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日消外会誌 15(1)1104∼
107,1982年
S状 結腸憩室症 におけ る勝 眺痩形成例な らびに癌 合併例
瀬 公
井
一
平
宣
吉
川
河
原
輝 勉
島 笹
国立大阪病院外科
国立大阪病院泌尿器科
下
江
庄
司
国 立 大阪病院 消化 器科
水
滋
野
CASES OF VESICAL FISTULA FORMATION AND COMPLICAT10N
CANCER IN SIGMOID DIVERTICULAR DISEASE
Koichi SHIMASE,Nobuteru KIKKAWA,Hitoshi SASAI and Tsutomu KAWAHARA
Nationa1 0saka Hospital, Department of Surgery
Shdi SHIMOE
Nationa1 0saka Hospital, Department of Urology
Shigeru MIZUNO
Nationa1 0saka Hospital, Department of Gastroenterology
索引用語 : 左 側結腸憩室症 , 結 陽勝眺寝
は じめに
左側結腸憩室症 は欧米人 には多 く, 日本人 には少 な
い とされていたが,食 生活 の変化 か ら本邦 において も
近年増加 の傾 向 に あ る'21左 側結腸憩室症 では右側結
腸憩室症 に くらべ て 出血 ,憩 室炎,膿 瘍形成,穿 孔,
痩孔 な どの合 併症 が多 く,ま た稀 に癌 を合併す る こと
もあ り,治 療上 い くつ かの問題 点 が あ る。私 どもは最
近, S状 結腸憩室症 に続 発 した結腸勝眺痩 の 1例 と,
憩室症 の近傍 に癌 を合併 した 1例 を続 けて経験 した の
で,そ の 2症 4/jを
報告す る とともに, S状 結腸憩室症
の合併症 とい う面 か ら文献的考察 を加 えた い。
症
例
した。投薬 に よ リー 時的 に症状 の消失 をみたが,昭 和
53年 4月 上 旬,気 尿 に加 えて糞尿 の 出現 をみ て, 4月
10日入 院 した.
現症 :体 格 はや や肥満型 で あ るが,そ の他 に異常所
見 は認 め な い。
検査所見 :尿 は混濁 し,赤 血 球,自 血 球や便汁様 な
どの沈澄 を認め る。便潜 血 反応 は陽性.胸 部 お よび腹
部 の単純 X線 には異常 を認 めないが,注 腸造影 (図 1)
で,全 結腸 に憩室 を認め る. と くに左側結腸 に多発 し
てお り, S状 結腸 は炎症 に よる と思わ れ る伸展不 良 が
み られ, さ らにその前壁 にバ リウムの漏 出をみ る。大
腸 ファイバ ース コー プは, s状 結腸 の拡張不 良 のため
症例 1.45歳 ,男
主訴 :気 尿
18cmま で しか挿 入で きず,憩 室 は観察 しえなか った 。
勝批鏡 では勝洸後壁やや左 よ りに外方 か らの圧迫 が認
既往歴 ;家族歴 :特 記す べ き こ とな し.
め られ,そ の粘膜 は軽度発赤 していた 。
手術所見 iS状 結腸 の一 部 が勝脱 に癒着 し痩孔 を形
成 していた。憩室 が全結腸 に分布 してい るこ とを考慮
現病歴 :昭 和 51年 3月 頃 よ り排尿痛 と発熱 が あ り,
や がて気尿 が 出現 した .近 医 にて勝洸炎 の診 断で抗生
物質 を投与 され,症 状 は一 時的 に軽快 した。昭和 52年
8月 上 旬,再 び排尿痛 と気 尿 が 出現 したため 当院 を受
診,注 腸造影,勝 批鏡検査 の結果,結 腸勝洸慶 と診 断
して,痩 孔切除術 のみ に とどめた。
病理学的所見 :慶 孔 の周辺 は慢性 お よび急性 の炎症
性細胞 の浸潤 と線維化 が 強 く,一 部 に膿瘍 を形成 し,
1982年1月
図 1 症 例 1の 注腸造影 S 状 結 腸 に 多発 す る憩室
(↑)と バ リウムの漏出 ( ↑) を 認 め る.
105(105)
図 3 症 例 2の 注腸造影 S状 結腸 に憩室 (↓)と そ
の肛側 に apple core signを
認 め る。
望 に よ り人工肛 門閉鎖術 を施行 した 。 しか し 1カ 月後
図 2 症 例 1 の 虜孔周辺部組織像 ( H E 染 色) 一部膿瘍
形成 と異物性の巨細胞を多数認める。
に残 存す る S状 結腸憩室 の再穿孔 に よる腹壁慶 が発 生
してお り,現 在根治的結腸全摘術 を計画中であ る。
症例 2.75歳 ,男
主訴 :便 泌 と下痢
既往歴 :20年前 に流行性肝炎.
家族歴 1特 記す べ き こ とな し,
現病歴 :昭 和 54年 7月 中旬 よ り使 泌 がちにな り,同
時 に腹部膨満感 も出現 して きた 。 8月 に入 る と,黒 色
下痢使 が 1日 5∼ 6回 出現す るよ うにな り,近 医 にて
注腸造影 を施行 した と ころ, S状 結腸 の拡張不 良 と多
数 の憩室 がみ られ, S状 結腸憩室症 とその周 囲炎 とし
て 当院 を紹介 された。
現症 !全 身状態,良 好 で異常 を認 め ない。
一
検査所見 t血 液,電 解質 そ の他 の 般検査 には異常
は認 め なか った。大腸 ファイパ ース コープを挿 入 した
異物性 の巨細胞 が多数み られた (図 2).
ところ,肛 門 よ り20cmに おいて狭窄 が あ り,一 部 に発
術後経過 :術 後約 1カ 月頃,右 下腹部痛 とその部位
の筋性防禦 を認 めたため ,急 性虫垂炎 の疑 いで 開腹 し
赤 を伴 った 隆起 を認め るため,再 び注腸造影 を施行 し
た。 ダグ ラス富 を中心 とした高度 の炎症 が認め られ,
そ の成因 は不 明で あ ったが,回 盲部 は一魂 とな ってい
たため,回 盲部切除術 を施行 した。し か し 3カ 月後再
core signが
認 め られたため,S状 結腸憩室症 に直腸 S
び下 腹部痛 と弛振熱 が持続す るよ うにな り,注 腸検査
た。図 3の 如 く多数 の憩室 が あ り,そ の肛側 に apple,
状部 の癌 が併存す る もの と診 断 し,昭 和 54年11月29日
手術 を施行 した。
手術所 見 :腹 膜反転部 よ り3 cm口 側 に3.5cmで 全
で S状 結腸 よ り造影剤 の漏 出を認 めた 。 S状 結腸憩室
の穿孔 を考 え,10月 3日 ,横 行結腸 に二 連銃式 の人工
周性 の腫瘤 が あ り,そ の 日側 S状 結腸 に数個 の憩室 を
肛門を造設 した 。そ の後,経 過 は順調 で あ り患者 の希
た。
認 めた 。 R3の 切 除術 と結 腸直 腸側 端 吻合術 を施 行 し
S状 結腸憩室症 における勝此療形成例ならびに癌合併例
106(106)
図 4 症 例 2の 腫瘍部組織像 (HE染 色)高分化型腺癌
を示す.
日
消外会議 15巻
1号
左側 結 腸 憩 室 症 の 少 ない こ とがそ の理 由 と考 え られ
る。
結腸憩室症 は症状 を とくに示 さないが,憩 室炎 を生
じる と潰瘍,出 血 ,穿 孔,膿 瘍 ,療 孔 な どの合併症 を
生 じ,治 療 の対象 とな って くる。症例 1は 全結腸型 の
憩室症 に S状 結腸勝脱慶 を併発 した もので あ り,本 稿
で は結腸勝脱痩 につ いての文献的考察 を加 えた い。
結腸勝脱痩 の原 因を,先 天性,外 傷性,炎 症性,腫
瘍 性 に 分 けた場 合,欧 米 で は66∼77%。が 炎 症 性 で あ
る とされ,Attnadら めに よる と27例中22例が結腸憩室
症 で あ った 。 一 方 Colcock●に よる と S状 結 腸 憩 室症
に合併 した痩孔64例 は21例が勝脱 に,22例 が皮膚 に開
口していた とい う。 この よ うに欧米 では結腸憩室炎 の
合併症 としての 炎症 性結 腸勝脱療 が 多 いの。 これ に対
図 5 症 例 2 の 憩室部組織像 ( H E 染 色) 筋層 の萎縮 と
粘膜 の脱出を認め る。
して本邦 では黒 田 ら的に よる と35.6%で あ り,岡 空 らり
の集計 に よる と14例の憩室 に よる結腸勝比痩 が報告 さ
れて い るにす ぎな い。
慶孔 に前駆す る憩室炎 として,時 に消化器症状 を塁
す る ものが あ るが,多 くは泌尿器系症状 が初発症状,
主症状で あ る こ とが 多 い。 と くに気尿,糞 尿 が特徴的
で,尿 が 消化器 に漏 出す る こ とは稀 で あ る1の
。従 って気
尿,糞 尿 が あ り,注 陽 で憩室 を認 めれ ば憩室 に よる勝
脱療 と考 えて も間違 い な い よ うであ る。確定診 断 とし
てはX線 的 に慶孔 を証 明す べ きであ るが,実 際 には勝
批造影 で も,注 腸造影で も交通 を明 らかにす るのは困
難 な症例 が 多 い。症例 1で も痩孔 を証 明す る ことはで
きず,注 腸 にて多発す る tear drop像と,前 壁 に不 規
則 な比較 的深 いバ リウ ムの突 出を認 め るにす ぎな か っ
た。
治療 としては,炎 症 が強 いため に従来 は多次的手術
が主 張 されていたが,最 近 の抗生剤,輸 液療法,麻 酔
な どの進歩 に よ り,腸 切除 と吻合 ,勝 眺壁縫合 の一 期
で 組織 学 的
切除標 本 :癌 は 全 周 性 BorrIIlann II型
には深達度 Sの 高分化型腺癌 (図 4)で lyl,v。
,nOで
あ った 。 さらに痛 か ら 2 cmは なれた 口側 の結腸 ヒモ
的手術 が多 く行わ れ る傾 向にあ る.症 例 1は 憩室 が全
の 間 に数個 の小指頭大 の憩室 がみ られた。組織学的 に
結腸型,散 在性 に分布 していた ことか ら痩孔切除術 の
は図 5の 如 く,筋 層 の萎縮 と粘膜 の脱 出を伴 う,い わ
み に とどめた ところ,結 腸周 囲炎 の再燃,増 強,た び
ゆ る仮性 憩室 で,炎 症 は軽度 で あ る。
重 な る再手術 とい う不 本意 な経過 をた どった もので あ
察
1.結 腸勝就慶
る。最初 か ら全結腸切 除術 を施行す るか,合 併症頻度
の高 い左側結腸 の切除術 を施行す べ きであ った と反省
結腸憩室症 そ の ものは 日常 しば しば遭遇す る疾患 で
してい る。勝脱慶 は 出血 ,穿 孔性腹膜炎 な どの合 併症
考
あ るが,外 科的治療 の対象 とな る症例 は本邦 で は稀 で
と異 な り,待 期手術 が可能 で あ る こ とを考 える と,近
あ り,私 どもの施設 では大腸癌 の 2∼ 3%の 頻度 にす
年急速 な進歩 の み られ る経 静脈栄養 (lVH)を 試 み る
の も一 法 ではないか と思われ る。実際私 どもは,CrOhn
ぎな い.St.Mark's病 院 では年 間30例 もの憩室症 に対
す る手 術 が 行 わ れ て お り,こ れ は 大 腸 癌 手 術 症 例 の
20∼30%に 相 当す る。.一 般 に本 邦 で は合併 症 の 多 い
病 に合 併 した 結腸勝脱慶 に IVH療 法 を行 って好 結 果
を えてい る。
1982年1月
2.憩
107(107)
室症 と癌 の併存
結腸憩室症 と癌 の合併 は,欧 米 では結腸憩室症 の うち
約 5%11)∼25%1カに癌 を合併す る といわ れて い るが,
本邦 で は 小林 ら分が S状 結 腸憩 室症 の約30%に 癌 を合
併 していた と報告 してい る.そ こで両者 の関係 につ い
て考 えてみ る と,両 者 とも低残造 食 を とる人 々に発生
しやす い とい う共通 因子 があ る.す なわ ち憩室 は低残
澄 食 に よる陽管 内圧 の上 昇 に よって 発 生 しや す くな
り,癌 は低残澄食 に よる腸内容通過 時間 の延長 に よっ
て carcinogenと考 え られ る物 質 が腸粘膜 に長 く作 用
す る結果,発生 しやす くな る とぃ うわ けであ る1り
。しか
し両者 の間 に明確 な因果関係 は証 明 され ていない1つ
.
一 般 に S状 結腸憩室炎 の
注腸 を見 る と結腸周 囲炎 に
よる腸管 の伸展不 良 の あ ることが多 く, きれ い な二 重
造影像 を得 ることが困難 で あ る.症 例 2に おいて も近
医 でのと腸透視で は S状 結腸憩室症 と診断 されたが,
大腸 ファイパ ー ス コー プで粘膜面 の異常 を認 め,再 度
の注腸 に よっては じめて癌 の存在 を診 断 しえた もので
文
献
1 ) 多 羅尾 信 ほか : 結 腸勝批 痩 を合 併 した S 状 結 腸憩
室症 の 1 治 験 例. 胃 と腸 , 1 3 i 8 4 9 - 8 5 3 , 1 9 7 8 .
2 ) 小 林 世美 ほか t S 状 結腸 憩 室症 に合併 す る癌 及 び
ポ リー プ, Gastroenterological Endoscopy,20:
39--43, 1978.
3)Annval Report, St, Mark's HOtpital, London
1975, 1976, 1977.
4)COuris, G.D. et al.: Intettinovesical istula.
Surg,54: 736--742, 19636
5)Ahmad, HS,Nolman,B.A.:Diagnosis and
management
of
co10vesicai
nstulas.
Surg
Gyne&Obst.143:71-74,1976
6)C01cock,B.P.,Stahmann,F.O i Fistulas com、
plicating diverticular diseare of the siglnoid
colo■,Ann Surg,175:838-846,1972.
8 ) 黒 田吉隆 ほか i S 状 結 腸勝批 慶 の 1 例 . 臨床外 科,
29:955--959, 1974.
9 ) 岡 空達夫 ほか : 左 側結 腸憩 室症 一 結腸勝眺 痩 を中
心 に。外 科, 3 9 ! 1 4 4 7 - 1 4 5 0 , 1 9 7 7 .
10)Mayo, GW, Blunt, C.P: VesicOsigmoFdal
あ る.本 邦 で も食生活 の変化 か ら大腸癌 の増加 ととも
istulas complicating diverculitis.Surg Gyne&
に左側結腸憩室症 も増 えることを考 える と,結 腸憩室
Obst,91:612, 1950.
症 の X線 診 断に は1隠
重 な読影 と大腸 ファイバ ー ス コー
プの併用 が必要 の よ うに思われ る。
まとめ
憩 室症 が 合併 症 を起 こした 場 合 の 治療 上 の 問題 点
と,憩 室症 に併存 した癌 の場合 の診断上 の問題点 とい
う2つ の面 か ら考案 をお こな った 。疾患 の欧米化 とと
もに増加す るで あろ う大腸 憩室症 を思 うと, この 2症
例 か らい くつかの示唆 が与 え られた と考 える。
11)Boles,R.S.Jr,Jordan,sM.:The clinical signi‐
IIcance of devcrticulosis. Gastroenteromogy,
35: 579--582, 1958,
12)Wilson,L.B.!Dsverticula Of the 10wer bOwl:
Their deve10pment and relationShip to carci‐
noma Ann Surg,53:223-231,1911.
1 3 ) 小 林世 美 ほか ! 大 腸 の癌 と憩室. 胃 と腸 , 9 , 1 2 9 6 ,
1974.
14)Buricitt,D.P,Epide■
1lo10gy oF cancer of the
colon and remtumo Cancer,28:3--13, 1971.
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