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サーバー室空調の省エネに対する取り組み

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サーバー室空調の省エネに対する取り組み
サーバー室空調の省エネに対する取り組み
Action of energy saving for air conditioner of server room
岡本昌幸†,小林俊満‡,赤井光治‡,久長穣‡, 小河原加久治†
M. Okamoto†, T. Kobayashi‡, K. Akai‡, Y. Hisanaga‡, K. Ogawara†
[email protected], [email protected], [email protected],
[email protected], [email protected],
†山口大学大学院理工学研究科
‡山口大学 メディア基盤センター
†Graduate School of Science and Engineering, Yamaguchi Univ.
‡Media and Information Technology Center, Yamaguchi Univ.
概要
現在、山口大学メディア基盤センターではサーバー室の省エネルギー対策を行うプロジェクトとして、
空調機を対象とした対策を行っている。その取り組みの中で、既存の空調施設を利用して外気取込が可
能な施設整備を実施し、その効果の検証を行っている。まだ、外気取込に対する省エネルギー実験は開
始したばかりで予備的な結果が得られた段階であるが、これまでの環境構築の経過を含め、この取り組
みに対する報告を行う。
キーワード
施設環境, 省エネルギー、空調の外気取込、気流制御
る取り組みが盛んにされるようになってきた。中でも、
1. はじめに
データーセンターなどの情報機器が集中する施設では設
計段階で、省エネルギー対策が検討されるようになって
情報処理センターなどの情報系センターでは、機器の
いる。
集約やストレージシステムなど情報機器の拡充により電
このような、情報機器を取り扱う情報系センターにお
力使用量の増大傾向が続いている。一方、京都議定書の
ける電力使用量は、計算機関連機器が電力消費の大きな
発効を始め、地球温暖化に対する取り組みが強く意識さ
ウエイトを占めているとは言え、電源系や空調系システ
れるようになり、情報関連機器に対する省エネルギー対
ムなど周辺機器に使われる電力が全体の 2/3 程度とされ
策が求められている。これに伴い、グリーン IT(ICT)と言
ている。中でも、空調が占める割合は全体の 1/3 程度あ
った言葉が用いられるようになり、省エネルギーに対す
り、空調に対する省エネ対策が情報系センターにおける
省エネルギー対策の大きなポイントとなる。このことか
として、省エネルギー効果が期待される外気取込の実証
ら、試験的な取り組みを含め、色々な対策が実施される
実験を開始した。実験を行うことにより、実情の環境で
ようになっている。例えば、データーセンターにおける
行うことの問題点や省エネルギ−効果に対する知見が得
省エネルギー対策に関する組織的な活動として「グリー
られると考えている。
ングリッド」が知られている[1]。空調システムや電源系
2. 外気取込の実施
統変換の効率化に対する問題点や要点について提言を行
っている。
空調に対する省エネルギー対策として、最近実施され
山口大学には山口市と宇部市に分散して3つのキャン
た興味深い取り組みに空調システムの外気取込がある。
パスがある。メディア基盤センターはキャンパスごとに
人が主体となるオフィスビルでは良く知られた対策方法
あるが、ほとんどのサーバー類が宇部市の工学部キャン
であるが、精密機器を備える情報系センターでは、湿度
パスに集まっている。工学部キャンパスにあるメディア
や粉塵など空気の品質に対する懸念から近年までほとん
基盤センター(
「常盤センター」と言う)のサーバー室は
ど実施されてこなかった。Intel はアメリカ ニューメキ
100m2 程度の広さに 300 台程度の情報機器が設置され、
シコにある自社のデーターセンターにおいて、外気取込
稼働している。また、常盤センター全体の電気使用量は
による問題点の確認と省エネルギー効率の検証を行った。
90kWh 程度の規模である。この、常盤センターにおいて
これにより、有意な障害件数の増大が見られないことお
外気取込の実施を行った。
よび70%近い省エネルギー効果があると結果を報告して
2.1. 計画と設置
いる[2]。このような取り組み例は日本でも報告されてい
る。新しく稼働を開始したソフトバンクが出資するデー
ターセンターでは、設計段階から外気取込可能な仕組み
外気取込が使える期間を見積もるため、常盤センター
を検討し、建設されている[3]。しかし、日本では夏期の
がある宇部市の年間気温を図1 に示す[4]。
実線は気温
(最
湿度が高いなど気象条件が合わないとされ、このような
高、平均、最低)を表し、破線は湿度を表す。これから
取り組みは広がっていないようである。
分かるように、最低気温が 20℃以下にならないのは8月
本メディア基盤センターでは、2006 年度からサーバー
ぐらいで、他の月では部分的には外気取込が可能である
室の省エネルギー化を検討するプロジェクトを実施して
ことが分かる。また、大学全体で、最も電力消費が大き
いる。このプロジェクトの省エネルギー対象はサーバー
いのは8月上旬の夏期休暇前であるが、メディア基盤セ
室の空調システムで、これまでに現状把握のための調査
ンターでは計算サーパーの稼働がピークに達する 12 月
から開始し、空調の運転方法を見直すことで省エネルギ
から 1 月の期間に電気使用量のピークを迎える。このた
ー化を試みてきた。これについては調査段階で 20%程度
の空調電力削減が見込まれる予想を得たが、実際にその
効果を検証できていない。今回は、更に省エネルギー対
策を進める取り組みとして、2009 年度より外気取込実験
および気流制御実験を開始したので、その現状報告を行
込による空調の省エネルギー対策が実施されているが、
サーバー室を含め施設全体の気流制御が行き届いた構造
Hum. (%)
既に紹介したように、情報系センターにおいて外気取
Temp. (Deg)
う。
を持つ、大規模もしくは最新設計の建物が対象となって
いる。一方、大学に設置される情報系センターはほとん
どが小規模であり、建物や施設が旧式である。更に、予
算削減の流れで、新規に建物が建設されることはほとん
ど無い。耐震補強など既存施設の改修による老朽化対策
が実施されているのが現状である。我々は、このような
旧式の施設において、提供しているサービスを停止させ
ずに空調の省エネ対策を実施する有効手段の探索を目的
図 1: 宇部市の年間気温および湿度
め、外気取込は計算サービスを提供している大学では有
センターの空調システムでは常時1台は稼働するように
効であると考えられる。
設計されている。サーバー室内での負荷が大きいときに
常盤センターのサーバー室空調システムで外気取込を
は、
運転台数が順次増えていく仕組みである。
このため、
実施するには、サーバー室や空調システムに対しそれな
通常は3台の一部が停止している状態にある。
この場合、
りの細工を施す必要がある。常盤センターサーバー室に
稼働中の室内機が床下に送り出した冷気が停止中の室内
はセンター建設時に将来的な外気取込の可能性を見込み
機に逆流する現象が起こることがこれまでの調査で分か
窓が用意されていた。計画の初期段階では、この窓を活
っている。この逆流を防ぐため、今回の外気取込システ
用することを検討した。しかし、建設当時とはサーバー
ムでは稼働中の室内機からのみ屋外に排気されるように
室内の機器が変化し室内レイアウトが大きく異なること
した。つまり、それぞれの室内機の稼働状況に合わせて
から外気吸入および排出用ダクト距離が長くなることに
自動的に排出ダクト弁が開閉する構造になっている。
加え、既設空調の空気循環系と外気取込の空気循環系が
独立になることから、この方式は採用しなかった。既存
2.2. 計測と結果
システムとの親和性を考慮し、現在稼働している、空調
機に外気を取り込み、室内機の送風機能を活用して外気
をサーバー室に送り込む方式を採用した。
外気取込による省エネルギー効果の検証を行う前に、
空調機の基礎データを少し紹介しておく。
サーバー室の.
図 2 は外気取込時の空気循環の様子を示す。青い色は
空調能力はカタログ値で以下のようになっている。室内
外気および室外機による温度の低い空気を示す。赤い色
機の風量が 5.3m3/s、電気使用量 7.5kW である。室外機は
はサーバー等を経由した温度の高い空気を示す。外気取
最大冷房能力が48kW、
最大電力使用量が16kW である。
込が無い場合は、空調機室に設置されている室内機から
このため、冷房性能係数 η(=冷房能力/電気使用量)は 3
送られた冷風が床下を通り、サーバー室の吹き出し口か
である。今回の外気取込の能力は風量が 0.55m3/s で電気
らサーバー室に送られ、機器を経由後に空調機室側の壁
使用量が 0.4kW である。
室内機の送風能力の 1/10 程度と
面にあるガラリから室内機に取り込まれるループ状の空
小さいことから、外気取込による効果は限定的であるこ
気の流れのみである。外気取込時には外気が新規に空調
とが予想される。今回は、空調機室のスペースや外気取
機室の外に設置された吸気口からダクトを経由し室内機
込用ファンの性能および予算や納期の関係から本格的な
に取り込まれる。その後、既存のループ流を経て、室内
運用に移行可能なシステム構成は残念ながら実現できな
機に取り込まれた温風が、空調機室逆側に取り付けられ
かった。しかし、実験による検証としては、十分な性能
た排気口から排出される。図2に示されるように、室内
を持っていると考えている。例えば、排気温度と吸気温
機は3台ある。このため、外気吸入ダクトおよび排気ダ
度差が 10℃の場合、1.8kW の省エネルギー効果が現れる
クトはそれぞれの室内機につながっている。なお、常盤
ことが見積もられる。この効果は空調の電力の 10%近く
に相当し、十分検出可能である。
図 3 は宇部市における気温と空調の消費電力量の時間
変化を示している。外気温は平均的に十数℃ある。外気
への排出温度が 20 数℃であることからおよそ 10℃程度
空調機室
の吸気と排気の温度差がある。このとき、外気取込をし
ている時間帯を緑で表示している。この結果から分かる
ように、外気取込を行うことにより、空調の消費電力が
明らかに減少していることが分かる。その下がり幅は約
2kW であり、予想していた省エネルギー効果と良い一致
を示している。このように、外気取込により、予想通り
の省エネルギー効果を得られることができた。
3. 空調の気流制御
サーバ室
空調機の気流を適切にすることの重要性はグリーング
リッドのインストラクションペーパーでも指摘されてお
図 2:外気取込による空気循環のイメージ
減少~2kW
図 3: 平均気温と消費電力量の推移
り、空調システムの省エネルギー対策としては良く知ら
温度は 18℃である)
。ただ、ラック 2、3、4 では最上段
れたポイントである。しかし、実際にどのようにすべき
の温度が約 24℃であるのに対し、
ラック 1 のみ 28℃とな
かは自明ではなく、気流最適化に対するコンサルタント
っている。これは、通路や上部からラック 1 の方へ暖か
業者が存在するほとである。
い空気が逆流しているため、あるいは床面からの風量が
我々はこれまでに、3台の空調機に対する稼働条件を
不足しているためと考えられる。次に、図 4(b)の排気側
最適化することにより、省エネルギー化することを試み
では、吸気側と同様、ラックの上部ほど温度が高くなっ
たが、その効果を実証することができていない。このた
ているが、当然ながら、平均的に吸気側より温度が高く
め継続的にサーバー室内の温度分布をモニターし、気流
なっている。しかし、ラック 1 のように、通路側では冷
の最適化を行うことで、省エネルギー効果がどの程度あ
気が流入しているためか、吸気側とほとんど温度が変わ
るかを明らかにしたいと考えている。また、その知見に
らないことがわかる。
基づき、省エネルギーを計ることを考えている。
以上のように、現状ではサーバーから排気された温風
現在、サーバー室内に 60 個の温度計を配置し、気流と
が吸気側へ流入したり、床面からの冷気が排気側へ無駄
サーバー室内の3次元的な温度分布の関係について調査
に流入していることが確認できる。これらをまとめて現
している。参考のため、温度分布の測定結果の一部を図
状での空気の流れに対するイメージを描いたのが図 5 で
4 に示す。図 4(a)、(b)はそれぞれラック 1 から 5 までの
ある。重要なポイントは 2 つあり、1つ目は、サーバー
サーバーの吸気側および排気側の温度分布を表している。
を抜けた温風の回り込みがあること、2つ目は、床から
吸気側ではラック 2 からラック 5 まで、床からの高さが
の冷気吹き出しの無駄や不足、更に、床下スペースが十
それぞれ 60cm、140cm、190cm の位置に、排気側ではラ
分に確保できていないことである。
ック 1、3、5 の高さ 140cm、190cm の箇所に温度センサ
ここでは温度分布計測の一部の結果のみ示したが、ま
を設置している。なお、図中の数値はこれら 18 個のセン
だ、現状把握のための計測を開始した段階であり、気流
サにおける 15 日間の温度の平均値を示している。
の最適化はこれからの課題である。しかしながら、この
まず、図 4(a)の吸気側の温度分布をみると、床面から
ような取り組みによって分かってきたことは、気流の最
冷風が吹き出されるため、ラックの上部ほど温度が高く
適化による省エネルギー対策は予想以上に難しいと言う
なっていることがわかる(床下から吹き出される冷風の
ことである。常盤センターサーバー室では、既に説明し
れば解決しない、課題の宝庫であると言えるのではない
天井
だろうか。
60cm
通路
28.0
24.4
24.8
24.8
200cm
190cm
24.8
22.4
21.1
23.5
140cm
4. まとめ
今回、我々はサーバー室の省エネルギー対策として、
通路
<ラック1> <ラック2> <ラック3> <ラック4> <ラック5>
19.2
20.7
20.3
空調機に対する取り組みを紹介した。外気取込による省
60cm
19.6
エネルギー対策では既存の空調システムと親和性のある
床
構成を選択した。これにより、効率の良い外気取込みシ
[単位:℃]
ステムが構築できた。更に、予備的ではあるが、試算と
(a) サーバ吸気面側
良い一致を示す、省エネルギー効果が得られることを確
認した。しかし、この実験は、まだ開始したばかりであ
天井
り、最も効果が期待できる冬期での検証はまだである。
24.8
29.7
28.3
200cm
190cm
23.5
27.4
25.4
140cm
夜間のみ外気取込するような機能的な運用もまだであり、
通路
これによる効果の検証も今後進めていければと考えてい
通路
また、
現状では、
外気取込の ON/OFF は手動であるため、
<ラック1> <ラック2> <ラック3> <ラック4> <ラック5>
る。
更に、気流制御については、冷気と暖気の分離をコン
[単位:℃]
進めていければと考えている。
(b) サーバ排気面側
参考文献
図 4: 温度分布の測定結果
逆流防止
吸込口(3箇所)
ラック
ラック
ラック
冷気の無
室内機
室外
吹出口(多数)
セプトにした気流制御による省エネルギー効果の検討も
冷気の通り道の確保
図 5: 現状の気流のイメージ
たように3台の空調があり、毎日ベースとなる空調が変
わるようになっている。これにより、特定の空調機の老
朽化が突出して進行することを防ぎ、温度管理に対する
安定運用につとめている。しかし、どの空調機がメイン
に稼働するかにより、サーバー室内の温度分布のみなら
ず、平均温度や時間変化もかなり変化することも分かっ
てきた。このため、我々のような空調システムの下では
固定的な気流制御では不十分な可能性がある。固定的な
運用の限界がどこにあるかは、これから明らかにすべき
課題である。このように、既存の古い施設をベースにし
て省エネルギー対策することは、新規システムの開発の
ような華々しさは無いが、様々な拘束条件の下で課題を
解決して行く必要がある。英知を集結して取り組まなけ
[1] http://www.thegreengrid.org/
[2] Intel 社により報告されたレポート (2008 8月)
Ihttp://www.intel.com/it/pdf/Reducing_Data_Center_Cost_wit
h_an_Air_Economizer.pdf
[3] 山口厳、山中敦:
「外気活用によるデータセンターの
空調動力削減」環境研究 155, 4, (2009).
[4] 宇部市役所 web ページ:「宇部市の気象データ」
http://www.city.ube.yamaguchi.jp/kishou/index.html.
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