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アジアの人材を活かした福岡市のまちづくり

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アジアの人材を活かした福岡市のまちづくり
アジアの人材を活かした福岡市のまちづくり
アジアの人材を活かした福岡市のまちづくり
――ダイバーシティの推進に向けて―
ダイバーシティの推進に向けて ―
NAKAMURA
中村 由美 中村 由美 Yumi
Yumi NAKAMURA
(公財)福岡アジア都市研究所 研究員
(公財)福岡アジア都市研究所
研究員
要旨:1980 年代より、福岡市はアジアと連携し、アジアの活力を取り入みながらまちづくりを行っ
てきた。近年、アジアの人々の往来が活発化しており、福岡市とアジアの連携が強まっている。特
に、留学生の増加に見られるように、20 代から 30 代という若い人々が福岡市に集まっており、ま
ちに新たな活気をもたらしている。東南アジア諸国等では、将来的にも生産年齢人口の増加が見込
まれる。加えて、各国の発展戦略の柱の一つに人材育成を据えていることに鑑みても、高等教育を
受けたアジアの豊富な人材が今後も福岡市に集積する可能性がある。海外人材を呼び込むための方
策を通じて、多くのアジアの人々を惹きつけ活用することで、福岡市はダイバーシティを実現し、
今後益々活気ある都市となることが期待される。
■キーワード:ダイバーシティ、福岡市の外国籍人口の増加、アジア人材の活用
1.
市づくりに取り組んできた 2)。樗木(2008)が指摘
はじめに
日本は少子高齢化の進行と係る将来的な人口減少、
するように、高齢化社会、人口減少社会等の社会情
働き手の減少が懸念されており、これに伴う各都市
勢の変化や、グローバル化といった国際関係の変化
の活力低下という不安を抱えている。そうした中で、
を踏まえると、福岡や九州の諸都市が今後も生き残
福岡市に目を向けると、政令指定都市に指定された
るためには、国際交流連携策とその戦略的推進が重
1972 年以降、人口は 150 万人を超え順調に増加し
要な方策であった(1)。
ている。一方で、生産年齢人口は、人口全体の 3 分
国際交流連携には、産業・企業活動、経済・投資
の 2 である 100 万人前後で推移しているものの、
活動、教育・研究・文化活動、観光・ビジネス・私
2011 年以降は僅かずつではあるが減少傾向が見ら
用による人の往来が挙げられるが(2)、近年、アジア
れ始めている。福岡市が活気ある都市であり続ける
の人々が様々な目的で福岡市に集まってきているこ
ためにも、女性、高齢者、障がい者、外国人等の多
とに見られるように、人の往来が活発化している。
様な人材の特性や能力を活かすダイバーシティ(多
ここでアジアに目を向けると、アジアは世界にお
様性)の取り組みを推進することによって、生産年
ける GDP が 28 %、人口が 60%を占め、2040 年に
齢人口の減少を補うことが重要になっている。
は 50 億人の人口を有する地域と推計されることか
ダイバーシティの推進について、福岡市の特性に
ら、今なお世界における成長エンジンとしての役割
3)
。すなわち、今後も福
照らし合わせながら考えてみると、福岡市はアジア
を果たしている地域である
の力を取り込みながら、経済そしてまちを活性化さ
岡市が活気ある都市であり続けるためには、こうし
1)
せている点に手掛かりがあると考えられる 。
たアジアの人々の活力を取り込み、ダイバーシティ
福岡市は 1980 年代から、地理的近接性のある「ア
を推進していくことが必要なのではないだろうか。
ジア」をキーワードに、海外との連携を意識した都
そこで、本稿では、福岡市にアジアの人々が集まっ
都市政策研究 第 17 号(2015 年 12 月)
61
ている現状を把握した上で、アジア各国の人口の推
もアジアの人々を惹きつけるには、どのような環境
移と人材育成の動向を整理し、今後も福岡市にアジ
を整える必要があるのかについて合わせて考察する。
4)
アの人々が集ってくる可能性について考察する 。
本稿の構成は以下の通りである。まず、福岡市の
他方、将来的な少子高齢化の進行や人口減少は、
各基本構想・基本計画から、福岡市がアジアを視野
日本だけの課題ではないとの見解もある。例えば、
に入れた都市づくりを目指したことを整理する。次
経済産業省(2005)は、2004 年の推計を基に、中
に、近年、福岡市にアジア各国・地域の人々が集ま
国も 2035 年には高齢者人口が年少人口を上回ると
っている現状をデータに基づいて整理する。中でも、
の予測や、今後、少子高齢化や人口減少が「全世界
留学生を中心とした若い人材が多いことが分かる。
共通の課題になりつつある」と指摘した
(3)
。また、
その上で、潜在的な人材の豊富さにつき、アジア各
大泉(2007)は、アジアにおいても日本と同様に少
国の人口動態及び各国の人材育成の方針から検討を
子・高齢化の進行並びに生産年齢人口の減少が進む
行う。最後に、福岡市がアジアの人材を惹きつける
こと、とりわけ、経済成長と共に人口増加を遂げて
都市であり続けるための課題を示す。
きた中国や韓国、タイにおいてその傾向は顕著であ
ることを指摘した(4)。
2.
これらの懸念を踏まえると、もちろん将来的には、
アジアとの連携が強まる福岡市
2.1.
アジアを視野に入れた福岡市の基本構想・基
本計画
アジアの人々が福岡に来るペースは低下するかもし
れない。しかしながら、国際連合の統計によると、
福岡市は 1980 年代という早い時期からグローバ
アジアは一様に人口減少に向かうのではなく、各国
ル化を意識し、
「アジア」をキーワードに都市づくり
のピークも異なる。この点を整理すると共に、今後
に取り組んできた。1987 年の第 2 次福岡市基本構想
表1
福岡市の基本構想・基本計画の変遷
年度
年度
基本構想・総合計画
基本構想・基本計画
1961
1961
第1次福岡市基本計画
福岡市総合計画
基本計画
・第2次産業と第3次産業のバランスのとれた「総合都市」を目指す
・第2次産業と第3次産業のバランスのとれた「総合都市」を目指す 博多湾東部埋立による臨海工業地帯の形成
博多湾東部埋立による臨海工業地帯の形成
ため、工業の振興を優先
と工業化の振興が大きな柱の一つに
ため、工業の振興を優先
と工業化の振興が大きな柱の一つに
・国内的には総合都市、国外的には「世界都市」を目指す
・国内的には総合都市、国外的には「世界都市」を目指す
1966
1966
第2次福岡市基本計画
福岡市総合計画
基本計画
・生活環境整備の優先
・生活環境整備の優先
・都市型産業の強化
・都市型産業の強化
・管理機能都市の充実
・管理機能都市の充実
・個性ある市民文化の造形
・個性ある市民文化の造形
第1次基本計画の工業偏重を是正し、生活環
第1次基本計画の工業偏重を是正し、生活環
境整備の優先と、都市型産業の強化、管理
境整備の優先と、都市型産業の強化、管理
都市機能の充実を掲げる
都市機能の充実を掲げる
1971
1972
第3次福岡市基本計画
福岡市総合計画
基本計画
・高福祉都市の創造
・高福祉都市の創造
・国際的情報都市機能の充実
・国際的情報都市機能の充実
・激動し、高速化する時代への対応
・激動し、高速化する時代への対応
都市形成に関連する基本的な考え方は第2
都市形成に関連する基本的な考え方は第2
次と同じ
次と同じ
1976
1976
1977
1977
第1次福岡市基本構想
第1次福岡市基本構想
第4次福岡市基本計画
福岡市総合計画
基本計画
・心豊かな市民の都市
・心豊かな市民の都市
・生きた緑の都市
・生きた緑の都市
・制御システムをもつ都市(成長を自律、自・制する仕組み)
・制御システムをもつ都市(成長を自律、自・制する仕組み)
・学び、造る都市
・学び、造る都市
制御システムを持つ都市づくり
制御システムを持つ都市づくり
コンパクトな都市づくりを目指す
コンパクトな都市づくりを目指す
1981
1981
第5次福岡市基本計画
福岡市総合計画
基本計画
第1次福岡市基本構想・第4次福岡市基本計画を継承
第1次福岡市基本構想・1977年基本計画を継承
1987
1987
1988
1988
第2次福岡市基本構想
第2次福岡市基本構想
第6次福岡市基本計画
福岡市総合計画
福岡市基本構想・第6次
福岡市基本計画
第7次福岡市基本計画
福岡市総合計画
第7次基本計画
福岡市新・基本計画
福岡市新・基本計画
・自律し優しさを共有する市民の都市
自律し優しさを共有する市民の都市
・自然を生かす快適な生活の都市
・自然を生かす快適な生活の都市
・海と歴史を抱いた文化の都市
・海と歴史を抱いた文化の都市
・活力あるアジアの拠点都市
・活力あるアジアの拠点都市
・地域・生活重視の視点
・地域・生活重視の視点
・市民と行政との協働によるまちづくり
・市民と行政との協働によるまちづくり
自由かっ達で人輝く自治都市・福岡をめざして~九州、そしてアジ
自由かっ達で人輝く自治都市・福岡をめざして~九州、そしてアジ
アの中で~
アの中で~
1996
1996
2003
2003
2012
2012
福岡市基本構想
福岡市基本構想
第9次福岡市基本計画
第9次基本計画
都市像
都市像
特色 特色
作成までに2年の期間をかけ、
市民参加による市民手作りのマスタープラン
作成までに2年の期間をかけ、市民参加によ
を目指した
る市民手作りのマスタープランを目指した
九州の中枢都市を目指し、自立し優しさを持
九州の中枢都市を目指し、自立し優しさを持
ちながらも活力ある拠点都市の形成を柱とす
ちながらも活力ある拠点都市の形成を柱とす
る る
第2次基本構想・第6次基本計画を踏襲
第2次基本構想・第6次基本計画を踏襲
グローバル化への対応を掲げる
グローバル化への対応を掲げる
国際化施策の長期的な計画となる「福岡市国
国際化施策の長期的な計画となる「福岡市国
際化推進計画」を策定(~平成27年(2015年)
際化推進計画」を策定(~平成27年(2015年)
生活の質の向上と都市の成長の好循環を目
住みたい、行きたい、働きたい。アジアの交流拠点都市・福岡
住みたい、行きたい、働きたい。アジアの交流拠点都市・福岡
指す生活の質の向上と都市の成長の好循環を目
→目標8「国際競争力を有し、アジアのモデル都市となっている」
→目標8「国際競争力を有し、アジアのモデル都市となっている」
指す
「グローバル人材の育成と活躍の場づくり」(施策8-5)
「グローバル人材の育成と活躍の場づくり」(施策8-5)
「アジアをはじめ世界の人にも暮らしやすいまちづくり」(施策8-8)
「アジアをはじめ世界の人にも暮らしやすいまちづくり」(施策8-8)
出所:福岡市の各基本構想・基本計画および財団法人福岡都市科学研究所(2001)『福岡市
都市形成シリーズ都市形成の計画史』より作成
62
アジアの人材を活かした福岡市のまちづくり
コーディネーターによる住民参加支援
に、
「活力あるアジアの拠点都市」を目指すことが掲
に成長していく都市」を目指すとし、アジアとの連
げられて以降、一貫してアジアと連携したまちづく
携がより明確に表れた基本構想となった。
りを目指してきた(表 1)。
基本計画に掲げられている分野別目標においては、
特に、2003 年の福岡市新・基本計画には、「アジ
「国際競争力を有し、アジアのモデル都市となって
アを中心とした国際化の推進」として、グローバル
いる(目標 8)」として、グローバル人材の育成や海
化への対応が掲げられた。1990 年代以降、世界のグ
外の人も暮らしやすいまちづくりを掲げている。外
ローバル化が急速に進行し、ヒト・モノ・カネの移
国人を単に受け入れるのみならず、海外の人々をど
動が顕著になってきた。さらに 2000 年代に、日本
のように活かして福岡市のまちづくりを進めていく
と各国との経済連携協定の締結・交渉が加速し、国
のかについての方針が明確になってきた。
外との繋がりが益々強まった。こうした世界の潮流
こうして世界との繋がりが強まる中で、2000 年代
の中で、福岡市が魅力ある都市であるためにも、国
以降は福岡市にも多くの外国人、特にアジアの人々
外との連携を強化することや、グローバル化によっ
が集まってきており、人の交流が活発化してきた。
て新たに生じる課題に対応していくことが必要にな
2.2.
ってきたのである。
その後の 2012 年の福岡市基本構想
福岡市に集まるアジアの人材
では、
「住み
福岡市の外国籍人口は、1990 年は 9,589 人であっ
たい、行きたい、働きたい。アジアの交流拠点都市・
たが、2000 年に 14,867 人、2014 年には 27,459 人
福岡」を実現するための都市像の一つに「活力と存
となり、特に 2000 年代に着実に増加した(5)。2003
在感に満ちたアジアの拠点都市」を掲げ、
「アジアと
年以降の推移を見ると、2012 年に一旦数は減少した
の交流を、市民、学術、文化、経済などすべての面
ものの、再び増加傾向にある(図1)。日本全体の傾
で深化させ、アジアの活力を取り込み、アジアと共
向であるが、背景には、2011 年の東日本大震災や中
5)
(人)
30,000
27,459
25,963
22,943
20,000
18,509
18,298
776
73
6,526
77
863
110
6,387
91
933
146
6,456
20,405
19,893
19,229
779
124
186
6,408
165
859
215
163
6,356
216
中南米
944
899
279
411
その他
24,155
21,277
879
841
23,651
24,555
955
426
307 624
914
485
867
473
無国籍
1,335
1,712
1,008
その他欧州
2,006
その他アジア
2,503
その他ASEAN
フランス
タイ
298
6,271
6,226
6,277
6,242
6,198
6,264
6,339
マレーシア
英国
インドネシア
米国
10,000
フィリピン
ベトナム
7,846
8,031
8,423
9,150
9,678
10,328
11,693
12,176
12,526
11,911
11,840
11,246
ネパール
韓国又は朝鮮
台湾
中国
0
2003年
2004年
2005年
2006年
2007年
2008年
2009年
注:その他ASEANは、カンボジア、ラオス、ミャンマー、シンガポール
図1
2010年
2011年
2012年
2013年
対前年比伸び率(2013年)
■ベトナム:4.61倍
175.3%(福岡市)>38.0%(国内)
■ネパール:3.14倍
97.5%(福岡市)>31.0%(国内)
2014年
対前年比伸び率(2014年)
■ベトナム:1.31倍
50.3%(福岡市)>38.2%(国内)
■ネパール:1.35倍
46.2%(福岡市)>34.2%(国内)
福岡市の外国籍人口推移
出所:福岡市住民基本台帳(2011 年以前は外国人登録者数)*台湾は 2012 年からの数値
都市政策研究 第 17 号(2015 年 12 月)
63
国や韓国との領土問題という外交関係の悪化を受け
3.
福岡市における留学生の増加
福岡市における外国籍人口の増加の背景の一つに、
て、中国籍人口、韓国籍人口が一時的に減少したこ
留学生が増加してきていることがある。特に 2013
6)
とが挙げられる 。
福岡市にはアジア各国・地域出身者が多く在住し
年以降は、2.2.で挙げた、東日本大震災の発生や外
ており、外国籍人口全体の 90%を占める。中国籍人
交関係の悪化による中国・韓国からの留学生の減少
口が最も多く、1 万 1,246(2014 年)
と全体の 40.9%、
を受けて、日本国内の日本語学校が東南アジア諸国
次いで韓国又は朝鮮籍人口が 6,264 人(2014 年)と
等からの留学生の誘致を行ったことが挙げられる。
全体の 22.8%を占める。これと共に、ASEAN 各国
福岡市外国籍人口に占める留学生のシェアは、
人口も総数は少ないが一定数で推移しており、全体
2009 年まで 10%台、2010 年以降は 20%に達し、
においてインドネシア籍人口は 1.1%、マレーシア
順調に推移してきた。2014 年には 27.35%となり、
籍人口は 0.4%、フィリピン籍人口は 3.7%を占める。
30%に達しつつある(図 2)。
さらに、2013 年以降は、ベトナム籍人口やネパー
ル籍人口が増加傾向にあり、外国籍人口の構成が変
(人)
(%)
8,000
27.35
化してきていることが特徴的である。2014 年を見る
と、ベトナム籍人口は 2,006 人と全体の 7.3%、ネ
パール籍人口は 2,503 人と全体の 9.1%を占める。
23.84
15.71
15.28
あり、福岡市のアジア籍人口増加の一因となってい
る。
① 短大・学部・大学院
20.00
7,509
5,639
2,000
3,020
3,040
3,227
3,379
2004年
2005年
2006年
2007年
2008年
10.00
5.00
0
0.00
2009年
福岡市における留学生数(左軸)
2010年
2011年
2012年
2013年
2014年
福岡市外国籍人口に占める留学生のシェア(右軸)
図2 福岡市における留学生数と福岡市外国籍人口
に占める留学生のシェアの推移(2010-2014 年)
出所:福岡市住民基本台帳(2011 年以前は外国人登録者数)および独
立行政法人日本学生支援機構(JASSO)「留学生調査」の結果より作成
4,500
2,953
3,000
2,696
3,109
3,123
51
115
62
58
98
82
319
323
50
112
59
43
87
43
296
4,255
3,254
4,000
72
114
146
3,500
317
3,000
329
2,500
2,741
217
99
2,481
293
2,315
2,187
1,963
2,292
2,349
828
391
2,000
1,500
1,562
3,148
2,943
152
1,000
5,590
4,174
② 専修・大学進学のための準備コース・日本語
(人)
2,000
3,028
5,694
15.00
6,271
(人)
3,500
2,500
25.00
15.88
15.81
4,000
日本全体の約 4.61 倍、ネパール籍人口伸び率は約
び率は 1.31 倍、ネパール籍人口伸び率は 1.35 倍で
24.15
18.19
16.36
1 右下のとおり、2013 年のベトナム籍人口伸び率は
3.14 倍にまで達した。2014 年のベトナム籍人口伸
23.14
6,000
また、ベトナム及びネパール籍人口の伸び率は日
本国内よりも福岡市の方が高い。具体的には、図
23.19
30.00
220
1,243
599
1,500
2,502
2,176
1,000
1,711
500
1,569
1,250
500
0
H22
H23
H24
H25
中国
韓国
台湾
ベトナム
ネパール
マレーシア
フィリピン
タイ
その他ASEAN
その他アジア
H26
インドネシア
H22
中国
注1:その他ASEANは、ブルネイ、カンボジア、ラオス、ミャンマー、
シンガポール
注2:福岡市内に校舎がある学校が対象
図3
0
H23
韓国
台湾
H24
ベトナム
ネパール
H25
その他ASEAN
H26
その他アジア
注1:その他ASEANは、カンボジア、インドネシア、マレーシア、
ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ
注2:福岡市内に校舎がある学校が対象
アジア各国(地域)別留学生数(H22-H26)
出所:独立行政法人日本学生支援機構(JASSO)「留学生調査」の結果より作成
64
アジアの人材を活かした福岡市のまちづくり
コーディネーターによる住民参加支援
そこで、留学生の割合が高まってきた 2010 年以
降の推移に着目し、その出身国・地域を見る。地域
4.
アジア各国の人口の推移
4.1.
国連統計の推計方法
別では、アジア地域出身者が全体の約 95%を占めて
福岡市に集う外国籍人口は増加傾向にあるが、ア
いるため、アジア各国別・地域別に見ていく。また、
ジア各国の少子高齢化の可能性も懸念される中で、
在籍している学校別で出身国・地域の構成に違いが
今後も福岡市へアジアの人材が集う可能性はあるの
見られることから、①短大・学部・大学院、②専修
だろうか。そこで、まず、アジア各国の人口の推移
学校・大学進学のための準備コース・日本語学校の
から潜在的な人材の数について検討したい。
2 つに分けてグラフを示す(図 3)。
ここで用いるのは、国際連合(UN)の統計“World
全体で共通するのは、中国人留学生が多いことで
Population Prospects 2015 Revision”である。本統
ある。①短大・大学・大学院では、中国に次いで韓
計は、UN が 2 年ごとに公表しており、
本稿では 2015
国人留学生、ベトナム、インドネシア、マレーシア
年 7 月に公表された最新版を用いる。本統計は、各
という ASEAN 諸国の留学生が一定の割合を占めて
国が提出したセンサスに基づき、UN が独自に 2100
いる(図 3-①)。ASEAN 諸国からは、国費留学生が
年までの人口につき推計を行っている。各国のセン
一定程度を占めるためと考えられる。短大・学部・
サスは、ベトナム(2009 年)、ネパール(2011 年)、
大学院在学者は 3,000 人前後で安定して推移してお
中国(2010 年)、韓国(2010 年)、インドネシア(2010
り、大きな減少は見られない。
年)、マレーシア(2010 年)、フィリピン(2010 年)
その一方で、②専修学校・大学進学のための準備
であり、2015 年以降は出生率、死亡率、国際移動の
コース・日本語学校への留学生は韓国人留学生が少
実績値に基づいて数パターンの推計(5 年ごと、年
なく、ネパールからの留学生が中国に次いで多い。
齢別)を行っている。
さらには、ベトナム人留学生とネパール人留学生の
本稿では、2000 年~2040 年までの推移をグラフ
急増を受けて、平成 25 年から 26 年で全体数が増加
で表すが、2015 年~2040 年は、一般に多く用いら
傾向にあることが分かる(図 3-②)。
れる中位推計値(合計特殊出生率に係る)を参照す
以上のように、留学生を中心に、福岡市への外国
る。
籍人口の出身国・地域の構成が少しずつ変化しなが
ら増加傾向にある。
4.2.
アジアにおける人材の潜在数
福岡市は、15 歳から 29 歳までの若者の人口比率
UN の統計を用いて、2.2.の図 1 の福岡市におけ
が大都市の中で 19.2%と日本一高い数値を示して
る外国籍人口の割合や推移から次の 3 つに分けて検
おり、学生数は東京都、京都市、名古屋市に次いで
討する。
全国で第 4 位であることからも、若手人材が豊富な
① 近年、福岡市在籍人口が伸びている国(ベトナ
都市である 。20 代から 30 代を中心とした若い年
(6)
ムとネパール)
齢層の留学生の増加は、若者人口の多い福岡市にさ
② 福岡市在籍人口が多い国(中国と韓国)
らなる活気をもたらしており、今後の福岡市の生産
③ 福岡市在籍人口が一定の割合いる国(インドネ
年齢人口を支え、都市の活力となることが期待され
シア、マレーシア、フィリピン)
る。
都市政策研究 第 17 号(2015 年 12 月)
65
① 近年、福岡市在籍人口が伸びている国(ベトナ
して、依然として重要な人材保有国であると言える。
韓国の人口は、2035 年までは緩やかながらも増加
ムとネパール)
UN の推計によれば、2040 年までアジア各国の人
傾向にあり、2035 年時点の人口は 5,271 万 5 千人と
口は増加傾向にある。生産年齢人口(15 歳~64 歳)
予想される。その一方で、生産年齢人口は 2015 年
に着目すると、ベトナムは 2040 年(7,205 万人)ま
をピークに、2035 年までは 3 千万人台で推移し、
で増加すると見込まれる(図 4-A)。
2040 年には 2,968 万 3 千人へと少しずつ減少するこ
また、ネパールは 2015 年(1,761 万 8 千人)以降
とが見込まれる(図 4-D)。
も生産年齢人口が着実に増加し、2025 年以降には 2
千万人台で推移すると見込まれる(図 4-B)。
(100万人)
C. 中国
1,600
1,400
(千人)
A. ベトナム
120,000
100,000
80,286
80,000
5,157
84,204
5,542
88,358
5,783
93,448
98,157
7,894
6,299
102,093
10,298
105,220
12,999
107,773
109,925
15,690
18,415
1,270
1,200
1,306
1,341
84
98
111
867
945
997
1,376
1,403
1,415
1,416
131
170
201
243
1,008
993
1,408
299
1,395
343
1,000
800
984
963
600
916
866
400
60,000
49,712
55,795
61,655
65,572
67,775
69,459
70,997
72,013
72,050
40,000
200
318
262
234
237
240
230
210
193
186
2000年
2005年
2010年
2015年
2020年
2025年
2030年
2035年
2040年
0
0-14歳
20,000
25,416
22,866
20,919
21,577
22,487
22,335
21,225
20,070
19,460
2000年
2005年
2010年
2015年
2020年
2025年
2030年
2035年
2040年
15-64歳
65歳以上
0
0-14歳
15-64歳
65歳以上
D. 韓国
(千人)
60,000
50,000
(千人)
B. ネパール
40,000
35,000
30,000
25,507
25,000
23,740
895
1,114
26,876
1,336
28,514
1,582
15,000
14,234
1,895
31,754
2,120
33,104
2,433
2,820
49,090
50,293
51,251
51,982
52,519
52,715
10,241
12,454
14,462
34,841
33,128
31,398
3,390
4,377
5,444
6,602
8,074
33,131
34,401
35,674
36,654
36,304
15,549
17,618
19,547
21,272
22,502
52,398
16,156
40,000
3,307
30,000
23,640
29,683
24,550
10,000
9,685
8,828
7,972
7,037
6,874
6,900
6,937
6,855
6,559
2000年
2005年
2010年
2015年
2020年
2025年
2030年
2035年
2040年
0
10,000
5,000
47,606
20,000
20,000
13,106
30,184
34,187
35,027
46,206
9,739
10,159
9,990
2000年
2005年
2010年
9,314
8,743
8,362
8,169
7,728
7,170
2020年
2025年
2030年
2035年
2040年
0-14歳
15-64歳
65歳以上
0
2015年
0-14歳
15-64歳
③ 福岡市在籍人口が一定の割合いる国(インドネ
65歳以上
シア、マレーシア、フィリピン)
② 福岡市在籍人口が多い国(中国と韓国)
中国の人口は、今後 2030 年(14 億 1,600 万人)
をピークに徐々に減少すると予想される
7)
。生産年
福岡市に在籍人口が一定の割合いる ASEAN 諸国
(インドネシア、マレーシア、フィリピン)では、
人口増加に伴って生産年齢人口の伸びが期待できる。
齢人口は 2015 年以降、9 億人台で推移し、2040 年
ASEAN 諸国の中で、最も人口が多いインドネシ
には 8 億人台へと減少していくと見込まれる(図
アは、2015 年(2 億 5,800 万人)以降も増加し続け、
4-C)。とはいえ、中国は世界において最も人口が多
2040 年までには 3 億 1,200 万人に達すると予想され
い国であり、十分な生産年齢人口を有している国と
る。生産年齢人口も 2030 年以降、2 億人台で推移す
66
アジアの人材を活かした福岡市のまちづくり
コーディネーターによる住民参加支援
ると見込まれる(図 4-E)。インドネシアは大学や大
学院への留学生が多いことからも、今後福岡市に留
(千人)
G. フィリピン
160,000
140,000
学生としてやってくることが期待される。
120,000
同じく福岡市で留学生数が多いマレーシアは、
2015 年の 3,033 万 1 千人から着実に人口が増加し、
100,000
80,000
2040 年までに 3,885 万 3 千人に達し、さらに、生産
60,000
年齢人口も 2040 年には 2,652 万 3 千人へと伸びる
40,000
ことが期待される(図 4-F)。
20,000
福岡市の在籍人口の割合が高く、一定程度の留学
77,932
2,516
86,141
93,039
100,699
108,436
5,558
4,612
3,865
116,151
6,829
2,949
63,916
69,514
74,936
123,575
8,260
130,556
9,824
137,020
11,291
80,319
85,433
90,320
51,235
57,904
30,002
31,958
31,270
32,172
33,363
34,387
34,997
35,299
35,410
2000年
2005年
2010年
2015年
2020年
2025年
2030年
2035年
2040年
45,414
0
0-14歳
生がいるフィリピンでも、人口増加が目覚ましい。
15-64歳
65歳以上
2040 年には、人口が 1 億 3,702 万人に達すると見
図4
込まれる(図 4-G)。また、人口増加に伴い生産年齢
出所:国際連合(UN)“ World Population Prospects: The 2015
Revision”
(http://esa.un.org/unpd/wpp/index.htm)
アジア各国の年齢別人口の推計(A~G)
人口も拡大し、2040 年(9,032 万人)には、2015
年(6,391 万 6 千人)の約 1.4 倍へと増加し、潜在
的な人材が豊富であることが窺える。
以上をまとめると、①近年、福岡市在籍人口が伸
びてきているベトナムやネパールでは、国内人口及
(100万人)
350
300
250
212
10
200
150
び生産年齢人口の増加が予測されるため、今後も人
E. インドネシア
137
226
11
148
258
242
20
16
13
12
285
272
295
25
305
312
30
36
材が豊富に存在すると考えられる。
他方、②福岡市在籍人口の割合が高い中国は、人
口及び生産年齢人口が緩やかに減少傾向にあるもの
193
184
173
160
201
207
210
の、人口の総数が多いことから、なお人材が豊富な
国であると言える。また、韓国では人口増加は緩や
100
かに維持されるものの、少子高齢化の進行により、
50
65
68
70
71
71
72
69
68
67
2000年
2005年
2010年
2015年
2020年
2025年
2030年
2035年
2040年
0
0-14歳
15-64歳
65歳以上
生産年齢人口が減少すると見られる。
また、③福岡市に在籍人口及び留学生が一定割合
いる ASEAN 諸国は、総じて人口及び生産年齢人口
が大きく増加すると見込まれ、将来的にも多くの人
材を有していることが期待される。
(千人)
40,000
35,000
30,000
25,000
23,421
900
25,796
1,130
28,120
1,367
20,000
15,000
以上のとおり、中国や韓国では、今後の生産年齢
F. マレーシア
45,000
14,718
16,899
19,078
30,331
1,776
32,374
2,270
34,334
2,896
36,107
3,588
37,618
38,853
4,280
4,959
25,669
26,523
では、人口増加が予測され、さらに豊富な生産年齢
人口を有していることが分かる。しかしながら、人
21,122
22,692
23,721
24,706
材という場合には、こうした数の側面のみならず、
質的な側面からも検討を行う必要がある。そこで、
10,000
5,000
人口の低下が懸念されるものの、東南アジア諸国等
7,803
7,768
7,674
2000年
2005年
2010年
7,433
7,412
7,717
7,813
7,668
7,371
2015年
2020年
2025年
2030年
2035年
2040年
0
0-14歳
15-64歳
次にアジア各国の発展戦略に着目し、各国の人材育
成政策を見ていく。
65歳以上
都市政策研究 第 17 号(2015 年 12 月)
67
5.各国の大学進学率の推移と教育の状況
1965 年~1990 年のアジア高成長の実現に関し、
学や国外での就職を志向する割合が増える可能性が
あると考えられる 8)。
『東アジアの奇跡』は、政府が初等教育、中等教育
を重点化し、人的資本を形成したことを指摘した(7)。
表2
人材教育は各国の発展戦略の柱の一つに据えられ、
2004年
初等教育及び中等教育の就学率の向上はもちろんの
こと、国際競争が厳しくなる中で、高等教育のカリ
キュラムの充実等を通じた(8)、高等教育の就学率を
高めることが重視されている。
各国の就学率(高等教育)
(%)
2005年
2006年
2007年
2008年
2009年
2010年
2011年
2012年
2013年
19.9
11.2
21.8
101.6
28.2
23.7
35.7
22.4
14.4
23.3
101
29.4
24.9
37.1
24.4
14.5
24.3
100.8
30.9
27.2
36
24.6
31.5
31.5
37.2
24.6
17.2
29.7
98.4
33.8
57.7
58.1
59.9
61.5
ベトナム
ネパール
中国
韓国
フィリピン
インドネシア
マレーシア
6.4
17
90.3
28.4
17
30
15.9
8.1
18.3
93.5
27.5
17.7
27.9
16.5
8.5
19.5
97.5
27.8
17.9
28.6
18.2
10.4
20
100.8
18.4
30.2
18.7
11.3
20.2
101.8
28.8
21.3
33.7
(参考)日本
53.6
55
57.1
57.8
57.6
―
―
―
26.7
―
留学生数が増加傾向にあるベトナムでは 2011-2020
年までの「社会経済開発戦略(SEDS)」を定め、人
―
出所:国際連合教育科学文化機関(UNESCO)ホームページ
(http://www.uis.unesco.org/DataCentre/Pages/regions.aspx)
6.おわりに
材の質の向上を目指している。そのもとで、
「人材育
福岡市の外国籍人口は増加傾向にあり、アジア各
成戦略(HRDS)」、「人材戦略育成マスタープラン
国から福岡市へ多くの人々が集まってきていること
(HRDMP)」、「共育戦略開発計画(HSDP)」等の
が分かる。アジア各国の状況に目を向けると、生産
各種方針を定めており、専門教育、高等教育を受け
年齢人口の増加や、人材育成政策の展開、並びに高
た労働者の割合を 55%(2015 年)から 70%(2020
等教育就学率が向上していることから、数と質とも
(9)
年)にする等の数値目標を挙げている 。
に各国の人材の豊富さが窺え、今後、留学や就職等
また、人材が豊富な中国では、
「第 12 次 5 か年計
を目指して福岡市に集うことが期待される。こうし
画」に人材教育の重要性を示すとともに、教育に係
たアジアの人材を活かすことこそが、福岡市の生産
る計画である「国家中長期教育改革和発展計画綱要
年齢人口の確保さらには都市の活力維持のための重
(2010~2020 年)」で、科学技術の発展及び社会主
要な手立てになるであろう。
義現代化の促進に向けた人材教育を掲げている。数
他方、各国の生産年齢人口に占める在福外国籍人
値目標も掲げ、学部生を 3,350 万人(2015 年)から
口は、現時点では、最も低い国で 0.0016%(フィリ
3,550 万人(2020 年)、大学院生を、170 万人(2015
ピン)、伸びている国でも 0.003%(ベトナム)であ
年)から 200 万人(2020 年)へ増やすことを目指
り、決して高いシェアとは言えない。国内外の他都
(10)
。
市との人材獲得競争が激化する中で、アジアを含む
急速に人口増加が進むマレーシアでは、
「第 10 次
マレーシア計画(2011-2015)」において、高所得国
への到達に向けた人材育成を掲げている
(11)
。
海外の人々を惹きつけるための対策をさらに進める
ことが必要である。
まず、官の取り組みとして、福岡市は、2012 年の
以上のように、各国で人材育成政策が推し進めら
基本計画にグローバル人材の育成や海外の人も暮ら
れていることも受けて、高等教育の就学率が徐々に
しやすいまちづくりを示していることに加えて、国
向上してきている(表 2)。ベトナムでは 2010 年以
家戦略特区の方針の一つに外国人人材の受け入れ及
降、高等教育就学率が 20%台で伸びてきており、中
び育成を掲げている(12)。具体的には、在留資格の見
国でも 30%近くに達している。ASEAN 諸国の就学
直しや、外国人の暮らしの利便性向上などを目指す
率は総じて高く、30%台で推移しており、特にマレ
ほか、2015 年 10 月 21 日には、外国人の起業を支
ーシアは 37.2%(2012 年)と高い就学率を達成して
いる。
援するスタートアップビザが政府の認定を受けた
(13)
。
こうした各国の人材育成政策及び高等教育就学率
日本再興戦略でも、外国人人材を「人材力の強化」
の向上を受けて、アジア各国国内にとどまらず、留
のための主要な要素とし、留学生の 30 万人実現計
68
―
注:‐は不明
近年の発展戦略を見てみると、例えば、福岡への
している
―
アジアの人材を活かした福岡市のまちづくり
コーディネーターによる住民参加支援
画や、高度人材の活用を掲げ、2014 年 12 月からは
注釈
出入国管理上の優遇措置を認める高度人材ポイント
1)本稿では、「アジア」と言う場合、主に福岡市と
9)
。こうした政府の後押しも
繋がりが強い東アジア(中国、韓国、台湾、香港、
受けながら、福岡市ではアジアの人材を受け入れ活
東南アジア諸国連合(ASEAN)10 か国)と南ア
用するための環境づくりが進んでいる 10)。
ジアを想定している。
制度が施行されている
さらに、学の面では、九州大学が高度教育機関と
2)福岡市とアジアの連携は、各種国際交流事業や経
して機能している。2015 年 4 月時点で九州大学に所
緯など、財団法人福岡アジア都市研究所(2009)
属する学生の 10.8%が留学生であり、92 か国・地
による 2008 年までの一連の整理が行われており、
(14)
。また、経済界でも、
福岡市がいかにアジアとの関係を構築してきたの
経済産業省の「ダイバーシティ経営戦略」に選出さ
かについて知ることができる。詳細は、財団法人
れた企業があることや、産官学が一体となったグロ
福岡アジア都市研究所(2009)
『福岡市におけるア
ーバル人材育成の取り組みの一環としてイベント
ジア政策の過去・現在・未来1【中間報告:基礎
「グローバルコミュニティ FUKUOKA」(15)が開催
調査―過去と現在―】
』参照。
域から学生が集まっている
されるなど、海外人材への注目が高まってきている。
福岡市には、産官学が一体となって海外の人材を
受け入れるための土壌があり、アジアの人々を惹き
つけるためにも、今後産官学が連携した取り組みが
益々活発になることが重要である。
3)GDP は国際連合(UN)“National Accounts Main
Aggregates Database”、人口は“World Population P
rospects: The 2015 Revision”参照。
4)人口減少の対応策としての外国人受け入れについ
ては、各機関が実態調査を踏まえた報告書を作成
最後に、福岡市の成長や国際競争力を持つ都市づ
している。例えば、国立国会図書館(2008)は、
くりという観点からは、留学生の就職支援策によっ
日本の人口減少社会に向けた諸外国との連携に
て、福岡市で働く若い人材を育成することに止まら
ついて整理し、笹川平和財団(2010)は、各国の
ず、「技術のある人材」を福岡市へ呼び込むために、
移民送り出し政策等についての調査を行ってい
どのような産業を伸ばし雇用を生み出すかについて
る。これらの研究には、各国や他の自治体が外国
も検討を進める必要があるだろう。
人人材を受け入れてきた経緯や問題点、あるいは
データの都合上、県レベルになるが、福岡労働局
成功例等が示されている。詳細は、国立国会図書
の統計によれば、現在、福岡県で外国人が従事して
館(2008)
『人口減少社会の外国人問題』
、笹川平
いる産業は、卸売業・小売業従事者(18.6%)、製造
和財団(2010)『外国人労働者問題をめぐる資料
業従事者(18.3%)、教育・学習支援業従事者(14.9%)
集Ⅰ-Ⅲ』参照。
の順に多い。この数値には留学生も含まれることか
ら、留学生が人手不足の業種を支える構造になって
いると考えられる。それに対して、最も従事者が少
(16)
5)以下の内容は、福岡市(2012)
『福岡市基本構想・
第 9 次基本計画』参照。
6)2015 年 11 月 1 日に、ソウルにて日中韓サミット
。より技
が開催された。2012 年以来 3 年半ぶりの開催とな
術の高い人材を海外から惹きつけるためには、情報
ったことから、3 か国の外交関係における大きな
通信業のように福岡市の強みを活かした産業政策と
進展であると言え、これを受けて今後の中国籍及
相互に関連させながら、海外人材を呼び込むための
び韓国籍人口数も変化する可能性がある。
ないのは、情報通信業(1.2%)である
方策を考えて行く必要があるだろう。
7)経済産業省(2005)は、2004 年の UN の推計に
こうした方策を通じて多くのアジアの人材を惹き
基づき、中国では 2035 年に高齢者人口が年少人
つけ活用することで、福岡市はダイバーシティを実
口を上回ると予測した。しかしながら、2015 年
現し、益々活気ある都市となることが期待される。
の UN の推計では、その事態が既に 2030 年に生
じると予測され、少子高齢化が急速に進行してい
都市政策研究 第 17 号(2015 年 12 月)
69
ることが分かる。
8)もちろん、その一方で、ネパールのように国内の
雇用率の低さや国内政治の不安定さ等、いわば消
html)
.
(6)公益財団法人福岡アジア都市研究所:Fukuoka
Growth 2013-2014, p.57,2014.
極的な理由から海外留学や海外出稼ぎ率が高い
(7)World Bank:The East Asian Miracle: Economic
ことも指摘されており、このような要素について
Growth and Public Policy, World Bank Policy
も分析を深める必要がある(浜田清彦(2014)
「ネ
Report, 1993(世界銀行・白鳥正喜監訳, 東アジ
パールの教育・留学事情~海外留学ブームの中で
アの奇跡,東洋経済新報社,p.180,1994).
~」『留学交流』Vol.39 参照)。
9)平成 27 年 6 月に、「日本再興戦略改訂 2015-未
来への投資・生産性革命-」が閣議決定された。
(8)大泉啓一郎:老いてゆくアジア,中央公論新社,
p.62,2007.
(9)一般社団法人日本リサーチ総合研究所:ASEAN
この中で、高度外国人材向けの在留資格の新設や、
経済圏の高等教育等の在り方に関する調査研究
外国人技能実習制度の新制度への移行に向けた
―ベトナムにおける高等教育―公共政策の在り
取組の推進、持続的成長の観点から緊急に対応が
方について―,2015
必要な分野において新たな就労制度を創設する
ことが掲げられている。
10) 近年、福岡市への外国人入国者数が増加傾向に
(http://www.chinhphu.vn/portal/page/portal/English
/strategies/strategiesdetails%3FcategoryId%3D30%
26articleId%3D10052505).
あり、2014 年の福岡市への外国人入国者数は、
(10)中華人民共和国教育部:国家中長期教育改革
前年比 33.0%増の 120 万人に達した(福岡市経
和発展計画綱要(2010~2020 年),2010
済観光文化局観光戦略課,平成 27 年 3 月 24 日
付プレスリリース)。観光などをきっかけに福岡
市を知る人が増え、それが呼び水となって海外
に福岡市が知られる機会の増加に繋がっている
と言える。将来的には福岡に興味を持った人た
ちが短期滞在に止まらずに、長期的に福岡市に
住み、働く人材となることが期待される。
(http://www.moe.edu.cn/srcsite/A01/s7048/201007/
t20100729_171904.html).
(11) Economic Planning Unit, Prime Minister's Depart
ment:Tenth Malaysia Plan,2010
(http://onlineapps.epu.gov.my/rmke10/rmke10_engl
ish.html).
(12) 福岡市:福岡市の国家戦略特区について(平成
26 年 6 月),2014.
参考文献
(1)樗木武:地方中枢都市「福岡」からのアジア諸
都市との国際交流連携の戦略的推進を,都市政
策研究(財団法人福岡アジア都市研究所),第 5
号,p.2,2008.
(2)同上.
(3)経済産業省:通商白書 2005‐我が国と東アジア
の新次元の経済的繁栄に向けて, 2005, p.125, p.
226.
(4)大泉啓一郎:老いてゆくアジア,中公新書,20
07,pp.11-13.
(5)福岡市:住民基本台帳人口
(http://www.city.fukuoka.lg.jp/soki/tokeichosa/shisei/
toukei/jinkou/tourokujinkou/TourokuJinko_kubetsu.
70
アジアの人材を活かした福岡市のまちづくり
コーディネーターによる住民参加支援
(13) FUKUOKA 特区通信
(http://f-tokku.city.fukuoka.lg.jp/).
(14) 九州大学ホームページ
(http://www.kyushu-u.ac.jp/).
(15) 福岡市ホームページ
(http://www.city.fukuoka.lg.jp/soki/kokusai/shisei/g
cf/gcf_top.html).
(16) 福岡労働局:外国人雇用状況の届出状況(平成
26 年 10 月末現在)
(http://fukuoka-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/var/re
v0/0113/5864/2015225162629.pdf).
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