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心エコー、心臓 CT 検査から心疾患を診る

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心エコー、心臓 CT 検査から心疾患を診る
心エコー、心臓 CT 検査から心疾患を診る
埼玉医科大学病院
総合診療内科・心臓内科
山本 啓二
1.はじめに
我が国は高齢化社会を迎え、高齢者の心疾患は増加傾向にあります。心疾患
の診療では、まず病歴を聴取する問診、身体診察、心電図、胸部X線検査、採
血による血糖値やコレステロール値の測定が行われます。心疾患が疑われるよ
うであれば、ほとんどの患者様に次に心エコー検査を行います。最近では、心
エコー検査は特殊な検査ではなく、一般的な検査になっています。さらに、狭
心症を疑うような患者様には、冠動脈評価のために心臓 CT 検査が行われるよう
になってきています。本日は、心エコーと心臓 CT 検査から心疾患を診たいと思
います。
2.心エコー検査の概略
(1) 心エコーとは
心エコー検査は、心臓の超音波検査と同じ意味です。超音波は周波数が 20k
Hz 以上の、人間の耳には聞こえない高い周波数の音波で、超音波の生体軟部組
織における伝播速度は、おおよそ 1500m/s です。
心エコー検査は循環器外来を受診されるほとんどの患者様に行われており、
心疾患の診断・治療などの診療に非常に有用な検査です。また安全に繰り返し
行うことができ、経過をみる検査に適した検査でもあります。その安全性のた
め、胎児の観察にも用いられています。検査のデメリット(欠点)は、超音波
の特性により骨や空気には伝播せず、筋肉や脂肪により減衰しますので、これ
らの組織による影響を受け、観察が困難、検査が不十分となることがあります。
また、検者の能力に左右されるのも特徴の一つです(検者間の差)。
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(2) 検査の実際
人工弁やペースメーカにも影響しないので、検査は多くの場合施行可能です。
食事もさしつかえありません。検査時間は 20~30 分、短ければ 15 分、長けれ
ば 1 時間ほどかかります。超音波が入る音響窓となる体の部位は限られており、
胸骨左縁の肋間がその主な部位で、他には心尖部の肋間、肋骨の下、胸骨の上
から観察することが可能です。体位は、左を下にした左側臥位で行われます。
(3) 心臓の形態・心機能・弁の評価
心臓は 4 つの部屋(心腔)からなります。頭側を心房、尾側を心室と言いま
す。それぞれ左右に分かれていて、左房、右房、左室、右室と言います。左右
の心房・心室の間には血液が混じらないように、それぞれ心房中隔、心室中隔
という壁があります。左室は大動脈に、右室は肺動脈につながり、血液がそれ
ぞれ送り出されます。4つの部屋の出口には、それぞれ弁が付いており、血液
が逆流しないようになっています。心エコー検査は、動いている心筋・弁など
を体表からですが自由な角度で、簡便に観察することができ、形態の評価には
欠かすことができない検査です。
心機能には、収縮機能と拡張機能があります。一般的に心機能と言っている
のは左室収縮能のことで、左室駆出率:Left ventricular ejection fraction
(LVEF, EF) (%)は左室収縮能の代表的指標で、正常は 55%以上です。左室駆出率
(EF)は、拡張した左室から、収縮してどれだけの血液が大動脈に出ていくか
という割合を示しています。
超音波検査にドプラ法が応用されことは、心エコー検査にとっても、医療に
とっても革命的なことでした。ドプラ法により、弁逆流・弁狭窄、短絡血流な
ど異常血流の評価や血流速度の測定が可能となっています。
3.心エコーで診る心疾患
(1) 弁膜症
心エコー検査の恩恵を一番受けたのが弁膜症で、弁膜症の手術は、年々増加
しています。大動脈弁狭窄症、大動脈弁閉鎖不全症、僧帽弁狭窄症、僧帽弁閉
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鎖不全症などの弁膜症の重症度評価、外科的手術適応、合併する心不全状態の
評価に、心エコー検査は欠かすことができない検査です。
これら弁膜症に細菌の塊(疣腫、疣贅)が付着し、高熱をきたす心疾患が、
心不全や塞栓症を引き起こす可能性がある、感染性心内膜炎という重篤な病気
です。この細菌の塊は、心エコー以外の検査では捉えるとことができませんの
で、心エコー検査は診断、合併症、治療の有効性の判定、手術の必要性の有無
などに用いられます。
(2) 高血圧性心疾患
高血圧を未治療で放置すると、左室壁が厚くなり(左室肥大)、左室拡張能が
障害され、ついには、心不全に至ります。心エコーでは、左室壁厚(左室肥大)
の程度、心機能、心不全の状態を観察します。
(3) 心筋症
肥大型心筋症、拡張型心筋症、また稀ですがアルコール性心筋症などにも有
用です。
(4) 急性心筋梗塞
胸痛を主訴に来院された場合、多くは心エコー検査を受けることになります。
左室壁運動異常の有無、心機能、重篤な機械的合併症の有無などを心エコーに
て迅速に判定します。
(5) 先天性心疾患
心エコーは、小児期に手術を受け、成人となった術後の患者様の経過観察や
成人期で発見、診断される際にも有用です。
(6) 心嚢液貯留
急性心筋梗塞、大動脈解離、急性心膜炎など数多くの心疾患で、心嚢液が貯
留することがあります。また心嚢液が多量に貯留すると心臓を圧迫して、血圧
が低下し、心タンポナーデとういう重篤な状態となります。CT 検査でも評価可
能ですが、簡便さと経過観察という点では心エコーが優っています。
(7) 心腔内血栓
心嚢液同様、CT など他の検査でも評価可能ですが、心エコーでは小さな血栓
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やその形態を観察することができます。
(8) 急性心筋炎
軽い症状からショックまで、多彩な症状がみられます。典型的には、浮腫ん
だ心筋による壁肥厚、壁運動低下がみられます。
(9) 心臓腫瘍
心臓腫瘍は比較的稀な疾患です。良性、原発性心臓腫瘍で多いのは粘液腫で
す。心房中隔から発生することが多く、有茎性で、治療は外科的に切除します。
4.心臓 CT 検査
(1) 心臓 CT について
CT 検査は 1972 年にイギリスで開発され、1998 年には多数の検出器列を有す
る機種(4 列)が登場しました。2004 年には 64 列の検出器を有する機器が開発
され、これにより良好な画像が得られ、冠動脈病変を評価することが可能とな
りました。現在では、320 列の CT や dual source CT など新世代の CT 機種が開
発され、精度が向上しています。
(2) 臨床的意義
心臓 CT によって、冠動脈硬化や川崎病の冠動脈瘤などの冠動脈病変(狭窄・
拡張)の評価、心機能・局所壁運動の評価、先天性心疾患の診断などが可能と
なっています。心臓 CT は造影剤を使用する検査で、ヨード過敏症、重篤な甲状
腺疾患、気管支喘息、腎機能低下、呼吸停止困難、妊娠などの患者様について
は施行することができない検査です。従来からの冠動脈造影は、腕や足の付け
根から動脈を穿刺し血管の中にカテーテルを入れて行っています。もちろん、
未だ心臓 CT は冠動脈造影の精度には及んでおりません。
(3)メリット・デメリット
メリットとしては、従来の血管造影と比べ低侵襲・簡便であること、デメリ
ットとしては、高度石灰化病変では評価が困難で検査が中止となることがあり
ます。また、画像処理に時間がかかることが欠点です。
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5.参考図書
・基本をおさえる心エコー‐撮りかた、診かた、谷口信行編、羊土社。
・心血管 CT パーフェクトガイド‐撮像から画像の解釈まで、川名正敏編、中
山書店。
6.診断(相談)窓口
埼玉医科大学病院
総合診療内科(心臓)
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