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2007 年 11 月号

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2007 年 11 月号
2007 年 11 月号
米国経済・金融市場の概況
■ 7~9 月期の米国経済は底堅い成長に終わったとみられる
(GDP統計の公表は 10/31)
。今のところ、金融市場の
不安定化による深刻な影響はみられないが、これからが
米国経済の正念場である。
■ 米国経済の足枷となっている住宅市場の調整、サブプラ
イム・ローン問題は共に長期化の様相を呈しており、個
人消費への影響が懸念されるばかりか、負の循環を形成
する可能性をも秘めている。
■ 一方、金融政策の運営(ひいては米国経済)にとって幸
運なのは、インフレ・リスクの縮小である。ドル安やエ
ネルギー価格の高騰という状況がみられるものの、景気
減速や物価算定上のテクニカルな問題を踏まえると、コ
ア・インフレ率は今後も物価安定圏内で推移する可能性
が高い。
2007 年 10 月 31 日発行
※当レポートは情報提供のみを目的として作成されたもので、商品の勧誘を目的としたものではありません。
みずほ米国経済情報 2007/10/31
Mizuho Research Institute
1.トピック:二つの足枷を履いた米国経済
住宅在庫の急増と持ち家
米国経済は、二つの足枷を履いている。過剰な住宅在庫という実体経済面の足枷
率の悪化
と、サブプライム・ローン問題という金融面の足枷である。二つの足枷は相互に関
連しあい、負の循環を形成する可能性を秘めている。
後段でも触れるように、米国の在庫率は新築、中古ともに高水準にある。住宅市
場には、売却用の空き家(在庫)が 9 月末時点で 207 万件も存在し、1965 年の住宅
ストック統計開始以来で最悪の状況だ(参考図表 1)。
同時に、足もとの持ち家率はピーク時(2004 年 4~6 月期の 69.3%)と比べて▲
1.2Pt と大きく低下している。持ち家率の低下は今年に入ってから顕著になってお
り、サブプライム・ローンの条件見直し(ペイメント・リセット)に伴う債務不履
行・差し押さえ(ペイメント・ショック)の影響が表れていると考えて間違いはな
いだろう。住宅価格の下落を通じ、個人消費を巻き込んでこれらの調整が負の循環
を形成する可能性も否定できず、警戒が必要だ。
進まないサブプライム・
銀行監督当局は、サブプライム・ローンの組成や証券化に関わった金融機関に対
ローン債務者の救済
しローンの見直しを進めるよう要請している。しかし見直しは進んでいない。
ローン見直しの障害となっていた一つの要因は、
「債務不履行の危険はあるがまだ
その状態ではないローンの見直しを行うと、関連する証券化スキームがオフバラン
ス取引の要件を満たさなくなるのではないか」という企業会計上の不透明さであっ
た。これに対して、証券取引委員会(SEC)は、下院金融サービス委員会からの
質問に答える形で「問題なし」との見解を示した(7/25)
。
しかし、こうした企業会計上の問題をクリアにしても、ローンの見直しはほとん
ど進んでいないようだ。10 月上旬、連邦預金保険公社(FDIC)の会長は講演の中で、
「見直しが行われたローンは 1%に満たない」と述べ、苛立ちを露わにした。
JECが示すサブプライ
FDIC 会長によれば、今年に入ってペイメント・リセットを迎えたサブプライム・
ム関連の最終損失額
ローンは 1,500 億ドルに上り、さらに 3,000 億ドル相当のローンがリセットされる
参考図表 1 持ち家率と住宅在庫
70%
(百万件)
69%
持ち家率
68%
参考図表 2 サブプライム・ローン問題の影響
・
2007 年 7~9 月期から 2009 年末の間に 130 万世帯が新たに
差し押さえ
2.2
・
この差し押さえに伴い、710 億ドルの住宅資産価値が喪失。
2.0
・
さらに近隣物件の評価に対してマイナスの影響が表れ、320
億ドルの住宅資産価値が喪失
・
州政府は 9 億 1,700 万ドルにのぼる税収減(固定資産税収減)
に直面
・
差し押さえが顕著な州:カリフォルニア、フロリダ、オハイ
オ、ニューヨーク、ミシガン、テキサス、イリノイ、アリゾ
ナ、ペンシルバニア、インディアナ
2.4
1.8
1.6
売却用空き家数
(右目盛)
67%
1.4
66%
1.2
1.0
65%
99
00
01
02
03
04
05
06
(注)住宅価格の前提は Moody's 予測値を利用。
「2007 年 7~9 月期から
2009 年 4~6 月期まで 6.9%下落後、緩やかに持ち直し」
(資料)米議会合同経済委員会
07
(資料)米国商務省
1
みずほ米国経済情報 2007/10/31
Mizuho Research Institute
予定である。
米議会合同経済委員会(JEC)も、サブプライム・ローン問題が過小評価され
ているとのレポートを発表した("The Subprime Lending Crisis: The Economic
Impact on Wealth, Property Values and Tax Revenues, and How We Got Here"、
10/25)。保守的な住宅価格の下落を前提としても、2009 年までの間に 100 万世帯を
超える差し押さえが発生し、1,000 億ドルを超える住宅資産価値が喪失する(最終
損失)との試算結果を示している(参考図表 2)。IMFの試算結果(1,700 億ドル)
と比べれば最終損失額は小さいが、決して無視し得ない規模の問題であることに変
わりはない。
「トランシェ戦争」
ローンの見直しが行われれば、こうした損失を大きく減じることができる。しか
し、証券化によって多くの投資家を巻き込んだサブプライム・ローン問題は「トラ
ンシェ戦争」という難問を抱えている。
米議会調査局(CRS)は、上述した会計上の問題がクリアになった後もサブプ
ライム・ローンの見直しが遅々として進んでいない背景として、サブプライム・ロ
ーンの証券化商品を保有している投資家の間に強い利益相反がある可能性を指摘し
ている("Is Securitization an Obstacle to Subprime Borrower Workouts?",10/22)。
ローン見直しによって当該証券化商品の投資家が一様に損失を分け合うとは限ら
ない。サブプライム関連証券化商品の多くは、投資家の運用ニーズに応じて多段階
に分割されているためだ。分割された各証券の種類(トランシェ)毎に、投資収益
が最大化するシナリオは異なり、ローン見直しでメリットを受けるトランシェがあ
る一方、損失を被るトランシェも存在する。CRSはこうしたトランシェ間、すな
わち投資家間の対立を「トランシェ戦争(Tranche Warfare)」と呼び、ローンの見
直しにとっての大きな障害となっている可能性があると指摘している。
訴訟問題への発展可能性がある中、民間主導のサブプライム・ローン見直しは慎
重にならざるを得ず、長い時間を要するとみられるのである。
2.需要動向:住宅市場の調整持続、消費は緩やかに拡大、設備投資に持ち直し
住宅販売・着工は減少基
一段の悪化が予想される。
図 2 住宅着工件数
図 1 住宅販売件数
110
(万件)
(万件)
680
660
640
100
90
620
600
80
580
560
70
540
520
60
50
500
06/9
07/3
07/9
新築住宅販売
中古住宅販売(右目盛)
200
190
180
170
160
150
140
130
120
110
100
図 3 消費者信頼感指数
(万件)
#N/A
調
住宅市場は販売、着工ともに減少傾向にある。過剰在庫は高水準で、住宅市場は
50
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
06/9
07/3
07/9
住宅着工件数
ホームビルダー・マーケット指数(右目盛)
2
110
(66Q1=100)
(1985=100)
120
105
115
100
110
95
105
90
100
85
95
80
90
75
85
70
06/10
80
07/4
07/10
ミシガン大
カンファレンスボート(右目盛)
みずほ米国経済情報 2007/10/31
Mizuho Research Institute
中古住宅販売件数は 8 月、9 月と続けて大幅に落ち込んだ(図 1)。9 月は年率 504
万件に留まり、1999 年の統計開始以来、最低水準にある。新築住宅販売件数は 9 月
年率 77.0 万件で、前月から小幅増加したものの、1997 年初め以来の低水準に留ま
っているという点で、中古住宅販売と同様、悪化基調にあることは変わらない。
こうした状況下、建設業者の景況感は悪化の一途を辿っている(図 2)。新築住宅
販売の現状と見通し(6 ヵ月先)、見込客の動向をもとに作成されている住宅市場指
数(Housing Market Index、0~100 の範囲をとり、水準が高いほど良好)は 10 月
18(前月比▲2Pt)と低下した。
需要の落ち込みを背景に、住宅着工件数は 9 月年率 119.1 万件に減少した。1993
年以来の低水準である。先行きを示す住宅着工許可件数は年率 126.1 万件で、1995
年 3 月以来の水準に悪化した。
住宅在庫率は高水準。価
格は下落基調
供給の絞り込みが続いているが、住宅在庫率は中古住宅で 9 月 10.5 カ月、新築住
宅では 8.3 カ月と共に高水準に達している。
供給過剰感の根強さを背景に、住宅価格には低下圧力が強い。サンプル調整が行
われない中古住宅価格(戸建て、中央値)は 9 月前年比▲4.2%、新築住宅価格(同)
は同+5.0%とまちまちな動きである。しかし、より信頼度の高い S&P/Case-Shiller
総合指数(全米 10 都市圏。2 度以上売買されたことがある戸建て中古住宅。品質調
整済み価格指数)は、8 月前年比▲5.0%と低下テンポが加速している。前月比では
年率▲9.6%の落ち込み幅だ。
消費者マインドは悪化。
消費者マインドは悪化方向にある。
雇用不安や油価上昇が下
10 月のミシガン大消費者信頼感指数(速報)は 80.9(前月比▲2.5Pt)、カンファ
押し要因
レンスボード消費者信頼感指数は 95.6(同▲3.9Pt)大きくと低下した(図 3)
。
マインド悪化の背景には、雇用不安や油価上昇があるとみられる。住宅ローンや
証券化商品で大きな損失を抱えた金融機関が相次いで雇用削減を発表しており、失
業保険新規申請件数も 10 月半ば以降悪化がみられ、雇用情勢の先行きに不透明感が
強まっている。また、地政学的リスクの高まりやボトルネックへの懸念を映じて原
油価格が 1 バレル 90 ドルを超え、ガソリン小売価格は 2.87 ドル(1 ガロン当たり。
10/29 週)と高値圏にある。これから需要期を迎えるヒーティング・オイルも 2.28
ドル(同。10/23)と緩やかに上昇している。
図 4 小売動向
1%
(前月比)
21
68
20
66
19
0%
18
(年率,百万台)
(10億ドル)
360
16
▲2%
06/9
07/3
07/9
国内自動車販売(右目盛)
コア小売
(年率、10億ドル)
340
64
320
62
17
▲1%
図 6 非住宅建設投資
図 5 機械設備投資
300
60
15
58
14
56
※いずれも、
航空関連を除く
06/9
07/3
07/9
非国防資本財出荷
非国防資本財新規受注
3
280
260
06/8
07/2
07/8
みずほ米国経済情報 2007/10/31
Mizuho Research Institute
消費は緩やかに拡大
消費活動は緩やかな拡大が続き、底堅さを維持している。
9 月の小売売上高は前月比+0.6%と高い伸びとなった。内訳をみると、8 月に続
き自動車・同部品販売業の売上増(前月比+1.2%)が寄与している。国内自動車販
売台数でみると、9 月は年率 1,617 万台(米国商務省)で 8 月とほぼ同水準に留ま
っており、高価格帯の自動車販売が好調だったことが示唆される(図 4)
。
自動車以外の小売動向についてみると、建材・造園は前月比+0.1%とほぼ横ばい
に留まった。コア小売売上高(除くガソリン、建材・造園、自動車)は前月比+0.2%
と緩やかに拡大している。
設備投資に持ち直しの動
米企業の設備投資活動は持ち直しがみられる。
き
機械関連の設備投資動向を示す非国防資本財(除く航空関連)の出荷額は 9 月前
月比+1.0%と増加した(図 5)。8 月も同+1.8%と高い伸びとなっており、減速感
が出ていた機械関連設備投資は勢いを取り戻している模様がうかがえる。金融市場
の混乱が見られた中、企業部門に前向きな動きがあることは心強いと言える。もっ
とも、先行きの動向を示す同財新規受注額は同+0.4%と、ほぼ横ばいの動きに留ま
り、企業の慎重姿勢が消えてなくなったわけではないだろう。
建設投資(民間。除く住宅投資)は 8 月に前月比+2.3%と高い伸びとなり、6 月、
7 月の横ばい推移から脱する動きを見せた(図 6)。宿泊施設、オフィス、商業施設
の建設が持ち直したようだ。
製造業企業の設備投資に対する先行き判断に大きな変化はない。ニューヨーク連
銀によれば 8 月の設備投資判断DI(6 ヵ月先)は+27.9、フィラデルフィア連銀
による同種調査では+20.5 と、概ね良好な水準にある。
貿易赤字は横ばい
8 月の貿易収支は▲576 億ドル(前月比+14 億ドル)となり、赤字幅が縮小した(図
7)。輸出が前月比+0.4%と減速したものの、輸入が同▲0.4%と減少し、赤字幅の
縮小につながった。こうした単月の動きを除けば、外需については、住宅部門を中
心とする内需の減速を受けて輸入の伸びが低位に留まる一方、堅調な海外経済とド
ル安を追い風として輸出の強い伸びが続いており、成長率を押し上げる要因となっ
ている。
連邦財政は大幅改善
2007 年度の連邦財政収支は▲1,628 億ドル、前年度比+852 億ドルもの改善とな
図 7 貿易収支
(10億ドル)
▲ 30
(3ヵ月移動平均,3ヵ月前比)
11%
▲ 40
図 9 鉱工業生産指数・稼働率
図 8 累積財政収支
5%
(10億ドル)
0
(2002=100)
85
▲ 50
115
84
▲ 100
▲ 150
▲ 50
0%
▲ 60
▲ 200
82
▲ 250
▲ 70
▲5%
06/8
07/2
07/8
石油収支
石油を除く貿易収支
実質財輸入(右目盛)
実質財輸出(右目盛)
83
(%)
110
105
▲ 300
81
▲ 350
80
100
▲ 400
10
12
2
06年度
04年度
4
4
6
8
(月)
05年度
06/9
07/3
07/9
設備稼働率(総合,右目盛)
鉱工業生産(除くエネルギー)
みずほ米国経済情報 2007/10/31
Mizuho Research Institute
った(図 8)
。個人所得税収が前年度比+11.5%、法人税収が同+4.6%など、景気
拡大の持続を背景として税収が大きく拡大した一方、歳出は同+2.8%と 1997 年度
以来の低い伸びに留まり、財政収支の大幅な改善が実現した。
3.生産・雇用動向:企業の業況・景況感は軟化、雇用は減速基調
鉱工業生産は横ばい
9 月の鉱工業生産は、エネルギー部門(前月比+0.1%)
、非エネルギー部門(同
+0.1%)ともに低い伸びに留まった。非エネルギー部門は 7 月以降、概ね横ばい推
移が続いている(図 9)
。内訳をみると、IT部門の伸びが鈍化しているほか(同+
0.1%)、2 カ月続けての自動車部門の生産減(▲3.3%)による影響が大きい。その
他の部門は建設財を除けば前月比増加した。
製造業、非製造業ともに
業況・景況感は軟化
企業の業況・景況感は軟化しているが、金融市場の混乱に伴う顕著な悪化という
状況には至っていない。
製造業企業の業況を示す製造業ISM指数は、9 月 52.0(前月比▲0.9Pt)と 3
カ月続けて低下した(図 10)。新規受注指数(53.4)、生産指数(54.6)ともに低下
している。非製造業ISM指数も 9 月 54.8、前月比▲1.0Pt と低下した。個別企業
の業況を示す新規受注指数(9 月 53.4)は 8 月の上昇分を相殺するほどの幅で低下
したが、前月に判断の分かれ目である 50 を下回った雇用指数(同 52.7)は持ち直
した。
10 月に入り、製造業企業の景況感はまちまちである。ニューヨーク連銀・製造業
景況感指数は+28.8%(前月比+14.1Pt)と 2005 年以来最も高い水準に上昇する一
方、フィラデルフィア連銀・同指数は+6.8%(同▲4.1Pt)と低下し、方向感のつ
かみにくい状況となっている。
雇用は緩やかに減速
雇用は緩やかな減速基調を辿っている。
9 月の失業率は 4.7%(前月比+0.1Pt)に上昇した(図 11)。一方、非農業部門
雇用者数は前月比+11.0 万人と底堅い結果となった。2003 年 8 月以来となる減少を
示した 8 月分や 7 月分も、政府部門の見直しによって大きく上方修正された。
しかし、雇用拡大のテンポが緩やかに減速しているという状況は変わらないほか、
10 月に入り、失業保険新規申請件数は悪化方向に振れており、雇用情勢の行方に楽
図 11 雇用統計
図 10 企業業況・景況感
62
4.8
4.7
4.7
4.6
4.6
4.5
4.5
4.4
4.4
4.3
4.3
60
58
56
54
52
50
48
46
06/9
07/3
07/9
製造業ISM指数
非製造業ISM指数
(%)
(前月比、千人)
図 12 総労働時間・時間当り賃金上昇率
250
200
1.0%
(前月比)
総労働時間
時間当り賃金
0.8%
0.6%
150
100
50
0.4%
0.2%
0.0%
▲0.2%
0
06/9
07/3
07/9
非農業部門雇用者数(右目盛)
失業率
5
▲0.4%
06/9
07/3
07/9
みずほ米国経済情報 2007/10/31
Mizuho Research Institute
観は禁物である。
一方、時間当たり賃金上昇率は 9 月前月比+0.4%と高い伸びとなった(図 12)
。
専門・技術サービスを中心とする民間サービス部門の賃金上昇が顕著である。今後
は、労働需給の緩みを背景に賃金上昇率も徐々に落ち着いていくと予想される。
4.物価動向:コアCPI上昇率は低下基調
コア輸入物価上昇率(前
年比)は鈍化
コア輸入物価上昇率は鈍化した。9 月の輸入物価指数上昇率は前年比+5.2%と急
上昇した。石油関連輸入物価が同+20.1%と急伸した影響が大きく、石油を除くコ
ア輸入物価指数上昇率は同+2.0%と鈍化した(図 13)。懸念するほどではないが、
輸入消費財や自動車などの輸入物価上昇率の緩やかな高まりや、資本財輸入物価上
昇率のプラス転化など気になる動きが見られ、今後の推移が注目される。
コア最終財PPIの上昇
国内生産部門(最終財)におけるインフレ圧力は限定的である。
は緩やか
9 月のコア最終財PPIは前年比+2.0%(8 月対比▲0.2Pt)と小幅鈍化した(図
14)。原材料PPIは前年比+11.4%と高い上昇がみられるものの、中間財PPIは
同+4.2%に留まり、インフレの顕著な波及は見られない。インフレ指標とされるI
SM入荷遅延指数は低位に留まっており、仕入価格指数も低下傾向が続いている。
コアCPI上昇率は低下
コアCPIは 9 月前月比+0.2%と緩やかな上昇に留まり、前年比では+2.1%と
8 月と同じ上昇率を保った(図 15)
。景気減速に伴う需給の緩みや、住宅市場の悪化、
エネルギー価格の上昇による家賃関連物価上昇率の低下が続くとの予想を踏まえる
と、コア・インフレ率は今後も低下傾向を辿る公算が大きいとみられる。
5.金融市場:利下げ期待から金利が低下。ドルは減価。株価は下落後持ち直し
追加利下げ期待により金
米国の金融市場では、利下げ期待から金利が低下した(図 16)。
利が低下、ドルは減価
9 月雇用統計や小売統計がまずまずの結果となったことから 10 月上旬の金融市場
では利下げ期待が後退した。しかしその後、住宅関連指標の悪化や住宅ローン関連
証券化商品の大規模な格下げ、米大手金融機関における巨額のサブプライム関連損
失の発表などを受けて、利下げ期待が強まり、長・短金利ともに低下した。
利下げ観測を映じ、ドルの実効レートは減価した(図 17)
。
株価は下落後持ち直し
米株価は、金融機関の業績悪化を受けて一時大きく下落した(図 18)
。しかし、
図 13 コア輸入物価(除く石油関連)
図 14 コア最終財PPI
図 15
3.0%
5.0%
コアCPI
3.5%
0.4%
2.5%
4.0%
3.0%
2.0%
1.5%
3.0%
2.5%
0.2%
1.0%
2.0%
2.0%
0.5%
0.0%
1.0%
1.5%
▲0.5%
0.0%
▲1.0%
0.0%
06/9
07/3
07/9
06/9
前月比
6
07/3
前年比
07/9
06/9
07/3
前月比
1.0%
07/9
前年比(右目盛)
みずほ米国経済情報 2007/10/31
Mizuho Research Institute
その後、利下げ観測が強まり徐々に値を戻してきている。
後退するインフレ警戒感
9 月の連邦公開市場委員会(FOMC)では、インフレに対する警戒感が大きく後退
したことが議事録によって明らかとなっている。コア個人消費支出デフレーター上
昇率がいわゆる物価安定圏入りし、コアCPI上昇率も同様に低下する中、FOMC メ
ンバーは「コア・インフレ率の低下シナリオ」に自信を深めている。
足もとでは原油価格が高騰し、インフレを懸念する向きもある。しかし、需給ギ
ャップの側面からみれば、景気減速はコアの安定に寄与するほか、テクニカルな側
面からみても、住宅市場の調整を背景にコアに占めるウェイトが大きい家賃関連物
価上昇率の低下が見込まれ、先行きのインフレ・リスクを殊更懸念すべき状況では
ないだろう。家賃物価は、光熱費分を実際の家賃から控除して算出されているとい
う点に着目すれば、エネルギー価格の上昇は家賃物価を通じてコアを押し下げる要
因でもある。
今後の金融政策の判断においてインフレ・リスクが占める度合いは一段と小さく
なると予想される。
図 16 金利
2年債
10年債(右目盛)
(%)
5.2
図 17 ドルレート
(%)
5.2
109
4.8
4.8
107
4.4
4.4
105
4.0
4.0
103
3.6
0.8
3.2
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
3.6
(%Pt) 長短金利差
3.2
(前月末=100)
3000
実効ドル
対ユーロ
対円
10/5 10/19 11/2
(ドル) 15000
NASDAQ総合指数
ダウ平均(右目盛)
2900
14500
14000
101
2700
99
13500
2600
95
9/21
(ポイント)
株価
2800
97
9/7
図 18
2500
9/7
9/21
10/5 10/19 11/2
7
9/7
9/21
13000
10/5 10/19 11/2
みずほ米国経済情報 2007/10/31
Mizuho Research Institute
巻末資料:米国主要経済指標
05Q1
3.1
3.0
1.0
▲182.4
▲6.0
Q2
2.8
▲0.3
0.6
▲183.2
▲6.0
Q3
4.5
4.9
0.7
▲173.4
▲5.5
Q4
1.2
▲1.1
0.8
▲215.8
▲6.8
06Q1
4.8
2.5
0.6
▲200.6
▲6.2
Q2
2.4
0.8
0.9
▲205.6
▲6.3
Q3
1.1
▲1.5
0.9
▲217.3
▲6.6
Q4
2.1
1.2
0.9
▲187.9
▲5.6
07Q1
0.6
0.2
0.8
▲197.1
▲5.8
Q2
3.8
3.5
0.9
▲190.8
▲5.5
May-07
0.2
Jun
▲0.2
前月比
Jul
0.7
Aug
▲0.8
Sep
0.3
May-07
0.2
Jun
▲0.1
前年比
Jul
0.8
Aug
0.4
Sep
0.2
小売売上高(%)
除く自動車(%)
国内自動車販売台数(百万台、年率)
住宅着工件数(万件、年率)
住宅着工許可件数(万件、年率)
ホームビルダー・マーケット指数
MBA購入指数(%)
ミシガン大消費者信頼感指数(66Q1=100)
カンファレンスボード消費者信頼感指数(85=100)
1.6
1.7
*1628
*144
*152
*30
5.3
*88
*109
▲0.8
▲0.2
*1563
*147
*141
*28
2.1
*85
*105
0.6
0.7
*1523
*137
*139
*24
▲1.8
*90
*112
0.3
▲0.4
*1620
*133
*132
*22
1.2
*83
*106
0.6
0.4
*1617
*119
*126
*20
▲1.9
*83
*100
5.6
5.5
5.0
▲28.2
▲21.7
3.5
4.3
▲3.1
▲19.0
▲28.4
3.6
4.8
▲12.4
▲20.5
▲18.9
4.2
4.3
▲0.8
▲18.7
▲24.1
2.9
3.3
▲3.0
▲32.9
▲28.5
国防を除く資本財出荷(%)
除く航空機・同部品(%)
国防を除く資本財受注(%)
除く航空機・同部品(%)
民間建設支出(非居住用,%)
0.7
0.7
▲6.8
▲1.5
2.1
▲0.5
▲0.8
6.3
▲0.2
0.9
1.0
▲0.0
4.8
0.9
▲0.2
1.6
1.8
▲12.2
▲0.1
2.3
0.2
1.0
4.4
0.4
#N/A
▲0.2
▲0.9
2.7
▲1.6
0.0
▲0.6
▲1.6
5.9
▲3.2
0.0
0.4
▲1.2
15.2
▲0.7
0.0
2.5
0.0
6.0
▲1.0
0.0
0.2
0.3
▲12.0
▲5.6
#N/A
貿易収支(10億ドル)
実質財貿易収支(10億ドル)
実質財輸出(%)
実質財輸入(%)
*▲59.6
*▲54.9
2.5
1.2
*▲59.4
*▲55.2
0.9
0.8
*▲59.0
*▲53.0
3.7
0.6
*▲57.6
*▲52.0
0.2
▲0.6
#N/A
#N/A
#N/A
#N/A
8.2
1.8
6.7
2.1
12.5
2.4
10.2
0.5
#N/A
#N/A
財政収支(10億ドル)
1.9
2.8
1.4
2.2
1.7
2.6
1.6
2.0
2.0
2.1
実質GDP(%、前期比年率)
労働生産性(%、前期比年率、非農業部門)
雇用コスト指数(%、前期比)
経常収支(10億ドル)
名目GDP比(%)
カンファレンスボード景気先行指数(%)
*▲67.7
*27.5
*▲36.4
*▲117.0
*111.6
鉱工業生産(%)
最終財生産(%)
設備稼働率(%)
民間在庫投資(10億ドル)
在庫率(カ月)
▲0.1
▲0.3
*81.5
*7.1
*1.26
0.5
0.6
*81.8
*5.4
*1.27
0.6
0.6
*82.2
*6.7
*1.26
0.0
▲0.2
*82.1
*2.1
*1.27
0.1
▲0.1
*82.1
#N/A
#N/A
ISM製造業指数
ISM非製造業指数
NFIB楽観指数(1986=100)
フィラデルフィア連銀景況感指数
*55.0
*59.7
*97.2
*4.2
*56.0
*60.7
*96.0
*18.0
*53.8
*55.8
*97.6
*9.2
*52.9
*55.8
*96.3
*0.0
*52.0
*54.8
*97.3
*10.9
失業率(%)
非農業部門雇用者数(千人)
製造業雇用者数(千人)
週平均労働時間(時間)
時間当り賃金(%)
*4.5
188.0
▲3.0
*33.8
0.4
*4.5
69.0
▲19.0
*33.9
0.5
*4.6
93.0
▲4.0
*33.8
0.3
*4.6
89.0
▲45.0
*33.8
0.3
*4.7
110.0
▲18.0
33.8
0.4
4.0
4.0
4.0
3.9
4.3
0.6
0.2
0.7
0.1
0.3
0.2
0.2
0.2
0.1
0.1
0.1
0.2
-0.1
0.2
▲0.1
0.2
-0.2
0.1
0.3
0.2
2.9
1.6
2.2
1.9
2.8
1.8
2.2
1.8
2.9
2.3
2.2
1.8
2.3
2.2
2.1
1.7
2.0
2.0
2.1
1.7
*5.25
*5.25
*4.82
*4.31
*5.00
*4.67
1.6
2.6
0.5
0.4
0.3
0.9
*13211.99 *13357.74
*2546.27 *2596.36
*119.13
*115.83
*1.3711
*1.3641
*4.75
*4.01
*4.52
3.6
0.7
0.4
*13895.63
*2701.50
*114.97
*1.4219
11.5
11.5
6.2
12.3
10.7
6.1
12.9
9.9
5.9
12.9
10.2
6.6
16.5
10.2
6.7
輸入物価(%、除く石油関連)
生産者物価・最終財コア(%)
コア消費者物価(%)
連鎖式コア消費者物価(%)
FF金利誘導目標(末値,%)
2年債金利(%)
10年債金利(%)
商工業向け銀行貸出(%)
不動産向け銀行貸出(%)
マネーサプライ(%)
ダウ工業30種平均(末値)
NASDAQ(末値)
円・ドルレート(末値,\/$)
ドル・ユーロレート(末値,$/Euro)
*5.25
*5.25
*4.77
*4.98
*4.75
*5.10
1.2
1.3
0.4
0.7
0.3
0.2
*13627.64 *13408.62
*2604.52 *2603.23
*121.76
*123.39
*1.3453
*1.3520
(注)*印は水準。
(資料)米国商務省、米国労働省、米連邦準備制度理事会、カンファレンスボード、米サプライマネジメント協会(ISM)、
モーゲージバンカーズ協会(MBA)、米住宅建築業協会、米独立企業連盟(NFIB)、HAVER ANALYTICS
8
発行 / みずほ総合研究所
編集 / みずほ総合研究所 調査本部
〒100-0004
東京都千代田区大手町 1-5-5
シニアエコノミスト 小野 亮
[email protected]
TEL 03−3201−0544
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