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Mualem 型モデルを用いた疎水性粒子を含む多孔質媒体の不飽和透水係数の推定
Estimation of Unsaturated Hydraulic Conductivity of Porous Media
with Mixed Wettability Using Mualem-Type Model
Key words : Hydraulic Conductivity, Porous Media, Mixed Wettability
水資源利用工学分野
辻
英剛
1. はじめに
(3)
土壌のような多孔質媒体中における自由水の移動
のしやすさを表す土の性質を透水性と呼ぶ. 透水性
を表す指標として透水係数が用いられる. 農業にお
いては, 適切な透水性が求められる. また, 透水性
は, 土壌中の不飽和水分移動を数値解析する際にも
不可欠なものである.
撥水性を有する土壌は, 日本を含む世界中で存在
が確認されている. 近年, その特性を防湿や透水係
数の改善などに用いることが考えられている.
本論文では, 透水係数を推定するモデルとして広
く用いられている Mualem の不飽和透水係数推定モ
デル 1)を基に, 疎水性粒子を含む多孔質媒体の不飽
和透水係数推定モデルを定式化し, 実験結果と比較
する.
となり, 体積が等しいとすると次式が成り立つ.
(4)
(3), (4)式より を消去すると,
(5)
となる. さらに Mualem と同様に 1), 円管状間隙の
長さが半径に比例すると仮定すると次式が得られ
る.
(6)
(5), (6)式より次式が導かれる.
(7)
(7)式より等価な円管の半径は, 連結した 2 本の円管
の半径の相乗平均となることが導かれる.
2. 不飽和透水係数推定モデル
Mualem モデルでは, 多孔質媒体の間隙を図 1 の
ような半径の異なる 2 本の円管を連結させた平行な
管の集まりとしてモデル化する. 単位断面積当たり
N 本の毛管が存在するものと仮定し, 各毛管に識別
番号(i = 1, 2,…, N)を与える. ある毛管 i について, 半
径 (上部)と (下部)の毛管が連結している場合の
等価半径 Ri は次のように導かれる 2)(図 2). 毛管の上
部と下部の流量が互いに等しくなることから, ハー
ゲン・ポアズイユの法則より次式が得られる.
図1
Mualem 型の平行管モデル
(1)
2
ここで,
は水の粘性係数,
は水の密度,
は重
力加速度, , , はそれぞれ半径 Ri, ,
の毛
管の長さで,
,
,
はそれぞれ半径 Ri, ,
の毛管の両端にかかるポテンシャル差である. ポ
テンシャルについては, ここでは次式が成り立つも
のとする.
2Ri
2
(2)
(1), (2)式より
,
,
図 2 連結円管状孔隙と等価な円管状孔隙
を消去すると,
1
Li
次に, 毛管の上部・下部の各区間は独立に 3 つの
粒子から構成されるとする. 区間の内壁の合成接触
角は, 3 個の粒子のうち疎水性粒子が 個( = 0, 1,
2, 3)存在するとして, Cassie 式を用いて次式のように
表されるとする. ここで, 上付き*は U または D で
ある.
表 1 計算に用いた各値
49.9
(°)
116.3
(N/m)
(8)
(kg/m3)
997.538
(kg/m s)
0.001005
(m/s2)
9.80665
Φ
はそれぞれ, 内壁の合成接触角, 親水性粒
子の接触角, 疎水性粒子の接触角である. 毛管に水
が浸入するかしないかは, Young の式に基づいて以
下のように決まる.
のとき
0.35
0.02
0.018
0.016
Hydraulic Conductivity (cm/s)
(9)
(ii)
(°)
のとき
混合率0%
0.014
混合率25%
0.012
混合率50%
0.01
0.008
混合率75%
0.006
混合率100%
0.004
0.002
0
(10)
40
30
20
10
0
-10
-20
-30
-40
-50
-60
Pressure Head (cmH2O)
となる. ここで,
は水の表面張力であり,
は
毛管にかかる圧力水頭である. 上部・下部の両区間
で浸水する毛管は通水する
ものとし, それ
以外のものは通水しない
ものとする.
以上より, 断面積を A とすると, 疎水性粒子を含
む多孔質媒体の不飽和透水係数
は, 以下のよ
うに推定される.
図 3 推定値と測定値
推定結果は, 測定結果とある程度同様の傾向を示
している. ただ, 実際の土壌に比べてガラスビーズ
における測定では, 負の圧力水頭を与えた場合, 透
水係数が急激に小さくなる. これは, ガラスビーズ
の粒径や形状が一様であるから, 大間隙と小間隙が
交互につながった構造になっているためと考えられ
る. また, 円管の合成接触角の推定方法にも課題が
残る.
(11)
3. 適用例
4. まとめ
粒径約 0.1mm のガラスビーズを試料として用い
る. 一般にガラスビーズは親水性であるので, 炭化
水素化合物の OTS (Octyltrichlorosilane)を用いて表面
を疎水性にしたものを用意する. 元のガラスビーズ
との質量混合率が 0%, 25%, 50%, 75%, 100%の試料
を A = 19.6 cm2 , L = 5.1 cm の円筒シリンダーに充填
したものの不飽和透水係数測定し, モデルにより推
定したものと比較する. 毛管の等価半径は, 飽和透
水係数の測定結果と間隙率 Φ を基に, 半径
×
−
標準偏差
× − の正規分布に従うと仮
定し, 全毛管数 NA は 524,532 本とする. また, 試料
の上端と下端の間の動水勾配は 1 (重力浸透)とする.
計算に用いた値を表 1 に, 計算結果を図 3 に示す.
大きい斜め正方形の点が測定値であり, 小さい丸点
が推定値である.
Mualem 型モデルを用いて疎水性粒子を含む多孔
質媒体の不飽和透水係数を推定するための定式化を
行った. 実際の土壌間隙は上下方向のみではなく,
あらゆる方向に広がっており複雑である.今後は,
透水係数の測定値を増やすとともに, 本モデルをよ
り複雑化する必要がある.
参考文献
1)
Mualem Yechezkel (1978) : Hydraulic Conductivity of
Unsaturated Porous Media : Generalized Macroscopic
Approach, Water Resources Research, 14, 325 – 334
2)
小杉賢一朗 (2007) : Y. Mualem 著
不飽和多孔質体の
透水係数を推定する新たなモデルについて, 土壌物
理学会, 土壌の物理性, 106, 47 – 59
2
住民の性質による地域づくり活動への不参加に関する理由と環境の分類
―神戸市の「里づくり」を事例として―
Classification of the Reason and the Environment of Non-Participation to the Community
Building According to the Characters of Residents
-A Case of “Satozukuri” Plans of Kobe City
Key words: Reason, Classification, Community building
農村計画学分野
水戸 翔一
れに対して異なると推察される参加を促す方策を明
らかにする.
そのために,①アンケート調査を行うことで,住
民の群ごとの里づくりに参加したくない理由を明ら
かにし,②里づくり計画策定への参与観察によって
それを補完する.そして,③それらに基づいて参加
を促す方策を提案する.
アンケート調査では,里づくりに参加したくない
とする住民にその理由(以下,不参加理由)を問い,
同時に尋ねる住民の集団によって不参加理由が異な
ることを明らかにする.
その後,参与観察を通してどのように地域づくり
に関する環境が異なるかを明らかにする.
1.研究の概要
1.1 研究の目的
近年,農村はさまざまな課題を抱えている.少子
高齢化やそれに伴う核家族化,兼業化,耕作放棄地
の増加,獣害,住民の生活環境の劣化,集落コミュ
ニティの衰退,伝統文化の衰退などである.
神戸市では,これらの問題に総合的に対処する方
策の1つとして,1996 年 4 月 「人と自然との共生
ゾーンの指定等に関する条例」
(以下,共生ゾーン条
例)を制定した.共生ゾーン条例では,住民によっ
て里づくり協議会を設立し,里づくり計画の作成な
どを行うことを定めている.
ここでは,住民の積極的な参加が鍵となる.こう
いった住民参加型地域づくりは全国でさまざまな形
で運用されている.住民主体・参加型地域づくりは,
次の4つの意味で有効である.4つの意味とは,①
住民の多種多様の能力,意見を統合することができ
ること,②住民が責任をもって行政に関わっていけ
ること,③各主体の考え方を相互によく理解できる
ようになり,合意形成が促進されること,④参加プ
ロセスが,共同体に所属する人々の新しい価値・行
動規範を生み出す可能性があることである.1)
しかし,その現場において,必ずしも全住民の積
極的な参加が得られるわけではない.そういう場面
では,住民の参加を促すための方策が求められる.
そこで本研究では,アンケート調査を中心に,住民
の里づくりへの不参加の理由について,住民をいく
つかの群に分けてそれぞれ考察し,各群の住民それ
ぞれに対して効果的に参加を促す方法を提案するこ
とを目的とする.
2.対象地区の概要
対象地区である上北古地区は,神戸市西区神出町
の南西部に位置する農業を中心とした近郊集落であ
る.
上北古住民が構成する社会組織として,本稿で扱
う里づくり以前から,自治会・農会・総合水利・土
地改良・老人会・婦人会・子ども会・消防団・農地
水環境・シルバーボランティア(シニアボランティ
ア)・営農組合・生活会がある.
3.アンケート調査の概要
里づくり計画策定に活用する目的で,集落住民お
よび他出子弟に対して異なる項目でアンケート調査
を行った.本研究では,そのうち集落住民向けアン
ケート調査の一部の項目を用いて分析を行う.実施
期間は 2013 年 12 月 5 日~12 月 27 日であり,対象
は上北古集落内の 15 歳以上の全ての住民,主とし
て里づくり協議会役員による直接配布・回収を行っ
たところ,回収率は 95%(配布:365 部 回収:348
部)であった.
2.2 研究の方法
本研究では,神戸市の共生ゾーン条例に基づく里
づくり計画を事例に,農村の住民が主体となって行
う計画策定および計画実行について,積極的な参加
を促す方策を明らかにする.そして,本研究では,
住民をさまざまな性質によって群に分類し,それぞ
4.参与観察の概要
上北古地区における里づくりにあたっての 9 回の
会議と 2 回の集落行事にて参与観察を行った.
1
5.研究の結果
5.1 アンケート調査の結果
図 1 に示す単純集計によると不参加理由は,下の
図のように上位から「参加時間がとれない」(以下,
時間不足)
,
「活動内容がよくわからない」
(以下,内
容不明),
「体力的にきつい」
(以下,体力不足),
「関
心がもてない」
(以下,関心低)
,
「効果が期待できな
い」(以下,効果低),「貢献できない」
(以下,貢献
難)となった.
表2
集団による参加環境
集団
環境
①
非農家
婦人会
「行事を減らすべ
き」との回答者
前半の協議会から参加する協議会
の主要な成員は,外部から指摘さ
れなくても参加を求めている.
② 非農家の多くは内部出身者の兄弟
などであり,集落内事情に疎くな
いと推察される.
同じく協議会の主要な成員は,外部か
らの要請があって婦人会員を意識して
いれば,それらの婦人会員に積極的な
参加を求められる.
協議会の主要な成員は行事を減らすべ
きという意見にどの段階でも消極的で
ある.
6.調査結果に基づく考察および結論
表 2 から,非農家・婦人会・「行事を減らすべき」
との回答者に対する計3つの環境は,協議会の成員
が参加促進策を採用する精神的な障壁の小さい順に
並んでいると考えられる(表 3).表 1 と表 3 から,
各群に対して参加促進施策を提案できる.
表3
集団による参加促進施策採用の難易度
集団
環境
低
非農家
図1
不参加理由
他の問の回答ごとにこれら6つが不参加理由とし
て選択される割合についてのクロス集計を行い,選
択された割合が相対的に大きかった不参加理由によ
って整理したところ,表 1 のようになった.
表1
「行事を減らすべき」との回答者
不参加理由として選択される割合が
(太字は,不参加希望の割合が 80%以上であった集団)
不参加理由
選択した割合が大きかった集団
記
号
A
時間不足
B
内容不明
C
体力不足
D
関心低
E
効果低
F
貢献難
高
たとえば A 群に対しては,婦人会・子供会を通じ
て手間のかからない参加法の提案や,記事内容での
勤務時間外を利用した短時間での参加可能性の示唆
が参加促進施策として考えられる.このうち,婦人
会に対する参加促進施策に関して,表 6-1 より,参
加促進施策採用の難易度が中程度であり,外部から
の提案があるか無いかということが最も施策採用に
影響すると考えられる.
B 群について,非農家世帯主や女性に関しては,
そういった層の不理解を特に意識した説明をすると
いう施策が考えられる.特に非農家については,表
6-1 より参加促進施策採用の難易度が低程度である
ため,小さい援助で住民が比較的自立的に施策を実
行に移す可能性が高いと考えられる.
さらに C 群については,体力不足を不参加理由と
している集団に対しては,より体力の要らない参加
を提案することが参加促進施策として挙げられる.
その時,老人会といった場を利用することも有効で
あると考えられる.
大きい項目による整理
群
中
婦人会
恒常的勤務,臨時勤務,40 歳~59 歳,婦
人会,子供会
非農家世帯主,女性,
「営農組織を利用し
て集落ぐるみで農業を続けるべき」
,自慢
「共同利用できる施設」
女性,高齢者,老人会
非農家世帯主,男性
里づくりへの関心が低い,転用「積極的
にすべき」,行事「改善が必要」,行事「や
めたほうがよい」
,広報不必要,交流イベ
ント不必要
一員意識低,定住意向低,里づくりへの
関心が低い,広報不必要,
交流イベント不必要
参考文献
1) 門間敏幸,安中誠司(1997):住民参加に関する
市町村職員の意識特性と規定要因 ―東北中山
5.2 参与観察の結果
参与観察の結果,里づくりに参加することに関す
る環境について,次の表 2 のようなことがわかった.
間地域を対象として― 農村計画学会誌 16
No.2. 98-109
2
消化液による藻類培養を利用した循環型メタン発酵機構構築のための基礎研究
Basic Research for the Material Circulation Type Anaerobic Digestion System Using the
Microalgae Cultivation by Methanogenic Digestate as a Culture Medium
Key words: Anaerobic Digestion, Methanogenic Digestate, Microalgae
農業システム工学分野
1.背景
今日,主に用いられているエネルギーは石油をは
じめとする化石燃料である 1).しかし,化石燃料に
は問題点も多い.埋蔵量が限られていること(枯渇
性エネルギー)や CO2 等の放出により環境負荷が高
いこと等が代表的なもので,代替物として再生可能
エネルギーの導入が進められている.本研究は,そ
の中のバイオマスエネルギーのひとつであるメタン
発酵に着目する。
メタン発酵は微生物の働きにより有機物を分解し,
メタンと二酸化炭素からなるバイオガスを製造する
手法である.この過程で,発酵残渣である消化液と
呼ばれる副生成物が発生する.メタン発酵を行う施
設ではこの消化液の処理のための化学薬品が支出の
多くを占め,経営を圧迫している 2).
2.目的
William らは豚と牛の糞尿由来の消化液を用いて
微細藻類培養を行った 3).本研究では微細藻類を消
化液で培養したと仮定し,消化液中の有機物を再び
メタン発酵に利用する循環型の機構を構築すること
を目的とする.そのため,微細藻類を基質としてメ
タン発酵槽に投入した際に生成されるバイオガス量
の計測,およびその計測用に安定した実験室でのメ
タン発酵を実現するための装置の試作を行った.
3.実験装置および実験方法
3.1 馴養実験
(1) 実験概要
予備実験としてコーヒー残渣を基質とした嫌気消
化を固形分濃度 5 %,水理学的滞留時間(Hydraulic
Retention Time: HRT) 30 日を目標として行った.嫌
気消化に用いる種汚泥については,京丹後市エコエ
ネルギーセンターで採取したものを用いた.HRT を
急激に減少させると有機物負荷の増加により発酵槽
のメタン生成菌が失活してしまう恐れがあるため,
徐々に目標の値にまで減少させた.発生したガス量
のほか,安定性の指標として pH の計測を継続して
行った.計測は 4 月 25 日から 12 月 4 日までとした.
浅井
啓志
(2) 実験装置
5 L のポリ瓶を有効容積 4,200 mL の発酵槽として
使用した.実験当初は恒温器を用いて発酵槽内の温
度を 37 °C に維持したが,種汚泥として高温発酵槽
の汚泥を使用しているため有機物負荷の上昇に伴い,
有機酸の蓄積が認められた.そこで,ラバーヒータ
ーにより発酵槽内温度を 55 °C に維持するよう変更
した.発生したガスは飽和食塩水を満たしたポリ瓶
内に捕集され,置換された食塩水の体積を測定する
ことでガス発生量とした.
3.2 微細藻類を原料としたメタン発酵との比較実験
(1) 実験概要
微細藻類を原料としたときのガス発生量,消化液
の性状に対する影響を確認するために比較実験を行
った.馴養試験で用いた発酵槽内容物を 600 mL ず
つ 6 つの発酵槽に分割し,28 日間馴養を行った.こ
の時の運転条件は,固形分濃度 4 %のコーヒー・お
から混合物を原料とし,HRT を 30 日に設定した.
馴養終了後,微細藻類投入区と対照区にそれぞれ
3 つの発酵槽を設定し,微細藻類区では馴養中の運
転条件のうち投入原料の固形分の 25 %を乾燥微細
藻類で置き換えた.その他の運転条件は馴養中と同
じである.
(2) 実験装置
容積約 1 L の塩ビパイプ製の発酵槽を試作した.
図 1 に示すように発酵槽は温度 55 °C に設定された
ウォータバス内で保温され,発生したガスはアルミ
バッグで捕集される.ガス発生量はシリンジにより
測定した.
4.結果と考察
4.1 馴養実験
計測したガス排出量を 1 時間当たりの排出量に換
算したものを図 2 に,pH を図 3 に示す.グラフの空
白部は計測できていない期間を示す.種汚泥を採取
した京丹後市エコエネルギーセンターでは HRT は
100 日程度で運転されているため,実験開始時は
HRT を 84 日に設定し,徐々に HRT を減少させるこ
ととした.図 2 より HRT を 70 日に設定した 5 月 29
1
の発酵槽がすべて失活傾向を示した.その中で,微
細藻類投入区は比較的安定的であった.この効果に
ついてはさらに長期的に観察する必要がある.
日からガス発生量が減少していることが,また,図
3 から pH が減少していることがわかる.これは種汚
泥を採取した発酵槽が高温で運転されているにもか
かわらず中温で運転していたため,有機物負荷を上
昇させたときにメタン生成菌の増殖速度が産生成菌
の増殖速度に追いつけず,有機酸が蓄積したためで
はないかと思われる.そこで,6 月 17 日に運転条件
を高温に変更した.運転条件変更後はガス発生量,
pH ともに回復したが,HRT を 42 に変更した 7 月 28
日以降,再びガス発生量の減少,pH の低下が観測さ
れた.これはコーヒー残渣の C/N 比が約 23 と炭素
分が高いために有機酸が蓄積されたのではないかと
考えられる.そこで 8 月 13 日に投入原料をコーヒ
ー残渣とおからの混合物(1:1)に変更した.この原料
の C/N 比は約 17 であった.原料変更後は安定的な
運転が行われていることが図 2,3 からわかる.
4.2 比較実験
12 月 20 日から 1 月 16 日までの小型発酵槽での馴
養後,発酵槽 1,2,3 を対照区として固形分濃度 4 %
のコーヒー残渣とおからの混合物(1:1)を,発酵槽 4,
5,6 を微細藻類区として固形分濃度 4 %のコーヒー
残渣,おから,乾燥微細藻類の混合物(3:3:2)を原料と
して比較する予定であったが,対照区の発酵槽 2 と
3 が失活し比較が困難になった.発酵槽 2 について
は pH の減少とバイオガス発生量の低下が認められ
たが原因は不明である.発酵槽 3 についてはバイオ
ガスとともに水蒸気が大量に排出されており,発酵
槽内部の液量が減少したため有機物負荷が高まり酸
敗したものと考えられる.微細藻類区の発酵槽につ
いては pH の低下が認められなかったため,1 月 29
日から 2 月 21 まで実験を継続し,対照区のデータ
として 12 月 20 日から 1 月 16 日までの馴養中のデ
ータと比較した.
微細藻類区の発生ガス量の平均値は馴養中の発生
ガス量の平均値より約 15 %減少した.このことから,
微細藻類は嫌気消化では分解されにくいのではない
かと考えられる.しかし,比較実験期間中の対照区
で失活しなかった発酵槽 1 でも,pH は低下傾向にあ
り,またガス発生量は微細藻類区より少量で安定し
ていた.これらのことから,今回の実験で何らかの
操作の不手際から時間の経過とともに発酵槽が失活
傾向にあったのに対して,微細藻類の投入により安
定化する効果があったのかもしれない.
図1
図2
メタン発酵と微細藻類培養の組み合わせによる施
設内物質循環の可能性を検討するために実験を行っ
た.馴養実験および比較実験の馴養中は安定的にバ
イオガスを生産することができたが,その後対照区
1)
3)
2
バイオガス排出速度
図3
2)
5.まとめ
実験装置
pH
参考文献
資源エネルギー庁(2014)
:平成 25 年度エネルギーに
関する年次報告(エネルギー白書 2014),189-190.
吉田 隆(2007):バイオマスからの気体燃料製造と
そのエネルギー利用(第 1 版), 株式会社 エヌ・テ
ィー・エス
William J. Bjornsson et al. (2013) : Anaerobic digestates
are useful nutrient sources for microalgae cultivation:
functional coupling of energy and biomass production,
Journal of Applied Phycology, 25(5), 1523-1528.
茶園とその周辺地域における灌漑期の窒素動態
Nitrogen Dynamics in and around Tea Plantations in Irrigation period
Key words: Tea plantation, Nitrogen, Statistics analysis, Self-purification
水資源利用工学分野
浅井
昂也
1. 研究の背景と目的
近年,硝酸性窒素による地下水汚染が全国的に顕
在化しており,茶園での有機肥料や無機肥料の過剰
な使用もその原因の一つである 1).加えて,過去の
多施肥により集積した茶園からの湧水及び河川水と
して流出を続けている硝酸性窒素の除去対策も必要
になっている 2).本論文では,丘陵の頂上部が茶園,
斜面部が森林,裾野が水田として利用されている地
域の硝酸態窒素の動態を調査し,データを統計的に
分析することで,茶園地帯周辺の窒素の動態を明ら
かにする.
図 4 エリア4
滋賀県甲賀市にある布引丘陵の今郷池(今郷ダム)
周辺に広がる地域(図 1)を対象として,山川に流れ
込む排水路およびその周辺の耕作放棄水田・森林を
調査した.
水田・畑,茶園,森林からなる丘陵北側の斜面を
エリア1(図 2),その東側の丘陵北側斜面をエリア
2(図 3 採水ポイント 18,20,21,22),エリア2から
下流の山川に注ぎ込む排水路をエリア3(図 3 採
水ポイント 6~1),排水路と山川の合流地点直後か
ら約 1,160m 下流にかけての山川をエリア4とする
(図 4)
.
2. 調査対象地域と窒素測定方法
2.1 調査対象地域
2.2 窒素測定方法
2014 年 5 月 12 日,13 日,7 月 1 日,15 日,31 日
に図 1~4 の採水ポイントにおいて採水し,パックテ
スト(株式会社 共立理化学研究所)を用いて NO3-N
濃度を測定した.
図1
調査エリア全体図
3. 調査結果
エリア1からエリア4の測定結果を表 1~3 に表
す.
表1
エリア1(左),エリア2(右)における NO3-N 濃度
point 5/12 5/13 7/1 7/15 7/31 point 5/12 5/13 7/1 7/15 7/31
23 0.2 0.0 0.0 0.0 0.1 18 10 10 10 10 10
24
図2
エリア1
図3
-
-
0.0
0.0
0.0
20
-
10
10
10
10
25
-
0.0
0.0
0.0
0.0
21
10
10
10
10
10
26
0.1
0.0
0.0
0.0
0.0
5
10
10
10
27
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
東池 0.0
0.0
0.0
0.0
0.3
22
-
単位:mg/L
エリア1ではほとんど NO3-N は検出されなかっ
たが,エリア2では高濃度 NO3-N が検出された.エ
リア2のほとんどの値が 10mg/L であるのは,パッ
クテストの上限値であることを示している.
エリア2,3
1
表2
point
6
5
4
3
2
1
N 濃度が減少していると推察される.
さらに,エリア3とエリア4において,流下距離
100m あたりの NO3-N 濃度減少率を表 5 に示す.こ
れら 2 つの区間の減少率は統計的に有意差が認めら
れなかった.つまり,排水路と山川の全体として有
する浄化能力は同等であると判断される.これは,
排水路と山川は同様な構造(側壁はコンクリートで
底面は土砂が堆積)をしているからと考えられる.
エリア3における NO3-N 濃度
5/12
10
5
5
5
5
2
5/13
3
3
2.4
2.4
2
2
7/1
5
5
5
3
3
3
7/15
0.5
2.7
4
5
3.3
2
7/31
5
4.4
4
3
2.4
2
表 2 よりエリア3では 7/15 を除いて,流下方向で
ある採水ポイント 6→1 へ NO3-N 濃度は減少傾向に
ある.
表3
point
48(上流)
50(下流)
表5
区間
6→1
48→50
エリア4における NO3-N 濃度
5/12
1
0.5
5/13
1
0.5
7/1
1
0.3
7/15
0.8
0.5
7/31
1
0.0
4. 統計的分析
本研究では,Mann-Whitney 検定を用いることで,
任意の 2 群のデータ間における有意差の有無を検証
する.データから得られる値が有意水準α(本研究
ではα=0.05 とする)と比較し,下回れば帰無仮説を
棄却でき有意差が認められる 3).
表6
区間
6→5
5→4
4→3
3→2
2→1
5. 考察
(1) 土地利用に起因する NO3-N 濃度の地域差
エリア1とエリア2の NO3-N 濃度の比較では,統
計的な有意差が認められた.この違いをもたらして
いる原因は,それぞれの調査エリアを含む集水域の
土地利用であると推察される.表 4 にそれぞれの土
地利用を示す.この表より茶園の割合が高いと,
NO3-N 濃度も高くなると考えられる.
エリア1
エリア2
畑・水田
14%
15%
5/12
0.177%
0.043%
5/13
0.074%
0.043%
7/1
0.088%
0.060%
7/15
‐
0.032%
7/31
0.132%
0.086%
エリア3での流下距離(100m)あたりの減少率
距離(m)
113
64.7
16.3
152
107
5/12
0.442%
0.000%
0.000%
0.000%
0.561%
5/13
0.000%
0.309%
0.000%
0.110%
0.000%
7/1
0.000%
0.000%
2.454%
0.000%
0.000%
7/15
-
7/31
0.113%
0.128%
1.534%
0.129%
0.159%
6. 結論
NO3-N 濃度は水路,河川と流下するにつれ減少し
ていることから,調査したエリアにおいて水質は浄
化される傾向にあると推察できる.しかしながら,
データ数の不足による統計的な不確実があることと,
流量を考慮していないので,窒素の収支が不明であ
り,布引丘陵全体における窒素動態を明らかにする
には更なるデータの蓄積が必要である.
土地利用の割合
茶園
2%
24%
距離(m)
453
1160
(3) 排水路内の NO3-N 濃度変化率
水質浄化は局所的に生じている可能性があり,そ
れを確認するために,エリア 3 の各採水ポイント間
での 100m あたりの NO3-N 濃度減少率を計算した
(表 6).変化率が大きい区間 4→3 と,それ以外の
区間との比較ではデータ間に有意差は認められなか
った.このことから,局所的に浄化されているとは
言えないことがわかった.
表 3 よりエリア4では上流よりも下流の方が小さ
い値を示した.
表4
流下距離(100m)あたりの NO3-N 濃度減少率
森林
85%
61%
1)
(2) 排水路と山川の水質浄化
表 2 に示したエリア3の採水ポイント 6(最上流)
と採水ポイント 1(最下流)の間(453m)での NO3N 濃度には統計的に有意差が認められたことから,
この排水路は浄化能力を有すると考えられる.
また,表 3 に示したエリア4の採水ポイント 48
(上流)と採水ポイント 50(下流)の間(1,160m)
での NO3-N 濃度にも統計的に有意差が認められた
ことから,山川は浄化能力を有し,流下に伴い NO3-
2)
3)
2
参考文献
井伊博行,平田健正,松尾宏,田瀬則雄,西川雅高
(1997):茶畑施肥に由来する硝酸性窒素と周辺表流水
に及ぼす影響,水工学論文集,41,575~580.
新良力也,渥美和彦,宮地直道(2005):水田灌漑によ
る茶園流出水中の硝酸性窒素の除去,茶業研究報告,
100,117~120.
森北博巳,鍋谷清治,刈屋武昭,三浦良造(2007):
ノンパラメトリック-順位にもとづく統計的方法―
森北出版,5-13.
画像処理による果樹の体積計測のための基礎研究
――果樹模型を用いた分枝構造再構築手法の開発――
The basic research for fruit tree volume measurement by image processing
—Development of 3D reconstruction method of branching structure by using fruit tree model—
Key words: Tree volume, 3D reconstruction, Image processing
フィールドロボティクス分野
1.緒言
現在,日本の農業は高齢化などの問題に直面して
おり,農業の省力化を達成することが不可欠である.
従来手動で計測し,非常に時間と労力が費やされて
いた果樹樹木の体積測定を自動で測定することがで
きれば,大きな省力化に繋がると考えられる.
先行研究として,Dassot1)は森林中の樹木の体積を,
レーザースキャナを用いて±30%の精度で測定して
いる.しかし,レーザースキャナは高価であり,測
定に要する時間も樹木一本あたり数時間がかかる.
そこで,レーザースキャナの代わりに複数の画像
を用いて,3 次元構造を再構築し,そこから体積を
算出することで,コスト・労力・時間を抑えること
が本研究の最終目的である.今回の研究では,実際
の圃場の画像を使用する前に,模型を用いて分枝構
造を再構築するプログラムを開発した.また,プロ
グラミングソフトは Matlab(Mathworks, R2013a)を使
用した.
2.実験方法
阿波野
巧也
2.2 3 次元再構築
取得した果樹模型画像にトリミング,グレースケ
ール化,大津法による 2 値化,リサイズ(1/20),白
黒反転の前処理を行い,枝および幹の部分が白,背
景が黒となった 2 値画像を得る.
正面,45°,90°,135°からの 2 値情報によっ
て,3 次元再構築を行う.
正面と 45°,正面と 90°,
正面と 135°の 3 つの組合せによって 3 つの 3 次元
再構築体を得て,それらの論理積をとることによっ
て,4 つの角度の情報を統合した 3 次元構築体を得
る.
次に,ラベリング処理を用いて 3 次元再構築体の
水平断面の連続性を考慮する.果樹において,下方
に枝が存在しない部分からは突然枝が生えることは
ない,という仮定を用いる.3 次元再構築体の連続
する水平断面を取り出し,それぞれにラベリング処
理を行う.上方の断面の 1 以上のラベルのうち,そ
のラベルのすべての座標において下方のラベルが 0
であるラベルを削除する.
3.実験結果および考察
2.1 果樹模型作成と画像取得
京大附属高槻農場で撮影したナシ果樹の画像をも
とに,材木によって果樹模型を作成した.検出を容
易にするため,模型を黒く着色した.その後,模型
を 45°ずつ回転させながら果樹模型の画像を取得
した.図 1 に正面および 45°回転の果樹模型画像を
示す.
3.1 3 次元再構築体の再現性
図 2 に,3 次元再構築体の x=20 から x=120 まで
高さを 20 ピクセルごとのの水平断面を示す.また,
3 次元再構築体のサイズは 143×188×191 であった.
(x は鉛直下向き正)
x が大きく,分枝数が少ないときは正しく検出さ
れているが,x が小さく分枝数が大きくなると,細
かく誤検出が起きた.これは,枝と枝との重なりが
生じることによって,4 枚の画像のみではそれを取
り除き切れなかったことが原因であると考えられる.
また,重なりが生じていない部分においても,1 本
の幹が 3 本に枝分かれして検出されているという誤
検出が生じていた.これは,水平断面の連続性のみ
では余分な誤検出を取り除ききることができないこ
とを示していると言える.
また,図 2 真中上部の x=40 における水平断面に
おいて,画像中の真中左部分に細い枝が検出される
図 1 果樹模型画像(左:正面,右:45°回転)
1
はずであったが,ここでは検出されなかった.これ
は枝が細すぎた,そして撮影時の角度回転やトリミ
ングによってずれが生じ,論理積をとる際に重なり
が生じず消えてしまったなどの原因が挙げられる.
での水平断面において,水平断面の連続性を考慮す
ることによって,合計 111 個の余分なオブジェクト
を消去することができた.また,消去されるべきで
ないオブジェクトを消してしまったという例はなく,
ラベリング処理によって水平断面の連続性を考慮す
ることで,誤検出を十分に減らすことができたと言
える.
4.結言
図2
3 次元再構築体(左上:x=20,右下:x=120)
これらの誤検出および検出失敗を減らすためには,
入力画像の枚数を増やすこと,画像の撮影およびト
リミングをより正確に行うことが有効であると考え
られる.
3.2 水平断面の連続性の考慮の有効性
図 3 に水平断面の連続性を考慮する前のラベル画
像および,考慮した後のラベル画像(x=40,39)を
示す.
4 枚の果樹模型画像から 3 次元再構築を行うプロ
グラムを開発した.正面と 45°,正面と 90°,正
面と 135°の 3 つの 3 次元再構築体を得て,それら
の論理積をとることで 4 方向の情報を統合した.下
方に枝が検出されていない部分に突然検出されてい
る枝を,ラベリング処理を用いた水平断面の考慮に
より取り除いた.
結果としては,細かい誤検出は存在するが,2 回
目の分枝までは枝ぶりを検出することができた.3
回目の分枝以上になると,枝どうしの重なりが複雑
になり,検出されなかった箇所が生じた.
細かい誤検出を減らすための方法としては,入力
画像の枚数を増やすことや,さらに誤検出を減らす
アルゴリズムを開発することなどが挙げられる.労
力や処理時間をなるべく抑えながら,誤検出が少な
くなるような入力画像の枚数やアルゴリズムを検討
していくことが今後必要となるだろう.
また,本研究では 3 次元再構築のみを対象とした
が,得られた 3 次元構造体から体積を算出するアル
ゴリズムの開発や,実際の圃場における果樹画像を
撮影した際の画角の補正,そして果樹画像における
果樹の検出アルゴリズムの開発なども今後の課題と
して挙げられる.
1)
2)
3)
図3
x=40,39 におけるラベル画像
(上:連続性の考慮前,下:連続性の考慮後)
図 3 上段のラベル画像において,赤く丸で囲んだ
部分が,水平断面の連続性の考慮によって消去され
た部分である.3 次元構造体中の x=1 から x=143 ま
2
参考文献
Dassot, M., Colin, A., Santanoise, P., Fournier, M.,
Constant, T., 2012. Terrestrial laser scanning for
measuring the solid wood volume, including branches, of
adult standing trees in the forest environment, Coumputers
and Electronics in Agriculture, 89, 86-93
Cheein, F.A., Guivant, J., 2014. SLAM-based incremental
convex hull processing approach for treetop volume
estimation, Coumputers and Electronics in Agriculture,
102, 19-30
Rovira-Más, F., Wang, Q., Zhang, Q., 2010. Design
parameters for adjusting the visual of binocular stereo
cameras, Biosystems Engineering, 105, 59-70
画像処理による畝間検出手法の開発
-クラスタリング手法を用いた検出Developing new method for detecting furrows by image processing
Key words: Image Segmentation, Clustering, Fuzzy c-means
フィールドロボティクス分野
1.緒言
日本農業の課題として、様々な原因が相まって将
来の労働力不足が懸念されているが、その一つの解
決手段としては農作業のロボット化、自動化が考え
られている.自動化実現のための技術の一つには自
律走行技術があり、それは大きく分けて経路決定と
経路追従制御からなる.本研究は画像処理による経
路決定の分野に属し、対象画像は畝画像である.
先行研究として、高垣 1)では太陽光の強さ次第で
畝に影が生じたり生じなかったりする事に着目して、
その影の有無により経路決定のアルゴリズムを変え
た.畝の影が薄い場合は、畝の底が滑らかな場合に
対象を限定して畝の底を検出した.本研究では畝の
影が薄く、かつ畝の底が滑らかでない場合にも小型
ビークルロボットが走行可能になるような画像処理
アルゴリズムを開発したい.
そこで、本研究の目的は、
(ロボットのコントロー
ルを前提に)圃場内で撮影した畝画像を画像処理す
ることで、畝領域と畝間領域にセグメンテーション
することである.実際に経路の決定を行って自律走
行を行うためには、本研究で得られた結果をもとに
さらに処理を加えて、走行経路を決定する必要があ
る事に注意されたい.畝と畝間領域の曖昧性やその
境界の曖昧性といった特徴をもつ画像をうまく取り
扱う必要があるから、Fuzzy c-means 法を用いたクラ
スタリングを考え、曖昧性を陽に扱う事とする.ま
た、畝が大域的な構造を持つという特徴が利用でき
るように、画像のサイズを小さく変更したり、平滑
化を行った.
今回の開発環境として、学生向けの無償版
Windows Visual Studio Professional 2013 もしくは
Windows Visual Studio Express 2010 を利用した.また
使用言語は C++で、ライブラリとして OpenCV2.49
および C++の STL を使用している.
2.画像処理によるセグメンテーション方法
セグメンテーション手法として、ここでは特徴空
間でのクラスタリングによる分割を考える.クラス
1
石井
舜悠
タリング手法は Fuzzy c-means 法及びその派生手法
を試す.また、特徴空間としては輝度空間及びテク
スチャ向き空間を考える.最後に、農業用小型ビー
クルロボットが畝間にいる状態を仮定し、畝間は目
の前にあるという知識を使用して、畝間領域を検出
する.
2.1 特徴空間の種類
(1) 輝度空間
輝度空間とは、輝度画像(L*チャネル画像)の画素
値そのものを特徴量とみなした特徴空間である.
(2) テクスチャの向き空間
テクスチャの向き空間とは、各画素のテクスチャ
の向きを抽出し、それを特徴量とみなした特徴空間
である.テクスチャ向きの決定は一般化ラプラシア
ンオブガウシアン(gLoG)フィルタを画像に畳み込む
事による 2).
図1
gLoG フィルタ(2)より引用)
2.2 クラスタリング手法の種類
(1) K-means 法
2
min: 𝐽0 (𝑈, 𝑉) = ∑𝑐𝑖=1 ∑𝑁
𝑘=1 𝑢𝑘𝑖 (𝑥𝑘 − 𝑣𝑖 )
𝑠. 𝑡. : ∑𝑐𝑖=1 𝑢𝑘𝑖 = 1, 𝑢𝑘𝑖 𝜖{0,1}
𝑣𝑖 ∈ ℝ:クラスタ中心の値
𝑥𝑘 ∈ ℝ:クラスタリングするデータの値
𝑢𝑘𝑖 :データ𝑥𝑘 がクラスタ i に帰属する度合い・帰属
度(fuzzy membership)
i = 1,2, ⋯ , c:クラスタ番号
k = 1,2, ⋯ , N:データ番号
U ∈ ℝ𝑐∗𝑁 :𝑢𝑘𝑖 をまとめたベクトル
V ∈ ℝ𝑐 :𝑣𝑖 をまとめたベクトル
(2) Fuzzy c-means 法
𝑚
2
min: 𝐽(𝑈, 𝑉) = ∑𝑐𝑖=1 ∑𝑁
𝑘=1 𝑢𝑘𝑖 (𝑥𝑘 − 𝑣𝑖 )
𝑐
s. t. : ∑𝑖=1 𝑢𝑘𝑖 = 1 , 0 ≤ 𝑢𝑘𝑖 ≤ 1
ただしm > 1
図 3 投票の方法
なお、このアルゴリズムは Hui Kong ら 2)によって
提案されたものを一部改良したのみである.
3.画像処理によるセグメンテーション結果と考察
5.画像処理による消失点検出の結果と考察
目視による評価を行った.
3.1 結果
(1) 輝度空間
K-means 法:正答は 50 枚中 8 枚
Fuzzy c-means 法:正答は 50 枚中 7 枚
図2
実際の消失点付近(目視での消失点)と赤の十字(検
出した消失点)の差が 3mm 程度なら、正答とした.
5.1 結果
正答は 50 枚中 9 枚
Fuzzy c-means 法によるクラスタリング結果の例
(2) テクスチャの向き空間
K-means 法:正答は 50 枚中 1 枚
Fuzzy c-means 法:正答は 50 枚中 5 枚
3.2 考察
多くの画像で(目的としていた)畝間検出を失敗
している.特徴量に輝度を使う場合、本質的には減
色処理を行っているにすぎない事が再認識させられ
た.特徴量にテクスチャ向きを使う場合、今回の前
処理のもとでは畝間と畝の違いを抽出できなかった.
今後本研究を進めるにあたり、畝と畝間の違いを抽
出する適切な特徴量を構成する必要もあることが分
かる.本研究での畝間検出失敗の根本的な原因は適
切な特徴量の発見ができなかった事であり、それゆ
え K-means 法・Fuzzy c-means 法間の比較ができるほ
どの結果さえも得られなかった.得られた検出領域
の手法間の定量的な差の考察や、手法間の計算時間
の差の考察などを積み残しており、十分な考察がで
きたとはいえない.
5.2 考察
参考文献 2)での対象画像と本研究の対象画像の違
いは、消失点が画像内にあるか否かである.どの点
が投票点に選ばれるかを考慮すれば、その構図の違
いゆえ、本研究では消失点付近の情報が使用できず、
参考文献 2)での対象画像と比較して検出が難しくな
ったことが考えられる.
6.結言
本研究のように、特徴空間に輝度やテクスチャ向
き空間を考えて、K-means 法・Fuzzy c-means 法でク
ラスタリングした場合、畝と畝間のセグメンテーシ
ョンができなかった.さらなる特徴量の工夫が必要
であると考えられる.
また、消失点の検出では、50 例中 9 例で正しく検
出できた.画像の構図の工夫をする事で、より容易
に検出できよう.
本研究のクラスタリング手法を用いて、障害物(畝)
や障害物がない場所(畝間)を検出し、消失点を考
慮しながらビークルを制御できるようになればよい
だろう.
4.画像処理による消失点検出の方法
今後の一つの展開として畝画像の消失点の検出を
する事を考えた.この補足的な実験の目的は、消失
点の検出を行う事である.
前処理、特徴抽出(テクスチャ向き)後、ある規
則に則って消失点の候補点が消失点であるかどうか
を決める「投票」を行う.
1)
2)
2
主な参考文献
高垣 茜,”農用車両ナビゲーションのための画像処理
による畝間検出手法の開発” 京都大学農学研究科修
士論文, 2014.
Hui Kong, Sanjay E. Sarma, and Feng Tang,”Generalizing
Laplacian of Gaussian Filters for Vanishing-Point
Detection,”
IEEE
Transactions
on
Intelligent
Transportation Systems, vol. 14, no. 1, 2013.
農山村地域活性化におけるクラウドファンディングの有用性に関する研究
Study on usefulness of crowdfunding as a tool for revitalizing rural areas
Key words: crowdfunding, rural area,, buying type
農村計画学分野
1. 研究の背景と目的
2011 年 3 月、わが国を襲った東日本大震災の後、
全国、そして世界中から多くの寄付が集まったが、
yahoo!ネット基金などネットワークを介した寄付も
多く集まった。その中で注目を集めた方法がクラウ
ドファンディングである。クラウドファンディング
とは crowd(=群衆)と funding(=資金調達)の造
語で、新しい商品やアイデアを持つ人がインターネ
ットを通して不特定多数の人々から小口のお金を集
めることである。ものづくりや芸術など様々な分野
でも使われるようになり、平成 26 年度内閣官房地域
活性化統合事務局による地域活性化の推進に関する
関係閣僚会合では「クラウドファンディングなど地
域住民による直接的な資金提供や、寄付、さらには
大都市等他地域の住民から地域への資金の流れを作
る産業育成プロジェクトを重視して取り組む」とあ
る。クラウドファンディングが農山村地域活性化の
ための新たなツールとして活用できる可能性がある。
一方農山村地域における有効的なクラウドファン
ディングの利用法といった先行研究はほとんどない。
本研究では、農山村地域においてクラウドファンデ
ィングで資金調達に成功した事例を調査することで
クラウドファンディングが資金という面以外で生み
出した副産物、そして今日における潮流を分析する
ことで農山村地域における活用のメリットを明らか
にする。そして有効的な利用法を提示することで農
山村地域におけるクラウドファンディング利用のさ
らなる促進になることを目的とする。
2. クラウドファンディング概要
インターネットを介した大衆からの資金調達は、
1997 年にイギリスのロックグループマリリオンの
ファンが全米ツアーを引き受け、ファン主催のイン
ターネット上のキャンペーンによる寄付で 6 万ドル
を集めたことが始まりだと言われている。クラウド
ファンディングは資金提供した人に送られるリター
ンの性質により「寄付型」
「購入型」「投資型」の3
つに分けられる。投資型はさらに「貸付型」
「ファン
ド型」
「株式型」に分けられる。以下がそのリターン
稲垣 伸
による分類である。
表1
クラウドファンディング
類型
類型
リターン
特徴
寄付型
なし
被災地や途上国支援な
ど、社会意義の高いプロ
ジェクトが多い
購入型
金銭以外のモ
社会貢献から芸術など幅
ノやサービス
広い分野がみられる。
(完成した製
品やイベント
の招待券な
ど)
投資型
貸付型
利子
リターンが金銭であるた
ファン
売り上げに応
め事業主への審査が厳
ド型
じた配当
格。
株式型
業績に応じた
資産運用という面が大き
配当
い。
本研究ではクラウドファンディングのうち、農山
村地域活性化を目指すプロジェクトの初期段階に向
いていると考えられる購入型でのクラウドファンデ
ィングを対象としている。その中でも特に地域活性
化を目指したプロジェクトが多いプラットフォーム
である「READYFOR」と「FAAVO」の二つを研究
対象とした。農山村地域におけるプロジェクトに絞
り 6 件の事例に電話、対面を含む聞き取り調査を行
った。以下がその概要である。さらにクラウドファ
ン デ ィン グの 課 題や 近年 の 潮流 を調 査 する ため
2015 年 1 月 15 日に品川で行われたクラウドファン
ディングサミット 2015 というセミナーに参加し、
FAAVO、kibidango、GREEN FUNDING、Makuake の
4 つのプラットフォ―マーの代表にお話を伺った。
3.調査結果
FAAVO 新潟を対象にした
資金調達目的
調査によると
FAAVO 新潟に
古民家の改修費
集まった支援のうち県外在
イベント開催費等
住者と県内在住者の比はほ
着ぐるみ製作費
ぼ半々、さらに県内出身と県
冊子製作費
外出身の比は 6 対 4 であった。
住宅建設費の一部
いかに県外の人々からも共
猟師の学校の教材
感を集め資金調達に繋げる
費
かが重要であることがわか
る。また左記の調査事例全てからクラウドファンデ
ィングを通じて資金調達をする副産物として、お金
と共に共感も集め、その輪を広げながらプロジェク
トを遂行できるという点が挙がった。そしてそれを
支えるのは購入型クラウドファンディングでプロジ
ェクトを立ち上げる障壁の低さであることがわかっ
た。また今後の動向として行政の利用と EC との連
携という点が挙げられる。
ウドファンディングへの参入となる。その他にも大
阪府では「クラウドファンディングサポート事業」
を実施している。その知名度向上や中小企業による
促進を目的とし、プラットフォーム記載のため企画、
事業案のサポートを行っている。行政の参入による
信頼性の向上や、行政も税金に頼らず事業を遂行で
きる可能性を秘める。
(2)EC との連携
「kibidango」というプラットフォームではプロジ
ェクトの資金調達期間終了後も同じサイト内に存在
するオンラインストアのページで引き続き商品を売
ることができる。また FAAVO では、無料でオンラ
インストアを開設できる「BASE」と提携し、FAAVO
で資金調達をした後も BASE にて商品を売ることを
薦めている。クラウドファンディングを通して獲得
した支援者を引き続き EC という場で商品を購入し
てもらうことで継続的に興味を持ってもらえるきっ
かけになる可能性が十分にある。
4.1 購入型クラウドファンディングの障壁の低さ
5. まとめ
クラウドファンディングの中でも「寄付型」
「購入
型」はプロジェクト主体に対する条件が「投資型」
に比べ緩い。投資型クラウドファンディングの場合、
行政等による補助金や助成金の申請と同様、各種必
要書類や審査が必須となる。それに比べ購入型の場
合詳細な年次計画書や財務関連の書類は必要なくプ
ロジェクト案を申請してから最短で 3 か月後には資
金調達をすることができる。誰にでも資金調達でき
るチャンスはあるのである。
クラウドファンディングのなかでも特に購入型で
はその参入ハードルは低く自分の想いを実現させた
いという気持ちがあれば誰でも資金を募ることがで
きる。しかしその気軽さゆえ詐欺やプロジェクト失
敗のリスクもはらんでいる。各プラットフォームは
気軽さという利点を残しつつ詐欺といったリスクを
回避する審査基準を設けるべきであろう。リターン
にイベントへの参加権といったプロジェクトへの参
加意識を持てるものを設定するなど、資金調達を通
してお金だけでなく共感も集め、その輪を広げるこ
とが地域外の人からの支援を得ることにもつながる。
新たなつながりを生かしながらプロジェクトを遂行
することで特に農山村地域で課題となっている域外
の人にその地域の資源を訴求するという点に一定の
効果が得られる可能性がある。行政によってその効
果を補完し、さらに EC との連携などが今後見込ま
れるが農山村地域に関わる人が地域の問題を解決し
ようと小さなことからでも何かプロジェクトを立ち
上げるという積み重ねこそが農山村地域において重
要である。そのための一つのツールとして購入型ク
ラウドファンディングは有効であると考えられる。
表1
調査対象概要
4.2 共感を広げながらプロジェクトを遂行する
クラウドファンディングで明確に自分の想いを表
明することで、これまで関わりの薄かった人や、全
く知らなかった人も支援してくれているとわかり、
モチベーションがあがり覚悟がつくだけでなく、ク
ラウドファンディングがあったからこその繋がりか
ら新たなプロジェクトを起案したり実際に協力して
もらったりする機会があるという。農山村地域とい
う不利な条件であるからこそ地域外の人々からも支
援を得て、興味を持ってもらうことがその地域を活
気づけることにつながる。その点で購入型クラウド
ファンディングは有効であると考えられる。
4.3 今後の動向
(1)行政による利用
2014 年 12 月福井県鯖江市が FAAVO を統括する株
式会社サーチフィールドと共同で FAAVO さばえを
開設した。国内では初となる行政による購入型クラ
1)
2)
3)
4)
参考文献
内閣官房地域活性化統合事務局(2014):成長戦略改
訂に向けた地域活性化の取組みについて(案)
CF-library(2014): ク ラ ウ ド フ ァ ン デ ィ ン グ と は ?
(http://cf-library.info/crowd-funding)
FAAVO Magazine(2014):FAAVO 月 刊 レ ポ ー ト
(http://faavo.jp/magazine/4953)
大阪府(2014):クラウドファンディングの促進活用
(http://www.pref.osaka.lg.jp/keieishien/crowdfunding/inde
x.html)
AWD 節水灌漑技術に関する研究レビュー
Review of Alternate Wetting and Drying(AWD)water-saving irrigation
Key words: AWD, Irrigation, Paddy water management
水環境工学分野
稲垣 郁哉
1. はじめに
米は小麦,トウモロコシとともに世界三大穀物と
呼ばれており,年間生産量は約 7 億 2000 万トンであ
る.2025 年には人口増加に伴い,米の生産量を 60%
増加させる必要があるといわれている.地球規模で
の人口増加に伴い懸念される食糧不足,水資源不足
といった問題を軽減するために,今後は稲作におい
て「節水管理」を行うことが必要不可欠である.さ
らに,不適切な水管理は,肥料や農薬成分の流出に
伴う水質汚染,温室効果ガスの放出等,環境に大き
な負荷を与えるため,
「環境配慮型節水管理」の実践
が重要な課題となっている.
「環境配慮型節水管理」に関する近年の研究をみ
ると AWD(Alternate Wetting and Drying)がキーワー
ドとなっている.AWD は常時湛水を避け,湛水の
消失後に灌漑するもので湛水と非湛水を繰り返す間
断 灌 漑 技 術 で あ り , 連 続 湛 水 灌 漑 ( Continuous
Flooding:CF)による稲作に比べ,水を節約できると
報告されている.
本稿では,AWD に関する既往研究を概観し,水
管理,使用品種,播種方法,肥料管理,環境負荷と
の関係についてまとめた.
図 1 レビュー対象論文の調査地とその本数
ルが-20kPa 以下になったら湛水するという閾値が
設定される。また,出穂期や開花期は稲にとって水
分が最も必要な時期であり,ここでの水不足は幼穂
の伸長に影響するため AWD においてもこの期間に
は湛水する場合がある.その後,CF と同様に収穫
の約1週間前に落水する.以上が,AWD における
基本的な水管理の流れである.
また、AWD において収量を維持、または増加さ
せるためには、前提条件として圃場の地下水位が浅
い必要があるというのが一般的な見解である。
2. レビュー方法
Web of Science において,
「AWD, irrigation」をキー
ワードとして検索し,本稿の趣旨に合致した 25 本の
論文を対象にレビューを行なった.調査対象地は,
中国(揚子江流域),フィリピン(国際稲研究所:IRRI)
,
インド(パンジャブ大学・国立中央稲研究所)
,ウズ
ベキスタン(ホレズム州)
,セネガル(セネガル川デ
ルタ)
,ベトナム(メコンデルタ),インドネシア(ロ
ンボク島)であった.調査地ごとの論文の本数を図
1 に示す.
3. レビュー結果と考察
3.2 AWD と使用品種
江蘇省(中国)の揚州大学の調査区において節水
型 耐 乾 燥 性 イ ネ (Water-saving and drought-resistant
rice:WDR)「HY8」と高収量イネ「LXY18」の収量
の違いを比較したところ 1),AWD 区では「LXY18」
の収量が 15.3~21.6%減少した一方で「HY8」の収量
はほとんど変化しなかったため,収量は「HY8」の
方が 9.2~13.4%多く,水生産性(灌漑水量+降水量
に対する収量の比)は 9.0~13.7%高くなった.これ
は,AWD 下では WDR の根の生長が促進され、水
分や栄養素の吸収が高められることが原因であると
考えられる.
3.3 AWD と播種方法
パンジャブ農業大学(インド)と IRRI で行われた
AWD と播種方法(苗移植と直播)と代かきの有無
の組み合わせによる灌漑水量の変化についての調査
の結果 2),3),AWD では播種方法に関わらず CF より
も灌漑水量が減少するが,それぞれの播種方法と
3.1 AWD での水管理
AWD においても,播種直後の数日間は通常の CF
と同様の水管理を行う.その後は,作土が特定の乾
燥限度に達したら灌漑を行う.乾燥限度の指標とし
ては,主に土壌水分ポテンシャルや地表面からの水
位が用いられる.例えば,15cm 深さのポテンシャ
1
AWD の相性は圃場環境によって変化することが示
された.
3.4 AWD と肥料管理
葉緑素量(SPAD 値)が AWD におけるイネの窒素
管理に使用できるか否かについての調査が IRRI に
おいて行われた 4).その結果,SPAD 値を利用した
窒素肥料管理は AWD 下でも実行可能であった.ま
た、SPAD 値と leaf color chart(LCC)の間にも高
い相関が見られ,AWD においては LCC を利用した
窒素肥料管理も有効であるということが示された.
AWD には肥料の吸収効率を高める働きもあるた
め,SPAD 値や LCC を用いた肥料管理方法と組み合
わせることにより,AWD の普及がより現実的なも
のとなるであろう.
図 2 インドネシアにおける CF 区と AWD 区におけるメタン
及び亜酸化窒素ガスの放出積算量
参考文献
3.5 AWD による環境負荷
図 2 はロンボク島(インドネシア)の試験上にて
CF 区と AWD 区の CH4 と N2O の放出積算量を示し
たものである 5).CF 区における CH4 放出量の地球温
暖化ポテンシャルは AWD 区の約 5 倍の値を示した.
一方,N2O 放出量は,常時湛水区では吸収を示した
のに対し,AWD 区では吸収量の約 5 倍の放出量を
示した.しかし,N2O の放出量増加より,CH4 放出
量削減の効果の方が圧倒的に大きく,CH4 と N2O を
合わせた積算地球温暖化ポテンシャルは,CF 区が
AWD 区の 2.5 倍となった.
また、長江デルタ地方(中国)の南西部の景山と
双橋の農業研究所において AWD が N と P の表面流
出量に及ぼす影響を調査した結果 6),N の表面流出
量と P の表面流出量はそれぞれ 23.3~30.4%,26.9
~31.7%減少した.
以上より,AWD は温室効果ガスの発生と肥料成
分の流出による水質汚染を抑制できることが示され
た.
1)
Chu, G; Chen, T; Wang, Z; Yang, J; Zhang, J.,2014.
Morphological and physiological traits of roots and their
relationships with water productivity in water-saving and
drought-resistant rice. Field Crops Reserch.162,108-119.
2)
Sudhir-Yadav, Gill, G., Humphreys, E., Kukal, S.S.,
Walia, U.S., 2011a. Effect of water management on dry
seeded and puddled transplanted rice. Part 1: crop
performance. Field Crops Reserch. 120, 112–122.
3)
Sudhir-Yadav; Evangelista, G; Fardnilo, J; Humphreys, E;
Henry, A; Fernandez, L.,2014. Establishment method
effects on crop performance and water productivity of
irrigated
rice
in
the
tropics.
Field
Crops
Reserch.166,112-127.
4)
Cabangon,
R.
J.;
Castillo,
E.
G.;
Tuong,
T.
P.,2011.Chlorophyll meter-based nitrogen management of
rice grown under alternate wetting and drying irrigation.
Field Crops Reserch.121,136-146.
5)
木村園子ドロテア・登尾浩助(2011)「SRI と土壌環
境」
:
『農業革命 SRI
飢餓・貧困・水不足から世界を
救う』,J-SRI 研究会編,241-256 頁.
4. おわりに
6)
先行研究をまとめた結果,土壌,気候,目的(収
量,水生産性,環境負荷軽減のどれを重視するのか)
に適した品種,乾燥閾値を用いて AWD 灌漑を実施
することで灌漑水量,施肥量,環境負荷の削減と収
量の維持,あるいは増加を同時に達成することが可
能であることが示された.しかし,現時点では AWD
についての研究は現象論的なものがほとんどで,科
学的な検証が未だ不十分な状況にある.また,今回
レビュー対象とした研究は全て,数 m×数 m あるい
は一筆単位の調査用区画を対象に行われており,地
区レベルでの実践的な調査に関する報告はない.
AWD の正確な収量メカニズムの解明と普及のため
には,土壌学・作物学・農業土木学・農村社会学な
どの分野を超えた研究協力が必要である.
Liang, X. Q.; Chen, Y. X.; Nie, Z. Y.; Ye, Y. S.; Liu, J.;
Tian, G. M.; Wang, G. H.; Tuong, T. P.,2013. Mitigation of
nutrient losses via surface runoff from rice cropping
systems with alternate wetting and drying irrigation and
site-specific
Environmental
nutrient
Science
Reserch.20,6980-6991.
2
management
and
practices.
Pollution
滋賀県の名水の水質特性
Water Qualities of Valuable Water Springs in Shiga Prefecture
Key words: Water spring, Shiga, Water quality
水環境工学分野
1.はじめに
滋賀県には近畿の水瓶と言われている琵琶湖があ
り,その面積は県の約 1/6 に及ぶ.周りには伊吹・
鈴鹿(東部)
・比良・比叡(西部)
・野坂(北部)
・田
上(南部)などの山地が囲んでおり,自然と水に恵
まれた地域である.滋賀県は古くより陸上交通の要
所であったため,旧街道沿いや寺社仏閣周辺には有
名な井戸や湧水が数多く存在している.
日本の名水百選は環境省が(1)水質・水量,(2)
周辺環境の状況,(3)親水性・近づきやすさ,(4)
水利用の状況,(5)保全活動,(6)その他の特徴・
PR ポイントの六つの評価項目を参照して,昭和 60
年に「日本の名水百選(昭和の名水百選)」を,平成
20 年に「平成の名水百選」を選定したものである.
琵琶湖を抱える滋賀県民の水に対する意識も高く,
昭和に選ばれた名水百選は二つであったが,平成の
名水百選では四つの名水が選ばれている.
本研究では滋賀県内の名水と呼ばれている湧水を
中心に多地点の湧水,地下水の採水調査を行い,水
質や水文学的特徴を整理する.
内田 明宏
現地では電気伝導度・pH・水温を測定し,採水した
試料は実験室でイオンクロマトグラフ法により,
Na+ ,NH4-N,K+ ,Mg2+ ,Ca2+ ,Cl- ,NO3-N,SO42のイオン濃度について分析を行い,モル当量値を求
めた.なお,HCO3-に関してはモル当量の陽イオン
と陰イオンの差より算出した.GIS データは「土地
利用細分メッシュデータ」2)と「表層地質図」3)を
利用した.
2.材料と方法
2.1 調査対象地域
湖北・湖東地域は,伊吹山を源流とする姉川・天
野川や,鈴鹿山脈を源流とする愛知川・野洲川など
の河川が広大な沖積平野を形成している.そのため,
上流から扇状地・自然堤防・三角州が順に並ぶ.こ
の地域には石灰岩で形成されている山が多いため,
水源から雨水で浸食された地下の空洞を通り,岩の
裂け目から湧出したり,川の伏流水として流れ出し
たりしている.湖西地域は平野部が少なく,比叡山
や比良山が湖岸近くまで迫っている.そのため,安
曇川・石田川流域を除くと大きな河川は少なく,扇
状地の扇端部が湖へ接している場所が多い 1).
図1
調査地点
3.結果と考察
3.1 水質特性
各名水のモル当量値をトリリニアダイアグラムに
プロットしたものを図 1 に示す.グラフより湖北の
名水は Ca2+ イオンの含有率が高く,湖南の名水は
Na+の含有率が多い傾向にあることがわかる.これ
は石灰質の伊吹山や霊仙山,御池岳が湖北側に存在
していることに由来していると考えられる.
2.2 調査方法と使用データ
本研究は,滋賀県全域において名水として知られ
ている湧水や井戸を中心に調査した.調査地点は図
1 に示す通りであり,湖北 31,湖東 13,湖南 7,湖
西 6 地点であった.現地調査は 2014 年 11 月 10,30
日,12 月 25,26 日,2015 年 1 月 11,12 日に行った.
1
大きな違いがあったため,人為的汚染があったと考
えられる.環境省の基準では,硝酸性窒素が 10mg/l
以下が地下水の環境基準であり 5),今回の採水では
「宝厳寺の瑞祥水(No.5)」のみがその基準を満たし
ていなかった.
湖北地域から湖東地域にかけての特徴としては水
源からの経路に石灰質が多かったことから Ca2+を多
く含む水が多く,イオンの総含有量も多い硬度の高
い水が多かった.一方で湖西地域は平野部が少ない
ことや交通の要所としての発展もあまりなかったた
め名水の数は少ないものの,イオンの総含有量の少
ない軟らかい水が多かった.
図2
トリリニアダイアグラム
3.2 クラスター分析
各名水のモル当量値についてウォード法 4)を用い
てクラスター分析を行った. 分析の結果より5つの
クラスターに分類される.デンドログラムの左から
クラスターⅠ,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳ,Ⅴとする.クラスター
Ⅰ,Ⅱ,ⅢとクラスターⅣ,Ⅴは類似度が大きく離
れているが,クラスターⅣ,Ⅴには Ca2+イオンが多
く含まれているためである.クラスターⅠはクラス
ターⅡに比べるとイオンの総含有量が少なくなって
おり,クラスターⅢはイオンの総含有量が極端に少
ない.クラスターⅡは全て Na-HCO3 型である.クラ
スターⅤはクラスターⅣに比べるとイオンの総含有
量が非常に多い.Ca2+イオンの含有量が多いクラス
ターⅣ,Ⅴは,湖北側で採水したもののみである.
図3
土地利用と 1mg/l 以上の NO3-N が検出された地点
4.おわりに
本研究において訪れた名水の中にも,水が涸れか
かっているもの,すでに涸れているものや,最近利
用された形跡が見受けられない場所があった.昔は
地域の方に利用され保全されていた名水も,上下水
道が整備されるにつれて利用されなくなっていった
ものも存在することを感じた.古来より利用され,
飲用されてきたおいしい水を将来にわたって利用し
ていくためには,保全活動や水循環系の解明,水質
汚濁の改善等が重要である.
3.3 GIS データによる分析
土地利用図の GIS データを用いて NO3-N 濃度が
1mg/l 以上の地点をプロットしたものを図 3 に示す.
NO3-N 濃度が高かった地点は米原市と近江八幡市に
集中している.特に濃度の高い地点が多かった近江
八幡市は,水源から湧水地点までの土地利用が農地
であるため,農地による水質汚濁が影響していると
考えられる.日野町の「滝ノ宮神社(No.44)」は日
野町の住宅地がある丘の崖下から湧き出していたの
で,生活排水による汚染が考えられる.また,米原
市の「小碓の泉(No.18)
」と「臼谷の湧水(No.19)」
は周辺が農地であったため,浸透水による汚染が考
えられる.米原市の霊仙山付近の湧水に関しては,
後背地の森林からの影響が考えられる.竹生島の湧
水は,二つの採水地点で Na+,Cl-,NO3-N の濃度に
1)
2)
3)
4)
5)
2
参考文献
小林正雄(1995):滋賀県の名水,地下水学会誌,第
37 巻第 2 号,143-152.
国土交通省国土政策局国土情報課(2009)
:
「国土数値
情報ダウンロードサービス」http://nlftp.mlit.go.jp/ksj/
(2015/01/14 閲覧)
国土交通省国土政策局国土情報課(2004)
:
「国土調査
GIS デ ー タ の ダ ウ ン ロ ー ド 」
http://nrb-www.mlit.go.jp/kokjo/inspect/landclassification/
download/index.html(2015/01/14 閲覧)
柳井久江(2005):エクセル統計実用多変量解析編,
OMS 出版,115-132.
環 境 省 ( 1997 ) : 「 環 境 基 準 」
http://www.env.go.jp/kijun/index.html(2015/02/11 閲覧)
浸透流と表面流が同時に作用するときの限界掃流力の測定
Measurement of Critical Tractive Force Affected by Seepage and Surface Flows
Key words: Tractive force,Seepage flow,Surface flow,Darcy-Brinkman equations
施設機能工学分野
大杉政久
1. はじめに
ため池などの農業水利施設は豪雨によって破堤す
るリスクがある.その主なメカニズムとして,越流
(表面流による浸食)とパイピング(浸透流による内部
侵食)が複合的に作用する場合が多い.しかし従来の
研究では表面流と浸透流は別々に議論されることが
多く,そのため豪雨災害リスクに対する予測精度は
高くない.本研究では,表面流と浸透流の複合的な
図1
実験装置の略図
侵食現象を対象としたより高い精度の被害予測方法
を開発することを目指す.
本研究の最終目標は,表面流と浸透流が土試供体
に同時に作用した時の侵食速度を実験的に求めるこ
とにあるが,本論では実験装置の作成,そして予備
実験に着手した結果をまとめる.
限界掃流力(表面流が土粒子を流し去る最低限の
力)と動水勾配は一次関数的に比例する.上向き浸透
流のない状態では,限界掃流力 (表面流が土粒子を
流し去る最低限の力)は式(1)に従うということが,実
験的に求められている.

(  s   w)dg
2. 表面流・浸透流の同時作用時の限界掃流力の測定
作成した水路は,内面が底辺 70 mm×高さ 35 mm
×長さ 3000 mm のアクリル製の矩形管水路であり,
下流部 100 mm の底面に侵食用の試料土ケース(底
面積 35 mm2×高さ 15 mm2)を取り付けた.試料ケ
ースの底はネジによる可動式で,試料土をせり上げ
られる仕様になっている.また閉水路の流量は上流
部に取り付けたポンプとバルブで調整し,その流量
幅は 0~350 L/min である.最大流量を流した時に試
料土に作用する摩擦速度のおおよその値は滑面の対
数則から導くことができ,その値は最大 290 mm/sec
となる.また,試料土ケースの下部はホースにより
水面が解放された貯水槽につながっており,その貯
水槽を上昇または下降させることによって,浸透流
を発生できる仕組みとなる.水路内の流速分布は,
レーザーシートを照射させる PIV 測定により計測す
る。計測領域は土試料の周辺とした(図 1).
  c*  0.05
(1)
ここに,s は土粒子密度,w は水の密度で、は無
次元掃流力と呼ばれるものである.この式に浸透流
の項を挿入し,についての式に直したものが,式(2)
である.
   c* (1  n)  wdgi   c* (  s   w)dg
(2)
ここに,n は間隙率,d は土粒子の粒径,g は重力加
速度である.式(2)より,限界掃流力と動水勾配が
線形な関係にあることが分かる.今回の予備実験
では,この線形性を確認することを試みた.
予備実験の手順は以下の通りである.まず自然落
下法によって試料土ケースに硅砂 5 号を詰めた.動
水勾配 i=0 から 0.1~0.2 間隔の 8 段階において,i
を固定した状態で閉水路内の水流を流し,限界掃流
力が発生している時点での試料ケース付近の長方形
領域の流速を,PIV により二次元的に測定した.限
界掃流力の確認は Cheng and Chiew (1999)の研究を
参考に,目視で行った.PIV によって流速が求めら
図2
図4
PIV によって測定された流速ベクトル
れた領域を図示すると図 2 のようである.
3.
1 回の測定によって得られる図 2 のような画像は
100 枚ある.全ての図において,試料土付近の所定
の底面から縦方向に 7 mm 以内にある流速ベクトル
を抜き出し,1 つのグラフにまとめると図 3(土試料
析するためのプログラムを作成した.基礎方程式と
して用いたのは Darcy-Brinkman 式(3)である.
 2 ui  g
 p
ui  uiuj
(
)



ui  0
 xi
xi xj 
xjxj k
なる.同図において y は底面からの距離,u は水平
の対数則に従うように最小二乗法近似を行うと,水
路底面に作用する掃流力が得られる.
浸透流・通常流れの同時解析手法の開発
浸透流と通常の水の流れ(乱流~層流)を同時解
に働く動水勾配が 0.116 のときの計測例)のように
方向の流速である.これらのデータを用いて,滑面
動水勾配と限界掃流力の関係
(3)
u は平均流速,p は圧力,ε は間隙率,ρ は水の密度,
k は透水係数,ν は動粘性係数,g は重力加速度であ
る.式(3)に対して安定化有限要素法を適用・時間方
向に離散化した後,GPBi-CG 法を用いて反復計算を
行い、流速を求めることがプログラムの主な構成で
ある.プログラムの実行結果は卒業論文本文に記載
する.また,プログラムは文献 2)を参考にした.
4.結論
今回,実験装置を作成し PIV 測定のデータから対
数則を見出し,摩擦速度を導き出すところまでは正
図3
動水勾配 i=0.116 においての壁面距離と速度の関係
(黒い線が滑面対数則の最小二乗近似曲線)
確に行うことができた.しかし限界動水勾配 i=1.4
近辺の動水勾配でも限界掃流力の低下はそれほど確
上記と同様の作業を行うことで,合計 8 つの動水
認出来ず,実験結果と理論値は一致しなかった.今
勾配において摩擦速度を求め, 限界掃流力を計算し
後は,より精度の高い実験を行えるよう装置を改良
た.その結果を図 4 に示す.測定値を最小二乗法に
し,表面流・浸透流の同時作用時の侵食速度の測定
より直線に近似したところ,直線の y 軸との接点の
に取り掛かる.
値は y=5.00 となり,これは実験により求められた限
界動水勾配 ic の約 1.4 とは大きく異なった.この違
参考文献
1)
いが生じた原因として考えられるのは,限界掃流力
を試料土より手前の水路内で測ったこと,実験の際
試料土が少し隆起していたこと,限界掃流力の見極
めを目視によって行ったことである.
2)
N-S., Cheng and Y-M., Chiew (1999) : Incipient sediment
motion with upward seepage, Journal of Hydraulic
Research, 37(5), 665-681.
樫山和男, 野村卓史, 藤間昌一 (2012) :続・有限
要素法による流れのシミュレーション, 丸善出版,
63-100.
有限要素固体解析への Space-Time 法の適用
Application of Space-Time Method to Finite Element Analyses for Solids
Key words: Space-Time method, Moving mesh, Numerical analysis
施設機能工学分野
用いて Tという時間に関する形状関数を導入する.
図 1 は一つの空間要素,一つの時間要素となる領域
を表す.図 1 での下の三角形要素が,上の三角
重み関数 w は w = w N T 
形要素がに該当する.
となる.本論では,時間では一定時間ステップごと
の要素分割を行い,空間では三角形一次要素での要
素分割を行う.また,Nと Tはともに一次関数を採
用し,各物理量を線形で近似する.
1.はじめに
土の流亡によって進行する水利土質構造物の脆弱
化は,現在でも予測が非常に困難な現象である.土
の流亡は,低拘束圧下の土が浸透流などの作用を受
け,流動化することで発生する.流動化した土は,
大きな変位と材料の流亡を伴うため,通常の有限要
素固体解析では計算が難しい.そこで本研究では,
Space-Time 法によりムービングメッシュの使用を可
能にすることで,大きな変位と材料の流亡を計算す
ることを試みる.本論では,簡単な運動の解析を行
い,Space-Time 法の適用性について検討を行う.
2.2 支配方程式
解析対象とする土の運動中では,以下の方程式が
成り立つものとする.
2.Space-Time 法
  
Space-Time 法とは,空間だけでなく時間方向にも
有限要素を形成する方法である.図 1 に示すように,
空間的には 2 次元の問題であっても,作成される要
素は時間軸を加えた 3 次元となる.そのため,空間
要素の形状が時間とともに変化する場合であっても,
特別な制約なしに,時空間を要素分割することがで
きる.このため, Space-Time 法を適用することで,
ムービングメッシュが利用でき,境界形状が大きく
変形するような問題においても有限要素法を適用可
能にする.
2.1 理論
有限要素法では,対象空間をいくつかの要素に分
割し,空間に関する形状関数 Nを用いて物理量を節
点ごとの値に離散化する.それに対し,Space-Time
法では,上述のように空間に加えて時間方向にも要
素分割を行う.すなわち,t = ti のとき,t = ti+1
のときとなるような局所座標を導入し,を
図1
岡山 真人
Space-Time 法の概要
1
vi 
vi
0
xi
 ij
x j
(1)
 g i
1  vk vl

2  xl xk
e

 ij  Dijkl
(2)

  wik  kj ik wkj

(3)
ここで,は固体の密度,vi は土の速度,ij は有効
e
は弾性係数マトリックス,
応力,gi は重力加速度,Dijkl
wik はスピンテンソルを表す.
2.3 定式化
式(1)~(3)のそれぞれの両辺に重み関数 w を乗じ,
要素領域で積分する.要素領域とは本文では三角柱
領域,図 1 での Q である.その際,と vk 及びpq を
   i j N iT j , vk  vkj,i N iT j 及び  pq   pqj ,i N iT j として
節点ごとの値を用いて表し,支配方程式を定式化す
る.以下は定式化後の支配方程式であり,式(1)は式
(4),式(2)は式(5),式(3)は式(6)となる.
A1 - B1 - C1 + D1 = 0
(4)
A2 - B2 - C2 - D2 + E2 - F2 = 0
(5)
A3 - B3 - C3 - D3 - E3 - F3 + G3 + H3 - I3= 0
(6)
A1 
d
dt

N  N i  2  J ST 1dX i2
B1 
d
dt

N  N i 1 J ST  1dX i0
X
X
(7)
(8)

dJ ST  
j  dT
ST

T
J
T d  N  N i dX i j

1  d
X
d

d
dt
C1 
1
1
D1   T  T nT k J ST
1
N j
X l
d  N  N m
dXvik, j  mn

X
xi
X l
xi  vi
d
dt

N  N j N l  2  J ST 1dXvi2, j  l2
(11)
B2 
d
dt

N  N j N l  1 J ST  1dXvi0, j  l0
(12)
d
dt
C2 

1
1
X
 dT  n ST
dT n ST
dJ ST
T k 
T J T
J  T T n
d
d
 d
(26)
式(4)~(6)を解き算出された vi を,式(26)に代入し,節
点ごとの土の移動距離を求める.節点の座標をその
移動先の座標に更新し,新しいメッシュで支配方程
式を解き直す.これを,更新先の座標が収束するま
で繰り返す.
(10)
A2 
X
2.4 メッシュの更新
速度の定義より以下の式が成り立つ.
(9)
3.数値解析結果
簡単な解析例として,一次元での弾性体の強制変
位を解析する.

d  N N j N m dXvik, j  mn

X

(13)
D2   N  T  t i n x dP
(14)
P
1
E 2   T  T n J ST
1
X l
N
d  N m  dX ijn,m

X
x j
X l
1
F2   T  T k J ST d 
1
X
N  N j dXg i  kj
d
dt

N  N r  2  J ST 1dX ij2,r
d
B3 
dt

N  N r  1 J
A3 
d
dt
C3 
X
X
1

1
ST
 1dX
(15)
(16)
0
ij , r
 dT  ST dJ ST  
T q 
J 
T  d  N  N p dX ijq, p (19)
X
d

 d
N p
1 e 1  q ST X m
Dijkl  T T J
d  N 
dXvkq, p (20)
1
X
2
xl
X m
E3 
N p
1 e 1  q ST X m
Dijkl  T T J
d  N 
dXvlq, p (21)
1
X
2
xk
X m
F 3
N p
1 1  q s ST X m
T T T J
d  N N r
dXviq, p kjs ,r
X
2 1
xk
X m
G3
N p
1 1  q s ST X m
dXvkq, p kjs ,r (23)
T T T J
d  N  N r

1


X
2
xi
X m
H 3
N p
1 1  q s ST X m
T T T J
d  N  N r
dXvkq, p iks ,r (24)



1
X
2
x j
X m
N p
1 1  q s ST X m
dXv qj , p iks ,r
T T T J
d  N  N r
X
2 1
xk
X m
設定メッシュ
図 2 のような 1.0 m 四方の領域を 50 要素に分割す
る.紙面横方向を x 方向あるいは 1 方向,縦方向を
y 方向あるいは 2 方向とする.x 方向の変位を 0 に固
定し,最下部の y 方向の変位も 0 に固定する.節点
番号 7~12 には y 方向に-0.1×10-5 m/s,13~18 には y
方向に-0.2×10-5 m/s,19~24 には y 方向に-0.3×10-5
m/s,25~30 には y 方向に-0.4×10-5 m/s,31~36 には
y 方向に-0.5×10-5 m/s の変位速度を与える.また,
の初期値としてすべての節点に 2.0 g/cm3 を与える.
ヤング率は 2.0×102 GPa,ポアソン比は 0 とし,時間
ステップ間隔は 1.0×10-4 s とした.
計算機を用いて支配方程式を解いた結果,全節点
において,  1 = 2.0 g/cm3,Δ1.0×10-6 g/cm3, v11 = 0
1
1
m/s, v12 = 0 m/s,  11
= 0 Pa,  112 = 0 Pa,  12
= 0 Pa,
2
1
2
-4
 12 = 0 Pa,  22 = 0 Pa,  22 = -1.0×10 Pa となった.
なお,各未知数の右上の添字は時間ステップを表す.

密度 は初期値から Δだけ増加する結果となった.
(18)
D3 
I 3
図2
(17)
(22)
4.結論
(25)
算出された解は妥当性の高いものと言える.すな
わち,本文では Space-Time 法の有限要素固体解析へ
の適用性を確認できた.
本論ではムービングメッシュを実行するに至らな
かった.今後はこの結果を用いてメッシュを更新し
て計算を続ける.また,より複雑に境界の動く固体
を対象とし, x 方向の拘束も解放して研究を進める.
ここに,Xi は基準座標,JST はヤコビアンであり,式
(14)の領域 P とは領域 Q の側面領域を意味する.式
(4)~(6)の連立方程式を解いて,節点ごとのと vk 及
びpq を算出する.
2
カルマンフィルタによるスペクトル拡散音波を用いた
農業ロボット用移動体の測位誤差補正
Positioning Error Correction of Moving Object for Agricultural Robot
Using Spread Spectrum Sound with Kalman Filter
Key words: Spread spectrum sound, Kalman filter, Agricultural robot
生物センシング工学分野
1.背景
小野
将範
償法の改善を行い,外れ値の個数と測位誤差を調べ
た.また,障害物があった場合に,一時的に観測デ
ータが不足しても測位が可能となるようにするため
に,先行研究を参考にアルゴリズムを作成し,観測
データの取得率ごとの測位誤差を調べた.
近年日本の農業における労働力不足が深刻な問題
となっており,農業ロボットによる農作業の省力化
が望まれている.しかし,農業ロボットには高い精
度が求められるため,用いられる航法システムは非
常に高価となり,農業ロボットの普及の妨げとなっ
ている 1).そこで本研究では高精度で安価な航法シ
ステムとして,音波による測位システムに注目した.
一般的に,音波を用いた測位は雑音に弱いという
問題がある.それを解決する方法の 1 つとしてスペ
クトル拡散音波があり,雑音耐性を向上できること
が報告されている.スペクトル拡散音波とは,M 系
列符号などの疑似乱数系列により符号化することで
信号の周波数帯域を拡散させた音波である.M 系列
符号は参照波形とで自己相関処理を行った際に位相
差 0 となった場合にのみに鋭いピークが現れる.そ
のピークを検出することで信号識別性,雑音耐性を
向上しスペクトル拡散音波の受信時刻を精度よく求
めることができる.しかし,移動体の測位では,ド
ップラー効果により受信信号の周波数がシフトして
しまい正確な測位ができないという問題がある.そ
こで先行研究では,スペクトル拡散音波と同時に別
周波数の単一周波数音波を送信し,そのドップラー
シフト量を算出し,自己相関処理を行うための参照
波形を補正することでドップラーシフト補償を行っ
ている.しかし,反射波やスピーカの振動によりス
ペクトルピークが複数現れ,スペクトルピークの誤
検出があった場合に外れ値が生じるという問題があ
った 2).また,農業フィールドは作物や葉など障害
物が多いため,これらの障害物によって信号が遮ら
れ,一時的に観測データが不足しても測位が可能と
なるような手法が求められる.
そこで,これらの問題を解決するためにカルマン
フィルタ(KF)を用いた補償方法を提案する.KF は
時系列フィルタの一種であり,ノイズを含む時系列
データと対象の運動モデルに基づき位置や速度など
対象の状態を推定することができる.本研究では,
ドップラー補償ミスにより生じる外れ値を補正する
ために KF によって計測距離の補正とドップラー補
2.スペクトル拡散音波測位システムの原理
4 隅にマイクを設置し,マイクに囲まれた領域内
でスピーカからスペクトル拡散音波を送信する.マ
イクで音波が受信されると,相関計算を行い,相関
ピークを検出してスピーカと各マイク間の伝搬時間
を求め,音速と掛け合わせることによってスピーカ
と各マイク間の距離を算出する.そして,得られた
4 つの距離からスピーカの位置を算出する.次にド
ップラーシフト補償方法を説明する.スペクトル拡
散音波と同時に周波数𝑓𝑑𝑠 の単一周波数音波を送信
し,そのパワースペクトルが最大となる周波数𝑓𝑚𝑎𝑥
を検出する.そして,ドップラーシフト量𝑓𝑚𝑎𝑥 − 𝑓𝑑𝑠
からスペクトル拡散音波のシフト量を算出し,その
シフト量で参照信号の搬送波周波数を補正して相関
処理を行うことでドップラーシフトの補償を行う.
3. 実験方法
3.1 測位実験
図 1 に測位実験の概要を示す.ただし,赤い円は
スピーカの移動する軌道を示す.図 1 のように 4 隅
に 座 標 既 知 の マ イ ク (Knowles Electronics,
SPM0404UD5)を設置し,搬送波周波数 24 kHz のス
ペクトル拡散音波と 36 kHz の単一周波数音波を送
信する.マイクに囲まれた領域内でスピーカ(Fostex,
FT28D)を台車に乗せ,0.7 m/s,1.0 m/s,1.3 m/s の速
さで赤い円でしめした円軌道上を移動させ,250 ms
おきに 98 回計測し,これを各速度で 2 回行った.測
位誤差はスピーカを移動させる円軌道と測位結果と
の 2 次元距離とし,外れ値は相関ピークやドップラ
ーシフト量の誤検出が無かったデータの標準偏差σ
を求め,±5σの範囲の 2 倍を超えたものと定義した.
3.2 外れ値の補正
1
図 2 に KF による補正前後の測位誤差を示す.か
っこ中の数字は外れ値の個数を示す.計測距離の補
正により測位誤差は低減されるものの,外れ値の個
数は増加した.これは外れ値の影響により KF の正
確な推定値を求められなかったためと考えられる.
しかし,ドップラーシフト補償方法を改善すること
により外れ値の個数は減少した.補償法の改善によ
りドップラーシフト量の誤検出が減り,外れ値が減
ったためと考えられる.
図 3 に断続的に計測不能となる場合の測位誤差を
示す.Pd =1.0,0.75 のときは測位誤差 10 mm 程で測
位できているが,Pd=0.5 のときは 100 mm 程と,測
位誤差が大きくなった.今回用いた運動モデルは x,
y,z 軸方向に等加速度運動するというものであった
が,実際の運動は加速度の変化する等速円運動であ
り,モデルと実際の運動には差があった.そのため,
モデルによる予測値を観測値で補正するために多く
の観測データが必要になり,Pd=0.5 では補正しきれ
ず測位誤差が大きくなったと考えられる.
図 1 測位実験の概要(座標の単位は mm)
3.1 で得られた結果から,KF によりスピーカとマ
イク間の距離,スピーカとマイク方向の速度,加速
度を推定し,その結果得られる事後推定値を用いて
位置計算することで外れ値を補正する.運動モデル
は等加速度運動モデル,観測値は計測距離と式(1)に
より算出されるスピーカとマイク方向の速度𝑣𝑘 とし
た.また,音速𝑉は式(2)で表される.ただし,温度
T はスピーカ付近の温度とマイク付近の温度の平均
値とした.そして,KF の有無で外れ値の数と測位誤
差を比較した.
𝑣𝑘 = (𝑓𝑚𝑎𝑥 −𝑓𝑑𝑠 ⁄𝑓𝑚𝑎𝑥 ) × 𝑉
(1)
𝑉 = 331.5 + 0.61𝑇
(2)
2.において𝑓𝑚𝑎𝑥 を検出する際,外乱によりパワー
スペクトルピークが複数現れると,ピークの誤検出
により外れ値となる場合がある.そこで,KF を用い
て 2.の補償法を改善することでその外れ値を補正
する.KF の状態量𝑥𝑘 はスピーカとマイク方向の速
度,加速度,運動モデルは前述のものと同様とし,
観測値は式(1)により算出される速度とした.3.1 で
得られた結果から,KF によって速度の推定値が得ら
れると式(1)を変形した式(3)より𝑓̂𝑑𝑠_𝑚𝑎𝑥 を求める.そ
して,パワースペクトルが最大値の1⁄2を超えるも
のの中で𝑓̂𝑑𝑠_𝑚𝑎𝑥 に最も近い極大点の周波数を新しい
ドップラーシフト 後の周波数𝑓′𝑑𝑠_𝑚𝑎𝑥 とし,この
𝑓′𝑑𝑠_𝑚𝑎𝑥 を用いてスペクトル拡散音波のドップラー
シフト補償を行う.そして,KF の有無で外れ値の数
と測位誤差を比較した.
𝑓̂𝑑𝑠_𝑚𝑎𝑥 = {𝑓𝑑𝑠 /(𝑉 − 𝑣𝑘 )} × 𝑉
(3)
図 2 KF による補正前後の測位誤差
図 3 断続的に計測不能となる場合の測位誤差
5. 結論
3.3 障害物による計測不能データの補完
3.2 で KF により推定した距離を観測値とし,スピ
ーカの 3 次元座標と x,y,z 軸方向の速度,加速度
を推定する.このとき観測値を状態推定値に変換す
るための観測行列は非線形となる.そこで,観測行
列を線形化して用いる拡張カルマンフィルタ(EKF)
により推定値を求める.この EKF による推定を,得
られた距離データの数だけ繰り返す 3).このアルゴ
リズムを用いることで最低 1 つのデータがあれば測
位計算が可能になる.また,運動モデルは 3.2 と同
様とした.そして,データ検出率 Pd を定義し全て
のマイクで断続的に計測不能となる場合の測位誤差
の大きさを確かめた.
本研究により,KF を用いたドップラーシフト補償
で外れ値の個数を低減させることが可能ということ
がわかった.また,KF を用いるとデータ検出率が
Pd=0.75 以上となるようにマイクを設置すれば測位
誤差 10 mm 程での測位が可能になると考えられる.
1)
2)
3)
参考文献
水島晃(2005):農用車両のための航法センサに関する
研究,北大農研邦文紀要 27(1),200-206
Slamet Widodo(2013):Moving Object Localization Using
Sound-Based Positioning System with Doppler Shift
Compensation,Robotics,2,36-53
高林佑樹,松崎貴史,亀田洋志,系正義(2008):複数
センサ間の到来時間差/ドップラー周波数差を利用す
る非同期追尾フィルタ,電子情報通信学会論文 B Vol.
4.結果・考察
j91-B No.12,1711-1724
2
近江八幡市独自の条例による農振農用地指定除外の基準策定過程に関する研究
Study of Process of Planning Cancelling the Designation of“Agricultural Land
Zone’’ with Municipal Ordinance in Omihachiman City
Key words: Cancelling the Designation of “Agricultural Land Zone”, 26-2, guidelines
農村計画学分野
1.研究の背景と目的
課題の検討を行った.
近年,日本は人口の減少が進んでおり少子化・高
齢化等の問題を抱えている.農村地域では,都市地
域より少子高齢化が約 10 年先行しており状況はよ
り一層深刻なものとなっている.
滋賀県近江八幡市(以下市)では,農業生産基盤の
整備に加え,地域排水の改良を戦略的に達成する為,
農業振興地域整備計画を定め市内の優良農地の大半
を農振農用地(青地)に指定した.2011 年現在の市内
の青地率は 95.3%と近畿圏で最も高い.しかし,民
家の軒先まで青地指定されている現状が,U ターン
を考える農家子弟や新規就農者用の住宅建設の大き
な障害となっている.
そこで市は,農林水産省(以下省)に指導を仰ぎつ
つ,農業地域の整備に関する法律(以下法)施行規則
第 4 条の 4 第 1 項第 26 号の 2(以下 26-2)を用いて
農用地の一部除外を試みた.26-2 の特徴は,法第 13
条の 2 による農振除外の指定 5 要件の一部を,市町
の定める条例を制定し,計画づくりを行うことによ
って外すことができる点である.2012 年 9 月 28 日,
市は「近江八幡市農用地保全条例(以下条例)」を制
定し,それによる農振除外を可能とする土地利用基
準案(以下基準案)を県農政課(以下県)や近畿農政局
(以下局)と協議しつつ模索した.それが,農地の保
全を図りつつ農村集落を活性化していこうとする
「農地を守る計画(以下計画)」である.こうした 26-2
による農振除外の取組は全国でも前例がほぼ無く,
先行研究もない.そこで,本研究では通常の法第 13
条の 2 の 5 要件による除外ではなく,この 26-2 に基
づく除外を試みた取組過程を把握し,その問題点の
分析及び課題の検討を行うことを目的とする.
3.研究の結果
川 智治
3.1 取組過程の時系列
表 1 は関係資料,及び市①へのヒアリング調査で
得た報を基に取組過程を時系列順に整理したもので
ある.便宜上,各取組の年月日に番号を付している.
表1.取組過程の時系列順
年月日
取組概要
関係主体
市
県
①2012.1.24
②4.19
③4.25
④5-6月
⑤9.28
土地利用に関するヒアリング
土地利用の協議
②を踏まえ省を再訪問
26-2・条例の協議
条例の制定
○
○
○
○
○
⑥2月
⑦3.12
⑧3.24
⑨4.11
⑩4.30
計画作成の手引き等の協議
基準案等の協議
①,③の真偽確認
計画内容及び基準案等の協議
⑧の回答
○
○
○
○
○
○
○
⑪5.13
⑫5.24
⑬6.5
⑭6.11
⑮6.19
基準案の協議
⑪の回答
⑫の修正案の協議
⑬の回答
26-2に関するヒアリング
○
○
○
○
○
○
⑯7.4
⑰7.18
⑱8.27
⑲9.19
⑳10.21
⑮・基準案の協議
⑮・基準案の協議
26-2の住宅にの扱いの協議
26-2に関して再ヒアリング
⑱・⑲を踏まえた基準案の協議
○
○
○
○
○
㉑11.1
㉒11.27
㉓12.5
㉔2014.1.31
㉕2.6
⑳を踏まえた協議
⑲・㉑の相違について協議
㉒を踏まえた協議
集住※1を抜いた基準案の協議
㉔の回答
○
○
○
○
㉖3.18
集住を抜いた基準案で協議
○
局
省
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
※1 農業従事者に限らず集落を活性化させる人材の
為の住宅である「集落維持型住宅」の略称.法では
計画の中で設置する施設としては不適切とされてい
る.
2.研究の方法
調査に当たり,条例が設立を規定する「農地を守
るまちづくり委員会(以下委員会)」の審議過程に関
する資料を入手した.それに基づき,取組過程の概
要を大まかに把握した上で,取組に関わった行政担
当者にヒアリング調査(市①:10/29,県 11/17,局 1/20,
市②1/29)を行い情報の補完,計画に対する認識,現
場での問題点等を調査した.それらをまとめた上で
3.2 取組過程の概略
市は,農村集落に抱える問題,すなわち農振農用
地除外を可能にする為の方策を講じるべく省へ指導
を仰いだ(①).省から 26-2 を提示され,それに基づ
き他主体と協議を重ねつつ条例を制定した(②-⑤).
1
その後,市は 26-2 を活用した基準案を作るべく県・
局と協議を行ったが,集落維持型住宅を巡り協議は
長引いた.基準案のメニューに対して直接の回答を
せず,「法の通り」「法の技術的助言であるガイド
ラインの通り」と答え続ける県・局に痺れを切らし
た市は 26-2 に関するヒアリングを省に行った.そこ
では集落維持型住宅は可能としながらも 26-2 に関
して当時より狭まった内容の説明を受けた(⑥-⑮).
そして,そのサイクルをもう一度繰り返し(⑯-⑲),
議論は平行線のまま市は計画の目玉である集落維持
型住宅を諦め,市長の命もあってその事業は縮小を
余儀なくされ協議は終了した(⑳-㉖).その後,縮小
した基準案を持って市は学区単位での説明会を行っ
たが,集落住民はその魅力の大部分を失った計画に
参加を表明することはなかった.事実上,26-2 によ
る計画は頓挫したのである.
3.3 ヒアリング調査に基づく各主体の思惑の分析
(1) 市の思惑
県・局は表沙汰にはしないが,責任問題を回避す
る為に法,特に技術的助言でしかないガイドライン
に固執し,市との協議にまともに取り合わない.そ
の為,省に指導を仰ぐもヒアリングを行う度に市の
動ける範囲が狭くなる一方である.
他主体は,市の計画は各種法律との整合を計る為
にも都市計画の線引きの中で行うべきであると主張
するが,都市計画で使用できる土地は周囲の 3 市町
との協議の基でその総量が決まっているので調整が
非常に難しい.更に,地域実情を考慮し先述の問題
を解決する方策として 26-2 を用いているというこ
とを,特に県が理解しているのか疑問である.大き
な組織であればあるほど縦割り行政となっているの
で,今回であれば,農政課と都市計画課の連携があ
まり取れていないのではないのか.
(2)県の思惑
市の基準案は農地を保全するよりむしろ,集落維
持型住宅を始めとする宅地開発が先行しているのが
色濃く伺える.農地を保全する観点からすると,そ
のような基準案が前例となり全国で歯止めの利かな
い農振除外が行われることを防がなければいけない.
従って,市の計画内容は都市計画で扱うべきである.
(3)局の思惑
「個別の案件に答えることはできない.」との対
応で局視点からの情報は得ることができなかった.
3.4 問題点の分析・課題 の考察
紙面及びヒアリング調査に基づき,協議交渉の長
期化を問題と捉え,その要因の分析及び課題の考察
を行う.
計画は全国でも例が無い為,県・局の対応を保守
的にさせた.その結果が,3.2 で述べた通りの対応
である.農振除外は市と県の協議で決定を行う.他
方,法制度の趣旨の確認は局・または省で行う,と
いうのが一般的な考え方なので,2 者に市の相談に
対する逃げ道があったことが,双方が計画の内容に
ついて直接の回答を避けた一因として挙げられる.
(2) 政治的判断がもたらす影響
市は省への指導によって計画作成に向けて動き始
めたが,集落維持型住宅は県や局の了解を得られる
ものではなかった.このことから,そもそもの省の
指導が法に沿うものではなかったことが明らかにな
った.結果として,市は省指導を,県・局は法・ガ
イドラインを盾にした為,協議は 1 年以上という長
期間を要した.市が訪省する際には市長も同行して
いたが,市長にその意図がなくとも,省担当者がそ
の場を凌ぐ為に市長が満足するような回答を述べ,
結果として現場の混乱を招いた可能性がある.これ
は,省の場当たり的な対応が問題であることを示し
ている.
(3) 現行の法制度の課題
市は,地域実情を考慮し 26-2 を用いて集落間での
不平等を無くす為,また計画の内容を具体的に表す
為に基準案の策定を試みた.県は農地を保全する立
場から,個別案件ではなく大規模な基準案に基づく
農振除外がもたらす農振農用地の際限ない除外を懸
念し,特に集落維持型住宅に対しては厳しい姿勢を
示した.将来を見越し集落を活性化させようとする
市の姿勢も,農地を保全しようとする県の姿勢も,
双方とも間違いがあるとは言えない.そこに立ち塞
がるのは法の壁である.法は時代に沿って農地を保
全する観点から何度か改正が行われているが¹⁾農地
を守る礎となる農村地域を守る観点からの法整備も
行われる必要があるのではないか.
4.結論
本研究では,条例による農振除外を用いた土地利
用基準案の作成過程の把握,問題点の分析及び課題
の検討を行った.これらから,現行の法制度で集落活
性化を目的とする 26-2 による農振除外を行う際に
は地域実情はあまり考慮され得ないという結論が得
られた.これにより,今後他市町村が 26-2 を用いる
際に前例として参考になると共に,社会・地域特性
を考慮した法整備が行われることを期待したい.
参考文献
1) 浦山益郎・石井敦(2010):都市近郊の土地利用計画と担
い手に関する法制度の現状と課題, vol29.No3,p358-361
(1) 県・局の対応
2
多孔質媒体への塩水浸入時に生じる振動現象に関する数値実験
Numerical Experiments on Fluctuation of Saltwater Intrusion into Porous Media
Key words: Density-driven flow, Henry problem, Saltwater intrusion
水資源利用工学分野
1.はじめに
nR
ここで,x と z はそれぞれ無次元化された水平方向,
上向きを正としたときの鉛直方向の座標であり, u
と w はそれぞれ x 方向と z 方向の無次元化された
速度である.(1)式で定義された流れ関数を用いるこ
とにより,透水係数が一定の多孔質媒体における密
度流は以下の式で表される 4), 5).
(3)
(4)
Ra =
kgH Δρ
Ds μ20
Δρ = ρ ( cmax ) − ρ ( cmin )
θ=
c − cmin
cmax − cmin
(8)
ヘンリー問題を用いて,計算モデルの妥当性の検
証を行う.対象領域を,図 1 に示す長方形の領域と
し,図に示す境界条件を与える.流れに関しては,
右方向に一定の流量で流れ,淡水で満たされた状態
から右側から水平方向に塩水が浸入することを想定
している.
(1)
μ = μ r μ 20
−1.572
μr (T ) = (1 + 0.015512 (T − 293.15 ) )
∂θ
⎞
⎟−w
∂z
⎠
3.妥当性の検証及び解析結果
鉛直 2 次元の領域を対象とし,流れ関数を用いた
定式化を行う.流速と流れ関数Ψ ( x, z ) の関係を以
下のように定義する.
(2)
∂θ
∂ ⎛ ∂θ ⎞
∂θ ∂ ⎛ ∂θ
= ⎜n
+ ⎜n
⎟−u
∂t ∂x ⎝ ∂x ⎠
∂x ∂z ⎝ ∂z
ここで, n は多孔質媒体の間隙率, R は遅延係数,
t は無次元化された時間である.
(2),(8)式の空間に対する離散化にはガレルキン有
限要素法を適用し,時間に対しては時間間隔
Δt = 0.001 でクランク・ニコルソン法を採用する.
2.支配方程式と計算モデル
∂ ⎛ ∂Ψ ⎞ ∂ ⎛ ∂Ψ ⎞
∂θ
⎜ μr
⎟ + ⎜ μr
⎟ = Ra
∂x ⎝
∂x ⎠ ∂z ⎝
∂z ⎠
∂x
誠
最大塩分濃度における密度差, k は固有浸透係数,
g は重力加速度, H は対象領域の鉛直方向の厚さ,
Ds は飽和多孔質媒体の溶質拡散係数,ρ は水の密度,
cmax と cmin はそれぞれ最大と最小の塩分濃度,θ は無
次元化された塩分濃度, c は塩分濃度である.
また,溶質の移流分散方程式は以下の無次元化さ
れた方程式で表される 4), 5).
海水と淡水の濃度差によって,沿岸帯水層ではく
さび形の海水浸入が,島嶼部では淡水レンズか生じ
る 1).これらの静的な現象に対して,温度に依存す
る密度流では,ある特定の条件下では振動現象が発
生することが知られている 2),3).本研究では,実験の
容易'性から,塩水浸入に伴う振動現象を対象とし,
その発生メカニズムを明らかにすることを目的とす
る.
ここではヘンリー問題を用いて計算モデルの妥当
性の検証を行い,異なるレイリー数を用いて塩水浸
入の動態について解析を行い,最後に振動現象が起
こる計算例を示す.
∂Ψ
∂Ψ
= u, −
=w
∂z
∂x
川畑
Ψ = 10
∂Ψ
=0
∂n
∂θ
=0
∂n
θ =0
θ =1
∂Ψ
=0
∂n
H
∂θ
=0
∂n
2H
Ψ =0
図1
対象領域と計算条件の説明
ここでは,Holzbecher(1998)が示している計算例
と比較を行うため, Ra = 38 とする.計算結果を図
2 に示す.流れ関数と塩分濃度の分布は計算例とほ
ぼ同じ結果となることが分かる.
(5)
6)
(6)
Ψ
(7)
ここで, Ra はレイリー数, μ r は粘性係数 μ と温度
が 20°C のときの粘性係数 μ 20 との比,T は絶対温度,
Δρ は対象としている領域内の水の最小塩分濃度と
1
θ
Ψ max
1
Ψ min
0
図 2 ヘンリー問題の計算結果 ( Ra = 38)
次に同じ計算条件で Ra が 15 ,30 ,45 ,60 での計
算結果を図 3 に示す.図より Ra の値が高いほど塩水
くさびが深く浸入することが分かる.
Ra = 15
θ
Ra = 45
Ra = 30
状の濃度分布が右方向に移動しながら収束していく
のが確認され,振動現象が生じていることが読み取
れる.
1
t = 0.1
t = 0.6
t = 0.2
t = 0.7
t = 0.3
t = 0.8
t = 0.4
t = 0.9
t = 0.5
t = 1.0
θ
1
0
Ra = 60
0
図3
各レイリー数での計算結果
また, Ra が 15 ,30 ,45 ,60 の場合で塩水くさび
(塩分濃度 50% )の時間ごとの浸入距離を図 4 に示
す.図 4 より Ra の値が高いほど定常状態になるまで
に多くの時間を要することが分かる.
Ra=15
Ra=30
Ra=45
Ra=60
1.4
浸入距離
1.2
1
図6
振動現象の例
0.8
5. まとめ
0.6
0.4
ヘンリー問題を用いて計算モデルの妥当性の検証
行った結果,先行研究の計算例と同じ結果が得られ,
モデルの妥当性が示された.
Ra の値を変えて塩水浸入の動態について数値実
験による解析を行った.Ra の値が高いほど塩水くさ
びが深く浸入し,定常状態になるまでに多くの時間
を要することが分かった.
また,本研究で用いた計算モデルを用いて,塩水
浸入に伴う振動現象を確認することができた.今後
は振動現象が生じるパラメータの条件を特定してい
くことが課題となる.
0.2
0
0
0.05
0.1
0.15
0.2
0.25
無次元時間(t)
図4
塩水くさび浸入の進行
4.振動現象の計算例
本研究で用いた数値モデルを用いて,塩水浸入に
ともなう振動現象の例を示す.対象領域は図 5 に示
す長方形の領域として,図に示す境界条件を与える.
流れに関しては,右方向に一定の流量で流れ,淡水
で満たされた状態から塩水が上端の一部から鉛直方
向に浸入することを想定している.
参考文献
1)
transport in porous media: approaches and challenges, Advances in
Ψ = 11
Ψ = 10
H
H
Diersch H.-J.G and Kolditz O. (2002):Variable-density flow and
Water Resources, 25, 899-944.
6H
2)
Holzbecher E. and Yusa Y. (1994):Numerical experiments on free
and forced convection in porous media, Int. J. Heat Mass Transfer,
∂Ψ
=0
∂n
θ =1
∂θ
=0
∂n
38(11), 2109-2115.
∂Ψ
=0
∂n
3)
H
吉村悠太郎,竹内潤一郎,藤原正幸 (2013):浸透水によって
生じる密度流が地下の水環境に与える影響の数値解析,農業
農村工学会京都支部第 70 回研究発表会講演要旨集,140-141
4)
Ψ =0
Holzbecher E. (1998):Modeling density-driven flow in porous
media, Springer, 286p.
8H
5)
吉村悠太郎, 竹内潤一郎, 武馬夏希, 藤原正幸 (2014):浸透
水の温度が地下水流れに与える影響解析,平成 25 年度 農業
図 5 対象領域と計算条件の説明
農村工学会大会講演会講演要旨集,402-403.
Ra = 75 とおいた場合の無次元時間 0.1 ごとの時間
6)
Henry H.R. (1964):Interfaces between salt water and fresh water
in coastal aquifers, Geological Survey Water-supply Paper, 1613-
変化の計算結果を図 6 に示す.計算結果は x 軸方向
の縮尺を 1/ 4 にして示している.計算結果より,波
C, C35-C70.
2
近赤外分光法を用いた豆乳凝固過程のモニタリングのための基礎研究
Basic Research for Monitoring Soymilk Coagulation using Near Infrared Spectroscopy
Key words: Soymilk coagulation, monitoring, Near Infrared Spectroscopy
生物センシング工学分野
1.緒言
豆腐は大豆加工品の中で最も主要な食品であり,
日本では食用大豆消費の約半分を占める.豆腐製造
において豆乳の凝固は豆腐の硬さなどの品質に直接
影響するため,生産者が凝固反応を制御する際に必
要となる凝固過程のモニタリング技術が求められて
いる.
豆乳の凝固過程では豆乳中のタンパク質が油滴球
を骨格として凝集し,内部に水を抱き込んだ「カー
ド」と呼ばれる微細構造を形成する 1).また牛乳は
チーズやヨーグルトに加工される際に発酵過程によ
り凝固し,豆腐と同様にカードを形成する.既往の
研究では,牛乳の凝固過程を近赤外光によりモニタ
リングした事例が報告されている 2).一方,近赤外
光で豆乳の凝固過程をモニタリングした例には光フ
ァイバーを用いた散乱測定 3)があるが,これは凝固
中の豆乳にファイバーを差し込むことによる破壊的
なモニタリング方法であり,絹豆腐や充填豆腐のよ
うなそのまま商品となる種類の豆腐製品には適さな
い.
そこで,近赤外分光法を用いた豆乳凝固過程の非
破壊モニタリング法の開発を目指し,本研究ではま
ず,透過スペクトルと豆乳凝固状態との関係を明ら
かにすることを目的とする.既往の研究において硬
さの異なる豆腐の透過特性を評価した事例はない.
したがって本研究では,異なる凝固温度で作成した
硬さの異なる豆腐の透過特性を評価し,近赤外分光
法により豆腐の硬さの違いを検知できるか検証した.
次に凝固過程のモニタリングを想定し,凝固時間の
異なる豆腐の透過特性を評価し,モニタリングへの
応用可能性を検証した.
2.実験方法
本研究では,豆乳には成分無調整豆乳(名古屋製
酪株式会社)を用いた.また,CaS04・1/2H2O(中
島商店株式会社)を豆腐用凝固剤として用いた.
透過測定には紫外可視近赤外分光光度計 V-670
(日本分光社製)を使用した.この分光光度計は光
束がリファレンスと試料を透過するダブルビーム方
式で,回折格子型の分光器である.また,使用した
1
斎藤
嘉人
透過セルの厚みは 0.3 mm である.
以下に各実験の実験方法を示す.
2.1 凝固温度の異なる豆腐の透過特性
室温下(22 ℃)で豆乳 100 ml を用意し,凝固剤
CaS04・1/2H2O を豆乳に対する濃度が 58.1 mM とな
るように調整したものを豆乳に加え,よく攪拌した
ものを用意した.なお,この CaS04・1/2H2O の濃度
は,名古屋製酪株式会社製の成分無調整豆乳に対す
る CaS04 の最適濃度であることが報告されている 4).
試料作成前に 2 つの空の透過セルを置いてベース
ライン測定を行った後,試料用透過セルに豆乳と凝
固剤の混合物を注入し,室温下で凝固前の豆乳の透
過測定を行った.
その後,40,50,60,70,80,90 ℃の 6 種類の凝
固温度について,それぞれの温度でオーブン内にて
10 分間凝固させた後,冷却(4 ℃)7 分,静置(22 ℃)
7 分を行って試料を調製し,透過測定を行った.
測定波長は 1100~1800 nm,バンド幅は 0.5 nm,1
回の透過測定でのスキャン回数は 4 回とし,再現性
を確かめるため,同条件で 4 回の測定を繰り返した.
また同凝固条件で 100 mL の豆腐を調製し,SV 型
粘度計 SV-10(エー・アンド・デイ社製)を用い,
硬さの指標として粘度を評価した.本装置は音叉型
振動式粘度計であり,広いレンジに渡り液体から半
固体状の物質まで構造をほぼ破壊せずに測定でき,
豆腐の硬さの評価にも適している.
2.2 凝固時間の異なる豆腐の透過特性
豆乳に凝固剤を混合し,凝固前の豆乳の透過測定
を行うまでの工程は 2.1 の実験と同様である.ただ
し,凝固前の試料は凝固時間 0 分と定義する.
その後,1, 2, 4, 7, 10, 15, 20, 25, 30 分の 9 種類の凝
固時間で 80 ℃にて凝固させた後,冷却(4 ℃)7
分,静置(22 ℃)7 分を行って凝固時間の異なる試
料を調製し,透過測定を行った.なお,凝固温度
80 ℃は,既往の研究において用いられている凝固温
度の平均値である 4).
測定波長は 1100~1800 nm,バンド幅は 0.5 nm,1
回の透過測定でのスキャン回数は 4 回とし,再現性
を確かめるため,同条件で 4 回の測定を繰り返した.
3.結果および考察
表 1 フィッティングによる各パラメータと R²
一次反応速度式
3.1 凝固温度の異なる豆腐の透過特性
測定波長全域において,凝固温度の増加に伴い豆
腐の吸光度は増加していく傾向が得られた.原因と
して,試料自体の吸収の増加や,豆乳中の粒子が凝
集してミセルのサイズが増加することで光の散乱強
度が増加し,透過光強度が減少したことで見かけの
吸光度が大きくなったことが考えられる.また,豆
腐の粘度は凝固温度が上昇するにつれて増加する傾
向が得られた.そこで,最も吸光度の上昇幅が大き
かった 1100 nm において,凝固前の豆乳からの吸光
度の増加∆𝐴と豆腐の粘度との相関を図 1 に示す.こ
こで,エラーバーは全 4 回の測定の標準誤差を示す.
1.0
Wavelength
(nm)
𝑘
R²
C
𝑘
R²
1100
0.89
0.23
0.981
0.87
0.18
0.986
1300
0.73
0.21
0.985
0.71
0.17
0.988
1500
0.59
0.20
0.987
0.57
0.16
0.988
1700
0.49
0.19
0.989
0.48
0.15
0.991
式(1)と式(2)より,𝑘は凝固反応の速度を表す.し
たがって表 1 中の𝑘の値より,波長が長くなるにつ
れて反応速度が小さくなることが示された.
豆乳凝固過程では,粒子サイズの増大に対応して
短波長側から散乱強度が増加していくと考えられる.
したがって,粒子の凝集による散乱光の増加は短波
長側でより早く,その現象が見かけの吸光度の増加
する速度に反映された結果であると考えられる.
0.8
∆𝐴
C
S 字型一次速度式
0.6
4.結言
0.4
0.2
0.0
0
200
400
600
800
Viscosity (mPa・s)
図 1 1100 nm における∆𝐴と豆腐の粘度との関係
図 1 より,1100 nm における∆𝐴は豆腐の粘度と線
形的な関係を持つ可能性が示唆された.また,他の
波長においても同様の傾向が確認され,近赤外分光
法により豆腐の硬さを検知できることが示された.
3.2 凝固時間の異なる豆腐の透過特性
1100~1800 nm 全域において,凝固時間が経過す
るにつれて豆腐の吸光度は増加する傾向が得られた.
既往の研究において,凝固過程における豆乳の粘弾
性は一次反応速度式に従うと報告されている 5).一
方,凝固過程における近赤外光の散乱強度は時間の
関数で S 字型曲線を描く傾向が確認されている 3).
そこで本実験では凝固時間 0 分からの吸光度の増加
を∆𝐴と定義し,∆𝐴について一次反応速度式と S 字
型一次速度式でフィッティングを行った.このとき,
選択する波長による速度式の違いを評価するため,
1100, 1300, 1500, 1700 nm の 4 種類の波長を用いた.
式(1)と式(2)に,それぞれ一次反応速度式と S 字型
一次速度式を記す.ここで,𝑦は測定値(ここでは∆𝐴),
𝑘 (min−1 )は速度定数,Cは平衡値である.
𝑦 = 𝐶(1 − 𝑒 −𝑘𝑡 )
(1)
𝑦=𝐶∙
𝑒 (𝛼+1)𝑘𝑡 − 𝛼
𝑒 (𝛼+1)𝑘𝑡 + 1
凝固温度の異なる豆腐の透過特性から,豆腐の硬
さを近赤外分光法で検知できることが示された.ま
た凝固時間の異なる豆腐の吸光度のフィッティング
結果から,モニタリングへの応用可能性が示された.
図 1 のように豆腐の粘度と吸光度の増加が線形的な
相関を持つと仮定すると,吸光度は一次反応速度式
に従って増加する 5).しかしこの吸光度は,凝固過
程では S 字型曲線を描く散乱 3)や反射の影響も含む
ため,わずかに S 字型一次速度式で相関が高くなっ
たと考えられる.ゆえに,吸収・散乱・反射の各成
分について測定や解析を行うことで,より正確に凝
固反応をモニタリングできる可能性が示唆された.
1)
2)
3)
4)
(2)
ただし,式(2)で,凝固時間 0 分のとき∆𝐴 = 0,つま
り境界条件𝑡 = 0のとき𝑦 = 0より,𝛼 = 1とした.
得られた𝐶および𝑘の値と,R²の値を表 1 に示す.
5)
2
参考文献
Ono, T. (2008) : The Mechanism of Soymilk and Tofu
Formation from Soybean, and the Factors Affecting the
Formation, Nippon Shokuhin Kagaku Kogaku Kaishi,
55(2), 39-48
Christian Boge Lyndgaard, Soren Balling Engelsen, Frans
W.J. van den Berg (2012) : Real-time modeling of milk
coagulation using in-line near infrared spectroscopy,
Journal of Food Engineering, 108, 345-352,
Peng He, Zhen Zhou, Na Wang (2011) : Development of A
Novel Fiber Optic Sensor for On-line Monitoring of
Soymilk Coagulation, Applied Mechanics and Materials,
52-54, 1703-1708
Yurie Mine, Kaori Murakami, Keiko Azuma, Shiho
Yoshihara, Kimitoshi Fukunaga, Takashi Saeki and Etsuo
Sawano (2005) : A Comparison of Various Coagulants in
Tofu-Forming Properties, Nippon Shokuhin Kagaku
Kogaku Kaishi , 52(3), 114-119
Kaoru Kohyama, Yoh Sano and Etsushiro Doi (1995) :
Rheological Characteristics and Gelation Mechanism of
Tofu (Soybean Curd), Journal of Agricultural and Food
Chemistry, 43, 1808-1812
日長と光強度がリーフレタスの生長に与える影響
Effect of Photoperiod and Light Intensity on the Growth and Development of Leaf Lettuce
Keywords: plant factory, photoperiod, light intensity
農業システム工学分野
1. はじめに
植物工場とは光,温度,湿度などの生育環境
を制御した施設において,植物を周年・計画的
に生産するシステムである.人工光型植物工場
では安全な作物を効率的に栽培できるが,光源
や空調のランニングコストが高いという短所も
ある.光条件は葉菜類の生育速度や品質に大き
な影響を与えるため,ランニングコストを最小
にし,高品質な野菜を高速で生産するべく,最
適な光条件を解明する必要がある.
サラダナは積算光量が大きいほど生体重・乾
物重共に大きくなるが,光強度の増加に対する
生長速度の増加は 24 時間連続光下では低下する
1)
.また生長量が大きくなる環境条件下ほど,
Ca2+の欠乏による生理障害であるチップバーンの
リスクも増加するが,不明な点も多い 2) 3).
本研究では消費電力の少ない LED 光源を用い
て,異なる強さの光強度と異なる長さの日長を
組み合わせ,リーフレタスの生長量の差から効
率的に栽培できる光環境を求める.また品種ご
との最適な光条件を解明することを目的とする.
定井
静香
24 時間の条件で乾燥させた後,地上部乾物重を
測定した.測定した各値は ANOVA で解析した.
表1
環境要因
日長[h]
光強度[μmol/m2s]
光質
気温
養液肥料
養液 pH
養液 EC [dS/m]
環境条件
設定値
12, 16, 20, 24
150, 200, 250, 300
R:G:B=8:1:1
15 ℃
1 号,2 号,5 号
6.0±0.5
1.2±0.1
3. 結果および考察
3.1 グリーンウェーブ
図 1 に地上部生体重を,図 2 の棒グラフに地上
部乾物重,折れ線グラフに乾物率を示す.地上
部生体重,地上部乾物重ともに日長と光強度が
大きくなるにつれて有意に増加した .
2. 実験方法
人工光型コンテナ式植物工場(エスペック株
式会社,TAF-24KS)にて RGB ライン LED(株
式会社シバサキ,NE02-000089(01))を用い,リ
ーフレタスの養液栽培を行った.供試植物とし
てグリーンウェーブ(タキイ)とレッドファイ
ヤー(タキイ)を用いた.ウレタンスポンジに
播種し PPFD100 μmol/m2s の白色 LED で 7 日間育
苗した後,栽培パネルに移植した.実験区は異
なる 4 種の日長と異なる 4 種の光強度をそれぞれ
組み合わせた全 16 パターンとし,10 株/1 実験区
で,日長 12・16 h と 20・24 h の 8 実験区ごとに
実験を行った.環境条件を表 1 に示す. 1 週間に
2 度カップつき生体重の測定を行った.またチッ
プバーンや徒長の有無も観察し,チップバーン
が発生した株数を記録した.
移植後 21 日目に収穫し,カップつき生体重,
地上部生体重,葉枚数,茎長を測定した.103 ℃,
図1
図2
グリーンウェーブの地上部生体重
グリーンウェーブの地上部乾物重及び乾物率
葉枚数と茎長も日長と光強度の増加に伴い増
加傾向にあるが,光強度 200 μmol/m2s 以上のと
き有意差はほぼなかった.また日長 24 h では 250
μmol/m2s よりも 300 μmol/m2s で小さな値となっ
た.これらは光強度が一定値を超えて増加して
も葉枚数に対する効果は得られないことを示唆
している.収穫時はすべての実験区でチップバ
ーンが見られた.積算光量が大きい実験区ほど
発生数は多く,重度の株では,頂端分裂組織周
辺の小さな葉が壊死しているものが見られた.
葉枚数は葉の全長が 3 cm 以上のものを 1 枚とし
て数えたため,チップバーンにより,葉枚数の
増加が阻害されたと思われる.茎長に徒長傾向
はなく,全実験区で生長に必要な最低限の光量
は満たしていると考えられる.乾物率は全体で
は一貫した変化は見られなかった(図 2).積算
光量が同じとなる実験区を比べた場合,地上部
生体重・乾物重ともに日長が長く光強度が小さ
い方で大きい値となった.これは単位時間あた
りに植物が吸収できる光量が限られているため,
同じ積算光量でも弱い光強度で長時間の明期の
条件で効果的に光を吸収し生長に利用できるか
らだと考えられる.
3.2 レッドファイヤー
図 3 に地上部生体重を,図 4 の棒グラフに地上
部乾物重,折れ線グラフに乾物率を示す.グリ
ーンウェーブに比べ生長速度が遅く,収穫時の
地上部生体重はグリーンウェーブの 40 %程度で
あったため,差は小さかったが,地上部生体重,
地上部乾物重ともに日長と光強度の増加に従い
増加した.日長 24 h のとき 250 μmol/m2s よりも
300 μmol/m2s で小さな値となり,これは光量の許
容限界を示唆している.葉枚数には一貫した有
意 な 変 化 は 見 ら れ な か っ た が , 24 h , 200
μmol/m2s 以上の実験区ではグリーンウェーブ同
様チップバーンの影響が見られた.
日長が 12・16 h の実験区ではチップバーンの
発生が少なく,発生していてもその程度は軽度
であった.栽培期間を延長し,一般的に市場に
流通する程度の大きさに生長させるとチップバ
ーンが発生する可能性がある.チップバーンは
気温・湿度・送風の調整により軽減が可能であ
る 3)が,本実験では実験施設の制約により調整不
可であった.これらの環境条件次第では,現行
の光条件でもチップバーンのないレタスの栽培
は可能であると思われる.いずれの実験区でも
徒長傾向は見られず,乾物率に一貫した変化は
なかった.またグリーンウェーブ同様,積算光
量が同じ場合,日長が長い方で生長量が大きく,
光強度の増加よりも日長の増加に効果があるこ
とが示された.
図3
図4
レッドファイヤーの地上部生体重
レッドファイヤーの地上部乾物重及び乾物率
4. 結論
日長と光強度の増加に伴い,生長量は増加した
が,積算光量が同じ場合は日長が長く光強度が
弱いほうが効果的であった.チップバーンが発
生した株が 50 %以下かつ生長量が最大となった
条件は,グリーンウェーブ,レッドファイヤー
ともに日長 20 h,光強度 250 μmol/m2s の組み合
わせであった.積算光量が増加するとチップバ
ーンのリスクも増加するが,これは軽減可能で
ある.今後は市場に適したレタスの栽培条件を
整えた上で,生長速度増進とコスト削減への効
果について検証する必要がある.積算光量を一
定とし,日長の違いによる効果を調べることで,
最適な光環境を求めることが期待される.
参考文献
1) Ikeda, A., S. Nakayama, Y. Kitaya, & K. Yabuki.
(1988) Basic Study on Material Production in Plant
Factory (1) -Effects of Photoperiod, Light Intensity,
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地域景観の変遷から導かれる一体的な景観づくりのあり方
―滋賀県近江八幡市北之庄地区を対象として―
Related Utilization between Different Landscapes Derived from Transition of Rural
Landscape in Kitanosho District in Omihachiman City, Shiga Prefecture
Key words: Transition of Rural Landscape, Utilization of Landscape, Related Utilization
農村計画学分野
杉野
彩子
1.研究の背景と目的
かつて農村住民が自然と折り合いをつけながら
生活や生業を営み,地域性を反映して形成されてき
た農村景観は,戦後の生活様式の変化などにより大
きく変化した.こうした農村景観への関心が近年高
まっている.2004 年に文化財保護法の改正により,
地域住民の営みや風土により形成された景観を評価
する「文化的景観」が文化財の一つに位置づけられた
ほか,住民や NPO 法人,企業などによる景観の保
全・活用の動き(以下「景観づくり活動」)も全国的
に見られる 1).南里ら(2009)2)は地域の特徴的な景観
の変遷を明らかにし,活用による景観保全の可能性
を示唆したが,景観法にうたわれている周囲の景観
との一体性の確保に着目した研究は見られない.
本研究では,①農村地域内に存在する異なる景観
のそれぞれの変遷とそれらのつながりや,近年活発
化している景観づくり活動の景観変遷への影響を調
査し,②それらをふまえて景観活用による景観づく
りの課題への取り組み方を示唆することを目的とす
る.
また,北之庄地区に長年住む 60 歳代以上の住民への
聞き取り調査と文献調査により,景観変遷の原因と
なった生活,生業の変化などを明らかにした.また,
現在北之庄地区で景観づくり活動に関わる主体に対
しても聞き取り調査を行った.
(2) 住民の景観認識の調査
(1)の聞き取り調査の対象者に加え,数年前に北之
庄地区に移住した住民を対象に北之庄地区の良好と
思う景観,良好でないと思う景観について聞き取り
調査を行った.この調査は,住民が良好でないと認
識している景観を明らかにし, (1)の景観変遷の結
果と併せて北之庄地区の景観づくりの課題を示し,
景観変遷をふまえて考えられる景観の活用方法につ
いて提言する目的で行った.
2.研究方法
3.調査結果
2.1 対象地の概要
研究対象地は,滋賀県近江八幡市北之庄地区であ
る(図 1)
.本地区は琵琶湖に近く,集落や平坦な農
地の間には水路が張り巡らされた地形で,多様な景
観を有する.農業のほか,かつては琵琶湖の内湖の
北之庄沢で漁業が営まれた.2006 年に北之庄地区の
一部と隣接する地区が重要文化的景観に全国で初め
て選定された.
3.1 景観変遷の調査結果
(1) 戦後までの景観変遷
戦後間もなくまで,水郷の底にたまった土や淵に
生える藻を農地に掻き揚げ,2~3 年かけて腐敗させ
たものを肥料に使用していた.それにより水郷は住
民が田舟で移動するのに十分な水位を保っていた.
北之庄沢では一部の農家が漁業を兼業としていたほ
か,子どもも魚を捕まえるなどして遊んでいた.北
之庄山の裾野は住民に管理された竹林で,煮炊きや
農具・漁具の材料に利用された.煮炊きには北之庄
山に生える芝や落ち葉,松なども使われた.
(2) 1975 年頃までの景観変遷
1960 年代に農業の省力化のため,農薬・除草剤や
化学肥料,耕運機などの小型の農業機械や軽トラッ
クが使用され始めた.そのため水郷からの土の掻き
揚げや,水郷内の田舟での移動は徐々になくなって
図 1 対象地域の現在の土地利用
2.2 研究の方法
(1) 戦後から現在までの景観変遷の把握
戦後から現在までの北之庄地区の農地,水路と北
之庄沢(合わせて「水郷」と呼ぶ)および北之庄山の
景観変遷を把握するため,1946 年,1975 年および
2010 年に撮影された航空写真を比較し,著しく変化
したところは ArcGIS で変化した面積を算出した.
1
いった.また,市街地から北之庄沢にゴミや生活排
水が流入し,水郷がゴミやヘドロで埋まり,水位が
低下した.水郷のある部分の水面の面積は表 1 のよ
うに減少した.北之庄沢に生息していた魚は農業排
水や生活排水の流入により見られなくなり,子ども
が北之庄沢で遊ぶことはなくなった.北之庄山の裾
野の竹林は,生活様式が変化し煮炊きに使用されな
くなり,管理が放棄された.北之庄山の中腹では良
質な松茸が採れていた.
一方,良好でないと思う景観としては,農地やヨ
シ地への空き缶・ペットボトルの投棄や,北之庄山
の腐葉土の堆積,放置された竹林の進出や雑木の繁
茂が挙がった.ただし,
「たねや」による竹林整備が
行われている範囲の景観は「よくなった」という話
があった.
4.考察
対象地では過去に住民の生活・生業の中でそれぞ
れの景観は多様な機能を持ち,異なる景観が関連し
た機能を持つことで良好な景観が維持されていたが,
それらの機能の一部が失われることで生じた景観が
現在良好でないと認識されていると分かった.また,
一時良好でないと認識された景観に対し,
「北之庄沢
を守る会」や「たねや」による景観活用が始まり,
活用されている範囲の景観は住民に良好であると認
識されるようになった.農地についても,過去に低下
した水田の生き物のすみかとなる機能を復活させる
などしているが,農家の高齢化により今後農家住民
だけで農地を維持できなくなると,良好と認識され
ている生きものの訪れる水田景観が損なわれること
が推測される.北之庄山についても活用が不十分で
ある範囲の景観は良好でないと認識されている.
農地・北之庄沢・北之庄山の一体的な景観づくり
のためには,現在のようなそれぞれの景観を個別に
活用する活動に加え,それぞれの景観の機能をつな
げるような景観活用が必要である.
表 1 水郷の面積変化
航空写真
水面面積(a)
1946 年
1975 年
2010 年
243.7
190.7
165.1
(3) 現在までの景観変遷
2007 年から農家が農地の一部で「魚のゆりかご水
田」事業に取り組み,水田に遡上する湖魚が基盤整備
以前のように産卵・生育しやすいよう配慮した農業
が行われている.2011 年から食や環境について学ぶ
講座を水田や畑で開催する NPO 法人「百菜劇場」が
活動を始め,地区内外の人々が農作業体験や畑でと
れた野菜を使った料理を食べるイベントなどに参加
している.また,無農薬無化学肥料栽培の畑を利用
した子どもの自主保育活動が行われている.農家の
中には高齢で後継者もいない世帯が増え,認定農家
や営農組合への作業委託が進んでいる.2010 年農林
業センサスによると,北之庄地区の農業就業人口 45
名のうち 29 名が 65 歳以上,経営耕地 8,316a のうち
約 54%が借入耕地である.1996 年から 2000 年にか
けて,国の事業によりヘドロが堆積した北之庄沢が
浚渫されたことを機に,2000 年に北之庄地区の住民
の有志により「北之庄沢を守る会」が結成され,北之
庄沢のゴミ回収や草刈りなどが実施されてきた.現
在では年に 1 度,地元の小学生親子を対象に釣り大
会を行っている.過去には企業の草刈りボランティ
ア活動も年に数回行われた.現在は北之庄沢で漁を
行う住民も 1,2 名いる.北之庄山のふもとは 2009
年から市内の企業「たねや」の敷地となり,北之庄山
の裾野で間伐した竹を細かく砕いて敷地内の歩道に
敷いて使用するなど,周囲の景観との調和を目指し
た菓子店が建設されている.住民が北之庄山に入る
機会は,春のタケノコ採り,秋のマツタケ採りや祭
事,正月の門松のための松採りなどがあるが,マツ
タケはとれる量が以前よりも少なくなった.
5.提言
農地景観の課題に対しては,農家が行っている「魚
のゆりかご水田」事業の非農家への継承や,北之庄山
の腐葉土を堆肥に活用した栽培により,教育機能を
有する農地の維持が一例として考えられる.これは,
「百菜劇場」の畑で自主保育が行われていることや食
や環境に関心を抱く人々が畑でのイベントに訪れる
こと,家族の食べる野菜を有機栽培で作りたいと農
家の畑を借り家庭菜園をする住民の存在から,可能
であると考える.北之庄山と農地や北之庄沢をつな
ぐ活用方法として,子どもの遊びの場となっている
「百菜劇場」の畑での竹を使った遊び道具づくりや,
北之庄沢での釣りの釣竿への竹の使用などが考えら
れる.
参考文献
3.2 住民の景観認識の調査結果
住民が良好と思う景観として,季節により異なる
種類の花が見られる水郷や,季節ごとに稲や鳥が違
った姿を見せる水田,背景として見る小高い北之庄
山が挙がった.また,これら水郷・農地・北之庄山
が一緒に目に入る複合景観がよいと話す住民も複数
いた.
1)
2)
2
山口廣訓・三橋伸夫(2007):里山保全活動の実態と
その住民評価に関する研究―群馬県及び栃木県の里
山保全団体 4 事例を対象として―,農村計画学会誌,
26,311-316
南里美緒・横張真・落合基継(2009):近江八幡の水
郷景観におけるヨシ原の変遷とその文化的景観とし
ての保全策,ランドスケープ研究,72,731-734.
コンバインの遠隔操縦システムの開発
Development of the System to Operate Combine by Remote Control
Key words: Combine Robot, Remote Control
フィールドロボティクス分野 関 宏樹
1. 緒言
場面は一部軟弱なところがあった.作業条
近年日本の農業は,農業従事者が年々減
件は 0.5m/s で直進による刈取,刈取部高度
少し,更に高齢化が進んでいるという深刻
の設定は目視により確認を行った.
な問題を抱えている.これらの問題に対処
するため,農林水産省では農業機械のロボ
ット化に関する研究が進められている.現
在京都大学で開発されている自脱コンバイ
ンロボットによる刈取作業を行うには,人
が操縦して最外周から 4 周分の刈取を行い,
安全に旋回するためのスペースの確保と
GNSS 座標の取得を行う.その GNSS 座標
から稲の領域を算出することでロボット走
行を開始することができる.そこで本研究
の最終目標はこの4周分の刈取を遠隔操縦
で行うこととする.そのために今回は遠隔
図 1
操縦システムの開発,圃場での直進走行に
ISCSP の通信モデル
3. 実験結果及び考察
よる遠隔刈取作業の達成を目標とする.
2. 実験方法
直進走行に関して,遠隔操縦により刈取
4 条刈自脱コンバイン(三菱農機(株)
作業を行うことができた.ただし刈取条数
製,VY446LM)に 3 台のネットワークカ
が 2 条になることがあった.その原因とし
メラを取り付け,統合センサ制御ソフトウ
て刈取部右端と稲の相対位置の確認が困難
ェアプラットフォーム(Integrated Sensor
であったこと,画像中に影が写り込むとそ
Control Software Platform,ISCSP)で開
れが更に困難であったことが挙げられる.
発したアプリケーションを利用し,ゲーム
図 2 に作業時のカメラ画像を示す.この問
用 コ ン ト ロ ー ラ Logitech G27 Racing
題に対処するため,図 3 に示す直進経路表
Controller(Logitech 製)で遠隔操縦によ
示フォームを作成した.これをカメラ画像
る刈取作業を行った.図 1 に ISCSP の通信
の上に重ね合わせ,刈取部を最大まで上げ
モデルを示す.データの送受信は 10Hz ご
た状態の刈取部右端の位置を入力すること
とに行われる.
で,刈取作業時の刈取部の位置と直進時に
平成 26 年 10 月 8 日に京都府南丹市八木
通過する経路を表示することが出来る.こ
町にて刈取実験を行った.天候は晴れ,圃
の表示を利用することで刈取部付近の映像
1
に影が入り込んだ場合でも,影のない部分
図 4 は 1 回のデータ送受信にかかった通
を見てコンバインの進行方向を決めること
信時間を示す.横軸のループカウンタは
が出来ると考えられる.
10Hz ごとに増加している.通信時間は平均
0.05 秒であるが,大幅に遅れが生じている
場合がある.通信時間は遠隔操縦を安全に
行うために重要な要素であるため,通信速
度の安定化が必要である.
4. 結言
本研究では,コンバインの遠隔操縦シス
テムを開発した.これを利用し,直進走行
による遠隔刈取作業を行うことができた.
ただし刈取部高度の確認,通信速度の改善
図 2
カメラ画像
については課題が残っている.またコンバ
インロボットと連携するために最外周から
4 周分の刈取作業を行うには,旋回走行に
関する研究も進める必要がある.
文献目録
[1]
FiroKyoto/IntegratedSensorControlPlatf
orm. 参照日: 2014 年 10 月 3 日, 参照先:
https://github.com/FiroKyoto/Integrated
図 3
SensorControlPlatform
直進経路表示フォーム
[2]
また刈取部高度に関して,カメラ画像で
栗田寛樹,飯田訓久,趙元在,村主勝彦.
は刈取部高度の確認は困難であるため,本
(2014). 画像特徴量にもとづくカメラ姿勢
実験では目視による確認を行ったが,それ
推定による移動式 2 自由度マニピュレータ
を補助するカメラ配置,もしくは新たなセ
の位置決め制御-Positioning Control of a
ンサの設置が必要である.
Mobile 2-DOF Manipulator based on
Camera Pose Estimation using Image
Features-. 情報処理学会研究報告.
[3]
内田諒,飯田訓久,祝華平,栗田寛樹,村主勝
彦,増田良平. (2013). 自脱コンバイン・ロ
ボ ッ ト の 経 路 追 従 制 御 -Path Following
Control
for
Head-feeding
Combine
Robot-. 計測自動制御学会論文集.
図 4 通信時間
2
養液への海洋深層水の添加がリーフレタスの成長に与える影響
Effects of Deep Seawater on the Productivity and Nutritional Value of Greenleaf Lettuce
Keywords: deep seawater, high quality, plant growth
農業システム工学分野
1. はじめに
海洋深層水は深海,すなわち陸棚外縁部以外にあ
る海水で,その特徴として低温性,富栄養性,清浄
性,ミネラル特性,安定性等が挙げられ,近年,資
源として注目されている 1) 2).海洋深層水は同じ海水
である表層水に比べると,ゴミなどがほとんどなく,
粒状懸濁物濃度が小さく,汚染物質や微生物が少な
い清浄性に優れる特徴を持っている 3).窒素やリン
といった植物の生長に必要な栄養塩も表面海水に比
べて多く存在するほか,80 種類以上の無機元素や未
知なる有機生理活性物質の存在が示唆されており 4)
5)
,海水中に多量に存在する塩化物イオンも,植物に
とっては微量必須元素であることが知られており,
光合成の一部のプロセスでの触媒効果が報告されて
いる,作物栽培においても有用な効果が期待される
6)
.また,その存在量は膨大であり,自然の物質循環
によって再生されるという性質がある.これらによ
り深層水は再生可能な新資源として認識され始めて
いる 7).海に囲まれた日本では,昔から身近にある
天然資源として海水や海藻が農業に用いられている.
海水が多く含まれる干拓地や台風による高潮の被害
を受けた低平地の田畑で,品質の良い作物が収穫で
きる例はよく知られている 8).一方,近年の消費者
ニーズの多様化に伴い,野菜に対する要望は,外観
品質ばかりでなく,食味,栄養価,安全性などの内
容的な品質に関心が高まっている.
本研究では,完全人工光型植物工場の水耕栽培に
おける養液への海洋深層水の添加および添加濃度の
違いによる生育,収量,品質に及ぼす影響を検討し
た.
2. 実験方法および材料
供試植物にはリーフレタスを使用した.種子をウ
レタンスポンジに播種し,2 日間暗所に置いた後に 7
日間育苗を行った.その後コンテナ型植物工場に 1
区画 20 個体ずつ移植し,各実験区の温度は明期
23 °C/暗期 18 °C とし,pH を 6.5-7.0 に調節した.
光源には直管型 LED を用い,反射シートで実験区を
囲み,光利用効率を向上させ,PPF を 300 μmol·m-2·s-1
とした.明期/暗期の周期を 16 h/8 h とした.
実験用の海洋深層水は,静岡県伊東市赤沢沖で深
さ 800mの深海から採水した伊豆赤沢海洋深層水を
Cong Jiaheng
使用した.海洋深層水の濃度が 0,5,10,15%で,
0%の海洋深層水に肥料(大塚化学,大塚ハウス 1 号,
N:P205:K20:CaO:MgO=18:8:27:0:4 ・ 2
号 ,
N:P205:K20:CaO:MgO=11:0:0:23:0)を入れ,EC を 2.0
dS m-1 に調節し,他の濃度の海洋水に同じ量の肥料
を入れ,栽培を行った.海洋深層水濃度と塩分濃度
の換算は表 1 に示す.移植したレタスはスポンジご
と透明のカップに差し込み,7 日毎に生体重を測定
した.収穫時には地上部の生重量,葉数,茎長と乾
物重を測定し,
葉数は 3cm 以上の葉のみを計測した.
各濃度からランダムに三株ずつ選出し,一番大きい
葉を使い SPAD 値,グルコースと硝酸イオン含量を
測定した.
表1 海洋深層水濃度と塩分濃度の換算
RDSWa(%)
0
5
10
15
a
NaCl(mM)
0
30.67
61.34
92.01
Relative deep seawater concentration
3. 結果および考察
図 1 はレタスの生長と海洋深層水濃度の関係を示
す.グルコースと硝酸イオン含量の測定結果を図 2
に示す.リーフレタスの生育に及ぼす海洋深層水の
影響を調査した結果,生体重,乾物重,葉数および
茎長は海洋深層水濃度の高い順にそれぞれ小さくな
ったが,生体重,乾物重と葉数は海洋深層水濃度が
5%の場合では最も大きくなった.SPAD 値とグルコ
ース含量が海洋深層水濃度の高い順にそれぞれ大き
くなった.硝酸イオン含量は海洋深層水濃度の高い
順に小さくなったが,有意差が認められなかった.
生体重と乾物重は 5%と 10%の間に有意差があった
が,乾物率において,0%以外,有意な結果が得られ
ない.5%の場合,レタス生体重の平均値は 174.8g
で,
0%の 1.2 倍になった,
10%と 15%はそれぞれ 0%
の 76.2%と 70.5%であった.10%と 15%の全ての測
定項目において,有意差は出なかった.最も生育が
良好であった条件は深層水の濃度が 5%の場合につ
いては,カイワレで行われた岡本ら(2013)の報告,ホ
ウレンソウ(留森ら, 1996)9)や小松菜(
(株)ホ
10)
ーチ・アグリコ, 2003) の栽培の結果と一致し
た.また,海洋深層水試験区については,同一濃度
となるように調整した表面水試験区を設定し,それ
らの生長量を比較した実験で,生育初期の段階であ
るカイワレ栽培において,5%(v/v)海洋深層水の添加
で最も高い生育促進効果が確認され,直上表面海水
と比較してもカイワレ重量,葉の表面積,ならびに
クロロフィル増加量において有意な差が確認された
と報告した,深層水の中には作物の生長に関与する
因子が表層水の中よりも多く存在すると推察された
6)
.
後さらに調べる必要がある.
4. 結論
本研究では人工光を利用した完全制御型の植物工
場において、野菜の高品質化をするため,様々な濃
度の海洋深層水を添加した養液を用いてグリーンリ
ーフの栽培を行った。適切な濃度について検討を行
った。海洋深層水を加えることにより,レタスの大
きさは小さくなるが,硝酸含量が減少し,SPAD 値
とグルコースの含量が上昇した.実験測定項目の結
果を全体的に判断すると,濃度 5%の海洋深層水が
リーフレタス栽培に最も適していることがわかった.
1)
2)
3)
4)
5)
6)
7)
図 1 レタスの生長と海洋深層水濃度の関係
8)
9)
10)
図 2 グルコースと硝酸イオン含量の測定結果
11)
作物は根系を拡大することにより地上部への養水
分供給が補償され,地上部へのストレスの影響を遅
延し,ある一定の浸透圧ストレス強度まである一定
の気孔コダクタンスを維持することができ,光合成
速度を維持することで生長を維持することが可能に
なると考えられる 11).今後,根の長さに関しては今
参考文献
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福島県阿武隈川,新田川,太田川水系における
放射性セシウムの土地利用別流出特性評価
Assessment of radiocesium discharge characteristics related to land uses
in the Abukuma, Niida and Ota River systems in Fukushima
Key words: Radiocesium, Discharge, Land use
水環境工学分野
1.緒言
福島第一原子力発電所の事故によって放出され,
陸域に沈着した放射性セシウム(以下,Cs)は,渓
流や河川などの水系を通じて徐々に流出している.
こうした現状をふまえ,Cs の汚染対策を構築する上
で河川水中の Cs の長期的なモニタリングや流出特
性の解明は重要である.本研究では,福島県東部を
流れる阿武隈川水系,新田川水系,太田川水系にお
いて流域の土地利用面積割合が Cs の流出に及ぼす
影響を考察した.
2.材料・方法
2.1 調査地点とその流域
調査地点は福島県内の 12 地点の河川である(図 1)
.
また,各調査地点について,調査地点より上流に位
置する河川の流域における土地利用面積割合と Cs
平均沈着量を,GIS データを用いて算出した(表 1)
.
竹口 輝
2.2 河川水の採取と分析方法
2014 年 5 月 10 日,6 月 8 日,7 月 4 日,9 月 2 日
に各調査地点で河川水を採取し,Cs 濃度を測定した.
Cs 濃度を測定するにあたり,サンプル水中の Cs を
溶存態 Cs 濃縮装置(藤原製作所製)1),2)を用いて分
離・濃縮した.まず,孔径 1μm の SS 物質回収カー
トリッジ(日本バイリーン社製,RP13-011) 1)にサ
ンプル水を通し SS に吸着している Cs(懸濁態 Cs)
と水に溶けている Cs(溶存態 Cs)を分離した.続
けて,サンプル水に含まれる溶存態 Cs を亜鉛置換
体プルシアンブルー担持不織布カートリッジ(日本
バイリーン社製,RP13-011) 3)を用いて濃縮した.
これらの過程で得られた 2 種類のカートリッジを所
定容器に入れてゲルマニウム半導体検出器で分析し
て Cs 濃度を測定した.同時に,SS 濃度を測定し,
懸濁態 Cs 濃度を SS 濃度で除すことで単位 SS 質量
あたりの Cs 濃度(以下,SS あたりの Cs 濃度)を算
出した.
3.結果・考察
3.1 Cs 濃度と土地利用の関係
懸濁態 Cs 濃度,溶存態 Cs 濃度,全濃度,SS あた
りの Cs 濃度は各流域土地利用面積割合(農用地,
森林,市街地)と明確な相関を示さなかった.土地
利用よりも Cs 濃度を決定する要因が他にあり,そ
れにより土地利用による Cs 濃度への影響が直接反
映されなかったと考えられる.
3.2 溶存態流出率
溶存態 Cs 濃度は Cs 平均沈着量と相関があった.
そこで,地点ごとの Cs 平均沈着量の違いによる影
響を排除した溶存態 Cs 濃度と土地利用の関係を評
価するために,溶存態流出率を式(1)で定義する.
溶存態流出率(m2/kL)=
1,000×溶存態 Cs 濃度(Bq/L)/Cs 平均沈着量(Bq/m2) (1)
溶存態流出率は農用地割合,森林割合と相関を示
さなかった.一方,図 2 に示すように市街地割合が
増加すると溶存態流出率が増加する傾向が見られた
(決定係数 0.0950~0.4085)ことから,都市域に沈
着した Cs は溶存態として流出しやすいといえる.
これは粘土粒子や有機物,腐植土に対して高い吸着
図 1 調査地点
表 1 各調査地点の流域データ
地点
地点名
No.
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
須賀川
二本松
小金石
西川
清水
移川
大関
光大寺
富田
八木田
原町
太田
流域土地利用面積割合(%)
農用地
34.33
32.39
29.12
28.54
6.82
43.49
21.24
29.46
32.09
16.77
20.31
4.63
森林
54.25
54.70
62.69
63.53
84.41
42.53
73.36
62.41
41.19
68.46
75.29
92.54
市街地
8.04
10.21
5.58
5.97
5.08
11.24
4.21
6.82
26.01
9.28
2.22
0.42
その他
3.39
2.70
2.61
1.97
3.68
2.74
1.19
1.32
0.71
5.49
2.18
2.42
Cs平均沈着量
2
(Bq/m )
26693
60222
25421
95718
49626
117002
165681
42335
75102
41438
640372
1227913
1
図 2 溶存態流出率と市街地割合の関係
性を有する Cs がこれらに乏しい都市域に沈着した
場合,Cs は吸着することなく Cs イオン(溶存態)
のまま河川に流出しているためと考えられる.
3.3 連行係数
溶存態 Cs 濃度だけでなく,SS あたりの Cs 濃度も
Cs 平均沈着量と相関が確認された.そこで,地点ご
との Cs 平均沈着量の違いによる影響を排除した SS
あたりの Cs 濃度と土地利用の関係を評価するため
に,連行係数を式(2)で定義する.
連行係数(m2/kg)=
SS あたりの Cs 濃度(Bq/kg)/Cs 平均沈着量(Bq/m2) (2)
連行係数は土地利用に依存する 4)と報告されてい
るが,連行係数と各土地利用面積割合(農用地,森
林,市街地)は明確な相関を示さなかった.SS あた
りの Cs 濃度は表土の有機物量や粒径等の表土状態
に強く影響を受けるため,土地利用面積割合ではな
く,地質,森林の樹種,農用地における耕作の有無,
農用地で栽培されている作物の種類等の土地利用状
況が連行係数に影響を与えると考えられる.
図 4 懸濁態 Cs 濃度と SS 濃度の関係(数字は地点 No.)
土地利用面積割合には明確な相関がないことが示さ
れた.市街地割合が大きい流域では溶存態流出率が
高くなる傾向が見られ,都市域からは,Cs は溶存態
として流出しやすいことが示された.また,連行係
数は流域土地利用面積割合とは明確な相関を示さな
かった.懸濁態 Cs 濃度と SS 濃度は相関が強いこと
から,SS が流出しやすい農用地割合が大きい地域で
は,SS 濃度が増加する降水時に懸濁態 Cs が流出し
やすい条件になるといえる.
3.4 懸濁態 Cs の流出特性
図 3 に示すように SS 濃度は農用地割合が大きい
地点で高い傾向にある(決定係数 0.1645~0.6150).
また,多くの地点において懸濁態 Cs 濃度と SS 濃度
の相関が強い(図 4)ことから,懸濁態 Cs 濃度は
SS 濃度に依存する.SS 濃度の増加は降水に起因す
るので,SS が流出しやすい農用地割合が大きい地域
では,降水時に懸濁態 Cs が流出しやすい条件にな
るといえる.
1)
4.結言
2)
本研究では,陸域に沈着した Cs の河川系への流
出特性を,流域土地利用面積割合が及ぼす影響に主
眼を置いて考察した.その結果,懸濁態 Cs 濃度,
溶存態 Cs 濃度,全濃度,SS あたりの Cs 濃度と流域
3)
4)
2
図 3 SS 濃度と農用地割合の関係
参考文献
Tsuji, H., Kondo, Y., Suzuki, Y., Yasutaka, T., 2014.
Development of a method for rapid and simultaneous
monitoring of particulate and dissolved radiocesium in
water with nonwoven fabric cartridge filters. Journal of
Radioanalytical and Nuclear Chemistry 299(1), 139-147.
保高徹夫,辻英樹,今藤好彦,鈴木安和,2013,プ
ルシアンブルー不織布カートリッジを用いた水中の
溶存態放射性セシウムの迅速モニタリング技術の開
発,分析化学,62(6),499-506.
Yasutaka, T., Tsuji, H., Kondo Y., Suzuki, Y., Takahashi,
A., Kawamoto, T., 2015. Rapid quantification of
radiocesium dissolved in water by using nonwoven fabric
cartridge filters impregnated with potassium zinc
ferrocyanide. Journal of Nuclear Science and Technology,
in press.
Yoshimura, K., Onda, Y., Kato, H., 2014a. Evaluation of
radiocaesium wash-off by soil erosion from various land
uses using USLE plots. J. Environ. Radioact. xxx (2014),
1-8.
コンバインロボットの HTTP によるリモートモニタリング
Remote monitoring of combine robot by HTTP
Key words: remote monitoring, HTTP, combine
フィールドロボティクス分野
1.緒言
竹林
恵理
画像として繋ぎ合わせて全周を見ることができるよ
うに、画像処理を行った。処理としては、歪み補正、
トリミング、高さ調整と、右側の画像に対してのみ
透視変換を行っている。
現在の日本の農業において,農業就業人口の減少
および,農業従事者の高齢化の進行が問題になって
いる.これらを受けて,国は,生産性の向上や経営
の合理化を向上させるための政策として,農地の集
約化や集落営農・農家の法人化を進めている.こう
いった農業の大規模化によって,一農業経営体にお
ける耕地面積は年々増加している.それに加え,近
年,農業ロボットの自動化やリモート化に関する開
発が進められている.遠隔地で操作または管理を行
う時には,実際にその場にいないことから見えない
部分も多く、目視による圃場情報の収集ができなく
なるため、周囲の把握が難しくなる。そのため、危
険要素の発見など、状況把握をするための安全管理
機能がよりに重要になってくる.特にコンバインな
どの大型の農機に関しては,大きな事故を招きかね
ないため,より安全面に気を付けなければならない.
これらをふまえて、遠隔地でコンバインから見た周
囲や、もしくは自車の様子を画像で把握できるよう
にするために、コンバイン全周の画像モニタリング
システムの開発を行う。
具体的には
(1)コンバインのキャビンに前後左右4方向にカメ
ラを取り付け、撮影された画像をパノラマ表示
(2)HTTP を用いて、遠隔地における PC から web 上
で閲覧できるシステムの開発
(3)オーガの先端にカメラをつけて、一回転しなが
ら自身の全周を撮影。
を課題とする。
図 1 パノラマ画像
3.HTTP による遠隔地におけるモニタリングシステ
ム
遠隔地での PC 上で撮影されたパノラマ画像がリ
アルタイムまたは過去の時刻のものを閲覧できるシ
ステムの開発を行った。今回は安価で手軽である
HTTP の web サーバを利用した。コンバインに取り
付けられた web カメラで 10 秒ごとに撮影された画
像は、コンバインのコンピュータで画像処理を行っ
た後、HTTP 通信を用いて web サーバに送られる。
送られてきた画像は、最新のパノラマ表示用のディ
レクトリと過去のパノラマ表示用のディレクトリの
2 箇所にそれぞれ保存される。最新の表示ページで
は 1 秒ごとに画像がリロードされ、過去の表示は cgi
を用いて時刻情報の一覧を作成し、リンク表示され
る。
2.パノラマ表示
コンバインのキャビンの支柱に前後左右 4 方向に
向けて web カメラを設置した。Web カメラは水平
視野角 120°のものを用いており、画像サイズは
1920pixel×1080pixel である。撮影画像は重複部分
が生まれるようにした。
実験は 11 月 28 日の 11 時から 12 時,12 月 24 日の
14 時から 15 時に行った.
撮影された前後左右のそれぞれの画像について、カ
メラの取り付け位置によるずれを補正し、パノラマ
1
5
コンバインから撮影された全周の画像をパノラマ
画像となるように繋いだ。しかしながら、パノラマ
画像の画像処理を固定値で行っているため、停止中
で繋がっていたとしても、走行中では、ずれが生じ
てしまった。また、太陽が低い位置なあった場合、
カメラの露光自動調整によって、隣り合う画像の明
るさに差が生じて見にくくなってしまっている。
それらの画像を遠隔地の PC からリアルタイムで
閲覧することが可能となった。また過去のものも見
ることができる。
オーガカメラによる撮影に関しては、コンバイン自
身と広範囲の周囲の様子が映っており、状況把握す
るために有用であるといえる。しかしながら、詰ま
った時などに確認したいであろう刈り取り部分の画
像は半分ほどしか映っていなかった。また画像内の
コンバインの大きさが小さく、細部が見えないこと
も考えられる。これらを改善するために、カメラの
取り付け位置または取り付け角度を調整する必要が
ある。
図2 最新パノラマ画像のwebページ
パノラマ表示の閲覧方法はキューブ型を用いてお
り、視点はキューブの中心にあり、キューブの内面
を見る。回転することで全周の閲覧が可能となる。
15 秒で一回転し、マウスでドラッグすることで好き
な位置に移動できる。Javascript のスクリプトによっ
て html で表示している。ブラウザは chrome を用い
る。
6.結論
コンバインロボットの自動化や遠隔操作のための全
周の画像をモニタリングできるシステムの開発をし
た。全周の画像をパノラマ画像として繋ぎ合わせ、
遠隔地の PC においてリアルタイムで閲覧すること
が可能となったが、死角や露光差が生じるといった
改善点が見つかった。またオーガカメラによる自車
の撮影もコンバインの周辺も含めた情報が得られた
が、刈り取り部分が映るようにするなどの課題が見
つかった。
図 3 パノラマ表示イメージ
参考文献
4.オーガからの撮影
オーガの排出部の本体側に web カメラを設置した。
自車とその周囲が映るように、オーガを回転させな
がら撮影を行う。約 17 秒間で 270°回転する。撮影
は 11 月 28 日に行った。
図4
考察
オーガカメラからの画像
2
石橋茉耶,村主勝彦,飯田訓久,増田良平(2014),Web アプリ
ケーションを用いた農業ロボットの遠隔モニタリング,農業情
報研究 23(1), 12-20
ミリ波を用いた農産物の水分計測に関する基礎研究
Water content measurement in agricultural products by millimeter wave
Key words: water content, millimeter wave, free-space measurement
生物センシング工学分野
多田
佳也乃
1.背景
水は植物細胞内の約 90%を占め,植物内の水分量
の変化は植物の成長において光合成や栄養素の循環
において重要である.農業分野においても,水スト
レスを指標とした栽培管理が行われることがあり,
ここでは精密な水分測定法が求められる.鮮度管理
についても水分損失は,つやや萎れの原因となり経
済的損失に繋がる 1).このように植物体内における
水分量の変化は重要な意味を持ち,そのため様々な
水分量測定方法が提案されてきた.植物の水分量測
定法として乾燥重量法や核磁気共鳴分光法,電気イ
ンピーダンス法が挙げられるが,破壊を伴う,接触
を伴うといった問題点がある.そこで非破壊かつ非
接触な計測が可能である近赤外分光法が提案されて
いる.しかし近赤外領域は水の吸収ピーク付近に水
以外の脂質やタンパク質といった生体高分子による
吸収が存在すること,表面の凹凸による散乱の影響
を受けやすいため複雑な解析が必要である.
ここでミリ波とは周波数 30 GHz から 300 GHz で
定義される電磁波である. ミリ波は葉の構成成分で
ある生体高分子への吸収が少なく高い透過性を持つ
一方で,水に対しては大きな吸収を有し,少量の水
の変化に対し敏感である特徴をもつ.また波長は 1
mm から 10 mm であり,農作物表面の凹凸による散
乱の影響が少ないことに加え,高い透過性を有する
ことから,細胞や小器官による吸収や散乱の影響を
受けることなく農産物内部に届き,近赤外領域では
得られないより深部の情報を得られる可能性がある.
本研究では,ミリ波を用いた水分計測の基礎研究
として,35 GHz のミリ波を用いた透過測定系を構築
して性能を評価するとともに,大葉をサンプルとし
て葉の水分量変化に応じた透過特性変化の計測を行
った.
2.実験系の構築まずミリ波を用いた水分量測定用
の系を構築した.発振器としてガンダイオード(TERA
BEAMS 社製)を,検出器としてパワーセンサ,パワ
ーメータ(Anritsu 社製)を用いた.本研究では周波
数が 35 GHz の単一波長を用いた.図 1 に構築した透
過測定系の略図を示す.発振器と検出器間に 2 枚の
レンズを置き集光系の実験系とした.1 枚目のレン
ズで電磁波をほぼ平行状態にし,2 枚目のレンズに
図1
構築した実験系の略図
より電磁波がサンプルの表面に集光されるように調
整した.検出器を光軸方向に動かすことにより透過
波の信号強度と位相を同時に測定できるようにした.
3. 各実験方法と結果
3.1 ポリエチレンを用いた位相変化特性の評価
構築した実験系を用い,サンプルの厚み変化によ
る光路長変化に応じて位相変化が生じることを確認
するため,0.5~5 mm のポリエチレン(屈折率 n=1.52)
製の板を用いて透過測定を行った.リファレンスを
空気とし,サンプルとリファレンスの強度波形から
位相差を得た.図 2 にポリエチレンの厚みと位相変
化の関係を示す.厚みの増加に従い位相変化量も増
加していくことが確認できた.
図 2 ポリエチレンの厚み変化に伴う位相変化
3.2 エタノールを用いた吸収係数測定
次に,電磁波の媒質への吸収が測定可能である
ことを確認するため,無水エタノールの吸収係数を
算出し,理論値(吸収係数 4.48 cm-1)との比較を行っ
た.吸収係数 α はランベルト・ベールの法則に従い
以下の式により算出した.
𝛼 = log⁡(𝐼/𝐼0 ⁡)/(−𝑑)
(1)
この時 I :サンプルの信号強度,I0 :リファレンスの
信号強度,d :サンプルの厚みとした.
液体用セルにエタノールを充填したものをサンプ
ルとし,リファレンスとして空の液体用セルを用い
た.液体用セルの厚みは 2.32±0.07 mm であった.
この時液体用セルサンプルとリファレンスの信号強
度の差より算出した吸収係数は 4.88 cm-1 となった.
また,エタノールと空気の屈折率差により生じる表
面反射による反射損失を考慮し算出した吸収係数は
4.44 cm-1 と理論値に近い値となり,媒質による電磁
波の吸収が測定できていると考えられた.
3.3 水分量変化における大葉の透過特性変化
農産物のモデルサンプルとして購入した大葉を用
い,乾燥に伴う含水率変化によるミリ波の透過特性
変化を測定した.この実験では葉を固定する基板と
して,ミリ波帯で吸収が小さいポリスチレン板を用
いて測定を行ったため,リファレンスにはポリスチ
レン板のみを用いた.水分量変化を計測するために
大葉を 3 時間自然乾燥させ,30 分毎に信号強度と位
相を測定した.葉の厚みと含水率は,測定開始時と
測定後に計測し,乾燥時間に伴って葉の厚みと含水
率が線形的に減少すると仮定して各測定時の厚みと
含水率を見積もった.図 3 に乾燥時間と吸光度の関
係を示す.図 3 より乾燥時間に伴い,吸光度が単調
に低下していく様子が確認され,透過測定で水分量
変化が観測できる可能性が示唆された.また測定間
で乾燥に伴う含水率変化は平均して 7.5%であった.
この変化を詳細に解析するために,測定した厚さか
ら吸収係数を算出し,含水率との関係を調べた.こ
の時,反射によるロスは無いものとした.図 4 に含
水率変化と吸収係数の関係を示す.ここで一般に,
吸光度が減少する原因は,被測定物の吸収係数の減
少による影響と,厚みが減少して位相が変化する影
響が結果に示すとおり,含水率低下による吸収係数
への影響確認されなかった小さかった.このことに
より,本測定では,吸光度から時間大葉の厚み変化
を計測することができた.
次に図 5 に含水率と位相変化の関係を示す.結果
より含水率が低くなるにつれ,位相が単調に早くな
る様子が確認された.これより含水率の低下と共に
光路長が減少していると考えられた.この光路長が
減少する原因は葉の厚みの減少によると考えられる.
また水分量変化に対して,厚み変化と位相変化が同
様の傾向を示すことが確認された.これは乾燥中に
葉の厚みが変化することを位相差として計測できて
いることを示唆しており,水分量の変化と厚み変化
の関係が明らかになることで,位相変化から水分量
を推定できることが示された.
図 5 位相変化と含水率の関係
4.まとめ
図 3 乾燥時間と吸光度の関係
ミリ波と農作物の水分量変化に対する透過特性を
明らかにすることを目的としミリ波の透過測定実験
を行った.透過測定用の実験系を構築し,ポリエチ
レンと無水エタノールを用い,位相変化と吸収の情
報が得られることを確認した.大葉を用いた実験で
は乾燥時間に伴う吸光度の低下が見られたが,吸収
係数の変化は見られなかった.しかし含水率の低下
により位相差が生じることが明らかになった.この
結果は対象物の厚み変化から,ミリ波が水分量計測
できることを示唆していると考えられる.
参考文献
1) 樽谷隆介:そ菜の貯蔵,日本食品工業学会誌,5,10,
186-202,1963
図 4 含水率と吸収係数の関係
塩性環境における撥水布を用いた露収集システム
Dew Collection System with Water Repellent Cloth in Saline Environment
Key words: Dew collection, Evaporation, Water condensation, Saline environment
水資源利用工学分野
es  6.1078 107.5T /(237.3T )
1.はじめに
Ts  Tout 
P1
P2
1 1 l
ai    
 ai ao  
(2)
蒸発量推定には
E   e

畝4
P3
1m
(3)
( w  w0 )
( w  w0 )
(4)
を用いる.ここに, E は蒸発量,  e は定数で 1.26
という値がよく用いられる.  は飽和水蒸気圧曲線
の傾き, は乾湿計定数 (0.667 hPa/K),Rn は正味放
射フラックス密度, Le は純水気化の潜熱である. 
は蒸発に利用できる水分を反映した低減係数であり,
蒸発抵抗係数とも呼ばれる.低減係数は土壌水分量
の関数と仮定される.よく使われる仮定が式(4)であ
り,本研究でも式(4)を仮定する. w は土壌の表面含
水率であり, wo は臨界土壌水分量で,土壌水分がこ
れ以上の時は,蒸発量が可能蒸発量と等しくなる.
wc はこれ以下で蒸発量が 0 になる下限値である 3).
圃 場 の 土 壌 水 分 特 性 曲 線 よ り , w0  0.367 (pF  1.3) ,wc  0.08 (pF  5.0) とする.表面含水率
を求めるため,次節の水移動の解析を行う.
P4
10°
 Rn
   Le
1  ( w  wc ) ( w0  wc )    畝5
マルチングシート
畝1
Tout  Tin
3.2 蒸発
図 1 は実験圃場の鉛直断面図である.マルチング
シートとは蒸気が通過できない透明なポリエチレン
のシートである.畝 5 の下に撥水布はない.各畝の
中と P3 に測定装置を設置した.撥水布は,30 cmH2O
程度まで水は通さないが,蒸気は通過可能なものを
用いた.
畝3
(1)
を用いる.ここに, Ts はマルチングシート下の表面
温度 (℃),Tout は気温 (℃),Tin は内側温度 (℃), ai
は内側熱伝達率 (W⁄m2 ∙ K ), ao は外側熱伝達率
( W⁄m2 ∙ K ) を 示 す . 本 研 究 に お い て は ai  14 ,
ao  24 とする.l は材料の厚さ(m), は材料の熱伝
導率 (W⁄m ∙ K)であり,ポリエチレンのマルチング
シートに対しては, l  0.0001 (0.1mm),   0.41 で
ある.表面温度が露点より低い時,水蒸気がシート
下に結露する.
2. 実験圃場・実験材料
撥水布
悟
を用いる.
表面温度を求めるためには
塩性土壌において,蒸発を伴う毛管現象は塩害を
引き起こす.また,塩類集積による砂漠化は重大な
環境問題になっている.そのような塩性環境である
ことが多い乾燥地域においては霧や露が重要な水資
源となる可能性を有しており,近年大気中からの露
収集システムが注目されている.収集された水は質
が良い 1)ことから作物栽培に用いるだけでなく飲み
水としても利用可能である.露収集システムの実用
化には,水,熱,塩分の移動と相転移などを予測す
ることが不可欠である.本研究では塩性環境にした
実験水槽において,撥水布を用いた露収集システム
を試作する.試作したシステムの大気中と土壌中の
両者において様々なデータを計測し,数理モデルに
よる現象の説明が可能となることを示す.
畝2
橘
70cm
水深
約 28cm
図 1 実験圃場の鉛直断面図
3.数値計算手法
3.1 露形成
露が形成されるか判断するためには露点と結露面
の表面温度が必要である.露点を求めるために必要
な温度 T (℃)と飽和水蒸気圧 es (hPa)との関係式に
Tetens の式 2)
3.3 水と塩分の移動
毛管現象をシミュレートする際には,土壌間隙が
1
水で飽和していないことを考慮することが重要であ
る.多孔質媒体中の不飽和流は一般的にリチャーズ
式

   q    K u
t
水面から離れた位置では早期に含水率が低くなるた
めに他の部分と比較して蒸発が抑制される.逆に水
面に近い地表面では水面から水が補給されやすいの
で含水率が下がりにくく蒸発量が大きくなったと考
えられる.しかし現実ではより速く水が補給されて
いることと土壌中からの蒸発があると予想されるの
で,今後蒸発抵抗係数の仮定には改善が必要と考え
る.
図 3 に圃場鉛直断面の含水率を示す.表面から約
25 cm の範囲では含水率がほぼ常に残留体積含水率
(0.06)であった.水面から近い位置では拡散係数が
大きくなる傾向があるため表面の塩分濃度が高くな
らず、離れた位置では蒸発が土壌中でおこるため表
面ではなく土壌中で塩分濃度が上昇すると予想され
る.
(5)
で表される.  は含水率, q はダルシー流速, K は
透水係数テンソル, u はピエゾ水頭を表す.不飽和
透水係数を求めるために Van Genuchten モデルと
Mualem モデル 4)を用い,リチャーズ式を有限要素法
で解く.塩分濃縮の位置については佐藤らの論文 5)
を参考にし,臨界土壌水分量を示す位置より 20 cm
上で濃縮すると仮定する.
4.計算結果と考察
表 1 に結露量の計算結果を示す.結露量の大小は地
温の測定値と類似していた.よって他の環境条件が
同じであれば地温が高いほど結露量が大きくなると
推測できる.
0.35 -0.40
0.30 -0.35
70
60
50
40
30
20
10
0
0.25 -0.30
0.20 -0.25
表 1 月ごとおよび測定期間(117 日)における 1 日
0.15 -0.20
あたりの結露量と測定期間の合計結露量
一日あた
りの
結露量
(g/day)
0.10 -0.15
P1
P2
P3
P4
0.05 -0.10
6月
53.24
97.17
71.19
104.62
0.00 -0.05
7月
14.36
40.13
26.12
67.09
8月
12.24
19.45
20.66
44.64
9月
6.61
10.66
13.53
26.46
23.45
45.28
35.21
63.41
2743.6
5297.4
4119.3
7418.9
測定期間
(117 日)
測定期間(117 日)の
合計結露量 (g)
0
5.おわりに
本研究では露収集システムの実用化のために,結
露,蒸発,水分・塩分濃縮の各現象について数理モ
デルを構築し,計算を行った.今後は,実際に結露
した水分量の測定,作物による蒸散や露が効率よく
発生する条件,蒸発散が湿度や結露に及ぼす影響,
結露した後の水の挙動,塩分濃度の分布を調べるこ
とで,環境に配慮したより実用的な露収集システム
が実現可能となると考える.
積算蒸発量 (cm)
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
1)
2)
10
20
30
40
50
60
100 150 200 250 300 350 400
図 2 圃場の上辺における
110 日後の積算蒸発量
図 3 圃場の含水率(110
日後)
図 2 は実験圃場の上辺を 15 等分した各点での水
面からの距離と積算蒸発量の関係を表している.
0
50
70
水面からの距離 (cm)
3)
図 2 圃場の上辺における 110 日後の積算蒸発量
4)
本研究ではリチャーズ式の初期条件をピエゾ水頭
u  0 としたので初期に含まれていた地表面の水分
がなくなるまでは蒸発したが,表面含水率が wc を下
回るようになってからはほとんど蒸発していない.
5)
2
参考文献
Gandhidasan, P., Abualhamayel, H. I. (2005) : Modeling
and testing of a dew collection system, Journal of
Desalination, 180, 47-51.
筑波大学水文科学研究室 (2009) : 水文科学, 共立出
版, 36-40.
筑波大学水文科学研究室 (2008) : 水文学, 共立出版,
93-106.
ウィリアム・ジュリー, ロバート・ホートン (2006) :
土壌物理学 土中の水・熱・ガス・化学物質移動の基
礎と応用 (取出伸夫 監訳), 築地書店, 102-112.
佐藤邦明, 福原輝幸, 宗像雅広, Seige Bories (1990) :
蒸発による円柱カラム不飽和帯の溶質移行と蓄積に
関する基礎的研究, 土木学会論文集, 424, 135-144.
弥生前期水田における水稲生育パラメータの推定
―気象学的な水稲生育予測モデルを用いた弥生前期の水稲収量変動評価―
Estimation of growth parameters of wetland rice in paddy field in the early Yayoi period
―Evaluation of yield change of wetland rice in the early Yayoi period using meteorological model
for estimating growth of wetland rice―
Key words: Heading date, Model, Parameter
水環境工学分野
1. はじめに
プロジェクト全体としては、西暦紀元前4世紀頃、
我が国に水稲栽培が大陸からもたらされた時期と推
定されている弥生時代前期における水稲収量の推定
評価が主な目的である。本プロジェクトでの評価目
的は収量1つであっても、それは時間的・空間的に
変動する。また、収量を求めるために、知らなけれ
ばならない未知数は複数ある。連立方程式を解くと
きに、未知数の数だけ方程式があれば、方程式は解
けて全ての未知数は定まるように、未知数の数だけ
手法があれば、全体として答えが見えてくるのでは
ないかと考えられる。本プロジェクトにおいても、
できるだけ多くの異なった分野のアプローチを繰り
出すことが、より正しい答えを導くために有効にな
ると考える。
2. 材料と方法
2.1 実験方法概要
実験は奈良県農業研究開発センターで行った。実
験場所はセンター内の網室で、温度管理を行わず、
ほぼ屋外と同じ状態で栽培された。栽培にはコンク
リートブロックに囲まれたベッド(長さ 3m×幅
0.78mが3つ)に水漏れしないようにシートを敷き、
弥生土壌と所内水田土壌の2種類を入れ、間を畔波
で仕切ったものが使われた。栽培の際に施肥は行わ
なかった。実験に使われたイネは戦捷、水稲 130、
水稲 221、水稲 657、ヒノヒカリの 5 品種で、移植日
を 5 つに分けて弥生土壌と所内水田土壌にそれぞれ
移植したため、すべてで 50 種類についてのデータを
計測した。今回の実験では作期を 4 月 1 日から移植
日までの日数に TP(Transplanting)を付けたもので
表し、5 つの作期を TP51,TP66,TP80,TP95,TP109 と
表記する。
2.2 測定データ、観測データの種類
気象データは 5/22 から 11/4 までの 167 日間、奈
良県農業研究開発センターの実験場における日平
均気温、日最高気温、日最低気温、日平均地温、日
近森 敦人
射量を測定した。また、4 月 1 日から 10 月 31 日ま
での日長時間も測定した。
2.3 水稲生育予測モデルの概要
水稲生育予測モデルは生育ステージサブモデル、
葉面積・乾物量サブモデル、不稔歩合サブモデル、
収量サブモデルからなっており、品種ごとのパラメ
ータを入力し、日平均気温を生育ステージ、葉面
積・乾物量、不稔歩合、収量の各モデルに入力、日
積算日射量データを葉面積・乾物量サブモデルに入
力することで出穂日、収量、乾物量などのデータが
出力される。
3. 結果
奈良県農業研究開発センターの実験場の栽培実
験で実際に得られた出穂日のデータを下の表1、表
2に示す。
また水稲生育予測モデルと、2014 年度の奈良県農
業研究開発センターで計測された気象データを用い
て、生育パラメータが既知の各種水稲 69 品種の出穂
日と収量を推定した。
表1
弥生土栽培の出穂日
表2
所内水田土壌栽培の出穂日
4. 考察
5 つの作期についてモデルを用いてもとめた 69 品
種の出穂日のうち、実験で用いた 5 品種を 5 つの作
期で栽培した際の実際の出穂日と比べてもっとも誤
差の少ないものを探した。
誤差算出の結果、戦捷については月の光が誤差
1.18 とかなり良い値が出たのでそのまま用いたが、
他の 4 品種についてはあまり良い値が出なかったた
め、最も誤差の小さかった品種のパラメータに修正
を加えて誤差を小さくした。修正前後のパラメータ
及び出穂日のデータを表3~6に示す。また修正前
後のDVRのグラフを比較してみたところ、水稲
130 はミナミヒカリの日長感応性を低くしたものに
近い特性、水稲 221 はユメヒカリの日長感応性と温
度感応性を低くしたものに近い特性、水稲 657 はユ
メヒカリの日長感応性を低くしたものに近い特性、
ヒノヒカリはアケボノの生育速度を速くしたものに
近い特性を持っていると推察される。
表3
水稲 130 修正前後パラメータ及び出穂日
表4
水稲 221 修正前後パラメータ及び出穂日
表5
水稲 657 修正前後パラメータ及び出穂日
表6
ヒノヒカリ修正前後パラメータ及び出穂日
参考文献
1)
T.Horie,M. Yjima,H.Nakagawa(1992)Yield forecasting.
Agicultural Systems40:211-236
2)
Kandiannan et al.(2001) A crop-weather model for
prediction of rice yield using an empirical-statistical technique.
Journal of Agronomy and Crop Science 188:59-62
微細藻類を用いたメタン発酵消化液処理法の確立に向けた基礎研究
Basic study on an establishment of methanogenic digestate treatment using microalgae
Key words: methanogenic digestate, microalgae, nutrient salt
農業システム工学分野 寺元 彰将
が空気中に抜け出ること,また藻類の成長によりア
ンモニウムイオンが消費されることであると予想さ
れた。これを確かめるため表 1 に示すように,各実
験区の微細藻類の量のみが異なるように調整した。
アンモニウムイオンとリン酸イオンはそれぞれ微細
藻類の生育障害が起こらない濃度(アンモニウムイ
オン:約 140 mg/L,リン酸イオン:約 30 mg/L)として
96 時間培養を行った。アンモニウムイオン濃度変化
をみるため 24 時間ごとに測定を行った。また微細藻
類の成長量の指標とするため,培養株と培養後の各
培養液の乾物重を測定した。
1. 背景
化石燃料による環境負荷への懸念から再生可能
エネルギー源の利用に注目が集まっている。その中
でも本研究ではメタン発酵に注目した。メタン発酵
とは有機廃棄物からバイオガスを得る技術のことで
ある。現在あるメタン発酵施設の大部分は湿式とい
う約 95%程度水分を含んだもので,副生成物として
大量の消化液が発生する 1)。この消化液は大量の栄
養塩類を含んでいるので処理せねばならず,メタン
発酵施設の経営を圧迫している。消化液を液肥とし
て圃場に散布するという研究も行われているが,作
物を育てない期間には利用できない,肥料成分濃度
が低いため大量の貯蔵が必要などの問題がある。そ
のため消化液の新たな処理法の確立が求められてい
る。新たな処理法として消化液を栄養源として微細
藻類を培養し,その微細藻類をメタン発酵の基質と
して利用するというものがある 2)。本研究ではこの
処理法の確立に向けて,微細藻類を消化液を用いた
培養液で培養した際の栄養塩類(アンモニア態窒素
およびリン酸態リン)の減少量などを調べることを
目的とする。
表 1
2. 実験方法
2.1 培養方法
本研究では人工気象器(LPH-220SP,日本医化器
械製作所)の中で 500 mL 三角フラスコを用いて微
細藻類の培養を行った。その際温度は 25℃,日長は
16 時間に設定した。培養株は,大阪府の桃ヶ池で採
取した野生株を用いた。培養液は京丹後市エコエネ
ルギーセンターの消化液を MF 膜によりろ過し,熱
曝気処理によりアンモニウムイオン濃度を低下させ
た溶液(以下消化液),アンモニア水,リン酸水素二
カリウム溶液(以下リン調整液)
,蒸留水で調整した。
また三角フラスコの底側面への微細藻類の付着防止,
培養液の撹拌のために常時エアレーションを行った。
2.2 実験目的
本研究では二回の培養実験を行った。
実験 1:今回行った培養方法ではアンモニウムイオン
が徐々に減少することが予備実験により確認されて
いる。その原因はエアレーションによりアンモニア
1
各実験区の培養液の内訳
実験 2:アンモニア態窒素がこの培養法によって減少
することは実験 1 で確認できた。しかしリン酸態リ
ンが時間経過でどのように減少するのか,また pH が
どのように変化していくのかはわからなかった。そ
のため,表 2 に示すように,各実験区のリン酸イオ
ン濃度のみが異なるように調整し、それぞれの実験
区での初期リン酸イオン濃度は実験区 A: 12 mg/L,
実験: B 21 mg/L,実験区 C: 31 mg/L,実験区 D: 49
mg/L とした。アンモニウムイオン濃度は生育障害の
起こらない約 120 mg/L とし,72 時間培養を行った。
リン酸イオン濃度,pH 変化をみるため 24 時間ごと
にそれぞれを測定した。また微細藻類の成長量の指
標とするため,培養株と培養後の各培養液の乾物重
を測定した。
表 2
各実験区の培養液の内訳
3.
実験結果及び考察
pH の変化を図 3 に示す。pH は実験区 C 以外で 24
時間後までに減少していき,その後どの実験区でも
増加し,最終的にどの実験区でも初期 pH よりも高
い値を示した。pH 減少についてはエアレーションに
よりアンモニアが大気中に放出されたこと,pH 増加
については藻類による光合成により水中の二酸化炭
素濃度が減少したことなどが原因として考えられる。
処理した消化液を河川放流する際,pH も水質汚染原
因となるものなので今後詳しく調べていく必要があ
るだろう。
3.1 実験 1
アンモニウムイオン濃度の変化を図 1 に示す。各
実験区でアンモニウムイオン濃度は減少し,時間経
過とともに減少量は少なくなった。微細藻類の存在
しない実験区 A でのみ他の 3 つの実験区と比べて常
に減少量が少なかった。
また得られた乾物重(200 mL 中)の量は培養株 0.53
g,実験区 A: 0.13 g,実験区 B: 0.31 g,実験区 C: 0.37
g,実験区 D: 0.50 g となった。最初に投入した培養
株に含まれる乾物重,また実験区 A の乾物重を引く
と実験区 B,C では 0.13 g,実験区 D では 0.16 g と
なる。これは藻類成長量に相当する量で実験区 B,
C,D で大きな違いはなかったことがわかる。
実験区 A でのみアンモニウムイオン濃度減少量が
少なく,実験区 B,C,D で藻類成長量に大きな違い
がなかったことからアンモニウムイオンの大部分が
エアレーションにより,また一部が藻類成長により
減少していることが確認できた。
図 2
図 1
実験 2 でのリン酸イオンの変化
実験 1 でのアンモニウムイオンの変化
3.2 実験 2
リン酸イオン濃度の推移を図 2 に示す。図 2 から
分かるとおり,どの実験区でもリン酸イオンは同じ
ような減少の傾向を示し。時間経過とともに減少量
は大きくなった。実験区 A では途中で測定限界を下
回ったが 24 時間後まではどの実験区でも藻類成長
において制限条件にならないほどリン酸イオンが十
分あったことがうかがえる。減少量が大きくなって
いったのは時間経過とともに藻類量が増加し,消費
されるリン酸イオンの量が増えたためではないかと
考えられる。
また得られた乾物重(200 mL 中)の量は培養株
0.47 g,実験区 A: 0.24 g,実験区 B: 0.24 g,実験区 C:
0.29 g, 実験区 D: 0.28 g となった。最初に投入した
培養株の乾物重,またリン酸水素二カリウムの重さ
を引くと実験区 A では 0.12 g,実験区 B では 0.12 g,
実験区 C では 0.16 g,実験区 D では 0.15 g となる。
これは藻類成長量に相当し,実験区 A と B,実験区
C と D で藻類成長量が近かったことがわかる。
図 3
実験 2 での pH の変化
4. まとめ
今回用いた培養法で栄養塩類であるアンモニア態
窒素とリン酸態リンが減少することは確認できた。
しかし,アンモニアが空気中に放出されるため,そ
れが大気汚染の原因にならないか,栄養塩類と微細
藻類の成長関係,pH 変化の原因究明など,今後メタ
ン発酵消化液の微細藻類を用いた処理法を確立する
うえで課題が残されている。
1)
2)
2
参考文献
吉田隆(2007):バイオマスからの気体燃料製造とそ
のエネルギー利用,
“ブッカーズ編”,三法社印刷,169203,306-334.
Xiaoqiang Wang, Eva Nordlander, Eva Thorin, Jinyue Yan
(2013) : Microalgal biomethane production integrated with
an existinjg biogas plant: A case study in Sweden, Applied
Energy, 112, 478-484
アンドロイドアプリによるイネの生育量推定
Estimating rice vigor by android application
Key words: smartphone, vegetation rate, image processing
フィールドロボティクス分野
1.背景
近年,飛躍的に普及しているスマートフォンのカ
メラと GPS を用いて,手軽に圃場や作物の画像デ
ータと位置情報を収集することができる。その画像
データから,作物の生育状態を判定することができ
れば,経験の浅い農家でも栽培管理を容易に行うこ
とができ,より多様な層の農業従事者が利用できる
と考えられる。しかし,スマートフォンのカメラで
撮影した画像には,撮影条件によって,影や白飛び
(ハレーション)が生じて正確な判定が難しい。
そこで,作物の撮影に適した専用アプリケーション
ソフトを開発して撮影することで,影や白飛びの影
響を低減できると考えられる。本研究では,イネ栽
培において,基肥と穂肥の 2 回施用を前提として,
スマートフォンのカメラで撮影した画像から客観的
に適切な穂肥量を算出する手法を開発した。
富永
渓太
して解析範囲を 4 点の内部のみと 4 点の縦横 2 倍し
たものの 2 種類(領域Ⅰと領域Ⅱ)を選択し,画像
を二値化する際の閾値を2種類(判別分析法とヒス
トグラムの形状)
,合計 4 通りの解析方法を試した。
最終的にこの生育量と画像解析から得た植被率によ
り穂肥量を決定する。
①
4点の内部のみ(領域Ⅰ)
2.実験方法
調査は京都府京丹後市の丹後農業研究所の試験圃
場で行い,基肥 10a あたり窒素ベース 0kg と 6kg を
施用した圃場については,株間 16cm,18cm,21cm
である場所で,それぞれ 8 か所ずつ撮影を行った。
また,基肥 10a あたり窒素ベースで 3kg 使用した圃
場については株間 18cm で 4 か所撮影を行った。す
べての撮影において,イネの高さからカメラまでの
高さが 70cm となるように調整した。1か所の撮影
において露出を変えることで明るさの異なる7枚の
画像を得た。用いたスマートフォンは xperia SO-04E。
生育量には下のものを用いる。
生育量=草丈(cm)×茎数(本/cm²)×完全展開第二葉
の SPAD 値
先行研究である尾崎らの研究により,この実測生
育量から穂肥をどの程度まけば得られる籾数とタン
パク含有量が推測できる。
解析範囲はまず画像中心の 4 株を手動で選ぶ。そ
②
図1
図2
4点の縦横2倍したもの(領域Ⅱ)
解析領域の違い
カラースケールと葉色の比較
また,この植被率にカラースケールを用いること
で算出した葉色(CS 値)を掛け合わせた推定生育量か
らも穂肥量を決定する。
CS 値を調べる方法として,図2のようにイネの最
長の茎の完全展開第二葉をカラースケールと同じ画
像に撮影し判断する。
のときの穂肥量の提案である。
表3
3.結果及び考察
下にそれぞれの方法での植被率と実測生育量の決
定係数をしめす。また,この表の決定係数はすべて
各方法において最も結果の良かった明るさの画像の
数値である。
表 1 閾値・解析領域ごとの決定係数
この結果より最もよい結果になったのは閾値をヒ
ストグラムの形状より求め,解析領域を選択した 4
株の縦横 2 倍にしたときであった。
図3にその際の植被率と実測生育量の関係を示す
グラフを表す。
210
y = 322.88x - 71.692
R² = 0.875
190
実測生育量
推定生育量
穂肥量(kg/10a)
~2.38
2
2.38~3.39
1
3.39
0
これより今回4つの方法を試したが,閾値をヒス
トグラムの形状から算出し解析領域を選択した 4 株
から範囲を広げた領域Ⅱで一番よい結果が得られた。
また,植被率と実測生育量の関係については,4
つの方法のうち最も高いもので決定係数が 0.875 と
なり十分な相関があった。また,葉色を加えると精
度が上がることが分かった。
今後の課題としてスマートフォンの機種による違
い,また実際提案された穂肥量に対し実際に収穫さ
れたイネの籾数やタンパク含有率を検証する必要が
ある。
4.結言
今回の研究により植被率と実測生育量の相関を調
べることで植被率から穂肥量を決定することができ
た。今回の実験のようにスマートフォンを研究に役
立たせることができ,また様々な機能をもつスマー
トフォンが現れることを考えるとこのようなスマー
トフォンを用いた研究は飛躍的に向上することが考
えられる。
ヒストグラム・領域Ⅱ
230
推定生育量にたいする穂肥量の提案
170
150
130
参考文献
110
1)
90
片岡
悠太「携帯電話のカメラ機能で取得した画
像を用いた稲の生育量測定」京都大学農学研究科
70
地域環境科学専攻
50
0.4
0.6
0.8
平成 25 年度修士論文
1
2)
植被率
フィールドロボティクス分野
尾崎耕二,小林俊博,大橋善之「水稲生育診断によ
る籾数およびタンパク質含有率の予測法の確率と
図3
植被率と実測生育量の関係
丹後コシヒカリへの適応」
,京都府農林水産技術セ
ンター農林センター研究報告
このグラフと式より植被率に対する穂肥量を提案
する。下の表は植被率に対する穂肥量を提案したも
のである。
表2 植被率に対する穂肥量の提案
植被率
穂肥量(kg/10a)
~0.50
2
0.50~0.63
1
0.63~
0
また,推定生育量と実測生育量の相関は閾値をヒ
ストグラムの形状から,解析範囲を領域Ⅱにしたと
き決定係数が 0.888 と最も高くなった。下の表はそ
(35)2012.12 1-10
農業部門
根-土境界面におけるせん断挙動に関する実験的研究
Experimental Investigation of Shear Behavior on Root-Soil Boundary
Key words: Root, Soil, Pullout tests, Suction, Lodging
施設機能工学分野
友部 遼
を,スクリューギアの左端に設置した.4. 水平ロー
ドセルを高精度ロードセルに変更した.5. 反力板お
よび鉛直ロードセルを外し,直径 60 mm のアクリル
板を載せた上に重りを載せることで鉛直載荷を行っ
た.6. 水分特性試験用のシリンダーおよびポンプを
接続した.7. ロードセルの先端に,根と接続するた
めの穴の空いた金具を取り付けた.
1.緒言
人類の調和ある生存を目指す上で,食糧問題と水
問題はともに喫緊の課題である.中でも,作物単収
の維持・向上,および水資源および水利施設の適切
な維持管理はともに重要な論点である.それらに共
通する重要な研究領域の一つとして,根と土の入り
交じる領域,すなわち根混じり土の力学挙動がある.
根混じり土は,堤体や斜面,山林などに広がれば表
層崩壊防止機能や侵食防止機能を発揮することによ
り,水利施設の保護,国土保全機能や水資源の涵養
機能を発揮する.また,畑や水田に広がる根混じり
土は,風雨に直面する作物体を支持し,作物の倒伏
を防止し,作物単収および収穫効率を維持向上する
上で重要な要因となる.その両方において共通する
未解明な課題として,根と土の境界におけるせん断
特性がある.本研究では,根の分布する低拘束圧領
域を再現した室内抜根試験器の開発を行い,本試験
機を用いて,根と土の境界面のせん断特性の把握を
試みた.
2.2 材料特性一覧
供試根としては,バルサ丸棒(直径 3.0 mm)およ
び,オオムギ根を用いた.供試土としては,ケイ砂
6 号および水田土を用いた.そのうち,オオムギ根
および水田土は,京都大学大学院農学研究科附属京
都農場よりご提供頂いた.なお,6 号ケイ砂および
水田土の土粒子密度はそれぞれ 2.67 g/cm3 ,2.76
g/cm3 であった.粒度分布試験も今後実施予定である.
2.3 通常抜根試験
通常抜根試験においては,データ収集を開始した
後に,根を抜根穴に通し,麻紐により根とロードセ
ルを繋いだ上で,同含水比,同質量の土をせん断箱
に入れ,供試体上部をソイルナイフにより水平に整
え,供試体上部にアクリル板を載せ,その上に金属
製のおもりを順に載せた.載荷後,ケイ砂の場合は
5 分程度,水田土の場合は 20 分程度経過したのちに
0.1 mm/min で抜根を開始し,およそ 1 時間をかけて
6 mm 以上引き抜き,試験中の水平土圧(kPa),引き
抜き抵抗力(N),水平変位(mm)を計測した.
2.材料・方法
2.1 新型室内抜根試験器の概要
2.4 サクション抜根試験
サクション抜根試験においては,チューブおよび
シリンダー内を脱気水で満たした上で,シリンダー
内の水面をせん断箱より+10 cm 程度上げ,正の水圧
を土供試体にかけることでチューブ内および多孔板
を脱気水で満たした.次に,データ収集を開始し,
根を抜根穴に通し,麻紐により根とロードセルを繋
いだ上で,同含水比,同質量の土をせん断箱に充填
した.供試体を脱気水により飽和したことを確認し
た上で,供試体上部をソイルナイフにより水平に整
え,供試体上部にアクリル板を載せ,その後,24 時
間~数日をかけて所定のサクションを水頭法または
減圧法により与えた.サクションが平衡状態に達し
図 1 新型抜根試験器
図 1 に新型抜根試験器の概要を示す.室内一面せ
ん断試験器(MARUI MIS-233-1-60)に,以下 7 点の改
良を行い作成した.1. 上下せん断箱を繋げたせん断
箱に,水平方向に直径 5 mm の穴を設けた.2. 穴と
直交する方向に水平に土圧計を設置した.3. 変位計
1
た後に 0.1 mm/min で抜根を開始し,およそ 1 時間を
かけて 6 mm 以上引き抜き,その際の水平土圧(kPa),
引き抜き抵抗力(N),水平変位(mm)を計測した.
Shear Stress (kPa)
0.0012
3.結果・考察
3.1 バルサ-6 号ケイ砂 抜根試験結果
抜根抵抗力-変位関係からピーク強度を求め,その
ときの静止土圧係数,根の形状,垂直応力を次の式
S

2rL

0.0004
0
0
(1)

3
K0  
2
2
0.001
0.002
0.003
Vertivcal Stress (kPa)
図 3 オオムギ根-水田土
(2)
垂直応力-せん断応力関係
4.結論
に代入し,最大せん断応力と垂直応力との関係を求
めたところ,図 2 のようになった.式(1)と(2)におい
て,S は破壊時の抜根抵抗力(kN),r,L はそれぞれ
根の直径および長さ(m),K0 は破壊時の静止土圧係
数である.破壊時のせん断応力が垂直応力に比例す
る Mohr-Coulomb 型の破壊線が得られ,また,一定
の拘束圧を境に傾きが異なる折線型となった.せん
断時の水平土圧の挙動から,この原因は,境界面の
バルサ側近傍と土側近傍でせん断強度が異なり,か
つ破壊は現応力下におけるせん断強度の小さい近傍
で生じるためと考えられた.
根-土境界面の破壊条件に Mohr-Coulomb の破壊条
件が適用できることが示され,現応力条件における
せん断強度の小さい近傍でせん断破壊が起こること
が示された.また,サクションによる抜根抵抗力の
増加が確認された.これは,サクションによる有効
応力の増加によるものと考えられた.今後は,引き
続き,不飽和領域においてサクションによる抜根抵
抗力の変化を調べるとともに,実際の圃場および植
生への適用を目的に,FEM による数値シミュレーシ
ョンを行いたいと考える.
謝辞
0.03
Shear Stress (kPa)
0.0008
本研究の遂行にあたり,ご指導ご鞭撻頂いた村上
章教授に深謝いたします.また,本論文の内容,お
よび実験指導などを,藤澤和謙准教授に終始直接ご
指導頂きました.ありがとうございました.また,
快く供試材料をご提供頂きました,本学農学専攻作
物学研究室の皆様に感謝致します.
0.02
0.01
0
0
0.01
0.02
参考文献
0.03
Vertical Stress (kPa)
図 2 バルサ-6 号ケイ砂
1)
垂直応力-せん断応力関係
2)
3.2 オオムギ根-現地水田土壌 抜根試験結果
抜根抵抗力-変位は図 4 のようになった.また,面
積あたりの垂直応力-せん断応力は図 5 のようにな
った.せん断応力が垂直応力に比例する
Mohr-Coulomb 型の破壊線が得られた.
3)
4)
3.3 オオムギ根-現地水田土壌 サクション抜根試
験結果
現在,実験を実施中であり,結果は卒業論文に記
載予定である.
2
執印康裕(2009):森林植生による表層崩壊防止機能
の評価に向けて,砂防学会誌,98, 2-7
B.B. Docker, T.C.T. Hubble (2008) : Quantifying
root-reinforcement of river bank soils by four Australian
tree species, Geomorphology, 100, 401-418.
Sayyed Mahdi Hejazi, Mohammad Sheikhzadeh, Sayyed
Mahdi Abtahi, Ali Zadhoush (2012) : A simple review of
soil reinforcement by using natural and synthetic fibers,
Constr. Build. Mater., 30, 100-116.
Chao-Sheng Tang, Bin Shi, Li-Zheng Zhao (2010) :
Interfacial Shear strength of fiber reinforced soil, Geotext
Geomembranes, 28(1), 54-62.
宮城県の復興に向けた土地利用計画策定の課題に対する組織の対応の実態把握
-気仙沼市杉ノ下工区と山元町山元東部地区を事例としてInvestigation of the actual situation of organizations’ actions for problems about settling land
use plan to revive in Miyagi prefecture
Key words: revival, organization, land use plan
農村計画学分野
1.背景と目的
中里 舜
表 1 調査対象となる組織の概要
東日本大震災により被災した沿岸部農村地域では,
被災した農地を災害復旧事業により復旧すると共に,
復興交付金を活用した圃場整備を行うことで,非農
用地を含めた沿岸部の土地利用の整序が進められて
いる.圃場整備事業を進めるためには,①事業地区
で進められている他の災害復旧・復興関連事業と圃
場整備事業との調整と,②事業に対する地権者の同
意を促進するために,土地利用計画の具体化を進め
ることが課題である.宮城県ではこれらの課題に取
り組むために,2013 年 7 月に「農地利用ワーキング
グループ(以下,農地利用 WG)」を設置し,気仙沼
市杉ノ下工区と山元町山元東部地区をモデル地区と
して事業を進めている.また,気仙沼市には市全域
の災害復旧・復興関連事業の調整を担う計画調整課
が,山元町には山元東部地区において圃場整備事業
を円滑に実施するため,地区の土地利用計画の具体
化のための非農地 WG が設置されている.
農村地域の災害復旧や災害からの復興に関する既
往研究には東日本大震災の被災地が直面するこれら
の課題を扱ったものはほとんど無い.南海トラフ巨
大地震のような今後発生が予想される大規模な災害
に効果的に対応するためには,東日本大震災からの
復興の現場で,実際にどのような組織体制のもとで
事業間の調整や土地利用計画の具体化が進められて
いるかの実態を把握する意義は大きい.本研究では
気仙沼市杉ノ下工区,山元町山元東部地区を事例と
して,宮城県の農地利用 WG や市町がどのような組
織体制のもとで事業間の調整や土地利用計画の具体
化を進めているかを明らかにすることを目的とする.
2.研究方法
2.1 研究対象地の概要
本研究で対象とする気仙沼市杉ノ下工区(39.1ha)
と山元町山元東部地区(762.3ha)には,農用地だけで
なく住宅地・事業用地を含めた非農用地が大規模に
存在する.両地区のほぼ全域が災害危険区域に指定
されており,区域内の住宅は防災集団移転の対象と
1
された.このため,圃場整備事業においては,農地
の区画整理とともに,防災集団移転の跡地(宅地)を
含む非農用地と農用地の土地利用の整序が不可欠と
考えられている.
2.2 研究の方法
研究の対象地における現状を把握するため,2014
年 9 月 16,17 日に宮城県や気仙沼市,山元町の職員
を対象にヒアリング調査を実施した.また,後日各
組織・地区の担当職員を対象にメール及び電話にて
補足調査を実施した.
3.調査結果
3.1 組織がもたらした変化
ヒアリング調査での聞き取り内容および行政資料
をもとに,調査対象組織の概要を整理した(表 1).
(1) 農地利用 WG(宮城県) 設置以前は,沿岸部農村
被災地において様々な事業を行う上での基礎となる
土地利用の検討や事業間の調整を担う組織体制がな
く,一部の部局が独自に検討を進めていた.WG の
設置以降は,複数の関係課・室の職員が集まり,そ
れら課題に関する検討を定期的に進めている
図1
杉ノ下工区における組織相関図
図2
山元町における組織相関図
※図中の網掛け部分は組織名称.
(最低でも月 1 回).
(2) 計画調整課(気仙沼市) 以前,気仙沼市では復
興に関連する事業間での調整は事業に関係する部局
が必要に応じて行なっていたが,事業量の多さから
調整業務を個々の部局が行うことが困難になった.
そこで市全体の災害復旧・復興関連事業の情報を把
握する組織として計画調整課が設置され,事業に関
係する複数の部局を招集して会議の場等を設け,事
業間調整を進めている.
(3) 非農地 WG(山元町) 山元町では気仙沼市の計
画調整課のような調整は行われていなかった.復興
を巡る議論でも移転跡地を含む沿岸部の復旧に関す
る議論は遅れていた.町は山元東部地区が県のモデ
ル地区に指定されたことを受けて山元東部地区の土
地利用計画を検討するために非農地 WG を設置し,
県の農地利用 WG はこの取り組みを支援するために
民間コンサルタントにファシリテータを委託し,非
農地 WG を中心に県・町の関係課・室の職員が参加
するワークショップを開催した.その後も本検討は
定期的に実施され,圃場整備事業以外の事業の情報
共有や地区の土地利用計画の具体化も進んだ.
果,復興に関わる土地利用計画が完成した.この計
画には杉ノ下工区と山元東部地区で違いが見られた.
両地区共に,防災集団移転跡地等を非農用地として
大規模に含むことから,不換地等による非農用地の
新たな創出をしないことを基本方針としている.
(1) 杉ノ下工区 農地は被災前の耕作者のうち,将
来も耕作する意思のある者で組織された営農組合が
担う.非農用地は,基本的に何かに利用する等の新
規開拓をする予定はない.ただし,地権者が買収を
希望する場合,震災以降も工区内で営業を継続する
予定の企業の用地周辺に換地を配置する予定である.
(2) 山元東部地区 農地の担い手について,水田は
現況の担い手がそのまま担う予定である.畑地では
それ以外に農地中間管理機構を通して担い手を募集
した.その結果,畑地では複数の法人が参入を希望
しており,それらが担い手候補となっている.
農地利用 WG は非農用地には大手都市銀行の協力
を受け企業誘致を進めたが,全ての土地の担い手が
決定したわけではない.また,企業が地権者と個別
に買収・借地契約する仕組みでは,地権者の間に不
公平が生じ,これが事業実施の上で問題となること
が懸念された.そこで県と町では,地権者が参画す
る山元町復興まちづくり合同会社(仮)を設立し,企
業との交渉や契約,地権者への買収・借地利用等の
利益配分を進める枠組みを検討している.
3.2 対象地における組織の対応
図 1,図 2 はそれぞれ杉ノ下工区と山元東部地区
における複数の組織の相関関係を表している.
(1) 杉ノ下工区 杉ノ下工区では土地利用構想図の
作成は主に市の農林課と県の気仙沼地方振興事務所
南三陸支所が担っている.ただし,杉ノ下工区全体
としての事業間の調整は計画調整課が担っている.
(2) 山元東部地区 山元東部地区の土地利用計画の
作成は県の農地利用 WG と町の非農地 WG が合同で
行なっている.また非農用地への企業誘致も行なっ
ているが,これについても農地利用 WG を含めた県
の組織が関与している.そのため,杉ノ下工区と比
較して農地利用 WG の果たす役割が大きい.
4.まとめ・結論
本研究では,復興に関わる課題に取り組む組織が
もたらした変化や土地利用計画の完成までの過程,
その計画における土地の利用方法を明らかにした.
地区ごとに方法や県の関与方法に差異はあるものの,
いずれの地区でも①従来の事業情報共有や調整の方
法に限界を感じて,新たに複数の関係部局・職員が
一堂に会する組織体制を持っていた.また,そのも
とで②事業の情報共有や調整,土地利用計画の具体
化が進められていた.本方法は将来の大規模災害か
らの復興において有効に機能することが期待される.
3.3 対象地における今後の土地利用計画
対象地においてこれまで説明した組織の活動の結
2
A Distorted Model of a Hydraulic Structure Including Steep Open Channels with Bends
(屈曲のある急勾配開水路を含む水理構造物の歪模型)
Key words: Distorted hydraulic model, Rainwater harvesting system, Similitude
Water Resources Engineering
1. INTRODUCTION
Tadasuke Nakamichi
hydraulic experimental station of Kyoto University at
Maizuru in Japan. A distorted model for the hydraulic
structure was constructed, according to the similitude
deduced directly from the 2-D shallow water equations (2D SWEs) governing dominantly horizontal flows. The
horizontal scale of the model was decided as 1 8 ,
allowing for the land and labor available at the
experimental station. The channel bed was paved with
concrete, while the sidewalls were made of bricks.
Although concrete blocks were used for the sidewalls in
the prototype, the roughness determining the friction slope
was assumed to be identical between the model and the
prototype. These result in the ratios of physical quantities
satisfying the similitude as shown in Table 1, where L
=horizontal length, n =Manning’s roughness coefficient,
H =vertical length, V =velocity, Q =discharge, t
=time, respectively, and the subscript r represents the
ratio.
Some arid regions with annual precipitation below 100
mm are also prone to floods due to heavy rainfall events
occurring several times in a year. Runoff from such a
rainfall event is mostly ephemeral and thus difficult to
utilize as water resources. Abdulla et al.1) evaluated the
potential for potable water savings by using rainwater in
residential sectors. A novel type of rainwater harvesting
system is being developed to collect flushes into a
reservoir, so that the stored water is readily available for
agricultural purposes. This study focuses on the hydraulic
structure to divert currents in a dry river to the reservoir,
and an experimental approach is taken to reproduce flows
in the structure.
2. OUTLINE OF HYDRAULIC STRUCTURE
The prototype of the hydraulic structure was
constructed in the agricultural research station of Mutah
University at Ghor Al Mazrah in Jordan. The construction
site was well considered in order to effectively collect the
flushes. As shown in Fig. 1, the hydraulic structure
consists of a gutter set across the bed of the dry river
flowing between steep cliffs and a conveyance channel
with bends to guide the collected water to the reservoir.
Table 1 Ratios of physical quantities
Lr
1/ 8
nr  Lr 1 2 H r2 3
1
Hr
1 83 4
Vr  H r1 2
1 83 8
Qr  Lr H r3 2
1 817 8
tr  Lr H r1 2
1 85 8
4. CONSTRUCTION OF THE DISTORTED MODEL
Construction works in the hydraulic experimental
station were performed during the period from July to
September 2014. A reservoir made of piled sand bags was
created at the upstream end of the model, instead of the
catchment basin of the prototype. As the basement of the
distorted model, recycled concrete of 0-40 mm was
embanked and well compacted until the designed ground
surface elevations were achieved along the shape of the
structure. Then, bricks were aligned and fixed with mortar
to make the sidewalls of the gutter and the conveyance
Fig. 1 Construction site
3. DESIGN OF DISTORTED MODEL
The hydraulic model tests were conducted in the
1
channel. Finally concrete was filled in the channel bed and
finished with trowel.
roughness coefficient were identified from the measured
water depths and the cross-sectional average velocities, as
shown in Table 5. These results are in good accordance
with the literature, which asserts that the value ranges
between 0.014 and 0.016 s∙m-1/3 in concrete channels2).
Oblique hydraulic jumps occurred along the conveyance
channel in the model, exhibiting particular cross-wave
pattern in the spillway bend.
5. HYDRAULIC MODEL TESTS
Hydraulic model tests were conducted in September
2014. The upstream reservoir was initially filled with
water which was pumped up from a freshwater reservoir
and the sea. There were three different pumps available,
whose nominal discharges and types were 80 L/min
submersible, 290 L/min submersible, and 540 L/min
engine, respectively. The overflowing water was led from
the gutter to the conveyance channel, realizing a steady
state within few minutes for each fixed discharge.
Measurements were conducted for the seven different
discharges as the all possible combinations of the three
pumps: 80 L/min, 290 L/min, 370 L/min, 540 L/min, 620
L/min, 830 L/min, and 910 L/min. The measurement
points include P0 at the center of the gutter and S1-S5
along the conveyance channel, as shown in Fig. 2, where
L, C and R represent the left side, the center, and the right
side, respectively. Water depths were measured by a point
gauge at 16 points, which were P0 and S1L/C/R-S5 L/C/R.
The travelling time of tracer dye from S2 to S4 was
measured for larger discharges (540 L/min, 620 L/min,
830 L/min, and 910 L/min).
Table 2 BL, WD, and WSL in the model (cm)
BL
S2-L 11.79
S2-C 11.34
S2-R 11.62
9.49 3.91
9.00 4.36
13.40 3.27
13.36 4.00
12.76 2.90
13.00 3.87
12.39 3.20
12.87 3.47
12.69
12.47
S3-R
9.40 4.21
13.61 3.53
12.93 3.30
12.70 3.17
12.57
S4-L
7.19 3.76
10.95 2.91
10.10 2.85
10.04 2.79
9.98
S4-C
6.65 4.25
10.90 3.85
10.50 3.73
10.38 3.43
10.08
S4-R
7.18 3.47
10.65 3.03
10.21 2.75
9.93 2.81
9.99
910
1.083
V (m/s)
-3
-2
830
0.969
620
0.953
540(L/min)
0.949
Table 4 Discharges in the model and the prototype
Qm (L/min)
Qp (m /s)
910
536
0.74
830
421
0.58
620
392
0.54
540(L/min)
356
0.49
Table 5 Identified values of Manning’s roughness coefficient
3
n (s∙m
-1/3
2
)
910
0.0148
830
0.0158
620
0.0156
540(L/min)
0.0152
7. CONCLUSION
1
-4
540 (L/min)
WD WSL
2.85 14.64
3.78 15.12
1.33 12.95
4
S1-L
S1-C S2-L
S1-R S2-C S3-L
S2-R S3-C S4-L
S3-R S4-C
S4-R
-5
620
WD WSL
2.96 14.75
3.96 15.30
3.28 14.90
S3-L
S3-C
3
-6
830
WD WSL
3.11 14.90
4.10 15.44
3.68 15.30
Table 3 Cross-sectional average velocities
5 (m)
P0
910
WD WSL
3.68 15.47
4.45 15.79
4.32 15.94
S5-C
S5-R S5-L
0
-1
0
1
(m)
The constructed distorted model is basically consistent
with the prototype in terms of the similitude, having an
ability to reproduce flows in common floods at the site
with the maximum discharge of 0.74 m3/s. The identified
values of Manning’s roughness coefficient in the model
were in a reasonable range. Therefore, the results of
hydraulic model tests are reliable and also useful for
understanding complex hydraulic phenomena in the
structure which are not sufficiently reproduced in
computational models.
Fig. 2 Measurement points
6. RESULTS
Table 2 shows measured channel bed levels (BL), water
depths (WD), and water surface levels (WSL) for the
larger discharges (540 L/min, 620 L/min, 830 L/min, and
910 L/min). The cross-sectional average velocities in the
reach between S2 and S4 were calculated as shown in
Table 3, implying that the actual discharges Qm in the
model and the corresponding discharges Qp in the
prototype were as in Table 4. The maximum discharge
0.74 m3/s in the prototype is large enough to reproduce
common floods at the site. The values of Manning’s
1)
2)
2
REFERENCES
Abdulla F. A., Al-Shareef A. W. (2009). Roof rainwater
harvesting systems for household water supply in Jordan,
Desalination, 243(1-3), 195-207.
Yokota S, ed. (1963) Collection of hydraulic formulas,
Japan Society of Civil Engineers, p.9 (in Japanese).
信楽山地流域における流出特性と流出水の酸素・水素安定同位体比の関係
Relationship between discharge characteristics and oxygen and hydrogen isotope ratios of
discharge water at Shigaraki mountainous catchment
Key words: δ18O, δD, Discharge, Base flow
水環境工学分野
1.はじめに
人類にとって良質な水資源を安定的に供給するこ
とは,今後解決すべき重要な課題の一つである.ま
た,都市部の地下水の汚染や過剰揚水が深刻化する
中,良質な地下水を有する山間部の水文・水質特性
を知ることは非常に意義がある. しかし,同一山地
内での複数の集水域において,水文・水質特性の関
係を考察した研究は少ない.そこで本研究では,通
水する地層中で他の物質と反応せず 1),軽い水分子
から蒸発し,重い水分子から凝結しやすいという性
質をもつ 2),3)酸素・水素安定同位体比(δ18O,δD)
をトレーサーとして利用することで,信楽山地流域
の複数の集水域を対象に,流出水の水文・水質特性
の関係性を考察した.
2.材料と方法
2.1 調査流域
滋賀県甲賀市信楽町に位置する金山を調査対象地
域とした.金山の基岩地質は堆積岩である.金山に
おいて観測された湧水地点を元に 6 つの流域を設定
し,それぞれ C,D1,D2,E,F,G 流域と名付けた.
金山の流域概要を図 1 に示す.各流域の末端部はほ
ぼ同じ標高になるように決定し,この地点の流量を
流出水量として観測した.D1 流域は流量が多いため,
上流部の湧水箇所にも調査地点(D1a,D1b)を設け
た.
図1
信楽山地流域(金山)の流域概要
1
橋本 宏平
2.2 水文観測・水質分析
流出水量は調査地点に三角堰と水位計を設置し,5
分間隔で計測した.採水は 3 日毎に自動採水器で行
い,採水期間は C,D1,D2,E,F 流域では 2012 年
9 月 13 日~2013 年 8 月 18 日,D1a,D1b 流域では
2012 年 10 月 13 日~2013 年 8 月 18 日,G 流域では
2012 年 10 月 16 日~2013 年 8 月 18 日で,採水時刻
は 10 時に設定した.
降水イベント時の流出水を採取するために,C,
D1,D1a,D1b 流域において自動採水器で採水を 2
時間毎に行った.2014 年 10 月 5 日 12:00~10 月 7
日 10:00 に採取した.さらに,山の麓に雨量計を設
置し,降水を観測し,降雨採取器によって降水の採
水を行った.降水のデータ期間は,2012 年 9 月 13
日~2013 年 8 月 28 日である.酸素・水素安定同位
体比(δ18O,δD)は,レーザー分光式アナライザー
測定器によって分析した.
3.結果と考察
3.1 短期安定同位体比特性
C 流域と D1a 流域を比較した.D1,D1b 流域は C
流域と似た傾向を示したため,ここでは割愛した.
C,D1a 流域における 2014 年 10 月 5 日 12:00~10 月
7 日 10:00 の流量,
降水量の経時変化を 1 時間間隔で,
18
δ O,δD の経時変化を 2 時間間隔で示した(図 2).
2 日間合計の降水量は 60.8mm であった.降水開始
から 2 時間後に,降水量に比例して流量が増加する
ことが示された.増加した流量は次第に減少するが,
10 月 7 日 10:00 の段階では元の流量(10 月 5 日 12:00
~10 月 6 日 0:00 までの流量)よりも多かった.また,
C 流域では最大流量が元の流量の 10 倍以上になっ
たが,D1a 流域では最大流量が元の流量の 2 倍程度
にしかならないことから,D1a 流域からの流出水量
は降水の影響を受けにくいことが示唆される.C 流
域で最も δ18O,δD の値が小さくなるのは,最大流
量が観測された 10 月 6 日 8:00 であった.
また,δ18O,
δD の値は流量が増加すると小さくなり,流量が減少
すると大きくなる.
これは,
増加した流量は主に δ18O,
δD の値の小さい降水によるものであるからと考え
られる.D1a 流域で降水による δ18O,δD の値の変動
が見られなかったのは,C 流域と比べて流出水中に
降水が含まれていないからであると考えられる.
.
3.2 長期安定同位体比特性
C 流域と D1a 流域を比較した.D1,D1b,D2,E,
F,G 流域は C 流域と似た傾向を示したため,ここ
では割愛した.C,D1a 流域の流出水の δ-ダイアグ
ラムおよびその直線近似式と決定係数を示した(図
4). C 流域の非降水時が降水時よりも高い相関が得
られたのは,降水時には降水の影響で流出水の水質
が安定しなかったからであると考えられる.降水時
の δ18O,δD の値が非降水時の δ18O,δD の値よりも
小さい傾向が得られたため,降水量が多いと δ18O,
δD の値が小さくなる性質 4)が確認された.D1a 流域
は,降水時と非降水時の δ-ダイアグラムの直線近似
式,決定係数がほぼ同じである.よって,降水の影
響を受けにくい流域であり,降水時においても基底
流の割合が大きいと考えられる.また,データ範囲
が狭いため,決定係数に誤差が生じ,その値が小さ
くなったと考えられる.δ18O,δD の値は蒸発によっ
て変化するため,地下水の滞留時間が長い流域は他
流域と異なる性質を持っていると示唆される.D1a
流域は降水の影響を受けにくいことから,C 流域よ
りも滞留時間が長い地下水の割合が大きいと考えら
れる.したがって,C 流域の δ-ダイアグラムは D1a
流域のそれと傾きが異なったと考えられる.
.
.
(a)C 流域
図2
(b)D1a 流域
降水量,流量,δ18O,δD の経時変化
C,D1a 流域における流出水の δ-ダイアグラムお
よびその直線近似式と決定係数を示した(図 3).ま
た,降水と各流域の低水時の流出水
(基底流)
の δ18O,
δD の平均値を示した.C 流域の δ-ダイアグラムは直
線的に推移しており,経時変化の最初のプロット(10
月 5 日 12:00)は基底流の δ18O,δD の平均値の付近
にあったが,降水に反応して降水の δ18O,δD の平
均値に近づき,その後再び時間の経過とともに基底
流の δ18O,δD の平均値に近づくことが示された.
したがって,流出水は初め基底流が主であったが,
降水とともに降水の割合が増えることが示唆された.
その後降水が支配的になり,降水後に降水の割合が
低下し,基底流が主の流出水になると考えられる.
D1a 流域の δ18O,δD のプロットは,基底流の δ18O,
δD の平均値の付近に集中していた.そのため,降水
の影響をほとんど受けず,流出水は基底流が主であ
ることが示唆された.
図4
4.結論
C 流域は降水後に流出水量が増加しやすいが,D1a
流域は流量の増加が緩やかである.そのため,流出
水に含まれる降水の割合に違いが生じ,C 流域では
降水後に δ18O,δD の値が大きく変動するが,D1a
流域は δ18O,δD の値があまり変動しないことが示
された.以上より,δ18O,δD の降水時の変動が流出
特性を反映したものであることが明らかになった.
1)
2)
3)
図3
4)
流出水の δ-ダイアグラム(短期)
2
降水時,非降水時の δ-ダイアグラム(長期)
参考文献
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薮崎志穂,田瀬則雄,辻村直貴,林陽生(2008):筑
波山南斜面における降水の安定同位体比特性,筑波大
学陸域環境研究センター報告 No.9,15-23.
広域農業における市場価格を考慮した収益予測およびリスク分析
―京都府の事例―
Profit Estimating Simulation and Risk Analysis
Considering Market Prices for Farming Plans of Kyoto Vegetables
Keywords: Profit Estimating, Risk Analysis, Kernel Density Estimation
農業システム工学分野 福井友章
合と栽培時期を変化させた場合、それぞれの栽培計
画においてどのくらいの確率でいくらの産出額を生
むかを過去の市場価格をもとに示す」ことである。
本研究において最終的にアウトプットとなるの
は、ある作付け計画における産出額の平均の予測
値、産出額の変動を表す分散の値および確率分布の
グラフである。産出額とリスクを確率で表すこと
で、より高確率で高収益が得られる作付け計画への
変更、利用者のリスク回避度に応じた作付け計画の
改善のための意思決定の支援として期待できる。
1.背景
近年全国での京野菜人気の上昇から他府県産京野
菜の生産拡大が進み、ミズナなどの一部の京野菜は
他府県産の生産量が京都府産の生産量を上回ってい
る。京都府はブランド京野菜等の販売額倍増を目標
に、平成 14 年に「ブランド京野菜等倍増戦略」を定
め、京都府産ブランド京野菜に京マークと呼ばれる
マークを付けることで他府県産京野菜との違いを明
確化する施策を推進してきた。この取り組みによっ
て京都府産ブランド京野菜等の生産力、品質、信頼
は強化され始めたものの、首都圏を中心に他府県産
京野菜の販売量が年々増加しており、京都府産京野
菜等の販売額は依然伸び悩んでいる(図 1)。
図1
3. 本研究の方法
本研究において仮想的な作付け計画を自動生成
し、その収益と確率を計算するために Java バージ
ョン 7 を用いてプログラムを作成した。まずはじめ
に対象作物の播種可能期間、栽培日数を考慮して同
時に複数の作物を栽培する 1 つの作付け計画を作成
する。
次に作付け計画が完成すると、それに含まれる各
作付けにおいて作物の単価とその確率を予想するた
めに、カーネル密度推定を用いて過去の離散的な市
場価格のデータから、単価と確率の関係を表す連続
的な確率密度関数を求めた。
さらに各作付けにおける確率密度関数から単価を
離散的に選び、作付け計画に含まれる全ての作付け
において単価を変化させた全ての組み合わせを考
え、それらの合計産出額と確率を計算し、同じ産出
額になる組み合わせは確率を抽出してその和を取っ
た。合計産出額と確率の関係を確率密度関数として
表し、その関数の形を定量的に表すため、最小二乗
法を使って確率密度関数を正規分布で近似し、標準
偏差・平均を求めた。
京都府産ブランド京野菜の販売額の推移 1)
そこで、このような背景から本研究では京都府産
京野菜の競争力向上のための一つの方法として産出
額の安定化や向上を図った作付け計画の見直し、改
善を考えた。新たなブランド品目としてある農作物
を作付け計画に取り入れたり、従来の作付け計画で
栽培していた農作物の栽培時期をずらすことで産出
額の安定化・向上を図ることが可能であると考えら
れる。しかし,実際作付け計画を変更するためには
意思決定の支援が不可欠である。そこで、本研究の
テーマを次のように設定した。
4.シミュレーションと結果
京野菜で主力品目であるみずなと九条ねぎ、需要
拡大が見込まれている聖護院大根の 3 品目を対象作
物とし2種類のシミュレーションを行なった。各作
付けの確率密度関数から単価が 50 円/kg, 250 円
2. 研究目的
本研究の目的は「地域や産地などある程度広域の
面積を持つ農地全体において複数の作物の作付け割
1
5.考察
/kg, 450 円/kg, 650 円/kg, 850 円/kg となる確率
を抽出して 1 つの圃場においてシミュレーションを
5 回行ったケース1と、2つの圃場を対象に行なっ
たケース2である。ケース1の結果を以下に示す
(ケース2については割愛する)
。生成されたケー
ス 1-1 からケース 1-5 の栽培計画を表 1 に、産出額
の確率密度関数の概形を図 2 に、産出額の確率密度
関数の標準偏差と平均を表 2 に示す。確率密度関数
について単価を離散的に選んだため、図2は産出額
とその確率を表す確率密度関数の概形となってい
る。
表1
ケース 1-1、ケース 1-2、ケース 1-4 の確率密度
関数において大きな違いは見られなかった。
また、それら 3 つのケースに比べ、ケース 1-3 は
産出額の平均が高く、標準偏差も大きいことから、
ケース 1-3 はハイリスクハイリターン型であると考
えられる。この作付け計画は産出額が変動するリス
クを受け入れ高収益を目指す場合に選ばれる。この
場合には産出額が平均値よりも高い産出額が得られ
る確率も高くなるが、産出額が平均値よりも低くな
る確率も高くなる。
ケース 1-5 はケース 1-1、ケース 1-2、ケース 14 に比べて産出額の平均は小さく、また標準偏差も
大きいことから、ケース 1-5 はハイリスクローリタ
ーン型であると考えられる。この作付け計画は考え
られる最大の産出額は小さく、価格変動によりさら
に産出額が小さくなる可能性を大きく含んでいるた
め、産出額とリスクの関係によって作付け計画を選
ぶとすればこの作付け計画を選ぶことは不適である
と考えられる。
ケース 1-1 からケース 1-5 の栽培計画
ケース
1-1
1-2
1-3
1-4
1-5
栽培する作物
九条ねぎ
みずな
九条ねぎ
みずな
みずな
みずな
みずな
みずな
みずな
九条ねぎ
みずな
みずな
みずな
九条ねぎ
みずな
九条ねぎ
みずな
みずな
九条ねぎ
聖護院大根
九条ねぎ
九条ねぎ
聖護院大根
みずな
播種
3月18日
6月28日
7月24日
10月19日
12月17日
1月6日
4月14日
5月22日
7月20日
8月13日
11月3日
4月22日
5月23日
6月27日
9月16日
11月28日
1月30日
4月11日
7月3日
9月20日
4月7日
7月4日
9月16日
12月4日
収穫
6月1日
7月21日
8月5日
11月28日
3月1日
5月17日
5月17日
6月16日
8月12日
10月27日
12月23日
5月22日
6月17日
9月5日
10月16日
4月11日
3月31日
5月14日
8月12日
11月29日
6月6日
9月15日
11月25日
2月17日
6.結言
本研究ではみずな、九条ねぎ、聖護院大根の三品
目を栽培する作付け計画を生成し、その計画で得ら
れる産出額とその確率を予測、リスク分析を行っ
た。得られた栽培計画からこの意思決定支援を使わ
ずに「産出額と確率の関係」を予想することは困難
であるため、本研究の収益予測による意思決定支援
の有用性があると考えられる。また、本研究におけ
るプログラムの処理速度を向上することや、対象と
する作物や考える圃場の数を多くすること、連作障
害といった他の要素を加えることでより現実的で精
度の高い収益予測が期待できる。
表 2 産出額の確率密度関数の標準偏差と平均
1-1
20055
443791
1-2
20051
441934
1-3
99930
952421
1-4
20645
492916
1-5
99681
401782
参考文献
1) 京都府農林水産部(2011): 農林水産京力プラン, 京
都府, 47-52.
産出額(円)
0
500000
1000000
1500000
1.00E‐02
1.00E‐09
1.00E‐16
1.00E‐23
1.00E‐30
1.00E‐37
1.00E‐44
1.00E‐51
1.00E‐58
1.00E‐65
1.00E‐72
1.00E‐79
1.00E‐86
1.00E‐93
1.00E‐100
1.00E‐107
1.00E‐114
1.00E‐121
1.00E‐128
1.00E‐135
確率
ケース
標準偏差
平均(円)
2000000
2500000
ケース1‐1
ケース1‐2
ケース1‐3
ケース1‐4
ケース1‐5
図2
産出額の確率密度関数の概形
2
3000000
コーン貫入抵抗計測の高精度化
High-precision measurement of cone resistance by a portable-type
penetrometer using motorized cylinder
Key words: cone resistance, cone index, mobility number, soil bin
農業システム工学分野
1.緒言
近年,世界で進むアフリカやアジアを中心にした
急速な発展により,今後建設機械や農業機械などの
オフロード車両の需要増加が見込まれる.また,環
境保全やエネルギー需要の観点から,オフロード車
両の作業効率向上,環境負荷の低減が求められてい
る.オフロード車両はタイヤと土壌の状態から大き
な影響を受けるため,作業効率を向上させるために
は土壌と機械の相互作用に関する研究が必要となる.
本研究ではコーン貫入抵抗測定装置を小型かつ軽
量に設計し,高精度な計測ができるように製作する.
得られたデータを今後 DEM シミュレーションの発
展に活用することを想定し,様々な土のモデル試料
を用いて円筒土槽においてコーン貫入を行う.また,
けん引性能計測装置の土槽において得られる正確な
コーン指数を用いて,Brixius1)や Hegazy2)の提案する
予測式により推定されたけん引係数やけん引効率を
西山の研究 3)で得られたけん引性能の実験結果と比
較し,欧米の大型農用トラクタ・タイヤを対象とし
て提案されたモビリティ数が小型タイヤにも有効で
あるかどうかを確認する.
福田
貴
よって打撃を加えることによって変化させた.締め
固め条件は打撃回数がアルミナボールで 0,2,5 回,
ガラスビーズで 0,10,20 回,豊浦標準砂,ろ過砂
で 0,5,15 回 であった.実験は各締め固まり具合
で 3 回行う.また貫入速度は 10 mm/s ,貫入量は
150 mm で実験を行う.
2.2 単車輪試験装置を用いたコーン貫入抵抗測定
コーンは貫入量と貫入速度を調整することができ
る電動シリンダ(オリエンタルモーター株式会社;
ELCM6E20MKRAP)によって送り出す.貫入抵抗はコー
ン取付軸と駆動部分を繋ぐ箇所に取り付けられたひ
ずみゲージを使用したロードセル(株式会社共和電
業; LUR-A-500NSA1),コーンの貫入深さは電動シリ
ンダに併設したレーザ距離計(オムロン株式会
社;ZX-LD300)により計測する.
西山は単車輪試験装置(Single Wheel Tester 以下
SWT)を使い,スムースタイヤ,耕うん機用タイヤ,
芝刈り機用タイヤの 3 種類のタイヤについて,タイ
ヤ規格やタイヤ空気圧,けん引係数,推進係数,走
行抵抗係数,滑り率を計測した 3).本実験で SWT の
土槽内のコーン指数(貫入抵抗値をコーン先端の円
錐投影面積で除した値) を計測することにより,西
山が計測したその他のパラメータと計測したコーン
指数を使い,Brixius や Hegazy が提案した性能予
測式を適用することができる.これより,西山が計
測したけん引係数,推進係数,走行抵抗係数と性能
予測式から得られたそれらの値を比較できる.
今回のコーン貫入抵抗測定装置を使い,西山の研
究で使用した SWT の土槽内でコーン貫入抵抗測定
を行った.土槽の内寸は,長さ 3015 mm,幅 480
mm,深さ 605 mm である.試料の締固め具合を調
整 す る た め に 攪 拌 ・ 転 圧 装 置 (Mixing and
Compaction Device 以下 MCD)を使用した.MCD
は,土表面を同一で均質な条件を維持するために整
える装置である.これは砂を撹拌するための電動耕
うん機(井関農機 KDC 20; 300 W)と,転圧するため
の電動モータ(KYOWA KMP; 400W)で駆動するゴ
ム被膜ローラからなる.
2.1 円筒土槽におけるコーン貫入抵抗測定
3.実験結果
実験には試料(粒径(mm);粒子密度(g/cm3)) とし
てアルミナボール(3, 4, 5 の混合;3.6),ガラス
ビーズ(5 ;2.5),乾燥した豊浦標準砂(平均 0.267;
2.65),ろ過砂(平均 0.6;2.62) を用意した.締め固
め具合は試料を充填する際に土槽の側壁にハンマに
3.1 円筒土槽におけるコーン貫入抵抗測定
2.実験装置および方法
一部例外はあったが,全ての試料でハンマの打撃
回数に応じて間隙率が変化した.また,全ての試料
で,貫入量が大きくなるのに比例して貫入抵抗が大
きくなった.さらに,全ての試料で間隙率が小さく
1
なるにつれて貫入抵抗が大きくなった.間隙率が同
じアルミナボールとろ過砂を比べると,明らかにろ
過砂の貫入抵抗の方が大きくなった.
3.2 単車輪試験装置におけるコーン貫入抵抗測定
図 1 に 3 種類のタイヤについて,西山が調べた実
験結果とモビリティ数による予測値を比較したけん
引係数のグラフを示す.西山がけん引性能を調べた
3 種のタイヤにおいて,Brixius のモビリティ数の予
測値は近い値,近い傾向を示したが,Hegazy のモビ
リティ数の予測値はけん引係数が負の値を示すなど,
不適当な結果となった.
4. 考察
円筒土槽での実験について,ハンマにより 4 方向
から土槽に打撃を加える方法では土槽内の試料を均
一に締め固めることができた.また,実験から間隙
率,粒子密度,粒子形状が貫入抵抗に影響を与えて
いることが分かった.
モビリティ数について,Hegazy は大型ラジアル
タイヤしか想定しておらず,Hegazy の提案したも
のでは,今回各種タイヤで適当な予測結果が得られ
なかった.Brixius は小型のバイアスタイヤも想定
していたため,Brixius の提案したものでは,バイア
スタイヤである耕うん機用タイヤと芝刈り機用タイ
ヤで近い予測値が得られた.Brixius のものを用い
て,ラジアルタイヤであるスムースタイヤでも近い
予測値が得られたのは,緩い砂質土壌ではタイヤの
構造上の違いによる性能差が生じにくいため 4)と考
えられる.
5.結言
(a) スムースタイヤ
(b) 耕うん機用タイヤ
製作した可搬式コーン貫入抵抗測定装置は,従来
の研究で得られた結果より正確に計測できていると
考えられる.今回は DEM シミュレーションの参考
用のデータ収集を目的とし,各種試料についてコー
ン貫入抵抗測定を行い,間隙率,粒子密度,粒子形
状が貫入抵抗に影響を与えていることが分かった.
また応用として,欧米の大型タイヤ用に開発された
モビリティ数が日本の小型タイヤにも適応できるか
どうか調べた.モビリティ数については,Brixius が
提案したもののみ日本の小型農用タイヤにも適応で
きると考えられる.また,Brixius のものは緩い砂質
土壌であれば,ラジアルタイヤにも適応できると考
えられる.ただし,Brixius のけん引性能予測式は正
確であるとは言えず,コーン指数により,正確に予
測するためには新たなモビリティ数,予測式を提案
する必要があるだろう.
参考文献
1) W. W. Brixius.Traction prediction equations for biasply
tires.American Society of Agricultural Engineers papaer,
1987.
2) Shawky Hegazy, Corina Sandu.Experimental investigation
of vehicle mobility using a novel wheel mobility number.
Journal of Terramechanics,2013.
3) 西山健太.タイヤ空気圧のけん引性能への影響につい
て.京都大学卒業論文,2014.
4) P. J. Forrest, I. F. Reed, G. V. Comnstantakis. Tractive
characteristics of radial-ply tires..Transactions of ASAE,
1962.
(c) 芝刈機用タイヤ
図1
実験結果
流動化した土の間隙水と土粒子の運動
The Motion of Pore Water and Soil Particles of Fluidized Soil
Key words: Sand boil, Experiment, Sand velocity
施設機能工学分野
藤巻 真由
1.目的
土の流亡によって発生する空洞化や水みちの形成
などは,土構造物や地盤の主要な被害要因である.
しかし,どのように空洞化や水みちの形成に至るの
かはよくわかっておらず,これらの現象の予測は困
難である.浸透破壊時の間隙水と土粒子の運動を把
握することは,土の流亡による被害を防止・軽減し,
ため池堤体などの土構造物や地盤の防災・減災に役
立てることに繋がる.
ここでは,浸透破壊によってボイリングを発生さ
せ,そのときの間隙率,動水勾配,土粒子と間隙水
の速度を調査し,流動化した土の間隙水と土粒子の
運動を明らかにする.
貯水タンク
流量計
差圧計
土壌水分
20cm
PIV
15cm
2.実験装置
ボイリングを発生させるために,図 1 に示すよう
な U 字型の試験装置を作成した.
素材には厚さ 5 mm
の透明なアクリルを用い,断面形状は一辺 90 mm の
正方形とした.試料には硅砂 6 号を用いた.この装
置の中に飽和した試料を詰め,上流側に設置した貯
水タンクの高さを上昇させることによりボイリング
を発生させた.試験を行う前に,水温,透水係数,
間隙率を測定した.ボイリングを発生させた時の間
隙率,動水勾配,水と砂粒子の速度を一定時間ごと
に測定した.
図 1 に示すように試験装置に土壌水分計と差圧計
を取り付け,それぞれ間隙率と動水勾配を測定した.
また,貯水タンクと試験装置の間に流量計を設置し,
試験装置内の浸透流速を測定できるようにした.砂
粒子速度は,PIV 画像処理により計測した.
図1
実験装置の概要
3.実験手順
試験装置を脱気水で満たし,そこに試料を漏斗で
流し込み左右の試料の高さが同じになるようにした.
装置に詰めた試料の質量と装置の体積から初期間隙
率を計算した.その後,装置と貯水タンクを接続し,
装置内に通水させた.試料があふれ出ない程度に貯
水タンクを上昇させ,水温と差圧計の値から初期の
透水係数を測定した.透水係数の測定が終了したら,
PIV 画像の録画を始め,タンクを砂が動き出すまで
1
図 2
PIV 画像処理
さらに上昇させた.土壌水分計と差圧計は実験中測
定し続け、それぞれ 1 秒と 2 秒ごとに値の記録を行
った.
4.実験結果
実験は複数回行い,試料が均一に流れた 3 回分の
1.4
解析を行った.図 2 に PIV 画像処理による砂粒子の
速度ベクトルを示す.土壌水分計に近い,円で囲っ
た 1 列分の速度を平均し,砂粒子速度の測定値とす
る.図 3 に浸透流速と砂粒子速度の関係を示す.さ
らに、図 4 と 5 にはそれぞれ動水勾配と間隙率の時
間変化を示す.次に,測定した間隙率 n から式(1)を
用いて透水係数 k を求めた.ただし α は定数で,初
期間隙率と初期透水係数から求められる.
k 
vs  vw 
n3
(1  n) 2
動水勾配 i
1.2
1.0
(1)
0.8
k (1  n)   s   w 
i

n2  w

(2)
0.6
式(2)は,力のつり合いから導かれる砂粒子速度の推
定式である.ただし, vs ,  s ,  w ,i は,それぞれ
浸透流速,土粒子密度,水の密度,動水勾配である.
透水係数 k と間隙率 n を用いて式(2)から砂粒子速度
の推定値 vs を求め,PIV 画像処理によって測定した
砂粒子の速度と比較する.図 6 に砂粒子の測定値と
推定値の関係を示す.図 6 の点は直線 y=x の周りに
集まっていて,式(2)で求められる砂粒子速度の推定
値が測定値と精度よく一致していることがわかる.
0
20
40
60
80
時間 (s)
100
120
140
120
140
図 4 動水勾配の時間変化
0.60
間隙率
0.55
4.結論
砂粒子速度は式 (2) によって精度良く求めること
ができた.これにより,透水係数や動水勾配を求め
ることができれば,土粒子と間隙水の動きを予測す
ることが可能となる.
0.50
0.45
0.40
0
1.0
20
40
60
80
100
時間(s)
浸透流速
図 5 間隙率の時間変化
砂粒子速度
0.8
0.6
0.8
推定値(cm/s)
速度(cm/s)
1.0
0.4
0.2
0.6
0.4
実験1
実験2
実験3
0.2
0.0
0.0
0
20
40
60
80
100
120
140
-0.2
時間(s)
-0.2
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
砂粒子速度の測定値(cm/s)
図 3 浸透流速と砂粒子速度の時間変化
図 6 土粒子速度の推定値と測定値の比較
2
1.0
テラヘルツ波全反射減衰分光法を用いた
細胞の酸化ストレス応答評価のための基礎研究
Fundamental Research for the Evaluation of Oxidative Stress Response
in Cells by Using Terahertz Attenuated Total Reflection Spectroscopy
Key words: Oxidative stress, Terahertz, Hydrogen peroxide
生物センシング工学分野
1.背景
堀
彩夏
セント波はプリズム表面から離れるに従い指数関数
的に減衰し,電場強度が 1/e となる深さで定義され
る浸み出し深さは周波数に依存しており,周波数増
加に応じて浸み出しは浅くなる.
本研究では,THz 帯における細胞内水の ATR スペ
クトル変化に基づき酸化ストレス応答を評価するこ
とを目指し,ATR 法を用いて細胞の酸化ストレス応
答の経時変化を評価できるかを検討した.そのため
に,共焦点顕微鏡を用いて酸化ストレスを加えた細
胞の厚みの経時変化を測定し,また,12 時間かけて
酸化ストレスを加えた細胞を ATR 法で測定し,ATR
スペクトルに見られる 5 THz のピークに経時変化が
見られるかを評価した.
酸化ストレスとはタンパク質や DNA などの生体
分子を酸化損傷させる活性酸素とそれを無毒化する
抗酸化成分のバランスが活性酸素側に傾いた状態で
あり,酸化ストレス状態では生体分子の機能発現に
障害がおこり,様々な疾病や老化の原因となると考
えられている 1).近年では抗酸化成分を含む農産物
や食品に注目が集まっており 2),抗酸化機能や酸化
ストレス状態に関する研究が多々行われている.こ
のような研究では,活性酸素の一種であるフリーラ
ジカルを定量する電子スピン共鳴法や酸化ストレス
マーカーを定量する ELISA 法などが用いられてい
るが,酸化ストレスを評価する統一的な基準は定め
られていないため,様々な手法で得られた評価結果
を相互的に比較することは困難である.また,細胞
内では様々な生体分子の相互作用によりその機能を
発現しているが,従来法は特定の活性酸素や酸化ス
トレスマーカーのみにしか注目しておらず,酸化ス
トレスに対する体系的な理解を試みるためには細胞
内の生体分子の相互作用に関する知見を得ることが
不可欠である.
細胞内の重量の約 70 %を占める水は,生体分子の
構造や機能発現にとって重要な因子であり 3),細胞
中における相互作用の中枢をなしていると考えられ
る.したがって,酸化ストレスによる水の物性変化
を従来法による酸化物質の発現評価と照らし合わせ
ることで,酸化ストレスが細胞に及ぼす影響の全体
像を把握できると期待される.ここで,水の物性を
知る有効な手段としてテラヘルツ(THz)波を用いた
分光法がある.THz 波は 0.1~10 THz の周波数帯に位
置する電磁波であり,THz 帯での水の複素誘電率は
水分子の動態を反映するいくつかのピークの足し合
わせであることが明らかとなっている 4).また,THz
帯における水のような吸収の大きな試料の測定には
全反射減衰分光法(ATR 法)が適しており,これはプ
リズム底面から臨界角以上で入射した波がプリズム
表面で全反射される際に発生するエバネッセント波
により試料の吸収を観測する方法である.エバネッ
2.実験方法
2.1 細胞の厚み測定
ガラスボトムディッシュ(AGC テクノグラス製)に
培養した HeLa 細胞に,酸化ストレスとして 200 μM
の過酸化水素濃度に調整した MEMα(和光純薬工業
製)を 1 mL 加えてインキュベートした.インキュベ
ートの時間は 0,3,6,9,12 時間のものをそれぞれ
2 個ずつ用意した.インキュベート後,それぞれの
試料の細胞膜を CellMask orange plasma membrane
stain (Invitrogen 社製)により染色し,共焦点レーザー
走査型顕微鏡 A1(Nikon 製)を用いて細胞の断面画像
を高さ分解能 500 nm で各試料 5 枚ずつ取得した.画
像 1 枚から 10 個の細胞の厚みを測定し,その平均値
を細胞の厚みとした.
2.2 ATR 法による酸化ストレス応答評価
FARIS-1S(日本分光製)を用いて①MEMα,②200
µM 過酸化水素入り MEMα,③HeLa 細胞+ MEMα,
④HeLa 細胞+200 µM 過酸化水素入り MEMα の 4 つ
の試料を 0~12 時間目まで 1 時間おきに測定した.
測定領域は 2.0~12 THz で分解能は 120 GHz,積算回
数は 500 回とし,各試料 37 ℃で二酸化炭素濃度
5.0 %に保ち測定を行った. 12 時間目の測定終了後
にリファレンスとして空気を 5 回測定した.再現性
確認のため,各試料につき 3 回の測定を行った.
1
3.結果および考察
3.1 細胞の厚み測定
表 1 に 200 μM の過酸化水素入り MEMα を添加後
12 時間までの細胞厚みの経時変化を示す.エラーバ
ーは各時間における細胞厚みの標準偏差を表す.過
酸化水素処理から 12 時間後まで細胞厚みに有意な
差は見られず,この条件において細胞厚みは変化し
ないことが分かった.また,測定したすべての細胞
厚 み の 平 均値 から HeLa 細 胞 の 厚 みを 求 める と
6.83±1.35 µm となった.ATR 法ではエバネッセント
波の浸み出し深さが周波数に依存し,低周波側で浸
み出し深さが大きくなる.このため,低周波側で細
胞の上の培地の情報が得られるスペクトルに影響を
与える可能性が考えられる.ここで,本実験により
求めた細胞厚み 6.83 µm と同じ浸み出し深さとなる
周波数は 4 THz であり,4 THz 以下の領域において
ATR 法により得られるスペクトルには細胞上部に存
在する培地の情報が反映されると考えられる.
図2
部における 0.5 THz のピークについて細胞への酸化
ストレス添加による変化が見られており,5 THz の
ピークについても変化する可能性が考えられるが,
本実験においてはどちらの試料についても時間によ
る体系的な変化は見られず,酸化ストレス応答を評
価することができなかった.これは過酸化水素の添
加により得られる変化は非常に小さいものと予想さ
れるが,本測定系の精度ではそのわずかな変化を評
価することができなかったためであると考えられる.
表1:細胞厚みの経時変化
処理時間 [時]
0
3
6
9
12
細胞厚み [μm]
6.91
6.84
6.79
6.75
6.87
標準偏差 [μm]
1.43
1.55
1.38
1.35
1.03
4.結論
本研究では,ATR 法を用いて細胞の酸化ストレス
応答の経時変化を評価することを目的に研究を行っ
た.共焦点顕微鏡を用いた細胞厚みを測定から,
HeLa 細胞の厚みが 6.83±1.35 μm であり,過酸化水
素の添加により変化しないことが分かった.また,
細胞厚みと同程度の浸み出し深さを持つ周波数であ
る 4 THz より高周波側では細胞の情報のみが ATR ス
ペクトルに反映されることが示唆された.また,ATR
法による細胞測定から ATR スペクトルに細胞内の
水分子の動態が反映されていることが確認されたが,
装置の精度が足りないために細胞の酸化ストレス応
答を ATR スペクトルを用いて評価することはでき
なかった.今後は実験系の高精度化を図り,細胞の
酸化ストレス応答を THz 帯における誘電応答から評
価できるか検討していく.
3.2 ATR 法による酸化ストレス応答評価
図 1 に得られた ATR スペクトル A(ω)の平均値を
示す.③,④のスペクトルは①,②のスペクトルよ
りも低い値を示しており,これは細胞の生体分子に
よりエバネッセント波と相互作用する水分子のモル
数が減少することに起因すると考えられる.また,
全体としてブロードなピークが見られ,③,④にお
いて細胞内の生体分子による急峻なピークが見られ
ないことから,ATR スペクトルでは水分子の動態が
支配的であることが確認された.
図 1 において見られる 5 THz のピークには水分子
間で形成される正四面体構造に関する情報が反映さ
れている.図 2 に試料③,④について 5.0 THz での
ATR スペクトルのピーク高さの経時変化を示す.エ
ラーバーは 3 回の測定の標準誤差を示す.THz 帯で
の時間領域分光法を用いた研究では,複素誘電率虚
1)
2)
A(ω)
0.08
①
3)
②
0.06
③
0.04
④
0.02
4)
1
3
5
7
9
周波数 [THz]
11
5 THz でのピーク高さの経時変化
13
図 1 各試料の ATR スペクトル
2
参考文献
酒居一雄(2007):酸化ストレスと未病,日本未病シス
テム学会雑誌,13,1,10-13
大澤俊彦(2005):酸化ストレス制御因子含有植物素材
の探索と評価システム,日本食品科学工学会誌,52,
1,7-18
S. K. Pal, J. Peon, and A. H. Zewaii(2002):Biological
Water at the Protein Surface Dynamical Solvation Probed
directly with femtosecond resolution, PNAS, 99, 4,
1763-1768
H. Yada, M. Nagai, K. Tanaka(2008):Origin of the Fast
Relaxation Component of Water and Heavy Water
Revealed by Terahertz Time-domain Attenuated Total
Reflection Spectroscopy, Chemical Physics Letters, 464,
166-170
都市近郊型バイオマス活用システム成立の条件検討ためのデータベース作成
Constructing Database for Successful Biomass Utilization in Suburban Areas
Key words: Biomass, Data-base, Suburban Areas
農村計画学分野
堀 直也
単位のデータを選定し、データベースを作成、(4)ク
ラスター分析により都市近郊型市町村についての傾
向を測り、想定した要素や条件が表現できているか
を確認した.
1.背景
再生可能エネルギー源であるバイオマスについて
これまでバイオマスタウン等により各地での利用が
進められてきた.しかし、全国 318 地区のバイオマス
タウン構想では期待した効果が明確に得られたもの
はない.この反省を踏まえ「経済性が確保された一貫
システム」1)の構築をめざすモデル的な取り組みと
してバイオマス産業都市(第一次、第二次・各 8 地
区、第三次 6 地区)が選定された.これらの市町村で
はバイオマスの活用に関するシステムが成立する素
地があると考えられる.また、森本ら 2)はバイオマス
タウンについて市町村を 7 つに類型化し、経済効
率・物質循環効率・温暖化防止効率について具体的
な分析を行った.多様な事項が関連するバイオマス
活用であるが、本研究ではこの先行研究から一つの
類型(都市近郊型)に着目し、バイオマス活用に関
するシステム成立の可能性を探ることを考えた.都
市近郊型の市町村に着目したのは、この類型がバイ
オマスタウン構想において成功例が乏しく、バイオ
マス利活用システムの成立条件が明らかになればバ
イオマス利活用の推進にとって有意義であると考え
られるためである.また、バイオマス産業都市に選定
された市町村のうち、茨城県牛久市、愛知県大府市、
兵庫県洲本市が本類型に該当する.
3.データベースの作成
3.1 バイオマス活用システム成立の条件
バイオマス活用システムとはバイオマス産業都市
の理念 3)である「地域のバイオマスの原料生産から
収集・運搬、製造・利用までの経済性が確保された
一貫システム」と定義し、その成立のための条件を、
バイオマスの「入口」に関する収集から変換までの
条件、バイオマスの「出口」に関する貯蔵から利用
までの条件、システムの持続性に関する条件をそれ
ぞれについて考察するため図1のように三つに分割
した.バイオマスの利用法についてはバイオマス産
業都市 3 市で主眼とされた
「バイオガス発電」
・
「BDF
燃料」
・
「資源作物の利用」の 3 つを対象とした.バイ
オマス活用システム成立の条件は、それぞれ「変換
した電力を有効に活用できるか」、「採算性が得られ
るまで事業を継続できるか」、「必要な原料を生産可
能であるか」
、が主な条件となる.
2.研究の目的と方法
本研究は、都市近郊地域におけるバイオマス利用
の可能性を探るため、バイオマス活用システムが成
立する条件を構成する要素を、バイオマス活用シス
テムの段階(図1)を通して表現し、そして各要素
を市町村単位の指標(データ)の集合体(データベ
ース)で表すことを目的とする.都市近郊型の活用シ
ステムに必要な要素やそれを表す指標の検討のため、
バイオマス産業都市選定地区(牛久市・大府市・洲
本市)を参考にした.たとえば、本研究で扱うバイオ
マス活用方法は都市近郊型において代表的なものに
限った.具体的な方法として(1)バイオマス活用シス
テムの成立条件を定義、(2)対象としたバイオマス活
用法ごとに、成立条件を構成する要素について細分
化、(3)各要素の状況を表現できると思われる市町村
1
図1
バイオマス活用システム概略図
3.2 各条件を構成する要素の抽出
バイオマス産業都市の取り組み等を参考にして各
条件は図1のように構成されると想定し、データベ
ースを作成した.ここでは、図1に示した 3 つ条件の
うち、
「システムの持続性を確保できる条件」につい
て詳細を記述する.
(1)バイオマス活用事業を開始するための経済的な
余裕がある
バイオマス活用事業においては、変換施設の建
設・維持や原料収集のコストが原因で事業を中止せ
への配慮が理由の一つとして挙げられており、住民
の環境への理解度、関心度を見るために選択した.
ざるを得なくなったバイオマスタウンの例が多く見
られた.自治体において経済的な余裕があれば、こう
した事態を回避し、システムの持続性を確保できる.
(2)バイオマス事業を継続するための住民の理解が
得られる
バイオマス事業の継続には、住民の理解と支持が
不可欠である.住民の再生可能エネルギーに対する
期待、温暖化対策に対する責任感等が強ければ住民
からの反対で事業が中止になる事態を防ぐことが出
来る.バイオマスタウンにおける成功例の一つであ
る福岡県大木町ではアンケート調査により住民の理
解や支持が高く、事業を継続している.
(3)環境への取り組みとして長期的な事業の継続が
見込める
経済性が確保できる一貫システムの構築を目指す
としても、事業開始からすぐに採算性や利益を確保
できるわけではない.その場合バイオマス利用に環
境への取り組みという目的を自治体として明確に保
つことが、バイオマス事業継続に大きく影響する.
(4)バイオマス原料が持続可能である
バイオマス事業の持続にはバイオマス原料が現在
だけでなく未来においても安定的に収集できなけれ
ば事業の持続的な成功は望めない.
3.4 データを用いたクラスター分析
3.3 で挙げたデータについてクラスター分析を行
った.Ward 法と平方ユークリッド距離の組み合わせ
を選択し、Z 得点で標準化を行った.分析対象は、デ
ータベースの欠損を除いた 222 市町村である.分析
の結果、クラスター凝集経過工程の第一段階におい
て 26 のクラスターに結合された.凝集経過工程の第
三段階で表された 6 のクラスターのデータを表1に
まとめた.
表1
クラスターごとのデータ
4.考察
クラスターごとに各データの平均値に順位づけを
行った場合、順位の平均値が低いクラスターが「シ
ステムの持続性を確保できる条件」をもつ市町村で
構成されていると考えられる.クラスター3 とクラ
スター4 が 2.4 位と最も順位の平均値が低かったが、
クラスター3 には事業を長期に継続している牛久市
が含まれていた.クラスター5 では太陽熱・太陽光の
利用率が低かったが、その理由が寒冷地による気象
条件にあると推察される.気温や日照時間の小さい
地域については正確に表現できていない可能性があ
るが、
「システムの持続性を確保できる条件」を構成
する要素をデータベースにより表現できていたと考
えられる.
3.3 要素を表すデータの選択
「システムの持続性を確保できる条件」を構成す
る要素について以下のようなデータを選択した.
(1) 財政力指数
財政力指数とは、地方公共団体の財政力を示す指
数で、基準財政収入額を基準財政需要額で除して得
た数値の過去 3 年間の平均値である.財政力指数が
高いほど、普通交付税算定上の留保財源が大きいこ
とになり、財源に余裕があるといえる.
(2) 人口増減率(%)
バイオマス原料の主な発生源および供給先の一つ
として、人口の持続性が重要と位置付けた.人口の将
来予測に用いられる人口増減率を用いた.
(3) ごみのリサイクル率(%)
ごみのリサイクル率を向上させるには、小林 4)に
よると①排出量(ごみ処理量)の抑制、②直接資源
化量及び再生利用量の拡大、③集団回収量の拡大の
何れかが必要となる。そのため自治体では住民の意
識向上、システムの合理化が行われると考えた.ごみ
のリサイクル率はそれら環境への取り組みの成果を
表す指標としてよく用いられるため、データとして
選択した.
(4) 住宅における太陽光・太陽熱の導入率(%)
太陽光・太陽熱利用はバイオマスとともに地球環
境に良いエネルギーとして利用が進められ、一般家
庭への導入はバイオマスに比べて進んでいる.伊藤
ら 5)の導入意識についてのアンケートでは地球環境
1)
2)
3)
4)
5)
2
参考文献
バイオマス産業都市関係府省連絡会議 (2014):バイ
オマス産業都市について(平成 26 年 3 月) ,
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/biomass/b_kihonho/pdf/
h2603_setumeisiryou.pdf (最終閲覧日 2015 年 2 月 7 日)
森本英嗣、星野敏、九鬼康彰 (2011):DEA を適用し
たバイオマス利活用の多基準評価、農業農村工学会論
文集、79(2)、87-95
農 林 水 産 省 (2010): バ イ オ マ ス 活 用 推 進 基 本 計 画
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/biomass/b_kihonho/pdf/
keikaku.pdf、(最終閲覧日 2015 年 2 月 7 日)
小林良邦(2005): 一般廃棄物(ごみ)のリサイクル率
に関する一考察、東京都市大学環境情報学部紀要第六
号
伊藤雅一、小田拓也 (2012): 全国アンケート調査によ
る太陽光発電システムに関する導入意識とコンジョ
イント分析、エネルギー・資源学会論文誌 vol33,No.6
確率論的 DCF 法によるアースダムの補修投資時期の考え方
Determination of Investment for Repair of Earth-fill Dam by Stochastic Discounted
Cash Flow Method
Key words: Stochastic Discounted Cash Flow Method, Earthquake, Investment management
施設機能工学分野
1. はじめに
表1
日本には約 21 万個のアースダムが存在し,灌漑用
水を貯留することで農業基盤を支えている.しかし,
その多くは築造年や施工法が不明で,堤体に何らか
の損傷があり,地震や豪雨に見舞われた場合の法面
崩壊リスクは高いため,近年補修の必要性が議論さ
れている.通常,補修の可否は費用便益比で議論さ
れるが,ここでいう便益は対策前後の期待損失の差
であり,収益を考慮しない.さらに,対策は直ぐに
行うことが前提であり,補修時期の議論はされない.
本研究では費用便益比の代わりに,期待損失を上回
る期待収益を得る確率で事業を評価する確率論的
DCF 法を用いて,補修投資時期の決定をより合理的
に促す手法の提案を目的にした.
便益総額
費用便益分析(千円)
総費用
341,457
5,756
当該事業費
234,000
160,693
その他費用
107,457
4,566,464
維持管理削減効
増田 真理花
果
災害防止効果
(農業関連)
災害防止効果
4,360,360
(一般資産)
災害防止効果
39.655
(公共資産)
2.2 確率論的 DCF 法
確率論的 DCF 法(Stochastic Discounted Cash Flow
Method)は将来にわたる収益・資産価値および自然
災害等による損失を現在価値に変換する評価法であ
2. 方法
り,基本式は以下のように表される.
2.1 対象
Y ( n ) = -v + ∑i =1 (Ci - Qi )d i - vn d n - ∑i =1 S i d i
n
本研究で対象としたのは,大阪府大阪狭山市茱萸
木地区の今池,七池の改修事業である.両池は連な
d i = (1 + r )
n
(1)
-i
ここで,Y (n ) は割引現在価値,v は資産の現在価値,
っているため,事業は一体として考えられた.今池
vn は n 年後の資産価値, Ci は年間収益, Qi は年間
は堤高 9.4 m,堤長 137 m,貯水量 54.5 千 m である.
維持管理費, S i は年間損失, r は割引率である.こ
七池は堤高 7.5 m,堤長 140 m,貯水量 20.7 千 m3 で
れより,投資効率指標として次式が用いられる.
3
ある.2つのため池を合わせた灌漑面積は 32.7 ha
PB = P (Y ( n ) ≥0 | r )
(2)
である.費用便益分析の結果を表 1 に示す 1).ここ
これは,期待収益の現在価値が期待損失の現在価値
で,その他費用は資産価額と評価期間における再整
を上回る確率である 2).
備費から終了時点の資産価額を減じたものである.
(1) 損失の算定
当事業は工事期間 3 年を含めた 43 年を評価期間とし
た.
まず地震リスクについては,現在のフィルダム耐
震性評価基準ではレベル 1,レベル 2 の地震を考え
ている.レベル 2 はさらに海溝型と内陸型に分かれ
る.レベル 1 については,共用期間 40 年中に 3 度発
生すると仮定し,損失額は表 1 の 3 種類の災害防止
効果の総和(以下 S とする)の 30%とした.海溝型
の地震は東海,東南海,南海地震を想定し,発生確
率を 30 年で 80%,損失額を S に再建設費を加えた
値とした.再建設費は過去のダムの建設事例を参考
に単位体積当りの概略値を用いた.内陸型地震につ
いては,1000 年に 1 度発生すると仮定し,損失額は
S の 80%に再建設費を加えた値とした.
洪水リスクについては 100 年確率の降雨による洪
図2
3 年目から投資する場合
水を想定し,災害防止効果 S を損失額とした.
急激に回復し 6 年目から黒字になる.図 2 は 3 年目
(2) 収益の算定
から投資した場合であり,赤字幅も大きくなり,黒
平成 15 年から 24 年までの農業経営統計調査から
字回復も遅れている.式(2)の PB を計算すると,投
米作の 10 a 当りの所得を調べた.今回用いる収益は
資開始が 2,3,4 年目のそれぞれについて 0.843,0.806,
多面的機能を考慮して所得の平均と分散を 10 倍に
0.772 となった.
した値に対象となる灌漑面積を乗じて求めた.
(3) その他
4. 考察
維持管理費は堤体の構築費用から推定し,現在資
収支の推移と PB の結果は,投資時期を早める方向
産価値と終了時の資産価格の現在価値の差は表 1 の
に評価している.これは,補強工事後は損失が生じ
その他費用とした.また,割引率は一般に用いられ
るような被災はないと仮定していて,工事前の期待
る 4%とした.
損失の影響が工事を遅らせることによる補強工事費
の現在価値の低減効果に比べて大きいためであり,
3. 結果
リスクの高い状態を表している.しかし事業評価に
式(1)をもとに、補修工事開始時期が初年度,2,3,
おいては便益,つまり地震等のリスクを過大に評価
4 年目からの 4 パターンについて収支の推移を計算
する傾向があり,さらに分析の精度と客観性を高め
した.図 1 は初年度から投資した場合を示し,工事
る必要がある.また,今回収益を米作の 10 倍に設定
が終了する 3 年目で赤字額は最大となるが,その後
しており現実的な値とは言えないが,米作による収
入だけでは共用期間内で黒字に転換することは不可
能である.多面的機能等のさらなる評価が望まれる.
参考文献
図1
初年度から投資する場合
1) 大阪府環境農林水産部南河内農と緑の総合事務所地域
政策室(2008): ため池防災事業(今池七池地区)事業評価
書
2) 星谷勝,山本欣弥(2009): 演習で学ぶ地震リスクマネジ
メント,鹿島出版会
3)農林水産省農村振興局企画部,土地改良企画課・事業計
画課監修(2007): 新たな土地改良の効果算定マニュアル,
大成出版社
4) 国土交通省河川局(2005): 治水経済調査マニュアル(案)
5) 文部科学省研究開発局地震・防災研究課地震調査研究
推進本部(2014): 活断層及び海溝型地震の長期評価結果
1
フランス南東地域における空中花粉飛散量の時空間分布特性の評価
Analysis of the spatiotemporal distribution of airborne pollen
in the Southeast region in France
Key word: spatiotemporal analysis, pollen, France
水環境工学分野
はじめに
三木 健司
8,000
Roussillon
植物花粉の動態解明によるアレルギー症対策と
して、空中花粉の時空間分布を知ることは重要で
ある。本解析では、現在、空中花粉モニターの現
場実験を行っているフランス南東地域を対象にし
て花粉飛散量の解析を行った。同地域においては、
これまで多くの研究が行われている。例えば、
Galan, C et al.(1996)1)は、地中海性気候下での気温
の上下と花粉の飛散量の関係を明らかにした。
Ziello, C. (2012)2)は、ヨーロッパ地方における風媒
植物の開花時期が早期化を明らかにした。
本課題研究では、フランス南東地域を対象として、
主な空中花粉の年間総飛散量データをもとに、花
粉種類を変数、観測地点をケースとした地点の分
類と、観測地点を変数、花粉種類をケースとした
花粉種類の分類をおこない、両者の解析結果に基
づき、フランス南東地域における空中花粉飛散量
の時空間分布特性について検討した。
4,000
Lyon
Avignon
Montpellier
-40,000
Grenoble
0
-20,000
Vichy
0
Toulon
Annemasse
20,000
Nice
-4,000
Briançon
-8,000
Fig.1 非基準化での地点分類の主成分分析
4
Avignon
2
Montpellier
Roussillon
Toulon
-4
-2
0
Briançon
Lyon
0
Vichy
2
4
6
Grenoble
Nice
-2
Annemasse
材料と方法
RNSA(Réseau
National
de
Surveillance
Aérobiologique)が収集、公開しているデータベー
スのデータを用いた。フランスの南東部地域にお
ける観測地を 10 地点選び、2009 年から 2011 年
の 3 年間について 14 種の花粉データをもとに、
主成分分析とクラスター分析の 2 手法を用いて解
析した。
結果
a. 地点の分類
a1. 非基準化での主成分分析による地点分類
地点の分類を主成分分析で行った結果を Fig.1 と
Fig.2 に示す。これらの図は、第 1 主成分と第 2 主
成分の得点による散布図であり、Fig.1 は基準化を
行わない解析結果、Fig.2 は基準化を行った解析結
果である。散布図上でのグルーピングを試みた。
-4
Fig.2 基準化での地点分類の主成分分析
a2. 非基準化でのクラスター分析
地点の分類をクラスター分析で行った結果を
Fig.3 のデンドログラムに示す。
0
20000
40000
60000
80000
Annemasse
Grenoble
Lyon
Vichy
Briancon
Roussillion
Nice
Toulon
Avignon
Montpellier
Fig.3 非基準化での地点分類のクラスター分析
2
b. 花粉の分類
b1. 主成分分析での花粉分類の結果
花粉の分類を主成分分析で行った結果を Fig.4 と
Fig.5 に示す。これらの図は、第 1 主成分と第 2 主
成分の得点による散布図であり、Fig.4 は基準化を
行わない解析結果、Fig.5 は基準化を行った解析結
果である。散布図上でのグルーピングを試みた。
Urticaceae
Quercus
6,000
考察
基準化を行った場合に比べ、非基準化での主成分
分析の結果は、同緯度地域が同じグループにまと
まる傾向があることが分かった。基準化を行った
主成分分析では、Montpellier と Briançon は同じグ
ループになったが、両地点の緯度と高度は大きく
異なる。Tormo. R. et al. (2013)4)は、観測点の高度
の違いが花粉の採集量に影響することを示唆して
おり、高度と花粉発生地点までの距離の関係を見
る必要があると考えられる。
Poaceae
2,000
Betula
Fraxinus
Ambrosia
Platanus
-40,000
0Alnus
-2,000
40,000
Corylus
Carpinus
Salix
80,000
Cupressaceae
Olea
Ambrosia
-6,000
一方、花粉分類の結果を見ると、花粉の飛散量
分布と植物形態や粒径に相関関係は見られなかっ
た。しかし、Al-Dabbous et al.4)は、エアロゾル粒
径の違いにより、飛散距離に違いが生じることを
示しており、花粉の粒径と飛散距離の関係を調べ
ることも重要であると考えられる。
引用文献
Fig.4 非基準化での花粉分類の主成分分析
1)
3
Galán, C., Fuillerat, J.M., Comtois, P., Vilches, D.E.,
(1997),
Poaceae
2
2)
Betula
Fraxinus
Salix
0
0
Corylus
Platanus
5
Ziello, C., Böck, A., Estrella, N., Ankerst, D., Menzel,
species with the greatest phenological advance in
10
Carpinus
Europe, Ecography, 35, 1017-1023.
-1
Ambrosia
Olea
3)
Tormo, R., Manzano, J., Fernandez, S., Garijo, Á.,
Palacios, I., (2013), Influence of environment
-2
factors on measurements with Hirst spore traps,
Cupressaceae
-3
Grana, 52, 59-70
Fig.5 基準化での花粉分類の主成分分析
4)
Al-Dabbous, A., Kumar, P., (2014), Number and size
distribution
b2. 非基準化でのクラスター分析
花粉の分類をクラスター分析で行った結果を、
Fig.6 のデンドログラムに示す。
0
daily
A., (2012), First flowering of wind of wind-pollinated
Alnus
-5
affecting
Journal of Biometeorology, 41, 95-100.
Quercus
Ambrosia
factors
Cupressaceae flowering southwest Spain, International
Urticaceae
1
Bioclimatic
20000
40000
60000
80000 100000 120000
Betula
Ambrosia
Fraxinus
Alnus
Corylus
Artemisia
Salix
Carpinus
Olea
Poaceae
Urticaceae
Platanus
Quercus
Cupressaceae
Fig.6 非基準化で花粉分類のクラスター分析
of
airborne
nanoparticles
during
summertime in Kuwait: First observations from the
Middle East, Environmental Science & Technology, 48,
13634-13643.
Linear and Non-linear Stochastic Process Models for Lagrangian Movements of
Individual Solute Particles in 1-D Open Channels
(1 次元開水路における個々の溶質粒子の Lagrange 的運動に対する
線型・非線型の確率過程モデル)
Key words: Solute transport phenomena, Stochastic differential equations, Kolmogorov’s forward equation
Water Resources Engineering
1. INTRODUCTION
(
)
dV = ψ V − V dt + σ dB
Assessing flows and solute transport phenomena in
surface water bodies is one of the most important research
topics in hydro-environmental engineering because of
their close relationships with a wide variety of issues on
water environment and water resources, such as
eutrophication of rivers and agricultural drainage canals
and hypoxia in lakes and lagoons.
Analyzing solute transport phenomena in turbulent
water bodies reduces to tracking the velocities and paths
of individual solute particles behaving as stochastic
processes. Yoshioka et al.1) proposed a Lagrangian
particle tracking model that consists of the Stochastic
Differential Equations (SDEs) for the velocities and paths
of individual solute particles. A linearization procedure
was applied to the drift of the model for deducing a system
of transport equations; however, its verification has not
been made so far. The purpose of this study is verification
of the linearization procedure from the viewpoint of
probability density functions (PDFs) and statistical
moments. For the sake of simplicity, this paper considers
solute transport phenomena in 1-D open channels under
longitudinally uniform flow conditions.
(2)
where ψ = 2CV is the dumping coefficient and V is
the cross sectionally-averaged flow velocity given by
V = F /C .
(3)
3. PDFs AND STATISTICAL MOMENTS
The Kolmogorov’s forward equation (KFE) associated
with the NL-SDE(1) is given by
∂p ∂
∂2 ⎛ σ 2 ⎞
+ ⎣⎡( F − Cv v ) p ⎦⎤ − 2 ⎜
p⎟ = 0
∂t ∂v
∂v ⎝ 2 ⎠
(4)
where p is the conditional PDF, and v is the
independent variable corresponding to the stochastic
process V . The KFE(4) has a nontrivial stationary
solution, which can be numerically computed. The KFE
associated with the L-SDE(2) is
∂p ∂ ⎡
∂2 ⎛ σ 2 ⎞
ψ V − v p⎤ − 2 ⎜
+
p =0,
⎦ ∂v ⎝ 2 ⎟⎠
∂t ∂v ⎣
(
)
(5)
whose nontrivial stationary solution is
pL =
2⎤
ψ
⎡ −ψ
exp ⎢ 2 V − v ⎥ .
2
πσ
⎣σ
⎦
(
)
(6)
Numerical comparisons of the PDFs and the statistical
moments of both of the models use the non-dimensional
variables
2. NL- AND L- SDE FOR THE VELOCITY OF OPEN
CHANNEL
W =V /λ
The nonlinear SDE (NL-SDE)1) is given by
dV = ( F − CV V ) dt + σ dB
Yaegashi Yuta
and W = V / λ
(7)
where λ is the standard deviation. The PDFs and the
statistical moments are calculated with the cell-vertex
finite volume method2).
Fig.1 shows profiles of non-dimensionalized PDFs of the
two models. The PDF of the L-SDE is the Gaussian
distribution given by Eq.(6), which is plotted as a black
line. The PDF does not explicitly depend on W . The
PDFs of NL-SDE are plotted for the different values of
W as colored lines in the figure. Fig.2 shows the
statistical moments of the two models. The statistical
moments of the L-SDE are plotted as dotted lines. The 1st
(1)
where V is the velocity of 1-D open channel, F is the
deterministic force, C is the damping coefficient, t is
the time, σ is the volatility modulating magnitude of
stochasticity of particle movements, and B is the 1-D
standard Brownian motion. The linearized SDE (L-SDE)
is derived from Eq.(1) by performing a first-order Taylor
series expansion to its drift term as
1
W
where E [⋅] is the expectation operator. The nondimensional dispersion coefficient of the L-SDE using
Eq.(7) is equal to 2, while that of the NL-SDE cannot be
analytically obtained and is therefore computed with a
particle method based on the Box-Muller’s method for
generating Gaussian random variables and the 4th order
Runge-Kutta method for performing temporal integration.
Fig.3 presents the non-dimensional dispersion
coefficient as a function of W based on 10,000 particle
path realizations. Fig.3 shows that the value of the nondimensional dispersion coefficient of the NL-SDEs
approaches 2 as W increases. By means of the same
data3), the differences between the non-dimensional
dispersion coefficients of the two models is calculated,
which is less than 0.1.
and 3rd statistical moments of the L-SDE are 0, the 2nd
moment is 1, and the 4th moment is 3. The statistical
moments of the NL-SDE are plotted for the different
values of W as colored lines. Figs.1 and 2 show that the
profiles of the PDFs and the moments of the NL-SDE
approach those of the L-SDE as W increases.
According to the measured data of the Eulerian velocity
time series of stationary turbulence in a real open
channel3), the value of W is 7.4, and the 3rd moment of
the data is negative, which is in accordance with the result
of Fig.2. Under this flow condition, the differences
between the non-dimensional values of the 1st and 2nd
moments of the two models are less than 0.1.
( w)
Fig.1 Non-dimensional PDFs of the two models
(W )
Fig.3 Non-dimensional dispersion coefficients
5. CONCLUSIONS
Mathematical and numerical analyses on the PDFs, the
statistical moments, and the dispersion coefficients of the
NL- and L -SDEs for Lagrangian movements of individual
solute particles were performed. The results of the
analyses using the non-dimensional variables indicated
the ranges of the applicability of the linearization
procedure to derive the L-SDE from the NL-SDE. The
linearization procedure can be justified for the flows
where W is sufficiently large. It should be noted that the
present research results do not directly validate the models,
which is one of the important research topics to be
investigated in future researches.
(W )
Fig.2 1st through 4th non-dimensional statistical moments of the
two models
4. DISPERSION COEFFICIENTS
In order to analyze magnitude of dispersion, the kinetic
equation of the Lagrangian particle movement is
dX = Vdt
(8)
where X is the position of solute particle. The coupled
model consisting of Eqs.(1) and (8) is referred to as the
NL-SDEs. Similarly, the coupled model consisting of
Eqs.(2) and (8) is referred to as the L-SDEs. In these
models, the assumption that solute particles move along
with the flow was set. The dispersion coefficient D
effectively characterizing stochasticity of the particle
movements in the flows is defined by
D = lim
t →∞
1
E ⎡ ( X − X ) 2 ⎤⎦
2t ⎣
1)
2)
3)
(9)
2
REFERENCES
Yoshioka, H., Kinjo, N., Mabaya, G., Unami, K., and
Fujihara, M. (2014) : A hyperbolic longitudinal dispersion
model of contaminant in open channel networks,
Proceedings of the 7th ISEH, 159-162.
Yoshioka, H., and Unami, K. (2013) : A cell-vertex finite
volume scheme for solute transport equations in open
channel networks, Prob. Eng. Mech., 31, 30-38.
Yoshioka, H., Unami, K., and Kawachi, T. (2012) :
Stochastic process model for solute transport and the
associated transport equation, Appl. Math. Model., 36(4),
1796-1805.
千苅貯水池流域におけるリン排出源の面源解析
Analysis of Non-Point Source of Phosphorus in the Basin of Sengari Reservoir
Key words: water pollution, phosphorus, non-point source, basin
水資源利用工学分野
1.緒論
兵庫県神戸市北区に所在する千苅貯水池はリン制
限の植物プランクトン増殖の問題を抱えている 1), 2).
貯水池に流入する波豆川と羽束川のうち,近年波豆
川のリン濃度(T-P)に上昇が見られる 3).この波豆川
の T-P 排出源を特定するため,波豆川と羽束川にお
いて 1) 流域の流出特性と土地利用割合,2) T-P の動
態,3) T-P と土地利用形態の関係について比較を行
う.
2.方法
図1
浩子
流域地図を 100m×100m メッシュに区切り,土地利
用細分区分データを取り込んだ.
3.結果及び考察
3.1 各河川流域の流出特性と土地利用割合
各河川流出特性を表 1 に示す.平均比流量が等し
いことから年間を通した積算流量は両河川とも流域
面積に比例する値を取ることが分かる.また最大比
流量が羽束川の方が大きく,波豆川の方が小さい.
これらのことから,波豆川と羽束川では一時的な貯
留効果が異なっていると言える.
表1
2.1 調査地の概要
千苅貯水地は上水用のダム湖であり,有効貯水量
1,160 万 m3,流域面積は 96.7km2 で,波豆川,羽束
川流域と直接貯水池周辺から流入する直接流入流域
から構成される.流域上流では神戸市による年 4 回
の水質調査が行われ,下流(15, 29)では自動水質監視
装置による 1 時間に 1 回の水質調査と水位の測定が
行われている(図 1).
山本
流域面積
波豆川と羽束川の流出特性
平均流量
最大流量
(Km )
3
(m /s)
3
平均比流量
最大比流量
(m /s)
平均流量 m3/s
集水面積 km2
波豆川
23.0
0.6
208.5
0.02
9.06
羽束川
61.1
1.4
884.4
0.02
14.47
河川名
2
最大流量 m3/s
集水面積 km2
各河川流域の各採水点における流域面積,土地利
用割合を図 2 に示す.統計分析を行ったところ森林,
水田,宅地割合で両河川に有意差が出た(p<0.01).な
お森林は正規分布を示したのでウェルチの t-検定,
その他は正規分布ではなかったためマン・ホイット
ニーのU検定を行った.これらいずれの土地利用形
態も波豆川の方が羽束川よりも分散が大きかった.
波豆川では森林,水田,宅地が分散して所在してい
る一方,羽束川では集中して所在している.
千苅貯水池流域地図
2.2 GIS による流域情報の整理
流域情報の整理,面積の算出,土地利用割合の計
測は GIS ソフト「MANDARA」を利用した.河川の
流路,流域界の情報は国土交通省提供のデータを取
り込み,さらに採水点ごとの詳細な流域界は国土地
理院提供の標高データをもとに設定した.作成した
図2
1
土地利用割合(2009 年)
排出源となってしまっているからか,波豆川の宅地
が原因となってしまっているからだと考えられる.
3.2 各河川流域のリン濃度の動態
自動採水監視装置による 1 時間毎の T-P の観測が
行 わ れ て い る 採 水 点 15 と 29 に お け る デ ー タ
(2009-2013)の分析を行う.ともに正規分布を示さな
かったので,マン・ホイットニーのU検定を行った
ところ,波豆川と羽束川の T-P に有意差が見られた
(p<0.01).
季節変動に関する分析を行ったところ波豆川
と羽束川とも T-P は 5 月頃から上昇し始め,7 月
~8 月にかけピークを迎えたのち 10 月頃まで減少
を続ける.これは年ごとに繰り返されていた.よ
り詳細に見るため波豆川の T-P から羽束川の T-P
を引いた値を図 3 に示す.波豆川の T-P 増加には
5~10 月に限定された何らかの季節的な要因があ
ると考えられる.
図3
表2
T-P と土地利用形態の相関係数
5.総括
本研究により得られた知見は以下のようにまとめ
られる.
(1) 年間を通した積算流量は両河川とも流域面積に
比例する値を取るが,最大比流量は波豆川の方が小
さかった.波豆川と羽束川では一時的な貯留効果が
異なっていると言える.
(2) GIS ソフトを用いて各河川流域の土地利用形態
を調査した結果,森林,水田,宅地割合で両河川に
有意差が出た(p<0.01).またこれらいずれの形態も波
豆川の方が羽束川よりも分散が大きく,波豆川では
森林,水田,宅地が分散して所在している一方,羽
束川では集中して所在していることが分かった.
(3) 分散は大きいものの両河川の T-P の差は 5 月初
頭から上昇を始め,ピークを取った後 5 月末~6 月
初頭に一度減少した.その後また上昇を始め 7 月に
ピークを取り 10 月頃までゆるやかに減少している.
波豆川の T-P 増加には 5~10 月に限定された何らか
の季節的な要因があると見られる.
(4) 土地利用形態と T-P の相関を単回帰分析で求め
た.その結果,5~10 月における主な T-P 排出源は
両河川ともに水田であり,さらに波豆川では宅地も
相関が高かった.波豆川における 5~10 月の T-P が
羽束川よりも高い値を取ったのは,波豆川の水田が
何らかの要因で羽束川より高い T-P 排出源となって
しまっているからか,波豆川の宅地が原因となって
しまっているからだと推察された.
波豆川と羽束川 T-P の差の季節変動
各河川上流の採水点で 2004 年 5 月-2014 年 4 月ま
で年 4 回行われている水質調査の季節変動を支流ご
とに分析した.どの支流でも年による分散はあるも
のの概ね 6 月にピークを取り,特に大原野川(1-4),
佐曽利川(7-10)で高い値が出ている.羽束川流域と直
接流入流域でも 6 月にピークを取る傾向は同様に見
られたが, T-P の値は波豆川と比較して全体的に低
いことが分かる.羽束川流域の中では末吉川(26-27)
の採水点 27 での 6 月の上昇率が目立った.
3.3 各河川流域のリン濃度と土地利用形態との関
係分析
河川ごとに T-P と土地利用形態との相関関係を調
べる.波豆川と羽束川の差が 5~10 月に広がること
から,5~10 月とそれ以外の月に分けて,T-P の中央
値を求め,土地利用割合との単回帰分析を行った.
土地利用形態ごとの相関係数を表 2 に示す.5~10
月に T-P と強い正の相関を示したのは波豆川で水田
と宅地で,負の相関を示したのは森林だった.一方,
羽束川では強い正の相関が水田で,負の相関が森林
であった.これらのことから,波豆川における 5~
10 月の T-P が羽束川よりも高い値を取ったのは,波
豆川の水田が何らかの要因で羽束川よりも高い T-P
謝辞
解析に用いた水質と水位のデータは神戸市水質試
験所よりご提供いただいた.ここに記して謝意を表
する.
1)
2)
3)
2
参考文献
OECD, 1982. Eutrophication of Waters, Paris: OECD.
藤原建紀(2014):千苅水源地のリン,武庫川市民学会
誌, 2(1), p. 20.
神戸市環境局( 2014):平成 25 年度 環境水質.
ウグイを用いた水中体積測定装置誘導の条件付け学習に関する基礎的研究
The basic study of reward learning of Ugui for leading to volume measurement in water
Key words: Reward learning, Feeding, Volume measuring
生物センシング工学分野
1.背景および研究目的
養殖業においては,残餌による養殖場周辺海域の
富栄養化が引き起こす周辺生態系の破壊などが深刻
な問題となっている.また過剰量の給餌は経済的な
損失にも直結するため,適量の給餌を行うことが望
まれる.そのためには,養殖魚の成長に応じた給餌
量の調整が必須である.
そこで,本研究グループではヘルムホルツ共鳴を
用いた水中体積測定装置について研究してきた 1).
鰾も含めた魚体全体の密度は海水密度と等しいため,
生簀内で遊泳魚の体積を測定できれば魚体重を算出
可能になる.
しかし,この体積測定装置を養殖現場に応用する
には,適宜遊泳魚を装置に誘導する技術が必須であ
る.これには,魚の学習能力を利用し,音刺激と装
置通過を条件づける誘導法が考えられる.魚類の学
習能力を用いた漁業の例として,海洋牧場が挙げら
れる 2).海洋牧場では,稚魚に対し音刺激と餌に関
して学習させた上で放流する.そして,放流地点に
ある給餌ブイより放音と給餌を同時に行い,放流魚
を放流地点に滞留させ,成長後に漁獲するというも
のである.このように,音刺激と給餌の条件付けは
漁業においても応用されつつある.しかし,養殖業
において先述の体積測定装置へ誘導するためには,
音刺激と給餌の条件付けに加えて,遊泳域と比較し
て非常に狭い通路を通過させる必要があり,そのよ
うな条件下での魚の誘導を検討した研究はない.
そこで本研究では,飼育の容易な淡水魚であるウ
グイ Tribolodon hakonensis を供試魚として,生簀と
体積測定装置を模した仕切り付きの水槽を用いて,
音刺激と給餌による条件付けによってパイプ通過が
可能かどうかを検証することを目的とした.
渡邉
匠
テムズ株式会社),及びそれに対応する定電流駆動電
力増幅器 KU-6AE-CA(小林計測器,
特注)を用いた.
水中スピーカーはアングル鋼材の枠内に設置し,音
声は PC からオーディオインターフェース OCTACAPTURE(Roland Inc.)を通して出力した.
また,実験水槽を半分に仕切るために,箱型に組
み立てたアングル鋼材の,1 面にナイロン製のネッ
トを固定した.また,仕切りネットの水槽底面から
150 mm の位置に,共鳴器への誘導部分を模した穴
の直径 150 mm,長さ 50 mm のパイプ(塩化ビニル
製)を固定した.また,パイプの出口側はナイロン糸
によって水槽外から吊り上げる形で,パイプが水槽
底面に平行になるように設置した.
図 1 実験水槽
2.2 供試魚
本実験においては株式会社浜市より購入した宮城県
内の河川で採取された体長 9.2~10.5 cm,体重 10.2
~14.1 g の個体を用いた.ウグイはコイ科魚類であ
り胃袋を持たず,餌を貯めておくことができない.
活動中は餌を食べ続けるため,飼育実験を行う上で
は適当な種である.
3.実験方法
3.1 音刺激によるウグイの学習可能性の検証
仕切りネットの無い実験水槽を 3 つ用意し,各水
槽にウグイ 10 匹を投入し,2 日間の馴致を行った.
馴致後は 300 ㎐,70 dB の音刺激を 15 秒鳴動し,
鳴動終了後すぐに浮上性の餌を 0.1 g,合計約 10 粒
程度投入する動作を 10 回繰り返し,鳴動中に水面
近くまで浮上行動を示す個体の総数を計数した.こ
の 10 回の鳴動と給餌の繰り返しを 1 トライアルと
し,水面から 10 cm の間まで浮上した個体の総数が
2.実験装置
2.1 実験水槽
図 1 に装置の概略図を示す.実験水槽は 90 cm 規
格水槽(幅 900 mm,奥行 450 mm,高さ 450 mm)
を用い,水槽の片側にアングル鋼材を箱型に組み立
て設置した.水中で音刺激を発生させる装置として,
水中スピーカーUW-30(ボッシュセキュリティシス
1
合計 70 匹以上となったトライアルを成功とみなし
た 3).そして,成功したトライアルが 3 回連続した
ところで学習完了とした.ただし,同じ個体が 2 回
以上の浮上行動を示した場合は計数せず,実験者の
影などによる影響を排除するため,給餌はパイプを
用いて十分離れたところから行った.また,供試魚
の摂餌が鈍らないよう,刺激の間隔は 3 分程度,ト
ライアルの間隔は 3 時間程度取った.
3.2 パイプ誘導の条件付け学習可能性の検討
仕切りネットとパイプを設置した実験水槽を 3 つ
用意し,パイプ入口側の区画に,ウグイを 10 匹投入
し,2 日間の馴致を行った.
馴致後は 300 ㎐,70 dB の音刺激を 15 秒間鳴動
し,鳴動終了後すぐに反対側の区画のパイプ出口付
近に沈降性の餌を 0.1 g,約 15 粒投入する動作を 10
回繰り返し,鳴動中にパイプを通過した個体の総数
を計数した.この 10 回の鳴動と給餌の繰り返しを 1
トライアルとした.さらに音刺激によらず偶然ウグ
イがパイプを通り抜けた可能性を排除するために,
各トライアル終了後,150 秒間でパイプを通過した
ウグイの個体数を偶然通過個体数として計測した.
図 3 各トライアルにおける学習通過個体数
馴致後は 10 匹とも群れを成して片側の区画に居つ
いた.水槽 1 においては,10 回目のトライアル以降
は給餌によってもパイプを通過せず入口付近でター
ンし,もとの区画に戻る行動が見られた.水槽 2,水
槽 3 に関しては,パイプ通過個体数は徐々に増加し
たものの,偶然通過個体数も徐々に増加したため,
結果的に学習通過個体数に関して増加傾向は見られ
なかった.
条件付けは摂餌による報酬によって成立するが,
本実験においてはパイプを通過したその先で報酬を
受け取る必要がある.しかし,音刺激終了後の給餌
によってもパイプを通過しない個体が多く見られた
ため,学習完了への効率が下がった可能性が考えら
れる.また音刺激後の給餌の際,落下していく餌料
を目で追って追尾する行動が見られたが,ネットに
遮られる形で給餌した区画に移動できなかったウグ
イも多く見られた.よって給餌後に確実にパイプを
通過させるために,パイプ入口に向かってネットを
絞っていくような形状にするなどの工夫が必要だと
考えられる.
4.実験結果と考察
4.1 音刺激によるウグイの学習可能性の検証
各水槽のそれぞれのトライアルにおける浮上個体
数のグラフを図 2 に示す.
参考文献
1) 篠原義昭(2014):ウォーターリード法による水中ヘ
ルムホルツ共鳴を用いた体積測定法に関する研究,平
成 26 年度京都大学農学研究科修士論文
2) 上條義信:音響馴致システムによる魚群制御,水産工
学,28(1),pp65-70,1991
3) 川村軍造,下和田隆(1983):イシダイの帯模様分別
能,日本水産学会誌,49(1),55-60.
図 2 各トライアルにおける浮上個体数
浮上個体数はトライアルを繰り返すごとに増加す
る傾向が見られ,各水槽 12~17 回目のトライアル以
降には,鳴動前には底層に群れていたウグイが鳴動
中,つまり給餌前に水面をつつくような行動も見ら
れるようになった.よって,ウグイにおいて音刺激
と給餌の条件付けは可能であった.
4.2 パイプ誘導の条件付け学習可能性の検討
各水槽において,各トライアルのパイプ通過個体総
数から偶然通過個体数を引いたものを学習通過個体
数とみなした.各トライアルの学習通過個体数を図
3 に示した.
2
コンバインロボットの作業速度向上
Improvement of operating speed of a combine robot
Key word: Agriculture robot, combine harvester, rice harvesting
フィールドロボティクス分野
1. 緒言
渡邉
俊樹
供試車両
3.
現代の日本の農業は農業就業者の高齢化や後継者不
実験に使用したコンバインは(株)クボタの 4 条刈りコ
足といった問題を抱えている.そこで農業機械は,多くの
ンバイン ER467 である(図 3).キャビン上部に GNSS
生産過程において導入され農業の近代化をもたらし,労
(AGI-3,トプコン)と GPS コンパス(ssV102,ヘミス
働者への農作業の負担を軽減した.その結果稲作の作業
フィア)を取り付け,コンバインの位置情報と方位角情
時間は機械が導入される以前に比べると,およそ 1/6 ま
報を取得できるようにした.
でに減少した.さらなる要望として全過程を機械自身が
判断し,作業を進行することが可能な農業ロボットが期
待されている.そこで私たちはその中でもロボットコン
バインについて研究を進めており,ある程度の刈り取り
作業を無人で行うことが可能となった.しかし作業時間
が長くかかるため,本研究の目的はロボットコンバイン
の作業を高速化し作業時間を短縮することである.
2. 先行研究
現在ロボット走行による刈り取りはあらかじめ,4 周
図 3 供試車両
分手動による刈り取りを行ったのちに,図 1 のようなラ
セン状経路(周回刈り)に沿って行っている.旋回は図 2
4. 実験 1―刈り取り―
のように二度停車し,90°旋回を行っている.この時の刈
り取り速度は最高 1.0m/s,旋回の速度は最高 0.5m.s であ
4.1
実験方法1―刈り取り―
る.今回はロボットコンバインの作業を刈り取りと旋回
刈り取りについては 2014 年 9 月 14 日京都府南丹市八
の二つに分けてそれぞれについての高速化を図った.直
木町氷所で実験を行った.具体的には,1 周ごとに速度
進は供試車両の最高刈取速度 1.65m/s を目標に,旋回に
を 1.0m/s, 1.3m/s, 1.5m/s, 1.65m/s
ついては 180°旋回を行うことを目標にした.
の走行軌跡を計測した.走行軌跡から目標経路に対する
の 4 段階に変えて、そ
横偏差と方向偏差を求め,稲の刈り残しの有無を目視で
確認した.
4.2
実験結果1―刈り取り―
走行軌跡から求めた目標経路に対する横偏差と方向
偏差は以下の表 4 のようになった.作業速度 1.5m/s まで
は刈り残しなく作業を行うことができた.ただし,入力
速度に対する横偏差の rms のグラフを描くと図 5 のよう
図 1 刈り取り経路
になったことから,速度が高くなると横偏差,方向偏差
ともに大きくなる傾向が見られるといえる.その結果
0.25m のオーバーラップまでを想定しているため,それ
を大きく超えている 1.65m では刈残しが発生したと考え
られる.原因は制御周期が 100ms と長く,行き過ぎ量が
大きくなるためと考えられる.対策として制御周期を短
くして,行き過ぎ量を小さくすることが有効と考えられ
る.
図 2 回り刈りにおける 90°旋回
(模式図)
表 4 目標経路に対する横偏差と方向偏差
入力速度
1.00
1.30
1.50
1.65
平均速度
1.05
1.38
1.56
1.69
横偏差
(m)
これは周回刈り 8 周分に相当する.既存手法では事前に
4 周分周回刈りが必要なので,この手法では 2 倍の旋回
領域が必要である.
average
-0.001 -0.006 0.010 0.001
15
max-min
0.201
0.208 0.255 0.283
10
rms
0.050
0.051 0.067 0.073
average
1.456
1.094 0.772 1.138
max-min
5.757
5.930 8.760 8.455
rms
2.067
1.679 2.142 2.297
横偏差rms(m)
0.075
0.070
0.065
0.060
0.055
0.050
0.045
0.040
0.80
-5
0
5
10
-5
図 7 走行経路
R² = 0.8363
図 8 旋回距離
1.30
1.80
表 9 旋回距離と旋回時間
図 5 入力速度に対する横偏差の rms
実験 2―旋回―
5.1
走行経路
0
入力速度(m/s)
5.
車体の最
外位置
5
方向偏差
(°)
目標経路
実験方法 2―旋回―
180°旋回を取り入れると刈り取り経路は図 6 のように
なり,旋回領域が既存の方法よりも広くなる.その面積
を求めイネ領域の外を走行する時間を推定する実験を
行う.そのために長方形の経路に沿ってコンバインを自
動走行させ,4 回 90°旋回する実験を行った.本実験は
2014 年 11 月 17 日に京都大学農学部高槻農場の空地で
行った.
6.
r [m]
d [m]
旋回時間[s]
average
2.12
4.51
4.59
max
2.49
5.30
6.30
rms
2.12
4.52
4.61
考察
以上の結果より,縦 50m 横 12mの圃場を既存の方法
と提案する方法で刈り取った場合の時間を表にすると
以下の表 9 のようになり,64%ほど時間が短縮できると
予測された.先行研究の刈り取り速度は 1.0m/s,旋回速
度は 0.5m/s,本研究の刈り取り速度は 1.5m/s,旋回速度
は 1.0m/s とした.
表 10 作業時間の試算
7.
刈取時間
旋回時間
作業時間
[min]
[min]
[min]
先行研究
8.33
6.00
14.33
本研究
5.56
3.59
9.15
結言
刈り取りでの作業速度は 1.5m/s まで高速化すること
ができたが,最高作業速度 1.65m/s では刈り残しを生じ
図6
5.2
180°旋回を取り入れた刈り取り経路
実験結果 2―旋回―
実際の走行経路の例が以下の図 6 であり,それをもと
に図 7 の d と r を求め,それをまとめたものが表 8 であ
る.
旋回に必要な領域はイネ領域の端から 7.79m となり,
た.旋回については必要な面積が大きくなるものの旋回
時間は大幅に短縮できると予想される.以上から刈り取
り速度の高速化と旋回方法の変更によって作業時間の
短縮が見込まれる.
地域ブランドとしての世界農業遺産「能登の里山里海」の活用における課題
―関係主体の連携実態と構成資産別の課題認識に基づく分析―
Challenges in the Use of GIAHS as a Place Branding Strategy
-Analyses on Cooperation between Stakeholders and Managerial Challenges of Heritage Assets
Key words: Place branding, GIAHS, Heritage assets
農村計画学分野
渡邊 里菜
1.研究の背景と目的
国連食糧農業機関(FAO)により 2002 年に創設さ
れた世界農業遺産(GIAHS)は,地域の環境と調和を
取りながら受け継がれてきた農業システムと,その
農業システムによって支えられてきた文化,景観,
生物多様性などを全体として認定し,それらの保全
と持続的な活用を目的としている 1).日本からは 5
地域が認定されており,各自治体では認定による地
域ブランド力の向上などが期待されている.しかし,
認定されれば即ち地域の観光振興や農産物の高付加
価値化が実現するわけではなく,自治体をはじめ関
係主体の努力が不可欠である.
日本における地域ブランドは主にビジネス分野で
特産物などの製品を中心に発展してきた 2)が,最近
では,製品だけでなく,その地域の自然,景観,文
化,伝統なども含めて地域全体をブランドとしてと
らえようとする動きも見られつつある 3).本研究に
おける地域ブランドとしての世界農業遺産は後者に
該当し,認定地域を構成する特産物,文化,景観,
生物多様性などの様々な要素を包含したものである.
地域の多様な構成要素を内包する地域ブランドは,
ブランド化の対象となる地域資源ならびにその関係
主体も様々な分野に及ぶ.地域ブランドを確立し継
続するには,関係主体のブランドに対する理解を共
有し,品質の維持管理が不可欠である 4).
本研究では,世界農業遺産「能登の里山里海」を
事例として,地域ブランドとしての世界農業遺産の
確立・存続上の課題を把握すべく,関係主体の現在
の連携状況や構成資産別の課題認識の実態を明らか
にするとともに,後発の取り組みへの示唆を得たい.
:出発概念,
:明らかにしたい内容,
1
:質問事項図
質問事項の作成手順
保全ならびに能登地域の活性化を目的に,認定申請
者である能登地域 GIAHS 推進協議会と 7 つの関係
組織・団体による「能登の里山里海」世界農業遺産
活用実行委員会(以下,実行委員会)が設立された.
さらに「能登の里山里海」は 175 の構成資産から成
り,この構成資産を生産・管理する組織や団体も関
係主体といえる.
3.研究の方法
本研究では,実行委員会を構成する組織とその同
業組織の 45 の関係主体,ならびに構成資産の維持
管理に関わる 110 の関係主体,計 155 の主体を調査
対象とした.なお構成資産の関係主体の把握は,市
町への問い合わせなどにより把握した.また,聞き
取りでの質問事項は図 1 に基づき作成した.
調査方法は電話での聞き取りを基本とし,実行委
員会ならびにその同業組織・団体へは平均して 30
分程度,構成資産を生産・管理している関係主体へ
は平均して 15 分程度で行った.一部関係主体は現地
ヒアリング,メール,ファックスにて回答を得た.
調査期間は 10 月 22 日から 12 月 16 日までである.
2.調査地の概要
4.結果
石川県能登地域は「能登の里山里海」として世界
農業遺産に認定され,珠洲市,七尾市,羽咋市,輪
島市,穴水町,志賀町,中能登町,能登町,宝達志
水町の 9 市町から成る.里山から里海まで連なる伝
統的な農林水産業システムが評価され,日本の農村
風景の縮図として 2011 年に認定を受けた 1).
認定後,石川県を事務局として,里山里海の利用・
4.1 地域ブランドとしての活用状況と連携実態
(1)世界農業遺産指定に対する認知
構成資産についての認識を調査できた 126 の関係
主体のうち約 5 割の関係主体は,構成資産への位置
づけを認識していなかった.また,認定後の変化に
ついて回答を得られた 153 の関係主体のうち,
「世界
農業遺産に関連した活動を始めた」や「問い合わせ
が増えた」などの変化があったとしたところはおよ
そ 3 割に留まった.能登の里山里海が世界農業遺産
に認定されたことは広く知られているものの,構成
資産の認知,認定による変化への評価は低調である.
(2)関係主体間の連携状況
連携に関する調査において,
「世界農業遺産に関連
した活動を始めた」と回答した関係主体のうち,他
の関係主体と連携を図っているものは 33 組織(内
訳:県と 9 市町,7 農協,8 商工観光業関係,1 漁協,
その他 7 関係主体)であった.連携内容は,実行委
員会での連携に加えて,認定後の主な取り組みの 1
つである能登米や能登棚田米のブランド化に関する
連携が自治体や農協で多く見られた.この他,2 市
町では世界農業遺産活用のための連携の場が独自に
設けられていた.こういった自治体や農協では,人
材・技術確保のために協議・活動をするという連携
状況が最も多く,個々の活動ごとに課題や目標の共
有が図られているようであった.一方,商工観光業
関係の関係主体の連携では,人や資金などの量的確
保のための共同活動が多く,構成資産の維持管理や
能登の里山里海の活用に関する課題の協議を行うよ
うな連携形態はあまり見られなかった.
いずれの連携状況でも,能登の里山里海に関係す
る個々の活動(例えば,佐渡とのチャーター便事業
や里山里海に関するお祭りなどの各イベント)に関
わる課題や目標の協議が中心である.世界農業遺産
の認定 1 年目は能登各地で世界農業遺産をテーマと
したワークショップが開かれ,活発な議論が行われ
ていたが,現在では世界農業遺産の認定を地域ブラ
ンドとして活用するための広範かつ長期的な課題や
目標の協議はほとんど行われていない.こうした状
況について一部自治体からは認定後 3 年経ったこと
もあり,改めて課題や目標を話し合う場を設けたい
との回答も得られた.
4.2 構成資産別の課題認識
構成資産 175 のうち課題について調査を行えたも
のは 154 資産である.この 154 資産を構成資産リス
トに示された 12 分類に分けて分類ごとの比較を行
った.さらに,関係主体へのヒアリングで把握した
これら構成資産の維持管理上の課題を質的データ分
析の方法でコーディングし,クラスター分析を行っ
た.この結果,多くの構成資産が共有する課題と特
定の構成資産で顕著に現れる課題を得た.
多くの構成資産が共有する課題は,「担い手不足」
と「高齢化」の 2 つで,構成資産 12 分類中全てで回
答があり,各分類での回答率も 6 割以上が多かった.
特定の構成資産で顕著に現れる課題は全部で 18
個あった(表 1).このうち 5 つの課題は農林水産物
と里山保全関係の構成資産に対応していた.なお,
「生業としての成立」と「人口減少」については,
12 分類中 11 分類で挙げられたことやクラスター分
表1
特定の構成資産で顕著に現れる課題
課題
生業としての成立
人口減少
条件不利地
交通
獣害
地域内外での連携
行政支援の獲得
自然環境変化の影響
地域の魅力再認識
空き家問題
専門知識の欠如
対応する構成資産の分類
(27)
(25)
(26)
(23)
(16)
(13)
(11)
(11)
(11)
(10)
(9)
農産林水産物と里山保全関係
の構成資産(48 資産)
里山保全関係の構成資産(25
資産)
主に慣習・その他と里山保全関
係の構成資産(16 資産)
費用捻出
(15)
多様 (6 分類 23 資産)
情報発信
(17)
多様 (8 分類 19 資産)
能率の悪さ・重労働 (9)
多様 (7 分類 12 資産)
材料などの入手
(6)
多様 (5 分類 9 資産)
特殊性
(4)
多様 (3 分類 4 資産)
伝統技術継承
(13)
多様 (8 分類 22 資産)
※課題の丸括弧内は対応する構成資産での回答数を示す
少子化
(16)
析における他課題との近接性から他の構成資産とも
高い共通性を持つ課題と考えられる.さらに,里山
保全関係の構成資産が対応する課題はこの他に計 7
つあり,里山保全関係の構成資産では特に多くの課
題が共通に認識されていると考えられる.
5.総括
本研究では,能登地域における地域ブランドとし
ての世界農業遺産の現状と関係主体の連携実態から,
ブランド活用にあたって地域内で認識を共有する必
要性が明らかになった.また,構成資産ごとの課題
認識の構造についても把握することができた.有
形・無形の様々な構成資産を含む世界農業遺産は共
通の定義を持つことが難しく,国内での知名度がま
だ低いこともあり,地域ブランドとして広く活用す
る段階には至っていなかった.現在は主に農業の分
野でのブランド活用が目立ち,個々の活動において
課題や目標の共有が図られている連携状況である.
構成資産別の課題の整理から,一般的に共通する課
題と資産ごとに特徴的な課題が明らかになり,特に
里山保全関係の分野では様々な課題が関係主体間で
共有されていることが分かった.今後のブランド活
用にあたっては,今一度世界農業遺産への認識の整
理と課題や目標についての協議が必要である.
1)
2)
3)
4)
参考文献
国際連合食糧農業機関(FAO):GIAHS,(http://www.
fao.org/giahs/giahs/en/, 2014/10/17)
林靖人,中嶋聞多(2009):地域ブランド研究における
研究領域構造の分析-論文書誌情報データベースを活
用した定量分析の試み,人文科学論集,43,87-109.
崔瑛・岡本直久(2012):観光地における地域ブランド
構築の内部関係者による資源活用パターンと課題構
造に関する研究,都市計画論文集,47,105-116.
田中道雄,白石善章,濱田恵三編著(2012):地域ブラ
ンド論,同文舘出版,146-156.
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