...

ABL 普及・啓発コンテンツ

by user

on
Category: Documents
2

views

Report

Comments

Transcript

ABL 普及・啓発コンテンツ
リレーションバンキングの実践に有効な手法!
ABL
普及・啓発コンテンツ
ABLはお客様の事業
改善に役立つという記
事が出ていたわよ。
へぇ∼。そうか。
調べてみるよ。
目次
 導入編…………………………………………………................p2
 基本編
 はじめてのABL.................................................................p9
 ABLの好事例
▪ 成長を支援したケース ...............................................p15
▪ 評価に外部事業者を活用したケース …………………p16
▪ モニタリングに外部事業者を活用したケース …………p17
 発展編
 本編 …………………………………………………………..p18
 演習シート
▪ 貸出可能額の算出 …………………………………….p55
▪ ABLコスト試算フォーマット ……………………………p58
▪ 登記事項証明書 ……………………………………….p60
▪ コベナンツを活用したアーリー・ウォーニング …..........p62
▪ モニタリングフォーマット例 …………………………….p66
 用語集 .....................................................................................p68
 確認テスト ………………………………………………………..p71
1
ABL普及・啓発コンテンツ
導入編
2
【はじめに】
融資担当者のみなさんへ
成長力があるのに、担保となる不動産を持たない企業に対して、どうやって成
長資金を融資すればいいか、悩んでいませんか?
他の金融機関にはない融資提案をしたいと日々奮闘していませんか?
こんなとき、ABL(アセット・ベースト・レンディング)、動産・債権担保融資という
方法が使えるかもしれません。
実は、ABLは、担保物件だけの話ではありません。
担保とする在庫や売掛債権を通じて、事業そのものが自ずと見えてきます。
ABLは、取引先への経営コンサルティングなど、多様な提案の基礎になるもの
です。
ABLはリレーションシップバンキングの実践に有効な手法!
在庫等の動産や売掛債権担保も、登記ができる!
売掛金も担保化して資金調達に活用できる!
まずは、次頁より「導入編」をご覧ください!
登場人物のご紹介
安心魚類
社長
サポート銀行
東京支店
担当者
サポート銀行東京支
店担当者、良心太郎
(入行4年目)
誠実工業
社長
サポート銀行
東京支店
支店長
3
【導入編 ステップ1】 取引先への提案で困っていませんか?
サポート銀行の法人融
資担当、良心くんは、
誠実工業の社長から呼
ばれ、訪問しました。
実は、取引先の円満工業が、う
ちの商品の納入を今の2倍に
増やしたいといってきてね。うれ
しい話なのだが、円滑に発注に
応えるには、もう少し運転資金
の融資枠を増やしてもらえると
ありがたいのだが・・・
社長、分かりました。
検討してみます。
最近は、無担保だ
ときついからなあ。
保全、保証協会の
枠を確認してみな
さい。
在庫や売掛債権
担保の登記制度
のことが新聞に
出ていたわよ。
支店長、在庫や売掛金を担保に
する方法があります。不動産とは
違って、抵当権は設定できません
が、譲渡担保という方法を使えば、
在庫は手元に置いたままで、担保
にできます。この方法で融資がで
きないでしょうか?
支店長、誠実工業の社長か
ら、運転資金を増枠してほし
いという話なのですが。
不動産担保の枠空き
も、保証協会の枠も、
いっぱいか。何かほ
かに方法はないもの
かなあ・・・。
良心くんは、司法書士を訪問
して、動産・債権譲渡登記の
進め方について教えてもらい
ました。
そうか。よく考えたな。では、
その方法で誠実工業の社
長へご提案してみなさい。
4
【導入編 ステップ2】 取引先との関係が自然に強化できる仕組み!?
翌日、良心君は、誠実
工業へ提案を持って
行きました。
昨日の件ですが、御社の在
庫と売掛金を担保にご融資が
出来ます。毎月、在庫と売掛
金の内容を報告していただけ
れば大丈夫です。
猫の手も借りたいときに、
余計な仕事が増えるのは、
かえって困るな。
支店長、例の件ですが、
社長から、在庫や売掛金
の報告をするんでは、余
計な手間だといわれてし
まって。
社長への説明の
仕方が悪いん
じゃないのか。
ABLはお客様の事業
改善に役立つという記
事が出ていたわよ。
へぇ∼。そうか。
調べてみるよ。
良心くんは、新聞のバックナン
バーでABL事例を調べて、再度
誠実工業を訪問しました。
社長、在庫や売掛金の状況を報告いただく
ことで、資金繰や取引先紹介なども含め、御
社に総合的なご提案が、きめ細かくできるよ
うにします。ぜひご検討ください。
そういうことなら、一度試してみ
てもいいかな。
そういえば、昔の担当者は、毎
月、割引手形の集金に来るつい
でに、ラインの仕掛品をチェック
したり、売掛金について細かく聞
いてきたなぁ。
5
【導入編 ステップ3】 「生き物」も在庫担保にできるのか?
実は、取引先の満腹食品が、
手形支払をやめて振込みに
したいといってきてね。割引
が使えないと、資金繰りが心
配で・・・。
誠実工業の件でABLに詳しく
なった良心くんは、1週間後、
養殖業の安心魚類から相談があ
るとの電話をうけ、訪問してい
ます。
社長、実は、売掛金も譲渡担保
という方法で、資金調達に活用
できるんです。
それに、在庫もあわせて譲渡
担保にすれば、融資枠も広がり
ますよ。
念のため、携帯電話で司法書士に
確認してみました。
ウチの在庫は、養
殖のいけすだぞ。
本当に担保になる
のか?
社長、大丈夫です!
養殖の魚や家畜などの生き物でも、
譲渡登記ができます。
たしかに・・・
その晩、支店長を
囲んで一杯。
おまえも一人前になったな。
これで、今期の目標もクリ
アできそうだな。
はい!
がんばります!
6
【本資料のつかいかた】
何熱心に読んでるの?
あら、見つかっちゃった。
「ABL貸し手向けテキス
トよ。
ABLはリレーションシップバンキングの実践に有効な手法!
在庫等の動産や売掛債権担保も、登記ができる!
売掛金も担保化して資金調達に活用できる!
本教材の構成
【導入編】
「ABLの役立て方」がわかります!
では次に、【基本編】をご覧ください
【基本編】
「これまでの融資と
何が違うのか」が
わかります!
【発展編】
「案件をどのように進
めればいいか」が
わかります!
7
ABL普及・啓発コンテンツ
基本編
8
【基本編】
1.1 Q ABLとはどんな仕組みですか?
A
 ABL(動産・債権担保融資)では、企業の事業活動を形
成する、在庫や売掛金、機械設備等を担保に取得します。
 ただし、借り手は、通常の営業の範囲内で、事業資産の
使用、処分が自由に行えます。
 ABLは、事業の継続を前提とし、貸し手がその事業価値
を見極めた上で行う融資であり、リレーションシップバン
キングの実践に有効な手法です。
ABLの考え方
売掛金
在庫
機械
●▲銀行
事業価値に基づき
資産を担保として提供
借り手(企業)
価値を見極め資金を融資
適宜経営への助言も提供
貸し手
¥
さらに詳しく知りたい読者のために
 <ABLとは何ですか>(借り手向けテキストP6)
 <ABLの特徴は何ですか>(借り手向けテキスト P7)
 【用語集】「ABL保証制度」、「事業収益資産」、「所有権」、「所有権留保」,
「コベナンツ」、「コミットメントフィー」、「コミットメントライン契約」、「シンジ
ケートローン」、「極度額」
9
【基本編】
1.2 Q 動産・債権とは何ですか?
A
 動産は、不動産以外の有形資産のことで、在庫や備品、機械・
設備等のほか、家畜や養殖されている魚等も含まれます。
 債権は、売主が買主に売買代金の支払を請求する権利などの
ことをいいます。
 企業のバランスシートの中で見ると、動産としては主に棚卸資産
(在庫)や機械・設備等があり、債権としては主に売掛金があり
ます。
 動産は、不動産と比較すると、文字通り「動く」こと、そして、様々
な物品が含まれるため評価の方法や専門家も多様である点な
どが異なります。
企業のバランスシート構成 (全産業)
項目
現金・預金
受取手形
売掛金
棚卸資産(在庫)
有価証券(流動資産)
土地
その他建物機械設備等
以上計
平成19年度末(兆円)
135
30
216
123
19
159
277
958
(注)上記項目以外も加えた総資産は1,354兆円。
(出所)法人企業統計
さらに詳しく知りたい読者のために
 【用語集】「動産」、「債権」、「指名債権」、「貸出基準額」、「換価処分」、「強
制処分価格」、「公正市場価格」、「通常(静態的)処分価格」、「評価・評価
替え」
10
【基本編】
1.3 Q 不動産担保との違いは何ですか?
A
 不動産担保には抵当権が利用されますが、一般の動産には、
抵当権制度がありません。
 他方、質権は、物件が貸し手に引き渡されることになるため、借
り手は事業が継続できなくなり、ABLには不向きです。
 このため、動産には譲渡担保が用いられます。
 譲渡担保には、譲渡がなされた事実を示す動産(債権)譲渡登
記が利用できます。
 ただし、担保権に順位をつけて登記をすることができません。
担保権の種類
物的担保
担保権
約定担保
質権
抵当権
根抵当権
譲渡担保
所有権留保
法定担保
人的担保
先取特権
留置権
保証・連帯保証
(出所)動産・債権等の活用による資金調達手段∼ABL(Asset Based Lending)∼テキ
スト 一般編より。「債権の管理・保全・回収マニュアル」(花井正志著)を参照し作成。
さらに詳しく知りたい読者のために
 <ABLの利用に必要な「担保契約と資産の登記」>(借り手向けテキスト
P14)
 <法律上の位置づけと会計上の扱い>(借り手向けテキスト P28)
 【用語集】「譲渡担保」、「占有」、「占有改定」、「即時取得」
 <担保の種類と形態>(ABLテキスト一般編 P22)
11
【基本編】
1.4 Q 売掛金は資金調達の手段になりますか?
 中小企業の重要な資金調達手段であった受取手形は、減少の
一途をたどっています。
 こうした中、売掛金が、動産と同様に譲渡担保を利用することで、
資金調達の手段になる点は注目されます。
 従来、売掛金の譲渡を第三者に対抗するには、販売先への通
知または販売先の承諾が必要であり、これにより販売先(お得
意先)が警戒するのではないかという風評懸念が指摘されてき
ました。
 しかし債権譲渡登記制度を利用することで、借り手(担保提供
者)は、販売先等に通知することなく、担保権の設定を行うこと
が可能となりました。
A
受取手形と売掛金 (金融保険業を除く全産業)
18.0%
売掛金
16.0%
14.0%
総資産比
12.0%
10.0%
8.0%
受取手形
6.0%
4.0%
2.0%
19
75
19
77
19
79
19
81
19
83
19
85
19
87
19
89
19
91
19
93
19
95
19
97
19
99
20
01
20
03
20
05
20
07
0.0%
(出所)法人企業統計
年度末
さらに詳しく知りたい読者のために
 <ABLの利用に必要な「担保契約と資産の登記」>(借り手向けテキスト
P14)
 <在庫や売掛金の担保への活用>(貸し手向けテキスト P10)
 【用語集】「登記」、「第三者」、「対抗要件」、「先取特権」、「流動資産」
12
【基本編】
1.5 Q どんな企業にメリットがありますか?
ABLは、基本的には、健全な経営を行い、担保に適する資産を持
つ企業であれば、その対象になるといえます。その具体例としては、
次のような企業が挙げられます。
対象となる流動資産の規模が大きく、運転資金の調達ニーズも
大きい企業
生産設備やレンタルなどの目的で所有する機械設備や器具が、
汎用性が高く、また保有規模が大きい企業
財務データ(売上や利益率など)が何らかの理由により悪化し、こ
の結果一時的にせよ通常の融資を受け難い状況にある企業。
A
企業の成長局面とABLの関係(概念図)
企業価値
景気悪化時
ABL
担保資産がない企業
ABL
ABL
ABLが有効
ベンチャー
政策金融
起業
アーリー
企業の発展
ステージ
ミドル
レーター
拡大期
成熟期
事業転換/ 再生
さらに詳しく知りたい読者のために
 <流動資産に対する資金調達ニーズが大きいパターン>(貸し手向けテ
キスト P18)
 <機械設備等の保有規模が大きいパターン>(貸し手向けテキストP19)
 <業況が一時的に悪化したパターン>(貸し手向けテキスト P20)
 <ABL適性チェックリスト>(借り手向けテキスト P22)
13
【基本編】
1.6 Q どんな担保物件が適していますか?
A
 物件がABLに向いているかどうかは、たとえば以下の3つの視
点でみることができます。
①<評価>合理的かつ客観的な評価が可能かどうか、
②<管理>担保設定後、その管理や実査が容易か、
③<換価>換金が容易(可能)かどうか、といった点です。
 在庫でいえば、汎用性が高い原材料や、貴金属等中古市場が
整備されている商品などは、評価や換価の点で向いている場合
が多いといえます。
 機械設備では、汎用性の高い建設機械や工作機械なども適し
ている場合が多いでしょう。
ABLに適した物件かどうかの視点(在庫の場合)
評価の基準
ABLの
プロセス
評価
管理
換価処分
上流
下流(リテール)
天然
素材
冷凍
水産物
穀類
貴金属
ブランド
品
価格の透明性がある
○
−
○
○
−
標準化されている
○
○
○
○
−
倉庫で保管しやすい
○
○
○
−
○
容易に持ち出しにくい
−
○
−
−
−
市場、中古市場がある
○
○
○
○
○
モノ(動産)の適性
(出所)動産・債権等の活用による資金調達手段∼ABL(Asset Based Lending)∼テキスト
一般編
さらに詳しく知りたい読者のために
 <どのような企業がABLに向いていますか>(借り手向けテキスト P9)
 <ABLに適したモノ(動産)へのアプローチ>(貸し手向けテキスト P21)
14
事例 ABLで事業多角化の資金を提供し、成長を支援したケース
「不動産担保の枠に残りがなくても、有担保で融資ができる方法とは?」
基本編では、ABLの基本的な考え方やどのような企業に向いているか等について見ましたが、
事例をもとに顧客企業の支援に関するイメージを深めてみましょう。
関係者のプロフィール
ABC銀行
堅実家具製作所の創設期からメインバンクとして支えてきた地元の
銀行。優良な取引先へのABLを推進中。
堅実家具
製作所
伝統的な木製家具の製造を手がける家具メーカー。将来の需要を
見据えて新分野への参入を検討。
健全な経営と確かな技術。しかし、それだけでは成長し続けられない
堅実家具製作所は、伝統的な木製家具を中心に一般家庭用の家具を作り、
健全な経営を続けていた。しかし、高単価の伝統的な家具は年々注文が減っ
ており、新しい収益源となる分野の開拓を検討していた。社長はABC銀行に対
し「成長のための新しい軸足を築きたいので、支援していただけないか」と打診。
メイン行であるABC銀行も、当社の資金ニーズを把握していたが、不動産は担
保として取得済みであり、融資枠の増額は難しい状況にあった。
材料、設備、在庫に加え、売掛金を担保とするABLを実行
堅実家具製作所は従来から健全な経営を行い、在庫や売掛金等の資産につ
いてパソコンを用いて正確なデータ管理を行っていた。
ABC銀行はそうした点を評価しており、「在庫や売掛金を活用した新しい資金
調達の方法を使って、新商品開発資金をご融資できます!」とABLを提案した。
社長は当初、事業資産を担保に取られると経営が立ち行かなくなるのではな
いかと懸念したが、ABC銀行の担当者からABLの説明を受けて仕組みを理解
し、ABLの利用に同意。在庫(材料である木材や完成後の製品)、製造機械等
の設備そして売掛金を担保としたABLが実行されることになった。
事業内容の理解が深まり、経営へのアドバイスが具体的に
ABLの利用により資金を確保した堅実家具製作所は、市場の成長が見込め
る介護用家具の開発を開始した。
ABC銀行にとっては、月次で担保の状況が報告されることから、当社の日常
的な商いの状況が以前より良く分かりるようになった。仕入れのタイミングや
在庫量の調整など、実態に密接に即した助言を提供することが可能になり、
両者の信頼関係が深まった。
15
事例 担保物件を評価する際に、外部事業者を利用したケース
「評価のプロに見極めてもらうとは?」
担保としての利用が検討されている動産について、社内で評価額を算出することが難しい場合に
は、外部事業者(動産評価会社)の力を借りることがひとつの方法です。ここでは、評価会社に動
産の評価を依頼した地方銀行の例を見てみましょう。
関係者のプロフィール
A銀行
2年前からABLに取り組み始めた地方銀行
新鮮水産
高級魚の加工・販売を手がける創業数十年の水産加工業者。
年商は45億円。
目利き社
ABLでの担保活用を想定した各種動産の評価を行う専門業者
優良な融資先。でも動産が いくら なのか、わからない・・
A銀行
A銀行にとって、新鮮水産は優良な貸出先。加工品の原材料である
魚は、獲れる時期が限られるため、当社は在庫量の季節変動に応じ
た運転資金の調達を必要としていた。
資金ニーズに合う手法としてABLの利用を検討するものの、A銀行に
は水産物の価値を評価するノウハウがなかった。「魚市場で仕入れて、
冷凍保存して、加工して、製品になる。この過程でそれぞれ一体どう
やって担保価値を見積もればいいのだろう?」
そこで、A銀行の担当者は新鮮水産の社長と協議し、『適正な評価
額』を算出するため、専門家である目利き社の力を借りることにした。
借り手の『事業の現場』に密着した評価の実施
目利き社は、新鮮水産を訪問して現地調査(社長や社員へのヒアリ
ング、在庫管理表等の内部資料の入手、冷凍倉庫や加工工場の視
察)を実施した。
新鮮水産が仕入れる魚について、種類別に市場価格等の
データを収集して、価格を分析した。
収集した情報をもとに評価レポート(評価書)を作成した。
新鮮水産株式会社
貸し手・借り手の双方にとって納得のいく 『評価額』の算出
A銀行
目利き社は現地調査と市場データ等に基づく評価結果を評価レポートに
取りまとめ、A銀行と新鮮水産に提出。レポートではA社の衛生管理体制
が高く評価されていた。社長は「うちの会社の良さがよその人に分かって
もらえた!」と評価結果に満足。
A銀行では、目利き社から提出された評価レポートの内容をもとに、行内
の基準等と照らし合わせて新鮮水産へのABL融資額を検討した。
新鮮水産との最終調整を経てABLの契約手続き等を行い、5億円の融資
枠を設定した。
¥
16
事例 融資実行中のモニタリングを外部事業者に依頼したケース
「変動する動産の残高を効率的に把握するには?」
ABLによる融資の実行中は、担保として取得した動産や債権について、定期的にモニタリングす
る必要があります。しかし、社内の人員の制約等から、自ら実施することが難しい場合には、動産
管理を代行する事業者に協力を仰ぐという選択肢があります。ここでは、そのような事業者に担保
物のモニタリングを委託した信用金庫の例を見てみましょう。
関係者のプロフィール
X信用金庫
信用保証協会のABL保証を活用した融資を入り口としてABLに取り
組み、最近ではプロパーでのABLへ展開しつつある信用金庫
誠実畜産
約350頭の牛を肥育する肉牛生産事業者。
カントク社
ABLの担保となっている動産の管理を代行する専門業者
融資の実行中に、担保価値が変動するのがABL
X信用金庫は、融資契約の締結にあたり実施した評価に基づいて、誠実
畜産へのABL融資枠を設定した。
ただし、畜産は継続的に子牛を仕入れ、成長したら肉牛として順次出荷し
ていくビジネスモデルであるため、担保価値(数量×価格)が常に変動する
という特徴を有する。
信用金庫の営業職員は「牛が元気に育っているのか見てもわからないし、
毎月、牛舎に入って数百頭の牛の中から担保の牛を探して頭数を
誠実畜産
数えるのは大変。どうすればいいのか。」と思案。貸し手・借り手
肥育牛の時価
双方の負担を鑑みたモニタリングの方法が必要とされていた。
ICタグでの個体管理を活用した効率的な報告業務を専門家の
指導のもとで導入
X信用金庫は、畜産業向け融資の管理のノウハウを有するカントク社に、
誠実畜産向けABL融資案件のモニタリングを委託した。
カントク社は1ヶ月に一度、誠実畜産を訪問して頭数や肥育状況を確認し、
金庫向けの報告書を作成。また、飼養管理の方法についてアドバイスを提
供し、誠実畜産の安定経営に貢献した。
誠実畜産ではカントク社による指導のもと、牛に取り付けられたICタグを活
用し、市場データに基づく肥育牛の「時価」を算出し、在庫の数量として報
告資料に取りまとめた。
当月末時点の「時価」を
計算して、貸し手に報告
月次
レポート
17
ABL 普及・啓発コンテンツ
発展編
18
発展編
1
2
3
4
5
目次
はじめてのABL .................................................................................................................................................... 20
1.1.
ABLとはどんな仕組みですか? .......................................................................................................... 20
1.2.
動産担保は不動産担保とどのように違いますか? ...................................................................... 23
1.3.
債権担保は不動産担保とどのように違いますか? ...................................................................... 25
1.4.
どんな企業にメリットがありますか? .................................................................................................. 26
1.5.
どのような動産がABLの担保物件として適していますか? ..................................................... 28
1.6.
なぜ評価やモニタリングが必要なのですか? ................................................................................ 30
1.7.
複数の債権者がいる場合、譲渡担保は利用できないのでしょうか? ................................... 32
いくらで評価できますか? ................................................................................................................................. 34
2.1.
担保の評価と掛け目はどのように計算しますか? ....................................................................... 34
2.2.
評価するノウハウがない場合はどうしますか? ............................................................................. 37
譲渡担保はどのように登記しますか?........................................................................................................ 39
3.1.
譲渡登記の手順はどのように行いますか? ................................................................................... 39
3.2.
担保物件はどのように特定されるのでしょうか? .......................................................................... 42
担保の状況確認はどのように行うのですか? ......................................................................................... 45
4.1.
定例報告に基づくモニタリングとは何ですか? .............................................................................. 45
4.2.
モニタリングにはどんなフォーマットが必要ですか? ................................................................... 47
4.3.
コベナンツとは何ですか? ...................................................................................................................... 49
万が一返済できなくなったらどうなりますか? .......................................................................................... 51
5.1.
事業の建て直しの検討とは何ですか? ............................................................................................ 51
5.2.
担保物件を換価しなければいけない場合はどうすればよいですか? ................................. 53
19
はじめてのABL
1
1.1.
ABLとはどんな仕組みですか?
ABL の特徴は、企業の事業活動を形成する在庫や売掛金、機械設備等に担保を設定することで
す。しかし ABL は、必ずしも、担保物件の処分価値に依存するいわゆる「担保主義」を意味するわ
けではありません。むしろ、事業の継続を前提に、貸し手が借り手の事業価値を見極める融資手
法として注目されています。この意味で、ABL はリレーションシップバンキングを実践する有効な
手法であるといっていいでしょう。
ABL の特徴
外形的に見たABLの最大の特徴は、企業の事業活動を形成する在庫や売掛金、機械設
備等の「事業収益資産」に担保を設定することです。もっとも、担保を設定された在庫や
売掛金、機械設備等の事業資産は、通常の営業の範囲内で使用、処分することができます。
(注)なお、在庫や売掛金などの流動資産だけを担保とするタイプ(=狭義のABL)と、
広く事業収益資産全体を担保とするタイプ(=広義のABL)の 2 通りに分類されるとい
う考え方もあります。
図 1
ABL の考え方
ABLの考え方
売掛金
在庫
機械
●▲銀行
事業価値に基づき
資産を担保として提供
借り手(企業)
価値を見極め資金を融資
適宜経営への助言も提供
貸し手
¥
次に、ABLを顧客戦略上どのように位置づけるかという考え方については、以下で述
べるように、一定の幅をもって考えることができます。
物件そのものの価値を重視する ABL
20
ABLの中には、企業の有する動産(在庫や機械設備等)
・債権(売掛金等)などの流動
性の高い資産を担保として、特に動産について専らその処分価値に基づいて融資を行うケ
ースが考えられます。このような融資は、担保とした資産について、その事業とは切り離
した場合の価値に着目していると言えます。たとえば、リスクが高い事業で、企業の返済
能力(あるいは誠実な返済意思)に信頼が置けず(または事後的にそのような状態に陥り)、
業況の悪化により、事業の再建に期待するよりも担保の処分金で返済を促すことが合理的
である場合がこれにあたります。
このような場合には、担保評価の物差しは、企業固有の商流とは切り離した二次(中古)
市場での売却を前提にすることも検討すべきでしょう。
事業の継続性を重視する ABL
ABLは、本来、事業の継続を前提とし、企業の事業収益資産を担保とすることで、企
業の信用力の補完として、貸し手がその事業価値を見極めた上で行う融資です。このよう
な融資では、担保とした資産について、その企業の事業が存続することで生み出す付加価
値と一体として評価しています。本来のABLは、リレーションシップバンキングの実践
に有効な手法であるといえます。
この場合の担保評価の物差しは、あくまでも、その企業が持っている商流(顧客等の販路)
を前提とした価値を基準とするのが合理的であるといえます。
わが国では、バブル経済崩壊以降、従来の不動産担保や人的保証による融資の限界から、
事業の継続性を重視する ABL が注目されています。また、ABL は、入り口で、企業の事業
性を把握するとともに、融資実行後は、借り手は担保物件の状況を定期的に報告する一方、
貸し手は、業況を機動的に把握して、必要なら的確なコンサルティングを行うというよう
なかたちで、双方向のコミュニケーションをお互いにコミットする融資方法で、融資の基
本である企業とのリレーションを高めることになります。
【テキストの関連ページ】
<ABLとは何ですか>(借り手向けテキストP6)
<ABLの特徴は何ですか>(借り手向けテキスト P7)
21
図
(参考)業績変動とABLの関係
400
売上増加
350
業況不振
300
250
200
150
100
50
0
1
2
3
4
5
6
7
8
期
融資枠
売上
流動資産
現預金
営業利益
ABLでは、売上が増加し、それに伴って流動資産が増加すれば、融資枠も
連動して増えていくという仕組みとすることが可能です。
逆に業績不振に陥った場合、流動資産や資金の変調を早めに把握することが
できますので、早い段階で(まだ資金繰りに余力がある段階で)、対応を検討す
ることにもつながります。
コベナンツに、流動性比率等で一定の実行基準を定めておいて、自動的にこ
うした協議に入るようあらかじめ合意しておく方法も用いられます。
この場合、固定費などの効率化で、新たな事業環境に適応していけるのか、あ
るいは事業譲渡や廃業なども考えなければいけないのか、といった検討をして
いくことになります。
22
はじめてのABL
1.2.
動産担保は不動産担保とどのように違いますか?
不動産担保では抵当権が用いられますが、動産・債権担保は、譲渡担保が用いられます。譲渡
担保の設定は登記することができますが、この登記は譲渡がなされたことの登記であり、抵当権
のように、複数の譲渡担保権を第一順位から順番に登記することはできません。
動産とは
不動産以外の物(有体物)が動産ということになりますが、企業のバランスシートで見
ると、原材料や仕掛品、製・商品などの在庫、備品、設備などが該当します。牛や豚等の
家畜や、養殖されている魚等も動産に含まれます。
抵当権ではなく譲渡担保を用いる
不動産担保融資の場合、通常、企業に不動産を占有させたまま、その担保価値を把握す
る(根)抵当権の設定が行われていますが、法制度上、登録自動車等一部の動産を除き、
抵当権の設定は認められていません。
では、担保権としてほかに何が考えられるでしょうか。融資実務では質権もよく用いら
れますが、質権は、対象物件を担保権者(貸し手)に引き渡すことが必要ですので、事業
者(借り手)の手元において、事業に活用することはできなくなってしまいます。そこで、
ABL では譲渡担保が用いられます。
譲渡担保は、担保とすることを目的として目的物の所有権を移転するものであり、学説・
判例により認められるに至った制度です。譲渡担保は設定者と債権者との間の譲渡担保設
定契約により設定され、当事者の意思表示があれば効力を生じます。
表 1
担保の種類
担保権の種類
質権
物的担保
担保権
約定担保
抵当権
根抵当権
譲渡担保
所有権留保
法定担保
人的担保
先取特権
留置権
保証・連帯保証
(出所)動産・債権等の活用による資金調達手段∼ABL(Asset Based Lending)∼テキスト
一般編より。
「債権の管理・保全・回収マニュアル」
(花井正志著)を参照し作成。
23
譲渡担保の第三者対抗要件
譲渡担保では、対象物件は、事業者(借り手)が引き続き手元に置いて、事業活動に用
いることが可能であり、事業への支障はありません。
他方譲渡担保権者からみれば、抵当権などと同様に、他の債権者に優先して債権回収を
図れます。ただ、他の債権者などの利害関係人に対してその優先権を主張するには、第三
者対抗要件を具備する必要があります。民法上、動産譲渡の第三者対抗要件は「動産の引
渡し」ですが、動産譲渡担保では、譲渡後引き続き借り手(担保設定者)がその動産の使
用を継続するため、借り手が以後貸し手(譲渡担保権者)のために占有する意思を表示す
る行為(占有改定といいます)をもって「引渡し」としています。
占有改定による引渡しを第三者対抗要件とする動産の譲渡担保は、借り手(担保設定者)
から貸し手(担保権者)に動産の所有権を移転しながら、引き続き借り手がその動産の使
用を継続するため、事情を知らない第三者がその動産を譲り受けてしまい、紛争が生じる
リスクがあります。
平成 17 年 10 月に動産譲渡登記制度が創設されたことで、譲渡担保の公示性が強化され、
動産譲渡担保が利用しやすくなりました。ただし、動産は無尽蔵であり、動産ごとに登記
簿を設けることは不可能です。そのため、動産譲渡登記は、「譲渡がなされた事実」だけを
登記するものとされ、抵当権のように、複数の譲渡担保権を第一順位から順番に登記する
ことはできません。
また、占有改定、動産譲渡担保登記により、第三者対抗要件を取得しても、善意無過失
の第三者による即時取得を排除することはできません。
そこで、第三者から見て譲渡担保権の存在がわかるように、プレートを貼付する等の必要
があります(明認方法といいます)
。
【テキストの関連ページ】
<担保の種類と形態>(ABLテキスト一般編
P22)
<ABLの担保設定>(ABLテキスト一般編 P23)
<ABLの利用に必要な「担保契約と資産の登記」>(借り手向けテキスト
P14)
24
はじめてのABL
1.3.
債権担保は不動産担保とどのように違いますか?
債権の場合も、不動産担保の場合のような抵当権ではなく、動産と同様に譲渡担保が用いられ、
譲渡されたことは登記することができます。この登記制度を用いることで、借り手が、販売先等に
通知をせずに、債権譲渡を行うことが可能になりました。このことは、お得意先等に譲渡の事実を
知られると取引に悪影響があるといった、いわゆる風評被害を抑える効果があるといえます。
債権とは
債権とは、特定の人に対して一定の行為を請求できる権利のことをいいます。たとえば、
売主が買主に対して売買代金の請求をする権利や、買主が売主に対して商品の引渡しを請
求する権利などがこれにあたります。このうち、売掛金債権、貸付金債権、賃料債権など
の指名債権(債権者を特定した債権で、成立・譲渡・行使にあたって証券を必要としない
債権)は、法律で禁じられている場合や、当事者間で譲渡禁止の合意がある場合以外は、
譲渡することが可能です。
債権の譲渡担保と第三者対抗要件
債権の場合も、動産と同様、抵当権を設定することはできません。質権と譲渡担保権の
設定が可能ですが、売掛金のような代金債権の場合は、通常譲渡担保権が設定されます。
担保目的物である債権を借り手から貸し手に譲渡し、債務の履行がなされた時点で、当該
債権を借り手に戻します。
債権譲渡担保の場合も、民法上の債権譲渡を第三者に対抗するには、確定日付のある(内
容証明郵便など)債務者への通知や債務者の承諾が必要ですが、公示手段としては不十分
であり、また売掛債権の譲渡が取引先に知られるため、信用上の懸念を抱かれるという「風
評被害」が生じる恐れがありました。
債権譲渡登記制度を利用することで、債権譲渡の有無を容易に公示できるようになり、ま
た借り手(担保提供者)は、販売先(売掛債権の債務者)に通知することなく第三者に対
抗すること(いわゆるサイレント方式)が可能となりました。
動産と債権の譲渡登記事務は、全国のすべての動産、債権について東京法務局民事行政
部動産登録課、東京法務局民事行政部債権登録課で行っています。
【テキストの関連ページ】
<債権の譲渡担保>(ABLテキスト一般編 P24)
<ABLの利用に必要な「担保契約と資産の登記」>(借り手向けテキスト
P14)
25
はじめてのABL
1.4.
どんな企業にメリットがありますか?
ABLは、基本的には、経営が健全で、担保に適する資産を持つ企業が対象になります。特にAB
Lのメリットが大きい企業の傾向は、一概には言えませんが、たとえば、成長資金や季節資金の
必要性が大きい企業、機械設備等の保有規模が大きい企業、本業の事業そのものは順調なのに
財務データが一時的に悪化したような企業、などが当てはまるでしょう。
ABL は、基本的には、健全な経営を行い、担保に適する資産を持つ企業であれば、その
対象になるといえます(担保に適する資産に関しては次項で説明します)。
ABL は、顧客の状況に応じてメリットが異なる、オーダーメイドな融資方法のひとつであ
ると言われています。
ではどのような企業に ABL が有効であるといえるでしょうか。
成長や季節変動に対応する運転資金
第一には、対象となる流動資産の規模が大きく、その運転資金の調達ニーズも大きい企
業が考えられます。この場合の例として、事業拡大期にあるなど、急成長をする(したい)
局面にある企業のほか、本業が停滞したために関連事業へと多角化に踏み切るような場合
もあてはまるかもしれません。
また、売上の季節変動が大きい場合や、仕入れと販売との間でのタイムラグや支払い条
件(サイト)の乖離などの要因から、在庫や売掛金などを多く保有するといった場合も想
定されます。例えば、海産物の豊漁・不漁など、年によって仕入れが不安定である一方で、
取引先からは安定的な供給を求められているような状況が考えられるでしょう。
図 2
企業の成長局面と ABL の関係
企業価値
景気悪化時
ABL
担保資産がない企業
ABL
ABL
ABLが有効
ベンチャー
政策金融
起業
アーリー
企業の発展
ステージ
ミドル
レーター
拡大期
成熟期
事業転換/ 再生
26
機械設備を多く使う事業
第二には、生産設備やレンタルなどの目的で使用する機械設備や器具が、汎用性が高く、
また保有規模が大きい場合などが考えられます。この場合の例として、介護機器のレンタ
ル事業や、精密加工等の事業で使用する工作機械など、高価でかつ耐用年数が長い機械設
備を使用している場合などがあるでしょう。
業績の一時的な悪化
第三に、財務データ(売上や利益率など)が何らかの理由により悪化し、この結果一時
的にせよ通常の融資の枠がきつくなるということが起こり得ます。このような場合も、ABL
の活用が有効な場合があります。なぜなら、ABLは、事業で扱う在庫品の価値が増加す
れば、それに応じて融資枠を増やすことも可能な融資方法だからです。たとえば、安定し
た顧客を持ち、売上も安定または増加傾向にあるものの、国際商品市況の高騰に伴って原
料価格が上昇し、一時的に赤字に陥ったような場合、在庫価値を担保とした ABL が助けと
なることが考えられます。
【テキストの関連ページ】
<どのような企業に ABL が向いていますか?>(借り手向けテキスト P9)
<流動資産に対する資金調達ニーズが大きいパターン>(貸し手向けテキスト
<機械設備等の保有規模が大きいパターン>(貸し手向けテキスト
<業況が一時的に悪化したパターン>(貸し手向けテキスト
P18)
P19)
P20)
<ABL 適性チェックリスト>(借り手向けテキスト P22)
【参考事例】
<事例
ABL で事業多角化の資金を提供し、成長を支援したケース>
27
はじめてのABL
1.5.
どのような動産がABLの担保物件として適していますか?
動産は、在庫と機械設備、集合動産と個別動産といった区分を用いて分類できます。
ABLに適した物件かどうかの視点として、処分が容易(可能)かどうか、合理的な評価が可能かど
うか、担保とした後でその管理や実査が容易か、といった点が挙げられます。
動産の区分方法
動産の分類として、まず、動産の属性により、在庫と機械設備に分けることができます。
さらに、担保としての管理や登記の方法により、集合動産と個別動産に区分できます。集
合動産とは、在庫のように、日々、商品などの物件が出入りするために、個々の物品では
なく、集合体として管理・登記を行うものです。これに対し個別動産は、個々に物件を特
定して管理・登記を行う場合です。
在庫は集合動産として、機械設備は個別動産として管理することが多いといえます。
図 3
動産の区分と物件種類
(出所)平成 19 年度貸し手向けテキスト
動産の担保に適した物件の見方
ABL は、動産・債権に担保設定することで、取引先の事業価値を見極める融資ですので、
原則として、
「こういう物件でなければABLはできない」ということはないでしょう。
しかし ABL により適した動産かどうかは、概ね3つの観点からみることができます。
28
第一は、処分が容易(可能)かどうか、第二に、合理的・客観的な評価が可能かどうか、
第三には、担保とした後でその管理や実査が可能か、といった点です。
ABLに適した在庫の物件の見方
わかりやすい例で言えば、天然素材など製造工程の上流に位置する物件は、一般的に汎
用性が高く、処分可能性や市場価格での評価がしやすい場合が多いといえます。
これに対し仕掛品は、転売されても製造工程が違えば転用しにくく、処分可能性が低い場
合が多いでしょう。ただ、たとえば肉牛は、耳標によって固体識別ができるため、管理が
しやすく、育成中のいわゆる「仕掛品」ではあっても、処分価格は多少低くなりますが。
比較的転売はしやすいといわれています。
完成品としては、貴金属など中古市場が整備されている商品や、消費者の評価が販売小
売店に左右されにくい商品(ブランド品など)などが一般的に向いています。
図 4
ABLに適した物件(在庫品)かどうかの視点の一例
評価の基準
ABLの
モノ(動産)の適性
天然
冷凍
素材
水産物
価格の透明性がある
○
標準化されている
管理
換価処分
下流(リテール)
穀類
貴金属
ブランド
品
−
○
○
−
○
○
○
○
−
倉庫で保管しやすい
○
○
○
−
○
容易に持ち出しにくい
−
○
−
−
−
市場、中古市場がある
○
○
○
○
○
プロセス
評価
上流
(出所)動産・債権等の活用による資金調達手段∼ABL(Asset Based Lending)∼
テキスト 一般編
【テキストの関連ページ】
<ABL に適したモノ(動産)へのアプローチ>(貸し手向けテキスト
p21)
29
はじめての ABL
1.6.
なぜ評価やモニタリングが必要なのですか?
動産は多岐にわたるため、担保価値の評価は、物件によって異なる専門家の評価が必要な場合
があります。また、動産のうちの在庫品や売掛債権に関しては、日々残高や内容が変化しますの
で、不動産担保の場合以上に、定期的な状況把握が重要です。
動産担保の評価
不動産の担保価値は売買事例その他の情報に基づいて評価されますが、動産の場合も、
この点は同じです。しかし、動産は、実務上対象となる物件は広範囲に渡るため、価値の
評価にあたっては、物品の種類ごとに評価(目利き)ができる専門家が異なります。こう
した専門家に評価を依頼する場合は(不動産の場合も同様ですが)、初期の評価に費用が発
生すると同時に、継続的に評価をするための費用がかかる場合もあります。
在庫や売掛金は常時変化する
動産は、不動産と比べた場合、文字通り「動くこと」が特徴です。
このため、動産・債権担保は、定期的な担保物件の状況把握が、不動産とは比べ物にな
らないくらい重要です。たとえば、在庫物件の場合は特に、常時物件の出入りがあります
し、売掛債権の場合も日々残高や内容が変動します。不良在庫の滞留や、売掛金の回収不
能などが生じることも考えられます。
定期的な現況把握(モニタリング)
在庫や売掛債権の場合は、担保物件の数量や金額の推移が、事業の趨勢そのものを表す
ことが特徴といえます。担保の価値の変化に目を配ることはもちろん重要ですが、それ以
上に、担保の現況変化は、借り手の事業内容の大きな変化(主要販売先やビジネスモデル
の変更など)の現われかもしれません。そこで、ABLの場合には、担保物件の状況に関
して定期的に報告を受けることが重要です。また、緊密な報告を受けることで、借り手と
貸し手の間の理解が深まり、きめ細かいアドバイスや機動的な資金調達に資することにも
なります。
事前の取り決め(コベナンツ)
それと同時に、コベナンツと呼ばれる「約束事」を契約で定めることが一般的に行われ
ています。コベナンツには、借り手が担保物件に関する定期的な報告を行うことを定めた
り、担保物件の権利関係に変更を加えることを制約したりする取り決め、あるいは担保価
値に大きな影響を与える可能性のある事柄の報告義務などが含まれます。
これにより、業況が不調になれば、事前に定めた条件、たとえばキャッシュフローや流
30
動性比率の低下等をうけて、返済が滞る手前で、報告の頻度を高める、事業の監視を強め
るといった対応のほか、在庫等の販売・処分への制限を加えたりします。そのうえで、抜
本的な事業の再構成を相談したり、場合によっては期限を喪失させ法的整理を行うといっ
たことも含めて、事業・負債の再構築や債権の保全を図ります。
【テキストの関連ページ】
<ABL と従来の融資との違い>(借り手向けテキスト
p.8)
31
はじめての ABL
1.7.
複数の債権者がいる場合、譲渡担保は利用できないのでしょうか?
複数のメインバンク取引があるような場合、複数の貸し手が担保権を共有する方法があります。
具体的には、シンジケートローンによる方法が一般的です。
仮に、借り手が複数のメインバンクと取引があり、ABLを活用する場合、一社の貸し
手だけに、在庫全般を対象とする担保設定をしてしまうと、他の貸し手の融資に支障が生
じることもあり得ます。これは、譲渡担保に関しては、抵当権のような第二順位以降の担
保権の有効性は、一般に疑問視されるためです。
そもそも貸し手は、担保設定をしないまでも、売上に応じて変化する在庫や売掛金との
見合いで運転資金の枠を設定している場合があるので、いきなり他の貸し手が担保設定を
してしまうと、融資の裏づけが不安定になってしまうという懸念を持つかもしれません。
複数の貸し手で譲渡担保権を設定
流動資産(在庫、売掛債権)の場合に、物件を仕分けして特定可能な場合には、複数の
貸し手が、それぞれ譲渡担保権の設定を仕分けした物件ごとに行うことが可能と考えられ
ます。しかし、物件を仕分けして譲渡担保権を設定する方法には、課題や留意点が多いた
め、シンジケートローンを組んで、譲渡担保権を共有するやりかたが一般的です。以下で
は、シンジケートローンによる方法について述べます。
シンジケートローンの活用
シンジケートローンの場合、複数の金融機関と借り手の契約によって譲渡担保権を共有
します。
この方法は、物件を仕分けして各々が譲渡担保権を設定する方法よりも、貸し手の足並
みがそろいやすいといったメリットがあります。加えて、シンジケートローンの場合は、
条件交渉や報告・コベナンツの取り決め等を一元的に相談することになるので、借り手側
の負担が小さくて済むほか、あまり ABL 経験のない金融機関も参加しやすいといえます。
共有の場合、債権者間の特約の中で、任意に順位を決めることもできます(ただし特約
の効力を第三者には対抗できない)
。
(参考)信用保証協会の活用について
信用保証協会の ABL 保証の場合、貸し手である金融機関と信用保証協会が、担保物件を
(準)共有することになっています。これは、金融機関のみが担保設定をした場合には、
信用保証協会が代位弁済を行ったとしても動産債権譲渡登記制度には移転登記が用意され
ていないため、代位したことを公示する手段がないこと、逆に、信用保証協会のみが担保
32
設定した場合には、信用保証協会が一手にモニタリングやデフォルト時の担保処分等をす
ることになり、実務上困難であること、などが背景にあります。
【テキストの関連ページ】
<後順位譲渡担保権の成否,後順位譲渡担保権に基づく私的実行の可否>(貸し手向けテ
キスト P66)
<複数金融機関取引がある場合>(貸し手向けテキスト P77)
33
いくらで評価できますか?
2
2.1.
担保の評価と掛け目はどのように計算しますか?
担保の評価から与信枠の計算までは、以下のようなプロセスを経て計算します。
①担保適格なものと非適格なものを選別する、②市場価値(換価する場合の想定市場価格)を計
算する、③掛け目を掛けて貸出基準額を計算する、④貸出基準額をもとに実際の与信枠を決め
る。
担保の評価から貸出基準額、与信枠まで、どのように計算されるのか、流れを確認してみ
ましょう。実務では、一部を簡略化するなど柔軟に行う場合も多いといえます。
①担保適格性の判断
まず、担保となる売掛金、在庫、機械設備について、それぞれの内容につき担保として
適正かどうかの判断(滞留状況、所有権の確認、希薄化度合い等)を行い、担保として適
正な対象を選別します。
②市場価値の評価
担保価値については、以下の3通りの市場価格の考え方があります。
公正市場価格(Fair Market Value、略称FMV):
通常の取引において決定される価格。売手がなんら強制されることなく、必要な時
間をかけて買手を見つけられる状況を想定した売却価格のことをいいます。平常ど
おりの商流で売却する場合の市場価格ともいえます。
通常(静態的)処分価格(Orderly Liquidation Value、略称OLV):
債務者の破綻により商品(ブランド)価値がある程度低下することを前提に、半年
から 1 年程度の合理的な期間内に買手を見つけられる状況を想定した売却価格。時
間的な余裕をもって、既存の販売チャネルや一般事業者への販売、一部オークショ
ンや買取り業者を利用して処分を行うことを想定した市場価格です。
この場合、事業再生のための外部コンサルタントの活用や、操業停止中の給与支払
などの緒コストを見積もって、売却価格からあらかじめ控除した、ネット通常処分
価格が用いられる場合もあります。
強制処分価格(Forced Liquidation Value、略称FLV):
限られた期間内にオークションなどで強制的に処分しなければならない状況を想定
した売却価格。オークション・バリュー(Auction Value)、またはディストレス・バ
リュー(Distress Value)ともいいます。強制処分価格は通常処分価格より 20∼30%
程度は低くなるといわれています。
34
3 通りの市場価格は、貸し手と借り手の関係や、物件の特性などをふまえて、いずれか一
つの市場価格で評価する場合もあれば、複数の市場価格で評価する場合もあります。
事業の存続を前提に、借り手との協力の下で、比較的早い段階で在庫処分等を行っていく
ことを想定する場合には公正市場価格に近い考え方になり、他方、事業の継続が難しく、
また借り手の協力が得にくい状況を想定する場合は強制処分価格に近い考え方になるなど、
ABL の実態や、顧客との関係によって異なってくるでしょう。
③貸出基準額(与信枠の基準になる額)
上記で算出した担保評価額に、必要に応じて掛け目を掛けて、「貸出基準額」(有効な引
当担保額の合計であり、与信枠を設定する際に参照する基準額)を算出します。掛け目は
貸し手の判断で決めますが、担保の種類によって異なるでしょう。この掛け目は、米国で
用いられる用語の Advance rate を訳して「前貸し率」などという場合もあります。当然な
がら、担保となる売掛金や在庫などの資産の残高に変動があれば、それに合わせて貸出基
準額も変動することになります。
④与信枠(クレジット・ライン)
貸出基準額を基にして、審査決裁上の枠取り、すなわちクレジット・ラインの設定を行
います。この際、このクレジット・ラインの金額は、在庫等の資産の残高が変動すること
による貸出基準額の変動を考慮して、貸出基準額より大きめの金額設定をする場合もある
でしょう。
図 5
貸出基準額算出の流れ
【テキストの関連ページ】
<担保適格性の判断>(貸し手向けテキスト P35)
<適格担保価値の算出>(貸し手向けテキスト P38)
35
<担保掛目(前貸し率)の設定>(貸し手向けテキスト P41)
<評価価値の選択(採用)に関する考え方の一例>(貸し手向けテキスト P52)
<クレジット・ラインの設定>(貸し手向けテキスト P41)
【演習】
試しに貸出基準額を計算してみましょう<貸出基準額の算出>。
「貸出基準額の算出」シートは、売掛金・在庫を担保として当座貸越を設定する場合を
想定した例です。右側にある入力方法を見て、上から順に、数字を入力し、出力された数
字の確認をしてみましょう。
「貸出基準額の算出(米国の参考事例)」は、借り手企業への貸出をすべて ABL で行う
場合で、米国ではよくみられる形態です。したがって、担保には、売掛金・在庫に加えて、
機械や不動産も含み、貸出には、リボルバー(当座貸越)に加えてタームローン(証書貸
付)も含んでいます。日本の一般的な貸出慣行とはやや異なっており、あくまでも参考と
して見てください。
36
いくらで評価できるのか?
2.2.
評価するノウハウがない場合はどうしますか?
ABLの貸し手は、担保物件の評価や、借り手の物件管理能力の評価などについて、外部の専門
事業者に依頼して行う場合があります。このようなアウトソースには手数料などの負担が生じます
ので、借り手との関係や、案件規模による採算性等をふまえて検討します。
ABLを活用するにあたっては、貸し手独自の融資審査に加えて、担保物件の評価(ア
プレイザル)や、企業の管理体制の評価などを外部の専門機関に依頼(アウトソース)す
る場合があります。これは担保物件の市場価値の評価や、企業の在庫等の管理が ABL での
報告義務等を行うために十分なレベルにあるかといった評価に関して、貸し手側にノウハ
ウが蓄積されていない場合があるためです。その場合、借り手は外部専門機関の実地調査
に対応したり、その費用を(一部)負担したりする必要があります。
評価事業者
動産評価会社は、担保物実査作業を行い、通常何通りかに分けた評価額の算定結果を含
む評価書を作成します。
外部の評価会社は、各社、ノウハウや強みがある物件の種類が異なるということが考え
られます。また、評価の方法という点でも、過去に在庫処分等の換価をした実績・経験で
の傾向を重視して評価する方法と、通常の商流での取引価格・傾向や商流の特徴などを重
視して(各商流の現場へのヒアリング等もふまえて)評価する方法など、これも評価会社
によって異なる場合があります。
アウトソースする貸し手としては、対象とする物件の種類や、どのような根拠に基づく
評価値を担保評価として使用するのが適切か、といった検討をふまえて、依頼することが
必要でしょう。さらには、ABL を検討する対象企業とのリレーションや貸出金額等をふま
えて、どの程度の外注コストを負担可能なのかといったことも、あらかじめ考えておくと
よいでしょう。
モニタリング事業者
企業の在庫管理等の評価については、比較的少額の ABL 案件であれば、インタビューや
実査等を通じて貸し手自身が評価することもある程度は可能でしょうが、一定以上の規模
がある借り手の場合や、在庫価値に厳格に依存した与信・融資枠管理を行うような場合は、
監査法人(通常の監査部門とは分離した部門が当該業務を行う)に調査・評価を依頼する
場合もあるでしょう。
調査の内容は、厳しいチェックを行うというよりも、経理の担当者にヒアリングするこ
とで、経理事務の流れ、伝票の流れ、在庫管理の事務の流れなどを把握するなど、事務の
37
フレームワークを確認するというレベルのものです。企業にとっては負担を感じる場合も
あるでしょうか、監査法人のノウハウを背景に、在庫管理などで的確なアドバイスが得ら
れる場合があり、借り手企業にとっても、自社の管理システムの高度化につながるという
メリットもあるといえましょう。
【事例】<事例
担保物件を評価する際に、外部事業者を利用したケース>
【テキスト関連ページ】
<評価事業者>(貸し手向けテキスト P172)
<貸し手と外部事業会社の協議事項>(貸し手向けテキスト P172)
<モニタリング事業者>(貸し手向けテキスト P174)
【演習】コストの試算をしてみましょう<ABLコスト試算フォーマット>
「想定条件」シートに、貸出、担保物件に関する想定条件を入力してみましょう。
次に「ABL コスト試算の例」シートに移り、網掛けの枠の中に、仮想の費用の数値を
入力してみましょう。最後に、初期費用金額、年間費用金額を確認しましょう。
38
譲渡担保はどのように登記しますか?
3
3.1.
譲渡登記の手順はどのように行いますか?
債権者としての権利を安定させるために譲渡登記を行う場合があります。その手順としては、①
先行登記の有無の確認、②借り手に対する先行譲渡がないことの確認、③商流の確認、④現物
の確認、⑤譲渡登記ファイルに記録されたことの確認、といった流れです。
ABL の担保設定は、不動産の抵当権設定とは様々な点で異なるため、この項と次の項に
おいて、その手順や特徴を確認しましょう。
ABL の場合も、不動産担保と同様に、担保設定契約書を取り交わします。担保設定契約
書の内容面では、不動産担保と比べて、担保物件の特定方法、さらに、ABL 特有のコベナ
ンツ(事前の取り決め、詳しくは4.3を参照)が含まれることなどが異なります。そし
て、譲渡担保を登記する場合、登記の手順や、当該物件の特定などが不動産の場合と異な
ります。以下では、登記の手順を中心に解説します。
①登記制度の活用
譲渡登記は、ABLによる融資を受けることが正式に決まった際に、在庫や売掛金等の
資産が担保になることを第三者に対して主張するために、行う手続きです。(※在庫等の動
産は動産譲渡登記、売掛金等の債権は債権譲渡登記を行うことになります。)
動産・債権の譲渡の第三者対抗要件としては、これまで引渡し(動産の場合)、債権譲渡
の通知(債権の場合)などの方法が認められていましたが、「動産及び債権の譲渡の対抗要
件に関する民法の特例等に関する法律」により登記制度が導入され、第三者対抗要件に係
る公示を強化できるようになりました。
登記を行うことで、債権者の権利の安定を図りやすくなります。とりわけ、後行者によ
る即時取得が成立する可能性を減らすことができます(当該第三者が、銀行など、登記調
査義務を負うと考えられる者である場合)。
ただし実務上は、登記以外にも即時取得を成立しにくくする工夫をしておくことが有用
と考えられます。例えば、倉庫にネームプレートを貼る、ホームページの特定の場所に明
示する、といった方法(明認方法)が考えられます。
②動産譲渡担保
動産譲渡登記の対象は原則として全ての動産であり(ただし、別途登記制度のある自動
車、船舶、航空機などは対象外)、個別の動産のみならず、在庫のように構成物が日々入れ
替わる流動的な動産についても登記の対象とすることができます。登記の存続期間は原則
として 10 年以内です。
39
③債権譲渡担保
債権譲渡登記の対象は指名債権です。既に発生している債権だけでなく、将来発生する
債権についても登記が可能です。また、債務者(第三債務者)が特定されている債権のほ
かに、債務者が不特定の債権についても登記により譲渡を第三者に対抗することが可能で
す。登記の存続期間は、債務者が特定されている場合は原則として 50 年、不特定の場合は
原則として 10 年以内です。
④手続き
動産・債権譲渡登記を行うにあたっては、先ず係る動産・債権に対して先行する譲渡担
保がないかどうかを確認する必要があります。そのための典型的な手順は以下の通りです。
(ア)先行登記の確認
↓
(イ)契約書等による「ないこと」の表明
↓
(ウ)商流の確認
↓
(エ)現物の確認
↓
(オ)登記申請
↓
(カ)動産譲渡登記ファイル・債権譲渡登記ファイルに記録
(ア)先ず、先行登記を確認する必要があります。登記の概要については、「登記事項概
要証明書」または「概要記録事項証明書」で確認することができます。各証明書の申請の
際、企業の商号等を検索条件に指定します。
ただし、これらの証明書には動産・債権の内容が記されていないため、登記の記録が存在
する場合は、譲渡人に登記事項証明書の交付を請求する必要があります。
(イ)民法上は、登記以外の方法によっても動産・債権譲渡の第三者対抗要件を備える
ことができるため(動産の場合は「占有改定」など)、「隠れた譲渡担保」を確認すること
が不可欠です。その方法の一つとして、借り手に対し、契約書で先行譲渡がないことを明
確に表明してもらう、あるいはコベナンツ条項等で、先行譲渡が判明した場合に直ちに期
限の利益喪失となる旨定めておく、といった「ないこと」表明が考えられます。
(ウ)所有権留保がある場合やリース物件の場合は、先取特権との関係で問題になりま
す。これらについては、商流についてヒアリングを行うことで確認し、必要に応じてエビ
デンスを求めて所有権を確認します。
40
(エ)最後に、在庫を実査し、所有権移転を示すシール等がないかどうかといった点を
確認します。機械等の場合は、品番やリースの表示の有無なども併せて確認します。
(オ)以上を確認し、登記にあたって問題がない場合、登記を申請することになります。
動産・債権譲渡登記を取り扱う登記所として東京法務局が指定されており、出頭・郵送(書
留郵便)による申込、及びオンラインでの申請の両者が認められています。
(カ)登記申請の後には、法務局によって受付・審査が行われ、東京法務局に動産譲渡
登記ファイル・債権譲渡登記ファイルに記録されるとともに、本店等所在地法務局等にお
いて動産譲渡登記事項概要ファイル・債権譲渡登記事項概要ファイルに記録されることに
なります。
登記申請の手続きについては、以下のウェブサイトも参考にしてください。
① 動産譲渡登記の申請手続き等の詳細については、法務省のサイト「動産譲渡登記制度に
ついて」を参照。
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji97.html
② 債権譲渡登記の申請手続き等については、法務省のサイト「債権譲渡登記制度について」
を参照。
http://www.moj.go.jp/MINJI/saikenjouto-index.html
【テキストの関連ページ】
<商流の確認>(貸し手向けテキスト P.72)
41
譲渡担保はどのように登記しますか?
3.2.
担保物件はどのように特定されるのでしょうか?
動産の場合は、特定方法は、動産の特質で特定する場合(個別動産)と、動産の所在で特定する
場合(集合動産)の 2 通りがあります。債権の場合は、その特定は、債権の種別、債権の発生年
月日(始期と終期)、第三債務者ないし債権の発生原因などによってなされます。
動産・債権の譲渡登記は、実務上は、不動産担保等と同様に、手続は司法書士に依頼し、
登記内容に関しても司法書士と相談しながら進めることにより、スムーズに行うことがで
きます。しかしながら、取引先と事前に協議するといった場合もあることを踏まえて、動
産・債権の譲渡登記に関するポイントを理解しておくことは重要です。
①動産譲渡登記において特定すべき要素
動産譲渡登記には、譲渡担保の目的物が登記に適する方法で特定されていることが必要
です。譲渡に係る動産を特定するために必要な事項は、一定の指針については法令で規定
されています。法令では、動産を特定する方法として、①「動産の特質」(基本的には特定
物・個別動産)によって特定する方法と、②「動産の所在」
(基本的には集合物・集合動産)
によって特定する方法の二つを設け、それぞれの方法について、動産を特定するのに必要
な事項(必要的登録事項)を定め、案件に応じて当事者がどちらかを選択できるようにし
ています。個別動産譲渡担保は、例えばパソコンの機番の明記などによって、目的物を個
別に 1 件 1 件特定するのに対し、集合動産譲渡担保は、店頭の商品や倉庫内の原材料など、
目的物の量が増減変動を繰り返すようなモノ(動産)に対して、それを集合物として保管
場所をベースとして特定します。
個別動産の特定に必要な登録事項は、「動産の種類」及び「動産の記号、番号その他の同
種類の他のものと識別するために必要な特質」です。
集合動産の特定に必要な登録事項は、
「動産の種類」及び「動産の保管場所の所在地」です。
後者の場合、当該所在地に保管された同種の動産全てが登記の対象となります(従って「数
量の半分」といった特定は認められていません)。
表 2
特定の方法
動産の特質によって
特定する方法(個別動
産)
動産の所在によって
特定する方法(集合動
産)
集合動産の特定に必要な登録事項
必要的登録事項
動産通番
動産の種類
動産の特質(シリアルナンバー
等)
動産通番
動産の種類
保管場所の所在地
任意的登録事項
動産の名称(製品名・商品名等)
保管場所の名称・所在地
保管場所内の区画の限定(○○
倉庫 2 階、北側半分)
動産の限定(明認方法の施され
ているもの)
(○○社製のもの)
42
(注)動産通番は、ひとつの譲渡行為ごとに、1で始まる連続番号。
(出所)貸し手向けテキスト
上記の両者で求められている「動産の種類」については、その範囲の特定について明確
な基準はありません。例えば在庫の場合は、「日本産業分類」「工業統計表」、「法人企業統
計季報」、「商業統計表」などの分類を参考に記述することも考えられます。
②債権譲渡登記において特定すべき要素
債権譲渡の場合は、目的債権の特定をする基準としては、判例では「譲渡の目的となる
べき債権を譲渡人である債務者が有する他の債権から識別することができる程度に特定さ
れていれば足りる」
(最二判平成12・4・21民集54巻4号1562頁)とされており、
主なものとしては、債権の種別、債権の発生年月日(始期と終期)、第三債務者ないし債権
の発生原因などが挙げられています。
債権譲渡登記の場合、第三債務者が特定していない債権か否かによって、目的債権を特
定するための必要な事項がそれぞれ規定されています(詳しくは貸し手向けテキストP7
6参照)。
通常 ABL においては、在庫と売掛債権とをセットで担保設定します。
また、「登記原因」は、譲渡の原因に応じて、「売買」、「譲渡担保」、「事業譲渡」、
「信託」
等と記録します。
なお、ABL の場合、動産譲渡登記、債権譲渡登記の何れも、登記原因は「譲渡担保」と
なります。
【テキストの関連ページ】
<動産の種類の記述>(貸し手向けテキスト P.74)
<動産を特定するのに必要な事項>(貸し手向けテキスト P.74)
<債権を特定するのに必要な事項>(貸し手向けテキスト P.77)
【演習】
例題:動産・債権の種類が以下の場合、どのように動産・債権を特定すればよいでしょう
か?
(ア)マグロ、カツオなど冷凍海産物
・・・構成物が日々入れ替わる流動的な動産であり、集合動産として、動産の所在によっ
て登記を行います。保管場所は、地番または住居表示番号まで特定する必要があります。
また備考欄に、保管場所の区画の限定や名称等を付すこともできます。
43
(イ)エックス線 CT スキャン装置
・・・動産が個別に特定されており、個別動産として、動産の記号・番号等によって登記
を行います。例えば、製造番号、シリアルナンバー等を記録します。また備考欄に、製造
会社名・製品名・ブランド名等を付すこともできます。
(ウ)第三債務者が特定している売掛債権
・・・第三債務者及び債権の発生の時における債権者の数・氏名及び住所等によって債権
を特定します。既発生債権のみを譲渡する場合は、債権の発生の時及び譲渡の時の債権額
を付します。
(エ)第三債務者が特定していない売掛債権
・・・債権発生原因及び債権の発生の時における債権者の数・氏名及び住所等によって債
権を特定します。例えば、「譲渡人と販売先との間のxx等の在庫商品についての売買契約
に基づき発生する売掛債権」といった登記を行います。
登記の記載例を見てみましょう。<登記事項証明書>
44
担保の状況確認はどのように行うのですか?
4
4.1.
定例報告に基づくモニタリングとは何ですか?
モニタリングの目的は、担保価値を把握し、維持することで融資金の保全を図ることですが、それ
にとどまらず、貸し手は定期的、定型的に、事業のリアルタイムに近い情報をチェックすることがで
きるので、資金調達ニーズや経営支援の必要性を早期に把握する基礎情報になります。
モニタリングとは、日々変動する担保の価値がどう変化しているかを数量・品質ベース
で把握し、ABL 実行時に想定した条件を満たしているかを継続的に確認することです。モ
ニタリングの意義は、まず、①担保価値を把握、維持することで融資金の保全を図ること
ですが、それだけではなく、②ABL の担保は事業活動そのものであるので、貸し手は定期
的、定型的に、事業のリアルタイムに近い情報、いわば企業の「体温」を常時チェックす
ることとなり、資金調達ニーズや経営支援の必要性を早期に把握する基礎情報になります。
さらに、③取引先との情報共有関係を緊密にし、リレーションシップバンキングを支え
る仕組みであると同時に、④取引先からみても、定期的に報告データを整理することで自
社の事業内容の把握にも資するものといえるでしょう。
貸し手が行うこととしては、ⅰ)入金状況の確認、ⅱ)売掛債権、在庫、機械など担保
に関する現地確認調査の実施等があります。他方借り手が行うこととしては、ⅰ)在庫管
理や経理の情報等、ⅱ)主に既存の経営情報を用いて、売掛債権や在庫に関するデータの
提供等があります。
図 6
モニタリングのイメージ像
●▲銀行
貸し手
売掛債権・在庫に関する現地確認
調査の実施(3か月に1回程度を
目安)
業績と債権残高に関するデータの提
供(月1回を目安)
(売掛債権)
既存の在庫管理、
経理情報、棚卸し
作業等
(売掛債権)
売掛先別売掛債権残高
債務者名義
期日別売掛債権残高
債権発生日
期日別売掛先別売掛債権残高
発生時債権額/ 譲渡時債権額
(在庫・機械)
報告
入金確認
現地確認調査
在庫保管方法、機械設置方法の適切性
確認
売掛先別ダイリューション履歴
(在庫)
在庫保管場所、機械設置場所の確認
担保登録されている在庫・機械の確認
担保カテゴリー別売掛債権残高
売掛金
保管場所別・商製品別在庫残高
在庫
保管期限別・商製品別在庫残高
機械
担保カテゴリー別在庫残高
借り手(企業)
倉庫管理業者による保管証明
(注)信用保証協会の ABL 保証の場合を念頭にイメージ化したもの
【テキストの関連ページ】
45
<モニタリングの意義・目的>(貸し手向けテキスト p92)
<モニタリング報告の内容>(貸し手向けテキスト p93)
<融資を受けているときにすること>(借り手向けテキスト p.19)
46
担保の状況確認はどのように行うのですか?
4.2.
モニタリングにはどんなフォーマットが必要ですか?
ABLの件数が少ない段階では、エクセル等の表計算ソフトでファイルを作成すればよいでしょう。
案件が増えてきたら、専門部署の設置や、管理システムの導入等を検討する必要があるかもしれ
ません。
ABL においては、担保対象物である動産・債権の途上管理(モニタリング)が、不動産
担保などに比してより重要です。ある程度 ABL 案件が増加してきたら、管理専担部署の設
置、すなわち管理部署と営業部署の分離や、担保管理システムの導入を検討することが考
えられます。ただし、ABLの件数が少ない段階では、エクセル等で管理ファイルを作成
することでも十分でしょう。
管理ファイルへの記載項目
管理ファイルに記載する基本的な管理項目例として以下のようなものが挙げられます。
表 3
担保管理ファイルの基本的な項目(貸し手向けテキスト p81)
担保データ授受方法
取引先との間での担保データ授受方法については、貸し手(情報の受け手)・借り手(情
報の出し手)双方にとって特に注意が必要なことは、当然のことながら情報漏えい等の事
故発生の防止にあります。在庫や売掛金の明細といった情報は、借り手企業にとって企業
活動の生命線とも言うべき重いものであり、厳正な管理が求められます。
【テキストの関連ページ】
<管理セクションの強化>(貸し手向けテキスト p79)
<担保管理ファイルの作成>(貸し手向けテキスト p80)
<担保データ授受方法>(貸し手向けテキスト p81)
<担保物件の管理>(貸し手向けテキスト p83)
参考として、モニタリングフォーマット例を掲載しますので、ちょっと考えてみてくださ
47
い。
【演習】<モニタリングフォーマット例>
「記入方法シート」で、記入方法を参照しながら、左から順番に、データを入力してみま
しょう。
次に、「記入例」シートには、既に記入されたデータの例がありますので、確認してみてく
ださい。
48
担保の状況確認はどのように行うのですか?
4.3.
コベナンツとは何ですか?
ABL では、担保対象資産の残高が頻繁に変動します。対象企業から提供を受ける資料、情報
は、事業や担保の状況把握の基礎となるため、その意義は重要です。また、コベナンツに「担保
対象動産を通常の営業の範囲を超えて保管場所から搬出しないこと」といった、担保対象財産に
係わる遵守事項を定めることが重要です。
一般に契約において、一方の当事者が他方の当事者に対して、一定の作為、あるいは不
作為を遵守すべきことを誓約する旨を定めた規定をコベナンツ(Covenants=誓約)条項と
言います。コベナンツ条項の内容は個別の契約ごとに様々ですが、ABL を含むローン契約
において多く定められている「売上、経常利益、自己資本比率、負債比率等の財務指標を
一定水準以上に維持する(又は一定水準以下に抑える)」という事項を定めた規定は「財務
制限条項」と呼ばれます。
表 4
行為の規定
積極的な作為を要
求するもの
不作為を要求する
もの
コベナンツの分類
内容
財務指標の一定水準以上の維持(自己資本比率、
経常利益、インタレスト・カバレッジ・レシオ、
デット・サービス・カバレッジ・レシオ等)
正確な決算・財務資料の定期的提出
他の債権者への担保提供の制限
一定水準以上の配当や重要財産の処分の制限
種類
財務制限条項
報告条項
報告・承諾条項
コベナンツ条項設定時に重視する点
ABL においては、
① 対象企業及び担保対象財産についての貸し手へのディスクローズに関する事項
② 遵守事項
という2つの視点が重要です。
①については、ABL では、担保対象資産の残高が頻繁に変動することから、対象企業か
ら提供を受ける資料、情報がモニタリングや融資判断の基礎となるため、その意義は重要
です。また②は、ABL においては担保対象資産に係わる遵守事項を定めることが重要です。
担保対象資産に係わる遵守事項としては、
「担保対象動産を通常の営業の範囲を超えて保管
場所から搬出しないこと」、「保管場所に担保対象となる動産以外の動産を混合しないこと
(区分管理の実施)」
、
「担保対象動産の保管場所を動産譲渡登記に記載したものから変更し
ないこと」、
「売掛債権につき譲渡禁止特約を締結しないこと」等が考えられます。
こうしたコベナンツ条項は、貸し手による借り手の担保資産の把握には有用と考えられ
ますが、他方で借り手にとって過度の負荷にならないよう、注意が必要です。また、コベ
49
ナンツ条項それ自体は、担保や保証の代替となるものではありませんので、借り手がコベ
ナンツ条項に規定された義務を履行しているか、貸し手は継続的にモニタリングする必要
があります。
【テキストの関連ページ】
<ABL におけるコベナンツ条項>(貸し手向けテキスト p97)
<ディスクローズに関する事項>(貸し手向けテキスト p97)
<ABL 存続期間中の対象企業の遵守事項>(貸し手向けテキスト p98)
<コベナンツ条項策定の留意点>(貸し手向けテキスト p98)
<期中におけるコベナンツ条項の確認>(貸し手向けテキスト p99)
50
万が一返済できなくなったらどうなりますか?
5
5.1.
事業の建て直しの検討とは何ですか?
借り手の業況が悪化した場合、比較的初期の段階では、過剰在庫の処分による建て直しや事業
建て直しを検討します。さらに悪化した場合、必ずしも事業の継続性を前提にできない場合が考
えられます。この段階では、借り手の協力が得られる場合と借り手の協力が得られない場合の2
通りに区分して、対応を検討します。
ABL は、取引先の在庫や売掛債権、生産設備などの事業資産に担保を設定します。事業
が順調であれば、取引先はそうした事業資産を、通常通り使用することに何ら制約はあり
ませんが、業況が悪化し、返済困難や、その手前でも、コベナンツで設定した流動性や収
益性などをクリアできない場合は、建て直しのための方向性を貸し手、借り手が協議する
ことが想定されます。
図 7
業績が思わしくない場合の対応
ABLの利用中に業績の悪化が懸念される状況になった場合
●▲銀行
原因をさぐり、
対策を一緒に検討
借り手(企業)
貸し手
日常のコミュニケーションに加えて、懸念事項が
ある時には、一緒に対策を考えます
深刻な事例への対応
さらに深刻な場合、在庫物件一切を、貸し手の倉庫に移してしまうという手段を講じる
必要性も、可能性としては否定できません。しかしこのような強行手段に出た場合、取引
先は事業の継続が困難となりますので、まさに「引導を渡す」行為といえましょう。
もちろん、担保は有効ですし、あらかじめ合意した手続きに従っている限り、合理的な回
収行為といえますが、他方、地域経済への影響など、個別案件の経済合理性を超えた判断
を求められる貸し手・状況においては、そう割り切ることが難しい場合もあるでしょう。
以下では、取引先の信用悪化の段階に応じて、必要な対応を行うことを想定してみましょ
う。
第一段階として、過剰在庫の処分による建て直しや単なるリストラの段階を考えてみま
51
す。この場合、借り手にとっても余分な在庫を持っているほうがロスにつながるため、多
少ディスカウントしても手放したほうがいいという合意を形成しやすいかもしれません。
譲渡担保では、通常の営業の範囲内での物件の処分は、担保権者の承諾なく自由に行えま
すが、過剰在庫の処分は、こうした通常の営業の範囲を超えることとなる場合も考えられ
ます。たとえば、コベナンツにおいて、売上総利益についての条項が入っているような場
合(コベナンツにおいて、通常外の事業活動を、価格(半期平均の売上総利益など)や、
販売量(在庫回転期間の変化幅など)等で規定するような場合)、在庫を処分する際に抵触
することになります。以上見てきた第一段階は、事業の継続性が大前提であり、その場合、
処分の規模が最大のポイントといえます。
第二段階としては、必ずしも事業の継続性を前提にできない場合が考えられます。この
段階は、さらに、①借り手の協力が得られる場合と、②借り手の協力が得られない場合=
交渉ができない状態、の2通りに区分できます。まず、借り手の協力が得られる場合は、
処分事業者にいくらで処分できるかオファーを出すことが考えられます。借り手の協力が
得られない場合(=交渉ができない状況)においては、法的な手段に訴えることが必要な
場合もあります。一般的には、まず仮処分を検討することになります。
【テキストの関連ページ】
<業績が思わしくない場合には、どうすればよいですか?>(借り手向けテキスト P20)
<信用悪化段階別の対応>(貸し手向けテキスト P147)
<処分価格の妥当性>(貸し手向けテキスト P153)
<回収シナリオの想定と物件の確保>(貸し手向けテキスト P159)
【演習】業況悪化の場合にコベナンツがどのように機能するか見てみましょう<コベナン
ツを活用したアーリーウォーニング>
「コベナンツを活用した「アーリーウォーニング」」シートをご覧ください。(なお、月商
の数字を自由に変更できます)
52
万が一返済できなくなったらどうなりますか?
担保物件を換価しなければいけない場合はどうすればよいですか?
5.2.
借り手が民事再生や破産といった倒産手続に移行したような場合、貸し手としては再生債務者
(借り手)や破産管財人との合意によって、債権の回収を図ることが考えられます。貸し手と借り手
の協調関係が喪失してしまったような場合に、担保権を実行した上での債権回収が行われます
が、こうしたケースは少ないでしょう。
ABLは、理念型としては、貸し手(債権者)と借り手(債務者)が協力関係を維持し
ながら行う融資手法です。協調関係を維持したまま返済を受けて終了することが原則であ
り、大半の案件はそのように推移するでしょう。
コベナンツへの抵触が生じた際の対応
債権管理上は、担保物件の換価を想定しておくことは必要ですが、コベナンツ条項への
抵触や債務不履行(デフォルト)が生じて、担保権実行・換価処分まで至る場合は、あく
までも例外的な事象であると考えられます。
以下、図に沿って、コベナンツへの抵触が生じた場合に、どのようなパターンが生じう
るかを見ていきます。
図 8
コベナンツへの抵触が生じた場合のパターン(動産譲渡担保)
コベナンツ抵触、債務不履行
債務者が協力的
債務者が非協力的
(デフォルト後も交渉に応じない)
倒産手続
一部
担保権の実行
担保にアクセスできる場合
担保にアクセスできない場合
別除権を行使
できる場合
仮処分の申立
A
B
C
H
D
債務者と協議の場を
持てた場合等
F
執行
G
I
E
換価
任意売却
(プライマリー)
換価
(任意)売却
(セカンダリー)
換価
本案確定前に
(任意)売却
換価
本案確定後に
(任意)売却
換価
換価
別除権協定
により価値取得
破産手続内で
売却
返済計画を協議の上、返済
破産手続に沿い配当
(出所)20 年度ABLの課題検討(20 年度報告)176 ページ
53
まず、仮に借り手(債務者)が債務不履行に陥ったとしても、貸し手(債権者)との協
調関係が維持されているのであれば、返済計画を協議した上で合意による新たな返済条件
を設定するか(図A)、借り手(債務者)の協力を得て担保物件を換価する場合が想定され
ます(図B及びC)。
他方、借り手(債務者)が民事再生や破産といった倒産手続に移行したような場合、貸
し手(債権者)としては再生債務者(借り手)や破産管財人との合意によって、債権の回
収を図ることになります(図G)。
このように、ABLは協調関係を基礎とした融資であり、各局面ともに合意による返済の
道があるといえます。
このような、貸し手(債権者)と借り手(債務者)の協調関係が喪失してしまったよう
な場合に、担保権を実行した上での債権回収が行われます。その場合であっても、担保権
の実行通知後、実際の占有確保のための執行に至る前に、借り手(債務者)が協調的な姿
勢に転じることもあり、返済計画を協議した上で合意による新たな返済条件を設定するこ
とも想定されます(図E)。実際に執行を行う場合(図F)はまれであるといえましょう。
<処分ルートの確保>(貸し手向けテキスト P157)
<実行・換価処分における課題>(平成 20 年度報告書 P176)
54
貸出基準額の算出
【前提条件】
(単位:百万円)
当座貸越
与信総額
貸出枠
1,400 (実行時の残高
1,400 (実行時の残高
顧客からの希望額を暫定的
に入力
初回実行時の想定残高を
1,200)
1,200)
① 売掛金担保
A社の2009年3月31日現在の売掛金(帳簿上)
直近の売掛金残高を入力
1,664
担保不適格な売掛金(例):
・ 輸出(海外企業向け売上)
・ 親子間取引(子会社向け売上)
・ 請求書期日から90日経過
・ 1社に対する売掛金の50%以上が債権譲渡禁止
特約付き(すべて不適格とする)
担保不適格な売掛金 合計
131
52
152
48
383
担保適格な売掛金
合計
掛け目(前貸し率)
担保として利用可能な売掛金
1,281
80%
1,025
担保に適しない売掛金の金
額を入力
担保評価額のうち何%を貸
出可能枠とするかの数値を
入力
売掛金に関する、貸出基準
額が計算される
② 在庫担保
A社の2009年3月31日現在の在庫(帳簿上)
対象となる在庫総額
仕掛品
原材料・製品
1,551
186
1,365
担保不適格な在庫(例):
・ 回転期間が長い在庫(通常、6ヵ月を超えるもの)
・ 特注品(特定の販売先向けに作られた製品)
・ 委託販売品
担保不適格な在庫
合計
94
55
212
361
担保適格な在庫
合計
掛け目(前貸し率)
担保として利用可能な在庫
貸
1,004
50%
502
能額 算
(続 )
〔当座貸越〕
在庫
担保不適格
担保適格
担保に適さない、在庫の金
額を入力
担保評価額のうち何%を貸
出可能枠とするかの数値を
入力
在庫に関する、貸出基準額
が計算される
流動資産(売掛金、在庫)担
保は、運転資金として、当
座貸越の貸出に充当する
③ 担保評価額と貸出基準額、貸出残高
担保の種類
売掛金
担保不適格
担保適格
直近の在庫金額、うち仕掛
品の金額を入力
掛け目
簿価
担保価格
1,664
▲ 383
1,281
80%
1,025
1,551
▲ 175
(含む仕掛品)
1,376
50%
688
ここまで計算してきた過程と
計算結果のサマリーを表示
担保余力を表示
当座貸越の貸出基準額
当座貸越の現在残高
担保余力
1,713
▲ 1,200
513
55
貸出基準額の算出(米国の参考事例)
【前提条件】
リボルバー
ターム・ローン
ファシリティ合計
(単位:百万円)
貸出枠
1,400 (実行時の残高
1,100 (実行時の残高
2,500 (実行時の残高
初回実行時の想定残高を
入力
1,200)
1,100)
2,300)
① 売掛金担保
A社の2009年3月31日現在の売掛金(帳簿上)
担保不適格な売掛金(例):
・ 輸出(海外企業向け売上)
・ 親子間取引(子会社向け売上)
・ インボイス期日から90日経過
・ 1社に対する売掛金の50%以上が債権譲渡禁止
特約付き(すべて不適格とする)
担保不適格な売掛金 合計
担保適格な売掛金
合計
前貸し率
担保として利用可能な売掛金
顧客からの希望額を暫定的
に入力
直近の売掛金残高を入力
1,664
131
52
152
48
383
1,281
80%
1,025
担保に適しない売掛金の金
額を入力
担保評価額のうち何%を貸
出可能枠とするかの数値を
入力
売掛金に関する、貸出基準
額が計算される
② 在庫担保
A社の2009年3月31日現在の在庫(帳簿上)
対象となる在庫総額
仕掛品
原材料・製品
1,551
186
1,365
担保不適格な在庫(例):
・ 回転期間が長い在庫(通常、6ヵ月を超えるもの)
・ 特注品(特定の販売先向けに作られた製品)
・ 委託販売品
担保不適格な在庫
合計
担保適格な在庫
合計
前貸し率
担保として利用可能な在庫
94
55
212
361
1,004
50%
502
③ 機械設備、不動産担保
A社の2004年3月31日現在の機械設備、不動産
直近の在庫金額、うち仕掛
品の金額を入力
担保に適さない、在庫の金
額を入力
担保評価額のうち何%を貸
出可能枠とするかの数値を
入力
在庫に関する、貸出基準額
が計算される
担保とする機械設備の簿価、
および想定される処分価格
を入力
〔機械設備〕
簿価
通常処分価格(OLV)
強制処分価格(FLV)
担保適格な機械設備 合計(OLVを採用)
前貸し率
担保として利用可能な機械設備
1,522
989
545
989
70%
692
〔不動産〕
簿価
短期処分価格
担保適格な不動産
合計
前貸し率
担保として利用可能な不動産
1,028
646
646
70%
452
担保評価額のうち何%を貸
出可能枠とするかの数値を
入力
機械設備に関する、貸出基
準額が計算される
担保とする不動産の簿価、
および想定される処分価格
を入力
担保評価額のうち何%を貸
出可能枠とするかの数値を
入力
不動産に関する、貸出基準
額が計算される
次頁に続く
56
貸出基準額の算出(米国の参考事例 続き)
流動資産(売掛金、在庫)担
保は、運転資金として、リボ
ルビングの融資に充当する
④ アベイラビリティと担保カバー率
〔リボルバー分 ・・・(a)〕
担保の種類
売掛金
担保不適格
担保適格
在庫
担保不適格
担保適格
簿価
前貸し率
担保価格
1,664
▲ 383
1,281
80%
1,025
1,551
▲ 175
(含む仕掛品)
1,376
50%
688
ここまで計算してきた過程と
計算結果のサマリーを表示
担保余力を表示
リボルバー分の貸出基準額
リボルバーの現在残高
アベイラビリティ
担保カバー率
1,713
▲ 1,200
513
1.43
(127%のカバー率)
〔ターム・ローン分 ・・・(b)〕
担保の種類
機械設備
不動産
簿価
ターム・ローン分の貸出基準額
ターム・ローンの現在残高
アベイラビリティ
担保カバー率
989
646
前貸し率
70%
70%
担保価格
692
452
1,145
▲ 1,100
45
1.04
(104%のカバー率)
〔ファシリティ合計 ・・・(a)+(b)〕
リボルバー分の貸出基準額
ターム・ローン分の貸出基準額
ファシリティの担保価値
リボルバーの現在残高
ターム・ローンの現在残高
ファシリティの残高
アベイラビリティ
担保カバー率
1,713
1,145
2,857
▲ 1,200
▲ 1,100
▲ 2,300
557
1.24
(124% のカバー率)
「担保価値÷貸出現在残
高」を表示
固定資産(機械設備、不動
産)担保は、長期運転資金
(設備投資資金)として、
ターム・ローンに充当する
担保余力を表示
「担保価値÷貸出現在残
高」を表示
リボルビングとタームローン
をあわせたABL全体を表示
貸出基準額の合計を表示
貸出残高の合計を表示
担保余力を表示
「担保価値÷貸出現在残
高」を表示
57
ABLコスト試算フォーマット(想定条件)
まず、貸出、担保物件に関する想定
条件を入力してください。
項目
貸出枠(当座貸越)
貸出額(平残)
動産譲渡登記件数
債権譲渡登記件数
想定
説明
100,000千円
80,000千円
登記の件数。集合動産なら、保管場
2 所の数。個別動産なら動産の個数。
登記の件数。第三債務者を特定する
5 場合は、第三債務者の数。
当座貸越の設定手数料
0.25%
貸出金利
4.00%
58
ABLコスト試算フォーマット
初
期
項目
担保物件評価(初期)
費
網掛けの箱に、外部費用に関する想
定条件を入力してください。
用
費用のタイプ
想定(円)
定額(例: 数十万円程度 ∼ )
説明
500,000 外部評価を委託する場合
登記事項証明書(動産譲渡登記事項概要ファイル)1,000円(1債務者あたり)
1,000
登記事項証明書(債権譲渡登記事項概要ファイル)1,000円(1債務者あたり)
1,000
登録免許税(動産譲渡登記)
7,500円(1登記あたり)
15,000
登録免許税(債権譲渡登記)
7,500円(1登記あたり)
37,500
司法書士手数料
定額(例: 5万円程度 ∼ )
50,000
契約書等の法務確認費用
定額(例: 5万円程度 ∼ )
50,000
小計
¥654,500
初期費用です。
年
間
費
網掛けの箱に外部費用に関する想
定条件を入力してください。
用
年間費用
項目
費用のタイプ
想定(円)
説明
担保物件評価(再評価)
定額(実査省略なら初期よりも安価)
200,000 外部評価を委託する場合
当座貸越の設定手数料
年%(極度枠あたり)
250,000
貸出金利
年利%(貸出平残あたり)
倉庫保管料
定額
小計
年間費用/貸出平残
3,200,000
0 外部倉庫保管とする場合
¥3,650,000
4.56%
年利%
年間費用です。
59
譲渡担保流動資産 モニタリング結果報告書
記載日 年 月 日
記載者 印
融資先名称
融資先所在地
融資先代表者名
融資先連絡先
取引先のBSをイメージし
て、1行目を埋めてみてく
ださい。
1.売掛債権担保
1
2
3
4
5
6
売掛先名
販売内容
債権発生時期
( 年 月 日)
回収期日
( 年 月 日)
売掛債権額
(千円)
適格売掛債権評価額
(千円)
担保掛目
担保引当額
(千円)
回収状況確認日
( 年 月 日)
取引先
名を記
載
販売商品や提
供サービスを
記載
取引のあっ
た日付を記
載
資金を受け取
る予定の日付
を記載
債権の総額を記
載
売掛債権額に担保
掛目を乗じた額を
記載
担保価値算
出用の比率を
記載
適格売掛債権評価
額に引当率を乗じた
額を記載
売掛債権を回収
した場合、日付
を記載
確認者
※一売掛先で回収期日の同じものは、一売掛債権として記載ください。
ただし、譲渡担保契約上の「始期」以前に発生した売掛債権は除きます。
売掛債権額合計
0
(千円)
取引先のBSをイメージし
て、1行目を埋めてみてく
ださい。
2.在庫担保
在庫種別
在庫品目
数量
簿価単価
(円)
売値単価
(円)
担保評価額
(千円)
担保掛目
担保引当額
(千円)
保管場所
加工段
階別に
記載
商品名、部品名
等を記載
数量・重量・
容量等を記
載
仕入時の単価を
記載
出荷時の売値単
価を記載
単価に数量と担保
掛目を乗じた額を
記載
担保価値算
出用の比率
を記載
担保評価額に引当
率を乗じた額を記載
保管倉庫の住所、
倉庫内の位置等
を記載
確認者
1
2
3
4
5
6
※譲渡担保契約上の「始期」以前に発生した在庫担保は除きます。
「在庫種別」欄には、商品・製品・半製品・仕掛品・原材料・貯蔵品等の別をお書きください。
在庫担保額合計
0
(千円)
60
譲渡担保流動資産 モニタリング結果報告書(記載例)
記載日 2009年3月1日
融資先名称
融資先所在地
○○酒造株式会社
■県○市1-2-3
融資先代表者名
融資先連絡先
ABL太郎
01-2345-6789
記載者 信金花子 印
1.売掛債権担保
売掛先名
1 ○○商事
2 △△物産
販売内容
自家製ワイン
自家製ビール
債権発生時期
( 年 月 日)
回収期日
( 年 月 日)
2008年11月13日
2008年12月14日
売掛債権額
(千円)
2009年1月31日
2009年2月29日
適格売掛債権評価額
(千円)
5,000
4,500
3
4
3,500
2,700
担保掛目
0.7
0.6
売掛債権総額×担保掛目
担保引当額
(千円)
175
135
回収状況確認日
( 年 月 日)
確認者
2009年2月1日 ■■
2009年3月1日 ○○
引当率5%と仮定
5
6
※一売掛先で回収期日の同じものは、一売掛債権として記載ください。
ただし、譲渡担保契約上の「始期」以前に発生した売掛債権は除きます。
売掛債権額 合計
6,200
(千円)
2.在庫担保
在庫種別
在庫品目
1 完成品
日本酒(720ml/本)
2 仕掛品
3
4
長期熟成焼酎(100ℓ/樽)
数量
簿価単価
売値単価
担保評価額
(円)
(円)
(千円)
1,000
1,000
1,500
500
150,000
200,000
担保掛目
1,050
65,000
売値単価×数量×担保掛目
0.7
0.65
担保引当額
(千円)
保管場所
53 第一倉庫3番棚
3,250 第二倉庫1番棚
引当率5%と仮定
確認者
△△
○○
5
6
※譲渡担保契約上の「始期」以前に発生した在庫担保は除きます。
「在庫種別」欄には、商品・製品・半製品・仕掛品・原材料・貯蔵品等の別をお書きください。
在庫担保額 合計
66,050
(千円)
61
(例題1)登記事項証明書
概要事項
【登記の目的】:動産譲渡登記
(以下略)
動産個別事項
【動産通番】
:0001
【種類】:マグロ、カツオなど冷凍海産物
【保管場所の郵便番号】456-7890
【特質・所在】静岡県○○市○○町一丁目二番三号
【動産区分】集合動産
【備考】
保管場所の名称:○○物産株式会社××第一倉庫
62
(例題2)登記事項証明書
概要事項
【登記の目的】:動産譲渡登記
(以下略)
動産個別事項
【動産通番】
:0001
【種類】:エックス線 CT スキャン装置
【保管場所の郵便番号】123-5678
【特質・所在】製造番号 AB12345
【動産区分】個別動産
【備考】
平成 19 年製造、形式 YZ-987
63
(例題3)登記事項証明書
概要事項
【登記の目的】:債権譲渡登記
(以下略)
債権個別事項
【債権通番】
:0001 【債権の管理番号】:−
【原債権者】
【本店等】
:東京都新宿区○○町○一丁目二番三号
【商号等】
:○○商事株式会社
【会社法人等番号】:○○○
【取扱店】
:−
【生年月日】:−
【債務者】
【本店等】
:東京都品川区○○町○一丁目二番三号
【商号等】
:○○興産株式会社
【会社法人等番号】:−
【取扱店】
:−
【生年月日】:−
【債権の種類】:売掛債権
【契約年月日】:平成○年 4 月 1 日
【債権の発生年月日(始期)】:平成○年4月1日
【債権の発生年月日(終期)】:平成○年4月1日
【債権の発生原因】:−
【発生時債権額】:30,000,000 円
【譲渡時債権額】:30,000,000 円
【弁済期】:−
【備考】−
64
(例題4)登記事項証明書
概要事項
【登記の目的】:債権譲渡登記
(以下略)
債権個別事項
【債権通番】
:0001 【債権の管理番号】:−
【原債権者】
【本店等】
:東京都新宿区○○町○一丁目二番三号
【商号等】
:○○商事株式会社
【会社法人等番号】:○○○
【取扱店】
:−
【生年月日】:−
【債務者】
【本店等】
:−
【商号等】
:−
【会社法人等番号】:−
【取扱店】
:−
【生年月日】:−
【債権の種類】:売掛債権
【契約年月日】:−
【債権の発生年月日(始期)】:平成○年4月1日
【債権の発生年月日(終期)】:平成○年10月1日
【債権の発生原因】
:譲渡人と販売先との間の○○についての売買契約に基づく売掛債権
【発生時債権額】:−
【譲渡時債権額】:−
【弁済期】:−
【備考】−
65
コベナンツを活用した「アーリー・ウォーニング」
アーリー・ウォーニングとは
ABLでは、在庫や売掛債権といった流動資産に関して、借り手から定期的に報告を求めます。
こうした報告は、ベナンツの中で合意し、借り手の義務として行われます。
また、同じコベナンツの中で、特定の財務数値を、一定以上(以下)とすることを借り手に求める
場合もあります。これは、借り手に対して、一定の経営規律を持たせるという意味あいもあります
が、もうひとつ、一種の「アーリー・ウォーニング」と位置づけ、経営悪化が深刻になる前の段階
で、事業の建て直しに関して協議をする機会を持つことを可能にする仕組みでもあります。
次のグラフは、流動資産を担保としたABLで当座貸越の融資枠を設定している取引先が、売上
の減少を主因とした業況不振に陥ったと想定したものです。
第8期において、現預金がマイナスとなっており、デフォルト状態となってしまいました。
月商
400 350 300 250 200 150 100 50 0 ‐50 100 (百万円)(1期)
売上増加
業況不振
1
2
3
4
期
5
6
融資枠
売上
流動資産
現預金
7
8
66
コベナンツを活用した「アーリー・ウォーニング」(続き)
仮に、コベナンツにおいて、流動資産、現預金比率を一定水準以上に維持することを定め、もし
抵触した場合は、担保設定した在庫、売掛金につき、貸し手が担保権を実行するとしたとします。
この場合、第3期において、流動資産に関して、抵触が発生しており、この時点で、借り手は、貸
し手との協議のうえで、何らかの「再合意」をしない限り、営業はできなくなります。
管理指標の設定
流動資産(百万円) 250以上
40%以上
現預金比率
管理指標の推移
1期
275
流動資産
(コベナンツ抵触)
現預金
(コベナンツ抵触)
2期
286
50%
45%
3期
243
☆
52%
4期
207
☆
74%
5期
165
☆
84%
6期
149
☆
81%
7期
134
☆
39%
☆
8期
126
☆
-24%
☆
400 売上増加
350 業況不振
300 250 200 150 100 50 0 ‐50 1
2
3
融資枠
流動資産
営業利益
4
期
5
6
7
8
売上
現預金
当然、事業環境にもよりますが、経営のスリム化、本業への集中等の固定費削減策によって、赤
字体質から脱却できる見込みがあれば、資金が底をつく前の段階で、確度の高い経営の建て直
しに踏み切れる可能性もあります。
ABLは、担保権、事業資産のモニタリング、コベナンツを組み合わせることで、取引先の経営危
機を早期に把握し、次善の策を講じるタイミングを得るというメリットがあるといえるでしょう。
67
【ABL用語集】(あいうえお順)
No
用語
解説
ABL保証制度
信用保証協会のABL向けの保証制度で、流動資産担保融資(ABL)保証制度という。
中小企業者が有する売掛債権及び棚卸資産を担保とした融資に対して保証を行う。
保証限度額: 2億円
保証割合: 80%
貸付利率: 金融機関所定利率
貸付形式: 根保証の場合は当座貸越、個別保証の場合は手形貸付
http://www.sinpo-yokohama.or.jp/seido/seido/31.htm
2
コベナンツ
ABLによる融資契約を結ぶ際に、企業が貸し手に対して守ると約束し、覚書を交わ
す事項。主として、①財務指標を一定の水準以上に保つこと、②正確な決算書類を
定期的に提出すること、③他の債権者への担保提供の制限、④一定水準以上の配
当や重要財産の処分の際には貸し手に報告・承認を得ること等が含まれる。 融資
の実行後には、貸し手は借り手が、コベナンツの内容をきちんと約束した通りに守っ
ているかを確認する。
3
コミットメント
フィー
コミットメントライン契約において、借り手は、融資の実行の有無にかかわらず、契約
で定めた手数料を支払う義務がある。類似の融資形態に当座貸越があるが、当座
貸越は通常、手数料がないかわりに、銀行等は融資を確約するわけではない。
4
コミットメントライ
ン契約
銀行等が一定の期間、一定の融資極度額の限度内で、借り手の要請に応じて融資
の実行を行うことを確約する契約のこと。
5
シンジケートロー
ン
資金調達の必要がある企業に対して、複数の貸し手(金融機関等)が同一の契約・
条件で協調して行う融資形態のこと。複数の金融機関のうち代表となる金融機関が
幹事となり、融資先企業と金融機関団との窓口となる。通常、借り手企業は、貸付金
の返済等を幹事の金融機関に対して行う。
貸出基準額
動産担保の評価額に、必要に応じて掛け目をかけて算出した金額で、貸出の目安と
なる金額。米国のABLでは、特に小売業など向けに、担保評価額に掛け目(「前貸し
率」などという)をかけて、この貸出基準額を算出し、ABL用の管理ソフトなどを用い
て日次で貸出金準額と与信額を算出して、与信可能額(担保余力)を一定水準以上
に維持するような厳格な管理する場合もあることから、Borrowing Base = 「貸出基準
額」という用語が用いられている。
換価処分
融資の返済が滞り、事業収入による返済の見通しも立たないような場合に、融資金
の返済に充当するために、担保物件を売却することをいう。動産担保のうちの在庫
の場合、通常の販売・商流とは異なる方法で売却することになるため、販売価格や
簿価を下回る場合が多い。売り先は、小売店の場合の閉店セール、原材料の商社
や同業者への売却、中古品の専門事業者への売却等、物件種類やタイミング等に
よって、様々である。
8
強制処分価格
Forced Liquidation Value、略してFLVともいう。 動産担保を評価する際に、限られた
期間内にオークションなどで強制的に処分しなければならない状況を想定した売却
価格のこと。オークション・バリュー(Auction Value)、またはディストレス・バリュー
(Distress Value)ともいう。強制処分価格は通常処分価格より20∼30%程度は低く
なるといわれている。
9
極度額
極度額は、一定の残高限度額の範囲内で、繰り返し融資を受ける際の残高限度額
のことをいう。
10
個人保証
法人(会社)が融資を受ける際に、その法人(会社)の代表者(社長)や経営陣(取締
役)等の個人が、法人とともに返済を約束すること。
個別動産
個別動産とは、ABLにおいて、機械・設備など継続して同一物が対象となる場合に、
個々に物件を特定して管理・登記を行うことをいう。 在庫の場合でも、肉用牛などの
ように、在庫期間が長く、値段も張り、個別のID管理が可能な場合は、個別動産とし
て管理する場合もある。 動産譲渡登記を行う場合は、個別動産譲渡担保は、物件
の種類に加え、例えばパソコンの機番の明記などによって、目的物を個別に1件1件
特定する。
1
6
7
11
68
【ABL用語集】(あいうえお順)
No
用語
解説
公正市場価格
Fair Market Value、略してFMVともいう。 動産担保を評価する際に、通常の取引にお
いて決定される価格を目安にした評価のこと。すなわち、物件の売手がなんら強制さ
れることなく、必要な時間をかけて買手を見つけられる状況を想定した売却価格のこ
と。
債権
特定の人に対して一定の行為を請求できる権利のことをいう。例えば、売主が買主
に対して売買代金の支払いを請求する権利や、買主が売主に対して商品の引き渡し
を請求する権利などである。債権は、主に契約によって発生するが、契約以外によっ
て発生する場合(例えば事故の際の賠償請求権等)もある。
14
指名債権
指名債権とは、債権者を特定した債権で、その成立・譲渡・行使にあたって証券を必
要としない普通の債権のことをいう。法律で禁じられている場合や、当事者間で譲渡
禁止の合意がある場合以外、譲渡することが可能である。譲渡することにより担保
(譲渡担保)とすることができる。指名債権担保の実務例で多いものには、各種の代
金債権・入居担保・貸ビル建設協力金・火災保険金請求権請求権・リース債権など
がある。法律で譲渡を禁止しているものとしては、恩給受領債権・退職金・給料・年金
受給権などがある。
15
事業収益資産
一般的に企業がもっている売掛金等の債権や在庫、生産を行なうための機械設備
等の資産のこと。企業が事業を継続して収益を生み出すために必要不可欠なもの。
16
集合動産
集合動産とは、ABLにおいて、在庫のように常時製品などの物件が出入りするため
に、個々の物品ではなく、集合体として管理・登記を行ことをいう。 動産譲渡登記を
行う場合は、集合動産譲渡担保は、物件を集合物として物件の種類と保管場所を
ベースとして特定する。
17
所有権
対象となる物について、全面的に支配する権利。所有権者は、必ずしも対象物を物
理的(現実的)に支配している必要はない(例えば他人に物を貸しても、貸主が所有
権者である)。
18
所有権留保
売買契約において、売主が売買代金を担保するため、引渡し後も、代金の完済まで、
主の所有権を留保することをいう。動産の割賦販売等において、活用されることが多
い
譲渡担保
融資の際などに、担保の目的で、動産や債権などを借り手(債務者)から貸し手(債
権者)に移転し、借り手(債務者)が融資を返済すれば貸し手(債権者)に移転した動
産や債権の返還を受けられるが、融資の返済をしない場合には返還を受けられなく
なるという形式の担保方法。譲渡担保の設定により、動産や債権は貸し手に移転す
るが、動産についての現実の占有や債権についての回収権限は引き続き借り手に
残ることが多い。このため、譲渡担保を設定した後も、借り手は担保である原料を加
工したり、担保である在庫を販売したりすることができ、また債権を回収してその回収
金を利用して事業を継続することができる。民法には規定がないが、広く商慣習とし
て定着しており、有効性が認められている。
先取特権
法定担保物件のひとつで、他の債権者に優先するものとされます。債務者の財産全
体に関して優先するものとして、共益費用、雇人関係により発生する費用、葬式費用、
日用品供給等がある。動産の売買等による先取特権は、売主が売却代金や利息を
回収する権利が、当該動産やその転売代金に関して優先するものとされるが、債務
者の財産全般には及ばない。
占有
対象となる物を現実に支配しているという状態。自ら所有の意思をもってする占有を
自主占有、他人が所有権を有することを前提として限られた範囲で支配する場合を
他主占有という(例えば、他人の物を賃借りしている場合の賃借人の占有は他主占
有である)という。また、占有者本人が自ら物を所持している場合を自己占有、本人
が他人(占有代理人)を介して支配している場合を代理占有という。
12
13
19
20
21
69
【ABL用語集】(あいうえお順)
No
用語
解説
22
占有改定
動産の譲渡がなされた場合の対抗要件は、占有者が自分の占有を相手に移すこと(
引渡し=占有移転)である。この占有を移す方法の一つが、占有改定である。占有改
定による場合には、自分が占有している物について、それ以降は相手のために占有
するという意思を表示すればよく、物自体は自分の手元に残りながら相手が占有者
となる(占有改定がなされた場合には、もとの占有者は新たな占有者の占有代理人
となる)。しかし、この方法では現実の物の移動がなく、占有の移転が生じたことを客
観的に確認することが難しいことから、それを補うために動産譲渡登記の制度が作ら
れた。
23
即時取得
即時取得は民法192法で規定されており、取引によって動産を取得した人は、仮に取
引の相手方が無権利者(真の所有者でない者)であったとしても、そのことに関して
善意・無過失であれば、その物件を有効に取得できるということ。
対抗要件
当事者間では効力の生じた権利関係を主として「第三者」に主張するために必要とさ
れる手続、要件のこと。ABLで主に使われるのは譲渡担保であるが、貸し手(譲渡担
保権者)が、譲渡担保によって移転された動産や債権から優先して債権を回収でき
る権利を「第三者」に主張するためには、動産や債権が譲渡担保に関する契約によ
って借り手(譲渡担保権設定者)から貸し手(譲渡担保権者)に移転したことを「第三
者」がわかるようにしておく必要がある(このことを、担保のためにされた譲渡につい
て第三者対抗要件を具備する、という)。
第三者
売主と買主、担保設定者(借り手)と担保権者(貸し手)等、契約の当事者以外の法
人や個人のことを第三者という。契約の当事者同士にとっては、どのような内容の契
約が締結され、その契約によって当事者がどのような権利関係にあるかは明確であ
るが、当事者以外の者(第三者)は契約の内容や契約によって財産(動産や債権)に
ついての権利関係が変化(移転)したことなどを知ることができないことが多い。その
ため、契約によって財産についての権利関係が変化(移転)した場合には対抗要件
を備えなければ「第三者」に対しては、その権利関係の変化(移転)を主張することが
できない。例えば、借り手と貸し手の間で動産譲渡担保契約が締結された場合には
、動産の所有権は担保の目的で貸し手に移転するが、貸し手が借り手以外の「第三
者」に所有権が自分に移転したことを主張するためには対抗要件を備える必要があ
る。
通常(静態的)処
分価格
Orderly Liquidation Value、略して称OLVともいう。 動産担保を評価する際に、借り手
の経営破綻により商品(ブランド)価値がある程度低下することを前提に、半年から1
年程度の合理的な期間内に買手を見つけられる状況を想定した売却価格のこと。時
間的な余裕をもって、既存の販売チャネルや一般事業者への販売、一部オークショ
ンや買取業者を利用して処分を行うことを想定している。なお、事業再生のために外
部コンサルタント活用や、操業停止中の給与などの緒コスト控除後の「ネット通常処
分価格」が用いられる場合もある。
登記
登記所(法務局)に備える登記簿に、一定の事実または権利関係を記載すること若し
くは登記簿に記載された事項。登記には不動産の権利関係(所有権、抵当権等)を
示す不動産登記、会社等の概要を示す商業登記があるが、ABLでは「譲渡がなされ
た」という事実を示す動産譲渡登記や債権譲渡登記が利用される。
動産
不動産(土地及び建物などの土地の定着物)以外の空間を占めるもの(有体物)が
動産である。原料、仕掛品、在庫、備品、設備等のほか、牛や豚等の家畜や養殖さ
れている魚等も動産である。個人情報や営業情報等の情報、特許権や著作権等の
権利(無体物)、売掛金等の債権は、実際に空間には存在しないため、動産には含ま
れない。
29
評価・評価替え
ABLを利用して融資を受ける際に、企業が担保として提供する資産について、貸し
手が担保としての価値を見積もること。融資が実行された後は、借り手からの定期的
な報告によって、貸し手は担保の数量の増減・構成変化や管理状況等を把握する。
その上で、適正な担保としての価値を見直し、必要に応じて融資枠の見直しを行なう
。
30
流動資産
現金または一定の期間内(1年程度)に現金化することができる資産。具体的には、
現金のほか、預金、売掛金、棚卸資産等が含まれる。
24
25
26
27
28
70
【ABL確認テスト】
 ABLの理解度を試して見ましょう。設問の文章が正しいかどうか、○×で答えてく
ださい。
設問
1
ABLとは
ABLは、必ずしも担保の処分価値に依存するいわゆる担保主義を意味するわ
けではなく、むしろ、事業の継続を前提とし、企業の事業収益資産を担保とす
ることで、企業の信用力の補完として、貸し手がその事業価値を見極めた上で
行う融資であると言える。
2
担保設定と事業活動
ABLでは、在庫や売掛金、機械設備等の事業資産を担保としますが、通常の
企業活動の範囲では、事業資産の使用、処分に関して、制約はありません。
3
動産とは
動産とは、不動産以外の空間を占めるもの(有体物)のことを動産と言います
が、企業のバランスシートで見れば、原材料や仕掛品、製・商品などの在庫、
備品、設備などが動産です。牛や豚等の家畜や、養殖されている魚等も動産に
含まれます。
4
動産担保と不動産担保の違い
不動産では担保権として抵当権が用いられるが、動産の場合は、抵当権の対象
にならない。このため、動産担保としては質権が用いられることが多い。
5
債権の譲渡担保
債権譲渡担保では、譲受者が保有している権利を第三者に主張するには、確定
日付のある(内容証明郵便等)債務者への通知や債務者の承諾が必須である。
6
ABLに適した動産
ABLにより適した動産かどうかは、処分が容易(可能)かどうか、合理的な
評価が可能かどうか、担保とした後でその管理や実査が容易か、といった視点
で判断することができる。
7
担保価値の評価
ABLにおける担保価値の評価は、同じ在庫物件であっても、借り手の事業の
継続性の見通しや、借り手と貸し手の協力関係などの要素によって、異なって
くる。
8
譲渡登記の効果
譲渡登記を行うことで、債権者の権利の安定化を図りやすくなり、後行者によ
る即時取得が成立する可能性を減らすことができるが、実務上は、登記以外に
も即時取得を成立しにくくする工夫、例えば、倉庫にネームプレートを貼る、
といった方法を講じることが望ましい。
9
登記に際しての物件の特定
動産譲渡登記は、譲渡担保の目的物を個々に特定する必要があるので、非常に
多品種、大量の在庫商品などの場合は、実務上譲渡登記は困難である。
10
モニタリング
ABLにおける担保物件の状況確認(モニタリング)の目的は、融資金の保全
を図ることだけであるから、信用度の高い優良企業が借り手の場合は、モニタ
リングを行うことに意味はない。
回答
71
【ABL確認テスト 正解と解説】
 間違えた設問は、もう一度確認しましょう。
設問
1
2
3
4
回答
ABLとは
ABLは、必ずしも担保の処分価値に依存するいわゆる担保主義を意味するわ
けではなく、むしろ、事業の継続を前提とし、企業の事業収益資産を担保とす
ることで、企業の信用力の補完として、貸し手がその事業価値を見極めた上で
行う融資であると言える。
○
担保設定と事業活動
ABLでは、在庫や売掛金、機械設備等の事業資産を担保としますが、通常の
企業活動の範囲では、事業資産の使用、処分に関して、制約はありません。
○
動産とは
動産とは、不動産以外の空間を占めるもの(有体物)のことを動産と言います
が、企業のバランスシートで見れば、原材料や仕掛品、製・商品などの在庫、
備品、設備などが動産です。牛や豚等の家畜や、養殖されている魚等も動産に
含まれます。
○
動産担保と不動産担保の違い
不動産では担保権として抵当権が用いられるが、動産の場合は、抵当権の対象
にならない。このため、動産担保としては質権が用いられることが多い。
×
※質権は、対象物件を担保権者(貸し手)に引き渡すことが必要ですので、事
業者(借り手)の手元において、事業に活用することはできなくなってしまい
ます。そこで、ABLでは譲渡担保が用いられます。
5
債権の譲渡担保
債権譲渡担保では、譲受者が保有している権利を第三者に主張するには、確定
日付のある(内容証明郵便等)債務者への通知や債務者の承諾が必須である。
※新しくできた債権譲渡登記制度を利用することで、借り手(担保提供者)は
、販売先(売掛債権の債務者)に通知することなく第三者に対抗すること(サ
イレント)が可能となりました。このことは、借り手が販売先等から信用上の
懸念を抱かれるという「風評懸念」を抑える効果があると言われています
6
7
×
ABLに適した動産
ABLにより適した動産かどうかは、処分が容易(可能)かどうか、合理的な
評価が可能かどうか、担保とした後でその管理や実査が容易か、といった視点
で判断することができる。
○
担保価値の評価
ABLにおける担保価値の評価は、同じ在庫物件であっても、借り手の事業の
継続性の見通しや、借り手と貸し手の協力関係などの要素によって、異なって
くる。
○
次頁へ続く
72
【ABL確認テスト】
 間違えた設問は、もう一度確認しましょう。
前頁から続く
設問
8
9
譲渡登記の効果
譲渡登記を行うことで、債権者の権利の安定化を図りやすくなり、後行者によ
る即時取得が成立する可能性を減らすことができるが、実務上は、登記以外に
も即時取得を成立しにくくする工夫、例えば、倉庫にネームプレートを貼る、
といった方法を講じることが望ましい。
○
登記に際しての物件の特定
動産譲渡登記は、譲渡担保の目的物を個々に特定する必要があるので、非常に
多品種、大量の在庫商品などの場合は、実務上譲渡登記は困難である。
※動産を特定する方法として、個別動産担保と集合動産担保の2通りの方法が
あります。集合動産譲渡担保は、店頭の商品や倉庫内の原材料など、目的物の
量が増減、変動を繰り返すようなモノ(動産)に対して、それを集合物として
保管場所をベースとして特定します。したがって、多品種・大量の在庫品でも
、登記はできます。
10
回答
×
モニタリング
ABLにおける担保物件の状況確認(モニタリング)の目的は、融資金の保全
を図ることだけであるから、信用度の高い優良企業が借り手の場合は、モニタ
リングを行うことに意味はない。
×
※モニタリングの目的は、担保価値を把握し、維持することで融資金の保全を
図ることですが、それにとどまらず、貸し手は定期的、定型的に、事業のリア
ルタイムに近い情報をチェックすることができるので、資金調達ニーズや経営
支援の必要性を早期に把握する基礎情報になります。
73
Fly UP