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日本産業の動向<トピックス>
Ⅵ2. 石油業界が注目すべき外部環境の変化
-国内石油市場縮小という現実とトランスフォーメーションへの決断-
【要約】

石油業界が注目すべき外部環境の変化として、①ガソリン需要の構造的減少、②資源
価格変動・エネルギー需要見通しから見た石油産業の位置づけ変化、③中国需要のピ
ークアウトによるアジア市場の変化が挙げられる。

かかる状況下、求められる戦略は、①国内石油精製事業のキャッシュカウ化、②非石油
事業への取り組み、③海外石油精製事業への参画を含めた成長市場の取り込みであ
ろう。石油精製事業をキャッシュカウに転換できれば、更なる大規模投資が可能となり、
成長戦略を着実に実現する総合エネルギー企業にトランスフォームさせることができる。
1.ガソリン需要の構造的減少
石油産業は国の政策によって需要が減少する「政策的構造不況業種」と指摘
されることがあるが、運輸部門を例にとっても EV、FCV といった政府の次世代
自動車の普及促進によるガソリン需要へのマイナス影響は否定できない。世
界的な燃費規制によって我が国のみならず主要各国においてもガソリン需要
は期待ほど成長しない可能性がある。我が国の石油製品需要は燃料転換や
少子高齢化といった構造的な要因によって年率 2%程度の減少が予想され、
2030 年には現在より 25%の需要減少が見込まれる(【図表 1】)。それでも 2030
年の需要水準は現在のドイツの需要規模以上であり、世界における一定の地
位は維持されよう。また、資源エネルギー庁が発表した長期エネルギー需給
見通しにおいても 2030 年時点における一次エネルギー供給で石油は 32%と
最も大きなシェアを占め、我が国における重要なエネルギー源という点にも変
化はない。しかし、需要減少が石油元売会社に与える影響は甚大であり、設
備能力の最適化によって需給をバランスさせたとしても、抜本的なリストラがな
ければ今後の収益環境は厳しいものと予想される(【図表 2】)。これまでも元
売各社は隣接する他社製油所との連携を進めていたが、2015 年 7 月には出
光興産と昭和シェルが経営統合の協議を発表した。こうした動きは国内市場
縮小といった危機感の共有が背景の 1 つにあると考えられる。
需要減少が石油
精製事業の収益
性に与える影響
は大きい
【図表 1】 国内石油製品需要見通し
243
250
(100万KL)
209
200
61
33
30
42
100
37
22
12
16
27
47
24
1970
34
20
47
17
44
31
2500
168
2000
138
35
44
1980
1990
58
2000
58
2010
1500
32
15
重油
14
31
軽油
8
灯油
40
ジェット
44
26
27
21
30
3000
CAGR▲2%
25
33
110
0
196
183
99
【前提条件】
・FY15eは会社計画値
・需要は当部見通し
・設備能力は第二次高度化法に
加えてFY30までに75万b/d削減
・マージンはFY14水準が継続
・固定費は現状発表されている
施策を織り込み
(億円)
3500
187
150
4000
218
75
50
【図表 2】 大手元売 5 社の石油精製部門の営業利益見通し
1000
500
0
ナフサ
53
2014
48
39
2020e 2030e
(出所)石油連盟 HP よりみずほ銀行産業調査部作成
(注)予想はみずほ銀行産業調査部による推計値
-500
-1000
ガソリン -1500
FY10 FY11 FY12 FY13 FY14 FY15e
(FY)
FY20e
FY25e
(出所)各社公表資料よりみずほ銀行産業調査部作成
(注)大手元売 5 社は JX、出光、コスモ、東ゼネ、昭シェル
みずほ銀行 産業調査部
7
FY30e
日本産業の動向<トピックス>
2.資源価格変動・エネルギー需要見通しから見た石油産業の位置づけ変化
構造的に需要が減少する石油とは異なり、国内の電力・ガス需要は相対的に
堅調な見通しとなっている(【図表 3】)。石油産業は 2001 年の石油業法の廃
止をもって完全自由化されたが、電力・ガス事業の参入規制は残されており、
エネルギー間の対等な競争条件という観点からは石油元売会社は不利な競
争を強いられていた。しかし、2016 年以降には電力・ガスの小売自由化によっ
て石油元売企業がこれら市場に参入することが可能となり、総合エネルギー
企業としてこれまで以上にエネルギーを多面的に提供することができる。加え
て、2000 年代に入ってエネルギー価格の変動は激しくなっており(【図表 4】)、
エネルギーポートフォリオの多様化は事業基盤の安定化にも資するだろう。
堅調な需要見通
しが期待できる国
内電力・ガス市場
石油元売は業界内における厳しい競争にさらされており、総括原価方式等の
制度的な恩恵を受けてきた電力・ガス会社と比較してエネルギー自由競争下
における経営基盤という観点からは一日の長はあろう。とはいえ、2015 年 4 月
には東京電力と中部電力が燃料・火力の包括的アライアンス組織を設立
(JERA)する等、国内エネルギー企業による事業再編が進んでいる。既に石
油元売企業は発電事業で他業界とのアライアンスに踏みきっているが、更に
踏み込んだ業界横断的な連携・再編が発表される可能性があるだろう。また、
省エネが進み需要拡大が期待しにくい国内市場に留まることなく、成長著し
い海外も視野に入れた総合エネルギー企業への深化も期待される。
【図表 3】 国内エネルギー需要見通し
250
(1990=100)
【図表 4】 国際エネルギー価格(熱量換算)の推移
25
天然ガス
223
(米ドル/mmBtu)
電力
石油
200
150
124
174
174
177
131
133
135
20
15
原油
天然ガス
100
86
100
石炭
10
73
65
59
5
50
0
90/01
0
1990
2012
2020e
2025e
2030e (CY)
95/01
00/01
05/01
10/01
15/01
(出所)IMF HP よりみずほ銀行産業調査部作成
(注)原油は WTI、天然ガスは Henry Hub、石炭は豪一般炭
(出所)IEA ,WEO2014 よりみずほ銀行産業調査部作成
(注)予想は IEA
3.中国需要のピークアウトによるアジア市場の変化
中国の余剰ギャ
ップが拡大
我が国とは異なり、アジアの石油需要は拡大基調にある。しかし、2012 年以降、
中国では製油所の新設が相次いだことから国内石油製品の余剰が拡大して
おり、余剰玉はアジアを中心とした海外へ向かっている(【図表 5】)。その結果、
アジア全体では供給過剰となり、アジアのベンチマークとなるシンガポールの
精製マージンが低迷している。アジア域内の輸出環境は悪化しており、相対
的に小規模かつエネルギー効率が劣後する我が国製油所からの輸出は困難
と言わざるをえない。
ASEAN の供給不
足は継続
しかし、インドネシアやベトナム等 ASEAN 諸国では設備能力が需要を下回っ
ているケースが見られる(【図表 6】)。石油産業で多く見られる消費地精製主
みずほ銀行 産業調査部
8
日本産業の動向<トピックス>
義は最終的に自国の消費は自国の製油所で賄う考えであり、現在輸入ポジ
ションの国においても将来的に製油所建設が進むと見られる。実際、JX は
2014 年 12 月に、インドネシアにおける国営プルタミナと既存製油所の改修プ
ロジェクト、ベトナムにおける国営ペトロリメックスと製油所の新設プロジェクトの
検討に関してそれぞれ覚書を締結した。出光興産は既にベトナムにおいて同
国国営ペトロベトナム等とともに 90 億ドルをかけ製油所新設を進めており
(2017 年商業運転開始予定)、JX の案件が実現すれば出光に続く精製事業
の海外進出事例となる。また、東ゼネは 2015 年 8 月にショートポジションであ
るオーストラリアで輸入基地を建設して石油製品の販売を始めると発表した。
【図表 5】 アジアの精製マージンと中国の余剰ギャップの推移
7
(米ドル/bbl)
中国の余剰ギャップ(右軸)
(万b/d)
【図表 6】 石油製品の需給ギャップ(2014 年)
350
1,600
300
1,400
アジアの精製マージン
6
250
5
(万b/d)
設備能力
需要
1,200
1,000
200
4
800
150
600
100
400
3
2
50
0
1
0
200
中
国
0
-50
2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 (CY)
(出所)BP 統計よりみずほ銀行産業調査部作成
(注)余剰ギャップは設備能力―内需
日
本
イ
ン
ド
韓
国
イ
ン
ド
ネ
シ
ア
タ
イ
シ
ン
ガ
ポ
ー
ル
豪
台
湾
マ
レ
ー
シ
ア
パ
キ
ス
タ
ン
ベ
ト
ナ
ム
フ
ィ
リ
ピ
ン
(出所)METI、BP、O&G Journal 等よりみずほ銀行産業調査部作成
(注)日本の需要は原油処理量かつ 2014 年度
4.外部環境の変化を踏まえた石油業界のとるべき戦略
トランスフォーム
に求められる 3 つ
の取り組み
かかる状況下、石油元売企業に求められる戦略は、①国内石油精製事業の
キャッシュカウ化、②非石油事業への取り組み、③海外石油精製事業への参
画を含めたグローバル展開であろう。石油元売各社ともに石油開発や石油化
学等に取り組んできたものの、引き続き売上の 9 割は石油精製に依存してい
る。これまでも石油危機等のイベントはあったものの、市場の変化は比較的緩
やかであった業界の歴史を踏まえれば、今後の環境変化に合わせて従来の
ビジネスモデルを変革することは容易ではないだろう。しかし、業界再編や他
製油所・エチレンセンターとの統合運営等によって石油精製事業をキャッシュ
カウに転換できれば、更なる大規模投資が可能となり、成長戦略を着実に実
現する総合エネルギー企業にトランスフォームさせることができる。
イタリア ERG は
精製事業を統合
させ電力事業へ
シフト
石油事業を発祥とする企業で事業ポートフォリオを大きく変化させている数少
ない事例の一つはイタリアのエネルギー会社 ERG である(【図表 7】)。ERG は
2008 年以降はすべての製油所を他社との共同運営としていたが、2010 年に
はさらにイタリアの精製販売事業を仏 Total と統合させた。これに伴いイタリア
における石油精製販売事業の競争力強化およびリストラを進めることが可能と
なった。また、ERG は石油事業の縮小を進める一方で電力や再生可能エネ
ルギーに経営資源をシフトさせている。
富士フイルムと
旭化成の事例
また、本業の縮小に対応してトランスフォーメーションを成功させた日本企業
みずほ銀行 産業調査部
9
日本産業の動向<トピックス>
の事例として富士フイルムや旭化成等が挙げられる。富士フイルムは①中核
事業であった写真フィルムの市場が 10 年で 1/10 にまで縮小するという危機を
冷静に分析した上で、②写真フィルムでは大幅な人員削減や特約店制度の
廃止等のリストラに取り組む一方、③M&A も活用しつつインクジェットや医療
機器といった成長分野に経営資源を重点的に振り向けることで転換を遂げた
(【図表 8】)。同様に旭化成も 1965 年には 75%を占めた繊維事業の売上高比
率を足元では 1 割以下まで低下させ、住宅やエレクトロニクス、医療等へシフ
トしている。旭化成はポートフォリオ転換にあたって①環境変化に対応できな
ければ撤退・売却、②自前で利益が出そうな事業は構造改革、③自社のイン
フラだけで拡大困難な事業はアライアンス・M&A を活用、といった考えに基
づき転換を進めた。いずれの会社もメガトレンド(市場の縮小)を踏まえた上で、
富士フイルムは多層膜塗布技術、旭化成は繊維・化学合成技術をコアコンピ
タンスとし、医薬品事業等へ経営資源をシフトさせることに成功している。
【図表 7】 イタリア ERG のセグメント別営業利益推移
1,000
(100万ドル)
【図表 8】 富士フイルムのセグメント別営業利益推移
2,600
精製・販売等
(億円)
富士ゼロックス
再生可能エネルギー
800
素材ヘルスケア
2,100
電力
カメラ等
600
1,600
400
1,100
200
600
0
100
(200)
(400)
(400)
FY05
FY06
FY07
FY08
FY09
FY10
FY11
FY12
FY13
FY90
FY14
FY00
FY05
FY10
FY14
(出所)各種公表資料よりみずほ銀行産業調査部作成
(出所)当社公表資料よりみずほ銀行産業調査部作成
現実の直視とコ
アコンピタンスを
踏まえた戦略策
定
FY95
ポートフォリオ転換への第一ステップは石油元売各社が「何も対応を行わなけ
れば国内石油精製事業の利益が消滅する」可能性を直視できるかにかかっ
ている。その上で、各社のコアコンピタンス等を踏まえた戦略方向性の策定が
求められる。例えば、製油所跡地のインフラを活用した国内発電プロジェクト
への取り組み、国内で培った原油調達→精製→販売までの一貫したバリュー
チェーンのノウハウの海外製油所プロジェクトへの活用、SS(サービスステー
ション)での油外販売等のサービスの海外での展開等が挙げられよう。
また、これまで石油業界は市況変動が大きく差別化困難な製品特性に悩まさ
れてきた。潤滑油事業等では日系自動車メーカー等向けに良好な収益力を
維持しているが、全体に占めるウェイトは必ずしも高くない。全体の収益性を
引き上げるためには例えば既に各社が手掛けている機能性化学事業におい
て M&A 等を活用して経営資源を集中させることも一案だろう。
少資源国の我が国において石油元売各社の事業の中心は今も昔も石油精
製事業であった。その国内石油製品市場の縮小が確実視され、各社は苦し
い競争を強いられている。この逆境を乗り越えるべく、石油元売各社が世界の
石油業界における “トランスフォーマー”として評価される施策に取り組むこと
を期待したい。
(素材チーム 松本 成一郎)
[email protected]
みずほ銀行 産業調査部
10
/52
2015 No.4
平成 27 年 9 月 29 日発行
©2015 株式会社みずほ銀行
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編集/発行 みずほ銀行産業調査部
東京都千代田区大手町 1-5-5 Tel. (03) 5222-5075
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