見つけて、「あなたに合った予
防法」を提案していきます。
14
どうして遺伝子は大事なの?2
私たちの体の60兆におよぶ
それぞれの細胞にある
2万種類の遺伝子のどれかが、
傷つけられたりすることがあるからです。
このことを遺伝子異常と言います。
15
この遺伝子異常と
先ほど述べた遺伝子多型とは
以下の点で異なっています。
遺伝子多型
遺伝子異常
父母から遺伝
遺伝しない
体中の
全細胞で同じ
一部の細胞
だけで発生
16
遺伝子異常の蓄積
遺伝子異常が、同じ細胞内で2回以上
起こることがあります。
このように遺伝子異常が蓄積する結果
その細胞はがん化すると考えられています。
遺伝子 遺伝子
異常 異常
¯
¯
…
17
がん細胞の遺伝子異常
私たちは、多数の患者さんのがん細胞を調べ
2万種類の遺伝子中、どの遺伝子が
異常を起こしているのか明らかにしました。
すると同じがんの患者さん同士では、
共通した遺伝子に異常を持つことが
分かりました。
18
下の図は、あるがんにおける、
増幅と欠失の2種類の遺伝子異常の
頻度を示しています。
遺伝子異常
の頻度(%)
横に並んだ2万種類の遺伝子の中で、
ある特定の遺伝子(群)だけに、
異常がよくみられることが分かります( )。
遺伝子増幅異常
遺伝子欠失異常
19
成人T細胞性白血病/リンパ腫 慢性型
どの遺伝子異常が悪いの?
それでは、これらの遺伝子異常のうち
がんの発生に重要なものはどれでしょうか?
私たちは、あるがん*における
5つの遺伝子**異常に注目しました。
遺伝子異常の頻度が高い等、
これらの遺伝子と
がんとの関連が疑われたからです。
20
この5つの遺伝子異常を人為的に起こした
正常細胞をマウスに移植すると
マウスはそのがんになって死亡しました。
一方、5つのうち一つでも欠けた場合
マウスは長生きしました。
*バーキットリンパ腫
**Myc, CCND3, TCL1A, Akt , E47の各遺伝子
21
マウスの死亡率(%)
0
5つの遺伝子
異常を導入して
作成したがんにより、
マウスは次々と死亡し、
1か月以内に
死亡率は100%に。
100
0
50
4つ以下の
遺伝子異常
では、
より長生き。
100(日)
22
遺伝子異常に対する薬の開発
この5つの遺伝子異常は、
がんを起こすのに必須であることから、逆に
がん治療のよい対象であるとも言えます。
現在、この5つの遺伝子のうち、いくつかに対する
治療薬の開発が進んでいます。
これらの治療薬は特定の遺伝子を狙うため
従来の治療薬と比べて、効果が大きく、
副作用が少ないことが期待されています。
23
我々は今後もがんの性質を明らかにすることで、
がん治療の改善に努力して参ります。
松尾恵太郎
部長
愛知県がんセンター研究所
遺伝子医療研究部
24
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