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神戸市 公民連携アドバイザリー業務報告書

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神戸市 公民連携アドバイザリー業務報告書
神戸市
公民連携アドバイザリー業務報告書
~神戸らしい PPP の実現にむけて~
平成 26 年 3 月
【目次】
はじめに .................................................................................................... 1
1.
1.1
1.2
2.
2.1
2.2
2.3
3.
3.1
3.2
3.3
3.4
4.
4.1
4.2
5.
5.1
5.2
5.3
5.4
神戸市の現状 ..................................................................................... 2
人口動向と財政.............................................................................................. 2
公共インフラの現状...................................................................................... 4
神戸市における公民連携(PPP) ................................................. 6
公民連携(PPP)の推進について ............................................................... 6
公民連携(PPP)実施事例 ........................................................................... 7
PFI 事業 ........................................................................................................... 9
我が国における PPP / PFI の流れ ................................................ 10
我が国の公民連携(PPP)の沿革 ............................................................. 10
PFI の実施状況 ..............................................................................................11
PFI 事業の類型 ............................................................................................. 12
コンセッション方式 PFI の特徴とストラクチャー ................................ 13
他都市における公民連携(PPP)事例 ....................................... 14
制度・体制面に関する事例........................................................................ 14
公共インフラ等に関する事例.................................................................... 23
神戸らしい公民連携(PPP)のあり方についての提案 ........... 32
民間事業者が提案しやすい仕組み............................................................ 32
国内外の民間資金を呼び込む(インバウンド)ための仕組み............ 36
民間企業の海外展開(アウトバウンド)を支援する仕組み................ 39
多くの人が集まり安心して暮らせるための仕組み................................ 40
はじめに
神戸の長い繁栄の歴史は、港を中心として、国内はもちろんのこと、世
界各地からの様々な情報、優れた英知や人材、そして資金を惹きつけてき
たことによりもたらされたものといえる。
震災を経験した後も相応の経済規模を維持してきたが、将来については、
他都市と同様、 少子高齢化の進行等による税収減や社会保障費・医療費の
負担増、さらには、公共インフラの老朽化による維持管理・更新費の負担
増等の懸念もあり、より一層の行政コストの見直しが必要となるだろう。
また、複雑・多様化する市民ニーズや激しさを増す都市間競争への対応も
必要となり、これらの行政課題について、今後は、公民が協働で取り組ん
でいくことがより重要となってくるだろう。
こうした取り組みを推進するため、神戸市では、2013 年 4 月に「公民連
携推進室」を設置し、同年 9 月には、そのアドバイザリーパートナーとし
て、みずほ証券及びみずほ総合研究所を任命した。
本報告書は、神戸市とアドバイザリーパートナーが共同で行った PPP に
関する各種調査や他都市との意見交換会、勉強会等をベースに、
“神戸らし
い PPP”を実現するための提案を記載したものである。今後の神戸市にお
ける PPP 推進の礎となれば幸いである。
平成 26 年 3 月
1
1.
神戸市の現状
1.1
人口動向と財政
生産年齢人口が減少傾向の中、実質的な福祉関係経費は増加傾向にある。
市税収入も、横ばいから減少傾向の見通しとなっている。
一方、財政面では、実質公債比率が減少傾向で、財政力指数も上昇傾向
にあるものの、政令指定都市平均を下回る状況が続いている。
図表 1.1
神戸市の人口動向と税収、扶助費等の見通し
(出所:平成 21 年度神戸市行財政改善懇談会資料)
2
図表 1.2
財政面での神戸市と政令指定都市平均との比較
(出所:総務省「統計でみる市区町村のすがた 2013」、「地方公共団体の主要財政
指標一覧」、神戸市資料等よりみずほ証券作成)
3
1.2
公共インフラの現状
公共インフラは、これまで、人口増加や経済成長に合わせた整備拡充が
行われてきたが、既に築 40 年を経過したものが 11%(約 25 万㎡)ある
等、今後続々と迎える更新期への対応が急務となっている。
神戸市の保有する公共インフラの中で最も割合の大きいものは、公営住
宅等で全体の 37%。次いで、庁舎等一般施設の 27%となっている。
図表 1.3 神戸市の建築年別公共インフラ保有量
図表 1.4
神戸市の公共インフラ保有割合(延床面積)
(出所:神戸市、平成 23 年 3 月、「ファシリティマネジメントの推進について
基本的な考え方」)
4
神戸市が管理する橋梁約 2,150 橋のうち、建設後 50 年を経過するものは
現在 3 割弱(590 橋)あり、 2020 年にはこれが 5 割強(1,157 橋)に、
そして、2030 年には約 8 割(1,704 橋)に達するとみられている。
図表 1.5
神戸市が管理する橋梁の建設年次(西暦)
(出所:神戸市ホームページよりみずほ証券作成)
水道は、昭和 40 年代から 50 年代にかけて集中的に整備されており、今
後は、経年劣化への対応も重要となる。
図表 1.6
神戸市の配水管年代別敷設延長(平成 23 年度末)
(出所:神戸市、平成 25 年 5 月 29 日、「水道サービス公社事業に関するあり方
検討委員会」資料等よりみずほ証券作成)
5
2.
神戸市における公民連携(PPP)
2.1
公民連携(PPP)の推進について
2.1.1 公民連携(PPP)とは
主に自治体が提供してきた公共サービスに、民間の知恵やアイデア、資
金、技術、ノウハウを取り入れることにより、事業効率の向上等を図る
もの。PPP は Public Private Partnership の略称で、
P3 と称することもある。
図表 2.1
公民連携(PPP)とは
(出所:神戸市公民連携推進室ホームページ)
2.1.2 公民連携推進室の設置
神戸市では、2013 年 4 月、企画調整局企画調整部調整課に「公民連携推
進室」を設置。民間事業者と神戸市の各事業部局とをつなぐワンストッ
プ窓口となり、公民連携の推進を図っている。
図表 2.2
公民連携推進室について
(出所:神戸市公民連携推進室ホームページ)
6
2.2
公民連携(PPP)実施事例
2.2.1 包括連携協定等の民間との連携
神戸市に「公民連携推進室」が設置されて以降、幅広い形態・分野での
民間との連携を進める「包括連携協定」等が実施されてきた。
こうした、これまでの民間との連携事例は、以下の通りである。
図表 2.3 神戸市における民間との連携事例一覧
企業等
江崎グリコ
アシックス
神戸マルイ、
江崎グリコ
伊藤ハム
ネスレ日本
ファミリーマート
障がい福祉サービス
事務所、
フロインドリーブ
IKEA
東宝
みなと銀行
ローソン
連携内容
包括連携協定。神戸情報の発信、地域活性化
の支援、防災、食育等
ランニングコースの整備にかかる基本協定。
ランニングコースを活用した事業の実施・情
報発信等
3 者共同プロモーションの実施
包括連携協定。六甲山の自然環境保全活動、
神戸情報の発信、食育、防災、地域活性化へ
の支援等
高齢者介護予防に関する連携協定。介護予防
カフェやプログラム、啓蒙活動の実施等
包括連携協定。神戸市産オリジナル商品の開
発・販売、食育、防災や高齢者・渉外支援、
環境対策・リサイクル等
障がい者の活動の PR のため、フロインドリ
ーブで使われるコースターを障がい福祉サ
ービス事務所が制作
「難民キャンプに明かりを届けよう」こども
ワークショップ
映画「銀の匙」公開記念、六甲山牧場キャン
ペーンの実施
神戸市の事業・イベント情報等の発信
包括連携協定。神戸市産オリジナル商品の開
発・販売、障がい者活動支援等
7
2.2.2 ネーミングライツ
ネーミングライツとは、民間事業者との契約により、市有施設等に企業
名や商品ブランド名等を冠した「愛称」を付与する権利。市はその対価
を、当該施設の運営・管理をはじめ、様々な用途に充てることができる。
アドバイザリー期間中に成約したネーミングライツ・パートナーは、以
下の 2 社である。
図表 2.4
神戸市における最近のネーミングライツ事例
神戸市立市民福祉
スポーツセンター
神戸市立青少年科学館
事業者名
株式会社オージースポーツ
事業内容
ス ポ ー ツ 施 設 の 経 営 、ス ポ ー ゴ ム ・ プ ラ ス チ ッ ク 製 品 の
ツ・保 養 施 設 の 運 営 受 託 、コ 開 発 ・ 販 売
ンサルティング等
オージースポーツ
バンドー神戸青少年科学館
神戸福祉スポーツセンター
新名称
期間
平 成 26 年 4 月 1 日 ~
平 成 30 年 3 月 31 日
(4 年間)
ネーミング
100 万円(年間)
ライツ料
バンドー化学株式会社
平 成 26 年 4 月 1 日 ~
平 成 30 年 3 月 31 日
(4 年間)
200 万円(年間)
(出所:神戸市公民連携推進室ホームページ)
8
2.3
PFI 事業
公民連携(PPP)の一形態である PFI は、民間の資金とノウハウを活用
し、公共施設の設計・建設・運営等を行うもの。
神戸市では、これまでに、6 件の PFI 事業を実施している。
図表 2.5
施設名・事業名
神戸市における PFI 事業一覧
所管局
期間
契約金額
VFM
効果※
摩耶ロッジ
産業
( オ テ ル・ド・摩 耶 ) 振 興 局
20 年
3.6 億 円
6.0%
マリンピア神戸
フィッシャリーナ
産業
振興局
20 年
1.3 億 円
25.0%
中央卸売市場本場
産業
振興局
29 年
約 168.4 億 円
12.5%
中央市民病院
神戸市民
病院機構
33 年
約 1,023.8 億 円
8.0%
新神戸ロープウェイ
建設局
16 年
約 6.9 億 円
46.0%
八幡・桜ヶ丘保育所
こども
家庭局
8年
約 3.4 億 円
23.6%
※VFM(Value For Money)とは、
「支払に対して最も価値の高いサービスを供給
する」という考え方のこと。市が実施した場合に比べ、PFI で実施した場合に
おけるコスト削減効果のことを、「VFM 効果」と呼ぶ。
(出所:神戸市公民連携推進室ホームページ、神戸市資料等よりみずほ証券作成)
9
3.
我が国における PPP / PFI の流れ
3.1
我が国の公民連携(PPP)の沿革
我が国で最初の公民連携に関する法律、
「民間資金等の活用による公共施
設等の整備等の促進に関する法律(PFI 法)」が成立したのは、1999 年の
ことである。その後、2011 年の改正、2013 年 6 月のガイドライン公表等
を経て、PFI 対象施設の拡大、コンセッション方式の導入、民間事業者
による提案制度の見直し等、民間のノウハウや資金の活用を促進するた
めの環境が整いつつある。
図表 3.1
時期
1999 年 7 月
PFI 法を中心とした我が国の公民連携(PPP)の沿革
経緯
「民間資金等の活用による公共施設等の整備等
の促進に関する法律(PFI 法)」成立
2010 年 6 月 18 日 「新成長戦略」閣議決定
✓コンセッション方式の導入を含む、PFI 制度
の拡充策が盛り込まれる
2011 年 3 月 11 日 「改正 PFI 法」閣議決定
11 月 30 日 「改正 PFI 法」全面施行
✓コンセッション方式の導入、民間事業者に
よる提案制度の見直し等が全面的に施行
2012 年 3 月 27 日 改正 PFI 法の「基本方針」に関する閣議決定
✓公共施設等運営権(コンセッション)に関
する基本的事項等を規定
2013 年 6 月 5 日 「PFI 法一部改定案」可決
✓(株)民間資金等活用事業推進機構の設立
✓ 独立採算型 PFI 事業に対する国費の投入
✓ 国の出資による民間の投資喚起等
6 月 6 日 「PFI 法ガイドライン」公表
10
3.2
PFI の実施状況
我が国全体では、1999 年の PFI 法成立以降、これまで(平成 25 年 9 月
末現在)累計で 428 件、約 4.3 兆円の PFI 事業が実施されてきたが、近
年は減少傾向となっている。
図表 3.2
我が国で実施された PFI 事業
(件)
(億円)
*平成 25 年度は 9 月末までの数字
(出所:内閣府民間資金等活用事業推進室資料よりみずほ証券作成)
11
3.3
PFI 事業の類型
我が国における従来の PFI 事業の特徴として、
「サービス購入型」が大多
数を占めてきたことが挙げられる。
「サービス購入型」とは、民間事業者
が自ら調達した資金で公共施設等の設計、建設、維持管理、運営等を行
い、自治体等が、そのサービスに対して対価(サービス購入料)を支払
う PFI の一類型であり、実態的な事業リスクを公共側が負う点が特徴で
ある。
図表 3.3
図表 3.4
PFI 事業の類型
我が国の PFI 事業の内訳
(出所:内閣府民間資金等活用事業推進室資料)
12
3.4
コンセッション方式 PFI の特徴とストラクチャー
前述の「サービス購入型」に代わり、我が国の PFI で今後の発展が期待
されているものが、コンセッション方式を利用した PFI(「コンセッショ
ン方式 PFI」)である。
コンセッション方式とは、民間事業者に対して、公共施設等の所有権は
移転せず、その運営権だけを長期間にわたって付与するものである。民
間にとっては、運営の自由度が高い分、そのノウハウを活用しやすく、
一方の公共側も、施設の所有権を保持することで、一定のコントロール
を利かせる等のメリットがある。
図表 3.5
コンセッション方式 PFI のストラクチャー
13
4.
他都市における公民連携(PPP)事例
4.1
制度・体制面に関する事例
4.1.1 横浜市の取り組み
 PPP について
担当部署:横浜市政策局共創推進室共創推進課
様々な公民連携手法を一括して所管し、民間、行政内部から相談・提案
をうけ、マッチングを行う“公民連携のハブ”の役割を持ち、既存の手
法にとらわれず、民間と行政のコミュニケーションを通じて、イノベー
ションを生み出し新しい価値を共に創る(共創)ことを目的とした組織
として、共創推進室が設置された。
 ガイドライン
PFI については、平成 15 年 3 月に『横浜市 PFI ガイドライン』を公表、
その後改訂を重ねている。PPP については、みずほ証券と協働で共同研
究を実施。
 民間提案の受付窓口「共創フロント」
「共創フロント」とは、横浜市と民間企業・大学・NPO 等が互いに対話
を進め、横浜市が抱える様々な課題の解決や新たなビジネスチャンスの
創出等に取り組むために、相談・提案を受け付ける窓口であり、
「政策局
共創推進室」が、提案の実現化に向け橋渡し役となって検討・調整を行
う。
図表 4.1
横浜市の「共創フロント」に寄せられた民間提案の流れ
(出所:横浜市共創推進室ホームページ)
14
 公有資産活用における民間事業者との対話の取り組み
これまで内部検討のみで設定してきた保有資産の活用方法や公募条件を、
早期段階で民間事業者と対話する場を設けることで、アイデアの把握や、
民間事業者が参入しやすい公募条件の設定を行うことを目的とし、以下
2つの対話手法を開発、実施。
図表 4.2
対話の種類
対話の
実施時期
期待される
効果
横浜市で全国初、独自に開発された2つの対話手法
サウンディング型
市場調査
庁内検討開始後、早い段階
で民間事業者との対話を
実施
市場性の有無や活用アイ
デアを早期段階で調査す
ることで、その後の庁内検
討を効率的に・幅広く進め
ることが可能
民間事業者のアイデアや
ノウハウを生かした活用
案の検討が可能
課題解決型公募
公募要領作成前に民間事業者
と対話を実施
不動産市場や民間事業者の意
向が的確に把握でき、事業成
立の確実性が向上
公募の段階で、より良い課題
解決の事業提案が集まりやす
くなる
(出所:横浜市、「共創アーカイブ vol.02」)
15
4.1.2 福岡市の取り組み
 PPP について
担当部署:財政局アセットマネジメント推進部大規模事業調整課
 ガイドライン
PFI ガイドラインは平成 13 年 7 月に公表し、その後平成 16 年 3 月に改
訂。PPP ガイドラインは、平成 24 年 4 月に『官民協働事業(Public Private
Partnership)への取組方針』を公表。
 PPP の対象事業及び検討のプロセスについて
基本的に、対象事業は、以下の要件を満たすもの
 民間ノウハウ・資産の活用可能性があること
 施設整備費 10 億円以上または管理運営費が年 1 億円以上であること
 「一般建築物」(学校は施設全体の更新計画を策定後、検討予定。)
長期的にはインフラも検討する予定。
図表 4.3
福岡市における PPP の展開イメージ
(出所:福岡市、
「官民協働事業(Public Private Partnership)への取組方針~行政と企
業の協働による公共建築物整備の仕組みづくりに向けて~」)
16
 事業手法決定プロセス
施設整備事業における一般的な検討の流れは以下の通り
図表 4.4
福岡市の PPP における事業手法決定プロセス
(出所:福岡市、
「官民協働事業(Public Private Partnership)への取組方針~行政と企
業の協働による公共建築物整備の仕組みづくりに向けて~」)
17
 ロングリスト、ショートリストの活用
政策推進プラン(市の4年間の中期計画)に掲載の事業のうち、PPP に
より事業を実施することで民間の知恵、ノウハウ、資金等の活用が期待
できる事業で、将来的に PPP 事業実施の可能性が見込まれる施設整備を
伴う事業を抽出したものを PPP ロングリストという。毎年修正を実施す
る。なお PPP ショートリストは、基本的にはロングリストの評価を踏ま
えつつ様々な政策判断を実施後、外部アドバイザーによる委託予算が確
定した事業のリスト。ただし、当初からショートリストに掲載される案
件もある。
図表 4.5
福岡市の PPP で活用されるロングリスト、ショートリスト
(出所:福岡市、「PPP ロングリスト」)
18
 福岡 PPP プラットフォームの設置
福岡 PPP プラットフォームとは、地場企業の PPP に関するノウハウ習得、
事業参画に向けた競争力強化を図るために設置した地場企業と市との対
話の場。これまで、他都市の事例研究、異業種間のネットワークの形成、
個別事業に関する情報提供・意見交換などをテーマとしたセミナーを開
催。各分野の企業が幅広く参加。
なお平成 24 年 10 月、福岡 PPP プラットフォームの発展型として、九州
大学が 100%出資する㈱産学連携機構九州により、地域企業の PPP 参画
のための、より実践的・専門的な拠点として九州 PPP センターが設立さ
れた。九州 PPP センターは有料の実践講座や企業・行政支援セミナー等
を開催し、各企業とのコンソーシアム形成等ネットワーク化を支援して
いる。
図表 4.6
福岡 PPP プラットフォームについて
(出所:福岡市、「官民協働事業(Public Private Partnership)への取組方針
~行政と企業の協働による公共建築物整備の仕組みづくりに向けて~」)
19
4.1.3 我孫子市:提案型公共サービス民営化制度
提案型公共サービス民営化制度とは、行政評価の事務事業評価表に基づ
き、市の全ての事業(1,000 以上)を公表(事業内容・事業目的・事業費・
人件費等)、民間から委託・民営化の提案を募る制度。民間事業者に加え、
NPO 法人、市民活動団体による提案が可能(個人は除く)。
 提案は以下の 3 段階
①担当課による予備審査(提案内容の問題点・課題を整理)
②分科会審査(専門家・市民・市職員で構成・審査資料を作成)
③提案審査委員会(学識経験者を含む・ここで採否をを決定)
 提案内容に独自性が高い又は競争入札では提案者の利益を損なう恐れ
がある場合、提案者を事業者として随意契約を締結。
 提案者以外にも複数の事業者が存在すると判断された場合には改めて
事業者を公募(入札等)
図表 4.7
年度
我孫子市における提案型公共サービス民営化制度の導入後の状況
提案数
民営化可
とされた
提案数
H17/18 年度
79
63
H18/19 年度
6
4
提案の
採否
事業者
選定方法
備考
37
競争:34
随意:3
取り下げ:10
不明:7
2 競争:2
H22 年度
15
-
6
-
H23 年度
8
-
3
-
H24 年度
6
-
3
-
取り下げ:2
取り下げ:2
(出所:我孫子市ホームページ等)
20
4.1.4 米国バージニア州:PPEA
PPEA(The Public Private Educational Infrastructure and Facilities Act)は、
米国バージニア州法において制定された、民間事業者による提案のイン
センティブを高めるための仕組みで、ワシントン DC にある小学校建替
え案件(オイスタースクール、次頁参照)を参考に作られたとされる。
PPEA の対象施設は、教育施設、庁舎、上下水道、通信等のインフラ
8 種類となっている。
 民間提案には以下の 2 種類
 Solicited Proposal:州政府からの RFP(Request For Proposal・提案要請)
に基づく提案
 Unsolicited Proposal:RFP に基づかない提案
 提案ステップは以下の 2 段階
 Conceptual stage(概要提案段階)
 Detailed stage(詳細提案段階)
概要提案段階を通過した者のみが詳細提案段階に進む。
 提案項目
 資格/経験、事業の特色、予想される住民の賛否、事業のメリット等
 Proposal review fee(提案審査手数料)について
 Solicited Proposal には課されないが、Unsolicited Proposal には最小
US$5,000(初期審査)、最大 US$50,000 の提案審査手数料が課される。
初期審査を通過しなかった場合、手数料は返還される。
 Unsolicited proposal について
 提案内容は原則公開されるが、提案者が要請を行い、これを州政府が認
めた場合には一部は公開されない(商業秘密等)。
 提案を州政府が受け入れる場合には提案内容を公表し、45 日以内に
Competing Proposal(競合提案)を募る。
 競争提案受付後、州政府は「取止め・当初提案に従い詳細提案段階に進
む・当初提案及び競合提案に従い詳細提案段階に進む・更なる提案を含
む詳細提案段階に進む」のいずれかを決める。
 提案審査
 初期段階で州政府は通常の調達手続き又は Competitive Negotiation(競
争的交渉)のいずれかの方法で事業者を選定するかを決める。
 提案審査は事前に Public-Private partnership oversight committee(監督委
員会)に諮る。
(出所:バージニア州、PPEA Guidelines and Procedures)
21
 留意点
 公共は Solicited Proposal と Unsolicited Proposal のバランスを取ることが
必要
 知的財産権を保護することが必要
 開かれた場で透明性を確保した官民のディスカッションが前提
 Unsolicited Proposal は革新的かつ創造的なプロジェクト実施に効果大
 公共には事業実施の可否を明確に決定できる能力が求められる
 提案審査手数料は民間の真剣な提案作成に効果大
(出所:東洋大学国際 PPP フォーラムより)
PPEA の参考になったとされるオイスタースクールの事例
米国ワシントン DC にあるオイスタースクールは、築 70 年になる校舎の老朽化
が問題となっていたが、DC 政府の財政状況は逼迫しており、学校は閉鎖の危機
に陥っていた。1997 年、父母らが立ち上げた学校存続のための NPO が DC 政
府と協議を行い、民間からの事業提案の呼びかけ、地方債の発行、学校の余剰
地開発権の民間事業者への譲渡等による仕組みで、実質的な財政負担なしで校
舎を建替えることができた。一方の民間事業者も、その余剰地でのアパート開
発・運営を実施でき、双方が Win-Win の関係となった好事例とされる。
図表 4.8
オイスタースクールのストラクチャー
(出所:NCPPP ホームページ等よりみずほ証券作成)
22
4.2
公共インフラ等に関する事例
4.2.1 コンセッション方式の活用
 新関西国際空港
新関西国際空港株式会社(新関空、国 100%出資)では、現在、コンセ
ッション方式を活用した空港運営の民営化策が検討されている。運営権
(コンセッション)を民間事業者に設定することで、民間の資金・ノウ
ハウを活用した効率的な経営の導入や、運営権設定対価による既存債務
の返済等が期待できる。
今後、2014 年 4 月以降に実施方針が提示され、早ければ同年夏頃にも、
一次入札が実施される予定。
現在、新関空以外にも、仙台空港等いくつかの空港で、同様のコンセッ
ション方式を活用した、空港運営の民営化策が検討されている。
図表 4.9
新関西国際空港で想定されているコンセッション方式のストラクチャー
23
 大阪市上水道
大阪市では、現在、水道事業の民営化策が検討されている。
水道は生活に密着し、一日も欠かすことのできない、代替の利かないイ
ンフラであることから、万が一の場合にも公共側が何らかの対応が取れ
るよう、コンセッション方式の採用が検討されている。
なお、運営を行う水道事業者として、当初は大阪市が 100%出資する株
式会社が想定されているが、できるだけ早い段階(例えば 5 年以内)に、
民間出資を受け入れるとしている。
図表 4.10 大阪市上水道で想定されているコンセッション方式のストラクチャー
(出所:大阪市水道局「水道事業民営化について(検討素案)」よりみずほ証券作成)
24
 ミヨー橋(仏)
フランスのミヨー橋は、パリからスペインへ抜けるルートの渋滞緩和等
を目的に建設された、全長 2,460m、橋脚 245m の橋であり、この建設に
コンセッション方式が活用された。建設費は約 4 億ユーロに上る。
橋の建設・運営は、フランスの大手建設会社 Eiffage が担い、コンセッシ
ョン期間は 75 年で、2004 年より供用を開始している。
本件では、独立採算型が採用されており、Eiffage が通行料金収入から建
設費を賄う構図となっている。
図表 4.11
ミヨー橋におけるコンセッション方式のストラクチャー
(出所:ミヨー橋ホームページ等よりみずほ証券作成)
25
4.2.2 上下一体方式の活用
 大阪市営地下鉄
大阪市では、現在、上下一体方式を活用した市営地下鉄の民営化策が検
討されている。
上下一体方式とは、施設の保有と運営とを併せて民間に委託するもので
あり、一体として民営化することで、鉄道事業総体としての責任と意思
決定の所在の明確化、経営合理性等に基づく意思決定の自由度の確保、
交通事業の最適化等のメリットが期待できる。
なお、運営を行う主体にとしては、当面、大阪市の 100%出資する株式
会社が想定されているが、将来的には、上場も可能な民間の企業体を目
指す予定である。
大阪市が 2013 年 2 月に公表した「地下鉄事業民営化基本方針(案)」に
よると、2014 年度半ばに新会社の設立。2015 年度には、新会社での営業
が開始予定となっている。
図表 4.12 大阪市営地下鉄で想定されている今後の民営化の流れ
(出所:大阪市、2013 年 2 月、「地下鉄事業民営化基本方針(案)」)
26
4.2.3 定期借地権の活用
 渋谷区庁舎
渋谷区では、耐震性能に難のあった渋谷区庁舎(1964 年竣工)と隣接す
る渋谷公会堂(同年竣工)の建て替えについて、その費用を、当該敷地
の一部に 70 年間の定期借地権を設定し、そこに民間施設(マンション等)
を建設する事業者から受け取る定期借地権料と、相殺させることが検討
されている。
なお、新庁舎は、高さ 65m の 15 階建て。新公会堂は、高さ 27m の 5 階
建てで、収容人数は現在と同規模の 2000 人。民間施設は、延床面積約
4.53 万㎡で 414 戸、約 120m の高層マンションとなる予定である。
総事業費は 367 億円を見込んでおり、2015 年度にも着工される予定であ
る。
図表 4.13 渋谷区庁舎等敷地での定期借地権の活用イメージ
(出所:2013 年 7 月 29 日、ERES セミナー資料よりみずほ証券作成)
27
 Bivi 藤枝
JR 藤枝駅前の旧市立病院跡地に建設された、図書館と民間商業施設とが
合築された複合施設である。当該市有地には定期借地権が設定され、民
間事業者はその上で、建設・運営を行う。
市が民間事業者に支払う図書館部分の賃借料は、受け取る地代等とほぼ
相殺されることから、市にとっては、財政負担を極小化した中で、市有
地の有効活用と市民ニーズに対応した新図書館の整備が実現できたこと
になる。
図表 4.14
Bivi 藤枝における定期借地権の活用
(出所:大和リース(株)資料よりみずほ証券作成)
28
4.2.4 PFI の活用
 新江の島水族館
神奈川県は、県立湘南海岸公園の再整備の一環として、新水族館と体験
学習施設を PFI により整備した。新水族館は BOO(Build-Own-Operate:
民間が建設、所有、運営を行う)方式で独立採算型、体験学習施設は BTO
(Build-Transfer-Operate:民間が建設後、所有権を譲渡し、運営を行う)
方式でサービス購入型となっており、運営事業者となる江の島 PFI㈱と
神奈川県が、約 30 年間の事業契約を締結している。
PFI の活用は、民間のノウハウを使った既存施設の有効利用と施設の一
体運営が目的で、これによる VFM 効果は、約 28.3%となっている。
図表 4.15 新江の島水族館の PFI ストラクチャー
(出所:「内閣府、民間資金等活用事業推進委員会第 20 回合同部会)資料、
神奈川県ホームページ、新江ノ島水族館ホームページ等よりみずほ証券作成)
29
4.2.5 その他
 エコフロンティアかさま(将来債権の流動化による資金調達)
エコフロンティアかさまは、茨城県が 100%出損する財団法人茨城県環
境保全事業団で、廃棄物処理場を運営している。そのリファイナンスに
あたり、茨城県の損失補償をなくすことや、市場の評価による経営監視
力の強化等を目的に、「将来債権の流動化」という仕組みが活用された。
より具体的には、将来にわたり取得する売上(委託料支払請求権等)を
信託銀行に信託し、代わりに優先/劣後/セラー受益権を発行するもので
あり、これを「レベニュー信託」と呼んでいる。
なお、国内に一般財団法人や一般社団法人が債券を発行する根拠法がな
く、地方債制度に米国のレベニュー債(詳細は 5.2.2 参照)のような仕組
みも想定されていないため、当スキームの採用に至ったとされる。
図表 4.16 エコフロンティアかさまでの将来債権流動化ストラクチャー
(出所:茨城県ホームページ等よりみずほ証券作成)
30
 BID(米)
米国の BID(Business Improvement District)は、主にビジネス地域におい
て、指定されたエリアの不動産所有者等から賦課金を徴収し、それを活
用した様々な事業を行う、州法に基づく制度である。全米には 1,000 の
BID が存在するとされるが、州によって少しずつ制度は異なり、呼称も
EID(Economic Improvement District)や MID(Metropolitan Improvement
District)など様々である。
事業内容も、地域の美化及び治安維持を根幹とし、イベント実施等地域
振興に関する事業、公園・歩道等公共空間の管理・運営、デザイン統制、
政策提言活動等、地域によって様々である。
ニューヨークのタイムズスクエア周辺も BID となっており、観光客等へ
のサービス改善、市との連携による歩行者空間の改善等の取り組みによ
り、BID 設立後 10 年で建物資産価値を 2.3 倍に、賃料を 40%以上上昇さ
せたとされる。
また、シアトル市では MID が設立され、エリア内の清掃、安全性の向上、
マーケティング、市場調査活動、プロモーションイベント、就労困難者
への就労支援等を実施している。
図表 4.17 シアトル市の MID
(出所:国土交通省土地・水資源局、平成 20 年 3 月、「エリアマネジメント
推進マニュアル」)
31
5.
神戸らしい公民連携(PPP)のあり方についての提案
5.1
民間事業者が提案しやすい仕組み
5.1.1 民間事業者との対話
PPP / PFI 事業の活発化を図るには民間事業者のアイデアを積極的に取り
入れていくことが必要である。
神戸市内には本社を構える大企業・中堅企業も相応にあり、これらのノ
ウハウを積極的に活用していく必要性がある。また、神戸市は全国的に
知名度が高く、プロジェクトによっては全国的に注目される可能性もあ
る。
民間事業者のアイデア提案を活発化するためには、提案しやすい環境整
備が必要である。特に求められているのは官側が提案を求める対象事
業・事業の狙い・目的を事前に明確にすること(公募要領作成前のサウ
ンディング)と、事業者選定段階において適切なインセンティブを付与
することである(後者は 5.1.3 参照)。
横浜市のサウンディング型市場調査や福岡市のロングリストは上記前者
の一例であるが、神戸市でも、それらの方法を活用しながら、例えば以
下のような神戸独自の方式を検討することが考えられる。
 幅広い対象の提示
横浜市や福岡市の事例では、アイデア提案を募集する対象事業が事前に
ある程度絞り込まれているが、民間提案を促進するための仕組みとして、
神戸市で導入する際にはより幅広く対象事業を示せないか検討すること
が考えられる。
例えば一定規模以上の公共施設整備や遊休地があれば、PPP / PFI 導入の
具体的方針がなくてもこれを公表し、ひとまず民間事業者からのアイデ
アを受け付ける等の方策が考えられる。
 公募要領作成前の対話(サウンディングの活用)
「PFI 事業実施プロセスのガイドライン」
(以下「プロセスのガイドライ
ン」という。
)では、実施方針の策定にあたって、実施方針の公表後に市
場調査を行うことが記載されている。
32
図表 5.1
PFI 事業実施プロセス(抜粋)
(出所:PFI 事業実施プロセスのガイドライン)
また、競争的対話の実施手法を示した「PFI 事業に係る民間事業者の選
定及び協定締結手続きについて」(PFI 関係省庁連絡会議幹事会申合せ)
でも想定されているのは実施方針公表後の対話である。
他都市では、実施方針の策定や公募手続き開始前等に官民の対話を行い、
民間事業者の意向を事業スキーム等に反映する事例が増えつつある。そ
の一例が 4.1.1 に記した横浜市のサウンディング型市場調査であるが、こ
れ以外にも以下の実施事例がみられる。
神戸市でもこれらを参考に実施方針や公募手続き前の官民対話方式を検
討することは有効と考えられる。
図表 5.2
公募前の対話実施例
都市
実施方法
大阪市
検討の早い段階で民間事業者から広く意見、提案を求
(マーケット
め、対話を通して課題の解決を目指すもの。対話への
サウンディング) 参加希望者に対して、提案概要の提出を求めている(家
庭系ごみ収集輸送事業で実施)。
公有資産の有効活用の検討にあたり、その方法につい
て、民間事業者との対話を通じて、広く意見や提案を
求める対話型の市場調査(医療福祉施設の事業承継で
実施)。
滋賀県
(課題解決型
公募手法の対話)
まちづくりへの民間事業者の参画誘導と役割分担が求
められる中、公共の「まちなか資源」の有効活用につ
いて、民間事業者が参画・提案しやすい環境づくりを目
指し、民間事業者との「対話」を取り入れた公民連携
による手法(県庁周辺県有地活用促進事業で実施)。
33
図表 5.3
対話実施時における留意点
対話実施にあたっては以下の点に留意することが必要。
ポイント
内容
民間事業者側の提案 提案作成を行う民間事業者には相応の費用負担が
作成負担の軽減
生じるため、この軽減策の検討が必要
民間の商業秘密等の 提案を受けた公共側は提案に含まれる民間事業者
取扱い
のノウハウ等の商業秘密を第三者に開示しないこ
とや目的外に使用しないこと等が必要
幅広い民間事業者
公平性の確保の観点や様々な視点からの提案を受
からの提案受付
けるために、ホームページの活用等、提案受付実
施を周知する方法の検討が必要
5.1.2 施設整備手法
従来の PFI 手法のみならず、様々な民活手法が採られ始めているのが近
年の特色である。特に、公有地を有効活用する民設公営方式や民設民営
方式、条件付公有地有効活用方式は大都市圏を中心に導入事例が増えつ
つある(東京都・横浜市等)。
神戸市においても中長期的には人口減に対応して公共施設の集約化・再
配置が必要となってくることが予想され、これに伴い新たな遊休地の発
生も予想される。遊休地が発生してからその有効活用方法を検討し始め
るのではなく、集約化・再配置計画を策定する段階から、必然的に発生
する遊休地の有効活用方法を含んで検討することが望ましい。
そのため、神戸市では、従来の PFI 法に基づく PFI 事業にこだわらない
幅広い手法、例えば以下の方法が考えられる。
 DB・DBO 方式の採用
民 間 事 業 者 に 設 計 ・ 建 設 等 を 一 括 発 注 ・ 性 能 発 注 す る 手 法 ( DB=
Design-Build)や、民間事業者に設計・建設・維持管理・運営等を長期契
約等により一括発注・性能発注する手法(DBO=Design-Build-Operate)
等。なお、整備に必要な資金は従来方式と同様公的資金である。
 (条件付)公有地有効活用事業の推進
神戸市も相応に不動産の開発ポテンシャルはあることから、民間事業と
して開発可能性のある立地の公共施設については再整備等を行う際には、
事業部局に民間収益施設との併設を義務付けることが考えられる(余剰
容積は全て利用すること)。
例えば、民間賃貸マンションの一部に子育て世帯や高齢者世帯等の入居
を義務付ける等。
34
 民設公営方式の採用
民間収益施設の一部に公共施設・公益的施設を併設し、これを公共が買
い取る又は賃貸する方式。
 収益施設の併設・活用
民間収益施設や既存の民間収益施設を活用したりする等、事業収入によ
り費用を回収するものや、副産物の活用等付加価値を創出し施設のバリ
ューアップを図るもの。
5.1.3 事業者選定手法
民間事業者のアイデア提案を活発化させるためにも、事前提案に対して
インセンティブを付与できる事業者選定手法の検討が求められる。
 総合評価一般競争入札の場合
神戸市は WTO 政府調達協定の対象となるため、一定額以上の事業につ
いては総合評価一般競争入札による事業者選定をやむなくされる。この
際に公平性・競争性の確保等に配慮すると選定過程における柔軟性は失
われる傾向にある。
そのため、総合評価一般競争入札方式を導入する場合には落札者選定基
準(審査基準)の内容(足し算方式の採用や定性面の重視等)を工夫す
ることが重要である。
 随意契約(公募型プロポーザル方式)の場合
WTO 政府調達協定に定められた額以下の事業については、随意契約(公
募型プロポーザル方式)を活用し柔軟な制度設計が可能である。なお、
神戸市の PFI 事業の実施事例では、比較的大型のハコものは多くなく、
事業規模の点では中小規模のものが相対的に多いのが特色といえる。
この場合、民間事業者からアイデア提案された事業につき、神戸市で審
査を行い採用可能とされたものについては、これを上回る新たな提案が
なされない限りは提案を行った民間事業者と特命随意契約を締結する等
が考えられる。(PPEA に倣ったスキーム)
なお、採用可能とされた提案については商業秘密等への配慮が必要であ
る(どこまで提案内容を開示する等)。また、地方自治法との整合性を確
保して、公平性及び透明性等を確保しつつ、いかに民間事業者の創意工
夫を発揮させるかがポイント。
35
5.2
国内外の民間資金を呼び込む(インバウンド)ための仕組み
5.2.1 官民ファンドの活用
公共インフラの老朽化対策、地域振興、産業育成等、従来は盲目的に補
助金等に依存していた分野にファンドの仕組みを活用することで、市場
の評価による監視力が強化され、無駄な公共事業を減らす効果等が期待
される。また、ファンドを通じて国内外の投資資金を呼び込むことがで
きれば、地域経済の活性化にも寄与するだろう。
こうしたファンドに神戸市も出資を行い、
「官民ファンド」とすることで、
市に一定のコントロールが保持されるとともに、民間の投資を呼び込み
やすくする「呼び水効果」も期待できるようになる。
図表 5.4
官民ファンドのストラクチャー・イメージ
36
5.2.2 先駆的な公共ファイナンスの検討・導入
 レベニュー債
米国には、レベニュー債と呼ばれる州や自治体の公共事業等の資金調達
を目的に発行される地方債がある(我が国に同様の仕組みはない)
。特定
の事業収益で元利金の支払を賄う債券で、特定財源債とも呼ばれる。
こうした地方債を神戸市にも導入することができれば、資金調達の選択
肢が増えるだけでなく、国内外の投資資金を呼び込むことで、地域経済
の活性化に寄与することも期待される。
図表 5.5
図表 5.6
米国のレベニュー債のストラクチャー
米国のレベニュー債と一般財源保証債*の発行額
(億ドル)
(%)
*一般財源保証債とは、発行体が自身の信用力で元利払いを保証する米国の地方
債。我が国の地方債に相当する。
(出所:SIFMA US Municipal Issuance)
37
 TIF 債
TIF 債は、レベニュー債の一種であり、将来の固定資産税の増加分を償
還財源として発行される債券である。自治体が設定した増加税収(期待)
区域における用地買収、商業施設等の建設、都市基盤整備・環境整備開
発等が、その対象となる。
社会的便益はあるものの、事業費回収に十分な収入が見込めない事業に
ついて、「税収増分」を根拠に、事業に先駆けた資金調達が可能となる一
方、想定通りの税収増とならなかった場合には、債務不履行のリスクが
ある。
エリアが明確に設定できる開発等案件であれば、神戸市においても、将
来的に、こうした形での資金調達を検討できるようになるかもしれない。
図表 5.7
米国の TIF 債のストラクチャー
 コンセッション方式の活用
スキームについては、4.2.1 を参照。
海外の事例を参考にすると、コンセッション方式の活用が有効な分野と
して、空港、上下水道の他、鉄道、道路・橋梁などが挙げられる。
コンセッション方式では、運営権を担保とした資金調達が可能になるた
め、国内外の投資資金を呼び込むこと等が期待される。
38
5.3
民間企業の海外展開(アウトバウンド)を支援する仕組み
5.3.1 支援組織の設立
神戸市内の民間企業が海外展開を図る際、神戸市の持つ様々なノウハウ
やネットワークを活用した支援を、ワンストップ窓口として行う組織の
設立。
特に民間にとっては、こうした支援組織がワンストップ窓口として存在
することの意義は大きく、手続き面等を含む、より機動的な事業展開が
期待できる。
図表 5.8
支援組織のイメージ
39
5.4
多くの人が集まり安心して暮らせるための仕組み
5.4.1 アベイラビリティ・ペイメントを使ったインフラの老朽化対策
アベイラビリティ・ペイメントとは、道路や橋梁等、公共インフラを利
用可能(Available)な状態に維持管理することに対し、公共側から一定
の料金が支払われるもので、逆に利用できない状態となった場合や維持
管理が不十分な場合等には、支払いが減額されるものである。
この仕組みを使うことで、必ずしも料金収入のない公共インフラや老朽
化対策においても、公民連携(PPP)を活用することができる。
図表 5.9
アベイラビリティ・ペイメントのストラクチャー
5.4.2 BID の活用
BID の概要については、4.2.5 を参照。
神戸市は、市内に独自の魅力を持った地域がいくつも存在するため、BID
の活用に適した環境にあるといえる。
BID の活用で、神戸市の魅力が向上し、さらに多くの人が神戸に集まる
ようになれば、地域経済の活性化や税収増にもつながることが期待でき
る。
40
神戸市公民連携アドバイザリー業務報告書
平成 26 年 3 月
みずほ証券株式会社
株式会社みずほ総合研究所
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