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時空間GISによる緊急時対応も可能な統

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時空間GISによる緊急時対応も可能な統
第5回GISセミナー(東京都) 講演概要
●紹介「時空間GISによる緊急時対応も可能な統合型自治体システムの構築
-文部科学省大都市大震災軽減化特別プロジェクトにおける取り組み」
講師:独立行政法人防災科学技術研究所地震防災フロンティア研究センター
川崎ラボラトリー 角本 繁 副所長
【大都市大震災軽減化特別プロジェクトの概要】
この研究の背景にある大都市大震災軽減化特別プロジェクトは3年
前に興されました。その中は、地震動、耐震化、情報手段を使った災害
対応、そして政策課題に対する研究から成り立っています。その中で、
特にGISに関連して「災害対応を取り込むための標準方式の確立」と
いう課題があります。
当初、IT技術によって地震災害の大幅削減ができるの
か、最初戸惑いがありましたが、最近になって、IT技術
でかなりの減災ができるという自信を持てるようになっ
てきました。
特に、経済的な減災においては、復興の加速と復興経費
の節減が絡んでくるので、まず第1に必要なことは減災シ
ナリオではないか。どういう仕組みでIT技術によって減
災を実現するのかということです。そのためには、今まで
の地震の経験をここに反映させていくということです。
【震災の事例からの教訓】
阪神の地震のとき、壊れないと思っていたビルが壊れ、落ちないと言っていた橋のけたが落ちた。ま
た、神戸市役所の第二庁舎の情報システムがあったフロアがつぶれた。情報センターを置くということ
は、この建物は壊れないと考えられていたわけです。また、行政業務も能率よくできると思っていたら、
非常に長い列ができて、住民サービスにも非常に滞りがありました。これが実態です。昨年 10 月の新
潟での地震の時には、幾つかの点が改善されていますが、十分に改善されているとは言えません。
阪神の地震発生の数日後、GIS学会と一緒に神戸市役所に地図のデータなどを持っていきましたが、
「災害で忙しいときに、コンピューターの地図の仕掛けを使って遊んでいる暇はない」と言われました。
ところが2カ月後、その神戸市役所も、大量に出た倒壊家屋の撤去業務が破綻、見通しが立たない状
況になっていました。申請書を受け付け、1軒1葉のシートをまとめて業者に発注するわけですが、大
量の件数になって、その業務自体が滞ってしまいました。長田区役所で受け付けを始めた日 588 軒、次
の日 1,394 軒は受付実数で、申請に並んだ人は1日 3,000 人以上。結局、処理しきれなかったわけです。
我々は、神戸市からの要請で、長田区役所において地図上に申請者の情報がどんどんたまる仕掛けを
つくりました。地図上にどの地域の人がどの申請を出しているかわかる。同時にここで要求されたのは、
時間的推移の管理です。どの家がどういう状態になっているか日々変わるということで、時空間で情報
を管理することによって、一つの固まりごとにまとめて業者に発注するという手順ができました。
現象に応じて最適な対応をするには地図のデータが必要でした。それから、そこに集まってくるデー
タを反映させていく。時々刻々と変わる状態が反映される。これが助けになって、4年かかるとまで言
われていた業務が、半年で大部分片づいてしまいました。これが、当時、GISによって復興の支援が
できたという事例です。経済的な効果は非常に大きかったと言われています。
また、神戸では餓死者が1人います。この人は救いに行けば助かった人です。1週間生きておられま
した。この事例は、私自身がこの問題を解けなかったという一つの戒めと、この問題を解けるようにし
なくてはいけないという減災の一つの原点であると考えています。そのためには、どの家が今どうなっ
ているかという情報の整理が必要なのです。
1999 年にはトルコのドゥジェという町で大きな地震が起こりました。現地では、3階以上は危険だか
ら削れという指示を出したいというので、調査したところ、明らかに3階以上の建物は被害が大きいこ
とがわかりました。全部の家に被災情報と建物の階数のデータをつけ、調査データを示すことによって
市民も納得するということになりました。
また、このトルコの地震は非常にまれなケースですが、同じ自治体が、3カ月の間に2度被災しまし
た。相互の関係を調べることにおいても、住所では処理できないことが、地図の上で比較できて、相互
関係が明確に整理されました。
ここで言えることは、被災情報は地図の上で管理しなくてはうまくいかない。住所だけの管理は限界
があるということです。
これらの震災から得られた経験、教訓で一番大きいのは、平常時に使っていないシステムは緊急時に
使えないということです。防災専用のシステムを入れていて使えた例がない。そう考えると、平常時の
システムで緊急時の対応をするというコンセプトが重要です。我々がリスク対応型地域管理システムと
呼んでいる考え方を踏襲する必要があります。
二つ目は、いろいろなことが非常に早く変わる。つまり、
時空間の情報処理がなくては対応できないということで
す。住所ではなく、地図上の位置の情報として記述・整理
することです。このために、緊急時に避難所で点呼をとる。
新潟でも、避難所では住所と氏名の整理をしています。あ
なたの家はどこですか、どこから、どの道を通って避難し
てきましたかという情報をそのままヒアリングする。1時
間か2時間で現地の情報が即座に集まってくる。その情報
は時々刻々変わっていきますが、そういう時空間の情報の
整理が有効です。
三つ目に、行政業務を考えると、個人情報保護は必要ですが、災害時には、個人情報以上に人を救わ
なくてはいけない。平常時には保護されている情報が、緊急時には共有する必要が生じてくるというこ
とです。これに対応する技術として、自律分散処理と情報共有化を提案できます。
【時空間GISと情報共有】
こういうことが実現できる行政情報システムをつくろうとすると時空間GISが必須になってきま
す。リスク対応型地域管理システムは、時空間情報の処理と、それぞれの部署ごとのシステムが独立し
た内容で、しかもその間で情報を共有することで、自律分散の処理と情報共有の処理が実現される。そ
れから、震災状況のシミュレーションとか分析が必要になってきますが、それは時空間GIS技術と情
報共有技術で裏づけされて実現できるわけです。
そういうものに、地震計、被災現場から入ってくる情報
を集めて、平常時の業務と緊急時の業務を同じシステムで
両方に対応できるようにします。こういうシステムで、総
合的に住民サービスができ、さらに減災も担保できるもの
を目指すことになります。
時空間GISというのは、時々刻々変化する実世界の情
報をデータベース化するものです。時間を固定すると地図
が見える、場所を固定すると変化が見えるという形になり
ます。カーナビにも時空間情報技術が使われています。
従来のGISは、例えば、家にID番号または住所をつ
け、それにいろいろなデータベースを結合する形になっています。それに対して時空間GISは、諸々
の情報が時間と空間の位置で結合されるという考え方のものです。
特徴は、自律分散という考え方で、別々の部署のデータを緊急時に一緒にできること。すべての情報
が時間と位置に対応していますから、ばらばらに管理されていたものが統合的に扱えるという仕掛けを
担保するものです。
【公開型実行形式時空間データベース】
こういうデータを、本格的に防災に使おうとすると、い
ろいろな部署でばらばらに入れているシステムの間で情
報の共有ができなくてはいけない。そのためには、公開型
のデータ構造を置くことをお勧めします。
データ更新は必ずシステムA・B両方で行うことで、持
っているデータが共通的に存在できる。この構造は、必ず
しもすべての自治体で同じ必要はありません。共有したい
部署間でこういう形をとればよいわけで、そうではない場
合は、公開構造ですから、相互変換が自由にできればよい
わけです。
こういう枠組みのシステムがあれば、従来型のシステムからの結合もできます。また、公開構造をと
っているシステムとの間は、そのまま連携できます。それから、専用構造のシステムとの間は、一時的
に公開構造に変換してもらうことでやりとりができます。また、個別システムで専用構造をとっている
けれども、その専用構造が公開になっていれば、受け側で変換しても情報の共有ができるというわけで
す。
【自治体GISの実現に向けて求められる条件】
自治体の情報システムが実現できない限り、防災には役に立ちません。自治体の情報システムの基本
条件は、第一に経済性、それと同レベルで重要なのは個人情報が確実に守れること、それから、災害時
にも確実に稼働すること、ではないかと考えます。
これらを実現するためには、自治体に蓄積された業務ノ
ウハウをもとにしてシステムをつくらなくてはいけませ
ん。平常時と緊急時の連続性、情報の共有化、機器の簡素
化、つまり、パソコンを使ってすべての情報処理ができる
ということが、本当に使いこなせるシステムにするために
は重要です。
地図等で管理される空間情報、自治体の情報には、災害
発生直前の情報が必要です。直前の情報に災害情報を追加
し、次の復興都市計画をつくる。さらにその計画データを
新しいまちづくりに反映させる。平常業務に戻れば日々の
データが追加される。そういうことで時空間情報管理が必要になってきます。これができていると、い
つの時点でも、前の状態、後の状態が自由にシステムの中で行き来できます。ですから、安全な町づく
りもできますし、都市計画においても非常に有効なデータベースになっていくのです。
自治体の平常時の業務と災害時の業務は、大体が対になったものですが、役割分担が違います。その
業務の中は、家屋データとか住民データ、ライフラインデータの情報処理などですが、それを統合する
のは地図のデータと空間データです。
自治体には「壁」があって困ると言いますが、壁があって情報が隣の部署と共有されないことによっ
て個人情報が守られると考えています。1つの個人情報は、ジグソーパズルのピースのようにさいの目
に切られて、各部署で扱われる。どの部署も大体同じ業務のやり方をやっている。その証拠に、定期的
な人員の転換がなされても、ちゃんと対応できています。これが平常時です。
緊急時は、この中の幾つかのピースをつなぐ、普段は切れているものをつなぐことで、自律分散とい
う考えで情報共有ができます。さらに、上位組織との間の情報共有にもなるわけです。
こうした内容を実現するためには、公開型の時空間データベース構造が必要だということです。
【減災シナリオと情報システム】
減災シナリオをさらに考えてみると、緊急地震速報の提供が重要です。これは、地震が起こったら、
震源位置、マグニチュードが概ね5秒以内に計測され伝達されてくるという仕掛けです。これを使うこ
とによって、今の情報処理をさらに生かしていけるわけです。実験例では、予告なしに揺れた場合、人
は次の行動がとれませんが、1秒前でも地震動が到達する前に予告されると人は行動できます。
こういうことから、早期の地震動伝達は有効です。気象庁から四、五秒で送られてくる情報を使って、
地域の被災情報を判断し、さらに住民に伝達して避難行動をとらせる。平常時と緊急時の間を自由に行
き来する対応、またはこれをサポートする防災情報センターを使うことによって、災害対応ができるの
ではないかと考えています。このベースになるのがGISということになります。
自律分散型防災情報システムのデモシナリオ
地震時には、震源情報と地盤データから、地域の震度、加
自治体(**市)
防災情報センター
速度が出てきます。そのデータを使って、家の倒壊、死者数
の可能性などを即座に計算し、また、家1棟1棟の被災分析
をし、現場からの情報を集め、情報処理をします。
次に、避難所で、どこから来たかという情報を入れていき
ます。情報が来ていないところは、被害がひどくて逃げてこ
**県
られない、または被害が少なくて逃げてこないと理解できま
す。この情報とシミュレーションの結果で、対策に行くべき
場所が判断できます。数時間で現場に行くことができるとい
うことです。
このようなシステムが三重県で導入されています。集計データが自動的につくられて、地域ごとの分
布を即座に実時間で反映できます。今井講師から説明があったGOMマップを使って処理をしています
が、周辺は国土空間データベース基盤を使っています。三重県では現在6町村が参加していますが、徐々
に増やしていくようです。
地震観測網
平常時モード
■平常業務
地震速報
モード切替
地震動推定
情報
被害分析情報
・地震動推定
・家屋被害推定
・被害地写真表示
・安否情報表示
・
災害時モード
(使用場所によるモード選択)
・地震動・被害推定
結果と地図の重畳
表示
・安否情報表示
安否情報
被害地写真
(実被害情報)
・被害地写真表示
・
・
災害対策本部
被害
集計情報
・住民情報管理
・固定資産管理
・
・
■災害対応業務
被害地写真
安否情報
被害情報
安否情報
現場情報
・情報収集
・
・
災害現場
・情報収集
・人員把握
・
・
避難所
【自治体情報システムの実現】
基本的には公開型のデータ構造をとり、中で基盤システムをつくるという構造です。DyLUPAS と書い
てありますが、今は DiMSIS というシステムでやっています。今は国の機関でつくっていますが、いろ
いろなところで共有できます。地域に応じたアプリケーションの大部分は共通で、個別のものがこの上
に乗る形になります。
さらに、機能が足りなければ追加することができます。そ
の上に、第2の機関でもっといいシステムをつくるというな
らば、公開の情報を共有しながら別のシステムをつくること
ができます。つまり、メーカーでもっといいものをつくれば、
ここに乗ってくる。その部分には、専用のデータ構造を置く
こともできます。こういう仕掛けによって、これからの情報
処理をしていけるといいのではないかと考えております。
先日の新聞記事にはある役所のシステム発注のコストが 2
億 4,000 万円から 730 万円と大幅に削減できたという記事が
出ていました。今、GISもこのような状態にあるのではないでしょうか。つまり、公開入札で発注さ
れたものの、仕様が明確になっていないことから、だんだん業者主導になり、値段が上がる。ですから、
発注側が主導でデータ構造を決め、リプレースできる仕組みを必ず担保して発注することが重要です。
業者はリプレースできる仕掛けをつけて提案する。そうすると、いつでも競争力が働いて、適正な競争
の中でシステムの維持・運営ができるようになります。そのためにも、どこを公開、共有すべきかを考
えなくてはいけません。
新潟では複数の市町村で、こういう枠組みでシステムが稼働しています。また、富山県婦中町が一番
進んでいるようですが、統合型のデータベースと統合型のGISが、複数メーカーで独立したものがつ
くられ、いろいろなところで稼働しています。
我々としては、具体的にいい事例をたくさんつくることによって、さらに普及を促進していきたいと
考えています。
― 了 ―
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