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格差社会の中の階級 : 福祉国家と階級
渡辺, 雅男
経済科学通信, 108: 28-33
2005-08-15
Journal Article
Text Version publisher
URL
http://hdl.handle.net/10086/16843
Right
Hitotsubashi University Repository
格差社会の中の階級
- 福祉国家 と階級 格差社会の出現 が話題 とな
社会へ と社会認識 を一歩進 め っているが,大事 なのは階層社会か ら階級
における
関係の制度化 とい った新 たな視点で眺めれば,現代の福祉国家
ることである。市民 と階級 の二重性,階級
l
耽4
E平等 と不平等の相克が見えて
三7
∴:L.
I:
T
T
T
くるだろう。
差 は得票率 と獲得議席数 の乗離,議員定価値 の格
TANされてお
ABEMa
s
ao
の問題 を通 じて一般 に広 く認知
数不均衡
Ⅰ 格
渡辺 雅男
行動 や政治意識 における階層格差 はこの り,投票
格差社会 の出現 を指弾す
差 の現状
る声が一段 と高 ま っ
,
少ない専門的調査 か らも確実 に見て取 るこ
分野 の数
て
き る8
)
。 文化格差 につ いて も,現 代 日本 に とがで
へ と暗転 した」。 た しか にその気 にな って
ら不平等
言語能力 (
文化的手段) と教育成果 (
文化 お ける
ば,格差の拡大 はいた るところで 目につ く見渡せ
の配分上 の格差 には著 しい ものがある。 的能力)
社会 の格差 は別段今 に始 まった ことではない
。 だが,
日本語 には, その運用能力か ら見て も, そ もそ も
0
年代や7
0
年代 に 。例
えば,所得分配 はすでに6
形式 か ら見て も明瞭な階層差 があ る9
)
。
リカ とほぼ同 じ格差水準 のT にあ った2
) はアメ
日本語学者 か 「日本語 には階級差がない どれ ほ ど
。 日 く 「昨今, 日本社会 は平等か
いる1)
の言語
差 も,相続税 の対象 とな る資産 を過 した。 資産格
うとも,現実 の 日本語 は, そこに階層性」
や階
と言 お
亡人 口の 5%以下で変 わ らないことを見れば
個人が死
が刻 印 されて運用 されて いるのであ る1
0
)
に も事改 めて驚 くほ どの話 で はないt
T
)
。
また,幼児教育か ら高等教育 まで知的発。 さ らに
,な
級性
も,労働条件 の露骨 な切 り下 げ と労働市賃金格差
成績 の達成 に も階層差が見 られ ることは,数
達 や学業
緩和が昨今政策的 に追求 され るは るか以前
場 の規制
会学者 による数 々の調査 か らも明 らかであ 育祉
一貫 して 日本の労働市場を特徴づける構造原理
か ら,
最 後 に, 生 活意 識 の格 差 につ いて, わ
)
, 消費格差 も, バ ブル期 に 「階層
た しt̀
「中」意識 の虚構性 を強 く指摘 しな ければ
れ われ は
だっ
)。
る■1
どとい うキ ャッチ ・フ レーズが流行す る前
消費」 な
い。 あ る調査 によると,世界 中どの国で もな らな
国民 の消費行動 を明瞭 に特徴 づ けて いた5か ら,
の人が 自分 の暮 らしぶ りを問われて 「中」 約9
0%
移動 の格差 につ いて も,戦後 を通 じて ( )
。 社会
て いる1㌔ 日本 がユニー クな 「中」社会
分解 を除 けば)世代間の階層的地位の継承
農民層 の
平等 な社会 であ った とい う,かつて
ま ることこそあれ,弱 ま る兆候 はみ られない
性 は強
のが実 は虚構 に満 ちていたのであるの言説 その も
婚姻をめ ぐって も,配偶者選択における女
6
)
。
ての上方婚 と階層的同類姫 の原則 は長期 性 にとっ
こにみて
う
崩れてはお らず,今後,貧困の再生産 は的
このように戦後 の長 いスパ ンで見て指
】
3
)
。
数 々の階層格差か ら, 日本社会が格差の構
摘 できる
別 して こなか った ことは明 らかであ り, それゆ
造 と決
階層的固定化 を通 じて ます ます顕在化す る可能性
した
2
8
0
0
5
経済科学通信 Nol
O
8Augus
t2
と答え
であ り,
が高 い7
)
。政治格差 につ いて も,一票 の
格差社会の中の階級
今 も昔 も,厳然た る格差社会 なのである1
㌔ 昨今
理経営者 とが含まれる。彼 らは,株主 (
資本所有
の事態は,隠蔽の システムや虚偽の意識が機能 し
者)か ら委託 された経営権 に基づき企業を支配す
な くな り,誰の 目にも階層格差が明 らかにな って
るが,支配す る企業の資本規模や,業種や,その
きただけの ことか もしれない1
5
)
。社会が平等か ら
格差へ と構造的に転換 したのだ と即断す る前に,
二 は,労働者階級 としての勤労者である。 この中
格差の構造 と平等の意識がなぜ両立 してきたのか
に もキ ャリアや学歴 を軸 にライフコースを組み立
を もう少 し考えてみる必要がある。
他の現実的条件 によ りさまざまな種差を示す。第
て ることができる上層部分, スキルを軸 に労働市
場 に編成 される中層部分, どち らも不問の下層部
Ⅱ:
I
/ 階層 蜘
)珊
散 社 会 へ
社会の中を無数 に走 るこうした階層的分断線を
理論的に反省 したとき,そこにい くつかの主要な
分 という本質的な階層格差が内包 されている。第
三 は中間階級である。 これには農民を含む零細な
独立 自営業者 という旧中間階級 と,制度や法律で
守 られた特権層 (
独立開業す る医師や弁護士) と
しての新中間階級 とが含 まれている16)0
階級的分断線が浮かび上が って くる。その際, ま
ず もって問題 となるのは,階層 と階級の概念的区
別である。
Ⅱ
市民 社 会 と階 故 社 会 の 二重 性
実を言えば,階層 も階級 も人 口の部分である。
ある種の社会的人 口集団を意味す る点では,両者
現代社会 には依然 として階級が存在 し,階級格
に違 いはない。だが,階層が観察者の窓意的基準
差が通底 している。 この現実は, ひとたび発見 さ
によって区切 られた人 口部分であるとすれば,階
れればそれほど理解が難 しい問題ではない。困難
級 はなん らかの理論的な基準で区分 けされた人 口
は, こうした歴史貫通的な事実 と, これ とは一見
部分であって,その根拠 は科学的反省を通 じての
対立す るかのように現象す る,現代 に固有な歴史
み明 らかにす ることができる。例えば,所得階層
特殊的な事実 とをどのように整合的に理解す るか
という点 にある。
であれ,学歴階層であれ,年齢階層であれ,階層
を区分す る分断線 は常識的な ものであ り,経験的
な ものであ り, さ しあた り便宜 的な ものであ る
いは何だろうか。 こう自問す るところか ら議論を
(
1
0
0万 円単位で所得 階層 を区分 しようと,5
0
0万
始 めてみよう。過去か ら続 く階級社会 とい う現実
で区分 しようと,理論的な根拠 はさしあた り問わ
の上に,現代 は何を付け加えたのだろうか。一見
古典的な階級社会 と現代の階級社会の構造的違
れない)
。 ところが,階級の場合, その内部 にい
して分か るように,古典的な階級社会が純然たる
かなる分割線を引 くか という問題は,階級の本質
格差社会であったのに対 し,現代社会は本質 とし
を どこに見 るかという, きわめて深刻かつ科学的
ての格差社会 (
階級社会)を内に秘めなが らも,
な問いと直結 しているのであ り,安易に便宜的,
それ と一見対立す る平等社会 (
市民社会) という
窓意的に決着のつ く話ではない。だからこそ,ヴェ-
外皮 (
現象形態)を身 にまとい, きわめて高度に
バーのように,市場 に持 ち出せ る資源の質的差別
制度化 された社会 と して存在 している。 いわば,
で階級を区分 した り, マル クスのように生産手段
現代の社会は階級性 と市民性の構造的な二重性を
の所有如何 によ り階級帰属を判断 した りといった
原理 に して成 り立 っているのであ り,格差 と平等
本質規定 についての立場の違 いが現れ るのである。
の二律背反の原理を内に秘めて存在 しているので
この ことはなによ りも階級が階級関係 に基づ く個
ある。
こう考えて くれは,次のような興味深いコン ト
人の社会的な属性であることを強 く物語 っている。
では,現代 日本 にはどのような社会階級が発見
ラス トが もつ意味をよりよ く理解す ることが可能
できるだろうか。 これが次の間題である。なん ら
となる。すなわち,古典的な階級社会では,マル
かの本質規定 (
社会関係)を予感 させ る人 口集団
クスが言 うように 「
市民社会の どんな階級で もな
として,大雑把に三つの階級を想定す ることが可
いような市民社会の一階級」が生み出され る (
マ
能である。第一 は,資本家階級 としての経営者階
ル クス 「へ-ゲル法哲学批判序説」1
8
4
4
年)
。い
級である。 この中には,オーナー経営者 と専門管
うまで もな く, これは,経済活動か らも政治活動
経済科学通信 No
.
1
0
8Aug
u
s
t2
0
0
5
2
9
特集 格差社会の中の階級
か らも,ま してや文化活動か らも排除 (
疎外) さ
れた近代 プロレタ リアー トのことである。 これに
対 し,現代の階級社会では,マーシャルが言 うよ
うに,市民社会のすべての階級 に対 して 「
共同社
会の完全な成員 (
市民)」 としての平等な 「
資格」
(
権利 と義務) が保障 される (
T.H.マー シャル
『シティズンシップと社会階級⊂
l1
9
5
0
年1
7
)
)。階級
社会 に構造的な転換が起 こったのである。
この対比を戦前 と戦後の 日本社会について考え
てみよう。戦前, 日本の労働者階級は古典的な階
級社会構造の中に置かれていた。市民社会はまさ
にブル ジョア社会であって,プロレタ リアは階級
として市民社会か ら排除されていた。社会が階級
的な分断 と排除の論理の上 に成 り立 っていたか ら,
統合 と包摂の論理は,温情主義的な企業か,家父
長的な天皇制国家が,社会を超えたところで提供
する しかなかった。 ところが,戦後, この構造は
一変 した。市民社会のすべての階級に対 して 「
共
同社会 の完全 な成員 (
市民)」 と しての平等 な
「資格」 (
権利 と義務)が付与 され,また保障され
たのである。それこそが,剥 き出 しの階級国家,
あるいは軍事国家 と決別 した戦後の福祉国家の新
たな出発であった。エスピン ・アンデルセ ンも言
うように 「
福祉国家 という言葉は, (
戦後の)新
しい政治的な取 り組み,新たに書 き改められた国
,
家 と人々とのあいだの社会契約を先取 りして表現
するものであった。T.H.
マー シャルが述べたよ
うに,それは社会的 シティズンシップの承認であ
り,階級的分断に橋渡 しをす ることであった1
8
)
。」
だか ら,冷戦体制の進展によりどれだけそれが
「
未完」 に終わったとして も,敗戦直後の 「
民主
主義革命」において 日本の社会が迎えた構造的な
転換は,まさにこのシティズンシップの承認であ
り,階級的分断に対する 「
橋渡 し」だったのであ
る。福祉国家 という目標を国民が 自覚的に追求す
るのはいま少 し時代を経なければな らなか ったと
して も,戦後の民主化によって もた らされた数 々
の革命的な変化は,本質的には福祉国家をめざす
社会の構造的な大転換の第一歩 として理解 されな
ければな らない。事実,それに呼応するかのよう
に,人 々は階級社会 との決別を しば らくの間は本
気で信 じることができた。
Ⅳ
階赦 問係 の制 度 化
いま少 し,古典的な階級社会 と現代的な階級社
会の対比を続 けよう。
古典的な階級社会について,マルクスは次のよ
うに語 っていた。「資本主義的生産が進むにつれ
て,教育や伝統や慣習によってこの生産様式の諸
要求を自明な自然法則 として認める労働者階級が
発達 して くる。
」(
『資本論』第 1巻第2
4
章)
「
生産様式の諸要求」を 「自然法則」として人々
に認めさせることは,古典的な時代であって も現
代であって も,ある特定の生産様式が支配的に行
われる社会で階級秩序が生産 (
再生産) されてい
くための必要条件である。問題は,それがどのよ
うな方法で行われるかである。 自然発生的な仕方,
つま り 「
伝統や教育や慣習」 といった手段を通 じ
て もっぱ ら行われるか,それとも人為的,政策的
に (
国家の介入を待 って)行われるか,そこに大
きな違いが生 まれる。前者の場合には,社会は相
対的な自立性を保 ち,その代わ りに社会の秩序は
剥き出 しの力関係の もとで,基本的には階級的暴
力の行使を通 じて形成 される。国家はそれを事後
的に承認す る。後者の場合は,社会は国家によ り
統制 され,監督 され,国家の絶え間ない介入の下
に置かれる。 この場合,社会の階級秩序は国家の
政策的な意図と介入を待ち,制度的な手続 きを経
て再生産 される。 こうして形成ないし再生産 され
る階級関係 こそ,現代の階級社会を特徴づける階
級関係の制度化である。
いわば階級関係の制度化は現代社会の構造的秩
序の核心である。それはい くつかの管制高地を支
配す ることでヘゲモニーを掌握する。第一は市場
である。資本市場の制度化は株式会社の成立を促
し,労働市場の制度化は労働者階級の階層秩序を
再編する。階級選抜の制度化は教育制度の成立を
通 じて達成 され,いまや学歴社会は偽装 した階級
社会であることを人々に強 く印象づける。政治支
配の制度化は議会制民主主義 による 「階級闘争の
制度化」 によって達成 され,粗野な階級闘争を一
見す ると過去のものとしたかのような錯覚を人々
に与える。家族の制度化は,遅れて近代化 した国々
(日本や, スペイ ン, イタ リアといった地 中海沿
岸諸国)でとくに福祉の受 け皿 として大 きな役割
3
0
経済科学通信 No
.
1
0
8Augu
s
t2
0
0
5
格差社会の中の階級
を果た し,戦後の階級秩序の下支えを行 った。
できるのは,現代社会の中に階級原理 (
不平等)
こうした階級関係の制度化を歴史的に振 り返れ
と市民原理 (
平等)の相克が貫 いているという事
ば,それは近現代の市民社会が歴史的に発展 して
実である。それは,われわれ現代人が この二つの
きた過程 と重なり,人々が市民権 (シティズンシッ
原理 (
階級の立場 と市民の立場)を同時に生 きな
プ)を獲得 してきた歴史的過程 と重なることが分
ければな らないとい う日々の現実か らも直感的に
理解可能である1
9
)
。
かる。 そ もそ もマー シャルが指摘す るように, シ
テ ィズ ンシップの発展 は三つの段階を経てきた。
第一段階は,市民的権利 (
Ci
v
i
lRi
g
ht
s
)の成立
である。私的所有 と契約 に関す る権利が認め られ
て,裁判 に訴える権利が確立 し,裁判制度が階級
ここか ら,現代社会 に特有な二つの傾向が確認
できる。第一 はシテ ィズ ンシップ (
平等原理)が
社会の階層化 (
不平等化)を排除 ・克服す る動 き
関係 の制度化 に最初 の一歩 を記 した時代 で あ る
であ る。 一例を挙 げ るな ら, 高等教育 の大衆化
(
社会権 の確立)である。特権層 にのみ許 されて
(イギ リスでは1
8世紀)。第二段階は,政治的権利
いた高等教育が広 く市民に開放 され,能力 さえあ
(
Po
l
i
t
i
c
a
lRi
g
h
t
s
)の成立である。選挙権 と被選
挙権が上層市民か ら徐 々に獲得 され,議会 に参加
れば社会の上層へ と階級 (
階層)移動す る可能性
す る権利が確立 し,議会制度が階級関係の制度化
況 はこの流れを強 く人 々に印象づけた。労働者階
に重大な一歩を記 した時期である (
イギ リスでの
級 にとって高等教育を受 ける権利が もはや夢では
1
9世 紀 )。 第 三 段 階 は, 社 会 的権 利 (S
o
c
i
a
l
Ri
g
ht
s
)の成立 であ る。 福祉 や最小 限の安全が
な くな ったのである。教育を受 けることによる階
層移動への期待が学歴社会を過熱 させた。 ところ
が制度的に下層階級 に も開かれ る。戦後の社会状
教育 と社会保障を享受す る権利 として確立 し,高
が,大学進学率が4
0
%に近づ くにつれ,学歴の価
等教育制度や社会保障制度が階級関係の制度化の
値 は学校暦の価値へ と転位 し,その一方で,学歴
最後の仕上げを行 った時代である (
先進諸国の2
0
の世襲が取 りざたされ るようにな り,学歴社会の
世紀 および戦後)
。狭義 の福祉 国家 は, あ くまで
この うちの第三段階で成立 した ものを指すが, こ
下での階層化が人 々の不平等感を強 くかきたてる
ようになる。万人 に開かれた高等教育 もいつ しか
れはシテ ィズ ンシップの確立,市民社会の現代的
発展,そ して階級関係の制度化 という長 い歴史過
エ リー ト層の階層的再生産の道具 と化 し,学歴社
会は階層の固定化を促す制度的な支えとなっていっ
程の最終局面に位置 している。
たのである。7
0
年代以降,教育社会学者が折に触
社会 との関係で見 ると,国家 はここで二つの意
れて指摘 してきた事実である。だか ら, ここに第
義を与え られている。市民社会の総括 と,市民社
二 の傾向, シテ ィズ ンシップ (
平等原理)が社会
会への介入である。前者 において国家は市民社会
の階層化 (
不平等化)の道具 とな っている状況を
の内部の利害を調整す ることを旨とし,その結果,
読み取 ることができる。第一 と第二の動 きは本質
市民社会でヘゲモニーを握 る階級の利害をよ り多
的に相対立す る方向性 にある。平等 と不平等, シ
く代表す る階級国家を成立 させ る。 これに対 し,
テ ィズ ンシップと階級 は相互 に相克を演 じなが ら
後者 において国家は市民社会 に積極的に介入 し,
現代社会を しぶ とく生 き抜 いているのであるO
国家的制度を通 して階級関係の維持 と再生産 に主
こうした葛藤のなかで,一定の階級的安協が制
度の確立を要請 し, また,一定の時を経て もた ら
導的な役割を果たす。現代国家が階級国家である
と同時に福祉国家で もあるという二重性は,市民
され る妥協の限界が制度の疲労を呼び起 こす。平
社会 と国家 とのこうした発展 に起因す る。
等が制度的に保証 されな くなれば,統合機能の後
Ⅴ
平 等 と不 平 等 の 相 克
退が生 じる (
昨今の企業社会論 の凋落はこのこと
の皮 肉な反映である)。 それ とともに制度解体 と
新たな制度の模索が開始 され,社会変動 のダイナ
ミックな動 きが展開す る。 いわば,格差の拡大-
こうした現代的な状況の もとで,階級闘争 はど
平等性 の後退-統合機能の減退 (
凝集成の喪失)
のように闘われ るか。 そ して, この場合,社会の
-平等性回復のための新たな制度的な場の模索 と
原理的矛盾 はどのような形で存在 しているのか。
いうサイクルが始 まる。 この動揺を引き起 こす原
問題 をこのように提 出 してみると,真 っ先に指摘
動力 こそ階級社会の歴史的なあ り方 (
労農 同盟の
経済科学通信 No
,
1
0
8Aug
us
t2
0
0
5
3
1
特集
格差社会の中の階級
級 の内部構成 や凝集性,資本家階級 の内部構成 や
3
,2
0
0
3
年 3月
3)渡辺雅男 「現代 日本における階級格差とその固定
凝集性 の問題) で あ り,市場, 国家,家族 のあ り
化 - その 1 :社会の階層性とその経済的社会的条
方であ り,それに支え られた福祉資本主義の レジー
件」『一橋大学研究年報
あ り方,資本家階級 と中間階級 の同盟,労働者 階
ム類 型 や類型 ごとに異 な る矛盾 の現 れ方 で あ る2
0
)
0
歴史 的 に見 れ ば, それ は同時 に市民社会 の危機 と
社会学研究』Vo
l
.
31
,
1
9
9
3
年,7
0
9
2
頁 ;同 「
『中流意識』論への疑問」数
研 『
AGORA』2
7
号,2
0
0
0
年 1月
4)労働市場の階層性は戦後長 く労働問題研究者の共
その克服 の過程 で もあ った。
8
世紀以来 い くつかの主要
そ もそ も市民社会 は1
な歴史 的危機 を乗 り越 えて今 に至 って い る。 第一
通認識であった。
5)渡辺雅男 「
現代 日本における階級格差 とその固定
の危機 は市場 にお ける所有 と非所有 の経済 的対立
化 - その 4 :階級格差とその固定化についての意
が もた らす根本 的な危機 で あ った。 これ は,無産
識」『一橋大学研究年報
者 と して市民社会 か ら排 除 された近代 プ ロ レタ リ
アー トが政治 的な市民権 を求 めて声 を上 げた こと
に始 ま る。市民社会 は この動 きに対 し普通選挙権
社会学研究.
lVo
l
.
3
4
,
1
9
9
5
年,1
2
9
1
7
0
頁
6) 同上 「
現代 日本における階級格差 とその固定化
- その 1:社会の階層性 とその経済的社会的条件」
の付与 を もって応 え,議会制民主主義 の下へ の労
l
.
3
1
,1
9
9
3
年,
『
一橋大学研究年報 社会学研究』Vo
働者 階級 の政治 的な包 摂 (
統合) を成 し遂 げた。
9
3
1
1
5
頁
第二 の危機 はその民主主義へ の脅威 と して訪 れた。
7)青木紀編著 『
現代 日本の 「
見えない」貧困 :生活
全体主義 の勃興 は議会制民主主義 とい う制度 的 に
保護受給母子世帯の現実』明石書店,2
0
0
3
年 ;西尾
保証 された平等性 の原理 に対 して深刻 な挑戦状 を
祐吾 『
貧困の世代間継承に関する研究』相川書房,
突 きつ け,結果,世 界 は二分 されて第二次世界大
ころか ら始 ま る。 これまた皮 肉な ことに,福祉 資
1
9
9
9
年 ;渡辺雅男 「
現代 日本における階級格差とそ
の固定化 - その 2:社会の階層性 とその文化的条
lVo
l
.
3
2
,
件」 『一橋大学研究年報 社会学研究」
1
9
9
4
年,1
2
卜1
5
2
頁
8)三宅一郎 『政党支持の分析』創文社,1
9
8
5
年 ;池
本主義 の行 き詰 ま りが もた らす社会権 の後退 は,
田謙一編 『
政治行動の社会心理学』北大路書房,
戦へ と突入 した。第三 の危機 は,大戦 を経験 した
世界が社会権 の確立 を通 して福祉 の場 (
医療 と教
育) での全 国民的な包摂 (
統合) を成 し遂 げた と
いる。 この よ うに見 て くると, 目下,戦後 の福祉
2
0
0
1
年,第 7章
9)渡辺雅男,同上論文,4
8
7
5
頁
国家が迎 えて い る危機 とは市民社会 (
平等性) の
1
0
)現代 日本語には階級性が見 られないと主張 して,
危機の ことであ る ことが分 か る。 それ を根本 にお
スター リンの言語論に与するのは,渡辺友左 「
階層
いて規定 してい るのが階級社会 (
不平等性) の行
と言語」『
岩波講座 ・日本語 2 言語生活』岩波書
市民社会 と しての統合 に深刻 な危機 を もた ら して
き詰 ま りに他 な らな い ことが誰 の 目に も明 らか に
店,1
9
7
7
年 ;これに対 して,言語の階層性を近代的
な った とき, こう した一連 の動 きのなかで さま ざ
な意味でとらえ,その存在を主張するのが,J.V.
まな政策課題 が階級 闘争 の ア ジェンダ とな る。残
ネウス トプニー 「
階層言語という壁」『
月刊 ・言語』
念なが ら,紙 幅の関係 で本稿 は これ以上 この点 に
9
8
2
年1
0
月
第1
1
巻第1
0
号,1
l
l
)渡辺雅男,同上論文,7
6
1
2
0
頁
踏み込む ことがで きな い。
注
1)NHK総合テ レビの新番組 「日本の,これから」
は第 1回目の今年 4月 2日 「
格差社会」をテーマに
取 り上げ,大きな反響を呼んだ。
2)石崎唯雄 『日本の所得 と富の分布』東洋経済新報
」『国民
社,1
9
8
3
年 ;同 「
分配率 と階層別所得分配
1
2
)1
9
8
0
年国際価値会議事務局 『
1
3
カ国価値観調査デー
タ ・ブック』 日本アイ ・ビー ・エム株式会社,1
9
8
0
年 ;電通総研 ・日本 リサーチセンター編 『
世界6
0カ
国価値観データブック』同友館,2
0
0
4
年
1
3
)渡辺雅男/ ジョン・スコット 『階級論の現在』青
木書店,1
9
9
7
年,第 3章
1
4
)戦後 ドイツについても状況はまったく同じである。
生活研究』第2
0
巻第 2/3合併号,1
9
8
0
年1
0
月 ;勇
ライナー ・ガイスラー (
渡辺雅男/西菓穂子訳)
上和史 「日本の所得格差をどうみるか- 格差拡大
「階層 ・階級 と決別 してはな らない-
ドイツ社会
JI
L労働政策 レポー ト』Vo
l
.
の要因をさぐる- 」『
構造分析のイデオロギー的危険性 -
」『賃金 と社
3
2
経済科学通信 N
o
.
1
0
8Au
g
u
s
t2
0
0
5
格差社会 の中の階級
会保 障』 第 1
3
41
号 (
2
0
0
3年 3月上旬), 第 1
3
4
2号
(
同年 3月下旬)を参照O
1
5
)む しろ、そうしたイデオロギー状況が積極的に作
り上 げ られてきた ものであることは、 日経連の文書
1
8
)エスピン ・アンデルセン (
渡辺雅男/渡辺景子訳)
『ポス ト工業経済の社会的基礎』桜井書店 ,2
0
0
0
年,
6
4
頁
1
9
)高島善哉 「市民の立場 と階級の立場」『高島善哉
l- 挑戦すべ き方向 とそ
「
新時代の 『日本的経営」
著作集
の具体策」(
1
9
9
5
年)などを見 るとよ く分かる。
1
9
9
7
年,第 5章
1
6
)詳細については,渡辺雅男 『階級 !社会認識の概
念装置』彩流社,2
0
0
4
年を参照
第 8巻
現代国家論の原点』 こぶ し書房,
2
0
)渡辺雅男 「福祉資本主義の危機 と家族主義の未来」
経済理論学会 『
季刊 ・経済理論』第4
1
巻第 2号,桜
1
7
)で.H.マー シャル/ トム ・ポ ッ トモア (
岩崎信彦
井書店,2
0
0
4
年 7月 ;渡辺雅男 「
経済社会学者は福
/ 中村健吾訳)『シテ ィズ ンシップと社会階級 -
祉国家を どのように論 じるか - 富永健一批判」
近現代を総括す るマニ フェス ト』法律文化社,1
9
9
3
3
0
巻第 4号,2
0
0
3
年1
0月
『一橋論叢』第 1
年
(わ た なべ ま さお
一橋大学)
経済科学通信 No
.
1
0
8Aug
us
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0
0
5
3
3
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