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倫理審査委員会の現状について

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倫理審査委員会の現状について
倫理審査委員会の現状について
1.日本における倫理審査委員会の歴史
体外受精問題の審査を契機として、1982年に徳島大学医学部に倫
理審査委員会が設置された。これに引続き、大学医学部に倫理審査の設
置が相次いで進められ、1992年までに全ての大学医学部、医科大学
に倫理審査委員会が設置された。また、一般病院等においても倫理審査
委員会の設置が進められた。
体外受精以外にも近年のライフサイエンスの急激な進展に伴い、多く
の生命倫理に係る問題が発生しており、倫理審査委員会の役割は、ます
ます大きくなっているところであり、近年策定された遺伝子治療、ヒト
ゲノム・遺伝子解析研究、ヒトES細胞研究などに関するガイドライン
においては、あらかじめ、倫理審査委員会による研究計画の審査がガイ
ドラインに組み込まれたところである。
さらに、日本においては、法や国のガイドラインが示されていない分
野において、学会によるガイドラインが大きな役割を果たしているとこ
ろであるが、特に、体外受精問題や出生前診断の問題に関しては、学会
の倫理審査委員会の判断が焦点となったこともあり、学会の倫理審査委
員会の役割にも注目する必要がある。
2.倫理審査委員会の現状
こ の よ う に 、倫 理 審 査 委 員 会 の 役 割 は 、増 大 し て い る と こ ろ で あ る が 、
一方で、アメリカの国家研究法のような倫理審査委員会の設置に関する
通則的な法律等が存在せず、その構成、運営方法等にばらつきが見られ
る な ど の 指 摘 も あ る ( 別 添 1 )。
現在、行政として倫理審査委員会に係る現状の統一的な把握を行って
はいないが、赤林朗京都大学教授による科研費研究「日本における倫理
委 員 会 の 機 能 と 責 任 性 に 関 す る 研 究 」( 平 成 1 2 年 度 ) に お い て 、 以 下
のように倫理審査委員会の現状及び問題点が指摘されているところであ
る。
(1)大学医学部医科大学
全国80の大学医学部医科大学には、すべて倫理審査委員会が設置
されている。
-1-
また、委員会の運営状況については、委員構成や審議方法など多く
の大学である程度類似した形態の倫理委員会が運営されている現状に
ある。
また、アンケートによると
○大学における倫理面における指導的立場を積極的にとるため、倫
理審査委員会が「広報、教育」活動を強化することが必要。
○他大学との意見交換がもっと盛んに行われたらよい。
○緊急時対応で倫理審査委員会を開催する時間がないケースがあっ
た。
○委員が多忙で日程調整が大変
○学外委員を無報酬で多忙な知識人に依頼することが困難
○専門スタッフがいない。予算がない。
○ペナルティー規定がないので考える必要がある。
などの問題が指摘されているところである。
(2)一般病院
大学医学部・医科大学を除く全国3,098の一般病院(無作為抽
出)に対して行ったアンケートの結果、1,167の病院より回答が
得られた。
その結果、206病院(15.0%)において、倫理審査委員会が
設置されているとの回答があった。設置されている病院は、300床
以上の病院が多く、小さな病院ほど設置されていない割合が高い状況
である。
300床 以 上
100~ 299
20~ 99
総数
設置されている
181(24.4%)
19(5.7%)
6(2.0%)
206(15.0%)
設置されていない
562(75.6%)
316(94.3%)
289(98.0%)
1,167(85.0%)
また、アンケートによると、
○財源などの問題があり、院外委員の選定に困難を感じている。
○院外委員が多忙な人達であり、適時に委員会を開催し難い。
○ 法 医 学 委 員 に 適 切 な 人 が い な い ( 地 方 小 都 市 )。
○法律的な知識が欠如し、決定に際し困ったことがある。
○各病院ごとに委員会を持つべきか、地域ごとに設置した方がよい
のか検討を要する。
○委員会で検討すべき内容が全国的に定まっているとはとても言え
な い ( 宗 教 上 の 輸 血 問 題 、 終 末 期 治 療 の 停 止 、 病 名 告 知 な ど )。
○院長主導型であり必ずしも好ましいあり方と考えていない。
-2-
○委員が緊急に集まることが困難。
○日程調整が大変。
などの問題が指摘されているところである。
(3)学会
日本医学会分科会92学会を含む137学会に調査を行ったとこ
ろ、倫理審査委員会が設置されている学会は、28学会であった。設
置されていない学会は、理事会等で対応している現状であった。
また、ガイドラインの拘束性や行政機関との関係に対する問題点が
指摘された。
3.生命倫理委員会のネットワーク化について
星野一正京都大学教授(当時)等のイニシアティブの下、全国の医科
系大学倫理委員会でつくる「大学医学部・医科大学倫理委員会連絡懇談
会 」 も 組 織 さ れ ( 現 在 、「 医 学 系 大 学 倫 理 委 員 会 連 絡 会 議 」)、 1 9 8 9
年に第1回目の会合を開催したところであり、現在も年2回の開催を行
っている。
また、国際科学振興財団と大学医学部・医科大学倫理委員会連絡懇談
会の共催により、国際バイオエシックスシンポジウムを1998年まで
14回にわたって開催するなど国際的な取組みも行っている。
-3-
(別添 1)
研究助成基準を定める国家研究法におけるIRBの規定
国家研究法
セ ク シ ョ ン 474の 概 要
(a )D H H S ( 米 国 厚 生 省 ) 長 官 は 、 本 法 律 の も と で ヒ ト を 対 象 と す る 生 物
医学的又は行動学的研究について助成を申請する法人に対し、当該研究を
実 施 す る 上 で 対 象 者 の 人 権 を 保 護 す る た め の 倫 理 審 査 を 行 う 組 織( I R B )
を設置した旨を報告するよう求めるものとする。
長官は、DHHSのもとに、当該研究に際して生じる倫理的問題に配慮
した説明及び指導の求めに迅速かつ適切に対応するための計画を策定する
ものとする。
( b ) D H H S 長 官 は 、 本 法 律 施 行 後 240 日 以 内 に 、 ( a ) の 実 施 の た め に 求 め
られる規則を公表するものとする。
連 邦 規 則 ( 21 CER part 56.107) 概 略
○IRBのメンバーは最少構成で5人、研究機関で実施される研究活動を
適切かつ十分に評価できる人物から選出する。
○メンバーには、一定の経験と専門知識が要求され、その専門領域を越え
る範囲で提起された研究については、研究評価を支援するコンサルタン
トを雇うことも可能。
○メンバー構成には多様性を持たせることとされており、人種、性別、文
化的背景、問題に対するコミュニティの感受性の違い等のバランスを考
慮すべき。
○ メ ン バ ー に は 、 研 究 計 画 に 利 害 関 係 ( Conflict of Interest ) を も つ 人 物 は 含
まれてはならない。
○少なくとも一人は、研究を実施する研究機関に所属していないものであ
って、かつ、当該研究機関に所属する者の肉親でないものを含める。
○自然科学分野を専攻とする物及び自然科学以外の分野を専攻とするもの
をそれぞれ少なくとも一人以上は含める。
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