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銀行持株会社 - フィッチ・レーティングス

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銀行持株会社 - フィッチ・レーティングス
Financial Institutions
グローバル
銀行持株会社
セクター別格付基準
セクター別格付基準
本格付基準レポートは、フィッチ・レーティングス(フィッチ)が単独の法人としての銀行持
株会社に固有の性質や特性を分析し、また、銀行持株会社と事業子会社の格付の関係を検討す
る際に用いる手法を説明するものである。銀行持株会社の特性は国によって大きく異なり、ま
た、特定の状況のもとでは同じ国でも法人によって大きく異なることがある。法律、規制およ
び税制度は、大幅に異なる可能性がある。とりわけ規制に関する事項は銀行持株会社の分析に
おいて重要な役割を果たしており、これは規制を受けない事業法人の分析と異なる点である。
本格付基準レポートは、フィッチの 2011 年 8 月 16 日付格付基準レポート「Global Financial
Institutions Criteria」(フィッチのウェブサイト www.fitchratings.co.jp にて閲覧可能,、本レポ
ートと併せて参照されたい。)で説明した、分析上の検討事項を補完するものである。
これらの格付基準は、特定の事業体や債務証券にフィッチが格付を付与する際に考慮する要因
を明らかにしている。ただし、本格付基準レポートに含まれる格付要因のすべてが、個別の格
付または格付アクションに適用されるわけではない。個々の格付アクションにおける最も重要
な要因は、個別の格付アクション・コメンタリーや格付レポートで説明される。
銀行持株会社の
銀行持株会社の定義:本レポートにおける銀行持株会社には、銀行持株会社に加え、主たる子
会社であるか否かを問わず、銀行を保有する金融持株会社も含まれる。また、銀行が主要子会
社となっているケースをはじめとする、バンカシュアランス持株会社も含まれる。
関連格付基準
Global Financial Institutions Rating
Criteria(2011 年 8 月 16 日)
存続性格付の概要
(2011 年 7 月 20 日)
フィッチの銀行持株会社または金融持株会社の定義は、必ずしも法域または法規制上の定義に
基づくものではないが、いくつかの法域、特に米国では、規制上の枠組みがより大きな影響を
及ぼすことが多い。本レポートは、フィッチが銀行持株会社を分析する際の手法に加え、銀行
持株会社と子会社銀行または事業子会社の格付の関係を決める重要な要因について説明するも
のである。
格付を決定する重要な要因には、事業主体である銀行子会社との格付の相関、規制の枠組みと
市場の監視、組織の構造と事業内容、財務特性と業績などが含まれる。
アナリスト
North America
Julie Solar
+1 212 368-5472
[email protected]
Christopher D. Wolfe
+1 212 908-0771
[email protected]
EMEA
James Longsdon
+44 20 3530 1076
[email protected]
制約
事業の
事業の開示:
開示:銀行持株会社の格付は、財務情報やその他の情報の評価に基づくが、それらの情
報は、事業主体である銀行の連結財務情報に比較すると、データの堅固性や迅速性の面で劣る
ことがある。銀行持株会社の情報の中には定期的かつ適時に公開されているものもあるが、し
ばしば監査されておらず、公表されないものもある。
当該格付基準は、フィッチの上記、世界の金融機関の格付基準に関するレポートと「格付及び
その他の形態の意見に関する定義」(フィッチのウェブサイト www.fitchratings.co.jp で閲覧可
能)の中で強調されている一般的な格付の制約を織り込むとともに、それらの制約を補強する
ものである。
Latin America
Franklin Santarelli
+1 212 908 0739
[email protected]
APAC
Mark Young
+65 6796 7229
[email protected]
www.fitchratings.com/www.fitchrating.co.jp
2011 年 8 月 16 日
Financial Institutions
子会社と
子会社との格付の
格付の関係
フィッチが銀行および銀行持株会社に付与する長期発行体デフォルト格付(IDR)は、デフォ
ルトの蓋然性を示し、存続性格付(VR)は破綻の蓋然性を示す。フィッチは、IDR と VR は
同一グループ内の事業体においては極めて類似する場合が多く、特に高い格付が付与されてい
る企業においてその傾向は顕著であると考えている。以下のセクションで説明する要因の分析
に基づけば、銀行持株会社の IDR、VR および一般債務の格付は、事業子会社の格付と同等に
なるかノッチダウンされる。ほとんどの場合、主たる銀行子会社の VR が、銀行持株会社レベ
ルの格付を付与する際のベンチマークとなる格付になる。VR について詳しくは、フィッチの
2011 年 7 月 20 日 付 レ ポ ー ト 「 存 続 性 格 付 の 概 要 」 ( フ ィ ッ チ の ウ ェ ブ サ イ ト
www.fitchratings.co.jp で閲覧可能)を参照されたい。
投資適格水準の格付の場合、銀行持株会社において慎重な経営がなされ、適切な流動性が維持
されていれば、銀行持株会社の IDR は主たる銀行子会社の IDR と一致することが多いとフィ
ッチはみている。比較的脆弱な企業、および/または、経営管理体制が相対的に脆弱な銀行持
株会社では、IDR は主たる銀行子会社からノッチダウンされる場合がある。
投資適格水準の格付の場合、ノッチ差が生じるとしても、通常 1 ノッチに限られる。銀行持株
会社が財務面で困難な状況にある場合、銀行持株会社の格付は、子会社の財務悪化の影響を受
けやすい。これは、一般に銀行持株会社は債務の返済に際して、子会社からもたらされる配当
に依存しているためである。したがって、銀行持株会社のデフォルトまたは破綻の可能性につ
いてのフィッチの見解によっては、銀行持株会社がさらにノッチダウンされる場合もある。子
会社の配当支払能力の欠如や、親会社から銀行子会社への資金提供の必要性もノッチダウンに
つながる可能性がある。しかし、銀行持株会社の債務が常に銀行子会社の債務よりもリスクが
高いわけではなく、個々の状況や特定の債務にかかる固有の事情によるところが大きい。
格付に
格付に影響を
影響を与える要
える要因
a
VR/
/IDR が銀行の
/IDR と一致する
銀行の VR/
一致する可能性
する可能性がある
可能性がある持株会社
がある持株会社の
持株会社の特質の
特質の例:
持株会社に対する実効性のある連結ベースの監督と執行体制が存在する。
持株会社の流動性が慎重に管理されている。
銀行子会社および銀行以外の子会社の業績が安定している。
資本市場に対する、継続的または良好なアクセス(定期的に資金調達を行っている場合)。
低水準の、または適度のダブル・レバレッジ。
銀行持株会社と子会社の間に正式かつ法的拘束力のある保証が存在する。
VR/
/IDR が銀行の
銀行の VR/
/IDR と一致しない
一致しない可能性
特質の例:a
しない可能性がある
可能性がある持株会社
がある持株会社の
持株会社の特質の
持株会社に対する連結ベースの監督と執行体制が存在しない。
持株会社の流動性が適切に管理されていない。
主たる銀行子会社の業績が悪化または低迷している。
銀行から持株会社への配当に対する制限または現行の規制上の制限が強化される見込みがある。
主要子会社に特定の最低資本および/または流動性要件を課すという規制当局の合意がある。
規制当局が銀行レベルの債権者保護のみを重視している。
ダブル・レバレッジが、債務支払コストの負担が大きいことを示唆する水準にある。
a
上記はすべての要件を網羅しているものではなく、また、格付が同一水準になる、またはノッチダウンされるために、すべての特質が満たされる必要があるわけではない。
注:上記の表は、債券格付のノッチングに影響を与える回収見通しに関するフィッチの見解を反映したものではない。フィッチは、持株会社の債権者の損失率は、構造的・法的・資産上の劣後性のためにより高いも
のとなる可能性があるとみており、かかる点は債券格付に織り込まれるだろう。
投資適格水準にある一般債務の格付については、デフォルト時の回収可能性よりも債務不履行
の蓋然性の方が重視される。そのため、一般債務の格付においては、銀行持株会社と銀行子会
社の格付が一致することが多い。しかし、とりわけ銀行持株会社がその債務支払いについて子
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会社からの将来の配当支払能力に直接依存している場合、一般債務格付のノッチングが慎重に
検討されることになる。IDR が投資適格だが低位の水準、または非投資適格水準にある銀行持
株会社の場合、フィッチは、デフォルト時の回収可能性により比重を置いて評価を行うため、
こうしたグループの銀行持株会社の債務は、IDR からのノッチ差がさらに大きくなる可能性が
ある。
規制の
規制の枠組みおよび
枠組みおよび市場
みおよび市場の
市場の監視
フィッチの銀行持株会社の分析では、まず規制の枠組みを評価し、その枠組みにおける重要な
目的を確認する。例えば、銀行レベルの預金者保護が規制の唯一の焦点なのか、それともより
広範な連結ベースの事業体の財務状況が問題になるのか、といった点である。個別の状況また
はシステム全体がストレスにさらされているといったいずれのケースにおいても、支援を提供
するに際してより合理的であるといった観点から、規制の枠組みは、単に預金者保護というこ
とよりも、より広い見地から行われていると考えられる。このことは、とりわけ子会社銀行以
外の事業が金融システムにとって重要である場合にいえる。
フィッチは、銀行持株会社の分析が、連結ベースでの統制を有しない他の事業持株会社の分析
と異なっているのは、持株会社レベルで実効性のある規制が存在することによると考えている。
特定の法域が包括的な規制の枠組みを有しているか否かは主観的な判断に依拠しており、過去
のストレス局面で規制当局がどのような対応をとったかに加え、銀行持株会社に関する法律と
規制の施行など、種々の要因に基づいて検証されることになる。規制当局が、銀行持株会社と
銀行を連結ベースでみているとフィッチが判断した場合、銀行持株会社の格付と銀行の格付は
同一になる可能性がある。これは、連結ベースで監督される場合、銀行持株会社と銀行との間
に、デフォルトの蓋然性に関して強い相関があると思われるためである。しかし、フィッチが
規制当局の重要な目的が銀行の存続にあると判断した場合、銀行持株会社の IDR は銀行子会
社よりも 1 ノッチ低くなる可能性がある。
銀行持株会社に関する包括的な規制の枠組みが存在するか否かについて、フィッチは規制当局
が有する権限を考慮に入れる。規制当局の権限としては以下の点が挙げられるが、これに限ら
れるわけではない。
• 銀行持株会社についての特別法および規制
• 銀行持株会社に適用される、明示的な規制上の最低資本要件
• 銀行持株会社の財務諸表について、別途、登録および公表を要請すること
• 銀行持株会社と、銀行およびその他の子会社・関連会社との間の取引に関する統制
• 銀行持株会社レベルの役職員を承認および解任する権限
• 銀行持株会社の配当、自社株買いの承認または差し止め
• 銀行持株会社を管財人の管理下、保全管理下、またはその他破綻処理手続下に置く権限
組織構造および
組織構造および事業
および事業内容
事業内容
フィッチは、規制を受ける持株会社に認められる事業の範囲を考慮に入れている。これは、か
かる事業が銀行子会社では認められない可能性があるからである。銀行子会社の事業と大きく
異なる事業に銀行持株会社が参入することができる場合、こうした柔軟性が経済面や収入面で
の多様性をもたらす可能性があり、格付のプラス要因となる。一方で、新たな、異なるリスク
が生じることがあるが、それはしばしばマイナスの格付要因になる。フィッチは、銀行持株会
社自体と銀行以外の子会社の事業内容やリスクを十分に理解することに努めている。
フィッチの分析における重要な検討項目には、銀行持株会社および連結グループ内の様々な子
会社の構造上の複雑さの程度が含まれる。かかる構造上の複雑さは、多くの場合、合法的なビ
ジネス上、法律(法域)上または税制上の理由によって生じる。フィッチは、会社やその中核
事業の性質に関連して、複雑さの程度を検証する。経営陣は、個々のリーガル・エンティティ
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ーの必要性を説明する能力と意思を持つべきである。合理的な事業目的が存在せず、また、経
営陣が事業目的を十分に理解していない場合、一般的に格付のマイナス要因となる。なお、フ
ィッチは企業の全体像をより明確に把握するべく、連結ベースの財務諸表の評価も行っている。
子会社が銀行持株会社の完全子会社ではない場合にも、複雑さの程度は高まる。この場合、フ
ィッチは少数株主持分がどのような性質のものであるか、またその重要性が高いと判断される
場合には、持分の背後にある目的や制約について考察する。銀行持株会社の重要な少数株主が、
銀行持株会社の行為や、事実上、持株会社と事業子会社の相互関係に影響を与える可能性があ
る。銀行持株会社の格付に少数株主が与える影響は個別のケースごとに評価することとなり、
影響は中立的、プラス、マイナスのいずれのケースもある。
財務内容
多くの銀行持株会社の単体バランスシートは極めて単純な構成となっており、収益源も限定的
である。銀行持株会社の主たる機能がグループ全体の資金調達の円滑化にある場合、短期およ
び長期の負債が大きな比重を占めることが考えられる。適切にリスクを評価し IDR および/
または VR を付与するためには、銀行持株会社を単体ベースで分析する必要がある。以下のセ
クションは、主に親会社単体の財務諸表について述べたものである。
バランスシート
多くの銀行持株会社のバランスシートは、ごく少数の勘定科目で構成されている。典型的な例
として、資産サイドで最も重要な勘定科目は銀行持株会社による子会社への株式投資、すなわ
ち出資(通常、子会社株式として計上される)である。フィッチは、銀行その他の規制対象子
会社への出資と、規制対象外の子会社への出資を区別している。
通常、銀行など規制対象子会社への出資は規制下にあり(この場合は、銀行監督当局による規
制)、銀行が資本を銀行持株会社に返還することや、さらには当該資本に対して配当を支払う
ことについても制約がある。規制対象外の子会社への出資には、通常、規制上の制約は課され
ない。しかし、規制対象外に分類される子会社は極めて多様であり、幅広い事業内容が含まれ
る可能性がある。銀行持株会社の出資が規制対象外の子会社に対するものである場合、当該子
会社による資本の銀行持株会社への環流は、規制対象法人、とりわけ銀行に対する出資である
場合に比べ、しばしばより柔軟に行うことができる。
様々な子会社への出資とは別に、銀行持株会社は、一部またはすべての子会社に対し、貸付金
を持っている場合がある。分析上、出資と貸付金の区別は極めて重要であり、とりわけ銀行が
財務面で困難な状況に直面した場合、規制当局がまず銀行の資本を保護しようとする法域では
そういえる。こうした状況では、銀行による銀行持株会社への配当支払いを当局が容認しない
可能性が高い。一方、一般的にストレス局面であっても当局は銀行が引き続き債務を履行する
ことは認めるので、銀行は銀行持株会社に対して負債の利息支払いを継続するだろう。銀行持
株会社の利益を分析すると、子会社からの配当金と貸付金利息が主な収益源となっていること
が多い。さらに、銀行持株会社は、グループ内の貸付金を株式に転換することで、銀行の資本
不足に対処できる場合もある。
現金および現金同等物は銀行持株会社資産の重要な構成要素であり、その中にはしばしば銀行
子会社に預けられている預金が含まれる。現金および現金同等物と市場売却が容易な有価証券
の試算は、銀行持株会社の負債の利息支払い、満期償還および株主配当に要する現金必要額と
の対比で検証される。フィッチは銀行持株会社の現金に関して限定的な基準は設けていないが、
資本市場で定期的に資金調達を行っている高格付の銀行持株会社の多くは、通常の市場環境下
では最低でも現金必要額の 12 カ月分に相当する額(それ以上の場合も多い)を、現金、現金
同等物および/または市場売却が容易な有価証券によって手当てしており、ストレス期や市場
の不確実性が高まった局面においては、それ以上の流動性を維持している。強固な流動性のク
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ッションが維持されていることは格付のプラス要因であるが、この要因は、銀行持株会社から
子会社への資金供給の可能性を通じ、脆弱な子会社からのマイナス影響によって相殺される可
能性がある。
バランスシートの負債サイドについて、銀行持株会社と銀行の最も顕著な違いは預金の有無で
ある。銀行持株会社は預金受入金融機関ではないため、負債サイドは通常、短期債務、長期一
般および劣後債務、優先株式、ハイブリッド証券、普通株式などから構成されている。いかな
る調達の分析においても、負債の種類とコスト、満期構成、元利返済方法が重要な検討項目と
なる。
損益計算書
多くの場合、銀行持株会社は事業体の所有者となっているだけで、持株会社自体が事業に従事
することはない。したがって、一般に銀行持株会社の利益の大部分を、子会社の配当が占めて
いる。子会社は主として銀行であり、銀行持株会社はそれら子会社の主要株主または唯一の株
主である。銀行持株会社の収入には、相対的に少額であるものの、投資ポートフォリオの利息、
配当、実現益、および子会社のからの貸付金利息も含まれる。
多くの場合、銀行持株会社は事業子会社のために特定の業務(データ処理、経理、IR 等)を
遂行している。銀行持株会社は当該業務にかかる費用を負担するため、子会社にマネージメン
ト・フィーを請求するが、一般にマネージメント・フィーは比較的少額である。フィッチは、
フィーが極めて多額であったり、急激に上昇したりしている場合、財務にストレスが増してい
る兆候とみている。銀行持株会社は、子会社からの配当を除くと、同期間の支払利息を利益で
賄うことができない。しかし、銀行持株会社に銀行からの配当とは別に安定的な収入源がある
場合、多額の流動資産を維持する必要性が軽減され、プラス要因となること考えられる。
キャッシュ・
キャッシュ・フロー
銀行持株会社の評価を行ううえで、持株会社のキャッシュ・フローの性質と持続可能性につい
て理解することは極めて重要である。銀行持株会社の負債にかかる支払いが、持続可能な収入
に裏打ちされたキャッシュ・フローで十分賄えることは、格付にとってのプラス要因である。
一般に、銀行持株会社の利益の大部分は、子会社からの配当である。銀行子会社が健全であれ
ば、持株会社にアップストリーム可能な利益の最適配分を柔軟に決めることが可能であるケー
スが多い。国によっては、銀行が一定の水準以上の配当を支払うことが規制により制限されて
いる場合や、配当の支払いに規制当局の承認が必要とされる場合がある。こうした制限は銀行
持株会社の IDR にとってマイナス要因になる場合があり、とりわけ子会社または銀行セクタ
ー全体が財務面でストレスにさらされた局面ではそうである。
銀行持株会社が保守的に運営されている場合、持株会社のすべての負債およびハイブリッド証
券にかかる支払いと、普通株式配当のために必要なキャッシュは、一般に子会社の利益の一部
にとどまるだろう。したがって、経営陣はグループ内のどのリーガル・エンティティーに余剰
資本を保有させるべきかを決定することになる。この決定はしばしば、個々のリーガル・エン
ティティーの税務上の法域、各事業部門の成長可能性(オーガニック成長、または買収を通じ
た成長)、自社株買いや債務の期限前償還の見込みなど、様々な要因に基づいて行われる。
一般事業会社の分析にしばしば使用される固定費用カバレッジなどの指標は、財務が健全な銀
行持株会社の分析ではほとんど意味をもたない。銀行持株会社の利益は、その費用を上回る水
準の現金および流動性をどこに置くか(すなわち、銀行子会社のうちのひとつまたは持株会
社)といった経営陣の決定によって、大きく増減する可能性があるためである。財務の柔軟性
を測定する指標としてより有用であるのは、規制対象の子会社レベルでの配当余力である。配
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当余力が低いと考えられる場合、または規制当局の介入を受ける場合、銀行持株会社の IDR
にとってはマイナスになる可能性がある。
ダブル・
ダブル・レバレッジ
ダブル・レバレッジは一般に子会社への出資(これに銀行持株会社の無形資産を加える)を親
会社の自己資本で除したものと定義され、銀行持株会社のレバレッジのシグナル指標としてよ
く利用されている。この比率は、子会社の自己資本のうちどの程度が、銀行持株会社の負債で
賄われているかを測定するものである。かかる評価は、主たる子会社が銀行であり、銀行であ
れば銀行持株会社への配当支払いや資本還流が規制によって制限される、との認識に基づいて
構築されている。
規制対象外の子会社に出資している場合、ダブル・レバレッジは潜在的なキャッシュ・フロー
の制約を誇張してしまう可能性があるが、かかる場合においても、銀行持株会社の負債が他の
リーガル・エンティティーの資本に投資されている程度を示唆している。また、銀行持株会社
の負債のうち、子会社に貸し出されたものはダブル・レバレッジに含まれないが、その理由は、
銀行レベルでの負債に対する支払いについては一般的に規制当局の承認を必要とせず、定形的
な制限の対象ではないためである。フィッチはダブル・レバレッジについて、入手可能な情報
に応じていくつかの方法でみており、複数の定義を使用している。ダブル・レバレッジを計算
するうえでの選択肢としてはさらに、分母に普通株主資本のみを算入する方法や、銀行持株会
社レベルで発行されたハイブリッド資本も分母に追加する方法などがある。
ダブル・レバレッジが高水準、例えば、普通株主資本ベースのダブル・レバレッジが 120%以
上である場合、銀行持株会社のキャッシュ・フローの相当部分が規制による制限を受けること
になる点を踏まえると、銀行持株会社の負債がかなりの負担を伴う水準にあることを示唆する
可能性がある。しかし、銀行持株会社が財務面で健全であり、高い財務の柔軟性を有している
状況において、ダブル・レバレッジが当該水準を超えるケースもある。例えば、子会社株式の
多くが規制を受けない子会社への出資であり、銀行持株会社への還流が容易な場合、または当
該事業子会社が極めて強固な資本基盤を有している場合は、子会社による親会社への配当のア
ップストリームが可能であり、資本の移動の制約についての懸念は大幅に緩和されるだろう。
ダブル・レバレッジは、予想キャッシュ・フロー・カバレッジと結びつけて検討される。キャ
ッシュ・フローが限定的またはゼロであり、さらに流動資産も低い水準であれば、ごく低水準
のダブル・レバレッジでも過剰となる可能性がある一方、磐石かつ多様なキャッシュ・フロー
を有し、潤沢な流動性が維持されていれば、かなり高い水準のダブル・レバレッジであっても
許容される場合がある。ダブル・レバレッジが、負債の支払負担が極めて重いことを示唆する
水準にある場合、銀行持株会社の格付にとってマイナスの格付要因となる。
流動性の
流動性の管理
適切に経営管理されている銀行持株会社では、必要に応じた綿密な流動性管理プランが策定さ
れている。流動性管理プランは、銀行持株会社が管理の対象とする、標準的なパフォーマンス
指標を織り込んだものであり、事業の柔軟性を維持するうえで十分に余裕のある、かつ経営上
層部に対する早期の警告を可能とする保守的な指標水準を設定しているはずである。
さらに、危機管理計画(コンティンジェンシー・プラン)が策定されている場合、またはスト
レス・シナリオのシミュレーションが行われている場合には、経営陣の方針や慎重さ、さらに
は財務上のオプションなどを理解するうえで強力な手掛かりとなる。オプションや行動計画に
含まれるものとして多いのは、事前に設定されたクレジット・ラインの使用、子会社貸付金の
銀行持株会社への返済、有価証券の売却、規制対象外の子会社からの資本回収、さらには土地
建物またはその他の固定資産の売却(またはセール・リースバック契約)などである。銀行持
銀行持株会社
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株会社の流動性に関する綿密なプランが策定されており、特に銀行持株会社が当該プランに継
続して忠実であることが示される場合には、格付のプラス要因となる。一方、プランが存在し
ない場合はマイナス評価につながる。
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(本レポートの英語版は、「Bank Holding Companies」として公表されています。
分析内容に関するご質問・ご不明の点は、上記の担当アナリストにお問い合わせく
ださい。)
フィッチの全信用格付は、所定の制約及び免責の対象となっています。弊社ウェブサイトから当該制約及
び免責事項をご覧ください(www.fitchratings.co.jp :「格付の定義」>「信用格付を理解する:利用と制
約」)。さらに、格付の定義及び利用規約は弊社のウェブサイト www.fitchratings.co.jp に掲載されていま
す。公表された格付、格付基準、格付手法も同サイトに常時掲載されています。フィッチの行動規範、守
秘義務、利益相反、関連会社間のファイアウォール、コンプライアンス及びその他の方針・手続等も
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覧いただけます。
著作権Ⓒ2011 年フィッチ•インク、フィッチ•レーティングス・リミテッド及びその子会社(One State Street Plaza, NY, NY10004)。
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本資料の一部又は全部を、フィッチの同意を得ることなしに複製又は頒布することは許されません。すべての権利は留保されています。格付
を付与し維持するうえで、フィッチは、発行体、引受会社及びその他フィッチが信頼に足ると判断する情報源から入手する、事実に関する情
報に依拠しています。フィッチは、格付方法に則り依拠する事実に関する情報について、合理的な範囲での調査を行い、当該証券に関して又
は当該法域において利用可能な範囲内で独立した情報源による合理的な検証を行います。フィッチにおける事実に関する調査の方法及びフィ
ッチが利用する第三者による検証の範囲は、様々な要因により異なります。その要因とは、格付対象証券とその発行体の性質、当該証券が募
集・販売される、かつ/又は、発行体が所在する法域における要件及び慣行、関連がある公開情報の入手可能性及び性質、発行体の経営陣及
びその助言者へのアクセス、監査報告書・「合意された手続」に基づく報告書・鑑定評価書・アクチュアリアルレポート・エンジニアリング
レポート・法律意見書・第三者によるその他の報告書等第三者による既存の検証の利用可能性、当該証券に関して、又は、発行体が属する法
域において十分な能力を有する独立した第三者による検証の利用可能性等です。フィッチの格付利用者は、事実に関する調査の強化又は第三
者検証のいずれによっても、フィッチが格付に関して依拠する情報のすべてが正確かつ完全であることを確保することはできないことを、理
解すべきです。発行体及びその助言者は、募集書類及びその他の報告書によりフィッチ及び市場に提供する情報の正確さについて最終的な責
任を有します。フィッチは格付の付与にあたり、財務諸表等に関しては独立監査人、法務・税務に関しては弁護士といった専門家が任務を果
たすことに依拠しなければなりません。さらに、格付は本質的に将来を見据えたものであり、事実として検証できない将来の事象に関する仮
定や予測を含みます。その結果、格付は、現時点の事実を検証するにもかかわらず、格付付与又は据置時に予想されない将来の事象や状況に
影響されることがあります。
本資料に記載された情報は、いかなる表明又は保証もなしに「あるがまま」に提供されるものです。フィッチの格付は証券の信用力に関する
当社の意見です。この意見は、フィッチが継続的に評価・更新している既定の格付基準及び手法に基づいています。従って、格付はフィッチ
の集合的な成果物であり、個人又は個人からなるグループが、単独で格付に対する責任を負うものではありません。特別に言及されない限
り、格付は信用リスク以外の要因によって生じる損失のリスクを含意するものではありません。また、当社はいかなる証券の販売又はその勧
誘も行いません。フィッチのすべてのレポートは、共有著作物です。フィッチのレポート上に記された個人は、レポート内で公表された意見
に関わっていますが、単独でその責任を負うものではありません。照会先としての目的のためにのみ個人名が記載されています。当社の資料
は、発行者及びその代理人が投資家に対する証券の販売を目的として収集、検証、提供した情報を代替するものではなく、また目論見書でも
ありません。格付は、今後いつでも理由を問わず、変更又は取り下げられることがあります。フィッチはいかなる場合も投資助言を行いませ
ん。格付は、証券の購入、売却又は保有の推奨ではありません。格付は、市場価格の妥当性、特定の投資家への適合性又は証券に関する課税
上の取り扱いに言及するものではありません。当社は証券の格付に関し、発行者、保険者、保証者、その他債務者又は引受会社から格付手数
料を受領しています。手数料は、一件の発行案件に対して 1 千米ドルから 75 万米ドル(米国以外の通貨に関しては、当該国通貨に換算した
額)の範囲内であることが一般的です。また、当社は年間一括手数料を受領し、特定の発行者による発行案件や、特定の保険者又は保証者に
よる保険、保証対象となる発行案件の全部又は一部について格付することもあります。その場合の手数料の金額は 1 万米ドルから 150 万米
ドル(米国以外の通貨に関しては、当該国通貨に換算した額)の範囲内となることが予想されます。当社は、格付の付与、公表又は情報の提
供を行うことにより、米国証券法、2000 年英国金融サービス市場法又はその他の法域における証券法に基づいて作成される書面における専
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銀行持株会社
2011 年 8 月 16 日
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