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人文社会論叢
社会科学篇 第25号
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弘前大学人文学部
2011
目 次
【論文】
企業の不正摘発・防止の監査手続き …………………………………………… 柴 田 英 樹 1
森林・林業行政への原価計算の適用可能性
―兵庫県丹波市の取り組みを中心として―
……………………………………… 金 藤 正 直・丸 山 佳 久 15
市民起業家活動と産業クラスターの形成
―みえメディカルバレーの事例をもとに―
…………………………………………………………… 髙 島 克 史 37
岐阜県池田町のまちづくり指標と総合計画策定
―自治体行政における社会指標型ベンチマーキングの活用―
…………………………………………………………… 児 山 正 史 53
日本の周縁地域における労働移動とジェンダー
―女性の出稼ぎの過程に注目して―
…………………………………………………………… 山 口 恵 子 67
研究活動報告 ……………………………………………………………………………………………… 85
企業の不正摘発・防止の監査手続き
柴 田 英 樹
目次
一.はじめに
二.企業の不正摘発・防止の監査手続きの必要性
三.企業の不正摘発・防止の監査手続きとはどのような監査手法か
1.粉飾決算の手口
2.不正摘発・発見の監査手続き
四.企業の不正防止対策としての事前監査
1.事前監査の前提の整備
2.会計不正防止対策としての事前監査
五.結びとして
一.はじめに
企業不正は好景気の時よりも不景気の時の方が圧倒的に多く行われる。これは何とか自分の会社
をつぶしたくないという経営者の真実の発露といえよう。現在、わが国は長期の不景気にあって企
業の中には新しい成長局面へと脱することが困難であるため、企業不正が常態化しているといえる
状況にあるといえよう。しかし、こうした事態が長期間にわたり続くことは望ましいことではな
い。そこで外部監査において企業不正が摘発・発見できる監査手続きを実施することが必要になっ
てきている。本稿は企業の不正摘発・発見のために有効な監査手続の構築に向けて一助になること
を目的として検討・執筆された論文である。また、第四節ではさらに不正の摘発・発見だけでな
く、予防・防止の観点から事前監査についても検討している。
二.企業の不正摘発の監査手続きの必要性
「20世紀初頭までは、不正を見つけることが会計士の一番の役割だった」と元FBIエージェントで
あり、また公認会計士でもあるジョン・ウェルズiはいうii。ウェルズの意見は、監査人は不正摘発
におけるこれまでの役割を、今後いささかなりとも改善できるはずだし、またそうすべきだという
ことであるiii。筆者もこのウェルズの考え方に賛同する。彼は、会計士全員が不正を暴くための訓
1
練を受けるべきだというiv。
内部統制の出現は企業の大規模化において必然的な出来事であった。それは企業内部における経
営管理システムの有効性を確保するために同一部門内の内部チェックや内部牽制は必要不可決だか
らである。また、通常の業務部門と独立したスタッフ部門であり、経営者に直属する内部監査室に
よる通常の業務に関するモニタリング(監視)も重要である。しかし、こうした内部統制の働きに
よっても企業内部における従業員の不正を完全に発見・摘発を行うことは困難な状況であり、また
不正だけでなく単純な計算ミスや入力誤りが発生する可能性を否定することさえもできない。
そこでこうした従業員不正の防止に注力し、さらに従業員の不正の発見に努めなければならな
い。そして従業員による不正が防止された場合には、そのまま目をつぶっているのではなく、速や
かに二度とこうした不正が起らない体制へと改善しなければならない。
会計監査の歴史をたどると、経済的な取引の増加とともに企業が大規模化し、それにより試査の
拡大が行われ、すべての監査項目に関して検証を行う精密監査から貸借対照表監査、財務諸表監査
への進展が見られたことが明確になっている。
貸借対照表監査から財務諸表監査に監査の対象が変遷してからは、それまで監査の中心であった
監査の対象から不正の発見・防止は第二次的な監査目的へと格下げされた。とくにアメリカで、
1933年の連邦有価証券法、1934年の連邦証券取引所法において会計士監査は企業不正の発見を目的
としないと主張されるようになった。しかし、企業の経営破綻が頻発していたにかかわらず、財務
諸表の適正表示の監査へと監査の重点を移してよいかは疑問であった。この際に不正の発見・防止
という大きな問題が潜在化してしまったのである。
また、経営破綻の背後に経営者不正が存在している。これは企業経営において従来は、株主の力
が強力であったが、業務内容の専門化が進み、株主の力は徐々に低下していったためである。しか
し、こうした経営者の権限が強くなるにつれて、経営者が専制的になり、ついには企業を支配する
ようになってきた。そして経営者自身の利益を株主の利益よりも優先させることなった。そのため
に破綻企業に「適正意見」が付された監査報告書が出ていることも珍しいことでなくなってきてい
る。これは非常に大きな問題である。というのも、監査の存在意義自体が問われる事態であるため
である。
このような現状を考えると、財務諸表監査の目的は財務諸表の適正性の意見表明というよりも、
経営者不正の摘発・発見に重点をおいた方が妥当である。ところが現在はいまだこうした対応が充
分に行われているわけではない。
アメリカをみると、監査人に対する損害賠償訴訟では監査人が敗訴している場合が多い。「監査
人は企業の不正の摘発・発見について役割認識なし」というのが従来の監査人の考え方だった。財
務諸表の利用者は経営者不正の発見を期待している。こうした利用者の要望に適切に応えていると
はいえないのが現状である。そのため「期待ギャップ」問題が顕在化してきたのである。いやもと
もと監査人は気付いていたのであるが、監査人の責任が過重されることを恐れてわざと対応してこ
なかったといった方がよいかもしれない。しかし、もうそうしたことでは許されなくなってしまっ
たのである。このまま期待ギャップ問題を放置することは好ましいことではなく、何らかの対処が
2
必要であることはアメリカの監査学界(AAA)も米国公認会計士協会(AICPA)も1980年代後半
にはようやく気付いてきた。そして米国では、この期待ギャップに対応するための方策として監査
基準の抜本的な見直しを行った。こうしてAICPAは1988年にSASの基準を次に掲げる9つにわた
り新設するに至った。
①SAS第53号「誤謬と異常事項の発見と報告に対する監査人の責任」
②SAS第54号「被監査会社の違法行為」
③SAS第55号「財務諸表における内部統制構造の検討」
④SAS第56号「分析的手続」
⑤SAS第57号「会計上の見積もりの監査」
⑥SAS第58号「監査済み財務諸表に関する報告書」
⑦SAS第59号「事業体のゴーイング・コンサーンとしての存続能力についての監査人の検討」
⑧SAS第60号「監査中に発見された内部統制構造にかかる事項の通知」
⑨SAS第61号「監査委員会への通知」
これらの監査基準書の新設は、監査人の責任の拡大を意味している。
ワインスタインは期待ギャップを縮小するには、2つの方法があるというv。1つは外部の管轄機
関、特にSECや議会に依存する方法であり、もう1つは自らを規制するために職業会計人の自助努
力に依存する方法である。AICPAがSASを新たに新設する方法は後者のやり方に該当しよう。
三.企業の不正摘発・防止の監査手続きとはどのような監査手法か
不正摘発・発見の監査を外部監査人が行う場合、通常の財務諸表監査で行うべき監査手続きを
行ったうえで、追加的に実施する必要がある。なぜなら、財務諸表監査の目的は財務諸表の適正性
に関する監査であることはいまだ変化していないからである。
河合秀敏はAICPAの一般的な見解を次のようになるとしているvi。
「財務諸表の適正性の監査目的は、財務諸表に対する監査人の意見表明にある。したがって、不
正・誤謬などの財務上の欠陥そのものを摘発することを主たる目的と考えているものではないし、
またそれを期待してはならない。監査の途上で発見することがもちろんあるけれども、そのものの
発見をねらって行なわれてはいない。財務諸表監査に際して監査人が不正を摘発できなかったこと
に対する責任は、一般に認められた監査基準に準拠しなかったことによって生じたことが明らかで
ある場合にのみ負わなければならない。」
現在における財務諸表監査の考え方と少しズレているように感じるだろう。もちろん河合はこう
考えていたのは30年も以前のことである。そしてAICPAも現在は、不正の摘発・発見を重視する
方向性を向いていることは確かである。しかし、不正の摘発・発見を正面から行おうとまではまだ
していない。こうしたAICPAに不満を持った公認会計士ジョン・ウェルズは公認不正検査士協会
を設立している。
河合は、「財務諸表監査は、独立の立場から、経営者の作成した財務諸表に信頼性を付与する役
3
割をもって行なわれるものであるから、経営者の善意を前提」にしているというvii。一方、企業の
会計不正の摘発・発見は、「不正の摘発を主としてねらった特殊目的の監査」であり、財務諸表監
査とは「まったくちがっている」というviii。
河合は、こうした考え方から財務諸表監査の目的を次のように結論づけているix。
「財務諸表監査における不正の位置というものは、監査意見表明への影響度によって扱いが異な
り、一般的には不正は適正表示のための監査証拠の構成要素にすぎない。したがって不正摘発その
ものは監査の主たる目的にはなりえず従属目的として位置づけるべきである。」
河合の考え方は少し古くなった感は否めないが、財務諸表監査が経営者の善意を前提としてお
り、不正摘発・発見の監査が経営者の不正、つまり悪意を前提としたものであることは正しい指摘
であるといえよう。
1.粉飾決算の手口
COSOxは1987年から1997年の間の米国の公開企業の粉飾決算事件を対象にした分析と防止対策を
報告書にまとめている。この報告書によれば粉飾決算の特徴は、次のように分析される。
粉飾事件を起こす企業 について、COSOでは比較的小規模な企業ないしは赤字か利益ゼロに近
い企業としている。しかし、エンロン事件(2000年度全米第7位)、ワールドコム事件(1999年度
全米第5位)等に見るように現代では大企業でも粉飾事件を起こすところが少なくない。これは何
もアメリカ固有のことではなく、日本でも名門企業のカネボウが粉飾を長年にわたり行われていた
ことからわかるように万国共通の事項である。
ここでCOSOが赤字か利益がゼロに近い企業と指摘している点は納得のいく事柄である。赤字で
あると金融機関は融資に応じてくれなくなったりするし、利益が赤字やゼロでは経営者が自己の地
位を継続・維持することができなくなってしまう。
不正は次の(1)から(10)に示すような利益が増加する勘定科目を使用して会計操作により行
われることが多い。したがって、それに対応した不正摘発・発見の監査を行うことが必要になる。
そこで企業の不正や粉飾決算がどのように行われているかを調査・研究する必要がある。
(1)架空売り上げの計上
(2)架空在庫の計上
これら(1)と(2)の粉飾はキャッシュ・フロー計算書の監査で発見することが可能である。
なぜなら架空売上では現金入金がもたらされないからである。一方、架空在庫の方は、仕入時に現
金支出がもたらされないことから、買掛金などの仕入債務が長期に滞留する可能性が高い。また、
架空在庫はたな卸立会でチェックすることが可能である。外部監査人がしっかり実証手続を行え
ば、それほど困難を伴わずに架空在庫は見抜くことが可能である。
特に大規模な粉飾では必ず売上高の粉飾決算を伴うxi。公認会計士の高田直芳は売上の粉飾は粉
飾の中でも常套手段というxii。売上の計上基準としては、出荷基準と検収基準が一般的である。粉
飾している企業が売上計上基準として検収基準を採用している場合には、仕入先が不正に加担して
いなければ行うことは不可能である。しかし、循環取引に粉飾企業とぐるになっている仕入先が少
なくないことが最近の粉飾事例で明らかになってきた。
4
検収基準の場合が増えてきたといっても、出荷基準で粉飾を行っているケースの方がまだまだ多
いと思われる。なぜなら、仕入先に粉飾を手伝ってもらうと、「借り」ができ、いつかはその粉飾
に見合う逆の不正(仕入先の粉飾)に手を貸さざるを得なくなるためである。
(3)架空売掛金の計上
また、架空売り上げに伴う架空売掛金は回収されることがない。そのため、架空売上と架空売掛
金は発見されやすい粉飾方法である。売掛金の年齢調べを行うことにより、長期に滞留している売
掛金の存在を発見することで容易に見破ることができるからである。しかし、企業は他の売掛金が
入金されると、架空売掛金が回収されたかのように見せかける。このように不正が発見されにくい
手法を駆使するので注意が必要である。
(4)借入金の売上計上
架空売掛金は見つかりやすいので、より不正を発見しにくい方法として、借入金を架空売上計上
し、借入金を簿外負債にしてしまう粉飾のやり方がある。これだと実際に現金入金があるために売
上が架空であることが発見しにくいからである。
(5)固定資産の会計操作
固定資産の金額を増加させれば、貸借平均の原理から利益の金額を増加することが可能になる。
そこで本来は費用計上しなければならない項目についても、固定資産に計上する粉飾が行われるこ
とがある。
もっとも単純な固定資産の粉飾は修繕費を収益的支出とせずに資本的支出として扱い、固定資産
の金額に加算することである。これは2002年に行われたアメリカにおける最大規模の粉飾といわれ
ているワールドコムに見られた粉飾で行われていた。ただし、このような粉飾は固定資産の金額が
前年度に比べて大幅に増加していれば、その原因を追究することで発見することが可能である。つ
まり、前年度と当年度との増減分析は必要不可欠といえよう。
(6)費用の過少表示
費用の一部を隠ぺいすることで利益を捻出する。粉飾方法としては費用を隠ぺいする手法と費用
を固定資産に振り替えるやり方がある。後者の粉飾はワールドコムで行われていたやり方である。
(7)損失の発生した勘定を帳簿外にする取引
損失を発生した場合にそのままそうした勘定科目を認知するから、損失を認識しなければならな
いのである。もしSPE(特別目的事業体)など他社に当該損失を他社に飛ばすことができれば損失
を認識する必要はなくなる。それを可能にするのが連結外しである。連結しない子会社に損失を飛
ばしたり、また投資事業組合や特別目的会社を使い、連結しなくてもよい蓋然性を創出したりし
て、巨額な損失を連結対象会社から別の会社等に異動させるのが粉飾の手法である。しかし、この
場合には、連結子会社だけを監査の対象とせずに連結していない子会社や投資事業組合や特別目的
会社の決算書を入手し、本当に連結しないでよいのかについて検証を行うことで、こうした不正は
発見することが可能である。
(8)循環取引を使った粉飾取引
また、これは連結外しではないが、 仕入先や売上先の自社と利害関係を持たない第三者間取引
5
においても、多くの企業で粉飾操作のために取引を実施していることが明らかとなってきた。それ
は関係会社取引ではないので、もっとも発見することが困難な粉飾の1つである。
監査人にとって当該循環取引が発見することが困難な理由は、自社と独立の第三者である取引先
の企業であることが多いために、監査人自体がそうした不正を行っていることはないとの性善説に
立っているからである。通常は第三者間取引では不正取引が生じていると判断しない監査人の考え
方は正当な注意義務違反として、監査プロフェッションとしての行動に反しているわけではない。
しかし、そこを逆手にとって、実際には不正取引が多く発生している実態がだんだんと明らかに
なってきている。
監査人は反面調査権がないという泣き所をついた不正であるといえよう。循環取引は違法な取引
である。つまり、実際には販売することが困難な商品を売り先が買い、売り先から他社に転々とし
て商品が売り買いされ、最終的にもともと商品を販売した企業に循環して戻ってくる取引である。
したがって、最初に売却した際の売上計上に伴い発生した架空売掛金は回収されず、利益の計上が
もたらされている状況になっている。カネボウなどはこれが常態化してしまっており、毎年のよう
に循環取引が繰り返されていた。そのため社内では宇宙遊泳といった取引で呼ばれていた。また、
食品メーカーのカト吉でも循環取引が行われていたことは明らかになっている。
(9)監査人が長期にわたり監査を担当
企業と監査人との間に癒着構造が生まれる可能性が出てくる。実際にビッグ・ファイブの一角を
占めていたアンダーセンは高額の監査報酬やコンサル報酬を得ていた。監査人は常に第三者として
厳正に対応しなければならないが、そうではない倫理観に乏しい監査人が存在していることは否定
できない。
(10)ストック・オプションの存在
役員などの経営幹部にストック・オプションを認めている企業では、利益を計上して株価を上昇
させたいとの意識が高まり、不正体質に陥りやすい。ストック・オプションを実施している企業は
資金力のない新興企業が多いため、株価が上昇すれば経営陣は株を購入し、即座に売却することで
多額の儲けが得られることになる。
2.不正摘発・発見の監査手続き
循環取引の存在の有無の確認
監査人にとって現在、最も重要な不正摘発・発見の監査手続きは、循環取引の存在の有無の確認
することであると考えられる。というのも先に述べたように循環取引は発見することが困難な取引
であり、循環取引による粉飾が多発しているからである。
最近の粉飾事例では、インターネット総合研究所 xiii(ネットワーク技術支援)、アイ・エック
ス・アイxiv(ソフトウェア製品を核にトータルソルーションを提供)、メディア・リンクスxv(情
報システム開発・販売)、サイバーファームxvi(ネット通販支援)などの企業が循環取引を行って
いた。しかも、ここに挙げた企業はインターネット総合研究所がアイ・エックス・アイの親会社で
6
あり、アイ・エックス・アイはメディア・リンクスやサーバーファームと循環取引を行っていた。
つまり、IT業界では各社が共謀して不正を行っていたのである。 循環取引とは、「実態のない架空の取引をスルー取引でいくつかの会社を介在させて行い、販売
元が最終的に購入先になるもので、係わる企業が順番に手数料を上乗せして次の企業に販売し、資
金を循環し、最後に最初の販売元が購入するものである」と定義されるxvii。
また、この循環取引の定義で出てきたスルー取引とは、「口座貸しともいわれ、実際に取引を
行う会社の間に取引に必要のない会社を挟み、伝票のみを仲介させる方法である」と定義される
xviii
。スルー取引は、信用力の乏しい中小企業が高額商品を売る場合、信用力のある企業を伝票で
介在させる方法として始まったともいわれており、仲介する企業にとっても売り上げの嵩上げにな
るため、ノルマ達成のために利用されてきたのであるxix。
上記した循環取引を行っていた企業はどれも新興市場に上場していたところである。インター
ネット総合研究所はマザーズ市場に、アイ・エックス・アイ、メディア・リンクスやサーバー
ファームはヘラクレス市場に上場していた。もちろん新興市場に上場している企業だからといって
問題のある企業ばかりではない。しかし、新興市場への上場は比較的簡単なので、問題のある企業
が上場してしまっているケースがあることも確かである。
また、これらの企業はすべてIT企業であることについても注目する必要がある。IT企業は2000
年のITバブル崩壊により、収益力が著しく低下し、企業を維持することができなくなったところ
も多い。そのため何とか生き残るためにIT企業同士が粉飾連合を形成している側面を否定できな
い。しかし、こうしたことは遅かれ早かれいつか発覚することであり、もしこうした事態が発覚し
たら粉飾をしていた企業はもちろんのこと、IT業界全体にも社会の不信の眼が向けられることに
なることに十分に思いいたしていなかったのである。
循環取引はIT企業以外にも広く行われていたことが判明してきた。それは加ト吉やカネボウの
粉飾事例から判断できる。加ト吉は循環取引による粉飾が発覚するまで、毎期売り上げが伸びてい
る一流企業と考えられていた。また、カネボウも繊維など不況産業については問題があるものの、
化粧品などは収益力が高く、まだまだ一流企業と社会一般からは思われていた。
企業と監査人が長年の間、会計監査していると、両者に癒着関係があるのではないかと話題とな
り、監査法人の監査責任者のローテーションが設けられるようになったが、被監査企業と取引関係
にある企業との間の癒着関係はこれまであまり話題になってこなかった。この理由はそれぞれの企
業が自社に有利な経済取引を行うことが通常であり、取引先企業が不正に加担することはないと考
えられていたからである。ところが内部統制監査が制度化され、実施されるようになってから、実
際には被監査企業に加担して粉飾決算している取引先企業は思ったよりも多く存在していることが
わかったのである。
循環取引をいかに見破るか
(1)支払運賃と売上との関係の検証
しかし、循環取引は実態のない架空取引であるから架空出荷に際して支払運賃は発生していな
7
い。また、運送会社に架空運賃を請求するように依頼することは難しいと考えられる。したがっ
て、売上取引と支払運賃との関係をみることにより循環取引の存在が発見できよう。
(2)怪しい取引先企業の選定
ではどういう取引先から循環取引が存在していると考えればよいのであろうか。この取引先企業
の選定は非常に重要である。長年、被監査企業と取引を行っている企業から選定することが重要で
あろう。長期の取引により癒着関係が生じる可能性が高いからである。次に毎年のこうした取引先
企業への売上高の推移をとり、その中で急激に売り上げが増加しているケースは注意する必要があ
る。売り上げを水増しするために得意先企業を利用している場合がありうるからである。
(3)反面調査の依頼
監査人は反面調査権がないため、被監査企業は循環取引を利用した粉飾を行うのである。しか
し、相手先の企業が調査を受け入れてくれれば、反面調査も可能である。つまり、反面調査する権
限を国税庁の査察のように監査人は持っていないが、反面調査を被監査企業と取引している企業に
依頼して、取引先の許可が出れば反面調査もできるのである。
したがって、怪しい取引があると確信した場合には、取引先に被監査会社の取引を調べたいので
帳簿を見せていただきたいと依頼するのである。ただ循環取引の場合には、取引先もグルなので容
易に許可はでないであろう。また、被監査企業に黙ってこうした行為を行えばトラブルに発展する
こともありうる。
そこで反面調査を依頼する場合には、被監査企業の許可をもらい、被監査企業から取引先企業に
「監査人が自社の監査で必要だといっているので、当社との取引に関する帳簿を見せていただけな
いか」といってもらうのである。もちろん被監査企業でこうした依頼を拒絶される場合もあるだろ
うし、取引先企業で拒絶される場合もあるだろう。ただこうしたやり取りを通じて、拒絶されても
監査人はいろいろと状況証拠をつかむことができる。
被監査企業が即座に拒絶したら、これはかなり怪しい取引であるということである。また、被監
査企業が了解し、取引先企業が拒絶したならば、これは即座に怪しい取引であるとはいえないこと
がわかる。
また、監査人がここまで調べるのかということを示しておけば、今後循環取引を行おうとする際
にかなりの抑制効果、牽制効果が働くことになる。
公認会計士の高田は大企業の粉飾決算は、つぶれてみないとわからないというxx。これは「大企
業では、有資格を含む経理のベテランを配し、種々の巧妙な粉飾を行うことが可能」であるからで
あるxxi。
外部監査人はプロであるが、大企業の優秀な経理マンが最大限の能力を発揮すれば、外部監査人
もそうやすやすと粉飾を発見することは難しい。
現代監査では、統制環境面についてもしっかりとした監査が必要とされている。いやむしろ外部
監査では統制環境面の監査が中心になっているといえよう。これは上級経営者が粉飾に荷担するこ
とが多いといえるので、経営者の資質が問われるようになってきたからである。
8
監査委員会は存在しないか存在しても非活動的なのが、アメリカにおける監査委員会に対する
COSOの調査結果であるxxii。
取締役会は社内取締役が多数派を占めているのがアメリカのケースである xxiii。日本でもまだ社
内取締役が多数をしめており、この点ではアメリカも日本も同様な状況にある。
取締役や執行役員が親族で占められていたり、強力なオーナー経営者が全体を牛耳っている。
不正の性格を吟味する必要がある。それは小規模企業のわりに累計粉飾額は大きく膨らんでいる
ということである。
粉飾は複数期間にわたって連続して行われる。したがって、一期であったら発見できなかった会
計不正を最終的には発見されることになる。
収益と資産の水増しが典型的手口である。これらの典型的な手口により利益を過大に計上するこ
とが可能となる。
外部監査人の問題 についても検討することが必要である。
外部監査人は世界的な四大会計事務所(ビッグ・フォー)から公認会計士一名の個人会計事務所
までというように大規模から小規模まで様々でありうる。
粉飾期間には様々な種類の監査報告書(適正、不適正等)がありうる。これは監査人がどうクラ
イアントに関わったにもかかってくる。また、監査人の能力も大きく影響してくる。
COSOでは、全体の1/4のケースで監査人が粉飾に共謀しまた重過失と認定されているxxivが、そ
れらのほとんどは6大会計事務所(ビッグ・シックスと呼ばれていた。しかし、これはCOSOの調
査当時のことであり、現在では4大会計事務所になっている)以外の中小会計事務所であるxxv。
粉飾期間に外部監査人を交代しているケースもいくつかある。これは外部監査人が自ら監査人を
降りた場合と企業側から降ろされた場合とがある。
粉飾に荷担した企業・個人のその後は当然の結果とはいえ、悲惨なものである。
ほとんどの粉飾企業では、粉飾事件が発覚後、倒産、株主交替、公開廃止等の厳しい状況に至っ
ている。しかし、粉飾をしていても発覚していない企業もあるわけであり、このようなケースでは
立ち直ったかどうかが不明である。多くの粉飾企業はこのように粉飾して、経済状況が好転するの
を待って、立ち直ることを望んでいると考えられる。
また、ほとんどの個人が代表訴訟や行政処分によって財務的に厳しい状況に追い込まれている
が、刑務所に服役するケースは稀である。これらの監査手続きは企業が粉飾を行った場合に、外部
監査人が事後的に粉飾などの会計不正を発見する手続きである。しかし、それよりも重要なのはそ
うした不正を企業の経営者に行わせないようにする事前監査である。次の第四節では事前監査の方
法について検討を行う。
四.企業の不正防止対策としての事前監査
企業の不正をただすタイミングとして、不正を行ってから見つめるよりも、不正をできないよう
にすることの方が重要である。そのためには事前監査は事後監査に比べて有効であり、かつ効率的
9
である。そこで企業の不正防止対策としての事前監査を外部監査人が行う場合を検討してみよう。
1.事前監査の前提の整備
事前監査を行う際に最も効果が上がるように次に述べるような前提条件を調査し、できるだけ整
備しておく必要がある。
(1)経営者が長期政権であるかの検討
事前監査でどのように効果を上げるかといえば、不足が起きる前に不正を行いそうな経営者には
退任してもらうことが不正の防止には一番効果がある。しかし、経営者は自分がトップの際に企業
の業績が下がったことを認めたがらない。なんとか自分が能力のある経営者であることを示したい
のである。そのことがますます窮地に陥ることが少なくない。そこで経営者には長期の地位を保障
することを認めないようにすることが望ましい。一期ないしは二期しか経営者であり続けることが
できないような法制度を確立するのである。
もちろん、小規模で公開していない会社ではそうした規制を行うことは困難であるし、またその
必要もない。大規模で公開企業にこうした経営者の長期の経営にタッチすることをすれば、経営者
は不正を行う動機が減少することになる。
(2)内部統制の権限強化
次に内部統制の権限強化である。もともと内部統制は経営者のためのチェック組織である。しか
し、経営者が不正を行うことによっても経営効率は有効性をそがれることになる。つまり、内部統
制の目的に反する行動はたとえ経営者であっても認めない組織づくりが必要である。
(3)業績予想の根拠の妥当性
公開企業は年度末の経営成績を予想しており、決算短信をはじめ、会社四季報、会社情報などに
公表している。そこでその数字の根拠を経理部などの担当部署から入手し、その根拠の妥当性を検
討するのである。この検討の結果、根拠が十分でないケースでは、不正が行われている蓋然性が強
いといえよう。というのは、予想とはいえ、会社の業績を公開しているから、そこに反するような
業績結果は社会から批判を浴びる可能性があるためである。
(4)親会社と子会社の決算期のずれ
高田は、「親会社と子会社の決算期をずらすことで、粉飾決算が用意に見つからないように」す
ることができるというxxvi。親子会社の決算期のずれを使った決算操作は実際に行われているケー
スが多く、高田の指摘は正しいといえる。
2.会計不正防止対策としての事前監査
友杉は企業不正防止監査を経営者不正予防監査と呼んでいる xxvii。そして友杉は不正を従業員不
正と経営者不正にわけて次に示すように考えている。
「従業員不正は内部統制の整備・充実によって防止が可能であるが、経営者不正は内部統制の
チェック機能をこえて発生している。粉飾、損失補填、飛ばし偽装表示事件など経営者トップによ
る不正が頻発し、監査は一体何をしているのか、機能していないのかとの批判が主張され、経営者
不正の防止に対処してきている。改訂された監査基準では、内部統制組織と経営環境を評価し、リ
10
スク・アプローチによる重要な虚偽の表示の点検により、経営者不正を防止することになってい
る。」
また、友杉は経営者不正の監査手続きに関して、次のように述べているxxviii。
「経営者不正は経営者によって行われる不正であり、経営者の誠実性を考慮し、監査の計画段階に
おいて、不正の危険性はシニアの経験ある監査人によって特に評価されなければならない。経営者
の誠実性の仮定の妥当性を考慮し、経営者不正が発生する場合が高い場合、保証の程度を高める監
査手続を実施する必要がある。」
会計不正防止対策として次の点が挙げることができる。
(1)経営者へ内部統制の整備・運用の働きかけ
粉飾事件を起こす企業に関連して、規模企業は内部統制の整備がおろそかになりがちで、取締役
会、監査委員会、外部監査人は最低限の内部統制を整備・運用するよう経営者に働きかけなければ
ならない。しかし、企業規模が小さい場合には、わが国では監査委員会が設置されていることはほ
とんどない。つまり、監査役設置会社の方が圧倒的に多いといえよう。
また、証券規制当局による小規模企業に対する内部統制の整備要請の緩和措置は、リスクとの兼
ね合いで見直すべきであるとCOSOではしているxxix。
COSOでは、継続企業についての検証手続、監査人交替の時の前任監査人とのコミュニケーショ
ンを非常に重要視している。
(2)統制環境に対する監査の強化
統制環境面に関連して、上級経営者が受けているプレッシャーを理解することは重要である。こ
うしたプレッシャーがあると不正を起こす可能性が高まるからである。
COSOでは、公開企業に対する財務的要請に明るい役員は他の上級経営者を説得して粉飾を思い
とどまらせることができるかもしれないとしているxxx。
COSOとトレッドウェイ委員会は、監査委員会は、すべての公開企業に対して、構成員全員を社
外取締役にすることを要求しているxxxi。また、小規模企業においても監査委員会を例外なく設置
する義務はないが、監査委員会の存在は内部統制の強化につながるとしている xxxii。これはアメリ
カ固有の話である。アメリカには日本のような監査役制度がないからである。小規模企業において
は特定個人に権限が集中しがちな分、取締役会の独立性と能力の重要性は大きい。監査委員会と取
締役会による監視の有効性は、受け取る情報の質に大きく依存するため、監査人は情報収集にあた
りこの点にも十分留意する必要がある。
投資家は親族による経営やワンマン経営についてそのリスクと利点を慎重に評価しなければなら
ない。親族による経営は公正な経営を乱すことが多く、またワンマン経営は経営者が専制に陥りや
すいためである。
不正の性格に関連して、粉飾が通常複数期間にわたることから、四半期ごとの財務報告書のレ
ビュー、決算書作成手続に対する内部統制、長期的な監査戦略の重要性が指摘されるxxxiii。
年度末近くで行われる収益と資産の水増しがありがちな手口である以上、損益期間帰属と資産評
価についての内部統制に十分留意することが重要である。
11
外部監査人の問題に関連して、 外部監査人は財務諸表だけ見ているのではなく、企業の業界や
経営者の粉飾への誘因、内部統制からくるリスクに着目して適切に監査計画を組み立てなければな
らない。
取締役会や監査役等(監査役会、監査委員会)が弱体な企業の監査に際しては監査リスクが高い
ことを十分に認識しなければならない。
(3)被監査会社に属する企業が抱えるリスクや変化及び問題等の認識
「問題のある監査は問題のある産業に関連する傾向がみられる」と財務コンサルタントのワイ
ンスタイン女史はいうxxxiv。そして問題のある産業とは、アメリカにおける1970年代では不動産業
で、その後に防衛産業、ごく最近(筆者加筆:1987年当時)では銀行では銀行や貯蓄がその対象
だったとしているxxxv。
こうしたリスクに監査人が気付かず手遅れになり、結果的に大衆がこうしたいくつかの企業の危
険な状態について早期警報を受けられなかったことが幾度となくあったとワインスタインはいう
xxxvi
。
COSO報告書では粉飾決算を巡るコーポレート・ガバナンス(企業統治)構造を、経営者、取締
役会、監査委員会、外部監査を中心に分析している。報告書において明示的には取り上げられては
いないものの、粉飾が不正の一形態である以上、内部監査人も当然にその防止・摘発に重要な責任
を負うことになる。
五.結びとして
不正摘発・発見する監査手続きの重要性が増してきている。これまで不正摘発・発見に関してそ
れほど真剣に取り組んでこなかったようにみえる監査業界も大きく舵を切り、不正摘発・発見の監
査に注力してきている。しかし、まだまだ十分であるわけではない。それは財務諸表監査の目的
は、財務諸表の適正性についての意見表明を外部監査人が行うこと自体をいまだ変更していないか
らである。
【引用文献・参考文献】
門脇[2008]:門脇徹雄、VBS研究会VC分科会『上場ベンチャー企業の粉飾・不正会計、失敗事例から学ぶ』中央経済社、2008
年9月。
河合[1979]:河合秀敏『現代監査の論理』中央経済社、1979年11月。
高田[2002]:高田直芳『決定版 ほんとうにわかる経営分析』PHPエディターズ・グループ、2002月7月。
鳥羽共訳[1996]:鳥羽至英・八田進二・高田敏文『内部統制の統合的枠組み 理論篇』白桃書房、1996年5月。(the
Committee of Sponsoring Organizations of the Treadway Commission“Internal Control-Integrated Framework”,the
American institute of Certified Public Accountants,Inc.,1992 and 1994)
鳥羽・八田[1999]:鳥羽至英・八田進二『不正な財務報告 結論と勧告』白桃書房、1999年2月。(the National Commission on
Fraudulent Financial Reporting “Report of the National Commission on Fraudulent Financial Reporting”,the American
institute of Certified Public Accountants,Inc.,1987 and 1988)
12
友岡監訳[2004]:友岡賛監訳、山内あゆ子訳、マイク・ブルースター著『会計破綻 -会計プロフェッション-』税務経理
協会、2004年2月。(Mike Brewster,“UNACCOUNTABLE How the Accounting Profession Forfeited a Public Trust”,
John Wiley & Sons,Inc.,2003)
友杉[2006]:友杉芳正『新版 スタンダード監査論〈第2版〉』中央経済社、2006年11月。
渡辺訳[1991]:渡辺政宏訳、グレース・W・ワインスタイン『アメリカ会計士事情』日本経済新聞社、1991年12月。(Grace
W.Weinstein“THE BOTTOM LINE”,New American Library,New York,1987)
i
ジョー・ウェルズの不正発見の使命感は本物であり、公認不正調査士協会を設立した。友岡監訳[2004]、41頁。
ii
友岡監訳、前掲書、26頁。
iii
友岡監訳、前掲書、26頁。
iv
友岡監訳、前掲書、26頁。
v
渡辺訳[1991]、208頁。
vi
河合[1979]、14頁。
vii
河合、前掲書、15頁。
viii
河合、前掲書、15頁。
ix
河合、前掲書、16頁。
x
COSOは不正に関して研究調査を行ったトレッドウェイ委員会の支援委員会である。このようにトレッドウェイ委員会を
資金的に援助する組織だった。トレッドウェイ委員会は研究報告書を公表後において解散したが、COSOはその後もト
レッドウェイ委員会に代わり活動を続けた。つまり、COSOはトレッドウェイ委員会が不正を改善する提言を行った問題
をより推進していった。といっても自己の組織は各専門団体から組織されていた。しかし、不正の調査・研究を行う専門
家は十分にはいなかったと考えられる。そこでより専門性を重視して、大手会計事務所の1つであるプライスウォーター
ハウス・クーパーズ(当時、クーパーズ・アンド・ライブランド)に報告書の作成を依頼し、その報告結果をCOSOレ
ポート(広義)として公表した。この報告書は2回にわたって調査が行われ、1つがCOSOレポート(狭義)、もう1つ
がERMレポートと呼ばれている。
xi
高田[2002]、315頁。
xii
高田、前掲書、315頁。
xiii
門脇[2008]、44-45頁。
xiv
門脇、前掲書、75-78頁。
xv
門脇、前掲書、58-62頁。
xvi
門脇、前掲書、132-134頁。
xvii
門脇、前掲書、63頁。
xviii
門脇、前掲書、63頁。
xix
門脇、前掲書、63頁。
xx
高田、前掲書、348頁。
xxi
高田、前掲書、348頁。
xxii
鳥羽共訳[1996]、190頁。
xxiii
鳥羽共訳、前掲書、190頁。
xxiv 鳥羽・八田[1999]、167頁。公開企業を相手取って起こされた119件の訴訟事件と公認会計士を相手取って起こされた42
件の訴訟事件の合計161件であり、これを分母にして、分子を会計士への訴訟数42件とすると、26%で、全体の1/4にな
る。
xxv
鳥羽・八田、前掲書、168頁。
xxvi
高田、前掲書、311頁。
xxvii 友杉[2006]、44-45頁。
xxviii 友杉、前掲書、44頁。
xxix
鳥羽共訳、前掲書、76-77頁。
xxx
鳥羽・八田、前掲書、33-35頁。
xxxi
鳥羽共訳、前掲書、146-147頁。
13
xxxii 鳥羽共訳、前掲書、147頁。
xxxiii 鳥羽・八田、前掲書、55-56頁。
xxxiv 渡辺訳、前掲書、194頁。
xxxv 渡辺訳、前掲書、194頁。
xxxvi 渡辺訳、前掲書、194頁。
14
森林・林業行政への原価計算の適用可能性
―兵庫県丹波市の取り組みを中心として―
金 藤 正 直
丸 山 佳 久
【目次】
Ⅰ はじめに-研究の目的と視点-
Ⅱ 丹波市における森林・林業行政への取組状況と原価計算の役割
Ⅲ 木材フローサプライチェーン・マネジメントにおける原価計算モデル
Ⅳ 木材フローサプライチェーン原価計算の構築と森林・林業行政への実践適用可能性
Ⅴ おわりに-研究結果と今後の課題-
Ⅰ はじめに-研究の目的と視点-
日本における森林面積の割合(森林率)は、平成20年度現在で国土面積の約67%を占めている。
また、森林の蓄積量は、1950-75年にかけて行われた拡大造林から35年から60年近く経過している
ために、成熟期を迎え、毎年増加傾向にある1。
自治体や森林・林業の関係事業者は、住宅建設等において“地産地消”を推し進めるために、国産
材の積極的な利活用を支援している。また、森林には、温暖化の抑制、土砂災害や洪水・渇水の防
止,生物多様性の保全等の多面的機能が存在するために、林業は、その機能を高度発揮させること
により、地球環境の保全に大きく寄与している。このように、林業は、地域振興や環境問題への期
待が高い産業といえる。
しかし現在、林業及び関連産業は衰退傾向であることから、森林の荒廃および中山間地域の疲弊
が急速に進んでいる。その主な要因には、外材輸入による原木取引価格の長期的な低迷を始め、林
業の機械化や経営の集約化が進まないことによる高コスト構造、林業所得の減少、林業関係者の高
齢化・減少等が存在する 2。林業および関連産業の衰退がもたらす森林の荒廃は、経済的・社会的
影響にとどまらず、地球環境全般に対して深刻な影響を及ぼすと考えられる。
林業のこうした現状を打開し、産業として十分に機能させていくためには、林業の採算性を高
めていくことが急務である 3。自治体は、これまでに森林・林業振興に関する政策および施策の形
成・実施やそれに基づく政策評価等といった数多くの行政活動を行ってきた。しかし、国内におけ
る森林・林業の現状を考えると、自治体が実施してきたこれまでの行政活動が十分に機能していな
1
2
3
林野庁『平成21年度 森林・林業白書 参考付表』2010年、1頁。
林野庁『平成21年度 森林・林業白書』2010年、9頁。
前掲書、10頁。
15
いことは明らかである。
自治体が、将来的にそうした行政活動を有効的かつ効率的に実施し、森林・林業振興を進めてい
くためには、これまでに培った経験だけではなく、森林・林業に関わるコストやそれに対する経済
振興および雇用創出等の効果を把握し、また、その結果を用いて政策・施策や予算を検討できる会
計システムが必要となる。そのためには、まずは、地域で行われている森林・林業の現状やそこか
ら明らかにされるコストの発生状況を把握できる原価計算システムが重要になると考えられる。自
治体は、このシステムから提供されるデータを利用していくことにより、森林・林業に関して有効
的な政策・施策とそれに基づいて生み出すべき効果に関する検討等といった森林・林業行政への取
り組みが容易になると考えられる。
そこで、本研究では、自治体が、今後実施すべき有効的かつ効率的な森林・林業行政活動を検討
するための支援ツールとされる原価計算モデルを明らかにする。なお、研究対象地域としては、現
在、森林・林業の振興を推し進めている兵庫県丹波市と同地域における森林・林業を中心とする。
Ⅱ 丹波市における森林・林業行政への取組状況と原価計算の役割
1.兵庫県丹波市の現状
兵庫県丹波市は、図1のように県の中央東部に位置している。市内西部を南北に日本標準時子午
線(東経135度線)が通っており、北東では京都府、南東では篠山市、南西では多可町、北西では
朝来市に接している4。
図1 丹波市の位置
(出典:丹波市『丹波市環境基本計画』2007年、5頁。)
4
丹波市「市の概要」、〈http://www.city.tamba.hyogo.jp/view.rbz?cd=1006〉、(参照日:2010年10月26日)。
16
人口と世帯数は図2のとおりである。人口は毎年減少しているが、世帯数は増加している。ま
た、就業人口は相対的に減少している。なお、その年度別人口と産業別人口は図3のとおりであ
る。
図2 人口と世帯数 図3 産業別人口
(出典:丹波市『平成20年度丹波市環境報告書』2009年、2頁。)
また、図3のうち、本研究の対象になっている林業の生産額は図4のとおりである 5。市内総生
産は、平成11年度から平成14年度まで横ばいであり、平成15年度から平成16年度までは上昇してい
る。しかし、平成17年度から急激に下降しているが、同年度以降上昇している。この動きの背景に
は、平成17年に発生した構造計算書の偽造問題とそれによる木材需要の低下等が考えられる。
図4 林業の市内総生産
さらに、森林組合等の林業関係者数は、表1に示されているように、毎年減少傾向にある。その
要因については、外材輸入による原木取引価格の低迷、林業の機械化や経営の集約化が進まないこ
とによる高コスト構造、林業所得の減少、林業関係者の高齢化・減少等が考えられる。
5
図4は、丹波市が表計算ソフトウェアを用いて作成している主要統計指標のうち「市民経済」のファイルで関連する
ものを使用している。
17
表1 第1次産業における林業関係者の数
(出典:丹波市『丹波市環境基本計画』2007年、7頁。)
丹波市の森林面積は約98%が民有林である。そのために、林業および関連産業の活性化を図り、
また、林業関係者を確保しなければ、木材資源の劣化や森林の有する多面的機能の低下が生じ
る。その結果、同市が有する資産や環境に対して多大なマイナス影響が及ぼされる。そこで、同
市では、こうした問題を解決するために、2006年度に『森林・林業振興基本計画「丹波市の森づく
り」』が策定され、公表されている6。
2.森林・林業行政の取り組み
『森林・林業振興基本計画「丹波市の森づくり』には、2007年から2017年の間に、「人間と自然
と文化」の調和のとれた「丹波市の森づくり」を、丹波市、林業関係者、木材生産・加工業者、消
費者を含めた市民・住民といった主体が協働して取り組んでいくことが明記されている 7。これに
は、表2に示された4つの取り組みが計画されている8。
表2 森林・林業振興計画の計画事項とその内容
6
7
8
丹波市『森林・林業振興基本計画「丹波市の森づくり」』2006年。
前掲書、1頁。
表1は、『丹波市森林・林業振興基本計画』の6-13頁を整理して作成している。
18
本計画におけるこれらの取り組みは、それぞれ別々に行われるものであるが、その内容は、森林
の有する多面的機能を発揮させるための管理を徹底化し、また、それを通じて雇用創出、木材製品
の生産・販売、コミュニティ形成等を推進していく、という点に集約できる。換言すれば、本計画
は、森林への直接的な効果を与える管理活動だけではなく、この活動を通じて明らかにされる林業
関係者と密接に結びついている組織(木材流通・建設に関わる生産・加工業者)や当該地域全体の
経済・社会システムにもたらす間接的な効果も考慮に入れた管理活動をすべきことを示したもので
あると考えられる。同市は、本計画に基づいて、こうした効果を生み出すための行政活動方法の検
討や有効性および効率性の観点からの行政活動の進捗管理、そして、活動後にその計画のさらなる
改善等のために、2006年度から行政評価システムを行っている9。
行政評価とは、自治体が、PDS(Plan-Do-See)あるいはPDCA(Plan-Do-Check-Action )の仕組
みに基づいて行うマネジメントの結果を評価していくための取り組みである10。特に、マネジメン
トシステム上で行われる「See」や「Check」を支援するための評価システムとして機能する。ま
た、評価の対象としては、図5のように政策、施策、事務事業の3つに分類される11。丹波市が実
施している行政評価システムは、施策評価と事務事業評価から構成されている。
図5 政策体系と評価の関係図
9
10
11
総務省、「行政評価システムの構築」、〈http://www.soumu.go.jp/iken/pdf/080305_5_4.pdf〉、(参照日:2010年11
月15日)。行政評価の取り組みは、日本では1990年代後半から行われ、先進的な事例としては、三重県の事務事業評価
システム(1996年導入)、静岡県の業務棚卸表(1997年導入)、北海道の時のアセスメント(1999年導入)の3つが
存在する(IAM=行政管理研究センター『政策評価ハンドブックー評価新時代の到来-』ぎょうせい、2006年、67-
92頁)。
行政評価の定義は、脚注9に示した3つの自治体の事例やこれらの事例が紹介されている次の文献を参考に検討した。
島田晴雄・三菱総合研究所政策研究部『行政評価』東洋経済新報社、2002年、111-162頁。
図5は次の文献を参考に作成した。稲沢克祐『公会計 改訂版』同文舘出版、2007年、52頁の図表5-1、稲沢克祐『行
政評価の導入と活用-予算・決算、総合計画』イマジン出版、2008年、13頁の図表1-4。
19
施策評価とは、後述する事務事業評価により明らかにされる評価結果を集約し、政策目標・目的
を実現させるための方策である施策を評価していくことである。そこでは、統計データや住民への
アンケート等に基づいて、現状において重要視すべき施策を明確にし、それに基づく施策目標とそ
の評価指標を設定したり、後述する事務事業において取り組むべき優先度の高い事業(既存の事業
を継続すべきかどうか、また新規事業をすべきかどうか等)の取捨選択がなされる12。そして、実
際に事務事業が行われた後に、そこで評価された結果に基づいて施策の評価がなされる。
事務事業評価は、施策目標・目的を実現させる手段となる事務事業に基づいた評価項目を用いて
評価していくことである。同市は、こうした評価を通じて、個別の事務事業に対する行政資源の有
効配分や経営努力の目標設定等といった具体的な改善や見直し、そして、その結果を情報提供し
たり13、施策評価に利用している。 事務事業評価の流れについては、図6のような3つの手続きに
なっている。
図6 事務事業評価の流れ
(出典:総務省「行政評価システムの構築-業務量算定(日報管理)-:兵庫県丹波市」
〈http://www.soumu.go.jp/iken/pdf/080305_5_4.pdf〉、2頁、(参照日:2010年11月15日)。)
図6において、まず「①評価対象事業の明確化」では、実施すべき事業とその予算が決定され
る。この段階では、安易に予算事業をそのまま評価対象事業に設定せず、予算の最下位の単位(た
とえば、予算事業を構成する「細事業」)ごとに整理し、それに基づいて評価事業に関する設定が
なされる14。
12
13
14
稲沢克祐『行政評価の導入と活用-予算・決算、総合計画』イマジン出版、2008年、72-87頁。
丹波市「平成20年度行政評価の結果について」〈http://www.city.tamba.hyogo.jp/view.rbz?cd=4744〉、(参照日:
2010年11月15日)。なお、平成20年度は、全事務事業を対象に231の事業について評価し、その結果はホームページ上
にPDFファイルで公表されている。
稲沢克祐『行政評価の導入と活用-予算・決算、総合計画』イマジン出版、2008年、36-37頁。
20
次に、「②事業総コストの把握」では、①で設定された事業の実施にかかる直接事業費、その事
業に関わった職員の人件費や間接経費、固定資産の減価償却費等といった行政サービス活動にかか
る総コスト(行政コスト)が把握される15。その中で、特に把握していくうえで必要不可欠なコス
トが人件費となる16。この段階では、人件費を詳細に測定していくために、表3に示された業務量
算定表が利用される17。
表3 業務量算定表例
(出典:総務省「行政評価システムの構築-業務量算定(日報管理)-:兵庫県丹波市」
〈http://www.soumu.go.jp/iken/pdf/080305_5_4.pdf〉、4頁、(参照日:2010年11月15日)。)
最後に「③事務事業評価の実施」では、前段階までの取り組みを参考にしながら、表4に示され
た事務事業評価表が作成される。事務事業評価表とは、行政が、事務事業の現状を把握し、認識し
ていくために、その事業の目的を達成していくうえで解決すべき課題を発見し、その具体的な改善
に繋げていくための表である 18。表4は、2008年度に実際に作成された表2の森林・林業振興計画
に関連する事務事業評価表の1つである。
15
16
17
18
行政コストの詳細に関しては次の文献を参照されたい。総務省『地方公共団体の総合的な財政分析に関する調査研究
会報告書-「行政コスト計算書」と「各地方公共団体全体のバランスシート」-』2001年、2-13頁。
職員の人件費は、予算書や決算書において款項目の総務的経費に一括計上されるために、個々の事業実施にかかる人
件費の把握ができない事業が多い。そのために、ここでは詳細な把握が必要とされる(稲沢克祐『行政評価の導入と
活用-予算・決算、総合計画』イマジン出版、2008年、39頁)。
業務量算定表に書かれている「人工」とは「にんく」といい、別名「工数」とも称されている。ここでは、1カ月1
~2時間程度の業務量は0.01人としてされている。したがって、この表では、月ごとに、各職員が各事務事業にどれ
たけ時間従事したかを記入することによって、0,01人単位で従事割合を求めることができる。また、業務コストは、
その業務量に職員の平均年間人件費を乗じて算出される数値が記載される(前掲書、39頁)。
事務事業評価表の定義は次の文献を参考にした。前掲書、18頁。
21
表4 森林・林業振興計画に関連する事務事業評価表
(出典:丹波市「平成20年度行政評価の結果について」〈http://www.city.tamba.hyogo.jp/view.
rbz?cd=4744〉、217-218頁、(参照日:2010年11月15日)。)
この表の構成は、評価対象となっている事務事業に関する「計画(Plan)」、それに基づく事業
の実施結果を明らかにした「実行(Do)」、事務事業の妥当性、有効性、効率性から行われる実
施事業の「評価(Check)」19、具体的な改善策が示される「改善(Action)」の4つの項目に分
かれている。すなわち、PDCAといったマネジメントシステムに基づく構成となっている。
まず、計画では、表4に示されているように、図6の①の段階で抽出された評価対象事業とそれ
に要する予算、事務事業の目的や内容等、実施される事務事業の概要と方向性が示される。その他
には、実行段階で業績評価していくために必要となる事務事業評価指標、つまり、当該事業に関し
て必要な経営資源に関する指標(投入指標)、事務事業活動により提供されたモノやサービス量に
関する活動・結果指標、提供されたモノやサービス量による地域経済・社会の状態変化(影響)に
19
妥当性とは、自治体が関与する必要性があるか、政策体系上の目的に結びつくか、目的達成のために選択した手段は
妥当かを問う視点である。有効性とは、成果向上の余地はあるか、同一目的の事務事業ではないかを問う視点であ
る。そして、効率性とは、業務改善によって、成果を落とさずにコスト削減可能か、民間委託によって、成果を落と
さずにコスト削減は可能かを問う視点である(前掲書、27頁)。
22
関する成果指標の設定も行われる。次に、実行では、実際に行われた事業の結果が、計画時に設定
された各種指標項目ごとに整理される。表4では、活動・結果指標である効果と投入指標となるコ
ストが示され、成果指標は後述する評価の欄に記述されている。続いて、評価では、妥当性、有効
性、効率性の視点から、計画時と実行時との比較分析により明らかにされる成果が記述される。最
後に、改善では、評価で示された課題に対する改善策が記述される。
丹波市は、表4の事務事業評価表を利用することにより、自治体で実施されている、あるいは今
後実施される事業の目的・目標を論理的かつ詳細に設定できるために、組織内にコスト意識、評価
結果や今後の改善策を周知徹底することができる。もちろん、評価結果については、図6の①や②
の手続きや、今後新たに設定される施策や事業計画にもフィードバックされるために、根拠ある形
で必要とされる事業やそれに伴う予算の絞り込みもできる。
3.森林・林業行政への原価計算の利用方法
丹波市は、本計画に基づく森林・林業振興のための行政活動を行い、また、その有効性かつ効率
性を把握し、管理するために行政評価システムを導入している。今後もこのような取り組みが継続
的に行われるが、現在あるいは将来的においてさらなる有効的かつ効率的な取り組みを検討・実施
し、より良い地域経済・社会システムを構築していくためには、森林・林業や関連産業の現状を把
握すべきである。特に、森林管理を行う林業関係者や木材生産・販売を行う木材生産・加工業者が
実施しているマネジメントシステムやそれに関係するコストの発生状況を把握していくことが必要
であると考えられる。
そこで、その把握方法としては、木材のフローに着目し、そのフローに関係する林業関係者や木
材生産・加工業者といった一連の事業主体を連携組織体、つまり、木材フローサプライチェーン
(Timber Flow Supply Chain:TFSC)を構成する事業主体として捉え、そこで発生するコストを
収集できる原価計算(Timber Flow Supply Chain Costing:TFSCCing)のモデル構築が必要とな
る。丹波市は、このモデルを、森林・林業振興の取り組みを多面的に分析し、評価していくための
代理尺度を提供するシステムとして利用できると考えられる。なお、その代理尺度となるデータ
は、TFSCCing を通じて各事業主体から収集される。そのために、同市はその主体から評価に必
要なデータを容易に入手することが可能となる。
Ⅲ 木材フローサプライチェーン・マネジメントにおける原価計算モデル
1.木材フローサプライチェーン・マネジメントモデル
林業や木材産業は、多くの中間業者が介在し、また業界自体も保守的である。そのために、サ
プライチェーン(Supply Chain:SC)のように各事業主体を連携させた組織体として捉え、その
最適化を行うためのマネジメント手法であるサプライチェーン・マネジメント(Supply Chain Management:SCM)は、欧米や他の産業と比べれば出遅れているのが現状である20。
20
酒井秀夫「林業生産技術ゼミナール サプライチェーン(1)-システム林業の意思決定方法-」『現代林業』2010年2
月号、34頁。
23
SCMは、製品や食品生産メーカーが、迅速に顧客のニーズに対応し、顧客満足度や利益最大化
を目指すために、主要なサプライヤーや顧客とのパートナーシップを築き、原材料の調達から、製
造、販売、輸送、サービス(製品修理・改善等)に至る全プロセス(全事業主体)といった一連
の業務の流れであるSCを、有効的かつ効率的に運営していき、個別プロセスおよび全体プロセス
の最適化を図っていくための経営管理手法である21。SCMは、1990年代後半からコンピュータ直販
メーカーのデル等のような製造業中心で導入され、その理論研究が現在でも続いている。一方、林
業や木材産業におけるSCMの取り組みは、上述したように、理論的にも、また実践的にもいまだ
十分に行われていない。その要因の1つには、現在の木材流通システムにあると考えられる。
日本における木材流通システムは、図7のように、TFSCの構成主体やその業務プロセスが連続
的に複数存在していること、また、需要と供給の時期調整のために流通過程に生産調整の在庫が存
在していること、在庫管理を中間流通業者が担っている(在庫管理コストを負担している)ことか
ら22、中間流通に関わる諸経費が非常にかかる高コスト構造になっているのが現状である。そのた
めに、木材の販売価格の決定権は、林業関係者にはなく、原木需要者である中間流通業者や木材生
産・加工業者が握っているために、原木市場では木材の販売価格が低く抑えられている。換言すれ
ば、原木輸送よりも前のプロセスに関わる主体では、かなりのコスト削減が強いられている、とい
うことである。
図7 現在の木材流通システムの現状
21
22
SCMは、基本的に、どこが主導権を握って実行するにしても、SCの最適化を目指して管理していくために、メー
カー、小売業、商社は同等の利益を獲得することになる。しかし、デル、コンパック、P&G等のアメリカの企業を始
め、NEC、アサヒビール、キューピー等の日本企業においても、SCMのタイプの内、生産メーカーが中心となり、
個々の取引先や顧客等とパートナーシップを図るタイプが多いと考えられる。
中村裕幸「国内森林再生のためのサプライ/デマンド・チェーン・システムのデザイン」『エコデザイン2006発表資
料』2-3頁。
24
このように、現在の木材流通システムは、TFSCの下流側の主体に有利な仕組みになっているた
めに、そのシステム全体を対象とした原価管理や適正な製品販売価格の設定等による最適化は図れ
ない形態になっている。そのために、下流側は自由に木材価格の設定ができるが、上流側の主体
は、長期にわたって事業を継続していくために必要な目標利益を十分に確保できなくなっているこ
とから、適切な森林管理ができない状態になっている。このような状態が続けば、日本の木材流通
システムは、高コスト構造化から抜け出せず、また今後、消費者に対して品質の高い木材の生産や
提供が難しくなる。その結果、いつまでも林業・木材産業の仕組みを改善できず、産業としての活
性化はできなくなると考えられる。
そこで、林業関係者の業績改善を目指した木材流通システムに変えていくための方法としては、
TFSCを対象としたマネジメント(Timber Flow Supply Chain Management:TFSCM)が考えら
れる。TFSCMでは、林業関係者が、TFSCを構成する事業主体間の関係を把握しながら、付加価
値活動を維持しつつコスト削減を実現したり、エンドユーザー(消費者)のニーズ(需要情報)を
共有し、それに応じて必要な品質と量の木材を大工・工務店に発注していく流通の起点となるプル
型の流通システムを実現できる23。TFSCの構成主体は、TFSCMに取り組むことにより、図8のよ
うに、顧客価値を高めて住宅市場や原木市場における木材の販売価格を上積みできたり、個別プロ
セス及び全体プロセスにおいて非付加価値活動やそれに伴うコストを削減できる等により、各事業
主体で新たな利益を生み出すことができる。その結果、林業関係者は、適切な森林管理にかかるコ
ストを十分に回収できるだけの木材の販売価格を原木市場で設定することができる。
図8 木材フローサプライチェーン・マネジメント導入による木材流通システムモデル
23
中村裕幸「国内森林再生のためのサプライ/デマンド・チェーン・システムのデザイン」『エコデザイン2006発表資
料』3頁。
25
ただし、TFSCMの実施にあたり、プル型方式に特化しすぎるマネジメントは、現在の木材流通
システムと同じように、TFSC における上流の事業主体に厳しいコストカットを迫る可能性を有し
ている。その結果、木材の販売価格の低迷や高コスト構造に喘いでいる林業関係者は、自身の経営
を圧迫し、林業の衰退がもたらす森林の荒廃を加速させることになりかねない。そのために、上記
のプル型方式に、上流の事業主体が生産・加工した素材や製材を、森林管理に要するコストを十分
に回収できるだけの価格で市場に押し出すプッシュ型方式を組み合わせた統合型TFSCMが必要に
なろう。
なお、統合型TFSCMは、一定の収益を確保していくためにも林業関係者がTFSCの基軸主体と
なり、そのSCに属する各事業主体が、住宅市場における需要動向やそれに関係する製品情報を相
互にやり取りして、顧客価値を高めるとともに、流通在庫を排除して低コスト化を実現していくた
めのマネジメントシステムとして機能させるべきであると考えられる。
2.原価計算モデルの構築方向性
丹波市では、これまでに森林組合を中心として、図8のようなTFSCMの実践的な取り組みがな
されている。その取り組みとは、2007年に全国で初めてデマンド・プル型の流通システムを構築す
るために行った木材トレーサビリティの実証実験である24。この実験では、電子タグが取り付けら
れた立木あるいはそれを加工した木材のフローを通じて、立木・素材・製材・プレカット材等に関
するデータの追跡可能性が検討されている。同森林組合は、この実験を通じて、需要をトリガーと
して木材を流通させること(デマンド・プル)で流通在庫を排除し、低コストを実現しようとして
いる。なお、実証実験は現在でも試験的ではあるが継続されている。
電子タグには、木材トレーサビリティに必要となる12種類の物量データや定性データの項目が記
録されている25。しかし、作業や輸送等にかかったコストや木材の販売価格といった会計データ項
目は記録されていない。そのために、TFSC に属する各事業主体は、関連するコストおよび収益
性の分析が十分にできないのが現状である。TFSC に属する各事業主体が、前節で述べた統合型
TFSCMを導入し、プロセス全体の最適化を目指すためには、TFSCに関わる経営資源のデータを
定量的に測定・評価し、管理できる会計モデルが必要となる。そのモデルとは、図9に示されてい
るように、統合型TFSCMの基軸となる森林所有者・森林組合の林業関係者が、他の事業主体との
情報交換を通じて、個別主体およびSCの業務プロセスに関わる活動及び関連コストを管理し、そ
のプロセスを最適化していくTFSCCingモデルである。
24
25
兵庫県における木材トレーサビリティの実証実験は、コンサルティング会社である株式会社 DCMC が中心となり、
東京大学・兵庫県協同組合しそうの森の木・兵庫県丹波市・丹波市森林組合と協力して行っている SCM の試みであ
り、現在の日本の木材流通システム(サプライ・プッシュ型)から、エンドユーザーのニーズも考慮に入れたデマン
ド・プル型への変換を提案している(中村裕幸「サプライ・プッシュ型からデマンド・プル型の木材供給へ持続可能な
国内林業経営のためのトレーサビリティ向上実験」『住宅ジャーナル』2005年10月号、新建材新聞社、48-53頁)。
電子タグに記録されているデータ項目には、① 緯度経度情報、② 地域名、③ 所有者(立木売却時には購入者名に変
更)、④ 管理者、⑤ 胸高直径、⑥ 初期計測日時、⑦ ⑤の胸高直径記録日時、⑧ 樹種、⑨ 品質、⑩ 当該樹木への施
業内容、⑪ 出材予定日(伐採予定日)、⑫ その他(利用可能長および材質的欠点箇所等)が設定されている(中村
裕幸「見えてきたタグ立木管理の詳細な可能性」『住宅ジャーナル』2007年10月号、新建材新聞社、62頁)。
26
図9 木材フローサプライチェーン原価計算の概念図
図9のTFSCCingは、林業関係者が主導して、TFSCの上流から下流の事業主体に段階的に導入
される。そして、各事業主体に設置された原価計算データベースから出力された原材料、コスト、
木材・製品価格等に関する情報を、TFSCを構成する事業主体間で双方向にやり取りする。各事業
主体が、このモデルを導入すれば、次のような利用方法が考えられる。たとえば、需要に応じた品
質や寸法の立木の伐採による、下流の業務プロセスにおける歩留まりの向上や不良在庫の削減を分
析できたり、非付加価値的で今後不必要となる活動や、顧客価値を高める新たに投資すべき業務プ
ロセスを可視化できる。さらには、最適な流通経路の選択による生産調整や新しい低コスト流通
ルート等を検討していくことが比較的容易になる。
そこで、次章では、丹波市森林組合の取組例を用いながら、TFSCCingのモデル構築を試み、ま
た、同モデルの森林・林業行政への適用可能性を検討する。
Ⅳ 木材フローサプライチェーン原価計算の構築と森林・林業行政への実践適用可能性
丹波市森林組合では現在、森林所有者に対して明確で理解しやすい見積書の作成や、小規模な森
林所有者を取りまとめて林業団地化を進め、路網の整備と高性能林業機械の導入による作業の集約
化や低コスト化の実施が必要となっている。そのために、見積価格(予定価格)の算出や原価管理の
ための原価計算システムの導入が急務になっている。本章では、同森林組合において最も作業量の
大きい伐採・搬出(搬出間伐)の業務プロセスである作業工程を対象とし、その工程ごとに消費さ
れる直接作業時間を標準作業量として原価を計算していく標準原価計算モデルを検討する。
27
標準原価計算とは、原価材の価格と製品単位あたりの消費量を統計的・科学的に設定し、それを
用いて原価の計算を行う一種の予定原価計算である26。予定価格を設定することにより、偶然的な
要因による原価の変動を排除して原価管理に役立てたり、情報の遅れを克服することができる27。
この原価計算の流れとしては、まず、事前に統計的・科学的に原価要素の消費量や単位原価を設
定して原価標準が設定される。次いで、原価計算期間中に実際の生産量が明らかになれば、その原
価標準と実際の生産量を乗じることにより、標準原価が計算される。そして、それを目標値として
日々の業務を統制し、同期間の終了後に、その標準原価と実際原価との差額を分析して次期の業務
改善が行われる28。
1.伐採・搬出(搬出間伐)の作業工程
丹波市森林組合は、図10に示されているように、森林整備事業として造林・育林を、また、林
産事業として伐採・搬出を、製材所において製材事業を担っている29。すなわち、造林・育林、伐
採・搬出、製材という3つの作業工程を有する事業主体である。
図10 伐採・搬出での取り組み
本研究で対象とする伐採・搬出については、さらに、6つの作業工程から構成されている。ま
ず、伐倒するための立木を選んでいく選木作業から始まり、その立木を伐採する伐倒作業、伐倒し
た立木を集める集材作業が行われる。なお、伐倒木は、林道まで枝付きの状態で全木集材される。
続いて、造材作業は、伐倒木の枝を払い、幹を切断(玉切り)して素材(丸太)を生産する作業
である。丹波市森林組合では、造材作業は、プロセッサーによる機械化作業がなされているが30、
林道でプロセッサー造材をするために、林道脇には伐倒木の枝条末木が積み上げられている。林
26
27
28
29
30
高橋賢『テキスト 原価会計』中央経済社、2009年、143頁。
前掲書、143頁。
前掲書、143頁。
丹波市森林組合は、現在のところ、搬出された木材をすべて原木市場で売却しており、製材所は別個に原木市場で買
い付けている。そのために、林産事業と製材事業の連携は課題となっている。
プロセッサーとは、油圧ショベル等のベースマシンにプロセッサーのヘッド(作業機)を取り付けた林業機械であ
る。林道や山土場に集積した伐倒木をグラップルでつかみ、ローラーによって材を送りながらカッター(ナイフ)で
枝払いを行うと同時に、油圧チェーンソーによって一定の長さに玉切りする(林業機械化協会『機械化林業入門 - 伐出
用林業機械と作業システムの基礎知識 - 』林業機械化協会、2004年、72頁)。
28
道に集積された素材(搬出材)は、林内作業車に積込み、山土場まで搬出される31。この作業が積
込・搬出作業である。そして、山土場に集積された素材は、トラック(8t車)に積込み、原木市
場・流通に運搬される。
また、林業団地化の取り組みについては、手入れが行き届いている価値の高い林分は単木管理さ
れ、それ以外は林分管理がなされている。単木管理の林分では択抜(抜き切り)となり、また、林
分管理の林分では定性間伐・列状間伐となる。なお、同森林組合は、搬出間伐の標準作業モデルと
して、「1伐2残(1列伐採2列保護)」の列状間伐を想定している。
2.伐採・搬出を対象とした標準原価計算モデル
(1)原価計算表
単木管理と林分管理に基づく伐採・搬出の各作業工程のコスト(つまり工程原価)は、表5の原
価計算表で集計される。また、この表では、そのコストと立木原価を加えた素材原価も集計され
る。
表5 伐採・搬出を対象とした月別の原価計算表
表5は、単木管理A・林分管理B、林分管理Cという3つに区分して工程原価が集計される。こ
れらの区分は、過去の施業が適切に実施されている林分かどうか、つまり、立木の商品価値が高い
かどうかを判断基準として、良質の立木を管理していくものである。
31
山土場とは、原木市場に運搬するまで素材を保管しておく集積場所である。
29
単木管理Aは、手入れが行き届いて価値の高い林分が対象とされ、単木ベースで工程原価が集計
される。林分管理Bは、定性間伐をするような相対的に価値の高い林分が対象とされ、特定の林分
に存在する立木を材積ベース(㎥)で把握し、材積に工程原価が集計される。林分管理Cは、主に
列状間伐を行うような価値がそれほど高くない林分を対象とする。なお、林分管理B及び林分管理
Cでは、立木原価は、伐倒木と残存木の材積比率で按分され、そのうち伐倒木にかかわる立木原価
は、伐採・搬出における前プロセス費として集計される。こうした単木管理Aや林分管理B及び林
分管理Cにおける工程原価の集計は、単木別や林分別(ロット別)の個別原価計算といえる。
伐採・搬出の原価計算は、月別の期間計算を予定している32。そのために、表5の原価計算表に
集計される前プロセス費は、その月に伐倒した立木の原価(実際原価)となる33。また、工程原価
は、その月に発生した直接労務費(標準原価)と標準配賦の間接費となる。これらの原価は、当月
中に伐採・搬出がすべて完了すれば素材原価となるが、月をまたぐ場合は月初仕掛品原価や月末仕
掛品原価として処理される。
(2)労務費集計表
選木・伐倒・集材・造材・積込搬出・運搬といった各作業工程に関わる直接労務費は、表6の集
計表を用いて集計される。
表6 労務費集計表
32
33
伐採・搬出の原価要素は、前プロセス費、直接労務費、間接費に分けられる。
立木原価は、前プロセスである造林・育林において計算されるために、伐採・搬出では管理対象とならない。その
ため、表5における立木原価は、標準原価として計算しておらず、実際原価として集計することを予定している。な
お、前プロセス費は、伐倒作業の始点で投入されると考えていく。また、造林・育林の各作業工程で発生するコスト
(造林原価)を立木原価として集計する方法は、国有林野事業特別会計における「造林事業の原価計算」を想定して
いる。例えば、1973年度の造林事業の原価計算は、地拵・植付・林地施肥・補植・下刈・つる切・除伐・枝打・根ぶ
み等を作業工程として造林原価を集計している(丸山佳久『持続可能な森林管理のための環境会計の構築』博士学位
論文(中央大学大学院経済学研究科)、2009年、141-162頁、丸山佳久『森林管理における原価計算の再検討 - サプラ
イチェーンの視点から - 』河野正男・小口好昭編著『会計領域の拡大と会計概念フレームワーク』中央大学出版部、
2010年、77-99頁)。
30
表6の集計表では、標準/実際の作業時間を集計して、これらの作業時間に標準/実際の賃率を
乗じて標準原価/実際原価が計算される。すなわち、「直接労務費(標準原価)=標準賃率×標準
作業時間」および「直接労務費(実際原価)=実際賃率×実際作業時間」である34。また、実際原
価と標準原価との原価差異は、製造業の場合と同じように、賃率差異と時間差異に分析し、原価管
理において利活用が可能とされる。すなわち、「賃率差異=(標準賃率-実際賃率)×実際作業時
間」および「時間差異=(標準作業時間-実際作業時間)×標準賃率」となる。
(3)間接費集計表
間接費は、表7において工程個別費と工程共通費に区分して集計され、表5の原価計算表の作業
工程ごとに標準原価(E)+(I)が配賦される。工程個別費は、作業工程に賦課できる原価である
のに対して、工程共通費は、各作業工程に共通して発生したり、森林組合の本所・支所等の間接部
門で生じる原価である。たとえば、混合ガソリン、チェーンオイル等は、伐倒作業・集材作業・造
材作業に賦課できる工程個別費となる。なお、工程個別費(実際原価)(F)のうち、間接労務費
としての法定福利費(実際原価)(G)は列に抜き出して表示される。ここには、直接労務費(実
際原価)(D)の6%として集計される。
表7 間接費集計表
34
表6では、休憩時間は賃金の計算に含めない。手待時間・段取時間は間接作業時間になるが、今回のモデルでは考慮
していない。
31
工程個別費及び工程共通費は合計しても直接労務費の約1/5にとどまるために、直接労務費を配
賦基準として、直接労務費(標準原価)に標準配賦率を乗じて計算された標準原価が各作業工程に
配賦される。表7では、作業工程ごとに、月別の直接労務費(標準原価)(B)に工程個別費の標
準配賦率を乗じて標準原価(E)が計算される。工程個別費の原価差異(H)は、各作業工程別の
直接労務費(実際原価)(D)を実際操業度として、変動予算を利用することにより、各作業工程
別に予算差異、変動費能率差異、固定費能率差異、操業度差異が分析できる35。
また、工程共通費については、直接労務費を配賦基準として、作業工程ごとに、月別の直接労務
費(標準原価)(B)に工程共通費の標準配賦率を乗じて標準原価(I)が計算される。工程共通
費の実際原価(J)は、作業工程ごとに配賦されないために、原価差異は伐採・搬出工程での分析
になる。工程共通費の原価差異(K)は、変動予算を利用していくことにより、作業工程全体で予
算差異、変動費能率差異、固定費能率差異、操業度差異が分析できる36。
表6の原価計算表において単木別・林分別に計算された素材原価は、原木市場で売り上げると同
時に、それに対応する売上原価となる。また、直接労務費および間接費の標準原価を計算する際に
生じる原価差異は、まとめて売上原価に割り当てることができる。
3.木材フローサプライチェーン原価計算モデルの展開
TFSCCingは、林業関係者が統合型TFSCMの原価管理を行うための支援ツールとして機能す
る。それは、図11に示されているように、3つの分類により管理することができる。すなわち、単
木管理・林分管理という管理区分による分類、伐倒・集材・造材等という作業工程による分類、立
木原価・直接労務費・工程個別費・工程共通費という費目別分類である。これら3つに細分化して
コストを管理し、差異分析することにより、林業関係者は、作業管理や原価管理を詳細に行うこと
ができる。
図11 勘定相関マトリクス
35
36
ここでは、金額から見た重要性から、固定費及び変動費に分類する固変分解を含め、詳しい差異分析は予定していな
い。
ここも脚注35と同じような方法を想定している。
32
丹波市森林組合は、TFSCを構成する他の事業主体に呼びかけて、表5の原価計算表のようにま
とめた原価計算を、SC の上流から下流に段階的に導入し、図9のように、マテリアル、コスト、
木材・製品価格に関する情報を双方向でやりとりすることによって、TFSCCingモデルを展開する
ことができる。同森林組合は、このモデルを利用すれば、上記の原価管理だけではなく、標準原価
に基づいて見積書に利用される見積価格を比較的容易に算出することができるために、利益獲得の
機会が現在よりも増えていくと考えられる。
4.森林・林業行政への木材フローサプライチェーン原価計算の実践適用可能性
最後に、TFSCCingが、第2章で述べた丹波市が実施している行政評価に対して、いかなる支援
ツールとして機能するかについて検討する。
まず、施策評価では、TFSCCingで森林・林業の現状を明らかにできるとともに、次期以降に重
要視すべき施策とそれに基づく施策目標およびその評価指標を設定することができる。また、事務
事業において取り組むべき優先度の高い事業の検討や、検討後に実際された事業結果をTFSCCing
で把握し、それに基づく施策評価も可能となる。
次に、事務事業評価を図6に基づいて検討すると、まず、「①評価対象事業の明確化」では、丹
波市は、実施すべき事業とそれに必要となる予算を事前に検討でき、整理することができる。たと
えば、丹波市が林業関係者とともに、効率性を考慮に入れた林産事業方法を検討する場合には、同
市は、機械化導入等により作業時間短縮の可能性を分析し、新たな標準時間やそれに基づく原価
(あるいは製造予算)を把握することが必要となる。そこで、TFSCCingを利用することにより、
そうした検討のためのデータが収集できるために、実施すべき林産事業の絞り込みやそれに関する
予算措置の検討が可能となる。
続いて、「②事業総コストの把握」では、森林・林業振興計画において新たに必要とされる業務
量算定表内の各種コストの算定根拠のために利用することができる。たとえば、機械化導入による
林産事業の効率化のケースでいえば、丹波市は、事業費(補助金)の支給額をはじめ、林業関係者
との導入機械による相談・打ち合わせ、研究会開催、技術支援、資金援助等に関する業務量やそれ
に必要となるコストを事前に測定することができる。なお、林産事業にかかる事業費(補助金)の
支出額に関する検討では、TFSC に流れる木材やマテリアルの量や原木流通等における取引量およ
び取引価格等、林業および関連産業の活性化の現況把握が必要とされる。そのために、同市は、
TFSCCingから提供される上記の各種数値に基づいて、林業および関連産業の活性化の現況を可視
化できるために、必要とされる事業費の測定も事前に行うことが可能となる。
そして最後に、「③事務事業評価の実施」では、たとえば、森林のCO2吸収機能の高度発揮の状
態を評価するために利用するケースを考えていくと、「計画」には、適切な森林管理が行われた
森林面積における立木蓄積(森林ストック)に関するデータを用いて、事務事業の目的や内容に
「CO2吸収源としての立木蓄積の増加」が記載できる。また、立木の伐採によって森林ストックの
1部がSC上に流れるために、ここでは、TFSCを流れる木材およびマテリアルの量や原木流通等に
おける取引量や、森林の間伐実施率(間伐が必要な森林面積に対する間伐実施面積の割合)や間伐
33
を進めるための指標(間伐材の利用率)等が設定できる。次に、「実行」では、計画時に設定され
たこれら指標項目ごとに、実施された事業の結果を整理することができる。また、CO2吸収機能の
高度発揮への取り組みに必要とされる、造林や間伐の「実行」の項目に示されている行政コストに
ついては、各作業工程でのコストデータ等を参考にしながら、事前に検討でき、標準原価として測
定できる。続いて、「評価」項目における成果内容では、計画および実行での取組内容やその数値
(目標と実績)に基づいた差異分析が現在よりも容易に行うことができる。なお、この差異分析の
結果は、「改善」の項目にある今後の改善策を検討していくためにも利用すべきである。
このように、丹波市は、TFSCCingを利用することにより、行政評価の手続自体のさらなる改善
が可能となる。また、森林・林業振興基本計画に基づく行政活動を多面的に分析や評価ができると
ともに、その結果に基づいて同計画のさらなる改善や丹波地域において今後構築すべき新たな経
済・社会システム(たとえば、木材流通システム)も、林業関係者や木材生産・加工業者とともに
検討できる。したがって、TFSCCingは、林業関係者や木材生産・加工業者だけではなく、自治体
によるこうした利用を支援するツールとしても有用性が高いと考えられる。
Ⅴ おわりに-研究結果と今後の課題-
本研究では、まず、丹波市における森林・林業行政の現状とその活動への原価計算の役割を
明らかにした。次に、同市が行うこうした行政活動やそれに基づいた森林・林業管理のために
必要とされるマネジメントモデルである統合型TFSCMと、それを支援する原価計算モデルで
あるTFSCCingを提案した。そして最後に、同市における森林・林業行政に対して、提案した
TFSCCingモデルがどのように機能するかを検討した。
丹波市では現在、電子タグやそのリーダーライターを導入し、木材トレーサビリティを行い、図
8のような流通システムを推進しているが、今後同地域においてトレーサビリティに関する新たな
情報システムを導入していくことを検討するためには、そのシステム導入に対する技術支援や資金
援助等が必要となる。その検討のためにも、将来的にTFSCCingを利用し、その事業にかかる総コ
ストを事前に把握することが必要であろう。
また、同市の林業関係者が中心となって図8の流通システムを展開させていくためには、市自体
が事務局となって、TFSCの構成主体である林業関係者や木材生産・加工業者と一緒に、地域価格
政策といった市場価格ではないその地域独自の価格を導入し、地域や材木産業の活性化を図ってい
く方法が考えられる。地域価格は、TFSCの構成主体間で公表可能な情報が交換されることにより
初めて検討できるために、同市は、その検討支援ツールとしてTFSCCingを利用し、このツールで
把握されるマテリアルフローやコストデータを用いて価格設定のシミュレーションしていくことが
必要になると考えられる37。
37
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO; New Energy and Industrial Technology Development Organization)の
事業に伴う木質バイオマスエネルギー流通フローの事例である岡山県真庭市のエネルギーパークでは、製材廃材、林
地残材・未利用間伐材、ペレット等に地域価格を政策的に割り当て、SC を構成する事業主体間で利益分配が図られて
いる。
34
さらに、丹波市のこうした森林・林業行政や林業の問題解決をさらに推進していくためには、消
費者・労働者となる市民・住民にも、行政による森林・林業振興計画のような政策・施策の検討
や、こうした取組状況を情報開示してその現状を認識させ、行政、林業関係者や木材生産・加工業
者、市民・住民の事業関係主体が協働して取り組んでいくことが必要となる。
このように、同市では、TFSCCingのさまざまな実践的利用が考えられるために、今後もこの利
用方法について研究を進めていく。
農林水産省は、2009年に森林・林業再生プランを公表した38。本プランには、今後10年間を目途
に、効率的かつ安定的な林業経営の基盤づくりを進め、また、木材の安定供給と利用に必要な体制
を構築していくための方向性が示されている。日本各地では今後、こうしたプランに基づいて林業
再生のための経営システムの構築が進んでいくと考えられる。そこで、こうしたシステムを構築し
ていくためには、そのシミュレーションシステムの1つとしてTFSCCingの導入が必要になってく
ると考えられる。そのために、今後は、まず、本研究で提案したTFSCCingの丹波市森林組合への
実践的導入を検討し、次いで、他地域への展開可能性も探り、その実用性を明らかにすることも必
要になる。
(謝辞:本研究を進めるにあたり、丹波市森林組合および丹波市財務部財務課の方々に貴重なコメ
ントをいただいた。ここに記して感謝申し上げます。)
(付記:本稿は、環境省地球環境研究総合推進費「バイオマスを高度に利用する社会技術システム構築に関する研究(E0805)」(2008年度-2010年度)および科学研究費補助金若手研究(B)(課題番号:21730358)「森林の機能・価値を考
慮した木質バイオマス事業評価システムの構築方法」(2009年度-2011年度)(金藤正直)と、科学研究費補助金若手研究
(B)(課題番号:22730377)「林業における原価計算・環境会計のモデル構築」(2010年度-2012年度)(丸山佳久)の研
究成果の一部である。)
38
農林水産省『森林・林業再生プラン-コンクリート社会から木の社会へ-』2009年。
35
市民起業家活動と産業クラスターの形成
―みえメディカルバレーの事例をもとに―
髙 島 克 史
はじめに
本研究は,日本経済再生あるいは地域活性化のための切り札として期待がよせられている産業ク
ラスターを対象としたものである。産業クラスターに関する研究は多く多岐にわたっているが,そ
の中でも市民起業家活動という概念を用いながら考察を行う。市民起業家とはHentonら(1997)
によって提唱された概念である。いわゆるベンチャー企業で議論されるような,事業を創造する起
業家とは異なる。市民起業家の機能は,事業の創造する起業家を支援することにある。具体的に
は,企業間や企業と大学とのネットワークを媒介するような活動を担う起業家のことをさす。この
タイプの起業家として,シリコンバレーにおけるターマンやオースティンのコズメツキー,サッ
ポロITクラスターにおける青木などが代表的である。本研究では,特に市民起業家が産業クラス
ター形成時においてどのような機能を果たしていたのか,明らかにしたい。
経営学分野において,産業クラスターの研究は1990年代から盛んに議論されてきた。ここでの基
本的な問題意識は「なぜある特定の国や地域を本拠地として活動する企業が,一貫したイノベー
ションを誘発する能力を持っているのか(Porter, 1990)」「なぜ同じ国の中で,繁栄している地
域とそうではない地域があるのか(Saxenian, 1994)」などといったものがある。
これら問題意識に対してこれまで多様な研究がなされてきた。たとえば,国や地域のイノベー
ション能力に注目した研究(Porter, 1990, 1998; 當間, 2004),産業クラスターの代名詞ともいえる
シリコンバレーに関する研究(Kenny, 2000; 東, 2001),そのシリコンバレーとならび称されるボ
ストン・ルート128の2つの産業クラスター地域の繁栄と没落を比較した研究(Saxenian, 1994),
イタリア・ボローニャ地域における産業集積プロセスを明らかにした研究(稲垣, 2003),産業ク
ラスターの成果について測定・評価を行おうとする研究(高橋, 2010)など枚挙にいとまがない。
これら研究は理論的・実証的研究蓄積が進んでおり,Porterのダイヤモンド・モデルに代表される
ように,精緻化された分析枠組みも提出されている。そのため,これら研究蓄積は政策的・実務的
にも一定の貢献がもたらされているようである。
これら研究が盛んにおこなわれている一方で,産業クラスター内における起業家活動については
ほとんど研究がされてこなかった(金井, 2005)。シリコンバレーやオースティンに関する研究を
ひもとけば,必ずターマンやコズメツキーといった産業クラスターの形成・発展に重要な貢献をも
たらした人物が紹介される(Saxenian, 1994; 東, 2001; 福嶋, 2005)。確かに彼らは,直接事業をお
37
こしたり,イノベーションをおこしたわけではない。どちらかといえば,産業クラスター内におけ
るベンチャー企業の創業を支援・誘発した人物として記述される。そういった意味では,国の競争
優位やイノベーション能力あるいは経済的成果に直接貢献したとはいいにくい。そのために,これ
まで研究がなされてこなかったのかもしれない。
しかし,ターマンが「シリコンバレーの父」と呼ばれるように,彼らのような起業家が重要な役
割を果たしていたことは間違いない。彼らを対象とした起業家研究については,これまでほとんど
見過ごされてきた(金井, 2005)。しかし,これまで述べてきたことをふまえれば,彼らの機能を
明らかにすることは産業クラスター研究にとって意義のあるものとなるであろう。そこで本稿で
は,これまで十分に研究されてこなかったターマンやコズメツキー,青木などに代表される産業ク
ラスターの形成に貢献をもたらした起業家の活動に焦点をあてることとしたい。
本研究はまず起業家活動と産業クラスターとの関係を扱った研究を取り上げる。それから,これ
まで市民起業家を扱った研究はほとんどなされてこなったことを述べる。次いで,Hentonらの研
究を紹介し,それに依拠しながら,みえメディカルバレーの事例分析を行い,市民起業家の機能に
ついて検討する。データとしては,三重県の発行資料と関係者へのインタビュー調査記録資料を用
いる。なお,本稿では単に起業家という場合は,事業を創造する起業家をさす。そしてそれら起業
家を支援するような起業家のことを市民起業家と述べることとする。
Ⅰ.産業クラスターの形成と起業家活動に関する先行研究
これまで起業家活動に関する研究は,ベンチャー企業や中小企業,社内ベンチャーなどと関連
付けて議論されることが多く,産業クラスターの形成などとの関連で議論されることはほとんど
なかった(金井, 2005)。本節では,起業家活動と産業クラスターの形成や発展との関係について
扱った研究について検討していくこととしたい。
福嶋(2005)は,米国テキサス州オースティンのソフトウェア産業のクラスター形成プロセスに
ついて考察を行った。まずは,彼女の研究からみていくこととしよう。テキサス州オースティンは
1990年代からわずか20年で急速に成長した地域である。それまでもソフトウェアに関する企業は存
在していたものの,それらによって,産業が成長するということはほとんどなかった。また,そこ
から新しいベンチャー企業がうみ出されることもほとんどなかった。というのも,1990年代まで同
地域はベンチャー企業の創業にとって好ましくない環境であったためである。十分な経営資源の調
達だけでなく,弁護士やベンチャーキャピタルなど産業クラスター内において重要なアクターも十
分に存在しておらず,起業支援環境はほとんど整備されてなかった。
それでも,1995年になると,同地域内のベンチャー企業から株式上場をする企業が現れ始め,そ
の様相が変化し始める。たとえば,起業支援のためのアクターの集積,企業内から新しい企業が生
まれ,またさらにその新企業から企業が生まれるスピンオフの連鎖,そのような連続的に起業する
シリアルアントレプレナーなどが登場し始めたのであった。
38
このように,当初は起業にとって好ましくない地域であったオースティンがわずか20年足らずで
ハイテク企業が集積する地域へと変貌を遂げたのであった。このように同地域が発展した要因とし
て福嶋は次のような3点を指摘している。
第1に,地域外から経営資源を調達することである。地域活性化や地域振興というととりわけ地
域にある経営資源の存在やその活用に関心が向きがちである。しかし,クラスターの急成長ために
は,地域外からの資源調達も視野に入れるべきだという。さらにこのように外部まで視野に入れる
ことで,地域の独自性などを考える契機となったり,外部地域との繋がりをもつこともできるとい
う。
第2に,起業支援環境の整備である。産業クラスター成長のためには利益追求型のベンチャー企
業だけでなく,弁護士や会計士,ベンチャーキャピタルなどそれらを支援する企業の集積も不可欠
である。
最後に,ベンチャー企業などによって採用される技術のタイプである。基礎技術は商業化までに
時間を要する。他方で,ターゲットとなる市場や技術の応用先などが明確な技術は商業化までの時
間が相対的に短い。このように企業の有する技術が,基礎から商業化までのどこに位置するのか考
慮することが重要なのである。
福嶋も指摘しているようにこのような事例分析結果を,単純に日本で応用することは難しい。し
かし,知道府県レベルにおける産業クラスター計画の策定・実施には一定の示唆を与えることがで
きるであろう。ただ,彼女の研究は地域内におけるベンチャー企業などに関する研究であり,より
具体的な起業家活動にまでは十分な考察がなされていない。
次に稲垣(2005)の研究についてみていこう。彼は,福嶋でも観察されたスピンオフの連鎖とい
う現象を起業家の行為に注目しながら考察を行った。福嶋の研究では,主に1つの企業が母体とな
り,そこから新しい企業が生まれるといったように,いわゆる「親と子の関係」の文脈で議論が展
開されていた。
稲垣は,地域経済や地域産業の発展プロセスでは,そのような関係だけでなく,空間的・時間的
に近接性のある起業家間の関係性も重要な影響を及ぼしていることを指摘し,起業家間の関係に着
目しながら,イタリア・ボローニャの包装機械メーカーにおけるスピンオフの連鎖現象を考察し
た。
稲垣はまず特定の企業を母体として,そこからスピンオフした起業家について考察を行った。彼
が対象とした起業家は,母体組織からいきなりスピンオフをしたのではなく,まずは同僚のスピン
オフを手伝っていた。そこでその起業家は,起業時における市場に関する知識や問題,技術の応用
に関する知識などを学習した。さらには,起業に関する手続き上の知識についても学習することが
できていた。のちに,その起業家はここで得た経験・知識などを基に,自らスピンオフを行った。
稲垣は,このようなスピンオフを技術先行型のスピンオフと呼ぶ。
あわせて稲垣は,スピンオフについて経験や学習がない起業家についても考察を行っている。こ
のタイプの起業家は,上述にあるような知識や情報を有しているわけではない。そのため,顧客
ニーズに対応するために組織内で新しい技術開発などを行い,自ら情報や知識の創造・獲得をして
39
いた。稲垣はこのようなスピンオフについては,上述のそれに対し,アイデア先行型のスピンオフ
と呼ぶ。
このような事例から稲垣は次の3点をインプリケーションとして指摘している。
第1に,母体組織からスピンオフした場合は,組織内の潜在的起業家に対して直接的な影響を及
ぼしやすい。すなわち,同じ組織に属することから,起業・技術・市場に関する知識・情報やその
活用方法について同様のフレームワークを共有することになる。その結果,企業のタイプも類似し
たものになるという。
第2に,母体組織からスピンオフしなかった起業家については,当然直接的な影響力は限定的な
ものとなる。もちろん,そのために起業タイプとしては異なったものとならざるをえなくなる。
最後に,このように起業家のタイプが多様であることが,スピンオフの連鎖を継続的なものにし
ているという。
稲垣の研究は,起業家個人に焦点をあて,それがスピンオフの連鎖をどのように生み出していく
のかダイナミックにとらえている。起業家活動が地域全体に対してどのような影響を及ぼしている
のか,説得的な議論が展開されている。ただ,彼の議論は企業における起業家活動を扱ったもの
で,いわゆる事業を起こす起業家を対象としたものである。
次に金井(2005)の研究をみていこう。彼の研究は,サッポロITクラスターの形成と展開につ
いて,「場」という概念をカギとして起業家活動をとらえている。札幌市は1990年代から日本でも
有数の情報産業の集積地となっており,平成19年度には19,053人が働いており,その総売り上げは
4,152億円となっている。もともとは機関となる産業が商業と観光であった札幌市が,どのように
してITクラスターを形成するにいたったのか,金井はヒトに注目しながら議論を展開している。
また金井が本研究において注目したのは,稲垣が注目した起業家とはタイプが異なる。後で詳述す
るが,Henton らが指摘する「市民起業家」に注目している。すなわち,このタイプの起業家は,
Schumpeter(1934)がいう新結合を遂行するような,革新の担い手ではない。むしろ新結合を遂
行する起業家を支援する起業家のことをさす。その代表的な人物としては,シリコンバレーにおけ
るターマンやオースティンにおけるコズメツキーである。
サッポロITクラスターでは,北海道大学の青木教授がそれにあたるという。青木教授は,1976
年に「北海道マイクロコンピューター研究会」を設立した。この研究会には,ITクラスターの中
核となる人物が参加していたという。金井によれば,この研究会は,高度な専門知識を有した人的
資源をひきつける「場」になったという。この場の存在が,事業創造の苗床となった。
金井はこのように起業家という概念を,従来の革新の担い手である事業創造に関する起業家とそ
れら起業家のために「場」などの社会的仕組みを創造する起業家に分け,地域における産業クラス
ターの形成にはこれら2タイプの起業家の存在の重要性を明らかにした。
これまでも,金井が注目した市民起業家については,その重要性が指摘されてきた。たとえ
ば,東は「地域リーダー」という言葉を用いながらその重要性を指摘している。このほかにも,
Saxenianもシリコンバレー地域の記述の中で,ターマンの存在と活動の重要性について言及してい
る。ただ残念なことに,このような起業家について,言及されることはあっても,彼らを中心に取
40
り上げた研究をされることはほとんどなかった。また金井の研究以降,さらなる市民起業家あるい
は地域リーダーに関する研究はほとんどみられない。
Ⅱ.市民起業家活動と分析枠組み
市民起業家活動とは
市民起業家に期待される役割は少なくとも次の2つである。1つは,地域が活性化するよう多様
な人材や機関をネットワーキングすること,もう1つは福嶋も指摘していたように地域外にも視野
を広げ,必要な資源の調達や成長機会の発見を行うことである。以下,順次それらについてみてい
くこととしよう。
Hentonらによれば,市民起業家は産業クラスターを含むコミュニティを構築するための触媒の
役割をもっているという。産業クラスターには,企業をなど経済的主体だけでなく,弁護士や会計
士,ベンチャーキャピタル,大学など研究機関なども欠かすことはできない(Kenny, 2000; 福嶋,
2005)。それら人々や機関をつなぎ,まとめるような役割を市民起業家は担っているのである。
彼らにはそのような役割に加えて,地域活性化のために新しい事業機会を発見することもあると
いう。Hentonらは,グローバル化という環境の中において,市民起業家は,「ネットワーク化さ
れ,変化の速い新しい経済が,人々,場所,組織に対して前例のない機会を提供するという確信を
もっている」という。また市民起業家は「地域における機会とニーズを出発点とし,成功に向けた
関係と専門化された資源を構築しつつ,コミュニティが未来に対して積極的な選択をするようにし
向ける」という。 Hentonらは,このことについて「地域における機会は地域の中に内在されており,それを見つ
け出す」という意味でとらえていない。むしろ,「グローバルな環境の中において地域が優位性を
獲得するためにできることは何か」というように考えることの重要性を唱えている。すなわち,地
域という限られた文脈ではなく,グローバルというより幅広い文脈の中に地域を位置づけ,ここか
ら機会を見出すことの重要性を主張している。 事実,彼らはクリーブランド市の事例をあげながら,「地域は,高価値企業を誘致し成長させる
ことができる特別な地域を建設することにより,新しいグローバリゼーションの流れに参加してい
る。目標は,世界企業に対してなにか独特なもの,異なったものを提供することにある」と述べて
いる。すなわち,地域にとって機会とは固有のものとして内在しているばかりではない。そのほか
に,グローバルという文脈を設定することによって,はじめて見出すことのできる機会もあるので
ある。そのような機会をとらえることも地域の発展にとって重要であろう。
またHentonらは,このような起業家は民間企業だけでなく,大学や弁護士,政治家など多様な
ところから出現することもあわせて指摘している。
以上のような起業家としてシリコンバレーにおけるターマンをあげることができるであろう。彼
は1937年からスタンフォード大学工学部で教授となり,のちに同大学の副学長までつとめた人物で
41
ある。Saxenianや東をもとにしながら,ターマンの市民起業家活動についてみていこう。
彼は,自分が指導していたヒューレットとパッカードの2人の大学院生の研究成果を事業化する
ようにすすめた人物である。彼らがおこした企業はのちにヒューレッド・パッカード社となり,シ
リコンバレーを代表する企業の1つとなる。ターマンは,彼らに事業化をすすめたのみならず,そ
れらに必要となる費用の貸与や,資金を稼ぐためのアルバイトの斡旋から銀行からの融資まで手配
した(Saxenian, 1994)。これ以外にも,彼は多くの企業が事業化を積極的に支援した。
また第二次世界大戦中に,彼はスタンフォードを離れ,アメリカ東部にあるハーバードの無線研
究所所長をつとめていた。戦争がおわると,再びスタンフォードに戻ってくるが,ハーバードに在
籍していた経験がさらに市民起業家活動を有効なものにした。
彼は,カリフォルニア州などアメリカ西部の産業や研究機関の弱さを痛感していた。そこで彼は
他大学から有望な研究者をスタンフォードに引き抜き,より多くの工学博士を輩出した。また彼は
トランジスタの発明者である,ショックレーをスタンフォードに帰郷させた。ショックレーはのち
にノーベル賞を受賞するなど,非常に有能な研究者であったが,一方で高圧的な態度で人に接する
ことがあった(東,2001)。そのため,彼のもとから人が去っていく。しかし,ショックレーのも
とを去って行った人々がのちに,フェアチャイルド・セミコンダクターを創業する。さらにその
フェアチャイルドの従業員がスピンアウトし,次々と新しい企業が創業されるようになった。
加えて,地域産業と大学との協力関係を構築することに多くの力を注いだ。そこでは,教官や学
生に対し,地元企業を知り,その機会を見出すよう促し,地元企業にはスタンフォード大学の活動
が企業に与える影響について説いて回った。
このようにターマン自体は事業化するということはせず,事業化しようとする大学院生などを資
金などの面から支援する活動に従事した。さらには,福嶋の研究でもみられたようにスタンフォー
ドだけでなく,その他の地域にも目を向け,必要な人材を引き抜き,同地の活性化に大きな貢献を
はたした。
起業家活動の分析枠組み
Hentonらによれば,市民起業家の役割には8つあるという。それぞれは,同時に行われるので
はなく,産業クラスターの発展段階に応じて求められるタイプに分けることができるという。彼ら
は発展段階を4つに分け,それぞれ必要となる役割を示した。それをまとめたものが以下の表1で
ある。
表1.産業クラスター構築段階における起業家の役割
発展段階
第1段階:開始
第2段階:ふ化
第3段階:実行
第4段階:改善・再生
起業家の役割
動機づけ者・ネットワーカー
教師・主催者
統合者・主導者
師匠・扇動者
(出所)Henton et al(1997)p137より筆者加筆修正
42
第1段階は,開始段階である。この段階で,求められる起業家の役割は,動機づけとネットワー
キングである。動機づけは,起業家のみならず他の人に対しても,多様な視点から産業クラスター
を観察するように求める。それによって,新しい機会の発見を促すのである。ちょうど,ターマン
がスタンフォード大学の学生や教員に対して,地域企業を見て回ることを促していたことが,これ
に該当するといえるだろう。
もう1つの役割が,ネットワーカーである。これは顔見知りではないが必要となる他の人々と
ネットワークづくりを始めることである。既述したように,産業クラスターでは弁護士や会計士な
ど多様なアクターが必要である。このようなアクターと事業を起こす起業家をつなぐことが求めら
れているのである。実際,ターマンはヒューレットとパッカードに対し,金融機関の紹介を行い,
両者をつないでいた。
第2段階は,ふ化である。この段階で求められる起業家の役割は,教師と主催者である。教師で
は,起業家が産業クラスター内のアクターを教育し,人々が産業クラスターの成長過程で効果的な
活動ができるような支援をおこなう。起業家は地域の現状を説明し,どのような機会があるのか明
示する。このさい,地域内だけに注目した機会の発見をするのではなく,グローバルなどといった
より幅広い視野から地域を位置づけ,その文脈においてどのような機会があるのか明示する。ター
マンは,地域の企業に対して,スタンフォード大学がはたすことができる貢献を説いていた。
もう1つの役割が,主催者である。これは,産業クラスターの参加者に対し,どの領域であれば
もっとも受益することができるのか発見することを支援する活動である。
第3段階は,実行である。この段階で求められる起業家の役割は,統合者と主導者である。統合
者は,自らの行動を通じて,産業クラスターが成功するために必要となる専門的知識や地域の資源
調達を支援する。ターマンのケースからいえば,ほかの地域から有望な研究者を引き抜いてきた
り,ショックレーを帰郷させたことが,このことに当てはまるであろう
もう1つの役割が,主導者である。すなわち起業家は,産業クラスターが一定の成果を達成でき
るように行動を観察し,必要があれば調整を行う。より具体的には,測定可能な目標を掲げ評価し
たり,産業クラスターが分裂することを阻止したり,活動の焦点がぼやけたりしていないか確認な
どといったことが含まれている。
第4段階が,改善・再生である。この段階で求められる起業家の役割は,師匠と扇動者である。
師匠では,産業クラスターが継続していくための基盤となる組織をつくったり,支援活動を行うた
めの文化を育成する。
もう1つの役割が,扇動者である。産業クラスターが継続すると,自己満足をおぼえてくるよう
になる。それを回避するためにも,常に産業クラスターは継続させていくことが重要であり,人々
の視線を未来志向に向けさせるような啓発活動を行う。
以上が,Hentonらによって提唱された産業クラスター内で起業家が担う活動である。彼らの研
究について,起業家の担う役割を特定している点やそれらが産業クラスターの成長にあわせて変化
していく点を明示していることは評価できるであろう。このような研究はこれまでも十分に行われ
てきたとはいえず,さらなる理論的深化が求められている。そこで,本研究ではHentonらの枠組
43
みを用いて,分析を行っていくこととしたい。
Ⅲ.みえメディカルバレーの形成
メディカルバレーの概要と経緯
三重県では,次世代を担うリーディング産業創出に向けた取り組みを2002年4月より実施してい
る。同県のメディカルバレーは2002年2月に産学官が共同で構想を策定し,同年4月から事業を展
開している。その基本理念は「地域資源を有効に活用し,利用者と生産者のコラボレーションによ
り,消費者ニーズに対応した質の高い製品・サービスを供給する,競争力のある医療・健康,福祉
産業の振興に取り組み,活力ある地域づくりと県民の健康と福祉の向上を目指す」というものであ
る。
上記のような基本理念実現のために,メディカルバレー実施計画では3つの時期に分類されてい
る。第1期は,立ち上げ期という位置づけから,メディカルバレーの基盤の構築に重きがおかれて
いる。そのため,第1期にあたる2002年度から2007年度までは,メディカルバレー構想成功のため
の3つの要素と8つの基本方向を作成し,事業を推進していった。
表2. みえメディカルバレーにおける3つの要素とその方向性
3要素
方向性
産学官民連携の促進
研究開発・技術開発の促進
医療・健康・福祉産業
クラスターの形成
創業・新事業創出の支援
企業誘致戦略の促進
医療・福祉サービス分野
の高度化
医療・健康・福祉サービスの高度化と効率化
より厳しい消費者ニーズ
の反映
情報提供の充実
メディカルバレーをさせる
環境整備
推進体制の整備
人材の確保・育成
(出所)『みえメディカルバレー構造 第2期実施計画 』p2より筆者作成
3つの要素として,第1の要素にあげられているのが「医療・健康・福祉産業クラスターの形
成」である。医療・健康・福祉に関連する多様な産業クラスター形成のために,薬事産業,健康食
品産業,福祉用具産業を中心にすることが明記されている。すなわち,産業クラスターにおける活
動の焦点を明確化させようとしているといえよう。 44
第2の要素とは「医療・福祉サービスの高度化」である。福祉分野への民間の導入,ITによる
情報開示などによる医療・福祉サービスの高度化・効率化を志向している。
第3の要素とは,「消費者ニーズの反映」である。これは,県民による適切な情報提供,事業者
と消費者との交流,連携により,より厳しい消費者としての意識を高めると共に,ニーズに適応し
た製品・サービスの供給能力向上を目指したものである。
以上のような3要素からメディカルバレーを成功に導くため,それぞれいくつかの具体的な指針
を掲げている。
以上のような構想のもと,第1期計画が2007年度まで実施された。その成果としは産学官民体制
の連携や全国でもトップレベルの治験ネットワークの構築,薬事事業分野における創業など多くの
ことがあげられる。その中でも特筆すべきは,高い外部評価をえていることであろう。
表3.バイオクラスターランキング
第1回(2004年)
第2回(2005年)
第3回(2006年)
1位
神戸地域
北大阪
北大阪
2位
札幌市
神戸地域
札幌市
3位
北大阪
札幌市
神戸地域
4位
福岡
横浜市
三重県
5位
三重県
福岡
福岡
(出所)『日経バイオビジネス』2004年12月号,『同』2005年9月号,『みえメディ
カルバレー構想』をもとに筆者作成
三重県は第1回が5位,第2回は6位,第3回は4位という評価を受けている。
ところで,経済産業省は2001年度から地域でのイノベーションやベンチャー企業を次々と生み出
す産業クラスターの形成を目指した「産業クラスター計画」を推進している。その中で,同省は全
国18のプロジェクトを積極的に支援している。
表3でいえば,札幌市・横浜市・北大阪・神戸地域・福岡はその支援対象となっている。一方,
国からの支援をほとんど受けることなく自律的に産業クラスターを形成・展開しているのは表3に
おいて三重県だけである。さらに,三重県は2002年度から実施しており,短期間において高い評価
をえていることがわかる。
みえメディカルバレー立ち上げ以前
三重県のメディカルバレーを推進しているのは,産業振興などにかかわる部署ではない。三重県
健康福祉部薬務食品室という部署がその中心となっている。当該部署は,食品衛生法の許認可が主
な業務である。たとえば,レストランなどの衛生状態を確認したり,食中毒が発生した場合に,調
査を行い,営業禁止処分をくだしたりすることが主なものである。そのほかの業務としては,薬局
45
などで適正な調剤がなされているか,それらを販売することに問題はないかという業務も担ってい
る。つまり,商品衛生法や薬事法が適正に守られているか,規制・監視を行うことが主要な業務で
ある。
当該部署に勤めるA氏は,薬剤師として上記のような業務に従事していた。しかしその一方で彼
は,メディカルバレー立ち上げ以前から薬事企業の支援をすることができないか模索をしていた。
当時,同部署には彼以外にも同じような考えをもったB氏がおり,二人で薬事企業支援を模索した
ことがのちのメディカルバレーにつながっていった。
加えて,彼らが薬事企業支援を模索していた1990年代後半は,三重県知事に革新知事として有名
な北川正恭がいた。北川は,地元の企業や団体と「さわやかトーク」を実施していた。これは,知
事と企業や団体が懇談をする場所である。この中で,薬事関連の団体から「県はシャープなど企業
誘致に力を入れているようだが,薬事関連産業についても支援をしてほしい」という要望が出た。
A氏らの考えやさわやかトークでの要望があいまって,1990年代後半からメディカルバレーの基
礎となるような支援策が具体的に模索されるようになっていった。まずA氏らは薬事企業がどのよ
うな支援を望んでいるのか把握するために,アンケート調査を実施した。さらには,薬事で有名な
富山・滋賀・奈良などを訪れ,地域における取り組みの視察を行った。
その結果,薬事で有名な地域には薬事産業を支援するような指導所があることがわかった。それ
をもとに,A氏らも医薬品研究センターを2001年に立ち上げた。このセンターは薬事関連の技術支
援を行うための部署となった。これがきっかけとなり,その後産学官の三者がよりあって,翌年2
月にメディカルバレー構想が作成され,4月から実施されるにいたった。
みえメディカルバレーの立ち上げと展開
A氏は2002年の立ち上げののち,2年間(2006年から2007年)保健所に異動となった。その後,
2008年から再びメディカルバレーに携わっている。彼は多様な支援業務を行っているが,主なもの
としては「信頼関係の構築」「研究会の開催」「地域外情報の収集」をあげることができる。順に
みていこう。
まず彼は,産官学が連携できるよう信頼関係の構築に努めた。たとえば,薬事関連の団体などで
会合があれば,積極的に参加をした。薬事関連企業においては,その関係上A氏は規制や監視を行
う人物として理解されることが多い。そのため,支援も積極的に行っていることを理解してもらう
必要があった。さらに,企業はどのような支援を求めているのか,より多くの意見を集めようとし
ていた。
この他にも,大学に対しても積極的にはたらきかけた。大学の学長や副学長とコンタクトをと
り,意見交換を行った。大学との信頼関係が構築できたとによって,大学が保有する研究シーズや
研究成果などを活用し,企業の技術的問題などを解決するための効果が期待できるようになった。
このように選挙区的な活動を継続していくことによって,さまざまな人や機関と徐々に信頼関係を
築いていった。
さらに彼らの信頼関係構築にむけた行動はこれだけにとどまらない。医薬品研究センターなどに
46
相談窓口としたりして,企業側が相談できるような場所や雰囲気づくりを行っている。また支援を
行うためには,相談窓口をつくるだけでは十分ではない。相談に対してアドバイスなどができる
ことも不可欠である。A氏らは既述したように,産学との間にある信頼関係を活用して,研究者や
マッチング企業を紹介している。このような産学官連携の強化を行ったことが,外部からの高い評
価にもつながった。
次に,産業クラスター内における大学と企業や企業同士のネットワークの構築を行っている。そ
のために,研究会を開催している。たとえば三重メディカル研究会は,大学の研究者がもっている
シーズを中心としたものになっている。このほかにも,健康長寿社会実現のために,西洋医学だけ
にとどまらず東洋医学やハリなど多様な医学を組み合わせた医療体制の構築に向けた統合医療研究
会なども開催されている。なおこの研究会には,研究者、企業だけにとどまらず一般県民にも開放
されている。
最後に,A氏らは県外にも積極的に出かけていき,支援体制に資するような制度などを取り込
んでいる。まずネットワーク構築のために,岩手大学のINSを参考にした。INSは勉強だけでなく
そこに参加した人々が徹底的に交流をはかる。その中から,人と人の絆を作っていた。A氏はINS
を視察し,メディカルバレーにおいても徹底的な交流会を開催した。またINS関係者を三重県に招
き,講演会を開催した。そして,その情報を広く提供した。この交流会には,企業関係者や大学の
研究者など勉強会や研究会に参加していた人だけが参加しているわけではない。そのほかにも大学
からは学長,県からは副知事が参加するなど,組織のトップも積極的に参加している。それによっ
て,幅広い人々とのネットワークを構築しようとしている。このほかにも,大阪などで販売促進支
援などがあれば,それを参考にしたり,取り入れたりしていた。もちろん,すべてのことを取り入
れることは難しいようだが,上記のほかにも取り入れられるものは積極的に取り入れているよう
だ。
Ⅳ.事例分析
以下では,Hentonらの分析枠組みにもとづいて三重県メディカルバレーにおけるA氏の行動に
ついて若干の考察を行っていこう。
開始段階:動機づけ者とネットワーカー
A氏は積極的に研究会の開催を支援したり,その研究会の情報を広く提供している。これは金井
の研究でも指摘されていた「場」の提供やその支援活動にあたる。三重県において特徴的な点は,
ここに研究者や企業関係者だけでなく一般の県民も参加できるようにしていた点である。メディカ
ルバレーが成功するための要素として,「消費者ニーズの反映」があげられている。すなわち,直
接顧客ニーズを知る機会もあわせて設けられていたのである。すなわち,研究者や企業関係者間で
はより専門的な情報交換が可能であり,技術的問題の解決のための場となっているだけでなく,消
費者の参加を可能にすることで,市場ニーズに基づいた新しいアイデア創出の場ともなっていると
47
考えられる。場を設定することで,思いがけないアイデアの発見など創発的な側面があることが示
されている。
またこのような場を設定するために,A氏らは様々な会合に出席したり,大学学長や副学長と意
見交換をするなど,多様な主体との連絡を積極的に行っていた。また,自らネットワークをつなぐ
よう行動するだけでなく,相談窓口も設定した。もちろん,上述したように研究会という場を設定
することで,様々な人々や期間をつなぐ触媒ともなっていた。
ただし,これら動機づけ者とネットワーカーについては,産業クラスター立ち上げ時期あるいは
それ以前から今日まで続けられているものであり,Hentonらのモデルが示したように,開始段階
において顕著に見られるような役割とは言い切れない。
ふ化段階:教師と主催者
A氏はネットワークを形成し,広げていくために岩手大学のINSを参考にした。人と人がつなが
るには,どのような場や雰囲気が重要であるのか学習した。彼はその成果を実践するだけでなく,
INS関係者を三重県に招き,広くその情報や知識を発信した。ネットワークの重要性を理解してい
るA氏がその拡充のために行動するだけでなく,ネットワークの重要性を広く発信し,それを拡充
するための環境整備にも努めていた。
また医薬品研究センターを創設し,そこを相談窓口とすることで問題解決のための支援を行っ
た。そして,その相談内容に応じて,必要となる研究者や機関を紹介したり,適切な人物や機関の
探索をしていた。
このように外部の情報や成果を巧みに取り込みながら,地域内の問題にも解決できるような体制
を整えていった。ただし,ここでも先と同じことが指摘できる。すなわち,医薬品研究センターな
どは産業クラスターが立ち上がる以前のことであり,必ずしも開始段階の次に必要となる機能とは
言い切れない。
実行段階:統合者と主導者
A氏は積極的に県外に出向き,薬事関連企業支援のための環境整備を行った。そのために,富
山・奈良・滋賀などに出向き,どのようにして薬事関連企業が育成・成長しているのか,そのため
の視察を行った。このように他地域における成功事例を学び,それを積極的に薬事関連企業支援の
ための仕組みとして取り入れていった。
他方で,メディカルバレーは,神戸や北大阪などと異なり,経済産業省からの資金援助などをほ
とんど受けていない。そのため,地域外から専門知識を有した人物を招聘したり,最新鋭の施設な
どを建てているわけではない。むしろ,A氏によれば「ない資源やない資金をなんとかやりくりし
ながら地域資源をいかしていこう」という考えをもっている。そのため,彼らは既存施設や設備を
用いて,三重県にある企業を育成していくような支援活動に従事している。
このように,支援環境に関する専門知識や地元企業の育成としては統合者として活動していたと
言える。一方で,企業の技術的支援などについては,地域内の企業間や大学との関係で実施されて
48
いるにとどまっており,地域外からの調達までは行われていない。
改善・再生段階:師匠と扇動者
産業クラスターが継続していくために,A氏をはじめとした人々は医薬品研究センターなどを創
設してきた。そのため産業クラスターを継続していくための基盤となる組織はある。ただ,メディ
カルバレーの場合,それを継続させるためにその他の問題がある。それは,医薬品研究センターを
はじめ支援活動の中心を担っているのが,三重県ということである。周知のとおり,公務員の場
合,長期にわたり同じ職務にとどまることは稀である。数年に1度異動することがある。事実,A
氏も2年間ほどメディカルバレー事業からは離れていた期間があった。そのため,安定的に産業ク
ラスター支援ができるようなチーム編成やターマンなどのように産や学のレベルから起業家活動を
担う人材の出現が必要となる。
考察
A氏はみえメディカルバレーにおいて多くの役割を担っていることがわかった。Hentonらが指
摘していたように,直接事業を行うのではなく,環境整備や企業間や企業と大学をつなぐための
触媒として活動していた。彼らが指摘した役割のうち,少なくともA氏は5つの役割をはたしてい
た。それをまとめたものが,表4である。
表4.メディカルバレーにおけるA氏の役割
起業家の役割
A氏の活動
動機づけ者
研究会の開催
ネットワーカー
大学や薬事関連団体との繋がり構築
教師
INSへの視察
主催者
医薬品研究センターの創設
統合者
ネットワークに関する専門知識の導入
師匠
継続的に産業クラスターを支援できるような
人材の発掘が急務
扇動者
A氏は,県外に積極的に出かけ,多様な情報や知識の収集をおこなっていた。実際に,他県の取
り組みを視察・体験することで,より多様な視点から三重県を観察しようとしていた。その結果,
INSなどから取り入れられることについては積極的に仕組みとして導入していた。
またHentonらでは指摘されていなかったこともいくつか示すことができた。まず,金井では指
摘されていたことだが,研究会が創発的なアイデア発見の場になっている可能性である。メディカ
ルバレーでは一般市民を巻き込むことによって,技術問題の解決のみならず,アイデアが創発され
るような場が形成されていた。
49
そして何よりも,Hentonらが想定していたように市民起業家は活動しているわけではなかっ
た。そもそも産業クラスター形成以前からの活動も考慮にいれないと市民起業家活動を把握するこ
とは難しいであろう。さらに,市民起業家は状況に応じて,多様な役割を担っており,必ずしも発
展段階に応じて役割が変化していくわけではないであろう。
むすびにかえて
本研究では,産業クラスターにおける市民起業家活動について考察を行った。まず先行研究を整理
することで,これまでターマンやコズメツキー,青木など産業クラスター全体の支援活動の重要性
は指摘されてきた。しかし,彼らに焦点をあてた研究がほとんどなされてこなかった。そこで本研
究ではHentonらの分析枠組みを援用し,事例分析を試みた。
本研究を通じ,これまで十分に考察されてこなかった市民起業家が産業クラスター形成や発展に
何らかの役割をはたしていることを示すことができた。これまで彼らの焦点をあてた研究蓄積は必
要であるにもかかわらず,十分に研究がされてこなかった。その点においては,本研究の貢献とい
えるであろう。またその市民起業家活動には固有の役割があるのではなく,状況に応じて求められ
る役割が異なることも確認できた。
しかし,本研究に残された課題も少なくない。まず,分析枠組みのさらなる精緻化である。
Hentonらが示したものは,シンプルで分かりやすい。だが,その分ラフな部分があることも否定
できない。そのため,彼らの分析枠組みを精緻化するために,より理論的考察をすすめていかなけ
ればならない。その際は,市民起業家活動は産業クラスターの発展段階を念頭に入れるべきか否か
検討が必要である。というのも,本研究では発展段階というよりも,市民起業家あるいは当該地域
を取り巻く状況に応じて求められる機能が異なっていたためである。
もちろん,本ケース1つだけですべてが説明できるわけではないことも承知している。そのた
め,今後はさらにケース分析を積み重ねていくことも不可欠である。
※謝辞
本研究は,青森県中南県民局「中南地域における産業クラスターによる地域活性化の関する調査」
の研究成果の一部である。三重県健康福祉部薬務食品室メディカルバレー推進グループの皆様には
本調査においてご協力いただきました。この場をかりて,心より感謝申し上げます。
参考文献
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51
岐阜県池田町のまちづくり指標と総合計画策定
―自治体行政における社会指標型ベンチマーキングの活用―
児 山 正 史
はじめに
第1章 経緯
第2章 活用状況
第3章 原因
第4章 困難への対処
おわりに
はじめに
本稿は、岐阜県池田町のまちづくり指標(1 )が、池田町第5次総合計画(計画期間 2010 ~ 19年度 )
(以下、総合計画 )の策定においてどのように活用されたか、その原因は何かを明らかにする。
まちづくり指標を総合計画の策定に活用した事例のうち、青森県、愛知県東海市、一宮市、三重県伊
賀市、愛知県愛西市、春日井市、岩手県滝沢村についてはこれまでに研究を行った(児山〔2006-2010 〕)。
しかし、池田町についてはまだ研究が行われていない。
本稿は、これまでに取り上げた事例と比較しながら、池田町の事例を分析することにより、まちづ
くり指標の行政での活用に関する知見を確認、追加することを目的とする。
以下、第1章で、まちづくり指標の作成と総合計画の策定の経緯を概観し、第2章で、総合計画策定
においてまちづくり指標がどのように活用されたかを明らかにする。そして、第3章でその原因を
分析し、第4章で、まちづくり指標を行政で活用する際に生じる困難にどのように対処したかを分析
する。
第1章 経緯
2005年5~6月、池田町のまちづくりや行財政改革に関する意見・提案が募集された。広報誌と
一緒に提案書が配布され、各地区の公民館などに提案箱が設けられた(広報〔2005.5 〕10 )。7月には、町
長の地区懇談会でも意見・提案が募集された(総合計画 141 )。10月には、町民からなる池田町まちづ
くりワークショップ委員会(以下、ワークショップ委員会 )の委員が委嘱され、11月に同委員会が町
民 53名にグループインタビューを行った(ワークショップ〔2007.7.27 〕中間報告、総合計画 141 )。そして、提
案箱などの210件、地区懇談会の315件、グループインタビューの636件の意見・提案がワークショッ
プ委員会で整理・集約され、105件の生活課題と11の理念(キーワード )が洗い出された(総合計画 138、
53
研修会〔2006.7.25 〕経過 )。
このような作業を行ったきっかけは、当時の総務部長が、時代の流れとして町民との協働がある
と考え、東海市などの総合計画策定のコンサルタントを務めたNPO の情報を収集し、依頼したこと
(聞き取り)
だった。
2006年1~2月、生活課題の重要度やキーワードの優先度を聞くアンケート調査(700人 )が行わ
れ、上位5つのキーワード(安心、生きがい、未来、快適、健全 )と28の生活課題が選定された(総合計画
138、広報〔2006.4 〕3-4 )。その後、1つのキーワード
(活力
)と10の生活課題(行政課題 )
(2006年度に4、
2008年度に4、2009年度に2 )が追加された(総合計画 139、広報〔2007.7 〕5 )。このアンケート調査は、当初、
第4次総合計画の後期計画(2006 ~ 10年度 )の骨子を作成するために実施されたが(広報〔2006.4 〕3、議
会だより〔2006.5 〕1 )、
後に、第5次総合計画を1年前倒しで策定するために用いられることになった。
2007年2~6月、ワークショップ委員会で32の生活課題の87の指標が選定された(ワークショップ各
部会〔2007.2-4 〕、ワークショップ〔2007.6.3 〕、広報〔2007.8 〕4-6 )。また、2008
~ 09年度に追加された生活課題の
指標も、ワークショップ委員会の後継の池田町町民参加推進会議(以下、町民参加会議 )で選定され
た(町民参加会議〔2008.6.29、2008.11.4 〕、聞き取り)。
2007年7月、客観指標の現状値調査が行われ、2008年 12月~ 2009年2月、主観指標の現状値アン
(2 )
。そして、2009年5月、36
ケート調査が行われた(総合計画 141、総務課長〔2007.7.11 〕、現状値アンケート )
の生活課題の104の指標の目標値(めざそう値 )
(5年後、10年後 )と生活課題の改善のための役割分
担値(役割期待値 )に関するアンケートが、町民参加会議委員、行政職員、当事者・関係者に対して行
われた(総合計画 139,141、町民参加会議〔2009.5.28 〕、説明会〔2009.5.28 〕、目標値アンケート、分担値アンケート )。また、
2009年度に追加された2つの生活課題に関する目標値・役割分担値も同様の方法で設定された(聞
き取り)。
これに先立ち、2007年7月、ロジックモデルの作成・活用に関する職員研修会が開催され、ロジッ
クモデルが作成された。8月にはロジックモデルに関するフォローアップ研修会、10 ~ 11月には
ロジックモデル・ヘルプデスクも開催された(総務課長〔2007.7.11 〕、研修会〔2007.7.13,19 〕レジュメ、総務課長
〔2007.8.16、2007.10.25〕)。そして、
11 ~ 12月にロジックモデルの見直し・完成が求められた(同〔2007.11.20〕)。
各課から提出されたロジックモデルは、コンサルタントによる点検と見直し案の提示を受け、2008年
8~9月に修正が求められた(総務部長〔2008.8.14 〕)。さらに、10月には研修会でロジックモデルの点検
が行われ、修正が求められた(同〔2008.9.17 〕、研修会〔2008.10.6,8 〕、総務課長〔2008.10.8 〕)。
(3 )
2009年6月には、庁内の池田町総合計画策定会議(以下、策定会議 )
が第1回の会合を開いた(総
合計画 141)。そして、
部会を中心に、ロジックモデルを点検し、生活課題を施策の表現に転換し、ロジッ
クモデルに基づいて施策の体系を作成した(策定会議各部会〔2009.6-7 〕、同 部会長会議〔2009.7.22 〕、策定会議
〔2009.7.29 〕)。
6月には池田町計画審議会(以下、審議会 )の第1回会議が開催され、2010年1月に諮問、答申が
行われた(審議会〔2009.6.2、2010.1.28 〕)。そして、3月の議会で第5次総合計画が承認された(議会だより
〔2010.5.1 〕)。
54
第2章 活用状況
池田町の総合計画は、基本構想(計画期間 2010 ~ 19年度 )、基本計画(同、ただし2015年度に見直
し)、実施計画(3年間の計画を毎年策定 )からなる(総合計画 13 )。
基本構想は、将来像を示すとともに、まちづくりの目標とめざすまちの姿を明らかにしている(同
上 )。将来像
(「いきいきと市民がつながり、夢が持てる自然都市
」)は、アンケート調査で2位だった
理念「生きがい」を示す「いきいき」という言葉や、3位の理念「未来 」を表現した「夢が持てる」という
言葉を採り入れるとともに、めざすまちの姿の1つとして見られた「つながり」という言葉を盛り込
んだと説明されている(同上 22 )。また、まちづくりの目標は、アンケート調査で多くの町民が重要で
(4 )
あると回答した6つの理念を掲げたと述べられている(同上 23 )
。めざすまちの姿は、生活課題か
ら出された28の施策に、行政課題から出された10の施策を加え、38の施策を展開していくとされてい
(5 )
る(同上 24 )
。
基本計画は、めざすまちの姿を実現するための施策を6つの理念に沿って明らかにしている(同上
13 )。各施策のページには、
施策名、社会背景、町の現状と課題、施策の体系(施策の実現のための方策、
主な事業 )、めざすまちの姿(生活課題・行政課題 )、指標、現状値、めざそう値(5年後・10年後 )、役
割期待値(個人・家庭、市民活動団体、企業・事務所、学校、町、県・国 )、町民や各種団体などができ
ることが記載されている(同上 42-131 )。施策の体系は、ロジックモデルを見ながら事業編成を組み上
げて作成された(策定会議各部会〔2009.6 〕)。主な事業は、ロジックモデルに記載されているものが多いが、
ロジックモデルに記載されていないものもある(6 )。指標は、ワークショップ委員会・町民参加会議
が選定したものがほぼ掲載されている(7 )。めざそう値と役割期待値は、町民参加会議委員、行政職員、
当事者・関係者へのアンケート調査の平均値が記載されている(目標値アンケート、分担値アンケート、総
合計画 46-131 )。
実施計画は、各年度に実施する具体的な事業を取りまとめた短期計画で、予算編成の指針となる
(同上 13 )。実施計画の事業がロジックモデルに記載されていることは求められなかった (聞き取り)。
実施計画には、ロジックモデルに記載されていない事業や、基本計画の施策と無関係な事業も掲載さ
(8 )
れている(実施計画、ロジックモデル )
。
なお、総合計画の策定時には中間指標は設定されず、今後、設定するかどうかは未定である。また、
主観指標のアンケート調査を毎年行うかどうかも未定である。さらに、まちづくり指標やロジック
(聞き取り)
モデルを行政評価や予算編成でどのように活用するかは今後の課題である。
池田町のまちづくり指標は、次のように活用されたといえる。
第1に、まちづくり指標は総合計画(基本構想、基本計画)の骨格として活用された。基本構想
の将来像にはアンケート調査で上位だった理念が反映され、まちづくりの6つの目標のうち少なく
とも5つはアンケート調査で上位の理念が採用された。また、めざすまちの姿は、アンケート調査
に基づく28の生活課題に10の行政課題を加えたものである。基本計画の施策は、28の生活課題と10
の行政課題を施策の表現に転換したものであり、各施策のページには、生活課題・行政課題、ワー
クショップ委員会・町民参加会議が選定した指標、現状値、そして、町民参加会議委員、行政職
員、当事者・関係者へのアンケート結果を平均しためざそう値・役割期待値が掲載されている。た
55
だし、生活課題や指標は一部修正された。
第2に、総合計画の策定時にロジックモデルが作成・点検・修正され、総合計画(基本計画)の
策定に活用された。基本計画の施策の体系は、ロジックモデルを見ながら作成された。ただし、ロ
ジックモデルに記載されていない事業が基本計画の主な事業として掲載されていることもある。ま
た、ロジックモデルに中間指標は設定されていない。
第3に、ロジックモデルと実施計画の関係は不明確であり、まちづくり指標やロジックモデルを
行政評価や予算編成で活用することは今後の課題である。
第3章 原因
本章では、池田町のまちづくり指標が上述のように活用された原因を、これまでの研究で扱った
事例と比較しながら分析する。
これまでの事例では、まちづくり指標の活用に影響を与えた最も重要な要因は、首長の意向とコ
ンサルタントによる情報提供だった。また、これらに次ぐ重要な要因は、先例の存在と時間的余裕
だった。さらに、副次的または影響の小さい要因として、まちづくり指標の作成と総合計画の策定
の時期・担当部門の一致、実施部門の意向、目標値設定への行政職員の参加、まちづくり指標の作
成・活用の制度化、企画部門の意向、審議会の意向、合併があった。
以下、重要な4つの要因とそれ以外の7つの要因に大別して、池田町での影響を分析する。
(1)重要な要因
第1に、町長は、まちづくり指標の作成・活用を主導はしなかったが、理解を示した。まちづくり
指標の作成・活用は、町長の指示によるものではなく、総務部長がコンサルタントに依頼したことか
ら始まった。しかし、町長は、まちづくり指標を作成したワークショップ委員会・町民参加会議に
出席し、あいさつを行った(ワークショップ〔2006 〕開催実績、ワークショップ〔2007.6.3 〕、町民参加会議〔2008.6.29、
2008.11.4、2009.5.28 〕)。また、
審議会の委員を対象とした講演会では、総合計画の策定方法について発言
し、今回の総合計画は、住民の生活課題を拾って、その中から目標数値を出し、理念を拾い上げて進め
ると説明した(講演会〔2009.7.31 〕)。なお、総合計画の「はじめに」では、町長名で、住民の生活実感に根
差して設計したアンケートを行い生活課題をまとめたこと、それぞれの課題に目標数値を設定した
ことなどが述べられている(総合計画 3 )。
第2に、東海地方の他の自治体と同じコンサルタントが、まちづくり指標の作成・活用に関する
情報を提供した。職員の研修会では、まちづくり指標の必要性や作成の手順、ロジックモデルの作
成・修正・点検・活用の方法を説明・指導した(研修会〔2006.7.25 〕レジュメ、同〔2007.7.13,19 〕レジュメ、同
〔2008.10.6,8〕)。
特にロジックモデルについては、ヘルプデスクでの指導や、点検、見直し案の提示も行っ
た(ヘルプデスク、総務部長〔2008.8.14 〕)。また、ワークショップ委員会や町民参加会議にも出席し、経緯の
説明などを行った(ワークショップ〔2006 〕開催実績、同〔2007-2008 〕、町民参加会議〔2008-2010 〕)。庁内の策定会
議でも、生活課題を施策表現に転換することや、ロジックモデルを見ながら施策の体系を作成するこ
とを説明した(策定会議〔2009.6.2 〕、策定会議各部会〔2009.6 〕)。さらに、コンサルタントの代表が審議会の副
56
会長に就任し、委員を対象に講演を行った(審議会〔2009.6.2 〕、講演会〔2009.7.31 〕事項書、レジュメ )。ただし、
随意契約に対する議会の目が厳しくなっているため、このコンサルタントの支援を引き続き受けら
れるかどうかは不明である(聞き取り)。
第3に、池田町には、まちづくり指標を作成・活用した多数の先例が存在した。グループインタ
ビューを行った先例としては東海市、伊賀市、一宮市、ロジックモデルを作成した先例としては伊賀
市、一宮市、愛西市、春日井市、東海市があった(児山〔2008-2009b 〕)。職員研修会では、東海市のまちづく
り指標や一宮市のロジックモデルが配布された(研修会〔2007.7.13,19 〕99指標、同 ロジックモデル )。また、
他市の審議会で、経緯を十分に把握していない委員が指標を変えてしまうというケースがあったこ
とから、池田町の審議会にはコンサルタントの代表が副委員長として参加することになった(打ち合
(9 )
わせ〔2009.5.12 〕)
。
第4に、池田町には、まちづくり指標を作成・活用するための十分な時間的余裕があった。2005年
11月にグループインタビューを行ってから2010年3月に総合計画が議会で承認されるまでの期間は
4年余りであり、これまでの事例の中で最長だった一宮市の2年半(児山〔2009a 〕137 )よりも長かった。
なお、まちづくり指標の作成から総合計画の策定までの間に町長が交代することもなかった(10 )。
(2)その他の要因
第1に、まちづくり指標の作成は総合計画の策定のために行われ、両者の担当部門・時期は一致し
ていた。ワークショップ委員会には総務部長・総務課長らが出席し(ワークショップ〔2006 〕開催実績、同
〔2007.6.3 〕など)、町民参加会議の庶務は総務部総務課において処理された(総合計画 153 )。総務部・総
務課(企画行政係 )は総合計画などの事務を分掌している(部設置条例 2条、行政組織規則 4条 )。
第2に、実施部門からは、まちづくり指標に対して特に反応はなかった。ロジックモデルに対して
は、当初は理解しにくく、不満の声が上がったが、説明を聞き、理解しながら作成した。ただし、ロジッ
クモデルを作成した職員が異動すると、後任の職員がロジックモデルを知らないこともあると言わ
(聞き取り)
れている。
第3に、目標値の設定には行政職員も参加し、町民参加会議委員、当事者・関係者を加えた3者の
平均値が採用された。
第4に、総合計画策定後のまちづくり指標の活用は、明確には制度化されなかった。総合計画には、
生活課題・行政課題の改善進捗や達成状況を評価するために指標を使用できること、改善されてい
ない目標について改良・向上を図り次の計画段階に反映させる仕組みを確立できること、目標に対
してどのような事業が有効であるかを考えられるようにゆるやかな町民参加を進めていくことなど
が記載されている(総合計画 11 )。しかし、まちづくり指標やロジックモデルを行政評価や予算編成で
活用するといった記述は見られない(11 )。
第5に、企画部門を担当する部長が、まちづくり指標の作成・活用に深く関わった。まちづくり指
標の作成は、総務部長がコンサルタントに依頼したことから始まった。部長は、ワークショップ委員
会・町民参加会議に出席し、あいさつや説明を行った(ワークショップ〔2006 〕開催実績、同〔2007.6.3 〕、同 部
会長・副部会長会議〔2008.6.19 〕、町民参加会議〔2008.11.4、2009.5.28、2009.8.6 〕、同 部会長・副部会長会議〔2008.10.31 〕、
57
同 新委員研修〔2009.5.28 〕)。庁内では、ロジックモデルの修正やロジックモデル研修会への出席の依頼
文を出し(総務部長〔2008.8.14、2008.9.17 〕)、職員説明会であいさつを行った(説明会〔2009.5.28 〕)。また、コン
サルタントとの打ち合わせにも出席した(打ち合わせ〔2009.5.12、2009.7.22 〕)。総合計画の策定・審議の
局面でも、庁内の策定会議の副委員長を務め(委員長は市長 )、審議会に出席した(総合計画 155、審議会
〔2009.6-2010.1 〕)。
(12 )
ところで、この部長は、単なる企画部門の担当者というよりも、庁内では町長(・助役・収入役 )
に次ぐ高い地位にある職員だった。総務部は、総合計画、重要施策の調査・企画・総合調整、財務、人
事管理などの事務を分掌し、総務部長は、地方自治法 152条3項の規定による町長の職務を代理する
(13 )
第1位の職員である(部設置条例 2条、職務代理規則 )
。また、この部長は、2009年6月、総括部長に就任
した(町民参加会議〔2009.5.28 〕、策定会議〔2009.6.2 〕)。総括部長は、本庁に置くことができ、町長を補佐し、
事務・技術に係る事務を総括し、部相互間の連絡調整をする(行政組織規則 6条 )。ただし、部長は2010
年3月に退職した(聞き取り)。
なお、企画部門の職員は、他市の審議会で指標が変更された例を聞いた際に、計画策定のためにこ
れまで積み上げてきたものについては一歩も下がってはいけないと発言した(打ち合わせ〔2009.5.12 〕)
(14 )
。ただし、総合計画を担当する企画行政係長は総務課の総括課長補佐を兼務するなど多忙であり、
実施計画・行政評価・予算編成でのロジックモデルの活用については、人員配置の面で仕事が回ら
ないと述べている(聞き取り)。
第6に、審議会は、総合計画の骨格を変更することはなかった。審議会には副委員長としてコン
サルタントの代表が参加し、委員を対象とした講演会で総合計画の策定方法などを説明した(審議会
〔2009.6.2 〕、講演会〔2009.7.31 〕レジュメ )。
第7に、池田町は合併しなかったため、新町建設計画を総合計画に反映する必要はなかった。
以上、池田町のまちづくり指標の活用の原因を分析してきた。池田町では、企画部門を担当する部
長がコンサルタントに依頼したことからまちづくり指標の作成が始まり、その後も、部長とコンサル
タントがまちづくり指標の作成・活用に深く関わった。町長は、この過程を主導はしなかったが、理
解を示した。なお、部長は、単なる企画部門の担当者というよりも、庁内では町長らに次ぐ高い地位
にある職員だった。
また、池田町には多数の先例と十分な時間的余裕があり、まちづくり指標の作成と総合計画の策定
の時期・担当部門は一致していた。さらに、行政職員も目標値の設定に参加し、実施部門、企画部門、
審議会や合併がまちづくり指標の活用の障害になることはなかった。
しかし、総合計画策定後、部長は退職し、コンサルタントの支援を引き続き受けられるかどうかも
不透明である。また、まちづくり指標やロジックモデルを行政評価・予算編成で活用することは明
確には制度化されていない。さらに、実施部門ではロジックモデルが引き継がれないこともあり、企
画部門では人員が不足している。
58
第4章 困難への対処
本章では、まちづくり指標を行政で活用する際に生じる困難に池田町がどのように対処したかを
分析する。以下、これまでに扱った事例と同じ順序で、まず、まちづくり指標の作成方法と内容、次に、
その他の困難(行政での活用を進める方法、まちづくり指標の作成者の役割、行政での活用方法 )に
ついて記述する。
(1)まちづくり指標の作成方法と内容
まちづくり指標の作成方法と内容に関しては、生活課題をどのように選定するか、ロジックモデル
をどのように作成するか、目標値をどのように設定するか、役割分担値をどのように解釈するかが問
題になる。
第1に、生活課題の選定方法について、池田町では、少数意見を切り捨てていいのかという質問が
出された。これに対して、コンサルタントの代表が、少数であっても町長の判断で選定されると回答
(講演会〔2009.7.31 〕)
した。
第2に、まちづくり指標と行政の各部門の施策・事業を結びつけるロジックモデルについては、必
要性をどのように説明するか、質をどのようにして高めるか、行政の複数の部門が関わる施策をどの
ように扱うか、行政以外の要因をどのように位置づけるかが問題になる。
まず、ロジックモデルの必要性は、事務事業評価と対比して説明された。事務事業評価があまり機
能しないのは、事業の有効性を評価するための目標が明確に示されていないからであり、政策マーケ
ティングなどの手法によって目標を設定した上で、目標の達成に有効な事業かどうかをチェックす
(研修会〔2008.10.8 〕)
るための道具がロジックモデルであると説明された。
次に、ロジックモデルの質を高めるために、研修会の開催、各課での点検、コンサルタントによる支
援が行なわれ、ロジックモデルが何度も修正された。研修会は、ロジックモデルの作成のために1回、
修正のために3回開催され、講師による説明だけでなく、個人演習、グループ演習、発表なども行われ
た(研修会〔2007.7.13,19、2007.8.21、2008.10.6,8 〕、策定会議〔2009.6.2 〕)。ロジックモデルは主に係長級の職員が作
成し、課内での決裁は求められなかったが(聞き取り)、幹部、課長・課長補佐も研修会に出席し、ロジッ
クモデルを点検した(研修会〔2008.10.8 〕、策定会議〔2009.6.2 〕)。また、上述のように、コンサルタントがロ
ジックモデルの必要性や作成・修正・点検・活用の方法を説明・指導し、ヘルプデスクでの指導や、
点検、見直し案の提示も行った。そして、2007年7月に初めて作成されたロジックモデルは、研修会、
各課での点検、コンサルタントによる支援を経て、11 ~ 12月、2008年8~9月、10月の3度にわたり
見直し・修正が求められ、2009年6~7月にも点検された。なお、町民参加会議でもロジックモデル
を点検したが、その結果は反映されなかった(町民参加会議〔2009.6.20 〕、同 ワークシート、ロジックモデル )。
また、ロジックモデルを検証するための中間指標は設定されなかった。
複数の部門が関わる施策については、担当課調べに主担当課と関係課を記載し(研修会〔2007.7.13 〕担
当課調べ)、ヘルプデスクに関係課の出席を依頼するなどして(総務課長〔2007.10.25 〕)、担当課間の調整が
求められた。
行政以外の要因の位置づけについては、民間が担うべきことはロジックモデルではどのように表
59
現すればよいのかという質問があり、民間の活動を促す支援・啓発が行政の事業になるという説明
があった(ヘルプデスク〔2007.11.1 〕生活課題5 )。なお、町民参加会議では、ロジックモデルを点検した上
で、多様な主体ができることを検討し、その結果が総合計画の各施策のページに掲載された(町民参加
会議〔2009.6.20 〕、総合計画 43-131 )。
第3に、目標値は、町民参加会議委員、行政職員、当事者・関係者の回答の平均値を採用したが、行
政職員が参加すると目標値が低く抑えられるという指摘もある。池田町では、行政職員の目標値は
町民参加会議委員よりも低く、当事者・関係者と同程度だった。104指標のうち、職員の目標値(5年
後・10年後 )が委員よりも低かったものが79指標(76%)・65指標(63%)、当事者・関係者よりも低
かったものが52指標(50%)
・43指標(41%)だった。委員、職員、当事者・関係者の目標値の平均値は、
現状値を100とすると、数値が大きい方が望ましい指標(84 )は、5年後がそれぞれ119、114、110、10年
後が134、126、124、数値が小さい方が望ましい指標(16 )は、5年後が77、84、81、10年後が66、74、71だっ
(15 )
た(目標値アンケートより計算 )。
第4に、生活課題を改善するための多様な主体の役割分担値を示すことによって、行政の役割が相
対化され、行政での活用が進まないという指摘もある。池田町では、行政職員が「町 」の役割分担値
を低く回答する傾向があった。36の生活課題のうち、職員による「町 」の役割分担値が委員と当事者・
関係者よりも小さかったものは、それぞれ27(75%)と30(83%)だった。また、委員、職員、当事者・関
係者による「町 」の役割分担値の平均値は、それぞれ17.3%、16.8%、18.1%だった(分担値アンケートより
計算 )。
なお、町民参加会議では、役割分担値という表現は、権威的に押し付ける印象を与え、迫られる感
じがするので、役割期待値という表現にしてはどうかという意見が出された(町民参加会議〔2009.8.6、
2010.1.13 〕)。この意見が審議会で紹介されたところ、町長からも、分担値は押し付けがましいので役
割期待値がよいのではないかという意見が出され、表現が変更された(審議会〔2010.1.28 〕)。
(2)その他の困難
第1に、池田町では、町長らに次ぐ高い地位にある職員がまちづくり指標の作成・活用を主導し、
町長もこれに理解を示した。このようにトップダウンで活用が進められる一方で、ロジックモデル
の作成・活用は多数の職員を長期にわたって巻き込んだ。しかし、総合計画の策定後、部長は退職し、
また、ロジックモデルは行政評価・予算編成ではまだ活用されていない。今後、まちづくり指標の活
用が定着するかどうかは不明である。
第2に、まちづくり指標を作成したワークショップ委員会・町民参加会議の委員からは、指標の作
成に役割が限定されたことに対して不満は表明されなかった(聞き取り)。町民参加会議の会長は、住
民のone of them ということを忘れずにと発言し、また、新しい事業の提案はできるのかという委員
からの質問に対して、提案ばかり先走ると1つの圧力団体のようになってしまうと答えた(町民参加
会議〔2008.6.29、2008.11.4 〕)。これは、委員の募集時から指標を作成することを説明していたためである
と述べられている(聞き取り)。
第3に、池田町では、まちづくり指標はまず総合計画の骨格として活用されたが、行政評価や予算
60
編成での活用は今後の課題として残されている。
おわりに
本稿は、池田町のまちづくり指標が総合計画の策定においてどのように活用されたか、その原因は
何かを明らかにしてきた。最後に、本稿の分析を通じて、まちづくり指標の行政での活用に関してど
のような知見が確認、追加されたかを整理する。
池田町では、まちづくり指標が総合計画(基本構想、基本計画 )の骨格として活用された。また、総
合計画の策定時にロジックモデルが作成・点検・修正され、総合計画(基本計画)の策定に活用された。
しかし、まちづくり指標を実施計画・行政評価・予算編成で活用することは、今後の課題として残さ
れている。
これまでの研究で扱った事例と比較すると、池田町の特徴は、首長の強い意向に基づかずに、まち
づくり指標が総合計画の骨格として活用されたことである。
前稿では、首長の意向とコンサルタントによる情報提供が最も重要な要因であり、このどちらが欠
けても活用は大きくは進まないと述べた(児山〔2010 〕70 )。これまでの事例のうち、まちづくり指標が
総合計画の骨格として活用された3市(東海市、一宮市、愛西市 )では、いずれも市長の強い意向に基
づいてまちづくり指標が作成・活用された。東海市のまちづくり指標を作成した市民参画推進委員
会は、市長の公約に基づくものだった(同〔2008 〕57 )。一宮市の市長は、愛知県市長会で東海市の事例
を聞き、数値目標を設定し、市民参加で総合計画を策定するよう指示した(同〔2009a〕139)。愛西市でも、
市長が選挙時に市民委員による政策の評価・達成度の判断などを掲げ、当選後、まちづくり指標の作
成・活用がトップダウンで始められた(同〔2009b 〕40,43 )。他方、市長が強い意向を示さなかった2市
(伊賀市、春日井市 )では、まちづくり指標は途中まで、または半分程度、活用された。伊賀市では、企
画調整課長がNPO に企画書の提出を依頼し、春日井市では、NPO が企画課を訪れてまちづくり指標
の作成・活用を提案したことから、まちづくり指標の作成が始まった(同上 36,46 )。
池田町では、企画部門を担当する部長がNPO に依頼したことからまちづくり指標の作成が始ま
り、その後も、部長とNPO がまちづくり指標の作成・活用に深く関わった。このように、企画部門と
コンサルタントが主導した点で、池田町は伊賀市や春日井市と共通する部分がある。
しかし、池田町と伊賀市・春日井市では、首長の意向の強さに違いがあった。池田町の町長は、ま
ちづくり指標の作成・活用を主導はしなかったが、審議会の講演会で総合計画の策定方法について
発言するなど、理解を示した。他方、伊賀市の市長は、審議会で総合計画についての思いを語るよう
求められた際、策定方法には触れず、個別の施策について語った(同上 38 )。また。春日井市の審議会
等の会議録には、市長の意向を示す記述は見られなかった(同上 49 )。
さらに、池田町の部長は、単なる企画部門の担当者というよりも、庁内では町長らに次ぐ高い地位
にある職員だった。この点も、企画部門の課長や職員がNPO に依頼・応対した伊賀市や春日井市と
は異なっている。
結局、池田町の事例から言えることは、首長の強い意向(公約や指示 )に基づかなくても、首長ら
に次ぐ高い地位の職員が主導し、首長が理解を示した場合には、まちづくり指標が総合計画(基本構
61
想、基本計画 )の骨格として活用されることがあるということである。池田町では、他のさまざまな
条件、すなわち、コンサルタントによる情報提供、多数の先例、十分な時間的余裕、まちづくり指標の
作成と総合計画の策定の時期・担当部門の一致、目標値設定への行政職員の参加、実施部門、企画部
門、審議会や合併が障害にならないという条件も満たされていた。
ただし、総合計画の策定後、部長は退職し、コンサルタントの支援の継続は不透明であり、活用の制
度化は不明確である。また、実施部門ではロジックモデルが引き継がれないこともあり、企画部門は
人員に余裕がない。まちづくり指標が実施計画・行政評価・予算編成においてどのように活用され
るか、その原因は何かを明らかにすることは、今後の研究課題である。
注
(1)本稿では、グループインタビューとアンケート調査に基づいて選定された理念(キーワード)と生活課題、生活
課題の状態を表す指標(狭義のまちづくり指標、成果指標)、指標の現状値と目標値(めざそう値)、生活課題の
改善に寄与する各主体の役割分担値(役割期待値)を「まちづくり指標」と総称する。なお、これまでの研究で述
べたことはなるべく繰り返さない。
(2)客観指標とは、講座の開催数や参加者数など、客観的にデータのとれる指標、主観指標とは、「…感じてい
る人の割合」など、アンケート調査などによって直接対象者に聞かなければ分からない指標である。(研修会
〔2007.7.13,19〕指標一覧表)
(3)議事要旨には「策定委員会」と記載されていることもあるが、本稿では規程のとおり「策定会議」に統一する
(策定会議規程)。
(4)6つのうち5つはアンケート調査で1~5位だったが、残る1つ(「活力」)が6位だったことは確認できな
かった。1~5位の理念の回答率(5つ選択)は73.2~59.2%、「活力」の回答率は34.7%だった(広報〔2006.4〕
3、研修会〔2007.7.13,19〕アンケート集計)。なお、アンケート調査報告書は、担当者間で引き継がれておらず、
入手できなかった。
(5)アンケート調査に基づいて選定された28の生活課題のうち19は、総合計画に掲載するまでに表現などが変更され
た。変更の内容は、表記の変更(読点の追加、漢字から平仮名への変更、「町財政」を「池田町の財政」に変更な
ど)が6、対象を拡大するような変更(「若いお母さん達が」を「誰もが」に変更、「退職者」を「退職世代」に
変更、「現在の団塊世代が要介護になった際に」「子どもの医療費など」を削除など)が9、意味を弱めるような
変更(「町内で安心して医療をうける」を「身近で…」に変更、「健常児、障害児との区別なく」を削除)が2、
意味の変更(「…開発すべきところと残すべきところが適切に分けられ、整然としている」を「…ともによく整備
され、利用されている」に変更など)が2だった。(広報〔2006.4〕4、総合計画24-25)
(6)例えば、施策「身近で安心できる医療体制を整える」の主な事業4つと「犯罪を防止する」の主な事業2つは、
いずれもロジックモデルに掲載されている(主な事業の名称が「医療機関誘致事業」、ロジックモデルの事務事業
名が「医療機関の誘致等体制整備」のように、表現が違うものも含む)。他方、施策「強固な防災体制の構築を図
る」の主な事業12のうち4つはロジックモデルに掲載されていない。(総合計画56,58,60、ロジックモデル)
(7)ワークショップ委員会が最初に選定した87の指標のうち19の表現などが変更された。変更の内容は、表現の変更
(「育児休暇」を「育児休業」に変更、「65才以上の人」を「高齢者」に変更など)が7、分割(「地域のための
62
ボランティア団体の数、参加している人の割合」を「地域のためのボランティア団体の数」と「…に参加している
人の数」に分割など)が5、一部変更(「安心して生活できる支給額であると思っている人の割合」を「…高齢者
の割合」に変更)が1、差し替え(「検診の受診率」を「福祉医療費の助成年齢」に変更など)が3、削除(「池
や川にいる生態動植物の数」など)が3だった。(広報〔2007.8〕4-6、総合計画46-131)
(8)例えば、施策「強固な防災体制の構築を図る」の実施計画事業「消防防災整備事業」はロジックモデルに同様の
事業(消防施設等整備事業)が記載されているが、施策「身近で安心できる医療体制を整える」の実施計画事業
「健康増進計画策定事業」はロジックモデルに記載されていない。また、92の実施計画事業のうち、基本計画の施
策(整理番号)が記入されていないものが16ある。(実施計画、ロジックモデル)
(9)春日井市では、審議会の委員から、市民会議の選定した成果指標は施策の内容と合致していないなどの意見が続
出し、半分以上の指標が採用されなかった。(児山〔2009b〕47,50-51)
(10) 現 町 長 は2003年 1 月 に 無 投 票 で 初 当 選 し 、2007年 1 月 に 無 投 票 で 再 選 さ れ た ( 朝 日 新 聞 〔2003.1.22、
2007.1.17〕)。
(11)愛西市では、総合計画と並行して作成された集中改革プランに、成果指標・ロジックモデルを活用して事務事
業の有効性を検証することなどが定められた。また、春日井市では、総合計画に、施策と事務事業(予算事業)
の関係をロジックモデルで検証することなどが記述された。(児山〔2009b〕45,50)
(12)2007年4月の地方自治法改正により助役・収入役が廃止された後、池田町には副町長は置かれていない(収入
役は経過措置により6月まで在任)(広報〔2008.9〕10、同〔2009.12〕14)。
(13)地方自治法152条では、町長に事故がある時や町長が欠けた時には、副町長がその職務を代理し(1項)、副町
長を置かない町では、町長の指定する職員が職務を代理し(2項)、そのような職員がいない時は、規則で定め
た上席の職員が職務を代理する(3項)ことが定められている。
(14)この打ち合わせには部長と総務課職員2名が出席しており、発言者は「町」と記載されているため、誰の発言
かは不明である(打ち合わせ〔2009.5.12〕)。
(15)数値が大きい方が望ましい指標とは、例えば「安心して生活できる支給額であると思っている人の割合」、数
値が小さい方が望ましい指標とは、例えば「子育てをしていて、いらいらすることがよくある人の割合」であ
る。「目標値が低い」とは、前者の数値が小さく、後者の数値が大きいことを意味する。なお、現状値を100とし
た場合の3者の目標値の平均値は、現状値が0の4指標を除いて計算した。
参照資料
1.二次資料
(1)雑誌記事
本文中では、( )を用いて、著者名、発行年(〔 〕)、ページ、の順に示した。
児山正史〔2006〕「青森県政策マーケティング委員会の7年(1)―自治体行政における社会指標型ベンチマーキング
の活用―」、『人文社会論叢(社会科学篇)』、第16号、57-77頁。
―〔2007a〕「青森県政策マーケティング委員会の7年(2・完)―自治体行政における社会指標型ベンチマーキング
の活用―」、『人文社会論叢(社会科学篇)』、第17号、131-153頁。
―〔2007b〕「青森県の政策マーケティングと総合計画策定―自治体行政における社会指標型ベンチマーキングの活用
―」、『人文社会論叢(社会科学篇)』、第18号、107-118頁。
―〔2008〕「愛知県東海市のまちづくり指標(~2007年9月)―自治体行政における社会指標型ベンチマーキングの
63
活用―」、『人文社会論叢(社会科学篇)』、第19号、51-76頁。
―〔2009a〕「愛知県一宮市のまちづくり指標と総合計画策定―自治体行政における社会指標型ベンチマーキングの活
用―」、『人文社会論叢(社会科学篇)』、第21号、135-160頁。
―〔2009b〕「三重県伊賀市・愛知県愛西市・春日井市のまちづくり指標と総合計画―自治体行政における社会指標型
ベンチマーキングの活用―」、『人文社会論叢(社会科学篇)』、第22号、35-68頁。
―〔2010〕「岩手県滝沢村の住民ニーズ調査と総合計画策定―自治体行政における社会指標型ベンチマーキングの活
用―」、『人文社会論叢(社会科学篇)』、第23号、163-173頁。
(2)新聞記事(朝日新聞オンライン記事データベース 聞蔵Ⅱビジュアル)
本文中では、( )を用いて、新聞名、日付(〔 〕)を示した。
朝日新聞〔2003.1.22〕:「池田町長に岡崎和夫氏当選 町議補選とも無投票」(朝刊、岐阜1面、28頁)。
―〔2007.1.17〕:「池田町長に岡崎和夫氏再選 町議補選も無投票」(朝刊、岐阜全県・1地方面、23頁)。
2.池田町の資料
ホームページ以外の資料は池田町役場から任意で提供を受けた。
(1)冊子・例規・文書等(資料名の五十音順)
本文中では、( )を用いて、資料名(略称)などを示した。
議会だより:『いけだ町議会だより』(池田町ホームページ)。
行政組織規則:「池田町行政組織規則」(池田町ホームページ)。
現状値アンケート:「平成20年度 池田町まちづくり指標 現状値アンケート調査 中間報告書」。
広報:『広報いけだ』(池田町ホームページ)。
策定会議規程:「池田町総合計画策定会議規程」(総合計画154-155)。
実施計画:「第五次総合計画実施計画」。
職務代理規則:「池田町の長の職務を代理する職員の順序を定める規則」(池田町ホームページ)。
総合計画:総務部総務課編『池田町第五次総合計画』(池田町、2010年)。
部設置条例:「池田町部設置条例」(池田町ホームページ)。
分担値アンケート:「役割分担値アンケート集計結果」。
目標値アンケート:「目標値アンケート集計結果」。
ロジックモデル:「ロジックモデルシート(町内で安心して医療をうけることができる)(犯罪がなく暮らすことがで
きる)(災害発生直後と、復興時とそれぞれで適切な支援が行なわれるようになっている)」。
(2)会議資料(会議名の五十音順、各会議の開催日順、各開催日の資料名の五十音順)
本文中では、( )を用いて、会議名(略称)、開催年月日(〔 〕)、資料名(略称)(会議録の場合は省略)
を示した。以下では会議録以外の資料を掲げる。
①研修会
〔2006.7.25〕経過:「これまでの経過について」。
―レジュメ:「成果志向の行政経営の考え方」。
〔2007.7.13,19〕アンケート集計:「アンケート集計」。
―99指標:「99指標とめざそう値・役割分担値一覧表」。
―司会:「まちづくり講演会司会進行」。
―指標一覧表:「指標一覧表」。
―担当課調べ:「生活課題別担当課調べ(案)」。
―レジュメ:「新しい総合計画の考え方とロジック・モデルの作成・活用方法」。
―ロジックモデル:「ロジックモデルシート(誰でも働きながら子どもを産み育てることができる)」。
②講演会
〔2009.7.31〕事項書:「総合計画策定に向けた講演会 事項書」。
―レジュメ:「新しい総合計画と行政経営」。
③町民参加会議
〔2009.6.20〕ワークシート:「長期成果ワークシート 記録」。
64
④ワークショップ
〔2006〕開催実績:「まちづくりワークショップについて 平成18年度 開催実績」。
〔2007.7.27〕中間報告:「池田町ワークショップ委員会の中間報告について」。
(3)通知文等(作成者の五十音順、各作成者の日付順)
本文中では、( )を用いて、作成者、日付(〔 〕)を示した。
総務課長〔2007.7.11〕:「職員研修会の開催について」。
―〔2007.8.16〕:「ロジックモデル・フォローアップ研修会の開催について」。
―〔2007.10.25〕:「ロジックモデル・ヘルプデスク研修会の開催について」。
―〔2008.10.8〕:「ロジックモデルについて」。
総務部長〔2008.8.14〕:「ロジックモデル修正について」。
―〔2008.9.17〕:「ロジックモデル職員研修について」。
(4)聞き取り
聞き取り:2010年6月28日、池田町役場総務部総務課総括課長補佐兼企画行政係長 廣澤了氏からの聞き取り。
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日本の周縁地域における労働移動とジェンダー
―女性の出稼ぎの過程に注目して―
山 口 恵 子
[目次]
1 問題設定
1.1 目的 /1.2 方法
2 出稼ぎの概要
2.1 出稼ぎの全国的な動向 /2.2 出稼ぎ王国・青森 /2.3 女性の出稼ぎについて
3 女性の労働移動の過程―ケーススタディから―
3.1 出稼ぎに行くパターン /3.2 女性の出稼ぎ経験
4 小括
4.1 周縁地域の労働市場とジェンダー /4.2 出稼ぎと家
1 問題設定
1.1 目的
本稿は,青森県の女性が出稼ぎで働く過程を記述することから,戦後の日本における女性の労働
移動をジェンダーの観点から読み解いていくことを目的としている.
日本の女性の出稼ぎについては,戦前のいわゆる「女工出稼ぎ」「出稼工女」などと呼ばれた労
働移動がよく知られている.19世紀末から始まった,第一次産業革命と呼ばれる紡績・製糸などの
繊維工業を中心とした軽工業の発達は,工場労働者を必要とし,そこへ多くの周辺部の若年女性
が組み込まれていった.これらの出稼ぎについては,経済学を中心としたいわゆる農民層分解と
「出稼型労働」論のなかで,そのメカニズムや日本的特徴について多くの議論がなされた(大河内
1950; 隅谷 1955 他).
戦後になると出稼ぎは社会問題にもなり,多くの研究が着手され,経済学,社会学,社会心理
学を中心に主要な研究成果が出されている(渡辺・羽田編 1977, 1987; 大川 1974, 1979; 作道 1997,
2005; 矢野 2004).しかし,高度成長期の出稼ぎ労働は,その担い手の多くが男性であったことも
あり,多くの研究は男性の労働者を所与のものとした議論が行われた.女性の大半は,母村に残っ
て家や村を守る担い手として位置づけられたり,ごく一部で夫について働きに出ることが議論され
た。女性の出稼ぎも存在していたが,主要な議論の対象になることは少なかった.
こうした現状を踏まえ,本稿では,高度成長期以降から現代までの変容を視野に入れて,青森県
の女性が出稼ぎで働くプロセスを明らかにする.具体的には,出稼ぎに行く経緯,地元との関係,
67
およびそれへの意味づけに注目する.基本的には送り出し側のPush要因に注目するということに
なるが,ここではそのメカニズムを明らかにすることは主眼ではない.むしろ,出稼ぎに出るバリ
エーションを明らかにし,それをジェンダー的に読み解いていくことをめざしている.
また本研究は,労働とジェンダーの研究にも寄与すると考えている.ジェンダーの視点からの労
働研究へのアプローチは,女性を一枚岩ととらえがちなアンペイドワークやパート労働の議論は数
多くあっても,地方における女性の労働市場への関心は薄いといわざるをえない.本研究は,より
周縁化された女性の労働・生活から,労働とジェンダーの研究を捉え直していくことにつながると
考えている.なお,本来であれば,Push-Pullの双方において,日本における国境を越えた女性の
出稼ぎ労働は多く存在しており,それは例えば,エスニシティ研究や再生産領域のグローバル化の
研究などとして主要な研究の蓄積がある.しかしここでは,戦後の国内出稼ぎに限定して議論を行
う.
出稼ぎとは,大川健嗣や矢野晋吾らが詳細に分析しているように,概念が幅広く,定義が難しい
部分がある(大川 1979; 矢野 2004)1).しかし,ここでの対象としては,主に経済的事情によって
促される点と,地元への回帰性があると一応考えられる点は,従来の賃労働型の出稼ぎと同様の側
面がみられる.よってここで出稼ぎとは,先行研究に習い,「生計の必要のために,一定期間生活
の本拠(家)を離れて他地で働き,その後帰るという回帰的な就労形態」ととらえておく(渡辺・
羽田編 1977: 3).
1.2 方法
利用する主なデータは,関東圏の温泉地で現在働いている青森県出身の女性と,青森県在住で出
稼ぎ経験のある女性の計15名への聞き取り調査の結果である.職場や自宅で,短いケースで20分,
長いケースで90分間の聞き取り調査を行った.一部,2名1組で聞き取りを行った場合や,同一
ケースに複数回の聞き取りを行った場合もある.本データは,2006年から継続している女性の出稼
ぎに関する質的調査の一部である2).
なお,このケースは数としては非常に限定的なものであり,青森から出稼ぎに行く女性の全体像
を表しているわけではない.とくに本ケースの3分の2が,1年を通して多くの青森県民を雇用し
ていたひとつの旅館(ホテル)を通じて得たものであり,この旅館の特性によって,ケースが偏っ
ているのは否めない.しかし,本ケースには女性の出稼ぎの普遍的な側面が多く含まれていると考
えられ,本研究のデータとして用いるものである.
以下では,まず出稼ぎの概要について,全国の動向,青森県の動向,女性の出稼ぎの動向の順に
まとめる.次に,現代において女性が出稼ぎに出ていくパターンをその形態から3つに整理し,そ
れぞれのケースにそって記述する.最後に,日本の女性の労働移動とジェンダーの特質について検
討を行う.
68
2 出稼ぎの概要
2.1 出稼ぎの全国的な動向
いわゆる出稼ぎという働き方は歴史的にさまざまに存在している.日本においては,戦前・戦後
とその性格が大きな変化を遂げてきた.まず,先行研究を参照しながら,全国的な動向について概
観しておこう.
農商務省の資料によると,戦前の大正期の出稼ぎ者は,約705,000人におよび,内訳は8割が農
林漁業外の職種で,2割が農林漁業内部の季節的な副業的出稼ぎであった.前者で最も多いのは
製糸業の36.4%であり,女性が9割を占めていた.いわゆる「女工出稼ぎ」である.続いては酒造
業が13.7%と多く,その他10%以下には多い順に,紡績,炭鉱,各種工業,売薬,機業,土木・木
梚,土木建築,凍豆腐製造,雑工業,鉱山,遊芸,寒天製造,製麺,塩田,屋根葺などがあがって
いる.また,後者は,養蚕,漁労,茶摘・製茶,農作業などが多い(宮出 1956: 47-8).つまり,
戦前の出稼ぎの産業は非常に多様であり,その中でも,戦後の出稼ぎがほぼ男性に担われるように
なることを念頭におくと,戦前の製糸・紡績業の工場にて働く女性の多さは特徴的であろう.
また,出稼ぎ労働力の供給源と労働市場の特徴は,戦前と戦後では大きく異なる.戦前の昭和
初期の最大の出稼ぎ供給地は100,000人以上を数えた新潟県であり,そのほか富山や石川も加える
と,北陸地方が戦前の最大の出稼ぎ供給地であったという.そのほか,広島・島根両県を拠点とす
る中国地方,なかでも瀬戸内海諸県と,南九州の三つが大きな拠点であった.一方,受け入れ側の
地域は,京浜および阪神工業地帯を二大拠点市場として,愛知・福岡を加えた四大工業地帯が多
く,これに北海道が加わる(大川 1979: 51-7).
一方,戦後の高度成長期に入ると,周縁部から大都市部への大規模な労働移動が「出稼ぎ」とし
て,大きな注目を浴びるようになった.農林省の統計による農・林・漁家からの「1~6カ月の予
定で家を離れて働きに出た者」の数だけでも,1960年の175,000人から1963年の298,000人へとわず
か3年間に70%強も増加している.そして1972年は342,000人(ただし,期間は1~12ヶ月間の予
定)を数えているが,実際は100万人を超えるとも推計されている(渡辺・羽田編 1977: 13-4).
そして,その最大の労働力の供給源は東北地方であった(渡辺・羽田編 1977; 大川 1979).
1972年の農林省の調査結果によると,その9割強は男性であり,前職は農業が約8割,出稼ぎ先
の産業は,建設業が6割強,製造業が2割5分,そして出稼ぎ先は大都市が8割を占めている(渡
辺・羽田編 1977).つまり,典型的には,工業化・都市化の進む大都市の建設業現場へと農村部
の男性労働者が大挙して吸収されていった3).
この戦前を含む高度成長期以前とそれ以降の出稼ぎについて,矢野晋吾は,出稼ぎの社会的性格
の変化を「伝統型出稼ぎ」から「賃労働型出稼ぎ」へと類型化している(矢野 2004).
では,「賃労働型出稼ぎ」の最大の担い手であった東北地方の青森県の出稼ぎについて,より詳
しくみていこう.
69
2.2 出稼ぎ王国・青森
青森県は,全国でも厳しい経済と雇用環境にある.第一次産業への依存度が高かった青森県は,
冷害や台風などの自然条件の厳しさに農作物が大きな打撃を向けることもしばしばであった.ま
た,総務省の社会生活統計指標によると,東北の他県に比べても製造業の集積が進まず(製造品出
荷額は2004年において全国ワースト4位),依然として第一次産業の割合が高い.完全失業率や一
人当たり県民所得は,長らくワースト5位以内にある.80年代半ばからの職業安定所の新規求人数
をみても,県外からの求人は経済動向と共に通常の何倍にも増加するが,県内の求人はほとんど横
ばいで動きが少ない,すなわち求人が増大していない(山口 2008: 151).
そうした厳しい経済・雇用環境のもと,および伝統的な慣行のもとに,出稼ぎは青森県のなかで
「第四次産業」と呼ばれるほど大きな位置を占めており,盛んであったことはよく知られている.
そして時代の進行と共に全体的な出稼ぎが減少傾向にあるなかでも,他の東北5県と比較して減少
が緩やかであり,最後まで出稼ぎが残った地域であるという(作道 1997, 2005)4).しかし,時代
とともに,青森の出稼ぎの行き先や形態,また位置付けは大きく変容してきた.
明治期から戦前期にかけての青森県の出稼ぎは,北海道とカラフト,カムチャッカを基地とした
北洋漁業への漁業出稼ぎがほとんどであった.しかし高度成長期に入り,1960年代後半頃には,北
海道が激減し,東北各県ならびに県内出稼ぎが減って,代わりに関東へ向かうのが半数を超え,ま
た名古屋などの中京地区への出稼ぎも年々増え始めた.就労先で多いのは圧倒的に建設業である
(大川 1979; 石川 1987; 弘前大学人文学部社会行動コース 2006).すなわち,戦前は,北海道・カ
ラフト方面へのニシン漁,北洋漁業,そして道内の建設業の仕事が多かったのが,漁場の縮小や漁
獲量の減少等に伴って,その数は減少し,高度成長期の建設ラッシュ著しい関東圏の建設業へと,
出稼ぎ先のトレンドが変化した.その一方で,それほど強調されないのであるが,製造業出稼ぎも
一定の割合を占めていることも見逃せない.
この青森県の出稼ぎは,初期のころは縁故による労働が多かった.戦前・戦後を通じて,津軽地
方の出稼ぎの特色は「モグリ」と批判された縁故就労であり,それは主に漁業出稼ぎが要請した労
働慣行であったという(作道1997, 2005).縁故出稼ぎは,村単位で親しい仲間と出稼ぎに出るこ
とへの安心があり,継続的に就労先を確保することにもつながっていた.しかし,「安全な出稼
ぎ」などのスローガンのもとで,とりわけ職業安定所を通じた就労や,行政への届け出の強力な推
進など,出稼ぎの「制度化」が進んだという(作道 1997).また同時に,出稼ぎは農閑期の季節
出稼ぎ(「季節」)から,一年中働き,盆や正月にのみ帰るという「通年」出稼ぎ(特定の季節の
みではなく,1年間を通して働く出稼ぎ)へと質的に変化している.
作道信介は,こうして出稼ぎが地域で暮らすための選択肢として客観的にも主観的にも身近に存
在する様態を「出稼ぎのベースライン化」という.そして,Push-Pull理論に対して,こうした青
森の出稼ぎは「地域を形成しそこに人を留め置く力(Hold)」として機能したことを指摘してい
る(作道 2005).
しかし,時代を追うにつれて「出稼ぎ」とくくられた就労は減少傾向にあり,他地域と同様に,
統計に計上されるような出稼ぎはほとんど終了に近い.ただし,たとえば若者の期間を定めた製造
70
業での就労は出稼ぎとは呼ばれないし,統計にも計上されないが,実質的に出稼ぎに近い労働移動
が依然として継続していることはいうまでもない.
さて,こうした青森県の出稼ぎであるが,そのなかで女性はどのような位置を占めていたのだろ
うか,統計データよりデッサンしてみよう.
2.3 女性の出稼ぎについて
青森県の『出稼対策の概況』によると,行政が把握できた最低限の数とみなすべきであるが,
1971年から今日までの出稼ぎ数のなかで,もっとも女性が多かったのは1975年である.男性63,314
人,女性13,400人であり,女性は全体の17.5%を占めていた(青森県商工労働部 2008).1980年に
は3,688組の「夫婦出稼ぎ」の存在が確認されている.つまり,女性は単身で行く場合もあるが,
夫とともに働きに出るという形態も相当の割合で存在していたことが分かる.そして全体の数は,
男性と同様に急激に減少していき,2007年現在では,男性7,172人に対して,女性はわずか640人で
ある(青森県商工労働部 2008).
年齢については,筆者の出稼名簿の統計分析によると,1960年代は10代と20代で6割を占めてい
たが,2000年代は50代半ばから60代前半が多くを占める.男性の出稼ぎの高齢化傾向はよく指摘さ
れることであるが,女性はさらに高年齢であった.職種については,1960年ごろの女性の出稼ぎ
は,北海道での農耕,缶詰や水産加工の作業,建設業のいわゆる「飯場」の炊事が多かった.その
のち,男性と同様に関東圏の建設業や製造業の仕事の比重が高まる.そして出稼ぎが数的にも激
減した2000年頃になると,サービス業が6割を占め,とくに宿泊施設やリゾート産業で働く傾向が
強くなっている(山口 2010).もちろんこれは,出稼ぎの数が激減するなかで,こうした仕事が
残った,という側面もあるかもしれない.
この男性と比べた時の青森県の女性の出稼ぎの変化からは,次の3つことが留意されよう.
第一に,戦後の女性の出稼ぎは一貫して男性に比べて少数であり,その中でも夫婦出稼ぎという
形でパートナーと共に行く割合も低くない.全体の数でいえば,村には女・子ども・年寄りが残さ
れる,といわれたように,村や家に残り「留守家庭を守る」女性が圧倒的で,出稼ぎに出るとして
も,家族とセットになったものも一定存在する.しかしその一方で,単身にて出ている場合もあ
り,彼女らの条件はどのように異なるのだろうか,これは次章で検討していく.
第二に,数が圧倒的に異なるので留保が必要ではあるが,職種が建設業に特化していく男性と比
べて,女性はその時代ごとに必要とされる多様な仕事についている点も見逃せない.つまり,女性
の労働力が補助的で景気調整弁的な流動性の高い労働力として必要とされることが伺えるところで
ある(竹中 1989他).
第三に,しかしそうはいうものの,女性の出稼ぎ先の職種は限られており,「女の仕事」といわ
れがちなものが多い.とりわけ,飯場での炊事(洗濯や掃除なども含むことが多い)は,建設業で
働く夫に連れ添い,主婦業の延長として期待されるものといえよう.同様に,旅館・ホテルなどの
宿泊業も,歴史的により女性の労働者が好ましい・ふさわしいと考えられて性別職域分離が進ん
でおり,かつ絶えず人手不足のため,中高年でも雇用するということである(神谷 1995; 武田・文
71
2010).ただし,その一方で機械化・マニュアル化が進み単純労働が可能となった製造業は,好況
期の人手不足の中で,性別に関係なく遠方からも労働力を調達するということであろう.
以上,全国および青森県の出稼ぎについて,とりわけ女性のそれに焦点を当てながら,概観して
きた.これらを念頭におきつつ,以下では,具体的なケーススタディより,女性の労働移動のプロ
セスを明らかにする.
3 女性の労働移動の過程―ケーススタディから―
3.1 出稼ぎに行くパターン
先述したように,検討するケースは,関東圏の温泉地で現在働いている青森県出身の女性と,青
森県在住で出稼ぎ経験のある女性の計15名である.
表1 出稼ぎ者のケース一覧
まず,この15名の属性を大づかみに確認しておこう(表1参照).生まれた年代は1920年代から
1950年代にわたり,1940・50年代が多くを占める.出身地は,Gさん以外は,みな歴史的に出稼ぎ
が盛んであった青森県の津軽地域である.結婚歴は,結婚してパートナーがいる人が6名,未婚や
離死別でいない人が9名と,本調査の対象者はパートナーがいないケースが多い.一方,出稼ぎに
72
行く前は,農業,美容師や店のオーナー(酒小売・飲食店)などの自営業,および地元の製造業
(電子や縫製関係,地場産業)などで働いていた.いずれにしても,自営業以外は,農業の兼業も
含めて,大半の女性がさまざまなパート・アルバイトの仕事を移り変わって働いてきている.特徴
的なのは,出稼ぎの開始年齢であり,20・30代のより若い頃に出稼ぎに出たのが3名で,残りはす
べて40代後半以降,とりわけ50代で出たケースが多い.これはのちほど詳述するように,子どもの
養育との関係が大きいのである.出稼ぎは長いケースで20年,短いケースで3年継続していた.
こうした対象者であるが,彼女らの出稼ぎは,その形態と年齢によって,大きく3つに分けられ
るようであった.第一に,若い頃に夫の出稼ぎに短期でついていったことがあるというパターンで
ある(A,Bさん).第二に,子どもが独立後,夫婦で出稼ぎに出るパターン(C,D,E,F
さん),第三に,単身で出稼ぎに出るパターンである(G,H,I,J,K,L,M,N,Oさ
ん).
以下は,この3つのパターンから代表的ないくつかのケースを記述する形で,検討していく.そ
の際,特に注目したいのは,誰がいかに出稼ぎに行くのか(または戻るのか)ということであり,
具体的には,出稼ぎに出たきっかけ,地元との関係,およびそれへの意味づけに着目する5).
3.2 女性の出稼ぎ経験
3.2.1 若い頃に夫について短期で出稼ぎに行く
まず,Aさん(50代)のケースをみてみよう
Aさんの夫は,父親がおらず,母親が一人で6人の子どもを育てた.年長だった夫は,家族の
ために10代から出稼ぎに出た.兄弟を「片づける」,すなわち結婚させ送りだすために,ずっと働
き,60歳まで40年近く,主に土木・建設業に出稼ぎに出ていた.彼女は20代前半で結婚した.すぐ
に子どもができたが,それを夫の母親に預けて,約3年間,夫の出稼ぎについて行った.「私はた
だ,生活のためしかなかったね,出稼ぎっていうのはね」と語り,「生活のため」すなわちお金を
稼ぐために出稼ぎに出たという.1970年前後のことである.
仕事は,すべて11月半ばから3月末までの仕事だった.同じ村の人とも一緒に働きに行った.
「そこの会社からちょっとこう,頼まれた人が,おめぇ行かねぇか,おめぇも行かねぇがとって
あって,それで最初行ったですね.」
最初は,神奈川にて自動車の部品を作る下請け会社で働いた.社員の他に2,30人の出稼ぎの人
を使っていたが,10人くらいは沖縄の人,あとは東北の人だった.彼女は鉄を削ってボルトやねじ
を作る仕事をしていた.8時から17時までの仕事で女性は残業がなかった.夫とともに社宅のア
パートに入っていた.次に,埼玉の建設業の飯場で働いた.労働者は50人ほどいたが,すべて八
戸,南部,津軽から来た青森県人で,「通年」で現場を持っていたという.彼女の仕事はご飯炊き
で,10歳ぐらい年上の女性と一緒に毎日50人分のご飯を炊いていた.朝の4時起きであった.
「(結構,自動車の方も大変だった?)大変…そうでもないね.どちらかっていったら力仕事でき
る方だったので.でも自分としては,働かねばならないっていうのがあったので.大変だなんて,
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嫌いだのそんなの言ってられない.私仕事してつらいと思ったことひとつもない.楽しいのはね,
お昼休みバレーボールやったりね.そういうのが好きだったんで.」(Aさん)
彼女はつらいと思ったことはないと言い,バレーボールなども楽しかったと振り返る.ただ,大
変かどうか,好きか嫌いかなどということを言っている場合ではなく,とにかく「働かねばならな
い」という,当時,生活上の必要性があったことがここからもうかがえる.
彼女の出稼ぎは,第二子ができて,「子育ては自分でしないと」と思い,終わった.
次に,Bさん(50代)のケースである.
Bさんは,青森で生まれた.家はりんごを主とする農家で,田んぼも作っていた.彼女は30代後
半の1990年から4年ほど,出稼ぎに出た経験を持つ.理由は次のようなものである.
「自分はお金の必要があったはんで,夫婦で行ったのよ.私の場合はな.だけど次のあのほらり
んご台風ってすごい台風が来たの.平成3年に.そういうふうにまた生活が.やっぱりお金が必要
になって.ここでちょっと頑張ってみようかってあれがあったんで,夫婦で行った.そのとき,ま
だおじいちゃんおばあちゃん,まだ元気だはんでさ.子どももまだ小学生だったけども.何年行っ
た,4年かな.それくらいしか行ってない.夫婦で行ったの.お父さんは毎年行ってるけど,私自
身初めて行ったのは.」(Bさん)
つまり,彼女の夫は長らく毎年出稼ぎに出ていたが,金銭的な必要があって妻も出稼ぎについて
いくようになった.しかも多くのりんごが落ちた台風禍も続き,彼女の出稼ぎは4年間続く.その
とき子どもは学童期であったが,まだ当時元気だった祖父母が面倒を見ることによって,彼女が出
ることが可能になっている.彼女らの出稼ぎ先は静岡県内の製造業工場であり,ベルトコンベヤー
のラインでエンジンのパーツをつけていた.
ところで,この経験は,彼女にとっては新鮮なものとして語られていた.
「でもさ,私にしてみれば,農業以外のことであったはんで,最初はすごいおもしろくて.初め
てこういう仕事したしさ.で,初めてなに,お給料.今までもらったことなかったから.ずっと農
業だから.ほとんどりんご,あのほら働いたことなかったから,すごいおもしろかったよ,私に
とってはね.8時から17時まで仕事してさ.農業は朝早くから自分の時間,6時だの7時だのなん
も関係なくして,うん.でも一応,ここは8時から17時までとかって決まってるじゃない.休み時
間も何時間とかって.そういう時間に縛られたことなかったから最初はすごい楽しかったよ.別の
世界を見たっていう感じで.その静岡は夫婦で,そのときは同じ村から4組,一緒に行った.だか
らけっこう楽しかった.お休みになるとどっか出かけたり.ここにいで毎日仕事したってお金もら
えるわけじゃないしさ,今日1日頑張ればいくら入るとかさ,あ,今日2時間の残業だったらいく
ら入るとかって,すごいそういうの.軽い研修とかなんとかってあったりすればまたお金につなが
るっていう.だから,じゃ頑張ろうとかって.」(Bさん)
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つまり,時間の不定期な,また妻には直接の給料があるわけではない農業を生業とした生活か
ら,時間に縛られ,給料を本人がもらう働き方は,彼女にとっては「別の世界を見た」と新鮮で楽
しいものと意味づけられている.また,同じ村から4組の夫婦が働きに出ており,一緒に出かける
などの楽しみもあった.お互いの生活のサポートもさまざまな形で存在したことであろう.彼女の
出稼ぎは,何とか危機を脱して生活ができるようになったということで,4年間で終わる.また冬
場は地元にりんごの袋詰めの仕事もあったという.
彼女らのケースは,村および世代を超えた直系制家族の農業の中に埋め込まれた出稼ぎというこ
とができるだろう.もともと夫が出稼ぎに出ており,それは同じ村から行くという地縁の紐帯の中
に組み込まれたものであった.それに加えて,緊急的な家計の助けのために,妻も一緒に働きに出
るのである.その際に,直系制家族のなかで,子どもの面倒を見る祖父母がいたという条件も重要
であろう.一方で,県内で嫁となり,農業と家を支えてきた女性が,初めて外に出たことで新しい
生活や賃労働を垣間見る機会になっている点も注目される.直接の給料がない,時間の際限のな
い,世代の縦の関係に縛られた,遠方に出ていくことの少ない,そうした当時の農家の女性を取り
巻く状況のなかで,出稼ぎは女性に新しい生活をもたらすものとしても経験されていた6).
3.2.2 子どもが独立後,夫婦で出稼ぎに行く
先の事例は,若い頃一時的に夫について出稼ぎに出たものであったが,次に,中高齢になってか
ら夫婦でまとまった期間,出稼ぎに出たケースである.表1ではC,D,E,Fさんにあたり,こ
こでは,40代から職場を変えながら17年近く出稼ぎに出ているCさん,次に,50代から旅館へと働
きに出たEさんを代表事例として取り上げてみたい.
Cさん(60代)は,30代後半から地元で家電の部品組み立ての製造業で働いたり,製材所でアル
バイトをしていた.夫はタクシー運転手だった.子どもが高校を卒業し,「若い人が家にいるから
家にいなくていい」ということと,地元に仕事がないこともあって,出稼ぎに出ることにした.夫
婦で一緒に働ける出稼ぎ先を職業安定所で探した.まず,1980年代半ばの頃に,5年間,愛知県の
自動車製造工場にて車の椅子カバーを作る仕事に従事した.次に,静岡県でコンクリートの会社で
働いた.そして,50代半ばからは関東圏にある旅館にて調理場の盛り付けの仕事で働いている.
子どもは「帰ってこい」と言うが,家に帰ってもやることもないし,邪魔扱いもされたくない,
お互いに自由にやっている方がいいと考えている.職場で人間関係が悪かったりすれば帰るが,今
のところ仕事は「わりと環境がいい」し,夫婦で一緒なので安心のようだ.休みの日に一緒に温泉
に行ったり,観光をしたり,パチンコに行ったりして出かけるし,ストレスがたまると,夫婦でお
互いに言って解消する.彼女は一人では出稼ぎに行かないという.
次に,50代後半から旅館へと働きに出たケースである.Eさん(60代)の家はりんご農家の多い
集落にあった.そこで田んぼを五反ほど作っていたが,10年ほど前に夫が腰を痛めてからは,人に
貸して作ってもらっている.2000年に入ってから出稼ぎに出た.そのきっかけは「生活がかかって
るから」と,経済的な必要があるのはいうまでもないが,そのほかにもさまざまなタイミングが
あった.
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「長男もほら,お嫁さんもらって,子どもも生まれたし,で,田んぼやらなくなったでしょ.だか
ら,えぇ,なんか家にいてもね.あれだしって,ちょっと出てみるわって,それで長野に友達に誘
われて1回行ったの.そしたらわりとね,楽しかったから.じゃあ,向こうにいようって.それで
また,ここへ来てみて.友達みんなに恵まれて,うん.ずっと今まで.えぇ,おかげさまでね.
(じゃあ家はもう空けてる感じに?)長男と孫がいるから.まだ元気なうちにね,うちにいても何
も仕事ないしさ.それにほら,子どもさんこっちに,三男もいるでしょ.だから,どっちかといえ
ばこっちの方から行けるじゃない.遊びに.直に.たまに1年に1回か2回くらいね,会えるか
ら.」(Eさん)
長男が結婚して世代交代し,家はまかせられること,田んぼに人手がかからなくなったこと,家
にいても仕事がないこと,子どもが関東にいて会えること,仕事がわりと楽しかったこと,そうし
たことも手伝って出稼ぎに出た,および継続的に続いていることが分かるだろう.
最初は友人から誘われて,長野のホテルに11月から6カ月間の「季節」で行った.スキー場の小
さいホテルで,仕事はなんでもやったという.その後,1年を通して働きたいと思い,職業安定所
で関東圏の別の旅館を見つけて,夫とともに働いている.この旅館は多くの青森県人を雇ってお
り,Eさんも青森県の「お友達に恵まれてるから,それが一番楽しいですよね」という.
彼女らは中高年齢になってから,夫婦で出稼ぎに行ったケースである.両者とも,子どもが学校
を卒業したり結婚するなどして,手がかからなくなったタイミングで出ている.経済的な必要はも
ちろんのこと,家は子どもが継いで孫もいたりするので,そちらは安心してまかせ,また,お互い
の「自由」もあり,場所を変えて働けるうちは働こうということである.そして近い将来は地元に
帰ることが想定されている.彼女らのケースは,子育てが一段落した「空の巣」期に,また次の世
代に譲った中高齢期に,夫婦で一時的に地元を出て働くということである.経済的な必要性はいう
までもないが,次世代との関係性の中でそれが促されている点が注目される.
また,彼女らが出稼ぎを始めた1990年代,2000年代になると,仕事を探す手段は,もはや地縁の
つながりではなく,職業安定所などの公的機関や友人による口コミとなっている 7).これは,お
そらく生業との関係もあり,Cさんはもともと農家ではなく,またEさんは農業をやめ(人にまか
せ),働きに出ているのである.同じ村の関係をそのまま出稼ぎ先に持ち込むことによる仲間との
強い紐帯はもはやみられない.しかし夫婦の紐帯は非常に強く,さらに,たまたま仕事先で出会っ
た多くの青森県出身者の存在は,楽しいものとして語られていた.
3.2.3 単身で出稼ぎに行く
①中年齢の頃から単身で渡り歩く
以上のパターンは,基本的には出稼ぎという賃労働が,直系家族の上の世代,下の世代,そして
夫との関係の網の目の中で,遂行されているものであった.これに対して,単身女性の出稼ぎは,
やや状況が異なる.表1では,G,H,I,J,K,L,M,N,Oさんにあたる.
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まずは,より若い頃から単身でいくつかの出稼ぎ先を渡り歩いたGさん(60代)のケースであ
る.Gさんは県外で生まれた.父親は炭鉱の坑内で働いていたが離婚し,彼女は母とともに実家
の青森に帰った.高校を出たGさんはデパートに5年,歯科助手として2年働き,結婚した.し
かし,夫が働かないので離婚.それをきっかけとして,彼女は出稼ぎに出るようになった.40歳前
後,時は1980年代後半のことである.
「(どうして出稼ぎに出ようと思われたんですか?)市内には,短いのはあっても,8時間労働が
少なかったです.それに私は資格もなかったし,免許も持ってないし.結局手っ取りばやかったん
ですよね.職業安定所に仕事来てたのが,そんななかったです.工場だと,あまり人に接しない
で,そういう仕事もいいかなあと思って.」(Gさん)
地元には長い時間働ける仕事が少なく,しかも職業安定所に来ている仕事も少なかったという.
そうしたなかで,なおさら彼女は資格や免許などの技能を持っておらず不利であった.自分で稼が
なければならない単身者がまとまって働くことができ,特段の技能を必要とせず,かつ女性も働け
る職場としては,好景気の中で大量の未熟練労働者を必要として日本全国から労働力を吸収した製
造業の工場が最もポピュラーであっただろう8).
最初の仕事先は,神奈川県にある大きな菓子工場だった.仕事は,ベルトコンベヤーで流れてき
た商品のパック詰めや検品の仕事だった.9年ほど働いたが,不況になってから,「季節」やパー
トは解雇になった.次は,同じく神奈川県内の大きなパン工場のライン製造に2年ほど行った.
「時間は9時から6時までで,もうお昼,もう終わり?という感じでした.時間があっという間に
過ぎて行きました.もくもくと仕事してるから,工場は.私は好きですね.ラインは,流れるとお
りやってればいいから.工場はいいと思いました.でも45歳で終わりですから.(なんでおやめに
なったのでしたっけ?)夜勤が始まるので.その頃,男の人みてても,もう体ボロボロで.それに
年齢もあったでしょうね.今だとなにがなんでもやめないでしょうけど,他に行けないから.特に
○○パンは,3日出て,3日休むみたいな感じで,8時で終わって,その夕方5時にまた出なきゃ
いけない.そういうのをみてるから,大変だなあと思って.」(Gさん)
彼女にとってはラインで「流れるとおりやってればいい」という工場勤務は,仕事時間もあっと
いう間に過ぎるように感じ,好ましいものであったという.しかし女性の夜勤が始まったことを
きっかけにやめた.そして,次に職業安定所で仕事を探したときに,8時間働けるところ,年齢的
に働けるところとしては,この旅館しかなかった.最初は「季節」であったが,翌年から1年を通
して働くようになり,10年間働いた.その後,年金がもらえるようになったことと,家の契約の問
題があり,現在は地元に戻った.
Gさんは離婚後,一人で生きていくためにフルで働く必要があり,未熟練の出稼ぎの仕事に従事
してきた.出稼ぎの制度化が進む中で,職業安定所は,家や地縁のつながりからはずれた彼女の唯
77
一の仕事を探す手段であった.そうした彼女の出稼ぎ先とタイミングは,労働をとりまく環境の変
化とライフステージに密接に関連していて興味深いものである.つまり,離婚がきっかけで自立し
なければならなくなったとき,県内には8時間フルに働ける職場は少なかった.そこで40歳前後で
出稼ぎに出る.最初の菓子工場はバブル経済後の不況によって非正規の労働者がまず切られる,と
いうことで解雇になっている.続くパン工場は,1999年の労働基準法の改正によって女性の深夜労
働が可能になった.彼女はこの深夜労働がネックでやめている.次の職場を探した頃には50歳前後
であり,年齢的に中高年齢の女性が働ける場所は限られていた.そして,かろうじて公営住宅を確
保しており,かつ年金がもらえる歳になったことから,地元に戻ったのである.
②高年齢になってから単身で出稼ぎへ
最後に,高年齢になってから単身で出稼ぎに行くパターンである.先述したように,本調査対象
者の50代を過ぎてからの稼ぎ先は,すべてホテル・旅館などの宿泊業であり,時代は1990年代以降
となる.ここでは,早くに夫と死別したLさん,家庭に事情を抱えるNさん,未婚で長らく自営業
を営んでいたKさん,比較的期間の短いHさんを詳しくとりあげる.
まずは,Lさん(60代)の例である.彼女の家は農家であり,30代で夫を亡くした.娘2人はま
だ学校に通っていたので,「娘を残しては出られない」ということで,必死で働いた.3年ほど地
元の病院の付き添いで働いていたこともある.そして娘たちを卒業させ,嫁がせてから,出稼ぎに
出た.1990年代半ば,Lさんが50歳代半ばのことである.
初めての出稼ぎは,長野県のスキー場近くのホテルだった.きっかけは,先のEさんと同じで,
友人の口コミによる.「みんな長野いいところだって言うから,じゃあ行ってみたいなぁと思っ
て」ということである.長野県のスキー場近辺のホテル・旅館に,働き先はいくつか変えつつも,
11年ほど「季節」で出稼ぎに来ている.山の中の民宿のようなこぢんまりとしたホテルで,県外か
らの修学旅行生も多い.仕事は,ルーム(部屋付きの接客や,備品の補充,掃除他)も,掃除も食
堂もなんでもやるのだという.基本は冬季就労なので,他の時期は青森の家に帰郷している.地元
では一人暮らしなので,もう少し年を取れば娘のところに行くが,「まだお互いに自由があるじゃ
ない,今のところはのんびり気楽にして」ということである.
Nさん(60代)は,嫁ぎ先は農家だった.出稼ぎを始めたきっかけは,「家庭の事情」という.
娘と同居をし始めた50代後半になってから,1990年代の半ばごろに働きに来て,11年近く働いてい
る.「事情ない人はこんな歳まで働かない.事情あるからこの歳でも働いている」と語り,何らか
の働かねばならない事情があるという.
最初の頃は,娘や孫に会いたいし,人間関係や仕事のことが大変だった.人前では泣きたくない
から我慢して,部屋に帰ってきて泣いていたという.今は「慣れた仕事をすればいいだけ」.人間
関係は「どこも同じ」,女性が多いところは大変だといえる.苦労については,出稼ぎで来ている
から,「青森県の人はお金がない,生活困っている」と,この関東圏の地元から働きに来ている人
は思っている.実際には聞かれていないが態度でわかる.「それはそれでいいや,と自分の胸にお
さえて仕事がんばる」という.良いことは,仕事が「自分でもこんなふうにできるんだな,ここま
78
でよく我慢した」と思う.「ここにいるうちは一生懸命働いて頑張る」「そうやって帰る」と思っ
ている.今は年金をもらいつつ働いている.「歳も歳だし」そろそろ帰ろうと思っている.でも帰
るのにはお金かかる.以前に帰ったのは「だいぶ前,覚えていない」と語るNさんは,おそらく家
に帰りにくい事情があるものと推察される.
Kさん(60代)は,高校卒業後,飲食店に勤めた.30歳で独立し,50代前半まで数名の人を雇い
ながら店をやっていた.しかし,弟の病気の看病のために店をたたんだ.その後,弟は亡くなっ
た.もう父母も亡くなっているし,妹も嫁いだ.仕事を探したときに,年齢的にも地元には仕事が
なかった.パートの2,3時間,しかも週3回とかでは,生きていけない.「いくら家賃が安いっ
て言っても,家賃で終わってしまう」「年金なんて少ししかない,とても年金では食べていけない
でしょう」「元気であれば働かなければいけないと思ってます」.
2000年代半ば,本人が50代半ばの頃,職業安定所を通じて旅館に働きに来た.旅館の仕事は,こ
こで働いている知人がいたので,ある程度は知っていた.でも最初はとまどった.「こういう経
験がないから」「やっぱりね,肉体労働ですよ,大変ですよ」「体力勝負なので楽だとは言えな
い」.時給にて,パートのような形で働いている.出稼ぎ手帳は一応持っているが,1年を通して
働いている.「地元に仕事があれば,こんなところには来ないよ」.青森には年に1回お墓参りに
帰るくらい.でも今回は「もう去年の9月から,1年近く帰ってないよ.まあ帰ってもね,兄弟の
顔見るくらいで.」
最後に,Hさん(50代)のケースである.5人兄弟の末っ子で,高校卒業後,製造組み立てや
電子関係などいろいろなところに勤めてきた.農業の経験はない.20代半ばで結婚するも,事情
があって離婚することとなった.はじめて出稼ぎに出たのは,末子が高校の最後の年のときであ
り,年齢的には50代前半,2000年代半ばの頃である.仕事は職業安定所で探した.「出稼ぎのきっ
かけ,まあ,向こうでも仕事探したんですけども,やっぱり年齢的にも仕事がなくって,やっぱり
こっちの方で年齢的にあってたので,それでまず来ましたけども」と語り,青森には年齢的に仕事
がなかったという.当初は「季節」で手帳を持って来たが,翌年からは1年を通して働いている.
旅館内の従業員はもちろん,旅館のある地域の地元の友人もでき,たまに食事を共にしたり,観
光に繰り出したりする.「第二の人生,楽しまなくっちゃ」と語り,生き生きと仕事をこなしてい
る.子どもとは月に2回電話するぐらいだが,関東にいる子どもと時々会えるのも楽しみにしてい
る.これからもずっと働くことを希望している.彼女にとっては,離婚のつらい経験や兄弟・親戚
の中での引け目を感じる土地から離れて,新しい仕事と生活を始めることは,人生の仕切り直しの
場所となっているようである.地元に仕送りをする必要もないし,もはや帰る必要もないようであ
る.
以上,中高年齢になってから単身で出稼ぎに出た女性は,死別・離婚やなんらかの「事情」があ
るケースが多かった.子どもがいる場合は,地元で自営業やブルーカラーの仕事をつなぎながら必
死で子どもを育ててきた.および未婚の女性は,長年の仕事をやめて兄弟の介護に携わった.すな
わち女性達は「家族的責任」と呼ばれるような役割を果たしてきた.そして,それが一段落したの
ち,仕事を探した時にまとまった時間働ける場所は,この出稼ぎの旅館・ホテル以外に選択肢がほ
79
とんどなかった.現在子どもがいるケースは,娘との連絡は頻繁にある.つまり,彼女らもまた,
先の2つのパターンと同様に,家族との関係がないわけではない.しかしそれは家に埋め込まれて
いるというよりは,娘との関係に限定されており,ましてや実家との関係は薄いのである.しかも
子どもと青森の地元で同居しているケースは少なかった.彼女らは青森には帰りにくい,および帰
る必要がない状況にあると考えられる.しかしこうしたなかで,出稼ぎ先での生活が第二の人生と
して積極的に意味づけられる場合もあった.
4 小括
4.1 周縁地域の労働市場とジェンダー
青森県は日本のなかでも,厳しい経済条件のなかにあり,一貫して他県への労働力の供給地とし
ての役割を果たし,周辺的な労働市場のなかにあった.女性および中高年齢であることは,そうし
た周辺的な地域労働市場のなかの,さらに周辺に位置づけられる9).
たとえば,女性の地元での前職をみると,美容師や店のオーナー(酒小売・飲食店)などの農業
以外の自営業ではまとまった期間にて同一の仕事で働いているが,それを辞めた後,および農業の
場合は兼業として,地元の製造業(電子や縫製関係)や地場産業の製材所,スーパー,病院の付き
添いなど,さまざまな仕事に従事していた.多くの彼女らの生活は一時的にせよ苦しい状況にあ
り,とりわけ単身者には将来への不安もあった.
竹中恵美子は,女子労働市場構造の一般的特質を検討し,女子の労働が労働市場のなかで流動性
の高い,不熟練の,しかも下層市場へ集積するという傾向があるという.なかでもとりわけ女子労
働力の年齢差別は重要なものであり,大企業においては,労働力の流動性をはかる労務政策によっ
て,中高年齢労働力の排他的政策が貫かれる.したがって,とくに女子の高年齢者はおしなべて労
働市場の最下層に沈殿する部分となることを指摘している(竹中 1989: 165-7).男性にもまして
女性の働く場所は限られており,とりわけ中高年齢層のフルタイムの仕事は限られている10).地
方の労働市場におけるジェンダーと年齢による制約は,非常に大きいのである.まずは,そうした
地方の女性,とりわけ中高年齢の女性をとりまく経済的な厳しさは,あらためて確認しておくべき
である.
出稼ぎの仕事は,そうした周縁地域の女性に,正規雇用ではないがまとまった時間,比較的技能
が問われず,生活をすぐに移せる寮付きで,および夫とともに働ける場所を提供するものとして,
窓口を開いていた.夫と同じ建設会社の飯場で,炊事や掃除などの仕事をすることは以前からよく
行われていた.また,景気が上向き,自動車産業も好況期にあるなかで,製造業は全国から労働力
を集めた.しかし,製造業の仕事には年齢制限があった.高年齢になると,労働集約型産業で絶え
ず人手不足,かつ女性を好む宿泊業のみが,彼女らの職場であった.ここからは,女性の「家事の
延長」とされるような労働の性別職域分離が明瞭にみてとれよう.
このように,地方の女性の出稼ぎは,幾重にも重なったジェンダー構造のなかにあった.
80
4.2 出稼ぎと家
以上とも関連して,もうひとつ注目すべきは,女性の出稼ぎが家との密接な関係のなかにあるこ
とである.高度成長期における青森から関東圏への大規模な出稼ぎは,農閑期の「季節」出稼ぎか
ら「通年」出稼ぎへと質的に大きく変化したことは先に述べた.女性の出稼ぎもまた,こうした時
代を追った変化があったことはいうまでもないが,男性以上に,家と個人のライフコースのクロス
するところに存在し,質的に変化しているようであった.
第一の女性の出稼ぎのパターンは,直系制家族農業が維持されるなかで働きに出たケースであ
る.夫は経済的な必要性のなかで出稼ぎに行っており,妻もまた,一時的な賃労働の出稼ぎに行く
ことで家計を補った.田代洋一は,農家女性の農外就労賃金を「切り売り労賃」と規定し,それが
形成されるメカニズムを農工間の家計費均衡化傾向と,直系制家族農業の維持・継承を求めての家
族総働き=多就労化で説明する.そしてそれを可能にする前提条件としての三世代家族=直系制家
族の存在に注目している(井野・田代 1992).第一のパターンの出稼ぎもまた,多就労化のひと
つの形といえ,それは,三世代直系制家族のなかで可能になっていた.つまり,彼女らの出稼ぎ
は,縦糸の世代の網の目のなかで,また横糸の夫との関係のなかで行われ,直系家族制の家に埋め
込まれていた.さらに,より早い時代に出稼ぎに行った彼女らは,村の網の目のなかにもいた.で
あるからこそ,彼女らにとっては,出稼ぎが新鮮な生活として,より積極的に意味づけられる部分
もあるのだろう.
これに対して,第二のパターンは,第一次産業の著しい減少という時代の流れのなかにあり,ま
た,女性たち自身のライフステージも中高年齢期にあった.子どもが学校を卒業したり結婚するな
どして,手がかからなくなったライフコース上のタイミング,つまり「空の巣期」に,および次の
世代に譲った高齢期に,夫婦で一時的に地元を出て働き,また家に帰っていく見込みがある.そう
した意味では,このケースも直系制家族のなかに埋め込まれているといえるだろう.こうした彼女
らの出稼ぎは,経済的な必要はもちろん重要なのであるが,同時に,家のなかで子どもや嫁,孫と
の関係にわずらわされない「自由」を確保するものとしても意味づけられていた.つまり出稼ぎ
は,長い高齢期を過ごす一石二鳥の手段としても生きられているようであった.また,90年代以降
に出稼ぎを始める彼女らは,もはや農業を主な生業とせず,村のつながりで出稼ぎに行くものでは
ない.むしろ,就労経路は友人の口コミや職業安定所が中心になっていく.
その一方で,1990年代以降に単身で出稼ぎに行く第三パターンの女性の生活は,やや脆弱であっ
た.死別の場合はまだ家に包摂される傾向があるが,とくに離婚や未婚などの背景を持つ女性の
ケースは,経済的な問題が大きく,それが出稼ぎに行くことの直接の背景になっていた.加えて,
もちろん他のパターンと同様に家族との関係は存在するけれども,それは家に埋め込まれていると
いうよりは,子どもがいる場合は娘との関係に限定されがちであり,夫や自分の実家(生家)との
関係は薄い.および一部のケースは,地元に戻りにくいことも考えられた.ここからは,単身女性
の経済的な切実さや,地元での居場所のなさ,限定的な親族ネットワークといった,日本の中高齢
期・単身女性の,ジェンダー化された家と経済がリンクした問題が透けて見えるものである.ただ
し,そうしたなかでの出稼ぎが,よりポジティブな経験としても意味づけられていたことを見逃す
81
べきではないだろう.いろいろな事情もあったが,それゆえにこそ,場所を変え,人間関係を変え
て,第二の人生の仕切り直しの場として,出稼ぎは生きられている部分もあるのである.
以上のように,労働市場や家のジェンダー構造のなかに女性の労働移動は位置づけられ,また生
きられてもいた.
[付記]
本調査は,関東圏の旅館で働く多くの方々,および青森に在住の女性の方々に多大なるご協力を
いただいたことで,実現しました.貴重なお話を時間を割いて聞かせてくださり,深く感謝して記
したいと思います.また執筆にあたっては,弘前大学のフィールドワーク研究会(F研)の皆様に
数々の有益なコメントを頂戴しました.本研究は,2008年度「弘前大学若手萌芽研究」から助成を
いただきました.
[注]
1) 実態レベルにおいても,本ケースでは,初年度は職業安定所を通して「出稼ぎ手帳」を作り働き始めるが,すでに「通
年」出稼ぎがほとんどで,出稼ぎ手帳もほとんど役割を果たしていないという場合が多かった.また,実際に地元に帰
るかどうかもあいまいなものである.田辺照子は,紡績などの繊維工業の女子労働者について,戦後の流動形態の特徴を
考察している.彼女らは解雇後,農村に帰らず,紡績工場の所在地である関西,中京地区周辺にそのまま再就職するもの
と,一応還流して再流出する2つのケースがある.この還流は戦前の様子とは異なって一時的な休養のようなものであり,
大部分が再流出し,「下降的遍歴を辿って都市に累積されている」という(田辺 1961: 96-102).田辺と同様の議論として
は,(竹中 1989)(蘭 1994)も参照のこと.なお後ほど示すように,本調査のケースにおいても,もはや地元に回帰しな
いかもしれない,という意味では出稼ぎの定義から限りなく遠くなってくるものもある.しかし,それは男性とは異なっ
て,地元に帰る資源の少ない女性の立ち位置をよく示しており,それもまた,女性の労働移動の特性を表していると考え
ている.
2) この青森の女性の出稼ぎに関する調査は,就労先の関東圏の温泉地で行ったものと,青森県で行ったものの,大きく2つに
分けられる.就労先の関東圏の温泉地では,2006年から質的調査を継続している.2日間などの短期から,3週間ほどの長
期まで,複数回の滞在により調査を重ねた.調査方法は,聞き取りや参与観察,資料収集などの質的調査である.調査対
象者は,旅館の経営者と現・元従業員,出入り業者,他の4つの旅館経営者と従業員,町内の3つの自営業者とその客,ま
ちづくり団体,見番組合,旅館組合,ハローワークや役場,県庁などの各関係機関等である.出稼ぎを送り出す側の青森
県では,青森在住の出稼ぎ相談員や旅館の元従業員への聞き取りと,ハローワーク,県庁,役場の担当部署での聞き取り
調査および資料収集を行なった.なお,2006年の調査データの一部は,2007年3月弘前大学人文学部卒業の伊藤優より提
供を受けた.
3) 渡辺・羽田らが東京都内の223の事業所を対象として1971年に行った「出稼労働者雇用事業所調査」の結果からは,1970
年代前半までの女性の出稼ぎの動向が確認できる.4,804人の出稼ぎ者のうち,女性は9.1%であった.業種別の女性労働者
の割合は,建設業4.7%,製造業16.6%,その他30.5%であり,男性に比べて女性は建設業よりも製造業その他で働く傾向が
あった.また女性労働者を年齢別にみると,24歳以下22.1%,25-34歳17.9%,35-44歳24.1%,45-64歳35.4%,65歳以上0.5%
という分布になっている.男性労働者の年齢分布がそれぞれ13.2%,24.9%,35.3%,24.7%,1.9%と中年齢層に山があるこ
とと比べると,女性労働者は若年層と中高齢層に二極化していることが分かるだろう.女性の年齢別・業種別には,建設
業では35-44歳が42.8%と最も多く,製造業では25歳未満が59.0%,その他の業種では45-64歳が59.2%と多くなっていた(渡
辺・羽田編 1977: 16-9).
82
4) 吉田義明は,農村労働市場と農家女性労働力の変容を議論するなかで,農村的な東北労働市場の大きな特徴として,1970
年代からの農村進出企業の展開により,第一次産業およびそれと深い関係を持っていた地場産業が圏外移出型の加工組立
産業に置き換えられていくような農村の工業化と,公共事業の進出を,具体的な統計から指摘する(吉田 2001).
5) 調査対象者の個別の聞き取りの日時や場所は,匿名化を図るために,あえて掲載していない.なお,質問者の問いかけな
どは,調査対象者の語りに大きく影響すると思われるもののみ,カッコに入れて示している.語りは,適宜相槌を抜くな
どの読みやすくする工夫を行っている.
6) 千葉悦子は,1969年の農家主婦の農外就労に関する意識調査の結果から,「仲間が多いので楽しい」「時間がきちんとし
ているのでよい」「農作業より楽である」などと,農家の女性が低労賃や力仕事,汚れ仕事であっても,農外就労をプラ
スに評価していることを示す.そしてこのことは逆に,女性に負担が集中する農業労働の実態が浮かび上がると指摘して
いる(千葉 2000: 105).
7) 本調査からは,女性の宿泊業への出稼ぎについては,その形態と就労経路に注目すると,ふたつのパターンがみえてき
た.ひとつは,口コミにより「季節」で長野に働きに行く,ふたつは,職業安定所を通じて「通年」で関東圏内の旅館に
働きに行くということである.2000年ごろの青森県の女性の出稼ぎの数としては,この長野への出稼ぎが圧倒的に多かっ
た(山口 2010).この長野の出稼ぎは,「来年もまた来てください」のように,口頭で宿泊施設から働く要請もあるし,
まとめて仕事の斡旋をしている人もいる.何台ものバスで,秋に送って春に迎えに来る.紹介料を宿泊施設からとるの
で,人数をそろえて,向こうで,「ここさ何人,ここさ何人って,分配して」行くのだという.そして,このネットワー
クのなかでは,地元の青森で,また長野の就労地において,労働条件に関する情報交換も盛んに行われていた.
8) 大沢真理は,「雇用の女性化」における欧米と日本のきわだった差異を明らかにしている.日本の動向は,欧米のような
ホワイトカラー化とサービス経済化によるものではなく,ブルーカラー職種にリードされた女性化であるという.とりわ
け,1985年以降,製造業への中高年女性のパートタイマーとしての参入,および第三次産業での中高年パートの増大が確
認されている(大沢 1993).Gさんの製造業への季節出稼ぎもまた,こうした流れの中にあると予想されるところであ
る.
9) 武田尚子と文貞実は『温泉リゾート・スタディーズ』のなかで,北海道の利尻島・礼文島から箱根温泉へと出稼ぎに来た
女性達の動向について詳しい報告を行っている.そちらも参照のこと(武田・文 2010).
10) たとえば,2000年の青森県の『労働市場年報』によると,中高年齢者の職業紹介状況(パートタイムを除く全数)は,
新規求職者数65,197人で,新規求職者全数の39.0%を占めている.中高年齢者の就職者数は6,543人で,就職率は10.0%とな
り,非常に低い数値となっている(青森県労働局職業安定部 2000: 11).また,全年齢層の有効求人倍率は2003年1月現在
で0.32倍と全国平均(0.60倍)を大きく下回っているが,これを年齢別にみると,60-64歳の年齢層が最も低く,パートタイ
ムを除く常用で0.06倍,常用的パートタイムで0.94倍となっており,特にパートタイムを除く常用で厳しい状況にある(青
森県企画振興部企画課編 2003: 26-7).中高年層がより安定的な雇用条件で働くのは極めて困難な様子がうかがえる.
そもそも青森県は,製造業を中心とした基幹産業に乏しいということもあるけれども,増大する第三次産業において
も,社会保険などの制度運用の問題とも相まって,より安定的な常用雇用が非常に限定されているのは言うまでもない.
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83
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経論叢』32(3): 31-87.(近年一部改変の上,以下にも掲載された.作道信介,2008,「津軽の『出稼ぎ』編制――地元
新聞にみる出稼ぎ言説の分析」山下祐介・作道信介・杉山祐子編『津軽,近代化のダイナミズム――社会学・社会心理
学・人類学からの接近』御茶の水書房,335-378).
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地域に関する学際的共同研究――近代化のスローモーションから先行する青森県津軽地域へ』(2001-2004年度科学研究
費補助金研究成果報告書,弘前大学): 37-67. (近年一部改変の上,以下にも掲載された.作道信介,2008,「ホールド
としての出稼ぎ――A集落の生活史調査から」山下祐介・作道信介・杉山祐子編『津軽,近代化のダイナミズム――社
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とジェンダー 第2巻 労働とジェンダー』明石書店,219-243.
84
研究活動報告
(2009年12月~2010年11月)
凡 例
⑴ 現在の研究テーマ
⑵ 著書・論文ほか
⑶ 研究発表・講演
⑷ 学外集中講義
⑸ 海外出張・研修、そのほかの海外での活動
⑹ 科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
⑺ 共同研究
⑻ 弘前大学人文学部主催の学会・研究会など
85
○文化財論講座
諸 岡 道比古
⑴現在の研究テーマ
⃝ドイツ観念論思想における「宗教」論の研究
須 藤 弘 敏
⑴現在の研究テーマ
⃝東アジア仏教絵画史・東北の美術・文化政策
⑵著書・論文ほか
[著書]
⃝『青森県史 文化財編・美術工芸』青森県、「序章」pp.3~6、「第二章 古代中世の造形」pp.39~55、「コラム1 県内
三社の舞楽面」pp.56~59、「第三章 近世の造形 第三節 寺社の絵画」pp.145~150、「コラム5 多彩な絵画」pp.151~
154、「第三章 近世の造形 第四節 彫刻」pp.170~192、2010年9月
[論文]
⃝「経絵に映る宋と日本」、「國華」1376号、pp. 9~26、2010年6月
[研究ノート、報告書、その他]
⃝「新田⑴遺跡出土の仏教関係遺物について」、ヨーゼフ・クライナー、吉成直樹、小口雅史編『古代末期の境界世界 -城
久遺跡群と石江遺跡群を中心として-』法政大学国際日本学研究所(市販版『古代末期・日本の境界 城久江遺跡群と石江
遺跡群』、森話社)pp.301~304、2010年3月
⑺共同研究
⃝青森県下寺院文化財悉皆調査(22年度は平川市、黒石市、青森市)青森県
杉 山 祐 子
⑴現在の研究テーマ
⃝アフリカ農耕民社会におけるイノベーションと社会的変化、「動く身体」からみる在来知研究の可能性、ジェンダー、地方
都市における自営業
⑵著書・論文ほか
[著書]
⃝「ベンバ的イノベーションに関する考察―個別多発的イノベーションと抑制の平準化・促進の平準化―」掛谷誠編『アフリ
カ地域研究と農村開発』(印刷中)
⑶研究発表・講演
⃝「ミオンボ林帯焼畑農耕民のイノベーションに関する考察」日本アフリカ学会第47回学術大会 近畿大学主催@奈良文化会
館(5月29日~30日)
⃝「占いとしての狩猟とベンバの祖霊信仰」アフリカ・セミナー講演 仙台アフリカ・セミナーの会 9月9日 仙台市戦災
復興記念館
⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動
⃝イギリス 2010年8月
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
⃝基盤研究(B)「マイクロサッカードとしての在来知に関する人類学的研究」研究代表者
⃝基盤研究(A)「アフリカ・モラル・エコノミーを基調とした農村発展に関する比較研究」分担者
⑺共同研究
⃝東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所「人類社会の進化史的基盤研究(2)」
⑻弘前大学人文学部主催の学会・研究会など
⃝「マイクロサッカードとしての在来知」 研究会 2009年6月および10月
関 根 達 人
⑴現在の研究テーマ
⃝中近世考古学・アイヌ文化・亀ヶ岡文化
⑵著書・論文ほか
[著書]
⃝関根達人・上條信彦・成田滋彦『成田彦栄氏考古・アイヌ民族資料図録』、弘前大学出版会 、2010年9月 30日、
(ISBN978-4-902774-64-1)
86
[研究ノート、報告書、その他]
⃝関根達人編著『平成19~21年度科学研究費補助金(基盤研究B)研究成果報告書 近世墓と人口史料による社会構造と人口
変動に関する基礎的研究』、2010年3月23日
⃝関根達人・立花晃一『佐藤蔀考古画譜』Ⅱ、弘前大学人文学部附属亀ヶ岡文化研究センター、2010年3月1日
⃝関根達人「弘前城下出土の陶磁器と在地の焼物流通 」、『季刊考古学』110号、66~69頁、雄山閣、2010年2月1日、
(ISSN0288-5956)
⃝関根達人「 岩木地区における考古学的調査、根の山遺跡、大浦城跡出土の八稜鏡、大浦城跡(中世)、荒神山遺跡、岩木山
神社元宮遺跡」、『新編弘前市史資料編岩木地区』、2~5・9~11・29~39頁、弘前市、2010年3月
⃝三浦歌子・関根達人「資料紹介 窯跡採集資料からみた花巻焼」、
『花巻市博物館研究紀要』6号、21~40頁、2010年3月29日
⃝関根達人「相馬焼VS瀬戸焼」、『アジア流域文化研究』Ⅵ号、131~146頁、東北学院大学アジア流域文化研究所、2010年3
月31日
⃝関根達人・上條信彦「不備無遺跡」、『むつ市文化財調査報告書』38号、5~15頁、むつ市教育委員会、2010年3月31日
⃝関根達人「コラム11 青森で発見された蝦夷錦、第五章工芸の展開第三節陶芸二中世・三近世」、『青森県史』文化財編 美
術工芸、482~484・580~603頁、青森県
⑶研究発表・講演
⃝関根達人「松前藩主松前家墓所と松前城下の石廟」、立正大学考古学フォーラム 近世大名家墓所調査の現状と課題、立正大
学、2010年10月10日
⃝関根達人 「つがるの宝、亀ヶ岡」、NPO法人つがる縄文の会主催JOMON亀ヶ岡文化フォーラム2009、つがる市生涯学習交
流センター、2009年12月14日
⃝関根達人「本州アイヌの実像に迫る」、平成21年度あおもり県民カレッジ地域キャンパス講座、おいらせ町中央公民館、
2010年2月4日
⃝関根達人「津軽の土偶」、平成21年度平川市郷土史講座、平川市文化センター、 2010年2月6日
⃝関根達人「亀ヶ岡文化研究センターの調査・研究・社会貢献」、平成22年度発掘調査・報告書検討会議、青森県埋蔵文化財
調査センター、2010年3月18日
⃝関根達人「考古学からみた北奥の内国化」、第3回北東北三県共同展(「境界に生きた人々」記念講演、青森市福祉増進セ
ンター、2010年9月25日
⃝関根達人「石造物と過去帳からみた津軽・松前の飢饉」、北奥文化研究会、五所川原市中央公民館、2010年10月17日
⃝関根達人「本州アイヌの実像に迫る」、平成22年度あおもり県民カレッジ地域キャンパス講座、十和田市中央公民館、 2010
年10月22日
⑷学外集中講義
⃝北東北国立3大学単位互換集中講義、「物質文化研究(A)」、岩手大学、2010年8月17~20日
⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動
⃝ロシア連邦サハリン州(資料調査)、2010年8月25日~9月1日
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
⃝科学研究費補助金(基盤研究A)「中近世北方交易と蝦夷地の内国化に関する研究」(平成22年度~)、研究代表者
⃝科学研究費補助金(基盤研究B)「近世墓と人口史料による社会構造と人口変動に関する基礎的研究』」(~平成21年
度)、研究代表者
⑻弘前大学人文学部主催の学会・研究会など
⃝大英博物館帰国記念弘前大学創立50周年記念会館改修記念「弘前大学の土偶」展、弘前大学創立50周年記念会館、2010年4
月27日~5月9日
⃝ミニ特別展「下北半島の亀ヶ岡文化」、弘前大学人文学部附属亀ヶ岡文化研究センター、2010年10月22日~11月23日
山 田 厳 子
⑴現在の研究テーマ
⃝民俗信仰の再文脈化 ⃝唱導文化と民俗 ⃝生命観の変遷 ⃝「世間」と「世間話」
⑵著書・論文ほか
[研究ノート、報告書、その他]
⃝山田厳子「桑の木に宿る神―青森県津軽地方におけるオシラサマ信仰の現在―」国立歴史民俗博物館編・発行『平成21年度
国立歴史民俗博物館国際研究集会 民俗のなかの植物-日韓比較の視点から-』2009年12月 107~125頁(付:金賢貞訳 ハングル語)
⃝山田厳子『第二次世界大戦下のオシラサマ信仰と民間巫者』(平成19年度~21年度科学研究補助金(基盤研究(C))研究
成果報告書)弘前大学 2010年3月 弘前大学人文学部 45頁
⃝山田厳子「交通・交易」青森県史編さんグループ編『青森県史叢書 西浜と外ヶ浜の民俗』2010年3月 43~52頁 青森県
⑶研究発表・講演
⃝山田厳子「桑の木に宿る神―青森県津軽地方におけるオシラサマ信仰の現在―」国立歴史民俗博物館研究集会「民俗のなか
の植物―日韓比較の視点から―」2009年12月24日 於:国立歴史民俗博物館
87
⃝山田厳子「『世間』の変貌と『語り』―戦中・戦後の巫女をめぐって―」日本口承文芸学会シンポジウム「今、『世間』を
問う」シンポジスト 2010年3月20日 於:國學院大學
⃝山田厳子「イタコの『知識』と『文脈』」近世の宗教と社会研究会例会 2010年7月3日 於:薬研温泉古畑旅館
⃝日本民俗学会国際シンポジウム(第852回談話会)「オーラルヒストリーと〈語り〉のアーカイブ化に向けて―文化人類学・
社会学・歴史学との対話―」コメンテーター 2010年9月20日 於:成城大学
⑺共同研究
⃝「日本とユーラシアの交流に関する総合的研究」人間文化研究機構連携研究
宮 坂 朋
⑴現在の研究テーマ
⃝ローマ・カタコンベ壁画の図像学的研究
⃝ローマ時代のフェニキア・カルタゴ文化的要素
⑵著書・論文ほか
[論文]
⃝宮坂朋・泉拓良「イタリアにおけるフェニキア・カルタゴ遺跡調査」『フェニキア・カルタゴ考古学から見た古代の東地中海
2008年度』、12-14。
⃝宮坂朋・泉拓良「イタリアのフェニキア・カルタゴ遺跡」『坪井清足先生卒寿記念論集―埋文行政と研究のはざまで―』、
坪井清足先生の卒寿をお祝いする会、2009年11月、525-529
⑶研究発表・講演
⃝2009年12月19日「イタリアの文化財」弘前大学公開講座「ヨーロッパの歴史と文化」、八戸サテライト
⃝2010年2月26日講演「ローマ時代の美術」青森県立美術館。
⃝2010年5月2日講演「卵からリンゴまで」青森県立美術館。
⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動
⃝2010年9月 ローマ、イタリア共和国。
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
⃝科学研究費補助金基盤研究(c)、研究代表者宮坂朋、「ヴィア・ラティーナ・カタコンベ壁画における包括的研究」
足 達 薫
⑴現在の研究テーマ
⃝イタリア美術史
⑵著書・論文ほか
[著書]
⃝『彫刻の解剖学 ドナテッロからカノーヴァへ(イメージの探検学I)』諸川春樹責任編集,松浦弘明、喜多村明里、足達
薫、金山弘昌、金井直著、ありな書房、2010年(ISBN: 978-4-7566-1015-7)(共著 執筆箇所は145-188ページ)
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
⃝科学研究費補助金 基盤研究(C) 課題名「マニエリスムの時代の眼:ジュリオ・カミッロの美術論の再構成に基づく」
(研究代表者)
上 條 信 彦
⑴現在の研究テーマ
⃝縄文終末期における食料獲得活動
⃝残存デンプン分析・使用痕分析からみた道具の機能・用途の解明
⃝使用痕分析からみた縄文儀器の使用法の研究
⑵著書・論文ほか
[論文]
学術雑誌 、 単著
⃝上條信彦2010「円筒土器文化圏における食料加工技術の研究―礫石器の使用痕分析および残存デンプン粒分析を中心に―」
『 特別史跡 三内丸山遺跡年報』第13号.pp.61-78
⃝上條信彦2010「韓国新石器時代の分離・粉砕具と縄文文化」『季刊 考古学』第113号.pp.26-30
[研究ノート、報告書、その他]
⃝上條信彦2010『成田彦栄氏旧蔵図書目録』弘前大学人文学部附属亀ヶ岡文化研究センター
⃝関根達人・上條信彦2010「不備無遺跡」『平成21年度むつ市文化財調査報告』むつ市教育委員会.pp5-15
⑶研究発表・講演
⃝上條信彦2010「民具の使用痕分析と残存デンプン分析」第27回日本文化財科学会大会
88
⃝宮田佳樹・斉藤香織・堀内晶子・南雅代・上條信彦・福島和彦・中村俊夫2010「飛行時間型二次イオン質量分析法(TOFSIMS)による土器を用いた食性研究の試み」日本有機地球化学会
⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動
⃝大韓民国韓神大学校・高麗大学校・漢江文化財研究院・忠州文化財研究院における先史時代石器資料調査(2010年3月14~
19日)
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
⃝科学研究費補助金(若手研究(B)),食料加工技術からみた北日本における農耕受容過程に関する研究,研究代表者
⑻弘前大学人文学部主催の学会・研究会など
⃝「下北半島の亀ケ岡文化」亀ケ岡文化研究センターミニ特別展2010年10月22日~11月23日
○思想文芸講座
植 木 久 行
⑴現在の研究テーマ
⃝中国古典詩の詩跡研究、日本の俳諧歳時記所引漢籍考
⑵著書・論文ほか
[論文]
⃝「『増補俳諧歳時記栞草』所引校読記(3)―夏之部・秋之部―」『人文社会論叢』(人文科学篇)第23号、2010年2月、
pp.17~38
⑶研究発表・講演
⃝教員免許状更新講習「国語科漢文授業の基礎」(8月19日、創立50周年記念会館)
⃝科研費研究会「第一次詩跡調査とその意義」(8月24日、総合教育棟424教室)
⑷学外集中講義
⃝秋田大学教育文化学部(8月2日~6日、「中国文化論Ⅱ」)
⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動
⃝中国詩跡調査(科研費、浙江・福建省、9月6日~13日)
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
⃝基盤研究B「中国文学研究における新たな可能性―詩跡の淵源・江南研究の確立― 」(研究代表者)
⑻弘前大学人文学部主催の学会・研究会など
⃝東北中国学会(5月29~30日、創立50周年記念会館・アソベの森いわき荘)
田 中 岩 男
⑴現在の研究テーマ
⃝ゲーテ『ファウスト』研究、日本におけるゲーテ受容の研究
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
⃝科学研究費補助金 基盤研究(C)「新しい『ファウスト』研究における多面的な解釈の総合の試み」(研究代表者)
今 井 正 浩
⑴現在の研究テーマ
⃝西洋古代の医学と同時代の哲学との間の影響関係をめぐる思想文化史的研究
⃝医学・医療に関する倫理思想史的研究
⃝アリストテレスを中心とした西洋古代の生物学思想についての哲学・思想史的研究
⑵著書・論文ほか
[著書]
⃝今井正浩(共著)『科学思想史』[金森修編著/勁草書房刊] 2010年7月30日
第8章「ギリシア医学における批判と論争」を執筆担当
[論文]
⃝今井正浩(単著)「ヒッポクラテス『技術論』と医学の存在根拠をめぐる論争」
弘前大学人文学部言語文化研究プロジェクト・平成21年度共同研究論集『言語とコミュニケーション―その文化と思想』
第2号 2010年3月30日発行 pp. 29-70. ⑶研究発表・講演
⃝今井正浩(単独)「初期アレクサンドリアの医学思想におけるヒポクラテス医学の伝統」
89
日本科学史学会・第57回年総会 2010年5月29日・30日 東京海洋大学
⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動
[在外研究]
⃝イギリス ケンブリッジ大学・古典学部 公式在外研究員
(Official Visiting Scholar, Faculty of Classics, University of Cambridge, UK) 2010年9月29日~2010年11月9日
弘前大学教員業績評価にかかわる教員派遣制度にもとづく在外研究
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
⃝平成22年度科学研究費補助金・基盤研究(C)一般[研究代表者]
研究課題「解剖生理学の進展とヘレニズム期の人間観の展開をめぐる思想文化史的研究」
⑺共同研究
⃝弘前大学人文学部教員共同研究プロジェクト「テクストから読み解くヨーロッパ文化の諸相」(弘前大学人文学部長裁量経
費)[研究分担者]
李 梁
⑴現在の研究テーマ
⃝『幾何原本』の翻訳研究(漢訳西学書の研究)、朱子詩論の研究、建築、詩跡、老舗を中心とする景観研究
⑵著書・論文ほか
[論文]
⃝「コインブラから東アジアへ-近世東アジアにおける新知識体系をめぐって-」、『東アジア近代における概念と知の再編
成』、国際日本文化研究センター、第35回国際シンポジウム論集、2010年3月、19~27頁。
⃝「新井白石的漢学與西学知識再考」、台湾中央研究院亜太区域研究専題中心、財団法人交流協会共催国際シンポジウム『東
亜中的日本與台灣:日本研究新視野的探討国際研討会予稿集』、2010年10月、台北中央研究院、1-14頁。
⑶研究発表・講演
⃝Arai Hakuseki’s(1657~1725)knowledge system and the change of his world view―Study on the formation of the new
knowledge system in early modern East Asia(Ⅰ)―
‘ L’imaginaire de l’autre-Les missionnaires et l’Orient’, 於Cultures de l’Universit? d’Artois,Arras,France.2009年12月3日~4
日
⃝「新井白石的漢学與西学知識」『漢学與東亜文化』国際学術研討会(香港珠海学院、中国南京大学、台湾東海大学、韓国檀
國大学校共催)、2010年3月28日~4月1日、於香港城景国際酒店
⃝「『幾何原本』翻訳研究―以概念的翻訳與公理思想為中心」、台湾天主教輔仁大学主催「紀念利瑪竇逝世四百周年国際学
術会議『東西方対話的初啓與開展』」(International Symposium in Commemoration of the 400th Anniversary of Matteo
Ricci 1552-1610:The Genesis and Development of East-West Dialogue)、2010年4月19日~22日、於台湾天主教輔仁大学
⃝「叙景詩と詩跡―朱子の武夷山を詠む詩を中心に」、科研費基盤研究(B)「中国文学研究における新たな可能性―詩跡の
江南編の集大成をめざして-」研究会、2010年8月24日、於弘前大学
⃝「新井白石的漢学與西学知識再考」、台湾中央研究院人文社会科学研究中心亜太区域研究専題中心、財団法人交流協会共催
国際シンポジウム『東亜中的日本與台灣:日本研究新視野的探討国際研討会』、2010年10月16日~17日、於台湾中央研究院
(台北市南港)
⃝「島邦男博士とその甲骨文研究」(講演)、弘前大学名誉教授秋月観瑛先生米寿祝賀会を兼ねる東洋学談話会特別会合、
2010年5月4日、於弘前大学人文学部多目的ホール
⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動
⃝2009年12月2日~12月8日 フランス(パリ、アラス、上記)
⃝2010年3月16日~20日 韓国(韓国日本語学会・高麗大学・漢字文化圏近代語研究会共催国際シンポジウム「漢字文化
圏における近代のキーワード-概念史と語彙史からのアプローチ」、3月19日、於韓国誠信女子大学、分科会司会、コメン
テーター)
⃝2010年3月27日~4月1日 香港・マカオ(上記)
⃝2010年4月18日~26日 台湾(上記)
⃝2010年9月4日~19日 中国(科研費詩跡調査団参加など)
⃝2010年10月15日~19日 台湾(上記)
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
⃝科学研究費基盤研究(B)「中国文学研究における新たな可能性―詩跡の江南編の集大成をめざして-」(分担、代表者:
植木久行)
⃝学部長裁量金(代表)
⑺共同研究
⃝「東アジアにおける近代知の概念の再編」(学外)
⃝「『幾何原本』の翻訳研究」(学外)
⃝「近代東アジア思想研究」(学外)
90
⃝地域研究プロジェクト「『再発見』される地域の魅力とその可能性」(学内)
泉 谷 安 規
⑴現在の研究テーマ
⃝ジョルジュ・バタイユ研究
⃝シュルレアリスム研究
⃝19世紀・20世紀小説における精神医学の影響の関連性について
⑵著書・論文ほか
[論文]
⃝「アンドレ・ブルトン『通底器』における夢の記述の一読解の試み(Ⅰ)」、弘前大学人文学部『人文社会論叢』(人文科
学篇)第24号、2010年8月31日、p.1-12
木 村 純 二
⑴現在の研究テーマ
⃝日本倫理思想史における情念論および方法論
⑵著書・論文ほか
[論文]
⃝「荻生徂徠における天について」 『人文社会論叢人文科学篇第23号』(弘前大学人文学部編)、p.1~21、2010年2月
⑶研究発表・講演
⃝「『源氏物語』「御法」「幻」巻について」 科研費研究報告会、2010年9月19日、万葉荘(神奈川県)
⃝「日本倫理思想史入門」 放送大学面接授業、2010年10月30~31日、放送大学青森学習センター
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
⃝科学研究費補助金基盤研究(C)「日本倫理思想史における情念の総合的研究~『源氏物語』を機軸として~」(研究代表
者)
山 口 徹
⑴現在の研究テーマ
⃝大正期ロマン主義文学についての修辞学的研究
⃝1910年代日独交流史の調査・分析
横 地 徳 広
⑴現在の研究テーマ
⃝粋(いき)の倫理学 多角的安全保障論 ⑵著書・論文ほか
[論文]
⃝「道徳的人格性と物在性の交差 ―ハイデガーの役割存在論を求めて―」
(東北大学倫理学研究会編『MORALIA』第17号、2010年10月)
⑶研究発表・講演
⃝日本現象学会・第32回研究大会(2010年11月27日・東京大学)にて、
研究発表「〈いき〉と時間 ―九鬼試論―」
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
⃝科学研究費補助金若手研究(B)、研究代表、課題番号21720002
「時間現象の倫理学的探究―ハイデガーとレヴィナスの相互照明―」
⃝科学研究費補助金基盤研究(C)、研究分担、課題番号21520002
「対話の垂直性―ハイパーダイアローグの包括的理解―」
○コミュニケーション講座
石 堂 哲 也
⑴現在の研究テーマ
91
⃝アメリカ社会と文化
木 村 宣 美
⑴現在の研究テーマ
⃝句構造の非対称性・線形化と構造的依存関係に関する理論的・実証的研究
⑵著書・論文
[論文]
⃝「右枝節点繰上げと非移動分析」『言語とコミュニケーション-その文化と思想II』(弘前大学人文学部言語文化研究プロ
ジェクト)73-91頁 2010年3月30日
⑶研究発表・講演
⃝弘前大学オープンキャンパス『「英語の情報構造」入門-どういう時に受動態が使われるのか』
弘前大学総合教育棟 2010年8月10日
⃝学部説明・模擬講義『英語学入門―生成文法による英語の分析』
青森県立八戸高等学校 2010年8月23日
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金等
⃝平成22年度日本学術振興会科学研究費補助金・基盤研究(C)(一般)
『句構造の非対称性・線形化と構造的依存関係に関する理論的・実証的研究』(課題番号22520487)
⃝平成22年度弘前大学人文学部長裁量経費『テクストから読み解くヨーロッパ文化の諸相』(研究分担者)
山 本 秀 樹
⑴現在の研究テーマ
⃝世界諸言語の言語類型地理論的研究
⑵著書・論文ほか
[論文]
⃝「世界言語特徴地図の作製と語順の地理的分布」『地理情報システムによる世界諸言語の言語類型地理論的研究』 1-27頁。
2010年3月
⃝「世界諸言語の研究を目的とした言語特徴の地図化」『言語とコミュニケーション - その文化と思想 -II』 11-28
頁。2010年3月
[研究ノート、報告書、その他]
⃝『地理情報システムによる世界諸言語の言語類型地理論的研究』(平成18~21年度科学研究費補助金 基盤研究(C) 研
究成果報告書)
⑶研究発表・講演
⃝「世界諸言語全体の視点から浮かび上がる日本語の真の姿」「りんご王国こうぎょくカレッジ」FMアップルウェーブ 2010年9月放送
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
⃝平成22~24年度文部科学省科学研究費補助金 基盤研究(C)「地理情報システムによる世界言語構造地図を活用した言語
類型地理論的研究」(研究代表者:山本秀樹、研究分担者:乾秀行、研究協力者:松本克己)
⃝平成18~21年度文部科学省科学研究費補助金 基盤研究(C)「地理情報システムによる世界諸言語の言語類型地理論的研
究」(研究代表者:山本秀樹、研究分担者:乾秀行、研究協力者:松本克己)
⃝平成21年度学部長裁量経費「言語とコミュニケーション-その文化と思想に関する調査・研究プロジェクト」(研究分担
者)
田 中 一 隆
⑴現在の研究テーマ
⃝「観客論的視点から見たイギリス・ルネサンス演劇のマルティプル・プロット構造の研究」
⑵著書・論文ほか
[論文]
⃝(学術論文)"Shakespeare and the Meaning of Words," 『言語とコミュニケーション―その文化と思想』Ⅱ(「言語とコ
ミュニケーション―その文化と思想に関する調査研究プロジェクト」)、93~107頁、2010年3月30日
[研究ノート、報告書、その他]
⃝(その他)「『BBCシェイクスピア全集』について」、『豊泉』(弘前大学附属図書館報)、7~8頁、2010年5月31日
⑶研究発表・講演
⃝(研究発表)「『ヴェニスの商人』におけるnationとstateの概念について」、第1回シェイクスピア研究会、2010年1月23
日、慶應義塾大学日吉キャンパス
⃝(研究発表)「イギリス・ルネサンス演劇のマルティプル・プロット―ロバート・グリーン『ベイコンとバンゲイ』のstate
92
を巡って」、第3回シェイクスピア研究会、2010年9月3日、慶應義塾大学日吉キャンパス
⑷学外集中講義
⃝(講演)「シェイクスピア入門」、NHK青森文化センター、2010年1月~9月
⃝(出張講義)「シェイクスピアと英語文化の伝統」、北海道立札幌北陵高等学校、2010年11月5日
⃝(出張講義)「シェイクスピアと英語文化の伝統」、青森県立青森南高等学校、2010年11月25日
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
⃝(科学研究費補助金・基盤研究C)「観客論的視点から見たイギリス・ルネサンス演劇のマルティプル・プロット構造の研
究」、研究代表者
⃝(学部長裁量経費)「テクストから読み解くヨーロッパ文化の諸相」、研究代表者
⑺ 共同研究
⃝「太宰治自筆ノートの総合的研究」、研究代表者:長谷川成一附属図書館長
⑻ 弘前大学人文学部主催の学会・研究会など
⃝(国際学術講演会開催)テネシー大学マーティン校教授Dr. Roy Neil Graves, "The Hidden, Game-like Aspects of
Shakespeare's Sonnets"(「ゲームとしてのソネット―シェイクスピアの隠された側面」)、2010年10月19日
⃝(国際学術講演会開催)テネシー大学マーティン校教授Dr. Roy Neil Graves, "The Legacy of Japanese Haiku in American
Poetic Practice"(「アメリカ詩における日本の俳句の遺産について」)、2010年10月21日
上 松 一
⑴現在の研究テーマ
⃝Second Language Acquisition
⃝Learner Autonomy
⑵著書・論文ほか
[論文]
⃝‘A Student’s Complaint about English Teaching at Hirosaki University? How Shall We Answer?’ 21st Century Education
Forum Vol. 5 (31/3/2010): 39-47.
[研究ノート、報告書、その他]
⃝教材Review: Q: Skills for Success ? Listening and Speaking. Oxford University Press. (2011) 2010年5月11日
⃝教材Review: Q: Skills for Success ? Reading and Writing. Oxford University Press. (2011) 2010年5月11日
⃝教材Review: Reading development series. Cengage Learning. 2010年6月4日
⑶研究発表・講演
⃝‘The five sentence patterns: how and how much do you teach?’ 第60回教育研究青森県大会あおもり教育のつどい2009「外
国語分科会」青森市青森県教育会館・青森市立橋本小学校 2010年11月6日
⃝公開授業 「英語実習 AI」(総合教育棟213講義室)2010年6月7日; 意見交換(人文学部404講義室) 2010年6月9日
⃝Australia 出張報告 (農学生命科学部331講義室) 2010年8月5日
⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動
⃝2月3日~8日 Hawaii
⃝3月25日~31日 Australia
⃝11月11日~22日 England
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
⃝2010年度学部長裁量経費
⑺共同研究
⃝第60回教育研究青森県大会あおもり教育のつどい2009「外国語分科会」研究協力者 青森市青森県教育会館・青森市立橋本
小学校 2010年11月6日~7日
⑻弘前大学人文学部主催の学会・研究会など
⃝弘前大学白神研究会「白神研究」第7号 2010年6月30日発行 編集委員
奈 蔵 正 之
⑴現在の研究テーマ
⃝フランス20世紀における時代状況と文学とのせめぎあい
―マルロー、サルトル、カミュの営為を中心として―
⃝アルベール・カミュの作家としての自己形成
⃝世界を舞台にしたフランス語の展開
93
熊 野 真規子
⑴現在の研究テーマ
⃝フランス語教育学
⃝映画研究(映画の中の「場所」)
⃝地域映像フィルムアーカイブ
小野寺 進
⑴現在の研究テーマ
⃝イギリス小説研究
⃝英語多読の方法と実践
⑵著書・論文ほか
[論文]
⃝Greimas’s Actantial Model and the Cinderella Story - The Simplest Way for the Structural Analysis of Narratives - (弘前
大学人文学部『人文社会論叢』(人文科学篇)第24号、pp.13-24、2010年8月)
⑷学外集中講義
⃝平成22年度教員免許状更新講習(於:弘前大学, 2010年8月11日)
⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動
⃝2010年度POD Conference参加(セントルイス、アメリカ合衆国(2010年11月3日~7日))
⃝英語多読に関するインタヴューと調査・研究(ハワイ大学、アメリカ(2010年2月3日~7日))
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
⃝平成21年度弘前大学教育支援経費(英語多読の包括的なプログラム開発のための調査・研究)
渡 辺 麻里子
⑴現在の研究テーマ
⃝中世説話文学
⃝仏教文学
⃝中世の天台談義書
⃝了翁と鉄眼版一切経・明版大蔵経
⃝天神信仰と文芸
⑵著書・論文ほか
[論文]
⃝「『定西法師伝』の研究――付〈翻刻〉宮内庁書陵部蔵『定西法師伝』――」、池宮正治編『古琉球をめぐる文学言説と資
料学――東アジアからのまなざし』(三弥井書店)、単著、pp.474-532、2010年1月
⃝「東京大学蔵嘉興蔵大蔵経の概要と特徴」、『東京大学総合図書館所蔵嘉興大蔵経 目録と研究』Ⅱ研究編、平成17年度~
平成21年度文部科学省科学研究費補助金特定領域研究・仏教道教交渉班「宋元明における仏教道教交渉と日本宗教・思想」
(課題番号17083009)研究成果報告書、単著、pp.9-43、2010年9月
⃝「了翁と東京大学蔵嘉興蔵大蔵経について――瑞聖寺への寄進を中心に――」、『東京大学総合図書館所蔵嘉興大蔵経 目
録と研究』Ⅱ研究編(同上)、単著、pp. 87-106、2010年9月
⃝「『了翁禅師紀年録』について――叡山文庫延暦寺蔵『黄檗天真院了翁覚禅師紀年録』を中心に――」、『東京大学総合図
書館所蔵嘉興大蔵経 目録と研究』Ⅱ研究編(同上)、単著、pp. 107-117、2010年9月
⃝「『了翁祖休禅師行業記』について――〈付・翻刻〉秋田県公文書館蔵『了翁祖休禅師行業記』――」、『東京大学総合図
書館所蔵嘉興大蔵経 目録と研究』Ⅱ研究編(同上)、単著、pp. 118-132、2010年9月
⃝「天台談義所をめぐる学問の交流」、『中世文学と寺院資料・聖教』中世文学と隣接諸学2、竹林舎、単著、pp.450-475、
2010年10月
⃝「伝忠尋撰『七百科條鈔』について」、『天台学報』52号、単著、pp.57-65、2010年
11月
[研究ノート、報告書、その他]
⃝書評「小峯和明著『中世法会文芸論』」、『立教大学日本文学』一〇三号、単著、pp.182-186、2009年12月
⃝〔読む〕「「小野篁広才事」考――『宇治拾遺物語』第四九話」、『日本文学』2010年2月号、単著、pp.72-76、2010年2月
⃝報告書『東京大学総合図書館所蔵嘉興大蔵経 目録と研究』Ⅰ目録編・Ⅱ研究編、平成17年度~平成21年度文部科学省科学
研究費補助金特定領域研究「東アジアの海域交流と日本伝統文化の形成―寧波を焦点とする学際的創生―」仏教道教交
渉班「宋元明における仏教道教交渉と日本宗教・思想」(課題番号17083009)研究成果報告書、共著、2010年9月
⃝コラム④「黄檗版大蔵経」、『民衆仏教の定着』新アジア仏教史13日本Ⅲ、佼正出版社、単著、pp.230-234、2010年11月
⃝講演録「信濃国津金寺談義所と天台談義」、『向学の燈花』新上田自由大学歴史学教室開創三十周年記念誌、単著、pp.61103、2010年11月
94
⑶研究発表・講演
⃝講演「信濃国津金寺談義所と天台談義」、主催・上小仏教文化研究会、共催・上田市教育委員会、新上田自由大学歴史学教
室、単独、(於)上田市別所温泉 あいそめの湯多目的ホール、2010年6月19日
⃝研究発表「天台宗系寺院資料から考える中世文学研究の可能性」、単独、平成22年度中世文学会春季大会・公開シンポジウ
ム「寺院資料と中世文学研究」、(於)法政大学市ヶ谷キャンパス、2010年5月29日
⃝研究発表「尊舜談『天台伝南岳心要見聞』について」、単独、平成22年度第52回天台宗教学大会、(於)叡山学院、2010年
11月13日
⃝講演「妙法院門跡龍華蔵の聖教について」、単独、第434回仏教文化講座、(於)三十三間堂本坊妙法院門跡、2010年11月28日
⑷学外集中講義
⃝講義「生徒の学習意欲を高める古典指導――軍記文学の魅力――」(平成22年度 講座番号205 高等学校国語科教育講座 言語生活を広げる「読むこと」の指導、青森県総合学校教育センター)、2010年6月14日
⃝ドリーム講座「古典世界のヒーロー像」、平成22年度弘前大学ドリーム講座、青森県立五所川原高等学校、2010年9月30日
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
⃝日本学術振興会研究費補助金・基盤C一般(H21~H24)「中世における談義書の研究――天台論義を中心として――」研
究代表者
⑺共同研究
・ 人間文化研究機構国文学研究資料館・基幹研究「19世紀における出版と流通」
ジャンソン・ミッシェッル
⑴現在の研究テーマ
⃝フランス語・フランス語教育学
⑷学外集中講義
⃝山形大学・人文学部
⃝秋田大学・教育文化学部
楊 天 曦
⑴現在の研究テーマ
⃝現代中国文学と中国語圏の映像文化
⑶研究発表・講演
⃝シンポジウム「日本語で書く-文学創作の喜びと苦しみ」において口頭発表を行う。
場所:国際日本文化研究センター、2010.1.29
⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動
⃝上海万博会場において映像技術に関する資料収集を行う、2010.10.29~2010.11.1
○国際社会講座
長谷川 成 一
⑴現在の研究テーマ
⃝日本近世史の研究
⑵著書・論文ほか
[監修・編著]
⃝『新編弘前市史 資料編 岩木地区』弘前市 2010年3月 pp1~907
[論文]
⃝「藩領における植生景観の復元とその変容-近世津軽領を中心-」『弘前大学大学院地域社会研究科年報』第6号 2009年
12月 pp1~63
⑶研究発表・講演
[研究発表]
⃝弘前市「金穿渡世書上から見た幕末~近代の白神山地鉱山」白神研究会研究報告会 2010年4月
[講演]
⃝弘前市「弘前城築城と城下の建設 -土木工事を中心に-」第3回青森土木フオーラム 2010年11月13日
⃝弘前市「弘前城築城と都市プラン」津軽学・人文学部公開講座 2010年11月25日
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
95
⃝科学研究費補助金 基盤研究C「森林・鉱物資源の開発・活用から見た世界遺産白神山地の変容」(代表)(平成22年度)
⃝科学研究費補助金 基盤研究A「中近世北方交易と蝦夷地の内国化に関する研究」(分担)(代表関根達人 平成22年度)
⑺共同研究
⃝「18世紀日本の文化状況と国際環境」 国際日本文化研究センター
⑻弘前大学人文学部主催の学会・研究会など
⃝2010年度弘前大学国史研究会大会 2010年9月11日
V L カーペンター
⑴現在の研究テーマ
⃝食糧市場のグローバル化・食糧安全保障と関わる政治問題
⃝外交手段としての言語政策とソフトパワー
⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動
⃝2010.08.12~09.07:米国 Michigan州、Minnesota州、Washington州(Yakima市・Wenatchee市)(果実市場:果実産業の集
中化・規模拡大化傾向・クラブ制リンゴ品種の導入や流通に関する現地調査)
⃝2010.06.26~07.05:米国Los Angeles・San Francisco(「外交言語としての日本語の地位とソフトパワーとしての日本の言語
政策的役割研究」をテーマとして、米国 Los Angeles 及び San Francisco の行政機関、研究所、大学等における現地調査)
⃝2009.12.24~12.28:台湾台北市(台湾市場における青森リンゴブランドの定着プロセスに関する調査研究)の現地調査)
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
⃝挑戦的胚芽研究(代表者:21・22年度)「台湾市場における青森リンゴブランドの定着プロセスに関する調査研究」
⃝基盤研究(B)海外学術調査(代表者:22・23・24年度)「ピンクレディー・システムに関する総合的調査研究」
⃝基盤研究(分担者:22・23・24年度、代表者:神田健策)「会員制(クラブシステム)による農産物の生産販売に関する基
礎的研究」
⃝挑戦的胚芽研究(分担者:22・23・24年度、代表者:佐藤和之)「外交言語としての日本語の地位とソフトパワーとしての
日本の言語政策的役割研究」
フィリップス、ジョン・エドワード
⑴現在の研究テーマ
⃝日本におけるアフリカの歴史的文献
⃝ハウサ語の新聞における第二次世界大戦
⃝ナイジェリアの内陸の歴史
⃝奴隷制の経済的な能率
⑵著書・論文ほか
[論文]
⃝“Japanese Historiography of Africa” (professor Li Anshan of Beijing University will be publishing this paper early next
year in a memorial volume for his late colleague, Li Boaping)
⑷学外集中講義
⃝秋田大学 ― 「英語の歴史」2010年8月
⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動
⃝ナイジェリアにおける研究活動:
⃝アレワハウス「アハマドゥベッロ大学の史料センター」にのハウサ語新聞の写真撮影
⃝ナイジェリアの内陸の教授との相談
⃝ナイジェリアにおける学外講義
“The History of Hausa Orthography” Centre for the Study of Nigerian Languages, Bayero University Kano, Nigeria,
September 20, 2010
“New Perspectives on the Economic Productivity of Slave Labor” Department of History, University of Jos, Nigeria,
September 13, 2010
Informal talk about History and International Studies to Department of History and International Studies, University of
Jos, Nigeria, September 11, 2010
“What I told the Chinese about Nigeria” Department of History, Ahmadu Bello University, Zaria, Nigeria, September 1,
2010
齋 藤 義 彦
⑴現在の研究テーマ
⃝カント研究、第2次メルケル政権下のドイツ研究
96
⑵著書・論文ほか
[論文]
⃝齋藤義彦 「メディア分析から見た2009年ドイツ連邦議会選挙の政治過程」、弘前大学人文学部『人文社会論叢社会科学
篇』第24号、2010年8月、1~26頁 柑 本 英 雄
⑴現在の研究テーマ
⃝国際的行為体のアイデンティティの変容、EU地域研究、環海洋地域主義研究(環北海・環バルト海・環日本海など)
⑶研究発表・講演
[国内招待講演]
⃝柑本英雄「北海地域グランドデザインとEUスペイシャルプランニング」、国土技術政策総合研究所総合技術政策研究セン
ター建設経済研究室主催「第3回 国土と国土マネジメントを考える講演会」、2010年2月17日、つくば市。
⃝柑本英雄「EU地域空間再編成とサブリージョン:越層する非国家領域的行為体とクロススケールガバナンスの視座からの分
析」、人文地理学会第101回地理思想研究部会、2010年7月31日、新大阪市。
⑷学外集中講義
⃝早稲田大学オープン教育センター講義「世界の基層文化とことば」、講義テーマ「ケルトの現代性―選択されるコンウォー
ルのアイデンティティ」、2010年1月7日、早稲田大学。
⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動
⃝North Sea Stakeholder Conference出席およびインタビュー調査・資料収集、英国・ニューカッスル、2010年3月15日~3
月21日。
⃝EU地域委員会(Committee of the Regions:CoR)フォーラム“Europe’s Macro-Regions: Integration through territorial cooperation”出席およびインタビュー調査・資料収集、ベルギー・ブリュッセル、2010年4月10日~25日。
⃝欧州沿岸辺境地域会議(Conference of Peripheral Maritime Regions of Europe:CPMR)年次総会出席およびインタビュー
調査・資料収集、英国・アバディーン、2010年9月28日~10月4日。
⃝EU北海地域諮問評議会(North Sea Regional Advisory Council:NSRAC)年次総会・執行委員会出席およびインタビュー
調査・資料収集、英国・アバディーン、2010年10月20日~25日。
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
⃝平成19年度~21年度、基盤研究(B)海外学術、「イタリアの国境地域と島嶼地域の“境界領域のメタモルフォーゼ”に関する
比較地域研究」、研究分担者。
⃝平成21年度~23年度、基盤研究(C)一般、「越層する国際的行為体の研究:自治体によるEU「地域別」漁業政策の取り組
み」、研究代表者。
⃝平成21年度~23年度、基盤研究(B)海外学術、「グローバル時代のマルチ・レベル・ガバナンス-EUと東アジアのサブリー
ジョン比較」、研究分担者。
⃝平成22年度~25年度、基盤研究(C)一般、「欧州ランドスケープ条約が各地域の景観・観光政策に及ぼす効果発現の実証
的研究」、連携研究者。
荷 見 守 義
⑴現在の研究テーマ
⃝東アジア地域史・中国史・朝鮮王朝史
⑵著書・論文ほか
[論文]
⃝荷見守義「明人華重慶の朝鮮漂流とその刷還」『東国史学』第47輯、韓国・東国史学会、pp.263~290、2009年12月
⃝荷見守義「明朝遼東総兵官考‐洪武年間の場合‐」『(中央大学人文科学研究所)人文研紀要』第68号、中央大学人文科学
研究所、pp.133~167、2010年3月
⑶研究発表・講演
[研究発表]
⃝東京都「被虜送還と中華秩序」 2010年9月19日 科学研究費補助金 基盤研究(A)(一般)「近代移行期の港市におけ
る奴隷・移住者・混血児‐広域社会秩序と地域秩序‐」シンポジウム「隷属者の光と影」(立教大学)
[講演]
⃝弘前市「北緯40度の歴史学」 2010年5月4日 弘前大学人文学部・弘前大学東洋談話会共催シンポジウム「知らないと損
をする中国」(弘前大学)
⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動
⃝8月23日~9月3日 西地中海港市等調査(アムステルダム・グラナダ・セウタ・タンジェ・セビリア・コルドバ・ファ
97
ロ・ラゴス・サグレス・リスボン)
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
⃝平成22年度~25年度、科学研究費補助金 基盤研究(C)(一般)「明朝遼東鎮をめぐる官僚人事・政策形成・朝鮮関係の
解明」、研究代表
⃝平成20年度~22年度、科学研究費補助金 基盤研究(A)(一般)「近代移行期の港市における奴隷・移住者・混血児‐広
域社会秩序と地域秩序‐」(代表:弘末雅士)研究分担者
⑺共同研究
⃝中央大学人文科学研究所共同研究チーム「档案の世界」
⃝中央大学人文科学研究所共同研究チーム「情報の歴史学」
⑻弘前大学人文学部主催の大会・研究会など
⃝5月4日 シンポジウム「知らないと損をする中国」
松 井 太
⑴現在の研究テーマ
⃝中央アジア出土古代トルコ語・モンゴル語文献の解読研究
⃝モンゴル帝国時代(13~14世紀)の中央アジア史の再構成
⑵著書・論文ほか
[論文]
⃝Dai MATSUI, Uigur Peasants and Buddhist Monasteries during the Mongol Period. Re-examination of the Uigur
Document U 5330 (USp 77). In: T. Irisawa (ed.), “The Way of Buddha” 2003: The 100th Anniversary of the Otani Mission
and the 50th of the Research Society for Central Asian Cultures, Kyoto, Ryukoku University, 2010.3, pp. 55-66.
⃝Dai MATSUI, Uigur Manuscripts Related to the Monks Sivšidu and Yaqšidu at “Abita-Cave Temple” of Toyoq. 新疆吐魯
番學研究院(編)『吐魯番學研究:第三屆吐魯番學曁歐亞游牧民族的起源與遷徙國際學術研討會論文集』上海古籍出版社,
2010.5, pp. 697-714.
⃝松井太「西ウイグル時代のウイグル文供出命令文書をめぐって」弘前大学人文学部『人文社会論叢』人文科学篇24, 2010.8,
pp. 25-53.
[研究ノート、報告書、その他]
⃝松井太(廣中智之:譯)「吐魯番出土回鶻文書中所看到的七康湖和其灌溉」『吐魯番學研究』2010-1, 新疆吐魯番學研究院,
2010.6, pp. 79-81.
⃝松井太「ウイグル人と交易活動」歴史学研究会(編)『世界史史料4(東アジア・内陸アジア・東南アジアII・10-18世
紀)』岩波書店、2010.10, pp. 34-36.
⑶研究発表・講演
⃝Dai MATSUI, Taxation systems and the Old Uigur Society of Turfan in the 13th - 14th centuries. 2010年6月23日、
Collegium Turfanicum 50, Berlin-Brandenburgische Akademie der Wissenschaften (Berlin, Germany)
⃝松井太「内陸アジア出土資料からみたモンゴル時代のユーラシア交流」2010年8月10日、大阪大学歴史教育研究会大会「阪
大史学の挑戦2」、大阪大学中之島センター
⃝Dai MATSUI, A Sogdian-Uigur Bilingual Fragment from the Arat Collection. 2010年10月24日、西域古典語言學術高峰論壇
(Turfan Forum on Old Languages of the Silk Road)、 中国・新疆吐魯番学研究院
⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動
⃝イスタンブル大学(トルコ共和国)・ベルリン科学アカデミー(ドイツ連邦共和国)において中央アジア出土古代ウイグル
語文書資料の調査(弘前大学教員業績評価に係る教員派遣制度;三島海雲記念財団学術研究奨励金)2010年3月29日~6月
30日
⃝内蒙古大学・内蒙古博物院(中華人民共和国)において中央アジア出土文書史料の調査(科学研究費)2010年8月12日~8
月21日
⃝カザフスタン共和国・ウズベキスタン共和国における諸遺跡の調査(学習院大学東洋文化研究所研究プロジェクト;科学研
究費)2009年8月30日~9月7日
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
⃝代表「中央アジア出土古代ウイグル語帳簿資料の基礎的研究」科研費・基盤研究(C)、2010~2013年度
⃝代表「イスタンブル大学所蔵古代ウイグル文書資料の歴史学的研究」三島海雲記念財団学術研究奨励金(人文科学部門)、
2009年度
⃝分担「シルクロード東部の文字資料と遺跡の調査:新たな歴史像と出土史料学の構築に向けて」科研費・基盤研究(A)、
2010~2013年度(代表:荒川正晴)
⃝分担「旅順博物館所蔵非漢文資料の総合的研究」 科研費・基盤研究(B)、2008~2011年度(代表:三谷真澄)
⃝分担 「中国新疆のウルムチ・トゥルファン両博物館所蔵非漢文古文献の研究」科研費・基盤研究(B)、2007~2010年度
(代表:梅村坦)
⑺共同研究
98
⃝「イラン・中国・日本共同によるアルダビール文書を中心としたモンゴル帝国期多言語複合官文書の史料集成」トヨタ財団
アジア隣人プログラム、2009~2010年度(代表:四日市康博)
⃝「「農牧接壌地域」における民族と社会」学習院大学東洋文化研究所・研究プロジェクト、2010年度~2011年度(代表:高
柳信夫)
林 明
⑴現在の研究テーマ
⃝ガンディーの思想及び歴史的再評価、サルヴォダヤ運動、ガンディーの精神の継承
⑵著書・論文ほか
[論文]
⃝「ガンディー思想の構造」『サルボダヤ』、VOL.50-10-11、2010年11月、14-21頁
⑷学外集中講義
⃝青森公立大学「人間の歴史」2010年5~7月
⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動
⃝インド(インドの日本山妙法寺に関する調査、インドの学生とのガンディーに関する意見交換、経済・宗教・文化面等にお
ける現代インドの変貌の有り様の調査)、2010年8月13日~8月28日
澤 田 真 一
⑴現在の研究テーマ
⃝「差異」と「共生」をキーワードとしたオセアニアの文学と文化の研究
⃝ポストコロニアル・アイデンティティ
⑵著書・論文ほか
[著書]
⃝『新版オセアニアを知る事典』(共著、小林泉他編、11項目担当)平凡社 2010年5月
[論文]
⃝「ウィティ・イヒマエラとマオリ・ルネッサンス」『ニュージーランド研究』 第16巻 2009年12月 pp.17~26
[監修]
⃝ジョイ・カウリー 『ハンター』(大作道子訳)偕成社 2010年6月
⑶研究発表
⃝「隠蔽されてきたもうひとつの女性開拓者像:ヴィンセント・ウォードの『リバー・クィーン』を中心に」ニュージーラン
ド学会、東北公益文科大学ニュージーランド研究所、日本ニュージーランド学会合同研究会、早稲田大学、2010年10月30日
⑻弘前大学人文学部主催の学会・研究会など
⃝日本ニュージーランド学会第17回研究大会 2010年6月19日
⃝日本ニュージーランド学会公開シンポジウム「ニュージーランドから学ぶ:差異を差別につなげない国づくり」 2010年6
月20日
フールト、フォルカー
⑴現在の研究テーマ
⃝平和研究、平和運動、歴史教育、戦争責任論
城 本 る み
⑴現在の研究テーマ
⃝台湾・中国の高齢者福祉に関する研究
⑵著書・論文ほか
[論文]
⃝「台湾における高齢者福祉政策と施設介護」
(弘前大学人文学部『人文社会論叢』(社会科学篇)第23号 pp.1-28)
⃝「台湾における外国人介護労働者の雇用」
(弘前大学人文学部『人文社会論叢』(社会科学篇)第24号 pp.27-66)
⑶研究発表・講演
⃝「台湾における高齢者福祉の特徴」日本社会分析学会第118回例会(九州大学)
99
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
⃝文部科学省科学研究費補助金 基盤研究(C)(平成20~23年度継続課題)
「台湾の高齢者福祉に関する研究」(研究代表)
足 立 孝
⑴現在の研究テーマ
⃝中世盛期スペイン・エブロ川流域における城塞集落の形態生成論的研究
⑵著書・論文ほか
[論文]
⃝足立孝「9-11世紀ウルジェイ司教座聖堂教会文書の生成論─司教座文書からイエ文書へ,イエ文書から司教座文書へ」『西
洋中世研究』第1号,2009年,87-105頁
[研究ノート、報告書、その他]
⃝『岩波世界人名大辞典』24項目執筆,2011年刊行予定
⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動
⃝スペイン:国立歴史文書館および国立図書館(科学研究費) 2010年3月
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
⃝代表:「中世盛期スペイン・エブロ川流域における城塞集落の形態生成論的研究」(文部科学省科学研究費補助金・若手研
究(B))
○情報行動講座
船 木 洋 一
⑴現在の研究テーマ ⃝マルコフ決定理論
⑵著書・論文ほか
⃝船木洋一、「割引総報酬関数の分布」、『弘前大学人文社会論叢』(社会科学編)、第23号、175-184頁(2010年2月)
清 水 明
⑴現在の研究テーマ ⃝デカルト哲学とメルロ・ポンティ哲学を中心とする近・現代の哲学
⃝心の哲学
⑵著書・論文ほか
[その他]
新聞連載書評エッセイ「あんな本こんな本」
⃝レヴィ・ストロース著『悲しき熱帯』 2009.12 陸奥新報
⃝下條信輔著『サブリミナル・インパクト』 2010.01 陸奥新報
⃝ジャレッド・ダイアモンド著『銃・病原菌・鉄』 2010.02 陸奥新報
⃝マーティン・ガードナー著『信じる理由』 2010.03 陸奥新報
奥 野 浩 子
⑴現在の研究テーマ
⃝英語の非下位範疇化目的語の出現条件
⃝日本と韓国の初期英語教育
⑵著書・論文ほか
[論文]
⃝日本語と韓国語の複合動詞と類像性、『人文社会論叢』(人文科学篇)第23号、2010年2月、pp.11-16。
⑶研究発表・講演
⃝弘前大学ドリーム講座:「ことばの規則性をさぐってみよう」青森県立青森北高等学校、2010年10月26日
100
作 道 信 介
⑴現在の研究テーマ
⃝社会変動と病気
⃝ホールドとしての出稼ぎ
⑵著書・論文ほか
[論文]
⃝作道信介「家長の社会化について:アフリカ牧畜民トゥルカナの占い場面から」菊池章夫他編『社会化の心理学/ハンド
ブック:人間性への多様な接近』川島書店 397-420.
[研究ノート、報告書、その他]
⃝Sakumichi,S. 2010 The emergence of Ewosin-a-ngacin among the Turkana, the pastoralist of northwestern Kenya: An
embodied adjustment to the drought-induced social change. In conference abstracts, XVII World Congress of Sociology:
International Sociological Association, pp.443-444.
⑶研究発表・講演
⃝An embodiment of Droughts: the emergence of Ewosin-a-ngacin among the Turkana, the pastoralist of northwestern
Kenya.アフリカ学会東北支部会講演会(2010年7月5日、於弘前大学)
⃝「フィールドワーク:東北フィールド学派の系譜をめぐって」 日本質的心理学会第7回大会企画シンポジウム シンポジス
ト(2010年11月27日、於茨城大学)
⃝「物語りと共約幻想:「フォーラム」から更なる対話への深潭」 日本質的心理学会第7回大会学会委員会企画シンポジウ
ム シンポジスト(2010年11月28日、於茨城大学)
⃝The emergence of Ewosin-a-ngacin among the Turkana, the pastoralist of northwestern Kenya: An embodied adjustment
to the drought-induced social change. XVII World Congress of Sociology:International Sociological Association, 11-17 July
2010 at Goteborg, Sweden.
⑷学外集中講義
⃝岩手県立大学社会福祉学部専門基礎科目Ⅱ平成22年9月23日(木)-26日(日)
⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動
⃝ケニア出張:8月20日~9月20日(基盤研究A「アフリカ牧畜社会におけるローカル・ プラクティスの復権/活用による
開発研究の新地平」代表者・太田至)
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
⃝基盤研究C「地域を形成し、人を留め置く力」<ホールド>の実証研究―「津軽の人生」調査(代表者・作道信介)
⑻弘前大学人文学部主催の学会・研究会など
⃝公開講座「津軽学 弘前城築城400年 時の伝言」(2010年11月25日(木)於弘前大学創立50周年記念会館みちのくホール)
内 海 淳
⑴現在の研究テーマ
⃝自然言語処理
⃝構造化文書
⑵著書・論文ほか
[論文]
⃝内海淳 (2010) 「オンライン試験と教授法評価」、CIEC研究会論文誌、1、65-68
⑶研究発表・講演
⃝内海淳 (2010) 「オンライン試験と教授法評価」、CIEC春季研究会2010、於 立教大学池袋キャンパス、2010年3月27日
羽 渕 一 代
⑴現在の研究テーマ
⃝親密性の変容と近代化
⃝ケニアにおけるメディア利用行動
⑶研究発表・講演
⃝Ichiyo HABUCHI and Satoshi IDO, Local community in a mountain village and the life course of youth in Japan, July 17,
2010, ISA ⅩⅤⅠⅠ World Congress of Sociology, Göteborg.
⃝Yuko Sugiyama, Ichiyo HABUCHI and Keiko YAMAGUCHI, The modernization Process and Life Course in Tsugaru
Area, March 2, 2010, Seminar Hirosaki University Presentations, University of Helsinki Ruralia Institute, Seinajoki.
⃝井戸聡・羽渕一代、 「観光地における非典型労働者の地域的受容過程(1)」第83回日本社会学会 2010年11月7日(於;
名古屋大学)
⃝羽渕一代・井戸聡、 「観光地における非典型労働者の地域的受容過程(2)」第83回日本社会学会 2010年11月7日(於;
名古屋大学)
101
⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動
⃝2010年8月~9月 ケニア共和国メディア調査
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
⃝科学研究費 若手(B)「モバイル・マネートランスファー・サービスがケニア社会に 及ぼす影響」(代表者:羽渕一
代)2010年度~
⃝科学研究費 基盤(C)「「地域を形成し、人を留め置く力」<ホールド>の実証研究─「津軽の人生」調査」(代表者:作
道信介)2008年度~
⃝KDDI財団調査研究助成金、「モバイルマネーの普及がケニア牧畜民社会に及ぼす影響」(代表者:羽渕一代)2010年度~
⃝証券奨学財団調査研究助成金、「若年層の家族イメージと恋愛行動」(代表者:羽渕一代)2010年度~
大 橋 忠 宏
⑴現在の研究テーマ
⃝地域間交通における運輸施設の効率的配置
⃝交通施設整備や交通政策が地域経済に与える効果の計測方法の開発
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
⃝大橋忠宏(代表)「ネットワークを考慮した航空政策評価の実証研究」,H21年度~(H23年度予定)科学研究費補助金
(若手研究(B),課題番号:21730216)
増 山 篤
⑴現在の研究テーマ
⃝人口およびその増減と都市施設へのアクセシビリティの関係を分析するための制約付きランダマイゼーション・テストに関
する研究
⃝部分地区の空間的連坦性および均質性を保証する地区区分方法に関する研究
⑵著書・論文ほか
[論文]
⃝増山 篤 (2010) 「人口分布と生活利便施設へのアクセシビリティの関係を分析する制約付きランダマイゼーション・テス
ト」、都市計画論文集、45(3)、583-588
⃝増山 篤 (2010) 「空間的連坦かつ最大限均質な部分地域への地域区分となるための必要条件」、地理学評論、83(6)、
585-599
[研究ノート、報告書、その他]
⃝増山 篤 (2009) 「生活利便施設へのアクセシビリティが人口分布の規定要因と考える統計的分析方法」、都市計画報告
集、8(3)、106-113
⑶研究発表・講演
⃝増山 篤 (2010) 「生活利便施設へのアクセシビリティが人口分布の規定要因と考える統計的分析方法」、都市計画報告
会、於 名古屋大学東山キャンパス、2010年11月13日
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
⃝科学研究費補助金「等質地域への地域区分を行う空間分析法の開発」(若手B)(平成21~23年度)(研究代表者)
○ビジネスマネジメント講座
四 宮 俊 之
⑴現在の研究テーマ
⃝日本の紙パルプ企業での経営実践プロセスについての経営史研究
⃝りんごの消費や需要の創出をめぐる歴史文化的研究
⃝経営史研究での次なる視差の構築をめぐって
⑵著書・論文ほか
[論文]
⃝四宮俊之「経営史研究での次なる視差の強調-経営史学における新たな今日的意義の構築をめざして-」『人文社会論叢
(社会科学篇)』第23号、弘前大学、2010年2月28日、49-65頁。
⑷学外集中講義
⃝平成22年度弘前大学教員免許状更新講習(小、中、高等学校社会教諭)「仕事、企業、経営、社会について」2010年8月20
日、弘前大学教員免許状更新講習支援室。
102
⃝「経営史」青森公立大学、2010年秋学期。
⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動
⃝2009年12月24日~28日 台湾市場における青森リンゴブランドの定着プロセスに関する調査、台北(台湾)。
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
⃝四宮俊之(代表者)「日本の紙パルプ企業での経営実践プロセスについての調査研究」平成22年度~(24年度予定)科学研
究費補助金(基盤研究C)。
⑺共同研究
⃝弘前大学農生学部附属りんご振興研究センターでの共同研究に参加(兼担センター員)。
⃝明治大学イノベーション研究所での共同研究に参加(客員研究員)。
保 田 宗 良
⑴現在の研究テーマ
⃝医療サービスと顧客満足
⃝ドラッグストアのマーケティング戦略の国際比較
⑵著書・論文ほか
[論文]
⃝改正薬事法に伴う医薬品流通とセルフメディケーションに関する考察、日本消費経済学会年報第31集、日本消費経済学会、3
月、pp.75-81。
[研究ノート、報告書、その他]
⃝医療消費者の顧客満足に関する予備考察、人文社会論叢社会科学篇第24号、8月、pp.153-160。
⑶研究発表・講演
[研究発表]
⃝2009年6月以降のドラッグストアの経営行動の変革について、青森県消費者問題研究会セミナー、於 青森市福祉プラザ、
4月29日。
⃝医療消費者の顧客満足の予備考察、日本消費経済学会北海道・東北部会研究報告会、 於 弘前大学、5月22日。 ⃝医療消費者の顧客満足研究に関する検討項目、日本消費経済学会東日本大会、於 岩手県立大学、6月27日。
⃝医療消費者の顧客満足研究に関する論点整理、日本消費経済学会全国大会、於 三重大学、10月3日。
[出張講義]
⃝コンビニエンスストアと私たちの生活、函館中部高校、6月30日。
⃝インターネット通販と消費者、田名部高校、7月6日。
⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動
[海外研修]
⃝北マリアナ連邦 12月22日-26日、9月15日-18日、大韓民国 2月12日-14日
中華人民共和国 4月1日-4日 オーストラリア 8月20日-24日
⑺共同研究
⃝「弘前な空間デザイン」ブランディングプロジェクト 弘前商工会議所
⑻弘前大学人文学部主催の学会・研究会など
⃝日本消費経済学会北海道・東北部会研究報告会、2010年5月22日、於 弘前大学総合教育棟
森 樹 男
⑴現在の研究テーマ
⃝多国籍企業における地域統括本社・海外子会社の研究
⃝北欧における産学官連携と地域経済活性化に関する研究
⃝同人漫画配信事業におけるビジネスモデル研究
⑵著書・論文ほか
[論文]
⃝森樹男(2010)「北東北三都市の商業とまちづくり」、神田健策・井上博夫編著、『グローバル下の北東北地域~地域経済・
財政・住民福祉の現状~』弘前大学出版会、pp.143-164。
⃝森樹男(2010)「北東北における観光と地域振興」、神田健策・井上博夫編著、『グローバル下の北東北地域~地域経済・財
政・住民福祉の現状~』弘前大学出版会、pp.187-208。
[研究ノート、報告書、その他]
⃝グローバル経営研究室・経営管理研究室編(2010)『地域への提言』
⃝弘前大学人文学部 弘前城築城400年プロジェクト編(2010)『築城400年を契機とする弘前市の歴史・文化・経済の振興プ
ロジェクト 2009年度調査報告書 全国の築城400年祭』
⑶研究発表・講演
103
⃝森樹男「地域資源と観光」、 あおもりツーリズム人づくり大学はやて(弘前大学・青森県主催)、 2009年6月24日、 於 弘
前大学
⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動
⃝2009年12月12日~18日バレンシア(スペイン)
⃝2010年1月18日~22日セイナヨキ(フィンランド)
⃝2010年3月21日~29日カールスタッド(スウェーデン)
⃝2010年11月23日~12月3日ストックホルム・カールスタッド・スンネ(スウェーデン)、ヘルシンキ・セイナヨキ・ヴァー
サ(フィンランド)
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
[科学研究費補助金]
⃝「多極化時代における多国籍企業の地域統括マネジメント」(基盤研究(C))2009年度~2011年度
[その他の競争的研究資金]
⃝弘前大学知の拠点「コラボ弘大」を中心とした全学的研究プロジェクト支援構想(教育研究高度化のための支援体制整備事
業)
⃝平成21年度産学連携人材育成事業 起業家人材育成モデル講座(経済産業省)
⃝大学生の就業力支援事業(GP)(文部科学省)2010年度~2015年度
⑺共同研究
⃝同人漫画配信事業におけるビジネスモデルの実証研究(共同研究企業 ジーアイテック)
⑻弘前大学人文学部主催の学会・研究会など
⃝日本・フィンランド国際セミナー「教育・研究の国際化と地域活性化への大学の役割」、主催 弘前大学人文学部・ヘルシ
ンキ大学ルラリア研究所、2010年2月12日開催
柴 田 英 樹
⑴現在の研究テーマ
⃝粉飾決算
⃝監査風土
⃝環境会計
⃝環境監査
⑵著書・論文ほか
[論文]
⃝「監査風土の基礎理論」弘前大学人文学部『人文社会論叢』(社会科学篇)第24号、査読無、65-92頁、2010年9月
⃝「粉飾の本質」『日本産業科学学会研究論叢』第15号、査読有、43-48頁、2010年3月
⃝「監査法人の未来像~監査法人の研究~」弘前大学人文学部『人文社会論叢』(社会科学篇)第23号、査読無、67-99頁、
2010年2月
⃝「環境監査の法定化に関する考察」『弘前大学経済研究』第32号、査読有、43-60頁、2009年12月
[研究ノート、報告書、その他]
⃝「5分でわかる最近の会計学No.26~No.38」『国税速報』大蔵財務協会、2008年9月~(現在継続中)
嶋 恵 一
⑴現在の研究テーマ
⃝ミクロデータによる設備投資の実証研究。
⑵著書・論文ほか
[論文]
⃝投資の調整費用、社会経済研究、58号、pp.27-39。
⃝Lumpy capital adjustment and technical efficiency, Economics Bulletin, 30(4), pp.2817-2824.
⑶研究発表・講演
⃝日本金融学会、中央大学、2010年5月。
⃝日本経済学会、千葉大学、2010年6月。
加 藤 惠 吉
⑴現在の研究テーマ
⃝企業価値評価 無形資産 国際課税
⑵著書・論文ほか
[論文]
104
⃝「無形資産に関する実証研究の方向性-実証研究の推移とインプリケーション-」『弘前大学経済研究』第32号、61-68頁、
2009年12月(共著)
⃝「移転価格税制をめぐる最近の状況と動向」『人文社会論叢 社会科学編』第23号、101-110頁、2010年3月(単著)
⑷学外集中講義
⃝放送大学面接授業 専門科目「租税法と確定申告」(青森学習センター)2010年6月26~27日
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
⃝科学研究費補助金・基盤研究C「租税状況とコーポレート・ガバナンスの関係性」(研究分担者)
金 藤 正 直
⑴現在の研究テーマ
⃝バイオマス政策・事業を対象とした業績管理システムの構築
⃝森林・林業を対象とした原価計算システムの構築
⃝産業クラスターを対象とした業績管理システムの構築
⑵著書・論文ほか
[著書]
⃝金藤正直「第7章 環境管理会計の体系と国際的動向」河野正男・八木裕之・千葉貴律 編著『生態会計への招待-サステ
ナビリティ社会のための会計-』森山書店、2010年3月、111-132頁。
[論文]
⃝金藤正直「バイオマス政策・事業評価システムの構築方法」『人文社会論叢(社会科学篇)』第23号(2010年2月)、111125頁。
⃝金藤正直・八木裕之「青森県中南地域のバイオマス事業を対象とした環境会計モデルの構想」『横浜経営研究』 Vol.31No.1
(2010年6月)、1-16頁。
[研究ノート、報告書、その他]
⃝金藤正直「問題17 品質管理会計《理論編》・《計算編》、解答・解説」山本浩二・小倉昇・尾畑裕・小菅正伸・中村博之
編『スタンダードテキスト 管理会計論 問題演習編』中央経済社、2010年、76-79頁、196-199頁。
⑶研究発表・講演
⃝Hiroyuki.Y, O.Akira,and K.Masanao, “Sustainability Accounting for Biomass: Towards a Management of Forest Biomass
Stocks and Flows within Regions,” 22ND INTERNATIONAL CONGRESS ON SOCIAL AND ENVIRONMENTAL
ACCOUNTING RESEARCH(CSEAR),13TH EMAN CONFERENCE ON ENVIRONMENTAL AND SUSTAINABILITY
MANAGEMENT ACCOUNTING, University of St. Andrews, September 2, 2010.
⃝丸山佳久、金藤正直、緒方秀樹、八木裕之「木材フローを対象とするサプライチェーン原価計算モデルの構想-兵庫県の丹
波市森林組合における伐採・搬出を事例として-」環境経済・政策学会2010年大会(於:名古屋大学)、2010年9月。
⃝丸山佳久、金藤正直、緒方秀樹、八木裕之「森林・林業における原価計算の導入・実施を通じた経営改善の方法-兵庫県・
丹波市森林組合における伐採・搬出を事例として-」林業経済学会2010年秋季大会(於:鹿児島大学)、2010年11月。
⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動
⃝セントアンドリュース大学で2010年9月1日~3日まで開催された環境会計関連の国際学会「22ND INTERNATIONAL
CONGRESS ON SOCIAL AND ENVIRONMENTAL ACCOUNTING RESEARCH(CSEAR), 13TH EMAN
CONFERENCE ON ENVIRONMENTAL AND SUSTAINABILITY MANAGEMENT ACCOUNTING」での報告と参加
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
⃝環境省:地球環境研究総合推進費『バイオマスを高度に利用する社会技術システム構築に関する研究(研究代表者:仲勇治
(東京工業大学教授))』2008年度~2010年度。
⃝文部科学省:科学研究費補助金若手研究(B)『森林の機能・価値を考慮した木質バイオマス事業評価システムの構築方法
(研究代表者:金藤正直(弘前大学准教授))』2009年度~2011年度。
⑺共同研究
⃝日本会計研究学会スタディグループ『情報ニーズの拡張と管理会計の変容(研究代表者:中村博之(横浜国立大学教授))』
2010年度~2011年度。
岩 田 一 哲
⑴現在の研究テーマ
⃝コンピテンシー、過労死・過労自殺、(社会的)起業家の能力
⑵著書・論文ほか
[論文]
⃝「過労死・過労自殺の心理的要因と職務状況との関係」『労務理論学会誌』第19号(現代日本の働き方を問う-規制緩和化
の労働と生活-)pp.151-164。
⑶研究発表・講演
105
⃝「戦略変化に適応できる従業員の能力に関する考察-起業家のコンピテンシーに着目して-」『2010年度日本経営学会第84
回大会』(於:石巻専修大学)
⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動
[招待報告]
⃝「社会的企業の定義と概念に関する整理-地域雇用政策との関連から-」『慶北大学人文社会科学ビジネス研究学科フォー
ラム』(於:慶北大学)
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
⃝「過労死・過労自殺を導く要因の探求-青森県と都市部との相違点の分析から-」『弘前大学若手研究者支援事業』
高 島 克 史
⑴現在の研究テーマ
⃝ベンチャー企業の経営戦略
⃝strategy as practice
⑵著書・論文ほか
[研究ノート、報告書、その他]
⃝グローバル経営研究室・経営管理研究室編(2010)『地域への提言』
⃝弘前大学人文学部 弘前城築城400年プロジェクト編(2010)『築城400年を契機とする弘前市の歴史・文化・経済の振興プ
ロジェクト 2009年度調査報告書 全国の築城400年祭』
⑶研究発表・講演
⃝「産業クラスターの形成」弘前大学連続講演会、むつ市、2010年9月9日
⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動
⃝「教育研究高度化のための支援体制整備事業」2010年3月21日~29日,スウェーデン
○経済システム講座
鈴 木 和 雄
⑴現在の研究テーマ
⃝資本蓄積論,労働過程論
⑵著書・論文ほか
[論文]
⃝鈴木和雄「接客労働の3極関係」『経済理論』(経済理論学会)第47巻第3号, 2010年10月20日, 36-46頁。
⑶研究発表・講演
⃝鈴木和雄「接客サ-ビス労働過程論の展望」「フェミニスト経済学の可能性―理論・思想・射程―」研究会, お茶の水女子
大学ジェンダ-研究センタ-, 2009年12月19日。
⑻弘前大学人文学部主催の学会・研究会など
⃝弘前大学経済学会第35回大会, 2010年10月30日。
池 田 憲 隆
⑴現在の研究テーマ
⃝近代日本の軍備拡張と財政政策
⃝近代日本の艦船国産化をめぐる諸問題
⑵著書・論文ほか
[論文]
⃝池田憲隆「日清戦争直前期における海軍軍備拡張計画と海軍省費-1890-1893-」『人文社会論叢』(社会科学篇)第24号、
2010年8月、93-107頁
⑷学外集中講義
⃝弘前大学ドリーム講座「世にも不思議なお金の話」於:青森北高等学校、2010年10月26日
黄 孝 春
⑴現在の研究テーマ
⃝青森産りんごの台湾輸出について
106
⃝りんご産業におけるピンクレディーシステム(会員制)の実態
⑵著書・論文ほか
⃝海外りんご事情①②③、『林檎商組日報』2010年3月10日、13日、16日連載。
⃝農林水産省補助事業「平成21年度の農林水産物等輸出課題対策」調査報告書『ピンクレディー輸出戦略に学ぶ』平成22年3
月、第1章、5章、6章を執筆。
⃝リンゴ「ピンクレディーのクラブ制」『日本農業新聞』2010年8月14日。
⑶研究発表・講演
⃝2010年2月18日 弘前大学りんご振興研究センター主催第12回リンゴトークにおいて「青森りんごの台湾輸出:歴史と現
状」を発表。
⃝2010年2月19日 農林水産省補助事業「平成21年度の農林水産物等輸出課題対策」産地研究会において「青森りんご産業に
おけるクラブ制の導入を目指して」を発表。
⃝2010年10月29日 弘前大学りんご振興研究センター主催第14回リンゴトークにおいてカーペンター先生との共同で「アメリ
カワシントン州のりんご事情-クラブ制を中心に-」を発表。
⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動
⃝2009年12月24日-28日 台北市で青森産りんごの台湾輸出に関する現地調査
⃝2010年1月31日-2月6日 青森県農水産物輸出促進協議会主催 青森産リンゴの中国輸出事情視察
⃝2010年9月11日-20日 中国北京で開催される農業合作社国際シンポジウムに出席
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
⃝科学研究費補助金:挑戦的萌芽研究(H21~H22)、台湾市場における青森リンゴブランドの定着プロセスに関する調査研
究(研究代表者:カーペンター)に研究分担者として参加
⃝科学研究費補助金:基盤研究(B)(海外学術調査)(H22~H24)ピンクレディー・システムに関する総合的調査研究(研
究代表者:V.Lカーペンター)に研究分担者として参加
⑺共同研究
⃝農学生命学部りんご振興研究センターが主催されるセミナー、研究会に参加
細 矢 浩 志
⑴現在の研究テーマ
⃝EU統合下の欧州自動車産業の展開動向について
⑵著書・論文ほか
[論文]
⃝「EU域内の直接投資と生産ネットワークの変貌」高屋定美編『EU経済』ミネルヴァ書房(第8章),2010年4月
⃝「グローバル競争の激化と欧州自動車産業の新展開」田中素香編『世界経済・金融危機とヨーロッパ』勁草書房(第11
章)、2010年9月
[研究ノート、報告書、その他]
⃝報告書「EUの統計分類共通化から何を学ぶか」『東アジア機械関連統計の特性整理ならびにNAFTA、EU統計との比較』
機械工業経済研究報告書H21-2-2A(第5章3-1、分担執筆)、2010年3月
⑷学外集中講義
⃝山形大学人文学部「経済政策論(後期)」2010年1月
⃝山形大学人文学部「経済政策論(前期)」2010年9月
笠 原 幹
山 本 康 裕
⑴現在の研究テーマ
⃝金融機関の合併が金融政策に与える影響
⃝長期資金と経済成長
⑵著書・論文ほか
[論文]
⃝山本康裕(2010)「長期資金と技術進歩の関係 -財務データによるパネル分析―」『人文社会論叢 社会科学篇』弘前大
学人文学部、第23号、pp.127-144
⑶研究発表・講演
⃝山本康裕(2010)「銀行業の寡占化は金融政策にいかなる影響をもたらすか?」日本経済学会2010年度秋季大会、2010年9
月19日 関西学院大学西宮上ヶ原キャンパス
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
107
⃝平成22年度 基盤研究費(C)研究課題名
「銀行業の寡占化は如何に銀行貸出額を変させ金融政策にいかなる影響を与えるか」
福 田 進 治
⑴現在の研究テーマ
⃝リカードの経済理論の研究
⑵著書・論文ほか
[研究ノート]
⃝「ケインズの「流動性のわな」」『人文社会論叢 社会科学編』第23号、185-196頁、2010年2月28日刊行
[その他]
⃝「近年の消費者問題をめぐる動き」『青森県消費者問題研究会設立二十周年記念誌』31頁、2010年9月25日刊行
⑶研究発表・講演
[研究発表]
⃝「リカードとケインズ-「流動性の罠」に関連して-」第26回経済思想研究会、青森・弘前学院大学、2010年4月25日
[討論]
⃝「Harriet Martineau and Industrial Strife: from Theory into Fiction into Melodorama」(報告者 John Vint)、第19回リ
カードウ研究会、東京・明治大学、2010年3月12日
⃝「リカードウにおける労働需要の決定要因」(報告者 石井 穣)、第74回経済学史学会大会、富山・富山大学、2010年5
月22日~23日
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
⃝科学研究費補助金 基盤研究(A)「リカードウが経済学に与えた影響とその現代的意義の総合的研究」(課題番号
22243019 平成22-26年度 研究代表者 出雲雅志)
⃝同上 基盤研究(B)「経済思想の受容・浸透過程に関する実証研究:人々はどのように経済学を受け入れたか」(課題番
号22330064 平成22-26年度 研究代表者 下平裕之)
⃝同上 基盤研究(C)「日本のリカード研究と欧米のリカード研究の比較検討」(課題番号22530193 平成22-26年度 研究
代表者 福田進治)
⑻弘前大学人文学部主催の学会・研究会など
・第31回経済学史学会東北部会例会、青森・弘前学院大学、2010年4月24日
小谷田 文 彦
⑴現在の研究テーマ
⃝GravityモデルCGE モデルによる地域政策の実証研究
⃝伝統工芸品産業と地域活性化に関する研究
⑵著書・論文ほか
[論文]
⃝小谷田文彦、泉田成美(2010)「CGE モテルにおける政策評価の現実妥当性について」東北経済学会誌(東北経済学会)、
39頁~44頁。
⑶研究発表・講演
⃝Fumihiko KOYATA “The potential of the local innovation by the traditional-handicrafts industry in Japanese rural area.”
3rd Conference of the Nordic Section of the Regional Studies Association, June 21-23, 2010 Seinäjoki, Finland
⃝小谷田文彦「日本の伝統工芸産業に関する公的部門の支援政策について」日本と韓国の地域活性化と雇用政策(2010年11月
12日)於慶北大学校、韓国(大邱市)
⃝小谷田文彦「地域政策の経済分析:フィンランドの事例を参考に」第34回弘前大学経済学会(2010年10月30日)於弘前大学
⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動
⃝2010年1月17日~24日 フィンランド共和国
⃝2010年3月21日~29日 スウェーデン公国
⃝2010年6月18日~26日 フィンランド共和国
⃝2010年10月12日~16日 フィンランド共和国
⃝2010年10月17日~24日 ポーランド共和国
⃝2010年11月10日~14日 大韓民国
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
⃝CGEモデル、Gravityモデルによる我が国の自由貿易政策の再検討(平成22年度から24年度、基盤研究C、22530213)
108
飯 島 裕 胤
⑴現在の研究テーマ
⃝企業買収の経済分析
⑵著書・論文ほか
[論文]
⃝飯島裕胤(2009) 「買収防衛的な第三者割当増資と株主利益」 『弘前大学経済研究』 32, 1-18
⃝Hirotsugu Iijima (2010) ``Entrenchment, Team Incentives and Pressure from Shareholders: Explanation of the
Adoption or Abandonment of Takeover Defenses’’ 『弘前大学人文社会論叢』 23, 145-162
⃝飯島裕胤、家田崇(2010) 「企業買収ルールと少数株主利益」 『甲南会計研究』 4, 23-30
⑶研究発表・講演
⃝飯島裕胤、家田崇 「企業買収ルールと少数株主利益」日本応用経済学会、西南学院大学、2010年6月
⃝飯島裕胤「『法の経済分析』の考え方:企業買収での部分買付問題を例として」弘前大学経済学会、弘前大学、2010年10月
李 永 俊
⑴現在の研究テーマ
⃝若年者の雇用問題 ⃝地域間労働移動問題 ⃝地域の雇用問題
⑵著書・論文ほか
[論文]
⃝李永俊(2010)「北東北三県の失業構造」『グローバル下の北東北地域~地域経済・財政・住民福祉の現状~』神田健策・
井上博夫編著、弘前大学出版会、103-122頁。
⃝李永俊・杉浦裕晃(2010)「学卒時の労働市場需給はどのように現在の就業状況に影響を及ぼすか」青森公立大学 Discussion Paper No. 38。
[研究ノート、報告書、その他]
⃝Lee Youngjun and Hiroaki Sugiura(2010) An Analysis of Determinative Factors of Regional Migration NORSA(the
Nordic Section ofthe Regional Studies Association)2010,Seinajoki, Finland.
⃝李永俊(2010)「青森県の雇用政策の現状と評価」『韓国と日本の地域雇用政策』、大邱慶北雇用人的資源フォーラム。
⃝連載「雇用」東奥日報(2010年5月5・7日)
⃝連載「日曜随想」陸奥新報(2010年5月2日、6月6日、7月11日、8月15日、9月19日、10月24日、11月18日)
⑶研究発表・講演
⃝李永俊・杉浦裕晃(2010)「学卒時の労働市場需給はどのように現在の就業状況に影響を及ぼすか」、日本経済学会2010年
度秋季大会、2010年9月18~19日、於関西学院大学
⃝Lee Youngjun and Hiroaki Sugiura(2010) An Analysis of Determinative Factors of Regional Migration, The Search:
Future dynamicsof regional development, NORSA2010, 2010.6.
⃝李永俊(2010)「青森県の雇用政策の現状と評価」『韓国と日本の地域雇用政策』、大邱慶北雇用人的資源フォーラム、
2010年7月2日、於韓国大邱市
⃝李永俊・杉浦裕晃(2010)「地域間労働移動の決定要因分析-都市と農村間の循環的労働移動の決定要因について-」『韓
国と日本の地域活性化と雇用政策』、2010年11月12日、於慶北大学校サンジュキャンパス。
⃝「青森県の課題とその解決に向けて」『非正規雇用を考えるシンポジウム』、青森県・青森県労働協会主催、2010年11月4
日、24日、25日、於青森市、弘前市、八戸市
⃝「北東北三県の労働市場」北海道・東北地域協議会東北北部三県労務管理研修会、2010年9月17日、於青森国際ホテル(社
会保険労務士研修会)
⃝「職業人としての現代の若者気質」平成22年度青森県高等学校教育研究会「看護部会」研究大会、2010年8月18日於青森市
県民福祉プラザ
⑺共同研究
⃝「労働移動から考える地域間雇用格差」弘前大学雇用政策研究センター内共同研究
⃝「新しい時代の地域雇用政策」弘前大学雇用政策研究センター内共同研究
○公共政策講座
村 松 惠 二
⑴現在の研究テーマ
⃝ヨーロッパ「極右」のイデオロギーと心理
⑵著書・論文ほか
109
[論文]
⃝「ナショナルな価値と普遍的価値」田中浩編集『ナショナリズムとデモクラシー』、未来社、2010年3月
⃝「極右概念の再検討」青森法学会『青森法政論叢』、第11号、2010年8月
山 下 祐 介
⑴現在の研究テーマ
⃝社会学(地域社会学・農村社会学・都市社会学・環境社会学・災害社会学・社会理論)
⑵著書・論文ほか
[論文・論説・事典など]
⃝「太宰治の中の社会と個人~官立弘前高校時代の資料の紹介を含めて」『津軽学』第5号、30-33頁、津軽に学ぶ会、2009
年12月。
⃝「都市の発展~青森 三内丸山からコンパクトシティ、そして新幹線開通まで」『津軽学』第5号、130-139頁、津軽に学
ぶ会、2009年12月。
⃝「地域公共交通をめぐる社会実験と住民参加――青森県津軽地域の事例をもとに」『運輸と経済』、第69巻12号、財団法人
運輸調査局、48-58頁、2009年12月。
⃝「災害福祉コミュニティ」「地方都市の衰退と再生」、2010年6月、日本社会学会・社会学事典刊行委員会編『社会学事
典』、丸善、2010年6月。
⃝「鈴木榮太郎『都市社会学原理』結節機関説の導出と青森調査――県内機関、弘前駅、西目屋村の五十年後」『人文社会論
叢』(人文科学篇)、弘前大学人文学部、第24号、17-58頁、2010年8月。
⃝「戦後日本社会の世代と移動――過疎/過密の生成と帰結――(特集 世代と移動の都市社会学)」、日本都市社会学会編
『日本都市社会学会年報』28号、日本都市社会学会、1-25頁、2010年9月。
⃝「公共問題への住民参加はなぜむずかしいか――地域公共交通をめぐる生活リスクの問題から」『公営企業』2010年10月
号、財団法人 地方財務協会、11-21頁、2010年10月。
⃝「自然災害」、環境総合年表編集委員会編『環境総合年表―日本と世界―』、すいれん舎、364-366頁、2010年11月。
⃝「技法を選ぶ」、谷富夫・山本努編『よくわかる質的社会調査 プロセス編』、ミネルヴァ書房、82-97頁、2010年11月。
[報告書、その他]
⃝『弥生いこいの広場隣接跡地利活用方策検討事業報告書』弘前大学人文学部・弘前市、2009年10月。
⃝『地区住民による地区住民のための公共交通マネジメントの持続的展開――青森県平川市新屋地区における実践――エリア
マネジメント推進調査報告書』2010年3月、特定非営利活動法人ひらかわマイバスの会、青森県平川市新屋町会、弘前大学
人文学部社会学研究室。
⃝『鰺ヶ沢町 集落再生のための条件(内部的・外部的)調査報告書~ふるさとがなくなる?~』、鰺ヶ沢町、弘前大学人文
学部社会学研究室、2010年3月。
⃝「書評 相川良彦『少子高齢化と農村』筑波書房」、『農業と経済』vol.76、No.3、97頁、昭和堂、2010年3月。
⃝「神戸各区災害志願者的状況」(王一平訳、共著)、2010年3月、北京日本学研究中心・神戸大学編『日本阪神大地震研
究』北京大学出版社、59―66頁。
⑶研究発表・講演
⃝「青森県ふるさと再生セミナー」2010年2月12―13日、平川市市民文化センター、平川市、弘前大学人文学部社会学研究
室。
⃝「公共社会学の構想について」、西日本社会学会68回大会シンポジウム「公共社会学の構想」、コメンテーター、西日本社
会学会、於福岡県立大学、2010年5月。
⃝「岩木山麓の変遷と岩木川中流部 津軽の村と開発~旧船沢村と弥生開拓、リゾート開発跡地から~」、2010年8月、平成
22年度社会科地域教材開発講座、青森県総合学校教育センター。
⃝「津軽黒石 旧山形村を馬車でめぐる(その1) 火流しの里・落人伝説・マタギの村 大川原」、2010年8月、津軽伝承
工芸館・山のおもしえ学校。
⃝「限界集落のリスクマネージメント――世代論から考える都市・農村関係の再構築――」、2010年度東北都市学会大会、於
コラボ弘大(弘前大学創立60周年記念記念会館、八甲田ホール)、公開シンポジウム「マネジメントを科学する」2010年9
月。
⃝「危機に対する共助と地域コミュニティを考える」、財)日本防火・危機管理促進協会、2010年10月29日、日本消防会館5
階 大会議室、平成22年度研究会第2回「NPO・ボランティアの可能性と課題」。
⑺共同研究
⃝岩木川・馬淵川・白神山地に関する研究
国土交通省馬淵川学識経験者懇談会委員
国土交通省岩木川河川整備員会委員
青森県環境審議会委員
⃝青森県の過疎問題・交通問題に関する研究
110
平川市公共交通協議会委員
NPO法人ひらかわマイバスの会理事
NPO法人白神共生機構代表 ほか
児 山 正 史
⑴現在の研究テーマ
⃝地方自治体の行政評価・政策評価と総合計画
⃝公共サービスの市場(準市場)
⑵著書・論文ほか
[論文]
⃝「岩手県滝沢村の住民ニーズ調査と総合計画策定―自治体行政における社会指標型ベンチマーキングの活用―」、『人文社
会論叢(社会科学篇)』、第23号、163-173頁
山 口 恵 子
⑴現在の研究テーマ
⃝都市の貧困と社会的排除に関する社会学的研究
⃝地方都市における仕事と地域移動の変容に関する研究
⑵著書・論文ほか
[研究ノート]
⃝山口恵子、2010、「統計にみる青森県の女性出稼ぎの動向」『人文社会論叢(社会科学編)』23号:209-219頁
[書評]
⃝山口恵子、2010、「武田尚子・文貞實『温泉リゾートスタディーズ』」『寄せ場』23号: 144-150頁
[その他]
⃝山口恵子、2010、「『自立支援法』以降の野宿者問題―特集にあたって」『解放社会学研究』22号:9―11頁
⑶研究発表・講演
⃝Keiko Yamaguchi, Difficulty and Adaptation of Migrant Youth in Japan, July 17, 2010, ISA XVII World Congress of
Sociology, Göteborg.
⃝Yuko Sugiyama, Ichiyo Habuchi and Keiko Yamaguchi, The Modernization Process and Life Course in Tsugaru Area,
March 2, 2010, Seminar Hirosaki University Presentations, Universtiy of Helsinki Ruralia Institute, Seinäjoki. (第Ⅰ部を担
当)
⃝山口恵子、「都市の流動層と貧困化」、第28回日本都市社会学会大会・テーマ部会「大都市における貧困の現在」、2010年
9月11日、日本大学文理学部
⑷学外集中講義
⃝放送大学教養学部2009年度第2学期面接授業、「都市と貧困を考える」、2009年12月5~6日
⃝弘前大学特別講義・りんご王国こうぎょくカレッジ(ラジオ)、「わたしたちのセクシュアリティ」、2010年5月放送
⃝弘前大学ドリーム講座「『ホームレス』とは誰か」、2010年8月25日、野辺地高等学校
⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動
⃝フィンランド 2010年2月25日~3月5日(セイナヨキの産業・労働の視察とルーラリア研究所における研究発表・交流)
⃝スウェーデン 2010年7月8日~20日(ISA XVII World Congress of Sociology, Göteborg への参加と報告)
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
⃝科学研究費補助金(基盤研究C)「若者の地域移動と貧困化に関する社会学的研究」(研究代表)
⑺共同研究
⃝「若者と移動研究会」弘前大学人文学部内外教官
⑻弘前大学人文学部主催の学会・研究会など
⃝「弘大ドキュメンタリー映画祭」実行委員会・コーディネーター(学部長裁量経費により学生が企画した映画祭のコーディ
ネート)
平 野 潔
⑴現在の研究テーマ
⃝過失犯における注意義務概念
⃝刑法における情報の保護
⃝裁判員裁判における量刑判断
⑵著書・論文ほか
111
[論文]
⃝「過失犯における客観的注意義務と客観予見可能性」『刑法雑誌』49巻2=3号(日本刑法学会、2010年3月1日)125-138頁
⃝「青森県における裁判員裁判―量刑判断を中心に―」『人文社会論叢 社会科学篇』24号(弘前大学人文学部、2010年8月31
日)109-131頁
⑶研究発表・講演
[講演]
⃝「子どもと少年法を考える」弘前大学公開講座子どもの育ちに大人はどう向き合うのか(2010年11月19日、於:三沢市公会
堂3階第8集会室)
[報告]
⃝「青森県の裁判員裁判と学生傍聴活動」シンポジウム裁判員裁判の体験(2010年10月23日、於:人文学部多目的ホール)
⑻弘前大学人文学部主催の学会・研究会など
⃝シンポジウム「裁判員裁判の体験」(2010年10月23日、於:人文学部多目的ホール)(運営)
飯 考 行
⑴現在の研究テーマ
⃝北海道と東北地方の法実務と法化
⃝裁判員裁判の実態研究と教育への活用
⃝弁護士の業務とキャリアパス
⃝司法書士および法律隣接職の沿革と職域
⃝裁判官の任用と業務
⃝司法の福祉・治療的機能、QOL向上のための法政策
⃝ベトナムの裁判統制制度
⑵著書・論文ほか
[論文]
⃝飯考行「非行少年自立支援『学生ボランティア』の行動規範」司法福祉学研究10号122-139頁(2010年7月)
⃝飯考行「裁判員裁判の更生、治癒効果に関する試論」人文社会論叢(社会科学篇)24号133-151頁(2010年8月)
⃝Takayuki Ii, Japanese Way of Judicial Appointment and Its Impact on Judicial Review, 5(2) National Taiwan University
Law Review, 73-111(2010年9月)
[研究ノート、報告書、その他]
⃝弘前大学人文学部裁判法ゼミナール2009年度司法調査報告書『みちのく司法通信』(監修)(2010年3月)
⃝飯考行「社会と法-法律相談にみる社会のなかの法の役割」法学セミナー665号15頁(2010年4月)
⃝飯考行「司法制度改革10年の到達点と課題(1)(2)」WEB市民の司法(2010年6月14、21日)
⑶研究発表・講演
[研究発表]
⃝Takayuki Ii, “Weighing Attorney against Judge: Why Are There Few Judicial Appointments of Attorneys in Japan?”,
Inaugural East Asian Law and Society Conference in Hong Kong(2010年2月6日、香港大学)
⃝Takayuki Ii, “Stated Barriers to Access to Justice in Japan: Their Collapse and Persistence in Judicial Reform”, Fourth
International Seminar on the Dynamics of Law and Society in Europe and Japan “Legal Reform and the Role of the
Judiciary: Revisiting Japanese Exceptionalism from a European Perspective”, at the Katholiekte Universiteit Leuven,
Belgium(2010年3月20日、カトリックルーヴァン大学)
⃝飯考行「地域司法の視点から見た裁判員裁判」民主主義科学者協会法律部会春合宿研究会(若手交流会)(2010年3月25
日)
⃝飯考行「地域から見た裁判員裁判-青森県の事例を交えて」日本法社会学会2010年度学術大会(ミニシンポジウム「地域司
法と裁判員裁判」)(2010年5月8日、同志社大学)
⃝Takayuki Ii, Reformative and Therapeutic Effect of the Saiban-in Trial, Law and Society Association, 2010 Annual
Meeting in Chicago, U.S.A(2010年5月29日、シカゴルネッサンスホテル)
⃝飯考行「裁判員を「よい経験」と感じるのはなぜか」シンポジウム「裁判員裁判の体験」(2010年10月23日、弘前大学)
⃝Takayuki Ii and Kay-Wah Chan, “Justice System Reform and Judicial Scriveners in Japan: An Analysis of the Actual
Situation in North-Tohoku Region”, Gold Coast Conference on Japanese Law(2010年11月15日、ボンド大学)
[講演]
⃝飯考行「裁判員裁判と死刑に関する制度と動向」アムネスティ・弘前グループ学習会(2010年10月17日)
[パネリスト]
⃝日本弁護士連合会裁判官制度改革・地域司法計画推進本部「裁判官の選任のあり方を考えるパネル討論会」(2010年9月21
日、弁護士会館)
[コーディネーター]
⃝ミニシンポジウム「地域司法と裁判員裁判」日本法社会学会2010年度学術大会(2010年5月8日、同志社大学)
112
⃝座談会「裁判員裁判の体験」シンポジウム「裁判員裁判の体験」(2010年10月23日、弘前大学)
⃝パネルディスカッション「青森県のQOLと労働法政策」シンポジウム「青森県のQOLと労働法政策」(2010年11月6日、弘
前大学)
⑷学外集中講義
⃝青森県立黒石高等学校専攻科看護科後期集中講義「健康支援と社会保障制度(看護関係法令)」担当(2009年10-12月)
⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動
⃝香港(香港、2010年2月4-8日):Inaugural East Asian Law and Society Conference in Hong Kong(香港大学)への参
加・報告
⃝ベルギー(ルーヴァン、2010年3月18-23日):Fourth International Seminar on the Dynamics of Law and Society in
Europe and Japan “Legal Reform and the Role of the Judiciary: Revisiting Japanese Exceptionalism from a European
Perspective”(ルーヴァンカトリック大学)への参加・報告
⃝アメリカ合衆国(シカゴ、2010年5月26日-6月1日): Law and Society Association, 2010 Annual Meeting(シカゴルネッ
サンスホテル)への参加・報告
⃝オーストラリア(ゴールドコースト、シドニー、ウォーナンブール、メルボルン、2010年11月14-22日):Gold Coast
Conference on Japanese Law(ボンド大学)への参加・報告、National Rural Regional Law and Justice Conference(ディー
キン大学)への参加、法律サービス現地調査
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
⃝平成19-21年度科学研究費補助金若手研究(B)「東北地方の法律サービス提供構造に見る司法改革の影響と『法化』状況」
(研究代表)
⃝平成21年度弘前大学人文学部長裁量経費「連続講演会・シンポジウム 裁判員制度と世界の司法動向―市民の司法参加の意
義を考える―」(飯考行、平野潔、長谷河亜希子)
⃝平成21年度弘前大学若手研究者支援事業研究「裁判員制度の円滑な実施に向けたサポートシステムの検討」(研究代表)
⃝平成20-22年度科学研究費補助金基盤研究(A)「ポスト『ゼロ・ワン』時代の司法過疎対策の研究」(研究分担)
⃝平成22-24年度科学研究費補助金若手研究(B)「北日本の法律サービス提供構造に見る司法改革の影響と『法化』状況」
(研究代表)
⃝平成22-25年度科学研究費補助金基盤研究(A)「中国、ベトナム、ロシアおよび中央アジア諸国の裁判統制制度に関する比
較総合研究」(連携研究)
⃝平成22-26年度科学研究費補助金基盤研究(A)「法科大学院修了弁護士のキャリア規定要因に関する追跡研究」(連携研
究)
⃝平成22年度弘前大学人文学部長裁量経費「青森県のQOL向上のための労働・福祉法政策研究」(飯考行、李永俊、長谷河亜
希子)
⃝平成22年度弘前大学教育改革プロジェクト・弘前大学GP「裁判員教育から創る!学士力と社会貢献能力」(飯考行、宮崎秀
一、平野潔)
⑺共同研究
⃝日本弁護士連合会「2010年弁護士業務の経済的基盤に関する実態調査」メンバー
⑻弘前大学人文学部主催の学会・研究会など
⃝シンポジウム「裁判員裁判の体験」(弘前大学人文学部棟4階多目的ルーム、2010年10月23日)企画
⃝シンポジウム「青森県のQOLと労働法政策」(弘前大学人文学部棟4階視聴覚ルーム、2010年11月6日)企画
⃝浅利有里(青森県司法書士会)講演会(弘前大学総合教育棟319号室、2010年11月30日)企画
長谷河 亜希子
⑴現在の研究テーマ
⃝経済法、独占禁止法、フランチャイズ・システムの法規制
⑵著書・論文ほか
[論文]
⃝「米国のフランチャイズ法制と日本の課題」経済174号129-134頁。(2010年3月)
⃝「フランチャイズ・システムと優越的地位の濫用(1)」公正取引721号9-13頁(2010年11月)
[研究ノート、報告書、その他]
⃝「経済法判例研究会 第137回 官製談合における「意思の連絡」の立証-郵便区分機入札談合事件差戻審判決」ジュリスト
1392号185-188頁(2010年1月)
⃝「26 基本合意の「相互拘束」該当性」舟田ほか編『経済法判例・審決百選(別冊ジュリスト199号)』54~55頁(2010年4
月)
⃝「セブン-イレブンに対する排除措置命令について」速報判例解説編集委員会編『法学セミナー増刊 判例速報解説vol.6』
293~296頁(2010年4月)
⑶研究発表・講演
⃝「グローバル資本主義と経済法」民主主義科学者協会法律部会学術総会『同時代の世界と実定法学-21世紀の法分析の新た
113
な地平」(東京慈恵医科大学国領キャンパス:2010年11月21日)
⑸海外出張・研修、そのほかの海外での活動
⃝「ソウル大学・早稲田大学合同ゼミナール」2010年11月24-28日、韓国(ソウル)
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金など
⃝文部科学省科学研究費(若手研究B)「米国のLittle FTC Actsとフランチャイズ規制」(課題番号22730044)
日 野 辰 哉
⑴現在の研究テーマ
⃝行政訴訟における集合的利益の法的構成
⃝経済行政における「危険」の法構造
⃝科学技術の発展にともなうリスクの発生と行政による制御
⃝Maurice Hauriouのinstitution論をめぐる独仏公法学の交錯
⑵著書・論文
[著書]
⃝日野辰哉「経済行政における公的規制のあり方-競争促進と安全確保の行政手法-」岡田正則・首藤重幸編『経済行政法の理
論』(日本評論社、2010年)pp.33~55
⃝日野辰哉「指揮監督権」など『確認行政法用語 230』(成文堂、2010年)pp.11~13, pp.29~30,p.44
[論文]
⃝日野辰哉「要件裁量・法解釈・性質決定」法学教室360号(2010年)pp.11~15
⑶研究発表・講演
⃝「法律、法、法学」(2010年、青森南高校)
⑹科学研究費補助金、そのほかの競争的研究資金
⃝平成21年度 弘前大学若手研究者支援事業「EUにおける公共サービス市場の活用と市民の社会的・経済的権利の調整法理の
研究」(研究代表)
114
弘前大学人文学部紀要『人文社会論叢』の刊行及び編集要項
平成23年1月19日教授会承認
この要項は,弘前大学人文学部紀要『人文社会論叢』(以下「紀要」という。)の刊行及び編集に
関して定めるものである。
1 紀要は,弘前大学人文学部(以下「本学部」という。)で行われた研究の成果を公表することを
目的に刊行する。
2 発行は原則として,各年度の8月及び2月の年2回とする。
3 原稿の著者には,原則として,本学部の常勤教員が含まれていなければならない。
4 掲載順序など編集に関することは,すべて社会連携委員会が決定する。
5 紀要本体の表紙,裏表紙,目次,奥付,別刷りの表紙,研究活動報告については,様式を社会連
携委員会が決定する。また,これらの内容を社会連携委員会が変更することがある。
6 投稿者は,社会連携委員会が告知する「原稿募集のお知らせ」に記された執筆要領に従って原稿
を作成し,投稿しなければならない。「原稿募集のお知らせ」の細目は社会連携委員会が決定す
る。
7 論文等の校正は著者が行い,3校までとし,誤字及び脱字の修正に留める。
8 別刷りを希望する場合は,投稿の際に必要部数を申し出なければならない。なお,経費は著者の
負担とする。
9 紀要に掲載された論文等の著作権はその著者に帰属する。ただし,社会連携委員会は,掲載され
た論文等を電子データ化し,本学部ホームページ等で公開することができるものとする。
10 紀要本体及び別刷りに関して,この要項に定められていない事項については,著者が原稿を投稿
する前に社会連携委員会に申し出て,協議すること。
附 記
この要項は,平成23年1月19日から実施する。
執筆者紹介
柴 田 英 樹(ビジネスマネジメント講座/会計監査論・環境会計論)
金 藤 正 直(ビジネスマネジメント講座/会計学)
丸 山 佳 久(広島修道大学/環境会計論)
髙 島 克 史(ビジネスマネジメント講座/経営管理)
児 山 正 史(公共政策講座/行政学)
山 口 恵 子(公共政策講座/社会学)
編集委員(五十音順)
◎委員長
◎足 達 薫
内 海 淳
笠 原 幹
木 村 純 二
児 山 正 史
澤 田 真 一
髙 島 克 史
田 中 一 隆
人文社会論叢(社会科学篇)
第 25 号
2011 年2月 28 日
編 集 社会連携委員会
発 行 弘前大学人文学部
036―8560 弘前市文京町1番町
http://human.cc.hirosaki-u.ac.jp/
印 刷 ワタナベサービス株式会社
030―0803 青森市安方2―17―3
Studies in the
Humanities
SOCIAL SCIENCES
Number25
SHIBATA Hideki………………… Audit Procedures for Fraud Audit… ……………………………………………………1
KANETOH Masanao, and MARUYAMA Yoshihisa … The Cost Accounting Model for
Forestry Policies in Tanba, Hyogo Prefecture… ……………………………………
15
TAKASHIMA Katsushi… ……… The Shaping of Industrial Cluster from the viewpoint of
civic entrepreneur … ……………………………………………………………………
37
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Faculty of Humanities
Hirosaki University
Hirosaki, Japan
ISSN1345-0255
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