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エッセイで トホホな日を お金にかえる

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エッセイで トホホな日を お金にかえる
「なんて日だ」が 100 万円 !?
添削実例
付き
エッセイで
トホホな日を
お金にかえる
書くことで、マイナスの気分がプラスに転じます。
そう、トホホな日こそ、エッセイを書くチャンスです。
そして、そのエッセイで入選すれば、
賞金 100 万円も夢ではない!
そんな夢を叶える実践講座付き!
イラスト:三木もとこ
インタビュー
林 真理子(直木賞作家)
007
インタビュー
し先生が﹁エッセイはすべからく自
慢話である﹂とおっしゃった。これ
は本当に名言で、プロでも、どんな
に失敗談を書いても﹁こんなにもド
ジな私﹂という自慢話になる。シロ
くかが大切。それから、新聞の投書
ウトはいかに鼻につかないように書
欄にあるような上から物申す発言。
どんなに失敗談を書いても
こんなにもドジな私という
自慢話になる。
いかに鼻につかないように
書くかが大切。
︱︱デビュー前に公募に挑戦された
ツについて教えてください。
︱︱エッセイを書くために必要なコ
物事を面白がり、同じことを
見ても人とは違うことを
感じられる感性が大切。
それには意地悪な目線も必要。
これは絶対によくないですね。
ことがあるとか。
作文やニックネーム募集など、い
ろいろ応募しました。パリ旅行を頂
いたりしたこともありましたね。
︱︱その後、エッセイがベストセラ
ーとなってデビューされました。
だと思って背水の陣で挑みました。
これで世の中に出られなかったら
一生売れないコピーライターのまま
﹁ねたみ・そねみ・嫉妬﹂といった、
素材の新鮮さや情報がかぶらないよ
ネタ、これは文春ネタと振り分け、
していますから、これはan ・an
﹃an ・an ﹄でもエッセイを連載
上も書き続けられていますね。
の反抗期を延々と書く、という手も
夫婦げんかだけに特化する、子ども
要です。一見普通に思えることでも、
面白いネタを一つ確保することが重
うためにはどうすればよいかを考え、
しい。そういう人たちに読んでもら
ない、こういう前提を忘れないでほ
今まで誰も書いてないことを書けば、
あなたのことは誰も知らない、あ
なたの書いたものは誰も読みたがら
読んでもらえると思ったんです。
︱︱週刊文春ではエッセイを 年以
うに気をつけています。週刊誌でエ
あると思いますよ。
験を書きますが、面白く書くことが
超えるまで、なんとか頑張りたいで
とても難しい。
自慢はだめですね。以前井上ひさ
て、何を買ったか、それだけで喜ん
職業柄、私たちはある程度の知名
度があるので、誰と会って何を食べ
すね。
ことは何でしょうか。
書く際、特に気をつけたほうがいい
︱︱アマチュアが初めてエッセイを
︱︱ほとんどの方は、まず自分の体
ッセイを 年書かれた山口瞳さんを
30
林 真理子
︵直木賞作 家 ︶
あなたのことは誰も知らない、
あなたの書いたものは
誰も読みたがらない、
そういう人たちに読んでもらうには、
どうしたらいいかを考える。
31
008
エッセイでトホホな日をお金にかえる
方が同じことを書いても読者はつま
でもらえる部分がある。でも一般の
ありがたいですね。最近はそういう
です。面白い人が現れてくれるので
週間に二人くらいは遭遇します。
らない。すごく面白い体験でないと。 人を見つけるのがうまくなって、一
闘病記やDVの夫、不登校の子ども
がいた。男性は女性に﹁昨日いびき
主人とお好み焼きを食べていたら、
どう見ても夫婦ではない中年の男女
巡らされているからですね。
の話なんて興味を持ってもらえるし、 ︱︱常に人間観察のアンテナを張り
戦争中の話も貴重です。だけど、孫
ただ書かれても響かない。そこには
うるさくなかった?﹂と聞いている。
に囲まれて暮らす幸せな日々とかを
やはり芸がいる。お金になる文章を
と言ったんです。一夜を共にした男
書くのにはコツがあります。
女がお好み焼きを割り勘にしている。
そして店を出るとき、男性が﹁飲み
物事を面白がり、同じことを見て
も人とは違うことを感じられる感性
すごい話だよねって夫に言ったら、
物代は持つから750円でいいよ﹂
が大切です。それには意地悪な目線
夫は聞いていなかった。私はいつも
︱︱ほかにも何かありますか?
も必要ですね。そして、違う角度か
聞き耳を立てているんですね。する
1954 年山梨県生まれ。日本大学芸術学部を
卒業後、コピーライターとして活躍。82 年
エッセイ集『ルンルンを買っておうちに帰ろ
う』がベストセラーに。86 年『最終便に間に
『白
合えば』
『京都まで』
で直木賞を受賞。95 年
蓮れんれん』で柴田錬三郎賞、98 年『みんな
の秘密』
で吉川英治文学賞を受賞。最新刊
『中
島ハルコの恋愛相談室』
など著書多数。
ら書くけれど、なるほどと共感させ
林真理子
(はやし・まりこ)
ないといけません。
一気に読める痛快エッセイ。
とネタになるような人が横に来てく
に向ける鋭い眼差しと時代の流れがわかる。
れる。幸運だと思います。
治家や週刊誌のタブーなど、林真理子が社会
︱︱最後に、公募ガイドの読者にメ
エイジング、グルメ、スポーツ選手、女性政
ッセージをお願いします。
っているうちに一生を終える。そう
暦のド派手なパーティーの様子から、アンチ
書きたいと言いながらなかなか書
かない。実際に勝負に出るのが嫌で、
いう人が大勢いるんです。私は今は
週刊文春で連載されたエッセイの最新刊。還
想像の中で自分のことをすごいと思
︱︱新刊エッセイ﹃マリコ、カンレ
(文藝春秋刊/ 1200 円+税)
私はいつも聞き耳を
立てているんです。
するとネタになるような人が
横に来てくれる。
幸運だと思います。
キ!﹄の中には﹃中島ハルコの恋愛
作家ですが、もしも作家でなかった
大きなチャンスを与えてくれるもの
ら、こういった賞にいっぱい応募し
を利用すべき。自分の才能を信じて
相談室﹄のモデルとなった女性社長
震災の日にタクシーが拾えず、宅
配便のトラックに乗ろうとしたり、
いるなら、公募ガイドを見て、早く
のエピソードが出てきます。
お金持ちなのに駅のキオスクで立ち
ていたと思います。公平性があり、
読みして売店のおばさんに怒られた
書きなさいと伝えたいですね。
取材:川村千重 撮影:賀地マコト
009
り。自由奔放で強烈な個性の持ち主
『マリコ、カンレキ!』
エッセイでトホホな日をお金にかえる
昭和 26 年に、評論家、エッセ
随想、評論、ノンフィクション、
イストが集まって設立された親
伝記、研究、ドキュメント、旅
睦団体。月 1 回の例会、年 4 回
日本エッセイスト・クラブに伺いました。
イスト・クラブ賞の運営を行っ
を選出。発表は例年 6 月(新聞
ている。会員になるには会員 1
紙上)
、贈呈式は 6 月下旬の予
名以上の推薦が必要で、現在
定となっている。
334 名の会員がいる。
よいエッセイの
条件
エッセイスト・クラブに伺いま
した。
会長の村尾清一さんは、よい
文章の条件も人それぞれとした
うえで、以下の3つを挙げてく
れました。
ンテーニュもルソーも言ってい
春秋)
らわれず、自由に勝手気ままに
さしいことは深く重く書くこ
へえ、そうなんだ、と思わせる
﹁人が考えている常
転結など文章を書く法則にはと 最後は、
識とは逆のことを書くこと﹂。
ッセイと呼ぶときは、随筆より
書いたもの。
エッセイと随筆︵随想︶は同
じものですが、一般に日本でエ
やさしく書くこと﹂、逆に﹁や
品『辞書になった男』
言の﹃枕草子﹄で、こちらは思
(佐々木健一著・文藝
と﹂です。
スト・クラブ賞受賞作
うことを気ままにつづったもの。 随筆、随想の﹁随﹂という字
は、気随気ままの﹁随﹂。起承
ます。
﹃エセ
一方、随筆の起源は 、
二つ目は﹁自由で勝手気まま
ー﹄より600年も前、清少納
であること﹂。
論文という意味で使われます。
欧米では綿密な思索に基づいた
ー﹄と言われています。﹁エセ 一つ目は﹁私﹂。
他人のことを書くのではなく、
ー﹂には試論という意味があり、
私自身のことを書く。これはモ
エッセイの起源はフランスの
哲学者モンテーニュの﹃エセ
(
広い範囲で使われることが多い
第 62 回日本エッセイ
品『天才と異才の日本
科学史』
(後藤秀機著・
ミネルヴァ書房)
﹃英語辞典﹄を作ったイギリス
になる。これが面白いというこ
す。
のが真に面白い﹂と言っていま
んが、誰にでも人一倍詳しいと
いう得意分野はあるもの。面白
いエッセイを書くには、そうし
た専門的な世界を持っていると
一つは﹁短いこと﹂。これは
正岡子規も言っています。
有利です。
挙げてくれました。
ごく普通の会社員や主婦の方
では、どうすれば面白くなる は専門家でも学者でもありませ
か。村尾会長はポイントを三つ
とです。
のサミュエル・ジョンソンは、
新しい発見や気づきがあって、
目の前が明るくなったような気 ﹁エッセイは専門家が書いたも
からうろこが落ちた状態。
こと。
三つ目は﹁面白いこと﹂。
です。
面白いとは、辞書的に言うと そうしたものは、どうしたら
このエッセイについて、よい 書けるでしょうか。
目の前が明るくなることで、目
エッセイの条件とは何か、日本
スト・クラブ賞受賞作
60 年の歴史を持つ親睦団体である、
の会報発行のほか、日本エッセ
よいエッセイの条件とは何でしょうか。
行記などの単行本 200 点ほどを
対象に審査され、毎年 2 作程度
第 62 回日本エッセイ
もう一つは、哲学的なことや
難解なことなど﹁難しいことは
011
会員推薦、出版社推薦を受けた
よいエッセイの条件
日本エッセイスト・クラブ
日本エッセイスト・クラブに聞きました。
日本エッセイスト・クラブ賞
「なんて日だ」
は逆にラッキー!
トホホな日をお金にかえる錬金術
人生山あり谷あり。でも、溜息ついてばかりではもったいない。
トホホな日を題材にエッセイを書けば、賞金になって返ってくる!
エッセイ公募賞金額ベスト 3(本誌掲載過去 1 年分を対象に集計)
公募タイトル
賞金額
規定枚数
100万円
4枚以内
50万円
5枚
30万円
2枚
おいしい記憶 エッセーコンテスト
30万円
3枚以内
こども未来賞
30万円
4枚∼5枚
スキナベーブ赤ちゃんエッセイコンテスト
∼赤ちゃんとの出会い∼
30万円
4枚以内
パチンコ・パチスロ
エッセー・絵手紙コンクール エッセー部門
30万円
5枚以内
最高賞金額は、
「約束(プロミス)
ふくい風花随筆文学賞
30万円
3枚∼5枚
家の光読書エッセイ募集
30万円
5枚以内
規定枚数は 4 枚以内で、原稿料は
小諸・藤村文学賞 一般の部
30万円
10枚程度
約束(プロミス)エッセー大賞
泉大津市オリアム随筆(エッセイ)賞
「香・大賞」エッセイ募集
約 6 割が負の体験
悲惨であればあるほど
インパクトも大きい
最高賞金は100 万円
原稿料は、1 枚 25 万円
これは効率いい!
エッセイを書く前に、エッセイ公
募の賞金額を確かめてみましょう。
エッセー大賞」の 100 万円でした。
1 枚につき 25 万円。ちょっとこれ
は燃えますね!
エッセイの規定枚数
(本誌掲載過去 1 年分を対象に集計)
エッセイの題材は半数以上が負の体験でした。時には思い出
すのもつらい体験をすることもありますが、書くうえでは、
20 枚以下
10 枚以下
10.3%
15.4%
そういう体験がチャンスを生みます!
3 枚以下
48.7%
つらい
思い出
5 枚以下
2編
25.6%
4編
別れ
5編
健康
トラブル
約半数のエッセイが
400 字詰 3 枚以下!
ビギナーにも狙い目
2編
見聞き
したこと
6編
エッセイ公募で求められる長さは、短けれ
ば400字、長くても400字詰原稿用紙20枚
で、約半数は3枚以下です。3枚なら小学
よい思い出
3編
生の宿題並みの短さ。それだけに要領よく
まとめないといけませんが、ビギナーでも
(本誌「えりぬき」掲載過去 1 年分を対象に集計)
楽々チャレンジできます。
012
エッセイでトホホな日をお金にかえる
トホホな体験を書いて
読者を気持ちよくさせる
それがトホホ変換術
他人に読ませるトホホ変換術
グチやボヤキを別のものに変換する、
それがトホホ変換術だ!
失敗談や不幸話はそれだけで面白いもの。
共感させる
驚かせる
あるある ! わかるわ∼ !
そんな話、初めて聞いたよ !
しかし、ただトホホな話を書けばいいわけ
ではありません。つらかった、悲しかった
という話を書きながら、最終的には読者を
気持ちよくさせる、読んで得した気にさせ
る。それがコツです。
仕事でトラブル
家庭でもめごと
なんて日だ!!
トホホな題材を
まんま書いてしまった
トホホな失敗例
( 1 )読者を嫌な気持ちにさせる
感動にかえる
笑わせる
過去があるから今があるんだね !
おまえ、どんだけ不幸なの !
( 2 )不幸自慢になっている
( 3 )だから何? と思われる
( 4 )読んで得した気がしない
( 5 )未来がなく救いもない
書いているうちに、私こんなこと
考えてたんだと思ったりして、自
分を発見できます。
実は賞金だけじゃない!
エッセイを書く効用
親しい人とおしゃべりすると気分
が晴れますが、書いても同じ効果
があるようです。すっきりします。
賞金は書くきっかけにもなりますし、
書くモチベーションも高めますが、そ
れだけが目的なら、お金を稼ぐ方法は
書く気持ちでいると、日常のなん
でもないことに気づいたりして、
毎日が新鮮なんですよね。
ほかにいくらでもあります。なのに、
エッセイを書いて応募する人が増えて
生きた証として、雑文集として
いるのは、そこにさまざまな効用、副
出版するのが夢なんです。
産物があるからです。
(コメントは本誌掲載の投稿から抜粋したものです)
013
書きたいというのは人間の本能の
入選して「すごいね」と言われた
スポーツで言うゾーンに入った感
ようなもの。書くと精神的に満た
とき、なんだか自分の存在が認め
じ。賞金という獲物に向かって集
されます。
られたようでうれしかったです。
中するあの感じがたまりません。
F
小説の主人公
だからである。
恋人はいない。
山猫ではなく
家猫である。
不足を埋めながら
文を連ねていく
どんな文でも連ねられます。
そして、
︿苦沙弥先生の家の
飼い猫である。
﹀と続けたとす
ると、今度は﹁苦沙弥先生って
れますから、またそれに答えて
でいるの?
先生って教師?﹂
というように新たに疑問が生ま
誰?
どんな人?
どこに住ん
き出しのあとには、どんな文を
︿吾輩は猫である。
﹀という書
書けばいいでしょうか。
いく。これが文脈です。
の家の飼い猫である。
﹀
とはいえ、不足を補う文章で
文にはある一定の方向性、
ベクトルがある
︿吾輩は猫である。苦沙弥先生
ぜしゃべれるのか⋮⋮。
﹀
︿吾輩は猫である。猫なのにな
ほかにも無数にありますが、
︿吾輩は猫である。現総理大臣
これだと意味がつながりませ
あればなんでも書けるというわ
は安倍晋三である。
﹀
ん。
︿吾輩は猫である。
﹀と︿現
けではありません。
としてA∼Hまで挙げ、さらに
から浮かぶ疑問に答えた後続文
上図では、︿吾輩は猫である。
﹀
総理大臣は安倍晋三である。
﹀
の関係がわからず、
﹁はあ?﹂と
この後続文では、なぜいけな
思われてしまいます。
この後続文に連なる ∼ を挙
は安倍晋三である。
﹀は先行文
の先にあるとしましょう。この
ある文章のゴールが、A
げました。
の不足を補っていない、これが
とき、E
の方向に書き出し
原因です。
端的に言えば、
︿現総理大臣
H´
−
A´
いのでしょうか。
A´
たとき、この文を読む人の頭に
︿吾輩は猫である。
﹀と言われ
に方向転換しなければならなく
てしまったら、あとでAの方向
もちろん、必要な迂回はあり
ますが、ある文脈に書かれる文
は、基本的にはすべて主題に向
そうした疑問に答えた文なら、 かっている必要があります。
この猫?﹂
﹁オスなの? メス
なの?﹂
﹁色は?﹂等々。
たとえば、
﹁どんな猫?﹂
﹁ど
なります。
E´
はいろいろな疑問がわきます。
−
C'
D'
E'
猫なのになぜ
しゃべれるのか
というと……。
雄猫である。
食肉目ネコ科の
哺乳類である。
苦沙弥先生は
中学の教師である。
薄暗いじめじめした
ところでニャーニャー
鳴いていた。
C
D
E
B'
吾輩は
猫である。
苦沙弥先生の家の
飼い猫である。
どこで生まれたかは
とんと見当がつかぬ。
B
一歳である。
名前はまだ無い。
毛色は淡灰色の
まだら入りである。
F'
A
H
G
生まれたばかり
だからである。
去年生まれたばかりで、
一歳というのは数え年である。
三毛猫ではない。
A'
H'
G'
1
文章の 2 大メカニズム
先行する文の不足を補う
文脈という言葉がありますが、文を連ねるとは
どういうことでしょうか。そこにはある規則があるのです。
014
参考文献 鈴木信一著『文才がなくても書ける小説講座』
エッセイでトホホな日をお金にかえる
問いと答えがあれば
一文は完結する
エッセイを書く場合、起承転
結などの定型にあてはめる必要
はありません。
② 言外に問いがある
文学賞に応募するとき、賞の趣
旨や過去の受賞作の傾向を調べ、
ティングの手法としては正しい。
その線で書いていくのは、マーケ
確かに、それぞれの賞にはそれ
ぞれのカラーがあるから、見当違
いの作品では話にならない。
れるのは賞のカラーに合った作品
問題は、文学賞が求めているの
は新しい作品ということ。求めら
ではなく、賞のカラーを壊すよう
な傑作なのではないだろうか。
向で考えてみてほしい。
だから、文学賞の傾向を知った
ら、それとは真逆の作品を書く方
④ 答えが言外にある
文学賞に応募するとき、過去の
受賞作に共通する方向性を調べ、
というのは本当だろうか。
その線で書いていくほうがいい、
だからといって、
﹁あの賞はこの
確かに、それぞれの賞にはそれ
ぞれのカラーがあるように思うが、
ような直球どまんなかでは、ライ
手の作品が多いな﹂と誰もが思う
そうなったらまず入選しない。
バルと内容がかぶる可能性があり、
類似は最大の欠陥だ。あの作品
に似ているとか、あの名作の影響
がもろに出ているなどという作品
では、まず受賞することはない。
表面的には問いはないが、前半部分では言外に「本当にそう
① シンプルに問いがある
文学賞に応募するとき、過去の
受賞作に共通する方向性を調べ、
というのは本当だろうか。
その線で書いていくほうがいい、
確かに、それぞれの賞にはそれ
ぞれのカラーがあるように思うが、
手の作品が多いな﹂と誰もが思う
だからといって、
﹁あの賞はこの
バルと内容がかぶる可能性があり、
ような直球どまんなかでは、ライ
あてはめてはいけないとは言
いませんが、あまり型どおりに
第三に、そもそも似た作品はま
とめて落とされるから入選しない。
傑作だろう。
のこれからの代表作になるような
第二に、求められるのは賞の傾
向に沿った作品ではなく、その賞
も二番煎じを求めていない。
に由来することが多いのだが、誰
理由は三つある。
第一に、過去の受賞作に有名な
作品があったりして、傾向はそれ
すなら、これはお勧めできない。
その線で書いていく。受賞を目指
、過去の
文学賞に応募するとき
受賞作に共通する方向性を調べ、
③ 全体が答えになっている
向で考えてみてほしい。
だから、文学賞の傾向を知った
ら、それとは真逆の作品を書く方
似作品への評価は辛いのだ。
そうなったらまず入選しない。類
書くと、文章のダイナミズムが
失われます。
エッセイは、思ったこと、見
聞きしたことを気ままに書いて
かまいません。どう書き始めて
ただし、一つだけ条件があり
どう終わってもいいです。
ます。それは問いを作ってそれ
に答えるということです。
問いといっても論文のような
問いではなく、﹁東京に行った﹂
ということでもかまいません。
でも、そこにも暗に﹁行ったか
らどうなの?﹂という問いがあ
り、それに答えないと話は完結
しません。
ここでは、問いと答えの代表
的な4つの例文を示します。
文体は論文調ですが、これは
問いと答えの関係を端的に示す
ためであって、エッセイを書く
ときは、もっとやわらかい文体
でかまいません。
015
だろうか」という問いを発している。
結論は言わずもがなです。
解説
はっきりと答えを書いていませんが、反証の部分が厚いので
解説
答えを書いている。
のあとでそれに答えている。
最初に「だろうか」という問いがあり、次に反証し、最後に
解説
冒頭で「お勧めできない(それはなぜか)
」と暗に問い、そ
解説
2
文章の 2 大メカニズム
問いを作ってそれに答える
エッセイを書くときは、起承転結でなくてかまいません。
ただ、うまくまとめるには、一つだけ条件があります。
文章には主観という強弱がある
文章は出来の悪い再生装置
言葉で情景を写し取るときは、一から十まで書きません。
どこを厚くし、どこを捨てるか、それは人によります。
何を取り立て、
どう表現するか
ビデオの場合、撮った映像を
ダビングしても内容は変わりま
にコピーしたら東京
せん。東京スカイツリーを撮影
して
タワーになっていた、なんてこ
しかし、文章の場合、読んだ
像と違うと思った人もいると思
を読んだときに頭に浮かんだ映
イラストを見た時点で、原文
トを起こしてみました。
人が東京スカイツリーを知らな
とはありません。
かったなら、
﹁東京スカイツリ
います。
も再現していますから、だいぶ
的で、また原文が省略した部分
も自在ですが、イラストは平面
文章の視点はクローズアップ
ー﹂から﹁空に浮かぶクリスマ
スツリー﹂を想像してしまうか
また、書く側にしてみても、
もしれません。
目に映るものを一から十まで書
印象が違うはずです。
読者 人に情景を再現してもら
次に、このイラストを見て、
くわけではなく、ある部分を抜
き出して強調したり、逆にある
部分は敢えて書かないこともあ
文脈によって人によって、ど
横断歩道にはオレンジ色の夕日
ない﹁季節は 月、時間は夕方。
いました︵イラストではわから
こに力点をおくか、どこを厚く
ります。
4
しどこを薄くするかは違うとい
があたっている﹂ことは事前に
読者 人はイラストの再現を
伝えてあります︶
。
このことを実験してみたのが、
うことです。
10
何を書いて何を書かないか、書
が似ている部分もありますが、
目的に書いていますから、内容
最初の原文は、石田衣良さん
くならどう書くかには個人差が
あることがわかると思います。
の短編﹁十五分﹂の冒頭を引用
下記のイラストと文章です。
4
したものです。
この文章から、まず、イラス
文章の伝言ゲーム実験
ある文章からイラストを起こし、そのイラスト
だけを見てまた文章を書くという
文章の伝言ゲームをしてみました。
再現された文章は、人によってどう違うでしょうか?
石田衣良 著
ろだが、ほとんどは浮きあがるように楽しげなカップルだった。
けるように数千という人が待つ四つ角を結んでいる。年齢はいろい
たいだ。横断歩道は淡いオレンジ色の縞になり、断崖の端につめか
ぼくの座っている席から、J R渋谷駅まえのスクランブル交差点
が見えた。十月になって、だいぶ日が暮れるのが早くなっているみ
『スローグッド
︵石田衣良 著﹃スローグッドバイ﹄所収﹁十五分﹂より︶
原文を読んでイラストレーターさんが描いた絵
8
9
バイ』
(集英社
文庫)
016
エッセイでトホホな日をお金にかえる
読ませるエッセイの条件
何はなくてもこれだけはないと
ベストエッセイ集などを読むと、いいエッセイには共通点が
あることに気づきます。さて、それはどんなことでしょうか。
﹁そうそう﹂
﹁あるある﹂と
﹁へえ、そうなんだ﹂
これも必要ですが、必須とい
﹁構成が巧み﹂
うほどの条件ではありません。
読ませるエッセイの条件は、
︵京都府
歳 自営業︶
酒井恵子さん
前ページのイラストを元に
4人の読者に文章を書いてもらいました
志水孝敏さん
歳 日本語教師︶
谷のスクランブル交差点を見下ろ
窓向きのテーブルには読みかけ
の本とコーヒー。ガラス越しに渋
︵北海道
で、そして渋谷の名高きスクラン
は、札幌から来た身にはまだ真夏
﹁しかしなあ⋮⋮﹂神無月の東京
一つは、共感・感動。
二つ考えられます。
書かれたことを読んで、自分
読むという行為はそれなりに
大変なもので、それをさせるわ
ビル、その右手に歩道橋。色づい
すことができる。真正面に大きな
歩行者用の信号はすべて赤。夕暮
た木々が秋の訪れを感じさせる。
見下ろして、呆れ返ってしまった。
のことのように感じる。
﹁そう
びただしく、青信号を待つ一人一
ちであふれかえっている。人々の
れ時、歩道は信号待ちをする人た
入日はこってりと街を染め、人お
ブル交差点を、カフェ二階席から
けですから、読者にはそれなり
そう﹂
﹁あるある﹂と思う。
もう一つは、新しい何かを与
えてくれること。新しい情報、
人はまるで新印象派の点描だ。愛
群れの中から一本の横断歩道がま
新しい見方などが書かれてあり、
つ、街・人・車列のせわしなさに、
る。横断歩道は夕陽でオレンジ色
っすぐこちらに向かって伸びてい
読書をめくりコーヒーをすすりつ
﹁へえ、そうなんだ﹂と思うよ
点の向かいにどっしりと、︵札幌
歳
教員︶
︵大阪府
歳
自由業︶
家間歳和さん
が行きかう。
思わずため息を漏らす。ただ交差
た子は誕生パーティーが開きに
︵和歌山県
不動坊多喜さん
に染まり、その上を泳ぐように車
うなことが書かれている。する
くいよなあ﹂と気づかされます
にもある︶東急デパートがそびえ
と、つい読んでしまいます。
﹁表現や比喩が絶妙﹂
し、選に漏れた5作品について
て、心を和らげてくれた。
うか。
5月号で募集したエッセイの
最優秀作品︵次ページ参照︶を
﹁文章のリズムがいい﹂
私は読んでいた本を置き、窓外
に目を移した。そこに広がるのは、
﹁題材の切り取り方がうまい﹂
コーヒーを飲もうと、本から顔
を上げた。スクランブル交差点の
交差点だ。某百貨店の大柄な建物
海外でも有名な渋谷スクランブル
も、
﹁へえ、五回も教員試験に
落ちる人がいるんだ ﹂
﹁へえ、
壁は、夕日を反射して輝いていた。
な街路がクロスしている。各コー
をセンターにして、その前を広大
斜向かい、東急デパートの西側の
空は一面オレンジ色で、見下ろし
ナーの歩道には人の群れが、右へ
﹁へえ、冷え性って大変なんだ
左手の街路樹の向こうで、電車が
っていた。信号がかわった瞬間、
左へと流れる車を見入るように立
光景は、外国人観光客にも人気ら
この群れが車道にあふれる圧巻の
しい。私は信号がかわる直前の交
通行人でいっぱいだろう。車は南
北に流れているが、信号待ちは数
ている。今頃は、右手の連絡橋も
人が吐き出され、交差点に群がっ
た歩道も同じ色に染まっている。
なんだ﹂と思わせる内容になっ
ていました。
エッセイに不可欠なのはこう
した﹁へえ﹂で、
﹁へえ﹂なく
読ませるエッセイにはなりにく
差点を眺めながら、珈琲を口に含
んだ。
させた。
珠つなぎで、渋滞の始まりを予感
して文章をこねくりまわしても、
動き出した。駅ビルからは次々と
な﹂など、改めて﹁へえ、そう
イギリスの夏ってそうなんだ﹂
﹁目の付けどころがいい﹂
ことで、ご褒美には入りません。 見ても、
﹁夏休み期間に生まれ
これは大前提。言わば当然の
﹁わかりやすい﹂
﹁読みやすい﹂
ッセイ︶を読んでくれるでしょ
れば、あなたが書いた文章︵エ
では、どんなご褒美を用意す
せん。
のご褒美を用意しないといけま
59
53
いものです。
017
29
52
エッセイ募集 審査結果発表
本誌 5 月号で募集したエッセイ
(テーマ
「夏」)には 375 編の応募がありました。
審査結果は下記のとおりです。また、次ページ以降では、
選外作品の中から5 編を選び、添削講評して紹介します。
歳
教師︶
飛び込むフットワークがおおいに必要
︵大分県
﹁ 夏休み中の誕生日﹂ 田中祐輔
﹁学校が終わったら、家でお誕生日会
とされるのです。そこにいくと、残念
ながらその二つの素養は僕にはちょっ
と備わっていませんでした。
てさあ、うちで遊ばない?
いや、遊
ぶっていうか⋮⋮その、パ、パーティー
﹁あのー、ちょっとさあ、八月の五日っ
夏休み中に友だちを呼ぶということ
は、放課後にちょっと来てもらうのと
なんだけど。あ、いや、おれの⋮⋮﹂
﹁うーん、その日はちょっと⋮⋮﹂
なんて言ってしまえば、もう気持ち
がぽっきり折れてしまうのです。まし
て﹁自分以外に誰が来るの?﹂という
お決まりの文句を言われては、さえな
い営業マンは﹁もごもご﹂っと口ごもっ
個人へのアタックです。たとえば放課
と考えるだけで僕はファイティングポ
ここまでは、妄想です。結局こうい
うことになってしまうのではないか、
てしまうことになるわけです。
後のお誕生日会に、コンサートやショ
ーズすら取ることができなくなるので
電話を一人ひとりにかけるというのは、
僕は誕生日会を開いたことがありま
せん。この事実は、少なからず内気な
アポイントを取ってクライアントを獲
を期待する興業的要素があるとすれば、 す。
ーのように大々的に広告を撒いて集客
ら電話をかけるということは、完全に
手次第になります。しかし、こちらか
あの一言をクラス全体にポンと発せ
てしまえば、あとは来るも来ないも相
﹁学校が終わったら﹂
介なわけです。
ません。夏生まれにとって、これが厄
そして電話をかけまくらなければいけ
そんな電話を最初にかける一番の友
おもてなしをする側としては、まず何
人来るかを想定し、集合時間を設定し、 だちが、
はけっこう大きな隔たりがあります。
です。
と、お昼休みだとかの教室でみんな
に気軽に言えないのが、夏生まれなの
をやるから、来てね!﹂
30
ないかと推察しています。
得するような営業的な重みがあります。 僕を形成した一個の理由であるのでは
フロンティア・スピリッツと相手の懐に
全応募作品は本誌編集部による
予選により6編に絞られ、読者
審査員4名によって10段階評価
で審査されました。その結果、
最多得点だった「夏休み中の誕
生日」を最優秀賞としました。
い筆力を感じました。
ユーモアあふれる語り口で、
とても楽しく読めました。自
分で誕生会のメンバーを集め
なければならない。その際の
苦しさ、気恥ずかしさを﹁ア
ポイントを取ってクライアン
トを獲得するような営業的な
重み﹂と形容するセンスが光
っており、笑えると同時に高
志水孝敏さんの
最優秀賞の講評
審査方法と結果
「夏がくれたもの」田中葉子 (30)
「夏の虫対策」木戸間さよ子 (30)
「寒すぎる」パセリ
(31)
「花嫁の言葉」万田真理
(24)
最終審査結果
(総得点)
見えてこない。暗い過去を妄
想という言葉で笑いとばし、
開き直りたかったのか。それ
終わり方が残念だった。内
気な自分をどうしたいのかが
夏休みに開く場合は休み前に
声をかけてリサーチしておく
かなとの思いも⋮⋮。でも、
それを超越する笑いに包まれ
た楽しい作品でした。
み進めました。実際は、誕生
日会は数日前から親しい友人
にのみ声をかけるかなとか、
夏生まれの子はこういう悩
みがあるのかと、興味深く読
家間歳和さんの
最優秀賞の講評
ました。
夏生まれの人の苦労がうか
がわれ﹁なるほど、そうなん
だ﹂と気づかされました。他
人にはわからない心の葛藤、
気遣えば気遣うほど裏目に出
てしまう現実。子どもなりの
苦労を今ではギャグとして思
い出せるけど、繊細な筆者の
こと、最後の二文が効いてい
酒井恵子さんの
最優秀賞の講評
「夏休み中の誕生日」田中祐輔(39)
とも書くことで過去を昇華し、
脱内気を図りたかったのか。
その場合は、素直に﹁誰か一
緒に祝ってくれませんか﹂と
すればうなずいたのだが。
不動坊多喜さんの
最優秀賞の講評
(32)
「イギリスは夏」宮崎信治
最優秀賞
018
エッセイでトホホな日をお金にかえる
選外になった作品による添削講評
ここでは選外作品から参考作品を紹介します。
﹁ 消えたカブトムシ ﹂
簡単にカブトムシやクワガタが取れる
寄りの情報を仕入れた。
﹁お前だけに
ある日、クラスメートの一人から耳
でカブトムシやクワガタをカーテンに
昆虫を武勇伝のように話した。夜中ま
宅した。両親には初めて一人で採った
しながら虫かごに収め、意気揚々と帰
講評
上記のエッセイは、文章そのも
のは上手ですが、構成でつまずい
てしまったのが惜しまれます。
左記の図はひとつの典型的な例
ですが、話の構造はロールケーキ
、
、
という
つまり、A、B、C⋮⋮と話題
の断面のようになっています。
を 振 っ た ら、
と帰宅します︵ ︶
。
︶を 書
本来なら、友人はなぜウソをつ
い た の か、B の 答 え︵
また、終盤になってから、それ
かないとおちつきません。
︶
。問いがないのに答
までなかった新しい話題を出して
います︵
友人は黙っています︵B︶
。で、
昆虫採集は不発に終わり、なぜか
で昆虫採集の話をします︵A︶
。
﹁消えたカブトムシ﹂では、冒頭
り、オチをつけたり︶します。
でした。
ーマを匂わすCを書いておくべき
しかし、それならば前半でこのテ
はこれが本来のテーマでしょう。
っています。というより、恐らく
んだ﹂とあり、テーマがすりかわ
しかも、
﹁昆虫だって命がある
えだけがある感じです。
別日、筆者は虫を採り、意気揚々
ように話題を回収︵疑問に答えた
A'
志摩杜史
歳 自営業︶
虫採集の道具一式を持って、炎天下の
秘密の場所を教えてやる﹂町の端にあ
張りつけて遊んでいた。ところが翌朝、
そのとき、父が言った。
﹁俺が全部逃が
B'
︵神奈川県
私が小学生だった頃、男の子の夏の
なか、ひとり秘密の場所に向かった。
秘密の場所のクヌギの木には、生ま
A
過ごし方は野球か昆虫採集だった。特
子どもの足で片道一時間以上もかかる。
っていれば、誰でも一瞬ヒーローにな
れたばかりの赤色のカブトムシやクワ
る森の中の道なき道を進み、やっとそ
見てみると昆虫が一匹残らずなくなっ
しかし、どこをどう探してもクワガ
してやった﹂
﹁なぜ、そんなことをする
C'
に、昆虫採集ではカブトムシ︵オス︶
れた。私は昆虫採集が不得手で、珍し
ガタが十数匹も張りついていた。網な
の場所に辿り着いた。四畳半くらいの
ていた。私は叫んだ。
﹁俺が採ったカブ
タもカブトムシも一匹もいなかった。
の?﹂
﹁家に置いておいても死ぬだけだ
亡くなってから二十年以上たつ。しかし、
A'
着いたら夕方になっていた。
い昆虫を持っている子どもたちを羨望
ど必要なかった。直接手に取り、興奮
スペースの真ん中に、細いクヌギの木
トムシやクワガタがいなくなっている﹂
友人はニヤニヤしながら黙っている。
ろ。昆虫だって命があるんだ﹂私は泣
夏休みも後半に入り、私は暇を持て
毎年夏が来ると私は、あの日のあの出
B'
やクワガタ︵ノコギリクワガタ︶を持
の眼差しで眺めた。
が一本生えていた。
﹁このウソつき!﹂私は重たい足を引
きながら父を責め立てた。そんな父が
余していた。ふと友人から教わった秘
来事を思い出してしまう。
B
きずり、帰路についた。
密の場所に行ってみようと思った。昆
019
A'
C'
55
C'
選外になった作品による添削講評
選外になった作品による添
﹁ 夏の日 ﹂
①
に送り仮名をつけます。
⑩現在の表記では﹁答え﹂のよう
改行ゼロは読みにくい
①書き出しや改行後は一字分下げ
添削
ましょう。
この﹁私が﹂は削れます。
テンを打ってはどうでしょうか。
の境目と接続助詞の
﹁が﹂
のあとに
②エッセイは﹁私が﹂が前提です。 ⑪読点なしはつらいですね。重文
③カタカナにして軽みを出しまし
亡くなってしまったことが残念に
④﹁共に﹂はかな書きにしましょ 一例
私には戦地に赴き、傷痍
う。また、
﹁戦争、日の丸、感情論﹂ 軍人として帰還した父がいたが、
﹁傷夷﹂
は
﹁傷痍﹂
ですね。
思えた。
たが、漢字でもいいでしょう。
は戦地に赴き傷夷軍人として帰還した
が並んでいるように見えます。﹁戦
⑪
父がいたが亡くなってしまったことが
⑫係り受けは﹁拙い知識を↓話し
とは限らないので⋮⋮。
み砕く﹂などがいいでしょう。
ようにかみ砕いて話した。
一例
仕方なく私は、拙い知識
ながら少しでもわかりやすくなる
堅い気がします。
⑬逆接が続いてしまっています。
⑧略語は避け、
﹁テレビ﹂と書き
⑦これもかな書きを推奨します。
のはちょっと乱暴ですね。
⑭﹁まあ、いいか﹂で終わらせる
していた父もいないが⋮⋮。
戦争の話を無理やり聞かせようと
と君が代を歌う息子に、厳格で
カーの試合を見て
﹁かっこいい﹂
捨ててしまうのではなく、サッ
ましょう。
字の原稿で、一
あったろう父親の話を対比させ
度も改行していないの
は読みにくいです。特に話が変
ていたら、軽妙でどこか重みの
あるエッセイになったでしょう。
わる場面では、先行文脈と後続
﹁まあ、いいか﹂
で打ち
最後は
文脈の関係がわかりにくいです。
講評
⑨音引きは必要ないでしょう。
たほうがいいでしょう。
がありますので、
﹁子ども﹂とし 一例
もうあの頃の小さかった
息子はなく、娘三人を正座させて
⑥﹁供﹂には相手を下に見た印象
⑤﹁歴史的背景における﹂は少し
た﹂ではなく、
﹁拙い知識を↓か
争、日の丸、君が代﹂を並べまし
⑫
残念に思えた。父なら詳しく息子に話
を聞かせたろう。仕方なく私は、拙い
知識を少しでもわかりやすく話した。
息子は﹁ふーん﹂とまじめに聞いたが、
一例
戦争や日の丸同様、君が
代に特別な感情を抱く人もいない
ょう。
こいいんだもん!﹂と明快な答。私に
⑩
ぜそんなに君が代ー﹂と問うと﹁かっ
⑨
くことを始め、
私は頭をかかえた。
﹁な
かな住宅地で君が代をリコーダーで吹
歳
主婦︶
千葉えり子
︵宮城県
今年一月に成人したばかりの息子は、
幼稚園から小学校低学年ぐらいまで
﹁君が代﹂
をしょっちゅう歌っていて私
②
を困らせた。君が代は国歌であり、音
⑤
③
楽の教科書にも載っているので私が
④
というのもヘンだが、戦争、日
﹁困る﹂
の丸と共に歴史的背景における人々の
感情論もあるので、まっ昼間から大声
⑥
で歌う子供の口をあわててふさぐよう
なことをしていた。息子がなぜ君が代
所詮子供、翌日からいつものが始まっ
ていた。今ではいったいいつ君が代を
を歌うようになったのか、その裏には
何もない。ただ好きになったのだ。我
歌わなくなったのか、よく覚えていな
あ、いいか。
い自分を忘れているだろう。でも、ま
⑭
い出は実に清々しい。息子はそんな幼
かせようとしていた父もいないが、思
人を正座させて戦争の話を無理やり聞
小さかった息子はいないけれど、娘三
⑬
つかしい思い出である。もうあの頃の
が代の日々だったが、今ではただ、な
だろう。私にとっては毎日冷や汗の君
なら、息子は戦争に駆り出されていた
い。息子も大きくなったのだ。世が世
が家の近くに自衛隊の飛行場があり、
当時ラッパの音や君が代がよく聞こえ
ていた。ある日、息子が窓をあけて神
妙な顔で何かに聞き入っていた。する
⑦
と﹁これ、オリンピックの表彰式の時
に流れる曲!﹂
といい出した。それが
⑧
〝初君が代〟だったのだ。また、息子
はサッカーが好きで代表戦をTVでよ
く見ていたが、選手が国旗掲揚時に胸
に手を当て目を閉じて君が代を歌う姿
に興味津津となり、日常的にやるよう
になった。さらには姉と二人で夜、静
%
%
57
020
エッセイでトホホな日をお金にかえる
歳 無職︶
高橋祥子
︵新潟県
と一緒に水を切り、水にさらして、ハ
うめんの中に投入して混ぜ、そうめん
一分になったら、細切り玉ねぎを、そ
﹁ そうめんの季節 ﹂
①
面食い、では無いと断言できるのだ
が、自信を持って、麺食いだと断言で
きる。
イでき上がり。
玉ねぎを煮すぎると、おいしくない。
⑩
シャッキ感が残った玉ねぎは少し甘く
ティ、麺にも
うどん、そば、スパゲ
②
いろいろあるけれど、何と言っても、
そうめんが、大好きなのである。ひや
変身して、そうめんの味にからんで、
③
むぎではだめ、太くてボソボソする。
おいしさと食感がアップされるのであ
④
ラーメンではだめ、噛みごたえありす
る。
んを少しおさ
自作のつゆでは、みり
⑫
えて辛味に仕上げる。市販のつゆでお
⑪
ぎ。そうめんが、のどごしといいツル
ツル入っていく食感といい、第一位で
ある。
⑤
なそうめんに。
⑮
と、宣うのである。しかたないなあ
と、朝と夕飯は米飯にし、昼は大好き
⑭
﹁麺では、食べた気がしない。﹂
る。
ンギンに迫って
気に入りのものもある。
⑥特に、夏の太陽がギ ⑦
来るお昼は、そうめんに決まりである。
一番のそうめんの敵は、実は夫とい
う存在であり、彼はご飯食いなのであ
水をはったガラスの器に、タプタプ
と浮かんだそうめんをすくい上げ、つ
ゆにチャポと浸し、すかさずツツーと
⑧
吸い込んでいく時には、夏で良かった
⑨
夏よありがとうという気持ちで満ちて
くる。
⑬
家計が炎上するが。
いしいのだ。百円台よりも五百円台、
そうめんの食べ方で、私が一番好き それと、そうめんは、値段は高いけ
な合わせる野菜は、玉ねぎなのである。 れど、やはり知名度の高いものは、お
玉ねぎは前もって細切りにしてスタ
ンバイさせておく。
そうめんを三分茹でるとして、残り
無い﹂のような書き方の場合は漢
①単に有無を問題にして、
﹁金が
もいいでしょう。
⑧﹁気持ちで満たされる﹂として
よさそうです。
⑦﹁そうめんで決まり﹂のほうが
最後になって話を足さないこと
字でもいいですが、
﹁ではない﹂
⑨
﹁私が一番好きな合わせる野菜﹂
添削
て使う場合はかな書きにします。
﹁書かない﹂のように助動詞とし
は少しこなれませんね。
のように独自のオノマトペを駆使
⑩ こ れ ま で﹁チ ャ ポ ﹂
﹁ツ ツ ー﹂
一例
そうめんに合わせる野菜
で私が一番好きなのは⋮⋮。
②﹁なん﹂と読ませる場合はかな
書きを推奨します。
④﹁ガタン﹂とか﹁ワンワン﹂な
③少し大げさかもしれません。
ど音を再現する擬声語の場合はカ
タカナがいいですが、
﹁ボソボソ﹂ してそれなりに功を奏していたよ
⑤﹁ギンギン﹂は擬声語ではあり
せんでした。
ツー﹂は擬声語と判断して直しま
ルツル﹂
﹁タプタプ﹂
﹁チャポ﹂
﹁ツ
章ではないですね。
⑫これ自体はあまり意味のある文
したほうがいいでしょう。
⑪﹁自分でつゆを作る場合は﹂と
語や流行語は避けましょう。
感をつける傾向がありますが、新
感心しません。最近はなんにでも
ませんが、このままカタカナのほ
⑬この句点は不要です。
うに思いますが、
﹁シャッキ感﹂は
うがいいですね。
⑭
﹁宣う﹂
は難読です。
﹁のたまう﹂
のような擬態語はかな書きを推奨
⑥単独で﹁来る﹂と書く場合は漢
します。このあとに出てくる﹁ツ
字で書いてもいいですが、
﹁迫っ
話を足すのではなく、話をまと
と書きましょう。
める方向で考えます。
⑮連用止めはやめましょう。
終盤話が崩れます。急
てくる﹂のような場合はかな書き
に夫が出てきますし、
を推奨します。
講評
ご飯食いの夫、値段が高いとい
前半でそうめんの魅力を語り、
後半、そうめんの敵、すなわち、
最後になって
﹁そうめんの敵﹂
と
言い出しており、そうめんの敵
うことでまとめたかったです。
の部分が少なくバランスが悪い。
最後の4行も唐突。ここでは
021
57
選外になった作品による添削講評
﹁ サプライズ花火大会 ﹂
I・S
︵大阪府
歳 主婦︶
テーブルの上
夕闇が迫る頃、大きな
⑦
にはスパイシー料理が処せましと並び、
⑩
に消えて行く花火が一層今夜のパーテ
⑪
げられた。ポンポンと上る花火、星空
ニーの向こう側から突然花火が打ち上
した頃、高台の見晴らしの良いバルコ
ったりで美味だった。宴も最高潮に達
クチキンは冷えたワインやビールにぴ
ラム酒に漬け込んで焼きあげたジャー
イムやナツメッグ等スパイスの効いた
⑧
夏と言えば花火でしょう?
高く澄
み切った夏の夜空に豪快に打ち上げら
③
わりを知らないかのように、どんどん
③
上る様は美術館で見事な芸術作品を見
④
入っている時と同じ感動を覚える。
私にはサプライズと言える思い出の
花火がある。娘の夫が﹁会社で取引先
からパーティーの招待状をもらったか
⑤
ら家族で行こう、身軽な服装でカリビ
アンスタイルのパーティーだって!﹂
ィーに花を添えたようだ。
⑬
②
タコやイカ等の魚貝類、赤玉ねぎ、タ
72
毎年夏が近づくと花火好きの私はあ
の雄大なサプライズの花火を懐かしく
いる。
驚くと同時にすて
スケールの違いに
⑭
⑮
きな体験ができた事を娘達に感謝して
をしたユニークなものだった。
日本では考えられない個人宅での大
⑥
ラッキーなことに滞在中の私も同行、 規模な打ち上げ花火、外国ではそう珍
服装に悩んでいた私に娘が﹁軽いワン
らしいことではないそうだが・・・。
ピースにしたら?﹂と。孫たちはお揃
いのピンクのサンドレスにママ手作り
のブレスレットと嬉しそう。
庭を散歩したり子供たちはゲームやダ
ーツをしてもらったりと楽しんでいた。
花火を心待ちにしているのです。
⑯
の人々が思い思いにお酒片手に談笑し、 思いながら、我家のベランダから見る
ワインを持って少し
当日、手土産の
郊外にある館を訪ねた。既にたくさん
⑫
と、確かに招待状もアロハシャツの形
⑨
れる花火、大きな円を描き幾重にも終
①
添削
魚介類、赤玉ねぎを使ったスパイ
一例
夕闇が迫る頃、大きなテ
ーブルの上には、タコやイカ等の
他人が読んでもわかるように書く
①疑問符は要らないでしょう。
②﹁幾重にも大きな円を描き﹂が
いいでしょう。
⑨﹁魚介類、赤玉ねぎ、ジャーク
⑧この場合は﹁魚介﹂です。
⑦﹁所﹂としましょう。
しょう。ここも説明不足。
⑥どこに滞在しているのか書きま
は説明不足ですね。
⑤﹁カリビアンスタイル﹂だけで
を書き出しにしましょう。
④冒頭部分が浮いています。ここ
ど意味がありません。
入っている﹂などの比喩はほとん
や﹁美術館で見事な芸術作品を見
⑭この﹁事﹂は﹁こと﹂とかな書
つ重ね、
︵⋮⋮︶とします。
⑬ここは三点リーダー︵⋮︶を二
は先に書いておきましょう。
⑫﹁個人宅で、外国であること﹂
⑪﹁いっそう﹂がいいでしょう。
なった印象があります。
⑩経過がなく、いきなり最高潮に
だった。
ワインやビールにぴったりで美味
たジャークチキンもあり、冷えた
せ、ラム酒に漬け込んで焼きあげ
ムやナツメグ等のスパイスを効か
③
﹁終わりを知らないかのように﹂ シー料理が所狭しと並んだ。タイ
チキン﹂が並列で並んでいるのだ
ム酒﹂とも読めます。スパイスが
めますし、
﹁スパイスの効いたラ
もスパイスであるかのようにも読
は﹁我が家﹂としましょう。
れも説明不足です。また、
﹁我家﹂
⑯花火が見えるのでしょうか。こ
きにしましょう。
⑮﹁達﹂のような接尾辞はかな書
と思いますが、﹁魚介類、
赤玉ねぎ﹂ きにしましょう。
効いているのはジャークチキンで
書くのが遅すぎますね。ほかに
え込まないと、赤の他人である
臭があります。そこをうまく抑
とても思い出深い花火だった
と思いますが、全体的に自慢話
う意識を持ちましょう。
はないでしょうか。
外国に滞在中に個人宅
も、説明不足の箇所が目立ちま
読者は共感できません。
講評
す。エッセイを読むのは、自分
に行ったという説明を
のことを知らない赤の他人とい
022
エッセイでトホホな日をお金にかえる
﹁ 夏、昭和あのとき ﹂
A・M
︵石川県
歳
会社員︶
た。こうして子供たちは親の過保護を
⑫
会はもとより、子供
近年、大人の社
①
達の世界でも、夏の日に沈みゆく真っ
受けることなく、仲間うちで社会性を
②
赤な太陽、肌に心地よく吹く風のそよ
学ぶことになりました。
③
することが少なくなりました。人為的
に作られ管理された自然のなかでは、
本物の感動を得ることは少ない時代で
もあります。
まれ、幼少時
⑤私は福井県美浜町で生
⑥
より山野と、若狭の海へ泳ぎに行くこ
節の光や風を体で感じました。さまざ
まな自然から生きた学びを手にするこ
とができました。命や心の大切さを学
⑮
ぶ機会でもあります。
は、今、昭和三十年から四十年代
私
に戻ろうとすることは不可能です。た
⑧
十年から四十年代の高度経済成長時代
ルに書きましょう。
うか。また、ここももっとシンプ
昔はよかった式の思い出話ではだめ
①挿入句が長く、
﹁子どもたちの
添削
世界でも﹂と﹁体験することが少
水泳をし、時間も忘れて暗くなる
なくなりました﹂の係り受け距離 一例
小学校入学後は地元の同
級生や先輩とチャンバラごっこや
が長くなってしまっています。
⑩ここももっと平易に。
⑨﹁遊ぶ﹂でいいでしょう。
まで遊び⋮⋮。
することが少なくなりました。
一例
近年、子どもたちも、夏
の太陽や風、季節の気配などに接
②﹁を体験する﹂でしょう。
③﹁人為的に作られ管理された自 一例
時間も忘れて暗くなるま
で遊び、帰る頃には日が暮れてい
⑥﹁海へ行く﹂ではなく、
﹁海に
から﹂がいいでしょう。
う文脈と勘違いします。
﹁幼少時
⑤﹁より﹂だと﹁AよりB﹂とい
り口はないか考えてみましょう。
④言い古された内容です。別の切
⑬先行文脈で﹁しかり﹂と書いた
名が抜けてしまったのでしょうか。
ね。あるいは﹁見聞き﹂の送り仮
⑫﹁見聞しました﹂は大げさです
絆を深めました﹂とか。
があることを学び、先輩後輩とは
⑪抽象的です。
﹁遊びにもルール
ました。
然﹂は少し堅いです。
行く﹂としましょう。
ら、後続文脈も﹁しかり︵もそう
⑦もっと簡単に書けそうです。
た。
⑮この﹁私は﹂は不要です。
返されている気がします。
⑭全体的に似たような言葉が繰り
である︶
﹂で受けましょう。
⑧﹁高学年中学生﹂は﹁小学校高
一例
私は福井県美浜町で生ま
れ、幼少時から山や海で遊びまし
学年、中学生﹂という意味でしょ
こともないとありますが、これ
ぶことも子ども同士で学び合う
今は少ない。自然に学
に書いてほしかったです。
他人が読んでも共感できるよう
なことを書いてもいいのですが、
な話で終わっています。個人的
また、これらに対する解決策
もなく、内容も空疎で、個人的
昔は感動が得られたが、
を読んでもどうにもできません
講評
あります。山と海で遊び学んだ社会性
から不快感だけが残ります。
を歩むことが、目標であり生きがいで
過去のよき体験を活かし充実した人生
と自然は大きな人生の先生でした。
暦を過ぎ長寿健康社会を過ごす上で、
郷で学んだ夏の体験を通して、現在還
自然によって学ぶことが多いです。故
に見えないものへの畏れと感謝などは
心の大切さ、他の人への思いやり、目
貴重な人生訓でもあります。人の命や
だ往時の生活を通して体得したことは
とが楽しい時を過ごしました。昭和三
夕陽に感動することしかり、魚を捕
ることで命の尊さを学び、変化する季
ぎ、季節のうつろう気配などに、体験
となく叱り注意する場面を見聞しまし
61
です。小学校入学後は地域に住む高学
年中学生の先輩を中心に、仲間を作り
⑨
チャンバラごっことか、水泳に行き時
間も忘れ暗くなるまで興じたり、自宅
へ帰るタイミングは夕陽の落ちる頃合
いを見ていました。美しい自然の風景
と、大きな自然のリズムのなかで過ご
したものです。
子供仲間のコミュニケーションによ
⑪
り、遊びの不文律とか、先輩後輩の絆
について学びました。時には地域社会
の大人は、自分の子供でなくても誰彼
023
⑬
⑭
④
⑦
⑩
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