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鋼床版舗装の温度測定 上田 真代 髙橋 守人

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鋼床版舗装の温度測定 上田 真代 髙橋 守人
技術資料
鋼床版舗装の温度測定
上田
1.はじめに
近年、大規模橋梁には鋼床版が使用される傾向にあ
るが、車両交通量の多い鋼床版上の舗装に、供用後数
年で縦亀裂の発生がしばしば見られる(写真−1)。
この亀裂から侵入する雨水で鋼床版に錆を発生させ、
橋梁の強度や寿命を低下させるだけでなく、舗装その
ものに対しても剥離などの悪影響を及ぼす要因となっ
ている。
真代*
髙橋
守人**
研究しようとするものである。
特に、外気温と舗装路面温度及び鋼床版温度の関係
を測定した例はほとんどなく、これに着目して寒冷地
に所在する扁平箱桁橋と単純鈑桁橋のこれらの温度測
定、及びその結果を用いて熱解析を行い、鋼床版橋の
温度特性について検討した。
2.鋼床版温度測定
2.1 調査概要
鋼床版舗装の橋軸直角方向と厚さ方向の温度分布を
明らかにすることを目的に舗装表面と鋼床版裏面の温
度測定を行った。この温度測定は、測定位置の橋軸直
角方向を対象に赤外線カメラと熱電対により行い、赤
外線カメラでは画像解析、熱電対ではひずみ測定器に
より温度を求めている。また、赤外線画像から求めた
温度は接触式温度計により温度補正をしている。
測定対象は扁平箱桁橋と単純鈑桁橋の形式の異なる
2つの橋梁である。扁平箱桁橋は海上部に位置する橋
梁であり、単純鈑桁橋は山間部に位置する橋梁である。
扁平箱桁橋の断面図および測定位置を図−1に、鈑桁
橋の断面図および測定位置を図−2に示す。
さらに、亀裂を生じた舗装を修繕しても、また同じ
箇所に亀裂が生じることがある。そのため、安全性、
経済性からも、この亀裂の問題に対する早急な解決が
必要である。
特に鋼床版はコンクリート床版に比較して剛性が低
くかつ一様でないため、縦・横リブなどの配置によっ
てはデッキプレートが輪荷重により局部的に大きく変
形して舗装に構造的な亀裂が発生しやすい。また、舗
装材料の物性からも亀裂の発生が懸念されている。
亀裂は腹板上に沿ってみられることなど、他の研究
で橋梁の構造がこの亀裂に深い関係がある事が明らか
にされている。1)2)
本研究では、鋼床版上のアスファルト舗装体にかか
る温度応力に着目し、鋼床版上のアスファルトの物性
による影響や、橋梁の構造、自動車交通の輪荷重の位
置などが、亀裂の発生とどのような関係があるのかを
開発土木研究所月報
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2.2 測定方法
1)熱電対による鋼床版の温度測定
鋼床版下面の温度測定は、異なる床版形式の比較の
他に構造細目に着目してUリブの内と外に分けて熱電
対を取り付け、1時間ごとの温度を自動記録した。
なお、鈑桁橋においては熱電対の取り付け位置を検
査路周辺とした。
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2)赤外線カメラによる舗装表面の温度測定
鋼床版下面に取り付けた熱電対の直上を含む舗装表
面の広範囲を赤外線カメラで測定し、取り込んだ赤外
線画像から所定ポイントの温度を求めた。扁平箱桁橋
は自動車専用道路のため、渋滞発生が予想される時間
を除き、路肩規制の中で行い、風速10m以下の時に
実施した。鈑桁橋での測定は早朝から夕方までとし、
冬期は路面が雪に覆われるため限られた位置でのみの
測定となった。測定期間は両橋とも冬期2日間、夏期
2日間実施し、扁平箱桁橋では路肩部、鈑桁橋では歩
道部に作業車を停車させて車上から車道部を撮影し
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た。
また、接触温度計による路面温度の測定も行い、赤
外線画像から求めた温度を補正した。
2.3 測定結果
2.3.1 扁平箱桁橋
冬期の鋼床版温度や路面温度は日中を除き夜間から
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早朝にかけて4℃∼7℃も外気温を大きく下回った
(図−3)。また、夏期の測定では鋼床版温度は常に
外気温より高く、最大で約13℃高温となった(図−
4)。これは、冬期は風による熱損失があったものと
考えられるが、それに併せ凍結防止剤の効果による熱
移動も若千推測される。また、夏期はアスファルト舗
装が太陽の熱を吸収し、その保温効果があるものと推
定される。
リブの有無による差は、冬期の路面温度では扁平箱
桁断面のため生じなかったが、夏期のある時間帯では
熱画像からリブ位置が判別でき温度差が認められた
(図−4,写真−5)。本橋は閉断面構造のため、箱
桁内部の温度が外気温に追従しにくく、夏期・冬期と
もリブ内外の温度差が現れにくいものと推定される。
2.3.2 鈑桁橋
1)床版温度と外気温
冬期は路面が雪に覆われていたため路肩部のみ除雪
し、そのポイントを測定した。
冬期の鋼床版温度は外気温に近似していた。日中は
床版温度が外気温を下回っているが、これは路面に凍
結した氷の冷却効果によるものと考えられる。夜間は
凍結温度以上に外気温が低下するため、床版温度は常
に外気温より高い温度を示していた。
リブ内外の温度変化を見ると、リブ外の温度(B)
は外気温の影響を直接受けるため外気温に極めて近似
した温度となっている。
一方、リブ内部の床版温度(A)はリブの保温効果
により1∼2時間ほどの時間差をおいて外気温に追従
している。日中は気温の上昇に伴ってリブ外部の温度
が上昇してリブ内部の床版温度より高くなり、夜間は
リブの保温効果によりリブ内部の床版温度の方が高い
傾向となっている(図−5)。
また、夏期の測定は舗装路面温度が外気温より約1
5℃程度高くなった。これは太陽熱がリブ内部に蓄熱
するため日中はリブ内部床版温度がリブ外床版温度よ
り高い傾向が見られる。夜間は鋼床版全体が外気に触
れるため、気温の低下に伴ってリブ内外共にほぼ外気
温に近似した温度となっていおり、日中リブが路面か
ら蓄えた熱も完全に放出されていることが推測できる
直上の路面温度(P(B))が高い傾向を示していた。
(図−6)。
リブ内外直上の路面温度と床版温度の変動傾向はほぼ
2)リブ直上の路面温度
同様な動きが見られた(図−5)。開断面の鋼床版で
冬期、リブ内外直上の路面温度は昼前後を境に逆転
は直接外気に触れるため、リブ内外(A,B)とも外
している。午前中は路肩側リブ直上の路面温度(P
気温に追従しやすいが、リブ内部(A)の方がリブ外
(A))が僅かに高く、午後は逆転してリブのない床版
(B)より追従しにくい。また、床版温度の上昇に伴
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いこれらの熱はアスファルト舗装へと伝播するが、床
版ではリブ内部よりリブ無し部の温度上昇率が高いた
めに、正午前後を境にリブ無し部直上の路面温度に先
に現れてリブ直上の路面温度より高くなったものと考
えられる。リブ内外直上の路面温度も外気温の影響が
大きいことが推測される。
夏期の場合、太陽熱をリブ内部に蓄熱するため日中
はリブ内部温度(A)がリブ外部温度(B)より高い
傾向が見られた(図−6,写真−6)。
3.1 解析法
3.1.1 解析理論3)
熱伝導率をk、熱発生率をq、熱容量をcとすると
非定常状態の熱伝導方程式は、次式で表される。
・・・(1)
ここで、Tおよびtはそれぞれ温度および時間である。
また、2次元の熱伝導方程式の場合、このシステム
全体のエネルギーを意味する汎関数Xは次式で表され
る。
・・・(2)
全領域を分割したとすれば、それぞれの要素におい
て、温度Tは節点温度の1次関数で示され、これを時
間微分し、要素全体について整理すると要素の熱エネ
ルギーは節点温度と時間の導関数で与えられる。それ
ぞれの要素エネルギー関数を最小にすることにより、
Xの最小値が得られる。すべての要素はその節点と関
連のある導関数に関係しており、これを全要素に対し
て行い整理すると
・・・(3)
3.温度解析
冬期および夏期に行った2つの形式の異なる鋼床版
橋の舗装の温度測定結果を用いて熱伝導解析を行い、
これらの橋の温度特性について検討した。解析には差
分と有限用要素法を用いている。
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となる。ここで[H]は熱伝導マトリクス、[P]は熱容
量マトリクス、{T}と{∂T/∂t}は節点の温度とそれ
らの温度に対する導関数を含んだベクトルであり、
{K}は考えている領域の熱源と熱の貯まる所の分布を
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示すベクトルである。
誤差を計算し、これが最小になる比熱c、熱伝導率k、
{∂T/∂t}に差分法を適用し、△tの時間では{T}
クーリングにおける熱伝達率ηの3個の定数の値を求
の値が時間に関して線形になるという仮定のもとで式
めた。密度ρは方程式の上ではcとの積が意味をもつ
(3)を整理すると次式が得られる。
こと、また、標準的な値から大きく変動する可能性が
極めて低いと予想されることから、推定の対象とは考
えなかった。
なお、24時間の解析では、それ以前の温度履歴の
・・・(4)
影響が考慮できず、精度の点で十分なものが期待でき
システムの境界状態の設定は最後のマトリクス[H]
ないため、測定が44∼48時間に渡る8月の場合に
と[P]の組立が終了したときに行う。最も一般的な境
ついてのみ作業を行った。また、この場合、前半24
界状態は次のような場合である。
時間については同様の理由から最小二乗法の対象とは
せず、後半(扁平箱桁橋では24時間、鈑桁橋では1
・温度Tが境界状態で明記される。
9時間)のみを評価の対象とした。
・温度勾配{∂T/∂t}は通常、境界点で0である。
・境界表面における単位面積当たりの熱流量Qは一
定である。
3.2 結果
熱定数の推定作業の結果とアスファルト混合物の標
・境界における伝達損失は T a が周囲の温度でαが熱
伝達率であるところではα(T-Ta)で表される。(ニ
準的な比熱c、熱伝導率k、熱伝達率ηの値を表−2
に示す。
ュートンクーリング状態)
境界表面で単位面積当たりの一定の熱流量があり、
また境界において伝達損失がある場合、エネルギー関
数は次のようになる。
・・・(5)
式(5)において最後の2つの積分項は境界に沿って
のものであり、Qとαの両方が0のとき境界は伝導性
がないと推定される。
3.1.2 熱定数推定の手順
熱定数の推定作業の結果、夏期について、kは、ほ
リブのない部分について、舗装体の厚み方向の1次
ぼ標準的な値であった。また、cについての推定結果
元的な問題と考えて熱定数の推定を行った。なお、実
は、扁平箱桁橋で標準値の1.37倍、鈑桁橋で標準値の
際には既存のコンピュータプログラムを使用したた
3.49倍となった。ηは、この定数の二乗誤差への影響
め、2次元の有限要素法解析を行っている。
はcに比べるとかなり小さなものであったが、最適値
測定された2時間毎の舗装表面温度(扁平箱桁橋で
はP(C)点、鈑桁橋ではP(B)点)を補間して1時間
ごとのデータを作成し、これを解析モデルの上面の固
定温度として使用した。下面については、外気温(扁
として、扁平箱桁橋で標準値の6.09倍、鈑桁橋で標準
値の3.61倍の値が求められた。
次に、冬期における扁平箱桁橋の計算結果は、cが
標準値の0.6倍強、kが標準値の0.4倍弱となった。
平箱桁橋では桁内の温度)によるニュートンクーリン
熱定数の推定作業の対象とした時間帯は、2日目の
グ(対流損)を考えた。その結果得られる下面の温度
1時から16時である。本来は24時までの範囲を対
と測定値(扁平箱桁橋ではC、鈑桁橋ではB)の二乗
象にしていたが、2日目の16時に表面温度を測定し
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た後、前日に比較し、かなり高い温度推移をしたと目
場合には輪荷重位置を選定することが望ましい。
されるため、これがそれ以降の表面温度の推定に大き
b)測定状況の観察・記録
な誤差を生んでいると判断した。従って、17時以降
をはずして、再度推定作業を行っている。
測定においては、測定時間毎の路面状況、特に日陰
や路面の湿潤なども観察、記録する必要がある。
なお、鈑桁橋の温度は雪のため測定不能であった。
また、鈑桁橋に比べ扁平箱桁橋における路面・床版
温度が外気温を大きく下回る測定値を確認している。
3.3 考察
この差は、融雪剤の散布量または散布の有無による可
鋼床版舗装の比熱cについては、特に鈑桁橋の値が
能性がある。また、扁平箱桁橋は強風の影響を受けや
大きく、扁平箱桁橋では夏期の方が冬期より大きくな
すい海上に位置することから、風による冷却作用も考
っている。このようにcが大きくなることは温度一時
慮する必要がある。
間曲線で舗装表面温度と鋼床版温度との時間のずれが
大きいことを意味している。このずれが何故現れるの
一方、熱解析については、扁平箱桁橋において冬期
かは、今後の検討課題である。冬期のずれに関しては
の路温が外気温より約7℃低い値、つまり外気温が−
融雪剤の影響も考慮に入れる必要がある。
5℃でも−12℃となる場合があることも考慮して、
熱伝達率ηの標準値は、通常のそよ風程度の状態と
言われている。しかし、夏期の値はいずれの橋も極め
今後の課題として以下のものがあげられる。
a)外気温低下に伴う熱応力
て大きい。これはηが単に風速だけでなく、冷却され
従来の熱定数とは異なった推定値でかつ外気温より
る側の表面状態にも大きく依存する量であるためと考
低い路温状態のアスファルト層の温度分布を求め、こ
えられる。こうした解析において、橋梁の下面の複雑
れより熱応力のシミュレーションを行う。
な構造などの影響をいかに考慮に入れていくかという
b)車両走行時のアスファルト層の応力
ことが課題として残されている。リブの影響も大きい
とすれば、2次元解析が必要とされるであろう。
車両荷重によるアスファルト層の応力解析は一旦外
気温の変化した状態でアスファルト層の温度分布を求
め、これを利用してこの状態で縦桁や縦リブ上に輪荷
4.おわりに
重が載荷された場合の応力を求める。
扁平箱桁橋並びに鈑桁橋の形式の異なる2つの鋼床
最後に、温度測定および熱解析を実施するにあたり
版橋において、冬期と夏期の床版温度と舗装路面温度
北海道大学大学院 森吉昭博教授にご協力いただきま
の測定を行い、その結果から熱定数をほぼ求めること
したことをここに記して謝意を表します。
ができた。
今回の温度測定により、以下のような項目が課題と
してあげられる。
参考文献
1)多田宏行:橋面舗装の設計と施工、鹿島出版会、1986.
a)測定位置の検討
3
扁平箱桁橋については熱電対の取り付け位置を輪荷
重位置近傍とすることができたが、鈑桁橋は輪荷重位
2)佐々木道夫:橋面舗装と鋼床版、ASPHALT Vo1.
38 No.187、 1996
置から離れた路肩部が測定位置となった。輪荷重位置
3)鷲巣慎、森吉昭博、深井一郎、菅原昭雄:舗装体の二次
ではタイヤ摩擦熱が生じて路面温度や床版温度に影響
元の熱応力、土木学会北海道支部論文報告集、昭和51年
を与えることが推測されることから、温度測定を行う
度
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