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火力発電以外で進む天然ガスシフト - プラスチック材料、肥料 -

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火力発電以外で進む天然ガスシフト - プラスチック材料、肥料 -
作成日: 2013/2/5
石油調査部: 伊原 賢
公開可
火力発電以外で進む天然ガスシフト
- プラスチック材料、肥料 (JOGMEC 石油調査部・総務部、日刊工業新聞社)
天然ガスに関わる企業は、ガスタービン・コンバインドサイクル発電やシェールガス開発といったように
発電や資源の分野で攻勢を強めていくことが予想されるが、天然ガスの利用法はなにも火力発電だけ
ではない。
本資料では、天然ガスの発電以外の利用法として、有望と思われる「プラスチック原料」と「肥料」の動
向を見ていく。
1. はじめに
21 世紀に入って、脚光を浴びるようになったシェールガスによる天然ガスの大供給余力を背景に、
天然ガスの利用技術の普及が望まれている。
水平坑井(こうせい)や水圧破砕といった技術の飛躍的な進歩により、シェールガスに代表される膨
大な量の非在来型の天然ガスを取り出せることが明らかとなり、世界の天然ガスの可採年数は 60 年か
ら、少なくとも 160 年を超えるのは確実になった。天然ガスの供給余力が高まると、その利用も熱を帯
びてくる。
2011 年の福島第一原発事故後、二度と深刻な放射線汚染は許されないし、また CO2 の排出も国際
的責務として長期的に削減する必要がある。再生可能エネルギーによる発電コストは現在のところまだ
高い上、天候によって発電量や電圧が大きく変動する「出力が不安定」という問題を抱える。これから
の電力の選択は、安全性を確認した原子力発電、化石燃料、再生可能エネルギーなど、各々に欠点
のある選択肢をうまく組み合わせて、各面での不都合が大きくなりすぎないように工夫しながら何とか
やりくりするしかない。その中で一番大きな貢献ができそうなのが天然ガスを利用した火力発電であ
る。
一方、天然ガスを原料とする産業は日本国内ではまだ皆無と言ってよい状況であるが、プラスチック
原料と肥料にその有望性を見出す動きが出て来た。
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Global Disclaimer(免責事項)
本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)石油調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に
含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何ら
かの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一
切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
2. プラスチック材料
2-1. 米国でエチレンプラントの新設が相次ぐ
北米のシェールガス価格は3 ドル/100万Btu (100万Btu = 25.2万kcal)程度と安価に推移しており、
天然ガスを原料としたエチレンやプロピレンといった化学製品の製造プラントの建設計画が進んでい
る。
アジア諸国、欧州地域は、原油を原料として用いて、石油精製工業において精製されるナフサ、もし
くは輸入ナフサを石油化学工業の原料としている。その一方、米国では、国内に存在する天然ガスに
含まれるエタンやプロパンから、エチレン、プロピレン、BTX(ベンゼン、トルエン、キシレン)留分とい
った石油化学基礎製品を製造している(図1)。
図1 石油化学製品の製造
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に含まれるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、
何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果につい
ては一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げ
ます。
米国におけるエチレンの製造コストは、エタンの原料コストが全体の5~6割を占めているため、シェ
ールガス増産による天然ガス由来のエタンの原料価格は原油由来のナフサの原料価格よりも大幅に
安値となり、エチレン製造の大幅なコストダウンにつながり、米国石油化学の国際競争力の向上にもつ
ながると期待されている。石油メジャーのシェルは東部のマーシェラスシェールガス田のエタンを利用
するエチレンプラントの新設を発表し、ダウ・ケミカルもメキシコ湾岸でエチレンプラント新設を発表して
いる。
表1、表2に北米における新規増設エタンクラッカー計画と新規増設の天然ガス液(NGL)分留プラン
ト計画を示す。NGL からエタンを回収するプラント、そのエタンからエタンクラッカーでエチレン・プロ
ピレンを生産するプラントの建設計画が多数あることがわかる。
表1 北米の新規増設エタンクラッカー計画
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何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果につい
ては一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げ
ます。
表2 米国の新規増設NGL分留プラントの計画
図2、図3に北米におけるエチレンおよびプロピレンの2011年末時点の生産実績と予測を示す(予測
は2012、2016 年)。エチレンクラッカー増設によりエチレンの生産は増加する見込みである。その一方、
原料の軽質化によって、エチレンクラッカーからのプロピレン生産は減少が予想されている。また、
FCC(Fluid Catalytic Cracker:流動接触分解装置)からもプロピレンが生産されるので、製油所からの
プロピレン生産は現状維持と仮定しているが、製油所の稼働が落ちるとプロピレン生産はさらに減少
することになる。
図2 北米のエチレン生産実績と予測
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何らかの投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果につい
ては一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げ
ます。
図3 北米のプロピレン生産実績と予測
2-2. エチレンプラントの工程
エチレンプラントは、熱分解工程(ホットセクション)と分離精製工程(コールドセクション)よりなる(図
4)。熱分解工程では、原料炭化水素と水蒸気の混合物を加熱炉内の反応管に導入しバーナーによっ
て管の外側から加熱する。分解反応は「無触媒ラジカル反応」であり、反応温度は750~900 ℃、反応
時間は0.1~1 秒程度である。
ナフサ
天然ガス C2+
図4 エチレンプラントの工程
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ては一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げ
ます。
ナフサや天然ガスのC2+の炭化水素を熱的に分解すると結合は遊離基(ラジカル)的に切断され、
以後の反応はラジカル反応として進行する。熱分解反応が高温で実施されるのは、エチレンやプロピ
レンなどの有用な低級オレフィンの精製に化学平衡上有利な反応条件となるためである。ナフサなど
の高温熱分解反応ではエチレンの生成が主となり、その他、プロピレンなどの低分子量オレフィン、低
分子量パラフィンが生成される。これは、直鎖状パラフィンの熱分解で生成する炭素ラジカルのβ切断
が高温下で早く起こるためである(図5)。
図5 エチレンの生成
なお、触媒を用いると、エチレンよりもプロピレンが多くでき、また、異性化による枝分かれ構造のオ
レフィンが出来てしまい、石油化学基礎製品としては好ましくないものとなる。したがって、ナフサや天
然ガスのエタンなどを高温で熱分解し、できるだけ直鎖のオレフィンを収率良く生産する方法が採られ
る。反応生成物は熱交換器によって急冷され、分離精製工程に導かれる。
分離精製工程では主として蒸留によって反応生成物を分離する。エチレンの蒸留精製においては、
水素、メタン、エチレン、エタンなどの混合物を液体にするために高圧・低温の運転条件となる。蒸留
以外には、各種不純物除去、アセチレンなどのアルキン(CnH2n-2)をアルケン(CnH2n)に転換する
ための水素添加、ブタジエンを精製するための溶媒抽出などの処理がなされる。代表的な方法として、
ストーンアンドウエブスター(Stone&Webster)法やルーマス(Lummus)法がある。
なお、GTL(天然ガスからの液体燃料化)プラントからは、硫黄分や芳香族を含まない直鎖状のナフ
サが取れるため、エチレンプラントの良質な原料として期待されている。
3. 肥料
3-1. 肥料として需要の高まるアンモニア
天然ガスの利用は石油化学にとどまらない。天然ガスからアンモニア製造を行う動きがある。アンモ
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ます。
ニアは窒素肥料(尿素、硫安、塩安、硝安)の原料となる。
図6に北米における肥料(窒素、リン、カリウム)の需要を示す。米国農務省のデータによれば、リンと
カリウムの需要は過去20 年間フラットであるのに対して窒素は上昇している。
図6 北米における肥料の需要
窒素肥料は天然ガスと窒素から作られ、リンとカリウムは鉱山採掘から得ることができる。現在、天然
ガスはシェールガス開発による増産で原料ガス価が安価になっているが、製品の肥料価格は比較的
高止まりしており、肥料製造の事業環境は良好な状態と思われる。その一方、今後、米国のシェール
ガスがLNGによって輸出され、また輸送燃料として使われ天然ガス価格が上昇すれば、窒素肥料製造
事業にはマイナスとなる。
現在、全世界のアンモニア生産量は約1 億5,000 万t 程度であり、年率3~4%以上の需要増加が
見込まれる。特に食糧危機が危惧されるアジア、中南米、アフリカでのアンモニアの需要増が見込ま
れている(図7)。
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図7 世界のアンモニアの生産動向
価格も173 ドル/t(2009 年6 月) から305 ドル/t(2010 年2 月)と上昇した。このうち、8割が肥料の
原料であり、2 割が合成樹脂や繊維の製造に使われている。逆に日本は9 割が工業用である。
アンモニアプラント1,000t/日=GTL2,100BPD(バレル/日)とすると、アンモニア300 ドル/t はバレ
ル換算で140 ドル/バレル となり、例えば、天然ガスから石油製品価格同等以上の価格帯で販売でき
ることになる。
3-2. アンモニアの製造工程
天然ガスを原料としたアンモニアの製造工程を図8に示す。
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図8 天然ガスを原料とするアンモニアの製造プロセス
① 水添脱硫工程
原料の天然ガス中の硫黄分は改質触媒を被毒するため、除去する。
② 改質工程
天然ガスを改質(reforming)して、水素と一酸化炭素を製造する。この工程は一次と二次の2 段で行
われる。一次改質では天然ガスと水蒸気から、水蒸気改質反応により水素と一酸化炭素が製造され
る。
CH4+H2O ⇔ 3H2+CO
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反応条件:反応圧力3MPa、反応温度800 ℃、Ni 系触媒
これに生成水素量に対応する窒素分の空気が加えられ、2 次改質が行われる。
CH4+2O2 → CO2+2H2O
触媒:クロム、ニッケル系触媒
ここでは残CH4 の8 %が0.1 %程度まで低下する。
③ CO 転化工程
炭素分を除去するため、まずCO をCO2 に転化する。
CO+H2O → H2+CO2
2 段で転化反応が行われる。最終的には残CO が4 %程度から0.1 %程度となる。
1 段(高温):Fe-Cr 系触媒、反応温度:350~500 ℃
2 段(低温):Cu-Zn 系触媒、反応温度:200~250 ℃
④ 脱炭酸(CO2 除去)工程
炭酸カリ水溶液による反応吸収操作により、CO2 を出口濃度0.1 %まで除去する。工業的にはCO2
を尿素の原料として純度98 %以上で再生する。
⑤ メタネーション工程
残CO はアンモニア合成触媒を被毒するため、10ppm 以下に除去する必要がある。そこで水素と反
応させ、CH4 に転換する。これをメタネーション反応という。
CO+3H2 → CH4+H2O
反応条件:310 ℃、ニッケル系触媒
⑥ 合成ガス圧縮工程
ここでの合成ガスは、H2:N2=3:1 のガスであり、残りはメタンおよびアルゴンが1 %程度含まれる。
圧縮機で2.5MPa から合成に必要な圧力20MPaに昇圧される。
⑦ アンモニア合成・冷凍工程
N2+3H2 → 2NH3
反応条件: 反応圧力20MPa、反応温度500 ℃、鉄系触媒(主成分:酸化鉄Fe3O4)
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ては一切責任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げ
ます。
反応器出口ガスは熱交換器で-20 ℃まで冷やされ、合成されたアンモニアを凝縮分離する。アン
モニア合成工程に供給された反応成分以外のCH4、Arなどの成分はパージガスとして抜き出され、同
伴アンモニア、水素ガス成分が分離回収された後、燃料ガスとして使用される。
<参考資料>
・
・
JOGMEC 石油天然ガス資源情報「天然ガスの供給余力で変わる産業構造、生まれるビジネス」、2012 年 7
月 11 日、伊原賢
日刊工業新聞社「天然ガスシフトの時代」、2012 年 12 月 25 日、伊原賢 末廣能史
以上
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