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エネルギーシステムインテグレーション - JWPA 一般社団法人日本風力

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エネルギーシステムインテグレーション - JWPA 一般社団法人日本風力
■特集:風力発電と電力系統との融和
エネルギーシステムインテグレーション
-Flexibility への挑戦-
東京大学 生産技術研究所 特任教授
まえがき
本稿では、再生可能エネルギーの導入を含め
電力システムを展望して Variability の増加に
ともなう新たな需給調整の課題を明らかにし、
その対策としての Flexibility 向上のための技
術的方策、その重要部分を構成する風力発電を
始めとする再生可能エネルギー発電の調整能
力の活用と、制度的方策について述べる。
1.電力システムの新たな課題
1.1 電力システムの展望 1),2)
持続可能で安定なエネルギー需給をめざし、
今後の日本そして世界の電力需給には、着実な
変化が想定される。需要においては、住宅/業
務用ビルで、既存の省エネルギーの進展と並行
して、ヒートポンプ空調・給湯・加熱などの温
冷熱分野、電気自動車(EV)に代表される輸送
分野を中心に新たな電力需要の増加や QOL を高
める電力利用の進展により、エネルギーの最終
消費に電力が占める割合は着実に増加する。住
宅に設置される太陽光発電を含む各種の分散
電源の導入・普及も加わり、住宅/業務用ビル
の電力需給の形態は大きく変化すると考えら
れる。産業においても、低温の加熱や乾燥にヒ
ートポンプがより広く用いられるようになる
など、一段の電力化が進むと考えられる。我が
国では、福島第一発電所原子力事故以降、電化
の抑制、電力需要の省エネルギーなど、将来の
電力需要を引き下げる意見が多く見られる。し
かし、欧米のビジョン、ロードマップ(例:2011
年 12 月の欧州委員会報告書 Energy Roadmap
2050)3)では、低炭素化を含む持続可能なエネ
ルギー需給の実現には、上記の熱需要、輸送部
門の電化が不可欠であり、全般的な省エネルギ
ーの進展においても将来の電力需要には大き
な低下を見込まない例が多い。
これに対して供給側では、低炭素化に向け、
火力発電は、天然ガス複合サイクル発電のガス
タービンの高温化、石炭ガス化複合発電の導入
などにより一層の高効率化が図られ、原子力発
電は安全に一層配慮した着実な利用が求めら
17
荻本 和彦
れる。そして再生可能エネルギー発電は、エネ
ルギー需給の持続可能性の向上のため、今後更
なる導入・普及が期待される 4)。
1.2 再生可能エネルギーへの期待
再生可能エネルギーとは、太陽光・熱、風力、
海洋、バイオマス、水力など、太陽や地球のエ
ネルギーを起源とする、人間の時間スケールに
おいて持続可能なエネルギー源である。再生可
能エネルギーの中で、水力、太陽光、風力によ
る発電や、太陽熱、地熱、バイオマスによる発
電と熱供給などはすでに大規模な利用が行わ
れており、また、バイオマスによる燃料供給な
ども始まっている。潮汐発電、潮流発電、海洋
温度差発電などの海洋エネルギーについては、
初期段階での導入、技術開発、新たな導入検討
が行われているなど、今後展開が期待される分
野も多い。さらに、欧州連合(EU)の2009年6
月施行の「再生可能エネルギー推進に関する指
令」では、ヒートポンプが利用する空気熱、地
中熱、水熱を「自然界に存在する永続的に使用
可能なエネルギー」として再生可能エネルギー
と定義している。一口で再生可能エネルギーと
いっても、様々な定義があることには注意が必
要である。
中緯度に位置し、一定の湿度や降雨量がある
日本においてはこれまで水力開発が進められ
てきた。今後は、太陽光発電が、全国的に偏在
性が少ないエネルギー源として導入が進めら
れ、風力、中小水力、地熱などは、それぞれの
エネルギー賦存量や土地利用の条件により成
立すると考えられる。再生可能エネルギーの導
入は、日本ばかりではなく、国際的な流れであ
る。EUは2020年までの温暖化ガス削減の中期目
標の中で、域内のエネルギー消費に占める再生
可能エネルギーの割合を現在の約2倍に当たる
20%に高める計画を発表している。米国は、連
邦政府レベルで様々な研究開発を含めた導入
促進政策を進めるとともに、州政府を中心に再
生可能エネルギーの導入促進施策が実施され
のため、これらの発電設備は利用率が比較的低
く、一定の発電量を得るためには大きな設備容
量(太陽光発電の場合、我が国では利用率が12%
程度と低く、発電電力量のシェア6%を実現する
ためには既存の発電設備の20%にあたる5000万
kW程度)が必要である。このため、2030年に5000
万kW程度の太陽光発電、3000万kW程度風力発電
の導入を想定した場合、我が国の電力システム
の需給構造、運用特性が大きく変わり、それに
伴う技術的課題を解決する必要がある。また、
再生可能エネルギーの利用の拡大に向けては、
今後の技術開発の成果を適用しても、経済性を
はじめとして、立地制約、土地利用、地元の理
解、送配電網の整備など、解決すべき課題は多
い。再生可能エネルギーの導入・普及に向けて
はこれら多様な課題を解決してゆく必要があ
るが、本稿では、再生可能エネルギーの発電利
用における電力システム安定運用の課題と諸
施策について述べる。
ている。多国間の取り組みとしては、国際エネ
ルギー機関(IEA)に加え国際再生可能エネル
ギー機関(IRENA)などが活動するとともに、
「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は、
「再生可能エネルギー特別報告書(SRREN)」
を2011年5月に発表した。
日本では、太陽光発電を始め、再生可能エネ
ルギーに関する技術開発が、新エネルギー・産
業技術総合開発機構(NEDO)を始めとする様々
な機関によるプロジェクト、産官学の協力、各
企業の活動など多様な形態で行われている。ま
た再生可能エネルギー導入のための調査や政
策検討は、環境省、資源エネルギー庁を始めと
する機関において行われている。特に、環境省
においては、「我が国における中長期の温室効
果ガス削減目標を実現するための対策・施策の
具体的な姿(中長期ロードマップ)」の検討を
目的とし、再生可能エネルギーの導入・普及に
ついて、資源量、導入可能性、導入施策などの
体系的な検討が行われた。この検討は、「2013
年以降の対策・施策に関する検討小委員会
(2011年8月~)」により継続されている。
2010年6月に資源エネルギー庁が発表した現
行のエネルギー基本計画では、一般水力を含め
た再生可能エネルギーによる発電を現状の約
800億kWh(全発電電力量の8%)から、2030年
には2140億kWh(同約20%)に増やす計画であ
る。2010年12月環境省の中長期ロードマップ小
委員会の中間整理では、2020年に一次エネルギ
ー消費の10%を再生可能エネルギーで供給す
るとされ、エネルギー・環境会議のコスト等検
証委員会5)では、再生可能エネルギーを含め電
源のコストの見通し、再生可能エネルギーのポ
テンシャル、導入可能量などが取りまとめられ、
現在行われているエネルギー基本計画の議論
の行方が注目されている。
海外での太陽光発電や風力発電の導入状況
と、国内の原子力発電に関する信頼低下のため、
国内における再生可能エネルギーに対する期
待は大きい。しかし、再生可能エネルギーによ
り、現在日本が必要とする極めて多量のエネル
ギー需要の一定部分を賄うことは容易なこと
ではない。太陽エネルギー、風力エネルギーな
どは、再生可能ではあっても密度が低く、発電
量が変動するエネルギーであり、その発電出力
は天気や時間の変化により大きく変動する。こ
18
1.3 再生可能エネルギーの変動性による需給
調整の課題
日本の再生可能エネルギーの中で最も大き
なエネルギー量が期待される太陽光発電と風
力発電は、いずれも電力の形でエネルギーを得
る。そしてそれらの発電出力は、日射や風速の
変化に伴い大きく変動する。図1に北海道、東
北、東京システムの風力発電出力の変動の例を
示す。
図 1 毎時平均発電量 (1000MW 相当,2/1-2/14)
変動性を考える上でまず考慮すべきことは、
発電出力変動の空間的な「ならし効果
(smoothing effect)」である。
「ならし効果」
とは、太陽光発電や風力発電は多数の小規模シ
ステムが広域に分散設置されるために、地域的
な広がりによりそれぞれの気象条件が異なり、
そのため個別の発電量の変動が相殺し合計の
発電量の変動が緩和されるというものであり、
それ自体に費用や手間はかからない。ならし効
果を活用するためには、気象条件が異なるでき
るだけ広い面積に太陽光発電や風力発電を分
布させることが必要である。ヨーロッパの場合、
北海、バルト海側と地中海側など、遠く離れた
場所の風力発電を組み合わせるという考え方
が提案されている。
また、太陽光発電と風力発電が異なる変動を
示すように、変動する再生可能エネルギー発電
であっても、太陽用光発電や風力発電のほか、
潮汐発電や潮力発電など異なる技術を組み合
わせることで、再生可能エネルギー発電の発電
電力量を確保して、変動を低減することができ
る。これは「技術的ならし効果」と呼ばれ、欧
米では、各種の再生可能エネルギー発電にまた
がる導入ビジョンや導入計画が、変動の緩和と
いう点にも着目して検討されている。
しかし、ならし効果を想定しても太陽光発電
の時間による変動、太陽光発電、風力発電の大
きな天気の変化による変動は残り、早い周期の
変動もすべてが解消されるわけではなく、これ
らの変動は導入量の増加とともに拡大してゆ
く。さらに、図2に示すような大きな気象の変
化で稀に起こる可能性のある地域全体の発電
出力が一定時間継続して上昇あるいは低下す
るランプ現象は、再生可能エネルギー発電の導
入量が増加し、その出力変動の幅が大きくなる
と、これまでにはない電力システム運用への脅
威となる。
0.8
0.7
0.6
none
0.4
up
0.3
down
0.2
(GW)
0.1
電力システムでは、従来、需要や電源事故に
よる変動があっても安定した運用を続けるた
めに、火力発電、水力発電を中心に、ガバナー
フリー(各発電機の自律的な制御)、負荷周波数
制御(中央からの集中制御)、経済負荷配分など
の複数の発電の制御や運用による需給調整機
能が備わっており、システム全体の柔軟性
(flexibility)を形成している。しかし、再生
可能エネルギー発電の導入量が増加すると、発
電量の変動の増加に加え、みかけの需要の減少
のため需給調整可能な発電所の運転台数が減
ることによる調整力の減少という2つの理由に
より、電力システムの調整力が低下する。図3
に示すように、需要、太陽光発電が変動するこ
とに加え、青線で示される見かけの需要が小さ
くなることで、赤色の火力発電の運転量が少な
くなり、その結果調整力が減少する。再生可能
エネルギーの導入の進展に伴い、最初は、周波
数調整など短時間の柔軟性が不足するが、再生
可能エネルギーの導入量の更なる増加に伴い、
より長い周期の変動性も問題になる。昼と夜の
変動、季節による変動、さらには年によるムラ
(水力の場合の渇水年と豊水年など)など、次
第に長い時間領域の変動性に起因する需給調
整の課題が顕在化してゆく。
1
1187
2373
3559
4745
5931
7117
8303
9489
10675
11861
13047
14233
15419
16605
17791
18977
0
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14
4月
図 2 風力発電ランプの例
これらの大きな発電出力の変動は、電力シス
テムにおいて不可欠な瞬時から年間など様々
な時間レンジでの需給調整を困難にするため、
その対策は再生可能エネルギー導入の究極か
19
電⼒需要、電源の出⼒
pu
0.5
つ最大の課題となる。電力システムではシステ
ム全体での需要と供給が毎時、毎分、毎秒バラ
ンスしていることが求められる。需要バランス
が崩れると周波数が変動し、本来の値である
50Hzや60Hzから大きく外れてくると、発電機や
モーターが安定した運転を続けることができ
ず、大停電を引き起こす原因となる。
この電力システムの需給調整の対策を考え
る場合、家一軒など部分的なシステムの需給の
変動ではなく、需給調整が行われる電力システ
ム全体、あるいは連系して需給調整が行われる
複数の電力システム全体での合計の需給変動
を対象とすることが本質的である。
160
140
120
ピーク
需要とその変動
100
80
最低負荷の状
態で、⽕⼒な
どによる調整
余⼒が最⼩
60
40
20
0
再⽣可能エネルギー
発電とその変動
ミドル
ベース
1⽇の24時間
図3 大量に太陽光発電が導入された場合の
電力システムの需給イメージ
揚⽔
⽔⼒
⽕⼒
原⼦⼒
PV
需要-PV
需要
風力発電の変動に対応するために、起動特性、
調整力特性に優れた火力発電の設置が行われ
ている。
このような状況は、風力発電の導入が進んだ
ヨーロッパや、米国の一部で実際に発生してい
る。
(なお、柔軟性は、狭義には有効電力の調整力
として議論されることが多い。しかし、広義に
は、送電網の潮流の変化に対応する電圧・無効
電力制御、送配電網の事故時の系統切り替えな
どよるより広い領域を含む場合もある。)
熱供給と組み合わせた熱併給発電(Combined
Heat and Power)も、小規模で多数の電源の調
整方式を、経済性を含めて確立することで、需
給調整に活用できる可能性がある。しかし、こ
れを利用するためには、オンサイト設備として
余力が必要である、一般に熱の貯蔵が難しく一
2.柔軟性向上のための技術的施策
次エネルギーの利用効率が低下する、規模の小
電力システムの柔軟性を向上する技術的施
さな設備に対し制御設備の費用が発生するな
策としては、1)従来の需給調整を担ってきた負
どの課題があり、熱併給発電の需給調整への適
荷調整可能な集中電源の更なる活用、2)再生可
能エネルギー発電の出力調整、3)需要の能動化、 用には今後の検討が必要である。
4)新しいエネルギー貯蔵技術の導入、5)送電網
2.2 再生可能エネルギー発電の調整力
の拡充と連系線の活用、6)発電出力予測を取り
太陽光発電では系統連系用インバータの制
込んだ電力システムの需給運用の高度化が考
御で、風力発電では羽根のピッチ角制御により、
えられる。
発電電力を抑制方向に調整することができる。
この機能を使って需要の小さい季節や時間帯
2.1 負荷調整可能な集中電源のさらなる活用
など一部の期間で発電を抑制することで、より
従来需給調整を担ってきた負荷調整可能な
多くの設備の導入を可能とし、全体としてより
集中電源とは、天然ガス、石炭、石油などを燃
多くの再生可能エネルギー発電量を、経済性を
料とする火力発電、水力発電(貯水池式)、揚
損なわずに利用することができる。実際、既存
水発電などである。
の水力の場合でも、梅雨期や台風の到来などに
火力発電は、起動時間(通常、コールド状態
よる流量の大幅な増加の際にはダムに貯水す
からは数時間)、停止時間、負荷変化速度など
ることができず、我が国の水力発電では年間発
の技術特性をさらに高めることが望まれる。ま
電量の数%に相当する水が利用できず放水さ
た、図 3 で示した運用可能な台数の減少に対応
れる。発電できるはずのエネルギーを捨てるの
し、より多くの発電機を運転し需給調整力を増
は「もったいない」という意見もあるが、水力
加するためには、最低運転電力の低減も課題と
の場合のダムからあふれる水と同様、太陽光発
なり、それらの運用においてトレードオフとな
6)
る効率低下の対策、劣化の低減も求められる 。 電や風力発電の電力を無理に利用しようとす
ると電力システムの安定性が損なわれるとい
う危険が生じる。自然を利用するためにはエネ
水力発電は、停止から数分で最大出力に到達
ルギー利用の場合も適切な管理が必要である。
する良好な起動時間、負荷変化速度の特性を持
つ。二つの貯水池の間で水を上げ下げする揚水
また、必要に応じて通常行われる最大電力制
発電は、発電時の水力発電の技術特性に加え、
御ではなく一定の抑制をした点で運転してお
再生可能エネルギー発電の余剰分を揚水運転
き、出力の増加方向の調整を可能とすることが
で吸収して火力発電などの負荷調整可能な電
できる。この場合を含め、抑制することにより、
源の最大活用を可能とすることができる。さら
発電電力の上振れの一部が失われることはデ
に新しい励磁方式を用いた可変速揚水であれ
メリットである。しかし、抑制により、短い周
ば、揚水運転中に入力を広い範囲で調整するこ
期の発電電力の変動を効果的に低減すること
とができ、さらに効果的な調整力となる。
ができ、発電電力の一部が利用できないとして
も、抑制により大半のエネルギーを安定に利用
既に風力の大量導入が進み需給調整力の不
できるという効果も期待できる。今後、風力発
足に「現実に」悩んでいる欧州では、Flexible
7)
電や太陽光発電について、変動の特性分析、出
Generation などのキーワードのもとで既設お
力予測技術に加え、抑制される電力量を最小に
よび新設の発電所の仕様、設計に関する具体的
な検討が行われている。また、米国においては、 して、電力システムに与える変動影響を最小化
20
集中マネジメントシステムから各需要に電力
システム全体の需給状況を反映した制御信号、
情報を送り、住宅など各需要を管理する分散エ
ネルギーマネジメントが一定の判断のもとで
2.3 需要の能動化
近年、従来のデマンドレスポンスから進化し、 需要を制御する。協調運用に向け、エネルギー
マネジメント装置、情報・通信を始めとする
ICT技術の応用により需要調整を自動化する、
様々な技術、制度の検討が加速している。協調
需要の能動化(人間を介さない自動デマンドレ
運用の例としては、現状電気料金の安い夜間に
スポンス、いわゆるスマートグリッドのコア技
固定した運転をしているヒートポンプ給湯機
術)が注目されている。需要の能動化の核とな
による沸き上げや、今後の電気自動車やプラグ
る 技 術 は 、 住 宅 用 向 け の HEMS ( Home Energy
インハイブリッド自動車への充電を、需給状況
Management System ) や ビ ル 向 け の BEMS
に応じたダイナミックな電気料金を前日に決
(Building and EMS)などの分散型のエネルギ
定し分散エネルギーマネジメントに伝えるこ
ーマネジメント(xEMS)である。
とで、電力需給の状況に合わせて最適な時間帯
に行うよう調整することが検討されている10)。
ヒートポンプ給湯、電気自動車への充電とい
った電力の使用時間の自動調整、個別の電力使
また、先に述べた太陽光発電や風力発電のramp
用状況やシステム全体の需給状況の見える化
現象による継続した大きな出力減少あるいは
による省エネ・節電行動やライフスタイルの変
増加に合わせて機動的に需要を調整すること
化、太陽光発電や家庭用コジェネレーションな
ができれば、需給調整を担う発電所への負担を
どの分散電源や蓄電池の利用など、需要の能動
軽減し、電力システム運用の経済性の向上が期
化の適用範囲は今後拡大すると考えられる。
待される。
するような風力発電や太陽光発電の抑制方式
の研究、技術開発が重要である。
3.11東日本大震災後、個別のエネルギー源の
確保、さらには節電の実施に向け、HEMS やBEMS
への政策的な導入支援8)が行われ、その導入と
更なる技術開発は加速している。今後、情報通
信の分野を含めた様々な関連分野の規格化と
それに基づく製品開発が進むと考えられる。さ
らに、分散エネルギーマネジメントは、省エネ
ルギーや節電に需要の能動化を加え、さらに住
宅などの建物の快適性の追求、蓄積データの活
用など、大きな付加価値の創出が期待される。
再生可能エネルギーの発電電力の変動によ
る需給調整の課題の解決に向け、分散エネルギ
ーマネジメントを活用した集中/分散のエネル
ギーマネジメントの協調運用(以下「協調運
用」)が期待されている9)。また、次項で述べ
る二次電池やその他のエネルギー貯蔵技術の
技術開発も進められており、経済性の優れた理
想的な貯蔵技術が実現すれば、電力システムの
需給調整の課題の最終的な解決となる。しかし、
それらの基礎となる視点が「協調運用」である。
協調運用とは、これまで需給調整に活用して
こなかった需要側の無数の設備を需要の能動
化により電力システム全体の需給変動に協調
して調整する新たな電力システム運用の考え
方である。図4に示すように、電力システムの
21
気象予測
⽇射量・発電量予測
<気象庁>
特定地域
建物
集中EMS
<電⼒会社>
地域全体
気象・需要予測
起動停⽌計画
直接制御(機器制御量)
間接制御(電⼒価格)
発電所運転計画
翌⽇の機器制御量
翌⽇の電⼒価格
ローカル計測制御
(電圧・周波数)
分散EMS
翌⽇電⼒価格・機器制御量
電⼒・熱の需要量予測
PV発電量・太陽熱利⽤量予測
電⼒料⾦最⼩化
スケジューリング
翌⽇の家電機器運転計画
エアコンの利⽤時刻
蓄電・貯湯の時刻
EV/PHEVの充電時刻
当⽇運⽤
・経済負荷配分
・負荷周波数制御
系統電⼒
エネマネ装置
家電機器の最適運⽤
エアコン
EV/PHEV
太陽光発電
太陽熱給湯器
電⼒供給地域全体の
新たな需要パターン
蓄電池 貯湯槽
HP給湯機
その他
<家庭>
家⼀軒の需要
パターンの変化
<地域>
世帯数・世帯構成
EMSの普及率
図 4 需要の能動化による集中/分散エネルギー
マネジメントの協調
協調運用にあたっては、再生可能エネルギー
発電と需要の予測11)のもと、電力システム全体
の需給調整の観点から個々の需要あるいはア
グリゲ―ターが束ねた需要を調整する方法12)に
ついて、現状電力会社の中央給電指令所が担っ
ている集中エネルギーマネジメント側の技術
を含め、全体を整合させる技術も不可欠である。
我が国の原子力発電所の再稼働がなく全基
停止という想定のもとで、2012年夏の節電目標
の検討の基礎となる電力需給の見通しを検証
した「需給検証委員会」が、揚水を含む需給調
整の詳細を検討するとともに、「より合理的な
ピーク時の電力不足解消策」として需要の活用
等にも可能性を見出したことは、ここで述べた
協調運用、需要の活用の端緒と言える。
2.4 新しいエネルギー貯蔵技術の導入
変動する再生可能エネルギーの導入量の更
なる増加による電力の余剰に対しては、これを
貯蔵することが最終的な対策となる。しかし揚
水発電所の貯水量には新規を含めても限りが
あり、新しいエネルギー貯蔵技術が期待される。
新しいエネルギー貯蔵技術とは、リチウムイ
オン電池などの二次電池、圧縮空気電力貯蔵、
超伝導エネルギー貯蔵などであるが、電力シス
テムの汎用的な電力貯蔵用に導入が期待され
る技術は、電気自動車などへの適用で技術開発
が進んでいる二次電池である。また、より再生
可能エネルギーの導入が進み日間を越え季節
間の需給調整あるいは異常気象による長期間
の再生可能エネルギー発電の出力変動に備え
るために電気エネルギーを貯蔵可能な燃料に
転換することも考えられる。
二次電池は、揚水発電同様一定の損失が発生
するが、起動時間、調整速度などの運用特性は
優れており、さらに二次電池の場合、中規模、
小規模など様々な容量が経済性を落とさずに
実現でき、発電所や変電所に加え、業務用建物、
住宅など、需要側に設置することもできる。二
次電池の運用は、揚水と同様の日間から週間の
需給調整を行うことが想定されるが、初期段階
には周波数調整や ramp-down の対応など、短期
変動の補償に特化することで、経済性を高める
活用も考えられる 13)。
電力から燃料を生産する考え方は、過去、我
が国では大量のエネルギーの輸送・貯蔵を行う
ための WeNET プロジェクトとして実施され、液
体水素および水素から転換される複数の燃料
あるいは水素を吸収、放出できる媒体を用いた
エネルギーの輸送・貯蔵システムの技術開発が
行われた。風力、PV の導入が進んだドイツにお
いては、エネルギー庁 DENA により、水素ガス
を生産し、既存の天然ガスネットワークに注入
する Power to Gas プロジェクトが発表され 14)、
我が国でも新たな取組が開始されつつある。こ
の電力からの燃料の生産・利用は、変動する再
生可能エネルギーの導入が進み、電力システム
の需給調整の制約から二次電池などを活用し
ても使いきれない電力が大量に発生した段階
からは、不可欠な技術になると考えられる。今
後、燃料生産・貯蔵・利用の技術開発と並行し
て、電力、エネルギーシステム全体として燃料
製造が必要となる時期の検討が重要と考えら
れる。
2.5 送電網の拡充と連系線の活用
電力システム内の送電線を拡充し、複数の電
力システムをより送電容量の大きな送電線で
連系することで、連系線の運用の限度の中でよ
り広い範囲の「ならし効果」を活用し、また連
系された電力システム全体での柔軟性の高い
資源の最大活用が可能となる。
我が国では、50Hz 系の北海道、東北、東京の
3電力会社管内、60Hz 系の中部、北陸、関西、
中国、四国、九州の6電力会社管内において、
既設の連系線の活用と風力発電出力制御技術
の組み合わせにより、風力発電の連系容量拡大
の実証試験が検討されている 15)。新たな送電線
の建設にはルートの確保に時間がかかり建設
費も大きいこと、連系線の事故を含めた安定供
給の視点が重要であることから、再生可能エネ
ルギー発電など電源の配置と併せた検討が重
要である。
2.6
発電予測を取り込んだ電力システムの需
給運用の高度化
現状の、需要と電源事故の需給変動を負荷配
分可能な発電機で調整する電力システムの需
給調整は、再生可能エネルギーによる変動する
発電の導入の増加に伴って新たな柔軟性向上
の方策を取り込んで徐々に変化する必要があ
る。再生可能エネルギー発電の増加と並行して、
出力変動の特性の分析・把握と水力発電や火力
発電の需給調整力の最大活用からはじまり、再
生可能エネルギー発電の出力予測16)を組み合わ
せた前日の運用計画や当日運用を導入し、これ
らと並行して、需要の能動化の取り込み、複数
の電力システムの連系を積極的に活用した運
用が必要になると考えられる。図5に、再生可
能エネルギー発電の変動性を評価して、火力発
電機が、電力システム全体の需給調整力を増加
させるために部分負荷運転を行うイメージを
示す。
需給調整を含めた運用計画において需給調
整用の電源の効率低下を回避し、再生可能エネ
ルギーの発電電力の抑制を最小限にするため
には、電力システムの運用に数日、数時間、場
合によっては数分後までの様々な時間レンジ
での出力予測が重要となる。
22
図6に発電予測を取り入れて、前日および需
給計画を策定し、当日も需給計画を必要に応じ
て改訂する電力システムの需給運用のイメー
ジを示す。これらのあり方は、次節で述べる電
力市場の姿と密接な関係を持つ。
Gen. Capacity
Original LOAD
System Load
PV,
Wind
Pump Input
Battery Charge
HP Water Heat
EV Charge
Equivalent
load
m
u
im
in
M
d
a
o
L
h
tc
a
p
is
d
Oil 2
Oil 1
Hydro w/ reservoir
LNG 2
LNG 1 Peak:
Base:
Coal 2
Coal 1
前⽇
Nuclear
1800
1900
発電予測
2000
2100
運⽤計画策定
2200
2300
2400
翌⽇計画決定
Hydro (run-of-river)
Geothermal
図 5 電源の柔軟運用による調整力確保
当⽇
出力予測は、長期に適した気象予測による方
法、短期に適した統計的手法、衛星データによ
る手法(太陽光発電の場合)などがある。気象
予測においては、気象の予測データや実績デー
タを蓄積・分析することで、天気の数値予報17)
の手法や運用方法(発表時間・内容、予測スパ
ンなど)を、より再生可能エネルギーの発電予
測に適したものに改善しつつ、様々な予測範囲
でのより高い精度の気象予測が利用可能にな
る。
-120min
最新発電予測
(3時間毎改訂など)
-60min -30min
xx00
xx00
xx00
運⽤評価 当⽇調整
(系統発電機運⽤修正、需要調整)
図 6 将来の電力システムの需給運用のイメージ
3.再生可能エネルギー発電の需給調整への貢
献
前節では Variability から発生する需給調整
の課題、そしてそれを解決するための
Flexibility 向上について述べ、その中での再
生可能エネルギー発電の調整力の活用の必要
性について述べた。
電力システム運用のための太陽光発電や風
力発電の出力予測としては、先に述べた「なら
し効果」を考慮した広域の合計発電電力の予測
が基本であり、そのためには広域での日射予測
や風況予測にもとづく、広域での出力予測技術
が必要となる。広域の日射予測、風況予測につ
いては、将来の発電設備の配置を含めた予測結
果の検証のためのデータが存在しないため、現
在、広域の日射量、風況、発電電力のデータの
蓄積・分析に、将来のならし効果に関する想定
を含めた技術開発が行われている。太陽光発電
においては、衛星観測データの活用も重要な手
法となりつつある。
本節では、世界で大規模な導入が進められて
いる風力発電を中心に、電力システム全体の需
給調整の課題解決に向けた Flexibility 向上の
一環としての出力制御(Active Power Control、
電圧調整のための Reactive Power Control と
区別する意味では「有効電力制御」という)の
貢献の可能性にについて述べる。
発電予測に必要な精度は、太陽光発電や風力
発電の導入量の増加による新たな変動の増加、
火力・水力発電の運転の確保可能量、部分負荷
運転や発電機の起動停止の自由度、それらに伴
う経済性などの関係で決まる。今後は、安定な
需給運用のためには前線の通過などに伴う極
端な天気の変化の場合に発生する発電電力の
継続した増加や低下(ramp-up/down現象と呼ば
れる)の予測を含め、電力システムの安定な需
給運用に必要な要素を押さえた出力予測技術
に進化させることが重要と考えらえる。
23
3.1 電力システム運用からの必要性
第 1 節で述べたように、再生可能エネルギー
発電の大きな発電出力の変動は、電力システム
において不可欠な瞬時から年間など様々な時
間レンジでの需給調整を困難にする。現在の電
力システムにおいては、これらの問題に対して、
様々な特性を持った電源により様々な余力(予
備力)を準備している。
電力システムの予備力は、毎日の運用におけ
る予備力と、発電所の事故、燃料途絶、需要の
増加に対する新規電源の開発の遅延といった
需給構造に係る予備力に大別される。従って、
広義には、現在行われている石油の備蓄も予備
力の一部であると解釈することができ、近年、
ドイツの Power to Gas や我が国の再生可能エ
負荷変動幅
ネルギー輸送・貯蔵に関する技術開発などで注
目される余剰電気の水素あるいは何らかの燃
料媒体への転換による貯蔵も長期的なエネル
ギー貯蔵として予備力と考えることもできる。
EDC
負荷特性
(自己制御)
しかし、ここでは、現在の欧米あるいは近い
将来の日本の電力システムで課題となると考
えられる日々の需要変動に応じて変化する実
際の需給に着目する。
ガバナ
フリー
0.5
先ず、電力システムの通常の需給運用につい
て見てみよう。電力系統の負荷は時々刻々変動
する。これらの変動に対し、応答の早い順に、
各発電所が自端で周波数を検出して自律的に
出 力 を 調 整 す る 制 御 ( GOV: Governor Free
Control)、系統の周波数を一定に保つ負荷周波
数制御(LFC: Load Frequency Control)
、発電
機の経済性を考慮した経済負荷配分制御(EDC :
Economic Load Dispatching Control)を階層
的に分担して行われている。それでも調整しき
れない速い需給の差の変動が周波数の変動(次
に述べる慣性力の領域)で吸収され、瞬時から
長い時間領域まで電力システムの需給バラン
スを保つよう設計・運用されている。(図7参
照)そして、これらの調整を遅滞なく実施でき
るように電力システムの中で運用予備力(発電
の余力)が確保されている。
次に事故時の応動について見てみよう。図8
は、大規模な電源あるいは電源送電線の事故時
には供給力の不足により周波数が低下し、これ
に対応して各種予備力が応動する様子が示さ
れている。事故直後、不足した電力に対し交流
で接続された発電機の回転エネルギーからエ
ネルギーが供給される。これは制御によらない
物理現象であり、慣性力(イナーシャ)と呼ば
れる。その後は図7に示した各種制御が働く。
先ずガバナーフリー制御が働いて周波数低下
を一定の値から回復し、システムの崩壊を未然
に防ぐ。その後、負荷周波数制御が火力発電所、
水力発電所の発電指令値を修正して50Hz、60Hz
などの規定周波数への復元を図る(自動周波数
制御、並行して手動による水力などの立ち上げ,
出力調整が行われる。さらに必要に応じて停止
中の火力を起動し、最終的に経済負荷配分制御
が経済性を考慮して運転予備力の保有量を事
故前の状態に戻すということが行われる。また、
ここでは触れないが、通常、および事故時の動
的な電力システムの応動は、同期化力という交
24
1
LFC
20
時間(分)
60
図 7 周波数制御の分担 19)
図 8 大規模電源脱落時の周波数、予備力
応動状況例
流で接続された発電機や電動機(モーター)の
間に働く電気的な力で支えられているという
ことも重要である。
これまでに述べたように、瞬時々々の需給バ
ランスが必須である電力システムでは、交流で
連系された発電機の回転エネルギーが最終の
調整余力となっていることは、交流システム安
定性の重要なポイントである。また、電力シス
テムに需給上の問題が発生する場合の多くは、
周波数に加えて電力システムの広い範囲で電
圧も低下するので、その低下により需要自体が
減少特性を持っていることも需給の安定性を
保つ要因となってきた。
これに対して、今日および将来の電力システ
ムでは、需要と供給両面で徐々にではあるが着
実な変化が起きている。第一は需要の特性の変
化である。エアコン、ファン、照明など従来は
交流モーターあるいは単純な抵抗負荷であり、
電圧、周波数の変動に対しそれを補償する方向
に変化特性が、インバータを介したエアコン、
ファン、LED 照明などに変わることで、需要側
では安定運転、省エネルギーとなるが、電力シ
るためには、それぞれの発電方式の特性を考え
る必要がある。
ステムから見ると周波数や電圧によらず一定
の負荷、すなわち、アンバランスを助長する方
向に変化している。
風力発電には、風車、発電機、制御方式など
により多くの方式があるが、数百 kW 以上の大
型風力発電では、現在、三枚翼のプロペラ風車
と組み合わせた、図 9 に示すような、主として
4 種類の発電方式が用いられている 23).24)。
 タイプ A はかご型誘導発電機による定速運
転機であり、系統併入時の突入電流を低減
する為に、ソフトスタート回路を設けてい
る。
 タイプ B は巻線型誘導発電機で回転子の二
次抵抗制御による部分可変速度運転機であ
り、タイプ A と同じくソフトスタート回路
このように、今後の電力システムにおいては、
を設けている。
風力発電や太陽光発電の大量導入により、第一
 タイプ C は巻線型誘導発電機で回転子の二
章に述べた変動の増加と調整力を発揮する電
次励磁制御による可変速度運転機であり、
源の運用量の低下という課題に加えて、電力シ
回転速度により固定子回路と回転子回路の
ステム全体の特性が、需要の特性の変化や慣性
双方で有効電力を出力し(Doubly Fed)
、回
の低下により、需給のアンバランスの影響を受
転子の周波数と電流を制御することで、広
けやすくなる方向に「劣化する」という現象が
範囲に回転数を制御することができる。
発生する。
 タイプ D は、誘導発電機、直流励磁型同期
発電機、永久磁石型同期発電機など各種の
これまで、欧米では風力発電や太陽光発電の
発電機を AC/DC/AC 変換器により接続する
大量導入のもとでの電力システムの運用に関
可変速度運転機である。
20)
する各種の検討が行われてきている。 これら
新しいタイプほど設備費は高くなるが、発電
の検討の結果、Lawrence Berkeley 国立研究所
効率向上、発電機の機械的なストレス低減、系
が米国の連邦エネルギー規制委員会(FERC)の
統側へ与える影響の低減など、各種の機能が向
依頼で行った検討 21)によれば、変動する再生可
上する。かつてはタイプ A、B が主流であった
能エネルギーの、導入に伴う電力システムの周
が、現在の新設設備はタイプ C が主流であり、
波数変動への影響については慎重な検討が必
タイプ D の割合も増加している。
要とされている。
第二は発電側の特性である。従来の交流電源
が、風力や太陽光発電の場合のようにインバー
タによる連系になると、同期化力の働かない電
源となり、電力システム全体の慣性エネルギー
が低下し、小さな需給変動でも周波数が変動し
やすく、また周波数を制御した場合の安定性が
低下する特性に変わる。このような現象は欧米
の再生可能エネルギー発電の導入が先行して
いる地域では実際に観測され、今後その傾向は
継続すると想定されている。
なお、次節以降は、出力調整に焦点を絞って
話しを進めるが、再生可能エネルギーには、有
効電力ばかりではなく、無効電力、高調波、低
周波共振、事故中、事故後の電圧・周波数変動
時の運転継続、発電復帰特性、単独運転、再起
動などについても様々な貢献が求められる。北
米電力信頼度協議会(NERC)による検討 22)では、
以下で述べる出力制御を含め、再生可能エネル
ギー発電の貢献のニーズと方向性に関する全
般の議論がまとめられている。
3.2 風力発電機のタイプと特性
Variability に起因する電力システムの需
給調整問題に対する風力発電を始めとする再
生可能エネルギー発電の貢献の可能性を考え
25
風力発電機の制御は、発電機の定常的、過渡
的、事故時の各種保護・制御を組み合わせて行
われる。定常運転における発電機制御は、ピッ
チ角制御を組み合わせて、有効電力、無効電力
の制御が行われるが、電力システムの需給調整
の課題の解決に関係するのは出力(有効電力)
制御で、ピッチ角制御とトルク制御で行われる。
(図10参照)
風力発電機の出力制御は風況による最大出力
制御が基本で、起動できる Cut-in 風速から定
格出力可能な風速の間の部分負荷領域と、その
点から強風に対する機器保護のために運転を
停止する Cut-out 風速までの定格出力運転の領
域に分けられる。これに対し、近年、前項まで
に述べた電力システムの需給調整の課題の深
電力システムの運用」で述べた系統周波数制御
の2つの領域への適用が検討されている。
刻化のもと、この問題を緩和するための貢献が
風力発電に求められている。
第一の領域は、慣性力領域での慣性模擬制御
( Inertial control 又 は kinetic energy
control:交流接続された同期機の慣性応答に
よる出力変化を模擬する)と、ガバナーフリー
領域でのガバナー模擬制御(従来発電機のガバ
ナーフリー応答による出力変化を模擬する)で
ある。火力、水力発電機では、同期化力とガバ
ナー制御は異なる原理による応答であるが、風
力発電機ではこれらを模擬するという点では
原理が同じであり、二つの模擬制御の間に本質
的な違いはない。
この領域の制御は、通常、発電機事故時の応
援としての増出力が求められることが多い。風
車の持つ慣性力を活用して過渡的な増出力を
行うと、数秒など一定時間後、回転数の低下を
回復するために発電出力の減少が必要になる
(図 11 参照)というトレードオフがある。従
って、模擬制御においては、電力システムのニ
ーズに合わせて、増出力と避けられない減出力
を組み合わせることが重要となる。更なる工夫
として、定常状態で最適回転数以上の回転数で
運転しておくという、ピッチ制御とトルク制御
を含めた発電機制御をより高度に組み合わせ
た手法も検討されている。
図 9 風力発電システムの種類 24)
Power Grid
Grid Operator
SCADA
High Voltage Bus
出⼒とローター回転数
出⼒
Low Voltage Bus
Wind Firm Controller
Reactive Power Controller
Active Power Controller
Fault ride through Controller
Compensator
Reactive power Control
Pitch Control
Wind Turbine Generator
事前値
Torque Control
ローター回転数
図 10 系統と連系した風力発電の出力制御 25)
図 11 慣性制御のイメージ
3.3 電力システムに貢献する風力の出力制御
電力システムの需給調整の課題への風力発
電の貢献としては、従来は、系統事故時の運転
継続(FRT)機能や、需給状況に応じた出力抑
制(Upper limit control:最大出力以下の、要
求される出力での運転)、さらには出力変化速
度制限制御(Ramp rate limit control:出力の
変化の早さを設定値以下に制限する)といった、
風力発電自体が原因となる問題の緩和が行わ
れてきた。しかし、近年では、電力システム全
体の需給調整への積極的な貢献として、
「(3.1)
26
第二の領域は、常時の負荷周波数制御である。
この領域では、常時、増出力と減出力の両方の
応答が必要とされる。この領域でも、ピッチ制
御、トルク制御を含めた発電機制御を組み合わ
せた制御を行うことで実現することができる。
ただし、この領域は、第一の領域の場合のよう
に電源事故など頻度の低い適用ではなく、常時
の動作が求められるため、発電電力量の低下に
加え、風力発電機の疲労などの影響を考慮する
ことが必要となる。
3.5 再生可能エネルギー発電の出力制御に向
けて
ABB、GE、Siemens、VESTAS など風力発電メー
カは、それぞれ特色を持った出力制御機能を持
った機器を開発し、世界の市場に投入すること
で、欧米を始めとする様々な電力システムにお
ける連系要件を満たばかりではなく、先進的な
試みにも挑戦してきている。
米国では、電力システムの需要の周波数特性
(%MW/0.1Hz)が変化し、風力発電などの大量
導入により電力システムの調整力が不足する
ことが懸念されており、テキサス州の ERCOT、
カナダの Hydro Quebec 州の電力システムでは、
システムの連系規定に周波数制御への組み込
みが含まれている。このような動きはヨーロッ
3.4 再生可能エネルギー発電の出力制御
パでも見られる。
太陽光発電の場合は、インバータで連系され
我が国では、経済産業省の次世代送配電系統
るため、風力発電のタイプ D と同様の考え方で
最適制御技術実証事業において、先進的な、中
出力制御をすることができる。風力発電との違
いは、回転体などエネルギーの蓄積要素がなく、 央の電力需給制御と、分散エネルギーマネジメ
ントによる太陽光発電の制御技術が開発され
最大電力に対して抑制方向の制御のみが可能
ている 38)。風力発電においても、今後の導入の
であり、慣性応答などはできない。太陽光発電
モジュールは、日射により変動する直流電圧原
促進と合わせ、優れた出力制御技術を開発する
であり、インバータの直流側電圧との差で流れ
必要があると考えられる。
る電流と直流電圧の積を最大化するのが通常
の最大出力(MPPT)制御であり、交流側の有効
4.柔軟性向上のための制度的施策
電力、無効電力の両者を制御することができる。
前章で述べたように、風力発電を始めとした
もう一つの風力発電との違いは、風力発電は数
変動する再生可能エネルギー発電の調整力を
千キロワットから数十万キロワットの数百~
活用するためには発電電力量を一部犠牲にす
数千カ所のウィンドファームが設置されるの
る必要がある。また、従来電源、需要の能動化、
に対し、太陽光発電の多くは、一般に屋根置な
新しい貯蔵技術、系統の連系にもそれぞれ運用
ど建物への設置が多く、数キロワットから数十
費や設備費の増加、設備の劣化など何らかの費
キロワットの出力の無数の設備から構成され
用の増加を伴う。このため、電力システムの柔
る。このため、各太陽光発電所に制御信号を送
軟性を確保するための施策は技術ばかりでは
り、受信し、制御する設備が大きなコスト増と
なく、技術を最大限に活かすための制度も不可
なる。ただし、メガソーラーと呼ばれる大規模
欠である。
設備の場合は、この問題は比較的小さいと考え
られる。
4.1 運用制度
バイオマス燃料の発電は、出力調整に関して
本年 2 月の我が国の電力市場についての提言
は火力発電と同じ特性であり、周波数制御を行
である「電力システム改革専門委員会報告書
うことに大きな問題はない。当面の導入の見込
(以下「システム改革報告書))では、その改
みは大きくないが、潮力、波力など、出力が変
革を貫く考え方を、「これまで料金規制と地域
動してもその周期が長い発電技術の場合は、周
独占によって実現しようとしてきた『安定的な
波数調整などには有効な電源になる可能性が
電力供給』を、国民に開かれた電力システムの
ある。
下で、事業者や需要家の『選択』や『競争』を
再生可能エネルギー発電を含め、
通じた創意工夫によって実現する方策が電力
Flexibility 向上は、それぞれの発電方式の技
システム改革である。」としている。卸電力市
術的特性、それぞれの時点での運用状況に応じ
場の意義については、
「卸電力市場の活性化は、
て、最適な役割分担を実現することが重要と考
経済合理的な電力供給体制の実現と、競争的な
えられる。
市場の実現の双方にとって非常に重要である。
これまでは、風力発電機単体のイメージでの
説明であったが、風力発電所は、一般に多数の
風力発電機によるウィンドファームの形態と
なっている。従って、第一、第二の双方の領域
の周波数制御信号は、まずウィンドファームな
どに入り、それが個別の発電機に配分される構
造になる(前掲の図 11 参照)。従って、この制
御信号を、個別の発電機の運転状況に応じて配
分する技術が重要であり、一部製品化されてい
る。また、第二の領域の場合、一つの電力シス
テムの中で多数のウィンドファームに対する
中央からの制御信号を配分する技術にも今後
の検討の余地がある。
27
の事業採算性が低下する。欧米ではこの現象が
既に発生しつつあり、安定供給に必要な火力電
源などの確保が難しくなっている。これに対し
「容量市場」といった投資に対する報酬を一定
程度保証するしくみが検討されており、システ
ム改革報告書では小売事業者にその将来の供
給力の確保を義務付ける考え方が示されてい
る。しかし、容量市場で、既設電源を維持する
だけではなく、新規電源を開発するためには、
相当期間について収入を約束することが必要
であり、「投資の意思決定のためのシグナルの
発信という市場の本来機能を損なう」、
「確保さ
れる電源が固定化される」などの弊害が問題と
なる。
(中略)加えて、卸電力市場の厚みの向上は、透
明性・客観性の高い電力価格指標の形成にも資
するため、電力取引の活性化や発電における投
資回収の見通し向上といった効果も期待され
る」と述べられている。
しかし、卸電力市場が、エネルギー需給の
3E+S の実現に効果的であるかどうかは、自明で
はなく保証されるものでもない。例えば、安定
供給のための新規電源の確保は欧米の卸電力
市場の創設当初より解決されていない課題で
あり、市場メカニズムにより二酸化炭素排出量
を持続的に削減するためには、炭素排出コスト
を市場価格に含めなければならないことも明
らかである。つまり、市場によりあるビジョン
再生可能エネルギー発電の所有者は、発電の
を実現するためには、そのビジョンを明確化し、
抑制あるいは出力調整により発電電力量が減
市場がそのビジョンの実現に沿った価格シグ
少する。社会全体としての最適化のために、こ
ナルを発するように設計することが必要とな
の問題を適切な制度と組み合わせて解決する
る。
ことが抑制の適切な活用の鍵と言える。
これらの既存の難問に加えて、これからの電
4.2 分散システムの導入に係る制度
力市場では、前節で述べた再生可能エネルギー
リーマンショック後の第一次オバマ政権の
発電の変動性の克服のための柔軟性を確保す
政策の重要な柱となり、Smart Grid という言葉
るという役割が加わる。このためには、欧米で
が大きな注目を集めてから約 5 年が経とうとし
これまで導入されてきた電力市場の構造のも
ている。Smart Grid が何かということについて
とでは、従来の欧米の市場にはある、アンシラ
は、様々な議論が行われたが、一言でいうと今
リー市場と呼ばれる、「ガバナーフリー、周波
までより優れた電力(あるいはエネルギー)シ
数調整などの速度の速い需給調整手段による
ステムに関する技術であれば何でも含まれる
サービスを対象とした市場」の重みが増す。そ
というのが第一の理解であり、その中で重要な
して、この柔軟性をより経済的に確保するため
役割を果たすのが ICT 技術を活用した無数の分
には、今後の市場は、火力発電など集中電源の
散システムの導入である。
調整力ばかりではなく、先に述べた再生可能エ
ネルギー発電の出力調整、需要の能動化、新し
この無数の分散システムの導入により実現
いエネルギー貯蔵技術などの多様かつ可能な
限りの柔軟性を取り込む必要がある。しかし、 される新たな機能が、先に述べた需要の能動化
と、集中/分散のエネルギーマネジメントの協
アンシラリーサービスのニーズは、需給変動が
調であり、この機能を最大限に活用するために
電力システムの柔軟性を越えた場合に限って
は、新たな要素である多様な分散システムを既
大きく顕在化するため、その市場価格の騰落
存の電力システムと整合して導入を開始し、新
(ボラティリティ)は極めて大きいことが予想
しい電力需給システムに進化させることが必
される。変動の速さに対し電力市場と最終的な
要となる。このための様々な技術の研究・開発
送電運用者による措置が量的、反応時間的に十
が行われているが、並行して重要な役割を果た
分なもとのなるかどうかは、今後の大きな課題
すのが、標準化による規格・基準の策定である。
である。
Smart Grid に係る標準化の領域は極めて広い。
従来個別に発達してきた電力、家電機器、情
報・通信といった分野の規格・基準の整合とい
う分野はあまりにも巨大というべき大きさで
あるが、現在、新しい標準化手法であるシステ
さらに、電気が、発電した量・使う量などの
いわゆる電力量で取引される「エネルギー市
場」においては、可変費がゼロの再生可能エネ
ルギー発電の割合の増加に伴い、従来電源の発
電電力量の低下と市場価格の下落により、電源
28
ムアプローチを含め、世界的な標準化の取り組
みが行われ、日本もこれに継続的に参加し、一
部の分野をリードしている 26)。
それに加えて、太陽光発電、風力発電、その
ほかの分散電源、バッテリーなどが、「将来の
電力需給において必要十分な役割を果たすよ
うに」、それらを電力システムに連系する場合
のルール、運用制度は、新たに創る必要があり、
将来の電力需給の技術体系、運用体系を規定す
る重要分野である。しかし、本稿では、制度面
での重要分野として、将来の電力需給を見通し
た標準化の重要性を指摘するのにとどめる。
4.3 欧州の電力市場・標準化に関する取組み
EU では、1990 年代から電力市場を導入し、
さらに 2014 年に域内電力市場の統合を目指し
ている。これに対し、図 12 に示すドイツ、オ
ランダ、フランス、ベルギーの週間の卸電力市
場価格では、ドイツの価格が 2012 年を通じて
低い傾向を示していたが、2013 年第一四半期に
は、太陽光発電と風力発電の大きな発電量のた
め、他の 3 国の価格と大きなかい離を示した。
また、ドイツでは、それまで夜間に発生してい
た負の価格が昼間にも発生した。これらは、緊
密に連携されているはずの西ヨーロッパ電力
市場の統合が不完全であることやドイツの再
生可能エネルギー導入による卸電力市場への
大きな影響を意味し、統一市場を目指すヨーロ
ッパにとり、その達成に大きな障碍があること
を示す。本節では、日本の電力需給に係る重要
な要素である電力市場や標準化の方向性を考
える上で参考になると思われる EU の動きを紹
介する。
図 12 ドイツ、ベルギー、フランス、オランダの
週間の卸電力市場価格の推移
炭素排出の持続的削減と経済発展を基本政
策とする EU では、電力システムの低炭素化を
29
目的として、第一に、柔軟な発電、貯蔵、需要
管理、系統間連系といった柔軟性の資源確保と
いう運用面、第二に、この再生可能エネルギー
発電の大量導入によるエネルギー市場の市場
価格の下落と既存電源の発電量の低下による
それらの事業採算性の低下に代表される投資
面、この二つの側面に対して市場が適切なシグ
ナルを出せるかどうかが改めて課題として認
識され、議論が行われている。そしてこの課題
を解決すべく、さまざまな施策、検討が実施さ
れている。
先に述べた 2011 年 12 月の欧州委員会報告書
「 Energy Roadmap 2050 」、 そ れ を 受 け た
European Climate Foundation27) の 「 Power
Perspectives 203028」」では、エネルギー電力市
場について大きなスペースを割いて議論が行
われた。また、2011 年 6 月の欧州委員会報告書
「Renewable energy:A major player in the
European energy market29」」と関連の作業報告
書では、2020 年以降の再生可能エネルギー政策
の柱として、再生可能エネルギーの域内での市
場統合、再生可能エネルギーの成長、協調のと
れた支援スキームの制定と改訂、加盟各国間で
の再生可能エネルギー取引の増加を求める内
容を発表し、2012 年 12 月、欧州理事会はその
内容を確認する決定を出した 30)。
一方、エネルギー、電力市場に関しては、2011
年 3 月発効の EU ガス電力市場指令「Third
Package31」」に沿って、各国においてガスと電力
市場の域内統合への取り組みが行われている。
2012 年 11 月には、エネルギー市場の域内統合
の現状に関する欧州委員会報告「Making the
internal energy market work32」」と作業報告書
が出され、2014 年を目標とした市場統合による
効果を示し各国の努力を求めるとともに、消費
者保護、制度・ルールとエネルギーインフラの
整備などの必要性が強調された。
上述の EU のガス電力市場指令「The Third
Package」では、凡ヨーロッパのネットワーク
コード(系統の運用要項)を制定する枠組みが
導入された。この枠組みの下、EU 委員会は、加
盟各国の規制機関の協議体 ACER33)と電力、ガス
の運用者ネットワーク(ENTSO-E, ENTSO-G)34)の
助言のもと、各年のネットワークコード制定の
優先リストを作成した。そして、この優先リス
トに基づき、ENTSO-E では、欧州の電力連系系
統の運用と設備形成を確実なものとするため、
ンフラ整備が必要となるとしている。
系統運用者、配電会社、需要家、発電事業者な
ど幅広い関係者の参加を得て、電源・需要・直
流送電(HVDC)の接続要件、系統運用、市場運
営などに関する要項を策定している 35)。この要
件、要項の中には、欧州における再生可能エネ
ルギーの大量導入による需給変動の増加に対
応するための需給調整や周波数調整の内容も
含まれている。これらの欧州の連系系統全体を
対象とする取り組みは、技術的、実運用の要素
を取り扱うことで、各国の電力市場制度との複
雑な調整を行っている。
ここからは、前出の Energy Roadmap 2050
から、EU の取り組みをより具体的に見てみる。
EU では、電力・ガス市場における統合化に対し、
各国政府が政策的に市場運営に介入する可能
性が指摘されている。エネルギーの安定供給、
産業政策、低炭素排出電源に対する取り組みな
ど、各国の考え方は一様ではなく、それらすべ
てが各国間、そして国内市場に影響する。今後
はさらに、欧州全体としての協力体制が必要で
あり、これに共同で取り組むことでコスト低減
と安定供給を確保できるとされている。
また、2050 年に向けて想定される再生可能エ
ネルギーの導入と電力取引の拡大のもとでは、
配電網、送電網、系統間連系といったネットワ
ークの整備は喫緊の課題であるとされている。
2020 年までは現行の計画に沿ったこれらの整
備が最低限必要であり、2020 年以降の再生可能
エネルギー導入の拡大を成功させるためには、
域内のネットワーク問題の解消、さらに送電網
の拡大による現在の連系の範囲を超えた連系
システムが今後必要とされている。また、
ENTSO-e、ENTSO-g(ガスネットワーク)と ACER
によるネットワークインフラの 10 年計画では、
投資家のための長期ビジョンが提示されてお
り、将来に向けて、長期的な送配電と電力ハイ
ウエー計画や、CO2 ネットワーク計画を早期に
着手する必要があるとしている。
しかし、欧州の域内の統一エネルギー・電力
市場への道は平坦ではない。先に述べた Energy
Roadmap 2050 および Power Perspectives 2030
のフォローアップのとして 2012 年秋から年末
にかけて行われた一連のセミナー36)では、卸電
力市場に関する議論が行われた。様々なロード
マップからの卸電力市場に対する期待に応え
るための方策として、統一市場実現、電力シス
テム運用の高度化、需要家の市場参加などの効
果的な市場運営、先渡し市場、技術開発、CO2
価格などの行政の選択的介入の重要性が示さ
れ、再生可能エネルギーの変動に対応できる電
力市場、システム運用制度の実現、市場から適
切な長期の投資シグナルを得られるかどうか
など、多くの難問があることが確認された。さ
らに、これらの対応が難しかった場合の大きな
政策転換の可能性として、容量市場の導入や、
卸電力市場から市場従来の垂直統合型の統合
資源計画(Integrated Planning)への回帰の可
能性も示された。多くの関係者がこの回帰を望
んではいないとしながらも、この議論の状況は、
現実に再生可能エネルギー大量導に直面した
欧州にとって、長い時間をかけて確立してきた
電力市場の再設計・運営改善の難しさを物語っ
ている。EU では 2012 年秋に容量市場について
のパブリックコメントが実施され、現在も検討
が継続されている。
5.おわりに
本稿では、電力システムの新たな課題として
再生可能エネルギーの導入に伴う変動性につ
いて述べ、これに対する技術的、制度的な諸施
策について述べた。しかし、社会インフラであ
る電力システムの将来の安定運用は、電力シス
テムの今後の設備形成を切り離して議論する
ことはできない。最後にこの設備形成について
簡単にふれる。
これからの日本ばかりではなく世界の電力
のベストミックスの考え方の最大の変化は、集
中電源により管理不能な需要に供給するとい
う従来の「供給のベストミックス」の考え方か
ら、太陽光発電や風力などの変動する再生可能
エネルギー発電から、能動化された需要や新し
いエネルギー貯蔵技術までを含めた「電力需給
のベストミックス」の考え方に移行する点であ
る。
さらに、各地の再生可能エネルギーの活用の
ためには、需要を能動化するなど、数多くの分
散した小規模な柔軟性の資源を統合して利用
する必要がある。このためには、分散電源、ス
マートグリッド、EV などの新しいネットワーク
利用を含め、従来分離している送電と配電の機
能統合や、現在北海で進められているような海
底ケーブル網に代表される大規模な新しいイ
30
集・蓄積の期間は水力の場合より短くてもよい
と考えられる。しかし、2010年の猛暑のように
電力システムの運用に影響する異常な現象や、
大規模なramp現象の把握・分析も必要であり、
多数の観測点による最低10年のデータの蓄積
が必要と考えられる。
その上で、資源の賦存や発電特性に地域特性
のある再生可能エネルギーが一定の役割を果
たす以上、電力需給のベストミックスは、全国
/全世界一律のものではなく地域の特性が反映
され電力システムごとに異なるものとなる。電
力の需給調整という改めて注目すべき課題も
その違いを反映したものとなる。この地域によ
る違いは再生可能エネルギーに限ったもので
はなく、発電の一次エネルギー源全般、需要と
その分布なども含まれる。
また、電力システムを構成する機器、制御シ
ステム、制御のための情報通信システムなどが
安定かつ経済的に運用できるか、また、様々な
事故や災害においても安定供給を継続するこ
とができるかは、実験や実証することは難しく、
実際の運用の中で検証してゆく必要がある。こ
のため、電力システムの安定運用の実現に向け
ては、今後必要となる電力需給の柔軟性の向上
の諸施策を準備し適用することが必要である。
新しい電力システムの安定運用の体系の実現
に向け、将来の進むべき方向を設定し、技術開
発、技術の適用、実際の運用、それらの継続的
な改善を組み合わせた取り組みが必要と考え
られる。
電力需給は、その土地の特性とニーズを活か
して生産から利用が行われる点で、農業によく
似ている。このため、それぞれの地域において
異なる電力需給になるのが一般論的である。そ
れぞれの地域の電源構成は固有の需要と連系
線の容量や運用と相互に関係する。従って、そ
れぞれの地域に導入される再生可能エネルギ
ー発電の構成は、地域の資源、需要、他地域と
の連系条件に基づき考える必要がある。
また、火力・原子力などの大規模電源や風力
発電のように資源が地域的に偏在する発電で
は需要地から離れた場所への立地が避けられ
ない。太陽光発電の場合でも都市や工業地帯な
どエネルギー需要密度の高い場所での自律は
極めて困難である。変動する再生可能エネルギ
ーの大量導入においては、より広い地域の発電
電力を合計して変動を緩和できる「ならし効
果」の活用も重要である。また、太陽光発電や
電気自動車の充電需要に備えるためには配電
網の拡充・整備が必要となる。このため、エネ
ルギー資源の分布だけではなく需要との関係
から必要となる送電網、配電網さらには電力シ
ステム間の連系線といった流通設備の最適化
を含めたベストミックスが重要となる。この電
力需給のベストミックスには長い時間を要し、
指標体系とエネルギー需給全体のベストミッ
クスという視点が重要である。これらについて
は別稿を参照いただきたい37)。
また、電力システムの需給運用の高度化にも
長い時間を要する。例えば、出力予測技術だけ
をとっても、その開発は、気象や発電などの実
績のデータを蓄積して分析することから始ま
る。水力発電では河川の特性を把握するために、
数十年にわたる流量データを蓄積している。太
陽光発電や風力発電の場合は水力設備の洪水
設計ほどの厳しい要件ではないため、データ収
31
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導入に向けたスマートグリッドの現状と将来展望、
馬場旬平 電力需給状況に応じた需要側機器制
御技術と実証試験概要、
荻本和彦 系統全体での需給計画・制御技術の開
発、
電気学会全国大会シンポ「スマートグリッド実証事業
現状と今後の展望」(2013)
32
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