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平成 21 年度における活動とその成果の報告

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平成 21 年度における活動とその成果の報告
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東洋大学人間科学総合研究所紀要 第 12 号(2010) 300-303
■研究所プロジェクト③ 「10 代子育て家庭への妊娠・出産直後の保健と福祉の連携
による支援に関する研究」
平成 21 年度における活動とその成果の報告
森田 明美*
研 究 課 題:10 代子育て家庭への妊娠・出産直後の保健と福祉の連携による支援に関する研究
(平成 19 年度~21 年度)
予 算:平成 21 年度 1,378,000 円
研究代表者:森田明美
研究分担者:中原美恵、清水玲子、角籐智津子、杉田記代子、若林ちひろ(研究員)、井上仁、唐田
順子、上田美香、田谷幸子(客員研究員)
1.研究計画の概要
日本では、母子家庭の低年齢化が進行しており、20 代前半で母子家庭になる女性が、急増する母
子家庭の約 4 分の 1 を占めている。母子家庭の低年齢化の背景には、10 代からの若年層の妊娠・出産・
子育て問題が横たわっていると考えられる。本研究は、近年の母子家庭の急増、低年齢化のなかで、
10 代の妊娠・出産・子育ての実態把握と、それをふまえた 10 代の妊娠・出産・子育てへの継続した
福祉的支援システム開発を目的とする。
今年度は研究のまとめとして、10 代親の暮らしの場と課題の抽出方法について整理をした。その
結果図 1 に示した構造を明らかにする事ができた。また、以下にまとめたこの研究の今後の展開に重
要となる地域生活をしている 10 代子育て家庭の妊娠・出産直後の調査の実施、第 2 に地域生活が困
難な 10 代親で、母と子の暮らしとなった場合に利用できる母子生活支援施設について、東京都内すべ
ての施設調査を実施し、10 代親の暮らしと支援の実態を明らかにすることができた。倫理的配慮とし
て対象者の人権擁護、個人情報の利用などについて、学内の倫理委員会の審査を受け承認を得ている。
2.10 代親の暮らしの場
図 1 に、10 代親からみた妊娠・出産・子育て研究の構成と先行研究について示した。10 代が暮ら
している場所は、「地域」と、少数であるが児童養護施設などの「児童福祉施設」の 2 つに大きく分
けられる。
地域で暮らしている 10 代が妊娠・出産した場合、家族・親族や近隣、友人などの私的支援があれば、
* 人間科学総合研究所研究員・東洋大学社会学部
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森田:平成 21 年度における活動とその成果の報告
そのまま地域で子育てを行う。しかし、私的支援がなく、様々な問題を抱えた 10 代親は、多くの場合、
ほとんど支援を受けずに地域で暮らしはじめ、問題をかかえたままで放置されるか、途中で中絶をす
ることになる。家庭の支援が受けられない出産の場合には、助産施設や婦人保護施設で出産まで支援
を受ける。国内で一箇所だけ母子一体型の婦人保護施設(慈愛寮)がある。
私的支援あり
10代
地域生活
妊娠
地域生活
(妊娠・出産.子育て)
乳児院、児童養護施設
児童自立支援施設
自立援助ホーム
里親、養子縁組
私的支援不足
私的支援不足
先行研究 ③
インケア・アフターケア
子育て
保育園
私的支援あり
先行研究 ①
母子保健・看護
出産
先行研究 ②
都社協調査
施設(母子一体型)
母子生活支援施設
婦人保護施設
(母子分離)
乳児院
児童養護施設
児童自立支援施設
自立援助ホーム
里親、養子縁組
施設調査
・利用状況
・支援者状況
・当事者状況
図 1 10 代親からみた妊娠・出産・子育て研究の構成と先行研究
出産後母子一体で支援が必要となれば、母子生活支援施設で暮らすことになる。
また、虐待や養育困難な場合は、10 代親とその子どもを分離し、子どもは養子に出されたり、里
子として養育家庭で暮らしたり、乳児院や児童養護施設などの児童福祉施設で生活をしている。
一方、様々な理由により児童福祉施設で育った 10 代が妊娠した場合、私的支援を受けながら地域
での子育てをしている 10 代親もいるが、家族支援を期待できない施設出身の 10 代親の多くは、様々
な問題を抱えつつ地域で暮らし、また一部は、母子一体や母子分離を含め施設生活となっている。こ
れまで、施設出身の 10 代親に関する研究はなされていないことも明らかになった。
(森田明美)
3.地域で暮らす 10 代親の妊娠出産子育て調査
1)調査の概要 本研究では、A 市の協力を得て、地域で暮らす 10 代親を対象とした妊娠・出産・子育て期までの
継続したインタビュー調査を行っている。調査員は、助産師、保育士、臨床心理士、小児科医などの
専門家で、インタビューした内容の逐語録を作成し、分析を行っている。
10 代親への継続的インタビュー調査の方法は、「支援型」半構造化面接インタビュー調査で、妊娠
期に 2 回、子育て期に 4 回、1 歳 10 か月までのおよそ 6 回を予定している。「支援型」の調査とは、
インタビューの際に、妊娠や出産、育児について不安や悩み、生活の課題などを把握した場合は、そ
れを放置せず、適宜支援しながら調査を進めていくものである。
調査項目は、妊娠期は、家族や学業の状況、妊娠が分かってから現在までの経緯や、自分たちの気
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持ち、周囲の反応、子育て生活のイメージ、今、悩んでいることなどを聞いている。
子育て期には、前回のインタビューからの経過を把握しながら、1 日をどのように過ごしているか、
子育ての仲間、サポートの状況、サービスの適応などを聞いている。また、子どもを連れてのインタ
ビューになるので、子どもの成長発達を観察したり、母親の子どもに対する関わり方を観察し、母親
役割の適応などを把握している。
また、10 代親は、周囲の大人だけでなく、医療・保健・福祉に携わる者からも偏見を持たれた体
験をしている、ということが、先行研究から明らかになっているので、調査では「傷ついた体験」に
ついても聞いている。調査は、2009 年 1 月に開始した。
2)調査結果
A 市における、2007 年度の 10 代女性の出産は 36 人、全出生数における割合は 1.9%となっており、
全国平均の 1.5%より若干高くなっている。A 市の保健師からのヒアリングにおいても、10 代親の多
くがひとり親家庭で育ち、サポート体制が脆弱であること、貧困や精神的不安定、地域からの孤立な
ど、10 代親の実家も含めた家族が、深刻な問題を抱えており、行政支援に繋がりにくい、あるいは
拒絶している状況が明らかになった。
地域で暮らす 10 代親を対象とした今回の調査は、その対象者の個人情報の管理、限られた対象で
あるがゆえに、実態把握が非常に難しいものである。そのために、これまでも支援が必要と思われな
がらも、その実態把握と支援の方法について、十分に開発されてこなかったと言える。そこで、本研
究では、1 年間かけてA市との調整を行い、その調査方法を開発して、次のような継続的な「支援型」
調査が実現した。
①A市では、子育て支援課・保健センター・8 か所の地域子育て支援センターで母子健康手帳の交付
を行っているが、10 代妊婦が交付に来た際に、10 箇所全部の窓口で、市の担当者が調査の協力依
頼を行う。
②公共性と支援の継続を目的として、対象者の地区にある子育て支援センターをインタビュー場所と
する。地域の子育て支援につながりにくい 10 代子育て家庭が、保育所内に設置されている子育て
支援センターを知り、その後の利用や支援につなげることができると同時に、10 代親が、実際に様々
な月齢の子どもや母親の関わりなどを見ることができる。
③調査員は、助産師、保育士、小児科医、臨床心理士などの専門家であり、インタビュー調査の際に、
対象者の持つ課題や不安・悩み事を把握した場合は、それを放置せず、適宜支援をしながら調査を
進めていく。また、必要に応じて、行政支援につなぎ、危機対応も可能となります
④調査員が専用の携帯電話を持ち、妊娠や子育ての心配に対し、いつでも相談できる体制をとる。
調査開始までの流れは、母子健康手帳の交付窓口で了承が得られた協力者へ、調査員から電話をし、
再度、調査目的の説明をしたうえで、1 回目のインタビューの日程を調整し、調査の開始となる。
2009 年 9 月現在、母子健康手帳交付の際、そして、出産直後の 10 代の母親として、A 市から連絡
が入った人も合わせると、調査協力の了承が得られた 10 代親は全部で 8 人、うち 5 人(産後間もな
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い母親 2 人、妊婦 3 人)に対し、それぞれ 1 回から 3 回のインタビュー調査を行ったが、残りの 3 人に
ついては、1 度は了承が得られたものの、その後調査員から電話やメールをするなかで断られている。
A市が 4 か月と 10 か月に開催する、乳児健診を兼ねた親子の集まりにインタビューの日程を合わ
せることで、10 代親と他の親子との関わり方を観察することができ、一緒に参加したパートナーへ
のインタビューも実施できている。また、10 代親の参加率が低いこれら行政主体の健診や母親学級に、
参加を促す効果もあると考えている。
(上田美香)
4.母子生活支援施設・児童養護施設調査結果
東京都内母子生活支援施設への一次調査を実施した。東京都の母子生活支援施設 39 施設へ調査票
を送付 23 施設から回答を得た。回収率は 62%である。調査時期は平成 21 年 7 月~10 月である。調
査項目は ①過去 5 年間に 10 代で出産した母子の利用ケース②入所ケース状況(10 代)年度、母親
の年齢、子どもの年齢、入所期間、退所後の連絡・相談 ③第 2 次調査への協力の有無④ 10 代親へ
の自由記述となっている。母子生活支援施設への入所ケースは次のとおりであった。
年度
ケース数
17 年度
18 年度
7
19 年度
9
20 年度
8
21 年度
12
9
また、児童養護施設へも同様の一次調査を実施している。東京都と東京都が委託している児童養護
施設 59 施設、さらに東京都の乳児院 10 施設へ調査票を送付した。平成 22 年 1 月 1 日現在において、
17 の児童養護施設、2 施設の乳児院から回答を得ている。回収率は 32%となっている。調査項目は
①過去 5 年間に入所中児童を 10 代で出産した保護者の利用ケース②入所ケース状況(10 代) 年度、
母親の年齢、子どもの年齢、入所期間、退所後の連絡・相談③過去 5 年間に 10 代で出産した卒園生
への支援ケース④第 2 次調査への協力の有無⑤ 10 代親への自由記述となっている。
児童養護施設、乳児院支援している 10 代親のケースは次のようであった。
年度
17 年度
18 年度
19 年度
20 年度
21 年度
児童養護施設
13
7
8
12
13
乳児院
38
38
23
25
14
調査結果を受け、調査協力を得られた施設については、訪問調査を実施中である。
これまでの母子生活支援施設の訪問調査における調査結果を整理すると、現家族がいても支援が受
けられない 10 代親が増えていることはここ数年の特徴であり、10 代親自体は増加していないにも関
わらず、児童福祉施設への入所ケースの増加の背景には現家族の弱体化がある。また、乳児院、児童
養護施設、母子生活支援施設、婦人保護施設と一人が年代を経て断続的に利用する場合、また、施設
から施設へと連続した利用をする場合でも、施設間同士の連絡・連携が出来ずに、見逃してしまうこ
とも少なくないということがわかってきた。10 代で妊娠・出産した親に対しては何らかの特別な支
援が必要であるという実態が明らかになっている。今後は、インタビュー調査をすすめていき、これ
まで明らかにされてこなかった 10 代親への児童福祉施設における支援の実態を把握していく。
(若林ちひろ)
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