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事例編

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事例編
事例編
ここから事例編に入りますが、①電気火災 ②燃焼機器火災 ③化学火災 ④微小火源 ⑤その他の原
因の順で紹介します。
データは全国消防長会広報防災委員会で、国内の消防本部から収集したもの、また当管内で実際調
査したもののうちから、あまり広報されていないかなと思われる事例をピックアップして、皆さんに紹介し
たいと思っています。
前にも書きましたが、通常であれば見逃してしまう情景を見て、「危ない
な」とピンとくる為には、事例をひとつでも多く知ることが最も有効な方法では
ないかと思われますし、そのフォルダを増やした上で、どんな経過でそれが
起きるのかまでを知っていれば、もう見逃すことはないでしょう。
日常の何気ない気づきで家族の命が救われる可能性があるのですから、
火災危険に関する感受性の扉はいつも開けておきたいですし、時には真剣
な危機感を持って色々な事例を調べていただきたいと思います。
なお、ここで紹介する事例は何れも「ぼや」か部分焼で鎮火しており「原因が明確なもの」を紹介してい
ます。ぼやで終わった要因としては「発見が早い」ことに尽きるので、そのまま発見されなければ、どの
例も大きな火災に至る可能性は高かったものです。
原因調査の観点から、ぼや火災は原因を特定し易く、その分新たな予防対策を検討する上で具体的
な資料の宝庫とも言えるので、小さな火災だからと調査をおざなりにすることは、自ら宝物を捨てるよう
なものです。(若い調査マンへのアドバイス若しくは自戒)
それは実は皆さんの生活の安心にとっても同じことであり、近年は企業内でも「危険予知訓練」という
分野で、既に馴染んでおられる方も多いかと思いますが、危険と一口に言っても実に幅の広い解釈が必
要になってきます。
例えば製造企業であれば、主力となる製品の品質管理上の危険や製品そのものの破壊危険、また製
造工程での人的事故の危険等、それぞれの分野も細分化すると、恐らく大変な数の危険をくぐり抜け
て、初めて収益に結びついているのではないでしょうか。
そしてそれぞれの危険を的確に予知する為に、さまざまな事故事例を先ず調べることから始まって何
故それが起きたか、そしてどうすれば起きないか、そういうことをバーチャルな形で訓練するのが前記の
訓練ですよね。
大きな事故も始まりは「小さな不注意」であることを知ることで、火災の危険を事前に予知して、ごく普
通にそれを回避できるスキルを身につけていただきたいと思います。
原因が電気に関係するもの
1 こたつの発熱体に布団が接着
① 出火時間
午後8時頃
② 被害状況
4階建て共同住宅の1階居室の一部を焼損
③ 出火原因
電源スイッチを切り忘れたやぐら型電気こたつの赤外線ヒーター防護ネット部にこたつ掛け布団
が接着していたため、こたつ掛け布団が加熱されて燻焼(炎をださない燃焼)を起こし、約4時間後
に発炎して出火したもの。
④ 参考事項
電気こたつには過熱防止装置として、サーモスタットが組み込まれていますが、布団が密着して
燻焼を起こしても、反対側の布団がめくれて内部の温度が上がらなかったり、サーモスタットそのも
のの故障で、作動しない場合があります。
関連事例
当管内でも、これと類似した原因で出火し、独り暮らしのお年寄りが亡くなっています。明確に特
定はできなかったのですが、こたつ内で「バックドラフト」現象が起きて、噴き出した炎によって着て
いた綿入り和服の足元に着火して、それを消すことができず火傷死したものと推定しました。
推定できる状況としては・・
こたつで綿入りの和服を乾燥か暖める目的で中に入れていたが、ヒーターネットと密着していたた
めに燻焼を起こした。こたつ内の温度は発炎寸前にまで上がっていたが、内部の酸素不足から発炎
しないままだった。(サーモスタットは不作動)寝室から居間に来た関係者が、こたつからの煙に驚い
て布団をめくると、急激な酸素流入から、爆発的な炎が噴き出した。
これが推定できる概要ですが、火災自体は部分焼であり、死亡する程の規模の火災ではなかっ
たこと、焼死者の着衣が特に強く焼けていたこと、またヒーター下部の和服系繊維の炭化物等、全
ての状況からみて、これ以外には考えにくい死亡状況でした。本件火災と関係したものではありま
せんが、テレビでも全く同様な事例について再現映像で放映されており、非常に恐ろしい映像でし
た。凄い勢いで噴き出す炎で、元気な若い人でも気道熱傷を起こして死亡する可能性があります。
こたつの中で洗濯物の最後のひと乾かしをしている状況はよく目にするので、できるだけそういうこ
とはしないか、したとしてもヒーターとの接触にはくれぐれも注意して下さい。
2.延長コードを束ねて下敷き
① 出火時間
資料になし
② 被害状況
二階寝室の一部を焼損
③ 出火原因
寝室で使用していた3mの延長コードが束ねられたまま使用されたうえに、衣装箱と布団乾燥機
がその上に乗り、コード先には長時間運転状態のセラミックファンヒーターが差し込まれていたこと
から、コードに過負荷がかかり、放熱条件の悪さも重なりビニール被覆が溶融して、配線が短絡(シ
ョート)し火災となったもの。
④ 予防対策
電流が極めて流れやすい銅線でも、
僅かな抵抗は存在するので、電流が流
れれば必ずジュール熱が発生します。
通常発生した熱は空気中に放散され
ますが、コードを束ねてしまうと放熱条
件が悪くなることと、密着した線同士で
互いに温めあうこととなって、どんどん
蓄熱していきます。
やがて、ビニール被覆が溶融する温度に達すると、銅線同士が直に触れ合って短絡し、出火して
しまう。こんな可能性があります。電気知識編でも紹介しましたが、コードを束ねて使用することは
危険です。出火時間が資料にありませんが、深夜だろうと留守だろうと起きる火災です。
3.スプレー式潤滑剤を照明器具に吹き付け、油分に着火
① 出火時間
午後6時頃
② 被害状況
2階寝室の蛍光灯1基焼損
③ 出火原因 (事故概要)
2階居室の蛍光灯のプルスイッチ(紐を引くタイプ)の動きが悪いため、スプレー式潤滑剤を蛍光
灯本体内部を吹きかけたことから、スプレー式潤滑剤の成分であるLPガス及び潤滑剤(第3石油
類)が蛍光灯本体内部に滞留したため、プルスイッチを引いた際のスパークでガス及び潤滑剤に引
火して、蛍光灯を焼損したもの。
④ 予防対策
スプレー式のものには整髪剤等も含めて、多くの場合LPガスが使用されているので、取扱 い上
の注意をよく読むことが大切です。この事例は非常に珍しい例ですが、機械器具の潤滑に使用する
場合でも、近くに電気スパーク等の発生する場所、燃焼器具の近くなどでは使用しないことで予防
できると思います。
4.オーブントースターのヒーターに油滴下
① 出火時間
午前5時頃
② 被害状況
オーブントースターの内部を全体的に焼いて、レンジ台の物品を若干焼いたもの。
③ 出火原因
冷凍フライ(エビフライ、メンチカツ)をアルミホイルで包み、オーブントースターに入れ加熱してい
たところ、冷凍フライからしみ出た油がアルミホイルからこぼれ落ち、直下にあるヒーターに付着し
て着火。火がついたまま滴下することとなり、底にあるトレイに溜まったパン屑等に着火したもの。
④ 予防対策
冷凍フライ類を加熱する際はオ
ーブントースターに付属している深
皿を使用して下さい。アルミホイル
は洗う手間が省けて便利ですが、
冷凍フライ類は加熱すると必ず油
がしみ出しますから、ホイルではこ
ぼれる可能性が高くなります。
5.牛舎内の殺虫器で焼けた蛾がワラに落下する
① 出火時間
午後4時頃
② 被害状況
木造2階建て、延面積152平方メートルの牛舎の一部及び収容物を焼損。
③ 出火原因
養畜舎の入り口に電撃殺虫器を下げていたものだが、電撃で焼かれた蛾が稲わらに落下したた
め稲わらに着火し出火したもの。
④ 予防対策
これも珍しい例で、電撃殺虫器は現在でも畜舎等ではよく使用されているようです。殺虫器は資
料によれば2次電圧が3.5kv AC/9mAと、かなり高い電圧を発生するので、タイミングが悪いと
火が着く場合もあるようですが、その多くは下に着くまでに消えてしまいます。
ただ、設置場所が低かったり、大きな蛾だったりするとまれに火が着いたまま着地してしまうこと
があるので、予防策としては機器の下に燃えやすいものを置かないこと、またできるだけ高い場所
に設置することで予防できると思います。
6.電子レンジで過熱、炭化した食品から出火
① 発生時間
午後2時頃
② 被害状況
1階台所のゴミ箱及び壁等を焼損
③ 出火原因
台所で、小学生がテレビを見ながら昼ごはんを食べるため、おにぎりをプラスチックの茶碗に入
れて電子レンジで温めたところ、おにぎり並びに茶碗が炭化溶融した。食べられなくなったのでゴミ
箱に捨てたところ、紙屑に着火して火災となったもの。
④ 予防対策
電子レンジには使用できない材質のものがあります。子供が 時間設定
を間違えて数十分加熱してしまったことから、真っ黒 に炭化してしまい、更に食べられなくなったとそ
のままゴミ箱に 捨ててしまったところ燃えだしたという事例です。
金属のマグカップでコーヒーを温めようとして、過熱した金属 で樹脂性の把手が燃えだした事故
も多く起きています。
便利な電子レンジですが、使用に適さない容器もあるので、 その事を子供さんにも教えると共
に、その場を離れないようにして下さい。
7.トースターが転倒 スイッチが入る
① 出火時間
午後4時頃
② 被害状況
5階建ての共同住宅のうち、居室等40平方メートルを焼損。
③ 出火原因
ベランダで乾燥した布団を取り込む際に、居室の畳の上に置いていたトースターを、誤って転倒
させた。そのショックでトースターのスイッチが入ってしまい、更に持っていた布団をそのトースター
の上に置いてしまったため、過熱して布団に着火し出火するに至ったもの。
再現実験
④ 予防対策
「何をしているんですか!」と言いいたくなるような状況ですが、火災の原因はこんな平和な日常
の、それも何気ない行動の中に潜んでるものだという、いい例なのかも知れません。
実験をすれば、トースターを倒してスイッチを入れるのは、逆に難しいと思います。こういう偶然が
あって、そこに悪いことに布団を被せてしまうというような追い打ちがあったりもして、災難というの
はすぐそこにあるものです。 この場合の予防策としては、トースターもヒーター付きの電気器具で
あることを忘れず、できれば畳の上でなく、テーブルの上で使用することと、使用した後はコンセント
から抜いておくこと等になります。
8.冷蔵庫の電源コードをペットがかじる
① 出火時間
午後 1 時頃
② 被害状況
台所の冷蔵庫を若干焼損、及び床面一部焼損
③ 出火原因
夜以外は放し飼いにしていたペットのハムスターが冷蔵庫の下に潜り込み、冷蔵庫の電源コード
をかじって出火したもの。このペットは、暗く暖かい冷蔵庫の下にティッシュペーパーやひまわりの
種を運びこんで巣作りをしていたものと考えられ、コードの短絡によりティッシュペーパーに着火し
た。
④ 予防対策
飼い犬に手をかまれるような事例で
すが、小動物は人目につかない暗い
場所で行動する場合が多くその習性を
理解し、常に飼育かごで飼うようにした
方がいいでしょう。固いものを噛む習
性のある動物は電気配線を齧る場合
も多いので、注意して下さい。
原因が燃焼器具に関係するもの
1.油よけのダンボールに着火
① 出火時間
12 時頃
② 被害状況
2階建て住宅兼店舗のうち1階台所の天井側壁5㎡を焼損したもの。
③ 出火原因
ガステーブルの油よけとしてダンボール紙を使用していたため、コンロの火の輻射熱によりダン
ボール紙が燃えあがったもの。
出火前の状況を再現
④ 予防対策
ガスコンロ付近に燃えやすいものを置かないことが基本になります。防熱や油よけにはアルミ製
のものが市販されています。ダンボール等を使用すると、付着した油分も作用して、非常に燃えや
すい状態になります。
2.コンロと壁が近く、低温着火したもの
① 出火時間
午前10時頃
② 被害状況
木造2階建て、専用住宅の台所の壁を焼損。
③ 出火原因
台所でガステーブルを使い煮炊きをしていたところ、輻射で蓄熱したステンレスからの伝導過熱
による内部木材の低温着火で、タイルを施したコンロ側面壁の内側から出火した。
④ 予防対策
ガステーブルの火と壁の間に防熱板を立てるか、十分な距離を設ける。壁に張り付けたステンレ
ス等は裏の木材に熱を伝導させるので、熱変色をしていた場合は、裏が危ないと考えること。
⑤ 参考事項
表面にステンレスを張り、その裏にタイルを施している壁の内側が燃えだすという恐い現象です
が、これは木材の「低温着火」によるものです。木材をどこまでも熱していくと、約400℃~470℃
で自然発火しますが、これが発火温度ということになります。
ただ、それ以前に熱分解を起こして炭化し
ますから、約260℃あたりから分解が急激
になり、発煙して口火があれば着火します。
コンロの脇等で長い間熱せられた木材は
徐々に炭化を進行させており、熱が放散しな
い状況にあると、その熱を蓄積して非常に低
い温度で着火(発火)してしまうことがありま
す。
これが低温着火ですが、木材温度が100℃になると、水分は完全に蒸発して抜けますから、極
端な例になると、この時点から低温着火の可能性が出てきます。ですから、金属板を張っている、
石膏ボードを張っているといっても、決して安心はできません。
更に、このように壁の内側から出火した場合は、内壁と外壁の間を燃え上がって、台所の天井
裏、また2階の壁間へ燃えあがるまで発見されない場合もあります。台所の天井角あたりから炎が
噴き出して、驚いてその部分に水をかけたとしても、壁か天井を剥がさない限り有効な消火はでき
ません。こう考えると、非常に恐い燃え方です。
3.換気扇用油よけフードの落下
① 出火時間
12時頃
② 被害状況
2階台所の一部を焼損
③ 出火原因
台所のガステーブルで湯沸かし中にその場を離れていたと
ころ、折からの強風で換気扇の油よけフードがコンロ上に落下
したため、コンロの火から着火して出火するに至ったもの。
④ 予防対策
油よけフードは交換し易く、換気扇掃除の手間を考えると非
常に便利なものですが、装着方法がテープの粘着力のみとい
うものが多く、落下することも当然あり得ます。そして換気扇は
多くの場合コンロの上部にありますから、その上に落ちる可能
性が高く、フード自体が油まみれということもあって、非常に燃
えやすい状態で落ちてきます。
予防策としては、装着をしっかりすること、できれば画鋲等でとめること。 基本となるのは火を使
用している時はその場を離れないことです。
4.ガステーブルの下に段ボールを敷く
① 発生時間
8時頃
② 被害状況
3階建て店舗併用住宅2階厨房のガスコンロを焼損
③ 出火原因
ガステーブルのグリルで魚を焼く際、グリルに水を入れずに焼いたところ、ガステーブルの下に敷
いたダンボールに着火した。
④ 予防対策
ガステーブルのグリルに水を入れないまま使用して、魚の油が燃えあがった例もありますが、本
事例ではグリルからの熱で、下に敷いた段ボール紙が燃え上がっています。段ボールでなくとも新
聞紙や木の板を敷いて、油汚れを避けている例もありますが、同じように着火する危険がありま
す。石膏ボードのような不燃物を敷くことで、危険度は大きく下がると思います。
5.電磁調理器(IHヒーター)不適合鍋を使用し、天ぷら油過熱
① 出火日時
12時頃
② 被害状況
ワンルームマンションで揚げ物をする為に、IH 調理器で天ぷら鍋を加熱中、天ぷら油が発火して、
台所の一部を焼損したもの。
③ 出火原因
ヒーター部分のほぼ中心に温度センサーがあるが、本件鍋はこの中心部分が凹んで約2㎜の空
間ができていた。この為に安全装置が働かず、油が発火温度(約370℃)に達するまで加熱し続け、
ついに出火するに至ったもの。
④ 予防対策
IH 調理器は鍋自体が発熱するのを利用して
加熱するため、炎がでない、ガス漏れの心配も
ない、極めて火災危険は低い器具と言えるでしょ
う。
こうした、炎がでない器具ゆえの安心感も手伝
って、このような事例に陥っているものと思いま
す。
鍋は専用の鍋か、底の平らな鍋を使用することが原則ということになりますが、底の凹みにつ
いては目で見ただけでは分からない場合もあるので、できるだけ専用の鍋を使用することをお勧
めします。
また、本調理器には、高温で調理するための「加熱スイッチ」と、センサーによって一定温度を
保つ「揚げ物用スイッチ」があるので、専用の鍋を使用していても「揚げ物用」での調理を徹底した
方がいいと思います。
もう一点、油の量について約900㏄以上入れることと取扱い説明書に記載されているものもあ
り、あまり少ないと油温が上がり過ぎる場合があるので、油の量にも注意して下さい。
6.スプレー缶をファンヒーターで過熱
① 発生時分
20時頃
② 被害状況
2階建て共同住宅1階居室の天井裏を焼損
③ 出火原因
洗濯物を乾かすため、石油ファンヒーターの前に洗濯物を置いたが、その際畳の上に整髪用の
スプレー缶があったが、そのままにしていた。その後、洗濯物は片づけたが、スプレー缶はそのまま
置いていた為、過熱して破裂し、天井を突き破って天井裏の断熱材が焼損した。
天井を突き破っています。
① 予防対策
ファンヒーターの吹き出し口付近にスプレー缶を置くと熱で破裂する場合があります。
実験をすると破裂する前に、内部圧力の上昇で、普段は凹んでいる缶の底が「バコン」という音と
共にふくれ上がり、次には「ドーン」という大音響と共に破裂します。破裂する際に内部のLPガスが
同時に噴出しますからファンヒーター付近が火炎放射状に炎に包まれるのが観測できます。付近が
燃え易い状況であれば、この炎で出火する場合もあります。
また、ロケットのように缶が飛んで天井を突き破っていますが、これがもしも人間に向かってきた
ら、少なくとも大怪我は免れないでしょう。十分注意して下さい。
原因が化学に関係するもの
1.堆肥(牛糞、木屑、乾燥わら等の混合)の発酵熱による自然発火
① 出火時分
3時頃
② 被害状況
建物部分焼 (2階建て倉庫20㎡、堆肥200㎥焼損)
③ 出火原因
堆肥作成のため、およそ3階建ての高さまで積み上げられている牛糞を混ぜた草木の堆積場所
から出火したもので、堆肥200㎥及び隣接の倉庫20㎡が焼損している。この草木は、並木の枝払
い等で集められて、一旦集積された後、牛舎の敷きわらとして使用され、牛舎で牛糞と混じった草
木を再度集積しておくと、微生物の発酵が進み、肥料として出荷できる。 この、屋外に堆積している
牛糞と混じった草木が発酵し、発酵熱の蓄積と酸化発熱により草木が発火したもの。
④ 予防対策
このような施設は民家から離れているのが通常であるため公共危険は比較的低いものの、山林
への飛び火等の危険は考えられます。堆肥山の温度を数箇所で測定すると、最高で87.4℃の温
度が計測されており、当日の気温は29.4℃と高く、高温多湿の環境下ではやはり発火の危険が
高くなります。
予防対策としては、大量に堆積しておくことが肥料作成の為の条件である以上、発火の危険は
併存するので、周囲環境の整備によって、延焼拡大要因を排除することとなるでしょう。
2.油絵の具用の画用液が染み込んだウエス等の自然発火
① 出火時分
18時30分頃
② 被害状況
美術学校2階教室部分焼
③ 出火原因
油絵を描いた際に使用した絵の具及び画用
液(アマニ油等)が染み込んだ布や紙等を紙
袋に捨てたため、乾燥促進剤(通称シッカチー
フ)の作用によって、アマニ油中の不飽和脂肪
酸の酸化が促進され画用液が染み込んだウェ
ス、紙が酸化発熱して出火したもの。
④ 予防対策
まさかと思う場所からの出火ということになるかと思います。折角苦労して描いた絵が無残に焼
けています。絵の具を拭き取ったボロ布等は、乾燥促進剤と混じらないよう、そして使い終わった布
等は、あまりまとめないで、金属の缶に入れて蓋をする等の措置が有効です。
原因が微小火源によるもの
1.寝たばこ
① 出火時分
13時頃
② 被害状況
2階建て共同住宅、1階居室の一部を焼損
③ 出火原因
居室に敷かれた布団の上で、タバコを数本吸い、吸殻を空き缶に入れたつもりで、布団のすぐ横
においたまま外出し、布団の上に落下していた火種が、燻焼(炎をあげない燃え方)を数時間継続
し出火したもの。
④ 予防対策
物が燃える時、その燃え方の大部分は、とにかく上へ上へと伸びていきます。下方向の約10倍
は上へと燃え上がります。マッチに火を点けて頭の方を上にしておくと、ゆっくり下に燃えて きます
が、これを反対に下に向けると、たちまち指が熱くなり、持っていることができませんよね。これが基
本的な物の燃え方です。
ところが、微小火源の場合は、炎をあげないまま、ジワジワと隣り合った分子を熱して広がってい
きますから、上も下も関係なく広がっていくという特徴を持っています。それも数時間という長い時
間、熱を保存しますからどんどん下に燃え込んでいき、床下の根太まで剥き出し状態で焼けていま
す。
ここまで燃えると流石に分かりますが、最初の30分ぐらいは煙も出さないまま火を保存して置く
ので、その間に外出してしまうという事例が多くなっています。
基本編でもとりあげましたが、実験をすると畳の上やフローリングの場合は、タバコが落ちても火
事にまで至ると思われるようなケースは少ないものの、座布団や布団の上では一転して火の保存
性が非常に良く、このようなところにも「寝たばこは危険」という意味があります。 それから、灰皿
に溜まった吸殻に火が残り、熱で灰皿が割れた場合は、この割れる衝撃で、火の着いたタバコが
「飛び散る」ような動きを見せる場合もあるので、灰皿には水を入れておく等の用心も必要です。
その他の原因によるもの
1.煙突の眼鏡石が薄く、木ずりに着火
① 出火時分
23時頃
② 被害状況
木造2階建て住宅38㎡を焼損
③ 出火原因
薪焼却兼用ボイラーの煙突貫通
部に設置していた「メガネ石」が外壁
と内壁間を完全に貫通する厚さがな
かったことから、煙突の熱でサイディ
ング外壁の断熱材を溶かし、さらに
上部の木ずりに低温着火したもの。
④ 予防対策
メガネ石は煙突周囲の木材と距離
をとる為に、煙突用の穴をあけた不
燃材で、通常石膏やセメ ントで作り
ます。
近年の建物は外壁の外側と内壁
の内側までの距離は約20㎝程あり
ますが、メガネ石はこの間を全て覆う
だけの厚さが必要です。
このように壁の内側から燃えた場合は、コンロの脇から燃えあがった場合と同じように、壁の間を
火が走り、離れた場所で火災を発見することがあります。
この火災の場合も、天井裏に火が走り2階の押し入れ付近から出火したかのような焼損状況を
示しています。初期で発見した場合でも、天井なり内壁を剥がさないと初期消火は不可能ですか
ら、木造建物のメガネ石は、多少見栄えが悪くとも外壁まで完全に貫通させるだけの「厚さ」が必要
です。
2.容器蓋の収れん火災
① 出火時分
13時頃
② 被害状況
外壁の一部を焼損
③ 出火原因
屋外に長期にわたり置かれていたステンレス製容器(直径約80㎝・高さ約120㎝)に直射日光
が当たり、凹板状の蓋が凹面反射鏡となって直射日光を反射させ、木造建物の庇部分で焦点が合
い、炭化させ出火に至ったもの。
④ 予防対策
「収れん」という聞き慣れない言葉だと思いますが、要するにレンズで太陽の光を集めて紙に火を
つけたりして遊んだことがあるかと思いますが、あれと同じ現象です。この原因には、他にもベラン
ダに置いたペットボトルや、車のフロントウインドーに張り付けた吸盤、金魚鉢等でも起きています。
また、湾曲した高層ビルの壁からの反射光が、道路に停めていたバイクのシートに焦点が合い、
燃え上がっている例もあります。
スプレー缶の底も凹面鏡になっている場合もあり、予防策としてはこのようなレンズ効果を生み出
してしまう可能性のあるものは、直射日光に当たらない場所に置くしかありません。
3.ライターでPPロープを焼き切る
① 出火時分
14時頃
② 被害状況
住宅兼事務所を半焼
③ 出火原因
リング状に収納してある P ・P ロープを、使用するだけ切ろうとしたが、ハサミ、ナイフ等が無かっ
たため、所持していたライターで焼き切った。その際、リング状のロープから垂れ下がった部分に火
が着いたままであるのに気がつかず、その場を離れた為に、付近に可燃物に着火、拡大したもの。
④ 予防対策
この行動自体は、作業が忙しく刃物を持ちにいくのが煩わしい時や、ロープの先端がほつれにく
くなるメリットもあるので、よく見られる光景です。 出火原因としてもそれ程珍しくはない頻度で起き
ているので、もっと大きく広報すべき出火原因なのかもしれません。 日光の下では特に、ロープに
残った炎が見えにくいので、切った後の確認が大事かと思いますが、手を火傷
する恐れもあるので、やはり刃物で切断した方
が正解なのでしょう。
4.スプレー缶の火炎放射
① 出火時分
13時頃
② 被害状況
外壁内の柱の一部を焼損
③ 出火原因
玄関のコンクリート布基礎上のラスモルタル塗り外壁の中の柱3本が、シロアリにより被害を受け
ていたため、関係者が害虫駆除用すぷれーによりシロアリ退治をしていた。しかし、効き目がなかっ
たため、ライターを使用して、噴出するガスに火を着け「火炎放射器」状にして、壁の隙間付近にい
たシロアリを退治していたところ、モルタル壁の柱が燃え始めたもの。
④ 予防対策
気持ちは分かりますが・・余程シロアリが憎かったのでしょうか。このスプレーの使用目的とは合
致したものとも言えますが、使用方法は明らかに誤りですよね。当然焼き殺すための道具ではあり
ません。
人的被害では無かったのが救いですが、相当危険な行為ですので、こういうことはしないで下さ
いというしかありません。
5. 発泡スチロールに立てたロウソクの炎がスチロールに着火
① 出火時分
7時頃
② 被害状況
1階浴室の一部を焼損
③ 出火原因
浴室の電球が切れていたため、照明代わりのロウソクを、洗濯機の
上に置いた発泡スチロールに立て使用したため、時間経過によりロウ
ソクの炎が発泡スチロールを溶融させ、洗濯機の蓋に着火したもの。
④ 予防対策
「発泡スチロールが固かったので、燃えないと思った」と、お年寄り
の失敗例ですが、発泡スチロールは非常に燃え易い石油製品です。
ロウソクが極端に短くなるまで燃やし続ければ、台にした部分が木製
のものでも危険が大きくなります。
照明としてロウソクを使用する場合は、長時間になることが予想されるので、それなりの燭台を
使用するか、金属の缶のようなものが適していると思います。応急的な使用だと思いますが、裸火
での照明は避けたいものです。
まとめ
事例をいくつか紹介しましたが、火災のほとんどは人間の不注意行動が引き起こしており、電気器
具や燃焼器具の欠陥によるものは少ないということが分かりますね。
ただ、中には単に不注意と呼ぶのは気の毒だろうと思われる出火原因もあります。例えば絵の具を
拭いた布の自然発火とか、太陽光の収れん火災等、多くの人が「えっ?」と思うような原因については
不注意と呼ぶのはあたらないかも知れません。
このコンテンツでスキルアップした皆さんは、色々な場面で火災危険を敏感に感じ取っていただける
ものと期待しています。意外な方向からやってくる可能性のある、火災という災害から共に家族を守る
為にも、今後も色々な事例を紹介していきますので、また是非この部屋を訪れていただきたいと思い
ます。
資料 「住宅火災・住宅内救急事故事例集」 全国消防長会 広報防災委員会編
Fly UP