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JETRO月刊フィリピンIT事情 No.7: セブ特集

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JETRO月刊フィリピンIT事情 No.7: セブ特集
JETRO 月刊フィリピン IT 事情
No.7 (2005 年 4 月 1 日)
JETRO月刊フィリピンIT事情
No.7: セブ特集
はじめに
フィリピンの首都マニラから 600Kmほど南にあるセブ島
は、地理的にフィリピンのほぼ中心に位置しているほか、
国際貿易港・国際空港を完備しており、フィリピン国
内外の海運業の基地として、またビサヤ地方・ミン
ダナオ地方など、中部・南部フィリピンへの空の玄
関口として重要な役割を果たしている。セブ州の州
都セブ市は、フィリピン第2の大都市である。セブ
投 資 促 進 セ ン タ ー (Cebu Investment Promotion
Center: CIPC(www.cebuinvest.com))によると、300 社
ほどの外資系企業がセブに直接投資しているが、そのう
ち半分以上は日系企業とのことである。また、日本はセ
ブからの最大の輸出先でもあり、セブの経済発展におい
図 1:日本、フィリピン、セブの位置関係
て日系企業の果たす役割は大きいといえよう。美しい珊瑚礁などの豊かな観光資源に恵まれたセブは、日本人にと
ってはむしろダイビングリゾートとして馴染みの深い地名かもしれないが、近年セブでは観光と並んで情報通
信(Information and Communication Technology: ICT)産業の振興に非常に力を入れている。その一環として、セ
ブ商工会議所は 2005 年 6 月 22 日から 24 日にかけてセブ市のウォーターフロントホテルを会場に「セブ
ICT2005」というイベントを開催する。(www.cebuict2005.com:セブを紹介する動画なども用意されている。)
ア
セアン域内における情報通信産業の中心拠点としてのセブというブランドを世界に向けて発信することを目指
しており、イベント期間中の展示や各種会議にはセブのIT企業だけでなく世界各国からの参加が予定されている。
今回は、2005 年 3 月中旬に実施したセブでの現地取材で得られた情報を中心に、セブ特集として報告する。
セブ地区の IT サービス産業の概要
外資計企業の進出状況
セブの IT サービス産業の中核を形成しているのは、比
業界規模の推定
セブの IT サービス産業は、まだ規模も小さく歴史も浅
較的少数の外資系企業である。セブを拠点にオフショア
いため、IT サービス分野単独での売上や輸出統計などは
サービスを提供している主な IT 企業(表 1 参照、出所:
正確には把握されていないようだ。雇用人数の面からの
CIPC)は、米系と日系がそのほとんどを占めている。日
規模の推定としては、Cebu Educational Foundation for
系では、本報告書 No.4 で紹介したアドテックスシステ
Information Technology (Cedf-IT:詳細後述)が 2004 年に
ムズやエヌパックスのほか、NEC テレコムソフトウェア、
実施した調査の結果が参考になる。同調査によると、セ
エプソンソフトウェア開発センターなどのソフトウェ
ブ地区における IT サービス産業全体としての 2003 年時
ア開発サービス企業や、ダッシュエンジニアリング(三
点での雇用数は約 9,800 人程である。内訳は、ソフトウ
井造船の子会社)、常石テクニカルサービス(常石造船
ェア開発技術者 1,000 人、エンジニアリングデザイン要
の子会社)といった エンジニアリングデザイン企業、
員 800 人、コールセンターなどを含むその他の IT サー
マルチメディアコンテンツ開発のブーム!! インタラク
ビス要員 8,000 人となっている。
ティブなどがセブを拠点とした事業を行っている。
P1
JETRO 月刊フィリピン IT 事情
No.7 (2005 年 4 月 1 日)
表 1: セブの主要な輸出指向 IT 企業
いるところがほとんどである。2004 年にドイツからの
資金援助で実施されたセブの IT 業界調査によると、セブ
にはフィリピン資本のソフトウェア開発企業が約 25 社
ある。このうち、16 社は、2004 年 6 月に発足したセブ
ソ フ ト ウ ェ ア 開 発 産 業 協 会 (Cebu Software
Development Industry Association, Inc.) の会員企業で
ある。同協会の理念は、グローバルな競争力を持ち、か
つ国際的にも認知されるソフトウェア開発産業を、セブ
を拠点として振興させようというものである。初代の会
長を務めるマイク・フラド(Mike Jurado)氏(プライ
マリーソフトウェア社長)によると、セブのソフトウェ
このほか、2004 年後半から今年にかけて米系を中心
ア企業は競合他社に対するライバル意識が非常に強く、
としたコールセンターのセブへの進出も目立ってきて
以前は業界内での情報交換や交流はほとんどなかった
いる。コールセンターは、既に 14 社がセブに進出して
という。同協会の設立によって、業界内でのコミュニケ
おり、そのほかにも 8 社程度がセブを候補地として評価
ーション活発になったことは、セブのソフトウェア開発
しているという。
業界にとって画期的なことだそうだ。また、同協会発足
の背景には、フリーランスプログラマーによる低品質の
セブ基本データ
ソフト開発や、無責任なプロジェクト放棄などの多発に
よって、地元のユーザー企業側からソフトウェア開発業
人口:約 350 万人
面積:5,000 平方キロメートル
言語:公用語は英語とフィリピノ語だが、セブでは
フィリピノ語よりもセブアノ語が主流。
通貨:フィリピンペソ(Php.)
(2005 年 3 月現在 1 ペソ=約 1.92 円)
気候:年間を通して摂氏 23∼33 度の亜熱帯性気候。
年間降雨量 2,000mm前後で、台風による影響はフ
ィリピンの他地区と比較すると少ない。
輸出: 34 億ドル(2003 年実績)
主要輸出先:日本(17%), 米国(13%), 香港(6%)
主要輸出品:電子製品 (35%), 電気機器(20%), その
他産業製品(19%), 家具(10%)
2004 年輸出企業上位 5 社:
1. Cebu Mitsumi, Inc.
2. Pentax Cebu Phils., Inc.
3. Lexmark International
4. Tsuneishi Heavy Industries (Cebu) Inc.
5. Teradyne Phils., Ltd.
界全体に対する批判的な観方が広がりかねないという
危機感もあったという。こうした問題には、各企業個別
での対策には限界があり、業界団体として取り組もうと
いう意図である。
現時点では、同協会会員企業は自社開発のソフトウェ
ア製品販売や、自社製品を核とした SI 事業を柱として
いる企業が大半で、ソフトウェアの受託開発サービス事
業提供社は少数派のようである。また、規模的にも数十
人の企業がほとんどで、大規模プロジェクトの受託開発
は現実的に不可能である。ただ、自社開発のビジネスア
プリケーションパッケージを持つ企業が多いだけに、業
務知識の蓄積という面ではある程度のレベルに達して
いると感じた。同協会では原則的にフィリピン資本でセ
ブを拠点とするソフトウェア開発企業のみに入会資格
フィリピン資本のソフトウェア開発企業
を認めているが、将来的には外資系企業の入会も視野に
ソフトウェア開発分野では、外資系企業が主にオフシ
ョア開発など輸出指向型の事業を展開している一方で、
セブの現地系企業は国内市場向けの事業を中心として
P2
入れているという。
JETRO 月刊フィリピン IT 事情
No.7 (2005 年 4 月 1 日)
IT サービスのオフショア先としてのセブの魅力
セブへの投資メリット
2002 年、
(財)海外貿易開発協会 (Japan Overseas
Development Corporation:
JODC)は、セブ投資促進セ
ンター(CIPC)の要請を受け、セブ大都市圏の地場産業と
日本企業・日系企業相互の産業振興のための調査を実施
CIPC マネージングディレクターのユー(Joel Mari S. Yu)氏
(中央)、センターマネージャーのバルケス(Roberto A.
Varquez)氏(右)、センターマネージャー補のグマラオ
(Alberto T. Gumarao)氏(左)
し、アクションプランを作成した。このプロジェクトの
報告書では、セブに進出している日系企業へのヒアリン
グ調査の結果、セブへの投資メリットとして以下を挙げ
ている。
日本からのアクセス・生活環境
(1) 日本及び東南アジア各国との近接性
セブ国際空港は、セブ本島からマンダウエ・マクタン
(2) 人材関連のメリット
大橋を渡ったマクタン島のラプラプ市にある。日本から
(ア) 比の他地区と比較して少ない労働争議
セブへの直行便は、フィリピン航空が東京-セブ直行便を
(イ) 器用な労働者
週 6 便運行しており、飛行時間は 4 時間程度である。マ
(ウ) 優秀な学生・エンジニア
ニラ経由の場合は、日本航空が東京-マニラを毎日2便、
(エ) CAD/CG 等のデザイン能力の高さ
名古屋-マニラを週4便、フィリピン航空は成田-マニラ
(オ) マニラや中国の大都市と比較して相対的に低
週 7 便、関空-マニラ週 5 便、福岡-マニラ週 6 便(うち
い賃金(特に IT 技術者)
週 4 便は往路または復路に那覇経由)を運航しているほ
(3) 主要インフラ(空港・港湾・電力・上下水道)整備
か、ノースウェスト航空やタイ航空なども利用できる。
(4) 日本企業の集積による相互の情報交流、ビジネス交
マニラで乗り継ぐ場合、マニラ-セブ間は航空会社 3 社が
流の期待
合計で毎日 21 便運行しており、飛行時間は約1時間で
(5) 豊かな自然とクオリティー・オブ・ライフ
ある。
(6) 外国人にとっての治安の良さ
生活環境に関しては、マニラと比較して交通渋滞や大気
また、今回のセブ現地取材では、「マニラよりも英語
能力が高い」や「日本人とフィリピン人は親和性が高い」
汚染が少ないこと、車で 30 分∼1 時間の圏内に数多くの
ビーチリゾートやゴルフ場(7コース)、カジノ付ホテ
といった日系企業幹部の声も聞かれた。
ルがあるなど、職・住・レジャー・リゾートが近接して
いることなどがセブのメリットといえる。また、マニラ
表 2:セブの IT 関連人材の月額給与
職種
やダバオなど他の大都市と比べてセブは治安が良いと
月額給与
(米ドル)
いう点も、駐在員の安全に神経を使う外資系企業へのア
ソフトウェア技術者 新卒
250 - 280
ソフトウェア技術者 3 年程度の経験者
320 - 450
ネットワーク技術者・管理者
400 - 600
住居の賃貸料1などはマニラより 20%∼50%安いなど、
コンピューター技術者
200 - 250
生活費の面でもコストが抑えられる。セブを訪れる外国
グラフィックデザイナー
250 - 400
人は日本人が最も多く年間 8 万人に上ることから、居酒
コールセンター要員
210 - 250
ピールのポイントとなっている。さらに、食料品価格や
出所:セブ投資促進センター(CIPC)
1
CIPCによると、コンドミニアムの賃貸料は月額US$450
∼US$625、一軒家タイプのエクゼクティブハウスで月額
US$570∼US$1,035 程度
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JETRO 月刊フィリピン IT 事情
No.7 (2005 年 4 月 1 日)
屋風から料亭風まで日本料理レストランも多く、味も良
通信インフラ事情とそのコスト
いとの事である。今回、セブ特集の取材に協力していた
ブロードバンドインターネット:セブの都市部や工業団
だいた日系企業の日本人幹部の方々からも、セブの日本
地やITパークなどでは、通信最大手のPLDTをはじめ、
料理の味には概ね合格点が出されていたようだ。
グローブテレコム、バヤンテル、フィルコム、メリディ
アンなど 5 社が光ファイバーやDSLなどによるブロード
バンドサービスを提供している。参考までに、PLDTの
アジアタウンITパーク (www.asiatownitpark.com)
マクタン島のセブ国際空港から車で 20 分、ウォータ
ADLSサービス料金を下表に示す。
ーフロントホテルの正面に、フィリピン経済区丁(PEZA)
表 3:PLDT 社の ADSL サービス料金体系
スピード (Kbps)
パッケージ商品
ダウンス
アップス
保証
トリーム
トリーム
スピード
認定のアジアタウンITパークがある。このITパークへの
入居企業へは、一定期間の法人税免除をはじめとした
PEZA認定企業向けの各種優遇措置が受けられる。2
Small Biz Lite
同 IT パークのウェブサイトは日本語版も用意してあ
り、現地の仮想ツアー体験や全体風景などが確認できる
ので、興味のある方は是非ご覧になっていただきたい。
アジアタウンITパーク基本データ
月額
料金
(ペソ)
512
256
32
4,000
Small Biz Jr.
Small Biz Sr.
Power Packed 1.5
MB
Power Packed 2 MB
768
1,024
384
512
64
128
8,000
14,500
1,536
640
196
25,000
2,048
640
256
46,000
Power Packed 3 MB
3,008
640
384
80,000
出所:PLDT 社
場所:セブ州セブ市ラフグ地区
面積:24 ヘクタール
開発:Cebu Property Ventures and Development Corp.
所有:Cebu Holdings, Inc.(アヤラ財閥系)
オフィス賃貸料:1平米当たり 1 ヶ月 375 ペソ3
主な入居企業:
• NEC テレコムソフトウェア(ソフトウェア開発)
• エプソンソフトウェア開発センター(ソフトウェア
開発)
• 常石テクニカルサービス(エンジニアリングデザイ
ン)
• NCR(POS システム開発)
• ピープルサポート(コールセンター)
• グローブテレコム(通信)
通信設備:
• マルチサーバーダクトラインと光ファイバーを備えた地
下敷設通信システム
• 高速 ATM バックボーン
• DSL
• 高速デジタル専用回線(国内・国際)
• ブロードバンドスイッチング(64 kbps から 8 Mbps)
• 超高速ネットワーク用 サテライト テレポート
WiFiホットスポット:ワイヤレスホットスポットプロバ
イダー大手のAirborne Access社は、2005 年 3 月現在フ
ィリピン全国で 89 ヶ所のWiFiホットスポットを設置し
ているが、そのうち 6 箇所はセブ地区にある。(セブ空
港内のカフェなど)その他、主要なホテルやショッピン
グモールなどでもホットスポットを利用できる。ちなみ
に、Airborne Access社の定額サービスは 12 ヶ月契約で
約 16,000 円 (月額換算 1,333 円程度)である。
また、
2005 年 3 月、PLDT社は、ノートPCのPCMCIAスロットに携
帯電話用SIMカードを搭載し、同社系列の携帯電話サービ
ス SMART 社 の ネ ッ ト ワ ー ク を 利 用 し て 、 GPRS 4 ま た は
EDGE5 によるインターネットアクセスを可能にするサービス
を発表した。
4
2優遇措置の概要については、本報告書シリーズNo.
GPRS: General Packet Radio Services. GSM方式の携帯
電話ネットワークを使ったデータ伝送技術。第 2.5 世代と
呼ばれる技術の一つである。
5 EDGE: Enhanced Data GSM Environment. GPRSの後継
技術に当たる。 第 3 世代技術の一つとして扱われている。
3 を、
更に詳細な内容はJETROマニラセンターウェブサイトの
「フィリピンの外資政策」資料(日本語)を参照願いたい。
http://www.jetro.go.jp/philippines/
3 1 ペソは約 1.92 円(2005 年 3 月)
P4
JETRO 月刊フィリピン IT 事情
No.7 (2005 年 4 月 1 日)
携帯電話:フィリピンの携帯電話はGSM/GPRS方式である。
表 5:セブの大学からの IT 関連学科卒業生数の推移
セブの携帯電話事情はマニラとほとんど変わりない。携帯
電話機はNokia, Sony-Erricson, Motorola, Panasonic,
Samsungなどをはじめ、15 社前後のベンダーの機種が市
場に出ている。携帯電話機の価格は、日本円にして 6,000
出所:Cedf-IT
円前後から 80,000 円前後まであるが、月額の契約金額が
(2004 年資料。18 大学からの回答結果)
高額なパッケージになると、携帯電話機そのものは無料に
なるという商品が販売されている。通話料金に関しては、参
セブIT教育開発財団(Cebu Educational Development
考までに、同社スマートゴールドパッケージの料金体系を下
Foundation for Information Technology : Cedf-IT)
Cedf-IT は、
「東南アジアにおけるソフトウェア開発と
表に示す。
IT サービス拠点としてのセブ」を実現するため、産官学
表 4:スマートゴールドパッケージの料金体系 (ペソ)
月額契約金額
P800
P1200
P1800
P2500
P3500
無料 SMS 数
350
350
450
550
650
無料通話時間(分)
100
210
350
500
750
P5.50
P5.00
P4.50
P4.00
P3.50
P7.00
P6.50
P6.00
P5.50
P4.50
P1.00
P0.50
P0.50
P0.50
P0.50
1 分当たり通話料金
(スマート番号)
1 分当たり通話料金
(他社番号)
超過 SMS 料金
1 分当たり通話料金
国際電話
と NGO の協調のもとに人材育成面(特に大学レベル)
での対策を講じていくことを目的とした非営利組織で
ある。我々が取材に訪れた 3 月半ばは、Cedf-IT エグセ
クティブディレクターのベレン(Bonifacio D. Belen)氏は、
会員の代表とともにインドのバンガロールとハイデラ
バードへ視
察出張中の
$0.40 均一
ため会えな
出所:スマート社
かったが、
プログラム
セブでのIT人材事情
コーディネ
セブには、総合大学が 8 校、単科大学が 30 校あり、
ーターの フェルナンデス(Romil Jose R. Fernandez) 氏
毎年 20,000 人前後の大卒者が出ている。総合大学 8 校
(写真左)、セブ技術科学大学(College of Technological
では全て IT 関連の学科が開設されており、セブ地区の大
Science Science-Cebu)学長のビゴーニア(Jose Mari T.
学でコンピューターサイエンス、コンピューターエンジ
Bigornia)氏(写真右)が取材に対応してくれた。
ニアリング、情報技術(IT)などを専攻して卒業生する学
生の数は、年間1,500 名から 2,200 名程度である。
(2004
Cedf-ITの主要活動分野は 6 つある6が、その中心とな
年 Cedf-IT 調査、表 5 参照) また、シスコ、マイクロ
るのが IT Teachers Academy と呼ばれるIT講師のレベ
ソフト、オラクルなどのベンダーも研修センターを開設
ル向上プログラムおよび、IT資格の標準化と資格試験プ
している。Cedf-IT によると、2,200 名の IT 関連学科卒
ログラムである。
業生のうち、専攻分野を活かした仕事ができる職につけ
IT Teachers Academyは、大学のIT
関連コースで教鞭をとる講師を対象とした 2 年間の研修
ているのは、100∼300 名程度であるという。セブに限
プログラムである。研修は週末(土・日)に開講され、
らず、フィリピンの IT 教育全体にいえることだが、卒業
この研修で取得した単位の一部は、セブの 3 つの大学が
生のスキルと業界ニーズの間のギャップが大きな課題
修士課程の単位として認定している。今年、第1期生 19
となっている。こうした課題に対する取組として 2001
人が卒業する予定である。
IT資格の標準化と資格試験
年に発足したのがセブ IT 教育開発財団(Cedf-IT)である。
次に、この財団について簡単に紹介する。
6
P5
http://www.cedfit.org/activities.html 参照
JETRO 月刊フィリピン IT 事情
No.7 (2005 年 4 月 1 日)
マニラ首都圏のアラバンに本社を置き、同マカティ市
プログラムでは、C/C++, JAVA, Visual Basic, CADオペ
レーター、ネットワーク技術者の5つを重要資格とし
にも支社を構える同社は、2003 年 4 月に自社研修セン
てスキル標準を策定し、それぞれに対応する資格認定
ターを設立した。マカティ支社内にあるこの研修センタ
試験実施している。さらに最近は、ソフトウェアプロ
ーでは、新卒採用者を中心に、日本の情報処理技術者試
ジェクト管理能力に対する業界ニーズの高まりを受
験の基本情報技術者レベルに相当する IT 分野の基礎技
け、Cedf-IT, フィリピンコンピューターソサエティ、
術・知識の教育 に始まり、UML、XML、Java、J2EE
プロジェクトマネジメントインスティテュート(PMI)
などを含むソフトウェア開発に関わる最新技術、プレゼ
フィリピン支部が共同でソフトウェアプロジェクト
ンテーション技術やテクニカルライティング等のビジ
管理資格標準と能力評価試験を開発することで合意
ネススキル、更に日本人講師による日本語教育を正式採
した。日本の情報処理技術者試験との相互認定が確立
用前の 5 ヶ月間集中研修方式で実施している。マカティ
7
されている比のIT全国標準試験PhilNITS との提携や
で大きな成果を上げたこの研修センターを、2005 年 5
協力関係について質問したところ、現時点では具体的
月からはセブでも開設することになっている。第 1 期生
な提携関係はないが、将来的に検討したいという回答
は 17 人前後を予定しており、セブをはじめ、ビサヤ地
であった。
方、ミンダナオ地方など、フィリピン中部・南部の主要
大学で採用活動し、700 名前後の応募者の中から最終的
に 19 名が合格したそうだ。なお、同社の研修センター
現在、民間企業 17 社、大学及びその他教育機関 27 校
では、日系他社の新人教育サービスにも対応している。
と 11 の政府関連機関が Cedf-IT の会員となっている。今
回の取材中、会員企業や CIPC からは Cedf-IT の設立以
来 3 年間の活動を高く評価する声を多く聞いた。今後も、
同社は、
セブでの IT 人材育成においては、同財団が中心的な役割
2004 年 か
を果たしていくものと思われ、セブの IT 産業の将来にと
ら Cedf-IT
って非常に重要な組織であるといえる。
の活動に参
画している。
セブの IT 企業紹介
アドテックスシステムズ
セブの統括
セブ
マネージャーであるチェ(Jonathan F. Tse)氏(写真左)
(ADTX Systems, Inc.
によると、「セブの大学がよりよい人材を輩出できるよ
Cebu Branch) (www.adtxsystems.com)
うになれば、弊社にとってもメリットがある」ことから
本報告書シリーズ No.4 でも紹介したアドテックスシ
ステムズのセブ支社を訪問取材した。セブ支社の従業員
Cedf-ITを支援しているということである。また、比較的
数は 55 名(うち日本人 2 名)で、2005 年の採用予定は
低所得層出身の優秀な若者への職業訓練を支援する産
40 名程度であるという。セブの部隊の主な業務は、ビジ
業技術エンタープライズセンター(Center for Industrial
ネスアプリケーションソフトウェアの受託開発、ストレ
Technology and Enterprise :CITE www.cite.edu.ph) か
ージ関連のソフトウェア開発、製品保証サービスで、売
ら 4 名の企業研修生を受け入れるなど、IT人材育成を通
上の 100%が日本向けである。
じた社会貢献にも積極的に取り組んでいる。(写真右は、
同 社 企 画 部 副 社 長 補 の ヴ ィ リ ア ヌ エ ヴ ァ (Ramil
Villanueva)氏)
7
旧JITSE。2004 年 12 月に名称をPhilNITSに変更し、2005
年 2 月 15 日にはセブ事務所を開設した。
P6
JETRO 月刊フィリピン IT 事情
No.7 (2005 年 4 月 1 日)
アライアンスソフトウエア(Alliance Software, Inc. )
チェン氏と共に取材に応じてくれたユー(Sherwin Yu)
氏(写真右)は、セブソフトウェア開発産業協会の会員企
(www.alliance.com.ph)
若いフィリピン人社長と、日系のオフショアソフト開
業が今後日本からのオフショア開発市場に進出するに
発企業での経験を積んだフィリピン人技術者が 1999 年
あたっては、まず言語の壁、続いてソフトウェア開発に
にセブで設立したソフトウェア開発・SI 企業である。設
おけるビジネス慣習の違いが大きな障害であるという
立から 5 年、従業員 80 名(うち日本人 SE2 名)を擁し、
認識を示した。またチェン氏は、現地企業が日本市場進
100%フィリピン資本のソフトウェア開発企業としては、
出を考える場合、まず在比日系企業とのビジネスから始
セブで最大規模の組織に成長した。 同社の事業収入は、
めて感触をつかんでみることが現実的なアプローチだ
60%が海外顧客向けのソフトウェア開発アウトソーシ
ろうとコメントした。
ング、40%がフィリピン国内市場向けのパッケージ製品
導入を中心とした SI 事業である。セブの現地系企業と
アジアモバイル (Asia Mobile Corp.)
しては日本のユーザー向けのシステム開発経験がもっ
アジアモバイル社は、マクタン島の輸出工業地 区
とも豊富な企業といえる。
(MEPZ)の時計部品組立て企業アジアテクノロジー社
(Asia Technologies, Inc. )の情報システム部門から 2004
受託開発を中心としたアウトソーシング事業では、プ
年に独立した新しい会社である。2005 年3月現在、従
ロジェクト数や規模の波があり、人員数の柔軟な調整は
業員は7名で、コンテンツ開発やソフトウェア、ハード
多くの企業が頭を悩ませるところである。アライアンス
ウェアを組合せたエンジニアリングソリューションを
社では、こうした波の中で余剰人員が発生した場合、彼
提供している。
らを自社製品、特にフレームワークの開発に充てる形で
の投資を続けてきた。2003 年に財務会計まわりの共通
製造工程毎の作業時間をリアルタイムで監視し、監視
機 能 を テ ン プ レ ー ト 化 し た Advanced Development
データに基づいて作業時間をバランシングすることに
Design (ADD) フレームワークを自社開発し、開発効
よって仕掛品在庫を最小化するためのプロセスエンジ
率・スピード・品質の向上に効果を上げてきた。当初、
ニアリングシステム (Real Time Output Monitoring Line
このフレームワークは Java のみだったが、現在は同様
Balancing System) や、携帯電話の SMS を使った貿易
のフレームワークを Visual Basic, C#でも整備してある
産 業 省 (DTI) へ の 申 請 処 理 状 況 問 合 せ シ ス テ ム (DTI
という。
e-Text Project)、RFID による工場内の材料・部品在庫管
理システム(RFID SHOP EXPRESS)などの開発・導入実
績がある。
社長のヴィリアモール(Bernard E. Villamore)氏は、
「IT
ニーズは個々の企業によって様々に異なり、巷に溢れる
パッケージソリューションから自分の会社のニーズに
合った製品を選ぼうとしても、混乱してしまうケースが
社長のチェン(Robert J. Cheng)氏(写真左)はセブソフ
トウェア開発産業協会では副会長を務めるほか、同社は
多く見受けられる。こうした状況に対する弊社の回答は、
Cedf-IT、セブ日本人商工会議所のデザインソフトウェア
個々の企業のビジネスニーズをよく理解した上でカス
部会などのメンバーにもなっており、業界内での横の繋
タマイズソリューションを提供することである。」と同
がりに積極的に参画している。
社の目指すところを語った。
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JETRO 月刊フィリピン IT 事情
No.7 (2005 年 4 月 1 日)
エプソンソフトウェア開発センター (Epson Software
オフショア開発を発注する側の企業に求めることは、
有能なブリッジエンジニアの確保、開発プロセスの標準
Development Center Phils., Inc.)
長野県松本市の㈱エプソンソフト開発センターのフ
化とそれをベースにした仕様の明確化、オフショアに任
ィリピン拠点である。組織的には、Epson Precision
せやすい分野の切出し、フィリピン人の特性(人前で叱
Philippines, Inc. の一部門という形をとっている。約 1 年前
責することは絶対にタブーであることなど)の理解であ
の 2004 年 3 月、前述のアジアタウン IT パーク内にセブ
るという。 一方、オフショア開発を受ける側として心
拠点を設立し、エプソン製品関連
がけていることは、機材(ハードウェア)の有無が問題
の組込みソフトウェアを中心とし
にならない開発テーマ(ミドルウェア層など)の選定、
た開発を行っている。2005 年 3
英語の国際標準仕様の理解が必要な業務への特化、テレ
月時点での従業員は 31 名(うち
ビ会議などを含む日本との通信手段確保、日本語能力育
日本人 1 名)で、2005 年には更に
成、仕様書翻訳手段の確保(専任翻訳者、自動翻訳ソフ
20∼30 名の増員を予定している。
ト)などだそうだ。
ゼネラルマネージャーの石田浩和
氏(写真)は、マニラと比較した場
イースプリント ソフトウェア(E*Sprint Software,
合のセブの優位性として次のような点を挙げた。
Inc.)(www.esprint.com)
(1) 大学も多く採用活動面での競合企業がマニラよりも
前号(No.6)で報告した eServices Philippines 2005 で
少ないため、新卒学生が比較的容易に確保できる。
ベストプロダクト賞の第2位を受賞したワークフロ
(2) 生活コストが低い。
ー・プロジェクト管理ソフトウェア製品 COMPASS の
(3) 地元(セブ)への定着指向が強い。
フィリピン国内ベンダーであるイースプリント社は、同
(4) 英語能力が高い。8
じくセブを拠点にハードウェア、ソフトウェア、ネット
ワーク機器の販売事業を展開するナンカイ社(Ng Khai
同社では、主にフィリピン大学のセブ校とサンカルロ
Development Corp., 1992 年創業)のソフトウェア開発子
ス大学から新卒採用を行っているが、これらの大学の情
会社である。 イースプリント社では、ソフトウェア製
報工学系の教育課程は実践的で、日本と比較して新卒採
品開発と SI を事業の柱としており、フィリピン国内市
用者が即戦力になりやすいという評価をしている。 ま
場向けに会計、銀行業務、給与計算などのパッケージソ
た、上海の拠点も 5 年間経験した石田氏は、個人主義的
リューションを提供している。従業員数は 2005 年 3 月
な面が強かった中国人エンジニアと比較して、フィリピ
現在 35 名で、うち 80%程度がソフトウェア開発部隊、
ン人はチーム全体での目的達成に協力的で、目的を理解
20%程度が導入コンサルテーション部隊である。
すればその後の自立性も高いと感じているという。イン
同社では、2002 年に日本の株式会社シーパックス(本
ドとの比較では、価格面、および日本との距離が近いこ
社:奈良県)との合弁会社エヌパックス(N-Pax)社を設立
とがフィリピンの優位性とのことである。
し、日本向けオフショア開発事業を展開している 9。また、
アメリカの会計パッケージベンダー向けのバージョンアッ
8
フィリピンでは、1990 年初頭のアキノ政権時代に国語(タ
ガログ語をベースとしたフィリピノ語)重視の方針が打ち
出された。10 年以上が経過した現在、フィリピン人の英語
力は全体として低下したという見方が支配的である。一方
セブでは、公用語とはいえもともと地元の言葉ではないタ
ガログ語がベースのフィリピノ語への抵抗感は根強く、フ
ィリピノ語重視による英語能力低下という現象はマニラ地
区ほど顕著ではないといわれている。
プやカスタマイズ開発作業を行うアカウントメイトフィリ
9 前述のワークフロー・プロジェクト管理ソフト製品
COMPASSの開発元はエヌパックス(N-Pax)社である。エヌ
パックス社の紹介は、本報告書シリーズ No. 6 を参照。
P8
JETRO 月刊フィリピン IT 事情
No.7 (2005 年 4 月 1 日)
ピンズ社(2000 年設立)もグループ会社である。倉庫を改造
もあり、大学のIT学科の講師をインターンとして受け入
した 2 階建てのオフィスは、イースプリント社、エヌパッ
れ、現場での実務を体験する研修の実施や、JICAの協力
クス社、アカウントメイト社の 3 社が入居している。
でフィリピン大学が新設するITトレーニングセンター
(UP-ITTC) 10 のインストラクター研修に社内の技術者を
イースプリント社の
講師として派遣するなど、セブのみならずフィリピンに
社長であり、ナンカイ
おけるIT人材育
グループ 5 社を代表す
成面での同社
る ナ ン (Wilson Ng) 氏
の寄与は大き
(写真左)は、2005 年
い。取材で訪問
2 月、アーンスト&ヤン
した日には、多
グ社の選ぶ今年の起業家賞(Ernst & Young Entrepreneur
くの学生が会
社見学に訪れていた。(写真)
of the Year 2004)に輝いた人物である。米国企業、日本
企業との合弁企業を両方経営するナン氏に、ビジネスコ
ラボレーション上での日米の違いを感じるところがあ
フィリピンへのオフショアを検討する日本企業に対
るかどうか聞いてみた。「日本企業は、意思決定に時間
するアドバイスを聞いたところ、川澄氏は「現実問題と
がかかるが、それは長期的な展望をもっているからだ。
して、フィリピン側に日本人のいる会社でなければ無
一度決定したパートナーシップについては、それを大切
理」ときっぱりと言い切った。フィリピンの商習慣の違
に育てていこうという姿勢が感じられる。問題が起こっ
いがあるほか、特にソフト開発業界では仕様変更に対す
ても、その問題を共に解決していく過程でより強固な提
る考え方が大きく異なり、調整役としては日本人が必要
携関係に発展していく。」と感想を述べてくれた。
(写真
であるという認識だ。本報告書では、スペースの関係上
右 は エ ヌ パ ッ ク ス 社 副 社 長 の エ レ デ ィ ア ノ (Merlo
詳細な紹介はできないが、川澄氏はセブのソフトウェア
Erediano)氏)
業界が日本とのオフショアビジネスで成功するために
必要な人材育成や日本側・比側の体制、ビジネスモデル
などについて、熱のこもった話を聞かせてくれた。
NEC テレコムソフトウェア (NEC Telecom Software
Phils., Inc.)
日本電気通信システム㈱(本社:東京都港区)のフィ
プライマリーソフトウェア (Primary Software
リピン現地法人で、2000 年 2 月にセブでの操業を開始
Development Corp. (www.primesoft.ph)
した。主な業務は通信系ソフトウェアの開発で、2005
社長のフラド(Mike Juardo)氏が、米系ネットワーク管
年 3 月現在の従業員数は 263 名、2005 年の採用予定は
理ソフト企業のシステム管理者から転身して 1993 年に
90 名ほどで、米系の Lexmark 社と並んでセブでは最も
起業したのがプライマリーソフトウェア社である。従業
大きな規模のソフトウェア開発企業の一つである。
員数は 2005 年 3 月現在 14 名、2005 年中に 6 名程度増
員予定とのことだ。
社長の川澄正春氏は、セブ日本人商工会議所会員企業
のうち、IT関連企業 7 社からなるデザインソフトウェア
同社では、セブおよびミンダナオの顧客を中心 に
部会の代表であるほか、CIPC、PhilNITSその他政府機関
Prime Software ™ Simplified ERP for Businessという自
等とも強いネットワークを持っている。また、NECテレ
コムソフト社は前述のCedf-IT設立時からのメンバーで
10
P9
UP-ITTCについては、本報告書シリーズNo.2 参照。
JETRO 月刊フィリピン IT 事情
No.7 (2005 年 4 月 1 日)
社開発の主力ERP製品を核としたSI事業を展開してい
る。 フィリピン企業の大半は、欧米製の大規模で高価
なERPソリューションには手が出ない実情を商機とと
らえ、「フィリピン企業が開発したフィリピン企業向け
価格の製品」を市場に提供することをモットーとしてい
る。 また同社では、上記ERP導入時のコンサルテーシ
ョン、カスタマイズ作業、ユーザー教育、導入後の保守
サポートなどを含めて低価格パッケージとして提案し、
基本的に追加費用を請求しない方針や、比較的長期にわ
たる分割払いを可能にするなど、現地系中小企業が買い
やすい販売戦略を実践している。Prime Software ™の導
入実績は 200 社を超えており、2004 年には メトロセブ
地区で最も優れたソフトウェアプロバイダーに選ばれ
た11。
フラド氏(写真左)の
2 人の息子(20 代)も同社
で活躍している。兄のポ
ポイ氏は主に ERP 導入
コンサルや顧客仕様に
合わせたカスタマイズ
を担当、今年大学を卒業したばかりの弟のクリス氏(写
真右)は、ゲーム開発用の三次元モデラーソフトウェア
とゲームエンジンを自ら開発した。現在同社では、この
三次元モデラーソフトウェアを製品としての完成度を
高めるための研究開発資金投資に興味のあるパートナ
ーを探している。
(JETRO 月刊フィリピンIT事情
No. 7)
11
National Shopper’s Choice誌による “No. 1 Computer
Software Provider in Metro Cebu for 2004”。
P 10
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