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カメルーン共和国における土壌安定化ブロックの作製

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カメルーン共和国における土壌安定化ブロックの作製
現場見学の記録
2010 年 11 月 17 日~12 月 25 日
カメルーン共和国における土壌安定化ブロックの作製
荒居
旅人
ARAI Tabito
修士課程二年
カメルーン
拡大
2010 年 11 月 17 日~12 月 25 日の日程でカメルーン共和国
を訪れる機会をいただいた.今回の派遣は,アジア・アフリ
カ研究所,荒木茂先生がカメルーン東部州で実施しているプ
ロジェクトに木村先生が参画していることから実現した.主
チャン大学
アンドン村
な目的としては,発展途上国における建築材料として有望視
されている土壌安定化ブロックの普及に関する調査,そして
ブロックの試験施工まで行うことである.以下ではカメルー
首都ヤウンデ
ドゥアラ
クリビ
ンについて,そして現地で行った活動について感想も交えな
がら記している.
図 1 カメルーンの地図
1. カメルーン共和国
1.1 気候・文化
カメルーンは西アフリカに位置する国で日本の 1.2 倍の国土
に 2000 万人近くの人々が暮らしている.アフリカのなかでもこ
の国ほど気候帯と地形が多様な国は少なく,一つの国に全ての
アフリカが凝縮している様を形容して,
「アフリカの縮図」ある
いは「ミニ・アフリカ」と呼ばれることもある.以前私が訪れ
た南部アフリカのマラウィに比べると緑も多く,同じ途上国と
いえどもある程度,豊かな印象を持った.石油や木材,カカオ
といった資源も豊富だし,食事も旧宗主国フランスの影響が残
写真 1 マーケットの様子
りなかなかバリエーションも豊富であった.主要都市を結ぶ幹線
道路は如何にも切り開きましたといった感じで,両側に鬱蒼とし
た森が広がっている.ところどころに過積載でバランスを崩し横
転したトレーラーが横たわっているのはマラウィと同じ光景で
あったが.また,多民族国家というのもカメルーンを特徴付ける
キーワードであろう.200 以上の多様な民族があり,それぞれが
固有の言語を有している.そのため公用語としてフランス語と英
語が用いられているが,私が訪れた西部はフランス語圏であった
ため,言葉では非常に苦労させられた.
このようにカメルーンは大変興味深い国ではあるが,世界の大
写真 2 木材を運ぶトレーラー
抵の地域を網羅している「地球の歩き方」から漏れていることからも,日本人にとってカメルーンが身
近な国ではないことがわかる.日本人がカメルーンについて唯一抱いている印象があるとすれば,サッ
カーが強いということぐらいではないだろうか.日本からはパリを経由して 1 泊 2 日.ようやく首都の
ヤウンデに到着する.
1.2 カメルーンの建築事情
首都ヤウンデ中心部の官庁街では一部クレーンなど大型重機を用いた鉄筋コンクリート造の高層建
築が見られるが,街中ではコンクリートブロックが一般的な建築材料である.3 階建て以上の構造物で
は鉄筋を配すものの,地震発生国ではないこともあり施工品質や精度は高くないといえる.また首都ヤ
ウンデ,経済の中心である港湾都市ドゥアラなどでは人口集中によりスラム化が進み住環境の悪化を招
いている.ヤウンデ市街を歩いていると,材木を組み合わせただけで作った足場や,ビルの最上階まで
バケツリレーでモルタルを運ぶ様など,日本では目にすることのない興味深い光景にしばしば遭遇した.
一方,中心都市を離れた地方の村落では,各戸の経済状況に応じて,日干しレンガ造の家または木の
枝や竹を格子状に組み,現地の土で作ったしっくいを塗るいわゆる土壁の家が主流である.どちらも耐
水性に乏しく,風雨により劣化が進んだ家屋が目につく.
写真 3
建設中のビル
写真 4 官庁のビル
写真 6 土壁の家
写真 5 バケツリレー
写真 7
日干しレンガ
2. 土壌安定化ブロックとは?
2.1 土壌安定化ブロック技術とは?
土壌安定化ブロック(Stabilized soil block)とは,現地の土に少量のセメントを混合して作成したソイ
ルセメントを,プレス機に詰め,圧縮成形し作製する.特にブロックに凹凸を付け,積み上げ時の安定
性を増したものをインターロック型土壌安定化ブロック(ISSB)とよぶ.玩具のレゴブロックを想像して
もらえるとわかりやすいであろう.凹凸に沿ってブロックを積み上げていくだけで,技術のない人でも
比較的簡単に真っ直ぐな壁を作ることができる. ブロックを作製するための動力としては,手動式と
ディーゼルやモーターによる機械式がある.ブロックの形状も建築用ブロックだけでなく舗装用のタイ
ルなど用途に応じて使い分けられている.
2.2 ISSB の普及状況
ISSB は国連をはじめ多くの援助機関の建築プロジェクトで使用されている.また様々な種類のプレス
機を扱うメーカーがカナダ,ケニア,インド,コロンビアなどにあり,世界中どこへでも調達可能であ
る.一方カメルーンに目を転じてみると,ヤウンデ大学で SSB 技術に関する研究が行われており,試験
的に本技術を用いた小学校建設プロジェクトが実施されている.またいち早く SSB 技術の有用性に注目
した MIPROMALO 社という建材会社があり SSB の完成品の販売やインド製のプレス機のレンタルを行
っている.しかし総じて本技術の認知度は低く,各地方の村までは普及していないのが現状のようであ
る.
大量の薪を消費する焼成れんがの代替材料
凹凸に沿って並べるだけ
日干しレンガ
現地の土を圧縮成形
日干しレンガの型枠
環境にやさしい
簡単
土壌安定化ブロック(SSB)
現地の土+少量のセメントを
専用のプレス機で圧縮成形
目地モルタルが不要
プレス機の外観
ISSBで造られたカメルーンの小学校
インターロック型土壌安定化
ブロック(ISSB)
さらにブロックに凹凸をつける
レゴのように簡単に
図2
高品質
ISSB の概要
経済的
図3
ISSB のメリット
3. 現地での活動内容
3.1 普及状況の調査
上記のように,カメルーンでも一部では SSB 技術の導入が行われているとの情報を派遣前に得た.そ
こでまず,現地の普及状況を実際に自分の目で確かめることにした.
(1) Kribi 市小学校見学(11 月 27, 28 日)
海岸沿いの町 Kribi 市を訪問し SSB 技術により建設された小学校
を見学した.ここ Kribi 市は海に面したカメルーンでも有数のリゾ
ート地である.しかし夕方に町に到着したため,何軒か回って探し
当てたホテルも一部屋しか空きがなく,なぜかむさ苦しいドライバ
ーのパトリスと一夜をともにすることになった.残念ながらその日
は曇り空であったが,小一時間ほど海水浴を楽しんだ.カメルーン
でのハイライトであった.
さて肝心の小学校であるが,マツダコンサルタンツの方から頂いた
写真 8
漁をする人々
2004 年時の写真(建築から3年経過時)よりもさらにブロックの風化が進んでいた.以下見学した際の
所感を記す.
・基本的には鉄筋コンクリートの柱と梁による構造であり,SSB は壁面に主に使用され,構造的には補
助的な役割である.
・粒径のかなり大きなものが混じっているなど,風化が進み触るとぼろぼろとくずれるなどブロックの
品質自体に問題があるようであった.
・天井が剥がれ,そこからの雨漏りなどでさらにブロックの劣化が進んでいるようであった.
・一部でインターロックのような形状のブロックが使用されていた.
・ブロックはインターロッキングタイプではなく,目地にはモルタルが使用されていた.
同時に日本の援助により建設された小学校,カメルーンの一般的な小学校も見学した.前者はカメル
ーンにはあり得ないほどきれいであった.ただ,先生用のトイレは使えない状態で放置されていた.後
者は鉄筋コンクリート構造で壁面にコンクリートブロックを使用した現地の一般的な建築様式.一部レ
ンガが使われている,壁面にモルタルが塗られていない部分があるなどと統一感のない作りであり,土
台や柱のコンクリートが剥がれ鉄筋が剥き出しに
なっている,穴のあいたコンクリートブロックな
ど現地の施工の問題点がここでも見られた.
この町で三者三様の小学校を見学できたのは興
味深かった.そして現地の人の意見を聞くと必ず
しも日本人の感覚とは一致しないことがわかって
きた.現地の人の感覚では総合的に見て,従来の
写真 9
ISSB を用いて建てられた小学校
小学校が一番だという.なぜなら,ISSB を用い
た小学校はデザインが無駄に凝っており,メンテ
ナンスにお金がかかる.そして ODA で作られた
小学校は綺麗過ぎて小学生には相応しくないし,
援助がなければ建てることができない.日本人の
私からみると従来の小学校はさすがにボロ過ぎる
写真 10
日本の ODA により建てられた小学校
ように思えるが,現地の一般家庭の家を考えれば
これくらいで十分との認識のようだ.何よりも
少々壊れても上からモルタルで塗り固めるだけ
で簡単に補修できるということがいいらしい.さ
らに,穴のあいたコンクリートブロックについて
は,そこら辺の石を詰めて上から塗り固めてしま
えば何の問題もないとのことであり,その発想は新
写真 11
現地の一般的な小学校
しいなあと思った.
(2) 建材会社 MIPROMALO 訪問(12 月 1 日)
SSB ブロックを取扱っている建材会社 MIPROMALO を訪問した.
アポなしだったにも関わらず,カメルーンには珍しく非常に親切に説
明していただいた.強度試験や土質材料の成分分析を行える研究施設
があり,設備も整っているようであった.建材としては主に①日干し
レンガ,②焼成レンガそして③SSB(Compressed earth brick という名
写真 12
作業場
称)を扱っている. 以下,SSB についてスタッフから得た情報をま
とめる.
・セメントの含有率は 7%を基準に,毎回強度試験を行い,現地の
土によって調整すること.
・使用しているプレス機はインドから輸入しており,プレス機のレン
タル(200,000CFA/月)や使い方のトレーニングなども行っている.
・規模は小さいものの同様に SSB を扱うメーカーがヤウンデ市内にも
う 1 社ある.
写真 13
プレス機と支保
・ピグミーの住むミンドゥルという東部の村においてもコミニティーセンターの建築実績がある.
3.2 アンドン村における試験施工
アンドン村は東部州の州都ベルトアから車で 1 時間ほどのところにある人口数千人程の村である.ア
ジア・アフリカ研究所の荒木先生がこの村でキャッサバ圃場に関するプロジェクトを行っているため,
私が来ても「また新しい日本人が来たか」といった程度の反応であった.事前に荒木先生が村長に話を
つけてくれていたため,とてもスムーズに作業を進めることができた.また,村にはジェドゥネさんと
いう技官の方が住み込みで働いている.この人は農学が専門ではあるが,村人と私の通訳をしてくれた
り,何かと適切なアドバイスをくれたりと私のプロジェクトにも積極的に協力していただき,とてもお
世話になった.
ここでは ISSB 技術の紹介のため,ブロックの作成とそれを用いた試験的な構造物の作成を行った.
労働者として村の男性 6 人を 2000CFA/1 日(1CFA=約 6 円)で雇い一緒に働いてもらった.
写真 14
写真 15
草刈り
作業の様子
図 4 ブロックヤードの配置図
(1) 現地の土性の把握
簡単なテストを行ったところ,現地の土はほとんど粘土のみであり,篩にかける必要はないようであ
った.また,少し掘ると水分を多量に含んでおり,表面の乾燥した土はがちがちに固まっている.いわ
ゆるラテライト質の土であり,水を含むと粘着性が増し,乾燥するとかなりの強度になることから土壁
に適した土であると思われる.セメントとうまく混合するためには土塊をどれだけ細かくできるかが重
要と思われる.また浅い層では根が張っており,このまま使用するとブロックの品質に影響を与える可
能性があるがすべて取り除くのは難しいように思われた.
(2) ブロックヤード(ブロックを作るところ)の準備
村長に相談したところ,通りすがりの人からも最も目に付きやすい宿舎の前の土地を提供していただ
いた.そこで土を採り,ブロックを作って養生し,出来上がったブロックを積み上げて小屋を作ること
にした.このようにブロックをその場で作ることができ,遠くから運んでくる必要がないことも SSB の
大きなメリットの一つである.ただし今回の現場は井戸からは少し遠いため水はバイクで運んでもらう
ことにした.
(3) ブロックの作成
実際のブロックを作る前に土のみでブロックの試作を行った.プレス機自体の造りがよくなかったこ
と,村人が力任せにプレスすることなどから様々な問題が発生した.一時はプレス機が壊れてしまいも
うダメかと思ったが,溶接技術を持つ村人に修理・補強してもらい,ようやく初めてのブロックの作成
に成功した.脱型に成功し,きれいに凹凸がついたブロックが出てきた瞬間,村人たちから歓声が上が
った.その後もトラブルは続いたが,村人からも積極的に様々なアイデアが出され,試行錯誤の末ブロ
ックを量産する体制が整った.
村で日干しレンガを作成している家庭があると聞き,見学させてもらう機会があった.SSB とほぼ同
様のプレス機を使用しており,脱型をスムーズにするためモールドにエンジンオイルを塗布する,モー
ルドとブロックの間に灰や砂をまぶすといった工夫がなされており,ISSB の作成にもこれらを取り入れ
ることにした.のことが行われていた.このようにプレス機で土を固めてブロックを作るという技術は
すでに村人も知っているため,既存の技術に加えて,ブロックの形状とセメントを混ぜるという 2 点の
みが新しい ISSB はこの村では受け容れられやすいのではないかと思った.
作成したブロックは一日平積みして乾燥後,積み上げて湿度を保つためビニールシートを被せて養生
を行う予定であった.しかし村ではビニールシートは貴重品であり夜間に盗難に遭う可能性が高いと指
摘されたため,そこで刈った草を上から被せて養生することにした.このようにして 1 日平均 100 個ほ
ど,3 種類の形状のブロック計 500 個を作製した.1 日の作業時間は約 8 時間なので,一日中休みなく
作ることができたとしたら,ブロック一個あたり 2~3 分かかるとして 150~200 個は作れるはずである.
しかし,働いてくれた村人たちは,熱くなって議論をはじめたり,気がついたら何人か家に帰ったりし
てしまうのでそう計算通りにはいかなかった.一緒に働いているうちにだんだん村人それぞれの個性も
わかってきた.何度やり方を教えても間違ったことをする人や,口では「なるほど!」と言うくせに実
際にはなんもわかっていない人も居れば,積極的に改善策を提案してくる人など様々でおもしろかった.
写真 16 脱型
写真 17 姿を現したブロック
写真 18 ブロック取り上げ喜ぶ
(4) 小屋の作成
(a) 基礎の作成
本来はブロックを積み上げて作った壁面の転倒を防ぐため,ブロック数段分の根入れを行う必要があ
る.しかし今回はブロックの数も多くないことから本構造物においては図 6 に示すように壁を L 字状に
し,さらにブロックと同じ配合のソイルセメントを盛り安定性を高める構造とした.
(b) ブロック積み
開口部には半分のサイズのブロックを使用し図のように作成し,モルタルで周りを覆うことにした.
ブロックの積み方
0. ブロックと同じ配合のソイルセメントを用意する
1. ブロックを水に浸す
2. まず一段すべてブロックを並べてみる.半端な部分がある場合はナタで加工する
3. 角のブロックを定規で直角を出しながら設置する
4. 一列ずつ水準器で壁が垂直になるように,ロープで作った直線に合わせながらブロックを設置する
5. ブロックとブロックの間にソイルセメントを詰めていく
四方すべて同じようにする
6. ブロックの表面をなたと布きれできれいにする
次の段も同様にして積み上げていく.
(c) 屋根の取り付け
梁には木材を使用し,ブロックと梁は図 4 に示すようにモルタルとワイヤーで固定した.屋根は現地で
一般的なトタンを使用した.さらに,角部のブロックの隙間にもモルタルを詰め補強した.
写真 19
整地の様子
図 5 小屋の概略図
写真 20
写真 21
基礎の作成
ブロックの積み上げ
(5) 村人の意見・感想
写真 22 草を被せて養生
写真 23 梁の固定
村での活動終了後,労働者に対してミーティングを行い,SSB 技術に対する実際に働いてみての意見・
感想を聞いた.また農閑期だったこともあり,通りがかりの住民も足を止め興味を示していた.以下に
住民の意見・感想を記す.
・「最初は現地の土にセメントを混ぜてブロックを作るなんて不可能だと思っていた.このような技術
を知ることができてとても満足している.」
・「もっと改善できる.ブロックの形が少しいびつであり,一個のブロックを作るのに時間がかかる.
これらは今回使用したプレス機が主な原因であるから,しっかりとしたプレス機を使用することが重要
である.」
・「何よりも経済的である点がよい.セメントが少しで済むという点もそうであるが,家を作る際に,
特別な技術者を雇わず自分たちだけでできるという点も重要である.村の一般的な土壁の家を作るため
にも,もちろん特別な技術を持ったエンジニアが必要である.」
・「アンドン村は大きい村なので,もし村でこの技術を普及させようとするならば,2,3 台はプレス機
が必要である.村人にとってプレス機はとても高価であり購入できない.」
・「素人が作った壁で,酔っ払いが倒れてきても本当に大丈夫なのか.
」
・「このブロックはとても固い」
・「うちの屋根は草で葺いているから雨漏りがするし,トタンは高価である.屋根についても何か方法
はないのか?」
・「見た目がきれい」
・「プレス機さえ手に入ればすぐにこの技術を取り入れたい.その際今回働いていた労働者をそのまま
技術者として雇いたい」
写真 24
完成した小屋
写真 25 一緒に働いてくれた住民たち
(6) 村での生活
村では,ジェドゥネさんとドライバーのパトリス,そして農学研究科でヨット部の後輩でもある柴田
くんとの共同生活であった.村の生活で最も大変だったのが食事である.キャンプ用のコンロを使って
の自炊であり, 4 時頃には仕事を切り上げて支度を始める必要があった.食事の準備は,500m ほど程
離れた井戸まで水を汲みに行くことから始まる.それが終わるとコメを炊くかスパゲティを茹で,トマ
ト缶とイワシの缶詰を炒めておかずにする.コンロが一つしかないため,出来上がる頃にはあたりは暗
くなり始めている.食事が終わると長い夜となるが特にやることもない.電気が通っているときは村で
唯一のテレビのある宿舎に子どもたちが集まって来る.キャットフードの CM に興味津々だったのが印
象的であった.それ以外のときはパソコンをいじったり,柴田くんとヨット部での合宿生活を思い出し
ながら語り合ったりして過ごしていた.
滞在中は蚊除けのため屋内でテントを張りその中で寝ていたので遠くアフリカまで来てキャンプ気
分を味わうことができた.村に来るまで自炊とは知らずあまり食材を持ってきていなかったため,たま
に,村長の娘?が作って持ってきてくれる差し入れはありが
たかった.小麦粉で作ったという揚げパンとくず湯的な飲み
物はとても美味しかったが,ブッシュミート(何の肉かはそ
の時々で変わる.森の小動物の肉を総称してこう呼んでいる
ようである)のトマト煮は野生の味がした.カメルーンの人
はピリピリという唐辛子を好んで使用するが,このような野
性味溢れる食材の匂い消しという意味合いがあることがわか
った.
村の夜は冷え込む.カメルーン到着と同時に荷物を全て失
写真 26
柴田くん,ジェドゥネさんと
い大した防寒具を持っていなかったためゴミ袋を体に巻いて
寒さをしのいだのも一度や二度ではなかった.そして質の悪
いことに明け方冷え込めば冷え込むほど昼間の気温が上がる.
明け方寒さで目を覚まして,今日も暑くなりそうだと思った
ことも一度や二度ではなかった.日中は本当に日差しが強く
半裸で作業することもしばしばであったが,村のハエに体中
噛まれてしばらくは痒さと格闘していた.また,帰国後に知
ったのであるが,ここのハエはツェツェバエといって眠り病
という恐ろしい病気を媒介しているらしい.今後アンドン村
写真 27
寝室の様子
を訪れる方はぜひ気をつけて欲しい.
3.3 チャン大学における強度試験(12 月 15 日~17 日)
チャン大学 Renewable energy laboratory を訪問し,タンカ教授の協力を
得て,SSB の強度試験を行った.チャンという町全体がカレッジタウン
大学自体もとてもきれいであった.しかしどこにもトイレが見当たらな
い.そこで実験を手伝ってくれた学生に聞くと,少し離れた草むらを指
さしてくれた.確かにそういう目で見るとその草むらからはすっきりし
た顔をした男女が出てくる.なるほど.
タンカ先生は教授というよりは気のいい発明家といった感じだった.
最近は風車づくりに熱中しているようであるが,それ以外にも自分の車
を AT から MT に改造したり,太陽光を利用した冷蔵庫づくりなど興味
は尽きないようであった.さて強度試験についてであるが,現地の載荷
装置は手動式で,目盛りの単位もポンドだったので慣れるのに少し時間
写真 28
タンカ先生の発明品
キャッサバ加工マシン
がかかった.さらに針が動かず試料の半分くらいが無駄にしてしまった.残った試料で試験を行ったが,
日本で作ったブロックよりは大分強度が小さい結果となった.これは,養生期間が短かったこと(約 2
週間),使用した土質材料が粘土質であったことなどが理由として挙げられると思う.
チャン大学には 3 日間滞在したが,その間タンカ先生のご好意でお宅に泊めていただいた.奥さんが
英語圏出身であることから,家庭内では英語でコミュニケーションをとっていた.また,奥さんの作る
料理はとても美味しく,しばらく村生活が続いていたのでとてもありがたかった.
3.4 カメルーンでの日々
これまで書いたようにたった 40 日の間にいろいろ詰め込み過ぎたため,移動も多くゆっくり観光し
て過ごす日はほとんどなかった.というよりそもそもカメルーンには観光スポットらしきものはあまり
無いようであった.
首都ヤウンデに滞在中はアフ研の学生に大変お世話になった.近所の美味しいレストランに連れて行っ
てもらい彼らの村での体験を聞くのはとても興味深かった.単身で見ず知らずの村に乗り込む勇気,コ
ミュニケーション能力,そして何よりも落ち着いた態度には学ぶところが多かった.
ドゥアラでは中山さんという方によくしてもらった.派遣前に発注していたプレス機の到着が間に合
わず,現地で調達・改造することにしたが,中山さんの協力なしでは成り立たなかった.軽い気持ちで
兵隊の銅像を撮影し軍人に連行されたときも,フランス語が通じず電話越しに中山さんに助けてもらっ
た.あの時は死ぬかと思った.
カメルーン最後の日は日本の ODA による小学校建設プロジェクトに従事していたエンジニアのビク
ターさんとご飯を食べ,別れを惜しんだ.空港まではパトリスが送ってくれたが,道が混んでいて機嫌
が悪かった.行きも荒木先生と一緒に来ることができたが,帰りもたまたまご一緒することができた.
荒木先生は JICA の方と一緒にファーストクラスに乗れるということで嬉しそうだった.空港では職員
にお土産にいちゃもんを付けられ袖の下を要求された.最後までカメルーンらしかった.フランスは大
雪であった.日本に着いた.その日に一人前一万円の焼肉を食べた.うまかった.日本人でよかった.
4. 感想
大学院に入学したときから,もう一度アフリカに行きたいと思っていた.しかも旅行ではなくできれ
ば研究や仕事で.木村先生にはこれ以上ない形でその希望を実現していただいた.現地では,カメルー
ンの空港で荷物を紛失したことに始まり,軍人に連行されたり,村人を叱ったりと日々必死であった.
まさかアフリカで自炊生活をすることになるとは思っていなかったし,満点の星空もコンタクトレンズ
を紛失したため味わうことができなかった.しかし今になって現地での活動を振り返ってみると,すべ
ての経験が得難いものであったと感じている.日本から遠く離れたアフリカの地にしっかりと根を下ろ
して頑張っている日本人がいることも知ったし,アジア・アフリカ研究所の学生方のおおらかさには癒
された.そして何よりもブロックを使って実際に小さいながらも小屋を作ることができ,村人たちが良
い反応を示してくれたことが一番嬉しかった.そして今ではできればもう一度行きたいと思っている.
現地で痛感した無力感を忘れずに,これからも精進していきたいと思う.
最後にこのような機会を与えてくださった木村先生,現地での活動を支えてくれたアジア・アフリカ
研究所の荒木先生,現地在住の中山さん,日本からサポートしてくれた大島先生,寺本くん,平坂さん
に心から感謝申し上げます.
写真 29
中山さん一家
写真 30 荒木先生
写真 31 ビクターさんと
Fly UP