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Part1:ネットワークの外部性
2013/12/12 情報経済と文化(2‐3回生) 文化経済論(4回生以上) 第12回:ネットワークの外部性、ロン グテールの法則 2013.12.12 宿南達志郎 Part1:ネットワークの外部性 1 2013/12/12 (1)外部性(外部効果)とは? • 企業や消費者の経済活動が、他の 主体に直接・間接に影響を与えるこ と。 –正の外部効果と負の外部効果がある • 負の影響は、市場の失敗(Market Failure)と呼ばれる • 正の外部効果 – 花畑とミツバチ • 養蜂業者が蜜を取るためには花畑が必要 • 花の受精のためには蜜蜂に花粉を運んでもら う必要あり – 鉄道と沿線の住宅 • 鉄道の利便性が住宅価格に影響する • 沿線で住宅が増えると鉄道の利用客が増える 2 2013/12/12 • 負の外部効果 –①地球環境問題 • 個々の企業の経営活動においてフロン ガスの使用がオゾン層に与える影響を 考慮することはない。 • 二酸化炭素が温暖化の原因らしいと分 かっても、排出を完全に止めることはで きない。 –②自動車と大気汚染 • 市場メカニズムには外部効果を調整する 力はない。 • 大気汚染の影響を金銭価値で評価し、 資源配分の歪みを是正する必要があ る。 • 税金(自動車保有税、ガソリン税など)や 燃費向上の技術革新への補助金などが 必要。 3 2013/12/12 • 高速道路の料金は値上げすべきか? – 混雑していて「高速」で走れないのに更に値上げ するのはおかしい? – 高速道路は加害者と被害者が同じ • 利用者が増えるから混雑する • 混雑の迷惑を受けるのも利用者 – 混雑分を考慮した料金設定(値上げなど)が必要 • 24時間値上げ、区間別値上げ、時間帯別値上げなど • 外部効果の内部化 – 鉄道会社が鉄道収入だけ考えて、沿線の住民の 利益を考えないのは社会的に好ましくない – 鉄道会社と不動産会社が提携あるいはグループ 化を進めるのが好ましい – 鉄道沿線の防音壁をどこまで作るべきか? • 最終的には裁判所の判断で対応が決まる • 住民が二重窓にするか、鉄道会社が対処するか(防音 壁の設置、深夜の運行減少) 4 2013/12/12 (2)ネットワークの外部性 • ネットワークの加入者が増えるほど、利便性 が高まる。 – 固定電話、ファックス、携帯電話、インターネット など • カラーファックスはなぜ普及しなかったか? – 自分が持っていても相手が持っていないと意味 がない。 – 一定程度の普及に到達しない場合には、そこで 拡大が止まったり衰退したりする。 • 電話サービスの例では、 – 加入者が1人しかいない電話網は無価値 – 新たに1人が加入すると相互に通話できるという利用 価値が発生 – もう1人が加入すれば、最初の1人にとっては2人の相 手に通話できる状態となり、利用価値が増加 – ネットワークの性質を持つシステ ムでは、加入者が 多ければ多いほど利用価値は増加 – 最終的には「加入しないと不便だ」「加入しないわけ にはいかない」という強制力が働く。 5 2013/12/12 • 英語が国際言語になった理由 – 世界の政治や経済の舞台で英語が一般的 – 英語を学ぶ人が増えると更に英語の人気が上が る – ⇒これもネットワークの外部性が働いたと言える • なぜPDFが一般化したか? – OSや文書ソフトのバージョンに関係なく読める。 • (しかも、MSのファイルよりも軽い) – 読むためのソフトが無料でDLできる。 性能対互換性のトレードオフ 互換性 進化 • 画期的な性能 – 革命を起こす – 例:カセット⇒CD • 互換性を保ちな がら機能アップ – 進化する – 例:MSオフィス 革命 性能 6 2013/12/12 • 0円、1円携帯がかつて多かったのはなぜ? – 新規の利用者を獲得することによって、自社の サービスの価値を高める戦略。 • 新規の利用者増加が減少したり、他者への乗り換え が減少すると、この戦略はあまり意味を持たなくなる。 • VHS 対 β – 自宅の録画だけなら両者に大差なかった。 – レンタルビデオの制作会社は利用者の多い方を 選択した。 • ⇒サイズも大きく技術的に劣っていたVHSが勝利 • パソコンのOS(基本ソフト) – マイクロソフトのウィンドウズが高いシェア – ソフトもウィンドウズ対応が豊富 – ますます、シェアが上がる・・・ • クレジットカードにおけるJCBのシェア低下 – 日本で使うならJCBで特に不便なし – 海外で使うならVisaやMaster Cardの方が便利 7 2013/12/12 • トヨタのシェアが高いわけは? – シェアが高いメーカーの方が修理網が発 達 – 修理のための部品の調達が容易 – ⇒シェアの低い車、特に外国車は、故障時 の即応性などにやや不安あり 開放化対コントロールのトレードオフ 業界シェア 独占化 • 他社を巻き込み 市場を成長させる – 開放化 – 例:Java, DVD • 市場規模よりも市 場支配力を優先 – 独占化 – 例:インテル、 Apple 最適条件 手に入る報酬 開放化 業界全体の 付加価値 8 2013/12/12 • 政府や業界の役割の重要性 – 規格の統一によるネットワークの外部性? • しかし、ある規格に強い企業が独占的シェアを 持つ可能性 • 電子書籍の規格は統一すべきなのか? – 規格同士の競争による発展を重視するか? • 優れた技術が生き残る環境が存在するか? • Windows 対Linux 対Apple • Blue‐Ray対HD Part2:ロングテールの法則 • 米国の雑誌(Wired)編集長のChris Anderson が発見した、ネットとリアルの品揃えと販売量 に関する法則。(2004.10) 9 2013/12/12 全く売れない商品は少ない (販売数は、なかなかゼロにはならない) 販 ←売数 商品 • 売れ筋商品の絞り込みよりも、全ての商品を 網羅することが戦略的に正しい場合がある。 • 従来のマーケティングは、2:8の法則(パ レートの法則)に支配されていた。 – 2割の売れ筋商品で8割の売り上げが稼げる • しかし、品揃えの豊富さで勝負が決まってし まう場合がある。 – 特にネット上での商品やコンテンツ販売 10 2013/12/12 ロングテールの法則は音楽で最も有効 品揃えの効果は絶大(+40%) ネット 店舗 100% 90% 80% 70% 60% 50% 40% 30% 20% 10% 0% 店舗で 販売さ れてい ない商 品 店舗で 販売さ れてい る商品 書店 アマゾン ボーダー 370万種 ズ 類 10万種 類 DVDレ ンタル ネットフ リックス 5.5万枚 ブロック バスター 3千枚 音楽販 ラプソ ディ 売 ウォル マート5.5 150万曲 万曲 21 • なぜ、品揃えの豊富さが重要か? – 欲しい作品がないことが多いと、店舗でもネットで も再訪問される可能性は低くなる。 – 特に店舗を交通費と時間をかけて訪問した時に 在庫なしだとダメージが大きい。 – ヘビーユーザーは、売れ筋だけでは満足しない。 – ヘビーユーザーは複数枚買おうと思う場合も多 く、全てが揃っている店を選択する。 – 売上は当然アップする。 11 2013/12/12 • 前提としては、 –展示スペースが無限にある –在庫コストがほとんどかからない –配送コストもあまりかからない –欲しい物を簡単に見つける(スクリー ニングする仕組みがある) Long Tail化の歴史 • カタログ販売 – シアーズ・ローバック • スーパーマーケット – キング・カレン • ディスカウントストア – Wal*Mart • 大型書店 – バーンズ・アンド・ノーブル 12 2013/12/12 Amazonはなぜ書籍から始めたか? • 書籍には品揃えが重要 – しかし、分厚い商品カタログもない • マーケティング協会で通販リストを調べたが下のほう だった。 • 毎年10万タイトルの新刊があるが、最大の書 店でも17.5万タイトルしか置けない。 • 一方入手可能なタイトルは150万以上(当時) – 現在は560万点 • 様々なカタログがネットにアップされ始めた。 • サイトで書名を検索できるだけでなく、購入者 の感想が読めると更に買いやすくなる。 13 2013/12/12 ヒットからニッチへ • インターネットビジネスの一番の成長分野 は、物理的な店舗で手に入らない商品の販 売。 • ヒットとニッチ(すきま)が同じ経済的になっ た。 • 米国:50万枚以上売れたアルバム数 – 2002年の1000超から、2005年には600にダ ウン • 日本:100万枚以上売れた作品数 – アルバム:30(1990)→4(2009) – シングル:23(1996)→1(04‐06)→0(07‐09) – 音楽配信:14(06)→10(09) 14 2013/12/12 様々なロングテール • • • • • グーグルの検索連動広告 ゲームソフトのダウンロード販売 オープンソースのソフト(Linuxなど) 地ビール オンライン大学 ロングテール理論のポイント • ①ニッチはヒットよりはるかに多い。生産手段 が安くなり一般に普及すれば、ニッチの比率 は更に高まる。 • ②ニッチを入手するコストが劇的に低下した。 デジタル流通、検索技術、ブロードバンドなど が貢献。 • ③選択肢の提供に加え、個々人が望む商品 を見つけられるフィルター機能が必要だ。(レ コメンデーションやランキングなど) 15 2013/12/12 選択肢が多過ぎるのはマイナスか? • ジャムの販売実験 • ①6種類 – 試食者 40% – 試食後の購入者 30% • ②24種類 – 試食者 60% – 試食後の購入者 3% • (結論1)選択肢の数が増 え続けると客に負担をか け過ぎる。 • (結論2)しかし、消費者 は多様性を求める。 • (結論3)豊富な選択肢と 選ぶ手助けが必要。 – ランキング、レビュー、価 格比較など • ④選択肢が多様でフィルタリングもうまくいけ ば、テールはより太くなる。 • ⑤ニッチを全て集めるとヒットと肩を並べるほ どの規模になり得る。 • ⑥以上の要件を満たせば、自然な需要曲線 となる。 • ⇒ロングテールは不足の経済の影響を受け ない文化の真の姿である。 16 2013/12/12 Long Tailで勝負が決まった業界は? • 音楽業界 • Videoレンタル業界 • 次は、書籍と映像(TV番組、映画)に も波及するのか? ①音楽業界 • AppleのiTunes/iPodが音楽コンテンツ流通に 革命をもたらした。 – iTunes Music Storeの100万曲の全てが少なくとも 1回は売れた。 • 他の業界でも同様 – Netflixの2.5万枚のDVDの95%が3カ月に1回以上 貸し出された。 – Amazonのランキング上位10万タイトルのうち98% が3カ月に1冊以上売れた 17 2013/12/12 ②DVDレンタル業界 • Blockbuster(全米最大のDVDレンタル会 社)が会社更生法適用申請 – NetflixなどのネットDVDレンタル会社との競 争に負けた。 • 敗因は、品揃えと利便性で劣ったこと。 Blockbuster Inc. • 1985年にTexasで開業。 • 映像、ゲームなどのレンタルおよびネット配信 サービスを提供。 • 2010年1月時点では、17ヵ国に5000店舗を保 有していた。 • しかし、Netflix等との競争に敗れ、2010年9月 には、会社更生法適用を申請した。 18 2013/12/12 • 2011年4月、衛星放送会社(Dish Network)が 買収。 • 2011.12現在:1500店に縮小 – 2012年前半に更に500店程度閉店を計画 – 2011年の売上は$975 million • 2012.10:「Netflixに対抗する企業として復活 するプランを断念する」との報道。 http://www.bloomberg.com/news/2012‐10‐04/dish‐s‐ergen‐scraps‐ blockbuster‐plans‐after‐wireless‐delays.html Netflixとは? • ネットフリックス(Netflix)は1997年に創設され たオンライン映像レンタル・配信会社。 • 本社はカリフォルニア州ロスガトスに置かれ ている。 • 10万種類、延べ4千2百万枚のDVDを保有。 • 契約者数:2011.12には2,440万人(米)、 2,625万(世界) • 収入は$3.2Billion(2011)(+48%) 19 2013/12/12 ネットの情報流通、Netflixが25% ネット配信はGlobalに拡大中 • Netflix – Globalに拡大中 • 2010:Canada • 2011:Latin America, Caribbean • 2012:U.K., Ireland – 料金体系の改定 • DVD Only $7.99-$43.99、Net Only $7.99 • 月支払額の低下:$12.2(2010)←$13.3(2009) – 利用者数 • 2625万(2011) 20 2013/12/12 Netflixの収支 収入は大幅増だが、利益は伸び悩み 2012年第1Qは若干赤字、第2Qは若干黒字 収入 $Million 営業利益 3500 3000 2500 2000 1500 1000 500 0 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 Netflix Subscribers 料金体系の改定で、利用者の伸びが低下 Hybrid DVD Net International 35000 30000 25000 20000 15000 10000 5000 0 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012_6 21 2013/12/12 部門別の貢献度 DVDは伸びないが利益貢献、海外はまだ赤字 海外配信 国内配信 国内DVD 利益(赤字) 収入 契約者数 ‐40% ‐20% 0% 20% 40% 60% 80% 100% Netflixの戦略(まとめ) • 創業期は、DVD‐by‐mail事業が中心。 • 次に、その付加サービスとして映像配信を開始。 • 映像配信を拡充し、ビジネスの中核部門化を目指す。 ① まずは、映画を配信した。 ② 次に、過去のテレビドラマを配信した。 ③ 更に、新作のテレビドラマの配信も始めた。 ④ これからは、映像制作もやっていく。 – – – – 第1作は、2013年2月1日~first season (13 episodes) 監督:David Fincher タイトル:“House of Cards” 主演: Kevin Spacey and Robin Wright 22 2013/12/12 店舗型小売業者の弱み • 映画館 – 2週間で1500人を集客できる映画しか上映できな い。 – アカデミー賞ノミネート作品でも全米で6か所のみ 公開 – あるインド映画は全米で2か所のみ上映 • インド人は170万人米国に在住 • レコード店 – 1年に4枚以上売れるCDタイトルしか置けない • これまでは不足の世界 – すべての映画を上映できるスクリーンもない – すべてのテレビ番組を放送できるチャネルも ない – すべての音楽を流せる電波もない • ⇒インターネットにより豊饒の世界へ 23 2013/12/12 ③これからの小売業は? • 1.物理的な小売業 – タワーレコードなど、物理的な店舗を持つ • 2.ハイブリッド小売業 – アマゾンなど、諸経費が小さい小売業 – ⇒マーケットプレース(中古)事業も提供=aggregator (集積事業者) – ⇒将来は、Print On Demandが一般化? • 3.デジタル小売業 – iTMSやラプソディなど、物理的な商品がない小売業 – ⇒電子書籍では、アマゾンもデジタル小売業 ④これからの映像市場は? • 販売と配信の一体化 – 販売:DVD → 自宅でDVD焼き付け – レンタル:DVD郵送 → Video On Demandで視聴 • 配信機器の多様化 – パソコン → 携帯、スマートフォン、タブレットPC、ネッ ト対応テレビ、ゲーム機 • 映画館よりも「自宅」または「出先」がベター – 選択肢の多様化(作品、言語、3D‐2D) – 24時間365日自由なタイミングを選択可能 – 低廉化 24 2013/12/12 参考文献 • クリス・アンダーソン(2009) 「ロングテール (アップデート版)―『売れない商品』を宝の山 に変える新戦略 (ハヤカワ新書juice) 」 – 原著:“The Long Tail: Why the Future of Business is Selling Less of More”, Hyperion,2006. • 吉本 佳生 (編集) 「出社が楽しい経済学」日 本放送出版協会 、2009. 今週のテーマ • ネットワークの外部性、またはロン グテールの法則に、影響を受けてい るビジネス分野や活用している企業 などについて論じて下さい。 25