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協力の背景 UB市とJICAの協力プログラム

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協力の背景 UB市とJICAの協力プログラム
2012/10/23
A10-5
協力の背景
廃棄物分野の開発途上国支援における
プログラム・アプローチの効果と課題
ウランバートル市に対する協力の事例から
吉田充夫・南 和江
独立行政法人国際協力機構(JICA)
連絡先:[email protected]
2012年10月23日
廃棄物資源循環学会第23回研究発表会(仙台)
• モンゴル国の総人口約280万人の約4割にあ
たる128万人以上がウランバートル市(以下
UB市)に居住し、現在も地方からの人口流入
と都市化を進行させている。
• このような人口急増に加えて、市場経済への
移行に伴い廃棄物問題が1990年代後半以降
深刻化してきた。
• 抜本的な廃棄物管理の改善が必要となり、
日本に対して協力の要請がなされた。
キーワード: 開発途上国、人材育成、プログラム・アプローチ
3段階のプログ
ラムアプローチ
モンゴル政府から日本政府への協力要請
要請
要請
要請
UB市とJICAの協力プログラム
2009
2007
2004
開発調査
(実態把握・
計画策定)
無償資金協
力(施設・機
材供与)
技術協力プ
ロジェクト
(人材育成・
能力強化)
専門家チーム派遣
詳細設
計調査
2000-03
事前調査
Scope決定
調査団の派遣
マスタープ
ランの策定
UB市基本政策検討
基本
設計
中間評
価調査
終了時評
価調査
本邦国別研修
施設建設
機材供与
技協事
後評価
無償事
後評価
ボランティア派遣
モンゴル側の責任事項の実施、 プログラムの推進
吉田原図
モンゴル国、UB 市
2001 年 モンゴル政府から日本に対し技術協力の要請
2004 年 一般廃棄物及び産業廃棄物法(廃棄物法)制定
2006 年 モンゴル市役所公共サービス部(PSD)から廃棄
物管理部門を分離し都市保全公共施設庁(CMPUA)を設立、
清掃、廃棄物収集運搬サービス、車両保守整備、処分場
の運営管理を所轄。処分場の従量制課金制度導入。
2007 年 廃棄物サービス基金(WSF)の設立により UB 市
の廃棄物管理財政の一元化と透明化が図られる。
2007 年 日本政府と無償資金協力の交換公文(E/N)締結
2008 年 UB 市各区の公営収集運搬事業者(TUK)の完全
民営化が決定される
2008 年 民営化された TUKs と UB 市関係当局
(WSF、
CMPUA)
の間に紛争発生
2008 年 JICA の協力で参加型問題分析ワークショップ
2009 年 計画・調整機関として UB 市長事務局内に環境汚
染・廃棄物管理局(EPWMD)を設立
2009 年 UB 市と JICA が Record of Discussion(R/D)を合
意
2009 年 市議会により各区の WSF の廃止決議
2011 年 廃棄物収集料金徴収の電気料金上乗せ制度導入
2012 年 UB 市(EPWMD)は廃棄物法の改正案等を作成し
新たな廃棄物管理制度の導入を検討中
JICA のプログラム・アプローチ協力
2004-2007 年 (i)開発調査の実施(フェーズ1:実態把
握調査とマスタープラン策定、フェーズ2:フィジビリ
ティ・スタディとパイロット・プロジェクトによる検証、
フェーズ3:モニタリングとフォローアップ)
2007-2009 年 (ii)無償資金協力事業の実施(衛生埋立
最終処分場建設、ごみ収集運搬車両供与、車両整備機材
供与、その他機材供与、ソフトコンポーネントによる個
別技術の指導)
2009-2012 年 (iii)技術協力プロジェクトの実施(現地
技術指導、人材育成、本邦研修、市民啓発など)及びシ
ニア・ボランティアの派遣
2011 年 プロジェクト合同中間レビュー
2012 年 プロジェクト合同終了時評価
吉田・南原図
UB市民の声
「昔は清潔な街だったが…」
• 1990年代以前の旧体制
– ごみ処理サービスは公共事業であり、UB市全域に均
等にサービスが行き渡っていた。
• 1990年代の市場経済導入以降
– 各区の公営事業者(TUK)が独立採算制のもと利益
確保のためのごみ収集事業を実施。
– 結果として、貧困層の住むごみ未収集地区を生み、
UB市全体としての廃棄物処理の質が後退した。
河野(2009)「ウランバートル市の廃棄物管理-ゴミ料金徴収システムについて」(OECC会報57号)による
不十分なごみ収集、不適切な最終埋立処分の改善が必要
開発調査による2020年を目標とするUB市
廃棄物管理マスタープランの骨子4点
①廃棄物収集システム改善(廃棄物収集システム
の見直、一元的財政管理、UB市における均一な
サービスの実施等“クロスサブシディ”的考え方の
導入)
②廃棄物最終埋立処分場の改善と衛生埋立実施
③3R政策制度の導入による廃棄物発生抑制と減
量化に向けたリサイクル等の取り組みの推進
④以上を実現するための関連諸制度・組織体制等
の改善(廃棄物処理事業を機能別に分割再編)
2007年にUB市当局により受理され、独自に組織制度改革を推進。
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2012/10/23
組織・制度改革
日本からの支援計画策定、施設機材供与、人材育成
制度改革の影響、衝突
<新制度>
WSF, CMPUA, EPWMD設立
CMPUAの清掃、収集運搬事業
無償資金協力の車両のレンタル
民営化されたTUKの各区との契
約にもとづくごみ収集運搬
最終埋立処分場で
のCMPUAによる衛
生埋め立て
WSFによるごみ料金徴収、TUKに対する運搬従量制の支
払い。UB市全域へのサービス実施のための財政システム
<旧制度>
各区(TUK)による営利にもとづくごみ
収集運搬事業
• TUKは最終処分場に運搬されるごみの約7割を各区と
契約した上で,収集運搬。しかし、ごみ料金はWSFの
一元的徴収となり,TUKに対する経費支払いは従量制
のため、TUKの実質収入が低下。
• 加えて、無償資金協力により新たな収集車両が
CMPUAに供与されこれを用いて収集運搬業務を独自
に直営で行う方針を示したため、TUKは事業の競合に
よる存亡の危機と解した。
• TUKは2008年9月に最終処分場のアクセス道路を実
力行使で封鎖し抗議。
最終埋立処分場で
のオープンダンプ
または違法投棄
STOP
各区でのTUKによるごみ料金の直接
徴収、個別の財政
吉田原図
UB市における調整機関の必要性
ドナー(外部者)の仲介的機能
写真はJICA調査団(2008)
• このような衝突下,JICAは事前調査団
を派遣。ステークホルダー・ヒアリング
実施や、参加型ワークショップを開催。
• 参加型ワークショップは,客観的な議
論形成の場を提供し,ステークホル
ダー間の調整連携の視点の不可欠性
を明確にした。
• JICA事前調査団は廃棄物事業全体を
調整・管理・監督する市担当部局の設
立を「前提条件」として提言(後の「環
境汚染・廃棄物管理局」(EPWMD))。
• 要請に基づき、人材育成・能力強化の
技術協力プロジェクトを実施。
技術協力プロジェクトのデザイン骨子
上位目標
目標
成果1
成果2
成果3
成果4
成果5
成果6
不適切な廃棄物処理によって悪影響を受けている
UB市の都市環境と公衆衛生が改善される。
人材育成を通じてUB市の廃棄物管理能力が強化さ
れる。
廃棄物管理事業の計画・政策立案にかかるEPWMD
の人材が育成される。
ごみ収集車と重機の維持管理、ごみ収集運搬事業
管理に関わるCMPUAとEPWMDの人材が育成される。
ナランギンエンゲル衛生埋立処分場の適切な運営に
関わるCMPUAとEPWMDの人材が育成される。
廃棄物処理事業の総合的管理/財務管理に係る
EPWMDとWSFの人材が育成される。
市民啓発活動に関わるEPWMDと区役所の人材が育
成される。
UB市に適したごみ分別リサイクル計画が提言される。
①中立的な事務局機能の確保
②全てのステークホルダーとのコミュニ
ケーション
③客観的な議論の場の提供
④参加者間の情報格差(ディバイド)の
解消
⑤技術情報の客観的な(利害に左右さ
れない)提供
⑥意志決定の透明性の確保への寄与
写真はJICA調査団(2008)
総合研究開発機構 (2003)を改変
ごみ収集運搬の強化のための、UB市の計画、運営、管理能力の
強化、市民意識啓発の推進
収集運搬
写真はUB市EPWMD提供
JICA(2008)
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2012/10/23
中間処理
無償資金協力により供与された衛生埋立処分場とごみ収集車両
これらの施設・機材の維持管理(O/M)能力の強化
中間処理施設の選別場、WPの選別作業、リサイクル導入検討
最終処分
写真はUB市EPWMD提供
プロジェクト終了時合同評価の結果(2012年5月)
(1)処分場やごみ収集車両等の施設・機材の運用維持管理(O/M)という重点課題については、
自律的な人材の育成が成功し、プロジェクトの基本的な目標はほぼ達成した。
(2)しかし未達成のまま残されたのは、収集運搬活動を全市的に総括する人材(成果2)、一
元的財政管理の人材(成果4)、区レベルの市民啓発人材(成果5)の育成であった。
(3)いずれも市議会における区WSF廃止決議(2009 年)により、組織制度・財政の再編につい
ての合意形成が未達である事を示す。今後の合意形成や法制度化が課題である。
基本的な人材育成に成功したが、組織制度面に課題残す。
右下写真は日本大使館提供、他は専門家チーム(国際航業株式会社)撮影
結論
• 調査・計画策定(開発調査)、施設機材供与(無償資金協
力)、人材育成(技術協力)を組み合わせたプログラム・ア
プローチは、廃棄物問題の技術(エンジニアリング)面の改
善にとって、非常に効果的で効率的な支援法である。
• 一方、本事例に見られるように、組織制度改革、ステークホ
ルダー間の調整といった課題は、合意形成に基づく解決を
必要とし、上からの計画のみの急速な改革は力関係や利
害関係次第で問題を深刻化(衝突)させる。
• 計画段階と施行段階でより参加型を取り入れた制度改革・
調整プロセスに関する支援が必要ではなかったか。本事例
のプログラム・アプローチはこの点で教訓を示す。
• また、ドナー(外部者)が中立性を確保し、全てのステークホ
ルダーに開かれた参加の場を設定して問題点と課題の共
有化を促進するならば,問題解決推進の仲介者として一定
の役割を果たすことも可能である。
写真は合同中間評価の報告会
謝辞
議論して頂いた島田俊子氏(アイシーネット株式会社・評価団員)、プロジェクト終了
時評価合同評価チーム、プロジェクト専門家チーム(国際航業株式会社)の各位に感
謝する。
本講演で表明した見解は、必ずしもJICAの公的見解を示すものではない。
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•
引用文献
Joint Terminal Evaluation Team (2012) Joint Terminal Evaluation Report for the
Project on Strengthening the Capacity for Solid Waste Management in Ulaanbaatar
City. Ulaanbaatar City and JICA
吉田充夫,小川領一,南 和江,B.Tuguldur (2009) 廃棄物管理事業の合意形成
におけるステークホルダー間の調整:モンゴル国ウランバートル市廃棄物管理を
事例として.第20回廃棄物資源循環学会研究発表会講演論文集,p.89-90.
JICA(2009)モンゴル国ウランバートル市廃棄物管理研修プロジェクト詳細計画策
定調査結果報告書
国際協力機構・国際航業株式会社 (2007a) 「モンゴル国ウランバートル市廃棄物
管理改善計画基本設計調査報告書」
国際協力機構・国際航業株式会社 (2007b) 「モンゴル国ウランバートル市廃棄物
管理計画調査最終報告書日本語要約」
国際協力機構 (2005) 「開発途上国廃棄物分野のキャパシティ・ディベロプメント
の支援のために」
総合研究開発機構 (2003) 「廃棄物問題にみる新しい自治のかたち」
Effectiveness and Challenge of Program Approach of International
Cooperation for Developing Countries in Solid Waste Management Sector:
Case Study on Ulaanbaatar City Project
Mitsuo YOSHIDA and Kazue MINAMI, Japan International Cooperation Agency
(Abstract)
Ulaanbaatar City of Mongolia has been intensively contended with the
improvement of solid waste management (SWM) under the cooperation of
Japan International Cooperation Agency (JICA) since 2004. JICA’s cooperation
approach was a “Program Approach”, which was composed of consecutive
three projects, namely the Development Study for formulating a Master Plan
of SWM (2004-2007), the Grant Aid Project of sanitary landfill construction
and equipment supply (2007-2009), and the Technical Cooperation Project
and Volunteer Dispatch for human resource development and organizational
development (2009-2012).
According to the result of the Project Joint Terminal Evaluation held in May
2012, a significant capacity development could be observed at individual,
organizational and societal levels; where human resource development has
been successfully achieved, and sustainable implementation of newly
constructed sanitary landfill and waste collection/transportation service has
been realized.
However coordination and collaboration among stakeholders including
district and private sector are still insufficient, which will be the future
challenges for the Ulaanbaatar City authority.
本プレゼンテーションの本文・図表・写真の無断転用をお断りいたします。 ©吉田充夫・南 和江(2012)
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