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原油市場:原油価格が 60 ドルを突破、ハリケーン来襲に伴う懸念を中心に

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原油市場:原油価格が 60 ドルを突破、ハリケーン来襲に伴う懸念を中心に
<更新日:2005/7/10>
<石油・天然ガス調査グループ:野神 隆之>
原油市場:原油価格が 60 ドルを突破、ハリケーン来襲に伴う懸念を中心に
(IEA Oil Market Report、米国 DOE/EIA 他、CERA 対外発表資料他)
① OPEC は 6 月 15 日に臨時総会を開催し、7 月 1 日から日量 50 万バレルの原油生産枠引き上げを決
定した。しかしながら市場では実際の増産に繋がるかどうか疑問との見方が強く、原油価格への影響
は殆ど見られなかった。
② 大西洋圏で発生したハリケーンや熱帯性低気圧が米国メキシコ湾の石油生産施設や製油所に影響
を及ぼすのではないかとの懸念が中心となって、原油価格(WTI)は 6 月下旬には 1 バレル当たり 60
ドルを突破する場面も見られた。
③ 米国への原油輸入量は高水準を保っているものの、夏場のガソリン需要期や留出油価格の高騰によ
る製油所の稼動率上昇により、同国の原油在庫は下落。しかしながら依然豊富な水準を維持。ガソリ
ン在庫も高水準な他、一時平年水準を割り込んでいた留出油在庫も増加基調。ファンダメンタルズ上
は供給過剰な状態に。
④ しかしながら、市場ではハリケーン等の米国メキシコ湾における石油施設への影響や留出油の需要
に供給が追いつかないのではないかとの懸念から、今後も神経質な展開となり、原油価格が乱高下
する可能性がある。
⑤ 2010 年に向け、石油の供給量は需要を上回って推移する可能性を指摘する向きもある。
1. OPEC が臨時総会で日量 50 万バレルの原油生産枠の引き上げを決定
OPEC は 6 月 15 日にウィーンで臨時総会を開催し、日量 50 万バレルの原油生産枠引き上げを 7 月 1
日から実施(表 1 参照)する他、さらに高水準の原油価格が続いた場合には、加盟各国との協議のもと、
さらに日量 50 万バレル原油生産枠を引き上げる権限を次回の総会(9 月 19 日にウィーンで開催予定)ま
でアハマド議長に付与する、といった決定を行った。6 月上旬には原油価格が 1 バレル当たり 52~55 ド
ルであったことから、一旦は OPEC 内部で原油生産枠を現状維持にするということで意思統一ができて
いた模様であるが、米国のボドマン(Bodman)エネルギー省長官が OPEC に対して増産要請を表明した
こと(また EU も 6 月 9 日のアハマド議長との会談時に増産を要請した可能性もある)もあり、原油生産枠
の引き上げに動いたものと考えられる。OPEC 議長の原油生産枠引き上げの表明に対して、唯一ベネズ
エラだけは原油生産枠の現状維持を最後まで主張していたが、最終的には、総会時においては OPEC
加盟国の全てが原油生産枠引き上げを支持することになった。
-1Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油・天然ガス調査グループが信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本
資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いま
せん。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
表1 OPEC10加盟国原油生産量(日量千バレル)
2005年3月16日 2005年7月1日
からの生産枠 からの生産枠
アルジェリア
インドネシア
イラン
クウェート
リビア
ナイジェリア
カタール
サウジアラビア
UAE
ベネズエラ
合計
878
1,425
4,037
2,207
1,473
2,265
713
8,937
2,400
3,165
27,500
894
1,451
4,110
2,247
1,500
2,306
726
9,099
2,444
3,223
28,000
原油生産能力
*
生産枠増加量 2005年5月生産量2005年6月生産量 (2005年5月現在) 余剰生産能力
16
26
73
40
27
41
13
162
44
58
500
1,350
945
3,900
2,470
1,650
2,415
780
9,550
2,330
2,120
27,510
1,370
945
3,910
2,470
1,650
2,505
780
9,550
2,380
2,120
27,680
1,370
1,000
4,000
2,500
1,650
2,505
800
10,500
2,550
2,200
29,075
0
55
90
30
0
0
20
950
170
80
1,395
*:2005月5月の原油生産能力が2005年6月も継続したと仮定、但しアルジェリア及びナイジェリアについては6月の生産量水準まで引き上げ
出所:OPEC、IEA他(2005年6月は筆者推定)
なお、その後原油価格が上昇し、1 バレル 60 ドルに到達したことから(後述)、6 月 24 日に OPEC 議長
は加盟各国と日量 50 万バレルの追加増産につき協議を開始した。しかしながら 6 月 30 日には 1 バレル
当たり 54 ドルを割り込んだことから、OPEC 議長は追加増産に係る協議を中断した。OPEC 議長は原油
価格が 1 バレル当たり 60 ドルを越えた場合には協議を再開するとしていたが、7 月に入って原油価格が
60 ドルを頻繁に越えたことから、同議長は 7 月 8 日に、7 月 9 日から追加増産に係る協議を再開すること
を表明した。
また、同時に OPEC 総会では、OPEC バスケット価格の構成油種について、試行的に算出してきた、
11 の油種により構成される新バスケット価格を正式に採用することも決定した。それまでの OPEC バスケ
ット価格構成油種は、Saharan Blend(アルジェリア、API 比重 44.1 度)、Minas(インドネシア、33.9 度)、
Bonny Light(ナイジェリア、36.7 度)、Arab Light(サウジアラビア、34.2 度)、Dubai(UAE、32.5 度)、Tia
Juana Light(ベネズエラ、32.4 度)、Isthmus(メキシコ、32.8 度)であったが、新 OPEC バスケット価格構成
油種は Saharan Blend(アルジェリア、API 比重 44.1 度)、Minas(インドネシア、33.9 度)、Iranian Heavy(イ
ラン、31.0 度)、Basrah Light(イラク、34 度)、Kuwait(クウェート、31.4 度)、Es Sider(リビア、37 度)、Bonny
Light(ナイジェリア、36.7 度)、Arab Light(サウジアラビア、34.2 度)、Murban(UAE、40 度)、BCF-17(ベ
ネズエラ、16.2 度)となった。これにより OPEC バスケット価格構成油種の API 比重はそれまでの 34.6 度
から 32.7 度へ、硫黄分は 1.44%から 1.77%と従来のものよりも重質・高硫黄のものになった。この新規バ
スケット価格構成油種は、OPEC 加盟国の平均的な原油品質をよりよく反映できるものと OPEC は説明し
ている。
また、1 月 30 日の OPEC 臨時総会においてその使用が棚上げされた OPEC 目標価格帯(1 バレル当
-2Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油・天然ガス調査グループが信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本
資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いま
せん。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
たり 22~28 ドル)については、今回の OPEC 総会においては結論は出なかったが、アハマド OPEC 議
長は 6 月末に米国原油(WTI を想定したものと見られる)の価格で 1 バレル 53 ドルが理想的な価格であ
る旨明らかにしている。
2. 6 月中旬から 7 月上旬にかけての原油価格と原油市場の推移
(1) 神経質な市場心理
まず市場では、2004 年にハリケーン・アイバンが米国メキシコ湾に来襲して同地域における石油生産
施設に長期間大きな影響を及ぼし、それが冬場の暖房油需要期を前にした石油需給の逼迫懸念に繋
がり、原油価格が急騰したという記憶が残っていた。
そこに 2005 年の大西洋圏でのハリケーン・シーズン(6 月 1 日から 11 月末までと言われる)において、
昨年並みの最大14個と多くのハリケーンないし熱帯性低気圧が発生する予報が出たことから、市場は米
国メキシコ湾でのハリケーンないし熱帯性低気圧の発生ないし進路の状況に神経質になっていた。また、
現在製油所では夏場のドライブ・シーズン向けにガソリンを主に生産しており、通常留出油(Distillate:軽
油及び暖房油)を増産するのは例年 9 月の製油所メンテナンス以降となることから、万一その時期に米
国メキシコ湾(米国の製油所の集積地帯)にハリケーン等が来襲して、製油所の操業に支障が生じ、従っ
て留出油生産が思ったほど増加しないという事態となった場合、冬場の暖房油需要に供給が追いつか
ないのではないか、という懸念が市場で発生した。
(2) 相次ぐ熱帯低気圧、ハリケーン発生で原油価格が高騰
6 月 10 日前後に熱帯性低気圧アーリーン(Arlene)が米国メキシコ湾に来襲したことから、同地域にお
いては、一時原油生産が日量5.6 万バレル、天然ガス生産が日量4.16 億cf 停止した。ただ 15 日以降は
ほぼ平常の生産状況に戻った模様である。同じく米国の原油輸入ターミナルである LOOP(Louisiana
Offshore Oil Port、原油積み下ろし能力日量 90 万バレルであり、米国で唯一 VLCC を接岸できるターミ
ナルであると言われる)も 6 月 10 日から 11 日にかけて 18 時間閉鎖されたが、その後は操業を再開して
いる。市場では熱帯性低気圧の接近に伴う石油生産施設への影響懸念から、一時 WTI は 1 バレル当た
り 55 ドル近くまで上昇したが、その後影響が限定的と判明したことから、1 バレル当たり 53 ドル台へと下落
した(図 1 参照)。
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図1 原油価格の推移(2003~5年)
ドル/バレル
65
60
55
50
45
40
35
30
25
20
1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7
WTI
Brent
Dubai
6 月 15 日には OPEC 総会が開催され、前述の通り 7 月 1 日より日量 50 万バレルの原油生産枠の引
き上げを決定したが、市場では、それが単なる象徴的な行為に留まり、実際の増産には繋がらないので
はないかとの見方が強く、原油価格の影響は殆どなかった。むしろ同日に発表された米国石油統計で、
6 月 10 日の週の原油在庫が当初の市場の予想(40 万バレルの減少)を上回って日量 180 万バレル減少
していたことを受け、原油価格が 1 バレル当たり 53 ドル台から 55 ドルへと 1 ドル以上上昇する場面もあ
った。
6 月 17 日にはナイジェリアのラゴスにおいてイスラム過激派から攻撃を受ける恐れがあるとして米国、
英国及びドイツが総領事館を閉鎖したとの情報を受け、同国で治安が悪化し石油生産施設等での操業
の安全性に支障が生じるのではないかとの懸念を背景に投機筋主導で原油価格が上昇、NYMEX での
取引時間中に 1 バレル当たり 58.60 ドルと史上最高値を更新した(それまでの史上最高値は 4 月 4 日の
58.47 ドル)。6 月 20 日にはノルウェーで 22 日から石油労働者によるストライキが行われる可能性が生じ
た(6 月 21 日夜に回避された)ことから、原油価格はさらに上昇を続けた。6 月 22 日に発表された米国石
油統計では、原油在庫の減少は予想の範囲内でおさまったことから、原油価格は下落に転じ、一時 1 バ
レル当たり 58 ドルを割り込んだものの、翌 6 月 23 日には世界の石油需要が伸びることから石油生産や
精製に係る能力が追いつかなくなるのではないかとの懸念から投機筋を中心として先物買いが活発化、
再び 1 バレル当たり 60 ドルに到達、6 月 24 日にかけ 1 バレル当たり 60 ドルを挟んだ展開となった。そ
の後 6 月 27 日には、WTI が 1 バレル当たり 60.54 ドルで取引を終え、終値ベースで史上初めて 60 ドル
を突破した(取引時間中では 1 バレル当たり 60.95 ドルの史上最高値を更新した)。これは、6 月 24 日に
投票が行われたイラン大統領選挙で、超保守派でイランの原子力開発を積極的に推進する姿勢を明確
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せん。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
にしているマハムード・アフマディネジャド(Mahmoud Ahmadinejad)氏が勝利したことにより、今後イラン
と米国との緊張が高まるといった不透明感が増大したことが材料視された。
6 月 29 日には、米国石油在庫が 140 万バレルの減少との市場の予想に反して 110 万バレル増加して
いたことから、下落基調に転じ、6 月30 日には一時1 バレル当たり 54 ドルを割り込むこととなった。ただ、
7 月に入ってからは、米国メキシコ湾に熱帯性低気圧シンディ(Cindy)が来襲し、同地域沖合の石油・天
然ガス生産施設や陸上の精製施設が影響を受ける恐れがあるとの懸念が高まり、再び上昇基調に転じ
た。シンディの来襲に伴う影響は、原油で日量 19 万バレル、天然ガスで日量 7.53 億 cf の生産停止とな
って現れた他、ルイジアナにある製油所 5 ヶ所が停電等により操業の停止ないしは減産となった。さらに
別のハリケーン・デニス(Dennis)が勢力を強めつつメキシコ湾に来襲する可能性があったことから、メキ
シコ湾での石油施設が影響を受けるのではないかとの懸念が再び増大、原油価格は 7 月 7 日早朝の時
間外取引で 1 バレル当たり 62.10 ドルと史上最高値を更新した。しかしながらその後ロンドンにおけるテ
ロ攻撃をきっかけとして、テロ活動が活発化し、それが世界の航空産業に打撃を与え、結果として航空燃
料をはじめとする石油製品需要の減少をもたらすのではないかとの不安感から、7 月 7 日の取引時間中
には一時原油価格は 1 バレル当たり 57 ドルにまで急落したが、再びハリケーン・デニス来襲に係る懸念
が台頭、7 月 7 日の取引時間後の時間外取引では 1 バレル当たり 60 ドルまで戻している。なお、7 月 8
日には利益確定による売りが出たため、1バレル当たり60ドルを割り込んだが、その後ハリケーン・デニス
がフロリダ西部に向かい、石油生産施設を直撃するような進路からははずれたことから、7 月 8 日取引時
間以降の時間外取引でも 1 バレル当たり 59 ドルを割り込んだ水準となっている。
3. 原油市場等のファンダメンタルズ
原油価格は前述の通り、史上最高値を頻繁に更新する展開となったが、実際のファンダメンタルズは
どうであろうか。まず、原油であるが、輸入量は引き続き高水準であるものの、6 月に入って製油所が大
規模メンテナンスを終了して製油所を再稼動し原油処理量が増加した(図 2 参照)ことから、原油在庫は
減少してきているものの、依然として平年から見るとかなり高い水準であることを示している(図 3 参照)。
一方ガソリン在庫も平年に比べて極めて高い水準になっている(図 4 参照)。留出油については、5 月の
時点では一時平年を下回る水準にまでなっていたが、その後留出油の価格が高騰したことに伴い、製
油所において当該製品の生産が増大したことから、一時期の極めて低い水準は脱しつつある(図 5 参
照)。
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せん。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
日量百万バ レル
図2 米国の原油処理量( 2 00 5年)
17
16
15
14
1月
2月
3月
4月
5月
6月
出所: 米国エ ネルギ ー省
百万バ レル
図3 米国原油在庫推移(2003~5年)
370
350
330
310
290
270
250
1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7
1997-2002実績幅
百万bbl
240
2003-2005 出所: 米国エ ネルギ ー省
図4 米国ガソリン在庫推移(2003~5年)
220
200
180
1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7
1997-2002実績幅
2003-2005
出所: 米国エ ネルギ ー省
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百万バレル
図5 米国留出油(軽油+暖房油)在庫推移
160
140
120
100
80
1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112 1 2 3 4 5 6 7
1997-2002実績幅
2003-2005
出所:米国エネルギー省
米国の原油在庫水準と原油価格の関係を見てみると、かつては強い相関関係が示されていたが、
2004 年からはその傾向線から離れ始め、今や 1 バレル当たり 30 ドル以上も乖離した水準となってしまっ
た(図 6 参照、また 2001 年から現在に至るまで米国では戦略石油備蓄(SPR)が約 1.5 億バレル積み増さ
れており、これも考慮すると米国の在庫水準はさらに豊富ということになり、現在の原油価格との乖離が
ひろがるものと推定される)。市場関係者の中には、米国をはじめとして石油需要が増大していることから、
在庫の絶対量よりも在庫日数で示すべきであるとの議論もあるので、米国の石油製品在庫日数と原油価
格の関係を同様に示してみた(図 7 参照)。傾向は若干弱まるものの、依然として 1 バレル当たり 30 ドル
程度乖離しているのがわかる。OECD 全体につき検討した結果も同様である(図 8 参照)。従って、市場
ファンダメンタルズとしては、原油をはじめとして石油需給は概ね供給過剰な状態であるといえる。しかし
ながら、中東やアフリカ等における政情不安やテロリスト活動、米国メキシコ湾における熱帯性低気圧や
ハリケーンにより石油生産や製油所の活動に支障が生じるかもしれないという不安感と、OPEC が原油を
増産していることに伴う余剰生産能力の減少、製油所における石油製品生産活動が活発化し精製稼動
率が上昇したことに伴う余剰精製能力の減少で、原油生産途絶時や製油所の故障等による石油製品生
産途絶時に、供給が落ち込み、冬場に向けて増大が予想される暖房油等の石油製品需要の増大に、供
給が追いつかなくなるのではないか、といった懸念が市場心理に反映され、投機資金(最近では数ヶ月
から数年に渡る中長期の利益を目的とした年金等のファンドを中心とする金融系資金の動きが活発化し
てきていると言われる)の大量流入と相俟って、原油価格をファンダメンタルズからかけ離れた水準まで
押し上げているものと推定される。
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油・天然ガス調査グループが信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本
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ドル/バレル
図6 米国民間原油在庫と原油価格(WTI)
60
2005年6月
50
40
30
20
10
280
百万バレル
300
320
340
1995~2003年
※一部推定
2004年
2005年
360
出所:IEA他
ド ル/ バ レル 図7 米国民間石油( 原油+製品) 在庫日数と原油価格( W TI)
60
2005年6月
50
40
30
20
日
10
40
45
※一部推定
ド ル/ バ レル
50
1995~2003年
55
2004年
60
出所: I EA他
2005年
図8 OEC D民間石油( 原油+製品) 在庫日数と原油価格( WT I)
60
2005年5月
50
40
30
20
日
10
45
50
※一部推定
55
1995~2003年
2004年
60
2005年
65
出所: I EA他
なお、最近ドバイと WTI の価格差が縮小しており、これが中国等アジアの需要増大に伴うものであると
の解説が新聞等で報道されているが、実際には 2004 年秋にハリケーン・アイバンが米国メキシコ湾に来
襲し、同地域での石油生産に影響を及ぼした時に拡大したドバイ-WTI の価格差が台風来襲前の水準
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に戻った(図 9 参照)というのが実情である。
図 9 W T I - D u b a iテ ゙ ィ フ ァ レ ン シ ャ ル ( 2 0 0 4 ~ 5 年 )
US$/bbl
20
15
10
5
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9 10 11 12
1
2
3
4
5
6
7
また中国の石油(原油+石油製品)純輸入が大幅に増大したとの報告もされていない。むしろ夏場の
電力不足から需要の増大が懸念されていると言われる軽油についてすら中国からの輸出量が行われ始
めている状況にある(図 10 参照)。これについては中国国内で石油製品価格が低い水準に抑えられて
おり、中国の石油会社各社の精製マージンが縮小したことから、石油製品価格がより高い国際石油市場
に輸出していることによるものであると報告もあるが、一方で、最近中国は精製処理量自体を減少させ、
西アフリカ等からの原油輸入を減少させるとともに、購入した原油をタンカーごとシンガポール市場で売
りに出しているとの話も聞かれる。国内販売に係る精製マージンだけの問題であれば、輸入した原油を
精製後輸出し国際石油市場で販売すればいいのであって、一旦購入した原油を再び売りに出している
ということが本当だとすると、中国の石油需要自体に重大な転換点が訪れてきつつあると考えることもで
きるかもしれない。
日 量 千 ハ ゙レ ル
図 10 中 国 の 軽 油 純 輸 出 量 (2004~ 5年 )
50
0
-50
-100
-150
10月
11月
12月
1月
2月
3月
*:推 定
4月
5月 *
出 所 : IE A 他
4. 今後の見通し
今後もファンダメンタルズからかけ離れて、少ない OPEC の余剰生産能力(一方で増産のため原油在
庫は豊富となっている)、少ない米国の余剰精製能力(一方で石油製品の生産と在庫は増大しつつあ
る)、大西洋圏におけるハリケーンないし熱帯性低気圧に関する懸念から、冬場の暖房油需要期を中心
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本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油・天然ガス調査グループが信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本
資料に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの
投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責任を負いま
せん。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
として、増大する需要に供給が追いつかないのではないか、といった不安感により原油市場は神経質な
展開をしていく可能性が高い。また、これらの要因に加えて、中東やアフリカ等での政情不安やテロリス
ト活動の状況も、原油価格に影響を与えていくものと考えられる。
一方で、アジアの石油需要に係る動向についても注意を要する。中国で石油の純輸入量が停滞する
恐れがあることについては既に述べたが、同様にこれまで原油価格が高騰しても石油需要への影響が
軽微であったアジア諸国においては、実際には政府による補助金等が国内石油製品価格の上昇を緩和
したことから、石油需要への影響が限定されたという事情があったが、原油価格高騰に伴う各国政府の負
担が重くなってきたことから、こういった補助金を削減する動きが出てきており、国内石油製品価格上昇
が国内需要に影響する可能性が出てきている。また欧州においてもかつてに比べてユーロがドルに対
して弱くなってきていることから、原油価格高騰を為替で吸収できなくなってきており、この点でも欧州の
石油需要に今後影響が出てくる恐れも否定できない。原油市場では、アジアや欧州での石油需要が減
速したとしても、米国での石油需要が減速したことが示されなければ、原油価格は下げ基調に転じない
のではないかとの議論もある。ただ、米国の石油製品市場においても、ガソリン及び留出油の在庫が平
年並みとなっているか、なりつつある一方で、原油価格の高騰が世界経済成長(アジアや欧州での経済
減速が米国に影響するといった、間接的な影響も考えられる)に対して負担になるとの指摘も 7 月 6~8
日に開催された先進国首脳会議をはじめとして最近頻繁に行われるようになってきており、いずれこの
ようなファンダメンタルズが原油価格に影響を及ぼす時がやってきて、大きな調整時期に入る可能性も
ある。
5. さらに先へ-2010 年までの見通し
ここで、より長期の展望について見てみよう。ケンブリッジ・エネルギー研究所(CERA:Cambridge
Energy Research Associates、ダニエル・ヤーギンが所長の世界有数のエネルギー研究機関)が 5 月 2 日
に、2010 年までの石油生産能力に係る見通しを発表した。これは今後生産開始や増産が見込まれる世
界各地の油田において、その生産計画等を積み上げることにより作成したものである。これを見ると 2010
年には世界の石油生産量は旧ソ連諸国や、アフリカ等の深海、非在来型石油資源の開発に伴い、最大
日量 1.01 億バレルとなり、精製に伴う体積増加(Processing Gain と言われ、日量 180 万バレル程度と見ら
れる)を考慮すると、2010 年に石油需要と供給が均衡するためには年間平均 4.2%の需要増大が必要と
なる。中国や米国での需要が堅調であり、史上稀に見る世界石油需要増大を記録した 2004 年ですら石
油需要は前年比 3.4%であることから、この数字が如何に大きい数字であると言うことが実感できよう。つ
まり、このように世界の石油供給は少なくとも 2010 年までは豊富であり、世界の石油需要増大を満たして
いく(ないしは世界の石油需要を上回って増加していく)可能性が高いと考えることができそうである。
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また米国を中心として、特に重質・高硫黄の原油の精製能力不足懸念が伝えられているが、これにつ
いても既存の製油所改良等を通じて、少なくとも 2006 年までは対応できると見る向きもある他、中国で今
後数年間の間に中東の重質・高硫黄の原油を処理できるよう製油所の改良ないしは新規建設を行う動き
もあり、世界の精製能力は市場が懸念するほど不足しない可能性もあると考えられる。
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