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Web調べ学習における学習シナリオ作成スキル

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Web調べ学習における学習シナリオ作成スキル
Web 調べ学習における学習シナリオ作成スキル
Developing Learning Skills by Learning Scenario Creation
大石 千恵*1, 柏原 昭博*1
Chie OISHI*1, Akihiro KASHIHARA*2
*1 電気通信大学 大学院情報理工学研究科 総合情報学専攻
*1 Graduate School of Informatics and Engineering, The University of Electro-Communications
Email: [email protected]
あらまし:Web 上のリソースを用いた調べ学習では,何を・どのような順序で学ぶべきかを表す学習シ
ナリオを作成する必要がある.しかしながら,Web 調べ学習の初心者にとって,Web リソースを用いた
調べ学習自体に不慣れであることに加えて,学習課題に関する予備知識が不十分なため,リソースの内
容を学びながら学習シナリオを作成することは容易ではない.そこで,本研究では,学習者が作成すべ
き学習シナリオの部分構造をあらかじめ提示することで,学習者による学習シナリオの作成を促進する
手法を提案する.
キーワード:Web 調べ学習,学習シナリオ,Scaffolding,Fading,学習スキル
1.
はじめに
近年,Web 上で Wikipedia[1]や教育機関が公開す
る e ラーニングコンテンツのような信頼性の高いリ
ソースが増加している.このため,教育や学習の場
において,学習者が Web リソースを主体的に学ぶ
Web 調べ学習の機会が増加している[2].また,この
ような Web 調べ学習では,Google[3]に代表される検
索サービス用いて,多種多様なリソース群を横断的
に学習することが可能である.そのため,作成者が
異なる様々な観点から記述されたリソースに触れる
ことで,より幅広くかつ深い知識を得ることができ
る.
Web 調べ学習では,テキスト教材を用いた学習と
は異なり,学習シナリオがあらかじめ準備されてい
ないことが多い.学習者が学習課題を遂行するため
には,学習課題をより詳細な部分課題へと展開し,
調べ学習のプロセスを制御する必要がある.つまり,
Web 調べ学習では,ページ内容を学ぶことと並行し
て,学習課題を達成するための学習課題を構造化し
て学習シナリオを作成する必要がある.
本研究では,これまでに Web 調べ学習プロセスを
モデル化し,学習課題を達成するために必要な知識
を構築する知識集約プロセスと,学習課題を構造化
して学習シナリオを作成する課題展開プロセスに分
類している.一方, Web 調べ学習の初心者の場合,
Web リソースを用いた調べ学習自体に不慣れで,学
習課題の予備知識が少ないことが多いため,学習シ
ナリオ作成の場を与えるだけでは 2 つのプロセスを
相互に遂行させることが困難であることが分かって
いる[4].
そこで,学習シナリオの作成を促進させるため,
学習者が作成すべき学習シナリオの部分構造を段階
的に提示する手法(Fadable Scaffolding[5])を提案す
る.
2.
Web 調べ学習モデル
ここでは, Web 調べ学習モデルについて述べる
[4].本モデルでは,知識集約プロセスと課題展開プ
ロセスを以下に示すような 3 つのフェイズに分類し,
これらのフェイズの繰り返しとして Web 調べ学習
を定義している.各フェイズを以下に詳述する.
まず,Web リソース探索フェイズでは,与えられ
た学習課題を表す課題キーワードから Web リソー
ス を 探 索 し, 学 習 用の リソ ー ス 群 を選 択 す る.
Navigational Learning フェイズでは,選択した学習リ
ソース内のページやリソースをナビゲーションしな
がら,学習課題に関する知識を集約する. 学習シナ
リオ作成フェイズでは,集約した知識構造を振り返
り,学習課題を遂行するために,課題をいくつかの
部分課題に展開し,新たな課題として設定する.
以上の Web 調べ学習モデルに基づき,本研究では,
学習シナリオ作成支援システム iLSB(Interactive
Learning Scenario Builder)を開発してきた[4].iLSB
のユーザインタフェイスを図 1 に示す.Web リソー
ス探索フェイズでは,学習課題を表すキーワード(課
題キーワード)を用いて Web リソース群を探索する.
Navigational Learning フェイズでは,探索したリソー
ス内をナビゲーションし,学んだ内容を表すキーワ
ードの収集・関係づけを行う.学習シナリオ作成フ
ェイズでは,収集したキーワードから展開するべき
部分課題を表す課題キーワードを選択し,学習課題
の木構造を表現する.これらのフェイズを部分課題
が生起しなくなるまで繰り返し,学習シナリオを作
成する.
3.
学習シナリオ作成の Scaffolding
ここでは,学習シナリオ作成過程と学習シナリオ
作成を促進する手法について述べる.
3.1 学習シナリオ作成プロセス
学習シナリオ作成では,学んだ知識からの学習課
題の設定,学習課題間の関係づけ・構造化,学ぶ順
番を表す学習課題の系列化の 3 つのプロセスが必要
になると考えられる.調べ学習では,学習シナリオ
を表す学習課題の木構造をより広くより深いものに
し,幅広く学習課題に関する知識を得ることが望ま
しいと考えられるため,学習課題の設定と構造化が
より重要である.そこで,本研究では学習シナリオ
作成における課題の設定および構造化に焦点を当て
た支援を行う.
3.2 学習シナリオ作成の足場
学習課題の設定と構造化を支援するために,本研
究では,その足場として学習シナリオの一部分を与
える手法を提案する.学習シナリオは,学習課題と
学習課題間を結ぶ関係からなるため,シナリオに含
まれる学習課題キーワードのみを提供する場合と,
学習課題キーワード間の関係を含むシナリオの部分
図 1.iLSB のユーザインタフェイス
構造を提供する場合がある.前者を学習課題キーワ
ードリスト,後者をシナリオの部分構造と呼ぶ.
学習課題キーワードリストとは,足場となる学習
シナリオの木構造から課題キーワードのみを収集し
たものを指す.このリストを提示することによって,
Navigational Learning の結果から学習課題を設定す
る学習者の負荷が軽減される. 学習シナリオの部分
構造とは,足場となる学習シナリオを構成する木構
造の一部分であり,課題キーワードに加え,課題キ
ーワード間の関係も含まれる.このような部分構造
を提示することによって,学習課題キーワードリス
トと同様に学習課題の設定にかかる負荷が軽減され
る.
3.3 Fadable Scaffolding
本研究では,以上の足場を段階的に取り除くこと
によって,学習シナリオ作成スキルの向上を促すこ
とを検討している.学習シナリオ作成スキルを向上
させるためには,学習シナリオ作成経験を積ませる
必要がある.その有効な手法として,筆者らは足場
を段階的に除く Fadable Scaffolding 手法を提案して
きた[5].この手法を学習シナリオ作成スキルに応用
し,学習課題キーワードリストを段階的に提示する
方法と,学習シナリオの部分構造を段階的に提示す
る方法を提案する.この Fadable Scaffolding では,
足場の高さを調節する軸として学習課題キーワード
数と学習課題構造の大きさを設定する.
4.
図 2.段階的な提示例
5.
まとめ
本研究では,学習者による学習シナリオ作成を促
進する手法を提案し,それに基づいて学習シナリオ
を段階的な提示を行う支援ツールを開発した.今後
の課題としては,提案した支援手法の有用性を明ら
かにするための評価実験を行うとともに,足場とし
ての学習シナリオの提示手法の改良を行うことが挙
げられる.
謝辞
本研究の一部は,科学研究費挑戦的萌芽研究
(No.23650531)と基盤研究 B(No. 22300284)の援助
による.
iLSB における Fadable Scaffolding
iLSB をベースとして学習シナリオ提示による
Fadable Scaffolding 手法を実現するために開発した
システムについて述べる.Fadable Scaffolding では,
足場の高さを調節する軸として,学習課題キーワー
ド数と学習課題構造の大きさを設定する.
学習課題キーワードリストを足場として与えた場
合,学習課題の数を段階的に減少させることで,学
習シナリオをより広める方向に作成するスキルを高
めることが期待できる.また,学習シナリオの部分
構造を与えた場合,図 2 のように学習シナリオの部
分構造を段階的に浅くしていくことで,シナリオを
より深める方向に作成するスキルを高めることがで
き,狭くしていくことで学習シナリオをより広める
方向に作成するスキルを高めることが期待できる.
参考文献
ウ ィ キ ペ デ ィ ア 財 団 ,” Wikipedia ” ,
http://ja.wikipedia.org
(2)
柏原昭博:Web におけるナビゲーションを伴
う学習活動と支援環境のデザイン, 人工知能学会誌
Vol. 25, No. 2, pp. 268-275 (2010).
(3)
Google Inc., “Google”, http://www.google.com/
(4)
秋山直登, 柏原昭博:Web 調べ学習における
学習シナリオ作成支援とその評価, 電子情報通信学
会教育工学研究会技術研究報告(信学技法)
ET2011-139, pp.225-230 (2012.3.10).
(5)
伊藤真,柏原昭博:認知ツールを用いた学習
スキルアップのための Fadable Scaffolding 手法とその
評価,教育システム情報学会研究報告, vol.26, no.7,
pp.95-102 (2012.3.17).
(1)
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