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14 関市食肉センターの枝肉汚染改善事業-微生物学的検討- 岐阜県

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14 関市食肉センターの枝肉汚染改善事業-微生物学的検討- 岐阜県
関市食肉センターの枝肉汚染改善事業-微生物学的検討-
岐阜県食肉衛生検査所 井上鉱子
はじめに
関保健所管内にある関市食肉センター(関と場)では、全国平均に比べ、一般細菌数・
大腸菌群数ともに枝肉の汚染度が高い傾向にあった。一方、当所管内の養老町立食肉事業
センター(養老と場)では、比較的良好な成績が得られている(図1)。
平成 21 年度には、厚生労働省から汚染が高度な施設に対し、個別に原因究明と改善を行
うよう文書が送付され、関と場もその一つであった。そのため関保健所では、衛生指導な
どの対策は行っているが、ハード面での制約があることもあり、実際の成績には結び付い
ていないのが現状である。また、昨年からは枝肉の最終洗浄に次亜塩素酸分子を有効成分
とする衛生除菌水であるカンファ水を使用しているが大きな成果は得られていない(図2)
。
そこで今回は当所が関保健所と共同で調査し、ソフト面における関と場の枝肉の細菌汚
染の原因を究明し、カンファ水の使用法の検討も含め、汚染の低減につながる実行可能な
対策を見出すことを目的に調査を行った。
図1:全国・関と場・養老と場の豚枝肉の一般細菌数の推移
[H19~22 年度 と畜場衛生対策向上事業(枝肉の微生物汚染実態調査)]
4
胸部
3
全国
2
関
養老
1
log CFU/cm2
log CFU/cm2
4
0
図2:豚枝肉胸部の一般細菌数
2.5
2
log CFU/cm2
3
1.5
1
0.5
0
カンファ水噴霧前
カンファ水噴霧後
材料及び方法
1 カンファ水の効果
14
全国
2
関
養老
1
0
H19 H20 H21 H22
肛門周囲部
H19 H20 H21 H22
現在の枝肉洗浄後にカンファ水を噴霧する方法では、若干の細菌数低下はあるものの大
きな効果は見られない(図2)
。そこで、in vitro でカンファ水の殺菌効果を検証した。
カンファ水の効果判定には、関と場で使用しているカンファ水と EHECO157 菌株を用いた。
菌原液は EHECO157 菌株1コロニーを滅菌生理食塩水 1ml に浮遊させ調整し、滅菌生理食
塩水とミリポアフィルター濾過滅菌カンファ水でそれぞれ 10-1~10-8 まで 10 倍階段希釈し
た。これらの試験液を八等分したトリプトソイ寒天培地に滴下し、37℃24 時間培養後、コ
ロニーをカウントした
2 ソフト面における問題点について
当該センターにおいて行われている枝肉汚染の原因として考えられる三つの問題点につ
いて以下の調査を行った。
(1)関と場は規模が小さく人手も少ないため、一つのロット(約 20 頭)に対して作業
工程を二分割し、同一作業者が前半と後半に別れて作業している。前半がと殺~内臓摘出、
後半が枝肉洗浄までであるため、前半の汚染が後半に持ち込まれている可能性がある。そ
こで後半の作業を行う直前や作業途中で、通常の湯による手洗い後の作業従事者3人分の
手の拭取り検査を行った。また、同様にカンファ水のみ4人分、および湯とカンファ水を
用いた手の洗浄効果を3人分検証した。検査は滅菌ガーゼタンポンを用いて、各従事者に
対して片手の掌一面を拭取り1サンプルとした。その後、AC ペトリフィルムで 37℃48 時
間培養し一般細菌数を検査した。
(2)と殺時の放血・剥皮・股割り後に、と体を寝かせた状態のまま、肛門部~臀部周
囲をホースで水洗浄を行っている。そのため、洗浄水の飛び跳ねにより外皮からの汚染が
剥皮後の臀部周囲へ移行している可能性や、臓側面に落ち込んだ肛門部断端からの汚染が
枝肉内側へ拡がっている可能性がある。そこで『臀部周囲の水洗浄』の有無で分け、内臓
出しの時に枝肉の臀部周囲の拭取り検査を行った。あわせて背割り後の枝肉では臓側面の
スタンプ検査を行い、糞便汚染を考慮して大腸菌群を調査した。拭取り及びスタンプ検査
の検体は、連続した5枝肉からそれぞれ採材した。拭取り検査は厚生労働省通知に基づい
て行った。湾曲した枝肉の臓側面の拭取りでは、通常のステンレス枠を使用した検査では
難しいため、ペトリフィルムを用いたスタンプ検査を行った。スタンプ検査とは、事前に
滅菌生理食塩水を 1ml 滴下しておいた CC ペトリフィルムを直接枝肉にスタンプする方法
で、37℃24 時間培養後、大腸菌群数を検査した。
(3)関と場では、正確な枝肉重量を得るため、最終洗浄時にナイフによる『水切り』
を行っている。これは肛門周囲から胸部の枝肉表面にナイフを滑らせて、水分を除去する
行為である。それによりナイフ自体や枝肉の他の部位から、汚染を拡散させている可能性
がある。そこで『水切り』前後での枝肉の拭取り検査を、胸部及び肛門周囲部で5検体ず
つ採材し一般細菌数を検査した。
結果
15
1 カンファ水の効果
生理食塩水では 10-5~10-7 希釈までコロニーが得られたが、カンファ水では細菌の発育を
認めなかった(表 1)
。
表 1 カンファ水の効果(コロニー数)
希釈倍率
10-1
10-2
10-3
10-4
10-5
10-6
10-7
10-8
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
+++
+++
+++
++
+
-
-
-
+++
+++
+++
++
+
+
+
-
カンファ水
生理食塩水
2 ソフト面における問題点について
(1)作業前半から後半への汚染の持ち込み
log CFU/サンプル
図3:手の拭取り検査(一般細菌数)
7
6
5
4
3
2
1
0
湯のみ
カンファ水のみ
湯+カンファ水
普段の衛生行為である『湯のみ』での手洗いでは、105 オーダーの高い値を示し、『カン
ファ水のみ』でも汚染は認められた。しかし、
『湯+カンファ水』では全く汚染が認められ
なかった(図3)
。
(2)と殺後の『臀部周囲の水洗浄』
図4:枝肉外側での臀部周囲の拭取り検査
図5:枝肉の臓側面でのスタンプ検査
(大腸菌群数)
(大腸菌群数)
5
5
4
3
3
CFU/cm2
CFU/cm2
■×:各平均
■×:各平均
4
2
2
1
1
0
0
臀部周囲洗浄なし
あり
臀部周囲洗浄なし
16
あり
臀部周囲洗浄の有無で分けた枝肉外側での臀部周囲のふき取り検査では、細菌数にほと
んど差は見られなかったが、枝肉の臓側面のスタンプ検査では、
『臀部周囲洗浄あり』の方
が細菌数が高かった(図4・5)
。
(3)ナイフによる『水切り』
『水切り』により胸部では細菌数は減少傾向を示したが、逆に肛門周囲部では高くなっ
た(図6)
。
図6:豚枝肉の一般細菌数
3.5
3.5
胸部
3
3
×:各平均
■
2.5
2.5
2
2
log CFU/cm2
log CFU/cm2
■
1.5
1
0.5
0
肛門周囲部
×:各平均
1.5
1
0.5
0
水切り前
水切り後
水切り前
水切り後
考察
枝肉の最終洗浄時にカンファ水を噴霧するという現行の方法では、細菌汚染の低減に効
果的とは言えなかった。しかし、カンファ水は作業従事者の手洗いにおいて、湯と併用す
ることで確実に細菌数を減少させることが確認できた。特に手洗い、器具の洗浄に適正な
方法でカンファ水を利用すれば、
『作業の前半から後半への汚染の持ち込み』を解消するの
に有効と思われた。
『臀部周囲の水洗浄』は臓側面への汚染拡大を招く要因である事が示唆
されたが、体表に付着した血液の除去のために必要な工程でもあり、今後さらなる調査が
望まれる。
さらに、ナイフによる『水切り』では細菌が塗り広げられていることが示唆されたが、
その前に枝肉が高レベルで汚染されている事が問題であり、最終段階にいたる以前での対
策が重要であると思われた。
また、今回の調査は関保健所と食肉衛生検査所の協力による初めての試みとして行われ、
当所が持つ精密検査機能(微生物検査)を生かせる絶好の機会であった。今後もさらなる
データ収集及び解析を行い、と畜処理過程において、いかにして、枝肉の汚染低減につな
げていけるのか、これからの調査で共に確認していきたい。また、今回の経験を生かし、
と畜及び食鳥検査を抱える現地機関と協力し、と畜場及び食鳥処理場に対する衛生指導の
一助となるような検査を実施していきたい。
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