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暮手38P032-043 原田さんの新しい暮らし03.indd

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暮手38P032-043 原田さんの新しい暮らし03.indd
原田幸代さんの春のおもてなし料理
パリで見つけた
新しい暮らし
東京の生活にピリオドを打って
自分がリラックスできる場所、パリへ。
春野菜のタパス 〈グリーン・アスパラガスとアーティチョークのくるみ味噌田楽〉アスパラの上にマルセイユ産の金柑、白い芥子の実。アーティチョ
真っ白になった自分とむきあった
43
原田幸代さんが出会った
37
新しい仲間と、新しい仕事
写真︵P36︶原田幸代
取材・文・写真︵P32、 ∼ ︶林
央子
写真︵P33∼ ︶ポール・デュリー
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ークの上には麻の実とシブレット(細ネギ)。「春一番のアーティチョークのほんのりした苦味は、体を若返らせてくれる感じがします」
〈新玉葱の蒸し焼き 黒芥子の実仕立て〉マルドン産の塩をつけていただく。風味付けは日本酒で
〈春野菜とスモーク・サーモンの和え物〉小鉢の中身は、スコットランド産のスモーク・サーモン、フヌイユ、新玉葱、青りんご、
ケッパーの花。味付けはクルミオイル、レモン汁、すりおろしたオレンジの皮、ギネス社の粒マスタード、薄口醤油
〈バラとライチの香りのお酒〉 ローヌ地方クレレット・ドゥ・ディ産、マスカット種のブドウでできた発泡酒を食前酒に
2
1
花模様のちらし寿司と春にんじんのスープ
〈春ちらし〉甘酢につけた花形の大根、エビ、炒り卵。ご飯のなかにフヌイユの塩もみ、クレソンの塩茹で入り
〈春にんじんと空豆のご汁風、みそスープ〉「サッと火を通した春野菜の甘みと味噌の味が絶妙に合います」。素材は空豆のすりつぶし、
春にんじん、ほんのり紫色の小カブ(皮のまま)、豆腐、ラディッシュ
Sake 風味のグラニテ
〈青レモンとしょうがのグラニテ、Sake 風味〉しょうがの辛味と吟醸酒のきりっとした味。上にはミントの葉とミモザの砂糖漬け、
青レモンの皮、レモンの皮の砂糖漬け
はらださちよ
1965 年北海道生まれ。東京の文
化服装学院でファッションを学び、
デザイナーとして数社に勤務した
後、96 年 に ブ ラ ン ド「hoa*hoa」
を立ち上げる。8 年後に同社をク
ローズし、渡仏。語学を学んだ後、
料理学校エコール・フェランディ
を経てフランス料理の C.A.P ( フ
ランス国家調理師資格)取得。ホ
テル・ムーリス、京料理店、寿司
店での研修を経て、2006 年より
料理教室、出張料理、子どものア
トリエ、レストランのコンサルタ
ントなどの活動をしている。目下、
料理本の出版準備中
4
3
33頁から36頁の料理写真で、
原田さんの料理とコラボレー
ションしたのは陶芸家のウー
リックさん。「ドイツ人の彼
女の作る器に、一目ぼれ。日
本料理がとてもきれいにはえ
るんです」
www.ulrike-weiss.com
〈南仏野菜の味噌田楽〉プロバンス産の 〈ブロ貝の味噌焼〉ブロ貝にオリーブ油、
ズッキーニ、3色ピーマンのグリルに、く にんにく、味噌で風味付け。サリコルヌ
るみ味噌とプロバンスのハーブをのせて。 (海のいんげん)と海草を添えて。
〈海老と鶏肉の青大根巻き、花山椒風味〉
揚げた海老とささみに塩と花山椒で味付
けし、青大根を巻く。
(左2点)
「料理とアートの出
会い」をテーマにしたギャラ
リーと料理教室を併設してい
るフレッシュ・アティテュー
ド。ここで原田さんは日本料
理を教えている。
fraich'attitude 60 rue du
Faubourg Poissonniere
75010 Paris
(右)職人的にものを作る人
にどうしてもひかれてしまう
原田さん。友人のタマノ(永
島珠野)さんはセミオーダー
の靴の店を06年にオープン。
Tamano PARIS 18 Passage
Moliere 75003 Paris
6
(左2点)原田さんは時折「出
張料理」を行なう。写真はイ
ラストレーターの友人ティヌ
ーが、夫のために企画した誕
生日パーティーでの出張料理。
(右)仕事や散策の途中に立
ち寄り、一人の時間を過ごす
カフェ。バスチーユ広場の新
オペラ座近くにあるお気に入
りのカフェは、アルレットさ
んが一人でやっている。
Le Petit Cafe 89 rue du
Faubourg Saint-Antoine
75011 Paris
〈大根の花びら寿司〉塩漬け大根でゆか 〈手まり寿司〉スモーク・サーモンの上
りご飯を包む。飾りには蓮の茎の薄切り にランプ・フィッシュの卵とライム。鱈
を梅酢で染めたものと、細ネギを。
にはバルセロナのからすみと黒ごまを。
〈青大根と芥子の実寿司〉薄切り青大根
に芥子の実入りの酢飯を挟む。上に青レ
モンの皮とバスク地方でつくられる香り
の良いハムを。
〈牛たたきサラダ〉炙った牛フィレ肉の 〈みかんの和え物〉みかん、フェンネル、
スライス、大根、ポロネギ、はと麦にり わかめ、枝豆、キヌアを和風ソース(豆
んごと玉葱のおろしソースがけ。
乳、わさび、ハチミツ)で和える。
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外国人が喜ぶ、和のアペリティフ
新しい仲間、新しい仕事
パリのマレ地区に住む原田さ
んは、自宅ちかくのブルター
ニュ通りに面したアンファン
ルージュというマルシェに通
う。Sushiに使う新鮮な魚類、
季節のはしりの野菜もこの周
辺で入手。花屋まで足をのば
すことも。
住まいを飾り、日々の生活を楽しむ
Sushiを作りはじめたら、そ
れを載せるガラスのお皿を作
りたくなって、現在はガラス
細工の学校に通い技術を習得
中。龍の模様のSushiプレー
トと、菊の花のキャンドルス
タンドが原田さんの作品。
(右2点)仕事場の机の横には、
日本のポチ袋など原田さんの
お 気 に 入 り を 集 め た 棚 が。
「
『ラ・ボワット・キュリオシ
テ』
(興味の箱)というんで
すが、こちらの人が、自分の
興味の対象を集めておくため
の箱なんです」
。リビングル
ームには、ポチ袋をコラージ
ュして額に入れたものが2枚、
飾られている。
道で拾ったキャビネットの上部に、鏡を貼って再生させた
フランス窓とシャンデリアの室内空間は、パリならではの雰囲気
(左2点)「料理のまわりを飾
るものも、自分で作ってみた
くなるんです」という原田さ
ん。上海で見つけた豚革の切
り絵人形と、大正時代の着物
生地や和紙を組み合わせたコ
ラージュを製作中。
(下2点)好きな本や、赤い色
の瓶を並べたディスプレイの
下には、のみの市で見つけた
赤カブのブローチが並ぶ。
「元
気が出る色だから、赤を集め
てみたんです」
。ガラスの器
が多いバスルームには、春の
花を枝ものであしらう。
ダイニングテーブルの周りを、手製のコラージュや電気スタンドで飾り、季節の花をあしらう季節の花をあしらう
8
7
食べるという字は、
人を良くすると書く
忙しいという字は、
ほろ
心が亡びると書く
東京からパリへ、転居の理由
パリのなかでも古い街並みを残すマレ地区の、
4階建てアパートの最上階に原田幸代さんは住
んでいる。玄関をはいってすぐに、リビング・
ダイニング・キッチン︵小さな台所とカウンタ
があり、ソファーとテーブルが置かれている︶。
そ の 奥 に は 仕 事 部 屋︵ ガ ラ ス 細 工 を す る 作 業
場︶。リビングには、中2 階のロフト空間が二
つ︵自分の寝室と、客人用 の寝室︶。現在の自
分に必要なすべての空間がコンパクトにまとま
ったこの部屋で、原田さんは5年目のパリ暮ら
しを満喫している。
北海道出身の原田さんは、 歳のときから 年
18
喜びを得られるだろうか?
と自問自答してし
衝撃を受けた。﹁自分は仕事から、それほどの
が喜びに溢れて仕事する姿を目にしたときも、
のだと思います﹂。農産品展でワイン職人たち
るように、生きていくうえでの優先順位が違う
が重視されるのだった。﹁バカンスを大事にす
か、好きなことをやっているかどうか、のほう
てお金を稼ぐより、その人がイキイキしている
ら?﹂という返事。フランスではたくさん働い
﹁ 日 本 人 っ て、 そ れ が 偉 い と 思 っ て い る の か し
ごく働いていたの﹂とフランスの友人に言うと
ました﹂。たとえば、﹁私、東京にいたときはす
住んで、時間の使い方や物事の価値観が変わり
最初の一年間 は、語学 学校に 通った。﹁パリに
模索の日々、食との出会い
を増幅させてくれる街、パリへと旅立った。
年目を迎えた会社を閉じて、自分のエネルギー
の?﹂ということに気がついた原田さんは、8
時間がまったくない。それじゃあ、誰の時間な
しいとい う 字は、心が亡びると 書く。﹁自分の
の頃は本当に、心が亡びきっていました﹂。忙
に、無理して自分を合わせていたんですが、そ
疲れきって帰る。東京で生きていくせわしなさ
ンクリートのビルの中で仕事して、満員電車で
った。﹁深夜まで、蛍光灯 が ガン ガン点いたコ
方で、東京に対する違和感は強くなるばかりだ
所﹂。そう感じていた、 と原田さんは 言う。一
に来た旅先なのに、すごくリラックスできる場
パリに出張する生活だった。﹁パリは仕事をし
外でも評判になり、年2回は新作発表のために
グから始めたブランド﹁hoa*hoa﹂は海
立ち上げた。装飾のある手作りの、小さなバッ
をつんだあと、自分のファッションブランドを
ンを学び、いくつかの会社でデザイナーの経験
間、東京に住んでいた。専門学校でファッショ
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日本からもってきたミョウガを栽培する
友人から贈られた黒文字セット
料理道具が詰まったキャビネット
出張料理に持参する出刃包丁、柳刃包丁、小出刃、万能包丁などを収納する包丁入れ。袋は手作りで、ランチョンマットを縫ったもの。おろし金も必携
友人にもらったひょうたん型の茶漉しと、ギャラリーで買った陶芸家の調味料入れ。美しくて茶目っ気のある物が好き
まいました﹂
を通って調理師資格を取らなければならない。
るには、フランス料理のとても厳しい国家試験
れていた。
﹁ゴマ
味噌田楽﹂のメモには、食材のもつ効果が書か
理を教えている。ある日の献立て﹁大根のゴマ
心を静める。若返り。大根
そこで、エコール・フェランディという料理学
エネルギーの巡りをよくする。芥子の実
語学習得期間が終わると、パリで生きていくビ
校に通って半年間、国家試験のためにかつてな
ックス﹂。6 人くらいのグループを相手に、時
リラ
ザを取るために、今後の仕事を考える時期が待
いほど猛勉強をしました﹂
折行う出張料理では、徹底的なアンケートから
メニューを考える。﹁宗教によってもアルコー
って試験に通り、調理師資格を取ることができ
料亭、すし屋の厨房で見習いもした。努力が実
この期間、パリにある高級ホテルや日本料理の
キンに和紙と水引きを結んで飾るなど、味だけ
は、料理のオートクチュールなんです﹂。ナプ
その人だけの個人的なものを作りたい。気持ち
あるんです。物があふれている時代だからこそ、
何よりも、母の味
っていた。ファッション関係の仕事なら、ビザ
取得は難しくなさそうだった。 けれども、
﹁思
い切り愛情を込めて作っても、次の年には時代
た原田さんは 再び、途方にくれてしまう。﹁ 厨
でなくテーブルの細部にまで気を配る。﹁フラ
ルが飲めなかったり豚肉が駄目とか、いろいろ
それでは何を?
と模索している折、友人のデ
ザイナーがファッション・ショーのために、東
房はマッチョな世界で、女性の地位が低いんで
ンス人に伝えようとすることで﹃水引を結ぶ意
遅れになってしまうことに虚しさを感じて。も
京からやって来た。かつては3年間、この時期
す。それに、みんな 若くして始めているので、
味は、心と心を結ぶこと﹄だと学んだりして、
うやりたくない、と思ったんです﹂
に な る と 時 差 ボ ケ の な か3 時 間 し か 眠 れ な い
歳くらいでもう中堅。 歳だった私は、学校
んです。
﹃ 私も楽屋にいたのですが、 とっても
のときのおにぎりの人!﹄って声をかけられた
た。
﹁しばらくして街を歩いていたら、突然﹃あ
を思い出しておにぎりを握り、楽屋に差し入れ
よく﹁おにぎりが食べたい﹂と感じていたこと
憶に残りにくいのだそうです。ところが、私の
本によれば、人間の感覚のなかで味覚が一番記
が世界一﹂ということだった。﹁かつて読んだ
なにおいしいレストランに行っても、母の料理
いボーっとしたあとに気がついたのは、﹁どん
で一番年上でした﹂。先を見失って3 ヵ月くら
美的センスで喜んでもらえる。自分が日本人だ
んの2∼3割。私はたまたま日本人だったから、
した。そこの生徒でも、転職に成功したのはほ
転職を希望する人が通うアダルトクラスにいま
﹁ 料 理 学 校 で は、 す で に キ ャ リ ア が あ る 人 や、
日々を、パリで過ごしていた原田さん。当時は
感激でした﹄と言ってくれました。彼女のすご
舌は母の料理の味や香りを、今でも覚えている。
一つひとつが勉強になります。それが楽しい﹂
く嬉しそうな様子を見て﹃食べ物は人を幸せに
ったってラッキーだな、と思いました﹂
現在、原田さんはフランス人を相手に、日本料
フランスで日本を伝える
ち直ることができました﹂
があれば、私はやっていける。そう思うと、立
何よりも癒されて元気が出る母の手料理の記憶
食は、人を良くする、と書く。栄養を取るため
だけの食事ではなく、食べることを通して人間
の精神的なことに関わることができたら、とい
う思いが浮かんだ。
﹁ 食を仕事にするのは、す
ごくいいことだと思えたんです。でもビザを取
しょうがの甘酢漬は自家製。取材でちょっと疲れたな、という瞬間に原田さんは、サッと黒糖としょうがを出してくれた
するんだなぁ﹄と気がつきました﹂
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