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TPP大筋合意の影響と国内対策
平成28年1月
JAグループ愛知
¡ 平成27年10月5日、5年の交渉期間を経てTPP協定は大筋合意に至り
ました。農林水産品2,328品目のうち8割の品目の関税が撤廃、重要5品
目に限っても、関税撤廃割合は3割に上ります。
笑味ちゃん:
関税が残った品目は、影響
はないのかな?
JAくん:
関税が撤廃されてなくても、例えば
牛肉は16年かけて関税が大幅に下
がるよ。豚肉も牛肉と同じで、関税
は撤廃されないけど、10年かけて
大幅に下がる。だから、心配がない
わけじゃないんだ。
¡ 農林水産省は、10月末~11月初旬に、大筋合意によって受ける影響およ
び懸念事項を、品目ごとに分けて公表しました。重要品目への影響は以下の
通りで、その他野菜・果実等については、影響は「見込み難い」又は「限定
的」としています。
重要5品目
コメ
小麦
牛肉
豚肉
影響分析
新設の輸入枠以外の輸入増大は見込み難い
懸念事項
新設の輸入枠で国内のコメ流通量が増えれば、
国産米全体の価格水準が下落する懸念
新設輸入枠による輸入は、国産小麦に置き換 マークアップ削減に伴う輸入小麦の価格下落で、
わるものではなく、輸入増大は見込み難い
国産小麦の販売価格に影響を及ぼす懸念
品質・価格面で、輸入牛肉と競合する度合いが 長期的には、輸入牛肉と競合する乳用種を中
小さいため、当面、輸入の急増は見込み難い
心に、国産牛肉全体の価格が下落する懸念
差額関税制度・分岐点価格の維持で、安い肉・
長期的には、関税の引き下げで安い肉だけが
高い肉を組み合わせる輸入方法が継続するた
輸入されかねず、国産豚肉の価格が下落する
め、当面、輸入の急増は見込み難い
懸念
脱脂粉乳・バターについて新設の輸入枠を設定 長期的には、競合する国内産の脱脂粉乳・チー
乳製品
するが、最近の追加輸入量の範囲内で設定す
ズの価格下落が生じることにより、加工原料乳
るため、当面、輸入の急増は見込み難い
の乳価が下落する懸念
Q&A①
米
笑味ちゃん:そもそも米の輸入は、今はどうなっているの?
JAくん:ガット・ウルグアイ・ラウンド合意(WTO協定)に基づいて、
ミニマム・アクセス(MA)数量(無税の輸入枠)が設定されているよ。MA
数量を超える分は、高い枠外税率を設定し、その輸入を抑制しているんだ。
MA米については、主要食糧である国産米の価格・再生産に悪影響を与えな
いように、国が一元的に輸入して販売しているよ。
笑味ちゃん:MA米は、どのくらい輸入しているの?
JAくん:年間約77万トン。このうち、輸入方式別の内訳は、近年、SBS
米が10万トン、一般輸入米が67万トンとなっているよ。
笑味ちゃん:SBS米って、どういうもの?
MA?
ミニマム・アクセスとは、
JAくん:輸入業者と国内実需者が連名で、
最低輸入機会のこと。
国に対して売買の申し込み(入札)を行うも
ウルグアイ・ラウンド農業
ので、主に主食用に販売されるよ。
合意で、輸入実績のない品
目に関して最低限の輸入機
笑味ちゃん:一般輸入米は?
会を提供することが義務付
JAくん:一般輸入米は、主として加工食品の
けられました。現在、日本
原料用や飼料米用に販売されているよ。
はこの輸入枠に基づき年間
77万トン (玄米換算)の米
笑味ちゃん:TPP大筋合意で、どう変わるの?
を輸入しています。
JAくん:MA米の枠組みと枠外税率(1kg
341円)は維持されるけど、米国に7万トン、
豪州に8千トンの特別輸入枠が新設されたよ。
笑味ちゃん:7万8千トンってどのくらいかな?
JAくん:米の需要量は一年に770万トンで、
その1%程度の量だけど、需要量は毎年8万
トンずつ減っていて、需給バランスに大きな
影響を与える量だよ。
笑味ちゃん:国産米の価格が下がったら、農家の
経営は成り立つの?
JAくん:米の生産コストは経営規模15ha以上
の農家で11,558円/60㎏(26年産)まで下が
っているけど、これ以上コメの価格が下がった
ら大規模農家でもコスト割れの懸念があるんだ。
7万t(米国産)
8,400 t (豪州産)
国別枠
TPPによる
新枠
+
77万t
(主に加工用米)
うち6万t
うち10万t
(主食用)
既存の
WTO枠(MA)
加工用中粒種
の枠を新設
「お米」って大事!
理由その1:国民の主食であり、食文化の基礎
なにより、国産米は
国産米は品質も高く日本人の嗜好に最適
おいしいよね
理由その2:農業生産・農村経済の中核
全耕作地の半分以上が水田。全販売農家の7割が稲作
理由その3:稲作や水田の有する多面的機能
国土の保全、水源のかん養、良好な景観の形成など
理由その4:日本人の歴史や文化と密接な関係
平成27年7月農水省「米をめぐる関係資料」より抜粋
稲作での共同作業は、日本の組織文化の基礎
Q&A②
牛肉
笑味ちゃん:TPPの大筋合意で、牛肉にはどんな影響が出るの?
JAくん:関税38.5%を段階的に削減し、16年目以降は9%に下がるよ。
牛肉の価格と品質について
セーフガード(緊急輸入制限措置)
出典:農水省 品目別参考資料
和牛
は導入されるけど、発動時の税率
A5
和牛A4
は年々下がっていくよ。
和牛A
農水省は「和牛・交雑種は輸入牛
3
肉と差別化されており、競合は少
ない」と分析している。でも、国
産牛肉の30%は乳用種だし、交
乳用
B2
雑種も今後競合が考えられるよ。
愛知県の1戸あたりの肉用牛飼養頭数は
全国5位で、大規模化が進んでいる。
特に肉用牛に占める、交雑種と乳用種の
割合が約8割と大きいのが特徴。
乳用C1
Q&A③
豚肉
笑味ちゃん:豚肉にはどんな影響が出るの?
JAくん:10年かけて、高価格帯の関税(4.3%)が撤廃、低価格帯の関税
(1kg482円)が50円に削減され
現行の差額関税制度
る。セーフガードは12年目に廃止さ
れるよ。農水省は「当面輸入の急増は
見込み難い」と分析している。でも、
安価な肉がこれまで以上に輸入される
ようになると、加工向けの肉が余剰に
なって、銘柄豚も含め価格低下が懸念
されるよ。
笑味ちゃん:関税制度が難しいけど…
JAくん:豚肉の差額関税制度は、平均
単価が524円/kg(分岐点価格)の
豚肉が最も課税額が低くなることが特
徴だよ。だから、高い肉と安い肉を組
み合わせて、524円に単価を近づけ
て輸入する方法が主流だった。
この制度はTPP合意でも維持された
んだ。でも合意内容を見ると、低価格
帯の税率がすごく低くなるから、わざ
わざ組み合わせなくても、安い肉だけ
大量に輸入され、国産の加工用部位と
競合の可能性が出てくるんだよ。
組み合わせて
524円に近づける
出典:農水省 品目別参考資料
生産額への影響(政府試算)
¡ 政府は12月24日、TPPによる農林水産物の生産減少額試算を公表しま
した。全体の減少額は概ね1,300~2,100億円となっています。
¡ 試算は現在の関税率10%以上、
かつ国内生産額10億円以上の
品目(19品目)について行わ
れました。また、今回は関税が
段階的に削減されるものもある
ため、合意内容の最終年におけ
る生産額への影響が算出されて
います。
¡ 影響額の試算については、品目
ごとに競合する部分・しない部
分に二分し、競合する部分は関
税削減相当分まで、しない部分
はその半分の割合で価格が低下
するという見込みで計算されて
います。
¡ 品目ごとの影響額は右表の通り
です。また、生産量への影響も
試算されましたが、減少は無い
と結論づけられました。これは、
国内対策の「適切な実施」によ
って、再生産が確保されるとい
う考え方によります。
¡ この考え方に基づき、食料自給
率に及ぼす影響もほぼ0、水田
や畑の作付面積の減少や、農業
の多面的機能の喪失も見込み難
いとしています。
国内対策が全部上手く
いって、輸入品との競合
も少ないことが前提の
試算に思えるけど…
政府が発表した影響額の試算
品目
米
減少額
試算の考え方
0億円
関税維持、特別輸入枠相当の国産米
の政府買入により、影響は見込み難い。
小麦
62億円
マークアップ引下げで生産額が減少。
国内対策実施で、国内生産量は維持。
砂糖
52億円
加糖調製品の輸入増で生産額が減少。
国内対策実施で、国内生産量は維持。
牛肉
311~
625億円
乳用種が競合し、価格が低下。それに
伴い交雑種・和牛も影響を受ける。
国内対策実施で、国内生産量は維持。
豚肉
169~
332億円
銘柄豚以外が競合し、価格が低下。銘
柄豚も一部影響を受ける。
国内対策実施で、国内生産量は維持
乳製品
198~
291億円
チーズ向け生乳等の価格が輸入品の
価格まで下落し、生産額が減少
国内対策実施で、国内生産量は維持
―
茶
TPP参加国からの輸入実績なし
加工用ト
マト
1億円
競合するトマト加工品の価格のみ下落
国内対策実施で、国内生産量は維持
かんきつ
類
21~
42億円
競合する極早生ミカンや果汁等の価格
が下落し、生産額が減少
国内対策実施で、国内生産量は維持
3~
6億円
7月出荷のリンゴや果汁等の価格が下
落し、生産額が減少
国内対策実施で、国内生産量は維持
鶏肉
19~
36億円
廉価の冷凍品が競合し、価格が低下。
廉価の冷蔵品も影響を受ける。
国内対策実施で、国内生産量は維持
鶏卵
26~
53億円
一部加工卵の価格が輸入品価格まで
下落し、生産額が減少
国内対策実施で、国内生産量は維持
りんご
農業者の不安・懸念が大きい中、
楽観的な試算かもしれない。
過小評価になってないか、対策
が適切に実施されるか、見極め
ていく必要があるね。
政府のTPP関連政策大綱について
¡ 11月25日、政府は『総合的なTPP関連政策大綱』をまとめました。
TPPの大筋合意を受けて「農政新時代」を迎えたとの認識を示し、予算を
しっかり確保した上で、重要5品目対策(新マルキンの法制化等)で「守り」
を固めながら、産地パワーアップ事業の創設等「攻め」の農林水産業への転換
を目指す内容となっています。
¡ 主な内容は下表の通りですが、これに加え、農業の成長産業化等のために中長
期的な検討が必要となる政策については「平成28年秋を目途に具体的内容を
詰める」としています。また、EUとのEPA交渉など、他の広域経済連携の
交渉を加速することも明記されることとなりました。
主な項目
大綱の内容
攻めの農林水産業への転換(体質強化対策)
担い手・農地対策
機械・施設の導入や金融支援措置で意欲ある担い手を育成
中山間地域等における担い手の収益力向上
水田・畑作・野菜・果 「産地パワーアップ事業」の創設
樹対策
高性能な機械・施設導入や果樹の改植による高収益化等を通じ、地域の営農
戦略を支援
畜産酪農対策
畜産クラスター事業の拡充
輸出対策
重点品目毎の輸出促進対策、戦略的な動植物検疫協議など
消費者との連携強化 加工食品の原料原産地表示の拡大の検討
経営安定・安定供給のための備え(重要5品目関連)
米
国別枠の輸入量増加によって国産米価格が下落しないよう、備蓄米の保管期
間を5年から3年程度に短縮する
国別枠の輸入量に相当する国産米を政府が備蓄米として買い入れる
農家が安心して飼料用米に取り組めるよう、生産性を向上させながら飼料用米
推進の取組方策を検討する
麦
牛肉・豚肉
引き続き、経営所得安定対策を着実に実施する
牛マルキン及び豚マルキンを法制化、補填率を引き上げる。豚マルキンについ
ては、国庫負担水準を引き上げる
肉用子牛保証基準価格を経営の実情に即したものに見直す
乳製品
生クリーム等の液状乳製品を加工原料乳生産者補給金制度の対象に追加し、
補給金単価を一本化した上で、当該単価を将来的な経済状況の変化を踏まえ
見直す
甘味資源作物
国産甘味資源作物の安定供給を図るため、加糖調製品を新たに糖価調整法に
基づく調整金の対象とする
収入保険
従前から行っている収入保険制度の導入に向けた検討の継続
補正予算案と今後のスケジュール
補正予算案について
¡ 12月18日、政府は27年度補正予算案を閣議決定しました。農林水産関
係は総額4,008億円、うちTPP対策として3,122億円が計上されるこ
ととなりました。
¡ 畜産クラスター事業に610億円、産地
パワーアップ事業には505億円を計上
しており、対象となる内容については右
図の通りです。
¡ 産地パワーアップ事業は、地域農業再生
協議会が計画を定め、その計画に沿って
経営発展に向けて投資する農業者を助成
・支援するのが主旨です。
¡ 農業農村整備事業は、TPP対策として
940億円が計上されています。農地の
さらなる大区画化や水田の畑地化、畑地
の高機能化、畜産クラスターを後押しす
る草地の大区画化などが対象となります。
出典:日本農業新聞
今後のスケジュール
¡ 11月5日、TPP協定文書の全文が公開されました。公開された全文は英
語、フランス語、スペイン語のみで、日本語はありません。日本政府は「協
定の全章概要」を公開しているに留まっています。
¡ また同日、オバマ大統領はTPPへの署名の意向を議会に通知しました。
大統領は、署名の前にその旨を議会に通知する義務があるためです。報道で
は、署名式が2月にニュージーランドで開かれるとされています。
¡ 各国議会における審議の開始時期は流動的ですが、日本では、今通常国会で
TPP協定の承認をめぐって審議が行われるため、注視が必要です。
協定内容の
確定(済)
各国政府間の署名
(協定調印)
各国議会での
協定承認※
60日後
発効
大筋
合意
※
各国の批准が遅れても、署名から2年経過した場合は加盟国のGDP
の85%を占める国々(6か国)が手続きを終えれば発効します。
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