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つながり合って学ぶ授業を目指して

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つながり合って学ぶ授業を目指して
1
研究主題
つな がり合って 学ぶ授 業を目指 して
-国語科
2
文学的文章単元の実践から-
研究主題について
「教師としての信念を」
教員になって7年目、本校に異動となり、当時の研究主任に言われた一言である。
先輩教師から学び、よいと思ったことはどんどん取り入れることが当然だと考えて
い た 。 し か し 、 研 究 主 任 に 言 わ れ た 言 葉 が 忘 れ ら れ な い 。「( あ な た の 学 級 で は ) な ぜ
始業の挨拶をしているのか」尊敬する先輩に出会うたび、右往左往して一貫性がない
私の指導の様子を見抜いて言われたのだと思う。何も答えることができなかった。一
本の筋をもって、教師が当たり前のように行っていることの一つ一つの意味を、自分
で 捉 え 直 す 必 要 が あ る こ と を 教 え て く だ さ っ た の だ と 思 っ て い る 。「 教 師と し て の 信念
がもてるといいね」と教えてくださったその言葉を大切に、これから研鑽をしっかり
と積んでいこうという気持ちを強くすることができた。
本研究主題の設定に当たって、心に浮かべたことは、子どもたちの表情である。赴
任する前、本校の研究会に参加したときに一番感じたことは、子ども一人一人の表情
の柔らかさや豊かさであり、子ども同士の温かい関係であった。穏やかな調子で仲間
と会話し、素朴な疑問を語り、学ぶことが楽しくてたまらないという雰囲気に包まれ
ていた。子どもが子どもらしくいることを感じた。
本校の研究のテーマにも掲げられている「つながり合って」学ぶ授業とはどんな授
業なのかを子どもの姿から学びたい、丁寧に研究に取り組む中で、教師としての信念
がもてる自分になりたいと思い、本研究主題を設定した。
3
主題解明のための仮説
本 校 の 子 ど も の 姿 か ら 、「 つな が り 」と は 、 言 葉や 考 え だ け では な く 、心 の つ な がり
も 含 ん で い る こ と 、「 合 う 」 と は 、 能 動 的 な 相 互 の 関 わ り で あ る こ と 、「 学 ぶ 」 と は 、
教材の魅力を感じて追究したり味わったりする中で、新しい力を獲得したり考えを変
容させたりすることだと考えた。そのことを前提として、以下の二つの仮説を立てた。
これらの仮説に基づいて、国語科の実践を通して検証していく。
【仮説1】
グループでの学習を主体とした学びの場や聴き合う関係づくりなど、子
ど もと 子ど もを つ なぐ支 援 を行 うこ とによ り、子ど もは学 ぶこと を楽しん
だり考えを深めたりすることができる。
【仮説2】
単元構想や学習過程の工夫など、子どもと教材をつなぐ支援を行うこと
により、子どもは学ぶことを楽しんだり考えを深めたりすることができる。
-1-
4
研究内容
年度
学年
24
3
様子をそうぞうしながら読もう-ちいちゃんのかげおくり-
25
5
物語を味わいながら朗読しよう-大造じいさんとガン-
5
単元名
研究の実践と考察
⑴
実践事例1
◎
第3学年「 様 子 を そ う ぞ う し な がら 読 も う - ち い ち ゃ ん の か げ お く り - 」
単元構想にあたって
たっぷ りと物語 を読み 味わう 子どもの 姿を目 指して本単元を構成した。この物 語
を読み味わう ため には、空に映し出される情景や、登場 人物の言動、戦争の恐ろし
い光景など、場面の様子を具体的に思い描きながら読むことが大切であると考えた。
(補助資料1)以下、A児とB児の学びの姿から、本実践について考察する。
(補助資料1)
①
仲間の発言を共感的に受け止めるための支援
A児は 、明るく 活発な 男の子 で、仲間 の発言 をよく聴きながら学習に取り組む こ
と が で き る 。 一 方 で A 児 に は 、「 え 、 な ん で ? 」「 で も さ 、・・ ・ 」 と 反 論 す る よ う
な、大きな声が多いことが気になっていた。 以下の記録は、前単元「ようすや気
もちを思いうかべながら読もう-海をかっとばせ-」の授業記録である。
2012. 6.15
第二次 5 時 間目
授業記 録(抜粋)【二場面の聴 き合い】(補 助 資料 ⑥)
C児
大きな波って きっと学校ぐらい 大きいと思う。
D児
ぼくも、ワタ ルは「大あわてで 後ずさり」をし ているから、すごく 大きい波で驚い ていたと思う 。
E児
「海の中に歩 いていく」って、 不思議だなって 思って、この男の子 は幽霊じゃない かなって。
全
幽霊?
A児
違うよ「波の 子ども」だよ!ち ゃんと足あるし 。
F児
幽霊って足な いが?
T
Eさんは、海 の中に歩いていっ たから、幽霊か もしれないって思っ たんだよね。
A児
ぼく、幽霊見 たことあるよ。
A児の 大きな声 は、E 児にど う響いて いただ ろうか。E児が幽霊と感じた理由 、
A児が「波の 子ど も」と感じた理由がそれぞれ叙述にあ る。教師の課題は、そのこ
とに気付ける よう 支援できなかったことであり、学級の 課題は自分が発言すること
だけで満足し てし まっている数人の声が強く、共感的に 聴く雰囲気がないこと、そ
のために素朴 な疑 問や読みが出しにくい状況であること だと考えた。この時間もそ
の後、叙述か ら離 れた想像の話に流れていってしまった 。A児は真剣に話を聴いて
いるからこそ つぶ やきが出る。A児のがんばりを認めた うえで、つながりをつくる
支援の必要性を感じた。
・
グループで書き込みを行う(仮説1)
「 海を か っと ばせ 」の単 元では 、一人で 静かに 物語と 向き合い 、考え をノー ト
-2-
に書き込む時間をとりながら学習を進めた。しか
し、A児のように、自分の考えだけにこだわった
発言をしてしまうのは、一人で書き込むことにも
原因があるのではないかと考えた。また、たくさ
ん書くことばかりに目が向いてしっかりと読んで
いない子、何を書いてよいか分からず苦しんでい
る子等の様子から、物語と向き合う楽しい時間に
はできていないことを感じた。そこで本単元では、
机をグループの形態にして書き込みを行った。分
【A児の書き込みの様子(補助資料②
(補助資料②)
(補助資料②)】
からないことや気になったことはすぐにグループ
の仲間 に聴くと よいこ と、仲 間の問い かけに は優しく丁寧に応えることを指導 し
た 。 A 児 は 、 始 め は い つ も 通 り 黙 々 と 書 き 込 み を し て い た が 、 次 第 に 、「 そ ん な
に 書 い た の 、 す ご い 」「 何 書 い た の 」 と い う 会 話 か ら 、 グ ル ー プ の 仲 間 と 互 い の
読みを 聴き合う 姿が見 られた 。話題が ずれて いくこともあるが、A児は仲間の 多
様な読みを聴きながら書き込むことができていた。
・
音読を繰り返し行う(仮説2)
A 児の 否 定的 な発 言は、 言葉を 大切に読 んでい ないこ とにも原 因があ ると考 え
た。A 児の音読 は読み 間違い も多く、 言葉一 つ一つを丁寧に追って読んでいな い
ことが うかがえ た。そ こで、 音読を繰 り返し 行うことを心がけた。毎時間、一 人
一人が自分の速さで読む時間を設けた。想像を広げながら読もうとするときには、
誰かと声を合わせたりすらすらと読んだりすることは難しい。時間がかかっても、
最 後 ま で じ っ く り と 読 む よ う に 励 ま し た 。 ま た 、「 丸 読 み 」 や 「 ペ ア 読 み 」 も 取
り入れ た。一人 一文ず つリレ ーをしな がら読 む「丸読み」は、学級全員で物語 を
読める よさがあ る。そ こで、 丁寧に、 正しく 読むことを意識付けるようにした 。
隣の友 達と順に 一文ず つ読ん だり役割 分担を したりして読む「ペア読み」は、 逆
に自分のペースで読みづらい。そのため、普段はどうしても早口になってしまい、
言葉を 大切に読 めなか ったA 児にとっ ては、 相手のペースに合わせてゆっくり と
読める ことがよ かった 。さら に、自分 とは違 った読みを感じられるよさがある と
考え、友達の音読を聴くことも繰り返し行うようにした。(補助資料⑦)
・
教師が聴き方のモデルとなる(仮説1)
A 児の 聴 き方 は、 こんな 読みを 出させた いとい う教師 の聴き方 が移っ ている こ
とを痛 感した。 子ども の発言 を予想し 、発問 をどうするか、どうすればたくさ ん
-3-
の 子 ど も が 発 言 を つ な ぎ 、「 よ い 」 と 思 わ れ る 考 え が 出 て く る か と い う こ と ば か
りを考 えて授業 を行っ ていた 。しかし 、それ では予想外の子どもの声が聴けな く
なってしまう。また、子どもは教師の意図を察しようとしてしまう。
A 児が 仲 間の 考え を尊重 して聴 けるよう 、まず 教師自 身が無駄 な言葉 を省き 、
どんな 考えも大 切に受 け止め 、子ども の話を じっくりと聴くことを心がけた。 ま
た、誰 のどんな 考えに も必ず よさがあ ると信 じて聴くよう意識した。教師の発 問
ありき ではなく 、子ど もの感 じたこと 、考え たことを聴くことから授業を始め る
こ と に し た 。 A 児 の 否 定 的 な 発 言 も ま ず は 受 け 止 め 、「 ど こ か ら そ う 思 っ た の 」
と問い返すようにした。
これ ら の支 援を 心 がけ な がら 臨んだ授業の様子である。
2012. 9.19
第二次 3 時 間目
授業記 録(抜粋)【一場面の聴 き合い】
T
一場面を読ん で、どんなこと思 ったかな。
G児
記念写真って 書いてあるけど、 これは本当の記 念写真じゃない。
H児
かげおくりは 遊びで、写真では ないよ。
I児
遊びなんだけ ど、他のことにも 使えるというか ・・・、かげの写真 。
J児
家族みんなで 初めてかげおくり をした記念だか ら、かげでもちゃん とした写真だと 思う。
A児
お父さんは、 戦争にいかなけれ ばならないから 、記念写真なんだと 思う。
K児
「かげおくり できそうな空」っ てどんな空かな って思って。まぶし そうな感じかな 。
L児
M児
晴れの日しか できないから、青 い空と、太陽と かないかな。
太陽が高く昇 っていると思うよ 。
A児
J児
でもさ、カメ ラないよね。
写真はなくて も、心で覚えてい るのだと思う。
(中略)
A児の2回目の発言には、やはり「でも」という言葉があった。しかし、この「で
も」は仲間の 考え を否定しようとはしていない「でも」 であることを感じた。1回
目の発言から 、お 父さんが戦争に行くことで家族がバラ バラになってしまうこと、
家族にとって かげ おくりは特別な意味をもっていること をA児は理解している。書
き 込 み に も 同 様 の 意 味 の 言 葉 が 記 さ れ て い る 。( 本 稿 3 ペ ー ジ 「 A 児 書 き 込 み の 様
子」参照)で は、 なぜ2回目の発言がなされたのだろう か。K児の発言は、具体的
なイメージを 描こ うとしている発言である。K児の言葉 を聴いて、それまでA児の
中にはなかっ た映 像が描かれ出したのではないだろうか 。A児はK児の発言を受け
止 め 、 自 分 の 考 え と つ な ご う と し て い る の だ と 思 わ れ る 。 こ の と き の 「 で も さ 、」
は、以前のA 児の ような大声ではなく、自然なつぶやき であった。A児が仲間の考
えを共感的に 聴き ながら、考えを深めようとしているこ とが感じられた聴き合いの
場であった。 また 、教師が言葉を挟まなくても、子ども 同士で考えをつなげて聴き
合おうとしている場面であった。
このような A 児の変容から、上記の3つの支援は、子どもと子ども、子どもと
-4-
教材をつなぐ支援となることを実感することができた。
②
子どものつながりに気付くこと(視点1)
・
B児から教わったこと
前学年までの積み重ねもあり、B児は音読によ
る表現が得意で、音読に自信をもっていた。その
音読には、聴く人を惹き付けるような豊かさがあ
った。一方で、B児は、自分の考えをもったりそ
れを書いたりすることは得意ではない。前単元の
「海をかっとばせ」の学習では、自分の考えを書
くことはほとんどできなかった。また、相手の気
【B児の書き込みの様子(補助資料③
(補助資料③)
(補助資料③)】
持ちを察することが苦手で、人とのコミュニケー
ション がうまく とれな い。グ ループで の学習 にも、ほとんど参加できていなか っ
た。授業の中でB児を学級の仲間とつなげなければならないと考えていた。
A 児を 想 定し て行 った支 援は、 B児にも 効果的 であっ た。繰り 返し音 読を行 っ
たこと により、 B児は これま で以上に 丁寧に 音読し、自分の音読を聞いてもら い
たいと 挙手する など、 学習を 楽しんで いる様 子がうかがえた。グループでは、 発
言することはほとんどなかったが、B児の書き込みは以前より量がとても増えた。
グルー プの形態 で書き 込みを 行ったこ とによ り、周りの様子を見ながら書ける 安
心感が あったの ではな いかと 考える。 何より 、相手の気持ちを想像するのが苦 手
だと思 っていた B児が 、登場 人物の気 持ちを たくさん想像しながら書き込んで い
ること に、うれ しい気 持ちに なった。 がんば りを褒めると、B児もうれしそう に
していた。
し かし 、 B児 のが んばり は、仲 間には認 められ ていな かったよ うに思 う。授 業
中、私 は、B児 の音読 を聴く 周りの子 どもの 反応に、違和感を感じていた。B 児
の 音 読 に あ ま り 表 情 を 変 え な い の だ 。「 B さ ん の 音 読 を 聴 い て 感 じ た こ と あ っ
た?」 と聴いて も、あ まり反 応がない 。しか し、私は、それ以上その事実につ い
て考え ることを しなか った。 単元を振 り返っ たとき、それはB児と周囲の子ど も
の関係 ができて いなか ったこ とを表し ていた のだと後悔した。B児のように、 周
囲の子 どもと心 をつな ぐこと が苦手な 子ども にこそ支援の方法を考え、つなが り
合って 学べる授 業を目 指さな ければな らなか ったことを反省した。そのような 子
どもを 支えるた めには どうす ればよい か模索 しながら行ったのが、次に記す実 践
事例2である。
-5-
⑵
実践事例2
◎
第5学年「物語を味わいながら朗読しよう-大造じいさんとガン-」
単元構想にあたって
本教材は、大 造じ いさんの心情が浮き立つような行動描 写、緊迫した雰囲気の中で
生き生きと描かれるガンやハヤブサの姿、秋の空や日の光を中心とした自然描写によ
り、想像を掻き立てられ、まるでその場にいるような感動を味わえる作品である。子
どもたちにとっては、聞き慣れない言葉があったり、時代の違いから想像しにくい様
子があったりすると考えられるが、一つ一つの言葉を大切に読むことで、読むほどに
新たな味わいを感じられるよさがあると考えた。
本学級の子ど もた ちは、仲間同士の関係が柔らかい。男 女の区別なく、穏やかな表
情で関わることができる。しかし、聴き合いで常に聴き手に回ってしまう子ども、B
児と似て仲間との関わりに課題がある子どももいる。また、教材に対して夢中になる
ような姿は、なかなか見ることができないでいた。物語をたっぷりと読み味わう姿、
全 て の 子 ど も が つ な が り 合 っ て 学 ぶ 姿 を 目 指 し 、 本 単 元 を 構 想 し た 。( 補助 資 料 ④ )
①
全ての子どもを教材とつなぐための単元構想と声に出して読むこと(仮説2)
教材の特徴と 子ど もの実態から、朗読を言語活動の中心 に据え、単元の終末に朗読
会を行うことにした。単元の導入では、朗読会のことを子どもに伝え、学習の見通し
が も て る よ う に し た 。 読 み の 技 法 ば か り に 意 識 が 向 か な い よ う 、「 ま ず は 物 語 を 味 わ
おう。物語を味わって読めるようになると、すてきな朗読ができるようになるよ」と
投 げ か け た 。 ま た 、「 物 語 を 味 わ う 」 と は ど う い う こ と か 、 子 ど も の 考 え を 聴 き な が
ら 確 認 し た 。「 味 わ う 」 と は 、 食 べ 物 を 見 た り 香 り を 楽 し ん だ り し な が ら よ く 噛 ん で
楽しむこと、「物語を味わう」とは、五感を使って想像しながら読むこととした。「読
め ば 読 む ほ ど ( 噛 め ば 噛 む ほ ど ) 新 し い 楽 し み が あ る 」「 頭 に 映 像 を 浮 か べ な が ら 読
めるようになっていこう」と伝えた。
学習が進むに つれ 、多くの子どもの音読に表情を感じる ようになるとともに、みん
なの前で読みたいという子どもが増えてきた。繰り返し声に出して読むことは、子ど
もの自信につながることを感じた。
しかし、授業 の中 にどう音読を取り入れるかが大切であ ることを、単元を進める中
で学んだ。以下の2時間の授業記録をもとに振り返る。
2013.10.5
T
第二次 8 時間 目 授業記録(抜粋 )
【三場面の聴 き合い】
三場面を読んで、どう思ったかな。
a児
さいごの「ご」が「期」になっていて、何でかな
2013.10.10
b児
じかなって。(黒板に絵を描き始める) いくつかおり
って調べたら人生の終わりってあって、死ぬこと を
感じて・・努力ってあるんだけど、じ いさんはその
時の話をしているから、残雪の気持 ちが分かったの
-6-
第二次 10 時間 目 授業記録 (抜粋)
【四場面の 聴き合い】
昨日グループで話してて、この鳥小屋っ てどんな感
が並んでいて、その中の一つに残雪がいるのかなって。
T
どこからそう思ったの。そこ音読してみて。(b児
音読)
だと思う。
b児
残雪は自分の最期を感じているけど、頭領らしく
威厳を傷つけまいとがんばりを見せたのがすごい。
c児
T
みんなも読んでみようか。(全員音読)
i児
そんなに鳥を飼っていたのかな。
(b児の絵を見て)
j児
2年間飼っていたガンは外に出してやっ ていたか
最期の時から感じたことなんだけど、残雪は死ん
でしまうことを覚悟しているようなんだけど、大造
ら、そんなに広かったら出さなくてよかったと思う。
T
じいさんは撃たずに傷を治してまた戦 おうって言っ
ているから、残雪の気持ちを分かっ ているんだなっ
d児
やっぱり残雪は仲間思い。115 ページで、 ガンが
ハヤブサにやられているときも助けに行ったから。
e児
(中略)
k児
て思った。
私も似ていて、仲間思いだなって。相当ハ ヤブサ
T
l児
T
その文を読んでくれる。(k児音読)
あ、「小屋に入ると、羽をばたつかせながら飛び付
いてきました」だからやっぱりかなりの広さはある よ。
m児
( 中略)
f児
でも、3場面には、
「小屋に入ると」ってあるから、
じいさんが入れるぐらいの大きさはあるんじゃない。
は強敵なのに、自分よりも仲間が大切って 感じがす
る。
どこを読んでそう思ったの。そこ読んでみ て。(j
児音読)
3場面には、「小屋の中にもぐりこんで」ってある
か ら、もぐりこまないといけないのはかなり小さいと
「最期の時を感じて、せめて頭領とし ての~」の
思う。
ところで、残雪はこの沼地に集まる頭 領で、他にも
b児
その小屋は沼地の近くに建てたやつだよ。
ガンはいるから、もし残雪が死んだ ときに、頭領っ
T
mさんそこ読んでみて。(m児音読)
て言葉に泥を塗ったら、他 のガンたちに申し訳ない
b児
目立たせないようにわざと小さくしたんだよ。
と思って努力していると思った。
T
「もぐりこんで」ってどんな感じかな。
ここの場面の話をしてくれる人が多いね。ここも
n児
う 一回読んでみようか。どんな映像浮かぶかな。
(全
b児
員音読)どんな映像浮かんだ。
員音読)
こうやって机の下に「もぐりこむ 」。( も ぐ っ て 見
せる)
g児
ただの鳥ではないって思った。
T
どんな鳥が浮かんだのかな。
g児
勇気をもった鳥。
全
あー。
みんなはどうかな。グループで考えてみて。
T
T
その二つの文を読んでみて。(c児音読)
d児
jさんが言っていた小屋で運動っていうのは、・・
T
c児
辞書の例にふとんの中に「もぐりこむ」ってあるよ。
(グループでの聴き合い)
h児
残雪は怪我をしていたから、自分はもう逃げ
本能って自然の空気とか、・・・小屋で過ごしてたら
れた仲間のために努力していたんだけど、本当
危険とか分からないから、「一羽飛びおくれたのがい
は人間の方が強いし、じいさんは銃を持ってい
ます」ってあって、大造じいさんは子 どものように大
で も 、・ ・ ・ 我 慢 し て い た ん じ ゃ な く て 、・ ・
切にしていて・・・本能はやっぱりにぶっていた。
T
117 ペ ー ジ 「 頭 領 ら し い 堂 々 た る 態 度 」 っ て 書
い てあるから我慢し ていないと思う 。
g児
みんなの話を聴いていて、銃を持っていて怖
gさんの頭に浮かぶ残雪はどんな目をしてい
読んでみて。
(d児音読)
d児音読)残雪はどうだったろうね。
残雪は他のガンよりもすごいし一冬だけだし・・。
全
い 気持ちもあったけ ど怖くない気持 ちもあった。
T
みんなも読んでみよう。(全員音読)
られないと思って、今まで信じてついてきてく
る から逃げたいんだ けど我慢してい ると思った。
d児
小屋は「もぐりこむ」で、鳥小屋は「入る」ってあ
るから、鳥小屋の方が大きい。
全
n児
T
た かな。
「バシッ」って飛んでいるから・・・。
おとりのガンは本能がにぶってしまっていたから、
残雪はそうならないように気を付けていた。
みんなはど う思う。グルー プで考えてみて。
(グループで聴き合い)
g児
真剣な感じ。
o児
T
みんなはどんな残雪が浮かんだかな。もう一
回 そこ読んでみよう。( 全員音読)
にぶっていたのか分からないけど、「いつまでも、
いつま でも見守っていました」だから、心配してたの
だと思う。
いずれ の授業で も、声 に出し て読むこ とを大 切にしていたが、より言葉に立ち 止
まって読むことができているのは、四場面での聴き合いであると考える。
三場面 の聴き合 いでは 、教師 は余計な 言葉を 挟まず、しっかりと聴こうという 意
識で授業に臨 んだ 。つなげて話そうとする子どもがいる のに、あえて教師が口を挟
むことは、子 ども 同士のつながりを切ることになると考 えていたためである。しか
し、子どもた ちの 発言は、互いの感想でつながったり曖 昧な言葉でつながったりし
ており、その つな がりが理解し難い。f児の発言に「努 力している」とあるが、本
-7-
文の「努力し てい るようでもありました」と「努力して いる」は意味が異なる。子
どもの考えを 大切 にしているつもりが、逆に子ども同士 のつながりを分かりにくく
したり、一つ一つの言葉を丁寧に読めなくさせてしまったりしていることを感じた。
特に、子ども の言 葉がどの叙述を基にしているのかを丁 寧に確認することで、子ど
も同士がもっ とつ ながり、一人一人が考えを深めるきっ かけにすることができたの
ではないかと考える。
そこで 、四場面 の聴き 合いで は、叙述 のどこ から考えたのかを問い返し、さら に
音読を促すよ うに した。そうすることにより、子どもの 考えと叙述とのつながりが
分かりやすく なる とともに、言葉により立ち止まって考 えることができると考えた
からである。授業記録から、子どもが言葉に目を向け始めていることがうかがえる。
さらに、子ど もた ちの表情に発見や気付きの喜びが感じ られた。聴き合いの中で何
度も声に出して読むことが、改めて叙述に戻る機会になったのではないかと考える。
このよ うな子ど もたち の姿か ら、音読 を意識 した単元構想の工夫や、音読を聴 き
合いの中で繰 り返 し行うことは、全ての子どもを教材と つなぐために必要な支援で
あったと考える。
②
音読から子どもと教材のつながりを把握する(仮説2)
物語を 読み味わ うとい うねら いから、 学習中は いつも、子どもたちの読む表情、
読む速さ、読 む声 の感じに気を配るようにした。また、 授業 の最初と最後に一人一
人が声に出して読む時間を設け、その変容を見ることを意識した。
・
自分の思いと授業の流れのずれが、音読に表れたp児
p 児 は本 単 元 の学 習 に 意欲 的で 、物 語の 様子 を よく描 き なが ら読 んで いた 。し
かし、 三場面を 読んで 思った ことを聴 き合った ときには、音読が速く、集中して
読めて いない印 象があ った。 授業の最 後の音読 でも、やはり読み方が雑になって
いることを感じ、「p さん、今日勉強してどんなこと思った」と問いかけると、そ
の時 間で 話 題にな っ たこと と 違う 場面 が気 になって いたこ とを話 した。p 児の思
いに応 えられな い授業 であっ たことを 反省する とともに、次時の授業構想に生か
すことができた。
・ 聴くことから、読みを変容させ音読に変化が現れたq児
q 児 は、 い つ も丁 寧 に 音読 し て おり 、 周 りの 子 ど も が先 に 読 み終 えて いて も、
最後までしっかりと読もうとする。二場面の聴き合いでは、q 児の音読を聴いて、
想 像 を 広 げ る こ と か ら 学 習 を 始 め た 。 q 児 は 「 ぐ っ と 」「 じ っ と 」 等 の 言 葉 に 力
を込めながら丁寧に音読した。授業では、
「『ううん。』とうなってしまいました」
-8-
の「う なる」と いう言 葉やそ の時の大 造じい さんの表情が話題となり、最後に 一
人一人 、読み描 きなが ら読む 時間を設 けた。 q 児は 「『う うん。』の後に間を空け
て読 ん だ。 q 児 にそ のこ とを 尋ね ると 、大 造じ い さん は困 って いる 感じ がし たと
話していた。
このよ うに、音 読には 、その 子どもの 読みや イメージが表れることを改めて感 じ
た。その形に 残ら ない僅かな変化を見逃さないようにす ること、その変化を子ども
自身が気付け るよ うにすることが、一人一人の学びを捉 えるために大切であること
を学んだ。
③
全ての子どもが主体的に学ぶ機会となるグループでの聴き合いの場(仮説1)
全ての 子どもが 仲間の 疑問や 考えに寄 り添う ことができるよう、また、じっく り
と考えられる よう 、毎時間グループで互いの読みを聴き 合う場を設けた。四場面で
子どもの疑問 から 聴き合いが始まったのは、前時にグル ープで聴き合っていたとこ
ろが気になったからであると考えられる。
・
グループでの聴き合いから言葉に立ち止まり、イメージを確かにしたr児
r児は、全体の場であまり積極的に発言すること
はないが、物語を味わおうと丁寧に読む子どもであ
る。一場面についてグループで聴き合ったときには、
s 児が「ばらまくってこんな感じだよね」と放り投
げるような身振りを付けながら、r児に問いかけて
い る 様 子 が 見 ら れ た 。 そ こ で 、 r 児と s 児の 関 わ り
合 い を 全 体 に 広 げ 、「 も っ と た く さ ん の つ り ば り を
【聴き合い後のr児の「ばらまく」イメ
】
ージ(補助資料⑤
(補助資料⑤)
(補助資料⑤)
ば ら ま い て おき ま し た 」の 「 ば ら まく 」 の イ メー ジ
を 問 い か け た。 す る と 、放 り 投 げ るよ う な 「 ばら ま
く 」 で は 、 くい と た た み糸 が つ な がら な い 、 あち こ
今 日は これ まで 読んだ中 で一番想
像 で き た と 思 い ま す 。( 中 略 ) そ し
て、 最後 の「 ばら まく」っ て?とい
う疑問も面白かったです。
【1場面の聴き合い後、r 児の感想(補助
(補助
資料⑤】
資料⑤
ち に 点 在 さ せる 「 ば ら まく 」 で は ない か と い う考 え
が出て きた。そ こから 、大造 じいさん は沼地 に直接足を入れて、一つ一つのつ り
ばりを 時間をか けて「 ばらま いた」と いうイ メージがr児に浮かび上がってき た
ようで ある。聴 き合い 後の感 想からも 、r児 は、言葉の捉え方一つで浮かぶ映 像
が変わ る面白さ に目を 向け始 めたこと がうか がえる。次に記したのは、二場面 で
のr児のグループの聴き合いの様子である。(補助資料⑧)
2013.9.30
r児
第二次 6 時間目
2013.9.30
グル ープ1回目
五俵ってさ・・・前読んだときに思ったんだけ
ど、「俵」を調べたら米などを入れる袋ってあっ
-9-
r児
第二次 6 時間目
グループ 2回目
夏のうちからって・・残雪が来てから一羽も捕れな
くなったのだから、それぐらいするよね。
て。 どれぐらいの大きさかなって。スーパーで売
s児
タニシって今あんまり見ない。地道な作業だと思う。
っているの5個分ぐらいかな。
t児
タニシ結構小さいよ。
r児
タニシがよくいる場所あるのかな。五俵ってどれぐ
s児
でも昔だから・・・。
r児
どれぐらいの大きさかな。
(身振りをしながら)
t児
タニシの大きさはこれぐらいで(大きさを手で
表しながら)五 俵・・1メートルぐらいかな。
らいなのかな。
s児
夏って暑いじゃん。でもがんばってた。
r児
理科で勉強したけど、暑い時期の方が虫とか多いし。
今度はr児が五俵という言葉に立ち止まって考え
ようとしていることが分かる。次の時間、俵の実物
を見せたときの感想は右のようであった。言葉から
まず始めに、初めて一俵という
重さが分かって重いなあと思いま
した。(中略)大造じいさんはどう
してこんなにも力があるのだろう。
【2場面の聴き合い後、r 児の感想(補
(補
助資料⑤】
助資料⑤
イメージを広げ、大造じいさんのガンを捕まえたい
思いの 強さを感 じるこ とがで きたので はない だろうか。r児はグループでの聴 き
合いに より、自 分の疑 問をも って主体 的に学 習に参加し、イメージを確かなも の
にすることがことができたと考える。
このように、グループでの聴き合いの場は、どの子どもも主体的に参加しやすく、
子ども一人一 人の 読み味わいに効果的であったと考える 。グループでの聴き合いの
場が、全ての子どもをつなぐ機会となることを感じた。(補助資料⑨)
6
研究のまとめ
⑴
解明されたこと
【仮説1】について
○
仲間の考えを共感的に聴く雰囲気が、子ども同士のつながりをつくり、一人一人
の学ぶ意欲の 向上 や読みの深まりにつながる。教師は、 どの子どもの発言も同じよ
うに価値があ ると 考え、子どもの考えを聴くことを大切 にしなければならない。教
師の聴き方が子どもの聴き方のモデルとなる。
○
グループでの学びは子ども同士のつながりをつくる支援となる。書き込みをグル
ープで行うこ とに より、子どもは周りの様子を見たり仲 間の考えを聴いたりしなが
ら書くことが でき る。それは、自分の考えだけにこだわ らない共感的な聴き方や、
書くことが苦 手な 子どもにとっての安心感につながる。 また、グループでの聴き合
いの場は、素 朴な 疑問や考えを語ったり聴いたりしやす いため、全体の場では発言
することが苦手な子どもも主体的に学ぶ機会となり、物語の読み味わいにつながる。
【仮説2】について
○
音読は、子どもと教材をつなぐ支援となる。繰り返し多様な方法で音読をするこ
とにより、子 ども は、言葉を大切に、丁寧に読むことが できるようになる。また、
聴き合いの中 で何 度も細かく音読することにより、子ど もの考えと叙述のつながり
が分かりやす くな り、子どもは一層叙述を意識して読む ことができるようになる。
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さらに、音読 には 子どもの考えや教材とのつながり具合 が表れるため、子どもの音
読の様子を注意深く見守ることで、必要な支援を考えることができる。
○
単元構想を工夫することは、子どもと教材をつなぐ支援となる。読むことを大切
にした単元を 構想 することにより、子どもは見通しをも って音読に意欲的に取り組
むことができる。
⑵
今後の課題
●
子どもを見る力、聴く力が足りないことを痛感している。先輩教師には見えてい
る事実が、自 分に はまるで見えていない。子どもと子ど ものつながり、子どもと教
材のつながり 、一 人一人の学びがどこにあったかが見え るようになることが、子ど
もをどう支援 すれ ばよいか考える力になると考える。日 々の授業や研修に丁寧に取
り組み、子どもを見る力、子どもの声を聴く力を身に付けたい。
7
終わりに
つながりの中で学習に意欲的に取り組むことができたg児(補助資料⑩)
実践事例2の授業記録に出てくるg児は、素直で心の優しい子どもである。g児は
人よりも行動が遅れ、授業に集中できないことが多い。しかし、日頃から丁寧に音読
の練習をしていることもあり、国語の時間には張り切って発言することも増えていた。
第2次8時間目、三場面を読んで思ったことを話し合っていたときには、g児は集
中できず、ぼんやりとしていた。そんなとき、隣に座っていた u 児は、何も言わずにそ
っ と g 児 の 肩 を 叩 い た 。 g 児 の 発 言 は 、 そ の 後 か ら な さ れ た 。( 本 稿 7 ペー ジ 「 授 業記
録 」) u 児 の ち ょ っ と し た 関 わ り が g 児 を 授 業 に 戻 し た 瞬 間 で あ っ た こ と を 感 じ 、 う れ
しい気持ちになった。g児はその後も合わせて3回も挙手して発言した。
実践事例1のB児を仲間とつなぐことができなかったのは、B児の周りの子どもへ
の支援が足りなかったこ とを感じた。u 児は、 学力の 高い子どもだが、決してそのこ と
を鼻にかけない。どちらかというと、控えめな方である。子どもたちには、分からな
い と き に は 自 分 か ら 「 ど う 思 う 」「 教 え て 」 と 言 え ば よ い こ と 、 聞 か れ たと き に は 教え
て あ げ る の で は な く 、 教 え る 中 で 自 分 も 学 ぶ こ と が あ る と 思 う こ と 、「 自分 は こ う 思う
けど、どう?」と一緒に考えることが大切だと子どもたちに話してきた。普段の u 児の
姿から、u 児 はg児から学ぶことがあると考え て、g 児の話を聴きたくて肩を叩いた よ
うな気がしてならない。 u 児のような関わりが 自然と できる学級なら、全ての子ども が
つながり合い、学びに夢中になるような授業ができると考える。子どもの姿を見て、
子どもの姿に学ぶことを大切にしながら、これからも研鑽を積んでいきたい。
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