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大手町連鎖型都市再生プロジェクトと自然共生空間創出

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大手町連鎖型都市再生プロジェクトと自然共生空間創出
大手町連鎖型都市再生プロジェクトと自然共生空間創出
The Chain of Urban Redevelopment Projects and the Creation of Natural Symbiosis
Space in Otemachi
東日本都市再生本部 都心業務部 大手町第1チーム チームリーダー
沖田 敏浩
概要
東京駅北部の大手町地域において連鎖的に再開発を誘発する連鎖型都市
再生プロジェクトの経過と、当該プロジェクトを構成する土地区画整理事業
と市街地再開発事業により都市再生特別地区制度を活用して東京都心部に
生み出した自然共生空間についてまとめた。
キーワード:区画整理、再開発、緑
過、そして当該プロジェクトによる環境面、特に自
然共生空間の創出について報告する。
1.はじめに
景気回復基調を追い風とし、2020 東京五輪にも向
けて東京都心部の再開発が活況となっている。
これらの再開発の多くは、都市再生に資する事業
の促進を目的とした都市再生特別措置法の都市再生
特別地区制度を有効に活用している。
都市再生特別地区は都市再生特別措置法に基づき
都市再生緊急整備地域内において既存の用途地域等
に基づく用途、容積率等の規制を適用除外とした上
で、自由度の高い計画を定めることができる都市計
画制度であり、各事業において地域課題に即した多
様な取組みが生み出されており、東京都都心部の再
開発においては主に都市再生に対する貢献の度合い
に応じた容積率の緩和が行われ、再開発事業者が幅
広い取り組みをするインセンティブになっている。
再開発に共通して公開空地が確保されるが、その
規模も都市再生特別地区制度の活用で、より大きく
なり、大規模な再開発においては、まとまった緑地
の確保等による積極的な自然環境の創出が行われる
事例も増えている。
近年続いている大規模な再開発事業は、箱型建築
が建ち並んでいた都心の景観を大きく変貌させてい
るが、建物が高層化する一方での公共空間、自然環
境の拡大も注目に値するものである。
都市再生機構(以下「UR」という)は平成 17
年 から東京駅北部の大手町地域(図 1)において都
市再生特別地区制度を活用し連鎖的に再開発を誘発
する連鎖型都市再生プロジェクトを推進しており、
現在3番目の市街地再開発事業が施行中である。
本稿では大手町連鎖型都市再生プロジェクトの経
図 1 大手町地区位置図
2.大手町連鎖型都市再生プロジェクトの経過
1)大手町地域の概要と課題
江戸時代には大名屋敷が建ち並んでいた江戸城大
手門前の大手町地域は、明治に入り官庁施設が立地
し、関東大震災後、官庁施設の霞が関への移転によ
り一部が民間に払い下げられ、以降、日本の行政・
文化の中心地として発展し、金融、情報通信、新聞
メディアなどの本社が数多く立地する我が国でも有
数のビジネス拠点として日本経済の中枢的役割を担
っている。
しかしながら、多くのビルが高度経済成長期に建
築され老朽化が著しい状況(図 2-1)であるにも関
わらず、現有敷地に余裕がなく単独の建て替えが難
しいうえ、
大規模な情報システムを備えた 24 時間稼
60
連鎖の流れは図 2-2 のとおりである。
働型の業種が多いことから仮移転を伴う建て替えは
業務の連続性に支障をきたすなど、地区特有の制約
条件を抱えており、建物の機能更新が遅れていると
いう課題を抱えていた。
【土地取得】
URが合同庁舎跡地を取得
(その一部をSPCが取得しURと共有)
合同庁舎 1・2 号館
【第1次再開発事業】
建替え事業を実施
【土地区画整理事業】
建替えを希望する地権者の土地を
合同庁舎跡地に集約換地
【土地区画整理事業】
次に建替えを希望する地権者の土地を一次
再開発参加地権者の建物跡地に集約換地
図 2-1 大手町地域ビル築年数(H18 時点)
2)事業化の経緯
平成 12 年度から 14 年度にかけて大手町合同庁舎
1・2号館(図 2-1)に入居していた国の行政機関
が移転したことにより空閑地となった 1.3ha の国有
地を、東京都、千代田区がまちづくりに活用すべき
と声を上げた。
平成 15 年、大手町地域での「国有地の活用による
国際ビジネス拠点の再生」が国により都市再生プロ
ジェクト(第5次)に指定され、東京都、千代田区、
地元企業等は、
「大手町まちづくり推進会議」を組織
し、地区特有の制約条件を踏まえた課題解決方策と
して連鎖型都市再生の具体的な事業スキームを検討
した。
連鎖型都市再生とは、
「起点になる未利用地を種地
として、そこに老朽化した建物を所有する地権者が
新たな建物を建築して移転し、元の建物を除却した
跡地を次の建て替え用地として活用しながら順次連
続的に街区更新を進める手法」である。
同会議での検討の結果、種地に建て替えを希望す
る地権者の土地の集約と周辺公共施設整備を行う事
業手法として土地区画整理事業が選ばれ、URに施
行を要請することとなった。
あわせて、合同庁舎跡地を種地として取得し、再
開発の連鎖が続く間、長期保有する事業、集約した
土地において地権者が共同で建物を建設する市街地
再開発事業の3種類の事業が連携し、連鎖型都市再
生プロジェクトを構成することとなった。
【第2次再開発事業】
建替え事業を実施
【土地区画整理事業】
連鎖型都市再生を継
続するため事業区域
を拡大し、第2次再
開発参加地権者の建
物跡地に換地
【第3次再開発事業】
建替え事業を実施
【土地区画整理事業】
第3次再開発参加地権者の建物跡地を含む
街区で再整備を実施
【第4次再開発事業】計画中
図 2-2 連鎖型都市再生の流れ
61
3)プロジェクトを支える3つの事業
図 2-2 のとおり、連鎖型都市再生は複数の事業を
有機的に組み合わせることにより成立している。以
下に各事業の概要について述べる。
a)合同庁舎跡地の取得・長期保有
連鎖型都市再生を成立させるためには、建替えに
活用するために取得した合同庁舎跡地を、地価変動
リスクを抱えながら連鎖終了まで長期間保有する必
要がある。種地は、平成 17 年3月にURが取得した
後、リスク分散のため、民間SPCである㈲大手町
開発に持ち分の3分の2を信託受益権化して譲渡し、
共有している。
b)土地区画整理事業
土地区画整理事業はURが施行者となり平成 18
年 4 月に事業計画認可を取得した。施行区域は
13.1ha でスタートし、その後、3次再開発へ連鎖を
展開するため事業区域を拡大
(平成 25 年4月変更認
可)して 17.4ha となった。
道路等の都市基盤が概ね完備されている大手町地
区では、一般的な土地区画整理事業で実現される公
共施設(道路等)整備による直接的な土地の価値の
増進が見込めない。そのため、本土地区画整理事業
で整備する日本橋川沿いの歩行者専用道路新設等の
公共施設整備を都市再生への貢献として都市再生特
別地区による容積率の緩和を受けることにより、宅
地の価値増進を図っている。これは大手町土地区画
整理事業の大きな特徴となっている。
また、建替えを行う地権者は、従前地で旧ビルを
使用しながら、移転先(仮換地)で新ビルを建築し
ており、実質、土地を「二重使用」できることとな
っている。そのため、建替えを行う地権者は、従前
地を継続して使用できることの対価
(受益者負担金)
を区画整理施行者に支払う。一方、種地所有者は、
建替えを行う地権者が従前地も移転先(仮換地)も
両方使用しており自ら使用収益できない状態が続く
ため、この使用収益停止に伴う損失に対する補償金
(土地区画整理法第 101 条)を、先ほどの受益者負
担金を財源として区画整理施行者から支払われる。
種地所有者は、土地保有コストをこの補償金収入に
より賄うこととしている。
この土地区画整理を介した「土地の二重使用」の
仕組みは、従前地の建物の使用を継続しながら、仮
換地での建築工事を可能とするため、大手町連鎖型
都市再生のスキームにとって非常に有効なツールと
なっている。
c)市街地再開発事業
地権者による建物の建替えには市街地再開発事業
を活用し複数の地権者の宅地を一体的に高度利用し
ている。この際、再開発施行者は、都市再生特別措
置法に基づき、東京都に対して都市再生特別地区に
係る都市計画提案を行い、土地区画整理事業による
容積率緩和に加え、提案内容に応じた容積率の更な
る緩和がなされている。
最初の事業は種地において㈲大手町開発を施行者
として日経ビル、JA ビル、経団連会館が建設され平
成 21 年に竣工した。
(写真 2-1)
その後、日経ビル、JA ビル、経団連会館の跡地で
URと三菱地所㈱を施行者として大手町フィナンシ
ャルシティ(写真 2-2)が建設され日本政策投資銀
行、日本政策金融公庫等が移転し、その移転跡地で
第3次の連鎖となる市街地再開発事業が三菱地所㈱
により施行中である。
(図 2-3)
また、
平成 25 年に土地区画整理事業区域を拡大し
た常盤橋エリアにおいては第4次となる市街地再開
発事業として常盤橋街区再開発プロジェクトの計画
が公表されたところである。
写真 2-1:第1次再開発
写真 2-2:第2次再開発
図 2-3:第3次再開発(建設中)
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3.大手町・丸の内・有楽町地区における環境共生
計画
東京都市づくりビジョンにおいて、都心部はセン
ター・コア再生ゾーンとして区分されており、そこ
での戦略のひとつとして、
「緑に囲まれ水辺と共存し
た都市空間の創出」が位置付けられ、建築物更新時
の敷地内緑化などの公民連携により緑化を推進し、
大規模緑地を幹線道路の街路樹等で結ぶ緑の軸を形
成していくとしている。
大手町・丸の内・有楽町地区(以下「大丸有地区」
という)では、公共と民間の協力・協調(PPP)
によって都心に相応しいまちづくりを進めることを
目的に、千代田区、東京都、一般社団法人大丸有地
区まちづくり協議会、東日本旅客鉄道株式会社の 4
者により平成 8 年 9 月に設立した「大丸有地区まち
づくり懇談会」によって「大丸有地区まちづくりガ
イドライン」が策定されている。
そのなかの環境共生に関する取組みとして、皇居
を中心とする豊かな自然環境に隣接している立地か
ら環境共生型都心として先導的な役割を果たすこと
とし、低炭素都市、自然共生都市、循環型都市の実
現に向けた取り組みが不可欠としている。
自然共生都市実現のための主要な取り組みとして
は、皇居や日比谷公園等と連携した水と緑のネット
ワーク形成に努めるものとしている。
(図3)
4.大手町地域での自然共生
日本橋川に沿った大手町地域は、大丸有地区の水
と緑のネットワーク形成のための主要な地域であり、
大手町連鎖型都市再生プロジェクトのなかで、土地
区画整理事業と市街地再開発事業により自然共生空
間創出に取り組んでいる。
1) 大手町川端緑道
老朽化した建物の連鎖的な建て替え促進を図る土
地区画整理事業のなかで、築 40 年を超える建物の
『裏空間』
(写真 4-2)であった日本橋川沿いに、幅
員 12mの歩行者専用道路
「大手町川端緑道」
延長 780
mを整備している。
(写真 4-1・4-3)
整備にあたっては、学識経験者・行政・民間企業
者等のまちづくりに関係する多様な主体により、
『日本橋川から緑道、民有地までが一体となった魅
力ある屋外空間を形成するためのビジョンを共有
化』
し、
地区計画により土地利用の方針を策定した。
地区計画では、ゆとりある街並み、歩行者空間や
緑のネットワーク等の形成に向けて、緑道沿いの民
有地において9mの壁面後退を行うこととしており、
これにより緑道と民有地との一体的な幅員 20m 超の
川に向けた『表空間』が誕生した。
(写真 4-3)
当緑道の緑化に際しては、皇居周辺部で確認され
た鳥類、チョウ類の中から出現頻度が高く都市適応
型の種を誘致指標種に設定し、植栽計画のなかで積
極的に食餌植物等を導入することで、生物生息環境
の向上に資する緑のネットワークの形成を図った。
写真 4-1 大手町川端緑道
図3 大丸有まちづくりガイドライン
緑のオープンスペースとネットワーク
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写真 4-4 は第2次再開発事業大手町フィナンシャ
ルシティと現在施行中の第3次再開発事業の境界部
で、仲通り機能延伸部とされているところである。
竣工済の大手町フィナンシャルシティ敷地には歩
行空間が確保されており、第3次再開発事業建物の
竣工により全幅員が完成する。
写真 4-2 大手町川端緑道対岸(建物の裏空間)
写真 4-4 大手町フィナンシャルシティの歩行者空間
大手町土地区画整理事業区域外においても、大手
写真 4-3 日本橋川と大手町川端緑道
町地域内で仲通り機能の延伸が進められている。
平成 26 年4月に竣工した大手町タワーでは大規
2) 仲通り機能延伸部の空間確保と緑化
模な敷地内緑地「大手町の森」と一体となった歩行
丸の内の従業者や来街者で賑わう仲通りは大丸有 者空間が形成されており、土地区画整理事業区域内
地区南北方向の歩行者軸として位置づけられており、 の第3次再開発での整備完了により、仲通りから日
仲通りが通過していない大手町地域は民有地内に連 本橋川までの歩行者空間がつながることになる。
続する歩行者空間を確保し仲通り機能を延伸するこ
とが「大丸有まちづくりガイドライン」で位置づけ
られている。
(図4)
写真 4-5「大手町の森」と歩行者空間
3) 屋上緑化施設
屋上緑化はヒートアイランド対策として多くの建
築物において施工されているが、第1次再開発事業
のJAビル経団連会館ビル間の屋上ではアメニティ
性の高い緑化が行われている。
里山の風景を再現した「スカイガーデン」には、
図4 大丸有まちづくりガイドライン
「軸(人々の主要な活動を形成する街路等)
」図に
大手町地域及び大手町土地区画整理事業施行区域を明示
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大手町神社と名付けた社や、桜、柳などの木々のな
かに小川が流れ、果樹園、茶畑、水田が配置されて
おり、訪れる人々に憩いの場を提供している。
日本橋川の水辺空間と連携したこの自然共生空間
のネットワークは都市の緑被率の拡大や歩行者の快
適性向上だけでなく、
野生生物が生息・生育する様々
な空間がつながる生態系のネットワークが広がるこ
とによる都心部での生物多様性の維持に寄与するも
のである。
大手町連鎖型都市再生プロジェクトは、再開発の
連鎖により国際ビジネス拠点を再構築する事業目的
を達成すると同時に広域的な視点においても有効な
自然共生空間を創出したと言える。
写真 4-6 スカイガーデン
5.まとめ
大手町連鎖型都市再生プロジェクトは、合同庁舎
跡地取得から10年が経過し、土地区画整理事業、
市街地再開発事業により、老朽建物の更新が順調に
進捗しており、各事業のなかで自然共生空間が着実
に生み出されている。
前述した東京都市づくりビジョンにおいて大規模
緑地と幹線道路街路樹等の緑の軸の形成が位置付け
られているが、大手町地域に生み出された緑は、皇
居を中心とした東京都心部の緑の新たなネットワー
クを都心外延部に拡大している。
(図5)
写真5 皇居周辺地域からの緑ネットワークイメージ
図5 東京都市づくりビジョン
「センター・コア再生ゾーンの地域像」図に
大手町プロジェクトで創出した自然共生空間を明示
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