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民 法

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民 法
地方上級・市役所・国家一般職・国税専門官・
労働基準監督官・裁判所職員
!
る
め
じ
は
ゼロから
テキスト
民 法
■ LEC専任講師陣が総力を挙げて作成 ■ 読むだけでLECの講義を疑似体験
■ 国家公務員新試験制度に対応
■ 全国の市役所採用試験対策にも最適
ゼロ
!
はじめる
テキスト
から
民 法
は し が き
公務員はどのような仕事をしているの?
皆さんは公務員にどのようなイメージを抱かれていますか?普段私たちが
目にする公務員といえば,市役所の受付や警察官・消防官などです。もちろ
んこのような仕事も公務員の重要な職務の一つです。
実際は,公務員はもっと幅広い業務を行っています。たとえば,国家公務
員は経済・外交・福祉など国家の基本政策の企画立案に参画し,決定した政
策を遂行します。地方公務員は,各地方自治体が地域の特性に合わせて独自
の政策を展開しています。今後,地方分権の推進により地方独自の企画立案
をする機会が増加することが予想されます。
このように公務員の職務は多岐に渡り,今後も職域が広がることが予想さ
れます。
公務員になろう
これからの公務員に要求されるのは,幅広い領域の企画立案ができるよう
な能力を持った人材です。そのため,公務員試験は教養試験も専門試験も非
常に多岐に渡っています。全ての出題範囲を網羅的に学習するのは長い時間
がかかります。短期間で公務員試験に合格するためには,試験に出題される
範囲を効率的に学習する必要があるのです。
本書は,大卒レベルの国家公務員一般職,市役所試験レベルの公務員試験
の重要分野をわかりやすく解説したテキストです。初めて勉強される方でも
理解しやすいよう全体像が描けるような構成に,学習が進んだら応用分野を
中心に知識の確認ができるようになっています。
本書を利用された皆さんが,最終合格を勝ち取られることを心より祈念い
たします。
2012 年 2 月吉日
株式会社 東京リーガルマインド
LEC総合研究所 公務員試験部
1
第 編
第 章
本書の効果的活用法
2
総則
私権の主体
プロローグ
民法は,
権利義務がいかに発生し,
変更され,
消滅するかを
規定した法律です(財産法の分野)
。そこに共通する大原
私権の主体とは,私法上の権利・義務の
編全体に対する導入コメ
ントです。
こ
則を規定したのが総則です。権利義務の発生変更消滅を生
じさせる一番の基本は法律行為です。ですから,
総則では法
主体となる資格(権利能力)を有する者の
律行為について特に詳しく規定しています。また,法律行為
れから勉強する範囲の全体像がつ
ことです。ここでいう私法上の権利・義務とは,た
によらないものとして共通するのが時効です。このように,
とえば,本を買う場合の「本の引渡しを請求する権
かめます。
民法共通のルールをこれからみていくことになります。
第1章
民法の基本原理
第2章
私権の主体
第3章
法律行為・意思表示
す。ここにいう法人とは,法律によって権利能力を認
められた団体をいいます。
代理
過去の出題例
第4章
第5章
過去の
出題例
無効・取消し
本試験過去問をもとに,
分野ごとの
第6章
条件・期限
第7章
時効
利」や「代金を支払う義務」のようなものです。
民法
は,自然人(人間)と法人を私権の主体としていま
制限行為能力者
法人
失踪宣告
権利能力なき社団
出題傾向をわかりやすく,
グラフにしま
制限行為能力者の相手方の保護
した。勉強をする際の目安にしてくだ
権利能力
意思能力
第 1 編 総則
第
章
1
さい。
民法の基本原理
1
1
B
民法の基本原理
本 文
第 1 編 総則
民法とは
民法は,
私人間の法律関係を規律する私法の一般法です。
者(軽度の痴呆症・精神障害など)で,かつ,家庭裁判所で補助開
各項目について具体的なイメージをつ
始の審判を受けた者をいいます(
15条)
。なお,後見や保佐の場合と
たとえば,AB間で土地を売却する契約がなされた場合,AB間の
異なり,本人以外の者の請求により補助開始の審判をするには,
本人
かむことができます。
売買契約に基づく法律関係は民法によって規律されるのです。
第
の同意がなければなりません( 15条 2 項)
。
民法の内容としては,財産に関する財産法(取引関係,損害賠償請
被補助人は,原則として単独で法律行為をすることができますが,
章
2
求など)と身分に関する身分法(婚姻関係,親子関係,相続関係など)
の2つがあります。
民法の指導原理
私権の主体
2
家庭裁判所の定めた行為についてのみ,補助人の同意が必要となり,
同意なしになされた行為は取り消すことができます( 16条)
。また,
家庭裁判所は,特定の法律行為について補助人に代理権を付与する
こともできます( 876条の 9 )
。
① 所有権絶対の原則(財産権不可侵の原則)
図 表
所有権絶対の原則とは,所有者は物の全面的な支配権を認められ,
【制限行為能力者の種類・権限】
他人や国家は,これを侵害しえないことをいいます。
保護者の種類
図表を見やすく
して,
わかりやすくまと
② 私的自治の原則(契約自由の原則)
私的自治の原則とは,
個人の身分上・財産上の法律関係は,各人の
未成年者
めま
した。
自由な意思に基づいて形成することができるとする原則をいいます。
たとえば,Aさん所有の自動車をAさんがBさんに売った場合,A
成年被後見人
B間の契約だけで自動車はBさんのものになります。原則として,A
B間の契約に国家は干渉できません。
③ 過失責任の原則(自己責任の原則)
同意権
追認権
成年後見人
保佐人
被補助人
補助人
○
( 859)
×
○
○
( 122)( 120Ⅰ)
×
○
○
○
(ただし,876の4)( 13Ⅰ)( 122)( 120Ⅰ)
×
○
○
失責任の原則といいます。
自らの行為について十分な注意を払ってい
7
とにより,
個人の活動の自由を保障するものです。
④ 権利能力平等の原則
事例4
○
(ただし,876の4)( 17Ⅰ)( 122)( 120Ⅰ)
は過失がなければ,原則として損害賠償責任を負いません。これを過
れば,他人に損害を与えたとしても損害賠償責任を負わないとするこ
取消権
親権者または
○
○
○
○
未成年後見人 (824,859) ( 5Ⅰ) ( 122)( 120Ⅰ)
被保佐人
個人は,他人に損害を与えた場合でも,そのことについて故意また
保護者の権限の種類
代理権
制限行為能力者の相手方の保護
を裏切らないように誠意をもって行動すべきとする原則をいいます。
③ 権利濫用の禁止の法理( 1 条 3 項)
権利濫用の禁止の法理とは,権利の行使であってもそれが濫用に
わたる場合には違法となり,
許されないとする原則をいいます。
事 例
事例1
B会社の温泉引湯管が他人の土地2坪をかすめていたのに目をつけたA
試験で問われるポイントが一目
さんが,その土地を買い受け,Bに不当に高額な価格での買い取りを要求
瞭然です。
したが拒否されたため,引湯管の撤去を求めた場合,Aさんの請求は認めら
れるでしょうか。
判例は,Aさんの引湯管撤去請求は認められないとしています(大
判昭10.10.5)
。Aさんの請求は,社会観念上所有権の機能として許さ
これだけは覚えよう
れるべき範囲を逸脱するものであり,権利の濫用にほかならないから
です。
第 1 編 総則
てまとめておきました。
民法の基本原理
なければならないものを厳選し
1
章
るためにどうしても理解しておか
第
本文の中から,
本試験に合格す
民法とは
私人間の法律関係を規律する私法の一般法
民法の指導原理
⑴ 所有権絶対の原則とは
所有者は物の全面的な支配権を認められ,他人や国家からの封建的な拘
束から自由であるとする原則
⑵ 私的自治の原則とは
1 能力
個人の身分上・財産上の法律関係は,各人の自由な意思に基づいて形成す
5
公務員試験 テキスト ゼロからはじめる!クイックマスター 民法
⑸ 営業を許された場合の営業に関する行為( 6 条 1 項) ることができるとする原則
第
指導原理の修正
成年被後見人も日用品の購入その他日常生活に関する行為は,
⑴ 信義誠実の原則
単独で行うことができる( 9 条但書)
信義誠実の原則とは,人は具体的事情の下で相互に相手方の信頼を裏切
章
2
らないように誠意をもって行動すべきとする原則
⑵ 権利濫用の禁止の法理
本文14ページ表参照
私権の主体
制限行為能力者制度のまとめ
権利の行使であっても,それが濫用にわたる場合には違法となり,許さ
れないとする原則
一問一答復習問題
本試験で実際に問われている
Q 1 自然人には出生から死亡まで権利能力が認
×
内容を,
一問一答形式にしてあ
められるが,胎児には一切権利能力が認められ
ります。復習する際に使用してく
○
ない。
Q 1 民法は,私人間の法律関係を規律する法であ
Q 2 未成年者が法定代理人の同意を得ることな
○
く贈与を受けた場合,その行為は取り消すこ
×
限定して適用されることから,特別法である。
Q 3 未成年者が親からもらった小遣いでCDを購
×
入する場合,
原則として親の同意が必要である。
Q 3 私権が公共の福祉に適合すべきことは,憲法
○
上の要請であるにとどまらず,民法上の原則で
もある。
Q 4 成年後見人は,成年被後見人の行為はすべて
Q 5 制限行為能力者が,相手方に対して,自分は
ださい。
Q 2 民法は,特定の地域・人・事項などにおいて
とができない。
取り消すことができる。
ることから,私法である。
×
6
公務員試験 テキスト ゼロからはじめる!クイックマスター 民法
○
能力者であると信じさせるために詐術を用いた
場合には,当該法律行為を取り消すことはでき
ない。
○
Q 6 制限行為能力者の相手方が,法定代理人に対
して,相当期間を定めて追認するか否かを確答
するよう催告し,その期間内に確答がない場
合には,追認したものとみなされる。
17
公務員試験 テキスト
ゼロからはじめる!
クイックマスター
民法
はしがき
本書の効果的活用法
第1編
総則
第1章 民法の基本原理 第
2編
. .................................................................
1 民法の基本原理 ………………………………………………………………
第3編
第2章 私権の主体 .........................................................................
第4編
3
4
9
1 能力 ……………………………………………………………………………
10
2 失踪宣告制度 …………………………………………………………………
18
3 法人 ……………………………………………………………………………
22
........................................................... 27
第
5編
第3章 法律行為・意思表示 第6編
1 意思表示 ………………………………………………………………………
28
第4章 代理 .................................................................................... 39
第7編
1 代理 ……………………………………………………………………………
40
2 無権代理 ………………………………………………………………………
48
3 表見代理 ………………………………………………………………………
56
第8編
第5章 無効・取消し ..................................................................... 61
第9編
1 無効・取消し …………………………………………………………………
62
第6章 条件・期限 ......................................................................... 67
1 条件・期限 ……………………………………………………………………
68
第7章 時効 .................................................................................... 75
1 時効とは ………………………………………………………………………
76
第1編
第2編
物権
第1章 物権総論 ............................................................................. 89
第3編
1 物権の種類・意義 ……………………………………………………………
第2章 物権変動 第
4編
. ............................................................................ 97
1 不動産物権変動と登記 ………………………………………………………
第5編
90
98
2 動産物権変動と即時取得 …………………………………………………… 108
第3章 占有権・所有権・用益物権 ................................................ 117
第1編
第6編
第2編
第7編
第3編
第8編
1 占有権 ………………………………………………………………………… 118
2 所有権 ………………………………………………………………………… 126
3 用益物権 ……………………………………………………………………… 132
担保物権
第1章 担保物権総論 ..................................................................... 139
第4編
第9編
1 担保物権総論 ………………………………………………………………… 140
..................................................................... 145
第
5編
第2章 留置権・質権 1 留置権 ………………………………………………………………………… 146
第6編
第1編
2 質権 …………………………………………………………………………… 150
第3章 抵当権 ................................................................................ 155
第7編
第2編
1 抵当権 ………………………………………………………………………… 156
第4章 非典型担保 ......................................................................... 171
第8編
第3編
1 非典型担保 …………………………………………………………………… 172
第9編
第4編
債権総論
第1章 債権の目的・種類・効力 ................................................... 179
第5編
1 債権とは ……………………………………………………………………… 180
第6編
第2章 責任財産の保全 . ................................................................. 189
1 債権者代位権 ………………………………………………………………… 190
2 債権者取消権 ………………………………………………………………… 196
第3章 多数当事者の債権・債務 ................................................... 203
第1編
第2編
1 分割債務・不可分債務 ……………………………………………………… 204
2 連帯債務 ……………………………………………………………………… 208
3 保証債務 ……………………………………………………………………… 216
第4章 債権の消滅 ......................................................................... 223
第3編
1 債権の消滅 …………………………………………………………………… 224
第5章 債権譲渡 ............................................................................. 235
第4編
1 債権譲渡 ……………………………………………………………………… 236
第5編
債権各論
第1章 契約総論 第
6編
. ............................................................................ 243
1 契約総論 ……………………………………………………………………… 244
第7編
2 同時履行の抗弁権と危険負担 ……………………………………………… 252
3 契約の解除 …………………………………………………………………… 258
第2章 契約各論 ............................................................................. 265
第8編
第9編
1 売買・贈与 …………………………………………………………………… 266
2 賃貸借 ………………………………………………………………………… 274
3 請負・委任・組合・雇用 …………………………………………………… 284
第3章 事務管理・不当利得 ........................................................... 291
1 事務管理・不当利得 ………………………………………………………… 292
第4章 不法行為 ............................................................................. 299
1 不法行為 ……………………………………………………………………… 300
第5編
第6編
親族・相続
第7編
第1章 親族 .................................................................................... 311
第8編
1 婚姻 …………………………………………………………………………… 312
2 子・養子 ……………………………………………………………………… 322
第2章 相続 .................................................................................... 331
第9編
1 相続とは ……………………………………………………………………… 332
2 遺言・遺留分 ………………………………………………………………… 340
INDEX .............................................................................................. 345
1
第 編
総則
民法は,
権利義務がいかに発生し,
変更され,
消滅するかを
規定した法律です(財産法の分野)
。そこに共通する大原
則を規定したのが総則です。権利義務の発生変更消滅を生
じさせる一番の基本は法律行為です。ですから,
総則では法
律行為について特に詳しく規定しています。また,法律行為
によらないものとして共通するのが時効です。このように,
民法共通のルールをこれからみていくことになります。
第1章
民法の基本原理
第2章
私権の主体
第3章
法律行為・意思表示
第4章
代理
第5章
無効・取消し
第6章
条件・期限
第7章
時効
1
第 章
民法の基本原理
この章では,民法の個別的な問題に入る
前に民法の基本原理について学習します。
民
法とはどんな法律でどんな特色があるか,その概略
を理解してください。
過去の
出題例
民法の指導原理
指導原理の修正
第 1 編 総則
第
1
章
1
民法の基本原理
1
B
民法の基本原理
民法とは
民法は,
私人間の法律関係を規律する私法の一般法です。
たとえば,AB間で土地を売却する契約がなされた場合,AB間の
売買契約に基づく法律関係は民法によって規律されるのです。
民法の内容としては,財産に関する財産法(取引関係,損害賠償請
求など)と身分に関する身分法(婚姻関係,親子関係,相続関係など)
の2つがあります。
2
民法の指導原理
① 所有権絶対の原則(財産権不可侵の原則)
所有権絶対の原則とは,所有者は物の全面的な支配権を認められ,
他人や国家は,これを侵害しえないことをいいます。
② 私的自治の原則(契約自由の原則)
私的自治の原則とは,個人の身分上・財産上の法律関係は,各人の
自由な意思に基づいて形成することができるとする原則をいいます。
たとえば,Aさん所有の自動車をAさんがBさんに売った場合,A
B間の契約だけで自動車はBさんのものになります。原則として,A
B間の契約に国家は干渉できません。
③ 過失責任の原則(自己責任の原則)
個人は,他人に損害を与えた場合でも,そのことについて故意また
は過失がなければ,原則として損害賠償責任を負いません。これを過
失責任の原則といいます。
自らの行為について十分な注意を払ってい
れば,他人に損害を与えたとしても損害賠償責任を負わないとするこ
とにより,
個人の活動の自由を保障するものです。
④ 権利能力平等の原則
すべて自然人は,階級・職業・年齢などによって差別されることな
く,
平等に権利・義務の主体となることができます。
4
公務員試験 テキスト ゼロからはじめる!クイックマスター 民法
1 民法の基本原理
第
指導原理の修正
1
章
3
民法の基本原理
以上のような民法の指導原理の下では,人は自由に物を所有したり
契約を締結するなどの権利を行使することができます。しかし,そ
の自由も絶対無制約ではありません。
人が社会生活を営む以上,他人
の権利を不当に侵害することは許されないからです。そこで,民法は
以下のようにその指導原理を修正しています。
① 私権は公共の福祉に従わなければならない( 1 条 1 項)
② 信義誠実の原則( 1 条 2 項)
信義誠実の原則とは,人は具体的事情の下で相互に相手方の信頼
を裏切らないように誠意をもって行動すべきとする原則をいいます。
③ 権利濫用の禁止の法理( 1 条 3 項)
権利濫用の禁止の法理とは,権利の行使であってもそれが濫用に わたる場合には違法となり,
許されないとする原則をいいます。
事例1
B会社の温泉引湯管が他人の土地2坪をかすめていたのに目をつけたA
さんが,その土地を買い受け,Bに不当に高額な価格での買い取りを要求
したが拒否されたため,引湯管の撤去を求めた場合,Aさんの請求は認めら
れるでしょうか。
判例は,Aさんの引湯管撤去請求は認められないとしています(大
判昭10.10. 5 )
。
Aさんの請求は,社会観念上所有権の機能として許さ
れるべき範囲を逸脱するものであり,権利の濫用にほかならないから
です。
公務員試験 テキスト ゼロからはじめる!クイックマスター 民法
5
第 1 編 総則
第
章
1
民法の基本原理
民法とは
私人間の法律関係を規律する私法の一般法
民法の指導原理
⑴ 所有権絶対の原則とは
所有者は物の全面的な支配権を認められ,他人や国家からの封建的な拘
束から自由であるとする原則
⑵ 私的自治の原則とは
個人の身分上・財産上の法律関係は,各人の自由な意思に基づいて形成す
ることができるとする原則
指導原理の修正
⑴ 信義誠実の原則
信義誠実の原則とは,人は具体的事情の下で相互に相手方の信頼を裏切
らないように誠意をもって行動すべきとする原則
⑵ 権利濫用の禁止の法理
権利の行使であっても,それが濫用にわたる場合には違法となり,許さ
れないとする原則
Q 1 民法は,私人間の法律関係を規律する法であ
○
ることから,私法である。
Q 2 民法は,特定の地域・人・事項などにおいて
×
限定して適用されることから,特別法である。
Q 3 私権が公共の福祉に適合すべきことは,憲法
○
上の要請であるにとどまらず,民法上の原則で
もある。
6
公務員試験 テキスト ゼロからはじめる!クイックマスター 民法
1 民法の基本原理
第
Q 4 他人の権利を侵害した者は,それが不可抗
×
1
章
力による場合であっても,損害賠償責任を負わ
Q 5 所有権は,いかなる者の干渉も受けること
民法の基本原理
なければならないのが原則である。
×
のない絶対的な権利であるから,その行使が
他人の権利を侵害する場合であっても,損害賠
償責任を負う必要はない。
Q 6 所有権の行使であっても,それが他人の権
○
利または社会共同の利益を害する場合には,権
利の濫用となり許されないことがある。
公務員試験 テキスト ゼロからはじめる!クイックマスター 民法
7
2
第 章
私権の主体
私権の主体とは,私法上の権利・義務の
主体となる資格(権利能力)を有する者の
ことです。ここでいう私法上の権利・義務とは,た
とえば,本を買う場合の「本の引渡しを請求する権
利」や「代金を支払う義務」のようなものです。
民法
は,自然人(人間)と法人を私権の主体としていま
す。ここにいう法人とは,法律によって権利能力を認
められた団体をいいます。
過去の
出題例
制限行為能力者
法人
失踪宣告
権利能力なき社団
制限行為能力者の相手方の保護
権利能力
意思能力
第 1 編 総則
1
1
AA
能力
第
章
2
私権の主体
1
権利能力とは
権利能力とは,権利・義務の主体となることのできる一般的資格を
いいます。
自然人には,生まれたときから死亡するまで権利能力が認められ ます。これに対して,出生前の胎児には,原則として権利能力は認め
られません。ただし,
以下の 3 つの場合には例外的に権利能力が認め
られます。
① 不法行為に基づく損害賠償請求権(721 条)
② 相続(886 条)
③ 遺贈(965 条・886 条)
これは,子どもは生まれる前でも母親のお腹の中で生きているの
に,生まれるのがわずかに遅いか早いかという偶然の事情で①〜③に
おいて差がつくのは,
妥当な結果とはいえないからです。
2
意思能力とは
意思能力とは,自己の行為の結果を判断できる能力をいいます。
意 思能力を欠く者が行った法律行為は無効です。たとえば, 3 歳の幼
児や泥酔しているような者が,自分の土地を売却する契約を他者と締
結したとしても,その契約は無効となるのです。
3
行為能力とは
事例1
18歳のAさんが親に内緒でBさんからバイクを買った場合,あとでその
ことに気づいた親やAさん自身は契約を取り消すことができるでしょうか。
10
公務員試験 テキスト ゼロからはじめる!クイックマスター 民法
1 能力
行為能力とは,単独で有効に法律行為をなしうる能力をいいます。
民法は,意思能力があったとしても,取引のための十分な行為能力を
欠く場合について,その度合いによって 4 種類の制限行為能力者制
第
度を定めています(未成年者,
成年被後見人,
被保佐人,
被補助人)
。
制限行為能力者が単独でなした法律行為は,取り消すことができま
章
2
す。
取消しとは,一定の原因のある意思表示または法律行為について,
私権の主体
その効力を当初に遡って失わせる意思表示を意味します。
結果的に契
約がなかったものとなる点で無効と異なりませんが,取り消しうる法
律行為は一応有効であり,取り消すか否かは取消権者の意思に任さ
事例 1 で,Aさんおよび親は,バイクの売買契約を未成年者である
*1
第 1 編第 5 章1参照
▲
れている点で,
無効*1と異なります。
ことを理由に取り消すことができます( 5 条 2 項)
。親権者である親
だけでなく,未成年者たるAさん本人も取り消すことができることに
注意してください( 120条 1 項)
。
4
未成年者
⑴ 未成年者とは,20歳未満の者をいいます( 4 条)
。
未成年者が法律行為をするには,原則として法定代理人(親権者
など)の同意が必要であり,同意なしになされた行為は取り消すこと
ができます( 5 条)
。
⑵ ただし,以下の行為は,未成年者の利益を害しない(①,②)
,ま
たは,法定代理人の包括的な同意があると考えられる(③,④)
,など
の理由から,
未成年者が単独で行うことができます。
① 単に権利を得るにすぎない行為( 5 条 1 項但書)
ex.財産の贈与を受ける行為
② 単に義務を免れる行為( 5 条 1 項但書)
ex.借金などの債務を免除してもらう行為
③ 法定代理人により目的を定めて処分を許された財産を目
的の範囲内で処分すること( 5 条 3 項前段)
ex.学費,
修学旅行の費用など
④ 法定代理人により目的を定めずに処分を許された財産の
公務員試験 テキスト ゼロからはじめる!クイックマスター 民法
11
第 1 編 総則
処分をすること( 5 条 3 項後段)
ex.小遣いなど
第
⑤ 営業を許された場合の営業に関する行為( 6 条 1 項)
未成年者であっても,自ら営業を営むことがあります。このような
章
2
場合に,個々の取引について許可が必要だというのでは面倒です。そ
私権の主体
こで,法定代理人により営業を許可された場合にはその営業に関して
は行為能力が認められます。
ア 営業の意義
営業とは,自動車の販売業などの商業に限らず,広く営利を目的と
する事業(たとえば芸妓稼業)を含みます。
イ 営業を許す場合,
「 1 種または数種」の営業でなければならず,
一切の営業を許すことはできません。また, 1 個の営業の一部に限
定することも許されません(たとえば,書籍の販売を許可するが宗教
関係の書籍の販売だけは許可しない,などとすることは許されませ
ん)
。
ウ 営業の取消し
こた
未成年者が営業を許可されたとしても,いまだ「その営業に堪え
ることができない事由があるとき」は,法定代理人は,その許可を取
り消したり,これを制限することができます( 6 条 2 項)
。なお,こ
こにいう営業許可の取消しは,撤回の意味であって,将来に向かって
のみ効力を有するものです。したがって,法定代理人による営業の許
可の取消し以前に,
未成年者が行った営業行為は何の影響も受けず,
有
効とされます。
⑶ 未成年者は婚姻すると成年とみなされ,単独で有効に法律行為
をすることができるようになります(成年擬制,753条)
。婚姻生活を
円滑に行うためです。
5
成年被後見人
事例2
重度の認知症が原因で家庭裁判所の審判により成年被後見人とされたA
さんが,スーパーで食料品を買った場合,その行為は取消しの対象となる
のでしょうか。また,
自分の住む土地を売却する場合はどうでしょうか。
12
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1 能力
成年被後見人とは,精神上の障害により事理弁識能力(意思能力)
を欠く常況にある者
(精神病などで判断能力が恒常的に失われている
者)
で,
家庭裁判所の後見開始の審判を受けた者をいいます
( 7 条)
。
第
成年被後見人は,原則として単独で有効な法律行為を行うことがで
きません。そこで,保護者として成年後見人が選任されることになっ
章
2
ており,成年後見人が被後見人のために代わって法律行為をすること
私権の主体
になります(代理権)
。また,すでになされた成年被後見人の行為を
追認したり取り消したりすることもできます(追認権,
取消権)
。
ここで注意したいのは,成年被後見人は成年後見人の同意があって
も有効な法律行為を行うことができないということです。これは,未
成年者などと異なる点です。
事例2の成年被後見人Aさんが,単独で自分の住む土地を売却する
行為は取消しの対象となります( 9 条本文)
。ただし,Aさんはスー
パーで食料品を買うことはできます。
日用品の購入その他日常生活に
関する行為は,例外的に取消しの対象とならないのです( 9 条但
書)
。
6
被保佐人・被補助人
事例3
軽度の精神病により,保佐開始の審判を受けたAさんは,どのような行
為ができるでしょうか。
被保佐人とは,精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不
十分な者で,かつ,
家庭裁判所で保佐開始の審判を受けた者をいいま
す( 11条)
。不動産の売却などの重要な財産上の法律行為については
保佐人の同意が必要となり,同意なしになされた行為は取り消すこと
ができます( 13条4項)
。また,家庭裁判所は,特定の法律行為につ
いて保佐人に代理権を付与することができます( 876条の 4 )
。
事例3で被保佐人Aさんは,民法13条 1 項所定の行為を単独でな
すことはできません。
具体例としては,①借財や保証をなすこと,②不
動産または重要な財産の売買,③贈与をなすことがあります。これに
対して,Aさんが単独でなしうる行為の代表例としては,日用品の購
入その他日常生活に関する行為があります( 13条 1 項但書)
。
被補助人とは,
精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な
公務員試験 テキスト ゼロからはじめる!クイックマスター 民法
13
第 1 編 総則
者(軽度の認知症・精神障害など)で,かつ,家庭裁判所で補助開
始の審判を受けた者をいいます( 15条)
。なお,後見や保佐の場合と
異なり,本人以外の者の請求により補助開始の審判をするには,本人
第
の同意がなければなりません( 15条 2 項)
。
被補助人は,原則として単独で法律行為をすることができますが,
章
2
家庭裁判所が13条 1 項に規定された行為の一部につき補助人の同意
私権の主体
を要するとした場合,同意なしになされた行為は取り消すことができ
ます( 17条 4 項)
。また,家庭裁判所は,特定の法律行為について補
助人に代理権を付与することもできます( 876条の 9 )
。
【制限行為能力者の種類・権限】
保護者の種類
未成年者
親権者または
代理権
同意権
追認権
取消権
○
○
○
○
未成年後見人 (824,859) ( 5Ⅰ) ( 122)( 120Ⅰ)
成年被後見人
成年後見人
被保佐人
保佐人
被補助人
補助人
7
保護者の権限の種類
○
( 859)
×
○
○
( 122)( 120Ⅰ)
×
○
○
○
(ただし,876の4)( 13Ⅰ)( 122)( 120Ⅰ)
×
○
○
○
(ただし,876の4)( 17Ⅰ)( 122)( 120Ⅰ)
制限行為能力者の相手方の保護
事例4
未成年者Bさんにバイクを売ったあと,売主Aさんは,Bさんが未成年者
であることに気づきました。
Aさんは,Bさんまたはその親が当該売買契約
を取り消すのか追認するのかはっきりしてほしいと思っています。Aさん
はどのような手段を採ることができるでしょうか。
(1)意義
制限行為能力者制度は,制限行為能力者を保護するものですが,制
限行為能力者の法律行為が取り消されると相手方に不利益が及びま
す。そこで,民法は制限行為能力者の相手方を保護するため,以下の
14
公務員試験 テキスト ゼロからはじめる!クイックマスター 民法
1 能力
ような制度を設けています。
( 2)相手方の催告権
第
制限行為能力者がした取り消しうる行為の相手方は,一定期間を定
2
章
めて当該行為を追認するか否かを確答するよう催告をすることがで
私権の主体
きます( 20条)
。ここで,
催告とは,
一定の事項について通知すること
を意味します。
①能力を回復した本人( 19歳で契約し,20歳になってから催告を
受けた場合など)
・法定代理人・保佐人・補助人に催告した場合には,
期間内に確答がない場合には,原則としてその行為を追認したものと
みなされます。
これに対して,②被保佐人・被補助人に対して,保佐人・補助人の
同意を得て一定の期間内に追認するよう催告したが,同意を得た通知
がなされなかった場合には,
取り消したものとみなされます。
事例 4 で,Aさんは,Bさん( 20歳になった場合)またはその親に
対して,当該行為を追認するか否かを確答するよう催告することがで
きます。
( 3)制限行為能力者の詐術
事例5
未成年者Aさんが,自己の土地をBさんに売却する際に,自分は22歳です
よと言っていた場合,Aさんは自分が未成年者であることを理由として当
該行為を取り消すことができるでしょうか。
制限行為能力者が行為の当時,相手方に自己を能力者であると信じ
させるために「詐術」を用いたときは,例外的にその行為を取り消す
ことができなくなります( 21条)
。
詐術の例
① 偽造文書を用いるなど積極的術策を用いた場合
② 相手方に自分は制限行為能力者でないと明示した場合
③ 制限行為能力者であることを黙秘していた場合に,そ
れが制限行為能力者の他の言動と相まって,相手方を誤
信させ,または誤信を強めたものと認められる場合
公務員試験 テキスト ゼロからはじめる!クイックマスター 民法
15
第 1 編 総則
事例 5 では,Aさんは,相手方に自分は未成年者でないと明示して
いますから②に該当することになり,21条によって,当該行為を取り
消すことができなくなります。なお,単なる黙秘は,詐術にあたらな
第
いと解されています。
章
2
( 4)取消権の期間制限
私権の主体
取消権は,追認することができる時から 5 年,行為の時から20年で
消滅します( 126条)
。
権利能力とは
権利・義務の主体となることのできる一般的資格
例外的に胎児に権利能力が認められる場合
⑴ 不法行為に基づく損害賠償請求権( 721条)
⑵ 相続( 886条)
⑶ 遺贈( 965条・886条)
意思能力とは
自己の行為の結果を判断できる能力
意思能力を欠く者が行った行為は無効
行為能力とは
単独で有効に法律行為をなしうる能力
制限行為能力者
未成年者,成年被後見人,被保佐人,被補助人
未成年者が単独でなしうる行為
⑴ 単に権利を得るにすぎない行為( 5 条 1 項但書)
⑵ 単に義務を免れる行為( 5 条 1 項但書)
⑶ 法定代理人により目的を定めて処分を許された財産を目的の範囲内で
処分すること( 5 条 3 項前段)
⑷ 法定代理人により目的を定めずに処分を許された財産の処分をするこ
と( 5 条 3 項後段)
16
公務員試験 テキスト ゼロからはじめる!クイックマスター 民法
1 能力
⑸ 営業を許された場合の営業に関する行為( 6 条 1 項)
第
成年被後見人も日用品の購入その他日常生活に関する行為は,
単独で行うことができる( 9 条但書)
章
2
私権の主体
制限行為能力者制度のまとめ
本文14ページ表参照
Q 1 自然人には出生から死亡まで権利能力が認
×
められるが,胎児には一切権利能力が認められ
ない。
Q 2 未成年者が法定代理人の同意を得ることな
○
く贈与を受けた場合,その行為は取り消すこ
とができない。
Q 3 未成年者が親からもらった小遣いでCDを購
×
入する場合,
原則として親の同意が必要である。
Q 4 成年後見人は,成年被後見人の行為はすべて
×
取り消すことができる。
Q 5 制限行為能力者が,
相手方に対して,
自分は能力
○
者であると信じさせるために詐術を用いた場合
には,
当該法律行為を取り消すことはできない。
Q 6 制限行為能力者の相手方が,法定代理人に対
して,相当期間を定めて追認するか否かを確答
○
するよう催告し,その期間内に確答がない場
合には,追認したものとみなされる。
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17
第 1 編 総則
2
AA
失踪宣告制度
第
章
2
長い間住所に帰来せず,行方不明となっている者がいる場合,放置
私権の主体
された財産を管理したり,家族の保護を考えたりする必要が生じま
す。そこで,民法はこれらの必要に応じるため,不在者の財産管理制
度および失踪宣告制度を設けています。
このうち,
重要なのは失踪宣告制度です。
1
失踪宣告
不在者の生死不明の状態が継続し,しかも不在者の死亡している
可能性が高いのに,そのまま放置しておいた場合,家族や債権者に迷
惑がかかる可能性があります。たとえば,残された財産を管理してき
た子はいつまでたっても相続できないことになってしまいます。そ
こで民法は,失踪宣告制度を設け,一定の要件の下に不在者を死亡し
たものとみなすことにしています( 30条以下)
。
失踪宣告には,
普通失踪と特別失踪の 2 種類があります。
普通失踪:不在者の生死が 7 年間わからない場合( 30条 1 項)
ex. 父が家出をしてその生死が 7 年間わからない場合
特別失踪 :危難に遭遇した者が,危難の去った後 1 年間生死不明の
場合( 30条 2 項)
ex. 墜落した飛行機に乗っていた者・沈没した船に乗っ
ていた者の生死が,飛行機が墜落し,船が沈没してから 1
年間わからない場合
(1)失踪宣告の方式
失踪宣告は,失踪者の生死が明らかでなく,その状態が一定期間継
続した場合に,
利害関係人の請求を待って,
家庭裁判所が宣告します。
請求権者である利害関係人とは,配偶者や債権者などの法律上の利
害を有する者であって,
友人や検察官などは含みません。
18
公務員試験 テキスト ゼロからはじめる!クイックマスター 民法
2 失踪宣告制度
( 2)失踪宣告の効果
失踪宣告により宣告を受けた者は死亡したとみなされるので,相続
が開始し,配偶者がいた場合には婚姻が解消されます。ただし,失踪
第
きていれば,現住所で物を買うなどの契約を締結したりすることがで
2
章
者本人の権利能力が消滅してしまうわけではなく,もし失踪者が生
私権の主体
きます。あくまで,失踪宣告は失踪者の従来の住所または居所を中心
とする法律関係について,死亡した場合と同じような法律効果を認め
るものだからです。
2
失踪宣告の取消し
失踪宣告は,失踪者の生存すること,または宣告によって死亡と
みなされる時と異なる時に死亡したことが発覚したときでも,当然に
失効するわけではなく,本人または利害関係人の請求を待って家庭裁
判所が失踪宣告の取消しをしなければ,その効果を失いません( 32
条 1 項前段)
。
(1)失踪宣告の取消しの効果
事例1
失踪宣告を受けたAさんの財産である土地を相続したBさんは,それを
Cさんに売却しました。しかし,その後Aさんが生存していることが発覚
し,失踪宣告は家庭裁判所により取り消されました。この場合,BC間の売
買は無効となり,Cさんは土地をAさんに返還しなければならないのでし
ょうか。
失踪宣告の取消しがなされると,初めから失踪宣告がなされなかっ
たことになります。ただし,失踪宣告後その宣告の取消前に善意でな
した行為の効力は,影響を受けません( 32条 1 項後段)
。そして,こ
の場合の「善意」は,当事者双方に要求されると解されています。し
たがって,事例1でBさんCさんが,ともにAさんが生存しているこ
とを知らなかった場合,Cさんは,土地をAさんに返還する必要はあ
りません。
また,相続人のように失踪宣告によって直接に財産を得た者は,失
踪宣告の取消しがなされると,現に利益を受ける限度(現存利益)で
その財産を返還する義務を負います( 32条 2 項)
。ただし,失踪者が
公務員試験 テキスト ゼロからはじめる!クイックマスター 民法
19
第 1 編 総則
生存していることを知っていた(悪意)場合,悪意者は現存利益だけ
でなく得た利益すべてを返還しなければならないと解されています。
第
章
2
私権の主体
普通失踪と特別失踪
失踪期間
起算点
死亡の認定時期
普通失踪
7 年( 30Ⅰ)
生存が確認された最後の時
失踪期間の満了時( 31前)
特別失踪
1 年( 30Ⅱ)
危難の去った時
危難の去った時( 31後)
*普通失踪:一般の生死不明の場合
特別失踪:危難による生死不明の場合
失踪宣告の取消し
⑴ 失踪宣告後その宣告の取消前に善意でなした行為の効力は,影響を受
けない
→ただし,両当事者の善意が必要
⑵ 失踪宣告によって直接に財産を得た者(ex.相続人)は,失踪宣告の取
消しがなされると,現に利益を受ける限度(現存利益)でその財産を返
還する義務を負う
→ただし,悪意の場合は全部の利益を返還しなければならない
Q 1 普通失踪宣告を受けた者は,失踪期間の満了
○
時に死亡したとみなされる。
Q 2 失踪宣告を受けた者は,宣告の取消しを受け
×
るまで,契約などの法律行為をすることができ
ない。
20
公務員試験 テキスト ゼロからはじめる!クイックマスター 民法
2 失踪宣告制度
Q 3 失踪宣告が取り消された場合,失踪宣告によ
×
って直接に財産を得た者は,悪意であっても現
に利益を受ける限度で財産を返還すればよい。
第
章
2
私権の主体
公務員試験 テキスト ゼロからはじめる!クイックマスター 民法
21
第 1 編 総則
3
B
法人
第
章
2
私権の主体
1
法人とは
法人とは,自然人以外のもので,法律によって権利能力を認められ
たものをいいます。
権利・義務の主体となるのが自然人のみであるとすると,実際上非
常に不便です。たとえば,多数の者が共同で事業を営むため,その事
業用の土地を購入した場合,その効果は全員に帰属し,全員の名前を
連ねて所有権登記をしなければならなくなるなどの不都合が生じま
す。
そこで,このような不都合を避け,団体の取引上の便宜を図るため
に,
団体自身に権利能力を認めたのが法人制度です。
意義
具体例
社団法人
その実体が一定の目的のもとに
結合した人の団体である法人
会社,学校法人
財団法人
その実体が一定の公益目的に捧
げられた財産の集合である法人
日本相撲協会
意義
具体例
公益法人
公益に関する事業を目的とし営 宗教法人,学校法人
利を目的としない法人
(民法でいう法人は公益法人です)
営利法人 営利事業を目的とする法人
営利でも公益でもない相互扶助
中間法人
や親睦等を目的とする法人
22
商法上の会社
労働組合
公務員試験 テキスト ゼロからはじめる!クイックマスター 民法
3 法人
2
法人の権利能力
第
事例1
章
2
組合員に金銭を貸し付けることを定款所定の目的としていた農業協同組
私権の主体
合Aが,組合員でないBさんに対して金銭を貸し付けました。このような
行為は有効となるでしょうか。
法人にも権利能力が認められます。しかし,法人の権利能力は,以
下のような制限を受けます。
( 1)性質による制限
自然人ではないという性質上,婚姻や養子縁組は不可
( 2)法令による制限
清算株式会社は清算の目的の範囲内においてのみ存続す
る(会社法476条)など
( 3)目的による制限
法人は,定款または寄附行為により定まった目的の範囲内において
権利を有し義務を負います( 34条)
。
目的の範囲について,判例は,公
益法人の場合には厳格に考えています。したがって,事例 1 におい
て,農業組合Aは公益法人なので,
目的の範囲が厳格に考えられます。
ゆえに,農業協同組合Aが組合員でないBさんに対して金銭を貸し付
けた行為は,
目的の範囲外の行為となり,
無効となります。
これに対して,営利法人の場合には目的たる事業の遂行に必要な事
項は広く含むと緩やかに考えられています。たとえば,鉄道会社が石
炭採掘権を取得する行為は,
目的の範囲に含まれます。
公務員試験 テキスト ゼロからはじめる!クイックマスター 民法
23
第 1 編 総則
第
法人とは
自然人以外のもので,法律によって権利能力を認められたもの
章
2
私権の主体
法人の権利能力の制限
⑴ 性質による制限
⑵ 法令による制限
⑶ 目的による制限
3
権利能力なき社団・財団
(1)意義
社団としての実体を有していながら,法の手続を経ていない,また
は経ることができないため,法人格を認められない団体(社団)のこ
とを権利能力なき社団といいます。
事例2
地域の親睦を目的とする町内会Aは法人として扱えるのでしょうか。
権利能力なき社団の要件としては,
以下のものがあります。
① 団体としての組織を備えていること
② 多数決の原則が行われていること
③ 構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続する
こと
④ その組織によって代表の方法,総会の運営,財産の管理
その他団体としての主要な点が確定していること
民法の明文上は,このような権利能力なき社団に関する規定は存
在しません。しかし,権利能力なき社団は社団法人と異ならない実質
24
公務員試験 テキスト ゼロからはじめる!クイックマスター 民法
3 法人
を備えていることから,法人制度を破綻させない限りにおいて,法人
にできるだけ近づいた処理をするのが有用です。
事例 2 において,町内会は,公益目的ではないので社団法人とはい
第
えません。しかし,町内会は,多くの場合,権利能力なき社団の要件を
充たしていると考えられるので,権利能力なき社団として認められる
章
2
場合が多いでしょう。
私権の主体
( 2)財産や債務の帰属
事例3
権利能力なき社団である同窓会(構成員50人)の構成員の 1 人であるA
さんは,同窓会を脱退する際に,同窓会の財産500万円に対する自己の持分
10万円を主張し,
分割請求をすることはできるでしょうか。
① 権利能力なき社団は,権利能力が認められていない以上,権利能
力なき社団自体を財産の帰属主体とすることはできません。もっと
るとしています。すなわち,権利能力なき社団の構成員は潜在的にも
持分を有しないことになるので,持分の処分や分割請求をすることは
*1
第 2 編第 3 章2 3 項
▲
も,判例は,権利能力なき社団の財産権は,構成員に総有的*1に帰属す
参照
できません。
事例3において,同窓会の財産500万円は,同窓会の構成員に総有
的に帰属します。したがって,構成員Aさんは同窓会の財産の分割請
求をすることはできません。
② また,
判例は,
権利能力なき社団の債務についても,
構成員に総有
的に帰属するとしています。そこで,社団総有財産のみがその責任財
産となり,構成員各自は取引の相手方に対して,直接には個人的債務
ないし責任を負いません。
( 3)不動産の登記
構成員全員の名義か代表者個人名義ですべきとされます。
判例・登
記実務とも,社団の名義でなす登記を認めていません。また,社団の
代表者である旨の肩書を付けた代表者個人名義での登記も認められ
ません。登記官には登記の実質的審査権がないことから,社団名義で
の登記を許すと実体のない架空名義の登記がなされる危険があるか
らです。
公務員試験 テキスト ゼロからはじめる!クイックマスター 民法
25
第 1 編 総則
第
権利能力なき社団とは
章
2
社団としての実体を有していながら,法の手続を経ていない,または経
私権の主体
ることができないため,法人格を認められない団体(社団)
権利能力なき社団の財産
構成員に総有的に帰属→構成員に持分はない
分割請求できない
権利能力なき社団の債務
構成員に総有的に帰属→社団の総有財産だけが責任財産
構成員個人は債務ないし責任を負わない
権利能力なき社団の不動産の登記
構成員全員の名義か代表者個人名義
Q 1 民法上の公益法人には,一定の目的のために
○
集合した人的結合体である社団法人と,一定の
目的に捧げられた財産の集合体である財団法
人がある。
Q 2 権利能力なき社団の財産は構成員に総有的
○
に帰属し,社団の債権者に対して構成員個人は
責任を負わない。
Q 3 権利能力なき社団は,その有する不動産に
×
ついて社団名義で登記することができる。
26
公務員試験 テキスト ゼロからはじめる!クイックマスター 民法
あ行
遺産分割..................................................... 335
監督代行者.................................................. 302
管理継続義務.............................................. 292
意思表示....................................................... 28
遺贈............................................................. 341
期限の利益.................................................... 72
危険負担..................................................... 254
意思主義....................................................... 98
意思能力....................................................... 10
既成条件....................................................... 69
帰属清算型.................................................. 174
委任............................................................. 286
遺留分......................................................... 342
期待権........................................................... 70
寄附行為....................................................... 23
請負............................................................. 284
共同抵当..................................................... 164
共同不法行為責任....................................... 305
遺留分減殺請求権....................................... 342
因果関係..................................................... 301
請負人の担保責任....................................... 284
親子関係不存在確認の訴え........................ 323
か行
外形標準説.................................................. 305
解散............................................................. 288
解除............................................................. 258
解除権の不可分性....................................... 259
解除後の第三者.......................................... 261
解除前の第三者.......................................... 260
解約手付..................................................... 270
求償............................................................. 209
協議離婚..................................................... 316
強迫............................................................... 35
共有............................................................. 128
緊急事務管理.............................................. 292
金銭債権..................................................... 182
組合.................................................. 128,287
クリーンハンズの原則............................... 296
契約............................................................. 244
検索の抗弁権.............................................. 218
原始取得............................................ 79,113
確定期限....................................................... 71
現実の提供.................................................. 225
現実の引渡し................................... 108,113
瑕疵修補請求権.......................................... 285
瑕疵担保責任.............................................. 269
現存利益............................................ 64,294
限定承認..................................................... 336
隠れた瑕疵.................................................. 269
瑕疵............................................................. 269
過失............................................................. 301
果実............................................................... 91
果実収取権.................................................. 147
原始的不能....................................... 184,254
原状回復義務.............................................. 260
顕名............................................................... 41
権利質......................................................... 152
過失責任の原則.............................................. 4
権利能力....................................................... 10
権利能力なき社団......................................... 24
簡易の引渡し................................... 108,113
監護・教育権.............................................. 327
牽連関係..................................................... 252
故意............................................................. 300
過失相殺..................................................... 303
仮登記担保.................................................. 175
間接強制..................................................... 183
監督義務者.................................................. 302
INDEX
一部他人物売買.......................................... 267
囲繞地通行権.............................................. 127
管理行為..................................................... 129
期限............................................................... 71
権利能力平等の原則....................................... 4
権利濫用の禁止の法理................................... 5
行為能力....................................................... 10
公益法人....................................................... 22
INDEX
345
公務員試験 テキスト
ゼロからはじめる! クイックマスター 民法
2012年 3 月30日 第 1 版 第 1 刷発行
編著者 ● 株式会社 東京リーガルマインド
LEC総合研究所 公務員試験部
発行所 ● 株式会社 東京リーガルマインド
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ISBN978−4−8449−0486−1
複製・頒布を禁じます。
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著作者及び出版者の権利侵害になりますので,その場合はあらかじめ弊社あてに許諾をお
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なお,本書は個人の方々の学習目的で使用していただくために販売するものです。弊社と
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落丁・乱丁本は,送料弊社負担にてお取替えいたします。出版部までご連絡ください。
定価1,890円
KD00486
本体1,800円 +税5%
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