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Vol.1 Mar. 2014

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Vol.1 Mar. 2014
ISSN 2188-6393
常磐大学大学院
常磐大学大学院学術論究
Scientific Journal of Tokiwa University Graduate School
創刊号 Vol. 1 Mar. 2014
『常磐大学大学院学術論究』創刊にあたって
このたび常磐大学大学院のための新たな学術雑誌として『常磐大学大学院学術論究』が創刊され
ることになった。本学大学院の学術雑誌は、1993年から刊行されてきた『人間科学論究』
、そして、
2007年に創刊され、主に大学院修士課程在籍者ならびに修了者の研究を紹介する『常磐研究紀要』の
2 種類が発行されてきた。それぞれの学術雑誌が本学大学院における研究の発展に果たしてきた役
割は極めて大きかったと確信している。
しかし、博士課程と修士課程のそれぞれの学術雑誌を発行したため、相対的に各雑誌に掲載され
る論文数が少なくなった。また、修士と博士の院生や研究者の間で、研究を介した議論が難しくなっ
た。さらにまた、2013年度に被害者学研究科の博士課程(後期)が設立されたことで、学術雑誌の
さらなる充実が求められた。そのような理由で、本学大学院の三つの研究科、すなわち、人間科学
研究科、被害者学研究科、コミュニティ振興学研究科における研究活動のさらなる発展を期待して、
「人間科学論究」と「常磐研究紀要」を一本化し、現在の本学大学院の実情に即した学術雑誌を発行
することになった。それが、今回創刊される『常磐大学大学院学術論究』である。
本学の三つの研究科の教育と研究は、それぞれ独自の理念と特徴を持つ。しかし、人間を対象に
して、人間にかかわる問題を明らかにし、それらの問題の解決に向けて教育と研究を行うという点
で、三つの研究科の目標は共通している。ここに『常磐大学大学院学術論究』の存在意義があると思
われる。
今後、『常磐大学大学院学術論究』によって、三つの研究科の大学院生ならびに教員、さらに本学
大学院にかかわる研究者の方々の研究活動がさらに発展することを期待したい。常磐大学大学院編
集委員会としては、産声をあげたばかりの『常磐大学大学院学術論究』の発展に関係諸氏の積極的な
御支援を期待する。
常磐大学大学院学術論究編集委員会
委員長 森 山 哲 美
目 次
研究ノート
・オーグレン著「刑法29章 5 条における衡平理由について」を読む………………… 坂 田 仁
1
原著論文
・刻印刺激と餌の並立強化スケジュールと同時選択場面での
ニワトリヒナの選択反応にもたらす餌摂取可能機会設定の効果……………… 長谷川 福 子
15
・CMCとFtFにおける大学生の言語行動に対する行動分析学的検討
………………………… 竹 内 友紀子,森 山 哲 美
35
・リサージェンス指標の検討を含めたハトにおける強化履歴
ならびに他行動の出現傾向とリサージェンスの関係……… 小 幡 知 史,森 山 哲 美
51
研究レビュー
・人間の攻撃行動を説明するための行動随伴性…………………… 佐久間 崇,森 山 哲 美
67
付 録
常磐大学大学院人間科学研究科博士課程(後期)学事記録……………………………………………………付− 1
常磐大学大学院人間科学研究科修士課程学事記録……………………………………………………………付− 2
常磐大学大学院被害者学研究科修士課程学事記録……………………………………………………………付− 2
常磐大学大学院コミュニティ振興学研究科修士課程学事記録………………………………………………付− 2
常磐大学大学院人間科学研究科修士課程修了者修士論文要旨………………………………………………付− 3
常磐大学大学院被害者学研究科修士課程修了者修士論文要旨………………………………………………付−12
常磐大学大学院コミュニティ振興学研究科修士課程修了者修士論文要旨…………………………………付−17
常磐大学大学院学術論究発行規程………………………………………………………………………………付−22
常磐大学大学院学術論究学術雑誌執筆要綱……………………………………………………………………付−25
常磐大学大学院学術論究学術雑誌執筆要綱(英文)
… …………………………………………………………付−33
常磐大学大学院学術論究 創刊号 2014.3
Scientific Journal of Tokiwa University Graduate School
No.1 Mar. 2014
研究ノート
オーグレン著
「刑法29章 5 条における衡平理由について」を読む
1)
坂 田 仁
2013年 7 月13日受付,2013年10月14日受理
Abstract:The present paper is a review of a new book, Billighetsskälen i BrB 29: 5 by Jack Ågren,
published in 2013. The Swedish criminal law has some rules concerning so called Billighetsskälen <the
equity reason> . It consists of serious bodily injury, recovery of damage etc., surrender, banishment
etc.,
dismissal from job etc.,
aging or sickness,
time elapsed unexpectedly long after crime, and
other similar important factors which would result in mitigation of punishment, each on account of his
crime on a defendant himself, and humanity in criminal sentencing. In the Swedish criminal proceeding
these factors are seriously considered, and there are many judicial precedents concerning them. Ågren
analyzed the equity reason in detail by referring to such precedents. On the contrary Japanese criminal
law has not the judicial thinking of the equity reason as such. We only have the discretional extenuation
which gives the deciding court a wide power to extenuate punishment for a defendant. The paper contains
some critical statements on this point.
Key words:Sweden, Equity reason, Criminal Law, Humanity, Criminal sanction
一章・序論、二章・一般的な刑の減軽から刑法
序
29章 5 条の適用へ、三章・法理論的出発点、四
私はかねてスウェーデンの制裁制度に関心をも
章・刑法29章 5 条における衡平理由――個々の事
ちこれまで研究を続けてきた。そして、2012年に
由とその立法理由、五章・衡平理由と制裁の量
スウェーデン刑法における制裁の量定に関する論
定、及び六章・総括。
文を本誌の前身である「人間科学論究」に寄稿し
その冒頭に衡平(Billighet)という語が古い語
ている。今回の論文は、この研究の流れの中で、
で、 今の時代に合わず、skälighetsskäl(理由が
特にいわゆる「衡平事由」に関する最新の研究書
あるという理由)、rimlighetsskäl(合理性理由)、
であるオーグレンの著書(Ågren 2013)を取上
rättsfärdighetsskäl(正義理由)の語も用いられ
げ、書評の形をとって研究ノートにまとめたもの
ているということが引用されている2。
である。
序論では、本書において扱われる主題と研究の
概観が示される。現刑法29章 5 条制定の背景、同
第一 本書の主題
条に規定する衡平理由の要点、関連用語の略解、
本書は、オーグレンによるスウェーデン刑法29
恩赦との関係、本書による研究の目的、研究の方
章 5 条に定める衡平事由を主題とした博士論文に
法・資料・限定、先行研究、本書の構成及び北欧
1
基づく著書である 。本書は、その目次から下記
諸国の状況が述べられている。ここでは、現刑法
のような構成をとっている。
29章 5 条3を新設した1988年の刑法改正と同条が
1 )Jin Sakata:常磐大学名誉教授
−−
坂 田 仁
新設された経緯、即ち、六二刑法の基礎にあった
の理由は刑法の適用の統一性を確保することであ
予防理論が、一般予防及び特別予防ともども否定
る8。
され、刑罰価値の概念が導入されたこと、そして
刑の減軽に関する制度の歴史をたどる上で法と
これに伴い刑の減軽理由としてこれらの規定が設
衡平の対立に出会う。古くはアリストテレスに始
けられたことが述べられている4。更に、用語の
まり、英国のコモンローとエクィティ、法の客観
問題として、衡平理由の実務上の意味合いが制裁
的側面と主観的側面等様々な考え方が参照されて
の選択及び刑の量定において判決の内容を緩和す
いる。
るところにあること、苦痛の語を広く解釈するこ
著者は中世スウェーデンより刑法の歴史をここ
と及び行為者の語を法律の規定に関わらず 1 語に
で描写している。教会法のタリオやカール11世に
5
特定することを断っている 。これらに加え、衡
よるモーゼの十戒の実定法化が述べられ、特に17
平理由と恩赦との関係に触れている。恩赦は、判
世紀に創設されたレウテラシオンの制度が参照
決後の事情又は判決時に考慮できなかったか又は
されている。これは、スヴェア高等裁判所の創設
考慮すべきでなかった事情によるとの、立法資料
とともに成立したもので、高等裁判所がその裁
からの引用がなされている。これに対して衡平理
量(衡平の考慮)により刑を減軽する事情があれ
由は被告人の個人的事情および犯行後の被告人の
ば下級裁判所の判決を変更することを意味して
行動に基づいた刑罰価値の評価に関わる(SOU
いる9。1734年法10制定以降もこの状況に変化はな
1987/88: 120, s.89)。
く、特に死刑に関する判決は下級裁判所から上級
裁判所に再審理のため送付されていた11。
著者は、本書の目的を、実務的問題を提供して
容易な制度適用を図る観点から、① 5 条規定の 8
1864年の刑法典(旧刑法)は、1734年法の中の
個の事情を解説し、②これらの事情の調査が必要
罪に関する法典と刑に関する法典を廃止して成立
とされる理論的及び政策的理由を検討し、そし
した近代的な刑法典であるが、その法律案には、
て、③これらの事情の制裁選択上の意義を検討す
自首、自認のほか、長期間の身柄拘束、年齢、身
るとしている。特に、刑罰価値及び再犯と衡平理
体の状況、被告人の職業・資産などが刑を減軽す
由との関係に注意を払うとしている。これらを、
る場合として考慮されていたという12。そして、
立法資料、判例及び学説の 3 つの側面から検討し
制定当初の旧刑法では、その 5 章に刑を減軽する
て、29章 5 条に掲げる諸事由の限界の中で、制度
場合を一括して規定する方法がとられている。
の将来を見通した結論を得ることを著者は意図し
旧刑法から六二刑法への展開に関して、チュ
ている。ここには、比較法的検討も当然に含まれ
レーンとシュリィターの相違が述べられている。
る。
チュレーンは直接リストの教えを受けた学者で、
後に法務大臣を務め、抑留(保安拘禁)、日数罰
第二 いわゆる衡平事由
金及び少年拘禁の制度化に関わっており、シュ
第 2 章において著者は、刑の一般的な減軽事由
リィターは、チュレーンの死後その跡をついだ、
と衡平理由との相違と、前者から後者への変化に
同じく法務大臣を務めた実務家である。シュリィ
ついて述べている。刑の減軽は以前より存在して
ターの名はその保護法案とともに知られている。
いた制度であるが、それは構造化されておらず、
政治家として前者は保守派、後者は革新派であ
6
現刑法において初めて構造化され 、個々の減軽
る。しかし、刑事政策の面では両者は、個別予防
7
事由が法律に定められるようになった 。これら
理論に立ち、いわゆる単線方式を是とし13、後の
の事由は、刑罰価値による刑(制裁)が決定され
刑法調査会の作業、いわゆる処遇理論の推進者で
た後にこれを評価することが定められている。そ
あった。
−−
オーグレン著「刑法29章 5 条における衡平理由について」を読む
旧刑法から六二刑法に至る過程で刑の減軽に関
半分を占めている。ここでは、現刑法29章 5 条に
して検討された事項が詳細に紹介されている。刑
掲げる事由が個別的に詳細に論じられている。同
法調査会が1948年に提出した答申では、①結果が
条に掲げられる 7 個の事情は、それぞれ個別的に
極めて軽微、②行為が若さや洞察力、経験及び
意味を持ち、統一的、組織的に整理されているも
判断の不足による、③その行為が罪となるのを知
のではない。これは上述した法改正の經過からも
らなかった、④挑発行為による、⑤行為者が行為
窺えることである。しかし、同時にこれらの事情
の有害な結果を防止又は回復している、⑥行為者
は悉皆的で、例示ではなく、これ以外の事情は原
が高齢であるか、病気であるか又は行為によっ
則として考慮されない。 8 号に規定される事由
て損傷を受けている、⑦その罪について公訴を
も、一般的規定に見えはするが 7 号までの事情と
提起できる時間が完了する直前、の 7 個の事由
同一の意義をもつもののみが適用され、それ以外
14
が規定されている 。これらは個別予防理念ある
の場合は排除される。
いは人間性理念から構想されているが、現刑法
著者は 7 個の事情(本稿注 3 参照)を 4 つに分
29章 5 条の掲げる事由と似通っているとされる。
類する。①犯人の窮状、②犯人の責任引受、③制
しかし、この部分は保護法草案10章(SOU 1956:
裁の累積、及び④その他である。そして、これら
55, ss.464f.)では一般的な規定に変更されており、
を裁判例を参照しつつ、いわゆる刑罰価値にした
六二刑法でも個別的な事由は規定されず、一般的
がって量定された刑又は制裁の量を具体的にどの
に刑を減軽する場合について規定された(六二刑
程度減殺すべきかを、著者は示すことを意図して
法33章参照)
。また、これらの規定は、当時は個
いる。ここでの根本仮説は、裁判所が判決に際
別予防的観点からの措置として考えられており、
して謙抑的であるべしということである(Ågren
現刑法にみられるような衡平理由としては考えら
2013, s.96.)。謙抑主義の重要性を強調しつつ、そ
れていなかった。
の諸説15のいずれを是とするかには直接触れるこ
本書の第 3 章は理論的検討にあてられている。
となく、著者は、個々の事件での制裁の量定に
著者は、始めに概念の整理を行い、次いで刑法体
おいて謙抑原理を働かせることが必要であるとす
系の基本的な理由(motiv、動機)を論じ、最後
る。これを前提に、著者は29章 5 条の掲げる事由
に刑法体系のその他の側面に論じている。論点
の個別的な検討に入る。
第 1 は、被告人が罪の結果として深刻な身体的
は、理論とイデオロギー(事実的には理論、規範
的にはイデオロギーを考える)、法規範のとらえ
損害を蒙つたか、ということである。
方(法体系に属する規範であり、形式的又は実質
深刻な身体的損害であるためには、その損害が
的の区別と法規則と法原理の区別を考える)、刑
持続的でなければならない。警官の発砲で負傷し
のイデオロギー(刑の正当化と刑の目的)、刑の
た犯人の場合、身体的損害が事件後軽快した場合
イデオロギーの方向(予防、復讐、コミュニケー
はここには含まれない(Ågren 2013, s.104)。精
ション、人間性)、法的安定性(法定主義、予見
神的な損害は含まれない。
性、処遇の平等)の各概念について論じている
これらの事由は制裁の量定に際して大きい意味
が、本稿では紹介を省略する。
をもつ。しかし、犯罪類型との関係を体系的に示
すことはできない。例として、赤信号を無視の無
第三 刑法29章 5 条
謀行為(vårdslöshet i trafik)を犯した歩行者が
本書の第 4 章において、著者は本論に入る。現
事故にあい深刻な傷害を蒙った事件でこの事由が
刑法29章 5 条の掲げる各事由の検討である。この
適用されて、制裁の放棄の判決を受けている。ま
章は、全体で210頁余りで、本書(約400頁)の約
た、自分自身と妻および子に可燃性の液体を浴び
−−
坂 田 仁
せた事件で、この事由が適用されて、本来終身拘
がその手段である。これに関連して、被害者の心
禁に値する事件で12年の拘禁が選択されている。
の動き、悔いの真実性、悔いの生じる時期などが
その他多数の事例を紹介した後、著者はこの規定
論じられる。
の背後にあるイデオロギーと法政策に触れてい
第 3 に「罪の有害な作用を防ぎ、除去し、又は
る。著者は、それを人間性(humanitet)にある
限定」することの内容が論じられる。具体的にど
とする。苦痛を受けている人はその原因が何であ
のような行為がこの事由に該当するか、様々な例
れ救済の対象となるということである。これを著
があげられる。傷害事件で救急車を呼ぶ行為はこ
者は数頁にわたって縷々と述べている。
こに含まれるが、相手の傷の血を拭き取ることは
第 2 は、被告人がその能力に応じて罪の有害な
どうかなど。また、ここに使用されている 3 個の
作用を防ぎ、除去し、又は限定しようとしたか、
動詞の相違をどこに求めかが論じられている。防
ということである。
止(防ぐ)はプロアクティブ(proaktivitet)で、
まず、被告人の能力に応じた行為でなくてはな
除去と限定はリアクティブ(reaktivitet)である
らない。 2 号の事由が存在する場合には、拘禁よ
等。著者は、 3 個の動詞の区別よりもそれらをひ
りは条件付判決又は保護観察が優先して選択され
とつにまとめて損害対処<(skade)motverka>
る。規定の文言からは「自らの能力に応じて」有
と考えたいとする(Ågren 2013, ss.130f.)。様々
害な作用を防ぐ等の行為を行うことが要件になっ
な例が多数の判例の引用により紹介されている。
ている。即ち、行為者の積極的な行動が期待さ
第 3 は、被告人が自首したか、ということであ
れている。薬物の提出、盗品の返還、刑事損害賠
る。
償の自発的支払い、偽証罪の後の真実の報告、被
自首は自分の罪について自発的に行うもので、
害者への謝罪等の行動である。しかし、この行為
未発覚の罪であれば、他の罪で逮捕後であっても
と犯罪との間の經過時間及び防止行為等の内容
成立する。関連する判例が引用されている。著者
(質)が問題とされる。損害の経済的回復につい
の記述によると、これによる減軽の割合は25ない
ては行為者の資力を考慮に入れた解釈が必要とさ
し30%になっているようである。薬物犯罪につい
れる。単に金を払えばよいのではない。これらの
て、捜査と公判の中で薬物の授受のための旅行の
条件は事件ごとに相対的に判断される。関連する
行程を詳細に述べた場合にこの事由に当たるか否
多数の判例が参照されている。減軽の程度は、能
かが問題にされている。
第 4 は、被告人がその罪の結果国外退去にな
力と防止等への関与の程度で決まる。
次に自発的な行為でなくてはならない。自発的
る こ と に よ り 苦 痛 を 受 け る こ と に な る か、 と
とは自らのイニシャティブで防止活動等を行うこ
いうことである。 この規定はもとは外国人法
とである。これには「悔い(ånger)」がともなわ
(Utlänningslag, SFS 1954 : 193)に 規 定 さ れ て
なくてはならい(Ågren 2013, ss. 122ff.)。発覚の
いた事項16と関係があり、 犯罪により国外退去
恐れや刑の軽減の期待がその裏にあってもよい。
(SFS 1980: 376 40§)になった場合の制裁の累積
未遂、予備及び予謀の際の中止犯の場合はこれに
が考慮されている。1980年の改正では、国外退去
似るが、中止犯では悔いは必要とされない。ま
は犯罪に対する制裁ではなく、没収などと同様な
た、刑事損害賠償の完済もここで問題になるが、
犯罪の効果(刑法36章参照、日本の付加刑に似
罪に対する深い悔いが示されなければならない。
る。)とされており17、制裁と併科されても制裁の
悔いの問題は、いわゆる修復的司法とも関わりを
累積にはならない。第 4 の事由は、この処分を苦
もつと著者は述べている。経済犯罪では補償、器
痛ととらえて刑の減軽を行おうとしているのであ
物損壊犯では修理、人身犯では調停(medling)
る。
−−
オーグレン著「刑法29章 5 条における衡平理由について」を読む
現刑法を成立させた1989年の刑法改正の際、当
この事由は、職業又は企業活動の禁止を主たる
時の外国人法40条 4 項は、現刑法に移されて、29
内容とし、 2 個の類型がある。類型 1 は、1975年
章 5 条の 4 号になったが、この際行われたのは規
の法改正で導入された規定(刑法33章 9 条)が現
定の位置の移動のみで、内容的な改正はなされ
刑法の成立時に刑法29章 5 条に移されたもので、
なかった。つまり、第 4 の事由は、罪に対する制
解雇22によって生じた苦痛を理由に刑を減軽する
裁ではなく、制裁の量定の際の検討事項(衡平理
というものである。この場合には刑法38章 2 条の
由)となったのである(Prop 1987/88: 120, s.92.
2 に特別な規定があり、裁判所は被告人が罪の結
Ågren 2013, ss.161.)。
果就職先から解雇されるか否かを、制裁の量定に
この衡平事由は、外国人だけに適用される。そ
際して特に考慮しなければならず、その上この面
18
のため外国人のスウェーデンとの関係 が問題と
で判決の基礎となった前提が誤っていた場合は、
される。スウェーデンとの関係の薄い者を救う理
検察官又は対象者の申請をまって、事件において
由は何もないからである。スウェーデンにおける
最初に判決した裁判所は、宣告した判決を取消し
犯罪継続の可能性、スウェーデンとの結びつきと
て右の罪について新たな制裁を判決することがで
生活状況、特に子供との関係が重視される(児童
きるとされている。類型 2 は、職業又は企業経営
19
20
の最善 )
。もう一つの問題は、これと亡命 との
上の明白な困難である。例としては運転免許の
関係である。更に、スウェーデンに永住許可を得
取消、営業許可の取消などである(Ågren 2013,
て 4 年以上生活している者の場合は、正当な理
s.185.)。就職先における配置転換や減給は、この
21
由 がなければ国外退去の処分を受けることはな
事由ではなく後述の第 8 の事由にあたるとされ
い。
る。
国外退去処分の破棄は、その決定が確定した
更に類型の 1 について、雇用契約に関する欧州
後に特別な理由(särskilt skäl)があれば、政府、
人権条約との関係も指摘され、相当困難な問題が
移民裁判所又は通常裁判所がこれを行う(外国
存在するように、本書の記述から推測される。い
人法 8 章14条)
。例えば、退去後母国において死
わゆる刑事訴訟事件における無罪推定は必ずしも
刑判決を受ける危険等があれば、この廃棄の処
雇用関係における事実認定に直接影響するのでは
分がなされる(Ågren 2013, ss. 176.)。処分確定
なく、労働訴訟では責任なしと判断されないこと
後に更に処分を重くすることはできない(Ågren
もあるようである(Ågren 2013, ss.186ff.)。この
2013, ss.177.)
。その他、苦痛の意味内容、再入国
事由の中核は判決の結果が被告人の職業生活上苦
の禁止など詳細な記述がある。
痛を与えることにあるので、苦痛の内容が問われ
第 5 は、被告人がその罪の結果勤務先から解雇
る。これには、事実上の苦痛又は労働法上の制裁
されもしくは解雇を通告されることにより又は職
が刑の減軽の根拠になるという二面が存在する
業もしくは事業上のその他の阻害要因もしくは明
(Ågren 2013, ss.196ff.)。
白な困難により害されるか、又は、同じことによ
類型の 2 、解雇以外の「職業もしくは事業上の
り害されることになると仮定できる根拠のある事
その他の阻害要因もしくは明白な困難」に関して
由が存在するか、ということである。
は、阻害要因及び明白な困難のそれぞれの具体的
この事由は第 4 の事由と共通性をもつが、外国
内容が問われる。著者は、この 2 つの区別に重き
人に限らず、すべての被告人に生じる苦痛に基づ
をおかず、両者を統一的に解釈し、上記の自動車
いている。この苦痛は、被告人の置かれる社会的
運転免許の取消の他弁護士会からの除名、医師免
な状況に関わっており、第 4 の事由のように法律
許の取消など職業上重要な処分を、刑の減軽の根
的なものに限られない(Ågren 2013, ss.184.)。
拠として考えている。以下、この事由に関する詳
−−
坂 田 仁
細な議論が展開されるが、本稿では省略したい。
に対応する高等裁判所の 2 個の判例を引用して
この事由を根拠付けているものは、いわゆる二重
い る(Ågren 2013, ss.223f.)。 勿 論、 こ れ は 高
処罰の回避と人間性とである。
齢だけを理由とする刑の減軽を排除するもので
第 6 は、被告人が高齢又は健康の不良の結果そ
はない(Ågren 2013, s.225.)24。ここに、73歳の
の犯罪価値に従って量定された刑罰により理由な
男性が 8 歳の女子を強姦した事件の判例(NJA
く厳しく害されるか、ということである。
1993, ss.310ff.)が引用されている。判決は、減軽
高齢被告人と病気に罹っている被告人のうける
後法定刑の下限を 1 年下回る 3 年の拘禁であった
受刑による苦痛を避けることが、この事由の趣旨
(Ågren 2013, s.226.)。
である。法文には高齢というのみで特定年齢の指
B.健康事件
示はない。また、病気についても特定されていな
肢体不自由、視力減退、生命に関わる深刻な
い。 1 月ないし数ヶ月以上の拘禁が減軽の対象と
疾病の結果受刑により被告人が「理由なく厳し
おり、それにより「理由なく厳しく」害されるこ
く」害される場合がこれにあたる。著者によると
とが要件になっている。(Ågren 2013, ss.218f.)。
この場合の解釈は裁判所により様々で、基準がど
この事由には歴史があり、旧刑法はその 5 章 4 条
こにあるか不明確であるという。その全体的表現
23
に同趣旨の規定を有していた 。著者は、この事
は「身体的心理的機能低下(fysisk och psykisk
由を年齢事件と健康事件に分けて説明している
funktionsnedsättning)」(Ågren 2013, s.231.)で
ある25。17歳の少年が12歳の少女と性関係を結ん
(Ågren 2013, s.220.)。
A.年齢事件
だ事件について最高裁判所が強姦の事実を認定
適用年齢については年金支給開始年齢の65歳が
し、更に制裁の量定にあたって、精神鑑定の結果
一つの基準になるが平均余命の高年齢化にてらし
を援用して本事由及び第 8 の事由を適用した事例
て65歳以上への引上げも検討可能である一方、年
(Ågren 2013, s.232.)など多数の裁判例が引用さ
金支給年齢の特別な事情による引下可能な61歳も
れている。そして、被告人の現在の健康状態を判
あり得る。暦年を基準にせず身体的又は精神的能
断し、次いで被告人が受刑によってどの程度害さ
力から老齢化している点を重視することも可能と
れるかを判断するという 2 段階の手順が示される
する。立法過程からは、年金支給開始年齢、65歳
(Ågren 2013, s.233.)。
第 7 は、罪の種類との関連で尋常でない期間が
が基準とされている(SOU 1987/88: 120, s.95.)。
この他、性別、居住地域別、教育水準別等基準決
罪の実行以来経過しているか、ということであ
定のための検討事情が述べられている。立法論的
る。拘禁刑委員会の改正草案は、この事由を制裁
には、人口学的にみて暦年にたよる判断は将来後
選択の際の考慮事由とし、刑の量定の考慮事由と
退し、老化の実質的な判断がそれに変り、同時に
はしていない(Ågren 2013, s.245.)26。
罪の深刻さと年齢との関係も重視すべきだと著者
期間の計算は、犯罪の時を始期とするが、その
はみている(Ågren 2013, ss.221f.)。
終期は、捜査開始通知の時と公訴提起通知の時、
「理由なく厳しく」害されることについて、著
最終審の終局判決の時の 3 つの解釈がある。判例
者は、高年齢と苦痛の間に因果関係を求めてい
は犯罪の時から終審の終局判決までの期間の長さ
る。それは、深刻な病いと苦痛の間に因果関係
を問題としている(Ågren 2013, s.248.)。この期
が要求されるのと同じである。高齢化の場合に
間の長さは罪種と相対的な関係があり、事件ごと
は常に健康問題が伴うので、まず年齢について、
に異なり、その定め方に一定の基準はない。
次いで健康問題を考え、両者を総合して刑の減
この事由と時効期間とは深い関わりがあり、児
軽を考えるべきであると著者はみており、これ
童に対する性犯罪では時効期間の始期が児童の18
−−
オーグレン著「刑法29章 5 条における衡平理由について」を読む
歳に達した時から計算されることも考慮しなけれ
支払、③行政法上の制裁金支払、④自殺企図と
ばならない。事件の発生から公訴の送達まで 8 年
結合した犯罪、⑤第三者理由27、⑥釈放予定の実
かかった事件について最高裁判所は刑の減軽を認
施28、⑦王冠証人の場合、⑧責任引受の場合29及
めている。また、国際人権規約 6 条の裁判を受け
び⑨その他にわけて、事由 8 の適用される場合に
る権利との関係で相当期間内に訴訟の終結を求め
ついて述べているが、紹介としては省略する。
る人権規約と本事由との関係が問題になる。これ
事由の 1 から 8 までを通して、これらの事由は
に関し、犯罪の発生から最高裁判所の判決まで12
著者により下記のように分類されている。それら
年かかっ重横領事件の紹介がある(Ågren 2013,
を非体系的に列挙すると下記のようになる。①自
s.254.)
。この期間が短くとられる罪は、人身犯、
傷例、②損害賠償例、③自首例、④二重処罰例又
単純な財産犯等、長くとられるのは横領、会計帳
は制裁累積例、⑤国外退去例、⑥雇用・職業例、
簿犯罪、薬物犯等である。困難なのは、特に児童
⑦年齢例、⑧健康例及び⑨時間例である。
に対する性犯罪の場合で、事件の発覚までに相当
第四 著者による総括
時間が経過している場合が多い。その上、制裁の
選択及び刑の量定に関する権威ある基準がないと
第 5 章で著者は、現刑法における制裁の量定
される(Ågren 2013, ss.256f.)。
の基礎にある刑罰価値、再犯及び特定類型犯罪
要約的に、著者はこの事由は被告人の終局待ち
(artbrott30)について略述し、これとの関係で衡
という心理的な苦痛が中核で、経過した時間、犯
平理由について総括的に検討している。ここで著
罪の性質及び時間の長期化に関与した者の 3 者に
者は衡平価値という概念を刑罰価値に対照させて
依存するという(Ågren 2013, ss. 259.)。将来的
考えようとしている。しかし、 8 個の衡平事由を
には、立法論として時間の長期化がどのように被
一つの尺度にまとめることはほとんど不可能であ
告人を害するかを正確に調査する必要があると指
り、衡平事由は強弱に 2 分割し、一方刑罰価値
摘する。
を、12カ月( 1 年)を基準として月数を増減させ
第 8 は、以上の他、罪の刑罰価値により理由づ
る方法(12カ月規則、12-månadersregeln, Ågren
けられるよりは短期の刑を受けることが必要とさ
2013, s.319.)を用いて、衡平理由の場合衡平価値
れるような事情があるか、ということである。
を一年未満の拘禁に定めるところから出発しよう
1 から 7 までの事由は限定列挙であり、例示
とする。がこの方法は刑の量定には適していても
制裁の選択には適さない31。
ではないとされており、そのため、第 8 の事由
は、狭く限定的に解釈され、 7 までの事由と同視
著 者 は、 自 ら の 立 場 を 下 記 の よ う に 述 べ る
すべきものであることが要求されている(SOU
(Ågren 2013, ss.324-326.)。「衡平価値32」は個別
1987/88: 120, s.95, Ågren 2013, ss.276f.)。立法資
的な事件における裁判官の評価に基づく。現刑法
料には、自殺企図、事由 5 における就職先におけ
29章 5 条に掲げる事由により刑の減軽に意味をも
る配置転換や減給、未成年児童の保護などが挙げ
つ事情を検討するが、衡平価値は制裁の量定につ
られている(Ågren 2013, ss.277f.)。事由 4 にお
いて何もいっていないということが重要である。
ける母国における死刑判決可能性などもここに入
従がって、制裁の量定に際して、衡平価値の高さ
るであろう。こうした場合に特に刑の減軽(刑罰
はそれなりの深刻さをもって処理しなければなら
価値の削減)を認めようとするところにこの事由
ない。ある事由、例えば「自首」を高く評価する
の意味がある。
か低く評価するかにより、その後の制裁の量定は
以下著者は、①事由 5 に含まれない労働法上の
影響を受けるが、これ以上のことを言うことはで
配置転換等措置、②極度に高額な刑事損害賠償金
きないというのが著者の立場になる。
−−
坂 田 仁
続けて、著者は過去の立法資料における衡平
視を基礎に全体的視点を強調する。一つの罪をめ
33
理由について概観している。①拘禁刑委員会 は
ぐる全ての状況を考慮して制裁(刑)を定めなけ
個々の衡平事由そのものに軽重の関係はないとし
ればならない。その際、衡平理由は刑罰価値に基
ている。②現刑法29章 5 条の第 7 の事由は拘禁刑
づく刑を補完する作用を営み、非人間的な、比較
委員会の草案にはない、即ち、この事由は制裁の
的に均衡の取れない厳しい法適用に対抗する。同
選択のみに意味をもち、衡平理由と異なり、制裁
時に、衡平事由の明文化は、結果の予見可能性
の放棄の根拠として用いることはできないとして
(förutsebarhet)を高め、その適用を合理的な範
34
いる。刑法調査会 は、29章 5 条の事由中第 1 、
囲(i skälig omfattning)に留めるべしとの規定
第 6 及び第 7 の事由は、刑の減軽よりむしろ有罪
は、平等な扱い(likabehandling)に資する。即
35
制裁 の放棄で現実化するとしている。現刑法の
ち、刑法の法定主義に反することはないと述べ
軽減事由のうち、 1 、 6 及び 7 はいずれも刑法調
る。著者は、現刑法29章 5 条の構成の変更を提案
査会の提案が強い理由とみなしたものである。し
して本書をくくっている。
かし、 現刑法の政府案は、 1 、 7 及び 2 ( 6 で
結 語
なく)を強い軽減事由としている。これら 3 個の
事情は拘禁の減軽に意味があるとしている。しか
現 刑 法 が1988年 に 制 定 さ れ た と き、 処 遇
し、刑法調査会は、これらの事情を他の事情よ
(behandling)から刑罰価値(straffvärde)へとい
りも強いものとみる理由として、人間性と予防
う標語が英語に翻訳されて、treatmentからjust
(humanitet och prevention)にこれらを関連付け
desertへという表現が用いられた。このニュアン
ているように見える。しかし、政府案の根拠が何
スは被告人をただ罰するだけの刑法が成立したか
であるのかは不明確である。適用の要件に関して
の印象を我々に与えた。しかし、本書で扱ってい
は、一点だけ刑法調査会の覚書と政府案との間に
る衡平事由は厳罰傾向への転換をさえぎり、ス
一致点があるようにみえる。「強力な」衡平理由
ウェーデン刑法の人間的特徴を維持する役割を果
が制裁の量定に特に強い影響を与えていることで
たしている。それと同時に衡平事由の使用が裁判
ある。
官の恣意によることのないように、法の前の平等
著者は、現刑法29章 5 条の衡平事由が刑法調査
と刑法の統一的適用との維持が図られている。
会の覚書と似ているのに、予防理論でなく、人間
このことは、わが国の刑法におけるいわゆる情
性のみにこれを関連付けていることに疑問を呈し
状酌量による刑の減軽について教訓を提供してい
ているように思われる。衡平価値と強い衡平理由
ると愚考する。確かに、罪を犯した者は処罰され
という 2 個の概念は、それぞれ目指しているもの
なければならない。これを疑う人は一人もいな
が違うと。著者自身は、結果として生じ得る誤解
いと言ってよいかもしれない。しかし、犯罪者は
を回避するために、強い(又は弱い)衡平理由と
人である。一回限りの人生を全うすべき存在であ
いう概念の使用は控えたいとしている。これに続
る。その将来をその一個の罪によって破壊してよ
き、著者は、衡平理由により左右されるのは、刑
いのであろうか。その可否を正しく問う制度的方
の量定か制裁の選択か、を論じているが紹介とし
法を日本の刑事司法は確保できているのだろう
ては省略する。
か。
最 後 の 章、 総 括 的 観 点(Sammanfattande
現刑法29章 5 条に掲げられている事由は、 3 の
synpunkter)において著者は、何故衡平理由を刑
自首を除いて日本の刑法には規定がない。日本で
罰制度に取り入れなければなららないのかを論じ
はこれらの事由は、刑法66条の酌量減軽の内容を
ている。著者は倫理的立場を重視し、人間性の重
構成しており、裁判所の自由裁量によって定ま
−−
オーグレン著「刑法29章 5 条における衡平理由について」を読む
るものである。その際の参考として刑法の解説書
注
には刑事訴訟法248条の起訴猶予にあたって考慮
すべき事項が掲げられている(大塚外 1999、686
(1) 本稿では下記の語をそれぞれここに定める意味で
頁)
。そして減軽の程度、方法は刑法14条の規定
使用する。
に従がっていわば算術的に行われる。この自由
旧刑法 1864年制定の刑法典
裁量の内容を自首とともに法定しているのがス
六二刑法 1962年制定の刑法典(宮澤 1968参照)
ウェーデンの現刑法29章 5 条の各事由であるとい
現刑法 1988年の改正(1989年施行)後の刑法(坂
うことができる。
田 2006、pp.10-12)
スウェーデン刑法の制裁の量定にあたって考慮
刑法 現刑法と六二刑法とを合わせて一般的に現行
すべき衡平事由は、この意味で、量刑の法定主義
刑法をさす。
を実現しているものと理解できる。これにより、
制裁の量定(påföljdsbestämning)制裁の選択と刑
刑事裁判における刑の宣告に際して、法の前の平
の量定とを併せた概念(Brå 1977, p.401.)
等、刑事訴訟の法的安定性、そして人間性の尊重
制裁の選択(påföljdsval)事件ごとの、刑及び制裁
が実現され、裁判所の自由裁量の幅の広さに由来
の個別的選択
する量刑の不公平が回避されるのである。本書
刑の量定(straffmätning)選択された刑の量の決定
は、スウェーデンに特殊な衡平事由による刑の減
また、以下の略語を使用する。
軽を詳細に論じているもので、我々日本人にはあ
Brå: Brottsförebyggande rådet. 犯罪防止委員会
まり関係ないように思われるが、実は刑事裁判の
Prop: Regeringens proposition 政府提出法律案
本質に迫るきわめて重要な問題を扱っていること
SFS: Svensk författningssamling スウェーデン法
を、関係者に理解して戴きたい。
律全書
日本の刑法では、いわゆる情状酌量による刑の
SOU: Statens offentliga utredning 国家調査報告書
減軽は、裁判所の自由裁量に委ねられており、そ
(2) Ågren 2013, s.18. Greve 2004, s.28ff.からの引用。
の研究が活発に行われているとは考えられない。
ローマ法において既にstrictum jus et æquitasとい
現在最も詳細な注解と考えられる刑法の大コンメ
う対立概念が存在する。(船田 1943、237頁)
ンタールに収録されている高橋省吾による酌量減
(3) 現刑法29章 5 条は下記の通り規定する。そして、
軽(大塚外 1999、685頁以下)によっても、酌量
新設以来現在まで改正されていない。(坂田 2013、
される具体的情状に関する記述にはみるべきも
54頁表 1 参照)
のがない。それだけでなく、「酌量減軽を行うに
① 量刑に当って裁判所は罪の刑罰価値に重ねて妥
至った判断理由を判決に示す必要は」ないとされ
当な範囲で、下記の事項を考慮しなければならな
ている(大塚外 1999、687頁)。
い。
このような事情の下で、本書の扱っているよう
1 .被告人が罪の結果として深刻な身体的損害を
な衡平事由が日本の刑法に規定されている情状酌
蒙つたか、
量に一定の解釈基準を与えることは、日本の刑事
2 .被告人がその能力に応じて罪の有害な作用を
司法運用上優れた価値を有するものと、私は信
防ぎ、除去し、又は限定しようとしたか、
じている。この意味で情状酌量に法定主義と人間
3 .被告人が自首したか、
性の理念を生かすことを心より願っている。同時
4 .被告人がその罪の結果国外退去になることに
に、私は刑事訴訟事件における判決前調査制度導
より苦痛を受けることになるか、
入の必要性(坂田 1997、101-102頁及び刑事裁判
5 .被告人がその罪の結果勤務先から解雇されも
資料130号 1959参照)を強く主張したい。
しくは解雇を通告されることにより又は職業も
−−
坂 田 仁
しくは事業上のその他の阻害要因もしくは明白
る。
な困難により害されるか、又は、同じことによ
(8) 刑は、統一的な法の適用の利益にてらして、(中
り害されることになると仮定できる根拠のある
略)定められなければならない。(現刑法29章 1 条)
事由が存在するか、
(9) Ågren 2013, ss.49f. レウテラシオンは、恩赦が確
6 .被告人が高齢又は健康の不良の結果その犯罪
定判決後の制度であるのとは異なる意味で、死刑判
価値に従って量定された刑罰により理由なく厳
決を国王に代わってスヴェア高等裁判所が裁量的に
しく害されるか、
減軽した制度(Olin 1934, ss.825ff.)で、通常死刑が
7 .罪の種類との関連で尋常でない期間が罪の実
罰金刑に減軽された。適用されたのは主に姦通罪で
行以来経過しているか、
あった。
8 .以上の他、罪の刑罰価値により理由づけられ
(10)スウェーデン最初の統一法典。刑法もこのとき初
るよりは短期の刑を受けることが必要とされる
めて罪に関する法典と刑に関する法典とが制定され
ような事情があるか。
た。
② 第 1 項に定める事情が存在する場合、裁判所
(11)坂田 1999、51頁, Annes 1965, s151 cf.
は、個別的な理由により必要とされるならば、そ
(12)Ågren 2013, s.53, n.70. 同法の立法草案には現刑
の罪について規定されているより軽い刑罰を判決
法29章 5 条に掲げる事由の 2 、 3 、 6 、 7 、 8 が取
することができる。
上げられているという。
なお、本稿では衡平理由と衡平事由という 2 個の
(13)スウェーデンに刑事責任能力制度が存在しないの
語を使用するが、前者は著者の用法に従がって用
は、この相違に由来するのかもしれない。
い、後者は上記 1 項の 1 ないし 8 の事項を参照する
(14)Ågren 2013, s.60, 刑法調査会の答申、SOU 1948:
ときに用いる。
40, s.7からの引用。
(4) 坂田 1992及び坂田 2012を参照。
(15)Ågren 2013 , s. 96 .
こ れ は、 ①principle of
(5) straffnedsättning(刑の切捨て)、straffreduktion
parsimony、②principle of restraint to use custody
(刑 の 引 下 げ )、straffrabatt(刑 の 割 引 ) 及 び
及び③principle of frugalityに分かれる。①は、刑の
straffjämkning(刑の減少修正又は罰金の減額修正)
目的に照らして最小限の苦痛を犯人に科すべきであ
の語が衡平理由の説明に用いられ、これらすべては
るとする立場を示し、③は、刑による苦痛を最小限
刑を減軽することを意味し、苦痛(men)という語
にしつつ、同時に関係する第三者に不満を残すべき
を広く損害(skada)と同視し、更に、han och hon,
でないとする立場を示すという(Tonry 2011が引用
gärningsman 及び gärningsperson を gärningsman に
されている)。②は身柄の拘束を伴う処分(刑)を最
統一すると同時に、規定の文脈に従がって別の語を
低限にすべきとする立場を示す。
用いるという。
(6) Ågren 2013, s.41.
(16)こ の 法 律 は、 ① 入 国 禁 止(avvisning, SFS
1954 : 193 18 §)、 ② 国 外 退 去(utvisning, SFS
原文は、en struktuerade
1954: 193 29§)及び③国外追放(förvisning, SFS
ordning。
(7) 日本の刑法が特別な場合に刑を減軽すべき旨を定
1954: 193 26§)の 3 個の処分を規定していた。①
めつつ、その66条に酌量減軽について定めているこ
はスウェーデンに入国する際の処分、②は国内で外
とが想起される。スウェーデンの刑法もこれと同様
国人法にいう非行(otukt)を行った者などに対す
であって、六二刑法と日本の刑法とでこの点の相違
る外国人法による処分、③は国内で罪を犯して懲役
は小さく、現刑法において、いわば、日本の酌量減
刑又は拘禁刑に処された者の処分であった。そし
軽に相当する部分が衡平理由による減軽として個別
て、国外追放は、1980年の外国人法の改正で廃止さ
的事由を限定列挙される至ったと考えることができ
れ、国外退去に統一された。これによると、国外退
− 10 −
オーグレン著「刑法29章 5 条における衡平理由について」を読む
去には 2 個の場合があり、①は改正前の国外追放の
om anställningsskydd<SFS 1982: 80>)に規定され
場合で、通常裁判所が罪について拘禁の判決をした
ている。
際に行うもの(SFS 1980: 376 40§)、及び、②は
(23)制定当初の旧刑法 5 章 4 条は「混乱している者
改正前の国外退去にあたるもので、行政裁判所が薬
又はその悟性の理用が疾病又は老弱により失われて
物乱用等不道徳な行為をする者に対して行うもの
いる者の犯した行為は罰しない。」と規定していた
(SFS 1980: 376 43§)となった。現行外国人法(SFS
(SFS 1864: 11 05: 04§)が、後にこの規定は廃止さ
2005: 716)では、関連する規定はその 8 章 1 条以下
れて、少年の特則に変っている(SFS 1942: 12)。
(入国禁止)及び 8 条以下(国外退去)にそれぞれ規
(24)この 2 個の例を著者は個別的事件(老齢及び健康
定されている。
事由)、標準的事件(老齢事由のみ)と呼んで区別し
(17)罪に対しては、制裁(刑及びその他の制裁)及び
ている(Ågren 2013, s.227.)。
刑法 1 章 8 条によるその他の法律効果(刑事損害賠
(25)Prop 1987/88: 120, s.95には「精神的状態も、そ
償、又は特別法律効果<没収、企業罰金、運転免許
れが刑法の他の規則に当たらない場合には考慮すべ
の取消、国外退去、解職>)が科されると解釈され
きである。」と述べられている。つまり、精神障害犯
ている(Ågren 2013, ss.161, n.215, Jareborg 2010,
罪にあたらなくてもこの事由により刑の減軽を検討
s.14.)。
できるとみることができる。
(18)anknytningsintressen. Ågren 2013, ss.182f.
(26)拘禁刑委員会改正草案34章「制裁の選択」7 条は
(19)Barnets bästa. 児童の福祉を護ることが最優先さ
下記のように規定する。
れる(Ågren 2013, ss.165,)。著者はこれに関する判
第 7 条 行為の刑罰価値により妨げられるこのない
例(NJA 2007, ss.425ff.)を引用しているが、その事
場合、裁判所は、第 6 条に掲げられる事件であっ
例は、犯罪により受刑歴のあるチュニジア人の強姦
ても、特に必要とする事情が存するときには、条
事件で、一審でなされた国外退去処分を二審が児童
件付判決又は保護観察を判決することができる。
の利益を正面に出して取消し、更に最高裁判所が一
その際下記の事情を特に考慮しなければならな
審の判断を認めて二審の処分を取消している。この
い。
事件の場合、子供の世話に当たっているのは母親で
一、第33条第 7 条に掲げる事情、
あって父親ではないと判決に述べられている(NJA
二、被告人自身の共同により罪の後に被告人の犯
2007, s.430.)。
罪と関連があると仮定できる面での被告人の個
(20)外国人法(Utlänningslag<SFS 2005: 716>)4 章
人的または社会的状況に明らかな改善が生じて
1 条に亡命の定義が規定されている。それによると、
民族、国籍、宗教、及び政治的見解の相違により、
いること、
三、罪の種類との関連で、罪が犯されて以来尋常
又は、性、性的傾向もしくはある社会集団への所属
でない期間が経過しているか。(SOU 1986: 13,
に基づいて迫害される恐れにより自国の保護を受け
s.79.)
ることができず又は受けようとしない者が亡命者な
そして、33章「刑の量定」7 条は下記のように規
どである。
定する。
(21)Synnerlig skäl。これは、särskilt skäl(特別な理
第 7 条 刑の量定に際して、罪の刑罰価値を超えて
由)よりも強い概念。
理由ある範囲で、行為者が罪又は判決の結果不利
(22)解雇にはavskedandeとuppsägningの 2 つがあり、
益を受けたこと、又はその他の行為者への明らか
前者は社内規則の違反など懲戒的要素を含み、後者
な苦痛な結果、下記のような不利益を受けると仮
は解雇又は退職で、 1 月前の予告により雇用者又は
定する根拠のある事由が存在することを考慮しな
被用者が行うものを指す。いずれも雇用保護法(Lag
ければならない。
− 11 −
坂 田 仁
一、深刻な身体的傷害、
二、解雇又は労働契約によりもしくは雇用関係に
というのである。
(33)Fängelsestraffkommittén
SOU 1981: 13-15を提出した委員会。
適用されるその他職務規則により認められる罪
の結果、又は
(34)Straffberedningen
三、職業又は経済活動における明らかなその他の
刑法調査会、答申SOU: 1955:
56(保護法・Skyddslag)を提出した調査会。保護法
障害又は困難。
には採用されていないが、この調査会が1948年に提
出した別の答申(SOU 1948: 40)の中に現刑法の衡
刑の量定に際しては更に理由ある範囲内で下記の
事項を考慮しなければならない。
平理由にあたる事項が取上げられている。著者はこ
一、行為者が、罪の有害な作用を自発的に防ぐこ
とを試み、又は能力に応じて回復しようと試み
拘 禁 刑 委 員 会、 答 申
の答申を屡々参照している。
(35)ansvarspåföljd 制定当初の六二刑法 2 章 6 条に用
たか、
いられた語。この規定は1972年に改正されて六二刑
二、行為者が自首したか、
法同章 5 条の二第 3 項となり、その際にこの語は
三、行為者がその罪の結果国外退去になることに
廃された。国外での有罪判決を指している(宮澤
より苦痛を受けることになるか、
1968、32頁参照)。
四、行為者が高齢又は健康の不良の結果その犯罪
文 献(順不動)
価値に従って量定された刑罰により理由なく厳
しく害されるか、
1 .Jack Ågren, Billighetsskälen i BrB 29: 5, JURE,
五、以上の他、罪の刑罰価値により理由づけられ
2013.(Ågren 2013)
るよりは短期の刑を受けることが必要とされる
2 .Eric
ような事情があるか。(SOU 1986: 13, ss.77f.)
Anners,
Humanitet
och
rationalism,
Nordiska bokhandeln, 1965.(Annes 1965)
(27)被告人の受刑により未成年の子が養育者を失うよ
3 .坂田仁、E. アンネシュ著「ヒューマニティと合理
うな場合を指す。
主義」、人間科学16巻 2 号、平成11(1999)年。(坂田
(28)検察官や被害者の上訴等により、予定した制裁の
1999)
執行が妨害される場合。
4 .Vagn Greve, Det strafferetlige ansvar, 2. udgave,
(29)自首の特殊な場合で、罪そのものではないが自己
København 2004.(Greve 2004)
の罪に関する重要な情報を提供する場合。
5 .船田亨、羅馬法第 1 巻、岩波書店、昭和18(1943)
(30)交通犯罪のようにその罪種により原則として拘禁
年。(船田 1943)
が選択される犯罪の一般的表現。
6 .坂田仁、一九九八年のスウェーデン刑法一部改正
(31)ここでJareborg 2010, s.143が引用されている。こ
について、朝倉京一他編、刑事法学の現代的展開
れによると衡平理由は刑の量定にのみ適用され、制
(下巻)、法学書院、平成 4(1992)年。(坂田 1992)
裁の選択には適用されないとされる。刑法30章 4 条
7 .宮澤浩一訳、スウェーデン刑法(法務省大臣官房
は29章 5 条 1 項の衡平事由を制裁の選択の際に考慮
司法法制調査部編)、昭和43(1968)年、(宮澤 1968)
せよと定めていて、適用するとは規定していないと
8 .坂田仁、スウェーデン刑法における制裁の量定、
いうのである。
人間科学論究20号、常磐大学大学院、平成24(2012)
(32)刑罰価値と同じ手法で、衡平理由を拘禁の期間
年。(坂田 2012)
に換算して、例えばある罪が 2 年の拘禁に当たる場
9 .Gustav
Olin,
Några
blad
ur
det
svenska
合、これを 2 年の刑罰価値に相当するとして、ここ
straffsystemets historia, Minnesskrift ägnade 1734
から月単位で衡平事由を数量的に評価して(衡平価
års lag av Jurister I, Isaas Marcus, 1934. (Olin
値)、その一定割合あるいは一定月数を差し引こう
1934)
− 12 −
オーグレン著「刑法29章 5 条における衡平理由について」を読む
10.Michael Tonry, Proportionality, parsimony, and
12.大塚仁外著、大コンメンタール刑法(第 2 版)第 5
interchangeability of punishments, Michael Tonry
巻、青林書院、平成11(1999)年。(大塚外 1999)
(ed.), A reader on punishment, Oxford, 2011.
13.坂田仁、量刑制度について、JCCD77号、平成 9
(Tonry 2011)
11.Nils
Jareborg
(1997)年、(坂田 1997)
&
Josef
Zila,
Straffrättens
14.最高裁判所事務総局、判決前調査制度関係資料
påföljdslära, 3-e uppl, Norstedts, 2010. (Jareborg
(一)、刑事裁判資料130号、昭和34(1959)年。(刑事
2010)
裁判資料130号 1959)
− 13 −
常磐大学大学院学術論究 創刊号 2014.3
Scientific Journal of Tokiwa University Graduate School
No.1 Mar. 2014
原著論文
刻印刺激と餌の並立強化スケジュールと同時選択場面での
ニワトリヒナの選択反応にもたらす餌摂取可能機会設定の効果
1)
長谷川 福 子
2013年 7 月18日受付,2013年10月21日受理
Abstract:The Effects of Free Feeding on Chicks’ Choice Responses toward an Imprinted Stimulus and
Food under Concurrent Reinforcement Schedule and Simultaneous Choice Situation.
The present study investigated the effects of free feeding on chicks choice responses between an imprinted
stimulus and food under both situations of concurrent ratio schedules and simultaneous choice situation.
Five newly hatched chicks were imprinted to a red cylinder, and trained to emit key-peck responses.
When the chicks came to be 14-day-old, they were exposed to either concurrent reinforcement schedules
or simultaneous choice situations. The experimental design of the present study was ABABA design. A
denotes a baseline condition in which each chick was exposed to either concurrent reinforcement schedules
or simultaneous choice situations. B denotes an opportunity for free feeding. Two choice situations were
alternately changed day by day. In concurrent reinforcement schedules, the number of chicks key-peck
responses for both stimuli decreased after the opportunity of free feeding. On the other hand, in the
simultaneous choice situation, the duration of chicks staying near each stimulus did not decreased even if
they had had the opportunity of free feeding. There are two possibilities about the reasons why the effects
of free feeding on chicks choice behaviors differed between the concurrent reinforcement schedule and
the simultaneous choice situations. First, chicks key-peck responses were extinguished in the concurrent
reinforcement schedule. Second, the free feeding was carried out in the place in which the concurrent
reinforcement schedule was carried out.
Key words:imprinted stimulus, food, concurrent choice, simultaneous choice, chicks
づけられた刺激は刻印刺激と呼ばれる(Hoffman
序 論
& Ratner, 1973)。
ニワトリなどの早成性鳥類のヒナは、孵化直後
はじめて刻印づけを理論的にまとめたLorenz
に遭遇した動く刺激に対して子としての行動を示
(1935, 1937)は、刻印づけにおいて、ヒナの刻印
す。子としての行動は、遭遇した刺激に対する接
反応は生得的に備わっている行動であると説明し
近行動や追従行動、その刺激に対する鳴き声に
た。なお、刻印反応の対象としての刻印刺激はヒ
よる反応としてのコンテントメントコール、およ
ナの孵化後に、解発刺激としての機能を獲得する
びその刺激が不在のときに示されるディストレス
とされている。そして、彼は刻印づけを生得的解
コールである。早成性鳥類のヒナがある刺激に対
発機構による生得的現象であると説明した。
して子としての行動を示すようになる現象は刻印
また、Lorenz(1935)は、刻印づけの特徴とし
づけと呼ばれる(Lorenz, 1935, 1937)。そして、
て臨界期と不可逆性を挙げた。臨界期は、この
子としての行動は刻印反応と呼ばれ、ヒナが刻印
時期に刻印づけられないと二度と刻印づけが生
1 )Fukuko Hasegawa:常磐大学人間科学研究科博士課程(後期)
− 15 −
長谷川 福 子
じないという時期であり、ヒナの孵化直後の時
ることは、多くの研究によって明らかにされて
期にあたる。不可逆性は、ある刺激に刻印づけら
い る(Bateson & Reese, 1968 , 1969 ; Campbell
れると他の刺激に刻印づけられることはないとい
& Pickleman, 1961 ; Hoffman, Searle, Toffey &
うこと、また刻印づけで獲得された反応はその後
Kozma, 1966 ; 森 山, 2012 ; Peterson, 1960)。 ま
なくなることはないという特徴である(Lorenz,
た、刻印刺激が餌強化随伴性の弁別刺激として
1935)
。
機能することも明らかとなっている(鈴木・森
Lorenz以降、刻印づけは生得的なメカニズム
山, 1997)。これらの研究から刻印づけにおける
によって生起すると説明されてきた(cf. Hess,
刻印反応が個体発生的随伴性によって制御されて
1973)
。しかしその後、多くの実験室的研究から
いることが明らかにされたため、刻印づけにオ
ある種の学習が刻印づけに関与することが明ら
ペラント条件づけが関与することが認められた
かにされた(Hoffman & Ratner, 1973; 樋口・望
(Petrovich & Gewirtz, 1991)。
月・森山・佐藤, 1976; Sluckin, 1973)。しかしな
Skinnerの刻印づけに関する見解は実証された
がら、それがどのような学習過程であるのかに
が、ここで一つ問題が残る。それは、刻印刺激に
ついては、いまなお研究者間で意見が分かれる。
よって強化されるオペラント反応は、餌によっ
例えば、呈示学習(Sluckin & Saltzen, 1961)や、
て強化される反応と比べて散発的で低率である
レスポンデント 条 件 づ け(Hoffman & Ratner,
こと、すなわち刻印刺激の強化子としての効果
1973)
、 ま た、 オ ペ ラ ン ト 条 件 づ け(樋 口 他,
は餌や水と異なるという問題である(DePaulo &
1976; Skinner, 1966, 1969, 1974)が深く関与する
Hoffman, 1980, 1981; 長谷川・森山, 2011, 2012;
と考えられた。いずれにしても、刻印づけの学習
久保田・森山, 2007; 森山, 1981)。
性を明らかにするためには、刻印刺激が刻印反応
なお、強化子は、その機能の獲得過程から大き
をどのように制御するのかが重要である。
く 2 つの種類に大別される。一つは、水や餌、空
Skinner(1966, 1969, 1974)は、刻印づけにお
気など、学習によらずに生物学的に強化子として
けるヒナの刻印反応は系統発生的随伴性と個体
の機能を有するもので、一次性強化子と呼ばれ
発生的随伴性の両方によって制御されるとした。
る。二つ目は、一次性強化子や他の強化子との対
前者の制御は、自然選択によって獲得された行
提示によって強化子としての機能を獲得したもの
動の制御であり、後者の制御は、個体がその生
で、二次性強化子と呼ばれる。例えば、他者から
活史において経験する強化随伴性の制御である
の注目や賞賛、金銭などが挙げられる。刻印刺激
(Skinner, 1966)。強化随伴性の制御とは、行動の
は他の強化子との対提示なしに強化子としての機
生起確率を高める弁別刺激と、行動に随伴する
能を獲得するので、餌と同じ一次性強化子である
強化子による行動の制御である。Skinner(1966)
といえる。したがって、刻印刺激は餌や水と同様
によれば、刻印づけにおいてヒナが系統発生的随
の強化効果を有すると予想される。それにも関わ
伴性によって獲得した傾向は、ヒナと動く刺激の
らず、刻印刺激の強化効果は餌と異なる。刻印づ
間の距離の減少または維持という強化子に対する
けにおける個体発生的随伴性の制御の重要性を明
感受性のみとされている。そして、刻印づけにお
らかにするためには、刻印刺激の強化効果の特異
ける個体発生的随伴性の制御は、刻印刺激の呈示
性をもたらす要因を明らかにする必要があるだろ
が刻印反応の生起確率を高め、刻印刺激の呈示ま
う。
たは刻印刺激との距離の減少や維持が、刻印反応
刻印刺激の特異的な強化効果に影響する要因と
を維持させることを意味する(Skinner, 1966)。
して、餌強化子との関係が考えられる。なぜな
刻印刺激がヒナの反応の強化子として機能す
ら、ヒナの刻印反応と、餌強化子によって制御
− 16 −
刻印刺激と餌の並立強化スケジュールと同時選択場面でのニワトリヒナの選択反応にもたらす餌摂取可能機会設定の効果
される反応、すなわち餌摂取反応が相互に関係し
す効果については明らかでなかった。また、餌摂
ていることがいくつかの研究から示唆されている
取の機会の有無の効果を個体内で調べた訳ではな
からである(Fischer, 1971; Hoffman, Stratton &
かったので、餌摂取が同一個体にもたらす効果は
Newby, 1969; 森山, 1997; 鈴木・森山, 1997)。 2
明確ではなかった。
刺激に対する反応の関わり方として、促進的関係
Hoffman et al.(1969)とFischer(1971)の 結
と競合的関係の 2 つの可能性が考えられる。この
果を合わせても、刻印刺激と餌の相対的関係につ
2 つの可能性を示唆した主な研究としてHoffman
いての明確な結論はいまだ得られていない。ま
et al.(1969)とFischer(1971)が挙げられる。
た、 2 刺激に対する反応の関係を随伴性の視点か
Hoffman et al.(1969)は刻印刺激によって強化
ら個体内で調べた研究はない。よって、刻印刺激
されるオペラント反応によって摂食反応が促進さ
と餌の相互的関係を明らかにするために、摂食行
れることを示唆している。Hoffman et al.(1969)
動が刻印刺激への反応に及ぼす効果を個体内で調
は、刻印刺激の呈示がヒナの摂食行動に及ぼす効
べる必要がある。
果を調べた結果、刻印刺激を強化子としたキーつ
刻印刺激に対する反応と餌に対する反応の相
つき反応と摂食行動が時間的に近接して自発され
対的な関係を調べるには、二つの方法が考えら
ること、刻印刺激の呈示によってヒナの摂食行動
れる。一つは、Fischer(1971)が行ったような、
が増加することを明らかにした。彼はこの現象
2 つの刺激をヒナに同時に提示したとき、餌の剥
を、刻印刺激の呈示による摂食行動の社会的促進
奪化の程度を変えることによって、各刺激へのヒ
と表現し、社会的促進が生じるためには、ヒナが
ナの接近滞在時間がどのように変化するのかを調
孵化後に刻印づけられていることが必須条件であ
べる方法である。すなわち、 2 刺激の同時選択場
ることを示した。彼の実験結果は、刻印刺激と餌
面でのヒナの選択反応を調べる方法である。
が相補的に関係している可能性を示唆したが、刻
もう一つは、Moriyama and Kubota(2007)が
印刺激への反応と摂食行動が時間的に近接して自
行ったような、刻印刺激と餌のそれぞれを強化子
発されたならば、摂食行動が刻印刺激への反応を
とする 2 キーを設定した強化スケジュールにお
促進した可能性が考えられる。
けるヒナのキーつつき反応数を調べる方法であ
一方、Fischer(1971)は、 刻印刺激に対する
る。すなわち、 2 刺激を強化子とした並立強化ス
反応と餌に対する反応が競合することを示した。
ケジュールでのヒナの選択反応を調べる方法であ
Fischer(1971)はT字迷路を用いて刻印刺激と餌
る。なお、Moriyama and Kubota(2007)は並立
の 2 刺激に対するヒナの反応を調べた結果、ヒナ
連鎖スケジュール(concurrent chain schedule)
が 7 日齢になるまでは刻印刺激に対する反応は餌
を用いたが、このスケジュールを用いるには、ヒ
の剥奪化の効果を受けずに減少しないが、 7 日齢
ナに多くの訓練セッションを実施する必要があ
以降、餌の剥奪化の効果を受け減少することを明
る。訓練セッションが多くなると、刻印刺激に
らかにした。すなわち、 7 日齢以降のヒナの刻印
よってヒナのオペラント反応が強化されにくく
刺激に対する反応は、餌に対する接近反応と競合
なる日齢までヒナが発達する可能性がある。な
することによって減少することが示された。彼女
お、刻印刺激の強化効果がみられなくなるのは
は、この結果が得られた理由としてヒナの日齢の
ヒナの日齢が約 1 か月齢になる時期である(鈴
増加に伴う餌への動機づけの増加を挙げた。彼女
木・森山, 1997)。そのため、本実験では並立連
の実験結果は、刻印刺激と餌が競合的に関係する
鎖スケジュールよりも、訓練数が少ない並立強化
可能性を示唆したが、摂食行動の増加が刻印刺激
スケジュールを使用する。並立強化スケジュー
によって強化されるヒナのオペラント反応に及ぼ
ル(concurrent reinforcement schedule)は、 2
− 17 −
長谷川 福 子
つ以上のオペラント反応に対して同時に、そして
#51)を被験体とした。孵化後、全てのヒナを飼
独立に 2 つ以上の強化スケジュールが設定される
育ケージ(27.5 cm×16.5 cm×16.5 cm)内で個別
スケジュールである(Catania, 1992)。なお、こ
に飼育した。実験室内の温度は30 ℃から37 ℃に
こで並立強化スケジュールにおいてヒナが強化ス
維持し、湿度を80 %以上に維持した。また、孵
ケジュールに従った反応を示すのかどうかが問題
化直後のヒナが実験者に刻印づけられないように
となる。しかし、並立強化スケジュールのもとで
するため、実験室は暗室であった。後述の刻印テ
ヒナが強化率にある程度従った選択反応を示すこ
ストが終了した後、ヒナに給餌するために、飼育
とが数件の研究で報告されている(長谷川, 2013;
ケージ内を毎日 2 時間18Wの蛍光灯で照らした。
Schneider & Lickliter, 2010)。
ヒナがオペラント訓練セッションに移行するま
よって本実験は、刻印刺激と餌の相互関係を明
で、飼育ケージ内に連続して餌と水を呈示した。
らかにするため、同時選択場面と並立強化スケ
すなわち、ヒナは餌と水を自由に摂取することが
ジュールでの刻印刺激と餌に対する選択反応を調
できた。しかし、後述する自動反応形成のセッ
べる。なお、餌摂取反応が刻印刺激に対する反応
ションに移行してからは、剥奪化による餌の確立
に及ぼす効果を調べるために、餌摂取反応の生起
操作を行なうため、飼育ケージ内で餌を呈示しな
頻度を実験者が操作する必要がある。餌摂取反応
かった。なお、刻印刺激の確立操作として、実験
の生起頻度を操作するには、Fischer(1971)の
セッション開始前に刻印刺激を30s呈示した。
ように、餌の剥奪化のレベルを間接的に操作し餌
刺激 1 分間に120拍のメトロノーム音を発しな
摂取反応の自発頻度を変化させる方法がある。そ
がら直線走路内を往復移動する赤筒(直径5.5 cm、
こで、本実験では、ヒナに餌を自由に摂取出来る
高さ9.5 cm)を刻印刺激になるべく刺激として使
機会を与え、餌の剥奪化のレベルを間接的に操作
用した。赤筒は、赤い反射材が側面に貼られた円
し、 2 つの選択場面での刻印刺激と餌に対するヒ
筒で、底部に 8 Ωのスピーカーを取り付け、こ
ナの選択反応を調べる。
こからメトロノーム音を呈示した。緑球(直径
8 cm)を、刻印テストにおける新奇な刺激とし
目 的
て、赤筒と同時に呈示した。さらに、選択場面で
本研究の目的は、刻印刺激と餌の並立強化スケ
呈示する餌刺激として、飼育時に与えた幼雛用の
ジュールまたは同時選択場面における各刺激に対
混合飼料を用いた。
するヒナの選択反応に及ぼす餌摂取を可能とした
機会設定の効果を個体内で調べることであった。
装置 刻印訓練の際、ヒナに赤筒を呈示するた
餌に対する反応と刻印刺激に対する反応が競合す
め 直 線 走 路(大 久 保 測 工 研 究 所 製、120 cm×
るなら、餌を自由に摂取できる機会が設定される
18 cm×45 cm)を用いた。直線走路の概略図を
とその後の選択場面での餌に対する反応は減少
Figure 1 の右に示した。直線走路上部にモーター
し、刻印刺激への反応が増加すると予想される。
とチェインを駆動させ、この駆動によって、赤筒
餌に対する反応と刻印刺激に対する反応が相補的
を一定の速度(20 cm/s)で直線走路内を往復移
であるなら、刻印刺激に対する反応も餌に対する
動させた。走路の側壁面上部に等間隔に 3 つの白
反応と同様に減少すると予想される。
熱球を設置し、これによって直線走路内部を照明
した。直線走路内の全ての側壁を全て黒色で塗装
方 法
し、床には滑り止め用のマットを敷いて、この上
被験体 実験室の人工孵卵器で孵化させた白色レ
にヒナを置いた。
グホンニワトリのヒナ 5 羽(#45, #46, #47, #48,
オペラント訓練には、ヒナ用オペラント実験箱
− 18 −
刻印刺激と餌の並立強化スケジュールと同時選択場面でのニワトリヒナの選択反応にもたらす餌摂取可能機会設定の効果
(14 cm×27 cm×28 cm)を用いた。ヒナ用オペ
選択場面と並立強化スケジュール、餌摂取可能機
ラント実験箱の概略図をFigure 1 の左に示した。
会から構成された。実験手続きのフローチャート
ヒナの成長に合わせて、キーの高さと実験箱内の
をFigure 2 に示した。図の左側に各実験が行われ
広さを調整した。実験箱の天井にDC 6.3 Vの豆
たときのヒナの日齢を示した。以下にそれぞれの
電球を取り付け、これをルームライトとして常時
手続きを詳述する。
点灯させた。ただし、刻印刺激や餌を強化子とし
て呈示したとき、ルームライトを消灯した。実
刻印訓練:孵化後10時間が経過したヒナを赤筒に
験箱のフロントパネルには、直径 2 cmの 2 つの
刻印づけるため、直線走路内にヒナを個別に入れ
キーとフィーダー用の開口部(4.5 cm×4.5 cm)
て刻印訓練を行った。直線走路上部のチェインに
があった。 2 つのキーの中心間の距離は 5 cmで、
ひもを取り付け、そこに赤筒をぶら下げて走路内
フィーダー用の開口部の底辺は床から0.5 cmの高
を往復移動させた。訓練は30分を 1 セッションと
さであった。実験箱の左右の側壁はステンレスの
し、ヒナが 1 日齢の間に 2 セッション行った。 2
メッシュスクリーンであった。直線走路内にある
つのセッションの時間間隔は約10時間であった。
刻印刺激の呈示と除去を行うため、オペラント実
刻印テスト:刻印訓練が終了してから約10時間
験箱と直線走路の間にマジックボード(28 cm×
後、ヒナが赤筒に刻印づけられたかどうかを調べ
40 cm)を設置した。マジックボードの位置と概
るために刻印テストを直線走路内で行った。刻印
略図をFigure 1 の中央に示した。マジックボード
テストでは、刻印訓練で呈示した赤筒と、新奇な
は100 Vの電流が流れると透明になり、ヒナは刻
刺激である緑球または餌を直線走路の両端に同時
印刺激を見ることができた。一方、電流が流れな
に呈示し、ヒナを走路の中央に置いた。テストで
いと、マジックボードは白濁し、ヒナは刺激を見
は、刺激から走路中央部に向けて 2 cm離れたと
ることが出来なかった。
ころにメッシュボードを設置し、ヒナが各刺激と
接触しないようにした。なお、 2 つの刺激を静止
手続き
した状態で呈示し、赤筒からメトロノーム音を呈
本実験は、刻印訓練、刻印テスト、自動反応形
示しなかった。刻印テストでは、 2 刺激の近くに
成、連続強化、餌摂取効果確認フェイズで構成さ
設置したメッシュボードを基準にし、メッシュ
れた。さらに、餌摂取効果確認フェイズは、同時
ボードから 5 cmの範囲におけるヒナの滞在時間
Runway Box
Operant Chamber
for Chick
magic board
feeder
light
chain
motor
45cm
120cm
28cm
key
red cylinder
18cm
5cm 1cm
14cm 27cm
Figure 1. The apparatus used in the present experiment
− 19 −
長谷川 福 子
を計測した。
用したヒナが#45と#46と、#47の 3 羽であった。
赤筒と新奇な刺激である緑球を呈示したテスト
自動反応形成は、キーへの白色光と刻印刺激
を刻印テスト 1 、赤筒と餌を呈示したテストを刻
の対呈示によって行われた。白色光を 8 s呈示し
印テスト 2 とした。すなわち、刻印テストは 1 羽
た後、メトロノーム音を伴って直線走路内を往
のヒナに対して 2 回行われた。 1 回のテストは10
復移動する刻印刺激を10s呈示した。キーへの白
分間を 1 セッションとして 2 セッション行った。
色光と刻印刺激の対呈示を 1 試行として100試行
そのため、全てのヒナに対して、刻印テストは 4
行った。試行間間隔(inter trial interval、以下
セッション行われた。刺激の位置による反応への
ITI)は 5 sであった。したがって、刻印群のヒナ
効果を相殺するため、セッション間で 2 つの刺激
が受けた自動反応形成セッション時間は、約38分
の位置を逆転した。刻印テストの結果、久保田・
間であった。自動反応形成の全てのセッションに
1
森山(2007)の基準 を満たした 5 羽のヒナを赤筒
おいて、キーつつき反応の出現を促すため、直径
に刻印づけられたと判断した。赤筒に刻印づけら
0.5 cmほどの黒い円形のシールをキーの中心部に
れたヒナを以降の実験の被験体とした。
貼りつけた。なお、本実験では全てのヒナが第 1
自動反応形成:赤筒に刻印づけられたヒナのキー
セッションで反応を自発した。
つつき反応を形成するため、オペラント実験箱に
連続強化:ヒナのキーつつき反応を安定させるた
ヒナを個別に入れて自動反応形成を行った。自動
め、ヒナのキーつつきオペラント反応を連続的に
反応形成は、選択テストが終了してから約10時間
強化した。自動反応形成の第 1 セッションが終了
後に行った。キーの位置の効果を相殺するため、
して10時間経過後に実施した。連続強化セッショ
ヒナによって訓練キーの位置を変えた。右キーを
ンでは、ヒナがキーをつつくたびにマジックボー
使用したヒナが#48と#51の 2 羽で、左キーを使
ドに電流を流し、メトロノーム音を発しながら直
Days 1~2
Day 3
Imprinting training
Imprinting test
Days 4~13
Autoshaping
CRF
Concurrent FR1-FR1
Days 14~21
Experimental phase
Base line (BL)
љ
1st OPF
љ
Test1 *
љ
2nd OPF
љ
Test2 *
Days 22
Concurrent choice
Alternating two
situations day by day
Simultaneous choice
*Tests were the same situation as BL.
Imprinting test
Figure 2 . The procedure for the present experiment.
− 20 −
刻印刺激と餌の並立強化スケジュールと同時選択場面でのニワトリヒナの選択反応にもたらす餌摂取可能機会設定の効果
線走路内で往復移動する刻印刺激を4s呈示した。
時間間隔は約10時間であった。
連続強化セッションでの強化子とキーの対応、さ
並立FR1-FR1: 連続強化セッションで左右の
らにキーの色光は自動反応形成時と同じであっ
キーに対するヒナの反応が確立したら、 2 つの
た。連続強化セッションの第 1 セッションにおい
キーに白色光を同時に照射したときに、それぞ
ても、ヒナのキーつつき反応の出現を促すため、
れのキーに対して反応を自発するよう訓練する
自動反応形成で使用した黒い円形のシールをキー
ため、並立FR1-FR1を行った。このセッションで
に貼りつけた。第 1 セッションでキーつつき反応
は、 2 つのどちらかのキーに対して反応を自発す
を30回自発したならば、以降のセッションでは
るたびに、そのキーに対応する強化子が呈示され
シールを使用しなかった。#46と#47以外のヒナ
た。 2 つのキーのそれぞれに対応する強化子は餌
が 1 セッション目で反応を30回自発したので、そ
と刻印刺激であった。それぞれの強化子に対応す
れ以降の実験ではシールを使用しなかった。#46
るキーは、ヒナごとに異なり、連続強化セッショ
は 2 セッション目まで、#47は 3 セッション目ま
ンでの設定と同じであった。また、強化子の設定
でキーつつき反応の回数が30回に満たなかったの
とセッションの終了要件も連続強化セッションと
で、黒い円形のシールを 3 セッション目まで使用
同じであった。
した。
並立FR1-FR1で 2 キーに対して反応を自発した
黒い円形のシールを外した状態でキーつつき反
ら、次のフェイズの開始時のヒナの日齢をそろ
応を30回自発することが出来るようになったら、
えるため、ヒナの日齢が13日齢になるまで、こ
次のセッションへ移行した。訓練していないキー
のセッションを数セッション行った。なお、並
へのキーつつき反応を訓練するために、訓練して
立FR1-FR1のセッション間の時間間隔は約 1 日で
いなかったキーを使用した連続強化セッションを
あった。
行った。初めに訓練しなかったキーに対応させた
餌摂取効果確認フェイズ:ヒナが14日齢になった
強化子は、フィーダーから4s餌を呈示することで
ら、ヒナのキーつつきオペラント反応に及ぼす餌
あった。なお、右キーが刻印刺激の呈示、左キー
摂取の効果を確認するため、餌摂取効果確認フェ
が餌の呈示と対応していたのが#48と#51の 2 羽
イズに移行した。このフェイズは、刻印刺激と餌
であった。対応するキーの位置がこの逆であった
への選択反応を調べる選択場面と、餌を自由に摂
のが、#45と#46、#47の 3 羽であった。
取できる場面の 2 種類の場面から構成された。餌
連続強化セッションでの強化回数は30回であ
摂取可能機会の効果を測定するため、 1 日に選択
り、この強化回数が満たされたら実験を終了し
場面でのテストを 3 回行い、各テストの間に 2 回
た。セッション時間は、最長 1 時間であった。す
の餌摂取可能機会(opportunity for free feeding、
なわち、強化回数が30回に満たなくとも、開始か
以下OPFと略す)を設けた。選択場面の第 1 回目
ら 1 時間経過したら実験を終了した。なお、開始
のテストはベースライン(Baseline、以下BLと略
から30分経過しても反応が 1 回も自発されなかっ
す)として、第 2 回目と第 3 回目のテストはそれ
たら、30分で実験を終了した。餌の呈示を強化子
ぞれ餌摂取可能効果を確認するためのテスト 1 と
としたキーへのキーつつき反応も30回自発され
テスト 2 として行った。すなわち、 1 日の実験デ
たら、次のフェイズへと移行した。ヒナが30回反
ザインはABABAデザインで構成されていた。
応を自発するまで連続強化セッションを行ったの
刻印刺激と餌に対する選択反応を調べる選択場
で、セッション数はヒナによって異なった。左右
面として、同時選択場面と並立強化スケジュール
のキーの訓練を合わせて 4 から 6 セッション要し
の 2 種類の場面を設定した。実施する選択場面は
た。なお、連続強化セッションのセッション間の
日によって異なり、同じ日に行うセッションは同
− 21 −
長谷川 福 子
じ選択場面であった。 2 場面での選択反応を同じ
摂取できる機会を与えた。セッションの時間は 3
被験体内で調べるために、単一被験体法の条件交
分間であった。ヒナが摂を実際に摂取した量を測
替法を参考にして、 2 種類の選択場面を日ごとに
定するために、セッションの前後にヒナの体重と
交互に行った。以下に、 2 つの選択場面の手続き
餌の量を測定した。
について説明する。
ヒナの日齢が14日齢になったときから21日齢に
同時選択場面の手続きは刻印テストと基本的に
なるまで実験を行った。すなわち、全てのヒナが
同じであった。すなわち、刻印刺激と餌を直線走
8 日間このフェイズを経験した。ヒナが21日齢に
路内の両端に直接接触することができないように
なったら、餌摂取効果確認フェイズを終了した。
同時に呈示した。セッション時間は 5 分間であっ
刻印テスト:餌摂取効果確認フェイズ終了後、ヒ
た。直線走路の前面を実験者側の側壁としたと
ナが22日齢のとき、ヒナの赤筒への選好が変化し
き、この前面を背にして右側壁に刻印刺激が呈示
たのかどうかを調べるために、再度刻印テストを
され、左側壁に餌が呈示された個体が#48と#51
行った。手続きは刻印テスト 1 、 2 と同じ手続き
の 2 羽で、刺激の位置がこの逆であったのが#45
で、比較刺激として緑球と餌を用い、それぞれ刻
と#46、#47の 3 羽であった。
印テスト 3 と選択テスト 4 とした。
並立強化スケジュールでは、オペラント実験
箱内にヒナを置き、並立FR1-FR1スケジュールを
結 果
行った。 2 キーのそれぞれに対応した強化子は異
刻印テスト
なり、餌の呈示または刻印刺激の呈示であった。
4 回の刻印テストにおいて、ヒナが赤筒を緑球
餌の呈示の場合、餌摂取可能機会の効果を調べる
または餌よりも選好したのかどうかを調べるた
ために、ヒナが餌を摂取することを防ぐ必要が
め、刻印テストにおける各刺激への滞在時間と相
あったため、フィーダーの開口部にサランラップ
対選択確率の結果をTable 1 に示した。それぞれ
を敷き、ヒナが餌を摂食出来ないようにした。す
の刺激に対する相対選択確率は、各刺激のもとで
なわち、オペラント実験箱のフロントパネルに設
の滞在時間の合計に対する、一方の刺激のもとで
置したフィーダーから餌を視覚的に呈示した。ま
の滞在時間の割合である。
た、刻印刺激の呈示の場合、同時選択場面での刺
餌摂取効果確認フェイズ前の刻印テスト 1 と
激状況と類似した状況を設定するため、刺激を直
2 、餌摂取効果確認フェイズ後の刻印テスト 3 と
線走路内で往復移動させずに静止した状態で呈示
4 において刻印刺激に対する滞在時間が、緑球ま
した。なお、刻印刺激を呈示した位置は、直線走
たは餌への滞在時間と比較して有意に長かったか
路の半分の位置であった。なお、設定された強化
どうか、また餌摂取効果確認フェイズ後の赤筒へ
回数は餌または刻印刺激の呈示を合わせて30回で
の滞在時間が変化したのかどうかを調べるため 2
あり、この強化回数が満たされた時点でセッショ
(テスト)× 2 (刺激)の 2 元配置の分散分析を
ンを終了させた。右キーが刻印刺激の呈示、左
行った。分析の結果、刺激要因の主効果のみ有意
キーが餌の呈示と対応していたのが#48と#51の
であった(F(3, 12)=28.65, p < .01)。そこで、
2 羽で、対応するキーの位置がこの逆であったの
各刺激間に有意な差があるのかどうかを調べるた
が#45と#46、#47の 3 羽であった。並立強化スケ
めBoferroni法で多重比較を行った。結果、刻印
ジュールでのセッション時間も 5 分間であった。
刺激への滞在時間は、緑球に対する滞在時間より
OPFは、オペラント実験箱内で行われた。オ
も有意に長かった(p < .01)。しかし、刻印刺激
ペラント実験箱内のフロントパネルを正面とした
への滞在時間と餌への滞在時間の間に有意な差は
ときの左側壁に餌箱を設置し、ヒナに自由に餌を
示されなかった。すなわち、餌摂取効果確認フェ
− 22 −
刻印刺激と餌の並立強化スケジュールと同時選択場面でのニワトリヒナの選択反応にもたらす餌摂取可能機会設定の効果
Table 1
The duration of chicks’ staying responses near each stimulus and the relative choice probabilities for each
chick in the imprinting tests
Imp test1
Imp test2
Duration (sec)
Probabilities
Duration (sec)
sub.
Imp. Novel
Imp. Novel
Imp.
#45
218.0
0
1.00
0
#46 1148.0
0
1.00
#47
683.0
0
1.00
#48
816.0
0
#51 1038.0
Imp test3
Probabilities
Imp test4
Duration (sec)
Probabilities
Imp. Novel
Imp. Novel
3
1.00
0.00
Food
Imp.
Food
603.0
0
1.00
0
1154
0
945.0
0
1.00
0
1061
0
1.00
0
739.0
0
1.00
0
1139
19
0.98
1.00
0
704.0
0
1.00
0
1158
0
0
1.00
0
1014.0
0
1.00
0
1058
Duration (sec)
Probabilities
Imp.
Food
Imp.
Food
178
998
0.15
0.85
0.00
704
12
0.98
0.02
0.02
1060
0
1
0.00
1.00
0.00
1014
22
0.98
0.02
29
0.97
0.03
988
551
0.64
0.36
M
780.6
0
1.00
0
801.0
0
1.00
0
1114
10.2
0.99
0.01
788.8
317
0.75
0.25
SD
363.5
0
0
0
172.2
0
0
0
50.26
13.1
0.01
0.01
368.9
447
0.37
0.37
Note: Imp. = imprinted stimulus (i.e. the red cylinder); Novel = novel stimulus (i.e. the green ball).
イズを行った後も、緑球を比較刺激とした時、ヒ
に、反応の変化の程度に餌摂取量が関係している
ナは赤筒を有意に選好した。
のかを調べるために、全てのヒナのOPFでの体
重の変化量と、餌と刻印刺激に対する反応または
OPF後の餌の変化量と体重の変化量
滞在時間の変化量の相関係数を算出した。また、
餌の摂取が可能であるOPF時に、ヒナが餌を摂
刻印刺激と餌に対する反応が競合しているのか相
取していたのかどうかを調べるために、OPF前
補的であるのかを明らかにするため、OPF後の
後の餌の変化量と体重の変化量をAPPENDIXの
選択場面での 2 刺激に対する反応の変化量の相関
Table 4 に示した。結果、#46以外の全てのヒナ
係数も算出した。これらの結果をTable 2 にまと
で全OPF後に餌の量が減少し、体重が増加した。
めた。
#46のみ、同時選択場面と並立強化スケジュール
並立強化スケジュールでは#46と#48の 2 羽の
での初めのセッションの 2 回目のOPF後に体重
ヒナが刻印刺激に対する反応を減少させ、#45以
が増加しなかった。
外の 4 羽のヒナが餌に対する反応を減少させた。
同時選択場面では#48のみが刻印刺激への滞在時
並立強化スケジュールと同時選択場面での選択反
間を減少させ、#45と#51、#47の 3 羽のヒナが
応に対するOPFの効果
餌への滞在時間を減少させた。結果、並立スケ
並立強化スケジュールと同時選択場面でのヒナ
ジュールでの餌に対する反応を減少させる効果が
の選択反応がOPF後どのように変化したのかを
認められたが、OPFが刻印刺激と餌に対する反
調べるため、テスト間での各刺激への反応の変化
応にもたらす効果は、選択場面間また個体間で明
の方向を求めた。変化の方向は、各テストでの 2
確ではなかった。
刺激に対する反応の平均値が前のセッションでの
体重の変化量と 2 つの刺激に対する反応の変化
反応の平均値と比較して一貫して減少または増加
量の関係を調べた結果、並立強化スケジュールで
したのかを示す。一貫して減少した場合、表中に
の刻印刺激への反応の変化量と体重の変化量の間
負の符号を示し、一貫して増加した場合、表中に
では、#46と#47の 2 羽のみで負のやや弱い相関
正の符号を示した。一貫した傾向が見られなかっ
が示された。並立強化スケジュールでの餌への反
た場合、表中に何の符号も示さなかった。さら
応の変化量と体重の変化量の間では、#45のみで
− 23 −
長谷川 福 子
Table 2
Results of this experiment
Concurrent
Imp.
Simultaneous
Food
sub.
W
#45
+
0.39
#51
+
0.08
#46
+
#47
+
#48
+
Imp.
change r(W−I) change r(W−F)r(I−F)
−
−
W
Food
change r(W−I) change r(W−F)r(I−F)
−0.71
0.15
+
−0.69
−
0.44
−0.60
−
0.14
−0.07
+
0.19
−
−0.37
−0.34
−0.58
−
−0.17
0.14
+
−0.08
−0.21
−0.81
−0.43
−
0.01
0.44
+
0.31
−0.15
−0.36
−0.25
−
−0.40
0.38
+
0.58
−0.46
−
−0.71
−
Note: W = chicks weight; Imp. = imprinted stimulus (i.e. the red cylinder); I = the amount of change for the response
toward the imprinted stimulus after OPF; F = the amount of change for food after OPF; r = Pearson’s product-moment
correlation coefficient.The deeper shaded correlation coefficient shows a strong correlation, the shaded one shows a
strongish correlation.
負の強い相関、#48のみで負のやや強い相関が示
が示され、#51と#47で、やや弱い負の相関が示
された。また、同時選択場面での刻印刺激への
された。並立強化スケジュールでの 2 刺激に対す
滞在時間の変化量とOPF前後の体重変化量の間
る反応の関係は 5 羽中 2 羽で正の相関で、他の 3
では、#48でのみ負の強い相関、#45でのみ負の
羽では相関関係は認められなかった。一方、同時
やや弱い相関が示された。同時選択場面での餌に
選択場面での 2 刺激に対する反応の関係は 5 羽の
対する滞在時間の変化量と体重の変化量との間で
ヒナ全てで負の相関であった。刻印刺激と餌に対
は、#45と#48の 2 羽で正のやや強い相関が示さ
する反応の関係は選択場面によって異なった。
れた。OPF前後の体重の変化量と刻印刺激また
刻印刺激と餌に対する反応へのOPFの効果は
は餌に対する反応の変化量の関係は、選択場面間
個体間また選択場面間で異なったため、OPF後
また個体間で一貫していなかった。しかし、#45
の反応の推移を個体ごとに調べる。そのために、
と#48の 2 羽で、類似した傾向が示された。この
Figure 3 の右に各刺激に対応したキーに対する平
2 羽では、体重の変化量と並立強化スケジュール
均反応数を、左に各刺激への平均滞在時間を個体
での餌に対する反応、体重の変化量と同時選択場
ごとに示した。横軸にセッション、縦軸に各刺激
面での刻印刺激に対する滞在時間の間に負の相関
に対する平均キーつつき反応数または平均滞在時
が示された。さらに、体重の変化量と同時選択場
間を示した。
面での餌に対する滞在時間の間に正の相関が示さ
#45の場合、並立強化スケジュールでの刻印刺
れた。
激に対する反応は 1 回目のOPF後減少したが 2
2 つの選択場面での刻印刺激に対する反応と餌
回目のOPF後上昇した。餌に対する反応は、 2
に対する反応の関係を調べた結果、並立強化スケ
回のOPFを通して徐々に減少した。BLでは 2 つ
ジュールでの 2 刺激に対する反応の変化量の間に
の刺激に対する反応は同程度であったが、 1 回目
やや強い正の相関が示されたのは#47の 1 羽で、
のテストでは餌刺激に対する反応の方が刻印刺激
#48で、やや弱い正の相関が示された。また、同
に対する反応よりも多かった。 2 回目のテストで
時選択場面での 2 刺激に対する反応の変化量の間
は、刻印刺激に対する反応が餌に対する反応より
に強い負の相関が示されたのは#46の 1 羽のみで
も多かった。一方、同時選択場面では、刻印刺激
あった。#45と#48の 2 羽で、やや強い負の相関
と餌での滞在時間はSDが大きく、テスト間で顕
− 24 −
刻印刺激と餌の並立強化スケジュールと同時選択場面でのニワトリヒナの選択反応にもたらす餌摂取可能機会設定の効果
Test1
350
Test2
100
50
0
BL
#46
Test1
Test2
1st OPF
10
5
Test1
Test2
250
150
100
50
0
350
300
150
100
50
0
350
BL
Test2
Test1
300
Test2
250
150
2nd OPF
10
5
BL
#48
Test1
100
50
0
350
Test2
300
1st OPF
2nd OPF
200
10
5
Imp.
Food
imp food
Test1
BL
Test2
250
15
0
Test1
200
200
20
BL
250
15
0
25
2nd OPF
200
2nd OPF
20
BL
#47
Test2
Imp. food
Food
imp
150
100
50
Imp. food
Food
imp
0
Imp. food
Food
imp
2nd OPF
0
25
2nd OPF
15
Test1
2nd OPF
5
BL
1st OPF
2nd OPF
1st OPF
10
300
1st OPF
Test2
Mean duration of chicks’ staying responses (sec)
Test1
1st OPF
Mean number of chicks’ key-peck responses
BL
#51
0
350
15
20
2nd OPF
150
0
25
Test2
1st OPF
5
200
2nd OPF
1st OPF
10
20
Test1
250
15
25
BL
300
1st OPF
20
BL
#45
1st OPF
25
Imp.food
Food
imp
Imp. food
Food
imp
Stimulus
Figure 3 . Mean number of chicks’ key-peck responses and duration of chicks’ staying responses toward
two stimuli in two choice situations. The horizontal line indicates the stimulus. The vertical
line indicates the mean number of chicks’ key-peck responses and duration of chicks’ staying
responses.
著に変化しなかった。全てのテストで、刻印刺激
回目のOPF後減少した。餌に対する反応は、 2
での滞在時間の方が餌の場合よりも長かった。
回のOPFを通して徐々に減少した。全てのテス
#51の場合、並立強化スケジュールでの刻印刺
トで、餌刺激に対する反応の方が刻印刺激に対す
激に対する反応は、 1 回目のOPF後変化せず 2
る反応よりも多かった。一方、同時選択場面での
− 25 −
長谷川 福 子
刻印刺激に対する滞在時間は、 2 回のOPFを通
したが 2 回目のOPF後わずかに減少した。BLと
してあまり変化しなかった。餌での滞在時間は、
1 回目のテストにおいて、刻印刺激での滞在時間
2 回目のOPF後減少し、 2 回目のOPF後わずか
の方が餌の場合よりも長かった。
に増加した。全てのテストで、刻印刺激での滞在
まず、並立強化スケジュールでの各個体の各刺
時間の方が餌の場合よりも長かった。
激に対するキーへの反応の変化についての結果を
#46の場合、並立強化スケジュールでの刻印刺
まとめる。 1 回目のOPF後、刻印刺激に対する
激に対する反応は、 1 回目のOPF後顕著に減少
#48の反応数は変化しなかったが、#48以外のヒ
し、 2 回目のOPF後わずかに上昇した。餌に対
ナが刻印刺激キーに対する反応数を減少させた。
する反応は、 2 回のOPFを通して徐々に減少し
また、 5 羽のヒナ全てが餌キーに対する反応数
た。BLでは 2 つの刺激に対する反応は同程度で
を減少させた。 2 回目のOPF後、刻印刺激キー
あったが、 1 回目のテストでは、餌刺激に対する
に対する反応数を増加させたのは#45と#51の 2
反応の方が刻印刺激に対する反応よりも多かっ
羽、減少させたのが#48の 1 羽、変化しなかった
た。 2 回目のテストでは、 2 つの刺激に対する反
のが#46と#47であった。餌キーに対する反応数
応は同程度であった。一方、同時選択場面では、
は、 5 羽のヒナ全てで減少した。これらの結果か
刻印刺激と餌での滞在時間はSDが大きく、テス
ら、並立強化スケジュールでの刻印刺激キーと餌
ト間で顕著に変化しなかった。全てのテストで、
キーに対する反応を減少させるという効果が 1 回
刻印刺激での滞在時間の方が餌の場合よりも長
目のOPFにあることが認められた。また 2 回目
かった。
のOPFでも、餌キーに対する反応を減少させる
#47の場合、並立強化スケジュールでの刻印刺
効果が認められた。 2 つの刺激に対する選好をみ
激に対する反応は、 1 回目のOPF後減少し 2 回
ると、#48のみ常に餌を選好したが、#45と#51、
目のOPF後わずかに上昇した。餌に対する反応
#46、#47の 4 羽は 2 回目の 2 刺激に対する選好
は、 2 回のOPFを通して徐々に減少した。BLと
が同程度となった。
1 回目のテストでは、餌刺激に対する反応の方が
次に、同時選択場面での各個体の各刺激に対す
刻印刺激に対する反応よりも多かった。 2 回目の
る滞在時間の変化について結果をまとめる。 1 回
テストでは、 2 つの刺激に対する反応は同程度で
目のOPF後に刻印刺激での滞在時間が増加した
あった。一方、同時選択場面での刻印刺激での滞
のは#47と#51の 2 羽、減少したのが#45と#48の
在時間はSDが大きく、テスト間で顕著に変化し
2 羽、変化しなかったのが#46の 1 羽であった。
なかった。餌での滞在時間は、 2 回目のOPF後
餌 で の 滞 在 時 間 が 増 加 し た の は、#47と#48の
変化しなかったが 2 回目のOPF後減少した。全
2 羽、減少したのが#46と#51の 2 羽、変化しな
てのテストで、刻印刺激での滞在時間の方が餌の
かったのが#45の 1 羽であった。また、 2 回目の
場合よりも長かった。
OPF後に刻印刺激での滞在時間が増加したのが
#48の場合、並立強化スケジュールでの刻印刺
#45の 1 羽、 減少したのが#47と#48の 2 羽、 変
激に対する反応は、 1 回目のOPF後変化せず 2
化しなかったのが#46と#51の 2 羽であった。餌
回目のOPF後減少した。餌に対する反応は、 2
での滞在時間が増加したのが#46と#51の 2 羽、
回のOPFを通して徐々に減少した。全てのテス
減少したのが#45と#47、#48の 3 羽であった。各
トで、餌刺激に対する反応の方が刻印刺激に対す
刺激での平均滞在時間の結果から、同時選択場面
る反応よりも多かった。一方、同時選択場面での
での刻印刺激と餌への滞在時間に及ぼすOPFの
刻印刺激での滞在時間は 2 回目のOPF後に減少
効果は明確ではなかった。 2 つの刺激に対する選
した。餌での滞在時間は、 2 回目のOPF後増加
好をみると、全てのヒナが刻印刺激を餌よりも選
− 26 −
刻印刺激と餌の並立強化スケジュールと同時選択場面でのニワトリヒナの選択反応にもたらす餌摂取可能機会設定の効果
好した。
OPF後に餌キーのみならず刻印刺激キーへの反
応も減少しており、刻印刺激と餌に対する反応は
考 察
相補的であった。すなわち、餌に対する反応と刻
本研究は、刻印刺激と餌の並立強化スケジュー
印刺激に対する反応が同時に抑制されたといえ
ルまたは同時選択場面における、それぞれの刺激
る。これは、Hoffman et al.(1969)が報告した、
に対するニワトリヒナの選択反応に及ぼす餌摂
摂食行動と刻印刺激に対する反応の相補的な関係
取を可能とした機会設定の効果を個体内で調べ
に類似する。 2 つの刺激に対する反応が相補的で
た。そして刻印刺激と餌に対する反応が競合する
ある理由として 3 つの可能性が考えられる。 1 点
のか、または相補的であるのどうかについて調べ
目は、餌摂取により、ヒナの活動性が全体的に低
た。
下した可能性である。しかし、餌の摂取量はBL
本実験の結果、並立強化スケジュールでは、餌
とテストの選択場面の種類に関わらず大きな差は
を摂取可能な機会が刻印刺激と餌に対するヒナの
無かったにも関わらず、同時選択場面でのヒナの
選択反応を減少させる効果を有することが認めら
反応時間はOPF後に大きく変化しなかった。した
れた。しかし、同時選択場面でヒナの選択反応に
がって、ヒナの活動性が低下した可能性は考えに
対する餌摂取可能機会の明確な効果は認められな
くい。 2 点目は、餌と刻印刺激が対呈示され一方
かった。刻印刺激に対する反応と餌に対する反応
の刺激の機能が他方によって刺激の強化価が変化
の関係は、並立強化スケジュールの場合 2 羽のヒ
した可能性である。しかし、本実験では刻印刺激
ナで相補的関係が示されたが、同時選択場面の場
と餌を対呈示することはなかったため、この可能
合、全てのヒナで競合的関係が示された。本実験
性は考えにくい。 3 点目は、刻印刺激と餌がお互
は、ヒナに餌を自由に摂取出来る機会を与え、餌
いの補完財であった可能性である。補完財は、 2
の剥奪化のレベルを間接的に操作することによっ
つの刺激のうち、一方の刺激を得るための要求反
て餌への反応を減少させ、その上で刻印刺激と餌
応数が増加すると、両方の刺激への反応数が減少
の選択場面でのヒナの選択反応の変化を調べる
するという特徴を持つ刺激である(恒松, 2001)。
ことが目的であった。したがって、OPFの効果
しかし、本実験の手続きからは、刻印刺激と餌が
が認められた場面での結果が、本実験の目的に即
それぞれの補完財であったことを示すことは出来
した結果といえる。このことから、並立強化スケ
ない。このことを示すには、刻印刺激の確立操作
ジュールで示された結果の方が、同時選択場面で
が餌への反応に与える影響を調べる必要があるだ
得られた結果よりも刻印刺激と餌の相互的関係を
ろう。
示したといえる。この点を踏まえた上で、本実験
一方、同時選択場面での 2 刺激への反応の関係
の結果に基づき、刻印刺激と餌に対する反応の関
は 5 羽全てのヒナで負の相関であった。OPF後
係、 2 つの選択場面での選択反応に対するOPF
に餌への滞在時間が減少したとき、刻印刺激への
の効果について順に考察する。
滞在時間が増加したといえ、刻印刺激と餌に対す
まず、 2 つの選択場面での刻印刺激と餌に対す
る反応が競合していたと考えられる。すなわち、
る反応が競合するのか、または相補的であったの
餌の呈示によって餌に対する滞在が抑制される一
かどうかについて、 2 つの刺激に対する反応の変
方で、刻印刺激への滞在が促進されたと考えられ
化量の相関係数の結果から考察する。
る。これはFischer(1971)が示した競合的関係
並立強化スケジュールでの 2 刺激に対する反応
に類似する。 2 刺激への反応が競合した理由とし
の関係は 5 羽中 2 羽で正の相関で、他の 3 羽では
てOPFにおける餌の摂取により、餌に対する反
相関関係は認められなかった。前者の 2 羽では、
応が減少し、これに伴って刻印刺激に対する行動
− 27 −
長谷川 福 子
配分が変化したことが考えられる。しかしなが
激と餌に対する反応を減少させる効果が認められ
ら、OPFで餌を摂取させなかったとき、刻印刺
た。以下に、OPF後の並立強化スケジュールで
激と餌に対する反応の変化を調べていないので、
の刻印刺激に対する反応が減少した 2 点の理由
この可能性を結論づけることはできない。よっ
と、餌に対する反応が減少した 2 点の理由につい
て、今後、OPFで餌を摂取させない統制条件を
て考察する。
加えて刻印刺激と餌に対する反応の関係を調べる
並立強化スケジュールでの刻印刺激に対する反
必要があるだろう。
応が減少した 1 点目の理由として、刻印刺激の強
本実験の結果、並立強化スケジュールでの餌と
化子としての機能が十分ではなかったため、刻
刻印刺激に対する反応において相補的関係が示唆
印刺激に対する反応が減少した可能性が挙げら
されたが、同時選択場面での 2 刺激に対する反応
れる。しかし、餌摂取効果確認フェイズの後、緑
は競合していた可能性が示唆された。 2 つの選
球を比較刺激とした刻印テストにおいても、緑球
択場面で、刻印刺激と餌に対する反応の関係が異
よりも赤筒を強く選好したことから、赤筒の強化
なった理由として、選択場面の違いが考えられ
子としての機能が不十分であった可能性は考えに
る。本実験で設定した同時選択場面では、直線走
くい。 2 点目は、刻印刺激に対する反応が消去を
路での選択反応が刻印刺激による制御を強く受
受けていた可能性である。並立強化スケジュール
けていた可能性がある。並立強化スケジュールを
では、自動反応形成やCRF、並立FR1-FR1スケ
行ったオペラント実験箱において、ヒナは刺激を
ジュールのときと異なり、刻印刺激を呈示すると
直接見ることができなかった。一方、本実験で使
きメトロノーム音と動きを同時に呈示しなかっ
用した直線走路では、刻印刺激と餌の両方がヒナ
た。Hoffman and Ratner(1973)によれば、刻印
から見える状況であった。Hoffman and Ratner
刺激の動きはヒナの刻印反応にとって重要な刺激
(1973)は刻印刺激がヒナの接近、追従反応を誘
次元である。動きと音の 2 つの刺激次元を呈示し
発する条件刺激としての機能を獲得することを指
なかったことにより、刻印刺激に対するヒナの反
摘していた。刻印刺激が条件刺激としての機能を
応が消去を受け、減少した可能性が考えられる。
持っているならば、レスポンデント条件づけに
並立強化スケジュールでの餌に対する反応が減
よってヒナの接近、追従反応を誘発するように
少した 1 点目の理由として、OPFでの餌摂取に
なった赤筒が、ヒナの接近反応を誘発した可能性
よって飽和が起こり餌に対する反応が減少した可
が考えられる。この可能性を考慮し、今後は、ヒ
能性が挙げられる。OPF後の体重の変化量の結
ナの反応に刺激を随伴させる状態で刻印刺激と餌
果、ほとんどのヒナが全てのフェイズのOPF後
の関わりを実験的に調べること、すなわちオペラ
に体重を増加させたため、この可能性が考えられ
ント実験箱を使用した実験が望まれる。また、こ
る。また、体重の変化量と餌に対する反応の変化
のことからも、並立強化スケジュールでの結果が
量の関係を調べた結果、 5 羽中 2 羽のヒナで、体
同時選択場面での結果よりも重要であるといえ
重の変化量と餌キーへの反応数に負の相関が示さ
る。
れたので、この 2 羽は、OPFで餌を多く摂取し
次に、OPFが刻印刺激と餌に対する反応に与
たとき並立強化スケジュールで餌キーをつつく回
えた効果について選択場面ごとに考察する。はじ
数が以前のセッションより減少した。しかし、負
めに、並立強化スケジュールにおける刻印刺激と
の相関を示さなかった 2 羽以外のヒナの反応減少
餌に対応するキーへの反応数に対するOPFの効
を餌の飽和によって説明することは難しい。 2 点
果について考察する。各個体の平均反応数の結果
目は、餌に対する反応が消去を受けていた可能性
から、OPFが並立強化スケジュールでの刻印刺
である。並立強化スケジュールでは、餌が提示さ
− 28 −
刻印刺激と餌の並立強化スケジュールと同時選択場面でのニワトリヒナの選択反応にもたらす餌摂取可能機会設定の効果
れるときフィーダー音と光を提示したが、餌はヒ
では餌とヒナの間にメッシュの壁があり、これに
ナに摂食できないようにした。そのため、餌に対
よって餌の摂取は不可能であった。そのため餌へ
するヒナの反応が消去された可能性がある。
の反応が消去を受けていたことになり、これに
以上、並立強化スケジュールでの刻印刺激と餌
よって刻印刺激に長い時間接近、滞在したと考え
への反応が減少した理由として、どちらの反応も
られる。ここで、同じように餌が呈示されても摂
消去された可能性を挙げた。しかしながら、ヒナ
食不可能であった並立強化スケジュールにおい
の反応パターンが消去特有のパターンであったか
て、なぜ餌キーに対する反応が刻印刺激キーに対
は本実験では問題としていなかったため、本実験
する反応よりも多く出現していたのかが問題とな
からはこの可能性を十分に立証できない。今後こ
る。その理由として、OPFがオペラント実験箱
の可能性を調べるために、並立強化スケジュール
内で実施されたことが考えらえる。ヒナはオペラ
でヒナが刺激に直接接触できるような並立強化ス
ント実験箱内で呈示された餌箱内の餌が摂食可能
ケジュールと本実験の結果の比較や、刻印刺激に
であることを経験していたが、直線走路内に呈示
よって強化されていた反応の消去時のパターンを
された餌を摂食することを経験していなかった。
分析する必要がある。
この経験の違いによって、消去時のヒナの餌への
次に、同時選択場面における刻印刺激と餌のも
反応が違ったのかもしれない。よって今後は、餌
とでの滞在時間に対するOPFの効果を、Fischer
を自由に摂食できる場面を、飼育箱内などの実験
(1971)の結果と比較しながら考察する。本実験
場面と関わりのない場面で行う必要があるだろ
では、同時選択場面での刻印刺激や餌への滞在時
う。
間に対するOPFの効果は全ての個体で明確では
2 つの選択場面での 2 刺激に対する反応の関係
なかった。しかし、#45と#48の 2 羽では、体重
が異なった理由を以下にまとめる。並立強化スケ
の変化量と刻印刺激に対する滞在時間の間に負の
ジュールと同時選択場面の選択反応に対する餌摂
相関が示され、さらに体重の変化量と餌に対する
取の機会設定の効果が異なった理由として、①
滞在時間の間に正の相関が示された。
並立強化スケジュールの選択反応が消去されてい
この結果は、刻印刺激と餌に対する反応が競合
た可能性と、②餌摂取可能機会の設定場面と並立
する点ではFischer(1971)の報告と同様であっ
強化スケジュールが同じオペラント実験箱であっ
たが、餌の摂取によって餌への反応が減少しな
たため餌への反応傾向が高くなった可能性、③同
かった点と、刻印刺激での滞在時間が維持された
時選択場面ではヒナの反応が刻印刺激の呈示によ
点で先行研究の報告と異なった。その理由とし
る制御を強く受けていた可能性が考えられた。今
て、 2 点の理由が考えられる。 1 点目に、上述
後、刺激を摂取することが可能で、刺激呈示が反
したが、直線走路での選択反応が刻印刺激によ
応に随伴するオペラント実験箱を用いることが望
る制御を強く受けていた可能性である。Fischer
まれる。
(1971)が使用したT字迷路では、本実験で使用
最後に、本実験の結果と考察をまとめる。本実
したオペラント実験箱のようにヒナには刺激が直
験は、ヒナが餌を摂取すると、刻印刺激と餌に対
接に見えず、ヒナが走路を走る行動に対して刺激
するヒナの選択反応がどのように変化するのかを
の呈示が随伴した。よって今後は、オペラント実
調べ、そしてそれぞれの刺激に対する選択反応が
験箱を使用した実験が望まれる。 2 点目に、餌へ
競合するのかどうかを調べた。本実験の結果、餌
のヒナの接近反応が消去を受けていた可能性であ
を自由に摂取できる機会によって並立強化スケ
る。Fischer(1971)が使用したT字迷路では、餌
ジュールでの刻印刺激と餌に対するヒナの選択反
の摂取が可能であったが、本実験の同時選択場面
応は減少し、 2 刺激に対する反応が相補的である
− 29 −
長谷川 福 子
可能性が示された。一方で、餌を自由に摂取でき
has occurred. Psychonomic Science, 10, 379-380.
る機会が、同時選択場面での刻印刺激と餌への選
Bateson, P. P. G., & Reese, E. P.(1969). The
択反応に与える効果は明確に示されなかった。し
reinforcing properties of conspicuous stimuli in the
かし、刻印刺激と餌への反応が競合的である可能
imprinting situation. Animal Behavior, 17, 692-699.
性が示された。 2 つの選択場面での刻印刺激と餌
Campbell, B. A., & Pickleman, J. R.(1961). The
の関係は異なったが、餌摂取の効果が並立強化ス
imprinting object as a reinforcing stimulus. Journal
ケジュールで示されたことから、刻印刺激と餌は
of Comparative and Physiological Psychology, 54,
相補的関係であるといえる。刻印刺激と餌が相補
592-596.
的関係であることを十分に示すために、今後は刻
Catania, A. C.(1992). Learning. 3rd ed. Englewood
印刺激への確立操作が餌に対する反応にどのよう
Cliffs, NJ: Prentice-Hall.
な影響を与えるのかを調べることが望まれる。
DePaulo, P., & Hoffman, H. S.(1980). The temporal
pattern of attachment behavior in the context of
謝 辞
imprinting. Behavioral and Neural Biology, 28,
本論文を作成するにあたり、懇切丁寧なご指導
48-64.
ならびにご高閲を賜った常磐大学大学院人間科学
DePaulo, P., & Hoffman, H. S.(1981). Reinforcement
研究科、森山哲美教授に深謝いたします。また、
by an imprinting stimulus versus water on simple
本論文を提出するにあたり、ご高閲を賜った常磐
schedules in ducklings. Journal of the Experimental
大学大学院人間科学研究科、伊田政司教授にも深
Analysis of Behavior, 36, 151-169.
謝いたします。
Fischer, G. J.(1971). Developmental changes in chick
approach preference for social and food stimuli.
脚 注
Developmental Psychology, 4, 155-157.
1 刻印テストで、ヒナが一方の刺激(A)の 5 cm以内
長谷川福子・森山哲美(2011).刻印刺激によって強
に滞在した時間が、他方の刺激(B)の 5 cm以内に
化されるオペラント反応と刻印刺激に対する選択反
滞在した時間よりも長く、かつ 2 回のセッションの
応に及ぼす基本的強化スケジュールの効果 常磐研
Aの総滞在時間が 5 分以上で、かつBの総滞在時間
究紀要,5,17-34.
の4倍以上である場合、Aの刺激が選択されたと判断
長谷川福子・森山哲美(2012).刻印刺激によって強
する基準である。本実験の刻印テストの結果、ヒナ
化される回転輪走行反応ならびに刻印刺激に対する
は有意に刻印刺激を選択していたことと、刻印刺激
選択反応に及ぼす基本的強化スケジュールの効果 を強化子とした自動反応形成セッション以降、キー
常磐研究紀要,6,1-13.
つつきオペラント反応を維持していたことから、久
長谷川福子(2013).刻印刺激または餌を強化子とし
保田・森山(2007)の刻印づけに関する基準は妥当
た並立強化スケジュールでの白色レグホンニワトリ
であると考えらえる。
ヒナの選択行動 常磐研究紀要,7,1-33.
Hess, E. H.(1973). Imprinting early experience and
本実験の結果は、第31回日本行動分析学会年次大
the developmental psychobiology of attachment.
会で発表された。
New York: Van Nostrand.
樋口義治・望月昭・森山哲美・佐藤方哉(1976).刻
引用文献
印化・同一化・社会化―トリはトリらしく、サルは
Bateson, P. P. G., & Reese, E. P.(1968). Reinforcing
サルらしく、ヒトはヒトらしく 心理学評論,19,
properties of conspicuous objects before imprinting
249-272.
− 30 −
刻印刺激と餌の並立強化スケジュールと同時選択場面でのニワトリヒナの選択反応にもたらす餌摂取可能機会設定の効果
Hoffman,
H.
S.
&
Ratner,
A.
M.(1973). A
of Human Science, Victimology, and Community
reinforcement model of imprinting: Implications for
Development, 1, 71-79.
socialization in monkeys and men. Psychological
Peterson,
Review, 80, 527-544.
N.(1960). Control
of
behavior
by
presentation of an imprinted stimulus. Science, 132,
Hoffman, H. S., Searle, J. L., Toffey, S., & Kozma, F.
1395-1396.
Jr.(1966). Behavioral control by an imprinted
Petrovich, S. B., & Gewirtz, J. L.(1991). Imprinting
stimulus. Journal of the Experimental Analysis of
and
Behavior, 9, 177-189.
considerations. In J. L. Gewirtz & W. M. Kurtines
Hoffman, H. S., Stratton, J. W., & Newby, B.(1969).
attachment:
Proximate
and
ultimate
(Eds.), Intersections with attachment(pp.69-93).
The control of feeding behavior by an imprinted
Hillsdale, NJ: Erlbaum
stimulus. Journal of the Experimental Analysis of
Schneider S. M., & Lickliter, R.(2010). Choice
Behavior, 12, 847-860.
in quail neonates: The origins of generalized
久保田健・森山哲美(2007).ニワトリのヒナにおけ
matching. Journal of the Experimental Analysis of
る刻印刺激の強化特性―餌の強化特性との直接的比
Behavior, 94, 315-326.
較― 常磐研究紀要,15,99-115.
Skinner, B. F.(1966). The phylogeny and ontogeny
Lorenz, K. C.(1935). Der kumpan in der Umwelt
of behavior. Science, 153, 1205-1213.
des Vogels. Journal fur Ornithologie, 83, 137-213.
Skinner, B. F.(1969). Contingencies of reinforcement:
Lorenz, K. C.(1937). The companion in the bird’s
A
world. Auk, 54, 245-273.
theoretical
analysis.
NY:
Appleton-Century-
Crofts.
森山哲美(1981).ヒヨコの刻印づけにおけるオペラ
Skinner, B. F.(1974). About Behaviorism. NY: Alfred
ント反応の形態ならびにそれと追従反応との関係 A. Knoff.
Sluckin, W.(1973). Imprinting and early learning. 2nd
動物心理学年報,31,1-10.
森山哲美(1997).エサ提示の随伴性における弁別刺
ed. NJ: Transaction.
激としての刻印刺激 常磐大学人間科学紀要,15,
21-26.
Sluckin, W., & Salzen, E. A.(1961). Imprinting
and perceptual learning. Quarterly Journal of
森山哲美(2012).ニワトリのヒナの刻印づけにおけ
Experimental Psychology, 13, 65-77.
る回転輪走行反応の個体発生的随伴性 常磐人間科
鈴木徹・森山哲美(1999).ニワトリヒナの刻印反応
学論究,20,1-25.
の維持に必要な餌強化随伴性 動物心理学研究,
Moriyama, T., & Kubota, T.(2007). The relative
49,139-156.
reinforcing effects of an imprinted stimulus and
恒松 伸(2001).行動経済学における価格と所得の
food on chicks’ operant behaviors. Tokiwa Journal
研究 行動分析学研究,16,106-121.
− 31 −
長谷川 福 子
APPENDIX
Table 3
Raw data for each chick in the experimental phase
Simultaneous choice (sec)
BL
sub.
Imp.
#45
1
2
TEST1
Concurrent choice
TEST2
BL
Food
Imp.
Food
Imp.
Food
308
0
290
0
308
3
4
2
240
0
290
170
6
#46
240
0
0
0
0
Imp.
Food
0
0
0
0
5
0
10
2
7
5
2
21
2
2
1
0
18
21
9
1
2
7
0
1
0
0
7
15
15
5
3
21
0
7
0
1
2
8
3
7
0
0
6
24
2
6
0
0
5
2
0
0
0
19
5
18
7
5
13
1
0
5
8
9
0
0
0
0
12
6
4
0
3
26
5
25
0
0
14
0
0
0
0
3
0
0
1
0
14
0
0
4
0
16
2
28
4
12
16
3
3
2
0
0
0
0
253
46
227
6
276
0
1
9
23
0
0
0
0
3
79
0
0
45
55
0
135
33
56
30
0
152
4
5
23
6
7
9
101
166
236
19
177
8
1
2
158
0
282
0
0
3
4
6
7
0
4
117
76
169
37
0
5
0
11
229
25
155
123
269
8
211
59
270
0
292
6
1
240
0
280
0
244
0
7
3
5
288
0
0
265
0
166
24
286
0
0
4
5
287
0
219
66
0
280
0
256
0
66
189
25
260
6
280
290
0
289
0
290
0
16
6
7
0
11
4
5
0
4
2
3
0
4
8
1
197
1
6
7
0
17
2
#51
Food
8
3
#48
Imp.
12
2
#47
Food
9
7
0
14
15
256
116
10
230
8
TEST3
Imp.
20
5
TEST1
40
7
Note: BL = base line; TEST = choice situation; Imp. = the imprinted stimulus (i.e. the red cylinder).
− 32 −
刻印刺激と餌の並立強化スケジュールと同時選択場面でのニワトリヒナの選択反応にもたらす餌摂取可能機会設定の効果
Table 4
Results of the amount of change for chicks’ weight and those of the responses after OPF in the
experimental phase
#45
1
2
3
4
#46
1
2
3
4
#47
1
2
3
4
#48
1
2
3
4
#51
1
2
3
4
Duration of staying
resps. (sec)
Imp.
Food
W
C
BL→TEST1
BL→TEST2
BL→TEST1
BL→TEST2
BL→TEST1
BL→TEST2
BL→TEST1
BL→TEST2
1.6
0.9
2.4
0.8
3.0
2.4
3.4
1.4
−2.1 −18.0
−0.6
18.0
−3.7
−2.0
−2.5
170.0
−4.6 −240.0
−2.7
0
−4.4 −26.0
−1.5
49.0
0
0
50.0
−290.0
0
0
−40.0
−6.0
1
BL→TEST1
BL→TEST2
BL→TEST1
BL→TEST2
BL→TEST1
BL→TEST2
BL→TEST1
BL→TEST2
1.0
0
2.2
0.3
2.2
1.4
2.8
2.4
−1.6
0
−3.6
−0.1
−1.8
−1.2
−6.2
−3.0
−9.0
0
−79.0
55.0
−79.0
−56.0
135.0
−59.0
−23.0
0
45.0
−45.0
−3.0
122.0
−147.0
−12.0
1
BL→TEST1
BL→TEST2
BL→TEST1
BL→TEST2
BL→TEST1
BL→TEST2
BL→TEST1
BL→TEST2
0.6
0.6
1.0
1.2
1.5
1.5
3.4
2.7
−2.6
124.0
−2.2 −282.0
−2.4
52.0
−1.6 −169.0
−1.8 −74.0
−2.0
114.0
−6.0
59.0
−3.4
22.0
0
0
−39.0
−37.0
98.0
−123.0
−59.0
6.0
1
BL→TEST1
BL→TEST2
BL→TEST1
BL→TEST2
BL→TEST1
BL→TEST2
BL→TEST1
BL→TEST2
0.4
0.2
1.8
1.0
0.1
1.0
1.6
1.2
−0.5
40.0
−0.2 −36.0
−2.4 −288.0
−1.4
0.0
−2.4
120.0
−1.1 −286.0
−2.8 −68.0
−1.4 −219.0
0
0
265.0
−68.0
−24.0
0
66.0
−66.0
1
BL→TEST1
BL→TEST2
BL→TEST1
BL→TEST2
BL→TEST1
BL→TEST2
BL→TEST1
BL→TEST2
0.4
1.4
0.8
0.6
2.0
1.4
2.0
1.8
−0.6 −24.0
−1.4 −190.0
−1.17
1.0
−0.8
20.0
−1.6
−1.0
−1.8
1.0
−2.2
101.0
−2.0
114.0
0
0
−19.0
−6.0
0
0
−246.0
30.0
2
3
4
2
3
4
2
3
4
2
3
4
1
2
3
4
Number of key−
peck resps.
Imp.
Food
W
C
BL→TEST1
BL→TEST2
BL→TEST1
BL→TEST2
BL→TEST1
BL→TEST2
BL→TEST1
BL→TEST2
0.2
0.8
0.4
2.0
2.2
1.2
2.8
1.2
−1.4
−0.4
−3.7
−1.5
−2.7
−2.0
−2.8
−1.4
0
5.0
−18.0
3.0
−7.0
−1.0
9.0
−20.0
0
0
−3.0
−5.0
−19.0
−2.0
−9.0
−7.0
BL→TEST1
BL→TEST2
BL→TEST1
BL→TEST2
BL→TEST1
BL→TEST2
BL→TEST1
BL→TEST2
1.8
0
3.0
1.8
7.6
1.1
2.5
1.5
−2.6
−0.1
−8.3
−2.7
−6.7
−1.3
−5.0
−2.5
−3.0
0.0
−8.0
−10.0
−9.0
0
1.0
−3.0
−26.0
−1.0
8.0
−12.0
−14.0
−6.0
−1.0
−7.0
BL→TEST1
BL→TEST2
BL→TEST1
BL→TEST2
BL→TEST1
BL→TEST2
BL→TEST1
BL→TEST2
1.0
0.6
1.0
0.4
1.5
1.4
2.8
2.2
−1.6
−1.0
−2.4
−1.8
−2.8
−2.2
−5.8
−3.6
−4.0
−2.0
−2.0
−2.0
−6.0
2.0
−16.0
4.0
−18.0
−6.0
−5.0
0.0
−1.0
−13.0
−13.0
8.0
BL→TEST1
BL→TEST2
BL→TEST1
BL→TEST2
BL→TEST1
BL→TEST2
BL→TEST1
BL→TEST2
1.4
0.6
1.5
1.6
1.8
1.5
2.1
1.0
−1.4
−0.6
−2.6
−2.0
−3.7
−2.5
−4.3
−2.0
−5.0
0
5.0
−6.0
1.0
−5.0
−4.0
0
−9.0
0
−8.0
−1.0
−1.0
−25.0
−14.0
0
BL→TEST1
BL→TEST2
BL→TEST1
BL→TEST2
BL→TEST1
BL→TEST2
BL→TEST1
BL→TEST2
1.2
1.0
1.0
1.2
1.6
1.0
2.0
2.6
−1.4
−1.1
−1.2
−1.2
−1.6
−1.8
−2.8
−3.4
−11.0
1.0
−16.0
4.0
−12.0
2.0
−4.0
−1.0
−3.0
0.0
−14.0
0.0
12.0
−16.0
−13.0
−3.0
Note: BL = base line; TEST = choice situation; W = chicks’ weight; C = the amount of change for food after OPF; Imp. =
imprinted stimulus (i.e. the red cylinder).
− 33 −
常磐大学大学院学術論究 創刊号 2014.3
Scientific Journal of Tokiwa University Graduate School
No.1 Mar. 2014
原著論文
CMCとFtFにおける大学生の言語行動に対する
行動分析学的検討
1)
2)
竹 内 友 紀 子・森 山 哲 美
2013年 7 月18日受付,2013年10月22日受理
Abstract:The present study aimed to compare the effects of two kinds of communication modes on
female university students verbal behaviors. The two kinds of communication modes were computermediated communication (CMC) and face-to-face communication (FtF). The participants were five
female university students and they were paired and exposed to the two communication modes. The
topic of each communication came from a picture book. The dependent variables were the participants
verbal behaviors during each of the communication modes. The verbal behaviors were analyzed based
on Skinner s viewpoint on human verbal behaviors. The results showed that the communication modes
evoked much verbal behaviors of each participant based on her partner s verbal issues irrelevant to the
content of the picture book. The number of words per statement was the same in the two communication
modes; however, the number of conversation cycles and that of topics of the participants conversations
in CMC were fewer than in FtF. Although in CMC the participants reported their impression about the
picture book, they reported issues irrelevant to the picture book in FtF. In conclusion, analyzing verbal
behaviors during the communication modes is an efficient way for understanding specific effects of the
communication modes on human behaviors.
Key words:CMC, FtF, verbal behavior, behavior analysis, university students
以下、SNS)などがある。 具体的に行われるコ
問題と目的
ミュニケーションとして、メールやチャットでは
コンピュータや携帯電話などインターネットに
文章のやり取り、インターネット電話では音声に
接続可能な電子機器が普及し、多くの人々がそ
よる会話、SNSでは投稿や書き込みなどが見られ
れらの電子機器を容易に手にする環境になった
る。網野・松村(2009)によれば、CMCには次の
今、インターネットを介するコミュニケーション
五つの特徴があるとされる。すなわち、CMCは、
が世界中で広く行われている。このコミュニケー
①多角的なメディアではなく無駄のないメディア
ションは、コンピュータ介在コミュニケーショ
(King, 1996)であり、②匿名性が高く、③書き言
ン(computer-mediated communication; 以下、
葉と話し言葉とも違う言語構造を持っており、④
CMC)と呼ばれる。CMCには、メールやチャッ
telepresenceを創り出し、⑤タイミングを重要と
ト、skypeなどのインターネット電話、あるいは
する、という特徴を持っている。これらの特徴は、
FacebookやLineなどのソーシャル・ネットワー
人間が本来行ってきた他者と直接会って話すと
キング・サービス(social networking service;
いう対面コミュニケーション(Face to Face; 以
1 )Yukiko Takeuchi:常磐大学大学院人間科学研究科修士課程
2 )Tetsumi Moriyama:常磐大学大学院人間科学研究科研究指導教授
− 35 −
竹 内 友紀子・森 山 哲 美
下、FtF)との対比によって述べられている。し
立っているにも関わらず、CMCにおいてどのよ
たがって、CMCとFtFが持つ特徴が異なるので
うな言語行動が行われているかを調べた研究の数
あれば、CMCが人間の行動に及ぼす影響もFtF
は多くない。その中で、網野・松村(2009)や松
とは異なると考えられる。
村・三浦・柴内・大澤・石塚(2004)、笠木・大
CMCが人間の行動に及ぼす影響を調べた研究
坊(2003)や佐藤・吉田(2008)の研究は、CMC
は、コンピュータ・サイエンス、言語学、社会
での言語行動を調べた研究といえるだろう。
学、そしてコミュニケーション・メディア論など
網野・ 松村(2009)は、CMCにおける談話の
多くの領域にまたがっている。心理学では、特に
ターンテイキングの様相を調べ、FtFにおける様
社会心理学で多くの研究が行われている。CMC
相との違いを分析している。Yahooのチャットで
の効果をFtFとの比較で検討した初期の研究の一
やりとりされた会話を抽出し、対面会話のテキス
つにKiesler, Siegel, & McGuire(1984)がある。
トデータと比較している。CMCにおけるターン
彼らは、大学生 3 人ずつを集団にして、それぞれ
を「発話者が、キー入力をして、enterキーを押
の集団にFtFと匿名性のCMC、非匿名性のCMC
して、画面に表示した 1 回のメッセージ」と定義
の三つの文脈で意思決定が難しい課題(choice-
した。その結果、CMCでの発話者はターンを短
dilemma problems)を行わせた。そして、どの
くして他者に発言を譲り、他者の反応の多くを取
文脈において、成員間のコミュニケーションが円
り入れる傾向があることを明らかにした。
滑に行われ、課題への参加が促されるのか、ま
一方、松村他(2004)は、「 2 ちゃんねる」が盛
た、成員間の対人関係や、集団の意志決定が速
り上がるダイナミズムを調べるために、「 2 ちゃ
やかに行われるのかを実験的に調べた。その結
んねる」の言語コミュニケーション特徴に着目し
果、CMCでは、FtFに比べて成員が平等になる
た。そして、「 2 ちゃんねる」利用者の掲示板の
傾向があり、抑制的でない発言が多く、意志決定
トップページのスレッドをサンプルにして、そこ
までに選択のシフト(成員間の同意が得られる
でのメッセージサイズ、投稿数、返信率、投稿の
までに時間がかかる)が起こることを明らかにし
早さ、定型的表現技法(「 2 ちゃんねる」特有の
た。Kiesler et al.(1984)以降、CMCが人の行動
言語で、誤字脱字や当て字、変換、流行語、新
に及ぼす影響を調べた心理学的研究は多く行わ
語、アスキーアートなどを用いる技法)といった、
れている。それらは、利用者の個人特性とCMC
言語行動を調べている。その結果、「定型的表現
の関係を調べたもの(都築・木村・松井,2005;
技法」が、「 2 ちゃんねる」利用者の議論を深化さ
岡本・高橋、2006; 佐藤・日比野・吉田,2010)
せていることが明らかとなった。
や、CMC上での相手の印象を調べたもの(Okdie,
そして、笠木・大坊(2003)は、CMC(チャッ
Guadagno, Bernieri, Geers, & Mclarney-Vesotski,
ト)とFtFのそれぞれにおけるコミュニケーショ
2011)
、CMCが利用者同士の相互作用にもたらす
ン特徴を明らかにするために、大学生と大学院生
効果を調べたもの(佐々木・八田・大渕, 2004)、
の40名にCMCとFtFの両条件を経験させ、それぞ
さ ら に、 課 題 従 事 や 意 思 決 定 あ る い は チ ー ム
れのコミュニケーション形態における彼らの発言
ワークに及ぼすCMCの効果(木村・都築, 1998;
量と他者への印象を調べた。その結果、発言量は
Martinez-Moreno, Zornoza, Gonzalez-Navarro, &
二つのコミュニケーション形態の間で差が見られ
Thompson, 2012)や、臨床的効果を検討したも
なかったが、他者への親しみやすさや、活発さ、
の(Markovitzky, Anholt, & Lipsitz, 2012)など
軽薄さといった印象が、CMCよりもFtFで強く
がある。
感じられることが明らかになった。さらに、FtF
しかし、CMCが言語のやりとりによって成り
では他者の発言に相槌などの返答が行われる傾向
− 36 −
CMCとFtFにおける大学生の言語行動に対する行動分析学的検討
があるが、CMCでは自己開示的な返答が行われ
言語行動の行動分析学的視点として、筆者らは
る傾向があることを明らかにした。
Skinner(1957)の「言語行動の機能的分析」に着
佐藤・吉田(2008)は、自分と他者の匿名性が、
目する。Skinner(1957)によれば、人の言語行
CMCにおける女子大学生の自己開示に及ぼす効
動は、同じ言語共同体の他の成員のオペラント
果を調べた。彼らは、参加者自身と他者(参加者
行動によって強化されるオペラント行動である。
の相手)の匿名性を操作するために、CMC画面に
Skinner(1957)以 降、 当 初 の 行 動 分 析 学 で は、
提示される参加者自身や相手の顔写真あるいは基
「言語行動の機能的分析」は思弁的に行われた。
本情報を操作した。その上で参加者たちにチャッ
その後、言語行動の基礎的な研究の成果が蓄積さ
トを行わせ、CMCにおける彼女たちの会話ログ
れることによって、人の言語行動は三項随伴性で
の結果を分析した。その結果、自分に関する情報
説明できるオペラント行動であるというSkinner
が匿名のときは、非匿名のときと比べて、相手と
(1957)の視点が実証された。すなわち、弁別刺
関わるときの参加者たちの不安感は減少し、他者
激、オペラント行動としての言語行動、さらにそ
に関する情報が匿名のときは、非匿名のときと比
の行動を維持する強化刺激の三項によって言語行
べて、相手に対する親密度は感じられにくく、内
動は説明される。つまり言語行動は、言語行動に
面的な自己開示が抑制される傾向が示された。
前後する環境変数によって機能的に説明される。
CMCにおける言語行動を調べた上記の研究で
Skinner(1957)は、ほとんどすべての文化の
は、CMCで使用される言語の量や言語の表現技
言語行動は、マンド(要求語)、タクト(報告語)、
法といった「言語の構造的分析」を行ったもの
エコーイック(反響語)、テクスチャル(音読)、
や、CMCでの自己開示といった言語の機能を調
トランスクリプション(書き写し)、ディクテー
べたものがほとんどである。後述する行動分析学
ション・テイキング(聞き取り)、イントラヴァー
の視点に基づく言語行動の分析では、環境変数と
バル(言語間制御)といった基本的言語行動と、
多様な言語行動の機能を分析することが可能で
オートクリティックといった二次的言語行動に分
ある。その視点からすると、CMCにおいてどの
類されると提唱した。いずれの言語行動も、弁別
ような言語行動が行われているか、CMCの特徴
刺激、そして強化刺激によって機能的に説明され
と、CMCにおける多様な言語行動との機能的な
る。このようなSkinnerの「言語行動の機能的分
関係に着目した検討は上記の研究において十分に
析」の視点でCMCにおける個人の言語行動を調
行われているとは言えない。また、上記の研究
べることによって、CMCが人間の行動に及ぼす
は、複数の参加者の言語行動を統計的に分析して
影響を従来の研究と異なる視点から調べることが
おり、CMCを行う一人一人の言語行動を分析し
できるだろう。
ていない。コミュニケーション行動の最小単位は
CMCは、コンピュータという道具を介したコ
1 対 1 の二者間で展開する行動(O’Donohue &
ミュニケーションである以上、人間の行動によっ
Ferguson, 2001)であることを考えるなら、個々
て成り立つコミュニケーションである。そうで
の参加者の言語行動こそ分析される必要があるだ
あれば、CMCが最早私たちにとって欠くことの
ろう。
できないコミュニケーション形態となっている現
以上の理由から、CMCの特徴が人の行動に及
代、そこで生活する人々の行動を科学的な視点で
ぼす影響を調べるためには、CMCの利用者の言
分析することが求められる。行動分析学は、人や
語行動を行動分析学の機能的視点から分析し、加
動物の行動を彼らの生活環境との機能的な関わり
えて利用者個人の言語行動を調べる必要があると
から分析する行動の科学である。しかし、この分
考えられる。
野でCMCにおける人間の言語行動を調べた研究
− 37 −
竹 内 友紀子・森 山 哲 美
実験計画
はない。
そ こ で 本 研 究 は、 行 動 分 析 学 の 視 点 か ら、
参加者内実験計画に基づいて実験を行った。各
CMCにおける個人の言語行動をFtFにおける言
参加者に対して、独立変数である二つのコミュ
語行動と比較して調べることを目的とする。行動
ニケーション形態(CMCとFtF)が実施された。
分析学の視点によって人間の行動と、CMC環境
CMCは携帯電話またはスマートフォンを使用し
ひいては生活環境との機能的な関係が明らかにな
て行われ、FtFは教室での直接対面で行われた。
れば、CMCとFtFの二つのコミュニケーション形
それぞれの詳細なコミュニケーションに関しては
態に対する適切な関わり方を提言できるだろう。
手続きで述べる。CMCの後にFtFを行う参加者
と、FtFの後にCMCを行う参加者に分け、二つ
方 法
のコミュニケーション形態を実施する順序を参加
参加者と実験協力者
者間でカウンターバランスした。
本実験は、実験協力者によって実施された。こ
なお、各コミュニケーション形態における各参
れは参加者のコミュニケーション相手を統制する
加者の言語行動を従属変数とした。言語行動は、
ため、第一筆者が参加者のコミュニケーション相
単位時間( 1 分間)当たりの会話サイクル数(以
手になったからである。第一筆者は、自分が本来
下、会話サイクル率)と、単位時間( 1 分間)当
の実験者であることを参加者に伏せて、偽の参加
たりの話題数(以下、話題率)、総発言回数に対
者として真の参加者とペアを組んだ。真の参加者
する使用単語数(以下、使用単語確率)、総発言
は女子大学生 5 名であった。第一筆者の代わりに
回数に対する能動的発言回数および受動的発言回
実験を遂行した実験協力者は、大学 4 年生の22歳
数(それぞれの発言確率)、六つの言語クラスの
の女性 1 名であった。
出現確率、といった五つの指標で測定された。
他者に対する親密度の違いが実験の結果に影響
する可能性をできる限り排除するため、また二つ
実験機器・材料
のコミュニケーション形態が与える影響だけを明
携帯電話とスマートフォン CMCでは、各参加
確にするため、全ての参加者を第一筆者と面識が
者が所持していた携帯電話またはスマートフォン
ない者にした。そして、実験は、各参加者が第一
を使用した。参加者 5 名のうち 3 名がスマート
筆者とペアとなって行われた。性差や年齢差が剰
フォンを、 2 名が携帯電話を普段使用していた。
余変数になることを防ぐため、全ての参加者はペ
CMC用掲示板 本研究のCMCは、掲示板形式の
アとなる第一筆者と同じ性別ならびに同じ年齢で
SNSを利用した場合を想定したものであった。そ
ある22歳の女性とした。
のため本実験のCMCでは、掲示板への書き込み
各参加者には、実験開始前に、本実験の内容と
形式でコミュニケーションを行わせた。インター
注意事項、ならびに筆者の誓約を記したブリー
ネット上の無料ホームページ作成サービスを利用
フィング用紙を提示して、実験協力者が実験につ
し、本研究専用のホームページを開設した。そ
いての説明を行った。参加者からは実験参加にあ
のホームページの機能によって、実験用の掲示
たって書面にて同意をとった。実験終了後にはデ
板(BBSノーマル;記事一覧型)を作成した。そ
ブリーフィングを行った。参加者 5 名(A、B、C、
れぞれの参加者に一つずつ掲示板を指定した。そ
D、E、F)のうち 2 名(参加者AとE)を後述の
の掲示板に各参加者が意見などを書き込むことで
CF群に、残りの 3 名(参加者B、C、D)をFC群
第一筆者とのコミュニケーションが行われた。実
に振り分けた。
験中の掲示板を他の参加者が閲覧できないように
するため、それぞれにパスワードを設定した。実
− 38 −
CMCとFtFにおける大学生の言語行動に対する行動分析学的検討
験終了後、参加者が書き込みを編集できないよう
は、参加者と第一筆者は机を挟んでL字型になる
にするため、掲示板のパスワードを筆者らだけが
ように着席した。この位置はどの参加者の場合も
アクセスできるものに変更した。なお、実験関係
同じであった。
者以外の者がホームページへアクセスすることを
手続き
防ぐため、トップページにもパスワードを設定し
た。
参加者と第一筆者の 2 人がペアとなり、ペアご
絵本 本実験では、 1 冊の絵本の内容を参加者と
とに実験を行った。ペアの相手が実験者であると
第一筆者のコミュニケーション時の共通テーマと
いう認識が実験結果に影響する可能性を防ぐた
した。使用した絵本は(Silverstein,1964 村上
め、参加者にはパートナーも参加者であると偽っ
訳2010)の「おおきな木」で、絵本のコピーを 2
て実験を進めた。実験は、実験の概要を知ってい
部用意し、参加者と第一筆者がそれぞれ 1 部ずつ
る実験協力者が実施した。
所持した。この絵本を実験材料とした理由は、文
まず教室Aに参加者だけを誘導し、実験協力者
章が簡単で読みやすく、読む人によって異なる感
が挨拶をした。そして、実験協力者は、用意した
想を持たれる可能性があり、この内容についての
ブリーフィング用紙と同意書を参加者に渡した。
意見交換が行われやすいと考えられたためであ
実験協力者は、参加者にブリーフィング用紙を見
る。
るように促しながら本実験の概要を説明し、注意
同意書等 ブリーフィングのために、本実験の説
事項と誓約を述べて、参加者に同意書に署名する
明と注意事項ならびに筆者らの誓約を記したブ
ように求めた。署名された同意書は実験協力者が
リーフィング用紙を作成した。実験参加への参加
回収した。
者の同意を確認するために同意書も作成した。た
続いて実験協力者は、参加者に絵本「おおき
だし、実験開始前のブリーフィングの内容が実験
な木」(Silverstein, 1964 村上訳2010)を読ませ、
結果に影響する可能性を防ぐため、ブリーフィン
「ゆっくり読んで内容を理解するようにしてくだ
グの時点では実験の説明を省略し、第一筆者が参
さい。」と参加者に教示した。絵本は実験終了ま
加者であると偽る必要があった。実験終了後に、
で参加者に渡したままにし、CMCとFtFのとき
参加者には実験の真の目的やカバーストーリーを
にも参加者が読めるようにした。参加者が絵本を
明らかにした。そのためのデブリーフィング用紙
読み終わった後、実験協力者は参加者を教室Bへ
も作成した。
誘導した。
機器類 実験時間を管理するためタイマーを一つ
参加者が教室Bに入室した後、第一筆者も教室
用意した。FtFにおける実験中の会話を録音する
Bに入室した。参加者と第一筆者は、この初めて
ためICレコーダー(SONY、ICD-UX71)を使用
の対面で互いに名前と学年と所属について紹介
した。また、実験中の参加者の行動を記録するた
し、その後、第一筆者はA室とB室とは異なる部
めビデオカメラ(SONY、HDR-HC9)も使用した。
屋に移動し、参加者だけが教室Aに移動した。
CF群 の 参 加 者 は、CMCの 後 でFtFを 実 施 し、
実験場所・場面
FC群の参加者はその逆を実施した。どちらのコ
実験にはT大学の二つの教室(AとB)を使用し
ミュニケーションも実施時間は10分間で、教室B
た。実験中、参加者はこの二つの教室を行き来し
で行われた。
た。教室Aで参加者は実験の説明を受け、絵本を
コミュニケーショ中、第一筆者は参加者の発言
読んだ。教室Bでは、コミュニケーション相手と
に対して批判したり、否定したりすることはせ
なる第一筆者とCMCおよびFtFを行った。FtFで
ず、同意したりして肯定的な立場をとった。第
− 39 −
竹 内 友紀子・森 山 哲 美
一筆者は、本実験前に参加者以外の人でCMCと
コミュニケーション形態実施時の会話サイクル
FtFにおける発言を練習した。そして、本実験で
率、話題率、能動的発言と受動的発言のそれぞれ
は、第一筆者は各参加者ならびに二つのコミュニ
の発言確率、使用単語確率、 6 種類の言語クラス
ケーション間で参加者への対応ができる限り異な
の出現確率の五つの指標にして分析した。
らないように振る舞った。
なお、参加者Bと参加者CのCMCでの言語行動
各参加者は、CMCで自分の携帯電話もしくは
では次のような問題点がみられた。参加者Bの場
スマートフォンで掲示板を利用して第一筆者と絵
合、参加者自身の携帯電話の操作ミスによって同
本についての意見を交換した。コミュニケーショ
じ発言が複数回生起した。これに対しては、一方
ン開始前に実験協力者は、次の 3 項目を参加者に
を削除した。また、参加者Cの場合、二つの話題
教示した。
(1)実験者が退室してから指定された
が交錯し、それに対する参加者と第一筆者の受け
掲示板を利用して、参加者とやりとりすること、
答えが前後し、一見話がかみ合わないようなやり
(2)絵本についてパートナーとやりとりしなが
取りがあった。それらの操作ミスによるデータに
ら、お互いを知ることができるように絵本以外の
対する処理は、指標ごとに異なるので、以下のそ
ことも自由にやりとりすること、(3)10分間やり
れぞれの指標のところで説明する。
とりが続くようにできるだけ積極的に掲示板に書
会話サイクル率
き込むこと、であった。10分経過後、実験協力者
は、CMCでの参加者と第一筆者のやりとりを中
CMCにおける掲示板への書き込み、およびFtF
断させた。
における会話の中で参加者と第一筆者の相互の発
一方FtFでは、参加者と第一筆者が対面して、
言が終わったところで 1 会話サイクルとした。例
10分間会話した。FtFの前に実験協力者が行った
えば、一方が発言し、他方がそれに答えた場合、
教示は、掲示板に関することを除いてCMCの教
ここで1サイクルの終了とした。後者の回答に前
示と同様であった。なお実験協力者は、実験中の
者が発言した場合が 2 サイクル目となる。各コ
会話をICレコーダーで録音し、ビデオカメラに
ミュニケーション形態実施中に生起した会話サイ
よる録画も行った。10分経過後、実験協力者は、
クル数を測定して、単位時間( 1 分)あたりの会
FtFでの参加者と第一筆者のやりとりを中断させ
話サイクル数(会話サイクル率;回/分)を求め
た。
た。参加者BとCのCMCでは上記の問題が起こっ
各群において二つのコミュニケーションが終了
たので、参加者Bの言語行動を分析する際は、重
した後、教室Aで第一筆者がデブリーフィングを
複した発言を除外した。参加者Cの言語行動を分
行った。その内容は、実験者が実験協力者であっ
析する際は、一方の発言に対して、他方が同じ話
たこと、コミュニケーションの相手が、参加者で
題に関する答えをした場合を 1 サイクルとした。
はなく真の実験者であったことを明かし、本来の
図 1 に各群の各参加者の二つのコミュニケーショ
研究目的を説明した。
ン形態における会話サイクル率を示した。左側が
CF群の 2 名、右側がFC群の 3 名の結果である。
結 果
CF群の参加者AのCMCにおける会話サイクル
まずFtFでの各参加者の発言を逐語記録におこ
率は0.30回/分、FtFにおける会話サイクル率は
した。その上で、CMCで記録された書き込みと、
13.20回/分であった。参加者EのCMCにおける会
FtFの逐語記録のそれぞれを各コミュニケーショ
話サイクル率は0.20回/分、FtFにおける会話サ
ン形態における言語行動の産物とし、これを参加
イクル率は11.40回/分であった。一方、FC群の
者内比較で分析した。各参加者の言語行動は、各
参加者BのCMCにおける会話サイクル率は0.40回
− 40 −
CMCとFtFにおける大学生の言語行動に対する行動分析学的検討
ᵤᵡ፭
ᵡᵤ፭
16
ෳട⠪B
12
ෳട⠪A
16
义
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CMC
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0
CMC
16
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12
FtF
8
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4
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8
16
4
12
CMC
0
CMC
FtF
FtF
ෳട⠪D
8
4
0
CMC
FtF
䉮䊚䊠䊆䉬䊷䉲䊢䊮ᒻᘒ
図 1 .各群の各参加者の二つのコミュニケーション形態における会話サイクル率
/分、FtFにおける会話サイクル率は8.60回/分で
者の二つのコミュニケーション形態における話題
あった。参加者CのCMCにおける会話サイクル
率を示した。図の見方は図 1 と同じである。
率は0.50回/分、FtFにおける会話サイクル率は
CF群の参加者AのCMCにおける話題率は0.30
14.20回/分であった。参加者DのCMCにおける会
個/分、FtFにおける話題率は1.30個/分、参加者
話サイクル率は0.40回/分、FtFにおける会話サイ
EはCMCにおける話題率は0.20個/分、FtFにおけ
クル率は9.40回/分であった。CF群とFC群の両群
る話題率は0.90個/分であった。一方、FC群の参
において、CMCにおける会話サイクル率の方が
加者BのCMCにおける話題率は0.50個/分、FtFに
FtFにおける会話サイクル率よりも低かった。し
おける話題率は1.20個/分、参加者CのCMCにお
たがって、CMCの方がFtFよりも、一つの会話
ける話題率は0.30個/分、FtFにおける話題率は
サイクルの遂行が遅く、会話の数も少ないことが
1.70個/分、参加者DのCMCにおける話題率は0.20
示された。
個/分、FtFにおける話題率は1.40個/分であった。
以上の結果から、どちらの群もCMCの方がFtFよ
話題率
りも話題率が低く、 1 分間に0.5個に満たなかっ
CMCのやりとりやFtFの会話中に発言された
た。このことから、CMCではFtFと比べて話題
話題の数を話題数とし、単位時間( 1 分)あたり
の変化が少ないことが明らかになった。
の話題数(話題率;個/分)を求めた。会話サイ
使用単語確率
クルのときと同様に、参加者Bの重複した発言は
除外し、参加者Cの交錯する言語行動については
掲示板への書き込みや会話の逐語記録を形態素
一方の発言に対して他方が同じ話題に関して答え
解析ツール(Chasen2.3.3 for Windows)を利用し
た場合に一つの話題とした。図 2 に各群の各参加
て単語に分かち書きした。主に品詞によって、す
− 41 −
竹 内 友紀子・森 山 哲 美
ᵤᵡ፭
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2
ෳട⠪B
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CMC
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FtF
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CMC
1
FtF
0.5
0
CMC
FtF
䉮䊚䊠䊆䉬䊷䉲䊢䊮ᒻᘒ
図 2 .各群の各参加者の二つのコミュニケーション形態における話題率
なわち名詞、助詞、助動詞、形容詞、形容動詞、
のCMCにおける使用単語確率は33.00語/回、FtF
副詞、接続詞、動詞のいずれかに分類し、それぞ
における使用単語確率は15.86語/回、参加者Cは
れを一つの単語とした。ただし、複数の品詞から
CMCで21.67語/回、FtFで9.81語/回、参加者Dは
なる複合語であっても日常的に一つの言葉として
CMCで19.33語/回、FtFで20.31語/回 で あ っ た 。
使われているものは一つの単語とした(例えば、
これらの結果から、CF群の 2 名とFC群の参加者
「大好き」という言葉は「大」という名詞と「好き」
Dは、CMCとFtFでの使用単語率に大きな差はな
という形容動詞語幹の二つの品詞で構成される
かったが、FC群の参加者BとCではCMCの方が
が、これを一つの単語とした)。なお、CMCにお
FtFより使用単語確率が高いことが明らかになっ
ける句読点ないし顔文字は含まないものとした。
た。
各コミュニケーション形態における参加者の発言
発言確率
回数に対する使用単語数、すなわち使用単語確
率(語/回)を求めた。参加者Bは重複した発言の
参加者の発言のうち、参加者自身が話題を展開
み除外した。参加者Cは話題が交錯しただけなの
したり、独り言を発したりした回数を能動的発言
で、他の参加者と同様に使用単語確率を求めた。
回数とした。また、コミュニケーションの相手で
図 3 に各群の各参加者の二つのコミュニケーショ
ある第一筆者の問いかけや発言に対して参加者
ン形態における使用単語確率を示した。
が発言したり、第一筆者の言葉を繰り返したりし
CF群の参加者AのCMCにおける使用単語確率
た発言は受動的発言とした。参加者が発言した全
は29.00語/回、FtFにおける使用単語確率は23.01
ての回数を総発言回数とし、総発言回数に対する
語/回であった。参加者EのCMCにおける使用単
各参加者の能動的・受動的発言回数のそれぞれの
語確率は15.00語/回、FtFにおける使用単語確率
割合を求めた。総発言回数に対して、能動的発言
は15.91語/回であった。 一方、FC群の参加者B
回数の割合を求めたものを能動的発言確率、受動
− 42 −
CMCとFtFにおける大学生の言語行動に対する行動分析学的検討
ᵤᵡ፭
ᵡᵤ፭
义
૶
↪
න
⺆
⏕
₸
乊
⺆
䋯
࿁
ෳട⠪A
35
30
25
20
15
10
5
0
35
30
25
20
15
10
5
0
ෳട⠪B
CMC
CMC
35
30
25
20
15
10
5
0
FtF
ෳട⠪E
CMC
FtF
FtF
35
30
25
20
15
10
5
0
ෳട⠪C
CMC
35
30
25
20
15
10
5
0
FtF
ෳട⠪D
CMC
FtF
䉮䊚䊠䊆䉬䊷䉲䊢䊮ᒻᘒ
図 3 .各群の各参加者の二つのコミュニケーション形態における使用単語確率
的発言の割合を求めたものを受動的発言確率とし
であった。
た。図 4 に各群の各参加者の二つのコミュニケー
受動的発言確率 CF群の参加者AのCMCにおけ
ション形態における発言確率を示した。なお、能
る受動的発言確率は0.00、FtFにおける受動的発
動的発言と受動的発言のどちらにも分類されない
言確率は0.30であった。参加者EのCMCにおける
発言の確率は、その他として求めた。その他の
受動的発言確率は0.50、FtFにおける受動的発言
範疇は参加者Aと参加者Cだけに見られ、その確
確率は0.30であった。FC群の参加者BのCMCに
率はそれぞれ0.03と0.04であったため、図示しな
おける受動的発言確率は0.50、FtFにおける受動
かった。参加者Bの言語行動を分析する際、重複
的発言確率は0.61であった。参加者CのCMCにお
する発言を除外した。参加者Cは話題が交錯した
ける受動的発言確率は0.67、FtFにおける受動的
だけなので、他の参加者と同様に発言確率を求め
発言確率は0.40であった。参加者DのCMCにおけ
た。
る受動的発言確率は0.67、FtFにおける受動的発
能動的発言確率 CF群の参加者AのCMCにおけ
言確率は0.35であった。
る能動的発言確率は1.00、FtFにおける能動的発
二つの発言確率の結果をまとめると、CMCに
言確率は0.68、参加者EのCMCにおける能動的発
おいて能動的発言確率の方が受動的発言確率より
言確率は0.50、FtFにおける能動的発言確率は0.70
高かった参加者は参加者Aのみであり、他は両確
であった。FC群の参加者BのCMCにおける能動
率がほぼ等しい(参加者BとE)か、受動的発言
的発言確率は0.50、FtFにおける能動的発言確率
確率の方が高かった(参加者CとD)。一方、FtF
は0.39であった。参加者CのCMCにおける能動的
では、能動的発言確率の方が受動的発言確率より
発言確率は0.33、FtFにおける能動的発言確率は
も高かった参加者は 4 名(参加者A、C、D、E)
0.57であった。参加者DのCMCにおける能動的発
で、その逆は 1 名だけであった(参加者B)。
言確率は0.33、FtFにおける能動的発言確率は0.65
− 43 −
竹 内 友紀子・森 山 哲 美
ᵤᵡ፭
ᵡᵤ፭
⊒
⸒
⏕
₸
ෳട⠪A
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
ෳട⠪B
CMC
CMC
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
FtF
ෳട⠪E
CMC
ෳട⠪C
CMC
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
FtF
䂓 ⢻േ⊛⊒⸒
䂔 ฃേ⊛⊒⸒
FtF
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
FtF
ෳട⠪D
CMC
FtF
䉮䊚䊠䊆䉬䊷䉲䊢䊮ᒻᘒ
図 4 .各群の各参加者の二つのコミュニケーション形態における発言確率
言語クラスの出現確率
に言語クラスを求めた。なお、個々の言語行動が
参加者の発言は、どのような機能を持つ言語行
どのクラスに属するかについては筆者ら 2 人がま
動として捉えられるのかを調べるため、Skinner
ず独立に判断した。その後で両者の判断結果を比
(1957)の言語行動の分類に基づいて、各参加者
較して不一致の個数と全判断数を計測してこれら
の発言を弁別刺激と強化刺激によって六つのクラ
の分類に対する筆者 2 人の評価者間一致度を各参
スに分類した。表 1 に各言語クラスを示した。タ
加者に対して求めた。各参加者の各コミュニケー
クトとは、説明語や報告語と呼ばれる言語行動
ションに対する評価者間一致度を表 2 に示した。
で、タクトされる対象が弁別刺激で、聞き手ある
全体の平均は0.76であった。分類が一致しなかっ
いは読み手の承認によって強化される言語行動で
たものに関しては、筆者らで話し合って一致させ
ある。マンドは、要求語と呼ばれる言語行動で、
た。図 5 に各群の各参加者の二つのコミュニケー
確立操作(強化刺激の効力を変える操作)があり、
ション形態における各言語クラスの出現確率を示
弁別刺激はマンドをかなえてくれる可能性が高い
した。
聞き手や読み手である。そしてマンドは、マンド
CF群の参加者Aは、CMCで、分類番号 2 の絵
で要求した事象の呈示や除去によって強化される
本に関する私的出来事のタクト、分類番号 4 の絵
言語行動である。
本に関係ない私的出来事のタクト、分類番号 5 の
各コミュニケーション形態実施中に生起した表
絵本に関係ない他者の発言や出来事のタクトの三
1 の六つのクラスの言語行動の合計数に対する各
つの言語クラスがみられた。そのうち、分類番号
言語クラスの数(以下、各言語クラスの出現確
5 の絵本に関係ない他者の発言や出来事のタクト
率)を求めた。ここでも参加者Bの言語行動を分
の出現確率が0.56で最も高く、分類番号 1 の絵本
析する際は、重複する発言を除外した。参加者C
に記述された内容のタクト、分類番号 3 の絵本か
は話題が交錯しただけなので、他の参加者と同様
ら拡張した内容のタクト、分類番号 6 の他者を弁
− 44 −
CMCとFtFにおける大学生の言語行動に対する行動分析学的検討
表 1 .言語クラス分類表
分類番号
弁別刺激
言語行動
1
絵本に記述された内容
タクト
2
絵本に関する私的出来事
タクト
3
絵本から拡張した内容
タクト
4
絵本に関係ない私的出来事
タクト
5
絵本に関係ない他者の発言または出来事
タクト
6
他者
マンド
表 2 .各参加者の各コミュニケーションに対する評価者間一致度
CF群
FC群
参加者A
参加者E
参加者B
参加者C
参加者D
CMC
FTF
CMC
FTF
CMC
FTF
CMC
FTF
CMC
FTF
分類数
9
80
4
88
6
64
8
111
7
71
一致数
7
53
3
66
5
43
8
77
6
40
不一致数
2
27
1
22
1
21
0
34
1
31
0.78
0.66
0.75
0.75
0.83
0.67
1.00
0.69
0.86
0.56
一致率
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ෳട⠪A
1
0.8
0.6
0.4
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1
2
3
4
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
5
2
䂓 CMC
䂔 FtF
3
4
5
ෳട⠪B
1
2
3
4
5
6
ෳട⠪C
1
2
3
4
5
6
ෳട⠪D
1
2
⸒⺆䉪䊤䉴ಽ㘃⇟ภ
3
4
5
6
ෳട⠪E
1
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
6
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
6
図 5 .各群の各参加者の二つのコミュニケーション形態における各言語クラス出現確率
− 45 −
竹 内 友紀子・森 山 哲 美
別刺激としたマンドの三つの言語クラスはみられ
0.43で最も高かった。FtFでは、分類番号 3 の絵
なかった。一方、FtFでは六つの言語クラス全て
本から拡張した内容のタクトだけが現れず、その
が出現した。分類番号 4 の絵本に関係ない私的出
他の言語クラスは全て出現した。分類番号 5 の絵
来事のタクトの出現確率が0.50で最も高かった。
本に関係ない他者の発言や出来事のタクトの出現
参加者Eは、CMCで、分類番号 2 の絵本に関す
確率が0.38で最も高かった。以上、全参加者にお
る私的出来事のタクトと、分類番号 5 の絵本に関
いてCMCではFTFと比べて出現している言語ク
係ない他者の発言や出来事のタクトの二つの言語
ラスの数が少なかった。
クラスだけがみられ、分類番号 5 の言語クラスの
出現確率が最も高く、値は0.75であった。一方、
考 察
FtFでは 6 種類全ての言語クラスがみられた。そ
本研究は、行動分析学の視点から、CMCにお
のうち出現確率が最も高かったのは分類番号 4 の
ける個人の言語行動をFtFにおける言語行動と比
絵本に関係ない私的出来事のタクトで、その出現
較して、調べることが目的であった。そのため
確率は0.33であった。
に、女子大学生にCMCとFtFの両コミュニケー
FC群の参加者Bは、CMCでは、分類番号 1 の
ション形態を行わせ、それぞれにおける彼女らの
絵本に記述された内容のタクトと分類番号 4 の絵
言語行動を実験的に調べた。
本に関係ない私的出来事のタクトのどちらも出現
その結果、本研究の女子大学生の場合、CMC
確率が0.17であり、分類番号 2 の絵本に関する私
では 1 分間における会話のサイクル数や話題数が
的出来事のタクトと分類番号 5 の絵本に関係ない
FtFに比べて少なかったが、 1 回の発言に使用さ
他者の発言や出来事のタクトのどちらも出現確率
れる単語の割合は両形態で差がみられなかった。
は0.33であった。FtFでは、 6 種類全ての言語ク
さらにCMCとFtFでの受動的発言と能動的発言
ラスがみられ、分類番号 5 の絵本に関係ない他者
では参加者間で一貫した傾向はみられなかった
の発言や出来事のタクトの出現確率が最も高く、
が、CMCでは受動的発言傾向が高く、FtFでは
値は0.47であった。
能動的発言傾向が高かった。言語クラスの結果か
参加者Cは、CMCで、分類番号 1 の絵本に記述
らは、すべての参加者がCMCでもFtFでも絵本
された内容のタクトと、分類番号 6 の他者を弁別
に関係しない他者の発言または出来事をタクトす
刺激としたマンドが同じ出現確率で0.13であり、
る傾向が高かった。しかし、CMCではそのよう
分類番号 2 の絵本に関する私的出来事のタクトと
なタクト以外に、絵本に関する私的出来事をタク
分類番号 5 の絵本に関係ない他者の発言や出来事
トする傾向がみられ、FtFでは絵本に関係のない
のタクトが同じ出現確率で0.38であった。FtFで
私的出来事をタクトする傾向やそれ以外の言語ク
は、分類番号 3 の絵本から拡張した内容のタクト
ラスが出現する傾向がみられた。
だけがみられず、それ以外の言語クラスは全て出
全ての参加者においてCMCの会話サイクル数
現した。最も出現確率が大きかったのは分類番号
と話題数がFtFに比べて少なかったのは、三つの
5 の絵本に関係ない他者の発言や出来事のタクト
時間によるものと考えられる。一つは、携帯電話
で、その出現確率は0.40であった。
を操作して掲示板に文章を書き込む時間、二つめ
参加者Dは、CMCで、 分類番号 3 の絵本から
は相手から送られた文章を読む時間、三つめは相
拡張した内容のタクトと分類番号 4 の絵本に関係
手に送信する文章を吟味する時間である。これら
ない私的出来事のタクトはみられなかった。しか
の時間によってCMCでは必然的に会話が生起す
し、それ以外の言語クラスは出現し、分類番号 2
る機会が減少する。そのため、会話サイクル数が
の絵本に関する私的出来事のタクトの出現確率が
少なくなったと考えられる。それに伴って話題数
− 46 −
CMCとFtFにおける大学生の言語行動に対する行動分析学的検討
も少なくなったと考えられる。しかし、笠木・大
ミュニケーションに必要な反応コストの要因であ
坊(2003)は、CMCとFtFの間で参加者の発言量
る。網野・松村(2009)がCMCを無駄のないメ
に差がないと報告しており、本研究とは異なる結
ディアによるコミュニケーションと指摘したよう
果であった。その理由として、笠木・大坊(2003)
に、CMCは、聴覚からの情報や利用者のジェス
のCMCはチャットを利用したものであったのに
チャーといった視覚情報がなく、文字というコ
対し、本研究のCMCは掲示板を利用したもので
ミュニケーション経路に限定されている。そのた
あったことが考えられる。チャット形式と掲示板
め、CMCの反応コストはFtFと比べて低い。こ
形式のCMCでは、利用者の書き込みが画面に反
の反応コストの低さがCMCの言語行動を維持し
映されるまでの時間が異なり、掲示板の方が遅く
ている可能性も考えられる。
なる。そのような理由で、掲示板でCMCを行っ
CMCでの話題数がFtFと比べて少なかったと
た本研究では会話サイクル数と話題数が少なく
いう結果やCMCの言語クラスの種類がFtFの種
なったと考えられる。さらに笠木・大坊(2003)
類と比べて限られていたことは、CMCのコミュ
は、パソコンを用いて実験した。その点も、携帯
ニケーション経路が限定的であるということと
電話およびスマートフォンを用いた本研究と異な
関連しているかもしれない(網野・松村,2009)。
る。今後、このようなCMCの形式の違いと機器
コミュニケーション経路が限定的であるというこ
の違いによる影響を検討する必要があるだろう。
とは、行動随伴性からいえば、言語行動の弁別刺
本 研 究 でCMCの 会 話 サイクル 数 や 話 題 数 が
激の数が限られているということになるからであ
FtFと比べて少なかった理由がコミュニケーショ
る。CMCにおける言語行動を制御する弁別刺激
ン形態の違いによる時間差だと考えると、一つの
の数が限られているなら、話題数も言語クラスも
問題が生じる。CMCではFtFと比べて、参加者
少なくなる。
または第一筆者が発言してから相手が発言する
受動的発言と能動的発言では、参加者間で一貫
までに時間がかかるので、前者の発言行動に対
した傾向はみられなかったが、概してCMCでは
する他者の応答という強化子の提示は遅延する。
受動的発言が、FtFでは能動的発言が出現する傾
Fantino(1969)によれば、強化の遅延に対応し
向がみられた。この傾向も、CMCとFtFの違い
た刺激は強化刺激になりにくい(遅延強化仮説)。
を反映したものと考えられる。人の言語行動は、
この仮説に従えば、CMCの場合、相手の返答に
聞き手や読み手の存在を弁別刺激にして自発され
よって発言者の言語行動が維持される可能性は低
る。CMCでは相手に関わる弁別刺激が明確では
くなる。それにもかかわらず、CMCでの発言者
ない、つまり自分がどのような相手と話をして
の言語行動が維持されたことから、その発言に対
いるのかがCMCでは不明である。それによって、
する読み手の返答以外に発言者の言語行動を維持
どのような話を相手に持ちかけたらいいのか判断
する変数があると考えられる。そのような変数の
しにくくなり、相手の出方を待つという傾向が受
一つとして、携帯の文字入力によって生起する画
動的発言となって現れたのかもしれない。それに
面上の文字表示がある。しかし、それだけでは
対してFtFでは、相手に関わる弁別刺激が明確で
CMCでの言語行動を維持するのは難しい。CMC
ある。そのため能動的発言ガ生起しやすかったの
がコミュニケーションとして維持される以上、入
かもしれない。このように考えれば、受動的発言
力文字の表示といったメカニカルな強化子以外
と能動的発言の結果も、CMCでのコミュニケー
に、コミュニケーション相手による反応が強化子
ション経路の限定性ひいては言語行動の弁別刺激
として関与しなければならない。また、行動に随
の数の限定性が関係していると言える。
伴する事象以外の変数も考えられる。例えば、コ
本研究では、CMCとFtFのそれぞれのコミュ
− 47 −
竹 内 友紀子・森 山 哲 美
ニケーション形態における参加者の言語行動を
してできる限り同じように対応すべく努めたが、
Skinner(1957)の言語行動の分類に基づいて分
交わされる言語行動の内容によって参加者への対
析した。その結果、CMCとFtFのどちらにおい
応を変えた可能性がある。これが結果に影響した
ても、絵本に関係のない他者の発言や出来事に対
かもしれない。二つ目は、実験者効果である。第
してタクトする傾向が見られ、その点で二つのコ
一筆者が実験条件を知っていたことがコミュニ
ミュニケーション機能に違いはなかった。しか
ケーションに影響した可能性がある。これら二つ
し、CMCではFtFと比べて、話し手(書き手)に
の問題を考えると、今後、参加者のコミュニケー
よる絵本に関連した私的出来事のタクトがみら
ション相手を複数にしたり、彼らに対して実験の
れ、FtFでは、話し手による絵本に関連しない私
目的を知らせなかったり、CMCやFtFでの彼ら
的出来事のタクトや、それ以外の言語クラスがみ
の強化履歴をできるかぎり統一するといった条件
られた。この違いは、それらの言語行動の弁別刺
統制が必要だろう。
激の違い(CMCの場合、基本的に相手の文章だ
け、FtFの場合、相手の存在ならびに相手の発言)
謝 辞
によるものと考えられる。この違いも、CMCと
本論文の執筆にあたり、研究会を通じてご指導
FtFのコミュニケーション経路の多様性の違いに
賜りました島田茂樹先生、菅佐原洋先生に御礼申
よるものといえるだろう。
し上げます。また、研究に関してご助言賜りま
以上、本研究の結果をCMCの特徴、特に、コ
した伊東昌子先生、太幡直也先生、英文Abstract
ミュニケーション経路の限定性(網野・ 松村,
の作成でご指導賜りました中西貴之先生に深謝致
2009)に関連させて考察した。CMCにおける言
します。さらに、本研究の実験を実施するにあた
語行動とコミュニケーション経路の限定性との関
り、快くご参加いただいた参加者と実験協力者の
連については、今後さらに検討する必要がある。
方々に感謝致します。
また、受動的発言と能動的発言がCMCとFtFの
脚 注
間で参加者によって異なった理由や、CMCの強
化子の問題も検討する必要があるだろう。さら
本研究の一部は、2013年度日本行動分析学会第31回
に、参加者が普段のコミュニケーション手段とし
年次大会(於 岐阜大学)で以下の題目で発表された。
てCMCとFtFのどちらを多く選択しているかと
竹内友紀子・森山哲美(2013).「CMCとFtFにおける
いった個人的行動傾向も本研究結果に関係してい
大学生の言語行動の違い」
るかもしれない。すなわち、CMCやFtFでの参
引用文献
加者の行動に対する強化経験が結果に関係して
いるかもしれない。CMCで他者から賞賛された
網野薫菊・松村瑞子(2009).CMCにおけるターンテ
経験がある人はCMCに取り組むことが多くなり、
イキング・ストラテジー ―メディアの特色がター
CMCで批判や無視などの弱化や消去を受けた人
ン に 及 ぼ す 要 因 に つ い て ― 言 語 文 化 論 究,24,
はCMCを避けるだろう。CMCやFtFにおける強
47-64.
化や弱化の経験が各コミュニケーション形態にお
Fantiono, E.(1969). Choice and rate of reinforcement.
ける人の行動に及ぼす影響を今後調べる必要があ
Journal of the Experimental Analysis of Behavior,
るだろう。
12, 723-730.
最後に、本実験の問題点を二点挙げる。一つ
笠木理史・大坊郁夫(2003).CMCと対面場面におけ
は、参加者のコミュニケーション相手が一人で
るコミュニケーション特徴に関する研究 対人社会
あった点である。第一筆者は、全ての参加者に対
心理学研究,3,93-101.
− 48 −
CMCとFtFにおける大学生の言語行動に対する行動分析学的検討
Kiesler, S., Siegel, J., & McGuire, T. W.(1984).
Publication.
Social psychological aspects of computer-mediated
communication.
American
Psychologist,
岡本 香・高橋 超(2006).親密度の違い及びコミュ
39,
ニケーションの形態の違いがメディア・コミュニ
1123-1134.
ケーション観に及ぼす影響 実験社会心理学研究,
木村泰之・都築誉史(1998).集団意思決定とコミュ
45,85-97.
ニケーション・モード ―コンピュータ・コミュニ
Okdie, B. M., Guadagno, R. E., Bernieri, J. F., Geers,
ケーション条件と対面コミュニケーション条件の差
L. A., & Mclarney-Vesotski, R. A.(2011). Getting
異に関する実験社会心理学的検討― 実験社会心理
to know you: Face-to-face versus online interaction.
学研究,38,183-192.
Computers in Human Behavior, 27, 153-159.
King, S.(1996). Researching internet communities:
佐々木美加・八田武俊・大渕憲一(2004).CMCの相
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互作用過程 ―言語メッセージの解釈と対決的対
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応― 対人社会心理学研究,4,31-39.
Markovitzky, O., Anholt, G. E., & Lipsitz, J. D.(2012).
佐 藤 広 英・ 日 比 野 桂・ 吉 田 富 二 雄(2010).CMC
Haven’t we met somewhere before? The effects
(Computer-Mediated Communication)が攻撃性及
of a brief internet introduction on social anxiety
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(シルヴァスタイン. S. 村上春樹(訳)(2010).お
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おきな木 初版 あすなろ書店)
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Psychology of B. F. Skinner. Thousand Oaks: Sage
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− 49 −
常磐大学大学院学術論究 創刊号 2014.3
Scientific Journal of Tokiwa University Graduate School
No.1 Mar. 2014
原著論文
リサージェンス指標の検討を含めたハトにおける強化履歴
ならびに他行動の出現傾向とリサージェンスの関係
1)
2)
小 幡 知 史・森 山 哲 美
2013年 7 月17日受付,2013年11月19日受理
Abstract:Resurgence is defined as the reoccurrence of a previously reinforced behavior under the
condition that delivery of reinforcer ceases for a more recently reinforced behavior. Lieving and Lattal
(2003) conducted experiments with pigeons to assess the experimental conditions necessary for the
occurrence of resurgence. Although they showed some variables controlling resurgence, they did not
investigate the relationship between history of reinforcement prior to their experiments and the resurgence.
Further, they did not investigate the relationships between the behavior to be recurred and other behaviors.
Furthermore, previous studies have not used some index showing the magnitude of resurgence. We
investigated these issues for pigeons using similar experimental procedures to those of Lieving and Lattal.
We used five pigeons as the subjects. Two of them had already been trained to peck the key. Thus, they
had had histories of reinforcements for their key-peck responses before the present experiments. The
remaining three pigeons were experimentally naïve. They were trained to peck the key of the standard
operant chamber. After that, their key-peck responses were extinguished and then their treadle presses
were reinforced. Finally, their treadle presses were extinguished to investigate whether the resurgence of
key pecking occurred. Two experimentally naïve pigeons showed the occurrence of resurgence. They also
emitted various responses in the extinction of the key-peck responses which were topographically similar
to the key-peck responses. These results suggest the history of reinforcement is an important variable for
resurgence and the occurrence of other behaviors in the extinction of key-peck responses may relate to
the resurgence of the key-peck responses. Finally, we conclude that the ratio of resurgence we calculated
is an adequate index of the magnitude of resurgence.
Key words:pigeons, resurgence, history of reinforcement, response relations, index of resurgence
強化されていた行動Bが消去の操作を受ける過
Pipkin, 2010)。
程で、行動Bが強化される前に強化ならびに消去
リ サ ー ジ ェ ン ス は、 ヒ ト を 含 め た 多 様 な
を受けていた行動Aが再び出現することがある。
種 の 様 々 な 行 動 で 報 告 さ れ て い る(Bruzek,
この行動Aの再出現は、リサージェンスと呼ばれ
Thompson, & Peters, 2009; Cleland, Guerin,
ている(Epstein, 1985)。はじめに強化された行
Foster, & Temple, 2000; Epstein, 1983; Reed &
動Aは、リサージェンスの観察対象となる行動で
Morgan, 2006; Lieving, Hagopian, Long, & O’
あることから、標的行動(target behavior)と呼
Connor, 2004)。行動分析学においてリサージェ
ばれる。そして、後で強化される行動Bは代替行
ンスは、行動履歴の効果(Tatham & Wanchisen,
動(alternative behavior)と呼ばれる(Lattal &
1998)、問題解決に関わる行動の発現のメカニズ
1 )Satoshi Obata:常磐大学人間科学研究科修士課程研究生
2 )Tetsumi Moriyama:常磐大学大学院人間科学研究科研究指導教授
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小 幡 知 史・森 山 哲 美
ム(Lieving & Lattal, 2003)、臨床場面における
き、リサージェンスが生じたことになる。この 3
問題行動の再出現(Lieving et al., 2004)を検討
条件法の標的行動の強化条件の次に、標的行動の
するために調べられている。
消去条件が付加されると 4 条件法になる(Cleland
リサージェンスと同じく、過去に強化されたこ
et al., 2000)。 4 条件法でも、最後の標的行動な
とのある行動が消去される過程で再び生起する現
らびに代替行動の消去条件で標的行動が生起した
象として、自発的回復(spontaneous recovery)
ら、リサージェンスが生じたことになる。 3 条件
や復帰(reinstatement)、誘導(induction)があ
法と 4 条件法のそれぞれのリサージェンスを問題
る。自発的回復は、行動が消去の過程で一時的に
にすると、 3 条件法は、標的行動の強化条件と消
回復する現象である。一方、復帰や誘導は、リ
去条件を明確に分離しないため、標的行動の強化
サージェンスと同様に、反応Aがはじめに強化さ
と消去のそれぞれがリサージェンスとどのように
れたのちに消去され、後続の条件で反応Aが再出
関係するのかという問題を検討することが難しい
現する現象である。復帰は、反応Aを強化してい
といえる(cf. Cleland et al., 2000)。そうである
た刺激(すなわち強化子)が、続く条件で、反応
なら、リサージェンスの制御変数を検討するには
Aとは独立に提示されているにもかかわらず、反
4 条件法が望ましい。
応Aが生起する現象である。誘導は、反応Aの消
そこで、リサージェンスが何故起こるのか、す
去のあとの条件で、再び反応Aに随伴して強化子
なわち、リサージェンスの制御変数は何かという
が提示されると、同じ強化子によって以前に強化
問題を 4 条件法で検討する。 4 条件法では、上述
されたことがある別の反応が生起する現象であ
のように、標的行動の強化がはじめにあり、その
る。これらの現象とリサージェンスは行動が一時
後、標的行動の消去、次に代替行動の強化、最後
的に回復する点で同じであるが、いくつかの点で
に標的行動ならびに代替行動の消去という 4 つの
違いがある。まず自発的回復は、以前に強化され
条件が設定される。最後の条件で標的行動が生起
た標的行動とは異なる代替行動の強化がないとい
すれば、リサージェンスが生起したことになる。
う点でリサージェンスと異なる。また、復帰や誘
ここでかつて強化された標的行動が、消去の条件
導は、以前に有効だった強化子が提示されること
でなぜ復活するのか、それがリサージェンスの制
で行動が一時的に回復するという点で、消去過程
御変数の問題となる。
で生起するリサージェンスとは異なる。これらの
4 つの条件を考慮すると、それぞれの条件がリ
ことから、リサージェンスは、他の反応回復現象
サージェンスの生起に関連すると言えるだろう。
とは異なる独自の反応回復現象であると考えられ
まず標的行動の強化条件である。ここでは、どの
る(Lattal & Pipkin, 2010)。
ような弁別刺激のもとで、どのような標的行動
リサージェンスを調べた研究のほとんどは、以
が、どのように強化されたのかが問題となる。次
下に述べる 3 条件法や 4 条件法を用いている。 3
に、この標的行動が消去される条件では、どの程
条件法は、標的行動の強化条件、代替行動の強化
度、標的行動が消去されたのか、消去にどのぐら
条件、標的行動ならびに代替行動の消去条件の 3
いの時間がかかったのか(すなわち標的行動の
つの条件で構成される(Lieving & Lattal, 2003)。
消去抵抗の程度)が問題となる。 3 番目の条件で
標的行動の強化条件では、標的行動が強化され、
は、代替行動の強化のされ方が問題となる。ここ
代替行動の強化条件では、代替行動が強化され
では、これまで行われてきた研究に基づいて論じ
る。そして、最後の標的行動ならびに代替行動の
るなら、代替行動の強化のされ方は、標的行動が
消去条件では、標的行動と代替行動の両方が消去
強化されたときと同じような条件なのか、そうで
される。この最後の条件で標的行動が生起したと
ないのか、つまり同じ弁別刺激のもとで、同じ
− 52 −
リサージェンス指標の検討を含めたハトにおける強化履歴ならびに他行動の出現傾向とリサージェンスの関係
確率で強化されたのかどうかが問題となる。さら
隔(Variable-Interval; 以下VI)といった強化ス
に、標的行動と代替行動の関係も問題となる。す
ケジュール(強化の仕方)で強化されている。一
なわち、反応のトポグラフィー(反応形態)、反
方、ヒトにおいてもリサージェンスは報告されて
応遂行のしやすさ、反応強度や反応時間といった
いる。ヒトを対象にした研究では、ルールに従う
反応次元において標的行動と代替行動は類似して
行動、あるいは攻撃といった問題行動が標的行
いるのか、また、強化のされ方という点で両行動
動とされている(Dixon & Hayes, 1998; Lieving,
は機能的に等価であるのかという問題である。 4
Hagopian, Long, & O’connor, 2004)。なお、ヒト
番目の条件では、代替行動の消去の状況が問題と
場合、要求課題の回避や他者からの注目といった
なる。標的行動のリサージェンスが起こるのは、
事柄が強化子となっており、動物の場合のような
第 4 条件の比較的初期であることから、リサー
食べ物ではない。動物やヒトについての以上の研
ジェンスが起こっているとき、代替行動はこの第
究から、リサージェンスは、標的行動の違い、種
4 条件のもとで完全に消去されているとは言い難
の違い、オペランダム、さらに強化子の違いに関
い。標的行動と代替行動が消去の操作を受けてい
わりなく生起するようである。
ても、代替行動はその直前に強化されていたので
それに対して、第 1 条件における標的行動の強
あるから、第 4 条件での標的行動と代替行動の消
化スケジュールがリサージェンスに関係するこ
去の様相は、代替行動の出現がしばらく続き、そ
とを示唆する研究がある。Da Silva, Maxwell, &
の後、それが減少していくにつれて、代わりに標
Lattal(2008)は、 3 羽のハトを被験体として 3
的行動が出現するといったものであろう。さら
キーオペラント実験箱で次の 3 つの実験を行っ
に、 2 つの反応が消去下にあるのであれば、反応
た。実験 1 では、 2 つのキーに対するつつき反応
変動性が高まって、標的行動や代替行動とは異な
を 2 羽は並立VI1分VI6分で強化して、残りの 1
る他の行動も出現しているかもしれない。これら
羽はその逆の並立VI6分VI1分で強化した。いず
の他行動の出現傾向がリサージェンスに関係して
れも左右のキーに対する並立強化スケジュールで
いる可能性がある。したがって、第 4 条件では、
あった。そのあと、 3 つ目のキーだけをVI3分で
どの程度代替行動が減少するのか、他行動の出現
強化した。そしてこの反応を消去して、最初の 2
傾向はどのようなものであるのかが問題となる。
つのキーに対するリサージェンスをみた。その結
以上、各条件で提起した問題がリサージェンス
果、VI6分よりもVI1分で強化されたキーつつき
にかかわる変数の問題となるだろう。そうであれ
反応のリサージェンスが大きかった。この結果を
ば、それぞれについてその効果を調べた研究があ
受けて、VI強化スケジュールのもとでの反応率
るのかないのか、そして、調べられていないもの
あるいは強化率のどちらがリサージェンスの生起
があれば、それを調べる必要があるだろう。
に関係しているのかをさらに詳しく検討するため
まず、第 1 条件において、どのような標的行
に、彼らは、実験 2 で標的行動の反応率とリサー
動が、どのような弁別刺激のもとで、どのよう
ジェンスの関係を調べ、実験 3 で標的行動の強化
な強化子によって、どのように強化されてきた
率とリサージェンスの関係を調べた。その結果、
のだろうか。ハトやラットといった動物を被験
実験 2 では、標的行動の反応率が高いとき、より
体とした研究は、キーつつき行動やペダル踏み
大きなリサージェンスが示された。実験 3 では、
行動を標的行動としているものが多い(Epstein,
標的行動に対する強化率の高低とリサージェンス
1983; Lieving & Lattal, 2003; 中島,1992など)。
の生起の間に関連はみられなかった。以上の結果
これらの標的行動は、キーやペダルといったオ
から、彼らは、標的行動の反応率がリサージェン
ペランダムに対する行動であり、もっぱら変時
スの生起に大きく関係していると報告した。
− 53 −
小 幡 知 史・森 山 哲 美
次に、標的行動が消去される第 2 条件では、ど
が報告されている。したがって、標的行動と代替
の程度、標的行動が消去されたのか、消去にどの
行動のトポグラフィーの類似性はリサージェンス
ぐらいの時間がかかったのか(すなわち標的行
にとって重要ではないのかもしれない。しかし、
動の消去抵抗はどの程度だったのか)が問題とな
Doughty et al.(2007)は、標的行動と代替行動
る。Lieving & Lattal(2003)は、標的行動の生
のトポグラフィーの類似性がリサージェンスに関
起頻度が 0 になるまで消去セッションを続けた。
係すると指摘している。彼らは被験体を 2 つの群
その結果、すべてのハトがリサージェンスを示し
に分け、標的行動をキーつつき反応とし、代替
た。このことから、標的行動の完全消去がリサー
行動を、一方の群には、Reed & Morgan(2006)
ジェンスにとって必要であると言えるだろう。し
のように、標的行動のオペランダムのキーとは異
かし、彼らは、消去の程度とリサージェンスの関
なる位置にあるキーに対するつつき反応とし、他
係については言及していない。一方、Cleland et
の群にはペダル踏みとした。そして、標的行動
al.(2000)は、標的行動の消去セッション数が少
と代替行動の反応トポグラフィーの類似性とリ
ないとリサージェンスがより大きくなると報告し
サージェンスの関係を調べた。その結果、代替行
ている。このことは、標的行動が完全に消去され
動がペダル踏みの群の方がリサージェンスをより
なくてもリサージェンスが起こるということを意
大きく示した。この結果から、標的行動と代替行
味する。そうであれば、この結果と、Lieving &
動の反応トポグラフィーが類似しない方が標的行
Lattal(2003)の結果を合わせて考えると、標的
動のリサージェンスが起こりやすいと言える。し
行動の完全消去はリサージェンスにとって必要で
かし、トポグラフィーが類似していてもリサー
あるにしても十分であるとは言えないかもしれな
ジェンスが生起すると報告した研究がある以上
い。その意味で、消去の程度とリサージェンスの
(例えば、Reed & Morgan, 2006)、反応トポグラ
強さの関係については明らかでない。
フィーの問題については、さらに調べる必要があ
3 番目の条件では、代替行動の強化のされ方が
るだろう。
問題となる。さらに、標的行動と代替行動の関係
強化のされ方については、ほとんどの研究が標
も問題となる。この 2 つの問題を合わせて考える
的行動と代替行動の強化のされ方が同じである。
と、 3 番目の条件では、次のことが問題となる。
これは、リサージェンスの制御変数を他に求める
すなわち、トポグラフィー、反応遂行のしやす
ための統制条件として設定されたものと考えられ
さ、反応次元のそれぞれにおいて、標的行動と代
る。たとえば、Lieving & Lattal(2003)は、第
替行動は類似しているのか異なるのか、さらに強
3 条件における代替行動の強化機会の多少が標的
化のされ方という点で両行動は同じように強化さ
行動のリサージェンスに影響するかどうかを明ら
れたのか、それとも異なる強化を受けたのかとい
かにするために、標的行動と同じVIスケジュー
う問題である。
ルを代替行動に適用して、そのセッション数のみ
反応トポグラフィーについては、以下のように
を個体ごとで変えて第 3 条件での代替行動の強化
標的行動と代替行動のトポグラフィーが類似す
と標的行動のリサージェンスの関係を調べた。そ
る場合(例えば、Reed & Morgan, 2006、この研
の結果、代替行動の強化セッション数とリサー
究では、反応トポグラフィーは標的行動と代替行
ジェンスの関係性は見いだされなかった。
動で類似していたが、それぞれの行動の操作対象
4 番目の条件では、代替行動の消去の状況が問
であるオペランダムが異なっていた)と異なる場
題となる。この条件で標的行動のリサージェンス
合(例えば、Doughty, Da Silva, & Lattal, 2007;
が起こるのは比較的初期である。そうであれば、
Lieving & Lattal, 2003)の両方でリサージェンス
標的行動のリサージェンスは、代替行動が完全に
− 54 −
リサージェンス指標の検討を含めたハトにおける強化履歴ならびに他行動の出現傾向とリサージェンスの関係
消去されているところで生じているとは言い難
では、バーストや攻撃行動、あるいは新奇な行動
い。標的行動と代替行動が操作としての消去を受
といった多様な行動現象が生じる。これを消去に
けていても、代替行動はその直前に強化されてい
おける反応変動性の増大と呼んでいるが、リサー
たのであるから、第 4 条件での消去の様相は、先
ジェンスは、代替行動の消去で起こる、個体内の
述のように、標的行動と代替行動の間で異なる可
行動のばらつきの一つかもしれない。その可能性
能性がある。実際、Epstein(1983)は、この条
を検討する必要がある。
件ではまず直前まで強化されていた代替行動が出
本研究で、標的行動が強化される以前の強化履
現し、その後、標的行動が遅延して生起すると報
歴を問題にしたのは、標的行動がキーつつき反応
告している。また、Lieving & Lattal(2003)は、
の場合、この反応は餌に関連した反応であるた
代替行動の消去と標的行動のリサージェンスの関
め、ペダル踏み反応と比べてもともと生起確率が
係を調べるために、この第 4 条件で消去の代わり
高い可能性があるのではないかと考えたからで
に、変動する時間間隔のたびに反応に依存しな
ある。Breland & Breland(1961)が問題にした
い強化子を提示する変時(Variable Time; 以下
本能浮遊(instinctive drift)は、シェイピングに
VT)30秒や、代替行動に対する強化確率が低い
よって形成されたオペラント反応の生起が、強化
VI360秒スケジュールを用いてリサージェンスを
子と関連のある生得的な反応の生起によって妨害
調べた。その結果、VTスケジュールではリサー
される現象である。ハトのキーつつき反応は、ハ
ジェンスは生起しなかったが、強化密度の低い
トが餌を摂取するときの生得的な反応でもある
VI 360秒スケジュールではリサージェンスが生起
(Jenkins & Moore, 1973)。そうであれば、リサー
した。このことから、リサージェンスの生起には、
ジェンスとして生起するキーつつき反応は、本能
代替行動の消去ということだけでなく、 4 番目の
浮遊として生起する反応と考えることができるか
条件における代替行動の強化確率の低さも関係し
もしれない。この可能性を検討するには、標的行
ていることが示された。
動であるキーつつき反応がすでに十分に形成され
以上 4 つの各条件で問題とした先行研究の結果
ている実験歴のあるハトと、そうでないハトとの
を概観すると、標的行動のリサージェンスに関わ
間で、この反応のリサージェンスに違いがあるの
る変数として、①標的行動が強化されたときの標
かどうかを調べればよい。実験歴のあるハトの場
的行動の高い反応率、②標的行動の消去のレベ
合、キーつつき反応が十分に獲得されているの
ル、③標的行動と代替行動の反応トポグラフィー
で、第 4 条件の消去条件でこの反応が本能浮遊と
の非類似性、そして④代替行動の強化密度の低さ
して生起する可能性は低いかもしれない。それに
を候補としてあげることができるだろう。
対して、実験歴のないハトの場合、第 1 条件では
しかし、それ以外にも考慮されるべき変数があ
じめてキーつつき反応が獲得されるので、実験歴
る。それは、標的行動が強化される以前の強化履
のあるハトと比べて、その強化履歴は乏しい。こ
歴である。これを問題にするのは、リサージェン
のため、実験歴のないハトでは、第 4 条件でキー
スは、標的行動と代替行動の強化と消去の履歴に
つつき反応が本能浮遊として生起する可能性があ
よって起こるからである(Da Silva et al., 2008)。
るのではないかと考えられる。この問題が検討さ
そうであれば、第 1 条件以前に標的行動や代替行
れるべきである。
動の強化履歴がある場合のリサージェンスについ
次に、代替行動の消去過程における反応変動性
ても調べる必要があるだろう。さらに調べるべき
の増大の問題である。この問題は、第 4 条件での
問題として、代替行動が消去される過程で起こる
標的行動のリサージェンスを単に消去過程におけ
反応変動性という問題である。通常、消去の過程
る反応変動性の増大の一つとみる問題である。こ
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小 幡 知 史・森 山 哲 美
の問題は、標的行動や代替行動以外の行動も第 4
スの関係を調べた。さらに、キーつつき反応のリ
条件で生起するのかどうかで検討できるだろう。
サージェンスと、キーつつき反応を含めた他の反
消去における反応変動性が増すのであれば、第 4
応の出現傾向との関連を調べた。さらに、ROR
条件でリサージェンスだけでなく、標的行動や代
がリサージェンスの強さを示す指標として有効で
替行動と異なる他の行動も出現するかもしれな
あるかどうかについても検討した。
い。そうであれば、リサージェンスは、それらの
方 法
他行動と同じように、消去における反応変動性の
被験体
1 つと見ることができるだろう。そこで、第 4 条
件では、標的行動や代替行動のみならず他行動の
本実験は、基本的に少数被験体法に基づいて行
出現傾向についても調べる必要がある。
われたので、実験歴の有無で被験体を群に分ける
上記 2 つの問題、すなわち、実験歴の有無とリ
にしても最小限にした。その結果、オスのカワラ
サージェンスの関係、それと第 4 条件における他
バト 5 羽(T5、T10、N11、N18、N20)を 被 験
行動の出現傾向を調べた研究は過去にない。そこ
体とした。そのうち 2 羽(T5、T10)は色光弁別
で本研究は、この 2 つの問題を、ハトを用いて
訓練の経験があり、ほか 3 羽(N11、N18、N20)
実験的に検討した。なお、従属変数であるリサー
は無かった。それぞれのハトは飼育室で水を自由
ジェンスは、これまでの研究で、その生起の有無
に摂取することができたが、餌の剥奪は受けてい
だけが問題とされている。たとえば、Lieving &
た。実験遂行時のハトの体重は、餌自由摂取時の
Lattal(2003)やDa Silva et al.(2008)は、標的
平均体重の約80 %に維持された。
行動ならびに代替行動の消去条件における標的行
装 置
動の生起数が、その前の代替行動の強化条件にお
ける標的行動の生起数より多かったときに標的行
実験装置として 3 つの反応キーと一つのペダ
動のリサージェンスが生起したと報告している。
ル が 取 り 付 け ら れ て い る ハト 用 の 実 験 箱(縦
しかし、代替行動の強化条件(第 3 条件)から標
33 cm、横31 cm、高さ38.1 cm)を用いた。 3 つ
的行動ならびに代替行動の消去条件(第 4 条件)
のキーのうち右のキーのみを反応キーとして使
にかけての標的行動の生起数の単なる増加だけで
用し、他の 2 つのキーにはビニールテープを貼
リサージェンスが生起したと判断するだけではな
り付けて実験には使用しなかった。実験中、反
く、リサージェンスの制御変数を調べるために
応キーは白色光で照射された。反応キーは直径
は、どの程度のリサージェンスがそれらの制御変
2.5 cmの円形で、実験箱の床上21 cm、右の壁か
数によって生起したのかを調べる必要がある。そ
ら10.5 cmの位置にあった。ペダルは幅 3 cm、長
こで本研究は、代替行動の強化条件における標的
さ 5 cmの矩形の金属棒で、実験箱の床上5.5 cm、
行動の反応率と、標的行動ならびに代替行動の消
左の壁から4.5 cmのところに設置された。キー
去条件における標的行動の反応率のデータを基に
もペダルもマイクロスイッチと連結されていた。
してリサージェンス率(ratio of resurgence、以
フィーダーは実験箱の床上 5 cm、フロントパネ
下、ROR)を算出する。そして、これがリサー
ルの中央の位置にあった。実験箱内の照明とし
ジェンスの強度を示す指標として適切であるかど
て、天井に設置されたハウス・ライトDC12Vを
うかを検討する。
用いた。ハウス・ライトは、強化時以外いつも点
以上、本研究は、 4 つの条件で構成された実験
灯させた。実験の制御は実験室と隣接する制御
手続きに基づき、実験歴のあるハトと、ないハト
室で行われた。実験の制御と行動の記録はApple
を被験体として、実験歴の有無とリサージェン
Ⅱeマイクロコンピュータで行った。
− 56 −
リサージェンス指標の検討を含めたハトにおける強化履歴ならびに他行動の出現傾向とリサージェンスの関係
手続き
準に達したら、VI30秒スケジュールに移行した。
実験は週 7 日、ほぼ同じ時間帯に行った。実験
VI30秒スケジュールは、キーつつき反応が安定
は 1 日 1 セッションで行われ、 1 セッションは30
基準に達するまで続けた。VI30秒スケジュール
分間だった。また、 1 セッションの強化回数は
の安定基準は、最後の 6 セッションの直前 3 セッ
キーつつき強化条件における最初の数セッション
ションと直後 3 セッションのそれぞれの平均反応
では60回であったが、その後は50回であった。理
率が、全 6 セッションの平均反応率{(平均反応
由は、餌に対する飽和が起こったためである。
率)±(その10 % )}の値以内とした。この基準が
実験は、キーつつき強化条件、キーつつき消去
達成されたら、次のキーつつき消去条件に移行し
条件、ペダル踏み強化条件、キーつつきならびに
た。
ペダル踏み消去条件の 4 つで構成された。キー
キーつつき消去条件 キーつつき消去条件では、
つつき反応とペダル踏み反応の各強化条件では、
キーつつき反応を消去した。この条件は、ハトの
キーへの反応とペダルへの反応の間で迷信的な連
キーつつき反応率が 3 セッション連続で 0 になる
鎖が形成されるのを防ぐため、 3 秒間の切り替
まで行った。
え反応遅延(changeover delay; COD)を設けた。
ペダル踏み強化条件 この条件では、最初にペダ
例えばペダル踏み強化条件中にキーつつき反応が
ル踏み反応を逐次接近法で形成した。被験体が実
生起した場合、その後 3 秒間はペダル踏み反応が
験装置に設置されたペダルをCRFスケジュール
生起してもその反応は強化されなかった。以下そ
のもとで60回踏むことができたら、次にペダル踏
れぞれの条件の詳細を述べる。
み反応をFRスケジュールのもとで強化した。FR
プレ訓練 この条件では、各ハトに対し実験箱
スケジュールの比率は 1 、 3 、 5 、10、15の順に
に対する馴化訓練と給餌器訓練を行い、さらに
高めた。各比率スケジュールで、ペダル踏みの反
反応キーへのつつき反応を逐次接近法で形成し
応率が安定したら、次の比率スケジュールに移行
た。白色光が照射されたキーに対するハトのつ
した。安定基準は、キーつつき強化条件でのFR
つき反応を、連続強化スケジュール(Continuous
スケジュールの基準と同じであった。
Reinforcement Schedule; 以下CRF)で60回強化
FR15で ペダル 踏 み の 反 応 率 が 安 定 し た ら、
し、その後でキーつつき強化条件に移行した。な
VI30秒スケジュールに移行した。このスケジュー
お、弁別訓練の経験があるハトには、すでにキー
ルでの反応率の安定基準は、キーつつき強化条件
1
つつき反応のレパートリーがあったので 、プレ
でのVI30秒スケジュールの基準と同じであった。
訓練を実施しなかった。
基準達成後、次のキーつつきならびにペダル踏み
キーつつき強化条件 この条件では、キーつつき
消去条件に移行した。なお、このペダル踏み強化
反応を、強化が一定回数の反応の生起に随伴する
条件では、キーつつき反応に対しての強化は行わ
定比率(Fixed Ratio; 以下FR)スケジュールのも
なかったが、その出現頻度は記録した。
とで強化した。FRスケジュールの比率は 1 、 3 、
キーつつきならびにペダル踏み消去条件 この条
5 、10、15の順に高めた。各比率で、キーつつ
件では、キーつつき反応ならびにペダル踏み反応
き反応が安定基準に達したら、次の比率に移行し
に対して消去の操作を行った。キーつつきならび
た。その安定基準は、ある比率の最後の 4 セッ
にペダル踏み消去条件は10セッション行った。
ションの直前の 2 セッションと直後の 2 セッショ
以上のすべての条件でキーつつき反応とペダル
ンのそれぞれの平均反応率が、全 4 セッション
踏み反応の出現頻度を測定した。
の平均反応率{(平均反応率)±(その10 % )}の
時間間隔記録法にもとづく他行動の観察 ハト
値以内とした。FR15でキーつつき反応が安定基
のキーつつきに関連した反応とペダル踏みに関
− 57 −
小 幡 知 史・森 山 哲 美
連した反応の出現傾向を調べるために、時間間隔
クとした。したがって、 1 セッションは 6 ブロッ
記録法を用いて、セッション内でそれらの行動が
クであった。
生起したかどうかを 2 人の観察者がビデオ録画を
結 果
もとに独立に観察し記録した。観察対象とした
行動は、キーつつき関連反応として、キーを見
各条件でキーつつき反応とペダル踏み反応がど
る、キーをかじる、の 2 つであった。ペダル踏み
のくらい生起したのか、また、キーつつきならび
関連反応は、ペダルを見る、ペダルをくちばしで
にペダル踏み消去条件においてキーつつき反応の
つつく、の 2 つであった。それぞれの関連反応を
リサージェンスが生起したかどうかをみるため
2 つにしたのは、実験期間中、被験体がそれらの
に、各条件におけるキーつつきとペダル踏みのそ
反応を比較的頻繁に示したからであった。観察が
れぞれの反応率を求めた。図 1 の縦軸は、各条件
行われたセッションは、キーつつき強化条件とペ
におけるそれぞれの被験体のキーつつきとペダル
ダル踏み強化条件の各強化条件の最後のセッショ
踏みの反応率を示す。横軸は、各条件のセッショ
ン、キーつつき消去条件とキーつつきならびにペ
ン数を示す。さらに、キーつつき強化とペダル踏
ダル踏み消去条件の各消去条件の最初のセッショ
み強化の各条件では最後の 6 セッション、キーつ
ンだった。1セッションは30分間で 1 分を 1 イン
つき消去とキーつつきならびにペダル踏み消去の
ターバルとし、各インターバル内での反応の生起
各条件では最初の10セッションをデータとして示
を観察記録した。被験体が 1 インターバル内で 2
した。
回以上反応しても、観察者の労力軽減を目的とし
図 1 が示すように、キーつつき強化条件におい
た時間間隔記録法に基づき、その出現頻度は 1 回
て、キーつつき反応は、実験歴のあるT5とT10
と計測した。さらに、 5 インターバルを 1 ブロッ
の方が、実験歴のないN11とN18、そしてN20よ
図 1 .各条件におけるキーつつき反応率とペダル踏み反応率
− 58 −
リサージェンス指標の検討を含めたハトにおける強化履歴ならびに他行動の出現傾向とリサージェンスの関係
りも多かった。また、ペダル踏み反応はすべての
リサージェンスの強度を示すため、以下の式で
個体でほとんど生起しなかった。続いてキーつつ
RORを求めた。
き消去条件に入ると、キーつつき反応は、最初
ROR =
の 3 セッションにおいて全ての被験体で減少し
た。その後、キーつつき反応はN11とN18で 0 に
m2+1
−1
m1+1
(1)
なり、T5も最後のセッションで 0 になった。し
(1)の数式のm1はペダル踏み強化条件での最後
かし、T10とN20は、最後のセッションで、キー
のセッションのキーつつき反応率であり、m2は
つつき反応が増加した。このキーつつき消去条件
キーつつきならびにペダル踏み消去条件での各
では、ペダル踏み反応はすべての個体で生起しな
セッションのキーつつき反応率である。リサー
かった。次のペダル踏み強化条件では、ペダル踏
ジェンスを調べたこれまでの研究が、ペダル踏み
み反応はすべての個体で生起した。キーつつき
強化条件と、その消去条件のそれぞれのキーつつ
反応は、T10で頻繁に生じたが、それ以外のすべ
き反応の出現頻度からリサージェンスを問題にし
ての個体では、ほとんど生起しなかった。最後
ているので、この両条件におけるキーつつき反応
のキーつつきならびにペダル踏み消去条件では、
率を比較した。(1)の数式では、ペダル踏み強化
N18以外のすべての個体でキーつつき反応が生起
条件でのキーつつき反応が全く自発されなかった
した。その生起は、キーつつきならびにペダル踏
ときRORが無限大になるのを防ぐため、分子と
み消去条件のはじめの数セッションで起こり、最
分母のそれぞれのmの値に 1 を加えた。ペダル踏
後のセッションではキーつつき反応が完全に自発
みの強化条件と消去条件におけるキーつつき反
されなくなった。一方、ペダル踏み反応は、全て
応率が等しいとき、すなわちリサージェンスが
の被験体で最初の数セッションで生起したが最終
生起していないとき、RORが 0 になるように左
的にはほとんど生起しなくなった。
側分数値から 1 を引いた。従って、RORが 0 の
次に、従来の研究と同様の方法で標的行動のリ
ときリサージェンスが起こっていない、そして
サージェンスが生起したかどうかを調べるため
RORが正の値でその絶対値が大きくなるにつれ
に、ペダル踏み強化条件とキーつつきならびにペ
てリサージェンスの強度が増すと判断できるよう
ダル踏み消去条件のキーつつき反応率を比較し
にした。なお、m1の値がm2より大きい場合、す
た。この場合、キーつつきならびにペダル踏み消
なわちペダル踏み強化条件におけるキーつつき反
去条件でのキーつつき反応率が、ペダル踏み強化
応率が、キーつつきならびにペダル踏み消去条件
条件での反応率よりも高い場合、リサージェンス
の反応率より高いときRORは負の値になる。本
が生起したと言える。その結果、実験歴のない
研究においては、この場合も従来の研究に従っ
N11、N18、N20のうち、N11とN20のキーつつき
てリサージェンスが起こっていないと判断した。
反応率はキーつつきならびにペダル踏み消去条件
RORが 0 のときと負のときのリサージェンスの
の方がペダル踏み強化条件よりも多かった。一
違いについては、考察で論じる。
方、N18は、ペダル踏み強化条件とキーつつきな
(1)の式によって求めたキーつつきならびにペ
らびにペダル踏み消去条件でほとんどキーつつき
ダル踏み消去条件における各セッションのROR
反応を起こさなかった。実験歴のあるT5とT10
を被験体ごとにまとめたものが表 1 である。キー
は両条件でのキーつつき反応率に大きな差は見ら
つつきならびにペダル踏み消去条件のキーつつき
れなかった。これらのことから、実験歴のなかっ
反応率がペダル踏み強化条件のキーつつき反応率
たN11とN20だけが従来の判断方法に基づけば、
より高いときRORは正の値となる(表中、*で表
リサージェンスを示したと言える。
示)。逆に、キーつつき反応率がペダル踏み強化
− 59 −
小 幡 知 史・森 山 哲 美
条件よりキーつつきならびにペダル踏み消去条件
なかった。一方、実験歴のない個体の場合、N18
で低いときRORは負の値となり、両者が同じ場
は全てのセッションでRORが 0 でリサージェン
合RORは0となる。
スを示さなかったが、N11とN20は第 1 から第 2
次に、表 1 のセッション間でのRORの変化を
セッション目ないし第 3 セッション目にかけて正
個体別に示したのが図 2 である。図 2 の縦軸は
のRORを示してリサージェンスを示し、それ以
RORを示し、横軸はキーつつきならびにペダル
外は負のRORを示した。N11と比べてN20のROR
踏み消去条件のセッション数を示す。
の値は高く、RORが第 1 と第 2 セッションだけ
表 1 と図 2 が示すとおり、実験歴のあるT5と
でなく第 3 セッションでも正となっていること
T10は全てのセッションでRORの値が負であり、
から、リサージェンスのレベルはN20の方が大き
従ってこれらの被験体はリサージェンスを示さ
かった。
表 1 .キーつつきならびにペダル踏み消去条件の各セッションにおける各個体のROR
キーつつきならびにペダル踏み消去条件のセッション
被験体
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
T5
−0.03
−0.35
−0.50
−0.46
−0.50
−0.48
−0.50
−0.48
−0.46
−0.48
T10
−0.03
−0.54
−0.66
−0.89
−0.88
−0.88
−0.91
−0.69
−0.88
−0.88
−0.50
−0.76
−0.74
−0.77
−0.77
−0.77
−0.77
−0.77
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
0.00
−0.22
−0.22
−0.22
−0.22
−0.22
−0.22
−0.22
*
N11
0.36
N18
0.00
N20
2.51
*
0.47
*
0.00
1.71
*
3.80
*
図 2 .キーつつきならびにペダル踏み消去条件の各セッションにおける各個体のRORの変化
− 60 −
リサージェンス指標の検討を含めたハトにおける強化履歴ならびに他行動の出現傾向とリサージェンスの関係
本研究では、キーつつき反応のリサージェンス
図 3 は、各ブロックにおいてキーつつき関連反
と、キーつつき反応とペダル踏み反応、さらに他
応が出現したインターバル数を示す。キーつつ
行動の出現傾向との関連を調べることも目的とし
き関連反応は、方法で述べたように、 2 種類の
た。そのため、各条件で生起した様々な反応の
異なるトポグラフィーの反応だった。すなわち、
出現頻度を 2 人の観察者が独立に時間間隔記録法
「キーを見る」と「キーをかじる」であった。
によって測定した。キーつつき強化条件の最後の
個体別にキーつつき関連反応の推移をみると、
セッション、キーつつき消去条件の最初のセッ
リサージェンスを示さなかったT5とT10、そして
ション、ペダル踏み強化条件の最後のセッショ
N18のうち、T5とT10は、キーつつき強化条件、
ン、キーつつきならびにペダル踏み消去条件の最
キーつつき消去条件、そしてペダル踏み強化条件
初のセッションにおける時間間隔記録法での観察
にかけてキーつつき関連反応が出現したインター
者間一致度の平均値は、T5が93 %、T10が95 %、
バル数、あるいは出現しなかったインターバル数
N11が97 %、N18が94 %、N20が93 %だった。観
に変化はなかった。N18だけが、わずかにキーつ
察した反応は、方法で述べたキーつつき関連反応
つき強化条件の第 1 ブロックと第 6 ブロックで、
とペダル踏み関連反応であった。それらの結果を
キーを見る反応を示したが、頻度の変化のレン
図 3 と図 4 に示した。まず、各図の共通事項を述
ジは1.0(0.0-1.0)であった。最後のキーつつきな
べる。各図は、各条件の各ブロックで各反応が出
らびにペダル踏み消去条件になると、T5はキー
現したインターバル数を被験体別に示した。図の
を見る反応が出現したインターバル数が変動し、
縦軸は、各反応が出現したインターバル数を示
T10はキーをかじる反応が出現したインターバル
し、横軸は各条件でのブロック数を示す。図 3 は
数が変動した。T5のキーを見る反応の変動レン
キーつつき関連反応、図 4 がペダル踏み関連反応
ジは2.0(0.0-2.0)、T10のキーをかじる反応の変
の結果であった。
動レンジは1.0(4.0-5.0)であった。N18は、キー
図 3 .各被験体の各条件ブロック推移に伴うキーつつき関連反応の出現傾向
− 61 −
小 幡 知 史・森 山 哲 美
つつき関連反応をキーつつきならびにペダル踏み
るトポグラフィーの反応だった。すなわち、「ペ
消去条件でまったく示さなかった。
ダルを見る」と「ペダルをつつく」であった。
一方、リサージェンスを示したN11とN20は、
個体別にペダル踏み関連反応の推移をみると、
キーつつき強化条件から消去条件にかけてキーつ
リサージェンスを示さなかったT5とT10、N18の
つき関連反応が出現したインターバル数が変化
うち、T5とN18はキーつつき強化条件、キーつつ
した。N11の場合、キーつつき消去条件において
き消去条件、そしてペダル踏み強化条件にかけて
キーをかじる反応とキーを見る反応が出現したイ
ペダル踏み関連反応は出現しなかった。T10は、
ンターバル数が変動し、キーをかじる反応のイン
キーつつき強化条件、キーつつき消去条件にかけ
ターバルの変動レンジは4.0(0.0-4.0)、キーを見
てペダル踏み関連反応は出現しなかったが、ペダ
る反応の変動レンジは2.0(0.0-2.0)だった。N20
ル踏み強化条件で 2 つのペダル踏み関連反応を示
はキーをかじる反応が出現したインターバル数が
した。この条件におけるT10のペダルをつつく反
変動し、変動のレンジは2.0(3.0-5.0)であった。
応の変動はなく、ペダルを見る反応のインターバ
この 2 羽の被験体は、ペダル踏み強化条件になる
ル数の変動レンジは3.0(0.0-3.0)であった。最後
とキーつつき関連反応を示さなくなった。最後
のキーつつきならびにペダル踏み消去条件になる
のキーつつきならびにペダル踏み消去条件では、
と、T5とT10、そしてN18の 3 羽全てにおいて、
キーつつき関連反応が出現したインターバル数
ペダル踏み関連反応が出現した。T5は、ペダル
は、N20の第 1 ブロックを除くすべてのブロック
をつつく反応を示し、変動レンジは1.0(0.0-1.0)
で 0 であった。
だった。T10は 2 つの反応を示し、変動レンジは
図 4 は、各ブロックにおいてペダル踏み関連反
いずれも1.0(0.0-1.0)だった。N18はペダルを見
応が出現したインターバル数を示す。ペダル踏み
る反応とペダルをつつく反応を示し、変動レンジ
関連反応は、方法で述べたように、 2 種類の異な
はそれぞれ1.0(0.0-1.0)だった。
図 4 .各被験体の各条件のブロック推移に伴うペダル踏み関連反応の出現傾向
− 62 −
リサージェンス指標の検討を含めたハトにおける強化履歴ならびに他行動の出現傾向とリサージェンスの関係
一方、リサージェンスを示したN11とN20では、
あるハトではリサージェンスは示されなかった。
キーつつき強化条件からペダル踏み強化条件にか
こ の 結 果 とLieving & Lattal(2003)を は じ め、
けて、N11のキーつつき消去条件の第 2 ブロック
過去の動物を対象にしたリサージェンス研究の
を除いて、ペダル踏み関連反応は出現しなかっ
ほとんどが実験歴のない個体を実験してリサー
た。N11のキーつつき消去条件でのペダルをつつ
ジェンスを確認していることを考慮すると、実験
く反応の変動レンジは1.0(0.0-1.0)だった。最後
歴もリサージェンスの制御変数としてとらえる
のキーつつきならびにペダル踏み消去条件になる
ことができるかもしれない。しかし、実験歴の
と、 2 羽ともペダル踏み関連反応が出現したイン
ある個体でリサージェンスを調べた研究(たと
ターバル数は変動した。N11は、ペダルを見る反
えば、Cleland et al., 2000; Doughty et al., 2007;
応とペダルをつつく反応を示し、変動レンジはと
Cancade & Lattal, 2011)もリサージェンスの生
もに1.0(0.0-1.0)だった。N20はペダルをつつく
起を報告していることから、実験歴がリサージェ
反応を示し、変動レンジは1.0(0.0-1.0)だった。
ンスの重要な制御変数とはいえないかもしれな
本実験の以上の結果をまとめると、実験歴のあ
い。そうであれば、なぜ本実験の実験歴のあるハ
る個体はリサージェンスを示さなかったが、実験
トがリサージェンスを示さなかったのであろう
歴のない個体は 3 羽中 2 羽がリサージェンスを示
か?その理由として、実験歴のある個体の標的行
した。さらに、リサージェンスを示した個体は、
動の強化条件ならびにその消去条件におけるキー
キーつつき消去条件においてキーつつき関連反応
つつき反応の高い生起率が関係しているかもしれ
の大きな変動を示したが、リサージェンスを示さ
ない。キーつつき強化条件では、実験歴のある個
なかった個体はそのような変動を示さなかった。
体のキーつつき反応の平均生起回数は1714回だっ
しかし、ペダル踏み関連反応については、リサー
たのに対し、実験歴のない個体のそれは1225回で
ジェンスを示した個体と示さなかった個体の間で
あった。また、図 1 のキーつつき消去条件におけ
体系的な変化は見られなかった。
るキーつつき反応率をみると、実験歴のない個体
のキーつつき反応ははじめの数セッションで急激
考 察
に減少し、その後ほとんど生起しなかったのに対
本研究は、 4 条件法を用いて、実験歴のあるハ
して、実験歴のある個体は、はじめにキーつつき
トと、ないハトを被験体とし、キーつつき反応の
反応が急激に減少するものの、その後、再び生起
リサージェンスと、キーつつき反応を含めた他の
した。実験歴のある個体のキーつつき反応生起率
反応の出現傾向を調べた。さらにリサージェン
が、強化条件においても、消去条件においても、
スの強さを定量的に示す指標を求めた。実験の結
このように実験歴のない個体と比べて高かったの
果、リサージェンスを示した個体は実験歴のない
は、過去の実験における強化経験によるものだろ
3 羽のうちの 2 羽だった。また、これらリサー
う。そして、反応生起率が高かったがゆえに、消
ジェンスを示した個体は、キーつつき消去条件に
去を受けた個別反応数は、実験歴のある個体の方
おいてキーつつき関連反応の変動を示したが、リ
が実験歴のない個体よりも多かったと言える(実
サージェンスを示さなかった個体はそのような傾
際、標的行動の消去条件のセッション全体におけ
向を示さなかった。さらに、RORを算出したこ
るそれぞれのハトが消去を受けた反応の回数は、
とでリサージェンスのレベルを定量的に示すこと
実験歴のあるT5は7543回、T10は6952回、実験歴
ができた。
の な いN11は1213回、N18は1413回、N20は2287
本研究で実験歴のないハト 3 羽のうち 2 羽に
回であった)。その消去経験の多少がリサージェ
おいてのみリサージェンスが示され、実験歴の
ンスの生起の違いに関係するのかもしれない。し
− 63 −
小 幡 知 史・森 山 哲 美
かし、N18は消去を受けた反応回数が少なかった
応が出現し、そしてそれが変動した。キーつつき
がリサージェンスを示さなかったので、そのよ
関連反応は、リサージェンスを示さなかった 3 羽
うに結論することは難しい。また、この結果は、
のうち 2 羽のハトで生起し、それが変動したが、
Da Silva et al.(2008)が反応率の高さがリサー
リサージェンスを示した 2 羽のハトでは、キーつ
ジェンスの生起と関係していると報告したことと
つき関連反応は、第 4 条件でほとんど生起しない
も矛盾する。反応率の高低、そして消去を受けた
で、代わりにキーつつき反応が生起したからであ
反応の回数といった指標がリサージェンスとどの
る。したがって、この 2 羽のハトの第 4 条件での
ようにかかわるのかについては、今後検討する必
キーつつき反応は、代替行動の消去における反応
要がある。
変動性と見ることができるかもしれない。しか
一方、リサージェンスを示さなかった実験歴の
し、これを結論するには、標的行動をペダル踏み
ある 2 羽の結果から、キーつつき反応のリサー
反応に、そして代替行動をキーつつき反応に変え
ジェンスを本能浮遊の現れと見ることができるか
た場合、最後のキーつつき反応の消去において、
もしれない。序論で述べたように、キーつつき
ペダル踏み反応のリサージェンスとキーつつき関
反応のリサージェンスが本能浮遊の現れと見るこ
連反応の変動が起こるのかどうかを見る必要があ
とができるなら、実験歴のない個体でリサージェ
るだろう。
ンスが生起して、実験歴のあるハトでは生起しに
次に、リサージェンスと他の反応の出現傾向の
くい可能性がある。本実験の結果は、実験歴のな
関連について考察する。リサージェンスを示した
い 2 羽のハトがリサージェンスを示し、実験歴の
個体は、キーつつき消去条件においてキーつつき
ない 2 羽は示さなかった。この結果から、リサー
関連反応の出現頻度が変動した。N11は、キーを
ジェンスは、第 4 条件で生起するキーつつき反応
かじる反応とキーを見る反応が変動し、N20は、
の本能浮遊とみることができるかもしれない。す
キーをかじる反応が変動した。一方、リサージェ
なわち、キーつつき反応のリサージェンスは、こ
ンスを示さなかった個体はそのような変動を示さ
の反応についてのオペラント条件づけの経験が十
なかった。T5とN18は、キーつつき関連反応を全
分ではない個体で見られる生得的な反応の浸潤と
く示さず、T10は、キーをかじる反応を一貫して
言えるかもしれない。しかし、一般的に、行動が
生起させその変動を示さなかったのである。これ
生得的であると結論するには十分な注意が必要で
らの結果から、リサージェンスの生起には、標的
ある。行動の制御変数を徹底的に調べもしない
行動にトポグラフィーが類似する反応が標的行動
で、ある行動が生得的であるということは危険だ
の強化から消去に伴って変動することが関連する
からである。リサージェンスの研究では、その制
かもしれない。これについても、標的行動と代替
御変数の探索は端緒についたばかりである。した
行動を本実験の場合と逆にする実験で検討する必
がって、キーつつき反応のリサージェンスを本能
要があるだろう。
浮遊の現れと見る前に、この反応の制御変数をさ
リサージェンスと他の反応の出現傾向の関連に
らに詳しく調べる必要がある。
ついてもうひとつの可能性が考えられる。標的行
また一方で、リサージェンスを代替行動の消去
動のキーつつき反応にトポグラフィーが類似する
時における反応変動性の現れとみることはできる
反応(すなわち、キーつつき関連反応)が、キー
かもしれない。なぜなら、リサージェンスを示し
つつき消去条件において出現することが、キーつ
た 2 羽のハトと、そうでない残りの 3 羽のハトの
つき反応のリサージェンスの生起に関連するので
すべてにおいて、第 4 条件、すなわち、キーつつ
はないかという可能性である。実験の結果は、リ
きならびにペダル踏み消去条件で、ペダル関連反
サージェンスを示した 2 羽はキーつつき消去条件
− 64 −
リサージェンス指標の検討を含めたハトにおける強化履歴ならびに他行動の出現傾向とリサージェンスの関係
においてキーつつき関連反応を示したのに対し
対性によって言及される現象である以上、 2 つ
て、リサージェンスを示さなかった 3 羽は、T10
の条件での標的反応率を比較したRORはリサー
を除いてキーつつき関連反応を示さなかった。し
ジェンスの適切な指標と言えるだろう。
たがって、リサージェンスの生起には、標的行動
RORが正とゼロの値のときのみリサージェン
とトポグラフィーが類似する反応が標的行動の消
スを問題にできる。この値が負の場合、ペダル
去条件で生起する必要があるのかもしれない。こ
踏み強化条件におけるキーつつき反応率の方が、
の可能性も標的行動をペダル踏み反応にして調べ
キーつつきならびにペダル踏み消去条件での反応
られる必要があるだろう。
率より高いということであり、従来の研究の視点
さらに、リサージェンスは、消去事態における
からすれば、リサージェンスが起こったとはいえ
標的行動、代替行動、そして他行動といった複数
ない。これはペダル踏み強化条件においてキーつ
の反応の生起確率の相対性を反映した反応階層性
つき反応が十分に消去されなかったということで
と関係するかもしれない。反応階層性は、ある
ある。そうであれば、リサージェンスには、ペダ
反応が消去されていく過程で、複数の反応が系
ル踏み強化条件におけるキーつつき反応の標的代
列的に生起する現象から推測される反応系列で
替行動の消去が必要と言えるかもしれない。つま
ある。リサージェンスは、この反応階層性の問
り、ペダル踏み強化条件の終了条件としてペダル
題と関係があるかもしれない(Shabani, Carr, &
踏み反応の安定とキーつつき反応の完全消去とい
Petursdottir, 2009)。しかし、これは、いまだ思
う 2 つの基準を設ける必要があるかもしれない。
弁にとどまるので、第 4 条件の消去過程で、標的
このようにRORを求めたことで、リサージェン
行動、代替行動、そしてこれらの反応の関連反応
スの制御変数の同定についても議論することがで
の系列的関係を今後調べる必要がある。
きた。その意味でもRORは、リサージェンスの
最後にRORについて考察する。結果で示した
適切な指標と言えるだろう。
とおり、RORはペダル踏み強化条件とキーつつ
以上の考察をまとめると、実験歴のない個体は
きならびにペダル踏み消去条件におけるキーつつ
リサージェンスを示したが、実験歴のある個体は
き反応率を比較した指標である。この指標を用い
リサージェンスを示さなかったことから、標的行
たことで、リサージェンスを示した個体の間で
動が十分に獲得されていないこと、言い換えるな
も、リサージェンスの程度の違いを言及できた。
ら、標的行動の強化経験が十分ではないことがリ
例えば、リサージェンスを示したN11とN20のそ
サージェンスの生起に関係しているのかもしれな
れぞれのRORは、N11が0.36であったのに対して
い。さらに、リサージェンスを示した個体は、第
N20は2.51であった。この 2 羽のRORの差は、ペ
2 条件である標的行動の消去条件において、標的
ダル踏み強化条件の最終セッションで、N11は
行動にトポグラフィーが類似した反応が変動した
キーつつき反応を自発したのに対して、N20はほ
ことから、標的行動とトポグラフィーが類似した
とんどキーつつき反応を自発しなかったことによ
反応の変動性とリサージェンスは関係しているか
る。キーつつきならびにペダル踏み消去条件にお
もしれない。さらにまた、ペダル踏み強化条件に
けるキーつつき反応率だけを問題にしてリサー
おけるペダル踏み反応の安定とキーつつき反応の
ジェンスを論じるなら、反応率はN11の方がN20
完全消去もキーつつき反応のリサージェンスに関
よりも高かったので、リサージェンスは、N11の
係しているかもしれない。これらの可能性を、今
方がN20より強いということになる。リサージェ
後、さらに検討する必要があるだろう。RORは、
ンスが、代替反応の強化条件における標的反応率
リサージェンスの強さを示す有効な指標であると
と、代替反応の消去条件における標的反応率の相
いえるが、その一般性を主張するには、リサー
− 65 −
小 幡 知 史・森 山 哲 美
ジェンスの実験的研究において、RORが有効な
Analysis Letters, 3, 391-397.
指標であり続けるかどうか検討する必要がある。
Epstein, R.(1985). Extinction-induced resurgence:
Preliminary investigations and possible applications.
脚 注
The Psychological Record, 35, 143-153.
1 .本実験の実験歴のあるハトは、異なる色光のもと
Jenkins, H. M., & Moore, B. R.(1973). The form
でキーをつついて餌を獲得するという色光弁別訓練
of the autoshaped response with food or water
を受けていた。その期間や成績の詳細は、紙数の関
reinforcers. Journal of the Experimental Analysis of
係上、ここでは省略する。
Behavior, 20, 163-181.
Lattal, K. A., & Pipkin, C. P.(2010). Resurgence
引 用 文 献
of
Breland, K., & Breland, M.(1961). The misbehavior
previously
reinforced
responding:
Research
and application, The Behavior Analyst Today, 10,
of organisms. American Psychologist, 16, 681-684.
254-266.
Bruzek, J. L., Thompson, R. H., & Peters, L. C.(2009).
Lieving, G. A., & Lattal, K. A.(2003). Recency,
Resurgence of infant caregiving responses. Journal
repeatability, and reinforcer retrenchment: An
of the Experimental Analysis of Behavior, 92,
experimental analysis of resurgence. Journal of the
327-343.
Experimental Analysis of Behavior, 80, 217-233.
Cancado, C. R. X., Lattal, K. A.(2011). Resurgence
Lieving, G. A., Hagopian, L. P., Long, E. S., &
of temporal patterns of responding. Journal of the
O’Connor,
Experimental Analysis of Behavior, 95, 271-287.
and resurgence of severe problem behavior, The
Cleland, B. S., Guerin, B., Foster, T. M., & Temple,
J.(2004). Response-class
hierarchies
Psychological Record, 54, 621-634.
W.(2000). Resurgence: The role of extinction, The
中島定彦(1992).反応非依存強化子呈示による消去
Behavior Analyst, 24, 255-260.
された反応の復活−定間隔(FI)強化スケジュール
Da Silva, S. P., Maxwell, M. E., & Lattal, K. A.(2008).
による検討− 行動分析学研究,7,53-62.
Concurrent resurgence and behavioral history.
Reed, P., & Morgan, T. A.(2006). Resurgence of
Journal of the Experimental Analysis of Behavior,
response sequences during extinction in rats shows
90, 313-331.
a primacy effect. Journal of the Experimental
Dixon, M.R., & Hayes, L. J.(1998).
Effects of
Analysis of Behavior, 86, 307-315.
differing instructional histories on the resurgence
of rule-following.
Shabani, D. B., Carr, J. E., & Petursdottir, A. I.(2009).
The Psychological Record, 48,
A laboratory model for studying response-class
275-292.
hierarchies. Journal of Applied behavior Analysis,
Doughty, A. H., Da Silva, S. P., & Lattal, K. A.(2007).
42, 105-121.
Differential resurgence and response elimination.
Tatham.,
Behavioral Processes, 75, 115-128.
Epstein,
R.(1983).
Resurgence
T.
A.
&
Wanchisen,
B.
A.(1998).
Behavioral history: A definition and some common
of
previously
findings from two areas of research. The Behavior
reinforced behavior during extinction. Behavior
Analyst, 21, 241-251.
− 66 −
常磐大学大学院学術論究 創刊号 2014.3
Scientific Journal of Tokiwa University Graduate School
No.1 Mar. 2014
研究レビュー
人間の攻撃行動を説明するための行動随伴性
1)
2)
佐久間 崇・森 山 哲 美
2013年 7 月22日受付,2013年10月21日受理
Abstract:We investigated the possibility of comprehensive behavior analytic explanation of human
aggressive behaviors. The explanation was based on three kinds of contingencies suggested by B. F.
Skinner: phylogenic, ontogenic, and socio-cultural contingencies. We had already suggested the necessity
of making consideration of behavioral contingencies of both aggressors and people being affected by
aggressive behaviors in our previous explanation. However, we scrutinized our suggestion closely through
Sato s classification of human aggressive behaviors in terms of behavioral contingencies. The results
showed that our previous suggestion was insufficient for explaining various kinds of human aggressive
behaviors. Then we investigated important variables which we missed in our previous suggestion. The
study revealed that we should consider various kinds of behavioral contingencies for human aggressive
behaviors. Further, we found that these contingencies are to be classified into three kinds of contingencies
suggested by B. F. Skinner: phylogenic, ontogenic, and socio-cultural contingencies. From the finding,
we conclude that human aggressive behaviors are joint products of these three contingencies.
Key words:human aggressive behaviors, behavioral contingencies, phylogenic contingency,
ontogenic contingency, socio-cultural contingency
ばなくしたい行動である。つまり制御したい行動
はじめに
である。
我々が攻撃と呼ぶものには様々な種類がある。
攻撃行動を制御するには、攻撃行動がどのよう
個人のレベルでも、また社会、文化のレベルでも
な理由で、どのように生起するのかについての説
深刻な被害をもたらす攻撃行動がかかわる事象と
明が必要である。これまで、攻撃行動は様々な分
して、傷害事件、暴行事件、少年非行、殺人事
野から説明されている。それらの多くは、佐久
件、いじめ、テロ、戦争、虐待、性的犯罪などが
間・森山(2013)が概観したように、動物行動学、
ある。これらは、身近に起きる攻撃行動ではない
精神分析学、認知心理学、生理学などの視点であ
かもしれない。しかし、マスコミの報道ではよく
る。しかし、これらの視点は、説明としては納得
知らされる事象である。しかし、攻撃行動はこの
のいくものもあるが、攻撃行動の制御の観点から
ような社会の重大現象そのものにかかわるものだ
みれば、有用とは思えない。特に、これらの視点
けではない。身近なものをあげれば、他者を殴
で語られる攻撃行動は、攻撃の一側面、たとえ
る、怒鳴る、他者の悪口を言う、他者に嫌がらせ
ば、生得的な攻撃行動だけであったり、生理的な
をするなどもある。これらの攻撃行動は、我々に
側面からの説明であったり、さらには攻撃行動の
とってできれば避けたい行動であり、可能であれ
発現にかかわる認知機構だけに注目しており、多
1 )Takashi Sakuma:常磐大学人間科学研究科修士課程
2 )Tetsumi Moriyama:常磐大学人間科学研究科研究指導教授
− 67 −
佐久間 崇・森 山 哲 美
様に存在する攻撃行動と環境事象のかかわりを包
及される人の言語行動にかかわる変数である。攻
括的に説明しているとは言い難い。その意味で、
撃行動も言語行動も、基本的に他者が関わること
従来の視点では、多様な攻撃行動の制御は困難な
で成り立つ社会的行動である。そして、言語によ
のではないかと佐久間・森山(2013)は指摘した。
る攻撃も、人の場合、ある。したがって、筆者ら
攻撃行動の制御を目的とするのであれば、多種
はこの言語が関与する攻撃行動も考慮する必要が
多様な攻撃行動を説明することができ、なおかつ
あると考える。
攻撃行動の制御が可能となるような包括的な枠組
本論の目的は、佐久間・森山(2013)のモデル
みが必要であると考える。そのような枠組みとし
を拡張して、多種多様なヒトの攻撃行動を具体的
て、筆者らは行動分析学の視点に基づく行動随伴
に説明し、攻撃行動の制御を可能ならしめる諸変
性を提供できると考える。佐久間・森山(2013)
数を考慮した新たなモデルの構築可能性を検討す
は、行動分析学の視点にたって、行動随伴性の枠
ることである。
組みで攻撃行動を、攻撃者と被攻撃者のそれぞれ
人の多様な攻撃行動を行動分析学の行動随伴
の行動随伴性からなるモデルを提供した。そのモ
性の枠組みで分類して説明したものとして佐藤
デルでは両者の随伴性のダイナミックな相互作用
(1978)の研究がある。 そこで彼が分類した攻
として攻撃行動を捉えた。筆者らは、このモデル
撃行動にかかわる変数を調べて、それらを佐久
によって攻撃行動が攻撃者と被攻撃者のそれぞれ
間・森山(2013)のモデルに加えることができれ
の行動随伴性にかかわる環境変数を操作すること
ば筆者らの目的は達成できるかもしれない。し
によって攻撃行動は制御されると考えている。し
か し、 そ れ だ け で は な く、Skinnerの 三 つ の 随
かし、その後、筆者らのモデルは、ヒトの多様な
伴性、 すなわち系統発生的随伴性(phylogenic
攻撃行動を説明するには十分ではないと考えるよ
contingency)、 個 体 発 生 的 随 伴 性(ontogenic
うになった。上で述べたような社会、文化にかか
contingency)、さらに社会文化的随伴性(socio-
わる攻撃行動を説明して制御するには、さらに考
cultural contingency)を考慮することで、人の多
慮すべき変数があるのではないかと考えた。つま
様な攻撃行動を説明するための新たなモデルを行
り、佐久間・森山(2013)のモデルは、攻撃者と
動分析学の行動随伴性の枠組みで包括的にとらえ
被攻撃者のそれぞれの行動に関わる先行事象であ
ることができるかもしれない。
る弁別刺激、そして、行動、さらにその行動に随
以上の考えから、本論は、人の多様な攻撃行動
伴する結果事象だけしか考慮しておらず、ある攻
を説明するために、佐藤(1978)の攻撃行動の分
撃にかかわるエピソード全体に関係する確立操作
類にかかわる行動随伴性を分析して、佐久間・森
や、攻撃者、被攻撃者のそれぞれの行動履歴、さ
山(2013)が取り上げなかった変数を見つけ出し、
らには攻撃が生起する文脈や社会的事象といった
それらを佐久間・森山(2013)のモデルに導入す
場面事象(setting event)がまったく考慮されて
る。さらに、Skinnerの三つの随伴性の視点をそ
いないことに気付いた。したがって、佐久間・森
の新たなモデルの理論的基盤とできるかどうかを
山(2013)のモデルは、ヒトの攻撃行動にかかわ
検討する。
る多くの変数を考慮しておらず、攻撃行動の生起
そこでまず、行動分析学の用語を説明し、その
にかかわる過程を単純に解釈したモデルと言える
上で佐藤(1978)によるヒトの攻撃行動の分類を
だろう。ヒトの攻撃行動を理解するには、その多
説明する。そこでは、彼が分類した攻撃行動に
様性を理解し、攻撃行動の生起に関わる多様な変
かかわる行動随伴性にかかわる変数を明らかに
数を調べる必要があると考える。特に考慮すべき
する。さらにSkinnerの三つの随伴性について説
変数は、動物の行動とヒトの行動の違いとして言
明し、これら三つの随伴性を考慮に入れて佐藤
− 68 −
人間の攻撃行動を説明するための行動随伴性
(1978)の分類で明らかとなった変数を考慮した
することで行動の生起頻度が増加する随伴性は負
新たなモデルの提案可能性を検討する。
の強化と呼び、この刺激を負の強化子、行動の生
起頻度が減少する随伴性は負の弱化と呼び、この
行動分析学の基本的視点と用語
刺激を負の弱化子と呼ぶ。オペラント行動には他
行動分析学は、人と動物の行動を、仮説的な構
にも確立操作とよばれる変数も関与する。
成概念によって説明しないで、生活体と直接かか
以上、行動分析学の基本的な用語を説明した。
わる環境との相互作用によって説明する科学であ
その上で佐藤(1978)の攻撃行動の分類について
る。行動分析学が対象とする行動はレスポンデン
説明する。
ト行動とオペラント行動である。レスポンデント
佐藤(1978)の攻撃行動の分類
行動は先行する刺激(先行刺激)によって誘発さ
れる行動であり、これは、反射行動とも呼ばれ
佐藤(1978)は、行動分析学の視点から、攻撃
る。レスポンデント行動を誘発する刺激は生得的
行動の形態、オペラント的攻撃のタイプのそれぞ
な無条件刺激と条件づけによって獲得された条件
れによってヒトの攻撃行動を分類した。以下に各
刺激の 2 種類である。オペラント行動は、行動、
項目について説明する。
行動に先行する弁別刺激、行動に後続する結果
攻撃行動の形態
(随伴事象)の三項からなる随伴性によって記述
される。レスポンデント行動と異なり、オペラン
攻撃行動の形態について佐藤(1978)は、人の
ト行動は、この行動に随伴する結果の影響を受け
攻撃行動を、表 1 が示すように、言語的か非言語
てその生起頻度が変化する行動である。行動に随
的か、積極的か消極的か、直接的か間接的かの 3
伴する結果によって行動の生起頻度が増加したと
つの次元にもとづいて 8 つに分類している。動物
き強化といい、減少したときは弱化と呼ぶ。行動
の攻撃行動が身体的(非言語的)で直接的で積極
に随伴する刺激が行動の結果として出現すること
的であるのに対して、ヒトの攻撃行動は、それら
で行動が強化される場合、この随伴性を正の強化
も含めて 8 種の異なる形態を有していると述べら
と呼び、その刺激を正の強化子と呼ぶ。また、行
れている。
動に随伴して刺激が出現することで行動の生起頻
なお、表 1 はオペラント攻撃について言及した
度が減少したときの随伴性を正の弱化と呼び、こ
ものであるが、これにはレスポンデント的な攻撃
の刺激を正の弱化子と呼ぶ。さらに、刺激が消失
行動も関係すると佐藤(1978)は述べている。そ
表 1 .ヒトの攻撃行動の諸形態(佐藤、1978)
直接的
積極的
非言語的
言語的
間接的
消極的
積極的
消極的
殴 る、 蹴 る、 噛 み つ く、 行手を拒む、目の前でハ
わめき倒す
ンガー・ストをするなど
タイヤの空気を抜く、罠
を仕掛ける
頼まれている仕事をしな
い、会う約束をすっぽか
す
非難する、罵る
よ か ら ぬ ゴシ ッ プ を 流
す、怪文書を各所に回付
する
手紙に返事を書かない、
頼まれている推薦状を書
かない
話しかけに答えない、聞
こえない振りをする
− 69 −
佐久間 崇・森 山 哲 美
こで、まずレスポンデント攻撃について触れる。
当事者には日常語で<怒り>と呼ぶ情動が体験さ
レスポンデント行動には、生得的なものもあれ
れる。
ば学習されたものもある。前者は、無条件刺激に
オペラント的攻撃のタイプ
よって誘発される無条件反応であり生得的なレス
ポンデント反応である。それに対して、本来は
佐藤(1978)は、人の攻撃行動を形態ではなく、
無条件反応を誘発しない中性刺激が、レスポンデ
オペラントの弁別刺激、そして強化的な結果にも
ント反応を誘発する無条件刺激や条件刺激と対呈
とづいても分類している。それが表 2 である。そ
示されることでレスポンデント反応を誘発するよ
れによると、ヒトの攻撃オペラントは、「奪うた
うになった場合、この反応は習得的なレスポンデ
めの攻撃」、「奪い合うための攻撃」、「守るための
ント反応であり条件反応である。攻撃行動にもこ
攻撃」、「拒むための攻撃」、「拒み合うための攻
のようなレスポンデント反応としての攻撃行動が
撃」、「押しつけるための攻撃」の 6 つに分類され
あり、動物行動学者たちが主張する攻撃行動はそ
る。以下にそれぞれの攻撃について説明する1。
のような行動であろう。これは表 1 の分類に従え
「奪うための攻撃」は、攻撃者が欲しがってい
ば、基本的に非言語的で直接的で積極的なもので
る報酬刺激(例えば、金品)を被攻撃者が所有し
ある。しかし、言語的で直接的で積極的なものに
ていることが弁別刺激となって生起する攻撃であ
もレスポンデント的要素を含むものがあると佐藤
る。攻撃者の攻撃行動が強化されるのは、被攻撃
(1978)は述べている。彼はレスポンデント的攻
者が所有していた報酬刺激が攻撃者自身のものに
撃行動の誘発刺激は物理的あるいは化学的な刺激
なったときである。
だけでなく、言語的刺激にも攻撃行動を誘発する
次に、「奪い合うための攻撃」は、攻撃者と被
側面があると述べている。言語的刺激によって攻
攻撃者の両者が欲しがっている報酬刺激がどちら
撃行動が生起した場合、その言語的刺激は嫌悪的
にも所有されておらず、彼らが共存する環境に存
なものであると考えられる。また、ヒトのレスポ
在することが弁別刺激となって生起する攻撃であ
ンデント的攻撃が生じる際に、多くの場合、その
る。この場合の攻撃者の攻撃行動が強化されるの
表 2 .オペラント的攻撃の分類(佐藤、1978)
奪うための
攻撃
奪い合う
ための攻撃
守るための
攻撃
拒むための
攻撃
拒み合うため
の攻撃
押し付ける
ための攻撃
弁 別 刺 激(オ
ペラント 的 攻
撃を生み状況)
相 手 が、 自 分
も相手も欲し
い正の強化子
を所有してい
る
環 境 に、 自 分
も相手も欲し
い正の強化子
が存在してい
る
自 分 が、 自 分
も相手の欲し
い正の強化子
を所有してい
る
相 手 が、 自 分
も相手も嫌な
負の強化子を
押し付けよう
としている
環 境 に、 自 分
も相手も嫌な
負の強化子が
存 在 し、 何 ら
か の 力 が、 自
分か相手にそ
れを押し付け
ようとしてい
る
自 分 が、 自 分
も相手も嫌な
負の強化子を
相手に押し付
けたい
強 化(オ ペ ラ
ント 的 攻 撃 の
成功がもたら
す結果)
正の強化子が
自分のものに
なる
正の強化子が
自分のものに
なる
正の強化子が
自分の下に留
まる
負の強化子を
自分が押し付
けられずにす
む
負の強化子を
自分に押し付
けられずにす
む
負の強化子を
相手に押し付
けることがで
きる
− 70 −
人間の攻撃行動を説明するための行動随伴性
は、その報酬刺激が攻撃者側だけのものになった
で、佐藤(1978)が提起した上記の情動について
ときである。
はこの論文で言及しないことにする。
3 番目の「守るための攻撃」は、攻撃者と被攻
佐藤の攻撃行動の分類についての筆者らの意見
撃者の両者が欲しがっている報酬刺激を攻撃者が
所有しているとき、被攻撃者が自分のものにしよ
上で述べたように佐藤(1978)は、オペラント
うとしたときの被攻撃者の行動が弁別刺激となっ
的攻撃行動を、「奪うための攻撃」、「奪い合うた
て生起する攻撃である。この場合、攻撃者の攻撃
めの攻撃」、「守るための攻撃」、「拒むための攻
行動が強化されるのは、自分が所有していた報酬
撃」、「拒み合うための攻撃」、「押しつけるための
刺激を保持できた場合である。
攻撃」の 6 つに分類した。攻撃行動が発現する場
4 番目の「拒むための攻撃」は、攻撃者にとっ
合、これは強化の随伴性で説明される。強化の随
ても被攻撃者にとっても嫌悪的である刺激が被攻
伴性は、先に述べたように、基本的には報酬刺激
撃者によって無理やり攻撃者側に提示されること
を得たことによる正の強化と嫌悪刺激を除去でき
が弁別刺激になって生起する攻撃である。この場
たことによる負の強化の 2 つだけである。しか
合、攻撃者の攻撃行動が強化されるのは、被攻撃
し、「守るための攻撃」と「拒むための攻撃」は、
者が提示した嫌悪刺激を除去できた場合である。
報酬刺激を失わないようにするために生起する攻
5 番目の「拒み合うための攻撃」は、攻撃者に
撃と、嫌悪刺激を受けないようにするために生起
とっても被攻撃者にとっても嫌悪的な刺激が、彼
する攻撃である。この 2 つの攻撃の随伴性を説明
らが共存する環境に存在していて、なんらかの作
するには、阻止の強化の随伴性を考慮するとよい
用によってその嫌悪刺激が攻撃者か被攻撃者のど
のかもしれない。阻止の強化の随伴性とは、行動
ちらか一方に提示されることが弁別刺激になって
の生起によって報酬刺激の消失を阻止したり、嫌
生起する攻撃である。この場合、攻撃者の攻撃行
悪刺激の出現を阻止したりすることで、行動の生
動が強化されるのは、その攻撃行動によって嫌悪
起頻度が上昇する随伴性である。前者の、報酬刺
刺激が攻撃者には提示されずに被攻撃者だけに提
激の消失を妨げるための随伴性は報酬刺激消失の
示された場合である。
阻止の随伴性と呼び、後者の、嫌悪刺激出現を阻
6 番目の「押し付けるための攻撃」は、攻撃者
止するための随伴性を嫌悪刺激出現の阻止の随伴
にとっても被攻撃者にとっても嫌悪的な刺激をそ
性と呼ぶ。佐藤(1978)が考慮した攻撃者による
れぞれが相手に押し付けることが弁別刺激となっ
攻撃行動の随伴性は、この 2 種類の阻止の随伴性
て生起する攻撃である。この場合、攻撃者の攻撃
を考慮すると、正の強化、負の強化、報酬刺激消
行動が強化されるのは、嫌悪刺激を被攻撃者に押
失の阻止の随伴性と嫌悪刺激出現の阻止の随伴性
し付けることができた場合である。
の4つであると言えるだろう。しかし、被攻撃者
上記 6 種類の攻撃にかかわる随伴性に関連し
の随伴性はこの 4 つの随伴性だけで説明すること
て佐藤(1978)は「歓喜」、「不安」、「安堵」、「憤
ができない。その理由について以下に考察する。
怒」といった情動の生起についても説明し、それ
佐藤の攻撃行動の分類では、報酬刺激または嫌
らの情動とすでに述べたレスポンデント的な攻撃
悪刺激は、攻撃者と被攻撃者がおかれている同一
行動との関連についても述べている。しかし筆者
環境の中に限定されており、一方が報酬刺激を得
らは、佐久間・森山(2013)で定義したように、
れば他方はそれを得ることができない図式とな
攻撃行動を被攻撃者への効果の点から定義するの
る。すなわち、攻撃者と被攻撃者の互いの随伴性
で、筆者らが主に議論する攻撃行動は、レスポン
は、片方の行動が強化されれば、他方の行動は消
デントというよりオペラントが中心となる。そこ
去あるいは弱化され、拮抗の関係にある。すな
− 71 −
佐久間 崇・森 山 哲 美
わち、攻撃者だけの行動随伴性が明らかになれ
合、3)行動は1種類で相補的な随伴性が複数ある
ば、被攻撃者の行動随伴性は一義的に決まり、あ
場合、4)行動が 1 種類で相反的な随伴性が複数
えて被攻撃者の随伴性を考慮しないですむことに
ある場合の4種類がある(杉山・島宗・佐藤・マ
なる。これは、佐藤がこれらの攻撃行動を両者が
ロット・マロット,1998)。
攻撃者になる可能性を考慮した「けんか行動」と
両立できない行動が 2 つ以上ある場合、行動者
とらえたためであると考える。そのことは、攻撃
はどちらか一方の行動を選択しなければならな
行動に対する被攻撃者の行動も攻撃行動であると
い。このとき行動者は複数選択することのできる
いうことを前提とする。しかし、攻撃者の攻撃行
行動のうち、行動発現の負荷の小さい行動、行動
動に対しての被攻撃者の行動は攻撃行動だけでな
から強化までの時間に遅延がない行動、さらに、
く、その他の行動も存在すると考える。その理由
もっとも強化力、あるいは強化可能性が高い行動
として、攻撃者の攻撃行動と被攻撃者の行動のそ
を選択するだろう。例えば、同じ強化子が得られ
れぞれに随伴する事象には、佐藤(1978)が想定
る行動が社会的に容認される行動と攻撃行動の2
したような同一環境に存在するものだけではない
つである場合、もし攻撃行動の方が社会的に容認
からである。つまり、攻撃者の攻撃行動と被攻撃
される行動よりも発現の負荷が小さく、また強化
者の行動のそれぞれの強化事象は、同一の報酬刺
子獲得までの時間が短く、さらに強化子の大きさ
激や嫌悪刺激でない場合もあるからである。例え
が大きく、強化可能性が高い場合、人は社会的に
ば、攻撃者の攻撃行動が傍観者のような他者から
容認される行動よりも攻撃行動の方を選択するだ
の注目によって強化され、維持されている場合で
ろう。同様のことは他の並立随伴性でも考えられ
ある。この場合、攻撃者は攻撃によって注目とい
る。
う報酬刺激を得ることができる。一方、被攻撃者
このように並立随伴性にかかわる攻撃行動の可
の行動が攻撃者のいいなりになる行動を示せば、
能性についても考慮しなければならない。にもか
被攻撃者のいいなり行動は、攻撃者から呈示され
かわらず佐藤(1978)の分類は、そのような並立
た攻撃という嫌悪刺激から逃れることができると
随伴性を考慮していない点でも十分とは言えない
いう嫌悪刺激の除去によって強化される。このと
だろう。しかし筆者らは、佐久間・森山(2013)
き、攻撃者の攻撃行動の随伴性は正の強化、被攻
のモデルに補うべき変数を佐藤(1978)の分類か
撃者の言いなり行動の随伴性は負の強化となる。
ら明らかにすることができた。一つは、攻撃者と
このように、攻撃者と被攻撃者のそれぞれの随伴
被攻撃者が共存する環境の中の同一報酬刺激や同
性は多様であり、佐藤の分類だけで十分とは言え
一嫌悪刺激に関わる彼らの随伴性を考慮すること
ないようだ。
である。さらに、佐藤(1978)が明記したわけで
また、攻撃行動に随伴する結果は 1 つとは限ら
はないが、彼の分類の中に入れられた攻撃者と被
ない。複数の強化事象が関与したり、あるいは場
攻撃者の阻止の随伴性のかかわりである。一方、
合によって嫌悪刺激が関与したりする場合もある
佐藤(1978)の分類から筆者らが浮き彫りにする
だろう。このように同一のオペラントが複数の
ことができた変数は、並立随伴性の可能性であ
随伴事象の相互の関係で影響を受ける場合の随伴
る。これらの変数を考慮することができた点、さ
性は並立随伴性という(杉山・島宗・佐藤・マ
らに1970年代という行動分析学の歴史から見れ
ロット・マロット,1998)。攻撃行動にもそのよ
ば、比較的古い時代に佐藤が独自の視点で攻撃行
うな並立随伴性を否定することはできない。並
動を分析したということは佐藤(1978)の研究の
立随伴性には、1)両立できない行動が2つ以上あ
価値を裏付けるものと言えるだろう。
る場合、2)両立できる行動が 2 種類以上ある場
さて、佐藤の視点から抽出された上記変数、す
− 72 −
人間の攻撃行動を説明するための行動随伴性
なわち攻撃者と被攻撃者が共存する環境の中の同
見られる社会的行動は自然選択の対象となりやす
一報酬刺激や同一嫌悪刺激に関わる彼らの随伴性
い。なぜなら種がかかわる環境においてもっとも
と、阻止の随伴性、さらに攻撃者の攻撃行動と被
安定した特徴は、同種の他個体だからである。人
攻撃者の行動のぞれぞれの並立随伴性、これら 3
間の場合、音声身体器官をオペラントの制御下に
種類の随伴性を佐久間・森山(2013)に織り込む
置くことでより社会的になった。つまり言語行動
ための視点はなんであろうか?筆者らは、その視
が、第 3 の結果による選択の重要性を高めた。こ
点は行動分析学の祖であるSkinnerの視点にある
の結果による選択にかかわる随伴性が、社会・文
と考える。その理由を次節にSkinnerの随伴性に
化的随伴性である。文化の進化をもたらす結果に
対する視点を紹介しながら説明する。
よる選択は、個体の行動の結果としてではなく、
集団の行動の結果として生起する。
Skinnerの結果による選択:三種類の随伴性
以上のように、Skinnerは、人の行動は 3 つの
Skinner(1988)は、ヒトの行動は次の3種類の
随伴性が相互にかかわりながら生起すると説明し
随伴性の共同産物(joint products)であると述べ
た。Skinnerの視点にしたがえば、人の多様な攻
ている。 3 種類の随伴性は、1)系統発生的随伴
撃行動はこの 3 種類の随伴性の共同産物として説
性(phylogenic contingency)、2)個体発生的随
明できるかもしれない。そこで以下、人の攻撃行
伴性(ontogenic contingency)、3)社会・文化的
動を 3 種類の随伴性で説明してみる。
随伴性(socio-cultural contingency)である。
系統発生的随伴性にもとづく攻撃行動は多分
3 つの随伴性に共通するのは、結果による選択
にレスポンデント的な攻撃行動であろう。佐藤
(selection by consequences)という因果モデルで
(1978)が攻撃行動の形態で記したような怒りと
あり、Skinnerによれば、これは生物ならびに生
いう情動、それに関連した表情や身体的位置(姿
物によって作られた機械でのみ見られる行動と環
勢)、あるいは声色などは系統発生的随伴性に根
境の関係である。最初の結果による選択は、自然
差した攻撃行動と言えるだろう。このような攻撃
において認められた。この随伴性における行動の
行動は、人だけでなくさまざまな動物種にもみら
結果は繁殖成功であり、これによって多様な環境
れ、もっぱらその進化的意義については動物行動
条件のもとで多様な繁殖をする多様な種が選択さ
学の視点で研究されている。
れた。選択されたのは、そのような多様な環境条
次に個体発生的随伴性におけるオペラント行動
件のもとで繁殖成功をもたらす行動をする個体群
としての攻撃行動の生起には、個体発生的随伴性
すなわち種であった。このような選択が系統発生
を考慮すれば、当然その個体の過去の強化や弱化
的随伴性にもとづく結果による選択である。
の履歴が重要である。過去に攻撃行動が生起して
2 番目の結果による選択が個体発生的随伴性で
強化されていれば攻撃行動が多く出現するだろう
ある。これは、系統発生的随伴性の進化の過程で
し、逆に弱化や消去されていれば生起しないだろ
新奇な環境に適した行動を獲得できた個体の随伴
う。攻撃行動は、個体発生的随伴性によってより
性である。そのような過程の一つがオペラント条
効果的なものに洗練されていくだろう。そのよう
件づけである。行動に随伴する強化事象(これも
な攻撃行動は、多様な弁別刺激、多様な強化刺激
最終的には繁殖成功)によって新たな行動が獲得
によって制御され、複雑なものになるだろう。弁
される。オペラント条件づけは、行動の自然選択
別刺激による攻撃行動の制御は攻撃行動の生起と
を凌駕したり、あるいは補足したりする場合があ
抑制に影響を与えるだろう。それは、過去に攻撃
る。
行動が生起したときに強化されたことのある刺
種は個体群からなる。そうであれば、個体間で
激、それとも弱化された刺激なのか、あるいはそ
− 73 −
佐久間 崇・森 山 哲 美
れらに類似した刺激なのかによって攻撃行動の生
動における社会・文化とは同じ言語共同体の社会
起可能性は微妙に変化するだろう。また、攻撃行
と文化である。その共同体の個々の成員のどのよ
動の強化子や弱化子にかかわる確立操作や、過去
うな行動が強化され、どのような行動が弱化され
の強化や弱化の履歴にもとづく場面事象(setting
るのかは、それぞれの文化や社会に依るところが
event)も攻撃行動の多様性をもたらす要因とな
大きい。その場合の言語のかかわりは、個体の行
るだろう。攻撃行動の個体発生的随伴性における
動を規定するルールとしてのかかわりである。こ
多様な要因を図示したものが図 1 である。
のルールとは、Skinnerによれば、随伴性をタク
図 1 は、場面事象を含めた特定の弁別刺激で特
トした言語刺激であり、法律や法則、格言、こと
定の攻撃行動が生起し、その攻撃行動の生起する
わざ、公式などである。ここでタクトとは、タク
回数に対してどの程度の割合で強化、または弱化
トされるべき環境事象を弁別刺激とする言語行動
されるかによって今後のその攻撃行動の生起率が
で、この弁別刺激とタクトによって記述される事
変動することを表している。例えば、弁別刺激 1
象が主題的対応をしている限り、同じ言語共同体
のときに攻撃行動が強化され、弁別刺激 2 のとき
の他の成員によって提供される般性強化子によっ
に弱化される割合が多ければ、弁別刺激 1 の方が
て強化される言語行動である。ルールの場合、弁
弁別刺激 2 のときよりも多くの攻撃行動が生起す
別刺激は随伴性であり、人は直接随伴性を体験し
ると予想される。これは弁別刺激だけでなく、攻
なくても、ルールによってあたかも随伴性を体験
撃行動自体にも同様のことが言える。ある特定の
したかのような行動をとることができる。そのよ
攻撃行動が他の攻撃行動と比べ多く強化されてい
うな行動はルール支配行動と呼ばれている。本来
ればその攻撃行動は特定の弁別刺激に依らずに多
であれば、人の言語行動のSkinnerによる分類を
く生起すると予想される。
説明すべきところであるが、本論文では、人の多
人 間 の 攻 撃 行 動 の 特 殊 性 を 論 じ る に は、
様な攻撃行動が 3 つの随伴性によって説明可能で
Skinnerが述べた社会・文化的随伴性、特に言語
あるということを主張するため、ルールについて
行動にかかわる随伴性を考慮する必要がある。言
の説明もここでとどめる。詳しくは、杉山・島
語行動の随伴性は、個人の行動が社会・文化に
宗・佐藤・マロット・マロット(1998)を参照さ
よって強化されたり弱化されたりする。言語行
れたい。
図 1 .攻撃行動にかかわる個体発生的随伴性に関わる多様性
− 74 −
人間の攻撃行動を説明するための行動随伴性
本論文のはじめに述べたように、攻撃行動も言
的に説明し、攻撃行動の制御を可能ならしめる諸
語行動と同じように、基本的に社会的行動である
変数を考慮した新たなモデルの構築可能性を検討
以上、人の社会や文化によって規定される攻撃行
することであった。まず、佐藤(1978)の攻撃行
動を理解するには、攻撃行動と言語行動との関係
動の分類を参考にしたところ、攻撃者と被攻撃者
が議論される必要がある。人、特に成人の場合、
が共存する環境の中の同一報酬刺激や同一嫌悪刺
直接的な身体的な攻撃行動よりも、相手を誹謗中
激に関わる彼らの随伴性、阻止の随伴性、さらに
傷したり、相手に皮肉を言ったり、相手を貶した
攻撃者の攻撃行動と被攻撃者の行動のぞれぞれの
り、といった言語による攻撃行動を自発する可能
並立随伴性、これら 3 種類の随伴性の必要が明
性が高い。これらの言語的攻撃行動は、攻撃者と
らかになった。さらに佐久間・森山(2013)の視
被攻撃者が属する言語共同体、社会や文化による
点と佐藤(1978)の分類から抽出されたこれらの
規定を受けるであろう。そのような言語による攻
3 つの随伴性を包括的に説明できる視点として
撃行動を分析するには、社会・文化的随伴性が調
Skinner(1988)が提唱した 3 つの随伴性の視点
べられなければならない。
が適切であると結論した。彼の視点にもとづいて
以上のように人の攻撃行動の多様性を包括的に
人の攻撃行動を概観してみると、人の攻撃行動
説明するには、Skinner が提唱した 3 つの随伴性
は、系統発生的随伴性、個体発生的随伴性、言語
はきわめて適切であると筆者らは思っている。た
行動の随伴性を含めた社会・文化的随伴性の 3
だし、Skinnerが述べたように、人の行動は 3 つ
つの共同産物(joint products)としてとらえてい
の随伴性の共通する産物である以上、どの攻撃行
くことができるということ、特に後者の 2 つの随
動が系統発生的随伴性にもとづくものか、どの攻
伴性を徹底的に分析することが重要であると結論
撃行動が個体発生的随伴性あるいは社会・文化的
した。このような視点に立つことによって、人の
随伴性に規定されるのか明確に分類できるわけで
攻撃行動の制御は可能になると筆者らは考えてい
はない。そうであれば、人の攻撃にかかわるエピ
る。今後は人の攻撃行動についての筆者らの見解
ソードにかかわる随伴性を明らかにして、そこに
が、攻撃行動の制御という点から妥当であるかど
かかわる攻撃行動を制御するには、これら 3 つの
うかを検討する研究が必要であると考える。
随伴性を同時に考慮する視点を持つ必要があるだ
注
ろう。ただし、Skinnerも述べているように人の
行動の独自性が、高度に進化したオペラント学習
1 佐藤(1978)は、この 6 種類の攻撃行動を説明する
に対する感受性と言語行動随伴性も含めて社会・
ために、報酬刺激を正の強化子、嫌悪刺激を負の強
文化的随伴性の影響にあるのであれば、攻撃行動
化子とし、その呈示や除去で攻撃行動の生起を説明
の個体発生的随伴性と社会・文化的随伴性を重視
している。しかし、正の強化子に相当する報酬刺激
する必要があると考える。それは、攻撃者と被攻
の除去は負の弱化子として機能するし、負の強化子
撃者のみならず彼らの文化や社会をも考慮した彼
に相当する険悪刺激の呈示は正の弱化子として機能
らの過去の強化や弱化の履歴を把握することであ
することから、強化子と弱化子という二つの言葉が
ろう。そうであれば、今後、言語行動に特化した
錯綜して混乱を招く可能性がある。そこで筆者らは、
攻撃行動の分析も必要となる。
本文の表 1 の説明には、正の強化子を報酬刺激、負
の強化子を険悪刺激として定義して、この報酬刺激
結 論
と険悪刺激の呈示と除去で 6 つの攻撃行動を説明す
本論文の目的は、佐久間・森山(2013)のモデ
ることにする。
ルを拡張して、多種多様なヒトの攻撃行動を具体
− 75 −
佐久間 崇・森 山 哲 美
Skinner, B. F.(1969). Contingencies of reinforcement.
引用文献
New York: Appleton-Century-Crofts.
佐久間崇・森山哲美(2013).攻撃者-被攻撃者の行動
Skinner, B. F.(1984). Selection by consequences.
随伴性の相互作用としての攻撃行動研究に向けて Behavior Brain sciences, 7, 477-510.
常磐研究紀要,7,93-104.
杉山尚子・島宗理・佐藤方哉・Richard W. Mallot・
佐藤方哉(1978).けんか行動の心理学 ―行動分析
Maria E. Mallot(1998).行動分析学入門 産業図
的一試論― 言語生活,6,60-71.
書
− 76 −
付 録
常磐大学大学院学術論究 創刊号 2014.3
Scientific Journal of Tokiwa University Graduate School
No.1 Mar. 2014
学事記録(2012年度)
常磐大学大学院人間科学研究科博士課程(後期)学事記録
2012年 4 月 3 日 入学式
入学生:
1名
9 月19日 春セメスター学位授与式
学位取得者:0 名
9 月19日 秋セメスター入学式
入学生:
1名
2013年 3 月20日 学位授与式
学位取得者:0 名
付− 常磐大学大学院学術論究 創刊号 2014.3
Scientific Journal of Tokiwa University Graduate School
No.1 Mar. 2014
学事記録(2012年度)
常磐大学大学院人間科学研究科修士課程学事記録
2012年 4 月 3 日 入学式
入学生:
8名
9 月19日 春セメスター学位授与式
修了者:
9 月19日 秋セメスター入学式
入学生:
0名
2名
2013年 3 月20日 学位授与式
修了者:
7名
常磐大学大学院被害者学研究科修士課程学事記録
2012年 4 月 3 日 入学式
入学生:
4名
9 月19日 春セメスター学位授与式
修了者:
9 月19日 秋セメスター入学式
入学生:
1名
0名
2013年 3 月20日 学位授与式
修了者:
3名
常磐大学大学院コミュニティ振興学研究科修士課程学事記録
2012年 4 月 3 日 入学式
入学生:
3名
9 月19日 春セメスター学位授与式
修了者:
9 月19日 秋セメスター入学式
入学生:
1名
1名
2013年 3 月20日 学位授与式
修了者:
3名
付− 常磐大学大学院学術論究 創刊号 2014.3
Scientific Journal of Tokiwa University Graduate School
No.1 Mar. 2014
修士論文要旨(2012年度)
常磐大学大学院人間科学研究科修士課程修了者修士論文要旨
〔修了者〕
春セメスター
※該当者なし
秋セメスター
氏 名
修士論文題目
研究指導教員
星野 晃平
認知症高齢者グループホームに入居する高齢者の生きがい
感にコラージュ制作が与える効果
水口 進
荒木 詩織
インターネット上の友人からのソーシャル・サポートと自
尊感情、孤独感および精神的健康度との関連
濱崎 武子
五十嵐 悠香
絵本読み聞かせによる母親の育児不安低減効果の検討
水口 進
小野瀬 健太
スチューデントアパシー傾向の大学生に、問題焦点化技法
を使用した際の効果について
水口 進
加藤 幹人
顔系の動作法による心理的・生理的変化について
−POMSと筋弛緩感覚の受容、唾液中α−アミラーゼ活性の
指標を用いて−
水口 進
土居 真理
ドメスティック・バイオレンス被害者はDV関係及びそれを
断つことをいかに経験していたのか
-現象学的アプローチの試み-
渡邉 孝憲
林 拓実
ポジティブ日記法が抑うつに及ぼす効果
−大学新入時期に着目して−
濱崎 武子
付− 認知症高齢者グループホームに入居する
高齢者の生きがい感にコラージュ制作が与える効果
星 野 晃 平
高齢者が生きがい感をもち、毎日をより良く生きるためには、余暇活動が重要な役割を担っている。実際
に高齢者施設では、余暇活動として、さまざまな作品づくりが行われている。
さまざまな作品づくりがある中、本研究ではコラージュに着目した。コラージュは児童から大人まで楽し
める要素を備えており、さまざまな形での応用が可能である。またコラージュは、認知症の高齢者のアク
ティビティの一つとして普及しており、導入に関してはそれほど難しくないことや、コラージュがさまざま
な効果を及ぼすことが多くの研究によって示唆されている。
しかし、コラージュ制作が生きがい感にどのような影響を与えるかという実験的研究は現在のところされ
ていないようであった。
そこで本研究では、実験 1 として個人で行うコラージュ制作が高齢者の生きがい感に与える効果を検討
し、また実験 2 として、集団で行うコラージュ制作と他の作品づくりでは、高齢者の生きがい感に与える効
果に違いがあるかどうかを検討することとした。
実験 1 では、認知症高齢者グループホームに入居している高齢者 3 名(女性 3 名、平均年齢83.67歳、SD
=2.81)に実験の参加を依頼した。実験デザインは、参加者間マルチベースラインデザインを採用し、ベー
スライン評価、介入評価、プローブ評価の 3 フェイズで高齢者向け生きがい感スケール得点の測定を行なっ
た。なお、介入評価では、コラージュ制作後に高齢者向け生きがい感スケール得点の測定を行っていった。
その結果、介入評価において最も高い生きがい感得点を示していたが、その差はわずかであった。また、高
齢者向け生きがい感スケールを 3 つの因子ごとにみてみると、因子間においても大きな差は得られなかっ
た。
実験 2 では、実験 1 の参加者 3 名に、認知症高齢者グループホームに入居している高齢者 3 名を加えた計
6 名(平均年齢81.17歳、SD=7.08)に実験の参加を依頼した。実験デザインは、クロスオーバーデザインを
採用し、コラージュ制作、及び統制条件として、パズル制作と、ぬりえ制作を行った。作品づくりは、実
験参加者を 2 群に分け、 1 群目は、「コラージュ−パズル−ぬりえ」の順で、 2 群目は、「パズル−ぬりえ−
コラージュ」の順番に作品づくりを行い、各作品づくりの施行前と施行後に高齢者向け生きがい感スケール
得点の測定を行った。その結果、A群、B群ともにコラージュ制作、パズル制作において生きがい感得点の
上昇がみられた。しかし、パズル制作前の生きがい感尺度得点をみてみると、A群、B群いずれにおいても、
他の作品づくりに比べ生きがい感得点が低い状態であることが示された。よって、パズル制作を行うこと
で、生きがい感を高めることができるが、施行前には生きがい感が下がってしまう効果があることが示唆さ
れた。
また、高齢者向け生きがい感スケールを 3 つの因子ごとにみてみると、コラージュ制作において「意欲と
達成」因子、
「やすらぎ」因子が高まる結果となった。よって、コラージュ制作が今回の実験で対象となった
軽度の認知症高齢者の生きがい感に対し、意欲や達成という部分に加え、やすらぎという部分について効果
があったということが示唆された。
キーワード:高齢者・生きがい感・コラージュ・作品づくり・集団
付− インターネット上の友人からのソーシャル・サポートと自尊感情、
孤独感および精神的健康度との関連
荒 木 詩 織
研究の目的 インターネット上の友人(以下、ネット友人)からのソーシャル・サポート(以下、サポート)
知覚と実社会友人からのサポート知覚との得点の違い、また、それぞれのサポート知覚が自尊感情、孤独感、
精神的健康度とどのように相関するのかを比較検討することを目的とした。
また、どの程度サポートを受けられると思うか、を意味する、知覚されたサポートとして測定されたサ
ポートを、サポート知覚と表すこととした。対象者 A県および都内の大学に通う大学生 1 年生から 4 年生
483名を対象とした。回収数は396名(回収率82 %)であった。そのうち、回答に不備のあったものを除いた
373名(有効回答率94 %)が最終的な分析対象者となった。平均年齢は19.16歳(SD=1.23)であった。方法
質問紙調査を行った。質問紙の構成は①フェイスシート(年齢、学年、性別、通学形態、ネット利用日数
および時間)
、②ソーシャル・サポート尺度、③自尊感情尺度、④改訂版UCLA孤独感尺度、⑤日本語版精
神健康調査票GHQ28であった。ソーシャル・サポート尺度については「情緒的・間接的サポート」のみにつ
いて回答を求め、サポート源に、会ったことのないネット友人、会ったことのあるネット友人、実社会友
人、家族の 4 つを設定し、それぞれ最も親しい人物 1 人を想定して回答を求めた。結果 本研究では、協力
者をネット友人との関係により対面経験あり(対面友人重視)群、対面経験あり(非対面友人重視)群、対
面経験なし群、さらにネット友人なし群に分類し、 4 つの群ごとに分析を行った。その結果、対面経験あり
(対面友人重視)群と対面経験あり(非対面友人重視)群では、対面経験なし群よりネット友人からのサポー
ト知覚が有意に高くなっていた。また、対面経験あり(対面友人重視)群では、ネット友人からのサポート
知覚と自尊感情の高さとの間に負の相関が見られた。しかし、実社会友人からのサポート知覚と心理的健康
の指標との間には相関が見られなかった。一方、対面経験なし群、ネット友人なし群では、実社会友人や家
族からのサポート知覚と心理的健康の間に正の相関が見られた。
結論 本研究の結果は、実社会友人からのサポート知覚の高さが心理的健康度の高さには重要であることを
示した。しかし、ネット友人と知り合い、さらに対面場面で会うというように、ネット友人との関係が親密
になっていく人ほど、実社会友人からのサポート知覚と心理的健康の関連は弱い。この結果から、ネット友
人と対面経験がある人にとって実社会友人や家族からのサポート知覚が重要とならないことが示唆された。
また、そのために、ネット上の関係からのソーシャル・サポートを期待し、親密な関係を持とうとしている
可能性が考えられた。しかし、ネット友人と対面経験があるような人たちの中には、ネット友人からのサ
ポート知覚の高さが自尊感情の低さと関連してしまっている場合もある。今後、そのような人が、ネット上
で容易にソーシャル・サポートを得られるようになれば、その経験が、やがて実社会での関係の充実につな
がる可能性も考えられる。それが可能となれば、ネット友人が治療教育的機能を期待できる存在となるだろ
う。
キーワード:インターネット上の友人・ソーシャル サポート・自尊感情・孤独感・精神的健康度
付− 絵本読み聞かせによる母親の育児不安低減効果の検討
五十嵐 悠 香
要 旨
問題と目的:今日、社会的に大きな問題として児童虐待がある。マスメディアでは、養育者である母親に批
難の声が集中するが、児童虐待を行なう母親の多くが「育児不安」を抱いていることはあまり知られていな
い。産後の母親に対する心理的な支援は近年だいぶ行われるようになっているが、育児不安が高まるとされ
る幼児期の子どもを持つ母親への心理的な支援はあまり徹底されていないのが現状である。そのため、幼児
期の子どもを持つ母親が抱える育児不安への支援として、母子間のコミュニケーションの促進や育児不安の
低減効果があるとされる「絵本の読み聞かせ」に注目し、研究を行なうこととした。
方法: 3 歳前後の子どもを持つ母子 3 組に対してプリ-ポストデザインおよび参加者間のマルチプローブデ
ザインにて実験を行なった。実験期間は 1 か月から2 ヶ月間であった。独立変数を絵本の読み聞かせとし、
従属変数は①母子間のかかわり行動の変化、②母親の対児感情の変化、③母親の育児感情の変化、④母親の
読み聞かせの意義の変化の 4 変数とした。プリ-ポストデザインでは事前評価、事後評価で③母親の育児感
情の変化、④母親の読み聞かせの意義の変化を質問紙にて母親に評価をしてもらった。また、参加者間のマ
ルチプローブデザインではベースライン評価、介入評価、プローブ評価、維持評価の 4 フェイズで測定を行
ない、自宅での母子の遊び場面の映像を記録してもらった。その際に②母親の対児感情の変化を質問紙で母
親に評価をしてもらい、筆者が映像記録から①母子間のかかわり行動の分析を行なった。なお、かかわり行
動の評価は心理学を専攻している大学院生 2 名と筆者が独立に評定を行なった結果、一致率は85.4 %であっ
た。
結果:絵本の読み聞かせによって 3 歳前後の子どもを持つ母親の育児不安の低減効果には個人差がみられ
た。行動の変化としては、 3 名の母親の「無視」や「批判」などの否定的な行動の生起率の低下、および「指
示」行動の生起率の低下に加え、「説明・報告」行動の生起率の増加による相互関係的なかかわりへの変化、
それに伴い子どもが母親と遊ぶことに対し積極的になるなど、絵本の読み聞かせが母子の行動に対して良い
影響を与える可能性が非常に高いことが示された。また、第 3 者からの印象においても、実験前と比べて母
子間の雰囲気に肯定的な変化がみられていた。
考察:絵本の読み聞かせを継続することで育児不安の低減に繋がる可能性が示唆された。また本研究の結果
から、今後①科学的根拠が高く信頼できる結果を得るため研究事例を増やすこと、②母親のパーソナリティ
なども考慮し多くの視点から検討の必要があること、③同一事例による長期の縦断的な変化の検討が必要で
あることの 3 点が考えられた。
キーワード:絵本・読み聞かせ・母親の育児不安・母子間のコミュニケーション
付− スチューデントアパシー傾向の大学生に、
問題焦点化技法を使用した際の効果について
小野瀬 健 太
論文要旨
問題:スチューデントアパシーは、大学生特有の無気力と認識されてきた。高校までと比較し、学習や日常
の生活において、より主体性が求められる事が、その原因と考えられる。アパシー学生は、主体的に問題を
解決する機会が増える事で、問題把握や解決方法を見出す事ができなくなり、問題から回避する事を繰り返
してしまう。従って、アパシー学生が問題を主体的に解決するためには、問題解決までを構造化する問題焦
点化技法によって効果が得られる可能性がある。
目的:本研究の目的は、スチューデントアパシー傾向の大学生に対する問題焦点化技法の効果を検討するこ
とである。研究 1 は、スチューデントアパシーと問題解決能力の関連性について調査を実施し、研究 2 は、
アパシー傾向大学生に問題焦点化技法による介入面接を行った。
研究1
方法:本研究の研究1は、県内の国立、私立大学生360名、有効回答者数347名(男性139名、女性208名:M
=19.23歳、SD=1.38)、男女を対象に授業開始前に実施した。調査内容は、鉄島(1993)のアパシー傾向測
定尺度と佐藤(2006)の社会的問題解決能力尺度を使用して、アパシー傾向と問題解決能力の関連性を調査
した。
結果:Pearsonの積率相関係数を算出した結果、大学生活からの退却因子と否定的問題定位(NPO)の間に
弱い正の相関関係が認められた(r=.33、p<.01**)。学業からの退却因子と肯定的問題定位(以下PPO)の
間に弱い負の相関関係が認められた(r=−.24、p<.01**)。大学生活からの退却因子とPPOとの間に弱い負
の相関関係が認められた(r=−.22、p<.01**)。尺度調査を通じて、アパシー傾向因子と問題解決能力因子の
間に弱い相関関係が認められた。
研究2
方法:研究 2 は研究 1 の調査結果から、問題解決能力の低下している、アパシー傾向の大学生 3 名に絞り、
介入面接を行った。面接内容は、アパシー学生の事例問題を使用し、伊藤(2010)の問題焦点化技法を実施
した。具体的には、参加者間多層ベースラインデザインと個人内比較におけるマルチプローブデザインを
用いた。 1 ヵ月間の間に、ベースラインを 3 〜 5 セッション、介入を 3 セッション、プローブ期間を 3 セッ
ション実施した。
結果:全体的なアパシー傾向には、大きな変化が見られなかったが、アパシー傾向測定尺度の下位因子であ
る、大学生活からの退却因子は、 3 人共に変化が認められた。授業からの回避、学業からの回避は、変化が
認められなかった。
総合考察
研究 1 から、問題を否定的から肯定的に変化させる事ができれば、大学生活からの回避傾向は弱まる可能
性が示唆された。研究 2 から、アパシー傾向測定尺度の変化が大学生活からの回避のみ認められた。その要
付− 因は、今回の介入で使用した事例が、大学生活全体の問題であるためと考えられた。また、問題解決能力は
上昇したが、否定的な問題の捉え方も上昇していた。問題焦点化技法は、問題に関する良い部分に注目する
が、悪い部分にも注目し、問題を総合的に捉えていく。この特徴から、否定的な問題の捉え方も上昇したと
考えられる。
引用文献
伊藤絵美(2010).認知療法・認知行動療法カウンセリング初級ワークショップ 星和書店、pp.115-117.
佐藤寛(2006)
.Social Problem−Solving Inventory−Reviced(SPSI−R)日本語版の作成と信頼性・妥当
性の検討 行動療法研究,32,15-30.
鉄島清毅(1993).大学生のアパシー傾向に関する研究−関連する諸要因の検討− 教育心理学研究,41
(2)
,200-208.
キーワード:スチューデントアパシー・問題焦点化技法・回避
付− 顔系の動作法による心理的・生理的変化について
−POMSと筋弛緩感覚の受容、唾液中α−アミラーゼ活性の指標を用いて−
加 藤 幹 人
問題:顔系の動作法は、吉川(2004)によって考案された動作法における一技法である。吉川(2007)は顔
系の動作法の効果として強い心的な緊張や不安、怒りなどを主訴に来談したクライアントが、顔系の動作
法の導入後から筋肉が弛緩するのを感じ症状の改善、及び消失が見られたという。さらに、飯森・宮田・田
中・吉川(2006)は、顔系の動作法を実施した際の自律神経機能に対する効果について検討している。飯森
ら(2006)によると、顔系の動作法は、自律神経系全体の活性度合いや、調節機能に影響を及ぼし、副交感
神経を活性化させる可能性があるという。しかしながら、顔系の動作法の効果に関する報告は現在のところ
数が少なく、吉川(2007)の報告も顔系の動作法の効果を実験的に検討したものではない。
目的:本研究では、顔系の動作法によって、吉川(2007)の報告した、緊張や不安、怒りなどといった気分
が低減し、筋弛緩感覚を感じる度合いが増大するのかを実験的に明らかにすることを目的とする。また、飯
森ら(2006)の報告した顔系の動作法による副交感神経系の活性効果についても検討する。
手続き:本研究の参加者は健康な大学生、及び大学院生男女18名(平均年齢23.1歳;SD=1.91)であった。
独立変数は顔系の動作法とし、従属変数は日本語版POMS短縮版(以下、POMS)と、筋弛緩感覚の受容に
関する質問紙、唾液中α−アミラーゼ活性とした。実験手続きはクロスオーバーデザインを用いた実験を行
い、10分間仰臥位で安静状態を保つ統制条件と、顔系の動作法を行う介入条件を設けた。
結果:本実験の結果、POMSの緊張-不安因子において交互作用が見られ(F(1, 10)=0.65, p<.001***)、
単純主効果の検定の結果、実験前における介入条件の得点が、統制条件に比べ優位に高く(F(1, 10)=
7.29, p<.05*)
、介入条件の得点が介入の前後で有意に低下した(F(1, 10)=35.71, p<.001***)。また、筋弛
緩感覚の受容に関する質問紙では、統制条件に比べ介入条件の得点が有意に高かった(F(1, 359)=229.58,
p<.001***)
。
考察:本研究の結果から、顔系の動作法による心理的な変化として緊張や不安といった気分を低減させる
効果があると考えられ、また、筋弛緩感覚を受容する度合いが増大すると考えられる。この結果は、吉川
(2007)の報告と一致していると考えられる。
しかし、本研究では、唾液中α−アミラーゼ活性において有意な変化が見られず、飯森ら(2006)の報告
とは異なった結果であった。そのため、今後は心理的な変化のみならず、筋電図や心拍変動など、筋弛緩を
客観的に捉える指標を用いて、生理的な変化に関して検討する必要があるだろう。
引用文献
飯森洋史・宮田敬一・田中志野・吉川吉美(2006).顔系への臨床動作法と自律神経機能 心療内科,10
(3)
,196-201.
吉川吉美(2004).臨床動作法の伝えるもの 吉本雄史・中野善行(編)無意識を活かす現代心理療法の実
践と展開 星和書店,pp.262-274.
吉川吉美(2007).顔面への臨床動作法アプローチによる治療的効果とその実際 いわき明星大学心理相談
センター紀要,2,19-27.
キーワード:顔系の動作法・筋弛緩・POMS・唾液中α−アミラーゼ リラクセーション
付− ドメスティック・バイオレンス被害者はDV関係
及びそれを断つことをいかに経験していたのか
-現象学的アプローチの試み-
土 居 真 理
ドメスティック・バイオレンス(以下、DVとする。)の被害女性を対象とする民間の支援団体で、筆者が
電話相談のボランティア活動をしていて気づくことは、暴力関係から離れた後の安全の確保や生活の援助
を可能にするような情報をどんなに提供しても、その関係になお留まっている女性がいるということであ
る。それを考えれば、共通のようにみえるDV経験の背後に、彼女たちはそれぞれの思いや求めているもの
をもっているのではないかと考えた。
そこで本研究は、DV被害女性の暴力関係及びそれを断つことを通して現れるそれぞれの志向性を現象学
的アプローチを用いて捉えることを目的とした。
そのために、物理的に暴力関係を断って 5 年以上経つ 3 名の女性に面接を行い、現象学的アプローチによ
る分析を次のような手順で行った。(1)逐語記録の作成、(2)逐語記録の熟読、(3)自然な話のまとまりご
とのユニットの作成、(4)語られた内容を第三者が理解できるようにするための整理、(5)本質を捉えるた
めの現象学的還元の実施、(6)特徴的な在り方(領域)の設定、(7)本質記述のまとめ、(8)時系列に沿った
総合的記述の作成、(9)志向性と「志向性の現実における現れ」の抽出である。ここで「志向性の現実にお
ける現れ」とは個人の生活の中にみられる志向性の具体的な現れのことをいう。
この結果、見出された研究協力者それぞれの志向性は「超越的な存在となること」、「守られてあること」、
「
(対立するものの統合を通しての)生の肯定」となった。
このように、研究協力者 3 名はそれぞれの志向性をもって暴力関係を断つことを含めた暴力関係を経験し
ていた。その関係に留まっていた期間を、 3 名とも避けられなかった時間として捉え、そこで決断までの段
階を確実に踏み、DVに関わる知識のみならず、自分自身が求めるものを知り気づくこと、さらに、「自分が
本来ありたい在り方」を実践することが大事だったということがわかった。そして、本気で暴力関係を断つ
ことを願ったとき湧き出る「力」は、それを実行するときに個々の独自な志向性に沿った形で現れると結論
付けられた。
支援側ができる重要なサポートの一つは、DV関係に留まる一人ひとりが、個々の人間の在り方としてそ
の経験をどう意味づけ、何を目指しているのかを見出すような働きかけを取り入れていくこと、つまり、そ
の可能性を常に意識して被害女性に関わること、具体的には彼女たちが語ることに対して常識的な見方では
なく、どこまでも共感的見方をもって接することが大事であることが明らかになった。
キーワード:ドメスティック バイオレンス・関係を断つこと・志向性・現象学的還元
付− 10
ポジティブ日記法が抑うつに及ぼす効果
−大学新入時期に着目して−
林 拓 実
近年、学生の抑うつ症状が問題となっており、多くの予防プログラムが行われている。これらはBeck
(1976)の認知療法に基づき、ネガティブな認知を適応的な認知に変えることを目的として、その有効性が
報告されている。その一方で、個人が持っているポジティブな感情や資質に気付くことが、抑うつ低減に繋
がる可能性も示唆されている。
本研究では、全体的に抑うつが高いと思われる大学新入生を対象に、ポジティブな側面からの介入が抑う
つ低減効果を持つことを明らかにしようとした。介入には、その日にあった「よかった」と感じた出来事を
記述する、ポジティブ日記(Seligman, et al., 2005)を応用し、筆者が独自に様式を作成した。
X年 4 月、A県内の 2 大学の新入生に抑うつ症状を測る質問紙調査を実施し、342名のデータを分析対象
とした(有効回答率94.4 % )。その結果、大学新入生は抑うつが高く、その要因として、一人暮らしである
こと、第一志望以外の入学、将来の進路が未決定であることが関連していることが明らかになった。
さらに、協力者を実験群と統制群の 2 群に振り分け、実験群にはポジティブ日記法による 1 週間の介入を
行った。介入の効果を検証するため、介入直後と 3 ヶ月後に質問紙調査を実施し、252名(実験群126名、統
制群126名;有効回答率67.0 % )のデータを分析対象とした。その結果、介入直後の実験群の抑うつ得点が
有意に減少し、ポジティブ日記法の抑うつ得点低減効果が認められた。しかし、 3 ヶ月後には再び抑うつ得
点が増加し、その効果は一時的であった。また、平均得点−1SDの協力者34名(実験群15名、統制群19名)
を低得点群として分析を行った結果、実験群のみ得点が3 ヶ月後まで維持されていた。一方、平均得点+
1SDの協力者46名(実験群24名、統制群22名)を高得点群として分析を行った結果、両群の得点の変化に有
意差は見られなかった。このことから、低得点群に関しては、ポジティブ日記法の効果が 3 ヶ月後まで維持
されていることが明らかになった。
さらに本研究の第二の目的として、日記の記述内容と抑うつ得点の関連について検討を行った。その結
果、①友人、②学生生活、③衣食住に関わる出来事、④合計記述件数が、抑うつ得点増加と負の相関を示し
た。特に①は抑うつ得点増加と中程度の負の相関がみられ、新たな環境で不安を抱えている大学新入生に
とって、友人との関わりが抑うつ得点低減に重要な要因となっていることが明らかになった。
また、③は、抑うつ得点増加と弱い負の相関がみられた。さらに、③と④の間には中程度の正の相関がみ
られたことから、③は抑うつ得点低減効果がさほど高くはないものの、記述件数を増やす項目としては比較
的記述しやすい項目であると推測される。したがって、身の周りで起きるポジティブな出来事に注目し、記
述を継続することで抑うつの低減効果が高まると考えられる。
以上のことから、ポジティブ日記法には一定の抑うつ低減効果が認められた。しかし、臨床的活用のため
には、効果の維持、介入の期間等を検討することや、抑うつ得点が高い人への配慮を踏まえた方法論を構築
していく必要性が示唆された。
キーワード:抑うつ・大学新入生・ポジティブ日記法・ポジティブ感情
付− 11
常磐大学大学院学術論究 創刊号 2014.3
Scientific Journal of Tokiwa University Graduate School
No.1 Mar. 2014
修士論文要旨(2012年度)
常磐大学大学院被害者学研究科修士課程修了者修士論文要旨
〔修了者〕
春セメスター
氏 名
修士論文題目
研究指導教員
生方 智恵子
犯罪被害者等の高校生への理解促進教育の効果に関する一
研究 −共感に着目して−
諸澤 英道
修士論文題目
研究指導教員
秋セメスター
氏 名
上野 尚美
被害者支援における保健師の役割と課題に関する一研究
長井 進
落合 修子
わが国の犯罪被害者政策と新聞報道の関係性を探る
諸澤 英道
鈴木 龍太
少年司法制度に対する犯罪被害者遺族の評価
−少年法改正に焦点を当てて−
小柳 武
付− 12
犯罪被害者等の高校生への理解促進教育の効果に関する一研究
−共感に着目して−
生 方 智恵子
論文要旨
犯罪被害者等は、犯罪被害による直接的被害だけでなく、周囲の人間の配慮に欠ける態度等に苦しめられ
るなど、負担を抱えたまま適切な支援や対応を受けることができず、社会から孤立するといった結果に陥る
こともある。
こうした現状から、犯罪被害者等基本法では、具体的施策の一つとして、学校教育における犯罪被害者等
への理解増進、人権の配慮が掲げられそして、その取り組みは徐々に広がりをみせている。
しかしながら、犯罪被害者等理解教育の重要性、必要性が認識されながらも、教育モデルや教材がまだ不
十分であるというのが現状である。
そこで、本研究では地域社会において犯罪被害者等を支える立場となる可能性のある高校生に、援助行動
や思いやりの生起に影響を及ぼし、他者理解の源泉となるであろう共感に着目した理解教育モデルを確立
し、犯罪被害者等への共感を高める上で効果的な教育方法について明らかにすることを目的とし、 2 種類の
犯罪被害者等理解教育を実施した。
本研究で着目した共感は、様々な共感性の研究成果を受けて提唱されたデイビスの共感の組織的モデルで
ある。このモデルは、先行条件を持つ見る側が、共感的な結果が生成されるメカニズムである過程を経て、
見る側の内側で生じる個人内結果、その後に、相手に向けての行動反応としての対人結果である。このデイ
ビスの組織的モデルを参考に、本研究では、先行条件から介入により生じる個人内的結果までを扱った。
調査に当たり、仮説 1 .犯罪被害者等理解教育授業を実施することで、犯罪被害者等への共感が喚起さ
れ、犯罪被害者等に対する対人認知、帰属判断、態度についての理解が促進される。仮説 2 .介入群Aよ
り、介入群Bにおいて、犯罪被害者等への共感がより強く喚起され、犯罪被害者等に対する対人認知、帰属
判断、態度についてより高い理解が促進される。との 2 つの仮説を立てた。
調査は関東近郊の高等学校に通う生徒(106名)を対象とした。介入群Aには内閣府作成のドラマ構成
DVDの視聴、介入群Bには犯罪被害者による講演DVDの視聴とし、加えて両群ともにグループディスカッ
ションと発表、という形式で別々の犯罪被害者理解教育を行った。これに伴い、調査協力学校教員の協力を
得て、A群37名、B群34名、対照群35名に対して、授業実施 6 日前と授業実施 8 日後の 2 回、介入群、対照
群それぞれに同様の質問紙を用いて調査を実施した。
各群内比較の結果、仮説 1 ではどの群においても共感に変化は現われなかった。また、犯罪被害者等に関
する項目では最も変化が示されたのは対照群であった。しかし、A群では対人認知について、B群では態度
について変化が示され、仮説 1 は一部であるが支持された。各群間比較の結果、仮説 2 では共感はB群より
もA群において、被害者等に関する質問では対照群において多く差が見られた。このことから、仮説 2 は支
持されなかった。
以上の結果を受けて、共感の組織モデルからの再検討、教材内容のテキストマイニングによる分析、視聴
覚教材作成の際の映像表現の技術論からの考察を行った結果、今後の教育現場における犯罪被害者等理解促
進教育に対する課題として、調査計画、共感喚起過程、撮影方法、映像表現、映像提示時間といった問題が
多数明らかとなった。
キーワード:犯罪被害者・理解教育・共感の組織的モデル・啓発教材・教育効果
付− 13
被害者支援における保健師の役割と課題に関する一研究
上 野 尚 美
犯罪被害者等は突然の被害に加え、被害に付随する様々な困難を体験する。そして、適切かつ十分な支援
を受けられないことによって、身体的、心理的、社会的、経済的に受けた被害が、より深刻化するといって
も過言ではない。そこで、犯罪被害者等の生活の基盤に着目し、地域を活動領域とする「保健師」が、犯罪
被害者等の支援ニーズに対応できる可能性があると考えた。保健師は、犯罪被害者等の生活に合わせた具体
的な支援を調整する役割を担い、また、被害回復に向けた中長期的な支援を展開できると思われる。しかし、
現状を見ると、保健師が犯罪被害者等に対して行っている支援は、虐待や家庭内暴力という限られた被害に
関するものであり、その他の被害については明らかにされていない部分が多い。
そこで、保健師による被害者支援の現状を明らかにし、今後、保健師が犯罪被害者等に対する中長期的な
支援を主体的に展開していく上での課題と、その対応策を見出すことを本研究の目的とした。
本研究では、保健師の自信に影響を与える因子を明らかにするべく、エンパワメントに関する知見等に基
づいた、以下の 4 つの仮説を立てた。(1)被害者、被害者支援に対する認識が高い保健師は、低い保健師よ
りも被害者支援における技術の程度が高い。(2)被害者支援における技術の程度が高い保健師は、そうでな
い保健師よりも保健師自身の対応能力の認識が高い。(3)職場におけるエンパワメントを認識している保健
師は、認識していない保健師よりも保健師自身の対応能力の認識が高い。(4)保健師自身の対応能力の認識
に最も影響を与えるのは、職場におけるエンパワメントである。
そして、仮説を検証するため、県内の行政保健師全員(保健所保健師76名、市町村保健師621名)を対象
に質問紙調査を行った。
その結果、総計297名の行政保健師から回答を得た(回収率42.6 % )。被害者支援に対する認識が高い保健
師は、低い保健師よりも技術が有意に高いことが示された。そして、被害者支援に必要となる技術をもって
いる、または、職場におけるエンパワメントを認識している保健師は、対応能力の認識も高い(自信を持っ
ている)ということが確認された。さらに、「保健師は、被害者等に対して支援を行う必要がある」という保
健師自身の認知(被害者支援の必要性の認知)が、保健師の自信に最も影響を与える要因であろうと予測さ
れた。
本研究結果から、被害者に対する支援経験の不足、知識の不足、そして、自信の不足が、被害者支援にお
ける保健師の課題であると考えられた。そこで、保健師に対する教育が必要であることが見出された。今後
は、保健師のニーズに沿った研修を行うとともに、新人レベルから管理者レベルまで活用できる、被害者支
援に関する教育カリキュラムの検討が重要であると考えられる。また、保健師の現場における具体的な課題
や障壁についての詳細な実態把握を行うとともに、保健師が被害者支援において果たすことのできる役割を
より明確にし、保健師を含めた被害者支援システムの構築について検討していく必要があろう。
キーワード:被害者支援・保健師・連携・エンパワメント・量的研究
付− 14
わが国の犯罪被害者政策と新聞報道の関係性を探る
落 合 修 子
論文要旨
わが国の犯罪被害者を取り巻く環境は、2000年代に入り大きく様変わりした。2000年代の前半には、「犯
罪被害者保護二法」、「少年法等の一部を改正する法律」、「児童虐待の防止等に関する法律」、「ストーカー行
為等の規制等に関する法律」、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」、「危険運転致死傷
罪」
、
「犯罪被害者等基本法」などの、犯罪被害者に関わる立法が相次いでなされた。
犯罪被害者に関する法制度については、特定の事件・事故の発生が契機となり犯罪被害者に対する社会、
国民の意識に変化が起こり、立法に向けての動きが生じたとされているが、社会、国民の意識がどのように
変化を遂げたかということに関しては、実際に検証した研究は見られない。
そこで、本論文は、新聞記事の内容分析を通じて、2000年代前半の犯罪被害者政策と新聞報道にあらわれ
ている犯罪被害者に関する世論の関係性を検証した。分析対象とする期間は「犯罪被害給付制度発足10周年
記念シンポジウム」が開催された1991年から、「犯罪被害者等基本法」が制定された2004年とし、読売新聞の
データベースから「被害者」というキーワードで記事の抽出を行った。その結果、20,264件の記事が抽出さ
れ、さらにその中から、本論文において分析の対象となる犯罪被害者に関する記事を選別したところ、2,414
件の記事が抽出された。それらを分析対象とし、年次別記事件数、記事中言語の出現傾向を明らかにし、さ
らに、記事を種類別、被害種別に分類し、KH Coderを併用して文脈などから内容の傾向を分析した。
その結果、犯罪被害者に関する記事は、地下鉄サリン事件などの凶悪犯罪が発生した1995年に急激に増加
し、その後引き続き増加傾向を示し、犯罪被害者に関する立法が相次いでなされた2000年をピークとしてい
ることが明らかとなった。記事の内容についても、1995年以降は犯罪被害者に関してさまざまな視点から着
目して記述される傾向にあり、犯罪被害者に対する社会、国民の意識が高まったことが明らかとなった。
また、新聞記事の件数の推移や文脈の分析結果から、わが国の2000年代前半における犯罪被害者政策と
世論の関係には、犯罪被害者問題に対する世論が追い風となって立法に至ったタイプ(「犯罪被害者保護二
法」
、
「少年法等の一部を改正する法律」、「危険運転致死傷罪」)と、立法がなされた後に世論が形成された
と考えられるタイプ(「児童虐待の防止等に関する法律」、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関
する法律」)
、そして、立法と世論の関係性が見出されなかったタイプ(「ストーカー行為等の規制等に関す
る法律」
、
「犯罪被害者等基本法」)の、 3 つの類型があることが見出された。
キーワード:犯罪被害者・新聞報道・犯罪被害者政策・世論・新聞分析
付− 15
少年司法制度に対する犯罪被害者遺族の評価
−少年法改正に焦点を当てて−
鈴 木 龍 太
我が国においては、犯罪被害者等は、長い間にわたり刑事司法制度から無視されてきた。とりわけ、少年
事件の犯罪被害者等は事件当事者でありながら、少年の健全育成の名の下に、忘れられた存在として扱われ
てきた。少年審判は原則として非公開とされ、事件に関する情報の開示も基本的に行われなかった。そのた
め、少年事件の場合、犯罪被害者等が得られる情報は限られてしまい、何があったのかを知りたいという欲
求を満たすためには、犯罪被害者等が民事訴訟を提起し、加害者である少年に損害賠償を求めない限り事件
の真相を知ることができなかった。こうした事態を改善することを求める犯罪被害者等の切実な訴えを受
け、少年法は2000年に大きく改正され、その後、2007年、2008年の二度にわたって改正された。しかし、現
在も加害少年の成育歴等を含む資料の多くは非開示となっている部分が多く、犯罪被害者等は、得られた情
報等に対して必ずしも十分な満足感を得ていないのが実情である。これまで少年法改正を含めて、少年事件
の犯罪被害者等に関して、少年保護の名の下にその実態や被害者保護に焦点を当てた研究や調査はあまり行
われていなかったのが実情である。
そこで本研究は、少年により親族を殺害された犯罪被害者遺族 8 名を対象に、少年司法制度に対する評価
の調査を行い、今後の少年法改正における犯罪被害者等の権利を保障する制度について考察した。調査対象
者 8 名の内訳は、2000年改正前までの犯罪被害者遺族が 4 名、2000年改正後から2008年改正前までの犯罪被
害者遺族が 2 名、2008年改正後から現在までの犯罪被害者遺族が 2 名であり、この 3 群について、少年司法
制度に対する評価の比較を行った。分析は、グラウンデッド・セオリー・アプローチによるコーディングの
方法を援用した。その結果、犯罪被害者等は2000年の改正及び2008年の改正により、少年司法制度に対する
一定の不満を解消することができたといえるが、現行制度への不満は今なお強く表れており、特に、少年審
判における事実認定等に対する評価の低さが明らかになった。この結果をもとに、犯罪被害者等の権利に踏
み込んだ少年法の改正として、殺人罪、傷害致死罪及び危険運転致死罪といった被害者を死亡させた重大犯
罪については、原則として少年審判に検察官を関与させるべきであると考える。
その理由として、①加害少年の適切な処遇を速やかに行う必要があること、②犯罪被害者遺族の多くが審
判内容に対して納得することができないでいること、③適切な事実認定により加害少年の一層的確な要保護
性の判断が可能になり、そのことが健全育成に繋がること、④犯罪被害者等の事実認定に対する想いを検察
官が間接的に代弁することで、犯罪被害者等の心情を踏まえた審判となり、加害少年が自身の非行について
再認識する場となること、及び⑤検察官、裁判官、付添人の三者で討議することで、より適正な事実認定と
なり、事件当事者の審判に対する不信感が軽減されること等が挙げられる。また、検察官を少年審判に関与
させていくことで事実認定も適切に行われ、審判廷での犯罪被害者等の心の支えとなるのではないかと考え
る。
キーワード:少年司法制度・犯罪被害者・少年法改正・評価・質的分析
付− 16
常磐大学大学院学術論究 創刊号 2014.3
Scientific Journal of Tokiwa University Graduate School
No.1 Mar. 2014
修士論文要旨(2012年度)
常磐大学大学院コミュニティ振興学研究科修士課程修了者修士論文要旨
〔修了者〕
春セメスター
氏 名
修士論文題目
研究指導教員
銭 昊
多文化共生社会における漢字文化 華人コミュニティの視点
から
池田 幸也
氏 名
修士論文題目
研究指導教員
禹 寶永
韓国における日本植民地時代の建築遺産の保護と博物館活
用に関する研究
−保存価値と博物館化の課題を中心として−
水嶋 英治
菊池 秀一
博物館における視覚障がい者向けの展示方法および支援方
策に関する研究
−触覚型展示資料の開発の現状と今後の課題−
水嶋 英治
特定保健指導の評価に関する実証研究
松村 直道
秋セメスター
若林 千津子
付− 17
多文化共生社会における漢字文化
華人コミュニティの視点から
銭 昊
要 旨
本研究では自文化の保護・継承と他文化との交流をいかに両立させるかについて「多文化共生の華人コ
ミュニティにおける漢字文化」に焦点を当て、その未来を検討していく。
文字は文化の根幹である。自文化の継承(inheritance)と他文化との交流(interaction)ということは文
字が持つ機能であり、文字は文化継承と文化交流の対象ともなる。即ち、文字は文化継承と文化交流の客体
(object)である。
文化継承と文化交流を実現するためには、客体だけでは足りない。主体(subject)も必要となる。言うま
でもなく、文化継承と文化交流は、人間、あるいは、人間が組み合わせる組織・集団であるコミュニティを
主体とする。
筆者は、上述した文化と文字(客体)・文化とコミュニティ(主体)の理念、更に現代の多文化化の趨勢
を考えながら、自身の華人身分を出発点とし、華人文化の代表である漢字文化が自文化の保護・継承と他文
化との交流をいかに両立させるかという問題を検討する。
本論文の
①第 1 章で漢字文化の継承と交流の担い手となる華人・華人文化を論じた上で、コミュニティの概念と理
念を論証として、華人コミュニティ・多文化コミュニティ・世界の多文化性に焦点を当てている。
②第 2 章で言語と文字の一般論から始まり、それをもとに、華人文化の継承と華人文化以外の諸文化との
交流という機能を担う漢字と漢字文化を中心に論じしている。本章は漢字・漢語の特徴と使用現状を中
心にするため、漢字文化の継承に焦点を当てている。
③第 3 章で漢字が多文化共生・多文化交流に対してどのように有効であるかに焦点を当てている。依然と
して議論になりつつある漢字の繁簡の争いから論述を始め、東アジアにある伝統的「漢字文化圏」の崩
壊と現代の漢字字形の混乱を論じた。それに基づいて、多文化共生をより順調に推進するためには、現
在のコンピューター産業技術の発展を伴う漢字字形の統一問題とコンピューター時代の漢字の現状と将
来について論じしている。
本論文の結論として言えば、華人文化の根幹となる漢字・漢字文化は、歴史・地域により、その字形と使
用が非常に複雑な課題となった。この課題の範囲は、中国大陸・シンガポールで使用される簡体字、香港・
台湾・澳門・海外華人コミュニティにおける伝統漢字、または日本の中国大陸と違う簡体字と伝統漢字の混
用に伸ばされる。つまり、漢字の問題は、華人文化の問題であると同時に、国際化された問題でもある。こ
の問題をより広く意識させるために、上述した各々の地域の協力が必要となる。
漢字は、すでに華人文化の継承と非華人文化との交流に効果をもたらした。これからの課題は、どうのよ
うに漢字のその効果をより有効に発揮し、人類の共同遺産である漢字文化・漢字文化圏を保護・継承するか
ということにある。
キーワード:漢字・漢字文化・華人コミュニティ・多文化共生コミュニティ・漢字の繁簡争い
付− 18
韓国における日本植民地時代の建築遺産の保護と
博物館活用に関する研究
−保存価値と博物館化の課題を中心として−
禹 寶 永
論文要旨
本研究では、博物館学の視点から、韓国における日本植民地時代の歴史的建築物の保存価値性と歴史建築
物の博物館化の課題について研究するものである。本研究の対象は、歴史建築物のうち、日本と関連する建
築物である。事例研究として、今日でも存在する二つの歴史的建築物を対象として選定した。一つは東洋拓
殖株式会社であり、他の一つは西大門刑務所である。
日本は、韓国の経済収奪を目的に「農業経営」と「移民事業」のために設立した東洋拓殖株式会社を韓国
全土に建てたが、今日では「釜山支店」と「木浦支店」の 2 店は今でもその当時の姿のままで残っている。
一方、西大門刑務所(現在、西大門刑務所歴史館)は日本人によって1908年に新築されたが、その前身は「京
城監獄」であった。1945年まで韓国独立運動家たちが収監され、1987年までソウル刑務所として使われた。
現在では「歴史教育の場」として西大門刑務所歴史館として1998年に開館した。歴史建築物が博物館化され
た事例であるこの博物館は、韓国人の独立性と民族性を体験することができる体験博物館である。
上記のほか、日本植民地時代の重要な建造物が博物館として公開されている例を文献研究やフィールド調
査によって調査研究を進めた。
日帝強制占領期間の建物を保存し、博物館として公開することによって、韓国人が受ける影響は何か。韓
国人にとっては、悲しい歴史が潜む日本時代の建物であるが、ここを訪問して過去の歴史を思い出してま
で、その建物を博物館化にする価値と目的があるのだろうか。この疑問を解決するのが本研究の目的である。
考察は「負の遺産」と「場所論」の二つの視点から捉えた。
朝鮮総督府やソウル市庁、ソウル駅は「場所論」の側面から、西大門刑務所歴史館の場合は、「負の遺産」
観と韓国における「博物館化」現象の視点から考察した。
西大門刑務所歴史館は、日本的視点から見れば、西大門刑務所歴史館に展示されている過去の歴史と日本
人の残虐な行為は「見たくない光景」であるかも知れない。韓国人が韓国の「負の遺産」を見る目と日本人
が韓国に残された自分たちの「負の遺産」を見るのとでは感情的に異なるのは言うまでもない。そこには、
悲劇の歴史が横たわっているが、加害者の立場と被害者の立場とではモノを見る感情は違って当然である。
建造物そのものや遺産の存在する「場所論」、設立目的においては朝鮮総督府とソウル市庁など、現在韓
国に残っている日本時代の建築物は「負の遺産」が視覚化された例として見ると、保存価値の判断基準が曖
昧になる。
「場所論」としては、西大門刑務所が建てられた地理的場所の特異性にあったのではないかと考えられる。
西大門刑務所の左手には景福宮と朝鮮総督府があり、地理的特徴があった。
韓国の博物館化には「再記憶化」が背景にあると指摘しておきたい。上から禁止を命ずるのではなく、下
から記憶を創り出す行為こそ、韓国の博物館化の特質であると結論づけた。
キーワード:博物館化・保存価値・植民地時代・建築遺産・負の遺産
付− 19
博物館における視覚障がい者向けの展示方法
および支援方策に関する研究
−触覚型展示資料の開発の現状と今後の課題−
菊 池 秀 一
要 旨
本論文では、視覚障がい者向けの支援の実態について全国 5 ヶ所の施設をヒアリング調査し、ユニバーサ
ルミュージアムの実態について明らかにした。各施設が行っている視覚障がい者支援を調査し、さらに施設
が感じている視覚障がい者支援の問題について把握し、本論文で解決できる方策を提示している。その中
で、先行研究の中で課題とされてきたカプセルペーパーの触覚型展示資料づくりについて、解決可能な表現
法を発見し、視覚障がい者支援団体関係者への実験を通して、その有効性について論じている。先行研究で
紹介されている支援について、整理し現実性や汎用性等について論じ、評価をした。
また、触れる展示で注目を集めた国立民族学博物館の取り組みについて紹介するとともに、この取り組み
で明らかになった新たな需要が視覚障がい者支援に繋がる可能性があることを論じた。これまで美術作品の
触覚型展示資料は、平面のものではなく、石膏などを用いた立体的な資料に偏り、絵画などの平面的な作品
を立体的に加工するという手法が主流であったが、本論文を通して、平面の絵画作品等も安価で即時性があ
り、さらに高再現性に優れたカプセルペーパーの応用で解決できることが明らかになった。
本論文で明らかになった美術作品の触覚型展示資料は、多色刷版画を参考に考案されている。高価な作品
でも、カプセルペーパーで資料を作成することで、鑑賞者も気軽に触って鑑賞することができ、簡単に資料
を更新することも可能であることを論じた。
ミュージアムにおける視覚障がい者支援で最も難しかった美術館においても、本論文で新たに提案された
表現法「構成要素分割表現法」によって、これまでの問題を解決することが可能であることを論述した。こ
の「構成要素分割表現法」をより汎用性のあるものにしていくためには、データベース化することが重要で
あると同時に、世界中からダウンロードし、カプセルペーパーを用いた触覚型資料を簡単に製作することが
できる。本論文は、カプセルペーパーによる新たな表現法「構成要素分割表現法」の提案によって、ミュー
ジアムでの活用ができることを明らかにした。
キーワード:視覚障がい者・触覚型展示資料・カプセルペーパー・構成要素分割表現法
ユニバーサルミュージアム
付− 20
特定保健指導の評価に関する実証研究
若 林 千津子
要 旨
目的 特定保健指導の効果を 4 ヵ年の長期的な経過における検査データの変化等量的評価と、個人の健康管
理能力や保健指導プログラム参加の満足度など質的評価の両側面から評価し、保健指導効果の継続に影響す
る因子を明らかにすることにより、より効果的な保健指導活動を検討することである。
方法 2008年度特定保健指導プログラムに参加したX市国保所属の94人(男性41人、女性53人、平均年齢
58.6±6.1歳)を対象とし、経年的な検査データ、問診項目、メタボリックシンドローム判定、行動変容ス
テージの変化を分析し、体重の変化によってグループ分けを行った。2011年度( 3 年後)時点で体重を維持
している21人を「維持群」、その他の73人を「対照群」とし、検査データの変化、改善効果の継続性に影響
する因子についてアンケート調査を行い分析した。
結果 保健指導プログラム終了時および 1 年後において、行動変容ステージの向上、身体活動の増加、検査
データ(体重・BMI・腹囲・血圧・中性脂肪、HDLコレステロール、LDLコレステロール、HbA1c)の改善
の効果があった。しかし、保健指導プログラム終了 3 年後には、体重の維持が困難で検査データがもとに戻
る傾向がみられた。効果の継続性に影響を与える因子は、「社会参加とサポート」
「自己認識・自己知覚」
「プ
ログラムの評価」であった。
結論 保健指導方法において、集団指導は、自己の生活習慣を客観的に把握する機会、行動変容への努力を
賞賛される中で社会的説得を得られる、他者の成功談から代理性体験を持つことができるなどの効果があっ
た。保健指導プログラムに血液検査を導入することは、対象者のモチベーション維持・向上や指導者にとっ
て指導方法の一指標としても有効であることが示唆された。セルフモニタリングは、自分の行動をフィード
バックし、目標達成に向けてのセルフコントロールを継続的に行うことに有効であり、対象者と指導者が共
通認識をもって客観的に評価するツールとしても有効である。保健指導プログラム終了 3 年後には、臨床検
査データがもとに戻る傾向がみられたことから、長期的な効果の継続は困難であることが示唆され、保健指
導プログラム終了後も 2 年ごとの継続した支援が必要であると考えた。さらに、効果の継続性に影響を与え
る因子は、
「社会参加とサポート」「自己認識・自己知覚」「プログラムの評価」であった。このことから具
体的な方法としては、対象者の行動変容に対する準備性や本人を取り巻く家族や職場等への状況配慮が不可
欠であり、対象者がどのようなソーシャルサポートを必要としているのかを明らかにし、有効に利用できる
ような働きかけが重要である。さらに、行動目標の設定においては、小さくても持続可能な行動変容のほう
が自己効力感を強め減量の維持に有効であり、そのため、初回面接時の行動目標設定においては効果と実効
性を考慮した、対象者の状況に即した無理のない具体的な支援ができているかなどに留意することが重要で
ある。指導者が有すべき資質として、対象者の身体の状態に配慮しつつ行動変容につながる支援ができる能
力を獲得するために、定期的にケースカンファレンスや事例検討を行い、個々に適した指導方法や教材の選
択を行うことのできる能力を養うことや、X市所属の保健師等指導スタッフとの積極的な情報交換が必要で
ある。
キーワード:保健指導・効果の継続性・量的評価・質的評価・保健指導プログラム
付− 21
常磐大学大学院学術論究発行規程
制 定 1992年 6 月24日 研究科委員会
全面改正 2013年 6 月 7 日 教学会議
(目 的)
第 1 条 常磐大学大学院(以下「大学院」という。」は、学術研究の推進および成果の公表と相互交換を
することを目的として、「常磐大学大学院学術論究」(以下「学術論究」という。)を発行する。
(編集委員会)
第 2 条 学術論究の編集業務を行う機関として、教学会議のもとに常磐大学大学院学術論究編集委員会
(以下「編集委員会」という。)を置く。
② 編集委員会は、次に掲げる者をもって構成する。
1 .各研究科委員会からの代表 1 名
2 .その他委員長が指名した者 1 名
③ 委員長は、委員の互選とする。
④ 委員の任期は、 4 月 1 日から 2 年とし、再任を妨げない。
⑤ 編集委員会は、編集業務に協力を得るために、各研究科の大学院生 1 名を編集補助者として委
嘱することができる。
(任 務)
第 3 条 編集委員会は、原則として毎年度 1 回学術論究を発行する。
(投稿資格)
第 4 条 学術論究への投稿資格者は、次のとおりとする。
1 .大学院に設置する科目の授業担当者
2 .大学院博士課程(後期)に在籍する学生および研究生
3 .大学院博士課程(後期)を修了した者(満期退学した者も含む)
4 .大学院修士課程に在籍する学生および研究生
5 .大学院修士課程を修了した者
6 .編集委員会が特に認めた者
(論稿の種類)
第 5 条 学術論究に掲載する論稿は、次のとおりとする。
1 .原著論文 原著論文とは、独創的な研究から得られた成果を報告する学術論文で、人文社会
科学・自然科学の進歩や発展に寄与するものをいう。
2 .研究ノート 研究ノートとは、研究途上にあり、研究の原案や方向性を示したものをいう。
3 .研究レビュー 研究レビューとは、当該研究に関する先行研究を網羅的にまとめ、研究の動
向を論じたものをいう。
付− 22
4 .書評 書評とは、新たに発表された内外の著書および論文の紹介をいう。
5 .学界展望 学界展望とは、諸学界における研究動向の総合的概観をいう。
6 .その他 その他とは、その他の論稿であって編集委員会が特に認めたものをいう。
② 前項のものは、未発表のものを原則とする。
(編 集)
第 6 条 編集委員会は、前条第 1 項に規定する論稿について、募集し、編集する。
② 投稿に関しては、別に定める。
(審 査)
第 7 条 編集委員会は、第 5 条第 1 項に規定する論稿について、編集委員会が委嘱した者の査読を経た
後に、掲載の適否を判断する。
② 編集委員会は、投稿者に対して、必要に応じて加筆、訂正、削除または掲載見送り等を要求す
ることがある。
(著作権および出版権等利用の許諾)
第 8 条 学術論究に掲載されたすべての論稿の著作物は、著作権者に帰属する。
② 著作権者は、大学院に対し、当該論稿に関する出版権の利用につき、許諾するものとする。
③ 著作権者は、大学院に対し、電子化した当該論稿の常磐大学のホームページへの公開について
許諾するものとする。
(保管・管理)
第 9 条 学術論究の保管ならびに各大学および研究機関との交換は、情報メディアセンターが行う。
(事 務)
第 10 条 学術論究の発行事務は、教学事務室研究支援係が行う。
附 則
1.この規程の改廃には、研究科委員会の議を経て教学会議の承認を得るものとする。
2.この規程は、2006年 4 月 1 日に遡及して施行する。
3.この規程は、2013年 6 月 7 日に全面改正を行い、2013年 4 月 1 日に遡及して施行する。
付− 23
常磐大学大学院学術論究
学術雑誌執筆要綱
(2013年度改訂版)
付− 25
Ⅰ.『常磐大学大学院学術論究』への投稿に関する諸注意
『常磐大学大学院学術論究(以下、学術論究)』とは常磐大学大学院の趣旨ならびに特色を考慮した学術専
門雑誌です。本大学院学術論究発行規程第 5 条第 1 項が定める学術論文などを掲載します。
投稿論文等は、その内容が過去に他誌に掲載(注:抄録のみの場合は除く)されていないもの、あるいは
現在投稿中もしくは掲載予定でないものに限ります。新知見の所在が明確で、要旨が一貫して明解な論文を
お寄せください。記述は簡潔にし、類似する図表は省略してください。
なお、掲載されたすべての論文の著作権は著者に帰属しますが、出版権は常磐大学大学院(以下、本学)
に帰属します。また、掲載された論文は電子化し、本学ホームページで公開します。
投稿について
投稿は有資格者に限り、本文は原則として邦文、英文のどちらかとします。英文の場合、ネイティヴの専
門家の校閲を受けることを原則とします。
投稿原稿は公示(掲示および学内資料の配布)によって募集し、掲載の採否を編集委員会にて決定し、郵
送にて投稿者にお知らせします。採用となった場合は掲載受付証を発行します。
なお、投稿論文数が 2 編以下の場合は、休刊にすることがあります。
1 .原稿の提出について
原稿は、コピーを含めて計 2 部とその内容を保存した電子媒体(CD-RまたはUSBメモリとし、原則
としてMSWordで入力したもの)を学事センター研究教育支援係に指定された日時までに提出してくだ
さい。
教員以外の投稿者(大学院生)は、研究指導教員あるいはこれに準ずる教員(リーダーも含める)の
推薦文をつけて提出してください。
なお、著者の責任において、原稿の損傷・紛失に備えてコピーを保存してください。
採用となった場合、校正は初校のみとし、著者にお願いします。校正期間は 2 日間で字句のみとしま
す。校正段階での加筆訂正は原則として認めません。
投稿にあたり規定が遵守されなかった原稿は受理されません。
送付先:〒310-8585 水戸市見和 1 -430- 1
常磐大学大学院学術論究編集委員会 宛て
(事務局:学事センター研究教育支援係)
2 .有資格者について
『学術論究』に投稿することのできる有資格者は、次のとおりです。
〔参考〕大学院学術論究発行規程(第 4 条)
① 本大学院に設置する科目の授業担当者
② 本大学院博士課程(後期)に在籍する学生および研究生
③ 本大学院博士課程(後期)を修了した者(満期退学した者も含む)
④ 本大学院修士課程に在籍する学生および研究生
⑤ 本大学院修士課程を修了した者
付− 26
⑥ 編集委員会が特に認めた者
注:筆頭執筆者が上記に該当すれば、その投稿は認められるものとします。ただし、筆頭執筆者
が上記に該当しない場合、第 2 著者以降に上記該当者が含まれていても、その投稿は原則と
して認められません。
3 .募集論文の種類
①原著論文②研究ノート③研究レビュー④書評⑤学界展望⑥その他、編集委員会が特に認めたもの
原著論文と研究ノートはいずれも学術論文に含みます。いずれも独創的な研究で、科学上意義ある結
論または事実を含むものです。
① 原著論文とは、著者による独創的な研究から得られた成果を報告する学術論文で、科学技術の進歩
や発展に寄与するものです。その成果と内容、ならびに論文形式等が当編集委員(査読者も含む)に
よって原著論文に値すると認められた論文ということができます。
② 研究ノートとは、これまでの研究の大要を暫定的に報告した論文であり、新しい発見や着想を早く
公表することを目的としたものをいいます。研究テーマにかかわる先行研究を詳細に概観する必要は
ありません。また図や表も最小限にとどめ、確定した事実だけを記し、後に改変の必要が起こるよう
な内容を含めないことが望まれます。
③ 研究レビューとは、当該研究テーマに関する先行研究をまとめたものをいいます。先行研究を網羅
的にまとめ、当該研究の研究動向を論じたものなどが対象となります。
④ 書評とは、新たに発表された内外の著書または論文の紹介をいいます。
⑤ 学界展望とは、諸学界における研究動向の総合的外観をいいます。
⑥ その他とは、①〜⑤以外の論稿であって編集委員会が投稿を認めたものをいいます。
以上の観点から、投稿者の希望と異なる論文種になる場合があります。ご了承ください。
※ 原則としてすべての論文に対して査読を実施します。編集委員会ならびに編集委員会が特に認める者
(学外の者に依頼する場合もありうる)が査読し掲載の採否を決定することとします。
Ⅲ.論文等原稿作成上の注意
頁構成
1 枚目(表紙)
… ……表題、著者名他
2 枚目…………………要旨(Abstract)、キーワード(Key words)
3 枚目…………………本文
《 1 枚目(表紙)》
下の 1 〜 3 については、本文が邦文の場合は邦文・英文を併記し、本文が英文の場合は、英文のみを
記載する。
1 .表題
「 ……の研究」というような大ざっぱな表記を避け、論文の内容、新知見を表記した簡潔で明瞭な
付− 27
ものとする。また、長い場合は略題(ランニングタイトル)をつける。 2 編以上の原稿を同時に提出
する場合は、それぞれ別の表題をつける。
2 .著者名(フリガナ)
3 .所属、領域、研究指導教員名
4 .図表の数
5 .抜刷希望部数(贈呈分50部を含む)
6 .連絡先住所・電話番号(FAX番号;e-メールアドレス)
7 .編集・印刷上の注意事項の指示(朱書)
《 2 枚目》
1 .論文の要旨(Abstract)
和文(600字〜800字程度)および英文(150語〜200語程度)で併記すること。読者が一読して論文
の内容が明確に理解できるものとする。
2 .キーワード(Key words)
日本語および英語で 5 個以内。やむを得ず邦語のキーワードを含む場合には、ローマ字表記の邦語
のキーワードを併記すること。
《 3 枚目〜本文》
1 .スタイル、枚数
A4判用紙に横書き。図表と写真は一点につき一枚に換算し、所定の枚数に含める。
また行番号を付してください。
〔本文が和文の場合〕
文章は現代かなづかいとする。
ワープロ使用
40字×30行設定で、①原著論文は16 〜20枚、②研究ノートは 8 〜10枚、③研究レビュー、④書評、
⑤学界展望、⑥その他、についてはおおよそ 8 枚まで、とする。
なお変換できない文字や記号は、手書きで明瞭に書き入れる。
手書き
400字詰原稿用紙を使い、①原著論文は50 〜60枚、②研究ノートは25 〜30枚、③研究レビュー、④
書評、⑤学界展望、⑥その他、についてはおおよそ25枚まで、とする。
〔本文が英文の場合〕
フォント11の活字を使用したワープロによる印字のみとし、30行設定で入力する。①原著論文は20
〜25枚、②研究ノートは10 〜20枚、③研究レビュー、④書評、⑤学界展望、⑥その他、について
はおおよそ10枚まで、とし、原語綴りは行端末で切れないようにする。
可能なかぎりネイティヴの専門家の校閲を受けること。
付− 28
2 .構 成
論文の構成は次のように編成する。ただし、それらは必ずしも見出しの表記法を規定するものでは
ない。
〔注 1 、注 2 〕なお、中見出しは、適宜考慮して適切に表現する。
は じ め に:序言または緒言に相当するもの。研究の位置づけおよび目的を明示する。
研究の方法
結 果
考 察
結 論
謝 辞…出来るだけ簡単に、研究費の出所等も記載する。
引 用 文 献…〔注 3 〕
図表・写真のタイトル(説明文を含む)…〔注 4 〕
〔注 1 〕 総説、講座、または専門分野の学会などの慣行に従うことが望ましい場合には、上記の構成の
限りではなく、適宜考慮して記述する。ただし、学生が投稿する場合は、その標準的な構成を示
したサンプルを一部提出することが望まれる。
〔注 2 〕 自己の知見と他人のものとの比較で、異論を論じるだけの場合は、出来るだけ「結果および考
察」に相当する一章にまとめる。ただし、その場合は、研究ノートに分類されることもある。
〔注 3 〕 (引用文献について)
1 .本文中に引用する際の表記法
文献に記述された内容を本文中に引用する場合には、基本的にはそのまま書き写さずに自分の言葉
に置き換えて記述すること。
○ 1 名の研究者による文献の場合
Skinner(1967)は、・・・・・・と述べている。
井上(1993)の研究では、・ ・・が明らかにされた。
・・・・・・・・・・・・・・・と報告されている(Sidman,1990)。
・・・・・・・・・・・・・・・が指摘されている(山本,1997)。
○ 2 名の研究者による共同研究の場合
Horne and Lowe(1996)によれば、・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・が報告されている(Sekuler& Blake,1985)。
・・・・・・・・・・・・・・・と報告されている(谷島・新井,1996)。
○ 3 名以上の場合
・本文中に初めて出すときには、全ての研究者の名前を記述する。
柏木・東・武藤(1995)は、・・・・・・・と述べている。
Matthews, Shimoff, and Catania(1987)は、・・を調べた。
・・・・・・・・・・・・・・・が報告されている(Matthews, Shimoff, & Catania, 1987)。
・ 2 回目以降は、以下のように省略して記述する。
柏木他(1995)は、・ ・・・・・・・と述べている。
柏木ら(1995)は、・ ・・・・・・・と述べている。
Matthews et al.(1987)は、・ ・・・ことを指摘している。
・・・・・・・・・・・・・・・・・が指摘されている(Matthews et al., 1987)。
付− 29
名前は基本的に姓のみを表記する。ただし、同姓の人物が引用されていて紛らわしい場合に
は、日本語名であればフルネームを書き、欧文名であればファーストネームのイニシャルを添え
て書くこと。
※原文の直接的引用
どうしても文献の内容を原文のまま引用したい場合には、次のようにすること。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。高橋(2001)は、この問題に関して次のように述
べている。
( 1 行空ける)
ヒトの場合、言語行動が・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・(高橋、2001、p.102)。
( 1 行空ける)
以上のように高橋は、・・・・・・・・
2.引用文献のリストの書式
本文中に引用した文献は、全て最後の引用文献のリストに記載すること。リストは、アルファベッ
ト順に並べ替えること。同じ著者の場合は、発表年代順に並べる。
○初版の場合.
松沢哲郎(2000).チンパンジーの心 岩波現代文庫
Skinner, B. F.(1974). About behaviorism.New York; NY: Knopf.
○改訂版の場合.
芝 祐順(1979).因子分析法 第 2 版 東京大学出版会
Catania, A. C.(1984). Learning. 2nd ed. Englewood Cliffs, NJ Prentice-Hall.
○編集された書籍の場合.
Hayes, S. C.(Ed.)(1989). Rule-governed behavior: Cognition, contingencies, and instructional
control. New York; NY: Plenum.
海保博之・原田悦子(編)(1993).プロトコル分析入門 新曜社
○編集された書籍の場合.
Chase, P. N., & Danforth, J. S.(1991). The role of rules in concept learning. In L.
Parrott & P.N.Chase(Eds.), Dialogues on verbal behavior. Reno, NV : Context Press. pp.226-235.
佐藤方哉(1983). 言語行動 佐藤方哉(編)現代基礎心理学 6 学習Ⅱ 東京大学出版会 183-214.
○雑誌の場合.(DOI番号がある場合は記載すること)
木本克己・島宗 理・実森正子(1989).ルール獲得過程とスケジュール感受−教示と形成による
差の検討− 心理学研究,60,290-296.
Shimoff, E., Catania, A. C., & Matthews, B. A. (1981). Uninstructed human responding :
付− 30
Sensitivity of low-rate performance to schedule contingencies. Journal of the Experimental
Analysis of Behavior, 36, 207-220. doi: 10.1901/jeab. 1981. 36-207
○Webサイトの場合.
長瀬産業株式会社ヘルスケア事業部(2001).<OLの化粧に関する意識調査>結果報告
(2001.12.13.)<http://www.nagase.co.jp/whatsnew/20011213.pdf>(2002年 1 月10日)
文献の標記の仕方については、「日本心理学会執筆・投稿の手引き(2005年改訂版)」を参照する
こと(日本心理学会ホームページ http://www.psych.or.jp/tebiki.doc)。
他に下記の書籍が参考になる。
APA(アメリカ心理学会)著 江藤裕之・前田樹海・田中建彦(訳)(2011).APA論文作成マ
ニュアル 第 2 版 医学書院
原著
American Psychological Association(2010). Publication manual of the American Psychological
Association. Sixth edition. Washington, DC: American Psychological Association.
〔注 4 〕 (図表・写真について)
1 .そのまま印刷できる鮮明なものを用いる。光沢のある白い印画紙の上に焼き付けたものかそれに準
じたものとし、手書きは不可とする。また、大きさは横幅 7 〜14 cmのものを用意する。文字の大き
さについては、原寸大として使う場合は、最低1.5 mmの高さが必要である。
2 .原図の裏には著者名・図表番号・天地の指示を鉛筆書きし、A4判の台紙に貼付する。特に、大き
さや配置に希望のある場合は明記する。
3 .図表は、和文では「第 1 図」または「図 1 」、「第 2 表」または「表 2 」のように、英文では「Fig. 1 」、
「Table 1 」のように表わし、本文中と統一する。また、タイトルおよび説明文(注記を含む)は写真
判には含めず、別紙に表記したものを添付する。
4 .本文中で、図表挿入部位の表示は、本文の右欄外に朱書きで指示する。
Ⅳ.編集作業について
編集作業は以下の予定で行います。
1 .投稿募集案内の配布と投稿希望書の配布 6 月下旬
2 .投稿希望申請のための書類提出締め切り 7 月中旬
3 .投稿規程、投稿のために必要な手続き書類の送付 7 月下旬
4 .原稿提出締め切り 10月上旬
5 .査読者の決定と査読依頼書の送付 10月上旬
6 .査読締め切り 11月上旬
7 .再提出の締め切り 12月上旬
8 .再査読依頼 12月上旬
9 .再査読締め切り 1 月上旬
10.最終提出締め切り 1 月下旬
付− 31
11.原稿印刷 2 月上旬
12.初校の送付 2 月中旬
13.初校校正の締め切り 2 月中旬
14.校正最終締め切り 2 月下旬
15.原稿印刷 2 月下旬
16.学術雑誌の配布と別刷り送付 3 月下旬
付− 32
Scientific Journal of Tokiwa University Graduate School
Guidelines
(Revised in 2013)
付− 33
Ⅰ.Information for authors regarding contributions to the Scientific Journal of
Tokiwa University Graduate School
The Scientific Journal of Tokiwa University Graduate School is an academic periodical that
considers themes related to the Tokiwa University Graduate School. Selected academic papers and
other appropriate material are published according to the Tokiwa Graduate School Scientific Journal
Regulations No. 5 Article 1.
Only submissions that have not been previously published (not including the publication of quotations
or small excerpts), or are not currently in the process of being published will be considered. Abstracts
should clearly define research findings, but should be brief and not include any tables or diagrams.
The copyrights of submitted manuscripts will belong to the author(s), but the publishing rights will
belong to Tokiwa University Graduate School. All published manuscripts will be converted to electronic
form as well as be published on the homepage of Tokiwa University.
Contributions
Journal contributions are restricted to only those determined eligible by the university (see “Eligibility”
below). Contributions will only be accepted in English or Japanese; all contributions in English should be
proofread by a native speaker before submission.
Call for papers will be announced via the bulletin board in the 4 th floor graduate student room of
Q Building. After the Editorial Board reviews submissions, they will notify all authors by mail as to
whether or not their submission was accepted for publication. Authors of accepted contributions will be
given written verification that their paper was accepted. In the case that only two or less contributions
are accepted for publication, journal publication may be postponed to a later date.
1 .Manuscript Submission
Authors must submit two copies including one digital copy and one original manuscript. Digital
copies can be submitted on CD-R or by USB flash drive, but the format must be MS Word (or
equivalent). All submissions should be either handed in to the Academic Affairs Office, or mailed to
the address below by the appointed date and time.
With the exception of contributing teaching staff, all of those who submit a paper must also submit
a letter of recommendation from their Research Mentor or another applicable advisor.
It is the author’s responsibility to save an extra copy of the submission in the event that one
of the submitted copies is somehow damaged or misplaced. Once a submission is accepted, it is
requested that authors have it proofread.
Authors will be given two days to have the proofreading done, and the content of the submission
must not be changed in the process. Further editing will not be allowed once a manuscript is
resubmitted.
Manuscripts that do not adhere to the correct submission guidelines as outlined will not be
accepted.
付− 34
(Send to)
Tokiwa University Scientific Journal Committee,
Tokiwa University Academic Affairs Office
1-430-1 Miwa, Mito, Ibaraki 310-8585
2 .Eligibility
Only those who fit in one of the following categories will be eligible to contribute. (In accordance
with the Scientific Journal of Tokiwa Graduate School Regulations No. 4).
1 .Course instructors for the Tokiwa University Graduate School.
2 .Students or researchers enrolled in Tokiwa University’s doctoral program.
3 .Anyone who has completed Tokiwa University’s doctoral program.
4 .Students or researchers enrolled in Tokiwa University’s master’s program.
5 .Anyone who has completed Tokiwa University’s master’s program.
6 .Those specially recognized by the Editorial Board.
Note: In the case that a manuscript is submitted under multiple authorships, it will still be
accepted if secondary authors do not meet the above requirements as long as the first author does.
However, if the first author of a submission does not meet the requirements stated above, his or her
submission will not be accepted, regardless of whether or not secondary authors do in fact meet the
requirements.
3 .Categories for paper application acceptance
1 .Original article
2 .Research notes
3 .Research review
4 .Book review
5 .Insights on an academic society,
6 .Others
Both original articles and research notes are categorized as academic papers. ①
The merit of submitted original articles (including its contents, results, layout, etc.) will be
determined by the editor assigned to evaluate the manuscript.
②
Research notes serve as a temporary report and outline of research completed to a certain
point but still pending final results. When composing the research notes, it is not necessary
to make a detailed outline of the previous research that matches the research theme. They
should include just factual information, minimizing the usage of tables and figures. Furthermore,
research notes should not include any information that may be subject to change as the research
continues.
③
A research review is a collection of prior research concerning a particular research theme.
The purpose of the Research Review is to give a comprehensive review of previously published
research and argue or discuss a particular view of the work.
付− 35
④
A book review is an introduction to a recently published book or scholarly article.
⑤
Writings on insights on academic society are comprehensive commentaries on research trends
in a the academia surrounding a particular field.
⑥
“Others” includes any manuscript contribution other than those mentioned that is accepted by
the Editorial Board.
Based on the above descriptions, contributors should be aware that the category under which a
given manuscript is submitted is subject to approval and possible change.
*
As a general rule, the above applies to all submitted manuscripts. Judgment about the status and
acceptation, rejection, or a submission of a manuscript will be made by the Editorial Board, or those
specially recognized by the Editorial Board.
Ⅱ.Important points to remember when preparing a manuscript for submission
Page Composition
1st page (front cover) ……Title, Author’s name, etc.
2nd page…………Abstract, keywords
3rd page…………Body
Front Cover (and binding)
1 .Title
Try to avoid overly-broad titles such as “Research on [X] topic.” Titles should be brief but clear
in their description of the contents of the manuscript. Use a running title if the original title is
very long. If you plan to submit two or more separate manuscript copies at one time, make sure
that they have different titles.
2 .Author’s Name
3 .Position, field of work/study, name of Research Mentor
4 .Number of figures and tables in text
5 .Anticipated number of reprints (up to 50 reprints will be provided for distribution at no extra
fee)
6 .Contact address, telephone number (FAX number and e-mail address)
7 .Important notes regarding editing/printing (please write using red ink)
Page 2
1 .Abstract
The abstract should be between 600 and 800 Japanese characters and 150 and 200 English
words written side-by-side, and should be written in a way that readers can gain a clear
understanding of the contents of the paper by reading it.
2 .Keywords
Up to five keywords in Japanese and English should be included after the abstract. All keywords
付− 36
in Japanese should have their Romanization declared and written beside it.
Page 3 − Text body
1 .Style, number of pages
Use standard A4 sized paper. Separate figures and tables should be included in such a way that
they can be easily included alongside the text in the manuscript.
Use a word processing program such as Microsoft Word to type and print the paper (font size
11, 30 lines per page). ①Original articles should consist of 20-25 pages, ② research notes should
consist of 10-20 pages, and other submissions (③research reviews, ④book reviews, ⑤insights on
academic society, and ⑥other submissions) should consist of no more than 10 pages. Please justify
text in a manner that does not force word-splitting at the end of lines. Manuscripts should be
proofread by a native speaker of English before being handed in.
2 .Organization
Manuscripts should be organized in accordance with the guidelines written below. However,
there is possibility for slight deviations from layout described (see notes 1 and 2).
Introduction: Clearly indicate the purpose and the of the research in the preface or its equivalent
Research Method
Results
Discussion
Conclusions
Acknowledgements: list research contribution sources, etc.
References (See Note 3)
Appendices (including explanatory notes - see Note 4)
(Note 1)
Slight deviations from the organization prescribed above will be considered based on their
suitability and the reasons for the differences. However, a sample of the standardized
guidelines used should be provided when a manuscript is submitted using a different
organizational standard than the one described.
(Note 2)
In the case that there is a difference in opinion between the contributor and any other involved
party regarding any of the contents of the manuscript, the disputed issue should e outlined in
a separate chapter titled “Results and Considerations.” If this is the case, the manuscript will
be classified as “Research Notes.”
(Note 3)
References
1 .In-text citations (in margins)
For in-text citations of literature, text can be transcribed directly from the source.
Citations for a single author
i.e. “According to Skinner (1967)…”
“…are reported (Sidman, 1990).”
付− 37
Citations for two authors
i.e. “According to Horne and Lowe (1996)…”
“…are reported (Sekuler& Blake, 1995).”
Citations for three or more authors
When the citation appears for the first time in the text, list all of the authors’ names.
i.e. “According to Matthews, Shimoff, and Catania (1987)…”
“…are reported (Matthews, Shimoff, & Catania, 1987).”
For every subsequent appearance of the citation, you should abbreviate it according as is
done in the following example.
i.e. “According to Matthews et al. (1987),…”
“…are reported (Matthews et al., 1987).”
Only the authors’ surname must be used when citing names. In the event that two authors share
the same surname, please also include the first initial of the author following the surname.
*
Direct citation of text
When you wish to directly cite a source, use the following as a guideline.
“ ….Takahashi (2001) addressed the problem with the following.”
(1 line space)
“In the case of ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・. (Takahashi, 2001, p.102)”
(1 line space)
“So, as can be gathered from Takahashi’s statement above,… ”
2 .Format for cited reference list
All references that are cited in the text need to be listed. This list should be displayed in
alphabetical order by the name of the leading author. If two books share the same author name,
list in order of publication date.
First editions
Skinner, B. F. (1974). About behaviorism. New York; NY: Knopf.
Revised editions
Catania, A. C. (1984). Learning. 2nd ed. Englewood Cliffs, NJ: Prentice-Hall.
Edited texts
Hayes, S. C. (Ed.) (1989). Rule-governed behavior: Cognition, contingencies, and instructional
control. New York; NY: Plenum.
Journals. (Include the DOI number if available.)
Shimoff, E., Catania, A. C., & Matthews, B. A. (1981). Uninstructed human responding: Sensitivity
of low-rate performance to schedule contingencies. Journal of the Experimental Analysis of
Behavior, 36, 207-220. doi: 10.1901/jeab. 1981. 36-207
Web addresses
付− 38
Landsberger, J. (n.d.). Citing Websites. In Study Guides and Strategies. Retrieved May 13, 2005,
from http://www.studygs.net/citation.htm.
References should be cited according to academically accepted guidelines, such as those released
by the American Psychological Association.
American Psychological Association (2010). Publication manual of the American Psychological
Association. Sixth edition. Washington, DC: American Psychological Association.
(Note 4)
Tables and Figures
1 .Only clear images should be used. Figures and tables should be printed onto white, glossy paper,
and should not contain anything hand-written. The width of all images should be 7-14 cm.
2 .The author’s name, figure number, and any layout instructions should be written in pencil on
the back of a figure, and then pasted on a separate piece of paper. If the author has any specific
instructions regarding the size or positioning of a figure, he or she should indicate so on the page
the figure is pasted to.
3 .All tables or figures should be labeled as “Table 1” or “Fig. 1.” Any titles, explanations, or
annotations to charts or figures should be written on the intended text page where the figure will
be placed rather than on the accompanying the image page.
4 .Any explanatory text accompanying figures should be written in red ink in the margin right of
the figure will be placed on the manuscript page.
Ⅲ.Editing Schedule
The following outlines the planned schedule for editing work:
1 .Distribution of contribution application information and application forms (Late June)
2 .Deadline for contribution applications (Mid-July)
3 .Distribution of documents and forms required for contributing (Late July)
4 .Manuscript submission deadline (Early October)
5 .Official request will be sent to selected reader manuscripts reviewers (Early October)
6 .Reading deadline (Early November)
7 .Resubmission deadline (Early December)
8 .Second review of manuscript (Early December)
9 .Second review deadline (Early January)
10.Final submission deadline (Late January)
11.Manuscript printing (Early February)
12.Sending of first proofs (Mid-February)
13.Deadline for first proofs (Mid-February)
14.Final proofreading deadline (Late February)
15.Final manuscript printing (Late February)
16.Distribution of final printed journals (Late March)
付− 39
編 集 委 員
森山 哲美(委員長) 津田 葵
藤本 哲也 G. F. Kirchhoff
松村 直道
常磐大学大学院学術論究 創刊号
2014年 3 月31日 発行
非 売 品
常磐大学大学院人間科学研究科 被害者学研究科 コミュニティ振興学研究科
編集兼発行人 常磐大学大学院学術論究編集委員会委員長 森 山 哲 美
〒310-8585 水戸市見和 1 丁目430− 1 電 話 029−232−2511㈹
常磐総合印刷株式会社
印刷・製本 〒310-0036 水戸市新荘 3 − 3 −36
電 話 029−225−8889㈹
目 次
□ 研究ノート
・オーグレン著「刑法29章 5 条における衡平理由について」を読む
………………………………………………………………………坂 田 仁
1
□ 原著論文
・刻印刺激と餌の並立強化スケジュールと同時選択場面での
ニワトリヒナの選択反応にもたらす餌摂取可能機会設定の効果
………………………………………………………………………長谷川 福 子
15
・CMCとFtFにおける大学生の言語行動に対する行動分析学的検討
…………………………………………………竹 内 友紀子,森 山 哲 美
35
・リサージェンス指標の検討を含めたハトにおける強化履歴 ならびに他行動の出現傾向とリサージェンスの関係
…………………………………………………小 幡 知 史,森 山 哲 美
51
□ 研究レビュー
・人間の攻撃行動を説明するための行動随伴性
…………………………………………………佐久間 崇,森 山 哲 美
67
□付 録
・常磐大学大学院人間科学研究科博士課程(後期)学事記録
…………………… 付− 1
・常磐大学大学院人間科学研究科修士課程学事記録
……………………………… 付− 2
・常磐大学大学院被害者学研究科修士課程学事記録
……………………………… 付− 2
・常磐大学大学院コミュニティ振興学研究科修士課程学事記録 ……………………… 付− 2
・常磐大学大学院人間科学研究科修士課程修了者修士論文要旨…………………… 付− 3
・常磐大学大学院被害者学研究科修士課程修了者修士論文要旨…………………… 付−12
・常磐大学大学院コミュニティ振興学研究科修士課程修了者修士論文要旨 ………… 付−17
・常磐大学大学院学術論究発行規程
………………………………………………… 付−22
・常磐大学大学院学術論究学術雑誌執筆要綱
……………………………………… 付−25
・常磐大学大学院学術論究学術雑誌執筆要綱(英文)……………………………… 付−33
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