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DME自動車の実用化促進プロジェクト

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DME自動車の実用化促進プロジェクト
DME自動車の実用化促進プロジェクト(第1報)
−公道走行試験の車両開発と実施計画−
環境研究領域
※佐藤 由雄
野内 忠則
1.実用化促進プロジェクト
及川 洋
地球温暖化
地球温暖化
の防止
の防止
1.1 背景
ジメチルエーテル(DME)自動車は,原油高騰問
エネルギー
エネルギー
の多様化
の多様化
自動車用新燃料
大都市地域の
大都市地域の
大気環境の改善
大気環境の改善
題を背景に,NOx,PMに加えCO2排出量の少ないク
低C/H燃料
CO2 ディーゼルなみ
16 年度)(1)の中でも早期に大きな開発成果が得られ
燃料の
燃料の
高効率利用
高効率利用
ディーゼル自動車用
ディーゼル自動車用
の新燃料
の新燃料
リーンな新燃料に対する関心が高まっている中,国土
交通省の「次世代低公害車開発促進事業」
(平成 14∼
石油・ガス資源
石油・ガス資源
の枯渇対策
の枯渇対策
ジメチルエーテル
ジメチルエーテル
DME
DME
NOx,PM ほぼゼロ
石炭,COG,バイオマス等
からも製造
ディーゼルサイクル運転
が可能
たことから,実用化・普及が期待されている(図1)
.
1.2 ねらいと実施内容
DMEを燃料とする
DMEを燃料とする
ディーゼル自動車の開発
ディーゼル自動車の開発
このような状況を踏まえ,国土交通省では平成 17
年度より,世界初となるDME自動車に係る技術基準等
図 1 自動車新燃料の背景とDME燃料への期待
を整備するため,
「次世代低公害車開発促進事業」
の成
(2)
果をもとに「次世代低公害車開発・実用化促進事業」
性能に関するデータを取得する「DME自動車の実用
を開始した.その一環として,開発試作したDME自動
化促進プロジェクト」を実施している(図2)
.また,
車を用いて公道走行試験を行い,今後の実用化・普及
試験を通じてDME自動車の耐久性・信頼性及び実用性
に備え,基準等の整備に必要な種々の安全性能・環境
を評価・実証し,改良開発につなげていくとともに,
平成17年度(2005年度)
平成18年度 (2006年度)
走行試験
走行試験準備
公道走行試験
・試作大型トラックを公道走行用に改
造製作,大臣認定の取得
・小型DMEトラックを製作,大臣認定
を取得,パイロット走行の開始
・既設燃料充填スタンドの調査,利用
・開発者管理下の試験走行
技術実証の
の確認
・試験結果のとりまとめ,評価
既設燃料充填スタンドの利用
実用化の
見極め
走行試験
計画策定
試験準備
・業務走行に近い使用形態により市場ニーズ等の明確化
・道路維持管理車両による走行試験
車両製作
試験車両追加
・トラック,道路維持管理車両等
・大臣認定の取得
環境・安全に関する技術基準等の策定に資する調査
・過去の大臣認定,技術基準策定等の経過・状況に関する調査(・LPG,CNG,FCV,DME自動車等)
技術基準等の
策定に資する
調査検討
実用化,導入・
普及のための
調査検討
・海外における技術基準策定の動向
DME自動車の構造及び走行試験データの調査検討
・大型・小型DME試験車
調査検討の課題
抽出および調査
中間まとめ
調査検討項目
の提案・検討
調査検討項目の
とりまとめ
・他の大臣認定車の調査
技術的検討及
び調査検討の
とりまとめ
技術基準等の策
定に関する留意
事項のとりまとめ
調査検討 ・自立的普及に必要な事項
・新燃料を受容することが可能な社会システム
導入・普及策及びモデル事業の検討
・導入分野,モデル地域・事業の調査検討
調査検討結果
のとりまとめ
図2 DME自動車の実用化促進事業計画
導入・普及策とモ
デル事業の提案
2.公道走行試験
DMEインフラ整備等の動向を見すえつつDME自動車
を普及させていくための実証モデル事業の提案を行
2.1 試験車両の開発
う.
試験車両は,国土交通大臣より道路運送車両の保安
1.3 実施時期
基準第56条第4項の規定による試験自動車の認定を
「DME自動車の実用化促進プロジェクト」は,当初,
うけた後,公道走行試験に供試される.試験車両は,
平成 17 年度からの3ヶ年計画で開始されたが,
「次世
車両総重量や用途の異なる小型,中型,大型車とし,
代低公害車開発促進事業」において世界に先駆け大型
また,開発試作の中で最も重要なDME噴射装置は,
DMEトラックの技術開発に成功
したことから実用
列型ジャーク式に加えて,今後,普及段階において採
化の可能性が高いと判断され,平成 19 年度実施内容
用される可能性の高いコモンレール式を搭載した車両
を前倒しして 18 年度中に公道走行試験のとりまとめ
を追加した.
(表1)さらに,PM の排出無しで低速時
を目指す.
のトルクアップが図れる DME 燃料の特徴を活かし,
1.4 実施体制
構内作業や道路維持管理業務への適用可能性を調査す
(3)
交通安全環境研究所は国土交通省より委託を受け,
るため,クレーン付き中型DMEトラックやDME道
「次世代低公害車開発・実用化促進会議」による事業監
路散水車を試験車に加え,種々の使用条件における走
理のもと「DME自動車の実用化促進プロジェクト」
行データを取得する.
を推進している.
(図3)また,有識者らによる DME
2.2 開発及び準備状況
自動車ワーキンググループ(WG)を開催し,事業実
大型DMEトラックは本年 8 月に,また,小型トラ
施計画の立案と実施状況を報告する.さらに,サブワ
ックは同じく 5 月に大臣認定を取得し,現在,公道走
ーキンググループ(SWG)を設け,DME の製造,流
行試験開始に向けた最終準備を行っている.あわせて
通,利用,普及,また,自動車メーカー,低公害車の
DME 充填の準備を行い,両条件が整い次第,順次,
普及を促進する企業,機関の各分野の方々に参加頂き
走行試験を開始する.コモンレール式 DME 噴射装置
実務を推進している.一方,平成 18 年度からは新た
を搭載した小型トラックならびに列型ジャーク式
に基準検討 SWG を設置し,DME 自動車の技術基準
DME 噴射装置を搭載した DME 散水車については,
等の整備に向けた調査・検討結果をとりまとめ,国土
年度内の早い時期に開発・製作を終え,大臣認定を取
交通省へ報告する.
得した後に試験開始を目指す.一方,昨年 2 月から企
業の構内作業に使用されているクレーン付き中型
国土交通省
(自動車交通局、道路局)
次世代低公害車開発・実用化促進会議
交通安全環境研究所
(中核的試験研究機関)
DME自動車実用化検討SWG
・実務推進事項の決定, ・各実施計画の検討
・WGに報告する内容の検討 等
DME自動車,CNG/LNG自動車
及び水素エンジンWG
※平成18年度設置
DME自動車技術基準等検討SWG(仮称)
・技術基準案等の検討及び資料とりまとめ等
実施項目
公道走行試験用車両の製作
(自動車・部品メーカー,交通研)
・車両改造・改良製作
・大臣認定作業
・補修部品の確保
・分解調査・点検・修理体制の確立
・部品の改良設計・製作
・排ガス対策・燃費向上対策技術の高度化
走行試験の実施
(自動車メーカー,交通研)
・試験実施
・走行試験データ分析
・試験結果のとりまとめ
走行試験の支援
(DME製造・充填管理運営企業)
・既設充填スタンドの調査
・既設充填スタンドの利用
・その他,試験に係わる庶務
技術基準等の策定に関する調査検討
(交通研,SWG)
・過去の新燃料車の技術基準等策定経過の調査
・技術基準等の策定に関する留意事項の検討
実用化・導入・普及のための調査検討
(交通研,SWG)
・自立的普及に必要な事項の基礎調査
・新燃料を受容することが可能な社会システム
・普及のためのモデル事業の調査・提案
図3 DME自動車実用化促進事業の実施体制
表1 公道走行試験に供試する車両
車両外観
(イメージ)
クラス
用途
大型車
高速・長距離輸送
中型車
作業用
小型車
都市内集配
小型車
都市内集配
大型車
道路散水
20 (10)
7.9(3.5)
5.8(2)
4.9(2)
16.5(6.5-7.5)
[計画値]
噴射装置
列型ジャーク式
コモンレール式
列型ジャーク式
コモンレール式
列型ジャーク式
燃料タンク
リットル×本
171 L×2
135 L×1
134 L×2
135 L×1
[計画値]
171 L×2
[計画値]
開発メーカー等
日産ディーゼル
工業㈱,(独)交
通安全環境研究
所
㈱いすゞ中央研
究所
ボッシュ㈱,(独)
交通安全環境研
究所
㈱いすゞ中央研
究所
日産ディーゼル
工業㈱,(独)交
通安全 環境研究
所
備考
2006 年 8 月 大 臣
認定取得,
NOx触媒付き
2005年11月大臣
認定取得,
クレーン付き
2006 年 5 月 大 臣
認定取得
製 作 中 , 2006 年
度中に大臣認定
取得予定
製 作 中 , 2006 年
度中に大臣認定
取得予定
車両総重量 トン
(最大積載量 トン)
表2 公道走行試験に使用するDME充填設備等
充填所外観
新潟市黒鳥
横浜市鶴見区
安善町
新潟市下木戸
川崎市川崎区
南渡田
設備区分
第1種製造設備
第2種製造設備
−
第2種製造設備
設備用途
製造・充填
充填
燃料配送及び
充填
充填
最大貯蔵量
トン/ L
3.9トン / 6,500 L
0.98t / 1,726L
2.6tトン/ 4,360 L
1.4トン / 2,450 L
充填方式
加圧ポンプ式
燃料蒸気加圧式
加圧ポンプ式
窒素加圧式
三菱ガス化学㈱
伊藤忠エネクス
㈱
伊藤忠エネクス
㈱
JFEホールディン
グス㈱
DME貯槽に潤滑
性 向 上 剤 を 混合
し,燃料貯槽に貯
蔵
都道府県への届
け出で設置可
第1種製造事業
所内 での 直 接充
填が可能(届け出
が必要)
都道府県への届
け出で設置可
設置・常駐場所
主な協力企業
備考
DME トラックに関しては,昨年 11 月に大臣認定を取
業に供していく.試験運行の管理と試験結果とりまと
得し,神奈川県が参加している「京浜臨海部 DME 自
めは,それぞれ車両の設計製作を担当した自動車・部
動車普及モデル事業」で作業用車両として走行を継続
品メーカー及び研究機関が担当し,DME自動車実用
している.この走行データの一部及びエンジン分解点
化検討 SWG でとりまとめを行い,同 WG に報告され
検データの提供を受け,基準等の整備に向けた検討作
る.
2.3 試験走行エリアと DME 充填設備
試験走行エリアとルートは,現在,走行試験車両用
の DME 充填所(経済産業省の補助事業で製作された
DM輸送・充填用タンクロ−リー
設備)
(表2)
として設置された横浜と新潟の充填所周
新潟DME製造・充填所
辺の走行エリアとそれを結ぶ高速道路を利用した長距
離高速輸送ルートである(図4)
.大型トラックについ
ては,約 400km/日×20 日間/月,小型トラックは約
140km/日×20 日間/月 程度の走行を予定している.
積載条件はダミーウェイトを用いて空・半・定積の各
条件を試験目的に応じて選定する.試験開始とその中
間/終了時において,定期的に排出ガス,燃費等を測
定し経時変化を調査する.また,ドライバーによる運
転性評価を行うとともに,一定の走行距離に達した段
交通安全環境研究所
(調布市)
階では,エンジン,燃料供給系の分解点検調査を実施
することも予定している.さらに,走行試験を通じて
横浜DME充填所
DME 自動車の耐久性・信頼性及び実用性に関する課
題を抽出し,改良開発や普及に向けた改善対策につな
げていく.
川崎DME充填所
3.
「実用化促進プロジェクト」の目指す方向
「次世代低公害車開発促進事業」の中で DME 自動車
の開発試作は極めて困難なプロジェクトであった.し
かし,
「次世代低公害車開発促進事業」
のねらいを最も
体現しているプロジェクトでもあったといえる.すな
わち,DME はディーゼル自動車 100 年余の歴史にお
いては全く使用されたことのない「新燃料」であり,
技術開発の見通しが極めて得にくいプロジェクトであ
った.DME を用いた次世代低公害車の開発は,当初,
自動車・部品メーカーにとっては自社単独では開発に
踏み出すには負担が大きく,インフラ整備もなされて
いないため市場も見通せない状況であった.メーカー
での自主的な研究開発に多くを期待することが極めて
困難であったため,
「次世代低公害車開発促進事業」
と
年度
図4 公道走行試験のエリア,ルート
して進めることに大きな意義があった.
国土交通省による開発支援により,現在では,DM
E自動車の技術開発の見通しが得られつつある.今後
は,DME 自動車の耐久性,信頼性,実用性の評価・
確認を行い実用化に一歩近づける必要がある.したが
って本プロジェクトでは,公道走行試験を通じた
DME 自動車の実用性評価と改良開発を支援するとと
もに,基準等の整備を促進することにより自動車・部
品メーカーによる DME 自動車の実用化と市場への導
入がスムースに運ぶための環境整備を図っていくこと
をねらいにしている.また,これらにより,DME の
供給・インフラ整備・価格設定が促され,ユーザーの
関心も高まると考える.
H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22
(1年前倒し)
「次世代低公害車技術評価事業」 「次世代低公害車開発促 「次世代低公害車実用化
促進事業」
進事業」
事業
・DME自動車検討会
・基礎技術調査,実用化技術調査
・単気筒エンジン調査
・中型トラック試作・評価
・中型バス試作・評価
・大型DMEトラックの開発
・エンジン開発
・NOx触媒開発
・車両試作
・性能評価
・公道走行試験車の開発
・公道走行試験
・技術基準等の策定調査
・実用化・普及の調査検討
DMEインフラの整備
実用化・普及に向けた試験
図5 DME自動車に関係した国土交通省事業の流れ
4.実用化・普及に向けた動き
用設備導入促進事業)
,②石油系(軽油)代替燃料とし
「次世代低公害車開発・実用化促進事業」を含む国土
て期待されるDMEの製造・利用の両面にわたる技術開
交通省の事業の流れ(図5)に関係し,今後,DME
発の推進,また,③石炭からコークスを製造する際に
自動車は,自動車・部品メーカーによる実用車の開発,
副生される乾留ガスを改質して、メタノールやDME
DME の製造・流通事業者らによる燃料製造の拡大や
等の液体クリーン燃料に転換できる合成ガスの製造技
燃料インフラの整備を契機に,普及していくことが期
術を開発し,環境負荷低減とエネルギーの有効利用を
待されている.
図ろうとしている(4).
4-1 DME 製造
4-2 DME 自動車の「実証モデル事業」構想
国内におけるDME製造は,現状では化粧品,スプレ
国土交通省は,
「次世代低公害車開発・実用化促進事
ー缶などの噴射剤の化学原料として約1万トン/年が
業」の成果を踏まえ,DME自動車の実用化を促進する
商業生産されている.更に,現在,新潟にある約 6,000
ためには実用性の検証が必要であるとの観点から,平
トン/年の製造設備を平成 19 年度中に 10 万トン程度
成 19 年度より「車両の試作と公道走行試験の実施に
/年規模の普及促進プラントとして建設し製造量を拡
よる技術基準の整備等を行うとともに,特に実用化の
大し,発電,ボイラー,そして自動車用燃料などにも
近いDME自動車等の次世代低公害車の市場ニーズへ
利用していこうとする動きがある.経済産業省では平
の適応性等を実証するモデル事業」を創設する構想(5)
成 19 年度より,①ボイラー等の都市地域におけるD
(図6)
,及び「大型ディーゼル車低公害化の促進のた
ME燃料利用設備の導入に対しての支援(LPガス等利
め,道路維持管理用車両への活用を目的とした次世代
出典: http://www.mlit.go.jp/yosan/y07.html
図6 DME自動車の「実証モデル事業」構想
低公害車の技術開発の支援等」も継続していく構想(5)
を打ち出している.そのためには,DMEの製造・流通,
(1)「次世代低公害車開発促進事業」
http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha02/09/090422_.html
DME自動車・部品メーカー等によるインフラ整備や実
http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha02/09/090726_.html
用車開発が自立的に行われる必要があり,それらを促
(2)「次世代低公害車開発・実用化促進事業」
すべく産学官の連携と協力が今後一層,重要となる.
http://www.mlit.go.jp/jidosha/jisedai/jisedai.html
(3) 大型 DME トラックの開発成果
5.今後の取り組み
(1) 国土交通省「次世代低公害車開発・実用化促進事
業」を通じて,DME 自動車の技術開発の見通しは
得られつつある.
(2) DME自動車の実用化・普及を目指すには,公道
走行試験を実施し,課題を解決しながら耐久性・実
用性を見極めていく必要がある.
(3) また,公道走行試験を通じて DME 自動車の技術
基準等を整備するための走行データを収集し,自動
車・部品メーカーらによる DME 自動車の実用化開
発,市場への導入を支援していく必要がある.
(4) DME自動車の実用化・普及には,DME の製造・
流通,DME 自動車・部品メーカー等によるインフ
ラ整備や実用車開発が自立的に行われる必要があ
る.交通安全環境研究所は国土交通省と連携し,そ
れらを促すべく,産学の協力を得て「DME自動車
の実用化促進プロジェクト」を進めていく.
参考文献等
「次世代低公害車・燃料電池自動車国際シンポジウム
(国土交通省主催)
」講演概要集,
「次世代低公害車開
発促進プロジェクト」の開発成果
①ジメチルエー
テル(DME)トラックの開発,P35-46,平成 17 年
3 月 24 日
(4) 経済産業省
平成 19 年度資源エネルギー関係概
算要求の概要
http://www.meti.go.jp/topic/downloadfiles/060825-6-2.pdf
(5) 国土交通省 平成 19 年度予算概算要求の概要
http://www.mlit.go.jp/yosan/y07.html
http://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-yosan/h19/07.pdf
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