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本書を発行するにあたって,内容に誤りのないようできる限りの注意を払いましたが,
本書の内容を適用した結果生じたこと,また,適用できなかった結果について,著者,
出版社とも一切の責任を負いませんのでご了承ください.
本書は,「著作権法」によって,著作権等の権利が保護されている著作物です.本書の
複製権・翻訳権・上映権・譲渡権・公衆送信権(送信可能化権を含む)は著作権者が保
有しています.本書の全部または一部につき,無断で転載,複写複製,電子的装置への
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本書の無断複写は,著作権法上の制限事項を除き,禁じられています.本書の複写複
製を希望される場合は,そのつど事前に下記へ連絡して許諾を得てください.
オーム社出版局「(書名を明記)」係宛,E-mail([email protected])
または書状,FAX(03-3293-2824)にてお願いします.
序 文
現代社会を称して「高度情報化社会」といわれて久しい.私たちの日常生活は
目に見えるところ見えないところを含め,あらゆるところでコンピュータあるい
はエレクトロニクス機器に代表される高度情報化システムによって支えられてい
る.例えば身近なところでは,コンビニエンスストアにある ATM によって必要
なお金を 24 時間いつでも引き出すことができる.現金を持ち歩かなくても携帯
電話で買物やホテル代の支払いなどができ,大変便利な世の中になっている.見
えないところでは,世界中のあらゆるところを飛行している航空機の航空管制シ
ステムが私たちの安全な旅行を確保してくれている.しかも,24 時間連続稼働
して安全を保障してくれている.
万一このような情報化社会のインフラであるシステムが停止した場合,その損
失は計り知れないものがある.例えば,銀行窓口に長蛇の列ができたとか,空港
利用客の数万人の足に影響が出たとか,新聞,テレビなどに報道されることも記
憶に新しい.
商用電源は,落雷などの自然災害の影響による電圧の瞬時低下や極めて短時間
の停電などどうしても避けられないのが実情である.日本国内の電力の安定度,
信頼度は諸外国,特に世界の最先端を突き進んでいる米国の電力事情などに比較
しても格段に優れており,極めて信頼度の高い電力を得ている状況である.それ
でも落雷などの自然災害により地絡や短絡が発生した場合には,その事故点を切
り離すため 0.07 秒から 2 秒程度の瞬時電圧低下や停電は避けられない.
電力が安定しなければ社会インフラを支えるコンピュータやエレクトロニクス
機器は誤作動や停止を起こすので,常に安定した電力供給を 24 時間 365 日必要
としている.
また一方,
半導体製造工場などは,
瞬時電圧低下や停電などによりクリーンルー
ムの製造ラインが停止すると製造中の製品そのものが品質不良となり,多大な損
害が発生することになる.
こうした高度情報化システムも製造ラインも必要な電源が安定に確保されてい
iii
序 文
なければ,本来の機能は発揮できないことになる.そうした電源を供給している
のが無停電電源システムである.
無停電電源システムは UPS と称されるが,Uninterruptible Power Systems
の略称である.
高度情報化社会がコンピュータやエレクトロニクス機器に 24 時間 365 日支え
られており,UPS はそれらの機器・システムに 24 時間 365 日安定した電力を
供給し続ける責務を負っている.そうした責務を果たすため,UPS 装置の高信
頼化のみならず,万が一 UPS が故障しても,連続して電力を供給し続けたり,
UPS を点検する際にも同様に電力を供給し続けるなどの市場要求は当然のこと
となってきている.
さらには UPS の機器そのものの更新にあたり,負荷側のコンピュータシステ
ムなどを停止せずに運用したままで電源側の設備更新をすることが計画され実施
されている.社会環境からのこうした無停電電源システムに課せられる責務は非
常に過酷になってきている.
これらの要求を満たすため機器そのものの高信頼化と,無停電で電力供給可能
な UPS システム,すなわち高信頼度 UPS システムを構築する必要がある.高
信頼度 UPS システムを導入したあと,長期にわたって UPS システムを安全に
運用していくための技術と管理も併せ必要になる.
本書は,無停電電源システムを企画,運用する技術者および管理者の方々向け
に,瞬低対策技術,高信頼度 UPS システム技術,UPS システムの運用・管理な
どを理解するための実務書として,まとめたものである.UPS システムの計画
から運用,管理にわたり幅広く活用され,安定した高信頼の電力供給を実現いた
だければ幸いである.
巻末には,半導体デバイスと UPS の歴史や仕様例,規格について概略を付し
たので参考にしていただきたい.
なお,本書を執筆するにあたり,オーム社出版局の持田二郎氏には大変お世話
になりました.紙面をもって御礼申し上げます.
2007 年 10 月
松
iv
㟢
薫
目 次
第 1 章 UPS と は
1.1 商用電源の停電と瞬時電圧低下 _____________________________________ 1
1.2 各種機器の電圧低下耐量 ___________________________________________ 3
1.3 コンピュータの電源変動耐量 _______________________________________ 4
1.4 UPS の基本機能 __________________________________________________ 7
1.5 UPS の主な用途 _________________________________________________ 10
1.6 UPS の市場動向 _________________________________________________ 12
第 2 章 UPS の種類と基本動作
2.1 静止型 UPS _____________________________________________________ 15
2.1.1 ダブルコンバージョン型 UPS 16
2.1.2 スタンドバイパワーシステム(SPS)
21
2.1.3 トライポート方式 UPS 23
2.1.4 系統連系型 UPS 23
2.1.5 可搬型汎用 UPS 26
2.1.6 据付型 UPS 27
2.2 回転型 UPS _____________________________________________________ 28
2.2.1 クレーマ式 MMG UPS 29
2.2.2 フライホイール式 UPS 30
第 3 章 システムと信頼性
3.1 負荷システムの特徴 ______________________________________________ 31
3.2 UPS システムの種類と特徴 _______________________________________ 32
目 次
3.2.1 切換システム 32
3.2.2 並列冗長システム 38
3.2.3 直列冗長システム(共通予備 UPS システム) 44
3.2.4 保守バイパス回路 50
3.2.5 STS システム 53
3.2.6 UPS システムと構造 56
3.2.7 ディペンダビリティ 59
3.3 MTBF と MTTR ________________________________________________ 59
3.4 故 障 率 ______________________________________________________ 61
3.4.1 部品の故障率 61
3.4.2 装置の故障率 62
3.5 部品の故障率とディレーティング __________________________________ 62
3.6 信頼度モデル ____________________________________________________ 63
3.6.1 直列モデルと並列モデル 63
3.6.2 常時商用同期無瞬断バイパス切換え付き UPS システムの
信頼度試算 65
3.6.3 並列冗長 UPS システムの信頼度試算 67
3.6.4 常時商用同期無瞬断バイパス付き並列冗長 UPS システムの
信頼度試算 69
3.6.5 各種冗長 UPS システムの信頼度評価試算 70
第 4 章 エネルギー蓄積システム
4.1 蓄 電 池 ______________________________________________________ 75
4.1.1 蓄電池の種類 76
4.1.2 蓄電池容量の計算 79
4.1.3 蓄電池の設置方法 81
4.1.4 蓄電池の保守と寿命 83
4.2 フライホイール __________________________________________________ 84
vi
目 次
第 5 章 監 視 シ ス テ ム
5.1 盤面グラフィックパネル __________________________________________ 87
5.2 LCD タッチパネル_______________________________________________ 89
5.3 遠方監視盤・現場監視盤 __________________________________________ 90
5.4 波形記憶機能 ____________________________________________________ 91
5.5 リモートメンテナンスシステム ____________________________________ 96
第 6 章 負荷設備とのインタフェース
6.1 負荷側突入電流と短絡電流 ________________________________________ 99
6.2 負荷側高調波電流 _______________________________________________ 106
6.3 負荷側接地システム _____________________________________________ 107
6.4 二重化給電システム _____________________________________________ 112
6.5 二重化出力盤 ___________________________________________________ 114
第 7 章 電源設備とのインタフェース
7.1 交流入力電源との協調 ___________________________________________ 117
7.2 発電機との協調 _________________________________________________ 121
7.3 蓄電池システム _________________________________________________ 124
第 8 章 工場試験と現地試験
8.1 形式試験と常規試験 _____________________________________________ 131
8.1.1 外観構造検査 134
8.1.2 絶縁耐圧試験 134
8.1.3 制御電源確認試験 134
8.1.4 監視・表示・計測系の確認 134
8.1.5 入力電源変動試験 135
8.1.6 起動電流測定 135
vii
目 次
8.1.7 定常特性試験 135
8.1.8 過負荷試験 136
8.1.9 負荷短絡試験 136
8.1.10 過渡特性試験 136
8.1.11 非線形負荷試験 140
8.1.12 温度上昇試験 141
8.1.13 同期運転試験 141
8.1.14 交流入力電源異常試験 142
8.1.15 蓄電池充放電試験 143
8.1.16 商用バイパス切換試験 143
8.1.17 並列冗長 UPS システム試験 145
8.1.18 直列冗長 UPS システム 146
8.1.19 騒音測定試験 146
8.1.20 放射雑音・伝導雑音測定試験 147
8.1.21 高調波成分測定 147
8.1.22 耐震試験 147
8.1.23 落下試験 147
8.2 現 地 試 験_____________________________________________________ 148
8.2.1 外観構造検査 149
8.2.2 機器間接続のケーブルなどの検査 149
8.2.3 無負荷運転 149
8.2.4 蓄電池運転 149
8.2.5 切換試験 150
8.2.6 並列冗長 UPS システム 150
8.2.7 監視設備 150
8.2.8 非常用自家発電設備との組合せ試験 151
第 9 章 リニューアル技術と管理
9.1 リニューアルの事例 _____________________________________________ 153
9.1.1 既設 UPS 運用状態 154
9.1.2 外部バイパス給電状態への切換え 155
viii
目 次
9.1.3 新設 UPS 給電への切換えと既設 UPS の移動 156
9.1.4 再び既設 UPS 給電へ切換え 158
9.1.5 再び新設 UPS 給電へ切換えしリニューアルが完了 160
9.2 リニューアル時の管理方法 _______________________________________ 162
9.2.1 作業要領書に記載すべき事項 163
9.2.2 施工管理体制 164
9.2.3 緊急連絡体制 164
9.2.4 作業全体の概要 164
9.2.5 作業当日のスケジュール 166
9.2.6 作業手順 167
9.2.7 作業手順に沿ったシステム図 169
9.2.8 機器配置図 169
第 10 章 設 置
10.1 設 置 環 境 ___________________________________________________ 171
10.1.1 保守スペース 171
10.1.2 床荷重 171
10.1.3 ケーブルピット 172
10.1.4 床 172
10.1.5 周囲温度 172
10.1.6 湿 度 173
10.1.7 高 度 173
10.1.8 雰囲気 174
10.1.9 その他 175
10.2 ノイズとアース________________________________________________ 175
10.2.1 外部からのノイズ 175
10.2.2 影響を与えるノイズ 178
ix
目 次
第 11 章 保 守・保 全
11.1 バスタブカーブ________________________________________________ 181
11.2 アレニウスの法則______________________________________________ 183
11.3 予 防 保 全 ___________________________________________________ 184
11.3.1 日常点検 185
11.3.2 定期点検 188
11.3.3 精密点検 196
11.3.4 定期的交換部品 197
11.4 保守バイパス回路______________________________________________ 198
資料Ⅰ 半導体デバイスと UPS の歴史 ________________________________ 201
資料Ⅱ 主な仕様例(据付型 UPS,可搬型汎用 UPS)__________________ 210
資料Ⅲ 規 格__________________________________________________ 213
参 考 文 献 _______________________________________________________ 215
索 引________________________________________________________ 217
第
1
章
UPS と は
1.1 商用電源の停電と瞬時電圧低下
商用電源は,電力会社などの発電所から送電線,変配電所を経て需要家の受変
電設備を介して一般に使用される交流電力である.一般需要家での受電点では,
20 kV,6.6 kV といった電圧を 200 V や 100 V に降圧して使用している.コン
ピュータや,情報・通信機器などには,主に 200 V 系,100 V 系が使用されてい
る.工場設備も末端の計測・制御機器類は同様である.
発電所から実際に使用される機器までの間には,いろいろな設備が稼働してい
る.受変電設備での故障等発生の場合には,その故障が復旧するまでは一般的に
停電となる.そのような設備,機器,送配電系での故障以外に,送電線などへの
落雷などの自然現象の影響により地絡や短絡事故が起こる.この地絡,短絡を解
除するために遮断器により故障点の切り離しと別系統からの送電への切換えが行
われるが,これに要する時間として,0.07 秒から 2 秒程度の瞬時電圧低下や停
電を伴い,どうしても避けられない時間となっている.
社会の情報化の発展,生活の多様化,高度化による安定した電力供給の要求が
高まり,特にコンピュータなどが落雷などにより停止したり誤作動を起こしたり
の影響が問題になってきた.1982 年から資源エネルギー庁内に設けられた「新
時代に即応した電力流通設備問題研究会」に始まり,
「電力利用基盤強化懇談会」
へ続き,社団法人電気協同研究会に「瞬時電圧低下対策専門委員会」が設置され,
「電気協同研究,第 46 巻,第 3 号」として瞬時電圧低下についての調査報告が
されている.
雷の発生頻度などにより瞬時電圧低下する回数や時間に差があるが,平均的
な数値として,日本における平均的な年間の瞬時電圧低下の推定結果(図 1.1)
1
と
は
年合計:T =12 回 / 年
(20%低下以上は 5 回 / 年)
4
3
2
1
ms
〔1
0
12
〕
0
6
回数〔回 / 年〕
第 1 章 UPS
時間
18
24
継続
30
0
20
40 60 80
100
電圧低下度〔%〕
36
以上
図 1.1 日本における平均的な年間の瞬時電圧低下の推定結果
(出典:電気協同研究会瞬時電圧低下対策専門委員会:
「瞬時電
圧低下対策」
,電気協同研究,第 46 巻,第 3 号,p.8,1990 年 7 月)
6
発生頻度 / 年間
5
4
3
2
1
20∼30
40∼50
60∼70
80∼90
0∼10
1∼2 min
10∼30 s
2∼5 s
10∼20 cyc
継続時間
0.5∼0.1 s
1 cyc
3 cyc
5 cyc
0
残存電圧
図 1.2 瞬時電圧低下および停電の発生状況の海外の事例 (出典:A Business Case for Battery-Free UPS in Industrial
Application,Piller, Inc.)
1.1
1.2 各種機器の電圧低下耐量
が報告されている.最も多いのが,電圧低下度が 0 ~ 20%,継続時間が(6 ~
12 )×10 ミリ秒の瞬時電圧低下が 1 年の間に 3 回強発生すると推定している.
年間電圧低下する回数は合計 12 回,20%以上の低下が 5 回/年と推定している.
同様に,海外における瞬時電圧低下の状態を解析したデータが示されている.
図 1.2 に示す.この図でも同様に,6 ~ 10 サイクル以下の継続時間で電圧が 80
~ 90%程度に落ち込む回数が 5 回強/年というデータが示されている.図 1.1 と
図 1.2 を比較すると,日本の電力事情のほうが海外の電力事情より安定している
ことがわかる.
雷の発生頻度は気候の状況,地域の特徴など多くの不定要素があり,確定する
ことはできないが,いずれにしてもこのような自然現象による電力の瞬時電圧低
下や瞬時停電は避けることができない事象である.
1.2 各種機器の電圧低下耐量
各種産業機器や情報・通信機器などで使われている電気器具などの電圧低下耐
量を調査した事例が,同じく「電気協同研究,
第 46 巻,
第 3 号」で報告されている.
図 1.3 に報告内容の一部を紹介する.おおむね 0.1 秒の瞬時で多くの電気・電子
器具が影響を受けるであろうと推定されている.例えば,電磁接触器は 50%以
上の電圧低下が 0.01 秒,すなわち 50 Hz 地区の電源であれば,半サイクル継続
すれば開極してしまい,その負荷は停電となり停止してしまうであろう.パワー
エレクトロニクス応用の可変速制御のモータでは,電圧低下が 15%以上,0.01
秒継続すると停止してしまう.製造ラインで駆動しているモータであれば,その
該当する製造ラインは停止することになる.製品が完成するまで絶対に停止して
はならないような製品,例えば半導体製品などの製造ラインであればライン上の
製品は不合格品となり,大きな損害,時として億の単位の損害を被ることになる.
このようにいろいろな機器が各種現場で稼働しているが,ほとんどの機器が瞬時
電圧低下に対して十分な耐量を持ち合わせているとはいえないことがわかる.
図 1.3 で示してある各種機器以外にも多くのエレクトロニクス機器が使用され
ており,またすべての機器についてメーカーなりユーザーが電源変動の限界値を
試験しているわけではないので,ここでは全般的な傾向を把握するに止めておい
ていただきたい.いずれにしても,非常に短い時間の変動でも正常に動作できな
くなることがわかる.
第 1 章 UPS
と
電圧低下度〔%〕 0
50
は
パワーエレクトロニクス
応用可変速モータ 高圧放電ランプ
不足電圧継電器
ワープロ
パソコン
電磁開閉器
ベッドサイドモニタ
(医用電気機器)
凡例
影響無
0.2 秒
影響有
100
0.01
0.5
0.05
0.1 0.2
0.5
継続時間〔秒〕
1
5
10
50
(サイクル:50Hz 系)参考
2
100
(注)この特性は実測の一例であり,
メーカーの保証値ではない.
機種・負荷状況によって特性は異なる.
図 1.3 負荷機器の瞬時電圧低下の影響度 (出典:電気協同研究会瞬時電圧低下対策専門委員
会:「瞬時電圧低下対策」,電気協同研究,第 46 巻,
第 3 号,p.9,1990 年 7 月)
電源変動に対して非常に敏感な負荷,例えばコンピュータのような負荷を「ク
リティカル負荷(critical load)
」という.
このようなわずかな電源変動に対して停止または誤作動を発生するような機器
は,再起動して正常に作動するようになるまで一般的にかなりな時間を要するも
のである.したがって,瞬時電圧低下や瞬時停電は非常に短い時間の事象である
が,機器から見れば相当に長い時間正常に動作できないということになる.
1.3 コンピュータの電源変動耐量
「クリティカル負荷」の代表であるコンピュータは電源変動に対してどれだけ
の耐量があるか,米国の Information Technology Industry Council(ITI)か
ら ITI(CBEMA) カ ー ブ が 示 さ れ て い る.CBEMA は ITI の 前 身 の 名 称 で,
Computer & Business Equipment Manufacturers Association の略称である.
従来は一般的に CBEMA カーブと称されていた.ITI(CBEMA)カーブを図 1.4
に示す.
1.3
定格電圧に対するパーセント(実効値またはピーク値)
1.3 コンピュータの電源変動耐量
500
400
300
1φ−120V機器に
適用可能な領域
禁止領域
200
140
120
100
80 機能上無瞬断の領域
70
40
100
90
損傷しない領域
0
0.001 0.01 c
1 c 10 c 100 c
1µs
1 ms 3 ms 20 ms 0.5 s 10 s
継続時間〔サイクル数,秒〕
Steady
State
図 1.4 ITI(CBEMA)カーブ (出典:Technical Committee 3 (TC3) of the Information
Technology Industry Council (ITI, Formally known as
the Computer & Business Equipment Manufacturers
Association),2000 年 7 月 1 日)
このカーブの Y 軸が電圧変動範囲を示しており,定格電圧を 100%として実効
値またはピーク値の変動幅を示している.したがって,100%を中心値として上
下のカーブの内側に電圧値が入っていれば,コンピュータは正常に動作すること
を示している.この図から,
電圧が 0 V になって 20 ms 以上継続するとコンピュー
タは動作できなくなる.20 ms という時間は,例えば 50 Hz の電源では 1 サイ
クルの時間に相当する.このことよりわかるように,コンピュータは一瞬の停電
でも正しく作動できなくなる.
1.2 節に示した商用電源の電圧変動推定値では,この ITI(CBEMA)カーブ
が示す許容範囲を逸脱する変動がある発生率で存在することがわかる.
また,こうした電源変動に対して弱いコンピュータに安定に電力を供給する
UPS の特性は,この ITI(CBEMA)カーブの内側に必ず入っていなければ,そ
の機能を満足させることはできないことになる.
一方,UPS の特性もこの ITI(CBEMA)カーブ相当の特性が規定されている.
1.4
第 1 章 UPS
と
は
IEC 62040-3 Uninterruptible Power Systems の 5.3 UPS output specification
5.3.1 Steady-state and dynamic output voltage characteristics に特性カーブが
規定されている.IEC 規格の場合,3 種類の特性カーブが示されている.図 1.5,
図 1.6,図 1.7 に示す.限度を示すカーブとして ITI(CBEMA)カーブに近似
の特性(図 1.7)が示されている.他の 2 種類はそれより内側にカーブが規定さ
れており,この特性であれば十分コンピュータの要求する電源変動範囲に入って
いることがわかる.相違点は瞬時の時間に対する特性であり,図 1.5 に示す特性
であれば 0.1 ms であっても電源の変動は±30%以下に制御されているので,コン
ピュータやエレクトロニクス機器に対する電源として全く問題はない.
定常値(電圧〔%〕)
100
80
60
30%
40
20
14%
12%
0
−20
−40
−30%
−60
上限値
10%
+10
−10
11%
−12% −10%
−14%
−11% 下限値
−80
−100
0.1
1
10
過渡時間〔ms〕
100
1 000
図 1.5 出力電圧過渡変動特性 クラス 1 (出典:JEC-2433 2003 無停電電源システム)
図 1.6 に示す特性は 1 ms 以下の領域では±100%の変動があることを示して
おり,ITI(CBEMA)カーブの内側に入っているのでこれも問題がない.図 1.5
で示したカーブより多少特性は悪いことがわかる.
いずれにしても,UPS としては図 1.5 または図 1.6 に示す特性を持ったもの
でなければ十分とはいえない.
図 1.5,図 1.6,図 1.7 の出典は JEC-2433 2003 であるが,これは前記した
IEC 62040-3 の 5.3.1 項に示される特性カーブと同一である.
1.4 UPS の基本機能
100
定常値(電圧〔%〕)
80
60
35%
40
上限値
14%12% 10%
20
0
−20
−35%
−40
−14% 11%
−12%−10%
+10
−10
−11% 下限値
−60
−80
−100
0.1
1
10
100
1 000
過渡時間〔ms〕
図 1.6 出力電圧過渡変動特性 クラス 2 (出典:JEC-2433 2003 無停電電源システム)
定常値(電圧〔%〕)
100
80
60
35%
40
14% 12%
20
上限値
10%
+10
−10
11%
−27%
−20%
−48%
0
−20
−40
下限値
−60
−80
−100
0.1
1
10
100
1 000
過渡時間〔ms〕
図 1.7 出力電圧過渡変動特性 クラス 3 (出典:JEC-2433 2003 無停電電源システム)
1.4 UPS の基本機能
UPS を一つのブラックボックスとして見ると,図
1.8 のように表せる.UPS
1.6
は入力電源の停電,瞬時電圧低下,電圧波形歪みなどの変動に対して安定した交
流電力を負荷に無瞬断で供給するものである.入力電圧が低下して停電しても,
第 1 章 UPS
と
は
入力電圧
停 電
出力電圧
UPS
瞬 低
波形歪み
図 1.8 UPS の基本機能
出力電圧波形は安定した電圧である.入力電圧が 1 サイクル間だけ急に低下して
も,出力電圧波形は安定した電圧を負荷に供給している.また,入力電圧に歪み
が生じても,出力電圧波形は安定している.このように,商用電源の電圧がいろ
いろと変動しても安定な交流電力を供給し続ける機能を有しているのが,UPS
である.
1.2 節で述べたように,商用電源には自然現象により避けることのできない瞬
時停電や,瞬時電圧低下という現象があり,また一方,コンピュータやエレクト
ロニクス機器は 1.3 節で述べたように電源変動に対して非常に敏感である.しか
し,現代社会はコンピュータやエレクトロニクス機器の正常な動作のうえに成り
立っているわけで,避けうることのできない自然現象の都度コンピュータが停止
しているようでは現代の高度情報化社会は成り立たない.
この二つの事象を整合させる機能として UPS が存在する.言ってみれば,商
用電源が不用意な変動をしなければ,UPS は不要なものである.すなわち,一
般社会の目には届かない,「縁の下の力持ち」
,
「保険」なのである.
商用電源の瞬時電圧低下や瞬時停電,また送変電設備や電力の需要家側の設備
に起因する数秒から時によっては数時間に及ぶ停電ばかりではなく,大きな高調
波電流を発生する負荷設備による電源電圧波形の歪みや,非常に短い時間の電圧
波形の切れ込み,その繰返しなどさまざまな電圧波形の乱れもある.
また,商用電源ではほとんど問題にならないが,需要家の設備として有する発
電機設備から給電される場合など,周波数が規定値を外れてしまう場合がある.
1.8
このような場合も電源異常として考えておく必要がある.
UPS は以上のような電源の異常に対し,安定した電力(電圧,波形,周波数)
をコンピュータなどのクリティカル負荷に供給し,誤作動や停止に至らないよう
にするのが一番の基本機能である.
1.4 UPS の基本機能
現在は,このような装置あるいはシステムを UPS(無停電電源システム)と
称しているが,かつては CVCF(Constant Voltage Constant Frequency)装置
と称していた.これは,現在称されている UPS のうちの一部の基本的な機能を
称しているものである.
UPS はその名の示すとおり停電しない電源であり,商用電源が停電した場合
になんらかの蓄積されたエネルギーを,安定した交流電力に変換して連続で負荷
設備に供給するものである.この連続性が基本機能の重要なところであり,これ
をポイントに無停電電源(UPS)と称しているのである.エネルギーの蓄積装
置としては,蓄電池が最も一般的である.
UPS の方式は各種あるが,最も一般的な方式を表すと,図 1.9 のようになる.
いろいろな変動,瞬低,停電などの事象が含まれる商用電源を交流から直流に変
換する整流装置,整流装置の直流出力を安定した交流電源に変換するインバータ
装置,整流装置の直流出力回路はエネルギーを蓄積している蓄電池にも接続され
ている.商用電源が停電すると,整流装置の直流出力は喪失すると同時に直流エ
ネルギーを蓄えている蓄電池から直流電力をインバータ装置に供給し,その直流
電力をインバータ装置で安定した交流電力に変換し負荷へ無停電で供給継続す
る.商用電源の停電ばかりではなく,瞬時電圧低下の事象であっても同様に蓄電
池から直流電力を供給して安定した交流電力を継続して供給し続ける.その状態
を図 1.10 に示す.商用電源が停電して電圧が“0 V”になっても,UPS の出力
電圧は一瞬たりとも停電せずに継続して供給していることがわかる.
交流入力
整流装置
インバータ装置
交流出力
蓄電池
図 1.9 UPS の基本構成
UPS の国際規格である「IEC 62040-3」では整流装置,インバータ装置,エ
ネルギー蓄積装置(蓄電池)から成り立つ基本機能の部位をまとめて,「UPS ユ
ニット」と称している.
第 1 章 UPS
と
は
直流電流
直流電圧
交流出力電圧
交流入力電流
交流出力電流
交流入力電圧
インバータ電流
−100 ms −50 ms
+50 ms
0s
+100 ms
図 1.10 交流入力停電試験
1.5 UPS の主な用途
我々の日常生活は数十年前に比較して非常に便利になっている.例えば,コン
ビニエンスストアが街のいたるところにあり,しかも 24 時間オープンしている.
いつでもどこでもだいたいのものは手に入れることができる.このコンビニエン
スストアは日本中にチェーン店を構築している.
これらのチェーン店の販売状況,
仕入状況などいろいろなデータが毎日の営業の中でデータ転送され分析され,さ
らに次の販売への指示となっている.これらには,どのストアにもデータ処理・
転送などを司る端末機器が設置されており,その電源に小形の UPS が適用され
ている.もちろんデータを集中管理するセンターでは,大形のコンピュータシス
テムとそれを支える UPS が 24 時間稼働している.
また,最近では IC カードを用いた定期券や切符が使われだし,しかも JR や
私鉄各線の相互使用も可能になり,1 枚のカードでどの鉄道路線も乗り降り可能
になっている.これらもコンピュータ,情報通信機器などを駆使したシステムで
あり,こうしたシステムへの安定した電力供給も UPS の仕事である.
最も古くから利用されてきた身近なものに,銀行窓口における自動預け払い機
(ATM)がある.給料の自動振込みが開始され,ATM による銀行口座からの引
き落としが実用化して久しい.また,銀行間での取引も可能である.日曜日も夜
10
1.10
1.5 UPS の主な用途
中でも,まさに 24 時間 365 日の稼働になっており,利便性が増している.これ
らも,データの送受信と計算センターでの 24 時間 365 日の処理が行われて成り
立っている.それらのコンピュータセンターではそれこそ一瞬の電圧低下,停電
も許されないわけであり,大形の高信頼度 UPS が電力供給をサポートしている.
特に最近では,銀行間取引なども多くオンラインで行われるため,万一一つの銀
行での処理不能な事態になると他の銀行にまで波及することになり,さらに重要
性が増している.
グローバリゼーションの大きな波が製造業の形態を大きく変化させている.こ
れも IT(Information Technology)の成果物である.世界中に設置された製造
拠点,販売拠点,調達拠点,大形配送センター等々が材料,部品,製品を必要と
する場所,
時間に必要な数量を供給し製造業をなしている.これらも情報の伝達・
処理を情報通信機器,コンピュータに依存している.しかも,世界中からの情報
をもとにした処理なので,当然 24 時間の稼働である.ここでもやはり UPS が
これら情報処理システムを支えている.
以上のような UPS の使われ方は,電源変動により情報・データが一瞬に喪失
したり異なる情報・データに変化してしまったりすることに対する防止である.
一度喪失したり変化したデータを修復するのには,かなりな時間を要するもので
ある.
他方,UPS は次のようなクリーンルームにも適応されている.例えば,半導
体製造ラインは運用するまでに多くの準備時間を必要とし,運転した後は計画停
止でない限り止められず,万一停止してしまった場合,運転していた製造ライン
上にある製品はすべて使用できなくなってしまうという特徴を有する.このよう
なラインにはクリーンルームが用いられる.クリーンルームを作り出すためには
さまざまな機器が稼働して室内のクリーン度を保つわけであるが,それらの機器
が停止するとクリーン度を維持できなくなり,結局そのクリーンルームで製造さ
れていた製品は製品となりえず,大変な損害になる.ここでの電源にも UPS は
適用されている.クリーンルーム全体に供給する方法と一部の機器に供給する方
法といくつかの方法があるようであるが,いずれにしても停止した場合の被害は
計り知れないものとなる.
次に,社会インフラの面での役割を一部紹介する.日本は中近東など海外から
石油・ガスといった燃料を輸入し,そのエネルギー源で火力発電所を稼働させて
電力を作っている.石油・ガスなどの燃料は精製工場で使用できる状態の燃料に
11
第 1 章 UPS
と
は
加工され,火力発電所に供給される.この精製工場が万一停止し,燃料の供給が
停止すると火力発電所も停止して,百万 kW の火力発電所が一瞬にして電力供
給不可となり,広域大停電を引き起こす可能性がある.こうした燃料精製工場の
計測・制御・監視システムなど神経系統の安定稼働を図るために,やはり UPS
が使用されている.
海外旅行の際に航空機の出発がひどく遅れたことがあった.途中の航路上の
レーダーが故障していて,航空機と航空機の間隔を通常より長くあけて飛行させ
ているためで,人間系の無線で確認しながらの飛行は,このようにしなければ安
全が確保できないのであろう.この海外のレーダーサイトの故障の原因は不明だ
が,このような航空管制にも重要な社会インフラとして UPS は適用されている.
以上,身近なところから,ふだんは我々の目につかない社会インフラ設備まで
いくつかの事例をあげてみた.UPS は幅広く使われ,
その使命も多種多様である.
いずれにしても安定した電力が供給されないことに対して起こりうる利便性の欠
如から,安定した社会生活の破壊などにつながるさまざまな不適合を予防する保
険として UPS は稼働している.特に,社会インフラを支えるべく稼働している
UPS の責務は非常に重い.
1.6 UPS の市場動向
前節で,UPS の主な用途に示したように近年の情報処理産業の急速な伸張と
ともに大容量の UPS システムの需要が伸び,特に 1980 年代後半から 1990 年
代初めにかけて経済の大きな伸張とともに急激に UPS の設備投資が行われた.
しかし,その後のバブル経済の崩壊とともに需要は減少し,多少の変動を繰り返
しながら推移してきた.しかし昨年から大きな伸張を示し,急激な伸びが認めら
れる.1980 年代初めから現在までの日本の UPS メーカーが出荷した 10 kVA 以
上の UPS の容量と台数は,毎年 3 月に電気日々新聞が取りまとめて発表してい
る(図 1.11).近年の半導体産業,液晶製造などへの投資が活発に行われたこと
を背景に,大容量の UPS が半導体産業向けに多数納入されたことも一つの要因
となっている.さらに,超大形のデータセンターへの設備投資の急増も背景にあ
る.また,海外も同様な動向であり,大形 UPS の輸出も増加している.
1 台当たりの平均容量を求めてみると,図 1.12 のようになる.1980 年代前半
は平均容量が年々増加しているが,これは情報化社会の進展やオンライン化の急
12
500 000
450 000
400 000
350 000
300 000
252 000
200 000
150 000
100 000
50 000
0
4 500
4 000
2 500
2 000
台 数
3 000
容量
06
04
20
02
20
00
20
98
20
96
19
94
年
19
92
19
90
19
88
19
86
19
84
19
19
82
1 500
1 000
500
0
19
19
3 500
台数
80
容量〔kVA〕
1.6 UPS の市場動向
図 1.11 国内 UPS メーカーの出荷実績(10 kVA 以上) (出典:電気日々新聞,2007 年 3 月 18 日)
進によるデータセンターの相次ぐ構築等々によるものと思われる.その後,バブ
ル崩壊による設備投資の冷え込みにより大形システムは減少し,平均容量が低下
したものと考えられる.1990 年代中ごろまでは低下傾向にあるが,コンピュー
タのダウンサイジングの傾向にあるものと推定される.しかし,台数が増加して
いることから多くのユーザーがコンピュータシステムを導入すると同時に,電源
の安定化のために UPS を設備してきたものと思われる.一方最近では,平均容
量の増加がうかがえる.半導体,液晶といった製造業への導入とコンピュータが
ダウンサイジングとなっても扱うデータ量の急増により,コンピュータシステム
と周辺装置が急増したため電源容量も必要となり,大容量 UPS システムが多く
160
140
容量〔kVA〕
120
100
80
60
40
2006
2004
2002
2000
1998
1996
1994
1992
1990
1988
1986
1984
1982
0
1980
20
年
図 1.12 10 kVA 以上の UPS 納入実績による 1 台当たりの平均容量の推移
1.11
13
第 1 章 UPS
と
は
設備されてきているといえる.
今後も情報システムや大形半導体製造設備等々の計画がグローバルに展開され
る傾向には変わりはなく,これから情報化社会を迎える国々が今後とも増加する
ことから,さらに国内海外問わず需要は増大するものと思われる.
また,小容量の可搬形の UPS が汎用品ということもあり,さらに手軽に,ま
た広域でのネットワークシステム構築のための端末の電源強化などに広く使わ
れ,拡大の一途をたどっている.
14
第
2
章
UPS の種類と基本動作
1961 年,日本で初めて主回路に電力用半導体素子(サイリスタ)を用いた
UPS が東芝(当時は東京芝浦電気株式会社)で製品化された.これが静止型
UPS の初号機である.この半導体式の UPS が世に出る前は,電動機と発電機を
組み合わせた電気機械式の UPS が使用されていた.半導体式 UPS が製品化さ
れたことにより,それ以前より使用されていた電動機と発電機を組み合わせた
UPS のことを回転型 UPS と称し,半導体式 UPS のことを静止型 UPS と称し
て区別するようになった.
ここでは UPS という言葉を使用しているが,当時は安定した電力を供給する
装置として CVCF(Constant Voltage Constant Frequency:定電圧定周波数電
源装置)という名称が一般的であり,無停電機能より,定電圧,定周波数の安定
した電源という機能が優先した考え方であった.
以下,静止型 UPS と回転型 UPS の事例を紹介して,基本的な動作について
述べる.
2.1 静 止 型 UPS
上記でも述べたように,主回路の電力変換機能に電力用半導体素子を使用して
安定した電力を供給するにあたって,電動機や発電機といった機械要素を有しな
い UPS を静止型と称している.静止型 UPS にも方式がいくつかあり,代表的
な方式について紹介する.
15
第 2 章 UPS の種類と基本動作
2.1.1 ダブルコンバージョン型 UPS
ダブルコンバージョンという名のとおり,電力が交流から直流へ,直流から再
び交流へと 2 回電力が変換されて UPS の基本機能を構成している方式である.
最も一般的な方式であり,使用されている電力用半導体素子が半導体の発展の歴
史とあいまっていくつかの種類があるが,基本的な構成は変わらない.基本的な
ブロック図を図 2.1 に示す.
交流入力
整流装置
インバータ
交流出力
蓄電池
図 2.1 ダブルコンバージョン型 UPS
図 2.1 において,通常の一般商用電源である交流から直流に電力を変換する部
分は,順変換装置,整流装置,整流回路,整流器,コンバータといった言葉がい
ろいろに使用されている.コンバータという言葉は変換装置,変換回路全体を称
する言葉であるので,この交流-直流変換部分を称してコンバータというのは適
切ではない.しかし,UPS の範疇では一般的に用いられているのも確かである.
商用交流電力を整流装置で直流電力に変換し,その直流電力を安定した交流電
力に変換するのが,逆変換装置,インバータ,逆変換回路等々と称されている電
力変換部分である.こちらは,整流器のような多くの呼び名はなく上記した程度
の呼称である.
この二つの電力変換回路で基本構成が成り立っているところから,ダブルコン
バージョン型と称されている.途中に直流電力を介在させているためインバータ
で必要とする周波数の交流電力に変換すれば,
周波数変換装置として動作できる.
例えば,50 Hz の商用交流電力から 60 Hz の交流電力への変換あるいは逆の使い
方,さらには商用周波数の交流電力を 400 Hz といった周波数の高い交流電力へ
の変換が可能である.
しかし,この基本構成のままでは UPS としては成り立たず,商用電源が停電
すればインバータの出力も停電してしまう.停電してもインバータから交流電力
を出力させるために,整流装置の出力である直流回路にエネルギー蓄積装置であ
る蓄電池を接続することにより実現できる.
商用交流入力電源が正常なときには整流装置の出力直流電力が蓄電池を常時充
16
2.1
2.1 静 止 型 UPS
電している.
万一商用交流電力が停電すると,
いままで充電されて直流エネルギー
として蓄えられていた電力を放電し,インバータに電力を供給することになる.
インバータは蓄電池からの直流エネルギーを交流に変換して,負荷に対して安定
した交流電力を無瞬断で供給し続ける.電力の流れを図 2.2(a),
(b)に示す.
整流装置
交流入力
インバータ
交流出力
負荷へ
蓄電池への充電
交流入力 整流装置
インバータ
停電
蓄電池
負荷へ
蓄電池
( a )通常運転時
交流出力
蓄電池から放電
( b )蓄電池運転時
図 2.2 ダブルコンバージョン型 UPS の電力の流れ
商用交流入力電源にはいろいろな外乱が重畳する.最も大きな外乱は停電であ
り,その他定常的な電圧低下,瞬時電圧低下,非常に短時間の電圧波形の切れ込
み(dip:ディップ)
,非常に短時間の電圧波形の跳ね上がり(surge:サージ,
あるいは,spike:スパイク)
,電圧波形歪みなどがある.これらの変動に対して,
UPS は蓄電池の直流エネルギーをインバータを介して安定した無瞬断の交流電
力に変換してクリティカル負荷に供給する.商用交流入力電力が正常な範囲であ
れば,蓄電池を充電しながらインバータで安定した交流電力を出力する.商用交
流電力の波形の乱れの事例を図 2.3 に示す.この波形は,実際に系統電圧が瞬時
電圧低下した際に波形記録機能を有した UPS の IC メモリカード(5.4 節「波形
記憶機能」参照)に記録された波形である.交流入力電圧が数サイクル電圧低下
している様子がわかる.また,この瞬時電圧低下に対して UPS の整流装置が停
止して,インバータは蓄電池により給電継続をしていたことが記録されている.
IEC の UPS 規格では,この「整流装置+インバータ+蓄電池」で構成されて
いるブロックを UPS ユニットと称している.
蓄電池については直流エネルギーを蓄えておくもの,あるいは直流エネルギー
を発電するものであればよく,例えばフライホイール,燃料電池,電気二重層コ
ンデンサなどがある.しかし,扱いやすく長く使用されてきた歴史のある蓄電池
2.2
が最も一般的に使用されている.(なお本書では,直流エネルギー蓄積装置とし
17
第 2 章 UPS の種類と基本動作
瞬時電圧低下による交流入力電圧波形の歪み
入力電圧(U−V 間)入力電圧(V−W 間)
入力電圧(W−U 間)
コンバータ電流(U 相) コンバータ電流(V 相) コンバータ電流(W 相)
整流装置が停止し蓄電池運転に切り換っている
インバータ電圧(U 相)インバータ電圧(V 相) インバータ電圧(W 相)
インバータは運転継続している
図 2.3 瞬時電圧低下による交流入力電圧波形の歪みの事例
ては一般的な蓄電池として進める.蓄電池以外の直流エネルギー蓄積装置を想定
する場合は蓄電池を読み替えて利用願いたい.
)
その他のパワーエレクトロニクス応用機器の直流電圧はその機器の目的に合わ
せた選択ができる自由度があるが,UPS は無停電化の重要機能を蓄電池に負っ
ているため,整流器とインバータの間をつなぐ直流リンクの電圧は使用する蓄電
池の選定に大きく影響される.また,蓄電池の充電方法によっても主回路構成に
いくつかの方法が派生する.
図 2.4 はいままで述べてきた回路構成と同じである.蓄電池は整流器の直流出
力に直接接続されており,直流電圧は蓄電池の浮動電圧に設定されている.直流
電圧は整流器で制御されている.この場合には,整流器は直流電圧・電流を制
御できるサイリスタ整流器や高周波 PWM 制御整流器が適用される.近年では,
ほとんどが高周波 PWM 制御整流器が主流である.ヨーロッパや北米のメーカー
の UPS は,ほとんどがサイリスタ整流器を用いている.サイリスタ整流器は,
6 相サイリスタ整流器あるいは 12 相サイリスタ整流器が用いられている.
交流入力
整流装置
蓄電池
交流出力
インバータ
整流装置制御回路
2.3
図 2.4 蓄電池直結型 UPS
18
2.1 静 止 型 UPS
図 2.5 は蓄電池を充電する回路(充電器)が UPS と別になっており,UPS は
交流入力電源が停電したときに蓄電池から直流電源を供給されるだけの機能を
持っている.そのための DC スイッチが設けられている.この方式は,火力・原
子力発電所などに代表されるプラントに共通の大容量蓄電池を持っているシステ
ムに主に適用される.また,IGBT など高速スイッチングが可能な電力用半導体
素子が実用化される以前に,整流器がダイオードやサイリスタで構成されていた
方式の UPS に適用されていた.大容量 UPS で停電保証時間が数時間に及ぶよ
うな無停電電源を構築しようとすると,図 2.4 で示した浮動充電方式の整流器は
負荷電流のみならず大きな充電電流も供給しなくてはならなくなる.そのような
場合に,図 2.5 に示した別置充電器を用いた DC スイッチ方式が採用される.
交流入力
整流装置
インバータ
交流出力
DC スイッチ
交流入力
別置充電器
蓄電池
図 2.5 ダブルコンバージョン型 UPS
(蓄電池分離形充電方式)
DC スイッチとしては,単純にダイオードだけのもの,サイリスタスイッチを
用いたもの,サイリスタスイッチで遮断機能を併せ持ったものなどがある.
ダイオードだけの DC スイッチは,整流器の出力直流電圧が蓄電池電圧より高
くなるように設定されている.交流入力電圧が停電や瞬時電圧低下で電圧が低下
すると,整流器の直流出力電圧が蓄電池電圧より低下して蓄電池に蓄えられた直
流電力がインバータに供給される.逆に,交流入力電圧が正常範囲に復帰してく
ると DC スイッチのダイオードには逆電圧(逆バイアス)がかかり,インバータ
に供給していた直流電流が停止して元の状態,
交流→直流→交流変換に復帰する.
DC スイッチがダイオードの場合を図 2.6 に示す.
DC スイッチにサイリスタスイッチを用いた方式を図 2.7 に示す.サイリスタ
スイッチ方式の場合は,UPS の商用交流入力電圧を監視する電圧低下検出回路
が設けられる.入力電圧が低下したことを検出してサイリスタのゲートに点弧指
19
第 2 章 UPS の種類と基本動作
整流装置
交流入力
インバータ
交流出力
ダイオード式
DC スイッチ
交流入力
別置充電器
蓄電池
図 2.6 ダブルコンバージョン型 UPS
(ダイオード式 DC スイッチ蓄電池分離形充電方式)
交流入力
整流装置
停電検出回路
交流入力 別置充電器
インバータ
交流出力
サイリスタ式
DC スイッチ
蓄電池
図 2.7 ダブルコンバージョン型 UPS
(サイリスタ式 DC スイッチ蓄電池分離形充電方式)
令を与えてサイリスタを導通させ,蓄電池の直流エネルギーをインバータを介し
て負荷に連続供給する.UPS の商用交流入力電圧が正常範囲に復電してきたこ
とを確認して,サイリスタをオフさせる転流回路を動作させ,蓄電池からの直流
電力を遮断して元の状態に復帰する.
インバータの出力電圧がそのまま UPS の出力電圧になるようにし,UPS の出
力電圧を規定値にするためのインバータ変圧器を持たない主回路構成,すなわち
トランスレス方式の UPS の場合,インバータ入力の直流電圧は相当高くする必
要がある.また,小容量の可搬形汎用 UPS の場合には,できるだけ蓄電池の個
数を減らして小形化したいという要求を満たすため蓄電池を減らし,その代わり
2.6
に蓄電池と整流器出力直流電源との間に昇圧チョッパを挿入して蓄電池電圧を必
要とする直流電圧に制御する方法が採用されることがある(図 2.8)
.蓄電池が
放電する際には昇圧チョッパで蓄電池電圧を昇圧し,充電するには別の小形充電
器で充電する.
この昇圧チョッパを昇降圧チョッパとして充電する際は整流器出力電圧を降圧
20
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