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真のグローバル化 - Hay Group

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真のグローバル化 - Hay Group
Vol.15 No. 1
2014
Contents
p.2
シリーズ/経営イノベーション対談 11
ビジョナリー・リーダーが推進する
「真のグローバル化」への
事業、組織、人の変革とは
田中氏
「言語はもちろん、判断のプロ
セスも標準化していきます」
企業の持続的な成長に不可欠となる新たな成長市場への進出。グローバル化を
成功に導くために、何を変え、何を創出しなければならないのか?
田中 一行
p.8
日立化成株式会社
取締役、執行役社長
高野 研一
(株)ヘイ コンサルティング グループ
代表取締役社長
先端企業ケーススタディ33
改革の新たなステージで人の成長をドライブする
「すかいらーく」の新人事制度
約3,000店舗のテーブルレストランチェーンを擁する世界屈指の外食企業
「すかいらーく」の新たな人事戦略。
株式会社すかいらーく
櫻井氏
「人の心や行動に響く制度をつく
ることで、組織風土が 変わって
いくことも期待しています」
p.12
櫻井 功 人財本部 執行役員
HAYマネジメントセミナー
次世代経営人材の育成の仕方
−新たな成長の道を開拓するリーダーをどう育てるか−
過去のビジネスモデルや特定の職能の中で蓄積した知見だけでは問題を解決できない時代。
いま、求められるのは次なる成長の可能性を見いだせる経営人材の育成です。
ヘイグループのニュースレターは、そのとき
どきに求められる変化や進 歩について、さま
高野 研一 代表取締役社長
ヘイグループ ざまな企業とご一緒に学び、
分析し、提案し
てまいります。
小さい媒体ですが、多くの企業の皆様とと
もに、
ビジネスの革新を通じて社会に貢献す
る一 助でありたいと考えております。
p.16
ヘイグループからのお知らせ
2014
11
1
ビジョナリー・リーダーが推進する
「真のグローバル化」への
事業、組織、人の変革とは
日立化成株式会社
取締役、執行役社長
(株)ヘイ コンサルティング グループ
代表取締役社長
田中 一行 高野 研一
田中 一行氏(たなか かずゆき)
1953年生まれ。1977年に日立化成工
業株式会社(現・日立化成株式会社)
入社。同社開発部門、
日立化成デュポ
ンマイクロシステムズ(アメリカ)出向等
を経て、2005年、執行役に就任。2006
年、株式会社日立メディアエレクトロニク
ス代表取締役・取締役社長、2008年、
執行役常務 自動車部品事業部長就任。
2009年4月、代表執行役 執行役社長
(現任)、同年6月、取締役(現任)
に就
任。
日立グループにおける化学メーカーとして、半導体・ディスプレイ用の樹脂材料から産業用蓄電
デバイス、自動車関連製品まで、国内外で幅広く事業展開する日立化成。2012 年に創業
100 周年を迎え、時代を先取りする新たな歴史を切り開くために「真のグローバル化」
を経営目
標に掲げ、変革を推し進めている。変革を指揮する同社社長の田中一行氏に、そのビジョンや
リーダーシップのあり方をうかがった。
日立製作所の日立市にある海岸工場に「創業小
創業100周年を機に
真のグローバル化へ舵を切る
屋」
というのがあるんですけれど、そこに、当時、最
高野 まずは田中社長が経営目標に掲げておられ
モーターがあります。
る「真のグローバル化」について、その狙いなどを
それから2 年ほどたった 1912 年には、やはり絶
お聞きしたいと思います。
縁ワニスも
「輸入品だけではもの足りない、自分たち
田中 当社は2012 年に、創業 100 周年を迎え、次
でやろう」
ということで、モーターに使うエナメル線の
の50年に向けたキーワードとして「グローバル化」を
エナメル層(絶縁層)用の塗料をつくるための研究
掲げました。ご存じのように、我々は1962 年、日立製
開発を始めました。
作所の化学製品事業部から分離独立した会社です。
高野 1912 年に御社の事業のルーツが日立製作
もともと日立製作所は 1910 年に創設されました
所の中で産声を上げたわけですね。そこから数え
が、鉱山のポンプやモーターはその頃どれも輸入品
てちょうど100 年後というのが 2012 年。ここであらた
で、
「それを国産でやりたい」
というところからスター
めて会社や事業の将来像に目を向けると、まさに、
トしています。
真のグローバル化が必要になってきた。
初につくられた直径 1.5メーターくらいの 5 馬力の
田中 その通りです。問題意識の 1 つにあるのが、
そのときに周りを見わたしてみると、海外の売上
縦割りと言いますか、事業部で何となくこぢんまりと
高比率が 43%くらいでした。であれば、我々はグ
ビジネスをやるようになってしまったなと。IT バブル
ローバルなビジネスをもっとやっていく必要があるの
以降、エレクトロニクス関係を中心に製品群を整え
だから、
「世界中の 17,000 人の社員を全員巻き込
てきて、パソコンや液晶テレビを中心としたデジタル
んだイベントをやろうじゃないか」
と。
家電の成長にうまく乗れたんですね。その結果、お
我々が海外に出ていく場合、お客様にくっついて
客様の要望を聞いて、お客様のロードマップに沿っ
製造会社を海外につくり、そこから製品を供給する
て製品を開発し、順調に事業が拡大したわけです。
という形になります。現地調達の材料で安い製造コ
ストで、現地の価格でお客様に提供するというのが
第 1 段階です。現地の人たちは日立化成グループ
で働いているというより、現地の会社に所属して、単
一の製品をつくっているという意識になりがちです。
だけど、実際にはいろいろな事業があって、単一
の製造製品だけではなく、今後、多様な製品が移
管されてきますし、いろいろなスキルを身につけても
らう必要もあります。そうであれば、現地の人にもっ
と目線を高くしてもらい、視野を広げてもらわなけれ
ばいけませんから、日立化成グループ全体を知るよ
うなイベントが必要と考えたんです。
高野 なるほど。17,000人のグローバルの社員が、
皆、グループの一員であることを確認できるような
イベントですね。
高野 研一
しかしリーマンショックのあと、スマートフォンなど
が本格的に台頭してきて「このままではまずいんじゃ
記念イベントを通じて
グローバルでの一体感を醸成
ないか」
という状況に変わってきました。事実、今、
田中 そこで社内から、いろいろアイデアを出して
パソコンなどはマイナス成長で、我々が持つリソー
もらいました。その中に、
“ 絵 ”を題材にして、皆が
スをもっと有効活用しなければいけない状況になっ
コメントを寄せ、それを集めて1 つの大きな絵を完成
てきたわけです。
させるという案があって、これは面白いなと。
そのリソースも2 つあって、1 つは我々のテクノロ
たとえば「将来に向けての日立化成のビジョン」
と
ジー、もう1 つはいろいろな分野のお客様です。多
言っても、文字だけだとイメージの幅が狭くなってし
岐にわたるお客様群も、我々の重要なリソースです。
まうけれど、絵であればいろいろな見方があって、
ですから、縦割りで、あるお客様のある部分だけ
各人がそれぞれ自由に鑑賞できますよね。
にコンタクトして仕事をするのではなくて、お客様が
絵の中には、
「今までビジネスで大事にしてきたこ
次に考えていることを先回りして実現する、そのた
とは何か」、
「節目を迎えた今、何を変革するのか」、
めに必要な材料、技術は社内に潤沢にある。それ
「将来、日立化成はどんな形になっていたいか」など、
を組み合わせることが必要になってきています。
執行役メンバーの思いも入れて、最終的に「コミュ
高野 縦割りの意識を変えて、グローバルに視野を
ニケーションアート」
としてプロの画家に仕上げてい
広げる必要があるわけですね。
ただきました。そして、これを世界中持ち歩いて全
田中 そういうことで、2012 年の「分立 50 周年・
員で観賞しました。
創業 100 周年」は1 つの節目であり、記念イベントを
また、ちょうどこれに合わせて「ブランドブック」
もつ
やる必要があるだろうし、もっと外に目を向けるような
くり、日本語、英語、中国語、タイ語、スペイン語など、
イベントを、と考えたわけです。
10カ国語にしました。経営理念、ビジョン、さらに拠
2014
1
点がどこにあって、どんな製品を持っているのかを
ションを喚起したり、肌感覚にタッチするような活動
冊子にまとめました。
が重要であると。そういう着眼点でこの企画を実行
それをグローバルで、現場の人には「ブランドブッ
されたわけですね。
クを読んでください、絵を見てください、感想を書い
田中 そうです。
てください」
と。マネジャークラスには「日立化成グ
高野 時代的に見ると、当然それがグローバルで
ループの中でビジネスをするというのは、どういうこと
なければならないということですね。
か」、
「将来的に事業所をどうしたいか」
ということを
話す対話集会をやりました。
そうした一連の活動の中で、社員全員に「我々
はこうしたい、ああしたい」
ということをひと言色紙に
書いてもらい、その色紙を持って写真を撮り、アート
組織のベクトルを合わせるための
リーダーシップとは
の中に17,000人全員の写真を埋め込んで、再度、
田中 ですから、まずはグループ全体の方向感を
皆にフィードバックしました。
共有すること。いろいろなところにいる仲間、いろい
高野 具体的にどのような成果が得られたのでしょ
ろな製品、テクノロジーをもっと融合し合って、グロー
うか。
バルで事業展開をしていく。そうやって製品をつくっ
田中 活動を通して得たものは、
「日立化成という
て、事業をつくっていくことが1つの方向性ですよと、
のは、こんなに幅広く事業展開しているんだ」
という
伝えられたと思います。
現場の人たちの意識変革です。さらにマネジャーク
しかし、そうは言っても具体的にどう動くのかとい
ラスには、
「日立化成グループの一員として、次はど
う話になってきますので、私が社長になってから「3
んなことを考え、何をしなくてはならないのか」
という
ことを、目線を上げて考えてもらうことができたのは
つの変革」を掲げてきました。それは「事業の変革」、
「組織の変革」、
「人の変革」です。
大きな成果です。
「事業の変革」
というのは、事業ポートフォリオを
また、活動を展開するにあたって、一方的に「こ
もう少し時代に合ったものに変えましょうということ。
れをやりなさい」
と紙で送っただけでは、人は動か
たとえば、新神戸電機をTOBにより完全子会社化
ないわけです。事務局も、最初は「送ればいいだろ
することにより、日立化成グループとして蓄電デバイ
う」
くらいに思っていたけれど、
「そんなことで動くわ
スのビジネスをやるんだというメッセージを出して、事
けがない。どうするんだ?」
と。やはり、拠点のトップ
業のポートフォリオを変えていく。
から教育する必要があるということで、海外を含め
あとは「組織」
と
「人」の問題です。コミュニケー
事業所の責任者が集まった席上、ディスカッションを
ション・ワークショップで、全体の方向性は理解した
して、
トップの責任としてこれをやるんだという自覚を
けれども、それを具体的にどう実行するのか、グ
持ってもらうようにしました。これも大きな収穫だった
ローバルでコミュニケーションをどう図るのか。あるい
と言えるでしょうね。
は、どんなマネジメントスタイルに変わるのかというこ
高野 グローバルでの一体感の醸成だけでなく、グ
とが次に必要になってきます。ですから人事制度の
ローバルでの組織展開力といったものを構築された
変更、コミュニケーションツールの整備にも着手して
わけですね。
います。
田中 その通りです。たとえば製造事業所でいうと、
高野 人の観点に着目されたり、イマジネーションを
「部課長クラスのワークショップは、こういうことをす
喚起されたりというのは田中社長らしさで、
「ビジョナ
るんですよ」、その次は「各部長さん、課長さんは、
リー・リーダー」の典型という印象を持ちます。ビジョ
それぞれの部門に対してこうするんですよ」
というひ
ナリー・リーダーというのは、当社の調査では、日本
な型を、事務局が中心になってつくり、実際に事業
人の中では5%ほどですが、組織のベクトルを合わ
所まで行って展開しました。
せるために、相手に対してイマジネーションを喚起す
高野 そうすると、まず 100 年にわたる歴史観のよ
るようなことを、あの手この手とやっているんですね。
うなものがあって、次に「新しい環境の中で、どう日
特徴は2 つあって、1 つは自分自身ではなく、ほか
立化成の強みを伸ばしていくのか」
という方向性が
の人の強みを生かそうとする点。もう1つは、相手に
あって、その中で、節目に当たって社員のイマジネー
対して積極的に影響力を発揮するというか、自由放
任でやらせるというのではなくて、こちらから積極的
るを得なくなって、
「そういう能力が磨かれた人がビ
にベクトルを合わせにいったり、相手の目線を高めた
ジョナリー・リーダーになっていく」
という説明をしま
り、相手の発想を活性化するような働きかけをどん
す。まさにそのひな型のようなお話ですね。
どんやっていくところが特徴です。
田中社長が、そういうリーダーシップを獲得される
に至った経緯を、次にお聞きしたいのですが。
田中 私は中学のときから運動が好きで、中学時
代は水泳部、大学時代はハンドボール部のキャプテ
仕事と向き合う中で訪れた
若き日の転換点
ンをやらせてもらいましたから、そのあたりがルーツ
高野 その後、日立化成に入られ、仕事のキャリア
でしょうか。
を積んでいく中でも、そうした強みが生かされた転
水泳でもチームや個人を強くするために、どんな
換期があったと思うのですが。
練習法を取り入れればよいかということを、先生と
田中 私は開発部で、不飽和ポリエステル樹脂、
ディスカッションしていたなぁと。
いわゆるFRPなどの構造部材用の合成樹脂を扱っ
大学は国立大学でしたので、それほど強い選手
ていたのですが、開発に加えて、それを評価するこ
がいるわけではないし、未経験者もいました。そう
ともしなければなりません。成形材料というのは、お
いうチームを何とか強くしようと、
トレーニング法を工
客様が成形材料の形にして、そして成形品をつくり
夫したり、練習試合で経験を積ませるというように、
ますから、お客様のラインの中に入って一緒にもの
当時から「みんなで何とかやっていこうじゃないか」
づくりをするし、最終的にできあがった成形品の物
という意識が強かったと思いますね。自分がやれば
性を評価するんです。これもチームなんですね。長
いいというのではなくて、チームをつくらなければ結
い期間かけて評価していかなければいけない。
果が出ないと。
樹脂をつくる、成形材料をつくる、そして成形品
高野 我々もよく、ビジョナリー・リーダーについて
をつくって評価する。この一連のプロセスを我々の
説明をするときに、優れたサッカーの監督や野球の
工場でも、お客様サイドでも行う。一種のプロジェク
監督など、スポーツを例に挙げることが多いのです。
トですよね。それをマネジメントしなければなりません。
チームをつくって結果を出すというタイプの人は、ビ
「
“人”
を起点に、
グローバルで
の一体感をつくりあげることで、 ジョンを伝えたり、人を巻き込んだり、当事者意識を
事業の可能性が拡大していく
高めたり、あるいはコーチングや指導育成をやらざ
はずです」
つまり、チームの組成や、お客様との連携、社内
の連携をどうとるか。そういう交渉事をリーダーとし
て進めて、全体をうまくまとめるという経験が大きな
転機になったと思います。
高野 そうすると、社内の関係部署のみならず、お
客様に対してもリーダーシップを発揮する必要があ
りますね。
田中 それまでは開発の研究員として、せいぜい
現場で樹脂をつくって、サンプルを出すだけ。あとは
営業にフォローしてもらうという具合で、せいぜい4、
5 人のチームでしたけれど、成形材料を評価すると
いう立場になると、10 人、20 人のチームになります。
しかも、ほかの会社の人も巻き込んで、全体の日程
をきちんと調整するというのは、大きな挑戦だったと
思います。
高野 田中社長は執行役クラスの役員に対しても
遠慮がないというか、求めるべきことは求める。日本
の大手企業のトップでは珍しいと思うんですね。
「リー
ダーに対するリーダーシップのあり方」
として、相手
にも高いものを求めるやり方は、グローバルには理想
的なリーダーシップとして認められる面があります。
2014
1
ただ、国内だといろいろな部署が集まって全員で
わち「ダイバーシティ」が我々の経営戦略であると考
コンセンサスをつくりながら経営をする。そうすると、
えています。
お互いに遠慮をするという方向に流れてしまいがち
我々は、多彩な製品とともに、非常に多様な技術
なところがあるのですが、そうではないですね。
を保有している。1つひとつの事業規模が小さいた
田中 それには日立化成のカルチャーがあったかも
め、なかなか深いところまで達していないかもしれま
しれませんね。割と開発部門が強いというのですか
せんが、いろいろな技術を組み合わせる、あるいは
ね。開 発 部 門のマネジャー連中が中心になって、
融合することで「新しい製品をつくろうじゃないか」
と、
事業プランづくりをするのです。研究開発だけじゃな
常に言っています。
くて「市場動向がどうなっているんだ」、
「次のトレン
人材も同じだと思うんです。新しい地域で仕事を
ドはどうなんだ」、
「次の用途展開はこっちの方向
したり、新しい事業を起こしたりというのは、多彩な
じゃないか」
と、営業の人たちを巻き込んでお客様
人たちが才能を持ち寄ってつくり上げていくものだと
からの情報を取って、自分たちでプランニングをして
思いますから、年齢・性別・国籍を超えて、それ
発表するんですね。
ぞれの人が活躍する場を提供し、活躍できる仕組
工場の中での予算会議なども、開発課長や開発
みを整えていく。これが僕らの仕事だと思います。
部長が積極的に事業プランを出しますし、本社の
いろいろなところでグローバルに集まって、それぞ
事業部長や社長に対して、工場の売上計画や収
れの地域で、
「こんなビジネスをやろうよ」、
「こっちは、
益改善計画などを発表する機会もあります。上のほ
こんなことやろう」
というのが、将来の姿だろうと思い
うがチャンスをくれたというのですかね。「ポリエス
ます。
テル樹脂の新たな用途展開について、田中が発表
高野 チームづくりの基本思想ということですね。
します」
というように、一部分を受け持たせてもらっ
田中 ですから、年齢・性別・国籍、これを超え
たり。課長クラスになれば、そういう機会が巡ってき
るような仕組みが必要だということで、今まで日本国
たと思います。
内の報酬制度は「職能給」でしたけれど、職務給と
高野 そうすると、開発の人には一段高い目線が
いうか「ポジション給」に舵を切っています。
要求されますね。リーダーシップが要求されるカル
経営戦略を立て、経営方針をつくり、それを実行
チャーがあって、それが周囲に対しても求めるべき
に移すために組織をつくる。そうすると、それぞれ
ものは求めていくようなリーダーシップにつながって
のポジションに求めるものが明確になって、それに適
いっていると。
した人を配置して挑戦してもらう。そこで十分に力を
田中 そうですね。製造部長だとか、他部署から
発揮してもらうということです。
もプレッシャーがかかりますよ。「じゃあ、次、事業ど
高野 インフラもグローバルに標準化していくわけ
うするんだ?」、
「どんなことを考えているんだ?」
という
ですね。ダイバーシティを実現し、優れたチームを
ことを言われますので、嫌でも考えざるを得ない。
つくっていく上でネックになることはありますか。
それが開発の仕事であると意識していましたね。
田中 やはりコミュニケーションの問題でしょうね。
それぞれの人が考えていることをきちんと知った上
で、適切にマネジメントすることが必要ですね。その
点で、1 つは「マネジメントスタイルをどう変えていく
製品開発も人材開発も
“多様性”がキーワード
か」
ということと、もう1 つは「コミュニケーションをどう
高野 コンセンサスでやるよりも、権限や責任を明確
ン手段としての英語、これはやるしかありません。
にすることが人を育てる。
「緊張感の高い環境の中
中国では日本語を話せる人を採用してきているわ
に置く」
というやり方はグローバル企業に近いですね。
けですが、今、その人たちはマレーシアなどの東南
先ほどの「真のグローバル化」に戻りますが、ここ
アジアの工場とコミュニケーションを取る必要がある。
から先、その理念の延長線上にどんな将来像を描
そうするとやはり英語が必要になる。欧米企業のお
いていらっしゃるか、田中社長のビジョンをうかがい
客様とはもちろん英語です。
たいと思います。
また、言語とともに物事を判断するプロセスにつ
田中 「人の変革」
という意味では、多様性、すな
いても標準化が必要になります。各国の人たちは
図るか」
ということになっていきます。コミュニケーショ
それぞれのお国柄や商習
日本人で英語でコーチングしている人もいます。今、
慣に引きずられますが、こ
これをグローバルに実施していて、今年から来年に
れも変えていく必要がある
かけて、7,000∼8,000人の間接社員がこのコーチン
わけです。
グプロセスを経験することになります。 そこで、同じシンキング・
拒否反応もあることを考えて、最初は若手から始
プロセスのツールとして
めました。次に若手の課長、今年はシニアマネジャー
「KT 法」による標 準 化を
です。部長やセンター長が、いよいよ本格的にコー
進めています。執行役の
チ役になる。そうすると、自分たちのマネジメントスタ
メンバーに、社内インストラ
イルをもう一度考え直さなければいけないわけです。
クターの資格を取ってもら
この人たちがきちんとマスターし、納得してマネジメ
うために、アメリカのインス
ントスタイルを変えると、日立化成がだいぶ変わってく
トラクター養成講座の講習
ると思います。もっと皆が意見を言えて、皆の意見
会に参加してもらい、英語
が吸い上げられる、そういう方向にグッと舵が切れて
でマスターしてもらいました。
くるでしょう。
まずはトップからやって
我々の製品は多岐にわたっていますから、製品
いるんだという姿を示して、
ごとの経営戦略は、部門の人たちがもっと責任を
日本 人、中 国 人、シンガ
持って決めていかないとだめだと思っています。社
ポール人のインストラクター
長がああこう言っても、なかなか全部見られるもの
も養成し、KT 法を共通の
ではありません。各部門の人たちがきちんとマネー
「真のグローバル化を図るには、 シンキング・プロセスにする。新しい設備投資の稟
コミュニケーション手段や、
意思
議書があるとすれば、その中にはKT 法のプロセス
決定プロセスの共通化も不可
を使った判断、決定分析がなければ受けつけない
欠と考えています」
ジしてくれなければ、事業は大きくならないんです。
ということをやっています。
非常に優れたリーダーシップだと思います。
今はもう経営の稟議書も英語で書くようになって
「サッカー型のマネジ
田中 社長に就任したときに、
おり、設備も環境も人事関連のものも全部英語です。
メントと、野球型のマネジメントがある」
という例を引
高野 これだけいろいろ打ち手を考えて、社員の
行動を喚起していく、育てていくというのは、やはり
用したんです。「野球というのは、選手は監督の指
示に従う。監督が 4 番バッターにでもバントをさせる
対話重視の「サッカー型」
のマネジメントへ
ことがある。一方で、サッカーの監督は大きな方向
性を考え、トレーニングはきちんとやらせるけれど、
フィールドの上では選手 11 人がそれぞれ自分で考
高野 言語もプロセスもグローバルで標準化して
えて動く。今までは野球でも良かったかもしれないけ
いく?
れど、これからはサッカーのようなマネジメントにして
田中 そういう中で、最後はいよいよマネジメントス
いかないとならない」
と話しました。
タイルを変えなければいけないわけです。これまで
そうでなければ、我々の多岐にわたる事業分野
は「同じ日本人同士だから」
とか、
「俺の背中を見て
をうまく運営できないということを強調しながら、今、
ついてこい」
ということがありましたけれど、一方的
そういう方向に進んでいます。
な上意下達はもう通用しない。対話を重視してお互
高野 グローバルな環境で、多様な人材が、多様な
いの違いを知った上で、経営の次の活動や、次の
事業を運営していくには、
トップの全体の方向を示す
施策を納得して、決定していく。そういうマネジメン
リーダーシップに加えて、各現場がリーダーシップを発
トに変えていくための施策としては、コーチングを積
揮することが重要ということですね。そしてそれを実
極的に導入しています。去年は300人、今年は400
現するには、相互理解を深めるコミュニケーション、
人の社内コーチをつくります。
共通の判断基準やプロセス、対話や責任と自主性
5 人の社員をコーチングしながらコーチングのト
を重視するマネジメントが不可欠となる。今日は、真
レーニング講座を受講して社内コーチの資格を取る
のグローバル化を実現するための多くの具体的施策
んです。英語でコーチングを受けている人もいるし、
についてお話しいただき、ありがとうございました。H
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