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デジタル映像アーカイブに永続性はあるか
日本科学者会議第 17 回総合学術研究集会予稿集,pp.256-257, 名古屋大学,2008 D-3 分科会:科学・技術の現状批判~日本の科学・技術の健全な発展のための課題~ デジタル映像アーカイブに永続性はあるか 木下紀正、KINOSHITA Kisei(鹿児島大学) 坂本昌弥、SAKAMOTO Masaya(鹿児島玉龍高校・鹿児島大学) 1.はじめに ビデオテープ等のアナログ記録はデジタル化して経 年変化やダビング等による劣化を避けるというのが、 標準的かつ支配的な考え方である。たしかに、デジタ ル化したデータはランダムアクセス、デジタル編集、 検索データの付加、画像劣化のないダビングなどの利 便性があり、インターネットやデジタル機器との親和 性もある。しかし、DVD もかびや紫外線・湿気などに よる劣化ではデジタル特有の脆弱性があり、ハードデ ィスクにクラッシュの危険は不可避である。デジタル 映像は容量が大きく、 DVD やハードディスクを使わざ るを得ないが、記録媒体の物理的破壊だけでなく、記 録方式やソフトと再生編集機器の長期安定的継続が保 証されるのか極めて深刻な問題である。筆者らは火山 噴煙映像の DVD アーカイブを進めながらこの問題に 直面している[1]。そのソースとなるアナログビデオ映 像については、既にベータ方式やハイエイト方式のデ ッキは製造中止されて久しく、現在の DVD ビデオ方 式でもブルーレイやその先の時代に使えるという保証 はない。ここでは、この様なデジタル映像アーカイブ をめぐる諸問題を検討する。一般に高度情報化社会の 市場原理だけによる技術の暴走や歪みに対し、末端ユ ーザーの立場から批判の声を上げるべき課題は多いの ではないだろうか。これら科学・技術の生活の場にお ける問題について、研究者がユーザーサイドに立ち専 門的知識を生かして発言することが期待されている。 2.映像記録データの永続性をめぐって 次世代DVD からの東芝HD-DVD 方式の撤退にあた って、ルポライター山根一真氏は新聞コラムで、記録 メディアの規格変更・世代交代で、ユ-ザーは大きな 損失に直面することを指摘し、メーカーや業界は、記 録メディアは今を後世に伝える文化遺産であるとの認 識を強く持つべきことを主張している[2]。さらに、古 いメディアの記録が再現可能な公共的技術施設の設立 を提案している。また、テレビのニュース番組で DVD 劣化対策が取り上げられたように[3]、デジタル記録の 長期的信頼性への懸念がマスコミで最近ようやく僅か ながら報道されている。 他方、デジタルアーカイブ全般に渡る永続性問題の 重大さが、図書館情報専門家の間では強く認識され [4,5]、山根氏の提案にも一部対応している。パッケー ジ系電子出版物の問題については[5]、①CD・DVD な ど電子媒体の寿命は 20~30 年程度と短い②再生機器 の寿命は、部品の故障・劣化などにより、さらに短い、 ③電子媒体や再生機器の規格は頻繁に変更されるとい う電子情報の脆弱性が指摘されている。CD-ROM 所蔵 資料の再生可能性調査を行った国立国会図書館では、 1990 年代に収納された資料全体の7割弱の利用に問 題があると報告されている。CD の内容を HDD に殆ど 移行できても、市販のエミュレータで旧式ハード環境 と旧式 OS をインストールしての電子資料の再生成功 は 29%、ファイル形式を変換しての再生成功 13%とい う結果である。長期利用保証のために、再生環境の維 持管理とデータ変換、エミュレーションの技術は不可 欠であり、ファイル形式の標準化・規格化の重要性が 指摘されている。国会図書館や国立公文書館などデジ タルライブラリ研究開発の先頭に立つ機関でも困難に 直面している実情で、 一般の大学や公立の図書館では、 デジタル資料の長期利用については殆どお手上げと思 われる。デジタルアーカイブの未来についての危機意 識を限られた図書館情報関係者だけでなく多くの人々 で共有し、 情報技術の在り方を正していく必要がある。 文科省にはメディア教育開発センターがあるが、適切 な社会的提言が要請される。 3.映像・画像のウェブ配信とアーカイブ ウェブ情報は手軽に配信・受信できる点では CD・ DVD などのパッケージ形態よりも便利である。 内容の 更新充実が容易である反面、配信組織の変更や担当者 の移動、あるいは方針の変更・サーバークラッシュに よって URL の公開中止も多く、不安定な情報資源で ある。長期的利用のためには、同じアドレスの維持ま たは新アドレスへのジャンプでリンク切れを防ぐか、 同じタイトルの維持で検索に対応することが配信側に 求められる。 筆者らの属していた研究室では、火山噴煙映像・各 種の衛星画像や物理学生実験などのウェブ配信を行っ てきた[6]。 1997 年当時は通信速度の制約のため MPEG 動画の画素数を 320x240 にしたが、近年には VGA サ イズ(640x480)も用いている。幾度かのサーバー更新な どでアドレス変更を余儀なくされたが、出来るだけリ ンクを保ちながら維持充実を図っている。しかし、イ ンターネット経由のウェブ情報だけでは大量の研究資 料の系統的整理と交換には大きな制約があるので、印 刷物としての論集の作成や映像・画像のデータベース となる CD・DVD 編集を並行して進めてきた。なお、 サーバーコンテンツの丸ごとバックアップや一部コピ ーも学術情報資源として利用出来るが、確立し固定し た部分と変更の対象となる部分の識別が必要である。 4.映像データベース作成の実際的問題 まず、ソースのアナログビデオ映像の再生で、ベー タ方式やハイエイト方式のデッキは中古市場の僅かな 物を求めるか限られたルートでの修理に依存するしか ない。メーカーが修理体制さえ放棄しているのは、製 造中止後 8 年の法的責任を超えて、消費者や文化財保 護という観点から社会的文化的責任の放棄として追及 されるべきである。 動画のデジタル変換では、CD 時代までは MPEG1 圧縮形式が実際的であり、MPEG ファイルは VGA サ イズで1 分10MB ほどのサイズだがhtml やパワーポイ ント埋め込みに用いられるので便利であった。近年の DVD 時代になると、パソコン動画では AVI、MPEG、 DivX、WMV、MOV、MP4、MPEG4、MP3、WMA な ど乱立し、機能と操作法の少しずつ異なる再生編集ソ フトが併存している。これらの中から長期的普遍的な 使用に耐える方式を選択するのは容易でなく、自然淘 汰を待つ時間はない。そこで、当面の方針として、家 電製品のDVDプレイヤーで再生可能なVOBファイル を選択し、編集作業もハードディスク内蔵の DVD レ コーダーで行うことにした。その結果は DVD1 枚の 4.3GB 以内で VIDEO_TS フォルダーにまとめられた 1 組の DVD-Video として、DVD プレイヤーだけでなく パソコンでも再生やコピーが出来るし、他のデジタル データとの共存が可能である。DVD-Video は取りあえ ずの普遍性はあるが、今後のブルーレイと地上デジタ ル放送だけの時代に再生機器がどうなっていくか長期 的には不明である。DVD-Video の中で録画モードの選 択肢は 1~8 時間の範囲だから、 ビデオカセットに比べ て省スペース性は喧伝されているほどではない。 DVD レコーダーで高速コピーや再編集のためには ハードディスクへの VR モード保存が必要であるが、 家電メーカー間の VR モードの編集互換性は低い。せ めて文化的プライドと品格のあるメーカーが自社製品 だけでも長期的互換性を維持し永続性を目指すことを 企業倫理として期待する。 DVD レコーダーでは動画という大量のデジタルデ ータを扱うため、書込みの予期せぬエラーやフリーズ の恐れがある。海外製の廉価版 DVD でなくても書込 みエラーは起こるので、DVD-RAM では既存のデータ まで読めなくなる恐れがある。ハードディスクではタ イトルやチャプターの数の飽和・フリーズやクラッシ ュを避ける健康管理が必要なことはパソコン以上であ る。 5.おわりに 映像記録方式のハード規格の変更は、メーカーの販 売戦略や都合によるものとなっている。変更前の映像 記録のアーカイブに対して保証が十分なされないこと は、消費者や蓄積された文化財に対する不誠実な行為 であり、許されることではない。ビデオカメラやデジ タルカメラの規格変更も目まぐるしいが、インターバ ル撮影やナイトショットモードのような貴重な機能は 一つのメーカーだけでも長期的に維持してもらいたい [7]。高品質を目指した規格変化は科学技術の進歩と共 に当然のことであるが、企業倫理と社会的責任感の進 歩も期待したい。 映像アーカイブにおいて、自分で撮影しただけでな く関連する気象情報や自然現象・災害などの報道記録 の利用は著作権の問題がある。数十分のまとまった特 集は別として、提供側でも管理できないような断片的 報道は、社会の共有物として出典明示の上での自由使 用を認めて欲しいものである。 最後になるが、デジタル映像アーカイブの受入れ機 関と長期的利用体制の問題は大きい。 [1]木下・坂本、火山噴煙・防災映像の DVD アーカイブ作成につ いて、自然災害総合研究協議会西部地区部会報、31、99-102、2007. [2] 山根、HD ー DVD 撤退、消える記録 再現手段作れ、朝日新 聞オピニオン欄、2008.2.28. [3]DVD が劣化する、寿命は、対策 は、NHK ニュースウォッチ9、2008.5.6. [4]小川・高橋・大西、 アーカイブ事典、大阪大学出版会、2003. [5]ディジタルアーカイ ブとその長期利用に関する研究会 講演資料、2007.3 http://www.kc.tsukuba.ac.jp/digitalarchive/all.pdf [6] 木下・三仲・金柿、物理科学教材 Web 配信の諸問題、応用 物理教育 29、41-46、2005; http://www-sci.edu.kagoshima-u.ac.jp/st-sci/physics/old/ [7]木下・土田・ 飯野・金柿・福澄、火山噴煙と黄砂の映像自動 観測とアーカイブ、SICE 第 33 回リモートセンシングシンポジ ウム講演論文集、2007、pp.27-30.