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省エネ型冷蔵庫の CO2 排出削減効果と普及促進策

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省エネ型冷蔵庫の CO2 排出削減効果と普及促進策
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 36, No. 3
省エネ型冷蔵庫の CO2 排出削減効果と普及促進策
Potential for CO2 Emission Reduction and Measures for Dissemination
of Energy-Saving Refrigerators
見 藤 俊 介 *・ 吉 田 好 邦
Shunsuke Mito
Yoshikuni Yoshida
**
・磐 田 朋 子
***
・松 橋 隆 治
Tomoko Iwata
****
Ryuji Matsuhashi
(原稿受付日 2014 年 11 月 23 日,受理日 2015 年 4 月 16 日)
Our survey on ownership of household refrigerators suggests that replacing old refrigerators with new ones has large
potential for CO2 emission reduction. For 21% of household refrigerators in 2012, the replacement can be paid back within 5
years with 10 Mt-CO2 emissions reduced per year. We also analyze the sale trend during the eco-points program and after the
program. Ordered logit model is applied for the regression between sales rank and the factors of purchaser preference. The
eco-point program accelerated the sales of large-size refrigerators. However, we cannot find the statistical difference of the
consumer preference to energy-saving performance of refrigerators between the period of eco-point program and that after
the program. Next, autoregressive model is applied for analyzing the change of sales amount in the period of eco-points
program. The result suggests that the sales amount does not significantly increase during the eco-points program. Finally, we
conduct survey of 1000 owners of old refrigerators to know the reasons that they do not replace them. The principal reason is
lack of information such that they do not know the replacement can be paid back within the period they allow. Providing
appropriate information is primarily required. To lower the cost hurdle for replacement, the payment method such as Green
Deal is also promising.
Keywords : CO2 emission reduction, Refrigerator, Questionnaire survey
一方,冷蔵庫の買い替えを進めていくことを考えるにあた
1.はじめに
現在製造される冷蔵庫の効率は数年前と比べても非常に
り,日本では既に省エネ家電の普及促進策としてエコポイン
良くなってきている.図 1 に示すように冷蔵庫の年間消費電
ト制度が実施された.これは政府が 2009 年に経済政策の 1
力は年々少なくなっている一方で,その低下度合は近年小さ
つとしておこなったもので,地球温暖化対策,経済活性化,
くなっている.したがって,古く効率の悪い冷蔵庫を使い続
地上デジタル対応テレビの普及という 3 つの政策目標を掲
けている家庭がなるべく早く買い替えを進めることが省エ
げておこなわれた.具体的には,省エネ性能の高いエアコ
ネに効果的であることが推察される.しかし,過去には廃棄
ン・冷蔵庫・地デジ対応テレビを購入した人に,後日金券等
された冷蔵庫に基づいた使用状況の調査
2)
はなされている
に交換できる家電エコポイント(以下,エコポイント)を付与
ものの,家庭がどのような冷蔵庫を実際に利用しているか,
する制度である.エコポイント対象商品の省エネ基準は,経
またその買い替えによりどの程度の省エネルギー化ができ
済産業省が定める省エネ基準達成率により定められており,
るのかといった保有状況に基づいた詳細な分析は未だなさ
2009 年 5 月 1 日改正後の統一省エネラベル基準において
れていない.
定格内容積 401L 以上…4つ星以上
定格内容積 400L 以下…3つ星以上
のものと定められた.
家電エコポイント制度について,特に冷蔵庫の買い替えと
いう観点から制度の効果について分析をおこなった報告に
は,青島 3),大森
4)
,会計監査院 5)がある.青島
3)
はエコポ
イント対象商品がエコポイント対象期間にどの程度販売台
数を増加させたかを推計しており,冷蔵庫に関しては出荷台
数に有意な増加は認められなかったとの結果を示している.
図 1
401〜450L の冷蔵庫の年間消費電力の推移
(出典:省エネ性能カタログ 2013 冬版
しかし出荷台数のデータ取得期間が短いことや,家電エコポ
1))
イント制度がなかった場合の予測値を,制度対象期間の家計
消費支出の値に基づいて算出している点に課題がある.大森
*
東京大学大学院新領域創成科学研究科環境システム学専攻
〒277-8563 千葉県柏市柏の葉5-1-5
E-mail: [email protected]
**
東京大学大学院新領域創成科学研究科環境システム学専攻
科学技術振興機構 低炭素社会戦略センター
***
科学技術振興機構 低炭素社会戦略センター
****
東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻
科学技術振興機構 低炭素社会戦略センター
4)
は,家電エコポイント制度が家電購入の選択に与えた効果
を分析しているが,エコポイントの評価数と購入傾向の関係
の検討にとどまっている.会計監査院 5)では,エコポイント
11
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 36, No. 3
制度による CO2 削減効果を,平均的な消費電力や利用年数を
選んだ.価格は,2013/4/7 時点の最安値のものを用いた.
もとに算出し,その効果は全品目合計で 21 万 t とした上で,
CO2 削減効果の算出を明らかにし得るような制度設計の重要
表 1
6)
参照した冷蔵庫の性能
性を述べている.また,田崎ら(2012) は,
「家電エコポイン
製品
容積
消費電力量
電力消費効率
価格
ト制度の総括レビュー」でエコポイント制度に関する議論を
規格
(L)
(kWh/年)
(kWh/L・年)
(円)
まとめている中で,制度の仕組みとして製品購入と製品買い
SJ-H12W
118
240
2.03
17,800
替えの違いが区別されていなかったことやライフサイクル
SJ-23W
228
330
1.45
39,800
思考に欠けていた点を問題視しており,またそもそも地球温
NR-C320ME
321
290
0.90
106,000
SJ-PW38W
384
270
0.70
91,800
NR-E437TE
426
180
0.42
175,000
R-C4800
475
190
0.40
152,000
R-SF570CM
565
200
0.35
155,000
暖化防止という政策目標が必要条件であったのかが不明瞭
であるとの研究成果を述べている.
以上のように様々な研究がなされているものの,いずれの
研究においても個別の機種の価格や効率,販売実績に基づい
た詳細な検討はされていない.
以上の背景をうけ,本論文では以下の 3 つを目的としてい
表 1 で,消費電力量,電力消費効率はそれぞれ各冷蔵庫に
る.まず第 2 章で冷蔵庫の保有調査に基づいた冷蔵庫の利用
記載されている定格消費電力,年間容積1L あたりの消費電
実態を知り,冷蔵庫の買い替えによる省エネポテンシャル評
力を表している(消費電力量は後述の新 C 法の基準による).
価を行う.次に,買い替えを促進する一方策と考えられる家
アンケートでは 7 段階のサイズに分けているため,買い替え
電エコポイント制度を評価するため,第 3 章において個別の
られる冷蔵庫の 7 段階の定格容量を,各段階の中間値として
機種の特徴に基づいて家電エコポイント制度期間における
定める. 140L 以下と 501L 以上のサイズに関しては,大手
省エネ型冷蔵庫の普及効果の実証分析を行う.さらに第 4 章
家電メーカーの出している製品のおおよその平均をとって,
では消費者への調査を行うことにより買い替えを阻害する
要因を精査し,冷蔵庫の買い替え促進に資する提案を行う.
120L と 550L と定める.以上の設定により,最新機種として
買い替える冷蔵庫の容積と表 1 の電力消費効率を掛け合わ
せることにより買い替え後の年間消費電力𝑟𝑖 が求められる.
2.冷蔵庫の買い替えによる CO 2 排出削減ポテンシャル
また,表 1 の価格(円)を容量(L)で割ることにより,単位容
2.1.推定の方法
積あたりの価格(円/L)を求め,買い替え後の容積(L)を単位
(1)アンケートの実施
容積あたりの価格にかけることで,仮想の新規冷蔵庫の価格
2012 年 3 月に日本全国を対象とした Web アンケートを調
査会社に依頼して行い,4120 名の回答を得た.このうち回
を求め,これを初期投資額𝐼𝑖 として定めた.以上から,𝑖番目
答ミスなどを除外し,4034 名のデータを有効サンプルとし
の冷蔵庫のサイズごとの𝑟𝑖 と𝐼𝑖 の値は表 2 の様になる.
た.アンケートは,家庭の冷蔵庫の型番ラベルを転記できる
表 2
回答者を事前にスクリーニングした上で実施し,冷蔵庫の定
仮想冷蔵庫の消費電力と価格
元の冷蔵庫
買い替え
買い替え後
初期投
の容積(L)
後の容積
の消費電力
資𝐼(円)
𝑖
𝑉𝑖 (L)
𝑟𝑖 (kWh/年)
140L以下
120L
244
18,100
141〜300L,3.301〜350L,4.351〜400L,5.401〜450
141〜300L
220L
318
38,400
L,6.451〜500L,7.501L以上.本論文においては便宜
301〜350L
325L
294
107,000
的に 300L 以下を小型,300L 超 450L 以下を中型,450L 超を
351〜400L
375L
264
89,600
401〜450L
425L
180
173,000
451〜500L
475L
190
152,000
501L以上
550L
195
151,000
格内容積,消費電力,製造年などを尋ねた.アンケート回答
者が複数台の冷蔵庫を保有する場合には,家庭で最もよく使
っている冷蔵庫について回答してもらった.なお,定格内容
積に関しては次の 7 段階で回答を得た;1.140L以下,2.
大型と表記する.
(2)消費電力の設定
買い替え後の新しい冷蔵庫は,特定のメーカーの特定の冷
蔵庫に限定する偏りをなくすため,2013 年 3 月時点の最新
(3)JIS の計測基準変更の取り扱い
機種の効率をもつ仮想の冷蔵庫とする.仮想の冷蔵庫の消費
効率を定めるため,現在の最高効率の冷蔵庫として,大手家
冷蔵庫に記載されている消費電力の計測基準は JIS によ
電メーカーの製品を参照し,サイズ別に 7 台を表 1 のように
って定められている.この計測基準は実測値に近づける目的
12
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 36, No. 3
から
・A法(JIS C 9607A方式)1994 年 9 月以前
表 3
501L 冷蔵庫の使用時以外で発生する CO2 排出量
・B法(JIS C 9607B方式)1994 年 10 月~1999 年 2 月
CO2 排出量(kg/台)
段階
・C法(JIS C 9801)1999 年 3 月~2006 年 4 月
中国
・新C法(JIS C 9801-2006 年)2006 年 5 月以降
調達(素材)
タイ
国内
325.5
325.5
325.5
調達(部品加工)
27.1
27.1
27.1
製品製造(組立)
41.4
26.4
26.1
製品輸送
17.8
26.3
11.0
回収輸送
3.2
3.2
3.2
ると,各メーカーから提示された換算式として,A法→B法
リサイクル処理・処分
8.4
8.4
8.4
の間で 1.4 倍,B法→C法の間で 1.6 倍となっている.また,
リサイクル控除
-74.3
-74.3
-74.3
資源エネルギー庁が毎年 2 回発表している省エネ性能カタ
合計
349.2
342.6
327.0
と現在に至るまで過去 3 回の変更があった.新しい基準ほど
消費電力が大きく見積もられるようになっているため,規格
変更の前後での消費電力の違いを考慮する必要がある.商品
カタログ・および省エネ家電普及診断プログラム検討委員会
第 4 回資料
7)
(京都府地球温暖化防止センター(2007))によ
ログや,複数の通販サイトにより,基準変更前後における同
(出典)日本電機工業会環境技術専門委員会
9)
機種製品を複数抽出して消費電力の違いを検討した結果,C
法→新C法の間で平均するとおよそ
小型の場合で 1.42 倍,
今回の推計では中国での製造を仮定した.理由は 2 点あり,
中型の場合で 2.92 倍,大型の場合で 3.72 倍と算定された.
①
実際に製造されている場所の実態を鑑みた.
本推計では現行の新C法の基準にあわせて消費電力の計算
②
上記 3 カ国では中国が最も CO2 を排出しており,
を行うものとし,それぞれの製造年のカタログ消費電力に上
買い替え効果について,最も厳しい推計が可能.
記倍率を乗じることとした.
また,𝑃𝑖 はこの中国製の値を容量でスケール調整する形で
求めた.
(4)買い替え効果の計算式
𝑃𝑖 = 0.3492 ∙ 𝑉𝑖 /501
(1)〜(3)までの仮定に基づき消費電力削減量と CO 2 削減量,
(3)
コスト C は,
買い替えに伴うコストを求めた.算出式は以下のとおりであ
𝑛
𝐶 = ∑ {( 𝐼𝑖 + 𝑅𝑖 )/𝑦 − 𝑝∆𝐸}
る.電力削減量∆𝐸は
𝑛
∆𝐸 = ∑(𝑞𝑖 − 𝑟𝑖 )
(4)
𝑖=1
𝐼𝑖 …新しい冷蔵庫の購入費用(円)
(1)
𝑝…電気料金(円/kWh)
𝑖=1
𝑞𝑖 …𝑖番目の既存冷蔵庫の新C法での消費電力(kWh/年)
𝑅𝑖 …もとの冷蔵庫のリサイクル費用(円)
𝑟𝑖 …𝑖番目の冷蔵庫を置き換える最新機種の新C法での消費
𝑦…評価期間(年)
電力(kWh/年)
なお,評価期間は 3 年と 5 年とした場合の結果を示す.また,
n…置き換えを行う家庭の数
内閣府(2013)
CO2 削減量∆𝐴は
あるため,式(4)で得られた結果を(全国の世帯数
𝑛
∆𝐴 = ∑{(𝑞𝑖 − 𝑟𝑖 )𝐾𝑖 − 𝑃𝑖 }
10)
によると冷蔵庫の家庭普及率はほぼ 100%で
11)
/アンケ
ート数)倍することで全国規模の推計結果に拡張した.また,
(2)
本推計において,買い替え対象となるのは買い替えにより
𝑖=1
𝐾𝑖 …電力の C02 排出係数(t- CO 2/kWh).
CO2 が削減可能な冷蔵庫のみとした.すなわち,∆A が正とな
𝑃𝑖 …𝑖番目の冷蔵庫の買い替えにより発生する,使用時以外の
る冷蔵庫のみを買い替え対象とした.
CO2 量(t-CO 2).
𝐾𝑖 については,全国の火力発電平均 CO2 排出係数,および冷
2.2.買い替えのポテンシャル
蔵庫の保有者の居住する地域の電力会社の全電源平均 CO 2 実
図 2 に冷蔵庫の製造年についてのアンケート結果を示す.
8)
排出係数 の 2 つのケースで評価計算をおこなう.
半数以上は 2005 年以前,すなわち調査時より 7 年以上前の
以下に𝑃𝑖 について補足する.冷蔵庫のライフサイクルでみ
冷蔵庫であり,また,調査時より 10 年以上前の冷蔵庫も 3
たときに,使用時以外で発生する CO2 量は,冷蔵庫のライフ
割以上の家庭が利用していることがわかる.
サイクル・イベントリ(LCI)分析報告書 9)(日本電機工業会環
図 3,図 4 に製造年別に冷蔵庫を買い替えた場合の CO2 削
境技術専門 委員会 (2013))の 結果を利用 した. 分析対 象 の
減量と,それに伴うコストを示す.図 3 の CO2 削減量は回避
501L,2010 年製冷凍冷蔵庫の LCI 分析結果は表 3 のとおり
電力が火力発電のケースの結果を示している.CO2 削減ポテ
である.
13
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 36, No. 3
ンシャルの合計は 1 年あたり 1270 万トンとなる(全電源平
蔵庫も買い替えていくことになり,コストは極小点をもつこ
均の原単位の場合は 520 万トン). CO2 削減ポテンシャルは
とになる.極小点までの冷蔵庫は各評価期間内で投資回収が
1997 年製造の冷蔵庫をピークに分布しており,古い冷蔵庫
可能な冷蔵庫ということになる.
の買い替えのポテンシャルの大きさが示唆される.図 4 でコ
ストがマイナスになっている箇所は,新しい冷蔵庫を 3 年も
しくは 5 年利用することによる電気代の節約分が買い替え
費用を上回り,評価期間全体としては収益が発生しているこ
とを意味しており,古い冷蔵庫は買い替えによる経済的なメ
リットも大きいことがわかる.
図 5
買い替えによる CO2 削減量とコストの関係
また図 5 の極小点は与えられた評価期間において全体の
利益が最大となる冷蔵庫の買い替えによる CO 2 削減ポテンシ
ャルを示している.この点まで買い替えを行う場合の結果を
表 4 にまとめた.この場合,全体の約 20%の家庭が保有する
図 2
家庭の保有する冷蔵庫の年代別の台数と割合
冷蔵庫が 5 年で投資回収可能であり,買い替えによって 1 年
あたり 1000 万 t の CO2 を削減でき,家庭全体で 2000 億円の
経済的メリットがあることがわかった 1.
表 4
投資回収
利益最大化点のまとめ
1年あたりの効果
評価期間全体での効果
評価
可能な家
期間
庭の割合
図 3
5年
製造年別の CO2 削減ポテンシャル
3年
家庭の経済
CO 2 削減量
家庭の経済
CO 2 削減量
的メリット
的メリット
1,000 万 t
2,000
5,000 万 t
10,000
(456 万 t)
億円
(2,280 万 t)
億円
710 万 t
1,030
2,130 万 t
3,080
(350 万 t)
億円
(1,050 万 t)
億円
21%
10%
※CO2 削減量は回避電力が火力発電の場合で表示し,カッコ
内は全電源ケースを示す
3.家電エコポイント制度の効果
3.1.家電エコポイント制度期間における消費者選好
図 4
製造年別の買い替えコスト
(1)評価方法
第 2 章で述べたように省エネ性能の高い冷蔵庫への買い
次に,効率の悪い冷蔵庫から順に冷蔵庫の買い替えを進め
替えの CO2 削減効果は極めて大きいが,買い替えを促進する
た場合の効果を算出した結果を図 5 に示す.図の曲線はプロ
ための施策例としては 2009~2011 年に実施された家電エコ
ットの集合で,各プロットはアンケートで得られた個々の冷
ポイント制度がある.本節では,家電エコポイント制度の期
蔵庫の CO2 削減効果とコストを全国規模に拡張した買い替え
間とそれ以後の期間における冷蔵庫購入の消費者選好の分
効果の累計値を表している.多くの冷蔵庫を買い替えるほど,
CO2 削減量が増えるため,横軸の右端に近づくほど多くの冷
析をおこなう.機種ごとの販売台数データはメーカーから公
表されていないため,調査会社が発表している,2009 年 5
蔵庫を買い替えていることになる.効率の悪い冷蔵庫から順
1
に買い替えをおこなうため,はじめは費用よりも収益が大き
買い替えに伴う容量が不変の前提でのポテンシャルであるが,実
際には次章で述べるように買い替えに伴う容量は増加する傾向に
あることに留意が必要である.
くなる(コストが負になる)が,次第に比較的効率の良い冷
14
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 36, No. 3
て和を取った線形の効用関数𝑉𝑖,𝑅 に基づいて特定の順位とな
月 18 日から 2013 年 7 月 1 日までの週次の冷蔵庫の販売ラン
キングデータ
12)
を利用した.これには毎週の販売数量の上
る確率をモデル化する.
𝑉𝑖,𝑅 = ∑𝑛𝑚=1 𝜃𝑚 𝑥𝑚,𝑖,𝑅
位 10 機種が順位とともにリストアップされており,家電エ
コポイント制度の実施期間と終了後の期間を含む計 200 週
以上のデータから成る.この販売データに各機種の価格
(5)
ここで,
13)
i…集計開始からの週の番号
や電力消費量などの属性をカタログ等より追加してデータ
𝑅…ある週における冷蔵庫の順位
ベースを作成した.2009 年 5 月 18 日から 2011 年 3 月 28 日
𝜃𝑚 …パラメータ
の週までのエコポイント対象期間と,2011 年 4 月 4 日から
𝑥𝑚,𝑖,𝑅 …第𝑖週目𝑅番目(R=1,..,10)の冷蔵庫の𝑚番目の特性値
2013 年 7 月 1 日の週までのエコポイント対象期間後に分け
である.特定の順位となる確率𝑝𝑖,𝑅 は式(6)で与えられる.
て,販売ランキング上位 10 位までの機種を各週について集
2 ≤ 𝑅 ≤ 9では順位 R 以上である確率から順位 R-1 以上であ
計したときの容量別の割合を図 6 に示す.
る確率を差し引くことで順位 R である確率をロジスティッ
ク関数で表現している.
40%
35%
𝑒 𝑉𝑖,1
30%
𝑒 𝑉𝑖,1 +𝑘1
シェア
25%
20%
エコポイント期間
(n=900)
15%
エコポイント期間後
(n=1010)
𝑝𝑖,𝑅 =
𝑒 𝑉𝑖,𝑅
𝑒
𝑉𝑖,𝑅
1−
10%
+𝑘𝑅
(𝑅 = 1)
−
𝑒 𝑉𝑖,𝑅−1
𝑒
𝑒 𝑉𝑖,9
𝑒 𝑉𝑖,9 +𝑘9
𝑉𝑖,𝑅−1
(2 ≤ 𝑅 ≤ 9)
+𝑘𝑅−1
(6)
(𝑅 = 10)
5%
ここで,
0%
0-100
𝑝𝑖,𝑅 …第𝑖週目に𝑅番目のランクになる確率
101-200 201-300 301-400 401-500 501-600
容量(L)
𝑘𝑅 …𝑅番目のランクと𝑅 + 1番目のランクをわける閾値(パラ
図 6
メータ);ただし,𝑘𝑅 < 𝑘𝑅−1
エコポイント期間とその後の期間におけるランキン
グ上位機種の容量別割合
(2 ≤ 𝑅 ≤ 9)
また,このときパラメータ推定で用いる対数尤度関数は式
(7)で表される.
𝑓
集計はのべ台数で行い,全体ののべ台数はエコポイント期間
10
𝐿 = log(∏ ∏ 𝑝𝑖,𝑅 )
が 900 台,エコポイント期間後は 1010 台である.エコポイ
(7)
𝑖=1 𝑅=1
𝑓…集計終了時の週の番号
ント期間,ならびに期間後のそれぞれの棒グラフのシェアの
和が 100%となるように示している.エコポイント期間後で
このモデルは,ある冷蔵庫に対する消費者の効用が価格や
は 101-200L の小型機種のシェアが最大であるのに対し,エ
容量などの特性値によって定まり,その効用水準においてあ
コポイント期間では特に大型機種のシェアが高い.図 6 より
る順位 R に位置する確率を推定するものである.𝜃𝑚 ,𝑘𝑅 の
エコポイント期間には大型機種のシェアが高く,エコポイン
パラメータは対数尤度関数𝐿を最大化するように最尤法によ
ト点数が容量区分で決まり,大型機種ほど高い点数が付与さ
って推定する.説明変数𝑥𝑚 には,価格・年間消費電力・容
れたことから,エコポイント期間には大型機種の購入が促進
量・経過日(商品の発売日からランキングに掲載されるまで
されたことが示唆される.
の経過日数)などを候補に検討をおこなった.なお,エコポ
次に,消費者の省エネ性能への選好を分析する.エコポイ
イント期間におけるランキング 10 位以内の機種のポイント
ントが付与されていても機種により省エネ性能にはばらつ
付与状況を見ると,251-400L の機種では約 85%が、401L 以
きがあり,エコポイント制度の下で省エネ機種が選好された
上のランキング掲載機種はすべてがエコポイント対象にな
かどうかは自明ではない.そこで,エコポイント期間とそれ
っている.そのためエコポイント点数やエコポイント付与の
以後について,個別の機器の電力消費量などの属性を考慮し
有無を示すダミー変数は説明変数として採用していない.
た比較分析を行った.分析には順序ロジットモデル
14)
を用
モデルは,2009 年 5 月 18 日から 2011 年 3 月 28 日の週ま
いた.順序ロジットモデルは,順序データのモデル化に用い
でのエコポイント対象期間のモデルと,2011 年 4 月 4 日か
られ,計量経済学をはじめとして多くの適用事例がある
ら 2013 年 7 月 1 日の週までのエコポイント対象期間後のモ
15),16)
.複数の状態に順序性がある場合に,サンプルの変数
デルの 2 つのモデルを作成し,両者を比較することで,エコ
の情報からサンプルが何番目の状態であるかを推定するこ
ポイントがない時期と比べて,エコポイント対象期間に省エ
とができ,本研究のような順位データのモデル化に適してい
ネ型の冷蔵庫を買おうとする傾向が消費者にあったのかど
る.ここでは,式(5)のように冷蔵庫の特性値を重みづけし
うかを検討する.
15
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 36, No. 3
売台数と比較する 2.
(2)結果
モデルであるが,データが時刻𝑡に依存する時系列データ
本稿では両モデルを比較するために同じ変数を使用し,年
を取り扱う回帰分析において,分析対象となる変数𝑌𝑡 が
間消費電力・容量の 2 変数を説明変数にした場合の結果を表
𝑌𝑡 = 𝛽1 + 𝛽2 𝑌𝑡−1 + 𝑢𝑡
5,表 6 に示す.なお,多重共線性の問題については,両期
(8)
間についての年間消費電力と容量の 2 変数についての相関
などのように過去の目的変数自身(ラグ付き内生変数)を説
係数がともに十分に小さいことを確認している.どちらのモ
明変数とする自己回帰モデルを用いた.図 7 をみると,冷蔵
デルでも年間消費電力の係数は有意水準 5%で有意になって
庫の販売台数には時系列で周期的に強い相関を示す季節性
おり,エコポイントがある時期,ない時期に関わらず消費者
があることがわかる.季節性のあるデータの回帰分析では,
は年間消費電力の小さい商品を購入しようとしていること
誤差項𝑢𝑡 に自己相関が発生するのを避けるため,季節性の影
がわかる.また,年間消費電力の係数と容量の係数の比を比
響をモデルに組み込む必要がある.
較すると,エコポイント対象期間のモデルでは 0.80,エコ
周期が𝑠の季節性が存在するデータの場合,𝑠期前との関係
ポイント対象期間後のモデルでは 1.3 と,後者の方が大きく
は以下のように表される.
𝑌𝑡 = 𝛾𝑌𝑡−𝑠 + 𝑣𝑡
なっており,購入時における年間消費電力の相対的な重要度
(9)
は,むしろエコポイントのない時期の方が高い.以上より,
この場合,𝑣𝑡 = 𝑌𝑡 − 𝛾𝑌𝑡−𝑠 は𝑠期前の影響が取り除かれた,そ
冷蔵庫の購入をおこなった消費者の購買データから,エコポ
れ以外の要素で構成される系列となる.
イント制度は大型化へのインセンティブにはなれ,省エネ型
ここで,例えば𝑣𝑡 が前期の影響を受ける性質を持っている場
機器購入への誘導にはなっていなかったことが示唆される.
合,𝑣𝑡 は,
𝑣𝑡 = 𝜑𝑣𝑡−1 + 𝑢𝑡
表 5
(10)
のかたちで表現されるので,これらの式から,𝑌𝑡 は,
エコポイント対象期間モデルの推定結果
𝑌𝑡 = 𝛾𝑌𝑡−𝑠 + 𝜑(𝑌𝑡−1 − 𝛾𝑌𝑡−𝑠−1 ) + 𝑢𝑡
(11)
で表される.本論文ではこのような処理をおこなう自己回帰
モデルのひとつである乗法的季節 ARIMA モデルを用いてい
る.
自己回帰モデルから𝑇期後の予測値𝑌̂𝑡+𝑇 を作成する場合に
は式(8)より,
𝑌̂𝑡+1 = 𝛽1 + 𝛽2 𝑌𝑡
(12)
𝑌̂𝑡+𝑇 = 𝛽1 + 𝛽2 𝑌̂𝑡+𝑇−1
(13)
式(12),式(13)のように,実績値やそれにより作成された予
測値から作成することが可能である.
表 6
エコポイント対象期間後モデルの推定結果
図 7
3.2.家電エコポイント制度の販売台数への影響
冷蔵庫月次販売台数の推移
(2)結果
(1)検証方法
誤差項の系列相関を極力除去した上で,統計モデルの適合
本節では家電エコポイント期間に,冷蔵庫の販売台数が増
加していたのかどうかという量的な検証をおこなう.データ
2
1989 年 1 月からエコポイント制度開始直前の 2009 年 4 月までの
データでモデル化し,エコポイント期間の販売台数の推定値と実績
値を比較した場合も検討したが,本稿で得られた結果との大きな差
はない.
として 1989 年 1 月から 2013 年 8 月までの月次の販売台数デ
ータ(図 7) 17)を利用して自己回帰モデルを作成し,実績販
16
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 36, No. 3
度 を 評 価 す る 指 標 で あ る AIC ( Akaike’s Information
2010 年末の 9-11 月の期間では 15%程度の販売増加がみら
Criterion)が最小化されるようなモデルを,作成したモデ
れるが,短期間のため統計的には有意とはいえない(有意水
ルの中から選択し,以下の構造をもつモデルを分析に用いた. 準 5%).
𝑌𝑡 = 𝜌1 𝑌𝑡−12 + 𝜌2 𝛥𝑌𝑡−12 + 𝜌3 𝛥2 𝑌𝑡−1 + 𝜌4 𝛥2 𝑌𝑡−3 + 𝛽 + 𝑢𝑡
(14)
また,期間内の 23 か月分の月次販売台数について推定値
ここで、𝑡…年月
の月平均と,実績値の月平均を比較した結果,実績値は推定
𝑌𝑡 …𝑡期の冷蔵庫の販売台数(台)
値を 0.3%上回っている.これは家電エコポイント制度に起
𝑢𝑡 …𝑡期の誤差項
因する販売増加とも示唆されるが,絶対量としても大きくは
𝛽,𝜌…定数
なく,統計的にも有意な増加とはいえない結果であった(有
また,𝛥𝑌𝑡 ,𝛥2 𝑌𝑡 は,
意水準 5%).なお,エコポイント期間の前(2007 年 1 月~
𝛥𝑌𝑡 = 𝑌𝑡 − 𝜌1 𝑌𝑡−12
(15)
2009 年 4 月)と後(2011 年 4 月~2013 年 8 月)について同
𝛥2 𝑌𝑡
(16)
様の比較をおこなったところ,リーマンショックによる景気
= 𝛥𝑌𝑡 − 𝜌2 𝛥𝑌𝑡−12
低迷の影響が予想されるエコポイント前については,実績値
である.よって,𝛥を使わずに表現すると,
𝑌𝑡 =
𝜌1 𝑌𝑡−12 + 𝜌2 𝛥𝑌𝑡−12 + 𝜌3 𝛥2 𝑌𝑡−1
+ 𝜌4 𝛥2 𝑌𝑡−3
+ 𝛽 + 𝑢𝑡
が推定値を 4.1%下回り,エコポイント後については実績値
= 𝜌1 𝑌𝑡−12 + 𝜌2 (𝑌𝑡−12 − 𝜌1 𝑌𝑡−24 )
が推定値を 1.7%上回った.以上より,駆け込み消費の増加
+ 𝜌3 {𝑌𝑡−1 − 𝜌1 𝑌𝑡−13 − 𝜌2 (𝑌𝑡−13 − 𝜌1 𝑌𝑡−25 )}
が傾向としてはみられるものの,エコポイント制度が冷蔵庫
+ 𝜌4 {𝑌𝑡−3 − 𝜌1 𝑌𝑡−15 − 𝜌2 (𝑌𝑡−15 − 𝜌1 𝑌𝑡−27 )} + 𝛽 + 𝑢𝑡 (17)
の販売台数を増加させたとはいいにくく,また増加させてい
たとしてもわずかな影響であったといえる.
となっている.各項は,以下のように解釈される.
𝑌𝑡−12 …12 ヶ月前の季節性の影響
𝛥𝑌𝑡−12 …𝑌𝑡−12 のみでは取り除けなかった 24 ヶ月前の季節性
4.省エネ冷蔵庫への買い替え促進策の提言
の影響
4.1.調査の概要
𝛥2 𝑌𝑡−1 …𝑌𝑡−12 と𝛥𝑌𝑡−12 で季節性を除いた状態での,1
第 3 章で述べたように家電エコポイント制度は省エネ性
ヶ月前
の影響
能の高い機器への買い替えに必ずしも十分な効果を得てい
𝛥2 𝑌𝑡−3 …𝑌𝑡−12 と𝛥𝑌𝑡−12 で季節性を除いた状態での,3 ヶ月前
ない.そこで,古い冷蔵庫の保有者が,なぜ買い替えないの
の影響
か?どうすれば買い替えるのか?を知るために,調査会社を
回帰分析の結果は以下のようになった.
2
通した Web アンケート調査を行った.調査は全国を対象に
2
𝑌𝑡 = 0.94𝑌𝑡−12 − 0.35𝛥𝑌𝑡−12 + 0.39𝛥 𝑌𝑡−1 + 0.16𝛥 𝑌𝑡−3 + 10988 + 𝑢𝑡
(7.0)
(39.3)
(-6.4)
(カッコ内は t 値)
(1.2)
(2.8)
10 年以上前の冷蔵庫を利用しており,かつ買い替え予定の
(18)
ない人を事前調査で 1000 名をスクリーニングし,買い替え
標本数は 269 で,定数項以外の説明変数は有意水準 5%で
の意識等について 2013 年 12 月に調査を実施した.サンプル
̅2
2
有意となった.適合度は𝑅 = 0.86,𝑅 = 0.86 と十分である.
数の 1000 は過去の研究事例や今回の母集団を鑑みて十分な
図 8 に,エコポイント対象期間前後を抜き出して推定値と実
サイズである.
績値の推移を表す.
アンケート設計においては,西尾(2010)
18)
が指摘する,
省エネバリアを考慮した.省エネバリアとは,合理的には進
600
家電エコポイント制度期間
販売台数(千台)
んでいくはずの省エネ技術や製品が普及しない原因で西尾
推定値
実績値
500
(2010)
18)
は以下をあげている.
400
1.情報不足…費用についての誤解
300
2.動機の分断…オーナーテナント問題
200
3.資金調達力…省エネ製品は高価で買えない
100
4.隠れた費用…省エネすることで他の機能が低下する
5.限定合理性…その場しのぎの判断
図 8
2013年7月
2013年4月
2013年1月
2012年7月
2012年10月
2012年4月
2012年1月
2011年7月
2011年10月
2011年4月
2011年1月
2010年7月
2010年10月
2010年4月
2010年1月
2009年7月
2009年10月
2009年4月
2009年1月
2008年7月
2008年10月
2008年4月
2008年1月
2007年7月
2007年10月
2007年4月
2007年1月
0
6.リスク…高い割引率
冷蔵庫の買い替えにおいても,それを阻害する省エネバリ
モデルによる推定値と実績値の比較
アが存在している可能性がある.調査内容を以下の(1)から
(3)にまとめる.
予測値と実績値の間に明確な差異が生じている期間は限
(1)冷蔵庫に関する基本情報
定的で,2010 年の夏場のピークと,12 月末に制度変更がお
回答者には基本情報として冷蔵庫の容量・年間消費電力・
こなわれる直前の駆け込み需要と思われる部分であった.
製造年を尋ねた.
17
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 36, No. 3
(2)買い替えない理由
実施した.
冷蔵庫を買い替えない理由には,上記の省エネバリアの項目
などを参考とし,以下の 13 個を提示して理由として大きい
表 10
ものから順に回答してもらった.
理由
番号
1.現在のまだ使える冷蔵庫を捨てるのがもったいないから
条件
番号
提示した買い替え条件
1〜13
Ⅰ
新しい冷蔵庫を使うことで,電気代の
節約分により,冷蔵庫の購入費とリサ
イクル費用の元が取れる(ただし,あ
なたが許容できる程度の短い期間内に
元がとれるとします).
2
Ⅱ
自分にとっての最適な冷蔵庫を国の認
証を受けた専門家が選んでくれる.
2.新しい冷蔵庫を選ぶことが面倒だから
3.古い冷蔵庫の処分が面倒だから
4.古い冷蔵庫から新しい冷蔵庫への中身の入れ替えが面倒
だから
5.新しい冷蔵庫の使い方に慣れるのが面倒だから
6.現在のお金を減らしたくないから
7.引っ越しなどの予定があり,そのタイミングで買い替えた
いから
Ⅲ
4
Ⅳ
5
Ⅴ
6
Ⅵ
月々の支払総額が全体としては減るよ
うなかたちでの分割払いができる.
Ⅶ
追加金額なしで,デザインや機能,大
きさなどを細かくオーダーメイド出来
る.
9.機能やデザイン,大きさ等で,自分にとって好ましい冷蔵
10.将来もっと良い冷蔵庫が出ると思うので今買い替える気
にならないから
11.現在の冷蔵庫が予め家に備え付けてある冷蔵庫なので,
ピッタリの冷蔵庫を見つけるのが大変だから
12.現在の冷蔵庫が予め家に備え付けてある冷蔵庫なので,
所有権がオーナーにあり,買い替えを自分の判断だけでは出
9
来ないから
11
13.その他
業者が古い冷蔵庫を引き取りに来てく
れる(店舗で購入した場合でも,WEB
で購入した場合でも引き取りに来てく
れるものとします).
業者が,冷蔵庫の置き替え作業をして
くれる.特に希望がある場合には,中
身の入れ替えなども含め,全ての置き
替え作業をしてくれる.
新しい冷蔵庫の使い方がわからないこ
とによる不便はなく,すぐに慣れるこ
とができる.
3
8.今使っている冷蔵庫に愛着があるから
庫が売られていないから
提示した買い替え条件
なお,本設問とあわせて回答者には買い替えに伴うメリット
やデメリット,古い冷蔵庫は短い期間での投資回収が可能な
4.2.結果・考察
ケースが多く存在するといった費用に関する情報,今後製造
不正回答を除いた 971 名の回答結果を有効サンプル数と
される冷蔵庫において大きな改善は困難であるといった説
した.4.1(2)の 13 個の理由の中から,アンケート回答者に
明文を表示することにより情報を与えた.
最大 3 つまで回答してもらった結果を図 9 に示す.
(3)買い替えてもらうための条件
4.1(2)の 1〜13 の中で回答者ごとに理由の上位 3 つにいて
表 10 に示す買い替え条件を1つずつ提示し,その条件が満
たされれば買い替えをおこなうかどうかを尋ねた 3.
条件Ⅰの「短い期間に投資回収可能な場合買い替えをおこ
なうか」という質問に対して,「買い替える」を選択した人
に対しては,「何年で元がとれるなら買い替えるか」という
投資回収期間の希望年数について追加質問をおこなった.ま
た,いずれの買い替え条件でも買い替えをおこなわないと選
択した人に対して,最初に提示した条件を複数選択できるよ
うにしても買い替えないかどうかを尋ねた.さらに,外部か
図 9
冷蔵庫を買い替えない理由(1 人最大 3 つ回答)
らの対応が難しい条件(理由 7,8,10,12,13)を提示した人,
および複数選択でも買い替えをおこなわない人には最終質
冷蔵庫を買い替えない理由は,「まだ使える冷蔵庫を捨て
問として,
「政府により新しい冷蔵庫が無料配布される場合,
既存の冷蔵庫を捨てて冷蔵庫を置き替えるか」という質問を
るのがもったいないから」が有効サンプル人数の 97%を占め
た.これは,4.1 の省エネバリアでの「情報不足」であり,
たとえ機器の寿命前であっても買い替えることが総費用の
3
条件 I は最も重要と考えられる経済性要因のため,回答された買
い替えない理由に関わらず全員に尋ねた.
18
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 36, No. 3
低減につながる場合がある点において,費用についての誤解
が可能な場合に買い替えるかという条件である.この支払い
が発生していることが冷蔵庫の買い替えを阻害する主たる
方法は,グリーンディール
要因であることが示唆される.図 10 は調査前後の回答者の
ディールはイギリスの一般家庭および中小企業を主な対象
買い替え意思の変化を表している.買い替え条件を提示して
とした低炭素技術の普及促進政策で,低炭素機器導入時の初
も買い替えない回答者と,政府の無料配布でのみ買い替える
期費用を金融機関が肩代わりすることで家庭からの初期費
回答者が 30%を占める一方で,費用についての情報を与え
用負担をなくす仕組みであり,家庭は低炭素技術導入による
ることにより,
「買い替える予定はない」回答者の 6 割が「希
電気代節約分からその返済を行う.このような消費者の損失
望年内に買い替え費用のもとがとれるならば買い替える」と
回避性傾向を考慮した支払い方法の工夫なども対策の 1 つ
意識を変化するに至った.また,4.1(1)で尋ねた冷蔵庫の消
といえるだろう.
20)
を参考にしている.グリーン
費電力の情報をもとに,2.1 と同様の手法を用いて回答者ご
とに投資回収年数を算出したところ,希望年内に投資回収可
能な回答者は全体の 17%存在しているということがわかった.
これらの回答者は正しい情報さえあれば買い替えを行う意
思をもっており,買い替えの促進に情報提供が重要であるこ
とがわかる.例えば家庭エコ診断事業
19)
の認知拡大と普及
による買い替え促進は,情報提供の方策のひとつになりえる
だろう.また全体の 17%とはいえ,第 2 章で示した CO2 削減
ポテンシャルの大きさを鑑みれば決して小さい量ではない.
さらに次に述べるようにこの割合は何らかの施策によって
これを大きくすることが可能である.
図 11 投資回収の希望年数と実際
5.おわりに
家庭における冷蔵庫の省エネルギーポテンシャルは非常
に大きい.2012 年の時点において全国の約 20%の家庭におい
て 5 年で投資回収ができるような冷蔵庫が利用されており,
それらの買い替えによって日本の家庭部門 CO 2 排出量の 2.5
〜5%となる 5〜10 万 t の CO2 を削減できる.この効果を得る
ための買い替え促進策の観点から評価するとき,家電エコポ
イント制度は販売量を増加させる効果が推定されたものの,
図 10
調査前後の買い替え意思の変化
統計的に有意な増加ではなく,また省エネ型の冷蔵庫への消
費者の選好を増加させる効果は見られなかった.冷蔵庫の買
希望年内でもとがとれるなら買い替えると回答した 6 割
い替えを阻害する最も大きな要因は情報不足にあり,今後は
の人のうち 4 割の人は実際には投資回収ができないという
正しい情報を消費者に提供する対策が有効であることが示
結果になった.これは投資回収の希望年数と実際に可能な年
唆される.
数にギャップがあるためである.投資回収の希望年数と実際
の回収年数を図 11 に示す.このギャップを解消するには,
参考文献
①実際の投資回収年数を短くする,②希望年数を長くしても
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らう,の 2 通りがある.①を達成するには,単位価格あたり
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の年間消費電力効率をあげる必要がある.②に関しては,情
数等調査,(2010).
報の付与の仕方や,支払い方法に依存する面も大きいと思わ
3) 青島桃子;家電エコポイント制度導入におけるエネル
れる.例えば支払い方法に関して,投資回収の許容年数に基
ギー消費量への影響分析,日本エネルギー経済研究所
づいた評価を行ったが,希望年内に元がとれない 425 名のう
研究レポート,(2010).
ち,88 名は表 10 の条件Ⅵがあれば買い替えをおこなうとし
4) 大森恵子,栗田郁真,中川雅央;家電エコポイント制度
ていた.条件Ⅵは冷蔵庫の買い替え費用の分割支払い額より
が消費者の省エネ家電の購入選択に与えた効果,エネ
電気代の節約分が大きくなるようなかたちでの支払い方法
ルギー・資源学会・第 29 回エネルギーシステム・経済・
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Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 36, No. 3
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Springer (2006)
6) 田崎智宏,松本茂;家電エコポイント制度の総括レビュ
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