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2011(平成 23)年度アマミヤマシギ生態調査報告書

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2011(平成 23)年度アマミヤマシギ生態調査報告書
環境省委託事業報告書
2011(平成 23)年度アマミヤマシギ生態調査報告書
2012 年 3 月 30 日 特定非営利活動法人 奄美野鳥の会
はじめに
アマミヤマシギ Scolopax mira は南西諸島の一部に分布するチドリ目シギ科の鳥類
である。現在繁殖地としては奄美大島、加計呂麻島、請島、与路島、徳之島が知られる
だけであり、個体数、分布域も限定されていることから、「絶滅のおそれのある野生動
植物の種の保存に関する法律」に基づき、国内希少野生動植物種に指定され、1999 年
8 月 31 日に「アマミヤマシギ保護増殖事業計画」が策定された。
本種の保護増殖事業において、総合的な生態調査が開始されたのは 2003 年度からで
ある。この年、奄美大島北部の市理原地区でラジオテレメトリー法による行動圏調査を、
また奄美大島全島で捕獲標識調査を始めた。
市理原地区では 2005 年度までの 3 年間ラジオテレメトリー調査を行い、本種の行動
圏に関して一定の知見が得られたため、2006 年度と 2007 年度は標識個体の行動調査
を行なった。
さらに異なる環境で本種の生態に差があるかどうかを検証するために、奄美大島中東
部の三太郎地区で 2007 年度から捕獲標識調査および行動調査を開始し、さらに 2008
年度からはこれと並行してラジオテレメトリー調査も追加した。
2011 年度は三太郎地区での生態調査導入 4 年目にあたり、行動調査とラジオテレメ
トリー調査の三本立てで本種の生態の解明につとめた。また、新たな環境での生態を調
べるために、瀬戸内町勝浦地区での予備調査、標識調査も秋以降並行して行った。
調査地および調査方法
1.調査地
調査地の奄美市住用町三太郎地区は奄美中央部に広がる大森林の周縁に当たり、アマ
ミヤマシギの生息密度の高いエリアである。環境的にはふたつの林層からなる。つまり、
市道三太郎線(旧国道 58 号線)沿いはスダジイ Castanopsis sieboldii などを優占樹と
する壮齢照葉樹二次林、主たる調査地である尾根沿いの林道石原線付近は伐採後まだそ
れほど年月の経過していないリュウキュウマツ Pinus luchiensis の混じる若齢照葉樹
二次林となっている。
1
ここに総延長約 20km の調査ルートを設けた(下図)
。ただし、2010 年 10 月 22 日
の豪雨水害により、市道三太郎線の西仲間(SW)側より 1.6km 地点が崩落したため、
調査を再開した 2010 年 11 月 20 日から通行可能になった 2012 年 11 月 23 日までの一
年間は、東仲間(SE)へ引き返すルートに変更した。
三太郎調査コース
調査ルート
距
離
市道三太郎線東側(SE→IS)
5.50×1
石原線本線(IS→IG→IS)
2.60×2
石原線高台(TS→TG→TS)
0.25×2
石原線支線(SS→SG→SS)
0.70×2
石原国有林(KS→KG→KS)
1.45×2
市道三太郎線西側(IS→SW)
4.90×1
●合計
2
20.40 ㎞
2.調査方法
1)標識個体の行動調査
ふたりひと組で自動車に乗り、ひとりが手持ちライトで林道の前方を照射し、もうひ
とりが出現した個体を記録した。記録については統一の記入用紙を用いて、出現個体の
状況(成鳥か幼鳥か、単独か複数か等)、行動様式(採餌中、休息中、飛行中等)を選
択するとともに行動を具体的に記述するようにした。同時に出現場所を GPS データと
して履歴に残し、可能な場合はビデオも撮影した。本調査は月 5 回ペースで通年実施し、
出現状況の違いを探るために、通常時間帯(おもに 20 時~24 時)、深夜時間帯(おも
に 22 時~翌 02 時)
、早朝時間帯(おもに 01 時~05 時)の 3 つの時間帯に分けて行な
った。
また、補足のために自動車の侵入できない場所には防水式の自動カメラを設置するこ
とで行動を記録した。
なお、本年度は三太郎地区での新規の捕獲&標識は行わなかったため、標識個体は
2010 年度までに当地区で標識された個体(累計 192 羽)のみであった。
2)ラジオテレメトリー法による行動調査
本年度は新しく発信機をつけることはせずに、2010 年 9 月 20 日に発信機装着を行っ
た成鳥メス 1 羽(標識 WPW)の追跡を継続した。用いた電波発信機はカナダの Holohil
社製の Model:R1‐2BM(12)である。重さは装着用の紐を含めて 10.6g であり、捕獲時
の装着個体の体重比は 1.9%~2.7%の範囲に収まった。電波発信機の電池の寿命は 12
ヶ月とされており、4 時間以上動きがなければダブルパルスを発する mortality 機能を
装備している。
受信には無志向性アンテナと志向性アンテナを使用した。車上搭載の無志向性アンテ
ナで電波の有無を確認しながらゆっくりと走行(時速 10km~20km)し、電波をキャ
ッチした地点で車を降り、3 素子の志向性アンテナでより電波の強い方向を調べ、受信
方向や強度、受信時間、受信位置などを地図上に記録した。志向性アンテナにより 2 ポ
イント以上の複数地点で受信できたときは、アマミヤマシギの位置確定が可能となる。
これを標識個体の行動調査実施時に月 6 回のペースで行なった。また、装着後一年間は
は毎月 2 回 24 時間連続の受信を実施し、その後も電波が捕捉できる期間中は月に一度
の昼間受信を実施した。
3
3)瀬戸内町での予備調査
まだ調査していない奄美大島南部で次年度の新たな調査地を探すために、2011 年 6
月に実施した全島調査でアマミヤマシギの出現数が多かった瀬戸内町の林道勝浦東線
と瀬戸内中央林道を中心に自動車センサスを行った。方法は標識個体の行動調査と同様
で、ふたりひと組で自動車に乗り、ひとりが手持ちライトで林道の前方を照射し、もう
ひとりが出現した個体を記録した。実施は 8 月から 12 月、月の明るさによる出現状況
の違いを勘案して、満月近くと新月近くの月 2 回実施した。
4)捕獲標識調査
上記の予備調査において、勝浦東線はアマミヤマシギの出現数が多いことが確認され
たため、次年度の行動調査にそなえて、当地で捕獲標識調査を行った。
捕獲は従来同様、運転手、捕獲人、標識者の調査員三名が自動車に乗り、調査ルート
を時速 10km 程度で走行しながら、自動車の前照灯および手持ちライトにより、林道に
出現するアマミヤマシギを探索し、特製の叉手網にて取り押さえる方法で行なった。
標識作業はバンディングの有資
格者である高美喜男、後藤義仁、
鳥飼久裕が分担した。捕獲時期と
しては、奄美希少種分科会にて次
年度の当地での調査が承認された
後の 2011 年 12 月 15 日から年度
末の 2012 年 3 月 27 日にかけて実
施した。
捕獲した個体には、右足に環境
省の金属足環を付け、さらに右足
に 1 個、左足に 2 個の計 3 個のカ
ラ ー リ ン グ ( イ ギ リ ス の
A.C.Hughes 社製のプラスチック
リング)を装着した。さらに金属
足環の上からは夜間の視認性を高
▲右足に黒(E),左足に緑(G)と黄(Y)をつけた、2012 年
2 月 4 日捕獲成鳥 EGY。右足下の青色は視認性を高め
るために金属足環に巻かれた反射テープ。
めるために反射テープを巻いた。
標識した個体については、体の各部を計測したうえで、性別判定の DNA 分析用に尾
羽を 1 本抜いたのちに放鳥した。DNA 分析については、国立科学博物館の西海功氏に
依頼して、性を決定する予定である。
4
調査結果
1.標識個体の行動調査
1)年間出現状況
調査開始日時
天気
月齢
出現数
再認数
確認できた標識個体
1 04 月 5 日 19 時半
曇
0.5
4
0
2 04 月 15 日 19 時半
曇
11.5
3
2
3 04 月 25 日 19 時半
晴
21.5
2
1
4 05 月 05 日 20 時
曇
1.8
2
1
5 05 月 15 日 20 時
曇
11.8
5
0
6 05 月 25 日 20 時
曇
21.8
0
0
7 06 月 01 日 20 時
雨
28.8
1
0
8 06 月 07 日 21 時
曇
5.2
2
1
9 06 月 15 日 20 時
晴
13.2
3
1
10 06 月 21 日 20 時
晴
17.2
10
5
11 06 月 26 日 22 時
曇
24.2
2
0
12 07 月 02 日 20 時
曇
0.8
1
0
13 07 月 08 日 21 時半
曇
6.8
6
2
14 07 月 15 日 20 時
晴
13.8
12
1
15 07 月 21 日 20 時
晴
19.8
2
0
16 07 月 26 日 00 時
雨
23.8
4
0
17 08 月 02 日 20 時
曇
2.3
7
2
18 08 月 09 日 20 時
晴
9.3
8
2
19 08 月 16 日 22 時
晴
16.3
6
1
20 08 月 23 日 00 時
晴
22.3
2
1
21 08 月 31 日 19 時半
晴
2.0
3
0
22 09 月 04 日 19 時半
晴
6.0
4
0
23 09 月 10 日 21 時半
曇
12.0
13
2
24 09 月 16 日 19 時半
曇
18.0
2
0
25 09 月 23 日 00 時
晴
24.0
6
1
26 09 月 29 日 19 時半
晴/雨
1.7
9
2
WPW(2009.07.03)
27 10 月 07 日 19 時半
曇
9.7
10
1
WPW(2009.07.03)
28 10 月 11 日 22 時
晴/雨
13.7
12
4
WPW(2009.07.03) PYM(2008.07.03)
29 10 月 17 日 19 時半
曇
19.7
7
2
POW(2009.07.14)
30 10 月 22 日 00 時
晴
23.7
7
0
31 10 月 30 日 19 時半
晴
3.3
9
2
5
ノネコ
WPW(2009.07.03) WMY(2009.06.10)
WPW(2009.07.03)
1
2
MYE(2010.06.08)
1
WYG(2010.07.10) PGY(2008.05.28)
PYM(2008.07.03)
2
調査開始日時
天気
月齢
32 11 月 04 日 19 時
曇/雨
33 11 月 10 日 21 時
出現数
再認数
確認できた標識個体
ノネコ
8.3
8
2
雨
14.3
6
2
34 11 月 16 日 19 時半
晴
20.3
7
1
35 11 月 23 日 00 時
晴
26.3
2
0
36 11 月 29 日 19 時半
曇
3.9
3
1
37 12 月 06 日 22 時
晴
10.9
16
3
38 12 月 13 日 19 時
晴
17.9
0
0
39 12 月 20 日 01 時
晴
23.9
0
0
40 12 月 27 日 19 時
晴
2.4
0
0
41 01 月 04 日 19 時
曇/雨
10.4
1
0
1
42 01 月 12 日 22 時
曇
18.4
0
0
1
43 01 月 21 日 01 時
晴
26.4
1
0
44 01 月 30 日 19 時
曇
6.8
1
0
45 02 月 04 日 19 時
晴
11.8
9
1
46 02 月 10 日 22 時
雨
17.8
1
0
47 02 月 16 日 01 時
曇/雨
22.8
3
1
48 02 月 24 日 19 時
雨/曇
2.2
1
0
49 03 月 02 日 19 時
曇/雨
9.2
5
3
WRM(2009.06.16) GGG(2010.07.22)
50 03 月 10 日 21 時半
雨/曇
18.2
9
1
YYE(2010.07.10)
51 03 月 19 日 19 時
雨
26.2
4
1
WPW(2009.07.03)
241 羽
50 羽
*年間合計
MPR(2010.06.25)
1
WMY(2009.06.10)
1
18 羽
10 頭
(*4 月と 5 月の調査は。請負事業ではなく、奄美野鳥の会による自主調査。
)
4 月から 3 月までの全出現個体は 241 羽で、そのうち標識がついていた個体が 50 羽
(再認率 20.7%)
、標識が特定できた個体は 18 羽(特定率 36%)
。
再認率と特定率の年度変化は下表のとおり。
出現個体総数 A
再認個体総数 B
再認率 B/A
特定個体数 C
特定率 C/B
2008 年度
376
117
31.1%
82
70.1%
2009 年度
284
83
29.2%
52
62.6%
2010 年度
343
111
32.3%
59
53.2%
2011 年度
241
50
20.7%
50
35.3%
・2011 年度再認率が減少しているのは、新規に標識装着を行わなかったためとあろう。
・2011 年度特定率が減少しているのは、標識した色足環が経年変化により、脱色した
り脱落したりしたためと思われる。
・昨年は年間のノネコ目撃数はのべ 7 頭であったが、今年度はのべ 10 頭に増えた。
6
2)月別出現状況
月別の平均出現個体数の年度変化は下表および図 1 のようになる。
2011 年度
2010 年度
2009 年度
2008 年度
2007 年度
04 月
3.0
3.8
6.0
4.2
5.0
05 月
2.3
3.6
4.0
6.4
5.4
06 月
3.6
5.8
1.6
8.5
8.0
07 月
5.0
16.8
9.8
16.6
10.6
08 月
5.2
9.0
4.4
4.8
8.4
09 月
6.8
7.8
2.3
4.0
5.8
10 月
9.0
7.3
4.6
3.0
6.6
11 月
5.2
9.0
7.7
5.0
5.6
12 月
4.0
3.2
2.0
6.0
0.8
01 月
0.8
2.0
0.4
3.0
1.4
02 月
3.5
4.0
6.0
6.2
1.2
03 月
6.0
4.6
7.8
7.6
1.3
・例年新生幼鳥が出現する 6 月から 7 月にかけて個体数が急増するが、2011 年度は微
増に終わっている。これには前述したノネコや後述するイノシシの影響が考えられる。
・例年 8 月以降は幼鳥の分散期にあたり秋にかけて出現数が激減するが、2011 年度は
むしろ 8 月、9 月、10 月と月を追うごとに出現数は増えている。この原因は不明であ
7
る。
・2011 年度の 4 月から 7 月にかけての出現数は過去 5 年間の中で最低だが(6 月のみ
2009 年度が最低)
、8 月・9 月は例年並みで、10 月に至っては 5 年間で最高である。
・冬期になると出現数が減り、調査ルート上に一番出現しないのは 1 月である。2 月に
入ると繁殖期が始まり、徐々に出現数が増えてくる。この傾向は例年と同じである。
3)出現場所
繁殖期(3 月)
、分散期(9 月)
、通期の出現場所を図 2、3、4 に示す。
図 2:3 月の出現場所
図 3:9 月の出現場所
図 4:通期の出現場所
・従来、アマミヤマシギは繁殖期のほうが
行動圏は広く、そのため出現場所も広範囲
に渡っていたが、2011 年度は顕著な傾向は
うかがえなかった。特に分散期の出現場所は
通期でとが観察された出現場所と概ね同じよ
うな散らばり方を示している。出現数の多かっ
た分散期のデータが全体のデータに強く影響
を及ぼしているようである。
8
4)個体別の動き
ⅰ.成鳥オス(3 歳)PYM の場合
・本オス個体は行動観察でよく確認されるので、その観察記録から生態・行動を追う。
・2008 年 7 月 3 日に石原線の
1.1km 地点で捕獲された新生
図 5:PYM(成鳥オス)の出現場所
オス PYM は、2008 年にはま
ず捕獲場所に近い石原線、石原
支線で確認され、やがて国有林
に移動した。
・このオスは最初の繁殖期であ
る 2009 年 1 月から 4 月にかけ
ても国有林にとどまり、4 月 4
日には国有林 0.5km 地点で、
メス 1 歳の PMB とペアでいる
ところが確認されている。その
後このオスは 8 月には石原支
線、9 月には旧国道 58 号線、
10 月には再び国有林とかなり
広範囲を動き回っていた。
・2010 年の 2 月から 4 月にか
けての 2 回目の繁殖期には 3
回確認されている。位置は国有
林 0.6km 地点と、石原支線の
0.3km 地点である。いずれも
2009 年の 4 月 4 日にメス 1 歳
の PMB とペアでいるのが確認
された場所から 300m 以内で
あり、このオスは 2 年連続国有
林において繁殖活動を行なっ
ていたと推定できる。この年は、9 月にも 20 日と 27 日の 2 回確認されており、どちら
も国有林 0.4km 地点であった。
さらに 11 月 20 日には国有林 0.3km 地点で確認された。
・3 回目の繁殖期の 2011 年 2 月 23 日には国有林 0.6km 地点で片足立ちで休息してい
るのが目撃された。その後しばらく姿を現さなかったが、10 月 12 日には国有林 0.3km
地点で、10 月 30 日には石原支線 0.2km の電柱上で観察され、健在が確認された。
・本オス個体は成鳥になってからは基本的に国有林周辺を行動範囲とし、ときおり石原
支線などにも現われるようである。排他的な縄張りが存在するわけではないが、概ね年
間を通じての生息場所は決まっているようである。
9
ⅱ.成鳥メス(5 歳以上)BGG の場合
・本メス個体は石原支線 0.9km 地点付近にしかけた自動カメラ SG1 によく写るので、
自動カメラの映像を中心に生態・行動を追う。
・2007 年 5 月 30 日に国有林 0.7km 地点で捕獲されたメス(捕獲時成鳥)BGG は、2007
年 9 月 29 日に石原支線 0.45km 地点で単独で、2008 年 6 月 20 日には石原支線 0.4km
地点で成鳥メスを含む 4 羽の群れで確認されていた。
・本個体は 2009 年 5 月 28 日に国有林 0.7km 地点で、ヒナ 2 羽を連れているのが目撃
された。このヒナ 2 羽は捕獲に成功し WGW(オス)と WBM(メス)の標識をした。
この親子はその後 6 月 4 日に自動カメラ SG1 に 3 羽同時に写っており、
同 9 日、12 日、
13 日にも同じ自動カメラで撮影されたが、7 月 9 日には国有林 0.8km 地点で新生幼鳥
オス WGW が単独で目撃された。この時点ではすでに親離れをしたと推定される。
▲2010 年 6 月 27 日に撮影された BGG
▲2009 年 5 月 28 日に撮影された親子(右から成鳥メス BGG、幼鳥メス WBM、幼鳥オス WGW)
・2010 年に入ると、自動カメラ SG1 に BGG 単
独で、5 月 31 日、6 月 25 日、27 日、7 月 9 日、
18 日、21 日、29 日の 7 回撮影された。
・2011 年には、自動カメラ SG1 に BGG 単独で
8 月 21 日から 11 月 14 日の間に 19 回撮影された。
その撮影日時とそのときの本個体の向きを次ペ
ージの表に示す。
▲2011 年 8 月 21 日に撮影された BGG
10
●2011 年 BGG の撮影状況
撮影日
撮影時刻
日没時刻
撮影-日没
体の向き
撮影枚数
8 月 21 日
19:20
18:56
24
西向き
1
8 月 27 日
19:04
18:50
14
西向き
1
8 月 28 日
18:55
18:49
6
西向き
1
9月1日
19:00
18:44
16
西向き
1
9月2日
18:58
18:43
15
西向き
1
9月9日
18:38
18:39
-1
西向き
1
9 月 11 日
18:48
18:33
15
西向き
1
9 月 13 日
18:48
18:30
18
西向き
1
9 月 14 日
18:45
18:29
16
西向き
1
9 月 15 日
18:36
18:28
8
西向き
1
9 月 16 日
18:34
18:27
7
西向き
1
9 月 17 日
18:34
18:26
8
西向き
1
10 月 9 日
18:03
18:00
3
西向き
1
10 月 17 日
5:45
17:51
――
東向き
1
10 月 30 日
18:09
17:39
30
西向き
1
11 月 2 日
17:54
17:37
17
西向き
1
11 月 5 日
17:59
17:35
22
西向き
1
11 月 11 日
17:44
17:31
13
西向き
1
11 月 14 日
0:51
17:30
――
東向き
1
・SG1 がしかけられているのは石原支線の奥の開けた広場である。2009 年には BGG
はここを採餌、育雛の場所として利用していた。しかし、2011 年にはいずれも 1 枚し
か写っておらず、この場所は横切るだけの「通勤場所」となっている。
・
「通勤」のようすはかなり厳格に決まっており、19 例のうち 17 例が、日没前 1 分~
30 分の間にここを西向きに通過している。この場所の東側には照葉樹林が、西側には
道路と伐採跡地が広がっている。したがって、本個体は薄暮の時間帯に、林の中からよ
り開けた場所へ移動しているようである。
・19 例のうちの残りの 2 例は、逆方向の東向きに通過している場面が撮影された。こ
のうち 1 例は深夜の撮影であったが、もう 1 例は日の出前の薄明の時間帯であった。
・2011 年 8 月 21 日から 11 月 14 日にかけては非常に高い頻度で撮影されているが、
他の時期にはまったく写っていない。本個体はこの場所を通年にわたって利用するわけ
ではなく、利用は期間集中的である。
11
5)自動カメラで撮影された被写体
アマミヤマシギ、アマミノクロウサギ、リュウキュウイノシシの 3 種について、2010
年度と 2011 年度に自動カメラ SG1 にて撮影された枚数を月別に下表と図 6、図 7 に示
す。
2010 年度
ヤマシギ
2011 年度
クロウサギ
イノシシ
ヤマシギ
クロウサギ
イノシシ
04 月
1
5
0
1
0
87
05 月
4
49
0
5
0
139
06 月
13
10
0
4
0
0
07 月
17
6
0
0
0
7
08 月
10
1
1
10
4
11
09 月
6
0
0
39
0
4
10 月
0
5
0
28
36
51
11 月
5
0
1
24
11
9
12 月
4
4
0
7
2
23
01 月
0
0
0
21
2
0
02 月
0
1
44
17
9
1
03 月
1
0
7
2
0
8
合計
61
81
53
158
64
340
12
・2010 年度は 5 月にアマミノクロウサギが、6、7 月にアマミヤマシギがよく撮影され
ていたが、年をまたいだ 2 月からイノシシがよく写りはじめ、2011 年度の 4、5 月にか
けてイノシシの撮影枚数が他を圧倒している。9 月に入ってイノシシの撮影枚数が減っ
た頃からアマミヤマシギの撮影枚数が急増している。イノシシがアマミヤマシギやクロ
ウサギの出現を阻害している可能性がある。
・哺乳類であるアマミノクロウサギやイノシシは 1 回の出現で何枚もシャッターを作動
させる傾向が鳥類のアマミヤマシギよりも高く、撮影枚数が単純に生息数を表している
とはいえない。
2.ラジオテレメトリー法による行動調査
1)発信機装着個体
2011 年度にラジオテレメトリー調査を行ったのは、2010 年 9 月 20 日に電波発信機
を装着したのは下表の発信機 105 個体(WPW)の、前年度からの継続追跡だけである。
発信機
105
装着日
10/09/20
捕獲場所
標識番号
年齢性別
備 考
林道石原線の入口 7A05323
成鳥メス
09/07/03 に石原
から 0.9km 地点
2歳
線で初放鳥
(WPW)
・本個体は 2009 年 7 月 3 日に初捕獲しカラーリングを標識した個体であり、その際に
は新生幼鳥メスだったため、年齢 2 歳の成長メスであることがわかる。
13
2)成鳥メス WPW(発信機 105)の行動圏
本個体はラジョテレメトリー調査以外の行動観察においてもよく目視されている。
以下、冬期、繁殖期、夏期・分散期に分けて、本個体の行動圏を眺めてみる。
ⅰ)幼鳥時から発信機装着まで
・2009 年 7 月 3 日に林道石原線 1.0km 地点で捕獲
された新生メス WPW は、11 月 25 日に石原線
0.7km 地点で目撃された。
・2010 年 4 月に入ると、23 日に石原線 1.2km 地
点で、28 日には石原線 1.5km 地点と 0.7km 地点
で 2 回観察され、また 26 日には前述の自動カメラ
▲2010 年 4 月 26 日に撮影された WPW
SG1 でも撮影された。
・本個体については、その後 9 月 20 日に石原線 0.9km 地点で再捕獲し、発信機 105
を装着した。発信機装着後しばらくは
石原線西側の谷や石原支線の分岐点付
図 8:WPW 冬期(10 年 11 月~11 年 1 月)行動圏
近にいた。
ⅱ)冬期の行動圏(図 8)
・2010 年 11 月から繁殖期の突入前の
2011 年 1 月までの冬期、石原支線と国
有林の間の林内の狭い範囲で行動して
いた。本個体の 11 月~1 月の 3 ヶ月間
の行動圏面積は 0.06 k ㎡であった。
・継続して 24 時間追跡できた 2010 年
12 月 18 日から 19 日の 24 時間行動圏
面積は 0.009 k ㎡にすぎなかった。
ⅲ)繁殖期の行動圏(図 9)
・2011 年 2 月以降、繁殖期に入ると、
石原線入口近くの斜面や、石原線西側
の谷などからも電波を受信できるよう
になり、3 月 23 日には石原線 0.8km
14
図 9:WPW 繁殖期(11 年 2 月~5 月)行動圏
図 10:WPW 夏・分散期(11 年 6 月~10 月)行動圏
地点で目視された。その後、4 月 15 日には石原線 0.3km 地点と 0.8km 地点で 2 回(p1
の写真参照)
、5 月 5 日にも石原線 0.3km 地点で観察されている。
・4 月には石原線の入り口から石原国有林の入り口付近まで広く動き回り、5 月には石
原線 0.3km~0.6km の付近にとどまることが多くなった。2 月~5 月の繁殖期の行動圏
面積は 0.15 k ㎡であった。
・この間、24 時間追跡を行っても、一箇所にじっとしている日はなく、繁殖は失敗し
た可能性が高い。
ⅳ)夏期・分散期の行動圏(図 10)
・6 月以降、夏のうちは石原線 0.3km~0.6km 地点の北側斜面上にいることが多く、9 月に
は石原線 0.8km 地点の南側の谷で、10 月には石原線 0.3km 地点の北側斜面でよく電波が
受信できた。
・行動観察時にも何回か目視されており、9 月 29 日には石原線 0.8km 地点で 2 羽一緒にい
る場面を、10 月 7 日には石原線 0.6km 地点で採餌場面を、10 月 11 日には石原支線 0.5km
地点から石原線 0.6km 地点へ飛翔して移動する場面を、それぞれ観察されている。
・6 月~10 月の夏期・分散期の行動圏面積は 0.09 k ㎡であった。
15
図 11:WPW 通期(10 年 9 月~11 年 9 月)行動圏
ⅴ)通年の行動圏(図 11)
・成鳥メス WPW については 2011
年 11 月末まで電波を捕捉できた
が、12 月以降捕捉できなくなっ
た。これは電池の寿命が尽きたた
めだと思われる。その後本個体は
2012 年 3 月 19 日に石原支線
0.3km 地点で目視され、ビデオに
も撮影されている。このとき発信
機は外れているので、メーカーの
説明にあるように、ダクロン紐の
劣化により、自然落下したものと
考えられる。
・発信機を装着した 2010 年 9 月
から 2011 年 9 月までの丸一年間
の行動圏面積は 0.27 k ㎡であっ
た。
2)過去の調査結果との比較
これまで半年以上の長期間追跡調査ができたのは、2005 年度市理原地区におけるメ
ス 3 個体(発信機 B1、B2、B3)と 2009 年度三太郎地区のオス 1 個体(発信機 91)
である。これら 4 個体と、今年度三太郎地区で追跡したメス WPW(発信機 105)の繁
殖期と非繁殖期、通年の行動圏面積を下表に示す。
調査地
(単位:ha)
三太郎地区
市理原地区
調査年度
2011 年度
2009 年度
2005 年度
発信機
105
91
B1
B2
B3
性別
メス
オス
メス
メス
メス
繁殖期
15.0
64.9
7.6
1.1
19.0
非繁殖期
9.0
1.4
11.7
1.7
0.7
通年
27.0
68.9
61.2
42.9
148.2
・同じ三太郎地区の個体であるが、オス(発信機 91)に比べて、メス(WPW:発信機
105)は、繁殖期、通年の行動圏が狭い。
・市理原地区のメス 3 羽に比べて、三太郎地区のメス 105(WPW)の通年での行動圏は
狭かった。これは市理原地区のアマミヤマシギは夏から秋にかけてふもとの農耕地に降
りていたためであり、三太郎地区のほうが採餌条件に恵まれていると思われる。
16
3.南部の予備調査
林道勝浦東線(6.8km)
、瀬戸内中央林道(勝浦東線分岐~第一油井岳分岐:9.9km)
、
第一油井岳線~地頭峠(7.7km)のトータル 24.4km をモデル調査地域とし、分散期の
満月と新月の夜に自動車センサスを行った。アマミヤマシギの出現状況を下表に、満月
(9 月 12 日、10 月 12 日、11 月 11 日)と新月(9 月 27 日、10 月 27 日、11 月 25 日)
の出現場所を図 12、図 13 に示す。
調査開始日時
天気
月齢
出現数
勝浦東線
瀬戸内中央
その他
クロウサギ
1 08 月 15 日 20 時半
晴
15.3
34
19
13
2
4
2 09 月 12 日 19 時半
小雨
14.0
21
17
3
1
1
3 09 月 27 日 19 時半
小雨
29.0
6
6
0
0
12
4 10 月 12 日 19 時半
晴
14.7
30
16
10
4
1
5 10 月 27 日 19 時半
曇
0.3
8
8
0
0
11
6 11 月 11 日 20 時
曇
15.3
22
16
6
0
2
7 11 月 25 日 19 時半
晴
29.3
2
2
0
0
12
8 12 月 10 日 19 時
雨
14.9
0
0
0
0
1
図 12:満月時の出現場所
図 13:新月時の出現場所
17
・林道勝浦東線は満月時も新月時もアマミヤマシギのある程度数の出現が見込まれる。
瀬戸内中央林道は満月時に八津野国有林に近い東側で出現が見込まれる。したがって、
勝浦東線全線と瀬戸内中央林道の東側の総延長 20km ほどを次年度の新たな候補地と
するのが望ましい。
4.捕獲標識調査
2011 年 12 月 15 日から 2012 年 3 月 27 日までに勝浦東線と瀬戸内中央林道で、次年
度の行動調査のために捕獲した個体は下表の通り。
調査開始日時
天気
月齢
出現数
捕獲数
累計
1 12 月 15 日 19 時
雨
19.9
3
1
1
2 12 月 22 日 19 時
曇
20.9
0
0
1
3 12 月 29 日 19 時
雨
4.4
0
0
1
4 01 月 05 日 19 時
雨
10.4
0
0
1
5 01 月 11 日 19 時
曇/雨
17.4
0
0
1
6 01 月 18 日 19 時
晴
24.4
0
0
1
7 01 月 21 日 19 時
曇
27.4
1
0
1
8 01 月 27 日 19 時
雨
3.8
3
0
1
9 02 月 02 日 19 時
雨/曇
9.8
2
1
2
10 02 月 08 日 19 時
曇
15.8
0
0
2
11 02 月 14 日 19 時
晴
21.8
7
2
4
12 02 月 21 日 19 時
曇
28.8
3
0
4
13 02 月 27 日 19 時
曇
5.2
3
0
4
14 03 月 04 日 19 時
曇/雨
11.2
9
3
7
15 03 月 11 日 19 時
曇
18.2
0
0
7
16 03 月 20 日 19 時
雨
27.2
8
1
8
17 03 月 27 日 19 時
晴
4.5
1
1
9
・2011 年 12 月からこの地区でのアマミヤマシギの出現数が極端に減り、12 月 22 日か
ら 2012 年 1 月 18 日までは 0 羽が続いた。調査期間中の最大出現個体数は 3 月 4 日の
9 羽が最高であり、出現数と月齢の関係も明確には見られなかった。夏から秋にかけて
の多出現期との差が顕著であった。
・このせいもあり、2012 年度に捕獲標識調査を 17 回試行して、標識放鳥できた個体数
は 9 羽にとどまってしまった。
18
5.アマミヤマシギの抱卵についての観察事例
これまでアマミヤマシギの営
巣期は 3 月から 4 月がピークであ
ろうと考えられてきた。ところが、
2012 年 2 月 28 日にマングースバ
スターズの福留氏によって、アマ
ミヤマシギの抱卵中の巣(発見時
卵 4 個、翌日には卵 3 個)が発見
された(写真参照)
。幸運にもこの
巣における抱卵状況は継続的にビ
デオ撮影することができ、発見後
18 日目の 3 月 16 日には無事に 2
羽のヒナが孵って親鳥とともに巣
を離れるようすまでが記録された
▲2012 年 3 月 1 日に撮影したアマミヤマシギの巣。2 月 28 日
(記録の抜粋を DVD 資料として
の発見時には卵は 4 個あったが、翌日には 3 個になっていた。
添付)
。この巣では最後の 1 卵は放
最終的にヒナが孵ったヒナは 2 羽で、残る卵 1 個は放棄された。
棄された。
今回の観察を機に、これまでのアマミヤマシギの抱卵中の巣および孵化したばかりで
親に連れられて歩く綿羽状態のヒナの観察事例を表、および図 14、15 にまとめた。
●アマミヤマシギの抱卵中の巣の観察事例(全 11 例)
発見日
卵数
標高
地形
2006/3/3
卵4
380m
林道跡
大和村志戸勘林道南側入口近く
2006/5/30
卵2
280m
林道跡
奄美市大熊東 奄美市-龍郷町境界線
2007/4/12
卵3
300m
平坦な尾根道
2009/3/18
卵3
170m
急斜面の一部平坦地
2009/4/8
卵2
220m
林道跡
2009/4/15
卵3
40m
尾根
2010/3/28
卵3
260m
緩斜面
奄美市スタルマタ-中央林道三叉路南西
2011/3/22
卵3
210m
急斜面
大和村中央林道きょらご橋東
2011/4/6
卵3
350m
林道跡
瀬戸内町八津野ナン川林道近く
2012/2/28
卵4
30m
緩斜面
龍郷町屋入北
2012/3/20
卵4
280m
緩斜面
奄美市石原国有林内
19
地点詳細
奄美市石原線南
奄美市三太郎トンネル西側入口上
大和村名音林道フォレストポリス近く
龍郷町大勝東
●アマミヤマシギの孵化直後のヒナの観察事例(全 8 例)
発見日
雛数
標高
地形
地点詳細
2006/4/29
雛2
180m
林道跡
2007/5/30
雛1
480m
山頂の平坦な高台
2009/3/28
雛2
280m
緩斜面
2010/4/14
雛3
160m
尾根
2010/4/29
雛1
440m
奄美市石原線南
2010/5/13
雛2
370m
奄美市神屋北スタルマタ線沿い南
2011/4/20
雛2
100m
谷筋の緩斜面段々畑跡
2012/3/16
雛2
300m
緩斜面
龍郷町市理原北尾根
奄美市石原線滝ノ鼻山
奄美市スタルマタ-中央林道三叉路南西
大和村大名線西側入口北
奄美市有良南西
龍郷町屋入北
・抱卵中の巣が見つかった事例は 11 例あり、今回の 2 月 28 日の発見がこれまでで一
番早かった。3 月から 4 月にかけてピークであり、一番遅かった観察事例は 5 月 30 日
であった。このことより、抱卵期はおよそ 3 か月に及ぶことがわかる。
・営巣場所は斜面、尾根、林道跡などまちまちであり、標高も 30m から 380m まで幅
がある。地上営巣であるアマミヤマシギは外敵に無防備であるため、カムフラージュに
適した木の根元のくぼみやシダの下などに営巣することが多いようである。産卵数は 2
から 4 個で、3 個であることが多い。
・今回の観察事例では 18 日間に及ぶ抱卵を観察できた。ヤマシギの抱卵期間が 20 日
から 23 日なので、アマミヤマシギにおいても 3 週間前後と推測できる。抱卵を行うの
はおそらくメスと思われる 1 個体のみで、自身の採餌のために一日に数回、15 分から
35 分程度、離巣するのが観察された。
・孵化したての綿羽状態のヒナが観察された事例は 8 例あり、一番早い観察が今回の 3
月 16 日、一番遅い観察が 5 月 30 日で、4 月の観察が最も多かった。
20
考察と今後の課題
1.アマミヤマシギの繁殖に関するイノシシの影響
これまで奄美大島中部の三太郎地区では 5 年間の調査を行ってきたが、今年度は出現
傾向がこれまでと変わっていた。新生幼鳥が出現する 6、7 月の出現が少なく、例年分
散を始める 9 月から 10 月にかけてピークを迎えた。三太郎地区では今年度の繁殖が後
ろにずれた可能性が示唆される。その原因ははっきりとしないが、一因としてイノシシ
の急増が挙げられる。雑食性のイノシシはアマミヤマシギの卵も捕食することが実験の
結果わかっており、前年のドングリの豊作によりイノシシが急増したことは、地上営巣
を行うアマミヤマシギにとっては繁殖の阻害要因となったと推測される。
2.徐々に明らかになるアマミヤマシギの周年行動
継続的に調査ができているオス PYM やメス BGG、WPW(発信機 105)などにより、
三太郎地区での周年行動が次第に明らかになってきた。アマミヤマシギは個体により、
よく利用する場所があらかた決まっているが、その場所は時期によって違っている。お
そらくアマミヤマシギは決まった狭い範囲の「採餌パッチ」を持っており、季節により
いくつかのパッチ間を移動しているのであろう。BGG の自動カメラ撮影で明らかにな
ったように、そのパッチの利用時間もかなり厳格に決まっているようである。昼と夜で
異なる採餌パッチを持っている可能性もある。また、オスは繁殖期にはメスよりも行動
範囲が広いが、それ以外の時期はオスもメスも行動範囲に大きな差は見られない。
3.初めて観察された抱卵行動
抱卵は早い個体で 2 月から行われ、遅い場合には 5 月末まで引きずることが明らか
になった。クラッチサイズは平均 3 で、営巣は木の根元のくぼみやシダの葉の下などの
目立たない場所を選んで行われるようである。また、予想されていたことであるが、抱
卵および育雛はおそらくメスであろうと思われる 1 羽の親のみで行われる。およそ 3
週間にわたるメスの抱卵期間中、オスは別のメスとの間で繁殖行動を行っている可能性
があるが、現在のところ、本種の婚姻システムについてはまだよくわかっていない。こ
の解明は今後の重要な課題である。
4.新しい調査地での出現数の個体変動
新しく瀬戸内町の勝浦東線を中心にした調査ルートを設定したが、12 月に入って捕
獲標識調査を介したとたん、出現数が激減した。冬期に出現数が減るのはこの地区に限
ったことではないが、秋までの出現状況とのギャップは、市理原地区、三太郎地区より
も大きかった。これが今年に限ったイレギャラーな事態なのか、この地区の特性なのか、
今後見極めていきたい。新調査地はその意味で冬期の出現数減少を解明する鍵を握って
いそうである。年度末時点で標識個体数は 9 羽にとどまったので、この地区で行動観察
を行うためには、まずは引き続き捕獲標識調査から行うことが必須である。
21
参考文献
環境省.2005.平成 16 年度アマミヤマシギ生態調査・モニタリング業務報告書
環境省.2006.平成 17 年度アマミヤマシギ生態調査・モニタリング業務報告書
環境省.2008.2007(平成 19)年度アマミヤマシギ調査報告書
環境省.2009.2008(平成 20)年度アマミヤマシギ調査報告書
環境省.2010.2009(平成 21)年度アマミヤマシギ調査報告書
環境省.2011.2010(平成 22)年度アマミヤマシギ調査報告書
石田健・高美喜男.1998.アマミヤマシギの相対生息密度の推定.Strix16:pp73‐88.
水田拓・鳥飼久裕・石田健.2009.月の明るさが道路上に出現するアマミヤマシギの
個体群に与える影響.日本鳥学会誌 58(1)
:pp91‐97.
リサイクル適性の表示:紙へリサイクル可
本冊子は、グリーン購入法に基づく基本方針における「印刷」に係る判
断の基準にしたがい、印刷用の紙へのリサイクルに適した材料「Aラン
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22
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