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nano tech レジェンド 2013~2015

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nano tech レジェンド 2013~2015
15 t h
ANNIVERSARY
nano tech 大賞 受賞者インタビュー
-9
10 INNOVATION の最先端
~ Life & Green Nanotechnology が培う新技術 ~
2 0 1 3 ~ 2 015
10-9 INNOVATION の最先端
15 t h
ANNIVERSARY
~ Life & Green Nanotechnology が培う新技術 ~
nano tech 大賞 受賞者インタビュー
巻 頭 言
ナノテクノロジーは広範な技術分野を含み,我が国の科学技術上に重要な位置づけを占めています.高齢化社会の
到来や地球環境問題がクローズアップされる中で,国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech)ではこれまで,
「10-9 Innovation(ナノイノベーション),"Life & Green Nanotechnology"」をメインテーマとしてきました.基礎研
究であったナノテクノロジーが社会ニーズとの結びつきを求められるようになった今,具体的な成果を示す場として
社会に貢献できればと考えています.
nano tech ではこれまで,文部科学省が委託事業として進める「ナノテクノロジープラットフォーム」との共同企
画で,nano tech 展示会に出展された団体や企業の中から,傑出した技術や製品などにスポットを当てた記事を Web
から発信してきました.今回,nano tech 展示会が 15 周年となるのに当たり,
2013 ~ 2015 年の最近の記事から,ナノテク大賞の各賞を受賞した 14 の団体
と企業を選び,ダイジェスト版として刊行することになりました.展示会の場を
大きく拡張し,国のプロジェクトと連携し,あるいは新製品として上市されてい
る魅力的な技術・製品とその開発秘話が示されています.より多くの方々にナノ
テクノロジーの重要性をご理解いただければと考えています.
nano tech 2016 第 15 回国際ナノテクノロジー総合展・技術会議
実行委員長 川合 知二
「NanotechJapan Bulletin」は,日本のナノテクノロジーに関する先端研究や関連する情報を統合し,積極的に社会
に発信することを目的としたポータルサイト「NanotechJapan」の一環として発刊されています.
2013 年から「10-9 INNOVATION の最先端」と名付けた特集記事を,nano tech(国際ナノテクノロジー総合展・
技術会議)とのコラボレーションとして企画・実施し,これまで 40 編の記事を Web から発信してきました.この
特集では,nano tech 展示会に出展し,傑出した成果として評価された団体や企業を中心に,最新の技術や製品など
にスポットライトをあてたインタビューを行い,わかりやすい解説記事として掲載しています.今回,nano tech 展
示会が 15 周年を迎えるに当たり,特集記事の中から 2013 ~ 2015 年にナノテク大賞の各賞を受賞した記事を 14
編ピックアップして,ダイジェスト版としてまとめました.
ナノテクノロジーは,素材・材料,IT・エレクトロニクス,微細加工技術,評価・
計測,ライフ,グリーンテクノロジーなどの広範な技術分野を含みます.3 年間
という短期間であるにもかかわらず,ナノテクノロジーが如何に社会に役立って
いるか,また,知の源泉としてのナノワールドが如何に魅力的であるかをより多
くの方々にご理解頂ければと考えています.
ナノテクノロジープラットフォーム
NanotechJapan 編集局
古屋 一夫
nano tech & NanotechJapan Bulletin コラボレーション企画「10-9INNOVATION の最先端」| 1
10-9 INNOVATION の最先端
15 t h
ANNIVERSARY
~ Life & Green Nanotechnology が培う新技術 ~
nano tech 大賞 受賞者インタビュー
CONTENS
4
nano tech 大賞
20 13
産学連携賞
単層カーボンナノチューブの量産技術:スーパーグロースの実証プラント
~産学連携によるカーボンナノチューブの大量合成と応用展開~
日本ゼオン株式会社 特別経営技監 荒川 公平氏に聞く
ナノファイバーの創出とその織りなす世界
帝人株式会社 高機能繊維事業本部 神山 三枝氏と滋野 治雄氏に聞く
8
32
36
IT・エレクトロニクス部門賞
新人賞
ニッポン高度紙の大面積無機/有機ハイブリッド膜製造技術
~触媒膜,分子フィルター,電解質膜等への応用展開~
自己組織化リソグラフィ
ニッポン高度紙工業株式会社 新材料開発室長 澤 春夫氏に聞く
~より高性能で低コストな半導体の実現を目指して~
株式会社東芝セミコンダクター&ストレージ社 半導体研究開発センター 東木 達彦氏に聞く
12
材料・素材部門賞
カーボンナノチューブ紡績技術の開拓
静岡大学工学部准教授 井上 翼氏,JNC 石油化学株式会社 中西 太宇人氏に聞く
16
40
グリーンナノテクノロジー賞
2 0 15
カーボンナノチューブを添加した炭素繊維および機能性樹脂薄膜技術
~ナノ分散 CNT の微量添加で樹脂を高機能化するグリーンテクノロジー~
プロジェクト部門賞
ニッタ株式会社 テクニカルセンター 開発研究グループ 小向 拓治氏,輝平 広美氏,
経営戦略室 木下 一成氏に聞く
プリンテッドエレクトロニクス時代実現に向けた材料・プロセス基盤技術の開拓
NEDO プロジェクト プロジェクトリーダー 東京大学教授 染谷 隆夫氏に聞く
44
新人賞
エネルギー・光・音の制御が出来る新規機能性材料の開発
~①安全・大容量な二次電池実現が期待される「イオン伝導性フィルム」
②樹脂に分散して光の屈折率を変える「ジルコニアナノ粒子分散液ジルコスター ®」
③不快な振動・騒音対策が可能な「振動減衰材用樹脂」~
20
nano tech 大賞
2 01 4
株式会社日本触媒 研究本部 三輪 貴宏氏,小川 賢氏,高橋 邦夫氏,齊藤 允彦氏に聞く
48
中越パルプ工業株式会社 開発本部開発部 上級技師 田中 裕之氏に聞く
東レ株式会社 化成品研究所 樹脂研究室 小林 定之氏に聞く
24
52
富士フイルムのライフイノベーションに向けた挑戦
富士フイルム株式会社 再生医療研究所長 吉岡 康弘氏に聞く
28
ナノメートルサイズの微粉末を作る粉砕・分散技術
~高分散性ナノ粒子の実現による新産業創出への貢献~
プロジェクト賞(ライフテクノロジー部門)
携帯電話で呼気診断・血液検査を可能にする新センサー
独立行政法人 物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 吉川 元起氏に聞く
~イメージングから再生医療に展開~
功績賞
竹や間伐材から取り出すセルロースをナノメートルサイズに微細化する技術
~セルロースナノファイバーが拓く新素材の可能性~
ナノアロイ ® による新素材の創出
ライフテクノロジー賞(最優秀技術賞)
産学連携賞
56
日刊工業新聞社賞
インクジェット技術の産業応用
~ 3D プリンティングからバイオテクノロジーまで~
株式会社マイクロジェット 社長 山口 修一氏に聞く
アシザワ・ファインテック株式会社 代表取締役社長 芦澤 直太郎氏,開発担当 小貫 次郎氏,
企画室 原田 香氏に聞く
編集協力:(株)古賀総研 向井 久和,古寺 博,真辺 俊勝,尾島 正啓
2 | nano tech & NanotechJapan Bulletin コラボレーション企画「10-9INNOVATION の最先端」
目 次| 3
初出:NanotechJapan Bulletin Vol.6, No.2 2013 発行,http://nanonet.mext.go.jp/magazine/1032.html
< nano tech ⼤賞 2013 >
ナノファイバーとその織りなす世界
帝⼈株式会社 ⾼機能繊維事業本部 神⼭ 三枝⽒と滋野 治雄⽒に聞く
写真(左)
ナノテク大賞表彰会
場 に て( 左:nano tech 実 行 委 員
会副委員長 馬場 嘉信氏,
右:
帝人(株)高機能繊維事業本部長
帝人グループ常務執行役員 遠藤
雅也氏)
写 真( 右 ) 帝 人 大 阪 研 究 セ ン
ターにて(左:神山 三枝氏,
右:
滋野 治雄氏)
図 2 海島複合繊維の構成と海部分を溶解除去したナノファイバー束の断面構造模式図
第 12 回国際ナノテクノロジー総合展
開発を進めることで,新たな価値をもた
開始している.海島複合紡糸法とは,ポ
よる吸着性の増大,③無数の空隙での毛
いて落ちないのと同じ
nano tech 2013 は 2013 年 1 月 30 日 か
らすユニークな商品・サービスを提供し
リマーを口金から吐出する際に,
「島」成
細管現象による拡散浸透力の増大と,④
で,ナノファイバーが
ら 2 月 1 日の 3 日間,東京国際展示場で
続ける企業を目指している.図1は繊維
分と「海」成分の 2 種類のポリマーによ
分離能の増大である [2].さらに,繊維
密集して対象物との接
開催された.展示会は「10-9 Innovation(ナ
技術の究極命題として「より細く」・「よ
り図2の左に示すような複合体を形成し,
の太さの 4 乗に反比例する「しなやかさ」
触点が多く,ファンデ
ノイノベーション)"Life & Green"」をメ
り強く」を目指しつつ,機能ソリューショ
後工程で「海」の部分を溶解除去し,図
を持っているため,ソフトな肌合いの肌
ルワールスの力が働く
インテーマに掲げている.21 世紀に入っ
ンとしては,従来からの 1 次元としての
2の右のようなファイバーの束を形成す
着やスポーツウェアに適している.図4
ためである.ニットの
てナノテクノロジーは次世代の基盤技術
繊維の持つ機能と 2 次元のフィルムや膜
る手法である.「島」に対する「海」の組
は運動した場合の体温上昇を通常のポリ
製作上もナノファイ
としてグローバルに認知され研究が盛ん
が持つ面としての機能の両者の特徴を融
成比率を減らすための設計努力,紡糸口
エステルのスポーツウェアと,ナノフロ
バーが表面に出て接点
になったが,近年では社会のニーズに応
合させる機能素材を追求することを示し
金装置の設計技術,複合体の高速延伸を
ントのスポーツウェアの場合を比較した
が多くなるようにして
える応用展開のフェーズに入ってきた.
ている.これは,ナノファイバー一本一
可能とする技術等様々な技術を集積して
テストの例で,ナノフロントの有効性を
いる.このグローブは
これを受けて展示会もシーズとニーズの
本の機能ではなく,多数を組み合わせた
ナノフロント ® を完成させた.図3はナ
示している.
従来グローブに比べて
結びつきにより新しい価値の創出に向け
「面」,即ち 2 次元にした時のナノサイズ
ノフロント ® の束で織られた織物の表面
以下に代表的な応用例を示す.
筋肉の活動量が少なく
た活動の活性化を目指している.展示会
効果を追求するものである.そこに生ま
写真である.ちなみに,ナノフロント ®
■ 滑りにくいゴルフ用グローブ
て済むので,ショット
の最終日に nano tech 表彰式があり,帝
れる広範な,新しい機能,新しい応用展
は「平成 21 年度高分子学会賞」を受賞し
グリップ面はしっとりと吸い付く感じ
の際,より容易にクラ
人株式会社が nano tech 大賞を受賞した.
開を狙っている.
ている [1].その「ポリマー技術・精密加
でクラブを軽く握っても滑らない.原理
ブをコントロール出来
は「やもり」が垂直のガラス面に吸い付
る こ と を 示 し て い る.
大賞を授賞した nano tech 2013 の展示
工/複合ポリマー製糸技術・構造体加工
高さと,アプリケーションの裾野の広さ」
は,まさに上記ナノテクに取り組む帝人
技術」が評価された.
を賞したもので,571 企業・機関の出展
のビジョンを反映している.続いて,展
ナノフロント ® の特徴は,①表面積
があった本展示会の狙いに適合し,展示
示された製品の中からポリエステル ナノ
の格段の増大 ( 従来の 10 ∼ 100 倍以上 ),
会を代表する展示であったと云える.
ファイバー(ブランド名:ナノフロント ®)
②ナノファイバーの Van der Waals 力に
今回,この展示に示された技術とその
と,アラミド ナノファイバー
アプリケーション展開そして価値の創出
について新しい価値創出の展開
の機微を伺いたく,茨木市にある帝人大
を伺った.
「ナノファイバーの技術的ポテンシャルの
図 3 ナノファイバーの束の織物表面写真
阪研究センターを訪ね,高機能繊維事業
本部 生産・研究開発部門 ポリエステル繊
維技術生産部 技術主幹 神山 三枝氏と同部
ナノフロント ®
による新機能の
展開
門 次世代ソリューション開発課長 滋野 治
雄氏にお話を聞いた.
帝人は直径 700nm の超ファ
ナノテクに取り組む帝
人のビジョン
イン ポリエステル ナノファイ
バーの生産技術を新海島複合
紡糸法で確立し,「ナノフロン
帝人は会社の中長期経営ビジョンとし
ト ®」のブランド名で 2008 年
て,顧客と一体となって商品開発,用途
7 月に世界で初めて商業生産を
4 | nano tech & NanotechJapan Bulletin コラボレーション企画「10-9INNOVATION の最先端」
図 1 ナノテクノロジーに取り組む帝人のビジョン
図 4 運動による体温上昇のテスト.通常のポリエステルとナノフロントとの比較.
ナノファイバーとその織りなす世界| 5
更なる利点として,水に濡れても滑らな
れるエアフィルターは,シートをジャバ
で,特に研磨効率と表面粗さについて従
いことがある.ナノフロントは水を吸収
ラの様に折りたたんだ形状のものである.
来製品を大きく凌駕している.
してしまうので滑らないためである.こ
紹介された製品はナノフロントと直径
の特性はスポーツ用靴下にも応用できる.
15m のポリエステルからなる不織布で
■ 冷却効果のある日傘・帽子
ある.図6にその断面構造を示す.ナノ
帝人のある営業マンが偶然に発見した
ファイバーと太い繊維との複合化による
効 果 で, ナ ノ フ ロ ン ト ® の 日 傘 を 差 し
次世代用の高性能エアフィルターで,空
ていると,開いた傘の下の部分では周囲
気の通過抵抗の低減と微細な異物を高捕
nano tech 2013 には新開発のアラミド
に比べて 5℃くらい気温が下がる.直径
集率で取り除くという互いに矛盾する特
ナノファイバーを用いた耐熱性ナノファイ
700nm のナノファイバーで織った傘の布
性を両立させた.複合材料では流体の流
バー不織布も展示されていたが,特にリチ
は波長 2m 付近の熱線を反射する効果
路の一部のみ狭い空隙がありここで異物
ウムイオン電池におけるセパレータとして
がある.従来のアルミニウムをスパッタ
を捕集する.従来より流体を通過させる
極めて有望であり,開発中のアラミドナノ
する形式の日傘より効果的であるという.
ための圧力が少なくて済む.また目詰ま
ファイバーセパレータの話を伺った.
帽子にも適用されている.
りも減るので,耐久性も高まる.製品と
■ アラミドナノファイバーセパレータ
■ 拭き取り機能
しては,寿命は従来と同じであるが捕集
新開発の耐熱性ナノファイバー不織布
→ 高い空隙率
術レベルと共に,それを
これまでの繊維では,通常の数ミクロン
率が 5 倍のものが出来ている.これは設
はメタ系アラミド繊維「コーネックス ®」
イオンの易動度が高く,その結果急速
機能化してソリューショ
の厚さの油膜汚れをふき取ることは難し
計次第で逆に,捕集率を同じにして寿命
をベースにした直径数百 nm の均一なナノ
充放電が可能,また低温における比較
ンを提供することに力を
かったが,高強度のプリエステルナノファ
を伸ばすという選択肢も可能である.
ファイバーで,図7a の電子顕微鏡写真が
的優れた電池特性の発現が可能
いれる帝人の開発戦略
イバーによる布では超比表面積と超微細空
■ ナノファイバー液体フィルター
示すような均一な細孔分布を持つシート
→ 高い空隙率および薄膜化可能
によるものである.そし
隙により,油膜や微細塵に対する優れた拭
エアフィルターと同様にナノファイ
(不織布)の形状で用途開拓を行っている.
内部抵抗の低減が可能,高エネルギー
て,新しいものを生み出
き取り効果を発揮する.図5はその効果を
バーと太い繊維とを複合化し,低圧損,
特に耐熱性と耐酸化性のある素材であり,
密度化が可能
しニーズと結びつけるた
示す試験例である.ワイピングクロス,皮
高捕集,耐久性の特徴を持つ次世代メン
リチウムイオン電池のセパレータとして
→ 電解液の吸液速度が速い
め,社内外との専門を越
脂取りなどに最適である.
ブレンフィルターを作製できる.生産現
の展開が期待され,目下顧客が評価中と
電池製造工程の電解液注入時間,エー
えた連携プレーを行って
■ 顔パック用フェイスマスク
場での水質向上や下水処理等に使われる.
のことである.図7b にセパレータサンプ
ジング時間の短縮が可能
い る.nano tech 2013
表面にナノフロントを配合したシート
顧客の評価を経て 2013 年 4 月からの採
ルを示す.
は吸着性があり,フィット性も高く動作
用が決まっている.
開発したナノファイバー不織布は,構造
→ 耐熱性(図8)
月 31 日に帝人はカーボ
をしても顔から剥がれない.また,シー
■ ナイロンナノファイバー精密研磨パッド
上の特徴として空隙率を,例えば約 70%
異常高温時(約 280℃程度まで)殆ど
ン ナ ノ チ ュ ー ブ(CNT)
トに美容液を多く含ませることができ,
LED 用サファイヤや SiC など硬くて脆
以上と高くすることが可能で,従って個々
収縮せず,その結果,正極/負極の短
繊維に関するプレスリ
細かい数多い接点が肌への美容液の浸透
い材料を研磨する精密研磨パッドに新規
の細孔が小さい.これらによりリチウム
絡を防ぎ,安全性を確保
リースを行った.この開
を促進するなどの利点がある.
にナイロンナノファイバー精密研磨パッ
イオン電池のセパレータ用として次の利
→ 耐酸化性/耐薬品性
発は,帝人グループの一
■ ナノファイバー高性能エアフィルター
ドを開発した.ナノファイバーは柔らか
点が生まれる.
酸化による劣化を防ぎ,長寿命化を実
員であるテイジン・アラ
空気清浄機や自動車エンジンに用いら
さと表面積の大きさの特徴を発揮するの
現,高電圧化にも対応可能
ミド B.V.(本社:オラン
アラミド不織布での応
用分野の展開
図 5 拭き取り効果の比較 光学写真(2000 倍)
(拭き取り条件:摩擦子直径:3cm,押圧荷重:5g/cm2,拭き取り動作:ジグザグ拭き 5 往復,
汚れ:ダイヤペースト(成分:カーボンブラック,牛脂極度硬化油,流動パラフィン))
a 電子顕微鏡写真(5,000 倍)
【不織布構造由来による利点】
【アラミド素材由来による利点】
図 7 アラミド ナノファイバー不織布
b アラミドナノファイバー製セパレータ サンプル
分野で築き上げた高い技
開催の最中の 2013 年 1
図 8 耐熱性の比較:TMA(熱機械分析)測定による熱収縮特性
アラミドナノファイバーセパレータをポリエチレン膜と比較
開発品は 280℃程度まで熱収縮率は 1% 未満
以上のような特長により,特に大容量
ダ・アーネム市)がライ
化,高エネルギー密度化の要求の高い次
ス大学(米国テキサス州ヒューストン市)
世代自動車用や大型の蓄電用定置型リチ
などと行ってきた共同研究成果である
ウムイオン電池のセパレータをターゲッ
[3].湿式液晶紡糸法による CNT 繊維の製
山三枝," 毎日を変えるナノテク素材
トとしている.
造技術に関するもので,開発された CNT
「 ナ ノ フ ロ ン ト 」"Fiber 65(9), 341,
■ 耐熱性極細繊維不織布
100% の繊維は金属ワイヤーと同等の電気
上述のナノファイバーの直径を約一桁
伝導性,および金属ワイヤーを凌駕する熱
太くした 1,000 ∼ 2,000nm の耐熱性ポリ
伝導性を持ち,かつ,高い強度としなや
Dmitri E. Tsentalovich, Olga
マーによる不織布も同時に開発している.
かさを有しており,今後の応用が期待さ
Kleinerman, Xuan Wang, Anson
耐熱性,難燃性,耐薬品性等の特長は同
れる.帝人の研究開発戦略のなかでも謳っ
W. K. Ma, E. Amram Bengio,
様である.目付,厚み,空隙率などの調
ているオープンイノベーションを垣間見
Ron F. ter Waarbeek, Jorrit J. de
整可能な多様性がある.用途は,耐熱フィ
る出来事であった.ナノファイバーが生
Jong, Ron E. Hoogerwerf, Steven
ルター,電池,キャパシター等の蓄電デ
み出すアプリケーションにおける価値創
B. Fairchild, John B. Ferguson,
バイス用のセパレータおよびその基材が
出はまだ始まったばかりであるが,今後,
Benji Maruyama, Junichiro Kono,
挙げられている.
ナノテクノロジーが我々の生活・社会環
Yeshayahu Talmon, Yachin Cohen,
境の進化に貢献する予想外の価値創出に
Marcin J. Otto, Matteo Pasquali,
胸ときめく想いを持った.
"Strong, Light, Multifunctional
むすび
61(2), 62-64, 2012-02-01
[2]
堀川直幹,沼田みゆき,添田剛,神
2009-09-10
[3]
Natnael Behabtu, Colin C. Young,
Fibers of Carbon Nanotubes with
Ultrahigh Conductivity", Science
ナノファイバーという一本の繊維の微
参考文献
細化は,人々の生活の色々な場面で,電
図 6 エアフィルター用不織布の断面写真.拡大率を変えて示す.
6 | nano tech & NanotechJapan Bulletin コラボレーション企画「10-9INNOVATION の最先端」
6116 pp. 182-186 DOI: 10.1126/
池などのエネルギー分野で,また,企業
本文中の図は,全て帝人株式会社より
の現場や航空機・自動車・通信などのイ
提供されたものである.
ンフラで,夢をあたえる多くのアプリケー
[1]
ションの展開に結び付いている.素材の
11 January 2013: Vol. 339 no.
science.1228061.
神山三枝," 高強度ポリエステルナノ
※ 取 材 日:2013 年 2 月 28 日, 所 属・
ファイバーの開発と実用化 " 高分子
役職等はインタビュー当時のものです.
ナノファイバーとその織りなす世界| 7
初出:NanotechJapan Bulletin Vol.6, No.5 2013 発行,http://nanonet.mext.go.jp/magazine/1077.html
< nano tech ⼤賞 2013 IT ・ エレクトロニクス部⾨賞>
⾃⼰組織化リソグラフィ
〜より⾼性能で低コストな半導体の実現を⽬指して〜
株式会社 東芝セミコンダクター&ストレージ社 半導体研究開発センター 東⽊ 達彦⽒に聞く
ンセプトが「トータル・ストレージ・イ
モリ記憶装置)
,NAND 型フラッシュメモ
ノベーション」と「トータル・エネルギー・
リを併せ持つ唯一の企業として,多様化
イノベーション」である.
「トータル・ス
するストレージ需要に応じて,先端技術
トレージ・イノベーション」は ビッグ
を適用した高品質・差異化製品を供給し,
データを効率よく保存し,必要に応じて
「トータル・ストレージ・イノベーション」
出力し適切に処理する機能 を目指す.東
を進める.
芝 は,HDD(Hard Disk Drive, 磁 気 記 憶
NAND 型フラッシュメモリは東芝の半
装置),SSD(Solid State Drive,半導体メ
導体事業をささえる主要製品で,その開
図 3 最小寸法幅
発戦略におけるキーワードの一つが,微
細化技術先行であるという.ここでは,
実 績 豊 富 な FG(Floating Gate)NAND 技
株式会社 東芝セミコンダクター&スト
レージ社 半導体研究開発センター リソグラフィプロセス技術開発部部長
(現:同センター 技監)東木 達彦氏
術の微細化をさらに進め大容量チップの
早期量産化を実現していく.本稿の DSA
はその一端となる.
東芝グループ(以下,東芝)は,nano
微細化技術先行に向け
たリソグラフィ技術の
現状と今後の方向
tech 2013 第 12 回国際ナノテクノロジー
総合展・技術会議で IT・エレクトロニク
ス部門賞を受賞した.受賞理由は「スト
レージとエネルギー分野などの次世代ナ
ノテクノロジーを紹介,(一部省略)
,日
リソグラフィ技術は,マスク原版に描画
本を代表する IT・エレクトロニクス企業
された半導体デバイスの回路パターンを,
のレベルの高さを賞す」である.展示品
シリコンウエーハに転写する技術である.
の中に,最先端の 19nm 微細化プロセス
技 術 に よ る NAND 型 フ ラ ッ シ ュ メ モ リ
半導体デバイスの高性能化・微細化要求
図 1 スマートコミュニティ事業とそれを支える半導体製品
に対応して発展を続けて来たが,主流で
と 10nm 低コスト微細パターン形成に向
あった光リソグラフィによる微細化が理
けた自己組織化リソグラフィ技術があり
論限界に近づき,次世代リソグラフィ技
注目を集めた.自己組織化リソグラフィ
術へのパラダイムシフトが求められてい
(Directed Self-Assembly,DSA)は,塗布・
る.東芝は,露光装置,マスク,OPC(Optical
アニール・現像のみでパターニング可能
Proximity Correction:光近接効果補正)
,
な技術である.
及び DFM(Design for Manufacturability:
今回,東芝でリソグラフィプロセス開
製造容易性設計)など各種要素技術の深
発を統括しておられるリソグラフィプロ
掘りだけでなく,それらを統合した総合
セス技術開発部部長 東木 達彦(ひがし
最適化技術の開発を推進している [1].
き たつひこ)氏を川崎市にある半導体研
図 2 に示す半導体デバイスの製造プロ
究開発センターに訪ねた.
セスでは,シリコンウェーハに塗布した
レジストをマスク露光して回路パターン
を形成する.
リソグラフィ技術の変遷を見ると,光
トータル・ストレージ・
イノベーションに向け
た半導体技術 源は水銀のスペクトル g 線(436nm),i
線(365nm)からエキシマの KrF(248nm),
ArF(193nm)へと短波長化が進んだ.超
東芝は今後の成長事業としてスマート
解像度手法として光近接補正(OPC)が
コミュニティ事業をグローバルに展開し
導入され,露光を屈折率の高い液中で行
ている(図 1).これを実現するためのコ
図 2 半導体デバイス製造におけるリソグラフィプロセスの位置づけ
8 | nano tech & NanotechJapan Bulletin コラボレーション企画「10-9INNOVATION の最先端」
う液浸(immersion)露光になった.さら
図 4 ジブロックコポリマーの相分離イメージ
自己組織化リソグラフィ| 9
にこれに続くものとして,EUV(Extreme
ントリソグラフィなどが模索されている.
で,二つのポリマーの相溶性が低い場合,
Ultra Violet,波長 13.5nm)が期待されて
DSA は 長 期 ビ ジ ョ ン の 開 発 課 題 と し て
ポリマー間の反発によりミクロな領域で
いるが光源の開発が遅れており,あいだ
ITRS(International Technology Roadmap
相分離し,熱処理などにより規則的な周
を埋めるものとして,露光を反復して解
for Semiconductors)にも今年から記載さ
期構造を形成する.そしてエッチングに
像度を高めるダブルパターンが利用され
れている.
より一方のポリマー成分だけを選択的に
るようになった.この結果,図 3 のよう
除去することで,基板に微細加工を施す
に最小寸法幅 19nm のパターン形成が可
ためのレジストとして用いることができ
能になり,
NAND の量産に適用されている.
インフルエンザウィルスは 100nm,DNA
自己組織化リソグラ
フィ技術の開発
は 2nm,半導体加工の 19nm はその中間
る.
代表的なジブロックコポリマーの一
つであるポリスチレン - ポリメチルメタ
にある.ダブルパターンニングの繰返し
東芝における DSA の研究発表は 2002
ク リ レ ー ト(PS-PMMA:Polystyrene-
で 1/4,1/8 に 微 細 化, さ ら に, ス リ ミ
年の磁気記録媒体ナノ加工技術に遡る [2].
Polymethylmethacrylate)を用いて形成し
ングで 1/2 に出来るが,数百工程を要し,
東木氏は 2005 年ごろから半導体への適
た自己組織化パターンの形成過程と原子
これがコストを高める要因となっている.
用を考え,その後,内外で多くの発表が
間力顕微鏡(AFM)像を図 4 に示す.形
このため,今までの微細化一辺倒の開
なされている [3][4][5].
成された相分離構造は規則的な繰返しパ
発から低コストリソグラフィへのパラダ
DSA は自然界に存在するナノメートル
ターンである.
イムシフトが求められるようになった.
レベルのパターンに見られる自己組織化
この相分離構造は,二つのポリマーの
このための次世代リソグラフィ技術の候
という現象を用いる.自己組織化材料の
組成比により,スフィア,シリンダ,ラ
補として,本稿の主題である 自己組織
一つであるジブロックコポリマーは,2 種
メラ等の特異的な形状を呈する.またそ
化(DSA)リソグラフィ やナノインプリ
類のポリマーが化学的に結合した高分子
の繰返しのサイズは分子量に依存するた
め,目標のサイズや形状にポリマー材料
図 7 リソグラフィによる新市場の開拓
を合わせることができる.ジブロックコ
ポリマーの薄膜を基板に塗布し,一方の
図 5 化学ガイドによるラインピッチの微細化
ポリマーを除去して凹凸構造を基板表面
術である.ガイド溝幅の数分の 1 のライ
その上にジブロックコポリマーを塗布・
中にはパターン形成を必要とするものは
に形成し,それをエッチングテンプレー
ンを形成出来る.
加熱・エッチングするだけでガイドパター
多く,この様な分野にも積極的に参入し
トとすることで基板にホールやラインの
化学ガイドは,ジブロックコポリマー
ンの数分の 1 の規則正しいパターンを形
て行き,新市場を創出したいとのことで
パターンを転写できる.
が性質の異なる二つのポリマーから成る
成できる技術である.微細なパターンを
あった.
一方,半導体デバイスは精密に設計さ
ことを利用して,基板の上に一方のポリ
生産性よくローコストで実現でき,半導
れた電子デバイスであるため,自然現象
マーに親和性の高いエリアを作成し整列
体事業にパラダイムシフトを起こさせる
を人工的デザインへとどのように応用す
のガイドとする方法である(図 5).この
ポテンシャルを持つ.
るかという課題がある.そこであらかじ
基板にジブロックコポリマーのポリマー A
め基板にプレパターンを従来の光リソグ
を塗布すると,光リソグラフィで作成さ
ラフィで形成しておく.この意味で自己
れた親和性の高いエリアにポリマー A が
組織化リソグラフィは,従来技術または
ピン止めされるため,基板に形成された
これからの EUV リソグラフィ技術と補完
プレパターンに従い整列したパターンが
DSA 技術は,図 6 に示したコンタクト
術の動向と東芝の取組み」, 東芝レ
しあう.プレパターンの形成には,物理
できる.ガイド溝幅の数分の 1 のライン
ホールの縮小は実用化の域に達している
ビュー , Vol.67, No.4, p.p.2-6 (2012)
ガイド,化学ガイドが用いられる.
を形成出来る.
が,克服すべき課題が多くある.例えば
物理ガイドは基板にレジストで凹凸状
DSA によるパターンの縮小例として,
プロセス制御のための DSA 材料のシミュ
ノテクノロジー テラビット磁気記
のガイドを光リソグラフィで作成し,ガ
半導体デバイスの基本形状の一つである
レーションには,nm サイズのパターン
録媒体を実現する新しいナノ加工技
イドに沿って自己組織化の成立を促す技
コンタクトホールの直径を,DSA を用い
を形成するのであるから,分子の大きさ,
術」,東芝レビュー,Vol.57, No.1,
て縮小するプロセスを図 6 に示す.光リ
散逸力,反発力,スプリング力,ブラウ
pp. 13-16 (2002)
ソグラフィで形成したレジストホールに
ン運動等を考慮しなければならない.し
ジブロックコポリマーを塗布し熱処理を
かし,10m2 の領域をシミュレートする
すると,レジスト材料と親和性の高い組
場合,現在の計算レベルでは数年の時間
成(図ではポリマー A)が壁面に,親和
を要する.精度を落とすことなく 10m2
性の低いポリマー B が中央部に相分離す
の領域を 1 分以内に計算できるようなハー
た自己組織化リソグラフィ技術」,東
る.ポリマー B のエッチング耐性が低いと,
ドウェア,ソフトウェアの開発が必要で
芝レビュー,Vol.66, No.10, p.p.60-61
エッチングによりポリマー B が選択的に
ある.DSA をとりまくインフラ,個々の
取り除かれ光リソグラフィで形成したコ
技術確立に関し多くの課題があるが,大
ンタクトホールより直径の小さなホール
学,国公立研究機関,材料・装置メーカ
Lithography Technology using
が形成される.直径 300mm ウェーハ全
一等々と連携して,一つ一つ克服してい
Directed Self Assembly", NGL
面にこの技術を適用したとき,72.1nm の
く意欲を東木氏は語られた.
Workshop, July 16, 2013
コンタクトホールを 28.5nm に縮小出来
当面,DSA 技術は半導体分野において
ている.ばらつきも小さい.
予測される路線に沿って技術開発を進め,
※ 取 材 日:2013 年 7 月 17 日, 所 属・
以上述べてきたように DSA は,従来リ
社会ニーズに対応し市場規模を拡大して
役職等はインタビュー当時のものです.
ソグラフィでガイドパターンを形成し,
行く(図 7)
.また,半導体以外にも世の
参考文献
本文中の図は,全て東芝より提供され
おわりに
たものである.
[1]
[2]
[3]
東木達彦 ,「半導体リソグラフィ技
平岡俊郎,浅川鋼児,喜々津哲,
「ナ
木原尚子 ,「自己組織化リソグラフィ
技術」, 東芝レビュー,Vol.67, No.4,
p.p.44-47 (2012)
[4]
服部繁樹,
「化学修飾によって制御し
(2011)
[5]
Seiji Morita, "Next Generation
図 6 DSA によるホール縮小イメージ
10 | nano tech & NanotechJapan Bulletin コラボレーション企画「10-9INNOVATION の最先端」
自己組織化リソグラフィ| 11
初出:NanotechJapan Bulletin Vol.6, No.6 2013 発行,http://nanonet.mext.go.jp/magazine/1089.html
< nano tech ⼤賞 2013 材料 ・ 素材部⾨賞>
カーボンナノチューブ紡績技術の開拓
静岡⼤学⼯学部准教授 井上 翼⽒,JNC ⽯油化学株式会社 中⻄ 太宇⼈⽒に聞く
左 か ら 静 岡 大 学
工 学 部 井 上 翼 氏,
JNC 石 油 化 学 株 式 会
社 中西 太宇人氏
nano tech 2013 第 12 回国際ナノテク
ノロジー総合展・技術会議においてカー
研究の狙い
ボ ン ナ ノ チ ュ ー ブ(Carbon Nanotube:
にたいして連続結晶を作製しやすい特徴
ている.CNT の長さは 4.4mm 以上で世界
を持っており,大型素材実現に向けて挑
でもトップレベルとのことである.図左下
戦すべき技術であると考えた.
の写真は CNT アレイの断面写真で,CNT
CNT については極めて多くの研究開発
が極めて高密度に基板に垂直に整然と並
が行われている.その適用分野は電気特性
んでいることが分かる.図下右は CNT の
を活用するものが一番多く,続いて熱特性,
拡大写真で,この CNT の直径は 40nm よ
構造特性に関するものが多い.また,その
りやや大きい程度である.これらの特徴
形状は現在のところ粉末状の CNT を溶媒
はいずれも優れた紡績性を実現する上で
に分散させたものが大部分である.期待さ
の重要因子であると説明された.
れる応用分野としては表 1 に示す用途が
ラマン散乱による結晶品質の評価結果
挙げられている.この中で透明導電材料は
では,グラフェン結晶に起因するピーク
すでに産業に近いところにきている.
と欠陥に起因するピークの強度比が 3 以
井上氏はこうした動向に対して CNT の
上であった.これはミリメートル級垂直
機械的特性に着目した研究を行っている.
配向の CNT アレイとしては大変高い値で
CNT の長さ方向の特徴を活かすとしても,
あり,製作した CNT の結晶品質の高さを
CNT 単結晶の長さには限りがあり,仮に
示している.この原因の一つは結晶成長
長くできたとしても成長時間を考えれば実
温度が 830℃と比較的高いことによるも
用にはならない.井上氏は CNT を繋いで
のと推定している.また,CNT の成長速
nano tech 2013 で注目された CNT 紡績
長くすることを考えた.それを撚って糸に
度は 100m/min を超える高速が実現し
る中で一際目立つ新しい CNT 応用展開技
技術とは基板上に垂直に密集して成長し
すれば,機械的,電気的,熱的特徴を持つ
て い る. 図 3 は CNT の 合 成 時 間 と CNT
術の展示があった.SHJ コンソーシアム
た CNT アレイから横方向に CNT ウェブを
軽量でフレキシブルな素材として,産業界
アレイの高さの関係を示すデータである.
(2012 年∼ 2015 年に活動)による展示
引き出す技術である.図 1 に示すように,
で広い応用分野があると予想される.
データの勾配である成長速度は合成に関
であり,総合展では材料・素材部門賞を
井上氏は手にした基板上の CNT アレイか
わる諸条件の設定でより早くも遅くもで
獲得した.
らピンセットでつまんで CNT ウェブを引
きるが,一番長尺にできる成長速度を実
今回,SHJ コンソーシアムで中核技術を
き出して見せて,この CNT に取り組んだ
CNT)に関する多くの展示が競い合ってい
長 尺, 高 紡 績 性 CNT
アレイ
図 2 長尺,高紡績性 CNT アレイ(提供:井上氏)
験 的 に 決 定 し 100m/min と し て い る.
なお,CNT の長さの限界は触媒の活性度
開拓された静岡大学大学院工学研究科電子
理由から説明をスタートした.
物質科学専攻 准教授 井上 翼(いのうえ よ
CNT を取り上げた理由はその素材の秀
く)氏,実用化開発を担当している JNC
でた可能性にある.sp2 系(グラファイト
井上研究室で独自の塩化鉄 CVD 法によ
長が止まるものもあるので,多少高さの
石油化学株式会社市原研究所 中西 太宇
系)炭素の結晶は,電気特性・熱特性・
り作製した多層 CNT(MWCNT)アレイ
ばらつきがある.楕円で囲った領域が紡
人(なかにし たうと)氏を,浜松市にあ
機械特性のすべてに優れるスーパーマテ
を図 2 の写真に示す.金属触媒として塩
績に適した領域である.
る静岡大学工学部の井上研究室に訪ねて,
リアルであり,単結晶で大型素材(例え
化鉄を用い,長尺の多層 CNT アレイが高
nano tech 2013 に展示された技術の詳細
ばケーブルなど)を形成できれば世の中
密度・高速で合成されるように工夫して
を伺った.
の多くの材料を炭素で置き換えられる.
作製されている.図 2 の上の写真は Si 基
そうした観点でみると,CNT は長軸方向
板上に CNT が垂直配向した様子を俯瞰し
により決まり,アレイの中には早めに成
図 3 MWCNT の成長時間と垂直成長の高さ(提供:井上氏)
CNT アレイからの紡績
上述の CNT アレイの側面をピンセット
でつまんで横にひっぱると,図 1 に示し
表 1 CNT に期待される用途 (NEDO ホームページより)
たように CNT ウェブが引き出される.こ
のウェブは基板上に CNT がある限りエン
ドレスに続く.即ち基板上に垂直に配列
していた CNT が横方向に配列することに
なる.図 4 はその引き出し状況を拡大し
て観察した写真である.図 5 は CNT が繋
がって引き出される原理を模式的に示し
ている.高密度な CNT アレイでは林立す
る一本一本の CNT 間にファンデルワール
ス力が働いており,バンドル化されてい
る.これをアレイの端を摘まんで水平に
引き出すと,図 5 に示すように,根元と
頭部から交互に引き裂かれるようにして
図 1 基板上の CNT アレイから CNT ウェブを引き出す
12 | nano tech & NanotechJapan Bulletin コラボレーション企画「10-9INNOVATION の最先端」
次々にバンドル化した CNT がファンデル
図 4 CNT アレイ側面からのウェブの引き出し状況(提供:井上氏)
カーボンナノチューブ紡績技術の開拓| 13
ここ 2 年,CNT 間結合技術に関する新た
な研究が注目されだしている.その結合
方法としては次の 2 つがある.
(1)官能基等を利用した結合剤による化
学的手法
(2)高圧・高温環境下での物理的方法
図 5 CNT ウェブが引き出されるメカニズム(提供:井上氏)
その他に,CNT- 樹脂,CNT- 金属などの複
合化も検討課題である.
CNT 間結合が達成されて機械的強度が高
まると,次には CNT 結晶欠陥が紡績糸の
破断の原因となる.これに対しては,CNT
アレイ作製における CNT 結晶品質の向上
が重要となると井上氏は CNT 紡績糸の今
後の機械的強度の改善課題を総括した.
図 7 CNT ウェブを巻き取ったドラム(提供:井上氏)
CNT シートへの展開
CNT ウェブはそのまま巻き取
れば CNT シートになる.純粋に
CNT だけが一方向に配向しファ
ンデルワールス力だけで結合して
いるシートである.図 7 の写真は,
CNT ウェブをドラムに巻き取った
CNT シート(横幅 1m ×縦 1 ロー
図 6 CNT ウェブを引出し,撚りをかけ,紡績糸にする.(提供:井上氏)
ル 2m)
で,
展示室に置かれていた.
図 8 に CNT ウェブから作製した
CNT シートの例を示す.ウェブを
ワールス力でくっついたまま束になって
終わった紡績糸である.こうして撚られ
水平方向に引き出されていく.なお,引
た糸は,CNT ウェブ中のテンションが小
き出す速度は高速化が可能で 10m/sec に
さいので,撚りがやや甘い.引張強度を
も追随すると云う.
強めるためには,追撚を行う.これによ
これまで世界で 5 つくらいの研究機関
て 引 張 強 度 60 ∼ 80MPa, ヤ ン
この現象を始めに発見したのは中国北
り CNT の充填率が高まり,CNT 間のファ
の研究チームが CNT 紡績糸の研究を行っ
グ率 3 ∼ 10GPa の強い機械特性
京の清華大学の教授 Shoushan Fan 氏のグ
ンデルワールス結合が強化される.
て い る.Los Alamos National Laboratory
を持っているという.
ループで 2002 年に Nature に論文を発表
結晶に欠陥が無い場合の CNT 自身の強
(米国)
,Tsinghua University( 清 華 大
研究としては現在さらに
している [1].その後このグループはこれ
度は紡績糸の強度より桁外れに大きく,
学, 中 国 )
, 大 阪 大 学,CSIRO(The
CNT 技 術 と CFRP(carbon-fiber-
を透明化したものを作り(CNT を細くし
この紡績糸の引張強度は CNT 間のファン
Commonwealth Scientific and Industrial
reinforced plastic:炭素繊維強化
たり,バンドルを小さくするなどにより
デルワールス力による結合力によるもの
Research Organization)Materials Science
プラスチック)技術を融合した
透明になる),CNT の網目を形成して透明
である.引張荷重は,一つの CNT の表面
and Engineering(オーストラリア)
,The
超軽量高強度 CNT 複合材料 CNTRP(CNT
の複合化を図ることを提言している.CNT
of aligned multi-walled carbon
電極 ITO の代替材料を開発した.それを
からこれを囲む隣の CNT の表面にファン
University of Texas(米国)などである.
reinforced plastic)の製造技術を追及して
の機械的,電気的,熱的な特徴をより効
nanotube/epoxy composites
応用して CNT タッチパネルが製造されて
デルワールス力を介して伝搬していく.
各チームとも CNT 紡績糸ではグラフェン
いる [2][3].この研究は,独立行政法人科
果的に活用する道が開けることになり,
processed using a hot-melt prepreg
おり,現在一部のスマートフォンに搭載
CNT 紡績糸の破断メカニズムは糸自身の
構造の高い機械特性は発揮されていない.
学技術振興機構(JST)先端的低炭素化技
高付加価値な機能材料の新しい展開が期
method", Composites Science and
されている.
破断ではなく,ファンデルワールス力が
最近は海外のこの関係の研究も機械強度
術開発(ALCA)プロジェクトにおいて課
待される.
Technology, Vol. 71, No. 6, pp. 1826-
働いている界面が滑って生ずるすっぽ抜
を活かした炭素繊維のような使い方を狙
題「現実的 CNT アプリケーション技術に
けによるものとのことである.
うものは少なくなってきて,機能性を活
よる革新的超軽量強化複合材料量産化技
CNT 紡績糸の機械特性を他の軽量・高
かすセンサーなどのアプリケーションに
術の開発」の一環として行っている.
強度ファイバーと比較してみても,CNT
狙いをシフトする傾向にある.特殊例と
紡績糸はより軽量であるが,機械的特性
しては,炭素繊維や銅線では対応できな
はまだ同じレベルに到達していない.引
い用途として宇宙空間での使用が検討さ
CNT ウェブに撚りをかければ,結合剤
張 強 度 を 高 め る に は, 細 い CNT を 数 多
れている.マイナス 200℃で使う極細線
を使わずに紡績糸ができる.図 6 はその
く束ねることで,接触表面積を多くする
の同軸で小さい曲率で何万回も曲げるよ
CNT の産業応用については,これまで
実験装置の構成図と工程過程の写真であ
と同時に密度を高めることでファンデル
うなアクチュエータ用途である.
は CNT を溶媒に分散させて構造体を形成
る.工程の写真左は基板上の CNT アレイ
ワールス結合度を向上させることが有効
CNT 紡績糸の機械特性の向上にはまず
することが一般的であったが,SHJ コン
から水平に CNT ウェブが引き出されてい
である.これは同時に電気伝導度も熱伝
第一に CNT 間すべり制御機構の改善が重
ソーシアムは CNT 単独で構造体を作るこ
Moon, Yoku Inoue, and Yoshinobu
※ 取 材 日:2013 年 10 月 10 日, 所 属・
る.中央の写真はウェブが撚られている
導度も高めることになる.
要である.前述のような細線化によるファ
と,更には,CNT の構造体と他の材用と
Shimamura, "Mechanical properties
役職等はインタビュー当時のものです.
CNT ウェブを紡績糸に
CNT 紡績糸の作製
状況を上面から観ている.写真右は撚り
14 | nano tech & NanotechJapan Bulletin コラボレーション企画「10-9INNOVATION の最先端」
CNT 紡績糸研究の現状と今後の
課題
CNT の配向をあわせて積層したも
のである.密度が 0.8g/cm3 の軽
量なこのシートは配向方向に対し
図 8 高度一方向配向 CNT シート(提供:井上氏)
1833 (2011).
[3]
参考文献
Wei Liu, Haibo Zhao, Yoku Inoue, Xin
Wang, Philip D. Bradford, Hyungsup
Kim, Yiping Qiu, and Yuntian Zhu,
[1]
おわりに
[2]
K Jiang, Q Li, and S Fan,
"Poly(vinyl alcohol) reinforced with
"Nanotechnology: spinning
large-diameter carbon nanotubes via
continuous carbon nanotube yarns",
spray winding", Composites Part A
Nature. Vol. 419, No. 6909, p. 801
Applied Science and Manufacturing,
(2002).
Vol. 43, No. 4, pp. 587-592 (2012).
Toshio Ogasawara, Sook-Young
ンデルワールス力の強化も必要であるが,
カーボンナノチューブ紡績技術の開拓| 15
初出:NanotechJapan Bulletin Vol.6, No.3 2013 発行,http://nanonet.mext.go.jp/magazine/1047.html
< nano tech ⼤賞 2013 プロジェクト部⾨賞>
プリンテッドエレクトロニクス時代実現に向けた
材料・プロセス基盤技術の開拓
NEDO プロジェクトプロジェクトリーダー 東京⼤学教授 染⾕ 隆夫⽒に聞く
これまでのエレクトロニクスの進化の
続生産の技術ではない.今回のプロジェ
方向は,半導体素子の高速化や高集積密
クトは,参加企業,研究機関が力を合わ
度化によるシステムの高性能化や大記憶
せて連続して柔らかい電子回路を生産す
容量化であったが,近年柔らかい電子回
る技術を確立し,その各種アプリケーショ
課題 2:1 枚目は印刷できても 2 枚目はか
Printed Electronics Technology
路,人間にとって親和性の高いユーザー
ン展開を狙っている.
すれてしまうという問題の解決.
Research Association)[3] が受託し,
(問題点)判子の技術が良くない,あるい
インタフェースに対する期待が高まって
は装置の安定性が悪い.
いる.
しかし,新しい時代をもたらすものと
して期待されるフレキシブルエレクトロ
プリンテッドエレクト
ロニクス実用化の課題
ニクスはまだ本格的に実用化されたもの
東京大学 工学系研究科 電気系光学専攻
教授 染谷 夫氏
図 1 試作した高反射型カラー電子ペーパーの動作メカニズムを示す構成図 (提供:
(株)リコー)
集中研究方式でつくばの施設で研究
開発を推進している.実施期間は平
(解決スキーム)印刷装置あるいは印刷部
成 22 年度∼ 27 年度である.また
材に検討を加えて連続印刷してもかすれ
JAPERA から再委託を受けた大学 /
ることが無いような製造手法を確立する.
機関が評価技術等について研究開発
の一部を担当している.助成事業は
はないのが現状である.これまで発表さ
フレキシブルな電子回路を連続生産で
れている多くは,一品ものの「工芸品」
きる技術にするために解決すべき 3 つの
課題 3:大面積かつ低コストでなければい
平成 23 年度に開始し,株式会社リ
であって残念ながら連続的に生産できる
大きい課題があると染谷氏は語る.
けない.
コー,凸版印刷株式会社および大日
「工業製品」ではないと染谷氏は語る.
(問題点)大きな面積をかすれずに一様に
本印刷株式会社の 3 社がテーマを
これを受けて,今回,NEDO の支援のも
課題 1:柔らかい基板の上に要求される精
つくることは容易ではない.特に,電子
決めて自社製品の平成 27 年度まで
とで行うプロジェクトの狙いは,工芸品
度でパターンを重ね合わせて行くこと.
回路の場合にはインクジェット,グラビ
の実用化に挑戦している.
を試作する技術ではなく,
「工業製品を連
(問題点)プラスチックのように熱を加え
ア,フレキソ,スクリーンなどの印刷法
委託事業では,
NEDO(独立行政法人 新エネルギー・
続して生産できる技術」を確立すること
ると伸びるような材料の上に,例えばト
を適材適所に使い分けて組み合わせてい
①印刷技術による高度フレキシブル
産業技術総合開発機構)プロジェクト「次
である.生産にあたっては,低コストで
ランジスターであればゲート金属層,絶
る.スクリーン印刷は厚膜の形成が得意
世代プリンテッドエレクトロニクス材料・
特に CO2 の排出が少なく環境に優しいこ
縁膜層,半導体層,金属層,更に表面表
で電極へのバス配線のような抵抗を下げ
②高度 TFT(薄膜トランジスター)
プロセス基盤技術開発」は,2013 年 1 月
とが要求される.プロジェクトとしては
示体と接続するためには層間絶縁膜,画
たい箇所に適用する.インクジェットは
アレイ印刷製造のための材料・
30 日∼ 2 月 1 日に東京国際展示場で開催
印刷技術を活用することで,この条件を
素電極等,合計 7 ∼ 8 層を重ねる.これ
流動性があって絶縁膜のように薄くて平
された nano tech 2013 国際ナノテクノロ
満たすことを考えた.印刷技術によるデ
を柔らかい素材の上に精密に重ね合わせ
坦性を必要とするものに適している.ま
が大きな研究開発項目である.
ジー総合展の最終日に行われたナノテク
バイス・回路の製作は国内外の企業で試
て行くことは非常に難しい.
た高純度の層を作るのに適している.印
本プロジェクトの特徴は,27 社
大賞表彰式において,プロジェクト部門
みられているが,依然として一品もので
(解決スキーム)低温プロセスが可能な材
刷性を高めるには樹脂を加えて粘度を調
(2013 年 4 月 1 日現在)に産業技
賞を受賞した [1].表彰理由は「産学官を
あり,最初の 1 頁目はよくても,2 頁目,
料の開発.低温化すれば基板が伸びたり
正するが,樹脂を混ぜることは電気特性
術総合研究所が加わるという大変多
結集して印刷法で電子素子を作る技術を
3 頁目ではかすれるなどの劣化が起こり連
することがなく重ね合わせが楽になる.
を損なうことになる.インクジェットの
くの,それぞれに強みを持ち,最初から
パーの開発を課題として取り組み,シア
実用化させる研究開発体制を整備し,曲
場合は樹脂を混ぜる必要がなく高純度が
すでに高いレベルにある企業・機関の集
ン・マゼンタ・イェローの 3 原色を重ね
げられる電子ペーパーや圧力センサの開
保てる.一方,インクジェットはシリア
まりであることであり,また,インク材料,
ることで色を再現し,表 1 に示すように
発など,新市場創出に貢献する技術を生
ルに付けて行くので,大面積の場合付け
印刷プロセス,印刷装置,アプリケーショ
色再現範囲,反射率,コントラストが秀
み出そうとしている活動を賞す.
」とのこ
た先から乾いていき不均一が発生すると
ンという異なる分野の専門家の集まりで
でた技術を開発した.低温製膜技術,積
とである.
いう問題がある.以上のようにすべての
もあり,垂直連携的プロジェクトを形成
今回,このプロジェクトのリーダーで
印刷法を改善していく必要がある.
している.
表 1 プロジェクト試作品のカラー表示性能 (提供:(株)リコー)
ある東京大学 大学院工学系研究科 電気系
(解決スキーム)こうした不均一性を改善
工学専攻 教授 染谷 隆夫(そめや たかお)
するために,課題 2 の場合と同様に印刷
氏を本郷の研究室に訪ね,お話を伺った.
部材や印刷装置を検討し改善することに
なる.
電子基板の連続製造技術開発
プロセス技術開発
図 2 3.5 インチパネル(113ppi)の表示画像
フェルメール「真珠の耳飾りの少女」
(提供:
(株)リコー)
層コーティング技術を開発しており,PET
(ポリエチレンテレフタレート)などの
フィルム基板を採用可能で軽量化と低コ
ストが実現できる.
製品化に向けた助成事
業の計画と進捗
試作品は,図 1 右に示すように,電圧
印加により透明な消色状態から鮮やかな 3
原色を発色し電源を切っても発色状態が
プロジェクトの背景と
狙い
プロジェクトの構成と
特徴
染谷氏は,この NEDO プロジェクト [2]
3 件 の 助 成 事 業 の 活 動 状 況 が,nano
一定時間保持される新規開発のエレクト
tech 2013 に展示された.
「高反射型カラー
ロクロミック(EC)化合物を発色層とし,
電子ペーパーの開発」
,「大面積軽量単色
図 1 左に示すように透明電極層と 3 原色
電子ペーパーの開発」および「大面積圧
に対応する発色層を積み重ね,TFT のス
はスタートしてから現在 2 年であり,こ
本 NEDO プロジェクトは,委託事業と
力センサの開発」であり,以下にそれら
イッチにより任意の層の任意の画素を発
の時点で nano tech 2013 の賞を受けたこ
助成事業から成り立っている.委託事業
の概要を紹介する.
色させるように構成したものである [4].
とについて,今後の励みになるとの前置
は平成 22 年度の補正予算でスタートし
きのあと,次のようにプロジェクトを立
て,次世代プリンテッドエレクトロニクス
ち上げた背景と狙いを述べられた.
技術研究組合(JAPERA:Japan Advanced
16 | nano tech & NanotechJapan Bulletin コラボレーション企画「10-9INNOVATION の最先端」
図 2 は試作品パネルの表示画像例であ
(1)高反射型カラー電子ペーパーの開発
(株)リコーは,高反射型カラー電子ペー
る.3 種類のディスプレイを重ねる方式と
比較して基板の数が 3 分の 1,電極の数
プリンテッドエレクトロニクス時代実現に向けた材料・プロセス基盤技術の開拓| 17
が 2 分の 1 になり部品コストの低減,薄
プロセスステージへ移行して,プロセス
面積圧力センサを開発する.プロジェク
型軽量化,明るさの向上を実現している.
の再現性向上,タクトタイムの短縮,製
ト計画における平成 27 年度末の目標は,
今後の方針は,プロジェクト計画の平
品の信頼性向上を目指すとのことである.
1mm 角あたり 1 素子の密度で形成した
TFT アレイの特性(移動度および閾値電圧)
成 27 年度末までの達成目標である反射率
50% 以上で,
対角 10 インチのカラー(512
(3)大面積圧力センサの開発
の ば ら つ き  < 5% で,10Hz 相 当 以 上
色)のパネルを印刷法によりフィルム基
大日本印刷(株)は大面積圧力センサ
で連続駆動が可能なメートル級の大面積
板上に作製し,工業的に製造が可能であ
の開発の課題に取り組んでいる.印刷技
TFT シートを試作すること.さらに,こ
ることを実証する.
術による高度フレキシブル TFT アレイ製
れを背面基板に用いた圧力センサーシー
また,将来技術として低コストで大面
造技術により,情報入出力をリアルタイ
トを試作し,実用の可能性を実証するこ
積対応が可能な Roll to Roll のプリンテッ
ムで処理可能な大面積 TFT シートの製造
とである.
ドエレクトロニクス技術(図 3)の確立を
技術を確立し,製作された大面積 TFT ア
圧力センサの構成と動作原理を,電子
目指すとしている.
レイ上に圧力素子を実装することで,大
ペーパーと比較して図 6 に示す.ゲート
(2)大面積軽量単色電子ペーパーの開発
凸版印刷(株)は大面積軽量単色電子ペー
パーの課題に取り組んでいる.低解像度か
ら中解像度のフレキシブル TFT 基板を完
全印刷する技術で,安定かつ連続的に製造
する技術の開発を進めている.平成 27 年
図 6 電子ペーパーと圧力センサの情報出力デバイスとしての動作原理 (提供:大日本印刷(株)
)
度末の目標は,A4 サイズのフィルム基板
上に 120ppi 以上の解像度を持つ TFT アレ
電圧②を入力した TFT のドレイン⑪に電
イ基板を 1 枚当たり 3 分以内の製造タク
圧を印加するとゴムの抵抗⑩に対応する
ト時間で作製し,さらにこの TFT アレイ
ドレイン電流が流れるが,ゴムに圧力が
と表示部を組み合わせたパネルを作製し,
加わるとその抵抗が下がるので,ドレイ
軽量単色電子ペーパーが工業的に製造可能
ン電流の増加が検出される.シート上の
であることを実証することである.パネル
TFT を掃引してゲート電圧を加えドレイ
の重量は 40g 以下を達成する.
nano tech 2013 の展示では図 4 に示す
図 3 表示部の全印刷 Roll to roll プロセス図 (提供:(株)リコー)
ン電流を測定することにより,シート表
面の圧力分布を観測することが出来る.
様に,レイヤー毎に印刷プロセスを使い
今後の予定は,図 7 に例を示すような
分け,TFT の構成要素全てをプラスチッ
人々の生活やヘルスケア分野の大面積圧
ク基板上に印刷形成し,電子ペーパーの
力センサの実現の可能性を実証するとの
駆動に成功したことを報告している.図 5
ことである.
は解像度を変えて作成した電子ペーパー
の写真である.
この印刷法によるプロセス工程は,一
おわりに
つのパターン形成は 印刷 / 焼成 の 2 ス
図 7 大面積圧力センサの適用分野の例
(提供:大日本印刷(株))
テップで済み,従来のフォトリソグラフィ
印刷に関わる材料,プロセス,製造装
法の 成膜 / レジスト塗布 / 露光 / 現像 /
置の各分野の多くの一流の企業が集結し
エッチング / 剥離 の 6 ステップに比べて
産総研,大学も加わって目標に向かって
大幅な工数削減によりスループットが向
力を出し合う,日本だから出来る産学官
イジェスト http://www.youtube.
フルカラー電子ペーパー表示技術
上する.
連携プロジェクトである.これまで実現
com/user/nanotechICS
の開発 ",Ricoh Technical Report
今後の計画としては,フレキシブル TFT
しなかったプリンテッドエレクトロニク
次世代プリンテッドエレクトロニ
No.38, pp, 22-29 (2012.12). http://
スの工業化が可能となり,新しい時代が
クス材料・プロセス基盤技術開発
www.ricoh.co.jp/about/company/
展開されることを期待する.
http://www.nedo.go.jp/activities/
technology/techreport/38/pdf/
ZZJP_100030.html
RTR38a02.pdf
アレイ作製を研究開発ステージから量産
図 4 TFT を構成する各レイヤーに応じた印刷方法を開発 (提供:凸版印刷(株)
)
[2]
[3]
参考資料
[4]
[1]
次世代プリンテッドエレクトロニク
ス技術研究組合 http://japera.or.jp/
※ 取 材 日:2013 年 4 月 23 日, 所 属・
平野 成伸,内城 禎久,岡田 吉智,
役職等はインタビュー当時のものです.
nano tech 2013 第 12 回国際ナノ
辻 和明,金 碩燦,匂坂 俊也,高
テクノロジー総合展・技術会議 ダ
橋 裕幸,藤村 浩,八代 徹," 新規
図 5 解像度を変えた TFT アレイによる電子ペーパー (提供:凸版印刷(株))
18 | nano tech & NanotechJapan Bulletin コラボレーション企画「10-9INNOVATION の最先端」
プリンテッドエレクトロニクス時代実現に向けた材料・プロセス基盤技術の開拓| 19
初出:NanotechJapan Bulletin Vol.7, No.2 2014 発行,http://nanonet.mext.go.jp/magazine/1119.html
< nano tech ⼤賞 2014 >
ナノアロイ ® による新素材の創出
東レ株式会社 化成品研究所 樹脂研究室 ⼩林 定之⽒に聞く
レベルで制御する技術を次のようにして
開発した.
例として耐薬品性,高成形性の結晶性
プラスチック PBT(ポリブチレンテレフ
タレート)と耐衝撃性,高寸法精度の非
図 2 共連続構造型の PBT/PC ナノアロイ ® の構造
結晶性プラスチック PC(ポリカーボネー
ト)とをアロイ化する場合をとりあげる.
先ず,剪断力の働いている押出機内で,
(写真左)
nano tech 2014 実行委
員会 川合 知二 委員長と東レ 常務
取締役 出口 雄吉 研究本部長
(写真右)
東レ(株)化成品研究
所 樹脂研究室 小林 定之氏
両ポリマーを分子オーダーで均質に溶け
た融体にする.そして,不均一系に相転
移しないように,口金を出た直後で急冷
して構造を凍結し,両ポリマーが分子レ
ベルで結合した状態を保つ.一方,X 線
散乱構造解析の結果を基づいて,両ポリ
標登録している.
マーの化学構造と特性に適合する親和性
nano tech 2014 国際ナノテクノロジー
積が成されてきた.ポリマーは,数万∼
総合展は,
「"Life & Green Nanotechnology"
数 10 万個もの分子が結合した高分子であ
改質剤を分子設計し,これを押出時に同
10-9 Innovation」 を メ イ ン テ ー マ に し て
るので,基本的に金属合金(アロイ)の
時投入することで,両ポリマーが数十 nm
2014 年 1 月 29 日∼ 31 日に東京国際展
ようには固溶体は形成せず,ミクロンメー
示場(東京ビッグサイト)で開催された.
ター以下のサイズで混じり合うことはな
その最終日に優れた展示に対する表彰式が
かった.しかし,2000 年前後になって,
行われ,600 を超える出展者の中から東レ
東レによりポリマーの分散を数十 nm レベ
東レにおけるナノアロイ ® の研究・技
この新しい混合手法のものとを比較して,
株式会社が nano tech 大賞に選ばれた.受
ルまで微細化するという新たな動きが出
術開発は,1999 年に当時化成品研究所の
その構造を示す. ナノアロイ ® の場合,
賞理由は「ナノファイバー,導電性フィ
てきた.東レは「複数のポリマーをナノ
所長で理事の井上俊英氏による " 理想的ポ
着色した図は,白で表示した PBT と青で
ルムなど多彩なナノマテリアルに加え,
メートルオーダーで微分散させることで,
リマーアロイ創出を使命とした革新的研
表示した PC の領域が微細かつ均一に入り
DNA チップなどのバイオデバイスも出展.
従来材料と比較して飛躍的な特性向上を
究グループ結成 " に始まる.この分野に精
混じり,それぞれが繋がっている様子を
nano tech の 大 テ ー マ で あ る「 ラ イ フ ナ
発現させることができる独自の革新的微
通した若手の研究者である小林氏がその
示している.
ノテクノロジー」
「グリーンナノテクノロ
細構造制御技術」をテクノロジー・ブラ
担当者となった.種々のプラスチックを
図 3 は PBT/PC が 50/50% の ナ ノ ア ロ
ジー」両分野の研究・技術開発と事業化を
ンドであるナノアロイ ® として定義し,
様々な方法で混合させては顕微鏡で観察
イ ® についての特性評価結果例である.
推進する総合力を賞す」とのことであった.
広い商品範囲で商標登録しており,また,
することを連日繰り返した結果,異種ポ
靱性(粘り強さ)は PC を 100 として各
東レのブースでは多彩な展示品の中の目玉
"nanoalloy" のロゴも作成し,国内外で商
リマー同士を溶け合わし,相構造をナノ
サンプルの値を示している.耐薬品性評価
共連続構造型ナノアロ
イ ® [4][5]
のオーダーで入り混じり連結した構造を
図 3 共連続構造型の PBT/PC ナノアロイ ® の特性上の特長
とる共連続構造型ナノアロイ ® が出現し
た.図2は,従来アロイ化手法のものと,
として,新素材創出の基盤として開拓され
では,元の PBT の曲げ強度を 100 として,
たナノアロイ ® のコーナーが特設されて
クロロホルムに 1 時間浸した後の各サン
いた(ただし,本稿では便宜上,ナノアロ
プルの強度を現わしている.ナノアロイ ®
イ ®[1] を,同社の技術および同技術によ
では混合したにもかかわらず,靱性の劣化
り生み出されたポリマーを指すものとして
が起こらず,さらに,耐薬品性も良好な
表現する.
)
.今回はこのナノアロイ ® に
まま,保たれている.即ち,ナノアロイ ®
焦点を当て,その研究・技術開発を担当さ
により,従来技術では出来なかった PC が
れた東レ株式会社 化成品研究所 樹脂研究
持つ靱性と PBT が持つ耐薬品性を併せ持
室 主席研究員 小林 定之(こばやし さだゆ
つポリマーの実現に成功した.
き)氏に東レ東京本社の会議室で話を伺っ
次に,耐破壊特性として亀裂の伸展状
た.
況の観察を行った.亀裂の入った切片を
図 4 亀裂の伝搬速度測定手法
切り出し透過型電子顕微鏡で調べた結果,
PC や PBT は直線的に亀裂が入るが,ナノ
アロイ ® では亀裂が曲がったり分岐した
東レにおけるナノアロ
イ ® の誕生 [2][3]
りしており,応力が分散されていること
が分かった.更に,亀裂の伝搬速度の測
定を行った.測定法は図4に示すように,
二つのポリマーを混合し,特性の相乗
厚さ 3mm の試験片に設けた切れ込みの先
効果を生みだす試みは 1950 年代から始
まり,図1に示すように,多大な技術蓄
図 1 ポリマーアロイの研究開発動向
20 | nano tech & NanotechJapan Bulletin コラボレーション企画「10-9INNOVATION の最先端」
にクラックゲージを貼り付け,試験片に
図 5 亀裂の伝搬速度測定結果
ナノアロイ ® による新素材の創出| 21
繰り返し引張り力を加え,切れ込みの先
現した.図6は開発した 2 軸押出機の写
ることはない.
間領域が増加し互いに接続する状態にあ
ポリアミド(PA)と反応性ゴムのナノア
に発生する亀裂の進行を測定するもので
真である.この装置は,11 箇所の樹脂温
も う 一 つ の 実 験 は, 引 張 試 験 時 の 温
ることが分かる.ナノアロイ ® に応力を
ロイにより後者が実現された.
ジー>開発ストーリー> nanoalloy
ある.図5はその測定結果で,共連続構
センサー,7 箇所の樹脂圧センサー,6 箇
度 変 化 の 評 価 で あ る. 図 8 に 示 す よ う
加えた場合に,この中間弾性率相の運動
この革新技術の生まれる過程には,関
樹 脂「 ナ ノ ア ロ イ ® 開 発 秘 話 」 造型ナノアロイ ® は従来アロイに比べて
所のサンプリングバルブも装備しており,
に 100mm/ 分 の 低 速 で 引 っ 張 る 場 合 と
性が高いことから応力を分散させ歪みエ
連分野での積み重ねられた経験と,飛躍
http://www.toray.co.jp/technology/
亀裂の進展開始が一桁以上遅いことが分
実験機ならではの機動性,解析性を重視
1000mm/ 分の高速で引っ張る場合につい
ネルギーを吸収する効果を発揮すると考
的発想と,不断の努力があった.技術的な
technology/story/sto_002.html
かる.これは前述の亀裂の形状から推定
した構成になっている.
て従来アロイとナノアロイ ® の表面温度
えられる.このことから図8の実験を考
鍵はナノテクノロジーである.その鍵を
されるように,分散粒子のナノサイズ化
図7はポリアミド(PA)と反応性ゴム
を測定した.低速の場合は温度上昇が若
察すると,高速に力が加えられた場合は,
開く上で重要なのは,計測・評価技術で
クト実用化ドキュメント シリーズ 4
により,亀裂の発生が複雑に変化し,粒
とのナノミセル型ナノアロイ ® の電子顕
干で差は少ない.高速になると,断熱変
その力を広い範囲に分散して吸収するの
ある.小林氏も最近の測定・評価技術の
「高速・強衝撃で柔らかくなるプラ
子間のあちらこちらで,歪が緩和された
微鏡写真である.左の走査型電子顕微鏡写
形により従来アロイでは局部的に高温に
で広い範囲で温度が上がりアロイが柔ら
進歩が革新材料創出を可能にしたと語っ
ス チ ッ ク 」 http://www.nedo.go.jp/
ことによるものであると考えられる.
真ではポリアミドは染色されていて黒く,
なり破断してしまうが,ナノアロイ ® で
かくなるが,低速の場合は発熱しても逃
ている [11].例として放射光 X 線散乱構
hyoukabu/jyoushi_2012/toray/
胡麻塩的に見えるのがミセルである.右の
は発熱は広い範囲に分布し柔軟化するの
げる熱が多いので温度は上がらず,従っ
造解析,3 次元電子顕微鏡,AFM による
3 次元電子顕微鏡 [9] では,写真は見やす
で破断しない.
て硬いままである.
ナノ領域での機械特性評価技術などが挙
くするため白黒反転しているので白がミセ
このようなナノアロイ ® の特異な特長
げられる.そうした諸技術の活用を含め
ルで,奥の方までその存在が分かる.
を理解するため,東北大学准教授中嶋氏
て産学官連携や異分野融合がまた重要な
機械的な特性の評価を,つくばの日本自
の 協 力 を 得 て,AFM( 原 子 間 力 顕 微 鏡 )
役割を果たしている.
異種ポリマー同士が溶け合わない非固
動車研究所の高速大型落錘試験で行った.
を用いた弾性マッピング [10] によるナノ
溶性のポリマー同士でもナノアロイ ® を
試 験 材 料 で 直 径 50mm, 高 さ 150mm,
アロイ ® 構造の機械的評価を行った.そ
ナノアロイ ® 開発の狙いは異なるポリ
実現できるのが,リアクティブプロセッ
厚さ 2mm の筒状のサンプルを作って,こ
の結果を図9に示す.青で示される硬い
マーをアロイ化することで,これまで不
シング技術による微分散構造のナノミセ
の上に重さ 193kg の錘を 0.5m の高さか
ポリアミドの領域と,赤で示される柔ら
可能であった「両者の特長を兼ね備えた
ル型ナノアロイ ® である.2001 年 NEDO
ら落下させる試験である.ポリアミドは
かい反応性ゴムの領域と,その境界に黄
材料」や「全く新たな特性を発現する材料」
本文中の図は,全て東レ株式会社より
of block copolymers in situ-formed
(独立行政法人新エネルギー・産業技術総
簡単に粉砕し,高衝撃ポリアミドでは割
緑の中間弾性率の領域が存在しており,
の実現であった.共連続構造型ナノアロ
提供されたものである.
in reactive blending of dissimilar
合開発機構)の「精密高分子技術」プロ
れが入った.しかし,ナノミセル型ナノ
従来アロイに比べて,ナノアロイ ® の場
イ ® では PBT と PC のナノアロイにより
ジェクトがスタートし,東レは同プロジェ
アロイ ® は潰れることはあっても破壊す
合は反応性ゴムが微細化して分散し,中
前者が,ナノミセル型ナノアロイ ® では
ナノミセル型ナノアロ
イ®
むすび
[2]
[3]
[4]
東レホームページ>東レのテクノロ
NEDO ホームページ,NEDO プロジェ
小林定之,"" ナノアロイ " 樹脂の技
術 開 発 ",JETI, Vol. 56, No. 7, pp.
6-8 (2008).
[5]
小林定之," ポリマーナノアロイ -ポリマーアロイ分野のナノテクノロ
ジー ", 未来材料,Vol. 10, No. 9, pp.
52-55 (2010)
参考文献
[6]
P. Charoensirisomboon, T. Inoue,
and M. Weber, "Interfacial behavior
[1]
polymers", Polymer, Vol. 41, Issue
東レ ナノアロイ ® 特別ウェブサイト
12, pp. 4483-4490 (2000).
http://www.nanoalloy.jp/
[7]
クトで研究テーマ「自動車用構
P. Charoensirisomboon, T. Chiba, T.
造材の開発」に参加した.この
Inoue, and M. Weber, "In situ formed
テーマは,「特異な粘弾性特性
copolymers as emulsifier and phase-
を有する耐衝撃ポリアミド系ナ
inversion-aid in reactive polysulfone/
ノアロイ ® と,耐衝撃性 50kJ/
polyamide blends", Polymer, Vol. 41,
m2 以上かつ現行材料以上の耐
Issue 15, pp. 5977-5984 (2000).
[8]
熱性を有する耐衝撃・耐熱ポリ
P. Charoensirisomboon, T. Inoue and
アミド系ナノアロイ ® を開発す
M. Weber, "Pull-out of copolymer in
る」ことを狙いとしており,山
situ-formed during reactive blending:
形大学大学院機能高分子工学専
effect of the copolymer architecture",
攻 教授 井上隆氏がリーダーで
Polymer, Vol. 41, No. 18, pp. 69076912 (2000)
あ る. 井 上 氏 は 2 種 類 の ポ リ
マーの接触面で官能基同士が化
学反応して結合し,密着強度を
[9]
図 6 開発した L/D が 100 の 2 軸押出機
H. Jinnai, H. Hasegawa, Y. Nishikawa,
G. J. Agur Sevink, M. B. Braunfeld,
D. A. Agard and R. J. Spontak, "3D
高めるリアクティブプロセッシ
ング技術 [6][7][8] に着目してお
図 8 引張試験時の温度変化
Nanometer-Scale Study of Coexisting
り,化学反応溶融混練の時間を
Bicontinuous Morphologies in a
長くし,化学反応物の剪断を繰
Block Copolymer/ Homopolymer
り返すと,反応物が接触面から
Blend", Macromolecular Rapid
遊離し,ミセル化して分散する
Communications, Vol. 27, Issue 17 pp. 1401-1504 (2006).
ことを見いだした.この反応生
[10] T. Igarashi, S. Fujinami, T.
成物の引っ張り特性には異常な
点があり,高速で引っ張った際
Nishi, N. Asao, and K. Nakajima,
に降伏点が現れず破断しないと
"Nanorheological Mapping
いうことであった.このように
of Rubbers by Atomic Force
して " ナノミセル型ナノアロイ
Microscopy", Macromolecules, Vol.
46, Issue 5, pp. 1916-1922 (2013).
®" が誕生した.なお,化学反応
溶融混練の時間を長くするため
[11] 小林定之,"" ナノアロイ " 技術と今後
に,2 軸押出機のスクリューの
の展開(上)-- ポリマーアロイの基礎
長 さ(L)3.77m を 実 現 し, ス
とアロイ化技術の進展 ",月刊プラス
クリューの径(D)との比,L/D
チックエージ,Vol. 60, No. 3 (2014).
を従来の 3 倍の 100 に高めた装
※ 取 材 日:2014 年 3 月 12 日, 所 属・
置を開発することで,このナノ
アロイ ® の研究・技術開発が実
図 7 走査型電子顕微鏡および 3 次元電子顕微鏡による観察
22 | nano tech & NanotechJapan Bulletin コラボレーション企画「10-9INNOVATION の最先端」
図 9 弾性率マッピング(AFM により測定)
役職等はインタビュー当時のものです.
ナノアロイ ® による新素材の創出| 23
初出:NanotechJapan Bulletin Vol.7, No.3 2014 発行,http://nanonet.mext.go.jp/magazine/1126.html
< nano tech ⼤賞 2014 ライフナノテクノロジー賞(最優秀技術賞)>
富⼠フイルムのライフイノベーションに向けた挑戦
〜イメージングから再⽣医療に展開〜
富⼠フイルム株式会社 再⽣医療研究所⻑ 吉岡 康弘⽒に聞く
映画用白黒写真フィルムを国産化し,国
フィルムの売上げは 2008 年には 1/10 以
予防,治療分野へ事業拡
内に産業を育てようという国策の一環と
下に急落した.そこで浮上したのがライ
大を図っており,予防・
してスタートした.そして,事業領域を
フサイエンス分野である.今,富士フイ
診断・治療を総合的にカ
イメージングだけでなく,インフォメー
ルムの目指すのは「総合ヘルスケアカン
バーして事業展開を進め
ション,ドキュメントへと拡大してきた.
パニー」である.図1に示すように従来
て い る [1]. 図 2 に は 富
しかしながら,2000 年を境にして写真
から展開してきた医療診断分野に加えて,
士フイルムのヘルスケア
のデジタル化の進展により,カラー写真
写真フィルムで蓄積した技術を活用して
分野への展開の経緯を示
す.X 線フィルムに始ま
り, 画 像 診 断, 内 視 鏡,
生化学診断などの診断の
図 3 カラー写真フィルムの層構成
分野の事業を長く継続し
富士フイルム株式会社 再生医療研究所長
吉岡 康弘氏
国際ナノテクノロジー総合展・技術会議
(nano tech)は毎年開催され今年 2014 年
てきていたが,写真フィルムの事業が急
癌 細 胞 の DNA 複 製 を 阻 害 す る 抗 癌 剤 と
ない.それを固定するのが足場である.
落する頃から,新たに機能性化粧品,機
して応用できることが分かって,医薬へ
ところが,
「足場」はこれまで十分な研究
能性食品などの予防の分野,更に,医薬品,
の展開も始まった.また,紫外線で色素
がなされていない.一般には動物由来の
再生医療・バイオ医療などの治療の分野
の分子が切れたり,活性酸素で酸化され
コラーゲンやゼラチンを使うが,感染症
の開拓を始めている.2006 年を第二の創
たりすることで起こる退色は,人間の肌
やアレルギーのリスクを冒すことになる.
業の年と位置づけ,こうした活動を本格
に荒れや染みが出来るのと同じ原理であ
コラーゲンについて多くの経験を持つ富
化しており,2013 年 9 月には再生医療研
る.富士フイルムは紫外線や活性酸素に
士フイルムはここに目をつけた.足場材
究所を開設している.
対処する技術を沢山持っているので,こ
料は,細胞を物理的に固定するだけでな
は第 13 回目を迎えた.展示会テーマは第
れをスキンケア化粧品の分野に適用でき
く,細胞に信号を送って,増殖を促したり,
12 回からは Life & Green Nanotechnology
る.さらに,フィルムの中には色素や退
分化を誘導したりする重要な役割を果た
色防止剤などのナノサイズレベルの微細
すものである.しかも安全でなければな
粒子が散りばめられており,その生成や
らない.コラーゲンには 27 種あるが,そ
分散の制御技術のスキルはドラッグデリ
の中で Type-I コラーゲンがヒトの体内に
バリーシステムなどの医薬品分野へ適用
一番多く存在し,骨,皮膚,角膜,腱な
している.
どに見られるので,これを細胞外マトリッ
となった.この展示会で例年注目を集め
ている出展の一つに富士フイルム株式会
社がある.今回の展示会 nano tech 2014
に於いても,期待に違わない展示を披露
し,展示会最終日の表彰式でライフナノ
図 1 「総合ヘルスケアカンパニー」として予防・診断・治療の全領域に事業展開
カラー写真フィルムに
濃縮された高度な技術
蓄積
∼新分野開拓の宝庫∼
テクノロジー賞(最優秀技術賞)を受賞
図3は ISO 800 のカラー写真フィルム
写真フィルムの半分はコラーゲンから
クスの研究開発に採りあげた.
した.受賞理由は「人体の自己再生能力
の断面構造を説明している.左は現像前の
成り立っており,富士フイルムはコラー
図4はヒト I 型コラーゲンから足場材と
を利用し,再生医療に使う高い安全性と
電子顕微鏡写真,右は現像後の光学顕微鏡
ゲンの特性を知り尽くし,その特性を製
するリコンビナントペプチド(RCP:遺伝
効果を発揮する新素材,新技術を使った
写真である.各発色層はコラーゲン / ゼラ
品に活かす技術を培ってきた.この技術
子組み換えペプチド)を創り出す設計過
小型迅速免疫システムを出展,ライフ分
チン,機能性素材粒子,ハロゲン化銀結
は当然化粧品にも適用されるし,次に紹
程を示している.ヒト I 型コラーゲンは 2
野への積極的な活用を目指す点を賞す」
晶などの素材を含み 3 ∼ 4 層で構成され,
介する再生医療への展開の主役でもある.
本の 1 鎖と 1 本の 2 鎖が絡み合った構
とのことであった.
全体では 20 層近くの積層となり,約 20
東京六本木のミッドタウンにある富士
mの厚みの感光層が出来上がっている.白
フイルム本社を訪ね,同社執行役員で再
く広がっているのはハロゲン化銀結晶で,
生医療研究所長の吉岡 康弘(よしおか や
上面から入射する光を吸収できるように
すひろ)氏に,富士フイルムのヘルスケ
平面状に配向されている.分光増感色素を
ア分野での研究開発戦略,とりわけ最先
吸着させた感色性のある光吸収体である.
端の再生医療への取り組みについてお話
露光後に現像液に浸すことで右の光学顕
を伺った.
微鏡写真のように発色する.
富士フイルム株式会社
で進む事業の変貌
富 士 フ イ ル ム の 創 業 は 1934 年 に 遡 る.
当時米国のコダック社から輸入していた
図 2 ヘルスケア分野への展開の経緯
24 | nano tech & NanotechJapan Bulletin コラボレーション企画「10-9INNOVATION の最先端」
造となっている.この絡みを解いて,ア
レルギーを起こす可能性のない 1 鎖を
再生医療分野の「足場」
にターゲット
∼リコンビナントペプ
チ ド(RCP) の 製 造 と
機能評価∼
取り出し,その鎖の中から細胞に対する
吸着力を持つ RGD 配列(アルギニン,グ
リシン,アスパラギンの 3 つのアミノ酸
が配列したもの)を含む部分を複数切り
出す.切り出された部分の 4 個を連結し,
更にこの連結したものを 3 つ連結するこ
このような,写真フィルムの技術の蓄
再生医療には 3 つの大きな要素がある.
とで 12 の RGD 配列を有する部分的鎖が
積は,ライフイノベーションに向けた多
細胞,サイトカイン(細胞が出すタンパ
できる.このように設計されたのが RCP
くのアプリケーションを生み出す宝の山
クやホルモンなど,細胞間シグナル伝達
である.
である.例えば,分光増感色素は平面性
物質)およびスキャフォールド(細胞外
RCP の製造には遺伝子工学を利用する.
の高い分子構造を持つように設計されて
マトリックス)
,いわゆる「足場」である.
設計した RCP の遺伝子配列の DNA を大腸
いる.そのため,DNA の二重らせんの隙
細胞は体の中を流れる血液細胞以外はど
菌プラスミドに組み込んで,酵母の中に入
間に入り込めるので,使い方によっては
こかに固定しないと単独では生きて行け
れ,酵母にタンパクを作らせる.その酵母
富士フイルムのライフイノベーションに向けた挑戦| 25
を培養し,その上澄みを採ることで RCP
を取り出すことができる.
「こうして出
むすび
来た RCP が本当に細胞との接着性がよい
図 4 リコンナントペプチド(RCP)のアミノ酸配列設計
のかどうかは実験して見るまで分からな
富士フイルムは,以上
かった」と吉岡氏は語る.培養皿に RCP
に述べた材料技術に基づ
をコートしたものと,ウシゼラチンをコー
いて図8に示すような再
トしたものを用意し,それぞれに HUVEC
生医療に向けた総合的な
(Human Umbilical Vein Endothelial Cells)
技術の展開を考えてい
細胞を播種して,暫くしてから接着して
る.まず,足場技術とそ
いない細胞を水洗除去したあとの両者を
の加工技術に新しい価値
比較した結果を図5に示す.グラフは接
を生み出していく.更に,
着細胞数のデータである.写真を見ると
富士フイルムの持つ画像
RCP の場合,細胞はひらたく張り付いて,
技術は,再生医療の適用
足を伸ばして密着している.この実験で
診断,治療効果の確認手
極めて高い接着性が明らかとなった.
段に使える.これら技術
RCP は様々な加工形態が可能である.
を総合して,細胞培養だ
フィルムや膜,スポンジ,ハイドロゲル,
け で な く, 再 生 医 療 の
 ビーズ, ブロック等であり,多様な製
治療までを含めた総合的
剤(剤型)を開発している.
な仕組み作りを考えてい
る.
こうした研究開発を事
RCP スポンジ製剤によ
る細胞の培養および細
胞誘導機能の発現 [2]
業化して行くためには,
図 7 RCP を充填することでのラット頭蓋骨欠損部における骨再生
技術開発だけでなく法律
や制度の改正整備も必要
になる.こうした観点を含めて,2011 年
図 5 RCP の細胞との接着性のウシゼラチンとの比較評価
上述の RCP のスポンジを用いて,これ
に一般社団法人 再生医療イノベーション
に hMSC(ヒトの骨髄より分離された間葉
フォーラムが設立された.富士フイルム
系幹細胞:単離・増殖が容易)を播種し,
はその中で中心的役割を担っている.こ
3 日間培養した結果を,販売されているコ
のフォーラムの目的は再生医療の産業化
ラーゲンスポンジの場合と比較した.図
であり,再生医療の実用化と普及に向け
6はその顕微鏡写真である.濃い網目は
た活動,再生医療実現に向け産学官の連
スポンジで,その中にある細かい点は着
携強化,および,産業化に向けたバリュー
色された細胞の核である.RCP スポンジ
チェーンの構築を推進する [3].現在フォー
の場合はスポンジの中に細胞が詰まって
ラムに参加している企業も,機器・装置,
おり,細胞にとって親和性がよいことが
化学・材料,バイオ,製薬,再生医療・
分かる.
細胞治療などの他に物流・保険・コンサ
次に,ねずみの頭蓋骨に直径 5mm の穴
ルトと多岐業種にわたり,80 社を超える
をあけ,図7の左下の模式図に示すよう
企業が参加している.これらの企業が力
に RCP スポンジを砕いた顆粒状のものを
を結集して,経済産業省や厚生労働省と
詰め,8 週間経過後の断面を調べた.写真
一緒になって再生医療を伸ばしていくと
で骨はピンクに着色されている.図の右
いう活動をしている.
上は穴を開けた状態,右中はなにもせず
「富士フイルムの強みは,材料開発に際
に放置した場合,右下は RCP を充填した
して m 以下の微細領域まで観察・評価
場合である.右中の場合は皮が薄く一枚
する技術を並行して開発し,得られた結
形成されてはいるが,骨の成長は僅かで
果の内容を十分把握した上で次のステッ
ある.RCP を充填したものは,欠損部全
プに進むことで,いわゆる試行錯誤では
" 新
域に骨が再生されている.RCP が周囲の
ない.また,分子設計のスキルを持って
Peptide) の特徴と 応用展開 ",再生
頭蓋骨の細胞を誘導再生させている.こ
いるので,計画的に次のステップが踏め
のように細胞を含まない足場材だけでも
ることである.
」と吉岡氏は語っている.
本文中の図は,全て富士フイルム株式
骨が自動的に再生されることが分かった.
また,吉岡氏は再生医療に向けたこれま
会社より提供されたものである.
企業の取り組み ",第 17 回循環器再
この過程では,RCP の中に細胞が侵入し
での研究開発は富士フイルム独自で進め
[1]
生医療研究会,p. 8 (2013).
てくると,その細胞がコラーゲンを分解
てきたが,今後の実用化に当たっては医
きた写真技術」―化粧品・医薬品・
する酵素を出し,RCP を分解しながら自
療分野組織との協力関係が必須であると
再 生 医 療 へ の 展 開 ―",Drug Deliv
※ 取 材 日:2014 年 5 月 9 日, 所 属・
分が分裂・増殖し,その空間を置き換か
述べている.再生医療の本格化の夢が現
Syst,Vol. 26, No. 3, p. 280 (2011).
役職等はインタビュー当時のものです.
えて行くというもので,大変都合よく骨
実になる日が来ることを期待したい.
図 8 再生医療における富士フイルムの技術分野の総合的展開
参考文献
規 Scaffold:RCP(Recombinant
医療,Vol.10, p. 271 (2011).
[2]
吉岡康弘,"「富士フイルムが培って
[3]
吉岡康弘," 再生医療産業化に向けた
中村健太郎,高田清人,吉岡康弘,
再生が起こっていることになる.
図 6 RCP スポンジ製剤での hMSC 細胞の培養例
26 | nano tech & NanotechJapan Bulletin コラボレーション企画「10-9INNOVATION の最先端」
富士フイルムのライフイノベーションに向けた挑戦| 27
初出:NanotechJapan Bulletin Vol.8, No.1 2015 発行,http://nanonet.mext.go.jp/magazine/1189.html
< nano tech ⼤賞 2014 功績賞>
ナノメートルサイズの微粉末を作る粉砕・分散技術
〜⾼分散性ナノ粒⼦の実現による新産業創出への貢献〜
アシザワ・ファインテック株式会社 代表取締役社⻑ 芦澤 直太郎⽒,開発担当 ⼩貫 次郎⽒,企画室 原⽥ ⾹⽒に聞く
力を多数回与えることになる.これが マ
図 2 マイルド分散 ®
イルド分散 ® で,アシザワ・ファインテッ
クの登録商標になっている [1].
左から アシザワ・
ファインテック株式
会 社 芦 澤 直 太 郎
氏,小貫 次郎氏,
原田 香氏
例えば図 2 に示すように,100 のエネ
(ミクロ的均一)
,③働かない共回りビー
ルギーを 1 回で与えると,過分散になり
ズをなくし,ビーズの作用頻度を増やす
粒子がダメージを受けやすくまた凝集し
ようにビーズの流動を制御しなければな
やすくなり,製品の特性も損なわれる.
らない. MAX ナノ・ゲッター ® はこれ
これに対し 1 のエネルギーを 100 回与え
等の条件を総て満たしたものである.
る場合は,過分散を防止し粒子にダメー
ジを与えることなく高品質・高精度に微
構成と作動プロセス
細化できる.図 3 に示すように,小粒径
のビーズを用いることによって,少ない
図 4 に MAX ナノ・ゲッター ® を示す.
投入エネルギーでよりファインな粒子が
(A)は装置外観,
(B)は粉砕・分散部,
(C)
得られるから分散効率は高い.
は作動説明図,
(D)は遠心式ビーズ分離部,
アシザワ・ファインテック株式会社は,
ビーズと粒子の間に働く摩擦と剪断力の
(E)は螺旋層流の形成を説明する図である.
微粉末の製造装置メーカとして,次々に
複合的な作用(摩砕)によって行われる.
図 4(C)を用いてビーズの動きを説明
現れる社会的要求に応えるための技術開
一方,分散は微粒子の凝集体をほぐすも
発を推進してきた.その進展の軌跡は,
ので,ビーズが流れの中で移動する際に
nano tech 展(国際ナノテクノロジー総合
生じる速度差による剪断力と,ビーズの
展・技術会議)への出展歴に示されており,
自転による角速度差から発生する回転剪
nano tech 2014 では功績賞を受賞した.
断力により行われる.
受賞理由は「nano tech の第 1 回目である
図 1 に示すように,ビーズの径が 1/2,
2002 年から連続で出展.ナノメートルサ
1/4,1/8 になると,①体積当たりのビー
よりファインなナノ粒
子を実現する MAX ナ
ノ・ゲッター ® :単段
螺旋流のビーズが生み
出す新しい粉砕・分散
技術 [2][3][4][5]
する.羽根車(1)によって,ビーズ(2)
の粉砕・分散容器(3)内周方向へ移動す
図 3 ビーズ径と分散効率
る流れ(一次流れ)と,続いて案内環(4)
と粉砕・分散容器の内壁との間をビーズ
ズを大流量で循環させ,そのビーズの動
散では針状形状の一次粒子が壊れている
が上昇しさらに案内環状部から案内環の
きをコントロールすることにより独特な
が,マイルド分散 ® では針状形状を保っ
内部へ下降する流れ(二次流れ)との混
単段らせん状層流 を形成する.
ている.写真から求めた d50(粒径分布
の中央値)は,原料が 400nm,従来の分
合流れ(螺旋流)が生じる(図 4(E)).
イズの微粉末を作る粉砕・分散装置はナ
ズの数は 8 倍,64 倍,512 倍になり,粉
効率よく,よりファインなナノ粒子を得
ノテク分野の様々な新産業の創出に貢献
砕・分散を起す作用点の数が増加する.ま
るには,①ビーズが一部の特定位置に集
スを説明する.
して来た点を賞す.
」である.
た,②一個のビーズの重量は 1/8,1/64,
中しないように,粉砕・分散室全体で均
①供給口(5)から投入された被粉砕・分
そこで,千葉県習志野市のアシザワ・
1/512 となり,③ビーズの総比表面積は
一に存在(マクロ的均一)するようにする,
散粒子を含む原料スラリーは,上記の
ファインテック株式会社(以下,アシザ
4,8,64 倍となり,粉砕・分散に小さな
②総てのビーズが均一に動くようにする
ワ・ファインテック)を訪ね,芦澤 直太
次に粉砕・分散,ビーズの分離プロセ
散 が 19.6nm, マ イ ル ド 分 散 ® が 27nm
で あ る. ま た BET 比 表 面 積 値 は 原 料 が
111.8m2/g,従来の分散が 144.3m2/g,マ
MAX ナ ノ・ ゲ ッ タ ー ® に よ る 酸 化 チ
イルド分散 ® が 111.4m2/g となっている
ビーズの流れに乗って撹拌・混合・粉砕・
タン(TiO2)のマイルド分散 ® の結果を
ことからも,マイルド分散 ® では一次粒
分散されながら移動する.
図 5 に示す.原料は 30nm の一次粒子が
子が破壊されていないことを示している.
②充分に粉砕・分散されていない大きい
郎(あしざわ なおたろう)社長,小貫 次
分散例:酸化チタン(TiO2)のマ
イルド分散 ®
強く凝集したものである(凝集物の粒径
郎(おぬき じろう)営業第 3 課・開発担
粒子はビーズと共に下降流となるが,
800nm).
当マネージャー,原田 香(はらだ かおり)
粉砕・分散されたスラリーは案内環(4)
図 5 上 右 の 写 真 は, 原 料, 従 来 分 散,
企画室課長代理にお会いし,アシザワ・
上部に設置されている遠心式ビーズ分
マイルド分散 ® のスラリーで,微細処理
ファインテックの粉砕・分散装置,特に
離部(6)に移動する.
後 1 年間放置後に撮影したものである.
大きな剪断力でファイ
ンな粉砕に適した ス
ターミル ®LMZ [ 6][7]
粒子にダメージを与えることのないマイ
③遠心式ビーズ分離部では,質量の大き
マイルド分散 ® は沈殿物がなくかつ透明
ルド分散 ® を実現する MAX ナノ・ゲッ
いビーズは半径方向に付勢され,スラ
である.数十 nm オーダの小粒径に分散さ
アシザワ・ファインテックは,微細化
ター ® ,およびあらゆる用途で粉砕・分
リーから分離される
(図 4(D)).ここで,
れていることが分かる.図 5 上左側のグ
の目的に応じて,ビーズミルの機能を「粉
散可能な スターミル ® LMZ などにま
被粉砕粒子のうち粉砕・分散が不十分
ラフは,従来分散と比較してマイルド分散
砕向き」と「分散向き」の大きく二つに
つわる技術・ノウハウ及び今後の展開等
で粒子サイズの大きいものはビーズと
® では,小さな投入動力で効率よく分散し
分けて提案している.先述の MAX ナノ・
について伺った.
同様の挙動をする.
微細化できていることが分かる.図 5 上
ゲッター ® は,粒子とビーズの剪断力
④一方,充分に粉砕分散されて質量が小
中央に示す X 線回折結果では,従来分散
が制御された「分散向き」のミルである.
さくなった粒子を含むスラリーは,原
の場合に結晶性構造が崩れているのに対し
これに対し スターミル ®LMZ は,粒子
料出口(7)から粉砕・分散容器外へ取
て,マイルド分散 ® は原料とほぼ同じ回
に大きな剪断弾力を与える「粉砕向き」
り出される.
折ピークを示しており結晶構造が保たれて
のミルである.
「MAX ナノ・ゲッター ®」の最大の特
いることを示している.図 5 下の写真は,
ス タ ー ミ ル ®LMZ を 図 6 に 示 す.
(A)
徴は,従来の概念とまったく異なった新
原料,従来分散後,マイルド分散 ® 後の
は装置外観,
(B)は循環運転状況,
(C)は
しいビーズの流動である.粉砕室内でビー
粒子形状を観察したものである.従来の分
作動説明図である.図 6
(C)
を用いて,
スター
よりファインなナノ粒
子を得るには:微小ビー
ズによるマイルド分散 ®
粉砕は一つの大きな粒子を砕くことで,
図 1 ビーズの径と体積当たりのビーズの数
28 | nano tech & NanotechJapan Bulletin コラボレーション企画「10-9INNOVATION の最先端」
ナノメートルサイズの微粉末を作る粉砕・分散技術| 29
囲を拡大することであるという.まず,高
ばし,コンタミの低減ができると言う.
ミル ®LMZ の作動プロセスを説明する.
粒径のナノサイズまで粉砕するのである.
①撹拌軸(6)が回転し棒状撹拌部材(7)
シリカを粉砕・分散した場合、目標粒径に
粘度スラリー中の粒子を微粉砕・分散した
によって充填されているビーズ(図示
到達するまでに時間を 66% 短縮,消費電力
い要求に応えていく.
されていない)が運動している粉砕室
量を 73% 削減できている.
「エコ粉砕」の
(5)へ,スラリー入口(11)から被粉
方が,最終製品の粒度分布もシャープにな
砕物であるスラリーを投入する.
り、特に硬質材料では部品の摩耗寿命を延
また,適切な粉砕機を使用することで,
おわりに
コスト効率よくドラッグデリバリーシステ
今後の展開の一つは,独自技術の適用範
ム(DDS)のための原薬の微細化にチャレ
ンジし,新薬開発の時間やコストの削減に
②粉砕室で粉砕されたスラリーはビーズ
と共に矢印(20)に沿って移動し,ス
貢献したい.
ラリーはスクリーン(14)を通りスラ
さらには,一つの産業として,例えば二
リー出口(13)を経てスラリー出口管
次電池正極材の製造工程を例にとってみる
と,粗粉砕,微粉砕,スラリー化,分散,
(18)から取り出される.
③質量の大きいビーズは,遠心力の作用
脱泡など多くの素工程があるが,これ等を
により半径方向外向きに付勢され,ス
組合せて,高分散性ナノ粒子を実現し,今
クリーンから離れてスリット(16)を
までにない機能創出,生産性向上,コスト
通って粉砕室に戻る.
低減にチャレンジしていくとのことである.
以上の動きから分かるように,ビーズ
このような社会ニーズに対し顧客と徹底
がスクリーン(14)を目詰まりさせる恐
した協業・連携をしてチャレンジすること
れはない.その結果,スクリーンの異常
により,我が国のナノテクノロジーがます
磨耗が防止され,異常発熱の問題も生じ
ますの発展することを期待したい.
ない.また,ビーズが循環運動をするので,
ビーズが容器端部に集中する傾向が防止
される.
参考文献
粉砕の事例を図 7 に示す.原料は 15m
を中心に 0.3 ∼ 150m と幅広い分布をし
本文中掲載の図表は,総てアシザワ・
ていたが,30 分間の循環運転により 1m
ファインテックよりご提供いただいたも
を中心に 0.2 ∼ 3.5m のシャープな粒度
のである.
分布を持つ微粉に粉砕されている.
[1]
アシザワ・ファインテック 「マイ
,
ルド分散 ®」,商標登録番号 第
4891867 号(登録日 2005.09.02)
[2]
エコ粉砕 [8]
MAX ナノ・ゲッター ® の動画(ビー
ズの一段螺旋旋回流が良くわか
消費電力を抑えて微粉砕・分散したい
図 6 スターミル ® LMZ の構成と作動プロセス
る)http://www.ashizawa.com/04tech/03.html
と言う要求がある.これに対しアシザワ・
ファインテックは「乾式ビーズミル ドラ
[3]
石川剛,
「メディア攪拌式粉砕機」
,
[4]
石川 剛,岩澤 翔吾,田村 崇弘,「メ
特開 2010-253339(2010.11.11)
イスター ® + 湿式ビーズミル スターミル
®LMZ 」の組合せによる「エコ粉砕」を提
ディア攪拌式粉砕機」
,特開 2014-
案している(図 8)
.乾式の衝撃力主体の粉
18797(2014.02.03)
砕で大きい粒子を優先的にミクロンサイズ
図 4 MAX ナノ・ゲッター ® の構成と作動プロセス
[5]
まで粉砕し,次いで湿式の摩砕により目標
田村崇弘,「新概念のビーズミルによ
るナノ粒子分散技術の革新」,コン
バーテック,Vol.40,No.12,pp.9093(2012)
[6]
図 7 スターミル ®LMZ による粉砕事例
石井利博,橋本和明,
「横型ビーズ
ミルによる炭酸カルシウムの粉砕
性能の評価」,色材協会誌,Vol.85,
No.2,pp.53-58(2012)
[7]
楠 真澄,石井 利博,
「湿式媒体攪
拌ミル及び微小粉砕媒体とスラリー
の分離機構」,特開 2006-35167
(2006.02.09 公開)
[8] 山際 愛,
「乾式および湿式ビーズミル
を利用したエコ粉砕」
,Fine Ceram.
Rep. Vol.28, No.3, pp.110-111(2010)
※ 取 材 日:2014 年 12 月 8 日, 所 属・
役職等はインタビュー当時のものです.
図 5 MAX ナノ・ゲッター ® による酸化チタン(TiO2)のマイルド分散 ®
30 | nano tech & NanotechJapan Bulletin コラボレーション企画「10-9INNOVATION の最先端」
図 8 エコ粉砕
ナノメートルサイズの微粉末を作る粉砕・分散技術| 31
初出:NanotechJapan Bulletin Vol.7, No.3 2014 発行,http://nanonet.mext.go.jp/magazine/1127.html
< nano tech ⼤賞 2014 産学連携賞>
単層カーボンナノチューブの量産技術:スーパーグロースの実証プラント
〜産学連携によるカーボンナノチューブの⼤量合成と応⽤展開〜
⽇本ゼオン株式会社 特別経営技監 荒川 公平⽒に聞く
日本ゼオン株式会社 特別経営技監 荒川 公平氏
単層カーボンナノチューブ(以下,単
層 CNT)は,多くの技術革新を可能にす
た新素材の開発を行っている.これらの
的に創出し,社会に貢献する」である.
成果を,2014 年の国際ナノテクノロジー
これに沿って開発され製品は圧倒的な強
展・総合技術会議の nano tech 2014 に出
みを発揮している.例えば,耐熱性,耐
展し,nano tech 大賞 2014 産学連携賞に
寒性等の高い特殊ゴム製品は世界シェア
選ばれた.受賞理由は「産業技術総合研
40% であり,道路の中央白線を描くトラ
パシタに利用するには 量産低コスト化
究所で開発した単層 CNT の量産技術
「スー
フィックペイントのシェアは 90% になる.
の技術を構築する必要があった.
パーグロース」の量産実証プラントを紹
本稿の主題である「単層 CNT の量産技
こ れ に 対 し, 産 総 研 で 開 発 さ れ た SG
介,大量生産を視野にサンプル出荷も開
術と複合材料の研究開発」は,単層 CNT
法 [2] は単層 CNT の中では圧倒的に成長
始し,カーボンナノチューブの普及を促
を日本ゼオンのゴム技術と融合すること
速度が速く,量産化と低コスト化が期待
進する活動を賞す」である.これまでの
によって,競合力のある製品と用途開発
できた.SG 法は炭化水素原料ガスを流す
研究開発を推進してきた,日本ゼオン株
を目指すものである.
ところに 100ppm 程度の微量の水を加え
図 2 SGCNT の量産技術開発(上:SG 開発当初のプロセスと SGCNT,下:量産プロセス)
(提供:日本ゼオン)
式会社 特別経営技監 荒川 公平(あらかわ
る.この水が触媒である鉄表面を覆う炭
こうへい)氏を東京丸の内の本社に訪ね,
素を除去することで触媒を賦活させてい
単層 CNT の量産技術や新素材の開発状況
について伺った.
ニッチ・トップを目指
す技術の日本ゼオン
気づいて見れば CNT の
発端から量産まで:
荒川氏は世界初の CNT
物質特許を取得
る.SG 法で作製された単層 CNT(以下,
SGCNT)は,純度が 99.5% で,成長速度
は従来比 1,000 倍以上,成長した SGCNT
を基板から容易に剥離できる上,CNT の
中でも最も大きな比表面積を有している.
荒川氏と CNT の関わりは 30 年前に遡
このため,産総研,日本ゼオンが共同で
る.荒川氏は日機装株式会社に勤務して
SGCNT の量産技術研究を進めた.CNT キャ
量生産が困難だったため価格が高く,用
日本ゼオン株式会社(以下,日本ゼオン)
いた 1982 年,信州大学でセラミックス基
パシタ開発は産総研と日本ケミコンが担
途開発が長い間進んでいなかった.日本
は日本で始めて塩化ビニルと合成ゴムを製
板に炭素繊維を気相成長させる方法(CVD
当する.日本ゼオンに移っていた荒川氏
ゼオン株式会社は,新エネルギー・産業
品化した企業である.社名にはギリシャ語
法)を習得した.しかし,炭素繊維の成長
は実用化段階でプロジェクトリーダーを
技 術 総 合 開 発 機 構(NEDO) プ ロ ジ ェ ク
の「ゼオ」
(大地)と「エオン」
(永遠)の
効率は非常に低かった.そこで,反応場を
務めた.
トにおいて産業技術総合研究所(産総研)
合成語を用い,
「世界に誇り得る独創的技
基板上の二次元から三次元空間に広げる
SG 法は当初,1cm 角の高純度シリコン
との共同研究によって,スーパーグロー
術により大地の永遠と人類の繁栄に貢献す
「気相流動法」を開発した(図 1)
.原料の
(Si)ウエハ基板に,スパッタリングで触
ス(SG) 法 に よ り 単 層 CNT の 生 産 性 を
る」という企業理念が込められている.
混合ガスを電気炉の一方の側から注入す
媒を形成,小型合成炉で SGCNT を合成す
成功した(図 3)
.A4 基板上での CNT 合
①高い機械耐久性を示す高導電ゴム [4]
1,000 倍以上にする技術を開発した.また,
研究開発の基本理念は「ニッチでも,
ると,炉内で生成した多層 CNT が他方の
るバッチプロセスで(図 2 上)
,生産性は
成の約 120 倍,プロジェクト開始時の約
SGCNT の長さを維持したままバンドル
技術研究組合単層 CNT 融合新材料研究開
日本ゼオンらしい得意分野で,独創的技
側から連続的に出てくると言う,世界で初
低かった.
17,000 倍 の 生 産 性 向 上 を 達 成 し て い る
を ほ ぐ し,SGCNT の 集 合 体 を 形 成 し た
発機構(TASC)の中で,単層 CNT を使っ
術にもとづく,世界一製品・事業を継続
めての連続生産プロセスである.これによ
そこで低コスト化するため,①基板を
[3].産総研,日本ゼオンからサンプルを
状態(図 4 右下の左)でマトリックスゴ
り,生成効率は基板法の 500 倍以上に向
安価なステンレス基板に変更し,②プロ
供給し,企業は独自の SGCNT 実用化開発
ム(フッ素ゴム)中に分散させる SGCNT/
上し,物質特許 [1] まで取得できた.CNT
セスコストの高いスパッタリングは Fe の
ができるようになった.
樹脂複合化技術により「高機械耐久性を
の先行特許として,CNT 関連の国家プロ
化合物溶液を基板に塗布する触媒微粒子
しめす高導電ゴム」が開発された.この
ジェクトを進める上で外国特許の障害を
形成法というウエットプロセスに,③バッ
SGCNT 集合体は変形が容易なため,外部
取り除くのに役立った.
チプロセスから連続合成プロセスに変更
る夢の材料であるが,純度が低く且つ大
した(図 2 下).
Fe 化合物を塗布した金属フィルム基板
NEDO カ ー ボ ン ナ ノ
チューブキャパシタ開
発プロジェクト:
SG 法とその量産化
から与えられた応力に対して追従するこ
とが可能であり,伸縮に耐えられる(図
4 右)
. ま た,SGCNT 集 合 体 は マ ト リ ッ
クスの中でネットワークを形成しており
量産が実証されたことにより,2010 年
伸縮によってもネットワークは維持され
み,水素還元して Fe 触媒を形成し,CNT
に,SGCNT の早期実用化を目指して,技
るので高い導電性も保たれる.その結果,
合成ゾーンで SGCNT を成長させ,炉から
術研究組合「単層 CNT 融合新材料研究開
20S/cm の導電率が得られ,伸度 150% で
出 て き た コ ン ベ ア 上 の SGCNT 成 長 基 板
発機構(Technology Research Association
4,000 回引っ張っても導電性を保つ(図 4
を回収し,基板は再利用する.この結果,
for Single Wall Carbon Nanotubes,
左)
.これまで,高い導電性を発現させる
生産性は 1,000 倍に向上した.
TASC)」が設立された.産総研,日本ゼオ
際の課題であった耐久性の低下を解決し,
ロジェクト」が発足した.CNT は比表面
さらに,SGCNT 量産実証プラントを産
ン等が組合員として参画し,オープンイ
さらに変形時に導電性が低下しないと言
積が大きくかつ導電性が高いので,キャ
総研内に建設し,500 × 500mm の金属
ノベーションで技術開発を行う.既に次
う特徴から,今後レーザープリンター用
パシタに適した素材である.しかし,キャ
基板上に均一に SGCNT を合成することに
のような成果が生まれている.
帯電ロールやフレキシブルデバイス(フ
「カーボンナノチューブキャパシタ開発プ
32 | nano tech & NanotechJapan Bulletin コラボレーション企画「10-9INNOVATION の最先端」
SGCNT の 早 期 実 用 化
を目指す技術研究組合
TASC での開発
ンベアに載せて連続的に電気炉に送り込
2006 年,NEDO のプロジェクトとして
図 1 CNT の世界初の連続合成法:気相流動法(日機装時代の荒川氏の発明)(提供:日本ゼオン)
(ステンレス鋼,A4 サイズ)をベルトコ
図 3 SGCNT 量産実証プラント (提供:日本ゼオン)
単層カーボンナノチューブの量産技術:スーパーグロースの実証プラント| 33
レキシブル配線)を含む様々な分野にお
いて適用されることが期待される.
②極少量の SGCNT を添加して作った導電
性樹脂 [5]
長 尺 で 比 表 面 積 の 大 き い SGCNT を 網
目構造に分散し,SGCNT を含む相と含ま
ない相を形成させることにより,わずか
0.01% の SGCNT 添 加 量 で 10-3S/cm の 体
積導電率を示す(図 5).カーボンブラッ
クだと 50wt%,他の CNT では 0.1% 以上
添加する必要がある.この SGCNT/ 樹脂
(フッ素ゴム)複合材料は,プレス加工に
よりマイクロメートルの精度で樹脂表面
を加工することが可能である.
③鉄並みの熱伝導率を持つ SGCNT/ 炭素
図 4 SGCNT を用いた高導電性・高機械耐久性フッ素ゴム (提供:TASC)
繊維 / フッ素ゴム複合材料 [6]
図 7 Al/ 炭素繊維 /SGCNT 複合材料 (提供:TASC)
炭 素 繊 維 と 少 量 の SGCNT を 添 加 し た
フッ素ゴムは,柔軟性を保持したまま,
熱伝導率 90W/mK という鉄並みの熱伝導
分の 1 以下である.SGCNT/Cu 複合材は
率を持つ.
Cu 並みの導電率を持ちながら,許容電流
SGCNT を用いてこれほど高い熱伝導性
密度は Cu の 100 倍になる.
が発現した原因として,炭素繊維間に嵩
国際半導体技術ロードマップ(ITRS)に
高い SGCNT ネットワークが入りこむこと
よれば 2015 年にはデバイス内の電流密度
により炭素繊維熱伝導を橋渡ししためと
は LSI の電極や配線に用いる Cu と金(Au)
推察される(図 6).集積化に伴うエレク
の破断限界を超えると言われており,ここ
トロニックデバイスの温度上昇への対応
での活用に期待がかかる.
として,金属製放熱材料とデバイス(熱
源)の間を埋める柔らかい TIM(Thermal
Interface Material)として大きな需要が
おわりに:
日本ゼオンの戦略
見込まれる.
図 5 極少量の SWCNT を添加して作った導電性樹脂の導電性 (提供:TASC)
④ Al/ 炭素繊維 /SGCNT 複合化技術
日本ゼオンは,NEDO プロジェクトで
Al/ 炭素繊維 /SGCNT から成る複合材料
SGCNT の量産技術を開発し,各企業の用
を作製し,アルミニウム(Al)の熱伝導
途開発に SGCNT を供給する.また,TASC
率 250W/m・K の 3 倍 以 上, 銅(Cu) の
の中核メンバーとして,用途展開のため
390W/mK の 2 倍以上の熱伝導率 850W/
の基盤技術開発を行ってきた.
m・K を示す複合材料の開発に成功してい
これらを基に,
「日本ゼオンは特殊ゴム
る(図 7).Al ベースであるから密度は 2.5g/
で世界トップの会社として,SGCNT とゴ
cm3 と軽量で,かつフライスで切削でき
ムの強みを複合し,独自のオンリーワン
る加工性にも優れるといった特徴を併せ
製品を目指し,SGCNT の用途開発に貢献
ブの研究開発を加速」,http://www.
持っている.将来的には,パワー半導体
したい」と,荒川氏は企業人としての熱
aist.go.jp/aist_j/press_release/
等の放熱部材としての利用が期待される
い思いを語られた.
pr2011/pr20110214/pr20110214.
素材である.
図 8 SGCNT/Cu 複合材料と従来材料との電気伝導度と許容電流容量比較 (提供:TASC)
[3] 「大量生産で単層カーボンナノチュー
html
参考文献
Cu となじみの良い水溶液中で電気めっ
きすることで,Cu と SGCNT が均一に複
34 | nano tech & NanotechJapan Bulletin コラボレーション企画「10-9INNOVATION の最先端」
荒川公平," 流動法気相成長炭素繊維
or.jp/pdf/news/press111006.pdf
[7]
Chandramouli Subramaniam,
Atsuko Sekiguchi, Don N.Futaba,
いた導電性ゴムを開発」,http://
Motoo Yumura, and Kenji Hata,
www.tasc-nt.or.jp/pdf/news/
" One hundred fold increase in
press110907.pdf
current carrying capacity in a
合化された複合材を作製することができ
",特許公報 平 5-36521(出願日:
る.SGCNT/Cu 複合材料の SGCNT 含有率
1984.9.14)
ブを添加して作った導電性樹脂」,
", Nature Communications, Vol. 4,
K.Hata, D.N.Futaba, K.Mizuno, T.Namai,
http://www.aist.go.jp/aist_j/press_
Article number: 2202 doi:10.1038/
図 8 から分かるように,金属は高い導
M.Yumura, and S.Iijima," Water-
release/pr2011/pr20111012_3/
ncomms3202 ; Published 23 July
電率を示すが,大電流では切れてしまう
Assisted Highly Efficient Synthesis of
pr20111012_3.html,
2013
(その時の電流密度が許容電流密度であ
Impurity-Free Single-Walled Carbon
http://www.tasc-nt.or.jp/pdf/news/
は約 45%である.
図 6 炭素繊維だけの場合と SGCNT がある場合との比較 (出典:参考文献 [6])
複合材料中に拡がる SGCNT が熱伝導率を向上させる.
[1]
ゴム複合材料」
,http://www.tasc-nt.
Takeo Yamada, Kazufumi Kobashi,
[4] 「単層カーボンナノチューブを用
⑤ SGCNT/Cu 複合材電極 [7]
カーボンナノチューブ / 炭素繊維 /
[2]
る:Ampacity).炭素材料は 109A/cm2 以
Nanotubes", Science, Vol. 306, No.
上の電流を流せるが,
導電率は Cu の 1,000
5700, pp. 1362-1364 (2004)
[5]「極少量の単層カーボンナノチュー
press111012.pdf
[6] 「チタン並みの熱伝導率をもつ単層
carbon nanotube-copper composite
※ 取 材 日:2014 年 5 月 14 日, 所 属・
役職等はインタビュー当時のものです.
単層カーボンナノチューブの量産技術:スーパーグロースの実証プラント| 35
初出:NanotechJapan Bulletin Vol.7, No.4 2014 発行,http://nanonet.mext.go.jp/magazine/1145.html
< nano tech ⼤賞 2014 新⼈賞>
ニッポン⾼度紙の⼤⾯積無機/有機ハイブリッド膜製造技術
〜触媒膜,分⼦フィルター,電解質膜等への応⽤展開〜
ニッポン⾼度紙⼯業株式会社 新材料開発室⻑ 澤 春夫⽒に聞く
開発着手に当たって次の目標を掲げた.
ち,燃やすとフッ化水素(HF)が発生し,
①素材は世の中にない新しいものとし,
健康面以外に金属や硝子をも腐食する問
題を伴う.フッ素を含まない素材を用い,
かつ安価であること
②電解質膜のライフサイクルを通して環
ライフサイクルを通じて環境に優しい製
アプローチの選定:
無機/有機ナノハイ
ブリッド化
品とする必要がある.
境に優しいこと
③については,製紙会社の独自技術である
燃料電池用電解質には,表 1 の性
水系プロセスにこだわりがあり,総ての合
質の欄に示す特性が要求される.
である.
成を水系で行うことを狙った.溶剤として
有機ポリマーは,要求される性質の
こ れ ら の 目 標 は, 主 流 の 座 に あ る
は有機系より水系の方が環境によい.
内,唯一柔軟性だけは満足している.
③紙の製造会社のコアコンピタンスが活
かされること
Nafion® が 抱 え て い る 課 題 の 裏 返 し で
この柔軟であることは,セグメント運
も あ っ た. 即 ち,
動など分子の運動が活発であることを
① に つ い て は, 今
表 1 有機ポリマーと無機酸化物のハイブリッド化
示しており,プロトン伝導性を発現す
も っ て Nafion® は
るのに必須の特性であり,また割れる
高 価 で あ る. こ の
ことなく薄い膜にできる大きな長所で
課題を新しい材料
もある.一方,無機酸化物はラジカル
と製法で解決しよ
耐性,耐酸化性等の化学的安定性など
ニッポン高度紙工業株式会社は,12 年
うというものであ
ほとんどの点で燃料電池用電解質膜材
前から全く新しい素材による,高性能・
る.
料として優れており,従って特別なも
低コストでライフサイクルを通して環境
② に つ い て は
のを使用する必要がなく,低コスト化
に優しい電解質膜の開発に挑戦し,
「無機
Nafion® に は そ の
が実現し得る可能性があるが,唯一柔
/有機ナノハイブリッド膜(iO-brane™)」
成分としてフッ素
軟性だけが足りない.
を商品化した.その成果を 2014 年の国
(F)が入っており,
このような関係から,澤氏は「有機
際ナノテクノロジー展・総合技術会議の
使い終わった電解
ポリマーと無機酸化物をハイブリッド
nano tech 2014 に 出 展 し,nano tech 大
質膜の処分を環境
化するアプローチ」による目標達成に
賞 2014 新人賞に選ばれた.受賞理由は
面で難しくしてい
挑戦することにした.
「無機材料の耐熱性と有機材料の柔軟性
る 現 実 が あ る. 即
ニッポン高度紙工業株式会社 新材料
開発室長 澤 春夫氏
図 2 ナノハイブリッド化のメカニズム
を兼ね備えた大面積の無機/有機ハイブ
リッド膜の製造技術を開発.この膜は触
無機/有機ナノハイ
ブリッド膜の合成と
合成のメカニズム
[1][2][3]
媒膜や分子フィルター,電解質膜など様々
な分野への応用展開が期待できる点を賞
す.」である.
図 3 W/PVA iO-brane™ の耐熱性,耐酸化性
と Na2WO4 と の 混 合 水 溶 液 中 に は,
を込めている.
PVA の OH 基 と WO4-2 イ オ ン と Na+ イ
この iO-brane™ の着想から研究開発・
商品化までを進めてこられたニッポン高
澤氏は,以上のような考えを纏め,そ
出発原料として無機酸化物に Na2WO4
度紙工業株式会社 新材料開発室長 澤
してシャーレ内の原理的実験で目的とす
(タングステン酸ナトリウム)
,有機ポリ
春夫(さわ はるお)氏を,日本一の清
るハイブリッド膜が合成できることを確
マーに PVA(ポリビニールアルコール)
Na2WO4 は H2WO4( タ ン グ ス テ ン 酸 )
流といわれる仁淀川(によど)河畔の本
かめた.しかし,これを 50cm 幅の長尺
を用いる例で合成法を説明する(図 1).
分子に変化するが,発生期の小さなレ
社・工場(高知県高知市春野町)に訪問し,
ものにするのに長い時間を必要とした.
①ビーカに PVA と Na2WO4 との混合水溶
ベルの H2WO4 は非常に不安定で活性が
iO-brane™ の開発経緯,技術内容と今後
開発品は,
「無機/有機ナノハイブリッド
の展開等についてお伺いした.
膜(iO-brane™)と命名註」された.
開発目標の設定
液を作る.
オンが存在する(図 2 左).
②ここに,HCl が加えられ中和されると
高い(図 2 中)
.
②これに,HCl(塩酸)を加えて中和する.
③近傍に PVA が存在すると,その OH 基
③これを,平面上に垂らし広げて膜にする.
と脱水縮合により化学結合し,ナノハイ
註 ) iO は Inorganic / Organic Nano-
④次いで,加熱して膜中の水分を蒸発さ
ブリッド化し,その分散液ができる.こ
Hybrid Membranes か ら で あ る が, こ
せることによって iO-brane™ を得る.
の結合反応は発生期の H2WO4 が生成し
れに木星の衛星イオ(IO)をかけてある.
とシンプルである.
研究開発に着手した当時は,燃料電池
ガリレオが発見して地球が全ての中心
このナノハイブリッド化のメカニズム
の 開 発 が ブ ー ム で あ っ た. こ の 燃 料 電
ではないことを示した,科学上の概念
を図 2 に示す.
の H2WO4 が PVA の OH 基に会合のチャ
池の電解質膜としては既に DuPont 社の
の変革の意を込めている.また,brane
①まず原料溶液の時点で両者は分子レベ
ンスを失えば,H+(WO4)nH+ の大きな塊
ルで混ぜ合わさった状態となる.PVA
ができるだけでナノハイブリッド化は
Nafion® が主流となっていた.澤氏は研究
図 1 iO-brane™ の合成法
36 | nano tech & NanotechJapan Bulletin コラボレーション企画「10-9INNOVATION の最先端」
は超ひも理論のブレーンワールドの意
た直後の短時間内で起こる(図 2 右上)
.
④ PVA が存在しなかったり,また発生期
ニッポン高度紙の大面積無機/有機ハイブリッド膜製造技術| 37
達成されない.タングステン酸どうしが
より加湿器を省略することができる.そ
結合して大きく成長してしまったもの
して,酸素と水素が直接混じり合うこと
は,安定で不活性であるため PVA とは
を完全に防げる.即ちクロスリ−クがな
結合せず,沈殿する(図 2 右下)
.すな
くなり発電効率の向上につながる.また,
わち,チャンスは一度きりであり,タン
燃料電池では電解質膜を透過したガスが
燃 料 電 池 特 性 は,Nafion® 膜( 厚 さ
のを要求してくるから要求項目
グステン酸ができ始めるその瞬間を捉
ラジカルの発生原因となるので,バリア
50m)を使った時の最大電力密度が約
(仕様)は大変な数になる.これ
えて PVA と結合させなければならない.
性がいいということはラジカル発生も少
700mW/cm2 であるのに対し,厚さ 32m
に対し澤氏は「顧客の要求を満
なく長寿命化につながる.
の iO-brane™ では約 1,000mW/cm2,厚さ
足するバランスのとれた製品を
をさらに薄い 14m にすると約 1,500mW/
いち早く供給するようにしたい.
このようにしてナノハイブリッド化で
無機酸化物と PVA が結合してできた分散
iO-brane™ を 用 い た 燃
料電池の特性
液は通常のキャスティング法で成膜する
ラジカル耐性
cm2 と共に Nafion® より出力は高い
(図 6)
.
そのためには,一にも二にも顧
ことができ,加熱して膜中の水分を蒸発
燃料電池の電解質膜としてはラジカル
薄くするほどイオン伝導の膜抵抗値が小さ
客との意思疎通を良くすること
すると,ハイブリッド化合物同士はさら
耐性が重要である.燃料電池の動作でラ
くなるので,出力は上がる.
である.顧客のご要求は拝聴す
に結合し,強固な膜となる.
ジカルが発生し,電解質膜が破壊されて
るが,時には素材メーカーが考
この膜を電解質膜として使うと,ナノ
しまう.フェントンテストは,過酸化水
える取り扱い法を提案するなど
ハ イ ブ リ ッ ド 化 し た -WO4H+ イ オ ン や
素が溶液から離脱する時のラジカル発生
+
+
-(WO4)2H イオンがプロトン(H )イオ
ン導電性を担う.
iO-brane™ の特性 [4]
耐熱水性,耐酸・耐アルカリ性
課題と今後の展望
を用いるラジカル耐性加速試験である.
で, 連 携 を 深 め る こ と で あ る.
そうしている内に業界標準の仕
この試験を行うと,図 5 に示すように W/
燃料電池用電解質膜での課題は,多く
様が出来上がることを期待した
PVA iO-brane™ は,15 時間での重量 % 低
の顧客がそれぞれに提示する要求仕様に
い」と語られた.
下は数 % に過ぎずラジカル耐性の大きい
どう応えるかである.日本国内の燃料電
今後の展開について,澤氏は
ことが分かる.膜の寿命はガスのバリア
池 メ ー カ ー, 欧 米 の MEA(Membrane
図 7 を 示 さ れ,1 年 後 に は 図 中
性と,ラジカル耐性で決まり,iO-brane™
and Electrode Assembly)メーカーそれぞ
の幾つもの「?」の所に具体名
はどちらも優れている.
れが自社の設計・製造プロセスに合うも
が記入されているでしょうと言
PVA は水に溶けるが,PVA と無機酸化
わ れ た. 澤 氏 の 頭 の 中 に は,iO-brane™
物のナノハイブリッド化によって形成さ
の特徴をもっと活かせる用途,iO-brane™
れた iO-brane™ は圧力鍋で 120℃にして
でなければならない具体的用途展開があ
も全く溶けない.強酸,強アルカリで煮
るようで,また既に着手しているような
ても溶解しない.また,ほとんどの有機
気配であった.
図 6 iO-brane™ を用いた燃料電池の発電特性
溶媒にも溶けない.しかし,水には全く
溶けないが良く馴染む.iO-brane™ の中
では,PVA の全 OH 基の内の数 % が無機
おわりに
酸化物と結合するとこのように水に溶け
なくなるが,これは結合した大方の部分
12 年かけて仕上げた iO-brane™ は,当
が例えば -(WO4)2- のような形で PVA 繊
初掲げた 11 の目標(①先例のない素材で
維を架橋しているからである.残ってい
安価,②ライフサイクルを通して環境に
る OH 基が水とのなじみを良くしている.
優しい,③高プロトンイオン導電性,④
耐ラジカル性,⑤耐酸化性,⑥耐酸・耐
耐熱性
アルカリ性,⑦耐有機溶媒性,⑧耐熱性,
タ ン グ ス テ ン 酸 と PVA の W/PVA iO-
⑨ガスバリア性,⑩耐圧縮性,⑪柔軟性)
brane™ の空気中での熱分析結果を図 3 に
図 4 iO-brane™ のガスバリア性
図 7 今後の展開
を達成している.政府の補助金なしでも
示 す.WO3 の 含 有 量 が 27 重 量 % の W/
リーズナブルな価格で,究極のエコカー
PVA iO-brane™ は,350 ℃ ま で 発 熱 を 示
「iO-brane™ を搭載した燃料電池自動車」
さず安定である.無機酸化物とのナノハ
が一日も早く普及することを願っている.
イブリッド化で,PVA の耐熱性,耐酸化
また,iO-brane™ は燃料電池用電解質膜だ
性が大幅に向上している.
けではなく,水電解膜,触媒膜,分離膜(分
[2]
Compounds", Electrochemistry,
た新しい Pd ナノ粒子触媒膜」,THE
Vol.72, No.2, pp.111-116 (2004)
CHEMICAL TIMES,No.2( 通巻 232
号 ),pp.2-7(2014)
澤 春夫,「無機 / 有機ナノハイブ
リッド電解質膜の開発」,燃料電池,
[6]
澤 春夫,
「無機・有機ナノハイブリッ
Vol.12,No.1,pp.43-47 (2012)
ド膜(iO-brane)を用いた新しい金
澤 春夫,「高イオン伝導性固体電解
属ナノ粒子触媒膜」
,WEB Journal,
質及び該固体電解質を使用した電機
No.145 (WEB 増刊号 ),pp.21-24
化学システム」,特開 2003-007133,
(2013) hydrogenation of prochiral
s・cmHg),N2 に対して 3 × 10 cc・cm/
特開 2003-138084,特開 2003-
substrates in catalytic membrane
(cm2・s・cmHg) だが,iO-brane™ はさら
208814,特開 2003-242832,特開
reactors", Catalysis Science &
2004-296243,他計 19 件
Technology, Vol. 1, Issue 2, pp.226-
澤 春夫,「燃料電池用電解質の技
229 (2011)
子フィルター)へ応用展開が進められて
ガスバリア性
おり [5][6],これ等が化学産業にイノベー
Nafion® はガスの透過が少なく,ガス透
ションをもたらすことを期待している.
-9
[3]
2
過係数は O2 に対して 2 × 10 cc・cm/(cm ・
-9
参考文献
にその 1/10 以下という高いバリア性を
示す(図 4).このため燃料電池の電解質
本文中の図表は,総てニッポン高度紙
[4]
膜としては薄くできその結果電気抵抗を
工業株式会社から提供されたものである.
術−新規な無機 / 有機ナノハイブ
下げられるので燃料電池の出力を高めら
[1]
H.Sawa and Y. Shimada,
リッド膜の開発−」,JETI,Vol.60,
※ 取 材 日:2014 年 6 月 24 日, 所 属・
れる.さらに膜が薄膜であれば,発電反
"Proton Conductive Electrolyte
No.7,pp.1-3 (2012)
役職等はインタビュー当時のものです.
応の結果陽極で生成した少量の水で膜全
Membranes Based on Tungstic
体を常に潤すことができるので,これに
図 5 iO-brane™ のラジカル耐性
38 | nano tech & NanotechJapan Bulletin コラボレーション企画「10-9INNOVATION の最先端」
Acid and Poly(vinyl alcohol) Hybrid
[5]
澤 春夫,「独自の無機 / 有機ナノ
ハイブリッド膜(iO-brane)を用い
ニッポン高度紙の大面積無機/有機ハイブリッド膜製造技術| 39
初出:NanotechJapan Bulletin Vol.8, No.3 2015 発行,http://nanonet.mext.go.jp/magazine/1215.html
< nano tech ⼤賞 2015 グリーンナノテクノロジー賞>
カーボンナノチューブを添加した炭素繊維および機能性樹脂薄膜技術
〜ナノ分散 CNT の微量添加で樹脂を⾼機能化するグリーンテクノロジー〜
ニッタ株式会社 テクニカルセンター 開発研究グループ ⼩向 拓治⽒,輝平 広美⽒,経営戦略室 ⽊下 ⼀成⽒に聞く
などの更なる軽量化や信頼性向上に貢献
する成果を賞す」である.
この研究開発を推進されたニッタ株式
図 4 ナノ分散 CNT の CF への付着:CNT 複合炭素繊維(CNT/CF)
会社 テクニカルセンター 開発研究グルー
プ 高知工場長 兼 課長 小向 拓治(こむ
ナノ分散 CNT 付着 CF の
ボビンを前にした輝平
広美氏(左)と小向 拓治
氏(右)
かい たくじ)氏と,今回の国際ナノテク
ら, 現 在,CNT は 多 く の 研
ノロジー総合展示会担当者である 開発
究機関や企業で電池の電極材
研究グループ 輝平 広美(てるひら ひろ
や各種樹脂への添加材等とし
み)氏ならびに経営戦略室の木下 一成(き
ての応用開発が行われてい
のした かずしげ)氏を東京・銀座のニッ
る. し か し,CNT の 特 徴 が
タ東京支店に訪ね,上記 3 つの技術内容
十二分に活かされているとは
およびそのものが持つポテンシャルおよ
言 え な い.CNT を 一 本 一 本
び今後の展開等についてお伺いした.
にばらばらに分散(以下,ナ
ノ分散)して他の材料に添加
新 型 の 航 空 機 B787 の 機 体 構 造 物 の
ノ分散された CNT を CF 表面に付着する
50%(35 トン)には炭素繊維(CF)で強
技術,CNT を 表 面 に 付 着 し た CF と 樹 脂
化した炭素繊維強化プラスチック(CFRP)
を複合化する技術」がある.2015 年 1 月
が用いられている.金属を減らし,軽量
28 ∼ 30 日に東京ビッグサイトで開催さ
化したことによる燃費 30% 向上と,窓面
れた「nano tech 2015 第 14 回国際ナノ
積の 65% 拡大と気圧・湿度の最適化とい
テクノロジー総合展・技術会議」にニッタ
う乗り心地面の向上がなされている.軽
株式会社からナノ分散 CNT による樹脂の
くて強くかつ錆びない CFRP は,その後自
高性能化技術が出展され,nano tech 大賞
動車への適用などが検討されている.
する又は複合化することで初
CNT ナノ分散技術:
分散剤を用いず CNT を
1 本 1 本までバラバラ
にする
めて CNT の持つ特徴が活か
されるが,現状では分散技術
が不十分で特性が発揮できな
図 5 CNT 付着による CF の導電率向上
いためである.
合成された状態の CNT は,強固な凝集
いことが分かった.また,
ステンレス
(SUS)
CNT/CF の特性で大きく改善されたのが
CNT が発見され [1],それが鋼鉄の 20
体あるいはバンドル(束)を形成している
基板上に形成した薄膜にサファイヤ圧子で
導電性である.図 5 に CNT 付着による CF
倍の強度,銅の 10 倍の熱伝導性,アルミ
(図 1 上右上)
.一般に用いられる分散剤
引っ掻き傷を付けると,樹脂薄膜は 1.5N
の導電率向上を示す.体積抵抗率(cm)
グリーンナノテクノロジー賞を受賞した.
ニウムの半分の密度,シリコンの 10 倍の
による方法は,分散剤が CNT の表面を覆っ
の押圧で傷が発生するが,ナノ分散 CNT
は,CF および CNT/CF 共に密度が高くな
CFRP の応用でネックとなる課題は,厚
受賞理由は「微量のカーボンナノチュー
電子移動度,さらにはしなやかで耐熱性
ており,CNT の持つ機能の低下をもたら
複合樹脂薄膜では 2.5N まで引裂き傷が発
るに伴って小さくなるが,空隙率 30% に
み方向の 剥離強度の向上 と 導電性向
ブを添加した高機能の樹脂や炭素繊維の
が大きいなどの優れた特性を持つことか
す(図 1 上右下)
.ニッタでは,分散剤な
生しなかった(図 3)
.さらに,耐摩耗性
当 た る 密 度 1.26g/cm3 に お い て,CF の
上 である.これらを実現する技術として
合成技術を開発した.
しでしかも CNT を切断することなく長い
では,ナノ分散 CNT は摩耗破片が生じに
0.007・cm に 対 し, わ ず か 0.3wt% の
「カーボンナノチューブ(CNT)を 1 本 1
航空機や自動車に使
ままナノ分散させる手法を開発した(図 1
くく,耐熱性も CNT が樹脂中にナノレベ
CNT を付着させた CNT/CF では 0.005・
本までバラバラにするナノ分散技術,ナ
う強化プラスチック
上左)[2][3].これに加えてもう一つのニッ
ルで分散すると,樹脂分子の熱的動きが
cm と約 35% 小さくなっている.これは,
タの技術の特徴は,この分散した状態を
CNT により拘束されるために向上した.
CF のみの場合は CF 同士が点で接触してい
保ったまま,ただちに次のプロセスに持ち
るのに対し,CNT/CF では網目状に CF の
込むことである(分散液を長く保つと再凝
表面に付着している CNT を介して CF-CF
集するからで,従って,ニッタでは分散液
CF への CNT 付着技術:
CNT 複合炭素繊維(以
下,CNT/CF)の創成
を商品化していない)
.樹脂に CNT を分散
した場合,従来の分散法では CNT の凝集
物がみられるが(図 1 下右)
,ニッタのナ
図 2 ナノ分散 CNT 複合樹脂薄膜の導電性
(樹脂:ポリイミド,CNT:多層 CNT,直径 15nm,長さ数十 m)
ノ分散では見られない(図 1 下左)
.
ナノ分散した CNT を CF 表面に均一に
付着する技術を開発した(図 4).12,000
本の CF をサイジング剤でバラバラにな
CNT 複合樹脂薄膜
らないよう幅 5mm 程度のリボン状に束
間の接触点が増加した結果である(図 6)
.
CNT/CF を 樹 脂 に 複 合
化する技術:
CNT/CF を 複 合 化 し
た CFRP( 以 下,CNT/
CFRP)とその特性向上
ねられたものが,図の左端のように直径
ナノ分散 CNT を帯電防止塗料に適用し
図 1 合成後の CNT の状態と分散剤による分散およびニッタのナノ分散状態
図 3 ナノ分散 CNT 複合樹脂薄膜の強度
(樹脂:ポリイミド,
CNT:多層 CNT,直径 15nm,長さ数十 m,CNT 添加量:0.7vol%)
40 | nano tech & NanotechJapan Bulletin コラボレーション企画「10-9INNOVATION の最先端」
10cm,高さ 40cm 程度のボビンに巻かれ
従来の CF/ 熱硬化性樹脂で形成された
た例を図 2 に示す.ガラス基板上に,ナノ
ている.サイジング剤を除去し,数 m
CFRP は優れた特性を持っているが,課題
分散 CNT 複合樹脂塗料の表面抵抗率を四
径の CF 表面に 0.1 ∼ 0.3wt% のナノ分散
もある.一つは厚さ方向の機械的強度が
探針法で測定すると,帯電防止に有効な表
CNT を網目状に均等に付着させ,次いで
小さいこと(樹脂層界面剥離)
,二つ目は
面抵抗率 1 × 104/sq 以下にするのに導
サイジング剤で束ねて元のリボン状にし,
厚さ方向の導電性がほぼ絶縁体に等しい
電性カーボン添加薄膜では約 7vol% の添
ボビンに巻く.ナノ分散 CNT 付着前後の
程低いことである(図 7).その原因は,
加が必要であるが,ナノ分散 CNT 添加薄
外観はほとんど同じで一見見分けがつけ
長手方向には高強度で導電性のある CF が
膜では CNT 添加量は 0.1vol% の微量でよ
難い.
貫通しているのに対し,厚さ方向は強度
カーボンナノチューブを添加した炭素繊維および機能性樹脂薄膜技術| 41
が弱くかつ導電性の小さい樹脂が CF を取
り囲んでいるからである.
これに対し,CNT/CFRP は従来の CFRP
の強度と導電率の課題を克服する.CNT/
CFRP では,高弾性率の CF と低弾性率の
樹脂との間に "CNT- 樹脂の網カゴ状分散
層 " が形成され,弾性率に傾斜がつき応
力集中を避けることができる(弾性率:
CF>> CNT- 樹脂の網カゴ状分散層 > マト
リックス樹脂)(図 8).CF 表面の網の目
状の CNT に樹脂が入り込み,CF が CNT
樹脂複合体の網カゴの中に入ったように
図 10 CNT/CFRTP 化による応力集中の緩和
なるので CF- 樹脂間での剥離が起き難く
図 6 CNT 付着による CF の導電率向上のメカニズム
な る. な お,CNT の CF へ の 付 着 は 図 4
の通り,ファンデルワールス力で均質的
に固着しているが,ここに樹脂が入ると
付 着 し て い る CNT の 一 端 が 浮 き 上 が り
CNT- 樹脂の網カゴ状分散層 が形成され
る(図 8).厚み方向の導電性向上は,こ
の浮き上がった CNT が他の CF 表面の浮
き上がった CNT と接触することによって
向上する.
図 9 に屈曲試験の破断面を示す.一般
の CFRP では,応力が集中する樹脂と CF
との界面でスッパリと破断している(図
左 ). 一 方,CNT/CFRP で は,CF と 樹 脂
図 7 CFRP の特徴と課題
は CNT- 樹脂の網カゴ状分散層 を介し
図 11 熱可塑性樹脂を用いたプリプレグおよびペレット
て高強度で付着し,さらに応力集中が緩
和されるため,界面剥
離の伝播が阻止され破
断面は複雑な形になっ
ている(図右).
CNT/CFRP 化の効果
は,部材の品質の大幅
な改善をもたらす.従
図 8 (CNT/CF)RP における厚み方向の強度および導電性向上メカニズム
新たな展開:
CNT/CF と 熱 可 塑 性 樹
脂を用いた CFRP
(以下,
CNT/CFRTP)
とができる(図 10 左)
.さらに PP のよ
Win-Win の関係になるよう進め,事業を
うな非極性樹脂と CF の接着性向上をもた
展開していくとのことである.
らす効果もある.ニッタが作製した熱可
塑性樹脂を用いたプリプレグやペレット
を図 11 に示す.CNT/CFRTP には,①樹
参考文献
脂の改質が不要で,②界面の接着性が向
来の CFRP では強度等
上記の CNT/CFRP は,エポキシ樹脂な
上し,③しかも非極性樹脂の接着が可能
本文中掲載の図は,ニッタ株式会社よ
の特性にバラツキが大
どの熱硬化性樹脂を用いたものである.
となるので,機械的物性向上のポテンシャ
りご提供頂いたものである.
きく,このことが設計
次の二つの課題がある.
ルは大きい.
[1]
において大きな安全係
①熱硬化性樹脂の場合,所望の成形品に
数を必要としていた.
する前までのプリプレグの保存は樹脂
しかし,CNT/CFRP で
の硬化を防ぐために冷蔵する必要があ
は,ばらつきが小さく
る(ものによっては大きな冷蔵設備を
なり,しかも高い値の
必要とする)
,
方に集まる.安全係数
も小さく出来るので,
②硬化プロセスに長い時間を要する(硬
S. Iijima, "Helical microtubules of
graphitic carbon", Nature, Vol. 354,
No. 6348, pp.56-58 (1991)
今後の展望:
テストピース等の供給
で顧客との技術的連携
強化
[2]
Takuji Komukai, "Density Control
of Carbon Nanotubes through
the Thickness of Fe/Al Multilayer
Catalyst", Japanese Journal Applied
化∼離型までに約 1 時間)
,
Physics, Vol.45, No.7, pp.6043-
同じ目的の強度に対
自動車の車体,パーツのような量産品に
航 空 機 用, 自 動 車 用, ガ ス ボ ン ベ 用,
し,薄肉化・軽量化設
おいて,成形を 1 分以内の短時間で行い
タンク用等に関し多くのユーザから強い
計が可能である.構造
たいという業界ニーズに対応して,熱硬
関心が寄せられている.これらユーザお
「CNT/ 炭素繊維複合素材,この複合
体(特に移動構造体)
化性樹脂を熱可塑性樹脂(ThermoPlastics)
よび CNT メーカ,樹脂メーカと連携する
素材を用いた繊維強化成形品,およ
の軽量化は環境保全
に換える検討を行った.問題は図 10 右に
ことにより,ニッタが持つ CNT ナノ分散
び複合素材の製造方法」,特開 2013-
(グリーン)につなが
示すように応力がかかると CF と例えばポ
技術,CNT の CF への付着技術,CNT/ 樹
76198(出願日:2012.02.13)
る.この点が評価され ,
リプロピレン樹脂(PP)との界面に応力
脂 複 合 化 技 術,CNT/CFRP 技 術,CNT/
この度の グリーンナ
が集中し剥がれが生じることである.こ
CFRTP 技術を評価してもらう.また,CF,
※ 取 材 日:2015 年 3 月 20 日, 所 属・
ノテクノロジー賞 の
れ対し,CNT/CF を用いると CNT/ 樹脂層
CNT,CFRP の 生 産 過 程 の 全 て を 一 社 で
役職等はインタビュー当時のものです.
受賞理由になってい
が形成されるため応力集中を緩和するこ
行うことは困難である.他社と協力して
6045(2006) [3]
吉原久美子,小向拓治,中井勉之,
る.
図 9 屈曲試験片の破断面の状況
42 | nano tech & NanotechJapan Bulletin コラボレーション企画「10-9INNOVATION の最先端」
カーボンナノチューブを添加した炭素繊維および機能性樹脂薄膜技術| 43
初出:NanotechJapan Bulletin Vol.8, No.4 2015 発行,http://nanonet.mext.go.jp/magazine/1229.html
< nano tech ⼤賞 2015 新⼈賞>
エネルギー・光・⾳の制御が出来る新規機能性材料の開発
〜①安全・⼤容量な⼆次電池実現が期待される「イオン伝導性フィルム」
,②樹脂に分散して光の屈折率を変える
®
「ジルコニアナノ粒⼦分散液ジルコスター 」
,③不快な振動・騒⾳対策が可能な「振動減衰材⽤樹脂」〜
株式会社⽇本触媒研究本部 三輪 貴宏⽒,⼩川 賢⽒,⾼橋 邦夫⽒,⿑藤 允彦⽒に聞く
二次電池は,Ni/Cd 二次電池の代替を目指
して長年検討されたが,未だ実用化に至っ
ていない.その理由は,充電時に Zn デン
ドライト(樹枝状結晶)が負極上に成長し,
これが電池の内部短絡を引き起こすから
である.
電池反応は下式で示される(放電反応:
図 3 本開発イオン伝導性セパレータ使用による Ni/Zn 二次電池サイクル寿命の改善
右向き,充電反応:左向き).
−
(正極)2NiOOH + 2H2O + 2e ⇔
企業理念
TechnoAmenity を
背に,左から
高橋 邦夫氏,小川
賢氏,齊藤 允彦氏,
三輪 貴宏氏
中の電解液にも Zn(OH)42 − イオンが存在
2Ni(OH)2 + 2OH − (1)
−
2−
4
−
+ 2e ⇔
するので,孔の中でもデンドライトは成
ZnO + H2O + 2OH −+ 2e − (2)
長を続け,ついには正極にまで達し,内
(負極)Zn + 4OH ⇔ Zn(OH)
(全体)2NiOOH + Zn + H2O ⇔ 2Ni(OH)2
部短絡を起すことになる.これが,従来
のセパレータ(PP,PE 製で孔径は数 10
+ ZnO (3)
負極では,放電時(式(2)右向きの反応)
2−
4
∼ 100nm)を用いた場合のデンドライト
2015 年 1 月 28 ∼ 30 日,東京ビッグ
かひろ)氏,先端材料研究所 小川 賢(お
に,Zn が酸化されて電解液中に Zn(OH)
発生と内部短絡のメカニズムである.
サイトで開催された「nano tech 2015 第
がわ さとし)氏,企画開発本部 開発部 主
イ オ ン が 放 出 さ れ る.Zn デ ン ド ラ イ ト
小川氏らは,この対策として以下の 2
14 回国際ナノテクノロジー総合展・技術
任部員 高橋 邦夫(たかはし くにお)氏,
は,負極の充電反応(式(2)左向き)が
つを考えた.①セパレータの孔をより小さ
会議」に株式会社日本触媒(以下,日本
機能性化学品研究所 アシスタントシニア
進行し,電解液中の Zn(OH)42 − から Zn が
くしかつセパレータ全面に渡って均一に分
触媒)は新分野開発技術 11 件を出展し
リサーチャー 齊藤 允彦(さいとう まさひ
負極上に析出する過程で発生する.即ち,
布させる.これにより電流分布の偏りが小
[1],nano tech 大賞 2015 新人賞を受賞し
こ)氏を大阪府吹田市の吹田地区研究所
図 1 に示すように,負極上に Zn が析出す
さくなりデンドライトの核の発生が抑制さ
た.受賞理由は「2 次電池に利用できる金
に訪ね,技術内容およびそのものが持つ
るがセパレータの孔に対向した部分は電
れる.②セパレータが OH − イオンは通す
属でも突き破れない高強度イオン導電性
ポテンシャルおよび今後の展開等につい
流密度が他より高くなり,従って析出速
が Zn(OH)42 − イオンは通さないようにす
フィルムや,振動減衰性が高い樹脂など
てお伺いした.
度も速くその結果この部分にデンドライ
る.これらによって,デンドライトの先端
トの種が形成される.一旦先のとがった
がセパレータに達したとしてもセパレータ
を開発した.初出展ながら開発中の画期
2−
4
的な新素材を数多く展示し来場者の注目
種ができるとその先端部の電界強度は高
の中には Zn(OH)
を集めた点を賞す」である.11 件の展示
くなるので,その部分に Zn の析出が集中
で,セパレータの中で Zn の析出,即ちデ
し,デンドライトがますます成長するこ
ンドライトの成長は起らない(図 2)
.
とになる.そしてそれがやがてセパレー
以上の考えに立って開発し出来上がっ
タの孔部分に達する.セパレータの孔の
たものが,イオン伝導性フィルムである.
の中から標記 3 件を取り上げ,これ等の
二次電池の課題に応える
イオン伝導性フィルム
研究開発を推進された研究本部 R&D 推進
室 グループリーダー 三輪 貴宏(みわ た
高いエネルギー密度が期待される Ni/Zn
図 4 ジルコニアナノ粒子の電子顕微鏡写真
イオンは存在しないの
OH- イオン伝導性を持つ無機化合物とポ
リマーを,日本触媒の独自技術によって,
柔軟なシート状の有機 / 無機複合フィル
ムにしたものである.
開発されたイオン伝導性フィルムには,
「OH −は通すが Zn(OH)42 − は通さない」と
図 5 ジルコスター ® の構造模式図
「均一に微多孔が分布」の 2 大特徴に加え
て,次の特性がある:
レ ー タ を 組 み 込 ん だ Ni/Zn 二 次 電 池 を
今回の実証よって,Ni/Zn 二次電池が現
・強アルカリ水溶液中にて安定である
作 製 し, 充 放 電 の サ イ ク ル 試 験 を 行 っ
在ハイブリッド電気自動車他に使用され
(従って,アルカリ水溶液電解液電池に
た.結果は,図 3 に示すように,通常の
ている Ni/MH 二次電池を代替する可能性
Zn(OH)42 − を通す微多孔フィルムをセパ
が出てきた.また,よりエネルギー密度
レータに用いた Ni/Zn 二次電池では,150
の高い Air/Zn 二次電池への展開が期待さ
サイクル近くから急激に放電容量が低下
れる.さらに,このフィルムは各種セン
・高い機械的強度を保有しており,かつ柔
してしまうのに対し,本開発のイオン伝
サーへの応用も期待できる.日本触媒は
軟で,自立できる膜である(巻回等の
導性フィルム製セパレータを用いたもの
素材メーカーとして,このフィルムに関
電池製造プロセスに要求される機械的
は 1,300 サイクルにおいても初期の放電
心のあるユーザーと連携して応用研究を
強度を持つ)
.
容量の 95% 以上を維持し,サイクル寿命
共に推進することを望んでいる.
使える).
・電子伝導性がない
(電子伝導抵抗> 1G Ω,
電池のセパレータに適する)
.
図 1 Zn デンドライト発生とその成長による電池内部短絡
図 2 本開発イオン導電性セパレータによる Zn デンドライト短絡抑止メカニズム
44 | nano tech & NanotechJapan Bulletin コラボレーション企画「10-9INNOVATION の最先端」
このイオン伝導性フィルム製のセパ
を大幅に改善出来ている.
エネルギー・光・音の制御が出来る新規機能性材料の開発| 45
ジルコニアナノ粒子分
散液 ジルコスター ®
ジルコスター ® は,図 4 に見られるよ
うにやや細長い形状のジルコニア(ZrO2)
②ジルコニアナノ粒子をフィラーとして
なってしまう問題があるが,ITO と基材
分散させた樹脂は,高い透明性を有す
の中間の屈折率を持つジルコスター ® 使
る.また,高屈折率でありながらアッ
用樹脂を用いるとこの問題は解消される.
ベ数の向上を図ることができる:プラ
また,高屈折ナノ粒子であるジルコスター
スチックレンズ等の光学材料,電子材
® を使用することで,液晶バックライト
料に適する.
の光を拡散させず一方向に集めることが
ナノ粒子(平均粒径 10nm)の表面に,有
③ジルコニアナノ粒子を樹脂に分散させ
できるようになり,光量を少なくするこ
機物から成る表面処理層が被覆されたも
ることで樹脂の硬さ,他の性質を変え
とができるのでバッテリー等の消費電力
のである(図 5).
ることなく屈折率を調整することがで
を抑えることができる.高橋氏らは,こ
表面処理層は,ジルコニアナノ粒子表面
きる,等である.
のような効能をアピールし,レンズ,ディ
によく馴染み,かつジルコニアナノ粒子を
製品としての分散液には,2 つのタイ
スプレイやタッチパネル等の光学材料,
分散させる溶媒や樹脂によく馴染む材料
プがあり,Type 1 はメチルエチルケトン
電子材料に使用される透明性と高屈折率
が選ばれる.ジルコニアの結晶構造は正方
(MEK)を分散媒にし,Type 2 はベンジル
が要求されるコーティング材料 / 成形材料
晶系,単斜晶系,立方晶系などがあるが,
アクリレートを分散媒にしている(表 1).
主成分として屈折率の最も大きい正方晶
粒子含有率はそれぞれ,70%,80% と高
を用いている.表面処理層で使用する材料
いが,粒子の分散度が高く良好な透明性
の組成については,用途によっていろいろ
を示す(図 6).
な仕様に変更することができる.
また,ジルコスター ® は UV 硬化後も
その特徴は,
透明性を保つ.粒子含有率を増加するこ
①ジルコニアナノ粒子表面が有機物であ
図 9 振動減衰材用樹脂を塗布された Al 板の遮音性
TL(Sound Transmission Loss:透過損失)
=10log10(入射音のエネルギー / 透過音のエネルギー)
「振動減衰材用樹脂」
:
不快な振動・騒音を低減
とにより,屈折率を高くすることができ
振動減衰材用樹脂は,輸送機器,住宅,
るので,多様な有機溶媒・樹脂によく
るが,透過率の低下はない(表 2).
建材,家電,精密機械などで生じる不快
分散する.UV 硬化型アクリル樹脂 / モ
タ ッ チ パ ネ ル に 使 う ITO は 屈 折 率 が
な振動・音を低減し,人々の「快適」へ
ノマーへの分散も良好である.
高いため配線の筋が見えてしまい見難く
の要求に応えようとするものである.日
表 1 ジルコニアナノ粒子分散液の諸特性
図 8 振動減衰材用樹脂を塗布された鋼鈑の振動減衰性
へ展開したいとのことである.
表 2 ジルコニアナノ粒子分散液を用いて形成したフィルムの特性
図 10 損失正接(tan)の制御
本触媒は,独自のポリマー設計技術を用
タであり,tan のピーク温度を任意の
えておられる案件を実現するのに役立つ可
いて高い振動減衰効果を実現している.
温度域に調整できることを示している.
能性があり,日本触媒と連携・協業するこ
とにより出来上がった技術・製品をもって,
振動減衰効果を表す特性値は損失正接
・VOC(Volatile Organic Compounds:
(tan)である [2].日本触媒独自が開発
揮発性有機化合物)を含まない環境に
人と社会に豊かさと快適さを提供する「日
した新規樹脂は,一般的なアクリル樹脂
優しい水系であるため,有機溶剤を嫌
本触媒の企業理念である "TechnoAmenity"」
の tan が 2 以下であるのに対し,室温付
う現場での施工に適している.
の実現につながることを願う.
近で 3 を超える設計が可能である(図 7).
・アスファルトシートが振動減衰材として
また,振動減衰材用樹脂に無機顔料を
用いられている用途については,振動
混合した複合材料を鉄板に塗布した時の
減衰材用樹脂を用いた複合材料に置換
制振性を比較すると,常温付近において,
えると樹脂組成物を振動体に塗布する
一般的なアクリル樹脂に無機顔料を混合
だけでよいから,作業者の負担は大き
本文中に掲載の図表は,日本触媒より
した場合に比べて非常に大きな振動減衰
く軽減され,施工作業性が良い.
提供されたものである.
参考文献
性を示す(図 8).
今後の展開について,齊藤氏は「本開発
さらに,アルミ板(Al 板)に振動減衰
品は,車両,船舶,住宅,建材,家電,精
材用樹脂に無機顔料を混合した複合材料
密機器などの微小振動の抑制を求める部材
を塗布すると,遮音性の向上が見られ,
に適用することを想定しており,今回のこ
特に 10kHz 以上で大きな効果がみられる.
の記事がユーザーとのマッチングに繋がれ
について」
:https://www.onosokki.
甲高い不快な音が遮られる(図 9)
ばありがたい」と期待を示された.
co.jp/HP-WK/c_support/newreport/
振動減衰材用樹脂はこのような特性に
[1]
日本触媒ニュースリリース:http://
www.shokubai.co.jp/ja/news/
news0181.html
[2]
小野測器,
「制振材料その特性評価
damp/damp_1.htm#mark3
加えて次のような特徴を持つ.
・使用温度に応じた樹脂設計が可能である.
※ 取 材 日:2015 年 7 月 9 日, 所 属・ 役
おわりに
図 10 は振動減衰材用樹脂のピーク温度
を 11℃,27℃,51℃に調整したデー
図 6 ジルコニアナノ粒子分散液の透明性(分散度)
46 | nano tech & NanotechJapan Bulletin コラボレーション企画「10-9INNOVATION の最先端」
職 等 は イ ン タ ビ ュ ー 当 時 の も の で す.
ここに紹介した技術や開発品が,読者の考
図 7 塗膜の制振性:損失正接(tan)
エネルギー・光・音の制御が出来る新規機能性材料の開発| 47
初出:NanotechJapan Bulletin Vol.8, No.4 2015 発行,http://nanonet.mext.go.jp/magazine/1230.html
< nano tech ⼤賞 2015 産学連携賞>
⽵や間伐材から取り出すセルロースをナノメートルサイズに微細化する技術
〜セルロースナノファイバーが拓く新素材の可能性〜
中越パルプ⼯業株式会社 開発本部開発部 上級技師 ⽥中 裕之⽒に聞く
高岡本社を訪問し,開発本部開発部上級
プンが中に詰まった柔細胞が見れる.竹
技師の田中 裕之(たなか ひろゆき)氏と
パルプを構成している繊維と柔細胞は,
同部技師の高橋 創一(たかはし そういち)
メッシュによるろ過を繰り返すことで分
氏に,セルロースナノファイバーの開発
離でき,2 つの成分比を用途に応じて最適
状況や今後の展望など話を伺った.
化することも可能である.柔細胞の表面
もセルロースでできているので,微細化
していけばナノファイバー化できる.
中越パルプ工業株式会社
高橋 創一氏(左)
,田中
裕之氏(右)
手にしているのは,セル
ロースナノファイバーの
シートや成型加工品,机
上にはパンフレットとサ
ンプル提供している 1%
濃度のセルロースナノ
ファイバー分散液など
中越パルプ工業とパルプ
製造
中越パルプ工業は 1947 年創業の製紙
ナノセルロースの特徴
と製作技術
会社で,図 1 右下の写真が高岡事業所の
全景である.
セルロースナノファイバーあるいはナ
図 1 は紙パルプの製造プロセスを示し
ノセルロースは,全ての植物の基本骨格
たもので,木片チップを蒸解釜で煮て,
物質であり,セルロース繊維を微細化す
繊維状にほぐして取り出したものを白く
ることで得られる.
紙は,樹木を原料にして繊維状パルプ
会社(以下,中越パルプ工業)が出展し
漂白してから,シート状の紙に加工する.
図 4 は,木材の断面の一部を電子顕微
を取り出し,それをシート状にしたもの
た新しいセルロース微細化技術は,nano
紙パルプの原料は,間伐材や建築用木材
鏡で 1,000 倍に拡大して観察し,更にチッ
である.セルロース繊維からなるパルプ
tech 大賞 2015 の産学連携賞を受賞した.
の端材をチップ化して原料としている.
プから取り出した幅 20 m程度のパルプ
は,人間の髪の毛より細い数 10m 径で,
受賞理由は「九州大学と共同で竹や間伐
中越パルプ工業では,竹を原料にしたパ
を 2,500 倍で観察したものである.この
これを更に nm サイズ径にまで微細化した
材から取り出すセルロースをナノメート
ルプの製造も行っている.竹はタケノコ
パルプは,セルロース分子鎖,ミクロフィ
ルサイズに微細化する技術を開発した.
としての食用が中心で,栽培農家は九州
ブリル,フィブリルと階層的に構築され
紙とは違った優れた特性を持つ新素材に
処分に困った天然資源を包装材料や構造
に多い.4 ∼ 5 年毎に間伐しないと良質
た構造を有している.幅 10nm のセルロー
なる可能性がある,と期待されている.
材料,光学部品など様々な工業製品に応
なタケノコが採れないので,間伐竹材の
スナノファイバーは,数本のミクロフィ
2015 年 1 月末に開かれた国際ナノテク
用できる可能性を示したことを賞す」と
処理が問題になっていた.そこで,中越
ブリルが集合した状態まで微細化された
ノロジー総合展・技術会議の展示会 nano
のことであった.
パルプ工業の鹿児島県川内工場で,20 年
状態のものである.パルプの繊維からセ
tech 2015 において,中越パルプ工業株式
今回,富山県高岡市の中越パルプ工業
近く前から放置竹材を原料にした竹パル
ルロースナノファイバーまで,1,000 分
プの製造に取り組んできた.
の 1 のダウンサイジングである.図 4 右
木材チップの組成は,約半分が水分,
下の電子顕微鏡写真は,パルプ繊維の表
1/4 がセルロース,残りの 1/4 がいわば
面を観察したもので,セルロースナノファ
セルロースの接着剤のリグニンからなる.
イバーが集まってできている沢山の繊維
蒸解釜では木材チップに水酸化ナトリウ
のヒダが見える.
ムを混入し 160℃の高温で煮ることで,
パルプ繊維の状態で作られる紙と違い,
リグニンをアルカリに溶かして取り除く.
繊維を微細化したセルロースナノファイ
この段階では,セルロース繊維は黒っぽ
バーは,
いパルプとして釜から引き出され,洗浄
①高強度:鋼鉄の 1/5 の軽さで,鋼鉄の
セルロースナノファイバー が,従来の
工程や異物を取り除く精選工程を経て,
48 | nano tech & NanotechJapan Bulletin コラボレーション企画「10-9INNOVATION の最先端」
図 3 竹素材の断面構造(繊維質と柔細胞)
5 倍の強度
酸素漂白など 4 段階の漂白工程を通す.
②透明性:可視光の透過率は 90% 程度
こうして出来上がった繊維状のパルプ
③寸法の熱的安定性:ガラスと比較する
の主成分はセルロースで,その分子構造
図 1 紙パルプの製造プロセス(右下の写真は,高岡事業所の全景)[1]
図 2 パルプの成分と竹・広葉樹・針葉樹の比較
と線膨張率は 1/50
は図 2 左上のように (C6H10O5)n で表され
という特徴を持っている.
る直線状の炭水化物である.重合度 n は
セルロースナノファイバーの調製方法
1,000 程度であり,直鎖上に重合した天然
としては,物理的処理,化学的処理,電
の高分子である.図 2 下部の表では,竹
気的処理,生物的処理の 4 種類のアプロー
パルプと広葉樹・針葉樹からのパルプに
チ が 検 討 さ れ て い る. 中 越 パ ル プ 工 業
ついて,成分を比較している.
では,物理的処理法の一種を採用してい
図 3 は,竹素材の断面構造を拡大しな
る.九州大学の近藤 哲男教授が発明した
がら観察したもので,繊維質の他にデン
水 中 対 向 衝 突(ACC:Aqueous Counter
図 4 木材断面からセルロースナノファイバーに至る階層構造
竹や間伐材から取り出すセルロースをナノメートルサイズに微細化する技術| 49
Collision)法 で,パルプを水中に分散さ
バー化手法では得られない特徴である.
セルロース塗布前,右が塗布後で水滴が
そこで,ナノセルロースの表面を疎水
ポジット(株)・(株)三幸商会と共同開
は大きい.
「今後は量産化に向けて調製条
せた懸濁水同士を衝突させる方法である
この特性を応用すると,ACC セルロー
広がって殆ど平らになっている.ポリエ
化すべく水溶媒を含んだまま疎水化する
発したもので,図 8 に電子顕微鏡(TEM)
件を最適化し,成型加工先と共同で信頼
[2].図 5 左に ACC 法の原理構成を示した.
スナノファイバーを表面塗布することで
チレンシートの表面にナノセルロースの
技術を開発し,プラスチック樹脂に疎水
で観察した写真を示す.竹素材のナノセ
性テスト・安全性も確認した上で,2017
パルプ繊維と水をタンクに投入して分散さ
親水性物質を撥水化,また逆に撥水性物
疎水部位が吸着し,親水性部位が外を向
化ナノセルロースを均一に分散させるこ
ルロースは疎水性が付与しやすく凝縮し
年の製品化を目標に開発している」
,と田
せ,プランジャーで加圧してから,チャン
質を親水化することが可能になる.図 7
くので親水化された [3].
とに成功した.疎水化ナノセルロースを
ないで均一に分散しており,ポリプロピ
中氏は意気込みを語った.
バーに送る.図 5 右はチャンバー内の拡大
の上は,水を良く吸う「ろ紙」に水滴を
熱可塑性のプラスチック樹脂にナノセル
5% 配合すると,弾性率が 2 倍以上になる
レン樹脂がナノセルロースを起点として
図で,2 つの水鉄砲のノズルから,繊維分
落とした様子で,ACC 法で作成したナノ
ロースを加えると,プラスチックの強度が
ことが確認されている.
結晶化している.プラスチック樹脂にナ
散水を高速に噴射して衝突させる.この時
セルロース分散水を塗布した後では,水
改善される.プラスチック・ナノセルロー
ところが,疎水化処理をしてない未修
ノセルロースを少量添加するだけで,強
の噴射圧は 100 ∼ 200MPa,噴射速度は
玉が盛り上がっている.ろ紙表面にはナ
ス複合体の研究開発では,ナノセルロース
飾の ACC セルロースナノファイバーでも,
度が高まり軽量化できる技術である.
マッハ 2 まで高められている.衝突時に水
ノセルロースの親水性部位が吸着し,疎
をプラスチック内で均一に分散させること
ポリプロピレン樹脂に均一に分散した高
ポリオレフィン樹脂は自動車や家電製
天然資源である樹木や竹のセルロース
のサイズは小さくなって,繊維の中に入り
水性部位が外を向くので,ろ紙表面が撥
が困難であった.疎水性のプラスチック樹
強度の複合樹脂が得られることが分かり,
品ほか幅広く利用されており,ナノセル
繊維を紙として利用するだけでなく,ナノ
易くなる.水が繊維内部に侵入する力で繊
水化される.図 7 の下は,水をはじくポ
脂中では,ナノセルロースが親水性によっ
2015 年 1 月の nano tech 展の前々日にプ
ロースを少量添加するだけで更に軽量化
メートルサイズまで微細化してセルロー
維間の結合がほぐれ,微細化が進む.プラ
リエチレンシートの場合で,左側がナノ
て凝縮してしまうからである.
レスリリースした [4].出光ライオンコン
でき,強度が補強されることのインパクト
スナノファイバーにすると,紙パルプと
おわりに
ンジャーの圧力を制御し,衝突時の噴射圧
は違った新しい素材になる可能性の芽が
を変化させることで,ナノスケールで
見え始めてきた.中越パルプ工業は九州
のサイズ調整が可能である.ACC 法で
大学と連携して水中対向衝突という微細
は,図 5 左に描いた原料の流れを 1 回
化法でナノセルロースを作成することで,
だけでなく,多数回繰返すことで微細
親水性のセルロースに疎水性も付与でき
化の程度を上げている.
るという特徴を引き出した.特に竹素材
のナノセルロースは疎水性が顕著に発現
し,強化プラスチックへの応用他,様々
な展開が考えられる.今後,実用化に向
ACC 法で生産したセ
ルロースナノファイ
バーの特徴と利用例
けた開発が楽しみである.
セルロースの繊維は一般に親水性を
参考文献
示すが,ACC 法で作ったセルロース
ナノファイバーの特徴は,親水性に加
本文中の図は,全て中越パルプ工業よ
えて疎水性をも持たせることができる
り提供されたものである.
ことである.図 6 左上に示すように
[1]
中越パルプ工業株式会社 セルロース分子は直線状の構造をして
" ナノセルロース "(パンフレッ
いて,横から見て OH 基が出ている面
ト)
,http://www.chuetsu-pulp.
では親水性を持っている.一方,図 6
右上のセルロース分子を上から見た図
co.jp/wordpress/wp-content/
図 5 水中対向衝突法(ACC 法)によるナノセルロースの製造 [1]
図 7 ナノセルロース表面塗布による撥水化・親水化 [3]
uploads/2015/01/20150206CeNF.
で黄色の面では,CH 結合なので疎水
pdf
性になっている.つまり,セルロース
[2]
Tetsuo Kondo, Mitsuhiro Morita,
分子自体は親水性と疎水性の両方の部
Kazuhisa Hayakawa and Yoshiro
位を持ち合わせている.セルロース分
Onda, "Wet pulverizing of
子は疎水性の面をもった長いリボン状
polysaccharides", US Patent
で,その両側端(水色部分)が親水性
No.7,357,339 (2005 年出願)
と考えてよい.このリボンを結晶のよ
[3] Ryota Kose, Wakako Kasai and Tetsuo
うに積み重ねることができ,図 6 左下
Kondo, "Switching Surface Properties
のように水色の丸同士が結合して規則
of Substrates by Coating with a
正しく並ぶ.すなわち,セルロース分
Cellulose Nanofiber Having a High
子同士が OH 基を介して水素結合して
Absorbability" , SEN'I GAKKAISHI,
結晶を作ると,結晶全体は水色の丸で
vol.67, No.7, pp.163-168 (2011)
取り囲まれるので親水性となる.
[4] 中越パルプ工業,プレスリリース,"
ACC 法によるセルロース繊維の微細
ナノセルロースを高分散したポリオ
化は,
図 6 右下に示すように,
セルロー
レフィン樹脂の開発に成功 ∼プラ
ス分子の疎水面間の比較的弱い結合箇
スチックの軽量化と環境に貢献∼ "
所に水が進入することで,得られるセ
(2015 年 1 月 26 日)http://www.
ルロースナノファイバー表面には疎水
chuetsu-pulp.co.jp/wordpress/wp-
性部位が出てくると考えられる.つま
content/uploads/2015/01/0df94ac
り,ナノファイバー化によって疎水性
87a0fcd73ef6e784ce078725d.pdf
を付与できる,といえる.この ACC
法により得られるセルロースナノファ
イバーの表面特性は,他のナノファイ
※ 取 材 日:2015 年 7 月 1 日, 所 属・
図 6 セルロース繊維の親水性と,ナノセルロースへの疎水性付与
50 | nano tech & NanotechJapan Bulletin コラボレーション企画「10-9INNOVATION の最先端」
図 8 竹ナノセルロース添加によるポリオレフィン樹脂の補強 [4]
役職等はインタビュー当時のものです.
竹や間伐材から取り出すセルロースをナノメートルサイズに微細化する技術| 51
初出:NanotechJapan Bulletin Vol.6, No.3 2013 発行,http://nanonet.mext.go.jp/magazine/1103.html
< nano tech ⼤賞 2015 プロジェクト賞(ライフテクノロジー部⾨)>
携帯電話で呼気診断・⾎液検査を可能にする新センサー
独⽴⾏政法⼈ 物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点 吉川 元起⽒に聞く
図 3 カンチレバーアレイセンサーの構成と機能 (提供:吉川氏)
層を変えることで,色々な標的物質を検
出するセンサーとなる.
分子検出センサーのうち汎用性の高いガ
スセンサー,特に複雑なニオイを簡易的に
測定・識別するものについては,多くの研
究開発にも係わらず,まだ有効な社会実装
に至っていない.図 1 は各種応用例におい
て要求される測定性能とセンサーの現状を
独立行政法人 物質・材料研究
機構(現:国立研究開発法人
物質・材料研究機構)国際ナ
ノアーキテクトニクス研究拠
点 吉川 元起氏
示すもので,特に赤で記された応用に関し
ては,一般レベルで利用可能なセンサーは
存在しないのが現状である.
もう一つがバイオセンサーである.図 2
は癌における診断時期と手術後の 5 年生
存率の関係を示している.早期に発見で
地球環境や人々の生活,医療等の改善
本 稿 は, こ れ に 先 立 つ こ と 1 年 前 の
きた人は高い確率で社会復帰できる.よ
をもたらすためには,改善すべき要因を
2013 年 12 月,NIMS 国際ナノアーキテ
り早期に,気が付かない段階で検出する
検知し,人間や機械が理解できる情報に
クトニクス研究拠点(MANA)に,吉川
手段として,呼気の測定での検出が考え
変換するセンサーシステムが必要になる.
元起(よしかわ げんき)氏を訪問し,「超
られる.
「小型の呼気センサーを携帯電話
独立研究開発法人 物質・材料研究機構(現:
高感度ナノメカニカル膜型表面応力セン
に内蔵することができれば,電話をして
国立研究開発法人 物質・材料研究機構)
サー(MSS)の開発」について話を伺った
いる間に癌の診断が行われ,警報が出た
の服用回数が 7 回で幼児の炎症性腸疾患
るメカニズムの詳細には諸説あり,まだ
Rohrer 博士(1986 年ノーベル物理学賞
(NIMS)
では,
膜型表面応力センサー
(MSS)
ものに,その後の動向の概要を加えたも
らその診断結果を病院に送って検査する
の発生確率が 3 倍になったことが報告さ
完全には解明されていない.
受賞)から,ダブルカンチレバー構造で
などの方法で早期発見ができる可能性が
れている [1].このような抗生剤の乱用に
梁のたわみの検出方法は,主に光学読み
の感度アップの提言があり,ここから吉
究開発を行っており,2015 年 1 月末に開
ある」と吉川氏は語る.
よる弊害を最小限に抑えるためには,血
取り方法とピエゾ抵抗を活用する方法があ
川 氏 と Rohrer 博 士 の 二 人 三 脚 の 研 究 と
かれた国際ナノテクノロジー総合展・技
もう一つの医療分野での問題は耐性菌
液検査に時間を掛けることなく,病原菌
る.光学読み取り方法は AFM の手法で,
なった.
術会議 nano tech 2015 において,その成
の発生である.一般に,血液検査での病
を即座に同定できるセンサーの開発が有
検出精度は高いが,光学系が必要でコスト
カンチレバーの抵抗変化の様子を AFM
原菌の特定は 3 ∼ 10 日間掛かる.その間
効であると考えられている.
が高く,小型化が難しく,さらに,血液検
で使用する場合とセンサーとして使用す
医師は多くの細菌に効く抗生剤を継続し
査のように不透明な液中では使えない.
る場合について比較した結果を図 5 に示
と名付けた新しい分子検出センサーの研
果を発表し,nano tech 大賞 2015 のプロ
のである.
研究の背景−分子検出
センサーの必要性
ジェクト賞(ライフナノテクノロジー部
図 4 ピエゾ抵抗カンチレバーの断面構造(図上段)と
ホイートストンブリッジによる抵抗変化の測定(図下段)
(出典:図上段は参考資料 [2],図下段は参考資料 [3]) (提供:吉川氏)
図 5 AFM とカンチレバーセンサーでの抵抗変化分布の違い
(提供:吉川氏)
門)を受賞した.受賞理由は「携帯電話
分子検出センサーは,調べたい標的分
て投与する.しかし,これが耐性菌を生
一方ピエゾ抵抗法は,不純物をドープし
す.梁の表面のピエゾ抵抗変化を色で示
などのモバイル機器を用いて呼気や血液
子の存在情報を電気信号に変える装置で
む可能性が有り,抗生剤が全く効かない
たシリコン(Si)の応力による電気抵抗値
している.AFM の場合(図 5a と b),梁
で簡単に健康状態をチェックし,データ
ある.その装置は,標的分子を選択的に
細菌が各地で出現している.抗生剤乱用
の変化を測定するもので,図 4 の上段に
の自由端に点で加わる力で梁は z 方向(紙
送信できるシステムを開発した.いつで
吸着する受容体層と,吸着した情報を電
の更なる脅威は,体内の有用な細菌も同
ピエゾ抵抗カンチレバーの断面構造を示す
面垂直方向)にたわみ,固定端を細くす
ることで応力を集中させ,大きな抵抗変
ナノメカニカルセン
サーへの期待と動向
も・どこでも・だれでも使える技術に道
気的信号に変換する変換器(Transducer)
時に殺してしまうことである.Nature に
センサーには,感度,レンジ,コスト,
[2].下段はピエゾ抵抗の電気抵抗変化を
を開いたことを賞す.
」とあった.
で構成される.標的物質に合わせて吸着
発表された論文のデータ例では,抗生剤
サイズ,時間,試料調整,測定数,再現
測定するホイートストンブリッジ回路であ
化 を 得 る こ と が で き る( 図 5b). 一 方,
性の諸項目をどれも満たしている必要が
る [3].この方式は低コスト,
小型化が容易,
カンチレバーセンサーの表面応力は梁の
あり,これらの点で注目されているのが
レーザー位置合わせが不要であり,不透明
表面全面で等方的に印加されるため,図
ナノメカニカルセンサーであり,その代
溶媒中でも使用可能である.その上,大量
5 中の式で示される単結晶シリコンの特
表例がカンチレバーセンサーである.
生産が可能であり,多次元配列のセンサー
性により,形状を変化させても,ほとん
カ ン チ レ バ ー は AFM(Atomic Force
アレイが容易に構成できるなどの特徴を有
ど抵抗変化として検出することができず,
Microscope,原子間力顕微鏡)で使用さ
している.しかしながら,大きな課題は感
大きなシグナルは得られない(図 5d)
.
れて有名であるが,これをナノメカニカ
度が低いことであり,実用化に向けての大
これに対して,一般的なカンチレバー
ルセンサーとして使用する場合は,梁の
きな妨げになっていた.
センサーと Rohrer 博士が提案したダブル
表面に標的分子を吸着する抗体などを含
レバー構造を比較した結果を図 6a と b に
む受容体層を塗布し,分子が吸着すると,
示す.ダブルレバーは大きさの異なる 2
分子同士の反発力などで梁がたわむのを
新センサー追及の道のり
図 1 各種好感度測定に求められる性能とセンサーの現状
日経エレクトロニクス Digital ニュース 五感センサ(5):
においの活用は宝の山 を参照して作成 (提供:吉川氏)
図 2 医療診断における早期診断の重要性
グラフはアメリカ癌学会の Cancer Facts & Figures 2012
のデータを基に作成 (提供:吉川氏)
52 | nano tech & NanotechJapan Bulletin コラボレーション企画「10-9INNOVATION の最先端」
つのレバーの自由端を結合した形をして
いる.この場合,大きなカンチレバー上
利用する.図 3 に示すように,複数のカ
ンチレバーを設ければ,梁ごとに異なる
吉川氏のピエゾ抵抗を活用するセン
に印加される表面応力が,カンチレバー
受容体層を塗布して,同時に複数の標的
サーの研究は,
2007 年∼ 2008 年,スイス・
のたわみを介して,もう一方の小さなカ
分子を検出できるのが大きな特徴である.
バーゼル大学(Christoph Gerber 研究室)
ンチレバー上に一軸性の増幅された応力
なお,分子吸着により表面応力が発生す
に 滞 在 し た 時 に 始 ま っ た [4].Heinrich
として印加されることで,大幅な抵抗変
携帯電話で呼気診断・血液検査を可能にする新センサー| 53
図 9 カンチレバー,第 1 世代および第 2 世代 MSS の検出特性の比較.
窒素ガス中に,一定時間混入させた水蒸気を検出した例.(提供:吉川氏)
図 6 ピエゾ抵抗センサーの構造の進展経緯 (提供:吉川氏)
図 10 MSS アライアンスのロゴマーク.
MSS を示す文字と,犬以上の嗅覚を持つと言われる象のイメージを重ね合
わせている(図上段).呼気の成分を検知し健康状態をモニタリングするモ
バイル機器応用のイメージ(図下段).
(提供:MSS アライアンス)
図 7 MSS の構成 (提供:吉川氏)
(2011).
タ解析方法の確立が重要となる.
化の増幅を起こすことができる.吉川氏
分を削り取り,2.5m 厚
こういった状況を踏まえ,MSS の社会
と Rohrer 博 士 と の 議 論 は, 自 宅 や 会 議
のシリコン(Si)膜となっ
実装,特に嗅覚 IoT センサーとしての業
室での議論に加え,メール 515 通,FAX
ている.なお,Si 結晶膜
界標準化と普及に向けて,NIMS,京セラ,
は 50 通 以 上 に 及 ん だ と の こ と で あ る
は (100) 面 で あ り, ピ エ
[5].また,センサチップの試作に関して
[7]
参考文献
G. Yoshikawa, T. Akiyama, F. Loizeau,
K. Shiba, S. Gautsch, T. Nakayama, P.
M. Blaser, "Antibiotic overuse: stop
Vettiger, N. Rooij, and M. Aono, "Two
大 阪 大 学,NEC, 住 友 精 化,NanoWorld
the killing of beneficial bacteria",
Dimensional Array of Piezoresistive
ゾ抵抗は [110] 方向に電
の 6 者共同で,産学官連携アライアンス
Nature Vol. 476, Issue 7361, pp.
Nanomechanical Membrane-Type
は,Peter Vettiger 博士の仲介で,優れた
流が流れるように形成さ
(MSS アライアンス)が 2015 年 9 月に発
393-394 (2011).
Surface Stress Sensor (MSS) with
MEMS 技 術 で Akiyama Probe な ど の 製
れている.ピエゾ抵抗は
足した(図 10).この活動により基礎技
Aeschimann L, Meister A, Akiyama
Improved Sensitivity", Sensors, Vol.
品でも知られている秋山 照伸博士のいる
Si 結晶に B を適度にドー
術を固めた上で,医療,ヘルスケア,食品,
T, Chui B W, Niedermann P,
スイス連邦工科大学ローザンヌ校(Ecole
プして形成した.VB 端子
コスメ,環境,安全など,様々な分野で
Heinzelmann H, De Rooij N F,
Polytechnique Federale de Lausanne:
と GND 端子間に電圧を印
の応用可能性を探る.最終的には,個別
Staufer U and Vettiger P, "Scanning
Sebastian Gautsch, Peter Vettiger,
EPFL)との共同研究を行った.
加し,ピエゾ抵抗素子の
デバイスとしてだけでなく,総合的なシ
probe arrays for life sciences
Genki Yoshikawa, Nico de Rooij,
ステム/サービスとして新たな社会イン
and nanobiology applications",
"Membrane-Type Surface Stress
図 8 第 2 世代 MSS アレイ搭載チップ写真
および 1 個の MSS の走査電子顕微鏡像(出典:参考文献 [7])
(提供:吉川氏)
[1]
[2]
12, No. 11, pp. 15873-15887 (2012).
[8]
Frédéric Loizeau, Terunobu Akiyama,
図 6 は カ ン チ レ バ ー(a) か ら 始 ま っ
抵抗値の変化を,対角線
て,ダブルレバー(b)
,ダブルレバーの
上にある二つの Vout 端子
フラの構築を目指している.
Microelectron. Eng. Vol. 83, pp.
Sensor with Piezoresistive Readout",
変形の両端固定構造(c)へと構造進化の
間の電圧の変化で検知する仕組みである.
chip 方式を指向してきた.これに対し,第
最後に,吉川氏は研究の展開が素晴ら
1698-701(2006)
26th European Conference on
過程を示した.円形の拡大表示部分がピ
MSS の特長の一つは,MEMS を使って
3 世代 MSS として,両面被覆を採用し,1
しい人の繋がりと,研究環境にあること
M. Tortonese, R. C. Barrett and C.
Solid-State Transducers, Procedia
エゾ抵抗で,
(b),(c)では梁部分で発生
簡単に集積できることである.図 8 に 2
チップ毎に標的分子を特定する One-chip-
を吐露された.スイスのバーゼル大学(特
F. Quate, "Atomic Resolution with
Engineering, Vol. 47, pp. 1085-1088
するたわみが細いピエゾ抵抗部に集中し,
次元アレイの第 2 世代 MSS チップの写真
one-channel 方式を提案した [11].両面被
に Gerber 教授,Lang 博士)や EPFL(特
an Atomic Force Microscope Using
(2012).
ピエゾ抵抗が大きく変化する.より感度
とその中の一個のセンサーの走査電子顕
覆の利点は,被覆工程の単純化と自由度,
に秋山博士,Loizeau 博士,Gautsch 博士,
Piezoresistive Detection," Applied
を高める手段として,片側だけだったピ
微鏡像を示す.表面の保護膜は SiO2 から
再現性の向上などである.単にチップを溶
Vettiger 博士,de Rooij 教授)というその
Physics Letters, Vol. 62, No. 8, pp.
エゾ抵抗部分を対向する両端に付けるこ
SiN に 変 え て 薄 く し,B の ド ー プ も イ オ
液に浸すだけで受容体層を形成できるた
分野で世界最先端の組織・研究者との連
834-836 (1993).
とを考え,更に左右の両側の辺にもピエ
ン注入方式に変えるなどの改良を行って
め,安定性も高まり,標準化もしやすくな
携,Rohrer 博士との出会い,それらのきっ
G. Yoshikawa, H. Lang, T. Akiyama, L.
Loizeau,Sebastian Gautsch,Peter
ゾ抵抗による応力検出部分を設け,4 か所
いる.図 9 に,第 1 世代と第 2 世代の特
る.ただ,多チャンネルの用途には,複数
かけを作った東北大学の櫻井教授,そし
Aeschimann, U. Staufer, P. Vettiger,
Vettiger,Nico de Rooij,中山知信,
でホイートストンブリッジ回路を形成し,
性を比較実測した例を示す [8].窒素ガス
チップを集積する必要があり,システムが
て NIMS の MANA(特に青野教授,中山
M. Aono, T. Sakurai, and C. Gerber,
青野正和,吉川元起 「気流によるナ
,
高感度に標的分子吸着を検出する構造(d)
の中に特定時間だけ水蒸気が含まれるよ
若干大きくなる.いずれにしても,両面被
教授)における若手に最大限の自由や権
"Sub-ppm detection of vapors using
ノメカニカル撹乱のデジタルホログ
に到達した.この構造で構成するセンサー
うにして,H2O 分子を検出した例である.
覆にも対応する MSS は,非常に自由度の
限を与える画期的な研究システムである.
piezoresistive microcantilever array
ラフィック解析」第 73 回応用物理
を膜型表面応力センサー(Membrane-type
グラフの縦軸は各センサーの検出電圧で
高いシステム設計が可能である.
また,最近の活動は,吉川氏の研究グルー
sensors", Nanotechnology, Vol. 20,
Surface stress Sensor,MSS)と名付けた.
あり,カンチレバーの 0.5mV に対し第 1
プ(特に柴博士,今村博士,そして研究
No. 1, p. 015501 (2009)
世 代 MSS で は 12mV, 第 2 世 代 MSS で
業務員のメンバー),MANA ファウンドリ
は 50mV であり,感度は 100 倍程度の改
膜型表面応力センサー
(MSS)
の構成と特性 [6][7]
図 7 に試作した MSS の構成を示す.セ
善が実現している [9][10].
MSS のその他の特徴
[3]
[4]
[5]
[9]
Lyncée Tec 社ホームページ,http://
www.lynceetec.com/
[10] 柴弘太,秋山照伸,Frederic
学会学術講演会 12a-H3-10 (2012)
[11] G. Yoshikawa, F. Loizeau, C. J. Y. Lee,
G. Yoshikawa, H. Rohrer, "Strain
T. Akiyama, K. Shiba, S. Gautsch, T.
Amplification Schemes for
Nakayama, P. Vettiger, N. F. de Rooij,
くの共同研究者,世界各国からのインター
Piezoresistive Cantilevers", 7th
and M. Aono, "Double-Side-Coated
ンシップの学生諸氏,そして MSS アライ
International Workshop on
Nanomechanical Membrane-Type
「商品化のためにはまだ基礎研究が足り
アンス事務局およびアライアンスの各企
Nanomechanical Cantilever Sensors
Surface Stress Sensor (MSS) for One-
ない」と吉川氏は語る.特に受容体層に
業・大学のメンバーなど,多くの関係者
(2010)
Chip-One-Channel Setup", Langmuir,
今後の課題/展望と
むすび
(特に大井博士,大木氏),NIMS 内外の多
ついてアプリケーションに対応する受容
に支えられている.
G. Yoshikawa, T. Akiyama, S.
Vol. 29, No. 24, pp. 7551-7556
基板上に形成されており,受容体を被覆し
第 2 世代 MSS では片面被覆を行って,
体層材料やそのコーティング技術,それ
この MSS が,未知の領域ゆえの課題を
Gautsch, P. Vettiger and H. Rohrer
(2013).
て標的分子を吸着する中央の円形領域およ
複数の標的分子に対応する種類の異なる
による検出感度,再現性などを定量的に
克服し,人類の社会や生活に貢献する新
: "Nanomechanical Membrane-type
びその周辺 4 か所のピエゾ抵抗素子 R1 ∼
受容体層を一個のデバイス上に形成する
保証できる体制を作る必要がある.従っ
しい分野として産業化が進み,新たな価
Surface Stress Sensor" Nano Letters,
※ 取 材 日:2013 年 12 月 12 日, 所 属・
R4 部分は,バック・エッチにより基板部
多チャンネル型デバイス,即ち All-in-one-
て,化学的データの蓄積,要素技術とデー
値観をもたらすことを期待する.
Vol. 11, No .3, pp. 1044-1048
役職等はインタビュー当時のものです.
ン サ ー 全 体 は SOI(Silicon on Insulator)
54 | nano tech & NanotechJapan Bulletin コラボレーション企画「10-9INNOVATION の最先端」
[6]
携帯電話で呼気診断・血液検査を可能にする新センサー| 55
初出:NanotechJapan Bulletin Vol.8, No.3 2015 発行,http://nanonet.mext.go.jp/magazine/1214.html
< nano tech ⼤賞 2015 ⽇刊⼯業新聞社賞>
インクジェット技術の産業応⽤
〜 3D プリンティングからバイオテクノロジーまで〜
株式会社マイクロジェット社⻑ ⼭⼝ 修⼀⽒に聞く
装置実験の指導をする山口氏
製に応用できないか,などの話が来だし
めには,ノズル形状,液の粘度,表面張力,
■特殊印刷の例
た.時代が省エネ,省材料,廃棄物削減
印加電圧波形など,多数のパラメータを
最近ではネクタイやバック等のファッ
を求めるようになったからである.従来
整理体系化し,コンピュータシミュレー
ション製品,車のシート,無機インクを
の技術は,原版を作り,転写して,不要
ションを行っている.課題の一例として,
使って焼いたタイルや,観光地でのクッ
部分を除去してパターンを作るものであ
ノズル口からの蒸発による特性への影響
キーなど土産物の多くにインクジェット
るが,原版やマスクを作る費用や,露光
の問題があった.図 2 はこれにより液吐
プリントが使われている.
装置などの費用がかかり,パターン以外
出が乱れて不良になった状況を,良好な
の部分は除去するので材料の無駄が多い.
状態と比較して示している.この問題に
■エレクトロニクスへの応用例
一方,インクジェットの場合は,パター
対して現在の市販プリンターでは,一定
液晶テレビのカラーフィルター,配向
ンなどの必要な箇所だけを狙って材料を
時間経過毎に古い液を捨てて新しい液に
膜,導光板(マイクロレンズのアレイ)
非接触で置いてゆくだけでよく,設備費
入れ替えることで対応している.
の形成,プリンテッドエレクトロニクス
も安く,材料の無駄もない.そして,消
のデバイス形成,銀ナノ粒子液での RFID
費エネルギーも小さい.このように,イ
タグ(無線 IC タグ)の回路の形成などの
ンクジェットは時代の要望に適合するこ
とが認識されだした.
インクジェット技術の
産業応用の広がり
図 2 ノズルからの吐出液形状が外乱により不良になる (提供:
(株)マイクロジェット)
使用例がある.図 3 に,これらの用途に
(株)マイクロジェットが開発した微細回
路研究用装置の FemtoJet(ピエゾヘッド
nano tech 2015 第 14 回国際ナノテク
インクジェットでは,インクの代わり
と静電ヘッドによる 10m 以下のライン
ノロジー総合展で nano tech 2015 大賞 日
にレジスト,金属ナノ粒子溶液,カーボ
やドット形成)と NanoPrinter(ナノ金属
ンナノチューブ溶液,紫外線硬化材料,
インクによる配線形成)を示す.
刊工業新聞社賞を受賞した,株式会社マ
インクジェットプリン
ターの動作原理
図 3 微細回路研究用装置 (提供:
(株)マイクロジェット)
機能性高分子液,DNA,細胞液など,極
イクロジェットの社長 山口 修一(やまぐ
ち しゅういち)氏を東京農工大学小金井
インクジェットプリンターにはピエゾ
めて数多くの分野に対応する液材料を考
■バイオテクノロジーへの適用
キャンパス構内にある同社の東京支社に
方式とバブルジェット方式がある.前者
えることができる.また,ヘッドが移動
これまでのプリンター用ヘッドでは,
訪ね,お話を伺った.
は,現在はエプソンとブラザー等が事業
する機械精度さえ確保できれば例えば 3m
バイオマテリアルの吐出が困難であった.
化している.マイクロジェットもこの方
∼ 4m の描画も可能で,大面積の施工が
表面張力の大きさ,微小液量への対応,
式を採用している.図 1 にピエゾ方式の
可能である.その上,デジタル制御でそ
洗浄の必要性,粒状の細胞の吐出等の課
構成と動作原理を示す.図上部の断面図
の場で必要な数を作ることができ,オン
題に対処するヘッドの改良を 2008 年か
に示すように,ピエゾ素子の電極に信号
デマンド生産,多品種少量生産ができる.
ら一年かけて行い,DNA,タンパク,抗体,
電圧が加わると,赤い矢印のように歪が
まさに次世代のものづくり技術であると
細胞の吐出が可能となった [2].その応用
発生してピエゾ素子が下側にたわんで振
山口氏は語る.以下に応用例を示す.
インクジェット技術に
よるものづくり革命 [1]
∼ベンチャー企業立ち
上げへの想い∼
動板を押し下げ,圧力室内の液体をノズ
例を次に示す.
(1)DNA チップへの適用:遺伝子を検査
山口氏はエプソン株式会社(現セイコー
ルから液滴として噴出
する DNA チップでは,予め塩基配列
エプソン株式会社)に入社以来,ピエゾ
する.現在の市販プリ
の明らかな DNA 断片多種をチップ上
方式インクジェットプリンターの研究開
ンターのノズルの直径
に配列しておき,検体との反応を調
発に取り組んできた.世界初の写真画質
は約 30m であり,噴
べて検体の DNA を特定するが,その
プリンターの要素開発が一段落した後,
出速度は 10m/s の速さ
DNA 断片の配列にインクジェットを
1997 年に退社して(株)マイクロジェッ
である.今世界で一番
使う(図 4).
トを設立した.そのとき「インクジェッ
早 い も の で は,1 秒 間
トという色の付いたインクをデジタルに
に 1 ノズルから 5 万滴
狙った位置に並べる技術であり,細胞
並べれば写真になるが,色以外の機能を
を噴出すると云う.図
を自在にハンドリングする技術は,製
持った液体を並べたら凄いことができる
下 部 は 平 面 図 で あ る.
薬や再生医療の進化にも貢献するもの
ことに気付いてしまった」と山口氏は語
このノズルが少ないも
と期待されている [3].
る.インクジェットは易しい技術ではな
ので 100 個,家庭用の
いので,その技術を持っている自分が普
一般プリンターの場合
及させるのが自分の使命であろうと考え,
で 1000 個並べている.
「インクジェットの研究開発を支援する」
ヘッド技術の実用化に
ことをビジネスとしている.
あたっては,様々な努
2000 年を越えた頃から,液晶ディスプ
力の積み重ねがあった.
レイのカラーフィルターや電子回路の作
吐出液の形状制御のた
図 4 インクジェットでパターニングした DNA チップ (提供:
(株)マイクロジェット)
(2)細胞のパターニング:細胞を一個ずつ,
3D プリンター [1][4][5]
3D プリンターの種類と動向
図 1 ピエゾ型インクジェットプリンターのヘッドの構成
(提供:
(株)マイクロジェット)
56 | nano tech & NanotechJapan Bulletin コラボレーション企画「10-9INNOVATION の最先端」
現在,3D プリンター造形方式の主要な
図 5 インクジェット粉末積層法の原理説明図
(提供:
(株)マイクロジェト)
インクジェット技術の産業応用| 57
ウム系の材料を使うことで人工骨を作る
ものは次の 7 種である.①熱溶解積層法
(FDM),②インクジェット粉末積層法,
③インクジェット UV 硬化積層法,④光
インクジェット積層
方式 3D プリンター
戸毅教授および鄭雄一教授らが骨の欠損
部を補う人工骨として使っており(図 6)
造形法(SLA),⑤粉末焼結積層法(SLS),
⑥指向エネルギー堆積法,⑦シート堆積
ことが可能である.東京大学医学部の高
[6],すでに人体での治験も終わって実用
インクジェット粉末積層法
段階に入っている.
法.これまで欧米で開発に注力されてき
たのは,このなかの⑤粉末焼結積層法で
図 5 に示すように,石膏粉末を 100m
ある.この方法は,金属粉(ステンレス,
の 厚 さ に 平 ら に し て, そ の 上 に イ ン ク
アルミニウム,チタニウム合金,ニッケ
ジェット装置によりカラーインクと水溶
ル合金)等を平に敷き,一層毎にレーザー
性バインダー液を打ち込んでパターンを
インクジェット UV 硬化積層法は,図 7
光,または電子線照射により所望箇所を
描く.その上面に同じことを繰りかえし,
に示すように紫外線で固まる樹脂をイン
焼結し,造形を行うものである.用途と
その後,バインダーで固められていない
クジェットで塗ってから紫外線で固めて
しては航空・宇宙,自動車部品,人工関
石膏粉末を取り除き,造形物をとりだす.
いく方法である.以下にその特徴を応用
節などがある.日本でも遅まきながら技
そのままでは弱いので,接着剤の液に浸
例で示す.
術研究組合 次世代 3D 積層造形技術総合
して強化し完成する.山口氏はこうして
開発機構が 2014 年 4 月に発足し,レー
造った鎖を手にして,
「この技術が凄いの
ザー方式およびインクジェット方式の粉
は,輪が絡み合って出来る鎖が組みあがっ
この方式では複数の部品を組み立てた
末積層法による 3D プリンターの技術開発
た状態で出来ることである.」と語った.
状態で一度に造形が可能である.図 8 は
が始まった.インクジェットによる 3D プ
3D CAD で設計された鎖は 45 分で完成し
紫外線硬化樹脂をインクジェットヘッド
リンターについては,海外ではまだ 5 社
ている.
から吐出させ、その直後に紫外線で硬化
ほどしか参入企業はない.その技術を持っ
粉末に多様な材料が使える特徴を活か
させる工程で作った 3 つの部品からなる
ている日本としては,ここに注目して産
して,多彩な応用領域が生まれる.石膏
スパナの模型である.3 つの部品の間には
業化を図るべきである,と山口氏は指摘
を使ってフィギュアやジオラマ等様々な
隙間があるため、ネジ部を回転させれば
する.
立体造形が行われている.また,カルシ
スパナの口部を動かすことができる.こ
インクジェット UV 硬化積層法
図 10 インクジェット式接触角計
&液滴解析装置 DropMeasure®
(提供:
(株)マイクロジェット)
(1)複数の部材を同時に造形
図 11 DropMeasure® によるインクジェット着滴の接触角測定および着滴の乾燥過程の観察
(提供:
(株)マイクロジェット)
れが可能となるのは,部品の材料とは異
なるサポート材を別のヘッドで塗布して
おわりに
参考文献
部品を支え,造形後に溶かして除去する
ことにより,隙間を形成できるからであ
インクジェット技術による 3D プリン
る.
ティング分野が成長する鍵を握るのは材
[1]
ト時代がきた∼液晶テレビも骨も作
料である.これからは強度や高機能が要求
(2)造形物の複雑さはコストに無関係
図 7 インクジェット UV 硬化積層法の原理説明図
(提供:
(株)マイクロジェット)
図 6 インクジェット粉末積層法による人工骨 (出典:参考文献 [6])
れる脅威の技術」株式会社光文社 されるようになる.そこで単なる樹脂では
(2012 年 5 月 20 日)
.
この方式で作った衣服類が,オートク
なく,ナノ材料などのコンポジット材の開
チュールのショーに出品されて話題をよ
発も重要となる.ところでこうした材料
"Stable ejection of micro droplets
んでいる。平面の布地をカットして縫い
をインクジェット用に開発するためには,
containing microbeads by a
合 わ せ る 従 来 の 衣 類 に 比 べ,3D プ リ ン
実験用の装置が必要である.そこで,( 株)
piezoelectric inkjet head" , Journal
ターで作る樹脂性の衣類は体形に合わせ
マイクロジェットは「3D プリンター用材
of Micro-Nano Mechatronics, vol 7,
て,3D 形状で且つ一体でできている.デー
料&プロセス開発用実験装置 MateriART-
タさえ作成できれば,どのような複雑な
3D」(図 9)および「インクジェット式接
形状でも自在に作れる.形状が複雑だか
触 角 計 & 着 滴 解 析 装 置 DropMeasure®」
らといって,製造コストが高くなるわけ
(図 10)を開発し,材料開発支援を行なっ
ではない.パソコン用プリンターで同じ
て い る. 図 9 の MateriART-3D は 市 販 の
大きさの印刷物を作る際,複雑な模様を
3D プリンターでは不可能な,新たに開発
印刷しても,単純な形状を印刷しても,
した材料を用いての造形実験が可能であ
印刷スピードに差がないことを考えれば,
る.材料に合わせてインクジェットヘッ
容易にこのことが理解できる.3D プリン
ドの駆動条件や造形パラメーターを変更
ターで作る場合は複雑さではなく,作る
しながらテストができる.粉末積層法と
ものの体積でコストが決まる.
UV 硬化積層法の両方のタイプの装置があ
[2]
(3)Mass Custom Manufacturing
58 | nano tech & NanotechJapan Bulletin コラボレーション企画「10-9INNOVATION の最先端」
図 9 3D プリンター用材料&プロセス開発用実験装置
MateriART-3D (提供:
(株)マイクロジェット)
うに吐出液滴の着滴後の乾燥過程を真上
S. Yamaguchi, A. Ueno, K. Morishima,
Issue 1-3, pp 87-95, 2012.
[3]
S. Yamaguchi, A. Ueno, Y. Akiyama
and K. Morishima, "Cell patterning
through inkjet printing of one cell
per droplet", Biofabrication 4 (2012)
045005, pp. 150-157.
[4]
山口修一 , "3D プリンタ最前線 ( 前
編 )" , 情報処理 , vol. 56, no. 3, pp
268-272, 2015
[5]
山口修一 , "3D プリンタ最前線 ( 後
編 )" , 情報処理 , vol. 56, no. 4, pp
る.DropMeasure® では,図 11 に示すよ
図 8 3 つの部品からなるスパナ (提供:(株)マイクロジェット)
山口修一,山路達也,
「インクジェッ
386-392, 2015
[6]
国立研究開発法人新エネルギー・産
3D プリンターはカスタマイズパーツの
と真横から高速度カメラで自動撮影し,撮
業技術総合開発機構プレスリリース
製造に適しており,特に人体に絡むパー
影画像から接触角や体積を自動計算する
「3D プリンターによるカスタムメイ
ツを作製する際に,その効果を発揮する.
と共に,着滴時のぬれ広がりや浸透,乾
ド人工骨を EU で製造・販売へ」
(2015
その応用例として,米国では歯の矯正に
燥過程を観察することができる.広く材
年 5 月 7 日). http://www.nedo.
用いるマウスピースの製造工程に用いら
料研究が進展し,各種分野でインクジェッ
go.jp/news/press/AA5_100382.html
れている.また高価な補聴器のイヤホン
トを使ったものづくりが行われる新時代
の製造にも使われている.
が来ることを期待したい.
※ 取 材 日:2015 年 3 月 19 日, 所 属・
役職等はインタビュー当時のものです.
インクジェット技術の産業応用| 59
×
「10-9 INNOVATION の最先端」インタビュー特集は,
nano tech と NanotechJapan Bulletin のコラボレーション企画です.
10 -9 INNOVATION の最先端
~ Life & Green Nanotechnology が培う新技術~
nano tech 大賞 受賞者インタビュー
平成 28 年 1 月
本冊子は , 文部科学省 ナノテクノロジープラットフォーム事業の一環として運営・発行されたナノテ
ク Web マガジン NanotechJapan Bulletin の企画特集記事を , ダイジェスト版に編集し,取りまとめ
たものです.本冊子の発行・印刷は,nano tech 実行委員会が行っております.複製,転載,引用等
には物質・材料研究機構の認証手続きが必要です.
© 2016 National Institute for Materials Science. All rights reserved.
nano tech 実行委員会
〒 101-8449
東京都千代田区猿楽 1-5-18
千代田ビル
(株)ICS コンベンションデザイン
☎ 03-3219-3567
E-mail:[email protected]
ナノテクノロジープラットフォーム
センター
〒 305-0047
茨城県つくば市千現 1-2-1
国立研究開発法人 物質・材料研究機構
☎ 029-859-2777
E-mail:[email protected]
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