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月刊プロパティマネジメント(4月号)寄稿内容(PDF:1755KB)

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月刊プロパティマネジメント(4月号)寄稿内容(PDF:1755KB)
今回は、土地の取得、建物の建設、完成後の運
は通常、建設工事保険に加入することによりリス
営・管理といった一連の過程における「リスクの
クヘッジを図っています。ただし、建設工事保険
所在」と、それらのリスクに対応する「保険」を中
においては地震により建築中の建物が倒壊した
心に解説します。なお、対象とするリスクは、リ
場合の補償はありません。また、民間(旧四会)連
ーガルリスクやマーケットリスクは除いたプロパ
合協定・工事請負契約約款によると、
「地震等の
ティ
(財産)にかかわるリスクに限定しています。
“不可抗力”による損害は工事会社が善良な管理
者としての注意をしたと認められる場合は発注者
土地取得フェイズ
が負担する」と書かれているため、この部分のリ
スクは発注者に残ってしまいます。
段階的に派生するリスクの所在として、ま
次に、工事の遅れにより営業開始が遅延したこ
ず、土地取得フェイズがあります。そしてこのタ
とで、本来であれば得られたはずの利益に対する
イミングで通常想定されるリスクには、土壌汚染
損失リスクがあります。工事業者と締結する契約
リスクと投棄物等の埋設物リスクが
以外でこれを保険ヘッジするもの
あります。
は、開業遅延保険があります。こ
土壌汚染リスクに対応する手段
としては、土壌汚染の直接浄化以
外で土壌汚染保険がありますが、加
入前調査でのスクリーニングが求め
不動産リスク
マネジメント
ERを読み解く
られる等、通常の保険と比べると
違い使い勝手はあまりよくないかも
の保険は、工事対象物が火災・台
第 11回
しれません。土壌汚染保険による
リスクヘッジ方法の詳細について
震)によって損害を受けたことが原
因で工事の完成が遅れ、営業開始
が遅延したために生じた喪失利益
㈱エム・シー インシュアランス センター
榊山哲也
風や不測かつ突発的な事故(除く地
を補償することが可能です。
また、工事の遅延にとどまらず、
工事業者が倒産し完成まで至らな
は、本誌08年12月号(第7回)を参照ください。ま
い未完成リスクも存在します。これに対応する保
た、もうひとつの埋設物リスクについては、地中
険として履行保証保険・履行ボンドがありますが、
レーダー等による確認調査しかリスクを回避する
保険会社は対象を公共工事(含むPFI)と限定して
手法が見当たらず、それに対応する保険は現在
おり、民間工事の引受を行っていないため、リス
ありません。土壌汚染リスクとともになかなかい
クヘッジはできないのが現状です。
い解決手段がなく悩ましいところです。
運営・管理ファイズ
建設フェイズ
建設が終了し引き渡された後は、リスクは発
次に、建設フェイズにおいては、建設中の建物
注者へ移行し、運営・管理フェイズに入ります。こ
のプロパティリスク、工事遅延(開業遅延)
リスク・
のフェイズのなかで一番のリスクは、建物の損壊リ
工事未完成リスク等が上げられるでしょう。建設
スク、いわゆる建物のプロパティリスクです。
中建物のプロパティリスクにおいて想定されるケ
建設フェイズと同様の台風・地震・水災といっ
ースは、台風・地震・水災といった自然災害によ
た自然災害リスクや火災リスク等に加え、機械設
るもの、火災によるもの、施工ミスによるもの、そ
備に対する電気的・機械的事故やエントランスの
の他突発的な事故によるものがあります。
ガラス破損事故等のその他突発的な事故リスク
このリスクは、発注者に建物が引き渡されるま
があります。これに対応する保険としては火災・
では基本的に工事会社に責任があり、工事会社
風災・水災等を補償する店舗総合保険や住宅総
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PROPERTY MANAGEMENT 2009 Apr.
合保険(保険会社毎に呼び方は変わります)があり
スクや滞納リスクには対応できていません。それ
ますが、万全を期すためには、電気的・機械的事
は皆さんご存知の家賃保証業務の範疇となりま
故やその他突発的な事故を補償するオールリス
す。
クタイプの保険に加入することが望まれます。ま
た、地震に対する保険は、特に首都圏・東海地区
以上のように、プロパティリスクに対しては、保
においては補償額および価格的に十分満足でき
険の手配や付保方法を間違わなければ、土壌汚
るものではありませんが、地震保険や地震デリバ
染および地震リスク以外は一定の補償を保険で
ティブに頼ることになります。その詳細について
得ることは可能です。ただし、土壌汚染および地
は、本誌08年9月号(第4回)を参照ください。
震リスクに関しては、しっかりデューデリジェンス
次に賠償リスクですが、施設の所有・使用・管
を行い、リスクを回避(悪い物件は購入しない)
また
理に起因し第三者に対して事故が発生する場合
は低減(汚染を浄化する)するなど、リスクをコント
に賠償責任が発生します。事例としては、看板の
ロールして対応することが求められます。
落下により通行人が負傷した、床にワックスをか
けすぎて客が転んで負傷した等があり、それに対
応する保険として施設賠償責任保険があります。
土地取得
建設中
通常、この保険は施設の所有・使用・管理に起
運営・管理
建物自体のプロパティリスク
因する全ての事故に対して補償しますが、証券化
火災リスク
物件で単に所有しているケースであれば、所有
者リスクのみを補償する契約を締結しリスクを限
土壌汚染リスク
自然災害リスク
定することも可能です。当然、所有・使用・管理の
3つのリスクのうちひとつのリスクのみカバーする
その他突発的事故
埋設物リスク
ため、保険料は理論的には割安になります。逆
に、被保険者相互間責任担保特約条項を付帯す
工事遅延リスク
賠償リスク
工事未完成リスク
利益リスク
ることで、建物所有者・ビル管理会社・テナントそ
れぞれを共同被保険者として1証券で契約するこ
とも可能です。また、有料で車両を預かる駐車場
があれば、預かっている車両に対する賠償リスク
が存在し、それには自動車管理者賠償責任保険
が対応します。なお、エンジニアリングレポートで
参考資料
国土交通省−不動産リスクマネジメント研究会・議事録資料
調査されるアスベストやPCBも賠償リスクの可能
性が少なからずありますが、それを補償する保険
は残念ながらありません。
最後に利益リスクですが、何らかの事情により
家賃収入が入ってこないことも想定されます。こ
うした事態に民間の保険会社で対応できる保険
は家賃保険や利益保険がありますが、これは火
災・風災・爆発等が発生し建物が使用できなくな
った結果として借家人が立ち退いたために減少
する家賃収入等を補填するものです。なお、保険
㈱エム・シー インシュアランス センター
リスクコンサルティングオフィス
シニアコンサルタント
榊山哲也
Tetsuya Sakakiyama
90 年 3月大阪大学大学院工学研究
科
(建築工学専攻)
修了。90年4月東
京海上火災保険㈱入社。保険引受
を通じリスクマネジメント業務に従事。その後、東京海上日動
リスクコンサルティング㈱においてデューデリジェンス業務を担
当。現在、㈱エム・シー インシュアランス センターにおいて企
業リスク全般のコンサルティングに従事。一級建築士。
(社)
建築・設備維持保全推進協会( BELCA )
「エンジニアリン
グ・レポート作成に係るガイドライン
(2007年版)
」編集委員。
では残念ながらここまでが限界で、純粋な空室リ
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