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石油資源運搬での北極海航路開拓に関する中国及び各国の動きと 北極

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石油資源運搬での北極海航路開拓に関する中国及び各国の動きと 北極
JPEC レポート
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レポ
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ートト
2014 年度
第4回
平成 26 年 5 月 16 日
石油資源運搬での北極海航路開拓に関する中国及び各国の動きと
北極圏の石油・ガス資源開発
米国地質調査所(USGS :US
Geological Survey)が 2008 年 7 月
に発表した「Circum-Arctic Resource
Appraisal(CARA)
」によって、北極
圏の石油・ガス資源は一躍注目を浴
びた。
1. 北極海の石油・天然ガス資源 ............................ 1
2. 北極海航路の開発 .................................................. 5
3. 北極圏に進出する中国 ......................................... 8
3.1. 北極圏 5 カ国と北極研究センター
設立 ................................................................. 8
3.2. 北極評議会の常任オブザーバー
資格取得......................................................... 9
3.3. 北極海航路と北のシルクロード構想.... 9
3.4. 北極圏石油・ガス資源開発への参画.... 10
また、2010 年夏、ロシア独立系天
然ガス大手のノバテクが手配したソ
フコムフロートのアフラマックスタ
ンカーが、コラ半島北岸のムルマンスク港から北極海航路(NSR:Northern Sea Route)を
経て中国海洋石油総公司(CNOOC)の化学プラントがある東シナ海の中国浙江省寧波ま
で、22 日間でコンデンセートを輸送することに成功した。さらに中国の砕氷極地観測船「雪
竜」は 2012 年 8 月、北極海航路を航行してアイスランドに到着した。2012 年 11-12 月に
はロシアムルマンスクがチャーターした LNG タンカーが、ノルウェー北部のハンメルフ
ェスト港から北極海航路を利用して北九州市戸畑港の九州電力 LNG ターミナルまで 29 日
間で LNG を輸送した。このほか、2014 年までに韓国、台湾、北朝鮮、シンガポール、タ
イ、ベトナム、米国、カナダ、フィンランド、デンマーク、ドイツ、ポーランド、オラン
ダ、フランスなどを発着する船舶が北極海航路を利用した。
こうした資源開発および輸送ルート、
さらに軍事・安全保障面での北極海への関心の高ま
りのなか、2013 年 5 月に開催された北極評議会(AC:Arctic Council)の会議では、沿北極
海国ではない日本や中国、さらに韓国、インド、シンガポール、イタリアの常任オブザー
バー資格(議決権を持たない参加資格)が認められた。北極海を巡っては、ここ数年、特
に中国の進出が話題となっているが、北極海の資源と中国の北極海への関与を軸に北極海
開発の動きを紹介する。
1.
北極海の石油・天然ガス資源
米国地質調査所(USGS)は、2008 年 5 月までに北緯 66 度 33 分以北の北極圏における
1
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未発見の石油・天然ガス資源の評価作業を終え、同年 7 月に「Circum-Arctic Resource
Appraisal:Estimates of Undiscovered Oil and Gas North of the Arctic Circle」と題するレポート
を発表した。USGS は 3km 以上の堆積物の層がある地質学的地域を評価、このうち可採埋
蔵量5,000 万boe 以上の石油・天然ガス資源が1 つ以上発見される可能性が10%以上あると
見込まれる地域について、永久氷海や深度、経済性を考慮することなく、在来型石油・天然
ガス資源に限定して(炭層メタンガスやガスハイドレート、オイルシェール、タールサン
ドなどの非在来型資源は除外)
、評価を行った(図 1 参照)
。
33 地域のうち、10%以上の発見可能性があると評価されたのは 25 地域で、うち、西シ
ベリア堆積盆、エニセイ=カタンガ堆積盆、東バレンツ海盆、極北アラスカ、スベルドラ
ップ堆積盆は 100%である。
図 1 北極圏の評価地域と資源発見の可能性
USGS は 25 地域について資源量の評価を行なった。その結果を図 2、図 3、表 1 に示す。
北極圏全体で未発見の石油は約 900 億 bbl、天然ガスは約 1,669 兆 cf(約 2,780boe)
、天然
ガス液(NGL)は 440 億 bbl で、合計約 4,120 億 boe と見積もっており、石油に比べ天然
ガスのポテンシャルがかなり大きい。このうち 84%の資源が海域に眠っていると推測され
ている。また、石油資源の 70%以上は、極北アラスカ、アメラジアン海盆、東グリーンラ
ンドリフト陸棚、東バレンツ海盆、西グリーンランド‐東カナダ間の 5 地域、天然ガスの
70%以上は、西シベリア堆積盆、東バレンツ海盆、極北アラスカで発見されると評価して
いる。
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図 2 未発見の石油資源量
図 3 未発見の天然ガス資源量
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一方、これまでに、ロシア、カナダ、アラスカ(米国)の北極圏では、陸域を中心に 400
以上の油ガス田、2,400 億 boe の石油と天然ガスが発見されている。これは世界全体の約
10%で、かなりの量になる。ただ、USGS は北極圏のほとんど、特に海洋の資源について
は基本的に未探査だとし、北極圏大陸棚は、地球上に残された最大の未探査地域の 1 つに
なるだろうと評価している。
表 1 地域別の未発見石油・天然ガス・NGL 資源量(合計量順)
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北極海航路の開発
気候変動に関する政府間パネル(IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change)の報
告書などで指摘されているように、北極圏の気温は地球の平均気温上昇の約 2 倍の速度で
上昇しており、海氷面積は大幅に減少している。宇宙航空研究開発機構(JAXA)が発表
した、
北極海の海氷面積が観測史上最小記録を更新した 2012 年 9 月の北極海の海氷分布を
図 4 に示す。JAXA の第 1 期水循環変動観測衛星「しずく」
(GCOM-W1)のマイクロ波放
射計で観測したもので、JAXA によれば、2012 年の北極海氷は、観測史上初めて 400 万 km2
を下回り、これまでで最小だった 2007 年 9 月の 425 万 km2 から日本列島 2 つ分も小さく
なった。これは、1980 年代の平均面積と比べ、半分以下にまで縮小したことを意味してい
る。
2.
また、気象庁によれば、北極域の海氷面積は、1979 年以降、長期的には減少傾向を示し
ており、特に年最小値において減少傾向が顕著で、海氷面積の年最小値は 2007 年に大きく
減少し、それ以降の年最小値はいずれの年も 2006 年以前よりも小さくなっている。2013
年までの減少率 9.2 万 km2/年は、2012 年までの減少率 9.3 万 km2/年より小さくなったが、
近年は減少率が大きくなる傾向にある。
図 4 北極海を覆う海氷の減少(1980 年代 9 月と 2012 年 9 月の比較)
こうした北極海の海氷面積減少、特に夏期の海氷面積が大幅に後退したこと、衛星等に
よる詳細な気候情報の取得が可能になったこと、さらに中国および東アジア地域の経済発
展が進んだことにより、かつてはロシア国内の物資輸送程度にしか利用されていなかった
北極海航路(NSR)の商業利用が飛躍的に拡大しつつある。
北極海航路はロシアの排他的経済水域(EEZ)を通過する必要がある。ロシアは国連海
洋法条約 234 条に基づき、1990 年に航行規則「Regulation for Navigation on the Seaway of the
Northern Sea Route」を制定、1991 年 9 月より施行した。これは、EEZ およびその外側の公
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海における運航を規定したもので、事前申請や船員の氷海航行経験、砕氷船によるエスコ
ート、環境保護と安全確保のための通行料徴収、損害への賠償などを定めている。ただ、
不透明な通行料徴収など、この規則には問題があるとの指摘もある。
こうした通行料金徴収に加え、船体の改造や専門要員の育成などのコストがかかり、船
型制限やスケジュールの制約もあるが、北極海航路は航海日数が短縮されることは明確で
(表 2 参照)
、輸送コスト削減が図れるため、各国が注目している。
表 2 キルケネス(ノルウェー)およびムルマンスク(ロシア)からアジアへの
スエズ運河経由と北極海航路の比較
図 5 に 2007 年から 2013 年における北極海航路を利用した船舶運航の推移を示した(う
ち約 30%はバラストや回送)
。2009 年まで北極海航路の利用は極めて限定的であったが、
2010 年を境とし、特に 2011 年以降、拡大基調に入ったことが明確になっている。
図 5 北極海航路を利用した船舶運航推移と各年のトピック
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2013 年には 6 月から 11 月にかけて 71 件(うちバラストや回送が 22 件)の船舶運航が
あったが、そのうち 31 件が軽油やナフサ、ジェット燃料、ガソリン、重油、コンデンセー
トなどの石油関連(軽油が 19 件と最多)
、1 件が LNG であった。また、2012 年の 46 件(バ
ラストや回送が 13 件)のうち 25 件が石油関連(軽油が 11 件と最多)
、1 件が LNG、2011
年の 41 件(バラストが 15 件)のうち 15 件が石油関連(コンデンセートが 9 件と最多)で
あった。石油・ガス関連製品の輸送が圧倒的で、ほかには鉄鉱石や石炭、冷凍魚の輸送が若
干ある
図5に示す通り、
中国向けに関しては、
北極海航路の商業利用が始まった2010年段階で、
すでにコンデンセートや鉄鉱石などの輸送を行っており、いち早く北極海航路のメリット
を確認している。さらに中国は 2012 年、観測調査船を北極海経由でアイスランドに送り、
2013 年にはオランダへ多目的カーゴを送った。また、韓国は北極海航路を使って、何度も
コンデンセートを輸入し、フィンランドやフランス、デンマークなど欧州諸国向けにナフ
サやジェット燃料および軽油を相次いで輸送している。
このほか、日本、台湾、タイ、シンガポールなどアジア諸国向けにロシアや欧州から石
油・ガス関連製品が輸送された。
日本向けとしては、
北欧やロシアからナフサが輸送された。
最近ではベトナムからポーランドへ、ロシアから北朝鮮へ貨物を輸送したケースもある。
さらに、2012 年以降は、米国(アラスカ)やカナダと欧州間の輸送にも利用され始めてい
る。
このなかで注目されるのは北極海航路を利用した LNG の輸送である。その第 1 号は、
2012 年 11-12 月にロシアムルマンスクがチャーターした Lance Shipping の LNG タンカー
「Ob River」が、ノルウェー北部のハンメルフェスト港から北極海航路を利用して北九州
市戸畑港の九州電力 LNG ターミナルまで 29 日間で LNG を輸送した。氷海はロシア国営
企業アトムフロートの原子力砕氷船がエスコートし、ロシア NSR 区間は 9 日間、平均速度
12.5 ノットで運航した。航海の前半、バレンツ海とカラ海では氷は少なかったが、ヴィリ
キツキー海峡からベーリング海峡までは30cm の厚さの氷海を進んだ。
2013 年9-10 月には、
韓国現代重工(HHI)が建造し、ギリシャ企業ダイナガスが運航する LNG タンカー「Arctic
Aurora」が、ハンメルフェスト港から北極海航路を経て千葉県富津市の東京電力 LNG ター
ミナルまで LNG を輸送した。
また、石油・ガスの輸送ルートとしての北極海航路の商業化は、2010 年にロシアのノバ
テクが手配したソフコムフロートのアフラマックスタンカーが、コラ半島北岸のムルマン
スク港から中国海洋石油総公司(CNOOC)の化学プラントがある東シナ海の中国浙江省
寧波まで、22 日間でコンデンセートを輸送することに成功したのが最初である。その後、
タイや韓国へもコンデンセートが輸送されている。
ノバテクは、ヤマル・ネネツ自治管区サベッタにおいて仏トタルと共同で年産能力 1,650
万トンのヤマル LNG プロジェクトを推進しているが、その大きなターゲットとしてアジ
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ア市場を考えており、すでに同事業権益の 20%を中国石油天然ガス集団公司(CNPC)に
譲渡するとともに年間 300 万トンの LNG 供給に合意している。2010 年のコンデンセート
輸送は、こうした将来の LNG 輸送を視野に入れたものとみられる。ロシアでは LNG 輸出
自由化法案が議会を通過しており、ムルマンスクに加えてロスネフチやノバテクによる
LNG 輸出が解禁される。
ヤマル LNG プロジェクトにおけるノバテクやトタルの構想を図 6 に示した。北極海域
の氷が薄くなる夏期には北極海航路を利用して中国などのアジア市場に LNG の輸送を行
い、北極海域の環境が厳しくなる冬期については、欧州経由でスエズ運河などを利用する
か、カタールなどの LNG 輸出プロジェクトとの LNG スワップを行う。こうすることで、
原子力駆動の砕氷船などの使用を最小限に抑え、LNG タンカーに改造を施すなど、低コス
トで北極海航路を利用することが可能になるという。
図 6 ヤマル LNG プロジェクトの LNG 輸出概念図
3. 北極圏に進出する中国
3.1. 北極圏 5 カ国と北極研究センター設立
中国とアイスランド、デンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデンの北極研
究機関は 2013 年 12 月、上海で「中国– 北欧北極研究中心合作協議(中国– 北欧北極研究
センター協力取り決め)
」に調印、北極研究センターの設立を発表した。北極センター設立
は、
2012 年4 月に温家宝首相がアイスランドを訪問してシグルザルドッティル首相と会談、
「关于北極合作的框架(北極協力に関する枠組み協定)
」に調印したのを機に、中国国家海
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洋局とアイスランド外務省の「海洋与極地科技合作諒解備忘錄(海洋・極地科学技術協力了
解覚書)
」によって提起され、中国極地研究中心(中国極地研究センター)の呼びかけに北
欧 5 カ国および中国の関係研究機関が賛同したことで実現したとされる。
北極センターは北極とその世界的影響に対する認識、理解を増進し、北欧の北極の持続
可能な発展と中国と北極の調和のとれた発展を図り、北極の気候変動とその影響、資源、
海運、経済協力、北極政策・立法などの共同研究と国際交流を進めることに寄与すると新
華社は報道している。
3.2. 北極評議会の常任オブザーバー資格取得
中国の砕氷極地観測船「雪竜」は 2012 年 8 月、初めて北極海航路を航行してアイスラン
ドに到着、グリムソン大統領の訪問を受けた。そして 2013 年 4 月にはシグルザルドッティ
ル首相が訪中して李克強首相と会談、
同 15 日に欧州の国としては初となる中国との自由貿
易協定(FTA)に調印した。これと同時にシグルザルドッティル首相は、中国が北極評議
会(AC)へオブザーバー参加することに関して支持を表明した。これにより中国は 5 月
16 日、スウェーデンのキルナ市で行われた北極評議会の閣僚会議で、日本や韓国、インド、
シンガポール、イタリアとともに北極評議会の常任オブザーバー資格を取得することにな
った。
北極評議会は、1996 年 9 月のオタワ宣言に基づき、北極圏環境保護戦略(AEPS:Arctic
Environmental Protection Strategy)を経て設立された。沿北極海国としてロシア、アメリカ、
カナダ、ノルウェー、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、アイスランドの 8 カ国
が運営しており、先住民のイヌイット、グイッチン、アサバスカ、サーミ、アリュート、
ロシア北方民族の 6 団体が常時参加者となっている。これまでに非北極圏のイギリス、フ
ランス、ドイツ、オランダ、スペイン、ポーランドが常任オブザーバーとなり、他に国際
組織や NGO も参加している。
3.3. 北極海航路と北のシルクロード構想
中国は「北方絲綢之路(北のシルクロード)
」というコンセプトを進めており、大連海事
大学交通運輸管理学院の李振福教授(元北極海事研究センター)が国務院への報告書で「北
極海航路を制するものが、世界経済と国際戦略の新ルートを制する」と指摘している。も
ちろん現在でも中国の海洋航行に関する核心的利益は東シナ海と南シナ海にあるが、海賊
問題や周辺国との領有権問題など不測の事態に備えて北極海航路の開拓に着手し、安定し
た航行と日程やコストの削減が図れるものから徐々に北極海航路の利用を進めていくもの
とみられる。
中国は 1990 年代から調査隊を北極点に送るなど北極圏の調査を強化し、
環境調査などと
もに北極海航路の開発に力を入れてきた。前述した「雪竜」は、1993 年にウクライナから
購入したものである。
「雪竜」
の航行が注目されたのはアイスランドに到着して両国の関係
強化をアピールしただけではない。
「雪竜」
はアイスランドへはロシアの砕氷船の先導で北
極海航路を航行したが、帰路はロシア砕氷船の先導なしで北極点付近を単独で航行して帰
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還した。
前述したように、すでに 2010 年時点で、ロシアノバテクが手配したソフコムフロートの
アフラマックスタンカーが、ムルマンスク港から浙江省寧波までコンデンセートの輸送に
成功しており、ノバテクは LNG の輸送にも北極海航路を活用する。また、2013 年 8 月 8
日には、中国遠洋運輸集団(COSCO)傘下の中遠航運の多目的貨物船「永盛」が遼寧省大
連港を出航し、9 月 10 日に中国の商船として初めて北極海航路でオランダ・ロッテルダム
港に到着した。
3.4. 北極圏石油・ガス資源開発への参画
中国が北極圏に関心を示すもう 1 つの理由は、よく言われるように石油や天然ガスなど
資源開発にある。
すでに中国国営石油会社は北極圏の石油・ガス資源に対してアプローチを
開始している。
中国海洋石油総公司(CNOOC)は 2013 年 6 月、アイスランドのエイコン・エナジーと
共同で、同国周辺の北極圏で石油と天然ガスの探鉱開発ライセンスの申請を行っているこ
とを正式に認めた。CNOOC の子会社である CNOOC International が、図 6 に示したアイス
ランド北方沖ドレキ地域における石油・ガス探査に向け 1 年間にわたってエイコンと交渉
を進め、基本合意に達したもの。権益比率は CNOOC が 80%、エイコンが 20%になる。同
社にとって北極圏での初めての海洋石油調査になる。同年 11 月には、ノルウェー企業ペト
ロが、傘下のペトロ・アイスランドを通じて CNOOC– エイコングループの探鉱ライセン
スに加わることになった。
アイスランドは北極海の石油探査を目指し、2006 年に実施した第 1 次ライセンスラウン
ドに続き、2011 年 10 月から産業革新省エネルギー局(Orkustofnun)が第 2 次ラウンドを
実施した。この入札ではメジャーや準メジャークラスの参加は得られず、2013 年 1 月に、
ノルウェー企業が参加して、フェロー・ペトロリアム(権益 67.5%)/Iceland Petroleum(7.5%)
/ペトロ・アイスランド(25%)およびヴァリアント・ペトロリアム(56.25%)/Kolvetni
(18.75%)/ペトロ・アイスランド(25%)の 2 グループにライセンスが付与されている。
この 3 番目となるのがドレキ地域のライセンスで、Orkustofnun は 10 月までに CNOOC–
エイコンの申請の処理を完了したという。
ただ、アイスランドの鉱区にはそれほどのポテンシャルはない。こうした中国石油企業
の北極圏へのアプローチに関して、関係者は、短期的にみて、中国の石油企業が北極圏で
本格的な石油開発を始める可能性は低いとみている。その理由としては、現時点の開発・
生産コストおよび技術的なハードルがかなり高いことを挙げている。ただ、メジャーを始
めロシアなど海外の石油企業は続々と北極圏に進出しており、中国企業がこの時期を逸せ
ば、将来に大きな禍根を残すことになるため、戦略的な措置として交渉に参加していると
いう。
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また、中国企業は外国企業との協力に関する現地の法制度に明るくないため、必要以上
のリスクを負う可能性があることや、中国企業は北極海や大水深の調査に関する中核設備
や技術が不足していること、石油流出事故など国際的な環境問題に直面する可能性がある
ことなども指摘されている。
図 7 アイスランドの第 2 次ライセンスラウンド
前述したように中国石油天然ガス集団公司(CNPC)は、ノバテクとトタルが進めてい
るロシアのヤマル LNG プロジェクトの権益 20%を取得するとともに、年間 300 万トンの
長期 LNG 売買に合意している。同事業には、三井物産/三菱商事、インド ONGC ビデシュ
/インド石油公社(Indian Oil Corporation:IOC)/ペトロネット LNG も参加の意向を示して
いるが、中国がいち早く正式参加に漕ぎ着けた。2013 年 9 月の権益売買調印式には、G20
サミットに出席するためサンクトペテルブルクを訪問した中国の習近平国家主席とロシア
のプーチン大統領が立ち会っており、両国の協力を内外にアピールするものとなった。
ヤマル LNG プロジェクトは 2013 年 12 月、最終投資決定(FID)が宣言されている。総
額 270 億ドルを投下して、ヤマル・ネネツ自治管区サベッタに年産 1,650 万トン(550 万ト
ン×3 系列)の LNG プラントを建設し、天然ガス埋蔵量 44 兆 cf(1.25 兆 m3)と見積もら
れている南タンベイガス田(Yuzhno-Tambeyskoe ガス田)の天然ガスを液化して輸出する
計画である。フェーズ 1 が 2017 年、フェーズ 2 が 2018 年、フェーズ 3 が 2019 年に稼働予
定で、詳細設計は日揮と仏テクニップが担当している。
また、ロシアはロスネフチがエクソンモービルと共同で北極圏カラ海の東プリノボゼメ
ルスク 1~3 鉱区を探査するほか、バレンツ海やチュコト海などでも探査を進め、シェルや
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JPEC レポート
スタトイルなどとも協力する。ムルマンスクもバレンツ海やペチョラ海の開発にチャレン
ジする。
ロシアは中国に対しても北極圏の開発を呼びかけている。
例えば 2013 年 6 月に開催され
た「中国ハルビン国際経済貿易商談会」に出席するため訪中したロシア代表団は、ロシア
政府は北極エネルギー基地建設を計画しており、中国の参加も可能だと強調した。ロシア
科学アカデミー(Russian Academy of Sciences)などによれば、現在、ロシアの油ガス探査
井は北極圏から 100km 以内の地点に到達しているが、初歩的試算でロシア北部の大陸棚開
発だけで必要な資金は 1 兆ドルに達し、開発作業は生態系の保全や労働環境などの問題に
直面する。このためプーチン大統領は 2013 年 2 月、ロシア北極地域の 2020 年までの発展
戦略を承認、科学技術の開発や近代的な通信インフラ建設、生態系の保全、国際協力、軍
事的安全保障などの措置をとって、北極地域の開発を確保することを決定した。中国には
豊富な資金力と大陸棚開発の経験があり、さらに、中国が北極評議会の正式オブザーバー
になったことで、この枠組みの中でより幅広い協力を進めることができるとしている。
参 考
1) Circum-Arctic Resource Appraisal:Estimates of Undiscovered Oil and Gas North of the Arctic
Circle(US Geological Survey)
2) Assessment of Undiscovered Oil and Gas in the Arctic(SCIENCE
VOL 324)
3) Transit Statistics(Nothern Sea Route Administration)
4) RULES of navigation on the water area of the Northern Sea Route(Ministry of Transport of
Russia
5)
6)
7)
8)
9)
10)
11)
12)
13)
14)
15)
16)
International Arctic Research http://www.ijis.iarc.uaf.edu/jp/index.htm
ガスプロム http://www.gazprom.com/
ロスネフチ http://www.rosneft.com/
ノバテク http://www.novatek.com.tw/
ICELAND Offshore Exploration(ORKUSTOFNUN)
ロシア大陸棚石油・ガス開発と日本(篠原 建仁 ユーラシア研究所)
北極圏の石油ガス探鉱開発状況(佐藤 大地 石油・天然ガスレビュー2010 年 3
月)
北極圏のエネルギー資源と我が国の役割(本村 眞澄)
Northern Sea Route beckons LNG shippers(Stan Jones)
日本北極海会議 報告書(海洋政策研究財団)
中国の石油産業と石油化学工業 2013 年版(東西貿易通信社)
East & West Report 各号(東西貿易通信社)
以上
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本資料は、一般財団法人 石油エネルギー技術センターの情報探査で得られた情報を、整理、分析
したものです。無断転載、複製を禁止します。本資料に関するお問い合わせは[email protected]
までお願いします。
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次回の JPEC レポート(2014 年度 第 5 回)は
「米国の商業規模の第二世代バイオリファイナリーの状況」
を予定しています。
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