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脳血管障害、腎機能障害、末梢血管障害を 合併した心

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脳血管障害、腎機能障害、末梢血管障害を 合併した心
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006 − 2007 年度合同研究班報告)
脳血管障害、腎機能障害、末梢血管障害を
合併した心疾患の管理に関するガイドライン
Guidelines for the management of cardiac diseases complicated with cerebrovascular disease, chronic kidney disease, or peripheral vascular disease.(JCS 2008)
合同研究班参加学会:日本循環器学会,日本血管外科学会,日本血栓止血学会,日本高血圧学会,日本小児腎臓病学会,
日本神経学会,日本心臓血管外科学会,日本心臓病学会,日本腎臓学会,日本透析医学会,
日本脳卒中学会,日本脈管学会,日本臨床腎移植学会,日本老年医学会
班 長 堀 正
二 大阪府立成人病センター
班 員 伊
藤
貞
嘉 東北大学大学院医学系研究科 腎・高
稲
葉
雅
岩
井
武
協力員 飯
野
則
昭 新潟大学大学院医歯学総合研究科機
章 大阪市立大学大学院医学研究科
石
橋
宏
之 愛知医科大学血管外科
尚 東京医科歯科大学大学院外科・血管外科
井
上
芳
徳 東京医科歯科大学大学院歯学総合研
井
林
雪
郎 福岡誠愛リハビリテーション病院
今
井
圓
裕 大阪大学大学院医学系研究科老年・
大
津
欣
也 大阪大学大学院医学系研究科循環器内科学
岡
田 靖 九州医療センター脳血管内科
小
田
彦 小田内科
血圧・内分泌学分野
内 山 真一郎 東京女子医科大学神経内科学
太
田 敬 愛知医科大学血管外科
大
内
義 東京大学大学院加齢医学講座
尉
木 村 玄次郎 名古屋市立大学大学院医学研究科
心臓・腎高血圧内科学(第三内科)
重
松 宏 東京医科大学病院外科学第二講座
鈴
木
通 埼玉医科大学腎臓内科
永
田 泉 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科
平
方
秀
樹 福岡赤十字病院
北
松
本
昌
泰 広島大学大学院医歯薬学総合研究科病
進
峰
松
一
夫 国立循環器病センター内科脳血管部門
吉
川
徳
協力員 飯
島
一
洋
克
能分子医学寄附講座
究科血管・応用外科学
腎臓内科学
小 櫃 由樹生 東京医科大学外科学第二講座
富
夫 大阪大学大学院医学系研究科心臓血管外科
川
一
夫 大阪大学大学院医学系研究科神経内科学
藤
俊
哉 山梨大学第二外科
高
橋
公
太 新潟大学大学院医歯学総合研究科腎
茂 和歌山県立医科大学小児科
長
束
一
行 国立循環器病センター内科脳血管部門
誠 神戸大学大学院医学研究科内科系講
西 慎
一 新潟大学大学院医歯学総合病院血液浄化部
守
山
敏
樹 大阪大学大学院医学系研究科予防環
病態解析・制御学講座
態探究医科学脳神経内科(第三内科)
座小児科学分野こども発達学部門
川
泌尿器病態学分野
境医学・生体制御健康医学
外部評価委員
安
藤
太
三 藤田保健衛生大学医学部心臓血管外科
土
居
義
典 高知大学医学部老年病科循環器科
小
林
祥
泰 島根大学医学部附属病院
下
条
文
武 新潟大学第二内科
(構成員の所属は 2008 年 10 月現在)
目 次
Ⅰ.序 文………………………………………………………1466
Ⅱ.脳血管障害を合併した心疾患の管理……………………1467
1.脳血管疾患合併心疾患患者に関する疫学 …………1468
2.脳血管障害の評価法 …………………………………1470
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
1465
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006−2007 年度合同研究班報告)
3.脳血管障害の病態・治療方針と心疾患との関わり,
治療の優先度と治療の相反 …………………………1474
4.心疾患治療と脳血管障害治療との関わり …………1481
Ⅲ.腎機能障害を合併した心疾患の管理……………………1490
1.腎機能障害を合併する心疾患の疫学・予後 ………1490
2.腎機能障害患者の評価 ………………………………1492
3.心疾患診療にみられる腎障害の発症の病態と対策 1494
4.腎疾患と心疾患との関わり:病態と治療 …………1497
5.心疾患治療と腎障害の関わり ………………………1504
6.心腎同時保護 …………………………………………1512
Ⅳ.末梢血管障害を合併した心疾患の管理…………………1513
1.末梢血管障害の疫学・予後 …………………………1514
2.末梢血管疾患の病態と重症度 ………………………1515
3.閉塞性動脈硬化症の評価と治療 ……………………1517
4.腹部大動脈瘤の評価と治療 …………………………1521
5.その他の末梢血管障害 ………………………………1522
6.心疾患と末梢血管疾患の関わり ……………………1526
文献………………………………………………………………1530
(無断転載を禁ずる)
我が国は循環器診療において専門分化が進んでいるた
Ⅰ
序 文
めに,心臓医は他の臓器の血管障害に注意を払わない傾
向があるように見受けられる.これは,我が国における
医学・医療体制の歴史的背景も大きく関与していると考
えられる.脳卒中を中心とする脳血管障害は,従来,脳
1466
循環器疾患患者の高齢化は最近の顕著な傾向である
外科医がそのプライマリ・ケアに参画することが多く,
が,それとともに,他の臓器の血管合併症を有する頻度
近年,神経内科医の関与が大きくなってきているが,い
も増加している.特に,高齢者の虚血性心疾患に,脳血
まだ専門医が不足しているため一般内科医の診療対象に
管障害,腎機能障害や末梢血管障害を合併する頻度は高
なっていることが多い.少なくとも,循環器(心臓)医
く,心疾患の治療に成功しても,他の臓器の血管障害の
の直接的な関与は,極めて小さいといえる.一方,末梢
ため予期せぬ転帰をたどったり,それらの血管障害のた
血管障害の診療は,血管外科医が中心になって行われて
めに心疾患の治療に制約が加わり治療の障碍になること
おり,内科医の関与はこの領域でも小さいといわざるを
も少なくない.腎機能障害もその多くは血管性障害が基
得ない.末梢血管障害患者は糖尿病の合併が多いため,
盤になっていることが判明し,従来多かった慢性腎炎に
糖尿病診療医の関与は増大しているが,フットケアなど
よる腎機能障害から,糖尿病性血管障害や動脈硬化性血
その対象はまだまだその一部に限定されているようであ
管障害による腎機能障害の重要性が増大している.最近
る.腎機能障害は従来,腎臓専門医の診療対象であった
は慢性腎疾患(chronic kidney disease;CKD)が,末期
が,近年,心腎連関の重要性を循環器医と共有して認識
腎心不全に至るよりも高頻度に心血管イベントの併発に
する動きが高まりつつあり,今後は,循環器医と腎臓医
より予後を悪化させていることが報告されるようにな
の連携が充実してくるものと期待されている.しかし,
り,腎機能障害も心血管疾患の独立した危険因子ととら
現時点において,病態生理学的に密に関連している心疾
えられるようになってきた.
患と脳血管障害,腎機能障害,末梢血管障害との合併に
したがって,心疾患の診療にあたっては,これらの重
ついて診断,病態把握,治療及び予防に関して充分な理
要関連臓器の合併症を見逃すことなく適切な診断と治療
解と適切な実践がなされているとはいい難く本ガイドラ
の選択が求められている.しかしながら,従来,このよ
インの意義は大きいと考えられる.
うな合併症を伴う場合のガイドラインはなく,診療現場
ガイドラインの策定にあたっては,脳血管障害につい
から基本的な指針の提供が求められていた.本ガイドラ
ては,脳血管内科の専門医,腎機能障害については腎臓
インは,心疾患に脳血管障害,腎機能障害,末梢血管障
内科専門医,末梢血管障害については血管外科・血管内
害が合併した場合の心疾患の診療に有用なガイドライン
科の専門医が中心となり,班編成を行い各班ごとに頻回
として執筆されたものであり,循環器(心臓)診療医が
の討議を行い,共通の項立てに従ってガイドラインの策
知っておかなければならない診療指針をまとめたもので
定を行った.共通の項立てとして,
(1)各領域の疫学,
(2)
ある.
病態生理と評価法,
(3)各領域の主な疾患と心疾患との
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
脳血管障害,腎機能障害,末梢血管障害を合併した心疾患の管理に関するガイドライン
関わり,また(4)心疾患と各領域の主な疾患との関わり,
効性がそれほど確立されていない.
及び(5)予防法と生活管理をとりあげた.各領域の主
クラスⅢ 手技,治療が有効,有用ではなく時には
な疾患と心疾患との関わり((3)項)の項では,各領域
有害であるとのエビデンスがあるかある
の主な疾患ごとに知っておかなければならない事項を,
いはそのような否定的見解が広く一致し
特に心疾患を合併している場合の留意点を中心にまと
ている.
め,心疾患と各領域の主な疾患との関わり((4)項)の
項では,心疾患の治療によく用いられる薬物治療や非薬
物治療を実施するにあたって,これらの各領域における
合併症が存在する場合の留意点や治療の優先及び治療選
Ⅱ
択について重点を置いた.実際の診療現場において,こ
脳血管障害を合併した
心疾患の管理
れらの治療の優先や治療選択に決定を迫られることがあ
るが,海外でもエビデンスが乏しく,ましてや国内では
脳血管障害を合併した心疾患の管理に関する勧告
コンセンスも確立していないため,その決定に難渋する
ことも少なくない.治療選択は,医療施設のレベルや専
脳卒中を疑えばコンピューター断層撮影(CT)ある
門スタッフの充実度によっても変わりうるもので絶対的
いは磁気共鳴像(MRI)検査を行うべきである(クラ
な選択が困難な場合も多い.もちろん,医療の進歩の激
スⅠ)
しい分野であるため時の経過とともに治療選択も変化す
虚血性脳血管障害を疑えば磁気共鳴血管造影(MRA)
るものと考えている.その意味で EBM に基づいたガイ
あるいは頚動脈超音波法あるいは脳血管造影によって
ドラインとはいえない部分も数多く残されたが,これら
頭頚部の血管を評価すべきである(クラスⅡ a)
の事情を理解して頂き本ガイドラインを活用して頂くこ
発症 3 時間以内の脳梗塞のうち,CT や MRI 検査で虚
とを希望している.
血病巣を認めないか病変が軽微な症例で禁忌事項のな
なお,本ガイドラインの記述の中で,重要な記述には,
い症例に対して組換え型組織プラスミノーゲン活性化
文末尾にエビデンス・レベルを記載した.またクラス分
因子(アルテプラーゼ)を投与する(クラスⅠ)
類は広く用いられている基準に準拠した.
大動脈解離による脳梗塞は組織プラスミノーゲン活性
化因子を投与してはいけない(クラスⅢ)
エビデンス・レベル
レベル A 複数の無作為介入臨床試験またはメタ解
析で実証されたもの.
レベル B 単一の無作為介入臨床試験または大規模
発症後 48 時間以内の脳梗塞に対してアスピリン 160
∼ 300mg を投与する(クラスⅠ)
くも膜下出血,脳出血の場合,原則として抗血栓薬を
中止し,抗凝固薬を服用している場合は中和する(ク
な無作為介入ではない臨床試験で実証さ
ラスⅡ a)
れたもの.
症候性頚動脈狭窄症において 50 %未満の軽度狭窄の
レベル C 専門家及び / 又は小規模臨床試験(後ろ
場合は頚動脈内膜剥離術(CEA)の適応とならない(ク
向き試験及び登録を含む)で意見が一致
ラスⅢ)
したもの.
症候性,無症候性を問わず高度頚動脈狭窄は CEA を
行う(クラスⅠ)
クラス分類
非心原性の脳梗塞または一過性脳虚血発作(TIA)と
クラスⅠ 手技・治療が有効,有用であるというエ
ビデンスがあるかあるいは見解が広く一
致している.
クラスⅡ 手技,治療の有効性,有用性に関するエ
冠動脈疾患の合併例に対して抗血小板薬を投与する
(クラスⅠ)
脳卒中のハイリスク非弁膜症性心房細動(NVAF)は
ワルファリンの適応である(クラスⅠ)
ビデンスあるいは見解が一致していな
4T’s スコアリングシステムによってヘパリン起因性
い.
血小板減少症(HIT)を疑えばヘパリンを中止する(ク
Ⅱ a エビデンス,見解から有用,有効であ
る可能性が高い.
Ⅱ b エビデンス,見解から見て有用性,有
ラスⅡ a)
脳・腎・末梢血管障害を合併したハイリスク群におい
ても厳格な生活管理が重要である(クラスⅠ)
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
1467
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006−2007 年度合同研究班報告)
1
脳血管疾患合併心疾患患者に
関する疫学
域の脳梗塞や TIA の大半が頭蓋外頚動脈狭窄性病変を合
併するが,日本人ではむしろ頭蓋内動脈狭窄性病変合併
例が多かった.近年我が国でもアテローム血栓性脳梗塞,
特に頭蓋外頚動脈病変によるものが増加傾向にあること
1
Overview:我が国における心疾患
と脳血管疾患の疫学の特徴
2
虚血性心疾患
世界保健機関(World Health Organization,WHO)の
虚血性心疾患患者が脳血管障害を発生することはまれ
統計によると,世界の疾病別死因の首位は虚血性心疾患
ではない.代表的な疫学研究である Framingham Study
で(13.7%),第 2 位は脳血管疾患(脳卒中)である(9.5
での 24 年間の追跡調査によると,虚血性心疾患例にお
%).国内統計では首位の悪性新生物(がん)ではあるが,
ける脳血管障害発生率は,狭心症例では一般人の 1.6 ∼
WHO 統計でのがんは臓器別に集計されるため主要死因
2.4 倍,心筋梗塞例で 2.7 ∼ 3.7 倍,両者合併例では 3.8
の上位に入っていない.虚血性心疾患死亡率は南北アメ
∼ 5.5 倍 に 達 し た 3). 急 性 心 筋 梗 塞(acute myocardial
リカ及び欧州で特に高く(約 20 %),第 2 位の脳血管疾
infarction:AMI)患者の脳梗塞合併リスクは特に高い.
患の死亡率の約 2 倍もある.一方,日本を含む西太平洋
AMI 例の脳卒中発症予知因子として高齢,糖尿病,高
地域での第 1 位は脳血管疾患であり(14 %),以下,慢
血圧,脳卒中既往,前壁梗塞,心筋梗塞既往,心房細動,
性閉塞性肺疾患,虚血性心疾患と続く 1).
心不全,非白人種が有意であった 4).AMI 発症後 30 日
我が国の脳血管疾患死亡率は,1965 ∼ 70 年頃の人口
間の脳卒中発症リスクは一般人口の 44 倍と著しく高く,
10 万人当たり約 175 人がピークであり(当時の世界一),
3 年間平均でも 2 ∼ 3 倍も高い.
以後は世界に類を見ないスピードで低下し続けてきた.
くも膜下出血を除く初発脳卒中連続 1,732 例を検討し
平成 16 年度人口動態統計での脳血管疾患死亡者数は,
た Yokota ら 5)の報告では,脳出血(5%)やラクナ梗塞(9
がん,心疾患に次ぐ第 3 位で年間 12.9 万人,人口 10 万
%)に比べ,アテローム血栓性脳梗塞と心原性脳塞栓症
人当たり 102 人(総死亡の 12.5%)で,病型別の死亡比
で冠動脈疾患合併が高率であった(19%,15%).冠動
率は脳梗塞 64%,脳出血 25%,くも膜下出血 12%であ
脈 疾 患 合 併 は ま た,TIA 既 往, 心 房 細 動(atrial
った.
fibrillation:AF)合併,退院時要介護状態とともに,退
心疾患死亡率(年齢調整後)は,過去 40 年間ほぼ横
院後 3 年間の再発+死亡の有意の予知因子であった(相
ばい∼減少傾向にある.うち虚血性心疾患死亡率は
対リスク 1.4 倍,p=0.024).
1970 年までは増加したものの,以後は減少傾向が続い
冠動脈硬化と頭蓋外頚動脈硬化との間には強い相関が
1)
ている .
1468
が示唆されている.
ある.両者とも脂質代謝異常や喫煙がリスクとなり,最
同じ動脈硬化性疾患として扱われることの多い虚血性
近ではメタボリック・シンドローム,感染症,CRP 高値,
脳 血 管 疾 患( 脳 梗 塞 + 一 過 性 脳 虚 血 発 作(transient
炎症性サイトカイン高値などの関与も重視されている.
ischemic attack:TIA))と虚血性心疾患ではあるが,世
我が国の検討では,冠動脈病変患者における頚動脈病変
界的に見るとその発生状況には著しい地域差がある.動
合併率は約 20 %で,冠動脈病変重症度と頚動脈病変合
脈硬化性血栓性疾患の既往を有する,またはその高リス
併率が相関した(1 枝 15 %,2 枝 21 %,3 枝 36 %)6).冠
ク状態にある外来通院患者を対象とした国際共同前向き
動脈バイパス術(coronary artery grafting:CABG)適応
登 録 追 跡 調 査 REACH(Reduction of Atherothrombosis
患者の約 20 %が径狭窄度 50 %以上の,6 ∼ 12 %が 80 %
for Continued Health)Registry によると,我が国の冠動
以上の頚動脈狭窄病変を合併した.虚血性心疾患に合併
脈疾患の頻度は欧米豪に比して 20 ∼ 40%低く,脳卒中
する頚動脈病変の関連因子は高齢者,糖尿病,末梢血管
は逆に 1.5 ∼ 2.5 倍も高率であった 2).我が国の致死的心
疾患,大動脈瘤合併などである.
筋梗塞,脳卒中の発症リスクは,欧州,中東,他のアジ
AMI や心室瘤はそれ自体が塞栓源となりうる.虚血
ア諸国に比べて低く,血栓性イベント全体の発症リスク
性心疾患は AF の原因ともなり,心不全を合併すれば,
も他国の 2 分の 1 ∼ 3 分の 1 と極めて低かった.
心内血栓形成,さらに塞栓症発生を助長しうる.左室駆
同じ虚血性脳血管疾患でも,日本人ではこれまで,細
出率(ejection fraction:EF)29 %未満の心筋梗塞患者
動脈硬化を基盤とするラクナ梗塞や頭蓋内のアテローム
の脳卒中相対リスクは EF35 %以上の患者の 1.86 倍で,
硬化性病変による脳梗塞が多かった.欧米では頚動脈領
EF が 5 %低下するごとに脳卒中のリスクが 18 %上昇す
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
脳血管障害,腎機能障害,末梢血管障害を合併した心疾患の管理に関するガイドライン
9)
告 さ れ た( オ ッ ズ 比: 若 年 群 3.70, 高 齢 群 3.00)
.
る計算になるとの報告もある.
3
PFO,ASA 合併脳梗塞患者の再発率を調べた前向き観
弁膜症
察研究で,PFO,ASA 単独例,またはそのいずれも有
リウマチ性心臓病(rheumatic heart disease:RHD),
さない例に比べ,ASA 合併 PFO 例での再発率が有意に
特に AF を合併した場合の塞栓症発生リスクは健常人の
高かった 10).
約 17 倍 と 極 め て 高 率 で あ る . 我 が 国 で も,1970 ∼
最近,脳卒中の既往のない一般人の PFO 例の大規模
1980 年代の最大の塞栓源心疾患は RHD で,全体の 3 割
前向き観察研究が行われ,PFO あるいは ASA 合併 PFO
以上を占めていた.しかしながら,その頻度は 80 年代
が有意の脳卒中発症リスクとは言えないと報告されてい
以降に急速に減少し,現在では心原性脳塞栓症全体の
る.
7)
10 %ないしそれ以下と推定される.RHD の有病率の激
減,予防的抗凝固療法の普及,心臓外科療法(弁置換術)
の進歩などがその理由と考えられる.
4
7
非弁膜症性心房細動
弁膜症を合併しない非弁膜症性心房細動(nonvalvular
atrial fibrillation:NVAF)が有意の脳卒中危険因子であ
高血圧性心疾患
ることは確立している.NVAF 患者の脳血管疾患の大部
高血圧は脳血管疾患の最大の危険因子である.当然の
分は心原性脳塞栓症である 7).欧米では,心原性脳塞栓
ことながら,高血圧性心疾患と脳血管疾患の合併はまれ
症の 45 %が NVAF を原因とする(以下,AMI 15 %,心
ではないが,両者の因果関係については,これまでほと
室瘤 10%,リウマチ性心臓病 10%,人工弁 10%,その
んど議論されてこなかった.最近,本態性高血圧患者約
他 10%の順).最近の国内調査では,心原性脳塞栓症の
2,300 例を対象としたイタリアの前向き観察研究で,心
約 75%に AF(大半は NVAF)が合併していた.
電図,心エコー図で診断された左室肥大は血圧値や他の
NVAF の 公 衆 衛 生 上 の 重 要 性 を 最 初 に 指 摘 し た
危険因子とは独立した有意の脳血管疾患発症リスクであ
Framingham Study では,NVAF 患者の脳血管疾患発症
った(相対危険度 1.6 ∼ 1.8 倍)と報告された .同じく
リスクは洞調律患者の 5 倍,年間発症率 4 ∼ 6 %であっ
イタリアで実施された降圧治療中の高血圧患者の前向き
た 7).その後の研究により,NVAF 患者における脳卒中
観察研究では,遠心性肥大に比較して求心性肥大におい
発生リスクはその背景因子によって異なることが示され
て心血管リスクが高かったという.
ている.例えば Framingham Heart Study において,高齢,
8)
5
心筋症
女性,収縮期血圧高値,脳卒中の既往,糖尿病を合併し
た新規発症 AF では,脳卒中もしくは死亡の危険度が増
抗凝固療法を受けていない拡張型心筋症患者の 18 %
加することが示された.最近では,心不全,高血圧,高
に脳塞栓症を合併したとの報告がある.本疾患における
齢(75 歳以上),糖尿病,脳卒中または TIA 既往の有無
脳塞栓症発生率は,年間 4%前後とされる.しばしば予
から,比較的簡単に,その後の脳卒中発症リスクが推定
防的抗凝固療法が選択されているが,その効果,特に抗
できるシステムが開発され,臨床的に頻用され始めてい
血小板療法との優劣は不明である.
る(CHADS2 スコア,表 1)11),12).
肥大型心筋症では AF を合併すると塞栓症の頻度が高
国内では,北海道地区での循環器内科受診患者約 2 万
くなるために抗凝固療法が必要となる.またワルファリ
例の追跡調査が行われた.NVAF 合併率は 14 %で,40
ンは塞栓症の頻度を減少させる.
6
先天性心疾患
い く つ か の 横 断 研 究 に よ り, 卵 円 孔 開 存(patent
foramen ovale:PFO),心房中隔欠損,心房中隔瘤(atrial
歳未満の 3.0%から 80 歳以上の 20.7%まで加齢とともに
合併率が上昇した.虚血イベントは年率 2.6%で,その
大半が脳塞栓症または TIA であった 13).
8
その他
septal aneurysm:ASA)などの先天性心疾患が虚血性脳
その他の塞栓源心疾患として,洞不全症候群,心臓ペ
卒中発症と関連しうることが示唆され,特に若年世代に
ースメーカ,人工弁(特に機械弁),感染性心内膜炎,
おける原因不明の脳梗塞の原因として,PFO や ASA が
非 細 菌 性 血 栓 性 心 内 膜 炎(non-bacterial thrombotic
注目されている.最近発表された対照比較研究では,若
endocarditis:NBTE),心臓内腫瘍(特に粘液腫)など
年層のみならず高齢層(55 歳以上)でも,原因不明の
が挙げられる.海外での報告をまとめると,洞不全症候
脳梗塞患者における PFO 合併率が有意に高いことが報
群の脳血管疾患発生リスクは年 8 ∼ 10%で,心臓ペース
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
1469
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006−2007 年度合同研究班報告)
表 1 CHADS2 スコアによる NVAF 患者の脳卒中発症リスクと治療推奨 12)
CHADS2 スコア
0
1
2
3
4∼
リスクレベル
低い
低い∼中等度
中等度
高い
極めて高い
脳卒中発症率
1.0 % /y
1.5 % /y
2.5 % /y
5.0 % /y
> 7 % /y
推奨される治療
アスピリン(75 ∼ 325 mg/d)
ワルファリン INR2 ∼ 3* or アスピリン
ワルファリン INR2 ∼ 3*
ワルファリン INR2 ∼ 3**
CHADS2 スコア:抗血栓療法未実施の NVAF 患者の脳卒中発生リスク評価法(Gage ら 11)).心不全(C: congestive heart failure),高
,75 歳以上の高齢(A: aged)
,糖尿病(D: diabetes mellitus)の各項目に 1 点を,脳卒中または TIA の既往(S:
血圧(H: hypertension)
stroke)に 2 点を与え,その合計点で脳卒中リスクを推定する.計算が比較的簡便であることから,NVAF 患者に対する抗血栓療法(抗
血小板療法,抗凝固療法)の適応決定に頻用され始めている.
* 低∼中等度リスクの場合の抗凝固療法の治療必要数(Number Needed Treat, NNT)は 100 前後と比較的高い.抗凝固療法は,患
者の好み,出血リスク,INR モニタリングの良否等を勘案して実施する必要がある.なお,脳卒中または TIA 既往患者では,例え
CHADS2 スコアが 2 であっても高リスクと判断され,原則としてワルファリン療法が勧められる.
** 75 歳より高齢の場合,目標 INR を 1.6 ∼ 2.5 に下げることを勧告する場合がある(日本国内のガイドラインもこれに該当する)
メーカ植え込み後でも脳塞栓症の頻度は低下しない.心
脳梗塞患者を迅速に専門の医療機関に搬送するために
房と同期しない心室ペーシング(VVI)は AF を併発し
は,社会への啓発活動とともに救急隊を含めた救急医療
やすく,脳塞栓発症を生じやすい.機械弁置換では抗凝
との協力体制が不可欠であり,既に脳卒中病院前救護
固療法中でも年 2 ∼ 4 %の頻度で塞栓症をきたすため,
(Prehospital Stroke Life Support;PSLS)のガイドライ
強力な抗凝固療法が勧められる.感染性心内膜炎では
ンも作成,公表されている 15).本ガイドラインは日本臨
28 ∼ 39 %に神経合併症をきたし,脳塞栓症の他,くも
床救急学会,日本救急医学会,日本神経救急学会からな
膜下出血,脳内出血も合併しうる.NBTE の約 30%が脳
る 3 学会合同の PSLS ガイドライン検討委員会(PSLS 委
塞栓症を生じる.左房粘液腫の 20 ∼ 45%に塞栓症を合
員会)によりまとめられたものであり,脳卒中に対する
併し,その半数以上は脳塞栓症である.これらの疾患に
プレホスピタルケアの体系化・標準化を目的としている.
伴う脳血管疾患の頻度について,国内のまとまった疫学
さらに,救急搬入された意識障害患者を含む脳卒中疑い
的報告は見当たらない.
例について,救急現場での脳卒中初期診療を標準化する
心疾患や虚血性脳血管疾患の治療として抗血小板療法
べく Immediate Stroke Life Support(ISLS)のコースガ
や抗凝固療法などの抗血栓療法が行われる頻度が増加し
イドブックも日本救急医学会,日本神経救急学会合同の
ている.それに伴い,抗血栓薬投与中の頭蓋内出血発症
編集委員会により作成,発刊されている 16).
例が増加している.特に抗血栓薬単剤投与に比べ,複数
本項では,上記の事情を踏まえながら,脳血管障害の
の抗血栓薬使用例では頭蓋内出血リスクが高くなること
評価法の概要を簡潔にまとめる.
が示唆されている.
2
脳血管障害の評価法
1
脳血管障害の有無と
その神経学的重症度評価
米国心臓協会(AHA)及び脳卒中協会(ASA)では
脳血管障害は,TIA,脳梗塞,脳出血,くも膜下出血
虚血性脳卒中の急性期診療に対して 7 つの D の重要性を
に大別される.脳梗塞はさらに,アテローム血栓性脳梗
提唱している.すなわち,
Detection(発見),Dispatch(出
塞,心原性脳塞栓症,ラクナ梗塞,その他の脳梗塞(分
動),Delivery(搬送),Door(入口),Data(データ),
類不能を含む)に分類される.
Decision(決定),Drug(薬剤)の 7 つの D がスムーズ
虚血性脳血管障害の超急性期(発症後 3 時間以内)に
に切れ目無く遂行されることが重要とされている(図
おける組換え型組織プラスミノーゲン活性化因子
1).この際に,最も時間を要するのが Detection であり,
(recombinant tissue plasminogen activator:rt-PA) で あ
このために Brain Attack キャンペーンとして脳卒中の初
るアルテプラーゼを用いた血栓溶解療法が 2005 年の 10
期症状の一般市民への啓発活動が盛んに実施されてい
月に保険適用となり,その安全な使用を推進するべく日
る.
本脳卒中学会医療向上・社会保険委員会と rt-PA(アル
テプラーゼ)静注療法指針部会の合同で rt-PA(アルテ
プラーゼ)静注療法適正治療指針がまとめられ,公表さ
れている
1470
14)
.また,この画期的な治療法の適応例である
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
①脳卒中の初期症状
Brain Attack キャンペーンでは表 2 に掲げる 5 つの症
状の一つ以上があれば脳卒中を疑いただちに専門医療機
脳血管障害,腎機能障害,末梢血管障害を合併した心疾患の管理に関するガイドライン
図 1 脳卒中が疑われる場合のアルゴリズム(文献(437)より改変引用)
脳卒中の疑いのある患者
Emergency Medical Services(EMS)の評価と行動
EMS 要員による即時の評価は以下を含む
・シンシナティ病院前脳卒中スケール(言語障害,
上肢の運動麻痺,顔面の下垂を含む)
・ロサンゼルス病院前脳卒中スクリーン
・病院に脳卒中の疑いのある患者であることを連絡
・病院へ迅速に搬送
発 見
出 動
搬 送
入 口
即時の全般的評価:到着から 10 分(以内)
・ABC,バイタルサインの評価
・鼻カニューレから酸素投与
・静脈路確保;採血(血清,電解質,凝固能検査)
・血糖のチェック;必要なら治療
・12 誘導心電図;不整脈をチェック
・全般的な神経学的スクリーニング評価
・脳卒中チームに連絡:神経内科医,放射線科医,
CT 技師
即時の神経学的評価:到着から 25 分(以内)
・既往歴の吟味
・発症時間の確定(<3 時間は線溶療法が必要)
・身体診察
・神経学的検査:
意識レベルを確定(GlasgowComaScale)
脳卒中重症度を確定(NIH 脳卒中スケールまたは Hunt と Hess のス
ケール)
・緊急の単純 CT を指示
(入口から CT 施行:目標,到着から 25 分以内)
・CT 読影(入口から CT 読影:目標,到着から 45 分以内)
・頸椎側面 X 線写真(患者が昏睡状態/外傷の病歴あり)
CT 上脳内出血
あるいは
くも膜下出血が認められるか?
データ
脳神経外科医に相談せよ
おそらく急性期虚血性脳卒中
・CT 上の除外の再吟味:なにか観察されるか?
・神経学的検査を再検:症状が変化するか急速に改善しているか?
・線溶療法の除外条件を再検討:なにかあるか?
・患者のデータの再検討:症状発現から現在>3 時間ではないか?
上記すべて否
CT 上所見はないが,くも膜下出血が強く
疑われる際には,腰椎穿刺を行うこと.
腰椎穿刺には線溶療法は禁忌である.
決 定
患者は線溶療法の適応患者の
ままであるか?
薬 剤
出血あり
いいえ
出血なし
はい
・危険/利益を患者,家族と再検討せよ:受容されるなら─
線溶療法を開始せよ(入口から治療:目標<60 分)
・神経症状を観察:悪化すれば緊急の CT
・血圧の観察:必要なら治療
・重症観察室に入室
・24 時間は抗凝固療法や抗血小板療法を行わない
急性期の出血に対する治療を開始せよ
・すべての抗凝固薬に拮抗策
・すべての出血に拮抗策
・神経症状の観察
・意識のある患者では高血圧の管理
・適応どおりに保存療法を開始せよ
・入院を考慮
・抗凝固療法を考慮
・治療を要する他の病態を考慮
・別の診断も考慮
それぞれ,発見(Detection)
,出動(Dispatch)
,搬送(Delivery)
,入口(Door),データ(Data),決定(Decision)
,薬剤(Drug)
はその英語の頭文字からの「7 つの D」と呼ばれている.
関を受診することを勧めている.ただし,意識障害や言
語障害などがあるときは患者本人が発症時の症状を訴え
られないため,迅速に患者の状態を評価するとともに発
症状況等を家人やその他の目撃者から聴取する必要があ
る.すなわち,あらゆる医療スタッフが,医療現場以外
で遭遇する Brain Attack への対応について熟知し,心筋
梗塞などの発症時と同様に迅速な判断を要求される時代
に突入したと言える.
表 2 Brain Attack キャンペーンに用いられている脳卒中警告
症状(文献(447)より引用)
身体の片側の顔,腕,脚に突然脱力や痺れが出現する
突然目が見えなくなったり,物がぼやけて見える,特に片
目におこる
言葉が喋れなくなったり,話をしたり,理解するのが困難
となる
突然の原因不明の激しい頭痛
訳の分からないめまい感,ふらつき感や突然の転倒,特に
上記症状を伴う場合
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
1471
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006−2007 年度合同研究班報告)
また,発症現場に到着した救急隊員による病院前判断
は構音障害と失語症を区別する必要があり,後者では大
の重要性が認識されており,American Heart Association
脳皮質損傷を疑う.また,明らかな局所神経症候を呈さ
(AHA)ではシンシナティ病院前脳卒中スケールやさら
ない突発性の激しい頭痛では,くも膜下出血が疑われ,
に詳細なロサンゼルス病院前脳卒中スクリーンが紹介さ
悪心・嘔吐を伴うことが多く意識障害も起こる.片麻痺
れ て お り, 我 が 国 の PSLS で は Kurashiki Prehospital
などの局所症候に引き続いて頭痛,悪心・嘔吐が見られ
Stroke Scale(KPSS)が紹介されている.
る際には脳出血の可能性が高い.発作性めまいを伴う頭
②脳卒中の有無とその重症度評価
痛では,小脳出血や椎骨脳底動脈系梗塞を疑う必要があ
る.ただし,椎骨脳底動脈系の脳卒中の診断には,四肢
表 3 には医師や医療スタッフが脳卒中を疑うべき主要
の失調,感覚障害や,視野障害,構音障害,複視などの
な症状を掲げた.急性症状を有する患者が来院した時に
自覚症状の有無を詳細に確認する必要がある.
は,まずバイタルサインのチェックと気道・呼吸・循環
C.時間経過
確保などの応急処置を施し,その後問診と神経学的検査
脳卒中を疑った時に神経症候の時間経過(temporal
を行う.
profile)に注意することも極めて重要である.TIA は神
1)問診のポイント
経症候の持続が 24 時間以内のものをいうが,多くは局
どのような時に(発症状況),どのように発症し(初
所神経症状が数分から 15 分以内に消失する.この TIA
発症候),どのような経過をたどっているか(症候の時
を前駆症状として発症し,段階的に症状の進行する場合
間経過)を聞き出すのは問診上の重要ポイントである.
や動揺性の経過は血栓性機序で発症する脳梗塞に特徴的
また,脳卒中既往,家族歴,各種の危険因子(高血圧,
である.脳塞栓症の場合は突発的に発症し,数秒で症状
糖尿病,心房細動など)や薬物服用歴(降圧薬,経口避
のピークを迎えるような時間経過(突発完成型という)
妊薬など)などについての情報も病型や病態の診断上極
を示すことが多い.一方,突発的に発症し数分から数日
めて重要である.
の内に麻痺などの症状が徐々に悪化し,意識障害も伴な
A.発症状況
ってくるパターンは脳内出血に典型的といえる.
脳卒中では一般に発症日時を特定できることが多く,
2)診察のポイントと脳卒中重症度スケール
特に脳出血,くも膜下出血,脳塞栓症などでは時間・分
脳卒中の診察では,要点をおさえた迅速な診察が要求
単位で発症日時を明らかにできる場合が多い.発症が,
される.まず,血圧,脈拍,心音,呼吸状態,全身の血
睡眠中などの安静時で大量飲酒の翌朝などの脱水を起こ
管雑音や浮腫の有無を評価する 17).次に,神経学的所見
しやすい状況であった場合は血栓性機序による脳梗塞,
をとり,異常所見の有無から問診とも併せて障害血管や
身体活動時などの血圧上昇をきたしやすい状況では脳出
病巣の部位を推定し,重症度の評価とともに臨床病型診
血やくも膜下出血,また活動開始直後などの循環動態急
断や予後推定を行う.脳卒中急性期にその重症度評価や
変時の発症では塞栓性機序による脳梗塞などが疑われ
予後推定のために最低限評価するべき項目としては,日
る.
本脳卒中学会の Stroke Scale 委員会により作成された
B.初発症候
Japan Stroke Scale(JSS)18)が知られているが,ここでは
脳卒中の初発症候で最も頻度が高いのは,顔面を含む
JSS に加えて国際的に最も広く用いられ,rt-PA による
片麻痺や感覚障害であり,逆にこれらの症状が突然発症
血栓溶解療法やその効果の判定にも必須とされている
した時には,脳卒中を疑うのは容易である.言語障害で
National Institute of Health Stroke Scale(NIHSS) を 紹
介する(表 4).本スケールは脳卒中の重症度を評価す
表 3 脳卒中の主要症状
意識障害
昏迷,昏睡
錯乱状態
失語症,その他の高次機能障害
構音障害
顔面麻痺
協調運動障害,筋力低下,感覚障害(通常片側性)
平衡障害,失調症,歩行障害
筋力低下
視野障害(単眼性もしくは両眼性)
複視,めまい,悪心,嘔吐,頭痛
1472
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
る共通語として世界の医療現場で急速に普及しており,
脳卒中専門医はもちろんのこと既にあらゆる医療スタッ
フにとって,熟知しておくべき標準的な神経学的重症度
評価法となっている.
なお,脳卒中慢性期の機能予後を評価するスケールと
しては,介助の程度に基づいて 6 段階にカテゴリー分類
する改訂 Rankin スケールや ADL を評価する Barthel イ
ンデックスが従来よりよく用いられている(日本脳卒中
学会のホームページ(http://www.jsts.gr.jp/)参照).
脳血管障害,腎機能障害,末梢血管障害を合併した心疾患の管理に関するガイドライン
表 4 NIH Stroke Scale(NIHSS)(文献(448)より改変引用)
項目
意識レベル
意識レベル 質問
質問レベル 従命
注視
視野
顔面麻痺
左腕
右腕
左脚
右脚
運動失調
感覚
言語
構音障害
消去 / 無視
0
1
0
1
0
1
0
1
0
1
0
1
0
1
2
0
1
2
0
1
2
0
1
2
0
1
0
1
0
1
0
1
0
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覚醒
簡単な刺激で覚醒
2 問とも正答
1 問に正答
両方の指示動作が性格に行える
片方の指示動作のみ正確に行える
正常
部分的注視麻痺
視野欠損無し
部分的半盲(四分盲を含む)
正常
軽度の麻痺
下垂無し(10 秒間保持可能)
10 秒以内に下垂
重量に抗するが 10 秒以内に落下
下垂無し(10 秒間保持可能)
10 秒以内に下垂
重量に抗するが 10 秒以内に落下
下垂無し(5 秒間保持可能)
5 秒以内に下垂
重量に抗するが 5 秒以内に落下
下垂無し(5 秒間保持可能)
5 秒以内に下垂
重量に抗するが 5 秒以内に落下
なし
1 肢にあり
正常
軽度∼中程度の障害
正常
軽度の失語
正常
軽度∼中程度の障害
正常 1 = 軽度∼中程度の障害
スコア
2 = 反復刺激や強い刺激で覚醒
3 =(反射的肢位以外は)無反応
2 = 2 問とも誤答
2 = いずれの指示動作も行えない
2 = 完全注視麻痺
2
3
2
3
3
4
=
=
=
=
=
=
完全半盲(同名半盲を含む)
両側性半盲(皮質盲半盲を含む半盲)
部分的麻痺
完全麻痺
重力に抗する動きがみられない
まったく動きがみられない
3 = 重力に抗する動きがみられない
4 = まったく動きがみられない
3 = 重力に抗する動きがみられない
4 = まったく動きがみられない
3 = 重力に抗する動きがみられない
4 = まったく動きがみられない
2 = 2 肢にあり
2 = 高度の障害
2 = 高度の失語
3 = 無言または全失語
2 = 高度の障害
2 = 高度の障害
合計点 =/42
表 5 脳梗塞の病態生理と画像診断法
動脈の狭窄 / 閉塞 / 解離
脳血流量の低下
梗塞巣(の診断)
超急性期
急性期以降
出血性変化
2
MRI
MRA
perfusion MR
CT
CTA
perfusion CT
DWI
FLAIR/T2/T1
T2 star
CT
神経画像診断法による評価
その他
エコー /DSA
脳血流 SPECT
行あるいはある一定時間持続すると不可逆な梗塞巣形成
へと至る.そのそれぞれの病態の評価に必要な画像診断
画像診断の詳細については他項に譲り,ここでは脳梗
法を表 5 にまとめた.
塞 に お け る コ ン ピ ュ ー タ ー 断 層 撮 影(computerized
上記のような時系列で虚血現象は進展するが,多くの
tomography:CT), 磁 気 共 鳴 像(magnetic resonance
場合画像診断法の順序は逆になる.つまり梗塞かどうか
imaging:MRI)検査などの神経画像診断法の意義につ
の確認をまず行い,その後に病態評価(責任血管病変,
いて概説する.すなわち,梗塞形成に至る病的変化を時
脳血流低下の程度)を行うことになる.
間軸に沿って概説すると,1)まず責任動脈の狭窄・閉
梗塞巣の確認は,出血性疾患の除外,(発症 3 時間以
塞が生じ,2)側副血行が不十分であればその領域の脳
内ならば)rtPA 治療の適応決定が必須なので,検査の第
血流量(潅流)が低下し,脳血流低下がある閾値を下回
一選択は単純 CT 検査である.しかし,急性期 CT 像で
ると虚血現象が生じ(神経徴候出現),3)血流低下が進
は病変が不明確なことも多く,拡散強調画像(diffusionCirculation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
1473
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006−2007 年度合同研究班報告)
weighted image:DWI)(図 2)で病変を確認する方が望
適正治療指針に概要が掲載されている.病型診断のフロ
ましい.最近は MRI で評価した後,rt-PA を投与した方
ーチャートを図 3 にまとめた.
が成績が良く,発症 3 ∼ 6 時間でも治療成績良好との報
②急性期から慢性期におけるその他の検査
告があるので,診療体制さえ整えば可能な限り MRI 検
査を追加することが望ましい.単に早く rt-PA を静注す
脳卒中の病態診断などにおける検査法についても誌面
るだけでなく条件の良い症例を選ぶこともこれから重要
の都合により他項に譲る.
になると考えられる.また,画像でとらえられた病変が
神経症候を説明しうるかどうか,複数の血管支配域にま
3
脳血管障害の病態・治療方針
と心疾患との関わり,治療の
優先度と治療の相反
1
脳卒中の内科的管理
たがっていないかどうかについても留意すべきである.
責任血管病変・脳血流低下の評価は,梗塞発症メカニズ
ム推定や「これから梗塞に陥る可能性の高い領域」の把
握のため重要である.
3
病態診断や治療法の適否決定に
必要な検査
①脳卒中急性期管理中の留意点
脳卒中急性期には,神経学的所見,画像診断で脳梗塞,
①血栓溶解療法の適否決定上必要な検査
脳出血,クモ膜下出血の診断ののち,各病型に応じた内
日本脳卒中学会ホームページ(http://www.jsts.gr.jp/)
科的治療手段が選択される.脳梗塞で発症 3 時間以内で
からアクセス可能な rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法
あれば,血栓溶解療法の適応を考慮する必要がある.
1)rt-PA 療法施行時の注意点
発症 3 時間以内の虚血性脳卒中のうち,CT や MRI で
図 2 ラクナ梗塞の一例
虚血病変を認めないか軽微な症例で禁忌事項のない症例
に対しては rt-PA(アルテプラーゼ,我が国ではアルテ
プラーゼが保険適用されている)の投与が勧められる(レ
ベル A).しかし心血管疾患の中では,まれではあるが
左不全片麻痺を示した 80 歳代女性.CT では検出できなかった
,MRI 拡散強調画像(DWI)では基底核から放線冠に
が(A)
,中大脳動脈には狭窄病変を認め
直径 10mm の梗塞を認め(B)
.
なかった(C)
大動脈解離による脳梗塞が生じることがあり,血栓溶解
療法により縦隔出血による死亡例が我が国でも報告され
警告されているので,大動脈解離を合併した脳梗塞には
図 3 病型診断のためのフローチャート
発症
一般身体所見・神経学的所見
CT
(MRI)出血
No
Yes
脳出血・クモ膜下出血
脳梗塞
責任血管に 50%以上の狭窄
(MRA,頚動脈超音波検査など)
Yes
アテローム血栓性脳梗塞
No
Yes
塞栓源となる心疾患
(心電図,
ホルター心電図,
心エコーなど)
心原性脳塞栓症
No
大きさ 1.5cm 未満
(CT,
MRI)
脳幹など穿通枝領域に限局
基底核,
Yes
No
1474
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
ラクナ梗塞
原因不明・分類不能
脳血管障害,腎機能障害,末梢血管障害を合併した心疾患の管理に関するガイドライン
rt-PA を投与してはいけない(レベル C).また一般的に
急性心筋梗塞後の心室瘤,胸腹部大動脈瘤がある場合は
rt-PA 投与を控えるべきである 14).
2)血圧管理,水分管理
脳梗塞急性期では一般に降圧しない
②脳卒中慢性期,ハイリスク患者が心疾患を
発症した場合の管理
1)抗血栓療法
19)
.これは脳潅流
心疾患の種類に応じて抗血栓療法が優先される.脳梗
圧低下により脳虚血病態の増悪を招かないためである.
塞再発予防では抗血小板薬としてシロスタゾールが内服
しかし血圧上昇が望ましくない心血管疾患,すなわち心
されていることがあるが,頻脈等の作用が望ましくない
筋梗塞,急性心不全,大動脈解離,腎不全がある場合に
場合はアスピリンまたはクロピドグレルへの変更は可能
は慎重に降圧する.心不全等を合併し水分負荷をかけた
である.脳出血の既往がある患者では血圧モニター,管
くない場合は,投与薬剤の溶解液量を半量程度に押さえ
理をしながら抗血栓薬を慎重に用いる.また脳梗塞再発
るようにし,水分バランスのチェック,中心静脈圧の計
予防のため抗血小板薬内服中で,AF,人工血管置換術
測,心エコーでの下大静脈径の測定などのモニタリング
後などワルファリンによる抗凝固療法が必要となった場
を行い,必要に応じてフロセミドなどの利尿薬を静脈内
合に,抗血小板薬を併用すべきかどうかの明確な指針は
投与で用いる.ただし AF を有する場合は,利尿薬使用
な い.Warfarin-Aspirin
により血栓形成傾向を助長するため抗凝固療法の使用が
Warfarin-Aspirin Symptomatic Intracranial Disease Trial24)
20)
勧められる(レベル B)
.また心不全を合併し起坐位
といった臨床試験からは非心原性脳梗塞の再発予防には
が望ましい場合でも,アテローム血栓性脳梗塞急性期で
ワルファリンとアスピリンは同様の有効性とされ,非心
脳循環が不安定な時期では脳潅流圧を維持することが望
原性脳梗塞ではガイドラインで抗血小板薬が第一選択薬
ましいので酸素飽和度,自覚症状を確認しながら数日間
として勧められる根拠となっているが,ワルファリンが
はできるだけ頭部を水平位に保つことが望ましい.
アスピリンより有効性に劣るという事実もない.したが
3)抗血栓療法,抗血栓薬について
って出血合併症予防の観点から,ワルファリン内服が心
Recurrent Stroke Study23)や
脳梗塞のうち,アテローム血栓性脳梗塞,ラクナ梗塞
血管疾患で必要になった場合には,脳梗塞再発予防とし
では通常アルガトロバン,オザグレルといった点滴製剤
て使用中の抗血小板薬を中断してワルファリン単独で管
による抗血栓療法が行われる(レベル B).しかしこれ
理することが望ましいと考えられる.ワルファリンと抗
らの治療は高いエビデンスを有しているわけではないの
血小板薬の併用は特に脳梗塞既往患者で脳出血の合併症
で,水分負荷を減らしたいときはアスピリン経口摂取,
)
を高めることが報告されており 25(レベル
B),病状に応
ヘパリン原液のインフュージョンポンプによる投与など
じて両者を併用する必要のある場合は血圧管理を厳格に
で代替可能である.心原性脳塞栓症では再発予防のため
すべきである.
早期よりヘパリンが使用されることが多い.心筋梗塞で
2)危険因子の管理
抗血栓薬内服中に脳梗塞を生じた場合は,原則として内
心筋梗塞,虚血性心疾患での降圧療法,血中脂質管理,
服中の抗血栓薬はそのまま継続し新たな治療薬剤の併用
血糖管理は,脳卒中再発予防とも共通しているのでそれ
を考慮する.反対に心疾患の管理目的で抗血栓薬を内服
ぞれ目標値が低い方を管理目標とする.降圧薬の中では,
中に脳出血を発症した場合は,血腫拡大を防ぐためワル
アンジオテンシンⅡ受容体遮断薬(拮抗薬)
(angiotensin
ファリン使用中であればすぐに中止しビタミン K,第Ⅸ
Ⅱ receptor blocker:ARB),カルシウム拮抗薬は心疾患,
因子複合体(保険未承認),新鮮凍結血漿で中和を行い,
脳卒中双方に有効な薬剤である.心筋梗塞ではスタチン
抗血小板薬内服を行っている場合は原則として中止する
の一次,二次予防に関するエビデンスが集積されている
21)
(レベル B) .抗血栓薬の再開は心疾患の種類にもよる
が,脳卒中ではアトルバスタチンにより再発予防効果
が,少なくとも 2,3 日以後からにすべきであり,血圧
26)
(16%)が示された(レベル B)
.糖尿病に対する血糖
を低めに保った上で再開すべきである.
4)脳保護療法
脳梗塞では我が国では脳保護薬エダラボンの適応があ
り 22),1 日 2 回 100ml の溶解液で使用することが多い(レ
管理は心疾患,脳疾患再発予防のため行うべきである.
③心疾患管理中に偶発的に脳疾患が検出された
場合の管理
ベル B).腎疾患を有する場合,特に高齢者では投与を
頚動脈病変,未破裂脳動脈瘤は別に論じられるのでこ
控える.また水分負荷を控えたい場合は 50ml に溶解し
こではそれ以外の想定されるケースについて述べる.
て使用する.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
1475
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006−2007 年度合同研究班報告)
1)脳 MRI 検査で無症候性脳梗塞,無症候性脳出血が見
つかった場合
31)
ル B)
.現在,IMT,プラークスコアに基づいた管理
指針は提唱されていないが,IMT 肥厚症例,アテロー
心房細動,ペースメーカ装着中,心不全合併など明ら
ムプラークを有する症例では高血圧,糖尿病,脂質異常
かな心塞栓源が想定され,たまたま無症候だが大脳皮質
症など動脈硬化危険因子の管理をガイドラインに準じて
等に塞栓症を疑う脳梗塞が存在する場合は,心原性脳塞
徹底的に行う事が推奨される(レベル B).動脈硬化危
栓症既往例と同様に再発リスクが高いと考え,抗凝固療
険因子を有しハイリスク患者での抗血小板薬の使用につ
法を行う(レベル A).頻繁に観察される脳深部,基底
いては,発症予防のメタアナリシスで心筋梗塞予防に有
核領域の無症候性脳梗塞は将来の脳卒中の予測因子であ
効との成績があるが,脳卒中予防には有効性が証明され
るが 27),心疾患の予測因子あるいはサロゲートマーカー
ていない 32).動脈硬化危険因子を有し IMT 肥厚の観察
との報告はない.またその診断には慎重を要し,白質病
される例では,抗血小板薬の適応を考慮してもよい(レ
変と混同してはならない.無症候性脳梗塞に抗血小板療
ベル B).
法が有効とのエビデンスはないので,ただちに抗血小板
療法を行うことは控えて高血圧などの危険因子の管理を
優先する.頚動脈,頭蓋内主幹動脈などの血管を超音波
検査,MR 血管造影などで非侵襲的に精査し,これらの
血管に有意狭窄があれば抗血小板薬の追加を考慮する
(レベル B).また最近 T2 *画像で無症候性の陳旧性脳出
血が検出されるようになった
28)
.その臨床的意義はまだ
①頚動脈内膜剥離術(carotid endarterectomy:CEA)
1)症候性頚動脈狭窄症
発症 6 ヶ月以内の TIA または脳梗塞患者で,同側の頚
明らかでないが,脳出血の危険因子とりわけ高血圧を有
部頚動脈に高度狭窄(70%∼ 99%)が認められる場合,
していればその管理を優先する.
抗血小板療法を含む最良の内科的治療に加えて,周術期
2)頚動脈内膜中膜厚
死亡及び合併症発症率が 6%未満の治療成績を有する施
(intima-media complex thickness:IMT)
設において CEA を行うことが推奨される(レベル A)
頚動脈超音波検査は広く検診レベルまで普及してい
33),34)
る.一般的に内頚動脈に 50 %以上の狭窄をきたさない
75 歳∼ 79 歳では CEA の効果は大きいが(レベル B)
内中膜肥厚は,外科的あるいは脳血管内治療の対象にな
35)
らない.頚動脈硬化重症度の判定は,IMT またはプラ
ない(臨床試験で高齢者が対象から除外されていたた
ークスコアで評価される
29)
.IMT の評価は,左右の内
.
,80 歳以上の高齢者では CEA の効果は証明されてい
め).また心臓病(弁膜症,心房細動,急性心筋梗塞,
頚動脈,頚動脈分岐部,総頚動脈の近位壁と遠位壁の最
不安定狭心症),肝不全,腎不全,癌,コントロール不
大厚を測定し,合計した上で平均する mean maxIMT が
良の高血圧,糖尿病,tandem lesion(頭蓋内狭窄が主な
一般的であるが,最も簡便には左右の頚動脈分岐部,総
もの),及び重症脳梗塞の合併例での効果が証明されて
頚動脈の遠位壁の最大肥厚部位を 1 点計測することが勧
いない.
められる.プラークスコアは,左右内頚動脈,頚動脈分
中等度狭窄(50%∼ 69%)が認められる場合,年齢,
岐部,総頚動脈に存在するすべてのプラークの厚みの総
性別,合併症,初期症状の重症度などに応じて,抗血小
和により求められる.IMT やプラークスコアは年齢,男
板療法を含む最良の内科的治療に加えて CEA を行うこ
性,高血圧,糖尿病,脂質異常症,喫煙など既知動脈硬
とが推奨される(レベル A)33),34).中等度狭窄について
化危険因子と関連性を有している.欧米及び我が国の臨
は高度狭窄における問題点に加えて下記の指摘がある.
床疫学研究で頚動脈 IMT は既知の危険因子で補正して
女性の中等度狭窄に対する CEA の効果は証明されて
も将来の心脳血管イベントの発症を予測することが報告
36)
いない(レベル B)
.また同側の重症脳梗塞の予防効
30)
1476
虚血性脳血管障害の外科治療,
血管内治療
2
され(レベル A) ,心血管イベントのサロゲート(代理)
果は証明されていない.
マーカーとして注目されている.しかし心疾患はじめ各
一方,軽度狭窄(50 %未満)は CEA の適応とならな
種危険因子管理目的に通院中の対象例では,高血圧など
い(レベル A)33),34).
動脈硬化危険因子の管理はガイドラインに沿って行われ
CEA の適応となる場合には,大きな脳梗塞巣がなけ
ているものの,一般住民を対象とした疫学調査同様に,
れば症候発症後時期を遅らせることなく 2 週間以内に実
IMT の肥厚は将来の心血管イベント発症,再発の独立
施することが推奨される(レベル B)35).
したリスクファクターであることが示されている(レベ
頚動脈狭窄を有する患者では,冠動脈病変,末梢動脈
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
脳血管障害,腎機能障害,末梢血管障害を合併した心疾患の管理に関するガイドライン
病変など全身のアテローム硬化症を有することが多く,
ける CEA や CAS の適応に関するコンセンサスは得られ
周術期の死亡・合併症の原因となりうるので,これらの
ていない.
合併症(特に虚血性心疾患)に対する術前検査が重要で
ある.術前検査としては ECG,心臓超音波検査や必要
に応じて心筋シンチグラフィ,CT,MRI 検査などが行
③脳血管バイパス術(extracranial-intracranial
bypass:EC-IC バイパス)
われる(詳細は冠動脈疾患に頚動脈病変を伴う場合の治
症候性の動脈硬化性脳動脈(頭蓋外及び頭蓋内)狭窄・
療の項を参照).
閉塞症においては一般的には EC-IC バイパスの適応はな
同側の脳血管予備能が低下している症例においては術
い 40).しかし上記疾患において,アセタゾラミドに対す
後に脳出血などの過灌流症候群を合併する危険が増すた
る 脳 血 流 増 加 率 が 高 度 に 低 下 し て い る 患 者 や PET
め,可能な限り術前に脳血流測定(安静時,アセタゾラ
(positron emission tomography)上,脳酸素摂取率が亢
進している患者ではバイパス術が推奨される 40).
ミド負荷)を行うことが推奨される.
(注)脳血管予備能:脳血流量は炭酸ガス吸入やアセタ
我が国で行われた RCT である JET study では安静時脳
ゾラミド静注にて通常 50%程度増
血流量が正常値の 80 %以下,脳血管予備能が 10 %以下
加するが,血管に狭窄性病変があ
の症例でバイパス術の効果が証明された.
ると増加率が減少する.
脳虚血症状を有するもやもや病患者においては,直接
過灌流症候群:血行再建後に起こる急激な脳血流
的脳血行再建術である EC-IC バイパスや,浅側頭動脈,
増加により頭痛やけいれん,時に
帽状腱膜,硬膜,側頭筋を用いた間接血行再建術が推奨
脳出血が報告されている.
される 40).
2)無症候性頚動脈狭窄症
無症候性の高度頚動脈狭窄(60 %∼ 99 %)では,抗
血小板療法を含む最良の内科的治療に加えて,周術期死
亡及び合併症発症率が 3%未満の治療成績を有する施設
3
くも膜下出血(脳動脈瘤破裂)の治療
①初期治療
において CEA を行うことが推奨される(レベル A)33),34).
発症直後は再出血が多いため,なるべく安静を保ち侵
適応患者の選択においては,合併症,性,年齢(75
襲的な検査や処置はさけ,速やかに専門施設に搬送する.
歳未満),余命(5 年以上),患者の希望,その他の個人
再出血防止のためには,十分な鎮痛・鎮静が必要であり,
的因子を注意深く考慮する.女性では症候性狭窄と同様
静注用の降圧剤等を用いて厳格な降圧を行う(レベル
に CEA の効果が比較的少ないことが知られている
37)
.
②頚動脈ステント留置術
(carotid artery stenting:CAS)
1)症候性頚動脈狭窄症
A).ただし重症例では不用意な降圧は脳灌流圧の低下
を招く危険があるので慎重に行う.抗線溶薬の投与は再
出血を減少させる傾向とともに脳虚血合併症を増加する
傾向があり,全体としての転帰改善につながらないので
日常的に使用することは支持されない 41).すべての抗凝
CEA の適応となる症候性の高度頚動脈狭窄で,手術
固薬や抗血小板薬は中止する.抗凝固薬はビタミン K,
到達が困難,CEA の手術リスクを増加する内科的疾患
新鮮凍結血漿,第Ⅸ因子複合体(保健適応未承認)など
を有する患者,または他の特殊な状況(放射線照射後狭
で中和し,破裂脳動脈瘤が完全に処理されるまで再開し
窄,
CEA 後再狭窄)があれば CAS を考慮してもよい(レ
ない 41).
38),39)
ベル B)
.放射線照射後狭窄や CEA 後再狭窄は頚動
くも膜下出血急性期,特に重症例では心電図で QT 間
脈ステント留置術の良い適応と考えられている.CAS
隔の延長,T 波の異常,ST の変化などが見られること
の周術期死亡及び合併症発症率は CEA に準じた成績が
がある.最近ではたこつぼ型心筋障害をきたすことも知
求められる.
られている.不整脈もしばしばみられ,時に致死的不整
2)無症候性頚動脈狭窄症
脈も出現する.
CEA の適応となる無症候性高度(頚動脈ステント留
神経原性肺水腫が見られることもあり,呼吸不全とピ
置術の場合は 80 %以上とされる)頚動脈狭窄症患者の
ンク色の泡沫状喀痰が特徴である.
うち,CEA の手術リスクが高い場合には,CAS も妥当
38)
な選択肢となる(レベル B)
.しかし報告された周術
期合併症率や脳梗塞・死亡の発生率からは,この群にお
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
1477
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006−2007 年度合同研究班報告)
の変化がないかどうか半年から 1 年ごとの画像による経
②外科的治療
過観察を行うことが推奨されている 43).また観察期間中
軽度∼中等度の症例(意識障害が軽度で傾眠程度まで)
は喫煙,大量の飲酒をさけ,高血圧を治療する 43).観察
では,全身状態や治療難度が許せば早期(発症 72 時間
期間中の抗血小板薬や抗凝固薬の使用についてはエビデ
以内)に脳動脈瘤の再出血予防処置(開頭クリッピング
ンスが少なく,各症例ごとに適否を検討すべきである.
)
またはコイル塞栓術)を行う 41(レベル
A).比較的重症
例では,患者の年齢,動脈瘤の部位等を考慮し再出血予
防処置の適応を検討する 41).
最重症例(昏睡状態)では,原則として急性期の再出
血予防処置の適応はない 41).しかし意識障害の原因が脳
冠動脈疾患に合併する
頚動脈病変への対応
①冠動脈疾患に合併する頚動脈病変の診断手順
内血腫や急性水頭症の場合はこれらに対する外科的処置
冠動脈疾患患者全例に脳動脈及び頚動脈の精密検査を
を行う.
行う必要はない.しかし冠動脈病変を有する患者では,
慢性期に水頭症を合併する患者では脳室腹腔短絡術が
頚動脈狭窄病変を合併することが多く,リスクの高い症
行われる.
例については頚動脈エコー検査,頭部 MRI 及び頭頚部
MRA 検査をスクリーニング検査として行うことが勧め
③治療法の選択
られる.左主幹部病変患者,脳梗塞・TIA 既往患者では
再出血予防処置としては開頭術(主にクリッピング術)
年齢に関わらずスクリーニングを行う.高度の頚動脈病
と血管内治療(主にコイル塞栓術)がある.いずれの処
変を有する症例では,脳血行動態の程度により,脳梗塞
置を行うかは重症度,脳動脈瘤の部位や形状,治療難度,
発症のリスクが大きく異なるため,心疾患に外科的治療
年齢,合併症などより総合的に判断する 41).最近の欧米
を行う場合は術前にダイアモックス負荷脳血流シンチを
の大規模試験では,いずれの治療法も可能とされた破裂
行い,脳血管反応性の低下の有無を検査することが勧め
脳動脈瘤の治療 1 年での無障害生存率は血管内治療群で
られる.図 4 に検査指針を示す.侵襲的治療が必要な冠
有意に高かった.したがって血管内治療が可能と判断さ
動脈病変と侵襲的治療が必要な頚動脈病変とは高率に合
42)
れる場合にはコイル塞栓術も考慮する (レベル B).一
併することから術前には頚動脈・脳動脈・冠動脈病変,
般的には開頭術が困難な場合や全身麻酔のリスクが高い
脳及び心筋の血流評価を行っておくことが望ましい(図
場合には血管内治療が選択される.
4).基本的な頚動脈病変のスクリーニング法として,
頚動脈エコー,頭頚部 MRA,頭部 MRI 検査を施行する.
④脳血管攣縮の予防・治療
拡散強調画像で高信号を呈するような急性期脳梗塞病変
脳血管攣縮はくも膜下出血後 4 ∼ 14 日に脳底部主幹
があれば,適切な抗血栓治療を行う.頚動脈エコー検査
動脈に生じる遅発性かつ可逆的狭窄であり,脳梗塞の原
では狭窄度(径,面積)とともに,動脈硬化の性状(安
因となりくも膜下出血の予後に影響する.脳血管攣縮を
定プラークか不安定プラークか)も評価する.最終的に
予防するためには手術時に血腫を排除したり,rt-PA や
CEA や CAS の適応を決める頚動脈の狭窄度の測定方法
urokinase の脳槽内投与,及びこれらの薬剤による脳槽
には ECST 法(径狭窄率)と NASCET 法がある(図 5)が,
灌流が行われる
41)
.また塩酸ファスジルの全身投与や,
攣縮血管の灌流領域の血流改善のため循環血液量増加療
法や血液希釈療法,人為的高血圧療法も行われる
41)
血行再建術を考慮する際の頚動脈狭窄の測定は
NASCET 法で評価する 44).特に中等度の狭窄例の治療
.血
方針決定には,正確な狭窄度評価が重要である.頚動脈
管内治療としては血管拡張剤の選択的動注療法と経皮的
高度狭窄例では術前に脳血流シンチ検査を行い,安静時
血管形成術が行われる
41)
.
⑤未破裂脳動脈瘤への対応
脳血流及び血管反応性を評価することが勧められる.高
度な頚動脈病変の合併例では,MR 検査による頭蓋内病
変及び頚動脈の tandem 病変の評価を行い,治療適応を
我が国の脳ドックガイドラインでは無症候性未破裂脳
個々の症例に応じて判断する.神経障害を有する患者の
動脈瘤が発見された場合,一般に脳動脈瘤の最大径が 5
冠動脈血流評価には薬物負荷心筋シンチグラフィー検査
∼ 7mm 以上で,余命が 10 ∼ 15 年以上あり,その他の条
が勧められる.
件が治療を妨げない場合に手術的治療を勧めるとしてい
る 43).手術が行われない場合は,脳動脈瘤の増大や形状
1478
4
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
脳血管障害,腎機能障害,末梢血管障害を合併した心疾患の管理に関するガイドライン
図 4 頚動脈病変の診断手順と治療方針
半年以内に脳梗塞や TIA の既往がある場合
基本スクリーニング
頚部血管エコー
頭部 MRI
頭頚部 MRA
(3D-CT)
脳梗塞急性期治療
MRI 拡散強調画像で急性期病変
あり なし
中等度もしくは高度頸動脈病変
あり なし
脳血管造影
脳血流シンチ
⇨
⇨
CEA 高リスクの中等度もしくは高度狭窄 ⇨
NASCET50%未満の軽度病変
⇨
NASCET 70%以上の高度狭窄
NASCET50∼69%の中等度狭窄
精査終了
CEA 適応
高度脳循環不全・不安定プラーク・
繰り返す TIA など CEA 適応考慮
CAS
薬物治療
半年以内に脳梗塞や TIA の既往がない場合
基本スクリーニング
頚部血管エコー
頭部 MRI
頭頚部 MRA
(3D-CT)
脳血管造影
脳血流シンチ
中等度もしくは高度頚動脈病変
あり なし
⇨
⇨
CEA 高リスクの中等度もしくは高度狭窄 ⇨
NASCET50%未満の軽度病変
⇨
NASCET 80%以上の高度狭窄
NASCET50∼79%の中等度狭窄
図 5 内頚動脈狭窄度の測定方法
精査終了
CEA 適応
高度脳循環不全・不安定プラーク・
繰り返す TIA など CEA 適応考慮
CAS
薬物治療
低減する効果が期待される.一般的には 140/90 mmHg
未満,糖尿病や慢性腎障害の合併例では 130/80 mmHg
NASCET狭窄率 (b−a)
/b×100%
径狭窄率
面積狭窄率
(c−a)
/c×100%
e/(e+f)
×100%
未満の降圧が推奨される.
頚部や脳内の主幹動脈の閉塞や高度狭窄を有する患者
では過度な降圧により血行動態性脳虚血を誘発する危険
性があり,特に脳梗塞急性期の降圧はさけるべきである.
冠動脈疾患と頚動脈病変を合併した高血圧患者には降
頚動脈狭窄の測定はいくつかの方法が
あるが血行再建術を考慮する際には
North American Symptomatic Carotid
Endarterectomy Trial(NASCET) と い
う大規模臨床試験で使われた NASCET
法で評価する.
②頚動脈病変と冠動脈病変合併例に対する
薬物治療と血行再建術
圧 薬 と し て ま ず ARB, ア ン ジ オ テ ン シ ン 変 換 酵 素
(angiotensin converting enzyme:ACE)阻害薬の使用が
推奨される.
B.糖尿病薬
糖尿病合併例はハイリスクであり,厳格な血糖管理が
頚動脈及び冠動脈病変の進展抑制に有効である.インス
リン抵抗性改善薬ピオグリタゾンの使用は心血管病を有
するⅡ型糖尿病患者の脳卒中予防に推奨される 45).
1)薬物治療
C.スタチン
A.降圧薬
頚動脈病変を伴う冠動脈疾患患者において,スタチン
降圧療法は冠動脈疾患と頚動脈病変の両方のリスクを
の投与は冠動脈疾患の再発予防効果と脳卒中の一次予防
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
1479
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006−2007 年度合同研究班報告)
効果があり,動脈硬化の進展予防及び退縮効果が期待で
きることから,積極的使用が推奨される
46)
.到達目標値
75 %以上であれば冠動脈バイパス術(coronary artery
は LDL コレステロール 100mg/dL 未満が推奨される.脳
bypus grafting:CABG)における脳血管合併症の独立し
出血のリスクが高まる危険性があるので,血圧の厳格な
た危険因子である.
管理を同時に行う必要がある.
1990 年代までの二期的手術では最も死亡率が低いの
D.抗血小板薬
は同時手術で 4 ∼ 6%であった.しかし off-pump 冠動脈
高度の頚動脈病変と冠動脈疾患には抗血小板療法が推
バイパス術のほか,薬剤溶出性ステントによる経皮的冠
奨される.全身動脈硬化のハイリスク患者に,どのよう
動 脈 イ ン タ ー ベ ン シ ョ ン(percutaneous coronary
な抗血小板薬を選択すべきか,あるいは併用療法と単剤
intervention:PCI)の適応拡大など低侵襲手術の進歩で
療法の優劣については十分なエビデンスがない.
脳合併症が減少した.エビデンスは確立していないもの
抗血小板薬併用療法は出血のリスクを有意に増加させ
の,頚動脈病変にもステント留置術が急速な進歩を見せ
るというエビデンスがあることから,たとえ両病変の合
ている.我が国の集計では CEA 全体の周術期合併症発
併例でも血管イベント予防を目的とした長期の併用療法
生率は 3.2%で,急性心筋梗塞の発症はわずか 0.2%と非
は積極的には推奨できない.
常に良好な成績であり,低侵襲な技術や周術期管理の進
頚動脈ステント留置では,いつまで併用療法を継続す
歩で安全に行われるようになってきている.
べきか,また単剤療法に移行する場合,どの抗血小板薬
C.頚動脈病変が合併する患者の冠動脈病変の手術
を残すかについてはエビデンスが十分ではなく,コンセ
両者の高度病変合併例に対する治療方針に一定したコ
ンサスが確立されていない.ACC/AHA のガイドライン
ンサンサスはないが関わる医療スタッフの特別な関心と
では,薬剤溶出型冠動脈ステント留置術後の脳卒中合併
脳神経外科医,心臓外科医,神経内科医,循環器内科医,
例ではアスピリン+チエノピリジン系抗血小板薬の長期
放射線科医の注意深い連携が治療成功の鍵である.また
併用で重篤な出血を助長する危険があるため,個々の症
脳梗塞発生率,手術死亡率と実施施設の手術数は反比例
47)
.抗
する.一般的には最大限の薬物治療を行い,症状のある
血小板薬の中断が必要となることが予測される症例で
方から手術するか,あるいは低侵襲の手術の方から行う
は,薬剤溶出型冠動脈ステントの使用は避けるべきであ
ことが多い.冠動脈病変と頚動脈病変のどちらにも手術
る.
適応がある場合には同時手術より二期的手術が勧められ
E.抗凝固薬
る.同時手術は我が国では経験者も少なく,普及してい
頚動脈病変に対する抗凝固療法の適応には一定のコン
ない.頚動脈,冠動脈両方の手術を必要とする患者の治
センサスはなく,冠動脈疾患に動脈解離,抗リン脂質抗
療戦略に関しては確立した一定の方針はない.頚動脈病
体陽性,偽閉塞例などで虚血性脳卒中を繰り返す症例,
変を合併した冠動脈手術適応例において,まず頚動脈病
脳静脈血栓症を伴う例,急性心筋梗塞及び脳梗塞併発例
変に対し CAS を施行し,すぐに CABG を行う治療戦略
などで一定期間の抗凝固療法(ヘパリン,
ワルファリン)
の有効性を示した報告もある 48).心臓以外の手術の術前
が推奨される(レベル B).
精査で検出した冠動脈病変に対し,術前の冠動脈へのイ
2)侵襲的治療の必要な頚動脈病変と冠動脈病変合併例
ンターベンションが周術期の転帰を改善するというエビ
例で併用期間を慎重に検討することが勧められる
デンスはない 49).侵襲的治療が必要な冠動脈病変を有す
の治療方針
A.頚動脈病変の治療
る患者で,急性期脳梗塞を有する場合は,脳循環障害の
冠動脈病変のリスクが中等度以下の患者では,CEA
回復に配慮した手術時期の決定が望まれる.
が勧められる.CEA のハイリスク例(重症心不全,重
弁置換術の対象例に頚動脈病変の合併率が高いという
症肺疾患,対側頚動脈閉塞,頚部手術または放射線治療
エビデンスはないが,リスクの高い患者では頚動脈病変
の既往,CEA 再狭窄,80 歳以上)においては CAS の有
を評価することが奨められる.頚動脈病変が存在すれば
38)
効性が示唆されている(レベル B) .
B.手術のリスクと治療選択
頚動脈病変合併のない冠動脈バイパス術の周術期合併
症の頻度は 1 ∼ 2%以下であるが,頚動脈狭窄病変が高
度になるほど合併症の頻度が高くなる.両側高度狭窄,
または一側閉塞+対側病変を有する場合の脳梗塞発症リ
1480
スクは 20 %に上る.無症候性頚動脈狭窄でも狭窄度が
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
CABG と同様の対処でよい.
脳血管障害,腎機能障害,末梢血管障害を合併した心疾患の管理に関するガイドライン
4
心疾患治療と脳血管障害治療
との関わり
3)抗凝固療法
ヘパリン,低分子ヘパリン,ヘパリノイドの静脈内投
与による早期抗凝固療法は,脳卒中の早期再発予防,進
行性脳卒中の進行阻止,転帰の改善を目的とした急性期
1
虚血性脳卒中の治療としては推奨できない 40),47),50).
薬物療法
我が国ではトロンビン阻害薬のアルガトロバンが発症
後 48 時間以内のアテローム血栓性脳梗塞に適応承認さ
①脳血管障害の急性期治療
れている 40),51).
1)血圧の管理
早期抗凝固療法は,中等症から重症の脳卒中患者には
脳梗塞急性期には,降圧により梗塞巣が拡大して神経
重大な頭蓋内出血のリスクが大きいので推奨できない
症状が悪化する危険性があるので,原則として降圧薬は
47),51)
投与すべきではないが,大動脈解離,急性心筋梗塞,心
療法を開始すべきではない 14),47),51).
不全を合併している場合には慎重な降圧療法が推奨され
心房細動合併例では,抗凝固薬の静脈内投与による早
る 40),47),50).降圧薬の種類に関しては参考になるデータ
期抗凝固療法がワルファリンの経口投与よりも早期再発
がない.
予防に有効であるというエビデンスはなく,適応決定に
.血栓溶解薬の静脈内投与後 24 時間以内は抗凝固
血圧低下を生じた場合には原因を考える必要があり,
際しては出血合併症のリスクが増大することも考慮すべ
循環血液量の減少は補液により是正し,心拍出量の減少
きである 47),51).急性心筋梗塞や心内血栓を合併してい
をもたらす不整脈は治療すべきである 40),47),50).
るような早期再発リスクが非常に高い場合にはヘパリン
血栓溶解療法を予定している患者では,収縮期血圧
の静脈内投与から開始してワルファリンの経口投与に切
180 mmHg 以上または拡張期血圧 105 mmHg 以上の場合
り替える方法が考えられる 47),51).ただし,血栓溶解薬
に静脈投与による降圧療法が推奨される 40),47),50).
の静脈内投与の適応がある場合には血栓溶解療法が優先
2)血栓溶解療法
され,血栓溶解療法を行った場合には 24 時間以内の抗
発症後 3 時間以内の虚血性脳卒中のうち,CT や MRI
凝固療法は禁忌となる 14),47),51).
検査で虚血病巣を認めないか軽微な症例には,いずれの
脳梗塞の原因となった心疾患(心内塞栓源)の如何に
禁忌事項(表 6)にも該当しなければ,rt-PA(アルテプ
かかわらず,大脳半球性の大梗塞例や出血性梗塞例では
14)
ラーゼ)の静脈内投与の適応がある(レベル A) .
表 6 アルテプラーゼ静注療法の禁忌
既往歴
頭蓋内出血の既往
3 ヶ月以内の脳梗塞(TIA は含まない)
3 ヶ月以内の重篤な頭部・脊髄の外傷あるいは手術
21 日以内の消化管あるいは尿路出血
14 日以内の大手術あるいは頭部以外の重篤な外傷
治療薬の過敏症
臨床所見
痙攣
くも膜下出血(疑)
出血の合併(頭蓋内出血,消化管出血,尿路出血,後腹膜
出血,喀血)
頭蓋内腫瘍,脳動脈瘤,脳動静脈奇形,もやもや病
収縮期高血圧(適切な降圧療法後も 185mmHg 以上)
拡張期高血圧(適切な降圧療法後も 110mmHg 以上)
血液所見
血小板 10 万 /mm3 以下
ワルファリン内服中,PT − INR1.7 以上
ヘパリン投与中,APTT の延長(全治の 1.5 倍または正常範
囲を超える)
重篤な肝障害
急性膵炎
画像所見
CT で広汎な早期虚血性変化
CT/MRI 上の圧排所見(正中構造偏位)
抗凝固療法により重篤な脳出血を誘発し,転帰を悪化さ
せる恐れがあるので,早期抗凝固療法を行うべきではな
い 47),51)−53).
4)抗血小板療法
発症後 48 時間以内の脳梗塞にはアスピリン 160 ∼ 300
mg の経口投与が推奨される(レベル A)40),47),50)−52),54),
55)
.
我が国では,アスピリンの他にトロンボキサン A2 合
成酵素阻害薬であるオザグレルの静脈内投与が発症後 5
日以内の脳血栓症(非心原性脳梗塞)に適応承認されて
いる 40),51),55).
クロピドグレルの単剤やアスピリンとの併用は脳梗塞
急性期の治療としては推奨できない 47).脳梗塞急性期患
者におけるシロスタゾールやジピリダモールの単剤また
はアスピリンとの併用の有効性と安全性についてはエビ
デンスがない.
冠動脈疾患の既往があり,既にアスピリンやチクロピ
ジンを内服していた患者に脳梗塞や TIA を発症した場合
に他の抗血小板薬を追加して併用療法とする方法が考え
られるが,併用による上乗せ効果が明らかとはいえず,
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
1481
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006−2007 年度合同研究班報告)
出血のリスクが大きくなる可能性があるので,個々の症
法に移行する場合,どちらの抗血小板薬を残すのがよい
例でリスク・ベネフィットを勘案して適応を決定すべき
のかについてはエビデンスが十分ではなく,コンセンサ
である
34),56),57)
スが確立されていない.
.
冠動脈ステント留置後,アスピリンとチクロピジンを
冠動脈疾患と虚血性脳血管障害の合併例で頚部または
併用している患者で脳梗塞を発症した場合,さらに第 3
頭蓋内の動脈に狭窄を認める場合にどのような抗血小板
の抗血小板薬を併用することの有効性や安全性について
薬を選択すべきか,あるいは併用療法と単剤療法の優劣
はエビデンスが確立されていない.冠動脈ステント留置
については十分なエビデンスがないが,症候性頭蓋内動
後アスピリン・クロピドグレル併用内服患者を対象とし
脈狭窄患者ではアスピリンはワルファリンより安全であ
たシロスタゾールのプラセボ対照二重盲検比較試験では
るが,再発予防効果が十分ではなく 24),アスピリンとシ
シロスタゾールの再狭窄予防効果が報告されている 58).
ロスタゾールの併用療法はアスピリン単剤療法より頭蓋
5)抗浮腫療法
内動脈狭窄進展抑制効果が優れていたと報告されている
急性期脳梗塞患者では浸透圧利尿薬であるグリセロー
60)
ルの静脈内投与は急性期死亡減少効果があると報告され
アスピリンとシロスタゾールの併用療法とアスピリン単
ているが,長期の転帰改善効果は明らかではなく,心不
剤療法の比較試験が進行中である 61).
全合併例では心不全症状を悪化させる可能性があるので
2)抗凝固薬
避けるべきである
動脈解離を合併した脳梗塞または TIA 患者には 3 ∼ 6
40)
.
6)抗酸化療法
ヶ月間のワルファリン療法または抗血小板療法とその後
発症後 24 時間以内の脳梗塞には脳梗塞の病型や冠動
の長期間の抗血小板療法が推奨される 34),62).
脈疾患の合併の如何にかかわらずラジカルスカベンジャ
先天性血栓性素因を合併した虚血性脳血管障害と冠動
ーであるエダラボンの静脈内投与の適応があるが,腎障
脈疾患の合併例では臨床症状や血液凝固検査所見を考慮
害合併例,高齢者,重症脳卒中例では慎重に適応を考慮
しながら短期または長期のワルファリン療法の適応があ
する必要がある
40)
るが,深部静脈血栓症が存在しない場合には抗血小板療
.
②虚血性心疾患と脳血管障害の合併例の慢性期治療
法でもよい 34),63).虚血性脳血管障害や冠動脈疾患を繰
り返す先天性血栓性素因患者では長期の抗凝固療法が推
1)抗血小板薬
奨される 34),64).
虚血性脳血管障害と冠動脈疾患はアテローム血栓症と
抗リン脂質抗体陽性の虚血性脳血管障害と冠動脈疾患
総称され,いずれも血小板依存性疾患病態であり,再発
の合併例にはプロトロンビン時間国際標準比
予防には抗血小板療法の適応がある(レベル A)34),40),47),
(international normalized ratio:INR)2 ∼ 3 の ワ ル フ ァ
50),51),59)
リン療法が推奨される 34),65).
症例が多く,血管イベントリスクが高いと考えられるの
冠動脈疾患を合併した脳静脈血栓症患者にはヘパリン
で強力な抗血小板療法が必要であるとの考えから,併用
療法の適応があり,その後 3 ∼ 6 ヶ月間ワルファリン療
療法が行われることが多い.しかしながら,アスピリン
法を行い,抗血小板療法に切り替える方法が推奨される
単剤療法と比べてアスピリンと他の抗血小板薬の併用療
34),40),50)
法が明らかに血管イベント(脳卒中,心筋梗塞,血管死)
3)降圧薬
予防効果に優れているとはいえず,出血のリスクは有意
冠動脈疾患と虚血性脳血管障害の合併例における至適
に増加するというエビデンスがあることから,たとえ両
血圧値を検討したエビデンスはないが,降圧療法は冠動
疾患が合併していても長期の血管イベント予防を目的と
脈疾患と虚血脳血管障害の両方のリスクを低減する効果
.両疾患の合併例は全身の動脈硬化が進行した
34),
.
した併用療法は積極的には推奨できない(レベル C)
が期待される 66).
56),57)
画一的な降圧目標は設定すべきでなく,個々の症例の
冠動脈ステント留置例ではアスピリンとクロピドグレ
病態やリスクの高さに応じて個別に降圧目標を設定すべ
ルの併用療法がアスピリン単剤療法より予防効果に優れ
きである 34)が,すべての症例において 140/90 mmHg 未
ているというエビデンスがあるので,脳血管障害の既往
満の降圧は最低限の降圧レベルである 66).糖尿病や慢性
.
1482
.現在,日本人の症候性頭蓋内動脈狭窄患者において
がある冠動脈ステント留置例でも,このような併用療法
腎障害の合併例では 130/80 mmHg 未満の降圧が推奨さ
が推奨される 34).脳血管障害を合併した冠動脈ステント
れる 66).
留置例でいつまで併用療法を継続すべきか,また単剤療
安定狭心症,不安定狭心症,非 ST 上昇型心筋梗塞,
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
脳血管障害,腎機能障害,末梢血管障害を合併した心疾患の管理に関するガイドライン
ST 上昇型心筋梗塞患者では 130/80 mmHg 未満の降圧が
併用療法は INR2 ∼ 3 のワルファリン療法より脳卒中を
推奨される.左室機能不全患者では 120/80 mmHg 未満
含む血栓塞栓イベントの予防効果が明らかに劣っていた
の降圧が推奨される
67)
という大規模臨床試験の成績が最近示されたことから,
.
頚部や脳内の主幹動脈の閉塞や高度狭窄を有する患者
抗血小板薬の併用療法は心房細動を伴った脳梗塞・TIA
では急激で,過度な降圧により血行動態性脳虚血を誘発
患者の脳卒中予防には推奨できない(レベル B)34),70).
する危険性があるので注意が必要である.
3)抗凝固薬と抗血小板薬の併用療法
冠動脈疾患と虚血性脳血管障害の合併例で,心房細動
NVAF に冠動脈疾患を合併している場合には,ワルフ
や糖尿病を合併した高血圧患者には降圧薬として ACE
ァリンでは冠動脈疾患の再発を予防しにくいので抗血小
阻害薬や ARB の使用が推奨される 68).
板薬の併用が考えられるが,このような症例におけるワ
4)冠拡張薬
ルファリンと抗血小板薬の併用効果についてはエビデン
一般的には,冠拡張薬の投与に伴う全身血圧の緩徐な
34)
スが確立していない(レベル C)
.また,ワルファリ
低下は脳血管障害の再発リスクにも好ましい影響を及ぼ
ンと抗血小板薬の併用は各々の単独投与と比べて明らか
すと考えられるが,頚部や脳内の主幹動脈の閉塞や高度
に出血リスクが高まるので,個々の症例のリスク・ベネ
狭窄を有する患者では,硝酸薬(ニトログリセリンなど)
フィットを勘案して適応を決定すべきである 71).NVAF
などの冠拡張薬の投与により急激で,過度な降圧が生じ
を合併した冠動脈ステント留置例ではアスピリンとチエ
ることにより血行動態性脳虚血を誘発する危険性がある
ノピリジンの併用に加えてワルファリンの投与が必要と
ので注意が必要である 68).
なるが,このような症例における抗血栓療法の有効性と
5)スタチン
安全性はエビデンスが十分ではなく,コンセンサスは確
冠動脈疾患患者においてスタチンの投与は冠動脈疾患
立されていない(レベル C).
の再発予防効果と脳血管障害の一次予防効果があり,脳
高度の頚動脈狭窄に対して CEA や CAS を施行された
血管障害患者においてもスタチンの投与は脳血管障害の
NVAF 例についても同様であり,このような症例ではし
再発予防効果と冠動脈疾患の一次予防効果があるので高
ばしば抗血小板薬の併用療法が行われているが,強力な
コレステロール血症を伴った脳血管障害と冠動脈疾患の
抗血小板療法に加えて,さらにワルファリンを併用する
12),
合併例にはスタチンの投与が推奨される(レベル A)
ことの有効性と安全性に関するエビデンスに乏しく,コ
34),46),69)
ンセンサスは得られていない(レベル C).
.スタチンの到達目標値は LDL コレステロール
100 mg/dL 未満が推奨される .
12)
高血圧を合併した脳血管障害患者ではスタチンの投与
により脳出血のリスクが高まる危険性があるので,血圧
の厳格な管理を同時に行う必要がある
69)
.
③心房細動患者の脳塞栓症予防
④心房細動以外の心疾患に伴った脳塞栓症予防
1)急性心筋梗塞,左室血栓,心筋症
急性心筋梗塞及び左室血栓を伴った脳梗塞患者では,
INR2 ∼ 3 のワルファリン療法を少なくとも 3 ヶ月,症例
によっては 1 年間継続する 34).拡張型心筋症を伴った脳
1)抗凝固療法
梗塞または TIA 患者では,INR2 ∼ 3 のワルファリン療
虚血性脳血管障害(脳梗塞または TIA)の既往を有す
法が推奨されるが,抗血小板療法との優劣はエビデンス
る NVAF 患者にはワルファリンの適応がある(レベル A)
34)
がない(レベル C)
.
.ワルファリンの強度は通常 INR2 ∼ 3(目標値
34),40),51)
2)心臓弁膜症
2.5)が推奨されるが,70 歳以上の NVAF 患者ではワル
リウマチ性僧帽弁膜症を伴った脳梗塞または TIA 患者
ファリンによる出血リスクも高いので INR1.6 ∼ 2.6(目
は心房細動合併の如何にかかわらず INR2 ∼ 3(目標値
標値 2.0 ∼ 2.1)が推奨される
2.5)の長期にわたるワルファリン療法が推奨される(レ
40),51)
.
2)抗血小板療法
34),51)
ベル B)
.抗血小板薬の併用は出血のリスクを増大
虚血性脳血管障害の既往を有するような高リスクの
させるので一般的には推奨できないが,ワルファリン療
NVAF 患者におけるアスピリンの脳卒中予防効果は INR
法施行中に塞栓症が再発した場合には低用量アスピリン
で調節したワルファリン療法より明らかに劣っているの
34)
の追加が推奨される(レベル B)
.
で,アスピリンの投与は推奨できない(レベル A)34),40),
脳梗塞または TIA を発症した僧帽弁逸脱症患者には長
51)
期の抗血小板療法が推奨される 34).
スクの NVAF 患者では,アスピリンとクロピドグレルの
塞栓源が石灰化片であることが記載されていない僧帽
.脳梗塞や TIA の既往を有する NVAF 患者を含む高リ
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
1483
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006−2007 年度合同研究班報告)
弁輪石灰化症を伴った脳梗塞または TIA では抗血小板療
症例に虚血性脳血管障害を発症したらワルファリン療法
法が推奨される.心房細動を伴わず,僧帽弁輪石灰化に
34),51)
が推奨される(レベル B)
.
起因する僧帽弁逆流患者では抗血小板療法が推奨され
心房細動に対する肺静脈へのカテーテルアブレーショ
る 34).
ンでは,前向きの大規模臨床試験のエビデンスはないが,
心房細動を合併していない大動脈弁膜症と脳梗塞また
経験的に積極的な抗凝固療法が行われており,アブレー
は TIA の合併患者では抗血小板療法が推奨される 34).
ション後 24 時間はヘパリン,その後は 1 ∼ 3 ヶ月間ワル
脳 梗 塞 ま た は TIA を 生 じ た 人 工 弁 置 換 患 者 で は
ファリンが投与される 51).しかしながら,その後も心房
INR2.5 ∼ 3.5(目標値 3.0)の強力なワルファリン療法
細動が再発しない保障はないので,虚血性脳血管障害合
が推奨される(レベル A)34).ワルファリン療法にもか
併例ではワルファリン療法の継続が推奨される.
かわらず脳梗塞または TIA を再発した人工弁置換患者に
4)卵円孔開存
は低用量アスピリンの併用が推奨される(レベル B).
虚血性脳血管障害と卵円孔開存の合併患者では抗血小
脳梗塞または TIA を生じた生体弁置換患者で,他の塞栓
板療法と抗凝固療法の再発予防効果は差がないので抗血
源がない場合には INR2 ∼ 3 のワルファリン療法が推奨
小板療法でよいが,抗リン脂質抗体症候群や先天性血栓
34)
される(レベル B)
.
性素因のような血液凝固異常症や深部静脈血栓症を合併
感染性心内膜炎患者では抗生物質の大量投与による感
しているような高リスク患者ではワルファリン療法が推
染症の治癒を優先すべきであり,抗凝固療法は脳塞栓症
34)
奨される(レベル B)
.抗血小板療法中に虚血性脳血
の予防効果がなく,細菌性脳動脈瘤破裂による頭蓋内出
管障害を再発した卵円孔開存患者にはワルファリン療法
血のリスクが高いため禁忌である
34),51)
.人工弁に起因
する感染性心内膜炎に対しては原則として出血に注意し
5)補助循環
ながら抗凝固療法は継続するが,脳塞栓症を合併した場
大 動 脈 バ ル ー ン パ ン ピ ン グ(intra-aortic baloon
合には抗凝固療法を中止し,CT 所見により再開時期を
pumping:IABP)挿入後は未分画ヘパリン 1 万単位 / 日
決定する
34),51)
.人工弁に起因する感染性心内膜炎に手
術を考慮しなければいけない場合にはヘパリンの静脈内
を静脈投与し,活性化凝固時間(activated coagulation
time:ACT)を 200 秒前後に維持することが望ましい 1).
投与に切り替えておく 34),51).感染性心内膜炎の脳塞栓
経 皮 的 心 肺 補 助(percutaneous cardiopulmonary
症予防にアスピリンが有効であるとのエビデンスはな
support:PCPS)開始時には全身ヘパリン化(100 単位 /
い 34).
kg)を行う 51).駆動開始後,ヘパリンコーティング回
非細菌性血栓性心内膜炎(NBTE)では,反復性の塞
路を用いる場合に ACT を 180 ∼ 200 秒前後に維持するよ
栓症を生じる場合,特に凝固亢進状態が存在する場合に
うにヘパリンを投与する 51).通常回路を用いる場合には
は抗凝固療法が行われるが,その有効性は証明されてい
ACT を 250 ∼ 300 秒に維持する 51).なお,離脱を計るた
ない
めに流量を 2L/ 分以下にする場合には目標 ACT を増加
34),51)
.
3)心房細動以外の不整脈
する 51).
心房細動を合併した心房粗動患者でも心房細動患者と
補助人工心臓(ventricular assist system:VAS)装着
同程度に脳卒中リスクが高いので,このような症例に虚
手術時には,通常の体外循環を用いた手術と同様に行う
血性脳血管障害を生じたらワルファリン療法の適応とな
51)
34),51)
る(レベル B)
.
.また,体外循環終了後はプロタミンでヘパリンの中
和を行う 51).装着手術後早期には,術前の心不全による
アダムスストークス症候群の原因となる心疾患のう
影響,手術及び体外循環により出血傾向にあることに留
ち,洞不全症候群は完全房室ブロックより塞栓症の発症
意し,システムに応じた抗凝固・抗血小板療法を開始す
率が高く,洞不全症候群の中での徐脈頻脈症候群で頻度
る 51).安定状態に入れば,臨床症状に応じて維持期の抗
が高い
51)
.したがって,洞不全症候群,特に徐脈頻脈症
候群患者に虚血性脳血管障害を生じたら脳塞栓症の可能
性が高いのでワルファリン療法が推奨される(レベル
B)34),51).
洞不全症候群に対して VVI 型ペースメーカを植え込
1484
34)
が推奨される(レベル C)
.
凝固・抗血小板療法を行う 51).
2
心疾患の非薬物療法
①心大血管手術の周術期脳卒中の頻度と危険因子
んだ患者では AAI 型のような生理的ペースメーカを植
欧米での周術期脳卒中の頻度は CABG で 1.4 ∼ 3.8%,
え込んだ患者より塞栓症発症率が高いので,このような
大動脈置換術では 8.7%程度とされているが,弁置換術
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
脳血管障害,腎機能障害,末梢血管障害を合併した心疾患の管理に関するガイドライン
での合併頻度が非常に高く 4.8 ∼ 8.8%となっている 72).
我 が 国 で の 周 術 期 脳 卒 中 の 発 症 率 は 1996 年 7 月 か ら
1997 年 12 月までの間,循環器病委託研究で調査した国
立循環器病センターでの調査結果では,CABG で 1.2%,
大動脈弓部置換術で 6.3%,弁置換術では 1.3%と欧米に
比較して頻度が低かった.
周術期脳卒中は大半が脳梗塞であるが,術中に生じた
と考えられるものが 45 %で,術後麻酔覚醒後に生じた
もの 50 %程度とされている.脳卒中が生じたのがどの
時期によりメカニズムが大きく異なり対策も異なってく
る.最近のコンセンサスでは術中に生じる脳梗塞は大半
が大動脈粥腫などからの塞栓で,灌流圧の低下のみによ
るものは少ないと考えられている 72).術後一度麻酔から
覚醒した後に生じる脳梗塞は心房細動が最も大きな原因
であるが,最近は後述するヘパリン起因性血小板減少症
(heparin-induced thrombocytopenia:HIT)によるものも
注目されている.
術前に評価できる危険因子は表 7 のようなものがあげ
られている.術前に危険率を予測するためのスコアも提
案されている(表 8)73).
②周術期脳血管障害の予防対策
術中に発症する脳卒中の予防対策としては,動脈硬化
表 8 CABG 施行例の周術期脳卒中リスク推測モデル
(文献(74)より改変)
危険因子
年齢
60 ∼ 69 歳
70 ∼ 79 歳
80 歳以上
緊急手術
準緊急
緊急
女性
Ejection fraction 40%以下
血管疾患 *
糖尿病
クレアチニン 2mg/dl 以上または透析
総点数
0∼1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
重み付け
1.5
2.5
3.0
1.5
3.5
1.5
1.5
1.5
1.5
2.0
脳卒中リスク(%)
0.4
0.6
0.9
1.3
1.4
2.0
2.7
3.4
4.2
5.9
7.6
> 10.0 * 血管疾患は脳梗塞,TIA,血管手術施行例,頚動脈狭窄,下
肢切断を含む.
の強い症例では大動脈粥腫からの塞栓が最も大きな問題
と な る の で, で き る だ け 大 動 脈 に 触 れ な い no touch
クの高い症例には off pump CABG が推奨される(レベ
technique,大動脈粥腫を術中エコーで確認しながら送
ル B).
血管や脱血管を挿入したり,クランプをかけるなどの注
術後,一度麻酔から覚醒した後に生じる脳梗塞の最大
意が必要である(レベル B).術後脳障害が生じるリス
の原因は AF である.心大血管手術の後 30 ∼ 50 %に一
過性心房細動が生じると報告されており,抗不整脈剤の
表 7 周術期脳血管障害の危険因子(文献(73)より改変)
〈術前の危険因子〉
高齢者(70 歳以上)
女性
高血圧,糖尿病,腎機能障害(クレアチニン >2mg/dl),
喫煙,慢性閉塞性肺疾患,末梢血管疾患,心疾患(冠動
脈疾患,不整脈,心不全)
,収縮障害(ejection function
<40%)
脳卒中,TIA の既往
頚動脈狭窄(特に症候性)
上行大動脈の粥状硬化
抗血栓薬の中断
〈術中の危険因子〉
手術の種類や手技
麻酔の種類
手術時間,心肺バイパスや大動脈クランプの時間
大動脈粥腫病変の操作法
不整脈,低血糖,低血圧,高血圧
〈術後の危険因子〉
心不全,低心機能,心筋梗塞,不整脈(心房細動)
脱水,失血
高血糖
投与などによる心房細動の予防,術後の心電図モニタリ
ング,心房細動が起こった場合の抗凝固療法が対策とし
74)
てあげられる(レベル B)
.
③ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)
最近欧米では心大血管手術後の HIT が注目を集めてい
る.心大血管手術中にヘパリンを使用した症例の約 50
%に抗ヘパリン─血小板第 4 因子複合体 抗体(抗 PF4/
heparin 抗体)が出現するとの報告があるが,抗体陽性
例がすべて HIT を発症するわけではなく術後,静脈血栓
塞栓症の予防のために,未分画ヘパリン継続投与した場
合には,HIT 発症割合は全体の 1 ∼ 3%といわれている.
通常ヘパリン投与開始後 5 ∼ 10 日で発症するが,抗体
陽性例にヘパリンを投与すると数分から数時間で発症す
ることもある.また,ヘパリン中止後,しばらくしてか
ら(約 3 週間後までに)発症することもまれながらある.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
1485
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006−2007 年度合同研究班報告)
日本での HIT 発症率はまだ明らかではないが,急性期脳
心肺使用など)では,抗 PF4/heparin 抗体が陰性化する
卒中症例の後向き調査では 0.5%という報告がある.ヘ
まで待機し,必要最低限のヘパリンを一時的に使用する
パリン使用例では,血小板数の変動に注意が必要である.
ことが推奨されている.
臨床診断には 4T’s スコアリングシステム 75)が有用と
HIT の予防には不必要なヘパリンの投与を避けること
されている(表 9).我が国で,よく用いられている血
が重要である.例えば CABG 術後にバイパス血管の開
清学的診断法は,酵素結合免疫吸着結合(enzyme-linked
存を確かめるためカテーテル検査がしばしば行われてい
immunosorbent assay:ELISA) 法 に よ る 抗 PF4/heparin
るが,multidetector-row CT(MDCT)で代用できるな
抗体を測定する方法であるが,しかしながら ELISA 法
らヘパリンにさらされることもない.また末梢ルートを
で陽性であっても HIT を発症する患者はその一部であ
一時的にロックする場合にヘパリン生食をフラッシュす
り,より特異度の高い診断法である functional assay との
ることが多いが,ただの生理的食塩水でも閉塞率に変わ
解離があることが指摘されており,血清学的診断のみで
りがないといわれている.
は確実に診断することは現時点では難しい.
治療に関してはまず HIT の可能性が高ければまずヘパ
リンを中止することが最も大事である.その後,表 10
の HIT 治療ガイドライン
76)
に沿って治療することが望ま
④心大血管手術後の高次脳機能障害
CABG 術後の高次脳機能障害は直後には約 40 %に認
められると報告されている.半年から 1 年後に大半は術
しいが,我が国ではアルガトロバンが最もよく用いられ
前のレベルに回復するとされていたが,5 年間の長期フ
ている.また抗 PF4/heparin 抗体は通常の抗原抗体反応
ォローのデータで再び高次脳機能低下する症例が多いと
と異なり,平均で 50 日から 85 日程度(検査方法より異
の報告もあり術後の障害として注目を集めている 77).術
なる)で陰性化するといわれている.抗体が陰性化した
中に用いる人工心肺が原因のひとつといわれ,off-pump
後はヘパリンを再使用しても HIT が再発する頻度は低い
手術との無作為比較試験が行われたが有意差は認められ
との報告が増加している.したがって,HIT 発症患者で,
なかった 78).
どうしてもヘパリンの使用が必要な患者(例えば,人工
CABG 以外の心大血管手術の影響についてはまだほ
とんど報告がない.しかし人工心肺や脳分離体外循環な
表 9 4T’s スコアリングシステム(文献(75)より改変)
1.血小板減少(Thrombocytopenia)
2 点:最低値が 2 ∼ 10 万 /μL(少なくとも30%以上の低下)
もしくは 50%を超えた低下(ただし 2 万 /μL 以上)
1 点:最低値が 1 万 /μL ∼ 2 万 /μL 未満もしくは 30 ∼ 50
%の減少(あるいは心臓外科手術後 50%を超える減少)
0 点:最低値が 1 万 /μL 未満または 30%未満の減少
2.血小板減少,血栓症,その他の続発症の発生時期(Timing
of platelet count fall, thrombosis or other sequelae)
2 点:ヘパリン投与後 5 日∼ 10 日の明確な発症.もしく
は過去 30 日以内のヘパリン投与歴のある場合の 1 日
以内の発症
1 点:ヘパリン投与後 5 日∼ 10 日の不明確な発症(例え
ば過去に血小板数が測定されていなかった).10 日
以降の血小板減少.過去 31 日から 100 日以内のヘ
パリン投与歴のある場合の 1 日以内の発症
0 点:今回のヘパリン投与による 4 日以内の血小板減少
3.血栓症やその他の続発症(Thrombosis or other sequelae :
e.g. skin lesion, acute systemic reaction)
2 点:新たな血栓症の発症.皮膚の壊死.ヘパリン大量投
与時の急性全身反応
1 点:血栓症の進行や再発.皮膚の発赤.血栓症の疑い.
症状のない上肢の深部静脈血栓症
0 点:なし
4.他の血小板減少の原因がない(Other cause for thrombocytopenia not evident)
2 点:明らかに血小板減少の原因が他に存在しない
1 点:他に疑わしい血小板減少の原因がある
0 点:他に明確な血小板減少の原因がある
4 つのカテゴリーの点数の総和で判断
HIT である確率 6 ∼ 8 点:高い,4 ∼ 5 点:中間,0 ∼ 3 点:低い
1486
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
ど脳障害をきたしうる原因はあるので,CABG と同様に
表 10 HIT 治療ガイドライン(文献(76)より改変)
1.血栓を合併した急性期 HIT 患者に対しては以下の抗凝固薬
を使用
アルガトロバン
ダナパロイドナトリウム:数%以下に抗 PF4/heparin 抗
体との交差反応がみられる(国内添付文書では禁忌扱
い)
lepirudin:国内未発売
bivalirudin:国内未発売
2.血栓合併のない急性期 HIT 患者であっても,血栓を続発す
るリスクが高いため,上記の抗凝固薬を血小板数が回復
するまで使用.エコー検査にて深部静脈血栓症の検索が
必要.
3.急性期 HIT 患者に対しては,四肢壊疽を起こすリスクがあ
るため,ワルファリン単独治療は行わない.アルガトロ
バン,ダナパロイドナトリウム,lepirudin などのトロンビ
ン生成を抑制する薬剤を用いて適切な抗凝固がなされて
いる急性期 HIT 患者に対しては,ワルファリンの併用は安
全.しかし,
ワルファリンは,
血小板数が10万 /μl 以上
(15
万を推薦)に回復するのを待って,慎重に使用するべき.
維持量で開始し,最低 5 日間はトロンビン生成を抑制する
抗凝固薬と併用.血小板がプラトーに達し,少なくとも 2
日間 INR が目標値となるまでは,併用継続.
4.HIT/HITTS 発症時にワルファリンを使用していた場合には,
VKAs を用いてリバースを行う.
5.低分子ヘパリンは HIT 患者に対して禁忌.
6.急性期 HIT が疑われる患者に対して,アクティブな出血が
ある場合を除いて,予防的な血小板輸注を行わない.
脳血管障害,腎機能障害,末梢血管障害を合併した心疾患の管理に関するガイドライン
高次脳機能障害は生じている可能性が高い.
⑤脳血管障害急性期の心大血管手術
ビデンスはない.他の脳卒中病型より再発率が高いとい
う報告も多く治療法の確立が急務である.現在アスピリ
ン,クロピドグレルの併用療法と抗凝固療法の再発予防
一般に脳血管障害急性期症例の心大血管手術は少なく
効果を比較する研究(ARCH 試験)が進行中である.ま
とも 1 ヶ月以上経過した後に行うことが望ましいとされ
た内科治療抵抗例に対して大動脈置換術やステント留置
ている.これは術中にヘパリンを用いるため,出血性梗
術を施行したという報告もあるが少数例であり,適応は
塞の危険性があることと,脳梗塞急性期には脳循環自動
限られる.
調節能が障害されているためである.しかしラクナ梗塞
など小さな病巣の脳梗塞では,出血性梗塞を生じる危険
率はそう高くはないと考えられる.
最も手術時期が問題になるのは,感染性心内膜炎によ
3
生活管理の留意点
①食事について
る脳塞栓症の場合である.日本の retrospective study で
いくつかの観察研究で,食習慣は脳血管障害の発症に
は 1 ヶ月以上抗菌薬による治療を行った群の方が予後が
密接に関連することが示されている.食事は 1 日 3 回摂
よいとされているが,その間に再発する危険性も高い.
取し,欠食や間食,夜食を避けることが望ましい.年齢
しかし欧米では retrospective なデータではあるが,むし
や生活活動強度に応じたカロリーを設定し,男女とも
ろ早期に手術をした方が予後がよかったという報告もあ
body mass index(BMI)が 25 を超えないよう適正体重
る 79).梗塞巣の大きさや全身状態にもよるが,脳梗塞後
を維持する.肥満は高血圧,糖尿病,脂質異常症を助長
72 時間以内という早期に手術を行うという選択肢も考
するだけでなく,これら共通の病態基盤をもつ危険因子
慮してもよいと思われる.
が重複するとメタボリックシンドロームを発症しやすく
なる.減量には降圧効果があり,メタアナリシスによる
⑥ PCI
と 5.1kg の減量で血圧が 4.4/3.6mmHg 低下し 81),併せて
PCI 例では大動脈粥腫が合併していることも多いた
代謝指標や血管内皮機能異常も改善したとする報告もあ
め,カテーテル操作による脳塞栓症の危険性がある . 脳
る 82).減量と減塩を組み合わせると,血圧管理並びに心
梗塞の発症率は 0.3%程度と低値であるが,診断用カテ
血管病予防により有用であるとされている(レベル A).
ーテル検査で無症候性脳梗塞が高頻度に生じているとい
我が国の脳卒中治療ガイドライン 200440)では,「肥満は
う報告もあり,無症候性のものは PCI 中にも高頻度に生
脳卒中の危険因子であるという報告もあるが,否定的な
80)
.また心大血管手術より頻度は
報告もあり,再発予防を目的として肥満の治療を勧める
低いが,ヘパリンを用いるため HIT が生じる可能性があ
か否かは,十分な科学的根拠がない」との見解である.
る.
食塩の摂取は,欧米では大規模臨床試験の成績を根拠
じている可能性がある
⑦大動脈原性脳梗塞
に 6g/ 日未満が推奨されており(レベル A),我が国でも
高血圧治療ガイドライン 2004 で同様の食塩制限を目標
経食道心エコーの普及にともない,上行大動脈から弓
としている 66).AHA/ASA のガイドラインでは 2.3g/ 日
部大動脈粥腫が脳梗塞の塞栓源として重要であることが
以下が理想とされているが 12),ほとんどの加工食品や調
分かってきた.これまでの研究で,4mm 以上の粥腫,
味料に食塩が添加されているため,栄養学的に偏らず健
潰瘍のあるもの,可動性プラークが脳梗塞発症と関連性
全な減塩を実行することは極めて困難である.したがっ
が高いことが分かっている.検査法としては経食道心エ
て個々の患者に対する教育・指導に加え,社会全体での
コー検査が最も感度が高いが,食道との位置関係で死角
減塩キャンペーンを推進してゆくべきである.野菜・果
がある.らせん CT でも大動脈粥腫を検出できるが,解
物の摂取量が増加すると脳卒中リスクが減少することが
像度が劣り,可動性の評価はできない.
示されており,野菜・果物を十分に摂取し,食物繊維や
大動脈粥腫の危険因子は高血圧,糖尿病,高脂血症な
ビタミンが不足しないよう心がける.また,DASH83)な
どの粥状硬化の一般的な危険因子であるが,冠動脈病変
らびに DASH-Sodium84)では,野菜・果物の積極的摂取
との合併例が多いので冠動脈疾患に対して手術や血管内
及びコレステロール・飽和脂肪酸の摂取制限を同時に行
治療を行う場合には特に注意を要する.
うことにより降圧が期待できることが示唆され,複合的
大動脈原性脳梗塞に対しては,抗血小板剤や抗凝固薬
な食事の改善が推奨される(レベル A).また,必須脂
が使われているが,その有効性についてまだ明らかなエ
肪酸のうちリノール酸の摂取は長期的にはコレステロー
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
1487
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006−2007 年度合同研究班報告)
ルを低下させず,体内でアラキドン酸へ代謝され心血管
B).そのリスクは喫煙本数が多いほど大きく,受動喫
病の発症に影響することがわかってきている.
煙についても脳血管障害の危険因子であるとする報告が
多い(レベル C).我が国の脳卒中治療ガイドライン
②水分摂取について
2004[3]では,脳卒中一般の危険因子の管理として「喫
心疾患を有する患者が脳血管障害を合併した場合の水
煙者には禁煙が推奨される」,さらに脳梗塞慢性期での
分摂取に関して検討したデータはないが,一般に水分量
危険因子の管理と再発予防として「禁煙は,脳卒中の罹
は一日の尿量(約 1 ∼ 1.5L)を目安として摂取量を設定
患率及び死亡率の低下に有効とされる」としているが,
する.特に夏期や運動時など多量の発汗を伴う場合や下
いまだ十分な科学的根拠はないとの見解である.
痢,嘔吐がある場合は脱水に陥りやすいため,やや多め
疾患の予防には,医学的根拠に基づいて繰り返し強く
に摂取するよう心がける.慢性心不全や虚血性心疾患の
禁煙の動機付けを行う.日常診療の場で短時間に実施で
合併のため心機能が十分保たれていない場合には,個々
きる禁煙治療の方法としては,「5A アプローチ」が一般
の症例に応じた水分量を規定する必要がある.コーヒー,
88),89)
的に採用されている(表 11)
.禁煙を支援するにあ
紅茶,緑茶などに含まれるカフェインは,血圧上昇作用
たっては,カウンセリングや薬物療法(ニコチン代替療
や利尿作用を有するため,摂り過ぎないように注意する.
法)の併用や補助教材の活用,禁煙プログラムなどが有
また,糖分やカロリーを多く含んだものは避けるように
用である.脳血管障害を含む循環器疾患では,突然の疾
する.
患の発症によって半ば強制的な禁煙状態となり,喫煙者
にとって最大の動機付けとなる.急性期の強い禁煙指導
③運動について
のみならず,亜急性期及び慢性期に至るまで的確な禁煙
脳血管障害は高齢者に発症しやすく,患者はエネルギ
指導を継続することによって生涯の禁煙につなげる必要
ー消費に対する運動効率が低下していることが多い.継
がある.
続的な運動療法には降圧効果があり
85)
,糖尿病や肥満,
及びその他の心血管病の危険因子を改善し,脳卒中のリ
⑤飲酒について
スクも低下するとされている(レベル A).我が国でも,
多量飲酒はあらゆる病型の脳血管障害に対して危険因
軽度の有酸素運動は高齢者においても合併症なく降圧し
子となりうるエビデンスがあり,1 日 5 drink(1drink =
たという報告 86)があるので,単に高齢者であるからとい
アルコール 12g)飲酒する人は,飲酒しない人と比較し
って運動制限をする必要はない.一般に軽度の有酸素運
て脳血管障害のリスクが 1.69 倍になるとの報告がある.
動(最大酸素摂取量の 50 %程度の軽い運動)を 1 日 30
しかしながら,少量からの適量の飲酒は血管イベントの
分以上,できるだけ毎日定期的に行うことが適当とされ
予防的効果があるとする報告があり,HDL コレステロ
ている.しかし病態によって運動機能障害の程度は異な
ールの増加,血小板凝集の抑制,フィブリノーゲンの減
り,患者の活動性には心機能や運動機能の障害のみなら
ず,高次脳機能障害や気分障害など多くの因子が影響を
与える.これらの点を考慮し,症例ごとに運動療法の適
応や禁忌,リスクの評価を慎重に行う必要がある.また
転倒を予防する観点から,運動を行う環境の調整も必須
である.運動負荷試験は心臓リハビリテーションにおけ
る運動療法の適応を決定する上で有用であり,参考にな
ると考えられる.脳血管障害と心疾患それぞれの専門家
の指示に従って障害を多面的に判断し,運動療法を含む
包括的リハビリテーションを行うことが望ましい.
④禁煙について
メタアナリシスによると喫煙は脳血管障害の有意な危
険因子であり 87),これは疫学的にも確立されている.
AHA/ASA のガイドラインにおいて,脳血管障害の一次
)
予防において喫煙者の禁煙は強く推奨される 12(レベル
1488
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
表 11 禁煙サポートのための簡単な戦略― 5A アプローチ
ステップ 1:
Ask
ステップ 2:
Advise
ステップ 3:
Assess
ステップ 4:
Assist
診察のたびに,全ての喫煙者を系統的に同定す
る
全ての喫煙者に止めるようにはっきりと,強く,
個別的に忠告する
禁煙への関心度を評価する
患者の禁煙を支援する
◎患者が禁煙を計画するのを支援する
◎カウンセリングを行う(問題解決のスキル
トレーニング)
◎診察活動の中で,ソーシャル・サポートを
提供する
◎患者が医療従事者以外からソーシャル・サ
ポートを利用できるよう支援する
◎薬物療法の使用を勧める
◎補助教材を提供する
ステップ 5: フォローアップの診察の予定を決める
Arrange
文献(89,90)より改変引用
脳血管障害,腎機能障害,末梢血管障害を合併した心疾患の管理に関するガイドライン
少をきたすとの報告もある(少量とは,女性は 1 drink/
圧症や肥満,心脳血管イベント発生の危険因子になりう
日以下,男性は 2 drink/ 日以下を指す).我が国の脳卒中
ることは,各種疫学的調査で明らかにされている.181
治療ガイドライン 2004
40)
では,脳卒中一般の危険因子
名 の 症 例 対 照 研 究 で は,Sleep-Disordered Breathing
の管理として「脳卒中の予防には多量の飲酒を避けるべ
(SDB)症例で脳卒中発症の危険度が 3.07 倍であった.
きである」,さらに脳梗塞慢性期での危険因子の管理と
1,651 名の男性を対象として 10 年間行った観察研究によ
再発予防として「適量を超える飲酒は脳梗塞の発症を増
ると,無呼吸低換気指数(apnea hypoxia index;AHI)
加させるが,少量飲酒は脳梗塞の発症率を低下させる」
> 30 の 重 度 SDB 症 例 に お い て,fatal(OR 2.87;95 %
としている,少量飲酒が再発率を低下させるか否かは十
CI 1.17 ∼ 7.51) 及 び non-fatal(OR 3.17;95 % CI 1.12
分な科学的根拠がないとの見解である.現段階で推奨で
∼ 7.52)ともに心脳血管イベントの発生率が有意に高か
きるものとして,多量飲酒は避け,飲酒習慣のある人に
った.
関しては,男性では 2 drink/ 日まで,女性では 1 drink/ 日
SDB 自体のメカニズムに加え,睡眠障害による二次
までの飲酒は可とする.
的作用により高血圧症や心疾患(虚血性心疾患,不整脈)
⑥その他
1)年齢
の悪化,脳自動調節能の低下,免疫力低下,慢性感染症,
血 管 内 皮 障 害 等 が 惹 起 さ れ や す く な る と さ れ る.
Continuous positive airway pressure(CPAP)療法は,重
55 歳以上では,年齢が 10 歳上昇するごとに脳血管障
度 SDB に対する有効な治療法の一つとして確立されて
害の危険度が 2 倍になる.アンチエイジングに対する試
おり,SDB に対する適切な加療により良好な血圧コン
みは食事療法をはじめとしてさまざまあるが,現段階で
トロールを得たとの報告はあるが,心脳血管イベントの
心脳血管イベントに関連する根拠のあるものはなく,ガ
抑制に明らかな有意差を認めたとする報告はない.SDB
イドラインとして推奨できるレベルのものはない.
の疑いがあり高血圧症や肥満等の関連因子を併せ持つ症
2)感染症
例では,専門医を受診し,個々の症例に則した治療方法
1 週間以内の急性感染症(呼吸器感染,尿路感染など)
を検討するべきである.
は脳卒中の発症に関連する.歯周病患者では脳卒中発症
4)各種ストレスと心脳血管障害の関係
の 危 険 度 が 上 昇 す る(OR 2.11;95 % CI 1.3 ∼ 3.42).
身体的及び精神的に過剰なストレスが加わると交感神
Chlamydia pneumoniae IgA 抗体高値は,虚血性脳卒中の
経活動が亢進し,神経伝達物質であるノルアドレナリン
発 症 に 関 連 す る(OR 4.51;95 % CI 1.44 ∼ 14.06).
が神経終末から放出され末梢血管抵抗の上昇を招く.腎
Cytomagalovirus(CMV)が心脳血管病の有意な危険因
臓ではレニンが分泌され,レニン・アンジオテンシン系
子であるが(OR 1.24;95% CI 1.01 ∼ 1.53),脳卒中単
を亢進させる.また,ナトリウム利尿を抑制することに
独でみると有意な関連はない(OR 1.04;95 % CI 0.68
より体内への食塩貯留,循環血液量・心拍出量の上昇を
∼ 1.58).Helicobacter pylori の う ち,Cag-A-positive
もたらす.睡眠不足や肥満も交感神経活動を亢進させ,
(cytotoxin-associated gene-A seropositivity)H pylori は
肥満に伴う糖尿病症例ではインスリン抵抗性に伴う高イ
虚血性脳卒中の有意な危険因子である(OR 1.97;95%
ンスリン血症が交感神経活動の亢進をもたらすとされて
CI 1.33 ∼ 2.91).頚動脈狭窄症において,C pneumoniae,
いる.このような交感神経活動の亢進が,血圧上昇のみ
H pylori,H influenzae,M pneumoniae,cytomegalovirus,
ならず,耐糖能障害をも含めた心脳血管系合併症の発症
Epstein-Barr virus,Herpes simplex virus types Ⅰ and Ⅱが
に大きく関与しており,その抑制が重要視されている.
動脈硬化性プラークの進展に関与しており,感染してい
交感神経活動の亢進を抑制するためには,ストレスを
る病原体の数が多いほど病変は進行する.
貯めないこと,十分な睡眠時間を確保すること,摂取カ
感染症が脳血管障害の発症に関係しているという報告
ロリー制限や適度な運動により肥満を解消すること,塩
がいくつかみられるがこれらの感染症に起因する動脈硬
分摂取を控えることが重要であり,必要があれば交感神
化症に対して,その進展予防及び脳卒中発症率の低減を
経活動亢進を抑制し降圧効果を示す内服薬によるコント
目的に,主に抗菌薬を使用した介入研究が行われたが,
ロールを行う.
いずれの結果も期待できるものではなかった.現段階で
推奨できる,エビデンスに基づいた治療はない.
3)睡眠障害
睡眠時無呼吸症候群をはじめとする睡眠障害が,高血
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
1489
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006−2007 年度合同研究班報告)
表 12 慢性腎臓病(CKD)の定義
腎機能障害を合併した
心疾患の管理
Ⅲ
①尿異常,画像診断,血液,病理で腎障害の存在が明らか
─特に蛋白尿の存在が重要─
② GFR < 60ml/min/1.73m2
①,②のいずれか,または両方が 3 ヶ月以上持続する
表 13 慢性腎臓病(CKD)のステージ分類
腎機能障害を合併した心疾患の管理に関する勧告
病期
ステージ
心血管疾患患者は尿蛋白と腎機能を評価する(クラス
Ⅰ)
腎機能は糸球体濾過量(GFR)で評価する(クラスⅠ)
1
蛋白尿は g/g クレアチニンで評価する(クラスⅡ a)
2
造影剤腎症の予防には生理食塩水や重曹等の補液が有
効である(クラスⅡ a)
腎性貧血のヘモグロビン目標到達値は 10 ∼ 12g/dl で
ある(クラスⅡ a)
透析導入は厚生科学研究班の基準を用いて判断する
3
4
5
進行度による分類
GFR
ml/min/1.73m2
ハイリスク群
≧ 90
(CKD の リ ス ク フ ァ ク タ
ーを有する状態で)
腎障害は存在するが, ≧ 90
GFR は正常または亢進
60 ∼ 89
腎障害が存在し,
GFR 軽度低下
GFR 中等度低下
30 ∼ 59
GFR 高度低下
15 ∼ 29
腎不全
< 15
重症度の説明
透析患者(血液透析,腹膜透析)の場合には D,移植患者の場
合には T をつける.
(クラスⅠ)
虚血性腎症 / 腎動脈狭窄に血行再建が有用である(ク
で補正しても有意であり,CKD そのものが CVD の発症
ラスⅡ a)
に関与すると考えられる.そのような因子は非古典的(ま
腎機能が低下しているほどレニン・アンジオテンシン
90)
たは,CKD 特有の)危険因子と呼ばれている(図 6)
.
(RA)系抑制薬の心血管保護作用が期待される(クラ
その中でも,最近は炎症や酸化ストレスが注目されてい
スⅡ a)
る.中程度の腎機能低下(GFR で 30 − 59ml/ 分 /1.73m2
糖尿病腎症は心血管事故のリスクが特に高い(クラス
程度)でも,既に炎症や酸化ストレスに関与する因子の
Ⅰ)
活性化が起こっている.Weiner らは CVD と CKD との
1
腎機能障害を合併する
心疾患の疫学・予後
相関関係を検討し,CKD と CVD には何かの共通基盤が
あり,かつ,CKD では不顕性 CVD の存在の可能性が高
いことを指摘している 93).すなわち,CKD は動脈硬化
を反映し,かつ,動脈硬化を促進する.したがって,
1
心腎連関
腎機能低下や尿蛋白は末期腎不全のリスクであること
はよく知られているが欧米における疫学研究により,中
CKD を早期に検出し,早期に対応することが,腎不全
のみならず,CVD の予防に重要である.最近,日本で
図 6 腎機能障害と動脈硬化促進の悪循環
心血管疾患危険因子
程 度 の 腎 機 能 障 害 が あ る と 心 血 管 病(cardiovascular
古典的危険因子
非古典的危険因子
高齢,男性
高血圧症
高 LDL,低 HDL
糖尿病
身体活動減少
閉経,喫煙
心血管疾患家族歴
左室肥大
アルブミン尿
炎症
酸化ストレス
貧血
ホモシステイン
Ca-P の異常
体液貯留
が明らかにされた 90),91).このような疫学的事実に鑑み,
腎臓病を早期に発見し,腎不全とともに CVD の発症を
阻 止 す る 目 的 で 慢 性 腎 臓 病(chronic kidney disease:
CKD)の概念が導入された.CKD の定義とステージ分
92)
類を示す(表 12,13)
.
動脈硬化促進
diseases:CVD)の発症頻度が高くなり,そのリスクは
末期腎不全発症のリスクの数倍から数十倍にもなること
CKD が CVD のリスクであることは,心不全,心筋梗
塞,糖尿病,高血圧患者や高齢者ではもちろんのこと,
一般住民でも明かにされている 90).CKD のリスクは高
血圧,脂質異常,糖尿病など従来知られている危険因子
1490
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
腎機能障害
(文献 1 より改変)
脳血管障害,腎機能障害,末梢血管障害を合併した心疾患の管理に関するガイドライン
も CKD の疫学研究の成果が発表されており,欧米と同
し,特にステージ 4 と 5 では一年生存率が 50%を下まわ
様に推定 GFR(eGFR)で 60ml/ 分 /1.73m 未満,及び,
ると報告されている 102).
2
尿蛋白の存在が全死亡や CVD の独立した危険因子であ
ることが明らかにされた 94),95).
3
心不全
疫学研究で CKD 患者が予想以上に多いことが明らか
従来,心不全の重症度判定には左室駆出率が用いられ
になり . 米国ではステージ 3 以上の患者数は全人口の 8.0
てきたが,左室収縮機能の指標は予後をよく反映しない
%(約 830 万人)存在することが明らかにされている
ことが明らかになった 109)−111).一方,腎機能障害は心
91)
.我が国では,日本腎臓学会の調査によるとステージ
不全患者の独立した危険因子であることが示され,腎機
3 以上の人口は 10.6 %(約 1100 万人)であり,GFR を
能の重要性が注目されている 110),111).腎機能障害は収縮
50ml/ 分 /1.73m2 未満の人でも 3.1 %(約 315 万人)に上
期及び拡張期心不全のいずれにおいても予後不良の因子
ると予想されている(いずれも透析患者約 25 万人を除
であり 112),113),特に,拡張期心不全でその影響が強い
く)96).
113)
.また,最近は貧血も心不全の予後規定因子である
ことが示され,Cardio-renal anemia syndrome の概念が
虚血性心疾患
2
提唱されている 114).慢性心不全における CKD ステージ
CKD 患者は虚血性心疾患を合併する頻度が高いこと
3 以上の頻度は 50 %以上に上ることが示されており,
は知られており,腎機能の低下が高度なほど虚血性心疾
CKD ステージの上昇につれて生命予後は悪くなる 110).
.心疾患の既往が
また,貧血も約 30%に認められている.CKD と貧血は
ない透析導入患者では,約半数で冠動脈に 50 %以上の
心不全患者の生命予後に相加的,または相乗的に影響す
患の有病率が高くなるとされている
狭窄が認められている
97)
98)
.有意冠動脈狭窄を有する患者
る 115),116).
の 約 半 数 が 2 年 以 内 に major adverse cardiac event
心不全の約 4 割から 5 割を占める拡張期心不全は収縮
(MACE)を起こしたのに対し,冠動脈病変のない患者
期心不全に比して,高齢者と女性の頻度が高く,高血圧
では 3%にとどまったと報告されている
99)
を伴い,貧血や腎機能障害を合併することが多い 109),
.
虚血性心疾患における CKD の頻度は研究対象にもよ
117)
るが,概ね 20 ∼ 50%と報告されている
.発表さ
り拡張期心不全で強いとされている 113).心エコー法で
れた我が国における成績は少ないが,PCI を受けた患者
収縮機能,心筋重量,左房径などを計測した VALIANT
の約 40 %がステージ 3 以上の CKD を合併したと報告さ
試験のサブ解析では,腎機能障害が心不全患者の予後を
れている
100)−102)
102)
.腎機能障害を有する虚血性心疾患患者の
.腎機能障害の予後に及ぼす影響は収縮期心不全よ
悪化させる要因として収縮機能は関連せず,むしろ,拡
長期予後が悪いことは欧米のみならず我が国でも示され
張機能障害の指標と関連すると報告されている 118).
ている 103),104).VALIANT 試験においては急性心筋梗塞
心不全ではその経過においてしばしば腎機能が悪化
患者の約 30 %で GFR が 60ml/ 分 /1.73m 未満であり,ま
し,腎機能の悪化は生命予後の悪化に極めて密接に関連
た,3 年間の観察期間において,2 回目の CVD を起こす
する 119)−121).一方,腎機能の改善は生命予後の改善に
確率も腎機能が低下しているほど高いことが示されてい
関連すると報告されている 121).したがって,腎機能を
2
る
100)
.一方,腎機能障害の無い場合でも,虚血性心疾
低下させない治療を行うことが重要であると考えられ
患発症後 2 週間以内に 10 %以上で腎機能の低下が見ら
る.心不全における腎機能悪化には,原疾患,低血圧,
れ,腎機能の低下はベースラインの腎機能よりも強い予
BUN 高値,心機能の低下,利尿薬の過剰投与などが関
後規定因子であると報告されている 105).
連するとされている.
現在は急性心筋梗塞や狭心症において PCI が広く行わ
腎機能低下を伴う心不全患者の予後が悪くなる機序に
れているが,PCI 施行後 30 日以内の生存率は腎機能の
はさまざまな因子が関係している.腎機能の低下による
低下に従って大きくなる106).PCI が成功裡に終わっても,
体液の貯留,交感神経系やレニン・アンジオテンシン
腎機能は入院期間中及びその後の追跡において生命予後
(RA)系の亢進,炎症や酸化ストレスの亢進,弁の石灰
に大きな影響を与える.海外においては PCI 後 3 ∼ 9 年
化や貧血などの他に,腎機能が低下している患者におい
の追跡調査がされており,腎機能障害が強いほど CVD
ては RA 系阻害薬,スタチンやβ遮断薬の使用が不十分
の危険が高く,生命予後が悪化することが示されている
である,PCI が躊躇されることなどが関与している可能
107),108)
.我が国における成績は少ないが,やはり,CKD
性がある 122).腎機能障害を伴う心不全の予後は特に糖
ステージが進行するに従い全死亡及び心血管死が増加
尿病で悪く,その機序としては,上記に加え,冠循環を
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
1491
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006−2007 年度合同研究班報告)
含めた全身の血管障害が強い,睡眠時無呼吸症候群の合
されることが多い.しかし,同時に測定すると Ccr は
併が多い,インスリンの腎臓におけるナトリウム再吸収
Cin より約 30%高く計算される 96).これは尿中に糸球体
促進作用がある,エリスロポエチンの産生低下がより早
から濾過された Cr 以外に尿細管から分泌された Cr が加
期から起こることなどが関与している.
わるためである.
4
日本人の GFR の正常値は 80 ∼ 100ml/ 分 /1.73m2 であ
高血圧性心疾患
る.一般的に GFR は加齢により低下するが,各個人の
腎臓は高血圧の成因臓器であり,かつ,標的臓器でも
GFR を血清 Cr 値より簡単に推算する GFR の推算式があ
ある.腎障害を合併した場合はしばしば治療抵抗性高血
り,日本人用の GFR 推算式が日本腎臓学会で作成され
圧となる.腎障害を合併する高血圧患者の生命予後が悪
ている 96).
いことはさまざまな大規模な臨床疫学研究により明らか
にされている 123).高血圧性心疾患の代表である心肥大
の頻度は腎機能障害の進展に伴い増加する 124).心肥大
GFR(ml/min/1.73m2)= 194 × Cr −1.094 × Age −0.287
× 0.739(女性の場合)
は心血管死と密接な関係があり,透析患者においては心
この推算式ではクレアチニンを酵素法で測定したもの
筋重量の低下は生命予後の改善と相関していた 125).心
を使用する.
肥大の成因には圧負荷と容量負荷が重要であり,透析導
入前の患者でも,厳格に血圧がコントロールされている
例では,心肥大の頻度は必ずしも高くない
5
126)
.
推 算 式 に て GFR の 低 下 が 50ml/min/1.73m2 以 下(70
歳以上であれば 40ml/min/1.73m2 以下)であれば進行性
に腎機能が低下する可能性があり,また,心血管疾患を
不整脈
発症するリスクも高くなる(レベル A)130).
透析患者は不整脈を起こしやすいことがよく知られて
いる.最近,透析に至っていない CKD 患者においても,
2
蛋白尿の評価
不 整 脈 の 発 症 頻 度 が 高 く, 植 え 込 み 型 除 細 動 器
蛋白尿は糸球体の障害により尿細管腔に漏出するが,
(implatable cardioverter defibrillator:ICD)を挿入する
尿細管に漏出した蛋白は近位尿細管で再吸収される.し
患者の割合が高いことが報告されている 127).また,致
たがって,尿に蛋白尿が出現すれば多くの場合,その何
死的な心室性不整脈のために ICD を装着している患者
倍もの蛋白が糸球体から漏れていることになる.微量ア
においても,CKD のステージが進行するにつれて死亡
ルブミン尿は尿中の濃度としては低いが,糸球体におけ
率が上昇することが示された
.CKD ステージ 3 未
128),129)
る漏出量は微量ではない.微量アルブミン尿の出現は,
満の 1 年生存率は約 95 %であったが,CKD ステージ 3
相当の糸球体障害が存在することを意味する.
以上では約 60%と大きな差があった
尿蛋白の定量は通常ピロガロール・レッド法によって
128)
.また,CKD の
ない患者では不整脈による死亡はほとんどなかったが,
行われるが,本法はすべての種類の蛋白を検出できる.
非透析 CKD 患者及び透析患者ではともに死亡原因の約
尿蛋白は 24 時間蓄尿で評価することが望ましいが,不
3 分の 1 が不整脈であった.さらに,ICD 挿入時に測定
可能な場合にはスポット尿の蛋白と尿 Cr を測定して,
された除細動閾値が CKD 及び末期腎不全患者で高くな
蛋白 g/g・Cr 比で評価する.24 時間畜尿した 1 日尿蛋白
っていることが示されている
2
129)
.
腎機能障害患者の評価
量とスポット尿による蛋白 g/g・Cr 比は比較的よく相関
)
するからである 131(レベル
A).1 日尿蛋白が 0.5g/day 以
上では将来的に腎機能が低下する可能性がある.また,
沖縄の住民健診のデータでは,(1 +)以上の蛋白尿は
1
1492
糸球体濾過量(glomerular
filtration rate:GFR)の評価
腎不全のリスクであることが報告されている 132).
蛋白尿の検出に尿試験紙法は簡便ではあるが,30mg/
dl 以上の尿蛋白しか検出できず,またアルブミン以外の
腎機能は GFR をもって評価する.GFR 測定はイヌリ
蛋白には感度が低い欠点を有する.一方,微量アルブミ
ン・クリアランス(Cin)をゴールド・スタンダードと
ン尿は 30 ∼ 299mg/gCr の範囲のアルブミン尿をさすが,
するが,臨床の現場でこれを測定することは容易ではな
尿アルブミンの測定は RIA または免疫比濁法で行う.糖
い.したがって,GFR に代わるものとして,24 時間蓄
尿病腎症には保険適応があるが,それ以外の高血圧など
尿を行い,クレアチニン・クリアランス(Ccr)が測定
による糸球体障害には適応がない.微量アルブミン尿は
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
脳血管障害,腎機能障害,末梢血管障害を合併した心疾患の管理に関するガイドライン
尿中総蛋白量よりも心血管障害のイベントや全死亡に関
から内服を中止する必要があるが,中止による影響も考
して相関が強く,微量アルブミン尿を測定することで早
慮しなくてはならない.それぞれの薬剤の中止時期につ
90)
期に CVD のリスクを検知できる(レベル A) .
いては,半減期をもとに推定が可能であるが,腎機能,
尿蛋白は ACE 阻害薬及び ARB を使用した治療により
肝機能,年齢,肥満度,併用薬剤により半減期は変化す
減少させることが可能であり,蛋白尿の減少を指標とし
るため注意が必要である.明確なエビデンスはなく,通
て CKD を治療することが勧められている.
常は安全域を考慮して 1 週間程度前から服薬を中止する
3
腎生検の適応と注意点
ことが望ましい(表 14).血栓塞栓症のハイリスク患者
で,抗凝固療法(ワルファリン)の中断を避けることが
現在,我が国で最も普及している腎生検法は超音波ガ
望ましい場合は,ヘパリンに切り替えて腎生検前後の数
イド下の経皮的腎生検法で,超音波による腎探索法と自
時間のみ抗凝固療法の中断を行う.
動式生検針の発達により安全に施行できるようになった
高血圧や心不全を有する患者に対する腎生検時の取り
が,出血合併症も皆無ではない侵襲的な検査である.心
扱いについても現在のところ,明確なエビデンスはない.
疾患合併例では高血圧,心不全,抗凝固薬・抗血小板薬
投与などの問題を有し,腎生検の施行にあたっては腎生
検を行うリスクと生検により得られる情報,予想される
4
腎機能障害を合併した患者での
バイオマーカーの評価
治療法と効果について総合的に判断して慎重に行わなけ
腎機能障害を有する患者での心筋バイオマーカーであ
ればならない.
る 脳 性 ナ ト リ ウ ム 利 尿 ペ プ チ ド(brain natriuretic
①適応と禁忌 133)
血尿や蛋白尿などの検尿異常や原因不明の腎機能障害
などが腎生検の主な適応病態である.血尿単独例の場合,
泌尿器科的疾患との鑑別が重要であるが,肉眼的・持続
的血尿例,尿沈渣で変形赤血球や赤血球円柱を認める例
など,糸球体腎炎,遺伝性腎炎,菲薄基底膜症候群など
peptide:BNP)の測定は,個々の症例の治療経過を観
表 14 腎生検前に中止すべき薬剤と中止時間の目安
半減期(t1/2)
[抗凝固薬]
ワルファリンカリウム
45 時間
が疑われる場合に腎生検を施行する.一般的には,1 日
0.3g 以上の尿蛋白陽性例や血尿と蛋白尿の合併例では積
極的な適応となり,成人のネフローゼ症候群や全身性エ
リテマトーデスを代表とする膠原病,急速進行性糸球体
腎炎(半月体形成性糸球体腎炎等の血管炎症候群)では
腎病変の組織学的評価が治療法を決定する上で重要な情
報をもたらす.
腎生検の禁忌となる病態に関して,普遍的に統一され
た見解はないが,機能的片腎,活動性の感染症(腎盂腎
炎,腎膿瘍,腎結核,敗血症など),出血傾向,嚢胞腎,
慢性腎不全,水腎症,妊娠,呼吸障害,重症高血圧など
が禁忌として考えられる.また,検査後はベッドの上で
仰向けの状態で絶対安静となるため,安静が不可能な重
症心不全も禁忌として挙げられる.最も問題となるのは
出 血 傾 向 で, 血 小 板 数, 出 血 時 間, 凝 固 時 間,PT/
APTT などを検査して総合的に評価する.腎の形態,大
きさの異常の評価には腎超音波検査が有用である.
②心疾患患者に特有の問題
心疾患患者に特有な問題として抗凝固薬や抗血小板薬
を服用している場合がある.このような場合,腎生検前
ヘパリン
低分子ヘパリン
[抗血小板薬]
ジピリダモール
塩酸ジラゼプ
塩酸チクロピジン
硫酸クロピドグレル
シロスタゾール
アスピリン
イコサペント酸エチル
塩酸サルポグレラート
リマプロストアルファデクス
[プロスタグランディン製剤]
ベラプロストナトリウム
0.3 ∼ 2 時間
2.2 ∼ 6 時間
25 分∼ 15 時間
3 時間
1.6 時間
半減期その他か
らみた中止時期
1 週間前後
(中止後も 2 ∼ 5 日
効 果 が 持 続 す る.
ただし Vitamin K で
補正する場合は前
日まで使用可能)
1日
1日
18 時間
2 ∼ 30 時間
Tmax 6 時間
0.69 時間
7 時間
2∼3日
1日
1 週間
(中止後も数日は
効果が持続する)
2 週間
(中止後も数日は
効果が持続する)
2∼3日
3∼4日
2∼3日
2∼3日
2∼3日
1.1 時間
2∼3日
6.9 時間
腎障害,肝障害,肥満,年齢,併用薬剤などさまざまな要因で
半減期は変動するので,安全を期すためには原則として約 1 週
間前にこれらの薬剤は可能であれば中止する.
〈参考図書〉
日本医薬品集,治療薬マニュアル(医学書院),透析患者への
投薬ガイドブック(薬業時報社),腎不全時の薬物使用(日本
メディカルセンター)など
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
1493
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006−2007 年度合同研究班報告)
察する際には有用であるが,心不全診断マーカーとして
心不全の診断に有用であるとしている(表 16)(レベル
用いる場合には各マーカーが腎機能低下に伴い上昇する
B)137).しかし,腎機能障害患者の BNP,NT-proBNP は
傾向を有することから,腎機能に応じた基準値を採用す
併存する疾患や年齢などにより影響を受け,必ずしも先
ることと他の検査所見と総合して解釈する必要がある
に示したカットオフ値のみで診断できない場合もあり,
(レベル B).
他の心不全に対する検査と組み合わせて慎重に診断する
必要がある.
① BNP,N-terminal pro-BNP
BNP は,主に腎実質にある clearance receptor を介し
②心筋トロポニン
て細胞内に取り込まれ代謝を受ける系と,腎臓,血管内
腎 機 能 障 害 患 者 で は 心 筋 ト ロ ポ ニ ン T と I(cTnT,
皮細胞,肺や心臓にある neutral endopeptidase により分
cTnI)は,心筋梗塞などを発症していない場合でも陽性
.GFR
138)
となることがある(レベル B)
.透析患者では 82%の
60ml/min/1.73m2(単位を以下省略)未満の腎疾患患者
例で cTnT が陽性化し,6 %の例で cTnI が陽性化してい
では,臨床的に心不全がなくとも,しばしば BNP 値が
るという報告がある 139).したがって,腎機能障害患者
解される系により血液中から消失する
上昇している
134),135)
136)
.これは腎実質の減少による BNP の代
が心筋トロポニン陽性を示す場合,急性冠症候群を疑わ
謝,分解の遷延や,体液貯留による容量負荷などが原因
せる所見がなくともさらに侵襲的な検査を行うべきか,
となっていると想定されている.
慎重に判断されなければならない.一方で,心筋トロポ
救急外来受診患者を対象とした解析で MDRD 式を用
ニン陽性の腎機能障害患者の生命予後は,心血管系合併
いた推算 GFR と BNP 値の間に弱い相関が検出された.
症の発症により明らかに不良であるとする報告もあり,
推算 GFR 60ml/min/173m 未満では,一般的に心不全の
日頃から心血管合併症の危険因子の排除に積極的に介入
発症率が増加し,同時に BNP の基礎値も上昇し始める.
138),140)
すべきである(レベル B)
.
2
本研究では,ROC 解析の結果(表 15)から,GFR 60
ml/min/173m2 未満の症例において心不全を診断する際
3
心疾患診療にみられる
腎障害の発症の病態と対策
1
心不全
のカットオフ BNP 値は 200 pg/ml を推奨している(レベ
134)
ル B)
.
救急外来を受診した患者を対象とした研究で推定
GFR と NT-proBNP は強い負の相関を示し,GFR 60 ml/
min/173m2 未満の症例でのカットオフ NT-proBNP 値を
1200 pg/ml とした場合の心不全診断率は,感度 89 %,
特異度 72 %となり,NT-proBNP は腎機能にかかわらず
①心不全での腎循環とその異常の病態生理
心不全ではレニン・アンジオテンシン・アルドステロ
ン系が亢進し,腎皮質血流が減少し,近位尿細管でのナ
表 15 BNP を用いた心不全診断のためのカットオフ値
推定 GFR
≧ 90
60 ∼ 89
30 ∼ 59
16 ∼ 29
BNP 値 pg/ml
70.7
104.3
201.2
225
心不全の正診率
91%
90%
81%
86%
BNP を用いて心不全の診断を行う時には,腎機能に応じたカ
ットオフ値を用いる.GFR 60 以上では 100 pg/ml,60 未満では
200 pg/ml とすると,心不全を識別するのに有用である.しかし,
透析患者におけるカットオフ値の設定はなく,個々の症例にお
いて臨床所見と併せて判断する必要がある.
表 16 NT-proBNP を用いた心不全診断のためのカットオフ値
eGFR ≧ 60
eGFR < 60
50 歳未満
50 歳以上
年齢に関係なく
> 450 pg/ml
> 900 pg/ml
> 1200 pg/ml
NT-proBNP は腎機能と年齢により影響受けるため,心不全を
診断するために,腎機能と年齢でそれぞれ層別しカットオフ値
を設定している.
1494
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
トリウム再吸収の亢進がみられる 141).このため,下位
尿細管に到達する水・ナトリウム量が減少し,利尿薬の
効果が低下する.近位尿細管による再吸収は食塩摂取量
が増加するとさらに亢進する 142).したがって,ナトリ
ウム制限が基本となり,かつ,近位尿細管の再吸収を抑
制することが必要である.
心不全での腎障害は髄質外層に特徴的に見られる.そ
の理由は髄質の血行動態の特徴により,この部位が最も
虚血になりやすいからである 143).したがって,髄質の
虚血を起こさないような治療が必要となる.ループ利尿
薬は髄質外層のヘンレの太いループ(mTAL)でのナト
リウム再吸収を抑制するため,酸素消費が低下して,髄
質の酸素濃度を上げる.ただし,作用が消失するとリバ
ウンドが起こる.リバウンドの際には再吸収が亢進して
組織酸素濃度が低下し,髄質血流も低下する.したがっ
脳血管障害,腎機能障害,末梢血管障害を合併した心疾患の管理に関するガイドライン
て,このリバウンドを避けるため長時間作用の利尿薬,
又は,持続投与が良いとされる
144)
る.最近,体外循環により体液量を是正する方法が利尿
薬より優れると報告された 158)が,これは,腎臓に負荷
.
ヒ ト 心 房 性 ナ ト リ ウ ム 利 尿 ペ プ チ ド(human atrial
をかけずにナトリウムを除去することであり,その評価
natriuretic peptide: α hANP) は GFR を 増 加 さ せ,RA
には今後の検討が待たれる.
系を抑制し,近位尿細管と集合管での水・Na の再吸収
低用量ドパミンは腎血管拡張と利尿作用があるため
を抑制するとともに髄質血流を上げるとされる 145).た
に,腎不全で用いられてきた.しかし,酸素動態を改善
だし,髄質のヘンレ係蹄の太い上行脚(medullary thick
する作用はなく,長期的な腎保護効果は期待できないと
ascending limb of loop of Henle:mTAL)での再吸収に
される 159).
影響しない.したがって,α hANP の投与では mTAL に
利尿薬抵抗性の改善のためには①ラシックスと少量の
多量のナトリウムが運ばれるために再吸収が亢進して,
アルブミンを混ぜてから使用する,②腎血流を増加させ
組織酸素濃度は必ずしも改善しない可能性がある
146)
る,③アシドーシスを是正する,④利尿薬の分泌に拮抗
.
ループ利尿薬及びサイザイド利尿薬はアルブミンと結
する薬剤(βラクタム系抗生剤等)の使用を避けるなど
合し,腎臓に運ばれ,近位尿細管から分泌されて,尿細
の対処が勧められる 160).
管腔側から作用する
147)
.アルブミンとの結合は尿細管
からの分泌に必要である.したがって,低アルブミン血
③慢性期の水・ナトリウムの管理
症,腎血流の低下,アシドーシス(分泌障害)などによ
食塩制限が最も重要である.ただし,RA 系阻害薬の
り作用が低下する(利尿薬抵抗性).
服用下では極端な食塩摂取制限は低血圧や低ナトリウム
低ナトリウム血症は心不全患者において死亡の独立し
血症を起こすので,腎機能,血清及び尿中電解質の定期
た危険因子である
148)
.心不全では有効循環血液量の減
的なチェックと家庭血圧の測定を指導する.
少,低血圧,RA 系や交感神経系の賦活等によりバゾプ
利尿薬はできるだけ長時間作用型を使用するのが望ま
レッシン(antidiuretic hormone:ADH)の分泌が亢進
し い が,GFR が 30ml/ 分 /1.73m2 以 上 な ら サ イ ザ イ ド,
する.バゾプレッシンは集合管における水の再吸収,及
それ未満ならループ利尿薬を使用する.ループ利尿薬の
び,尿素の腎髄質への蓄積を促進して,水貯留による低
みで体液量がコントロールできないときにはサイアザイ
Na 血症と血清 BUN の上昇が起こる.最近,バゾプレッ
ド系利尿薬の併用も有効である 161).また定期的に電解
シン V2 受容体拮抗薬が水利尿を起こし,体液量や低 Na
質異常に注意することも重要である.ループ利尿薬では
血症の是正に有用であることが報告さている
149)−151)
.
マグネシウム欠乏をきたすことがあり(特にアルコール
また,低 Na 血症の是正が予後の改善に関連することが
常飲者),低カリウム血症や低カルシウム血症の原因と
示された 152).現在,バゾプレッシン V2 受容体拮抗薬を
なる.しかし,カリウムやカルシウムの補充はあまり有
用いた臨床試験が行われている.
効でなく,マグネシウム補充のみが有効である.また,
②急性増悪期の水・ナトリウムの管理
腎機能障害患者でおいては,RA 系阻害薬は高カリウム
血症と腎機能の低下,β遮断薬,アルドステロン拮抗薬
まず,尿量と尿中の電解質排泄量を測定して出納を計
は高カリウム血症に注意する.
算しながら治療を行う.心不全の急性増悪期では,前述
標準的な治療を受けている心不全患者にアルドステロ
の機序から論理的には,早期からα hANP により腎血行
ン拮抗薬(アルダクトン 25mg/ 日)を追加投与すると予
動態の改善と近位尿細管での再吸収を抑制し,同時にル
後が改善することが報告されているが,これは本剤の利
ープ利尿薬の持続(または,少量頻回)投与による髄質
尿効果よりも心筋線維化の抑制が主な効果を発揮してい
外層の虚血の阻止を行うことが腎障害を予防するのに有
)
ると考えられている 162(レベル
A).
効と考えられる.しかし,それを証明する臨床試験はな
い.一方,同様の生理作用を有する BNP 製剤は腎機能
及び予後を悪化させたとする報告がある 153),154).また,
腎機能障害を有する急性心不全患者を対象とした前向き
研究では,BNP は腎機能を変化させなかったと報告さ
れている
155),156)
.このような違いの原因は不明であるが,
ナトリウム利尿ペプチドの投与による血圧の低下などが
関与すると考えられており
157)
,今後の検討が必要であ
2
造影剤腎症
①定義
造影剤腎症は造影剤が使用された後 48 時間から 120
時間位までの間に血清クレアチニン値が使用前と比して
25 %以上の上昇もしくは 0.5mg/dl 以上の上昇を認めた
場合と定義される 163).
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
1495
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006−2007 年度合同研究班報告)
る.
②頻度
④メトフォルミン:メトフォルミンが造影剤投与後に乳
報告によって差があるが,腎機能が正常(推算 GFR
酸性アシドーシスを起すか否かについては明確な報告は
で 60ml/ 分 /1.73m2 以上)である場合には 10 %以下と考
ないが 12 時間前までに投与を中止した方がよいとする
えられている
164)
.さらに透析治療を必要とされるのは
数%以下とされている 165).しかし,高齢者及び糖尿病
の患者が急速に増加していることを背景に今後増加する
ことが考えられる.
意見がある.
④予防策
現時点で,造影剤腎症の決定的な予防策はないと考え
てよい.
③危険因子
①食塩水:多くの施設で行われている方法は 0.45%もし
から,いくつかの造影剤腎症発症
くは 0.9%食塩水(いわゆる生理食塩水)を用いる方法
の危険因子があげられる.その中でも基礎疾患としての
である . いずれの濃度の食塩水を用いるとしても投与量
腎機能障害と糖尿病が最大の危険因子とされており,そ
としては 1ml/kg/ 時で造影剤投与 12 時間前から開始し,
れらに加えて,高齢,心不全,低血圧,低アルブミン血
投与後 12 時間まで行うことが多い.かつ最近では生食
症,末梢血管疾患,貧血があげられている.また造影剤
の代わりに NaHCO3154mEq/L を投与することにより尿
をショックの患者に用いた場合も容易に造影剤腎症を発
のアルカリ化をはかることも効果があるとする報告もな
症するとされている.
されている(レベル B)173).
これらの危険因子をスコアとして算出し,造影剤腎症
② N-acetylcysteine: 抗 酸 化 作 用 を 有 す る
多くの報告
166)−170)
発症さらには透析療法が必要とされる確率を検討した成
N-acetylcysteine の使用が効果的であるとするメタ解析
績を図 7 に示す 170).
が発表されている.我が国では静注薬がないので,経口
この表には記載されていないが,薬剤の影響,特に以
で用いる方法がとられるが,造影剤投与 24 時間前に
下の薬剤の服用の有無について注意を払うことが重要と
600mg1 日 2 回さらに投与後 48 時間まで 600mg1 日 2 回
思われる.
とするのがひとつの標準的投与方法と考えられる 174)−
①非ステロイド性抗炎症薬:充分にコントロールされた
177)
研究はないが,非ステロイド性抗炎症薬を使用している
③血液浄化法:造影剤投与後の血液浄化法の有効性に関
場合には,造影剤腎症になりやすい可能性が指摘されて
)
しては現時点では明確ではない 168),178)−183(レベル
C).
いる 167).
②降圧薬:降圧薬特に RA 系阻害薬は危険因子になると
いう報告と逆に造影剤腎症を予防するという報告があり
充分なコンセンサスが得られていない
171),172)
(レベル B).
⑤治療法
現時点では有効な治療法はなく急性腎不全もしくは慢
性腎不全の急性増悪が認められた場合には血液透析治療
.
③利尿薬:多くの専門家は造影剤使用の少なくとも 24
が必要となる.
時間前には利尿薬の使用を中止した方がよいと考えてい
危険因子
低血圧
図 7 造影剤による腎症及び透析となる危険因子からの予測スコア
スコア
5
IABP
5
心不全
5
75 歳以上
4
貧血
3
糖尿病
3
造影剤使用量
血清クレアチニン>1.5mg/dl
あるいは
GFR<60ml/min/1.73m2
1496
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
危険スコア
造影剤腎症
透析
≦5
7.5%
0.04%
6 to 10
14.0%
0.12%
100cc ごとに 1
11 to 16
26.1%
1.09%
4
≧16
57.3%
12.6%
計算
IABP:バルーンパンピング
脳血管障害,腎機能障害,末梢血管障害を合併した心疾患の管理に関するガイドライン
3
コレステロール塞栓症
患では 70 %以上に蛋白尿,腎機能障害を発症するとい
う報告があり 189),チアノーゼ性腎症は年長児や成人の
コレステロール塞栓症は,大動脈壁のアテローム片が
チアノーゼ性先天性心疾患の予後を左右する合併症とし
末梢に飛び,脳,皮膚,腎臓,腸などの小動脈にコレス
て重要である.
テロール結晶の塞栓を生じる予後不良(1 年死亡率 23 ∼
病因としては,多血症に伴う粘稠度の高い血液が糸球
87%)の疾患である 184),185).本症を発症する患者側の背
体係蹄を通過することによって生じる shear stress が,糸
景としては,男性,高齢(60 歳以上),喫煙,心血管疾
球体毛細血管の拡張や血管新生を促し糸球体腫大をきた
患の存在,高血圧,糖尿病などがある.カテーテル検査
すと考えられている 190).近年の報告も概ねその仮説を
や心血管手術,抗凝固療法が誘因になることが多いが,
支持するものである 191)−193).
自然発症例も 20 ∼ 30%にみられる.Fukumoto らは,心
本症の症状は,進行性の蛋白尿,血液生化学検査上の
カテーテル検査を受けた 1,786 名のうち 24 名(1.4 %)
腎機能障害という非特異的なものであるが末期腎不全に
にコレステロール塞栓症を疑う所見がみられたと報告し
進行することもある 194).高尿酸血症を伴うことが多い
ている 186).コレステロール塞栓症の頻度は近年増加傾
が,これは心不全に対する水分制限や利尿剤投与の影響
向にある.
の可能性もある.年少児において,腎機能障害に先だっ
臨床症状は多種多様であり,生前診断が困難でしばし
て,尿細管機能障害が出現するとの報告がある 195).
ば見逃される.腎機能も急速に低下する,数週にわたり
本症に対して ACE 阻害薬,部分交換輸血が有効であ
徐々に低下する,さらに長い経過でゆっくり低下するな
ったとの報告があるが 196)−198),その有効性,安全性を
ど,多様なパターンをとる 187).したがって,診断のた
示した臨床試験はなく,本質的には原疾患の治療以外に
めにはまず本症を疑うことが大切となる.確定診断は皮
治療法はない.逆に,原疾患の治療によって腎症状も改
膚生検や腎生検によるが,必ずしも容易ではない.検査
善するとの報告がある 192).
所見では好酸球増多や CRP の軽度上昇がみられる.尿
蛋白や潜血もみられるが,高度な異常を示すことはまれ
4
である.大切なことは臨床経過であり,危険因子のある
腎疾患と心疾患との関わり
:病態と治療
患者では皮膚所見を丁寧に観察するとともに,それまで
なかった尿異常が出現する,CRP が上昇してくるなど
の所見を総合して診断することになる.
治療としては確立したものはないが,副腎皮質ステロ
イド,スタチンの投与が有効であるとされる(レベル C)
1
糖尿病腎症
①定義
188)
糖尿病腎症の定義は表 17 に示すようになされている
齢者,男性,喫煙歴,高血圧)での血管内操作後は,自
199)
覚症状,尿所見,腎機能などを数週間にわたり注意深く
尿病腎症として考えられており,以後腎代替療法が必要
観察する必要がある.現在の医療制度においては在院日
な状態までの幅広い範囲を示している 200).
.早期発見,早期治療が重要であるので,危険群(高
数の短縮は不可欠であるため,血管内操作後の患者のフ
ォローは開業医などで行われるケースも多くなってい
.実際には微量アルブミン尿がみられた時からを糖
②診断
る.したがって,緊密な病診連携により早期に発見する
糖尿病腎症と診断する際には,糖尿病の患者に蛋白尿,
ことが望まれる.
微量アルブミン尿が認められたからといって簡単には確
4
チアノーゼ性腎症
診できないことに留意すべきである 201).最も確実な方
法は腎臓病診断のゴールド・スタンダードである腎生検
小児心疾患に合併する腎症として最も重要なものにチ
である.糖尿病腎症に見られる変化が腎生検標本に認め
アノーゼ性腎症(cyanotic nephropathy)があげられる.
られればそれにより診断がつけられる(表 17).この糸
チアノーゼ性腎症はチアノーゼ性先天性心疾患
(cyanotic
球体病変に加えて細動脈の硝子様変性は一つの大きな特
congenital heart disease)に高率に合併する腎障害である.
徴である.
近年チアノーゼ性先天性心疾患の長期生存例が増加する
腎生検以外には網膜症が先行もしくは並行して出現す
につれて本症に伴う腎合併症の問題が顕在化してきた.
ることが認められていることで糖尿病腎症として診断を
10 歳までに根治できなかったチアノーゼ性先天性心疾
してよいと考えられている.
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
1497
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006−2007 年度合同研究班報告)
上記の①アルブミン尿,②網膜症,③腎生検が糖尿病
RA 系抑制薬を用いたとしても降圧が充分になされなけ
腎症の診断をする上でポイントとなる.
れば,アルブミン尿や蛋白尿を充分には減少させること
)
ができない 213),214(レベル
B).ACE 阻害薬か ARB のい
③微量アルブミン尿
ずれがよいかは結論がつけられていない 215)−217).使用
糖尿病腎症において微量アルブミン尿が出現してくる
法は少量から開始し,アルブミン尿,あるいは蛋白尿の
ことは腎臓の組織所見からみれば,すでにメサンギウム
減少効果をみる.この際,血清クレアチニンが 30 %以
基質の増加が広汎に認められ,細動脈硬化症も見られる
下の上昇の範囲にあることを確認しながら,RA 系阻害
状態である.しかし,臨床上は微量アルブミン尿の存在
薬の容量を調節してアルブミン尿または蛋白尿をできる
により早期腎症と診断される(表 18).微量アルブミン
だ け 減 少 さ せ る 203),218). ま た 高 K 血 症( 血 清 K 値 で
尿は心血管系病変と密接に連関し 202),さらに微量アル
5.0mEq/L 以上)の出現にも注意する.
ブミン尿の減少は心血管病変のリスク減少につなが
3)血圧のコントロール
る 203).
糖尿病における降圧目標は一般の糖尿病を有しない高
血圧と異なり,より低い降圧目標 130/80 mmHg とされ
④治療
ている(高血圧ガイドライン).ただし,1g/ 日以上の蛋
1)血糖コントロール
白尿を示す糖尿病腎症ではこの血圧値より低い 125/75
糖尿病の治療は当然のことであるが,血糖のコントロ
mmHg を降圧目標とする 219)ことで,さらなる腎症の進
ールが重要である.糖尿病腎症に関しては経口糖尿病薬
行を防げることができる(レベル B).
による治療よりも,インスリン治療による厳格な血糖の
4)脂質のコントロール
コントロールが求められる
204)−209)
(レベル B).HbA1c,
脂質のコントロールも重要であり,血糖,血圧ととも
空腹時血糖,食後 2 時間の血糖あるいは一日のうち 3 回
にコントロールすることで微小血管障害,大血管障害を
食前食後に血糖を測定することが必要である.この
ともに減少させることができる 220),221).糖尿病腎症にお
HbA1c,血糖のコントロールに関しては,糖尿病学会の
ける到達目標値は大規模研究で示されていないが,LDL
基準を参考にする 199).
コレステロールで 100mg/dL 以下,中性脂肪で 150mg/
2)RA 系阻害薬
dL 以下と考えられる 222).
RA 系阻害薬は微量アルブミン尿,尿蛋白を減少させ,
ひいては腎障害の進行を防ぐ
210)−212)
(レベル A).しかし
5)蛋白制限
どの程度蛋白制限をするのかについては十分な検討は
表 17 糖尿病腎症病期分類
病期
臨床的特徴
尿蛋白(アルブミン)
GFR(Ccr)
正常
正常
時に高値
微量アルブミン尿
正常
時に高値
持続性蛋白尿
ほぼ正常
第1期
(腎症前期)
第2期
(早期腎症)
第3期 A
(顕性腎症前期)
第3期 B
持続性蛋白尿
(顕性腎症後期)
第4期
持続性蛋白尿
(腎不全期)
第5期
透析療法中
(透析療法)
低下
著明低下
(血清クレアチニン上昇)
病理的特徴
(糸球体病変)
びまん性病変:ない─軽度
びまん性病変:軽度─中程度
結節性病変:時に存在
中程度
結節性病変:多くは存在
びまん性病変:高度
結節性病変:多くは存在
荒廃糸球体
備 考
(主な治療法)
厳格な血糖コントロール
降圧治療
厳格な血糖コントロール
降圧治療・蛋白制限食
厳格な血糖コントロール
蛋白制限食
厳格な降圧治療
蛋白制限食
厳格な降圧治療
低蛋白食・透析療法導入
移植
表 18 糖尿病腎症早期診断基準:「微量アルブミン尿」の基準
1
2
3
1498
測定対象
必須事項
尿中アルブミン値
参考事項
尿中アルブミン排出率
尿中Ⅳ型コラーゲン値
腎サイズ
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
尿蛋白陰性か陽性(+ 1 程度)の糖尿病患者
30 ∼ 299 mg/gCr 3 回測定中 2 回以上
30 ∼ 299 mg/24hr または 20 ∼ 199 μg/min
7 ∼ 8 μg/gCr 以上
腎肥大
脳血管障害,腎機能障害,末梢血管障害を合併した心疾患の管理に関するガイドライン
少ないが 0.8g/kg 体重前後がよいと考えられる 223).
秘めており,また透析に導入されると生命予後が極めて
6)糖尿病腎症患者の冠動脈病変の治療
不良であることからも,早期治療により腎不全に至らせ
糖尿病腎症の心血管病変は多岐にわたる.糖尿病腎症
ないことが重要である.
はアテローム性硬化症を伴うことも多くまた高血圧も伴
うことが多い.したがって心筋梗塞,脳梗塞,心不全,
①診断手順
脳出血,さらに閉塞性動脈硬化症による下肢病変などあ
腎動脈狭窄や虚血性腎症の診断に関して,感度の高い
らゆるかたちの心血管病変が認められる.さらに,心筋
スクリーニング法がないと同時に,所見がなければ完全
梗塞を罹患している場合には次に脳梗塞を起こすことも
に否定できる特異度の高い非観血的検査がない.したが
あり充分な注意が必要である.冠動脈疾患においては現
って,リスクの高い集団を特定し,その上で最終的には
在薬物治療,PCI,CABG があげられている.糖尿病腎
血管造影に頼らざるを得ない.高リスク集団を疑わせる
症で病期によってどの治療が適切かは異なる.造影剤腎
228)
最も有力な情報は臨床像から得られる(表 19)
.反
症の項でも述べられているが,糖尿病や腎機能障害は造
復性の急性左心不全,特に収縮能の保持された拡張不全
.PCI
では本症を強く疑うべきである.50 歳以上で心筋梗塞
では造影剤が使用されること,また CABG では麻酔や
や脳卒中を合併する集団では粥状硬化に基づいた腎動脈
手術による侵襲が腎機能障害を引き起こすことなどがあ
狭窄を合併する頻度が日本人でも欧米人とほぼ同様に高
影剤腎症の発症要因として重要視されている
170)
,両者ともにそれぞれ問題点を有している.また
いと報告されている 229),230).高血圧や蛋白尿,腎機能障
糖尿病腎症では一般に蛋白尿が出現してから透析導入ま
害があればさらに確率は高くなる.腎動脈狭窄を疑った
での期間が数年から 5 年前後とされていること,また透
場合のための検査を表 20 に示した.腎動脈狭窄のスク
析導入前にしばしば心血管事故を起こしやすいとされて
リーニングとしては,腎血流ドプラ,造影剤を用いたコ
おり 200),206),どの治療法がどの病期に最も適しているか
ンピューター断層血管造影(CTA)及び核磁気共鳴血管
は決定しがたい.糖尿病腎症患者の PCI 後 2 年間の総死
造影(MRA)が有用である.狭窄の機能的有意性が示
り
224)
亡を顕性蛋白尿の有無により比較検討すると,蛋白尿無
唆されるときには,血管造影(DSA)にて確定診断し,
し群では 9.1 %に対し,有り群では 20.3 %,さらにネフ
適応があれば,引き続き,経皮経管血管形成術及びステ
ローゼ症候群を呈した状態では 43.1%になると報告され
ント挿入を行う.造影剤腎症や腎動脈塞栓症には注意す
ている 225).透析を行っている糖尿病腎症患者で PCI と
る.機能的に有意な狭窄は①狭窄率が 50 ∼ 70%で,か
CABG を 比 較 し た 成 績 で は 3 年 間 で の 死 亡 率(PCI;
つ収縮期圧較差 20 mmHg 以上(あるいは平均血圧較差
18.8% vs.CABG;19.2%)で差異はないが副作用で PCI
10 mmHg 以上),②狭窄率 70 %以上と定義され 231),こ
(47.9 %)が CABG(21.2 %)を大きく上回ること,再
れを満たせば血行再建術を考慮する.
狭窄率が多い(12.5% vs.1.9%)ことが報告されている
最近,MRA に用いるガドリニウムが腎機能障害患者
226)
.また糖尿病腎症と非糖尿病腎症とを分けていない
で蓄積して全身の線維化をきたし,時に致死的になるこ
が前者を 50 %以上含む患者での薬物治療と PCI のラン
とが報告された.糸球体濾過量が 30 ml/min 未満ではガ
ダム化比較試験では PCI の 5 年生存率 48.4%に対して薬
ドリニウムの投与は避けるべきである 232).
物治療では 19.3%であったとの報告が我が国から出され
ている 227).糖尿病腎症は心血管疾患のなかでは大きな
②管理指針
問題であり,より適切な治療の選択には臨床現場での循
内科的治療と血行再建を比較すると,全体としては血
環器医と腎臓内科医,透析医との密接な連携による適切
行再建の方が血圧コントロール及び腎機能保持の両面で
な個々への対応がすすめられる.
優れている(レベル A)が,その差は予想外に小さい
2
虚血性腎症 / 腎動脈狭窄
虚血性腎症とは虚血による腎障害で,狭義には両側性
の粥状硬化性腎動脈狭窄に基づいた腎機能障害と定義さ
れる.我が国では,この疾患概念や診断名が定着してい
ないため,大半が腎硬化症と誤って診断され,見逃され
ている可能性が高い.冠動脈疾患など動脈硬化性疾患を
有する高齢者では合併率が高いと推定される.可逆性を
表 19 臨床的に腎動脈狭窄を疑うべき手がかり 230)
悪性または治療抵抗性の高血圧
安定していた血圧が急激に上昇し進行する
高血圧の発症年齢が 25 歳未満か 50 歳以上
血清クレアチニンが急に上昇(不可解か,RA 系抑制薬投
与後)
50 歳以上で全身動脈硬化が強い
腎サイズに左右差
腹部血管雑音
急性左心不全の既往
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
1499
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006−2007 年度合同研究班報告)
表 20 確定診断のための検査
形態学的検査(スクリーニング)
:スクリーニングには非侵襲的検査が推奨される
超音波検査で腎サイズの左右差が 1.5cm 以上の症例では腎動脈狭窄の疑いが強い
超音波ドプラで収縮期最高血流速度(PSV)が 180cm/ 秒以上,あるいは腎動脈と大動脈の PSV 比(RAR)が 3.5 を上回る場合
にも有意腎動脈狭窄が強く疑われる
CT アンギオ(CTA)や,ガドリニウム増強 MRA の有効性が示されている
機能的検査:カプトプリル負荷レノグラフィ・レノシンチグラフィ
確 定 診 断:腎動脈狭窄の機能的意義が強いと診断された場合,血管造影検査,及び血行動態検査を行う
以下に該当する場合には 機能的に有意な狭窄であり,血行再建術の適用
①血管造影所見において狭窄率 50 ∼ 70%
かつ収縮期圧較差 20mmHg 以上(あるいは平均血圧較差 10mmHg 以上)
②狭窄率 70%以上(IVUS 所見でも可)
233),234)
.いずれの前向き研究も単独では優位性を証明で
ネフローゼ症候群を呈している症例の循環動態に関し
きず,メタ解析で初めて優位性が明らかになる程度でし
ては,二つの異なる考え方がある 236).一つは,低蛋白
かない.結論的に言えば,確かに血行再建により血圧コ
血症(低アルブミン血症)による血管内膠質浸透圧の低
ントロールや腎機能が改善する症例が存在するが,無効
下から,血管内脱水状態(underfill)が存在するとする
な症例も明らかに存在する.逆に,内科的治療でも両者
考え方である.他方は,ナトリウム排泄低下による循環
を十分にコントロールできる症例が少なからず存在す
血漿量増加(overflow)が存在するとする考え方である.
る.現状での治療方針やカテーテル治療の適応は,図
どちらの病態が主であるかは,症例により異なるとされ
235)
ている.いずれの病態においても,血管内の水分は組織
に示した通りである.
8
個々の症例で合併している冠動脈疾患や脳梗塞などの
間質への移行が起こりやすい状態となり,容易に浮腫が
重症度が異なるため,治療方針の決定にはエビデンスや
出現する.重症ネフローゼ症候群で肺うっ血,心不全が
ガイドラインでは示し得ない個別対応が求められる.
生じる背景にはいずれかの循環動態の異常が関与してい
3
る.
ネフローゼ症候群
心不全に伴う心性浮腫とネフローゼ症候群に伴う腎性
ネフローゼ症候群は,3.5g/ 日以上の尿蛋白量,低蛋
浮腫には臨床的に差異がみられる 237),238).右心不全によ
白血症(低アルブミン血症),高コレステロール血症,
る浮腫は,頚静脈怒張とともに下肢に強く出現する傾向
浮腫を主症状とする腎疾患である.浮腫は,顔面,下肢
がある.臥位になると心臓の負担が軽減するため,利尿
などに出現しやすいが,著しい場合は,胸水,腹水など
がつくことで改善する.左心不全では,肺うっ血が生じ
も出現し,全身性浮腫状態(anasarca)となる.
やすい.ネフローゼ症候群の浮腫は,頚静脈怒張はなく,
図 8 虚血性腎症の管理ガイドライン 230)
動脈硬化に対する生涯治療
RAS>50%
定量的評価
RAS>50%でかつ
至適降圧薬療法
・血圧
・クレアチニンクリアランス
・尿蛋白
・分腎機能
・腎サイズ
・腎動脈狭窄度
・急性肺水腫の既往
・ACE / ARB による腎機能低下
・コントロール不良の高血圧
・コントロール不良の心不全
・腎機能障害高度
・両側性の高度 RAS
Yes
No
腎サイズ>7.5cm?
6 カ月後に再評価
No
Yes
Significant progression?
Yes
No
血行再建を考慮
薬物療法
6 カ月ごとに再評価
RAS:腎動脈狭窄,BP:血圧,ACEI/ARB:レニン・アンジオテンシン(RA)系抑制薬
1500
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
脳血管障害,腎機能障害,末梢血管障害を合併した心疾患の管理に関するガイドライン
ける虚血性心疾患イベントを 9 年間追跡調査した ARIC
顔面と下肢に浮腫が出現する傾向がみられる.
ネフローゼ症候群にみられる全身合併症としては,急
性腎不全
239)
,急性膵炎,腹膜炎
240)
,心筋梗塞
241)
,肺梗
塞 242),腎静脈血栓症 243),下肢静脈血栓症などが報告さ
(Atherosclerosis Risk in Community)study では,貧血の
ある腎機能低下患者では,心疾患イベントのリスクが著
)
しく上昇することが報告されている 248(レベル
B).
れている.血栓症は,ネフローゼ症候群による血管内脱
近年,cardio-renal anemia syndrome(CRA 症候群)と
水,高脂血症,過凝固状態から出現すると考えられてい
いう概念が注目されている.これは心不全と貧血にさら
る 243).血栓症の中でも,心筋梗塞の合併頻度は低いが,
に腎疾患が加わって相互に悪影響を及ぼすというもので
静脈系の肺動脈血栓症と腎静脈血栓症の頻度は高く,報
あり,その病態は以下のように考えられている.まず心
告によっては 30 ∼ 40 %と高率に認められるとされる
機能障害が進行すると,心不全の原因によらず組織の血
243)
液灌流が障害される.腎臓は虚血に対して元来脆弱な臓
ネフローゼ症候群では,低アルブミン血症により肝臓
器であり,心不全に伴う有効循環血流の低下は腎機能障
でのアルブミンの合成が増大し,それに伴い低比重リポ
害を容易に引き起こす.腎機能障害が進行し,CKD の
蛋白(LDL),超低比重リポ蛋白(VLDL),リポ蛋白(a)
ステージ 3 に至ると腎性貧血が顕在化する.腎性貧血は,
.
(Lp(a))の生成も増加することから動脈硬化促進型の
244)
翻って心機能障害を引き起こす.この貧血による心機能
.また,動脈硬化抑制因子であ
障害の原因は,酸素供給の不足に伴う心筋虚血や酸化ス
る高比重リポ蛋白(HDL)は尿中へ漏れ,血中 HDL は
トレスの増加,末梢血管抵抗の減弱による心拍出量の増
減少する.ネフローゼ症候群では,肝臓でのフィブリノ
加,糸球体濾過量の低下に伴う腎での体液貯留,RA 系
ーゲン合成も増加し,アンチトロンビンⅢが尿中へ喪失
の活性化による左室肥大などが複雑に関係し,心機能障
高脂血症が出現する
するため,易血栓形成状態となる
245)
.したがって,ネ
害がさらに進行する 249),250).
フローゼ症候群の持続は,動脈硬化と血栓症の危険因子
このように心機能の低下は腎機能低下を惹起し,腎機
となる.さらに,治療として長期間にわたり副腎皮質ス
能低下は貧血を招来し,貧血が心機能を更に低下させ,
テロイド薬を使用することもこれらを増悪させると考え
心機能の低下がさらに腎機能障害を悪化させるという悪
られる.
循環が成立する.また一方で,腎不全心不全に伴う炎症
ネフローゼ症候群の治療としては,副腎皮質ステロイ
性サイトカインの上昇が造血と造血環境を障害するこ
ド薬以外に免疫抑制薬が使用される.近年では,ネフロ
と,腎不全が血管石灰化を惹起することによって心疾患
ーゼ症候群の治療の目的のみならず,合併症予防を考慮
を増悪させること,さらには貧血が腎虚血を通して腎機
して,抗凝固薬,抗血小板薬,スタチン製剤が積極的に
能を悪化させる事実も知られている.このように心・腎・
併用される.ネフローゼ症候群でも,スタチン製剤によ
貧血の相互悪影響には複雑で重層的かつ多層的な悪循環
246)
る高脂血症改善効果が報告されている (レベル C).
が形成されている.
ネフローゼ症候群の治療として,通常は,アルブミン補
日本透析医学会は,維持血液透析患者を対象とする「慢
充は積極的にはすすめられない.しかし,膠質浸透圧低
性血液透析患者における腎性貧血治療のガイドライン」
下による循環不全があると判断される場合は,必要に応
を 2004 年に発表し,貧血治療についての指針を示した
じ補充を行う.
251)
4
腎性貧血
.目標値設定のために日本透析医学会の統計調査資
料
を利用し,1995 年末の Ht 値(組み換え型ヒトエリ
252)
スロポエチン非使用例も含む 55,855 例)を 3%間隔に階
腎性貧血は,腎機能低下に伴う腎からのエリスロポエ
層し,5 年生存率に及ぼす影響を検討した.その結果 Ht
チン産生低下に起因するが,その一部には尿毒症性物質
30 ∼ 33 %が最も良好な予後を示しており,血液透析患
による造血障害や赤血球寿命の低下も関与している.一
者に対する組み換え型ヒトエリスロポエチン療法の目標
般に網状赤血球数の相対的減少を伴った正球性正色素性
Hb(Ht)値として,週初めの透析前採血による値で Hb
貧血となり,慢性腎臓病のステージ 3 ∼ 5 では腎性貧血
値 10 ∼ 11 g/dl(Ht 値 30 ∼ 33%)を推奨している.
の有無を確認する必要がある.
欧米でも,これまでのエビデンスに基づき腎性貧血の
貧血と心血管系合併症との関連については多くの知見
ガ イ ド ラ イ ン が 作 成 さ れ て い る. 欧 州 で は EBPG
が報告されている.Framingham study において,貧血
(European Best Practice Guidelines for Anemia in Patients
は慢性心不全の発症における独立した危険因子であると
with Chronic Renal Failure)ガイドライン 253),米国では,
報告された 247).また,13,000 人の腎機能低下患者にお
KDOQI(Kidney Disease Outcome Quality Initiative)ガ
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
1501
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006−2007 年度合同研究班報告)
イドライン 254)が汎用されている.両ガイドラインとも
要がなく,むしろ有害であることを示唆している.この
に血液透析患者,腹膜透析患者,保存期腎不全患者すべ
結 果 を 受 け て,FDA よ り 赤 血 球 造 血 刺 激 薬
てを同一値に設定しており,目標 Hb 値> 11g/dl として
(erythropoiesis stimulating agent:ESA)による腎性貧血
いる.欧米のガイドラインの目標 Hb 値と比べて,我が
治療では Hb 12.0 g/dl を超えないように注意すべく勧告
国の目標 Hb 値が低値である理由は,人種差に加えて週
が出された.組み換え型ヒトエリスロポエチンは腎性貧
初めの採血であることと採血時の体位の違いによる影響
血を改善することで CRA 症候群を多面的に改善し,悪
と説明されている
255)
.今回改訂された我が国の腎性貧
循環を断ち切る可能性を秘めた重要な治療薬と考えら
血治療ガイドラインでは,対象を血液透析患者だけでな
れ,今後より積極的な使用が期待されるが過剰投与にな
く保存期慢性腎不全患者,腹膜透析患者,小児慢性腎不
らないよう注意が必要である.
全患者に拡大した.目標 Hb 値については,一般の血液
透析患者では 10 ∼ 11g/dl を,活動性の高い比較的若年
者では 11 ∼ 12g/dl を推奨し,腹膜透析患者や保存期慢
性腎不全患者では 11g/dl 以上を推奨した.欧米のガイド
5
透析治療
①適応と選択
ラインと異なって腎不全患者の治療形態によって差を設
透析導入に関する厚生科学研究班の基準は,尿毒症の
けたことが特徴で,エリスロポエチン製剤の休薬基準を
臨床徴候,腎機能障害のレベル,患者の日常生活の障害
血 液 透 析 患 者 で は Hb12g/dl 以 上( 比 較 的 若 年 者 で は
度の 3 つのカテゴリーを客観的に評価して透析導入時期
13g/dl 以上),腹膜透析患者や保存期慢性腎不全患者で
を決定しようとするものである(表 21)260).臨床症状,
は 13g/dl 以上と,目標 Hb 値と休薬基準を別に提示した.
腎機能,日常生活障害度の 3 項目の点数を合計しこれが
エリスロポエチンは貧血の改善だけでなく,貧血の是
60 点以上である場合に「客観的にみて透析導入が妥当
正によって組織灌流を適正化し,心・腎機能障害の悪化
である」と判断できるとしている.さらに付帯事項とし
を防ぐとともに障害のさらなる進展を抑制することが示
て,筋肉量が少なく腎機能から推測されるよりも実測の
されている.Kuriyama ら
256)
は,非糖尿病性の保存期腎
不全の患者を対象に,エリスロポエチン投与が残腎機能
血清クレアチニン濃度が低値を示す 10 歳未満の年少者,
65 歳以上の高齢者及び早期導入の必要性が高い糖尿病
に与える影響を検討し,エリスロポエチン投与群で腎生
存率が高いことを報告した(レベル C).また Silverberg
ら
257)
は,従来の治療に抵抗性の重症心不全患者(NYHA
クラスⅢ及びⅣ)で貧血があるもの(Hb 値が 10.0 ∼
11.5g/dl)に対して,エリスロポエチン投与群と非投与
群に分けて比較検討し,貧血治療群において生命予後,
心機能の改善を認め,入院期間の短縮がみられたと報告
した(レベル C).一方,2006 年,CKD 患者の貧血に対
する無作為化試験 CREATE 試験 258)と CHOIR 試験 259)が
相次いで報告され,貧血を腎機能正常患者レベルまで改
善させることが必ずしも良好な結果をもたらさないこと
が報告された.CREATE 試験では Hb 値を正常範囲(Hb
13 ∼ 15g/dl)に早期から保つようにエリスロポエチンを
使用した群は目標 Hb を 10.5 ∼ 11.5g/dl にした群と比較
して心血管合併症の発生頻度は変わらないという結果で
あ っ た( レ ベ ル B). ま た CHOIR 試 験 で は 目 標 Hb を
13.5g/dl にした患者(治療中の実際の平均 Hb 12.6 g/dl)
の ほ う が, 目 標 値 11.3g/dl( 治 療 中 の 実 際 の 平 均 Hb
11.3 g/dl)にした患者よりも死亡,心筋梗塞,うっ血性
心不全による入院そして脳卒中の危険率が高く,QOL
を改善しないことが示された(レベル B).これらの結
果より,目標 Hb を腎機能正常者と同等にまで上げる必
1502
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
表 21 透析導入に関する厚生科学研究班の基準
Ⅰ.腎機能
血清クレアチニン(mg/dl)
点数
{クレアチニン・クリアランス(ml/ 分)}
8 以上{10 未満}
30 点
5 ∼ 8 未満{10 ∼ 20 未満}
20 点
3 ∼ 5 未満{20 ∼ 30 未満}
10 点
Ⅱ.臨床症状
1.体液貯留(全身性浮腫,高度の低蛋白血症,肺水腫)
2.体液異常(管理不能の電解質・酸塩基平衡異常)
3.消化器症状(悪心,嘔吐,食欲不振,下痢など)
4.循環器症状(重篤な高血圧,心不全,心包炎)
5.神経症状(中枢・末梢神経症状,精神障害)
6.血液異常(高度の貧血症状,出血傾向)
7.視力障害(尿毒症性網膜症,糖尿病性網膜症)
これら 1 ∼ 7 小項目のうち当てはまる項目数(程度) 点数
3 つ以上(高度)
30 点
2 つ(中等度)
20 点
1 つ(軽度)
10 点
Ⅲ.日常生活障害度
障害程度
点数
尿毒症症状のため起床できないもの(高度)
30 点
日常生活が著しく制限されるもの(中等度)
20 点
通勤,通学,或いは家庭内労働が困難になった場合
10 点
(軽度)
10 歳未満の年少者,65 歳以上の高齢者及び糖尿病患者,膠原
病患者には,10 点を加算する.60 点以上である場合に「客観
的に見て透析導入が妥当である」と判断する.
脳血管障害,腎機能障害,末梢血管障害を合併した心疾患の管理に関するガイドライン
患者,全身性血管合併症を有することが多い膠原病患者
グラフト(上腕・大腿部),長期留置型血管カテーテル,
には,10 点が加算されることになっている.
大腿静脈穿刺(長めの弾性留置針)などがある.
心疾患を有する腎不全患者では,心機能の低下,腎不
PCI での留意点としては,ほとんどの透析患者は上肢
全の進行により体液過剰となり,緊急透析を要すること
に内シャントがあり,将来的に対側の上肢も内シャント
が多い.強力な利尿薬治療によっても浮腫の管理ができ
を作成する可能性があるため,冠動脈造影時は大腿動脈
ない場合には透析導入を検討すべきである.
からのアプローチが望ましい.また,透析患者の冠動脈
②長期透析患者の心血管疾患
病変はしばしば高度の石灰化病変を伴い,多枝病変が多
いことが特徴である.この石灰病変がバルーン拡張時に
我が国の透析の特徴として導入時の原因疾患として糖
拡張不全の原因になることがあり,透析患者の PCI では
尿病腎症が 42.0 %と最多であり,導入時の平均年齢は
バルーン拡張よりもステントを留置したほうが,臨床成
66.20 歳と高齢者が多いことが挙げられる.また導入患
)
績が優れているという報告 261(レベル
C)もある.
者の 5 年生存率は 63.1 %,10 年生存率は 40.7 %であり,
10 年以上透析をうけている長期透析患者の割合が約 25
6
腎移植
%と多いことも特徴といえよう.
日本における腎移植件数は年間 1,000 例前後である.
透析患者における心血管系合併症は最も重要な予後規
2006 年度は 1,136 例に達し,近年増加傾向にある.この
定因子であり,2005 年末の調査では透析患者の死因の
うち,生体腎移植が 82.7%,献腎移植が 16.0%,脳死体
約 30 %を占めている.透析患者での心不全は尿量減少
腎移植が 1.3%を占める 262).レシピエントの平均年齢は,
のため循環血液量の増加や,腎性貧血,心筋虚血,内シ
生 体 腎 移 植 で 38.6 ± 14.6 歳, 献 腎・ 脳 死 体 腎 移 植 で
ャントによる右心負荷,高血圧やアミロイドなどの心筋
46.6 ± 12.7 歳であり,後者に中高年齢者が多い 263).レ
沈着による心筋拡張不全,二次性副甲状腺機能亢進症・
シピエントの腎原疾患は糸球体腎炎と糖尿病腎症が主体
高リン血症による弁の石灰化といった多くの要因が重な
である.糸球体腎炎の比率は,生体腎移植で 58.0%,献
り合って引き起こされる.特に体液過剰を起こしやすい
腎・脳死体腎移植例で 70.0%である.糖尿病腎症は,生
透析患者では左室拡張障害から心不全をきたすことが多
体腎移植例で 10.4 %,献腎・脳死体腎移植例で 5.0 %の
いのも特徴である.また,心臓弁膜症の頻度が高く,大
比率である.レシピエントの術前合併症としては高血圧
動脈弁石灰化(aortic valve calcification:AVC)・僧帽弁
の頻度が高く,生体腎移植で 44.4%,献腎・脳死体腎移
輪石灰化(mitral annular calcification:MAC)が特徴的
植で 41.3%に認められる.術前の循環器合併症は,生体
であり,AVC 30 ∼ 55%,MAC 10 ∼ 52%といずれも腎
腎移植で 10.1%,献腎・脳死体腎移植で 18.1%に確認さ
機能正常者と比較して高率に認める.
れると報告されている 263).
バスキュラーアクセス(VA)に関しては,心機能に
腎移植患者の死因は,2003 年までの追跡調査では,1
問題がなければ VA を造設し心拍出量の一部を VA 血流
位が脳血管障害で 14.7 %,2 位,3 位が感染症,悪性新
として使用することは問題ない.新たな VA 作製によっ
生物ともに 13.8%,4 位心疾患 10.6%である.腎移植後
て心拍出量に対する末梢血管抵抗が低下するが,心拍出
に心疾患で亡くなる症例が約 10%存在する 264).
量が増加することで血圧を保ち末梢循環を維持する.短
腎移植を受けるレシピエントの多くは透析患者であ
絡量が著しく大きい場合には心拍出量が限界に達して心
り,移植前の心疾患合併率は高い.そのため術前に,心
機能が破綻し,高心拍出量性心不全を呈する.また心予
エコー,必要に応じ心筋シンチ,心臓カテーテル検査な
備能が低い場合,VA 血流の増加に心拍出量の増加が対
どにより,心不全,虚血性心疾患の有無を確認する.左
応することができずに,全身循環が阻害される循環障害
室駆出率 50 %未満,冠動脈狭窄病変がある場合は,加
型の心不全が発症する.内シャントの通常の血流量は平
療後に腎移植術を受ける必要がある.
均 500 ∼ 800 mL/ 分であり,200 mL/ 分の血流があれば
欧米での腎移植後の心血管系疾患の発症率は,年間で
閉塞することはない.前腕部の内シャントで時に高拍出
3.5 ∼ 5.0%に達するといわれ.一般人口と比較して数十
状態となるが,上腕部ではさらに頻度が高くなる.内シ
倍高いとする報告がある 265).心血管系疾患発症の危険
ャントを押え閉塞させると徐脈になるのは,内シャント
因子としては,高血圧,高脂血症,糖尿病,喫煙などの
が心拍出量増加による心不全の原因であることを示す
古典的因子の他に,副腎皮質ステロイド薬,免疫抑制薬,
(Branham の徴候).心負荷とならない恒久的 VA として
拒絶反応・炎症反応,蛋白尿,腎機能低下など腎移植に
は,動脈表在化(上腕動脈,大腿動脈),動脈ジャンプ
特異的な危険因子も関与すると考えられている 263).免
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
1503
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006−2007 年度合同研究班報告)
疫抑制療法としては,副腎皮質ステロイド薬,カルシニ
には投与しないことが多い.
ューリン阻害薬が標準的に使用される.これらの薬剤は
降圧薬は,透析の当日は投与をしないこともある.こ
動脈硬化を促進することが知られている.レシピエント
れは透析患者の血圧は容量依存的であり,透析を行うこ
の 平 均 GFR は 60 ∼ 70ml/ 分 /1.73m2 で あ り 266),CKD ス
とにより体液量が減少し,血圧が低下することが多いた
テージ 3 以上の症例が 60%以上存在する.したがって,
めである.また,透析前に降圧薬を服用すると透析を行
造影剤が必要な検査の際は注意が必要である.また,移
っている間に血圧が下がり低血圧発作を起こす可能性が
植後新たな心疾患発症の他に,術前に受けていた透析療
あるので,注意が必要である.高血圧の管理上,透析患
法期間中に発症していた既存の心疾患の悪化も考えられ
者の透析前の収縮期血圧で最も生命予後がよいのは 140
る.このような場合は,冠動脈石灰化が強いことが予測
∼ 180mmHg である.透析患者の血清 K 値は高い場合が
される.
多いが,K は透析中に除去されるため,透析中に不整脈
5
が出現しやすいので,場合によっては K を持続注入して
心疾患治療と腎障害の関わり
透析を行うこともなされている.
④抗不整脈薬
1
心疾患の薬物療法
多くの抗不整脈薬は腎排泄性のため,腎機能低下患者
で通常量を投与すると中毒を起こす.プロカインアミド,
①腎機能障害時の循環器薬使用方法の注意点
ジソピラミド,フレカイニド,ピルジカイニド,シベン
腎機能が低下している場合には腎排泄性の薬剤が代謝
されないため,血中に蓄積して副作用が増強する.した
カイン,メキシレチン,プロパフェノン,アミオダロン,
がって,可能な限り肝代謝の薬剤を使用する.しかし,
ジルチアゼム,ベラパミルは通常量を使用できる(レベ
腎排泄の薬剤しかない場合には腎機能に応じた薬剤使用
ル C).
量の減量が必要である.特定の薬剤については特に注意
プロカインアミドは 50%が肝臓で活性がある N- アセ
が必要で,中には使用禁忌となっているものもある.
チルプロカインアミドに代謝される.腎機能が低下する
と N- アセチルプロカインアミドは腎臓からの排泄が遅
②腎機能に応じた減量の目安
れるため,半減期が 40 時間になり,腎不全では血中薬
日 本 人 に お い て GFR は Ccr × 0.72 で あ る ( レ ベ ル
剤 濃 度 モ ニ タ リ ン グ(Therapeutic drug monitoring,
B).体表面積補正を行った GFR 36ml/min/1.73m (Ccr
TDM)を必要とする 267).
50ml/min) 以 上 で は 減 量 の 必 要 は な い( レ ベ ル C).
ジソピラミドは Ccr50ml/min 以上では半減期は 6 ∼ 8
GFR 36 ∼ 15ml/min/1.73m (Ccr50 ∼ 20ml/min)では通
時間であるが,腎不全患者では 15 時間になる 268).また,
常投与量の 3 分の 2 ∼ 2 分の 1 を投与するか,間隔をあ
肝 CYP3A4 により mono-isopropyl disopyramide が産生さ
け て 投 与 す る.GFR 15ml/min/1.73m2(Ccr 20ml/min)
れるが,ジソピラミドの 20 ∼ 30 倍強力な抗コリン作用
未満では 3 分の 1 以下を投与する(レベル C).
があり,腎不全患者では mono-isopropyl disopyramide が
また,GFR は体表面積補正をした数値で表されてい
蓄積するため副作用が出やすい 269).低血糖を起こすこ
るため,体格が大きい場合や小さい場合には,GFR は
とがある 270).また,ジソピラミドはα 1 酸性糖タンパ
過少あるいは過大評価されるため,
(体表面積 A/1.73m2)
クと結合するが,腎不全ではα 1 酸性糖タンパクが増加
を掛けて体表面積補正を戻して,薬剤投与量を計算する.
するため,遊離型のジソピラミドが低下することがある
Doboirの式 A=体重(kg) ×身長(cm) ×7184×10
ため TDM が必要な薬剤である.
96)
2
2
0.425
0.725
−6
③透析患者の薬物治療の原則
ピルジカイニドは尿中に未変化体が 80 %排泄される
ため,腎機能に応じた減量が必要である 271).
血液透析療法を行っている患者の腎機能は原則的に 0
シベンゾリンは腎機能低下患者に使用すると血中濃度
と考えてよい.一方で,使用するダイアライザーにも依
が上昇し 272),重篤な低血糖の副作用が起こることがあ
存するが,小分子の薬物で蛋白結合能の低いものは透析
る 273).
により除去されうるが,一般に透析患者への腎排泄性の
薬剤投与量は減らす必要がある.また,透析性の高い腎
排泄性の薬剤は,透析後に 1 回投与し,次回の透析まで
1504
ゾリンでは減量が必要である(表 22)(レベル C).リド
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
脳血管障害,腎機能障害,末梢血管障害を合併した心疾患の管理に関するガイドライン
中濃度が過大評価される可能性がある 284).
⑤心不全治療薬
心不全の治療には ACE 阻害薬,ARB,β遮断薬が使
⑧利尿薬
用されるが,ARB とカルベジロールは減量の必要はな
利尿薬は前負荷を軽減し,血管の反応性を改善する.
い(レベル C).ACE 阻害薬は腎排泄性のものが多いが,
また,過剰な体液を排泄して,浮腫を軽減する.フロセ
実際の使用に関しては,効果に応じて量を調節する.
ミドなどのループ利尿薬が循環器分野ではよく使用され
ホスホジエステラーゼⅢ阻害薬(ミルリノン,アムリ
る.
274)
ノン)は腎排泄性の薬剤であり,減量を必要とする (レ
腎機能が GFR30ml/min/1.73m2 未満に低下すると,サ
ベル C).
イアザイド系利尿薬は効果が低くなる 285).したがって,
GFR が低下した症例ではループ利尿薬を使用すること
⑥カテコラミン
が好ましい.サイアザイド系利尿薬はループ利尿薬併用
交感神経の活性化は Na の再吸収を亢進する.これは
により,Na 利尿が増加することが報告されている 286),
α 1 受容体による近位尿細管とヘンレループでの Na 再
287)
吸収の亢進
275),276)
,腎細動脈の血管抵抗上昇による尿細
管周囲毛細血管網の変化 275),β 1 受容体を介したレニン・
アンジオテンシン・アルドステロン系の亢進による 276).
α 2 受容体は Na 利尿を促進する
275)
.
ドパミンはノルエピネフリンやエピネフリンと逆の作
.
(これらの循環器薬について一覧にして表 22 に示す.)
2
心疾患の非薬物療法
① IABP,PCPS,CRT
用をし,葉間動脈や輸出・輸入細動脈を拡張し,腎血管
心原性ショックなどで用いられている IABP や PCPS
抵抗を下げる 277).また,近位尿細管での Na 再吸収を抑
は全身の血行動態を改善し,腎機能の保持に働くと考え
.少量のドパミン(0.5 ∼ 3.0μg/kg/min)は急
られる.これらの循環補助手段は特に重症な患者に用い
性腎不全のときの尿量を維持し,腎保護作用を示すとい
られ,無作為試験を行うことができないため,腎臓に対
われる 278)が,実際にランダム化比較試験では有効性を
する作用を実証することは困難である.開心術後の急性
制する
277)
279)−281)
(レベル C).ドブタミンはドパミ
腎不全の発症の因子として,IABP の使用があげられて
ンの 4 倍の陽性変力作用を持ち陽性変時作用や催不整脈
いるが,これは循環動態が悪化していることを反映して
作用が弱い.一般に常用量が用いられ用量調節は行われ
いると考えられている 288).最近,Vohra らは off-pump
ない.しかし,少量のカテコラミンでも長期投与すると
CABG が 行 わ れ た 高 リ ス ク 冠 動 脈 患 者 で, 術 前 か ら
過剰となり,腎血管収縮を起こし血管抵抗が上昇する.
IABP を用いた群(n=20)と用いない群(n=25)での比
示しえていない
⑦ジギタリス
較検討を行った 289).ベースラインの患者背景には違い
がなかったものの,IABP を用いた群では,術後の腎機
心不全を合併した心房細動,心房粗動に有効である.
能の低下やそれによる透析療法が有意に低かったと報告
洞調律の場合には心不全による入院を減らしても,心不
している.高リスク患者では一時的な循環不全による臓
全による予後は改善しない.また,血中濃度を低く保っ
器障害が発症しやすく,術前からの IABP の使用がそれ
て治療することが必要である.腎機能低下患者において
を防ぐため有効であると推測されている 290).
ジゴキシン,メチルジゴキシン,デスラノシドは減量の
心 室 再 同 期 療 法(cardiac resynchronization therapy:
282),283)
必要がある(レベル C)
.ジゴキシン血中濃度は測
CRT)は心機能を改善することにより全身の循環動態を
定可能であるのでジゴキシンの使用が望ましい.ジゴキ
改善するため,腎機能にも良い影響を与えると考えられ
シンは正常腎機能では半減期は 36 時間であるが,透析
るが,CRT と腎機能に関する臨床的エビデンスは少な
患者では約 100 時間に延長される.Ccr10 ∼ 50ml/min の
い.既に右心室ペーシングが挿入されており,かつ,心
時は常用量の 4 分の 1 ∼ 4 分の 3 を 36 時間ごとに投与する.
不全を有する患者においても CRT は心機能の改善とと
Ccr < 10ml/min の時は常用量の 10 ∼ 25%を 48 時間ごと
もに利尿薬の使用量を低下させた 291).CRT 施行前の腎
に投与する.血中薬剤濃度モニタリングにより,濃度を
機能は CRT 施行後の生命予後の独立した危険因子であ
0.5 ∼ 1.1ng/ml 程度にコントロールすることが推奨され
る 292).また,CRT 後に腎機能が維持されていた群と腎
るが,腎不全ではジゴキシン様免疫反応因子(digoxin-
機能が悪化した群では長期生命予後(平均 3 年の追跡)
like immunoreactive factor:DFLP)が上昇するため,血
に大きな違いがあると報告されている 293).腎機能が保
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
1505
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006−2007 年度合同研究班報告)
表 22 腎機能低下時の薬剤投与量 93)
薬剤名
(一般名)
α 遮断薬
ウラピジル
塩酸ブナゾシン
塩酸ブナゾシン
メシル酸ドキサシン
アテノロール
塩酸アセプトロール
β 遮断薬
塩酸カルテオロール
塩酸ベタキソロール
酒石酸メトプロロール
ニプラジロール
ピンドロール
フマル酸ビソプロロール
αβ 遮断薬
塩酸アロチノロール
カルベジロール
アラセプリル
塩酸イミダプリル
塩酸キナプリル
塩酸テモカプリル
阻害薬
A
C
E
塩酸デラプリル
塩酸ベナゼプリル
シラザプリル
トランドラプリル
ペリンドプリルエルブミン
マレイン酸エナラプリル
リシノプリル
オルメサルタンメドキソミル
薬
A
R
B
カンデサルタン
シレキセチル
テルミサルタン
バルサルタン
ロサルタンカリウム
1506
>50
30 ∼ 120mg
分2
3 ∼ 9mg
分1
1 ∼ 15mg
分2∼3
0.5 ∼ 16mg
分1
25 ∼ 100mg
分1
200 ∼ 600mg
分1∼3
Ccr(mL/min)
10 ∼ 50
25mg
分1
<10
HD(透析)
腎機能正常者と同じ
×
腎機能正常者と同じ
×
腎機能正常者と同じ
×
腎機能正常者と同じ
×
25mg
48h ごと
25mg
透析後(週 3 回) ○
分1
腎機能正常者の
腎機能正常者の 25%に減量するなど
50%に減量する
慎重投与
など慎重投与
15mg
7.5mg
3.75mg
分1
分1
分1
2.5 ∼ 10mg
分1
10 ∼ 30mg
分1
5 ∼ 20mg
分1
60 ∼ 120mg
腎機能正常者と同じ
分2∼3
6 ∼ 18mg
腎機能正常者と同じ
分2
5 ∼ 15mg
5 ∼ 10mg
分3
分1∼2
5mg
重篤な腎機能障害のある患者では薬物の代謝排泄が遅延
分1
し作用が増強するおそれがあるので慎重投与
20 ∼ 30mg
腎機能正常者より少量から投与を開始する
分2
2.5 ∼ 20mg
腎機能正常者より少量から投与を開始する
分1∼2
25 ∼ 100mg
25mg
分1∼2
分1∼2
2.5 ∼ 10mg
5mg
減量の必要なし
分1
分1
5 ∼ 20mg
Ccr<30 では低用量(例えば 2.5mg)
2.5mg
分1
から投与
分1
1 ∼ 4mg
1 ∼ 3mg
減量の必要なし
分1
分1
30 ∼ 120mg
減量の必要なし
分1∼2
2.5 ∼ 10mg
2.5 ∼ 5mg
2.5mg
分1
分1
分1
0.25 ∼ 1mg
腎 障 害 で は 1 日 1 回 0.25mg よ り 開 始, 血 清 Cr3mg/dL
分1
以上の場合減量または投与間隔を延長
0.5 ∼ .2.0mg
腎障害では 1 日 1 回 0.5mg より開始,Ccr ≦ 30 または血
分1
清 Cr3mg/dL 以上の場合減量または投与間隔を延長
2 ∼ 4mg
2mg
2mg
分1
24 ∼ 48h ごと
透析日分 1
5 ∼ 10mg
減量など慎重投与
分1∼2
2.5 ∼ 15mg(*) 2.5 ∼ 10mg(*) 2.5 ∼ 5mg(*)
2.5 ∼ 20mg
分 1(*Ccr30mL/ 分以下の場合,投与量を半量もしくは
分1
投与間隔を伸ばす)
10 ∼ 40mg
肝代謝だが開始時は減量など慎重投与 低用量から投与
分1∼2
2 ∼ 12mg
20 から 80mg
分1
40 ∼ 160mg
分1
25 ∼ 100mg
分1
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
透析 濃度
性 測定
?
×
×
×
×
×
×
×
×
△
○
×
×
?
×
○
?
○
○
×
肝代謝だが開始時は減量など慎重投与 低用量から投与
×
肝代謝だが開始時は減量など慎重投与 低用量から投与
×
肝代謝だが開始時は減量など慎重投与 低用量から投与
×
肝代謝だが開始時は減量など慎重投与 低用量から投与
×
脳血管障害,腎機能障害,末梢血管障害を合併した心疾患の管理に関するガイドライン
薬剤名
(一般名)
アゼルニジピン
塩酸エホニジビン
塩酸ジルチアゼム
塩酸ニカルジピン
塩酸バルニジピン
塩酸マニジピン
Ca拮抗薬
シルニジピン
ニソルジピン
ニトレンジピン
ニフェジピン除放剤
ニルバジピン
フェロジピン
ベジル酸アムロジピン
ベニジピン塩酸塩
ベラパミル
その他
降圧薬
酢酸グアナベンズ
冠拡張薬
硝酸イソソルビド
ニコラジル
ニトログリセリン
アデノシン三リン酸ナトリ
ウム
塩酸アミオダロン
塩酸ピルジカイニド
抗不整脈薬・強心薬
塩酸プロカインアミド
塩酸プロパフェノン
塩酸メキシレチン
塩酸リドカイン
コハク酸シベンゾリン
酢酸フレカイニド
ジギトキシン
ジゴキシン
>50
8 ∼ 16mg
分1
20 から 60mg
分1∼2
100 ∼ 200mg
分
40 ∼ 80mg
分2
5 ∼ 15mg
分1
5 ∼ 20mg
分1
5 ∼ 20mg
分1
5 ∼ 10mg
分1
5 ∼ 10mg
分1
20 ∼ 40mg
分1
4 ∼ 8mg
分2
5 ∼ 20mg
分2
2.5 ∼ 5mg
分1
2 ∼ 8mg
分1∼2
120 ∼ 240mg
分3
4mg
分2
40mg
分2
15mg
分3
適量
120 ∼ 300mg
分3
200mg
分2
1回
50mg
分2空
1回
0.25 ∼ 0.5g
3 ∼ 6h ごと
450mg
分3
300 ∼ 450mg
分3
1回
50 ∼ 100mg
300 ∼ 450mg
分3
100 ∼ 200mg
分2
0.05 ∼ 0.1mg
24h ごと
0.25 ∼ 0.5mg
分1
Ccr(mL/min)
10 ∼ 50
HD(透析)
<10
透析 濃度
性 測定
腎機能正常者と同じ
×
腎機能正常者と同じ
×
重篤な腎機能障害患者では薬物の代謝排泄が遅延し,作
用が増強するおそれがあるので慎重投与
×
腎機能正常者と同じ
×
腎機能正常者と同じ
×
腎機能正常者と同じ
×
腎機能正常者と同じ
×
腎機能正常者と同じ
×
腎機能正常者と同じ
×
腎機能正常者と同じ
×
腎機能正常者と同じ
×
腎機能正常者と同じ
×
腎機能正常者と同じ
×
腎機能正常者と同じ
×
腎機能正常者と同じ
慎重投与
×
腎機能正常者と同じ同量を慎重投与,場合により減量
?
腎機能正常者と同じ
×
腎機能正常者と同じ
○
腎機能正常者と同じ
×
腎機能正常者と同じ
×
腎機能正常者と同じ
1回
25 ∼ 50mg
分1∼2
1回
0.25 ∼ 0.5g
12h ごと
50mg
分1∼2
75 ∼ 150mg
分2
0.05 ∼ 0.1mg
24h ごと
0.125mg
24h ごと
×
○
×
○
○
○
腎機能正常者と同じ
×
○
腎機能正常者と同じ
×
○
腎機能正常者と同じ
×
○
×
○
×
○
×
○
×
○
1回
25 ∼ 50mg
48h ごと
1回
25 ∼ 50mg
毎 HD 後
1 回 0.25 ∼ 0.5g
12 ∼ 24h ごと
低血糖を起こすた
め禁忌
50 ∼ 150mg
分2
0.025 ∼ 0.075mg 0.025 ∼ 0.075mg
24h ごと
週2∼3回
0.125mg
0.125mg
48h ごと
週3∼4回
25mg
分1
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
1507
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006−2007 年度合同研究班報告)
薬剤名
(一般名)
抗不整脈薬・強心薬
ジソピラミド
ピモベンダン
メチルジギキシン
アセタゾラミド
アゾセミド
利尿薬
インダパミド
スピロノラクトン
フロセミド
トリクロルメチアジド
アスピリン
アルピリン・
ダイアルミネート配合
アルガトロバン
塩酸サルボグレラート
抗凝固・抗血小板薬
塩酸ジラセブ
塩酸チクロピジン
ジピリダモール
シロスタゾール
ダナパロイドナトリウム
トラピジル
ヘパリンナトリウム
硫酸クロピドグレル
ワルファリンカリウム
止血薬
1508
トラネキサム酸
>50
300mg
分3
Ccr(mL/min)
10 ∼ 50
150 ∼ 200mg
(20 ≦ Ccr < 50)
分1∼2
150 ∼ 200mg
分1∼2
HD(透析)
<10
100mg
100mg
(Ccr < 20)
分1
分1
腎排泄性なので
徐放製剤は適さない
300mg
分2
5mg
腎機能正常者と同じ
低用量から開始
分2
0.05 ∼ 0.1mg
0.05 ∼ 0.1mg
0.025 ∼ 0.05mg
0.05mg
分1
24h ごと
24 ∼ 48h ごと
週3∼4回
125mg
125mg
125 ∼ 1000mg
禁忌
分1∼4
12 h
週3回
60mg
腎機能正常者と同じ
分1
0.5 ∼ 2mg
慎重投与
分1
50 ∼ 100mg
禁忌
分割
40 ∼ 80mg
腎機能正常者と同じ
分1
2 ∼ 8mg
慎重投与
分1∼2
0.5 ∼ 4.5g
腎機能正常者と同量を慎重投与
分1∼3
81mg
腎機能正常者と同量を慎重投与
分1
6A/day × 2 日+
2A/day × 5 日
(脳血管症急性期)
腎機能正常者と同じ
2A/day
(慢性動・静脈閉塞症)
分2
300mg
腎機能正常者と同じ
分3
300mg
腎機能正常者と同じ
分3
200 ∼ 600mg
腎機能正常者と同じ
分1∼3
75 ∼ 400mg
腎機能正常者と同じ
分3∼4
200mg
腎機能正常者と同じ
分2
1回
血清 Cr2mg/dL 以上の場合は減量も
原則禁忌
1250U
しくは投与間隔をあけ慎重投与
12h
300mg
腎機能正常者と同じ
分3
適量
腎機能正常者と同じ
(APTT2 ∼ 3 倍
延長)
50 ∼ 75mg
腎機能正常者と同じ
分1
適量
腎機能正常者と同量を慎重投与
(INR で投与量を
決定)
125 ∼ 500mg
30 ∼ 125mg
12.5 ∼ 50mg
150mg
分1∼2
分1∼2
分1∼2
分1∼2
375 ∼ 2000mg
375 ∼ 2000mg
375 ∼ 2000mg
分3∼4
分1∼2
HD 後
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
透析 濃度
性 測定
×
○
×
○
×
○
×
×
×
?
×
×
?
○
○ (○)
×
×
×
×
×
×
×
?
×
×
×
○
○
脳血管障害,腎機能障害,末梢血管障害を合併した心疾患の管理に関するガイドライン
薬剤名
(一般名)
アルテプラーゼ
血栓溶解薬・脳保護薬
ウロキナーゼ
エダラポン
パミテプラーゼ
PGE1
製剤
モンテプラーゼ
アルプロスタジル
アトルバスタチン
イコサペント酸エチル
クリノフィブラート
コレスチミド
コレスチラミン
脂質異常症治療薬
シンバスタチン
ニセリトロール
ピタバスタチンカルシウム
フェノフィブラート
フルバスタチンナトリウム
フルバスタチンナトリウム
プロブコール
ベザフィブラート
ロスバスタチンカルシウム
アカルボース
糖尿病治療薬
インスリン
塩酸ピオグリタゾン
塩酸ブホルミン
グリクラジド
グリベンクラミド
グリメピリド
Ccr(mL/min)
HD(透析)
10 ∼ 50
<10
>50
29 万 ∼ 43.5 万 IU/kg( 急
性心筋梗塞)
腎機能正常者と同量を慎重投与
34.8 万 IU/kg( 虚 血 性 脳
血管障害急性期)
1 回 6 万 IU ×約 7 日(脳血
栓症)6 万∼ 24 万 IU/day
(末梢動・静脈閉塞症)
1 回 48 万 ∼ 96 万 IU( 急
腎機能正常者と同じ
性心筋梗塞,動注)
1 回 96 万 IU(急性心筋梗
塞,静注)
腎機能正常者と同じ
原則禁忌
1 回 30mg
1回
腎機能正常者と同じ
6.5 万 U/kg
1 回 13750 ∼
腎機能正常者と同じ
27500IU/kg
5 ∼μg
腎機能正常者と同じ
減量の必要なし
10 ∼ 40mg
腎機能正常者と同量を慎重投与
分1
1.8 ∼ 2.7g
腎機能正常者と同じ
分3
減量には投与時間を延長して慎重投与
600mg
3 ∼ 4g
腎機能正常者と同じ
分2
1 回 9g/
水 100mL
腎機能正常者と同じ
2∼3回
5 ∼ 20mg
腎機能正常者と同じ
分1
500mg
250mg
750mg
分3
分2
分1
1 ∼ 4mg
腎機能正常者と同じ
分1
慎重投与
100 ∼ 300mg
禁忌
分1
(血清 Cr 値 2.5mg/dL 以上で禁忌)
腎障害やその既往歴のある患者では横紋筋融解症に伴って急激な腎機能悪化があら
われることがあるので慎重投与
10 ∼ 20mg
腎機能正常者と同じ
分1∼2
500mg
500 ∼ 1000mg
分2
分2
200 ∼ 400mg
Cr2.0mg./dL 以上は禁忌
分2
2.5 ∼ 20mg
腎機能正常者と同じ
分1
150 ∼ 300mg
腎機能正常者と同じ
分3
インスリンは腎機能低下とともに排出低下による効果増大が起こるので適宜減量が
必要となる.一般的な透析液の場合血糖値が 100 ∼ 150mg/dL に近づくために透析
時の減量も必要である.
15 ∼ 45mg
慎重投与
禁忌
分1
Ccr <70 では低血糖のみでなく乳酸アシドーシスの危険があるため禁忌
40 ∼ 160mg
分1∼2
腎機能障害患者へは慎重投与,重篤な腎機能障害患者は
1.25 ∼ 10mg
禁忌(SU 剤は腎機能が低下すると,低血糖を起こしや
分1∼2
すいため,重篤な腎不全患者はインスリンに切り替える)
1 ∼ 6mg
分1∼2
透析 濃度
性 測定
×
×
×
?
?
△
×
×
×
×
×
×
○
×
×
?
×
×
?
×
?
×
×
○
×
×
×
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
1509
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006−2007 年度合同研究班報告)
薬剤名
(一般名)
糖尿病治療薬
高尿酸血症治療薬
>50
180 ∼ 360mg
分 3,食直前
0.6 ∼ 0.9mg
分3
150mg
分3
15 ∼ 30mg
100 ∼ 300mg
分2∼3
3 ∼ 4mg
通常
分6∼8
0.5 ∼ 1mg
予防
分1
25 ∼ 150mg
分1∼3
ナテグリニド
ボグリボース
ミグリトール
ミチグリニド
アロプリノール
コルヒチン
ベンズブロマロン
Ccr(mL/min)
10 ∼ 50
減量の必要ないが
慎重投与
HD(透析)
低血糖が起こりやすいため禁忌
透析 濃度
性 測定
×
腎機能正常者と同じ
?
腎機能正常者と同じ
○
半減期が延長し低血糖を起こしやすいため慎重投与
50 ∼ 100mg
50mg
50 ∼ 100mg
分1
分1
毎 HD 後
?
慎重投与
(1 日 1.2mg 以上投与しない)
原則として
投与しない
連続投与は
推奨できない
尿中排泄促進剤のため尿量が減少し
た症例では原則禁忌
○
×
×
持または改善された群では同時に心機能の改善も見られ
い.Di Mauro らは off-pump と on-pump での CABG を比
ており,両者には有意な相関関係があった.すなわち,
べ,血清クレアチニン値 1.5mg/dl 未満では off-pump 群
CRT 後の心機能の変化と腎機能の変化は密接に関連し,
で急性腎不全の発症は少なかったが,腎機能の悪化して
ともに生命予後にも重大な影響を与える.
いる群では off-pump と on-pump 群間に差はなかったと
している 305).一方,Sajja らは糖尿病で腎機能障害を有
②開心術,CABG
する群では off-pump の群で腎不全の発症が少ないと報
術前の腎機能障害は開心術及び CABG の周術期死亡
告している 306).また,彼らは,腎機能の評価としては
や長期予後のリスクである 294).米国胸部外科学会のデ
血清クレアチニン値を用いるより GFR を用いたほうが
ータベースでは,CABG を受けた 483,914 人のうち 25%
より鋭敏であるとしている.これまで報告のメタ解析の
がステージ 3 以上の慢性腎臓病 CKD を有していた 295).
結果も off-pump 手術の腎保護効果を支持するものと支
術前に CKD があると周術期のみならず,その後の遠隔
持しないものがある 307)−309).さらに,術式(on-pump
成績も悪くなる
295),296)
.
vs. off-pump)よりも腎不全の発症自体が長期予後に重
心臓手術後の急性腎不全の発症は 1 ∼ 10 %に見られ
要であるとされている 310).
288),297),298)
,周術期死亡の大きな危険因子になっており,
特に,透析に至った場合の死亡率は 50 %を超える 299).
また,急性腎不全(血清クレアチニン値の 20 %以上の
上昇)の発症は退院後の死亡のリスクにもなっている
3
腎機能障害患者における
生活習慣上の注意点
300)
① CKD を伴う循環器疾患患者における食事療法の基本
遠隔成績が悪化していた.急性腎不全の発症に関与する
食事療法が必要な病態とそれに対する食事内容の要点
因子としては,年齢,うっ血性心不全の既往,糖尿病,
及び期待される効果を表 23 に示す.
.興味深いことに,退院時に腎機能が回復していても,
術前の腎機能障害があげられる
288),301)
.
1)水分
術後の腎機能低下を予防するのに有効な手段はいまだ
尿の排泄障害がない場合には,水分は健常者と同様に
確立されていない.しかし最近,α hANP を手術開始と
自然の渇感にまかせて摂取する.腎機能が低下している
同時に使用することにより腎機能の低下を抑制できると
場合の水分過剰摂取または極端な制限は行うべきではな
.EF が 40%未満の患者
い.一日尿量として 1 ∼ 1.5L 程度となる飲水量が適当で
を対象にし,BNP とプラセボを比較した Menzer らの研
ある.極端な発汗などがない場合は『水分』として意識
究では,周術期のみならず 6 ヵ月後の生命予後も改善し
的に摂取する量は尿量より 200ml 程度少ない量であり,
する報告がなされている
ていた
1510
<10
302)−304)
304)
.また,術前の腎機能が低下している症例で
これを基本に発汗や,下痢による体液喪失時には飲水量
BNP の腎保護効果が大きかった.今後の検討が待たれ
を調節するのがよい 311).
る.
2)食塩
Off-pump 手術が腎機能の保持に有用であるとの報告
CKD では食塩の過剰摂取により高血圧をきたしやす
がされているが,on-pump 手術との無作為比較試験はな
い.GFR の低下した状態では,食塩の過剰摂取により
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
脳血管障害,腎機能障害,末梢血管障害を合併した心疾患の管理に関するガイドライン
表 23 食事療法が必要な病態と要点
病 態
糸球体過剰濾過
細胞外液量増大
高血圧
高窒素血症
高カリウム血症
高リン血症
代謝性アシドーシス
食事療法
食塩制限 蛋白質制限
(6g/day 未満)
(0.8 ∼ 0.6g/kg/day)
食塩制限
(6g/day 未満)
食塩制限
(6g/day 未満)
蛋白質制限
(0.8 ∼ 0.6g/kg/day)
カリウム制限
(1,500mg/day 以下)
蛋白質制限 リン制限(mg)
(0.8 ∼ 0.6g/kg/day) (蛋白質 g × 15)
蛋白質制限
(0.8 ∼ 0.6g/kg/day)
効 果
尿蛋白量減少
腎障害進展の遅延
浮腫軽減
降圧,腎障害進展の遅延
血清尿素窒素低下
尿毒症症状の抑制
血清カリウム低下
血清リン低下
血管石灰化抑制
代謝性アシドーシスの改善
2
=身長(m)
× 22
標準体重
(kg)
細胞外液量の増加を招き,浮腫,心不全,肺水腫などの
原因となる.
高血圧治療ガイドラインにも示されるように,CKD
患者の食塩摂取量は 1 日 6g 未満とするのが基本と考え
られるが 312),我が国で明確なエビデンスが存在するわ
急性腎不全など,体蛋白の崩壊がなく安定した状態
では蛋白質摂取量は,次に示す方法により推定算で
きる(Maroniの式).
摂取蛋白量(g/day)=[尿中尿素窒素(mg/dL)×
1日尿量(dL)+31mg/kg×体重(kg)]×0.00625
けではない.ステージ 1 ∼ 2 で高血圧や体液過剰を伴わ
ない場合には,一日 10g までの食塩摂取は許容できる.
5)エネルギー量
逆に,ステージ 4 ∼ 5 で,体液過剰の徴候があれば,よ
CKD 患者のエネルギー必要量は健常人と同程度でよ
り少ない塩分摂取量に制限しなければならない場合があ
く,年齢,性別,身体活動度により 30 ∼ 35 kcal/kg/day
る.この場合,腎臓専門医との連携が望ましい.
の間から選択する 66).一方,糖尿病腎症では 25 ∼ 30
3)カリウム
kcal/kg/day とする.BMI は 25 を超えないように適正体
高カリウム血症は,不整脈による急死の原因となる可
重を維持することが重要である.
能性がある.心不全患者で RA 系阻害薬を用いた大規模
6)脂質
試験の解析では,高齢者,男性,糖尿病,腎不全,RA
動脈硬化性疾患予防の観点より,CKD 患者でも健常
系阻害薬の併用で高カリウム血症の頻度が増加したとい
者と同様に脂質の%エネルギー摂取比率は 20 ∼ 25%と
う
313)
.カリウムの摂取量を制限するためには,生野菜
や果物,海草,豆類,いも類などカリウム含有量の多い
する.
7)カルシウム(Ca)とリン(P)
食品を制限する.野菜,いも類などは大量の水でゆでる
牛乳や小魚で Ca の摂取量を増加させようとすると,
と,カリウム含有量を 20 ∼ 30%減少させることができ
蛋白質及び P 摂取量が増加する.したがって,蛋白質制
る.低蛋白食療法が実施されると,カリウム摂取量も同
限が必要な患者では,Ca は薬剤で補給することになる.
時に制限される
66)
.
しかし,Ca 製剤は腎不全において異所性石灰化や血管
4)蛋白質
石灰化を促進する場合があるので注意を要する.
厚生労働省(2005 年)の基準によると,健常日本人
維持透析患者においてはアルブミン濃度で補正した血
の蛋白質摂取推奨量は 0.93 g/kg/day である.腎機能低下
清総 Ca 濃度を,8.4 ∼ 10.0 mg/dL に維持すべきことが提
が 顕 著 と な る CKD ス テ ー ジ 4 以 降 で は 0.6 ∼ 0.8 g/kg/
唱されている 317).
day の蛋白制限によって腎機能低下速度が遅延するとさ
れている 314)−316).通常の食品のみで蛋白質制限の食事
療法を行うと,エネルギー不足となる.この点を解決す
るには,低蛋白の特殊食品(無∼低蛋白含有量でありな
がら,エネルギー含有量の高い食品が市販されている)
を日常の食事に取り入れるのも一つの方法である 66).
血清アルブミン濃度が 4g/dL 未満では補正 Ca 濃度
は以下の式で計算する.
補正 Ca 濃度(mg/dL)= 実測 Ca 濃度(mg/dL)+(4−
血清アルブミン濃度 g/dL)
例:Ca 7.8mg/dL,アルブミンが 3.1 g/dL の場合
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
1511
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006−2007 年度合同研究班報告)
補正 Ca = 7.8 +(4 − 3.1)
6
= 7.8 + 0.9
= 8.7mg/dL となる.
心腎同時保護
心 - 腎連関が注目されているが,その基本は,腎障害
腎不全で高 P 血症を認める場合は,P の摂取制限が必
が存在すると心血管事故の発症が加速される事実にある
要である.P 摂取量も蛋白質摂取量と密接な正の相関関
91),322)
係がある.したがって,低蛋白食療法が実施されていれ
を起こすことを予測させる強力な因子である.したがっ
.アルブミン尿や腎機能低下は将来,心血管事故
ば,P 摂取量も同時に制限される.乳製品やレバー,し
て逆に,アルブミン尿や腎障害を抑制する RA 系抑制薬
らす干し,ししゃも,丸干しなどの摂取では,P 摂取が
や利尿薬には心血管事故を抑制し,心腎同時保護作用を
多くなるので注意する.
発揮する可能性が期待される.
②運動
1
腎機能障害と心血管事故
CKD の各ステージを通して,過労を避けた十分な睡
腎機能障害の程度に応じて心血管事故全体が増加する
眠や休養は重要であるが,安静を強いる必要はない.心
ことはよく知られている 323).最近,腎機能障害を促進
不全に対する運動療法を考慮する際には,心臓に対する
させる危険因子が明らかにされつつある(表 24)324),325).
メニューを優先し,腎機能低下が著しい場合には腎臓専
この腎症のリスクを見ると,高血圧,糖尿病,肥満,脂
門医と共同して調整することが望ましい.個々の患者で
質異常症,喫煙など動脈硬化性疾患に共通する危険因子
は,血圧,尿蛋白,腎機能などを慎重にみながら運動量
が腎症にも作動していることが理解される.したがって,
を調節する必要がある.呼吸数を大幅に増加させる運動
これらの共通リスクに対しては特に積極的な軽減療法が
は心臓への負担がかかるので避けることが望ましい.目
必要である.
安は 15 ∼ 20 %の増加,20 呼吸 / 分程度である.貧血が
一方,心血管リスクに対する腎機能低下のインパクト
高度の場合(8g/dL 未満)には心臓への負荷が大きくな
は,既知の危険因子を補正すると極めて小さくなる.年
るので運動は控える.
齢は別として高血圧,脂質代謝異常,それに貧血,高ホ
運動の基本は歩行などの有酸素運動が基本であるが,
モシステイン血症,非対称ジメチルアルギニンなど腎機
動的なレジスタンス(筋力)トレーニングも適宜取り入
能低下に伴って発現する因子が心血管事故を促進させて
れる.適切に管理されたレジスタンストレーニングは蛋
いる可能性も考慮すべきである.腎機能が真に独立した
白質制限中の CKD 患者において,腎機能悪化をきたす
心血管リスクであるかは定かではないが,さまざまなリ
ことなく筋肉量増加,蛋白質異化亢進抑制効果を示すこ
スクの総和を表現する複合心血管リスクと考えておけば
とが知られている
318),319)
臨床上,極めて有用である.
.
③禁煙
2
RA 系抑制薬の心・腎同時保護作用
喫煙は循環器疾患に対して増悪因子であることは明白
最も注目されるのは,腎障害例への RA 系抑制薬の有
であり,さらに最近では CKD 進行のリスク要因である
用性である.RA 系抑制薬の腎保護作用は既に確立して
ことが明らかにされており
320)
,また言うまでもなく健
)
いる 326(レベル
A).それに加え,腎障害例に RA 系抑制
康全体にも悪影響があり,禁煙は必須である.
④飲酒
アルコールが CKD の悪化因子とはならないとの報告
がある 321).ただし,過度の飲酒は代謝系への影響も顕
著であり,避けるべきである.一般的な適正飲酒量はア
ルコール(エタノール)量として,男性では 20 ∼ 30g/
day(日本酒 1 合)以下,女性は 10 ∼ 20g/day 以下である.
1512
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
表 24 腎障害発現及び進行のリスクファクター
高血圧
耐糖能障害,糖尿病
肥満,高脂血症,メタボリックシンドローム(生活習慣病)
膠原病,全身性感染症
尿路結石,尿路感染症,前立腺肥大
慢性腎臓病の家族歴・低体重出産
過去の検診での尿所見の異常や腎機能異常,腎の形態異常
の指摘
常用薬(特に NSAIDs),サプリメントなどの服用歴
急性腎不全の既往
喫煙
高齢
片腎,萎縮した小さい腎臓
脳血管障害,腎機能障害,末梢血管障害を合併した心疾患の管理に関するガイドライン
薬を投与すると,心血管事故の発症率を腎障害のない群
に,心不全の予後改善を明らかにした TRACE 試験 332)で
と同レベルまで抑制できると報告されている 327).腎症
は,利尿薬を併用しなかった群では,RA 系抑制薬の臓
の存在する集団でこそ,RA 系抑制薬の心血管事故保護
器保護効果を認めていない事実は特筆すべきである.こ
作用が強く獲得されるとの考え方が有力である 328).し
のように,利尿薬は,単独のみならず,RA 系抑制薬と
たがって,腎障害患者への RA 系抑制薬の投与は,腎不
の併用でも心血管事故を抑制するよう働いていると考え
全への進行を阻止するためのみならず,心血管事故を抑
られる.
制するためにも積極的に推奨されるべきである.RA 系
一方,これまで利尿薬に腎保護作用があるとは想定さ
抑制薬が,心腎連関の連鎖を断ち切ることによって心腎
れてこなかった.むしろ,利尿薬を投与すると血清クレ
同時保護作用を発揮しているかは不明であるが,心不全
アチニンが上昇するため,腎障害を助長する薬剤と考え
でも腎不全でも同様に RA 系が悪循環を加速させる方向
られがちである.しかし,この血清クレアチニンの上昇
に働いており,RA 系を抑制すれば,両臓器に対して保
は利尿薬による糸球体血圧低下を意味し,当初 RA 系抑
護的に作用する.
制薬で恐れられたのと同様,むしろ腎保護作用が存在す
腎障害患者に RA 系抑制薬を投与すると,血清クレア
る可能性を示唆する.事実,利尿薬に RA 系抑制薬と同
チニンや K 濃度が上昇することが少なくないが,その解
等の蛋白尿減少効果や腎組織傷害改善効果が最近確認さ
釈には注意が必要である.投与約 1 週間後の血清クレア
れた 333).心不全に限れば,利尿薬は体液量増加や前負
チニン上昇が,前値の 20%以内であれば,寧ろ RA 系抑
荷の増強という悪循環を断ち,心・腎同時保護的に作用
制薬によって腎糸球体に対する負荷が軽減された結果で
している.
あり,腎保護作用が発揮されている証拠と考えられる.
ただし,これ以上の上昇があれば,更に急速な腎機能低
下が起こらないか厳重な監視が必要である.更に腎機能
が悪化する場合には,RA 系抑制薬を一旦中止し,両側
Ⅳ
性の腎動脈狭窄や尿路通過障害を合併していないかの精
末梢血管障害を合併した
心疾患の管理
査が必要である.心不全でも腎血流が著減している場合,
RA 系抑制薬によって糸球体濾過量が減少して血清クレ
末梢血管障害を合併した心疾患の管理に関する勧告
アチニンが上昇することがある.この場合は,一旦減量
し低用量で再開する.血清 K が 5.5 mEq/l 以上に上昇し
①労作性及び安静時の下肢症状のある人,② 50 ∼ 69
た場合も RA 系抑制薬を減量ないし中止し,血液ガス分
歳で心血管系のリスクファクターを有する,あるいは
析を実施する.アシドーシスがあれば HCO3 ≧ 22 mEq/l
70 歳以上のすべての人のいずれかの項目に該当する
を維持するよう重曹(2 ∼ 5g/day)投与によって補正する.
場合は閉塞性動脈硬化症(ASO)のスクリーニング
利尿薬を併用すれば集合管に達する Na を増加し,Na と
検査として足関節上腕動脈血圧比(ABI)の測定を考
交換に K が尿中へ排泄される.それでも高カリウム血症
慮すべきである(クラスⅠ)
を補正できないときにはイオン交換樹脂の投与も検討す
間歇性跛行や重症虚血肢に血行再建術を考慮する場合
る.いずれにしても,腎機能低下例に対して RA 系抑制
には画像診断が必要である(クラスⅠ)
薬を処方する場合には少量から開始することが原則であ
画像診断が必要な場合,造影剤アレルギーや腎機能障
る.
害がなければ,multi-detector CT 血管造影(MD-CTA)
3
利尿薬の心・腎同時保護作用
や磁気共鳴血管造影(MRA)検査が望ましい(クラ
スⅡ a)
心不全に対して利尿薬は,体液量管理並びに前負荷軽
動脈壁石灰化の著明な患者や既にステントの留置がさ
減療法として用いられており,食塩摂取量制限とともに
れている患者では CT 検査よりも MRA 検査を最初に
重要な治療手段である
329)
.利尿薬や食塩制限はさらに,
施行すべきである(クラスⅡ a)
血圧日内リズムを non-dipper から dipper へ正常化するこ
リスクファクターを合併する場合は各リスク因子に対
とによって循環系への負荷を軽減し,心血管事故を抑制
してガイドラインに沿った管理が必要である(クラス
すると想定される
330),331)
.また,RA 系抑制薬の心血管
Ⅰ)
事故抑制効果を証明した大規模臨床研究のほとんどで,
間歇性跛行肢と重症虚血肢は肢の予後,生命予後,治
利尿薬が併用されていることにも注目すべきである.特
療法が大きく異なるためその区別が重要である(クラ
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
1513
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006−2007 年度合同研究班報告)
スⅠ)
また,欧米の大規模研究に基づくコンセンサス(TASC
間歇性跛行の初期治療として監視下運動療法と薬物療
Ⅱ)では以下の点が指摘されている 336).①冠動脈疾患
法(抗血小板薬)が推奨される(クラスⅠ)
患者は末梢動脈閉塞性疾患を合併する頻度が高い.②足
重症虚血肢の治療は血行再建術(バイパス術や血管形
関 節 上 腕 動 脈 血 圧 比(ankle brachial pressure index:
成術)が勧められるが再建法の選択は病変部位と範囲,
ABI)と CT 検査を用いた冠動脈石灰化の検討結果では,
治療目標,実施施設の成績を考慮し決定する(クラス
冠動脈石灰化の程度は ABI と相関する.③冠動脈疾患
Ⅱ b)
患者における末梢動脈閉塞性疾患の有病率は約 10 ∼ 30
ASO の患者には心血管イベントの抑制を目的として
%である.④剖検結果からみると,心筋梗塞による死亡
抗血小板薬を投与すべきである(クラスⅡ a)
患者では他疾患による死亡患者の 2 倍の頻度で腸骨動脈
腹部大動脈瘤(AAA)患者においては動脈瘤の外径
と頚動脈に狭窄病変が認められる.
が男性では 5cm まで,女性では 4.5cm までは経過観察
TASC Ⅱによれば,末梢動脈閉塞性疾患全体として,
が望ましい(クラスⅡ a)
主要心血管イベント(心筋梗塞,脳梗塞及び血管障害)
AAA の治療としてステントグラフトを第一選択とす
による死亡率は,5 ∼ 7% / 年である.重症虚血肢を除く
べきではない(クラスⅢ)
末梢動脈閉塞性疾患患者では,非致死性心筋梗塞の罹患
1
末梢血管障害の疫学・予後
率は年間 2 ∼ 3%であり,狭心症は年齢適合対照群より
も約 2 ∼ 3 倍高い.この患者群の 5 年,10 年,15 年での死
亡を含む心血管イベントの発生率は,それぞれ約 30%,
冠動脈疾患を有する患者では,全身の他臓器にもアテ
50%,70%である.末梢動脈閉塞性疾患患者の死因は,
ローム動脈硬化症を合併していることが多く,閉塞性疾
冠動脈疾患が 40 ∼ 60%,脳血管疾患が 10 ∼ 20%であり,
患 と し て は 閉 塞 性 動 脈 硬 化 症(arteriosclerosis
その他の死因の大部分は大動脈瘤破裂で約 10 %を占め
obliterans:ASO),拡張性疾患としては腹部大動脈瘤
る.末梢動脈閉塞性疾患患者が心血管系以外の原因で死
(abdominal aortic aneurysm:AAA)が代表的疾患とし
亡するのは 20 ∼ 30%のみである.間歇性跛行患者の死
て挙げられる.これらの合併疾患は,患者の生命や肢の
亡率は非跛行患者よりも平均 2.5 倍高い.間歇性跛行患
予後を左右するため,本項では,まず閉塞性動脈硬化症
者群と年齢適合対照群との死亡率の差は,喫煙,高脂血
と腹部大動脈瘤の 2 疾患を取りあげ,他の疾患について
症及び高血圧といったリスクファクターを考慮してもそ
は後述する.
の差が消失しないため,末梢動脈閉塞性疾患はこれらの
1
リスクファクターとは独立しており,広範で重症の全身
閉塞性動脈硬化症
性アテローム性動脈硬化症の徴候であることを示す.
我が国の閉塞性動脈硬化症患者は,無症候性を含める
とおよそ 50 ∼ 70 万人と考えられている 334).5,193 名の
1514
2
腹部大動脈瘤
患者を対象とした日本の REACH Registry の結果では,
動脈瘤とは,動脈が正常動脈径の 1.5 倍以上拡張した
症候性冠動脈疾患患者の男女比は 76 対 24 であり,年齢
状態を指す.健常日本人で男女比が 1:1 の集団での腹
別に 65 歳未満,65 歳から 75 歳未満,75 歳以上の 3 群に
部大動脈径の平均は 1.93 ± 0.26cm(標準偏差)である
分けると,その患者比は 25:39:36 であった
と報告されている 337).欧米人と日本人の腹部大動脈径
335)
が,一方,
症候性末梢動脈閉塞性疾患患者の男女比は 84 対 16 で男
は差がなく,腹部大動脈径が 3cm 以上に拡張したもの
性に圧倒的に多く,3 群の患者比は 18:40:42 であり
を腹部大動脈瘤と呼ぶ.欧米人は大動脈に限局した腹部
高齢者に多い.さらに,冠動脈疾患に合併した脳血管疾
大動脈瘤が多いのに対して,日本人では総腸骨動脈まで
患と末梢動脈閉塞性疾患の割合はそれぞれ 16 %と 8 %
瘤状拡張が続く場合が多い.また,日本人では腹部大動
で,両者の合併は 2%であった.北米の比率もそれぞれ
脈瘤から腎動脈が分岐することは非常に少なく,また総
16%,11%,3%であり,我が国と差はみられていない.
腸骨動脈まで瘤状拡張が続き,さらに,総腸骨動脈が太
しかし日本の末梢動脈閉塞性疾患に合併した冠動脈疾患
くやや短いという形態的特徴がある.
と脳血管疾患の割合はそれぞれ 30 %と 21 %であり,北
腹部大動脈瘤の頻度は,欧米の報告 231)によると,45
米の比率が各々 62 %,22 %であるのに比し,末梢動脈
∼ 54 歳男性の 1.3%,
75 ∼ 84 歳男性の 12.5%にみられる.
閉塞性疾患に冠動脈疾患が合併する割合が約 2 分の 1 と
女性では年齢間で大きな差はなくその頻度は 0 ∼ 5.2 %
少ないのが特徴である.
であり,男女比は 4:1 である.腹部大動脈瘤患者の 22%,
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
脳血管障害,腎機能障害,末梢血管障害を合併した心疾患の管理に関するガイドライン
広範囲に動脈拡張を認める患者の 35 %に腹部大動脈瘤
があげられている.TASC Ⅱでは,各危険因子の重みが
の家族歴が認められる.腹部大動脈瘤術後患者の 5 年生
報告されており(図 9),オッズ比は喫煙,糖尿病が 3.0
存率は 70 %であるのに対して,腹部大動脈瘤のない年
∼ 4.0 と最も高い.
齢・性適合対照群の 5 年生存率は 80%と報告されている.
この生存率の差は,心疾患,慢性閉塞性肺疾患,腎障害,
②多発病変部位
喫煙といった腹部大動脈瘤患者特有の合併症の有無によ
非糖尿病例では,粥状硬化性病変は腎動脈下腹部大動
るものである.65 歳∼ 73 歳までの 4,404 人を対象とし
脈から腸骨大腿動脈までの領域を中心に発生する.これ
た調査によれば,腹部大動脈瘤患者の頻度が 4.2%であ
に対して糖尿病患者では下腿動脈に最初に病変が発生し
るのに対し,慢性閉塞性肺疾患合併例は 7.7 %である.
やすく,腸骨大腿動脈領域単独の病変は 5.8%以下と報
腹部大動脈瘤拡大率は,通常 2.6mm/ 年であるが,ステ
告されている 341).しかし下腿動脈病変が進行しても足
ロイド使用群では 4.7mm/ 年となり,ステロイド剤の使
部動脈は開存していることが多く,また動脈中膜の石灰
用により動脈瘤の拡大が促進されることが報告されてい
化は下腿動脈までは高度に認められるが,足趾動脈では
る.
比較的軽度にとどまっていることが少なくない 342).
2
末梢血管疾患の病態と重症度
③重症度と予後
閉塞性疾患でも典型的な症状を呈する症例は約 3 分の
閉塞性動脈硬化症は全身に発生する動脈硬化症の一部
1 と推定されており,無症状か非定型的症状の症例が約
分症であり,下肢動脈に発生した粥状硬化性閉塞症を指
3 分の 2 を占めるため,スクリーニング検査の重要性が
し,ABI が 0.9 未満の場合と定義する.一方,動脈瘤は,
提唱されている.ABI を測定し血行障害を評価すること
動脈外径が正常外径の 1.5 倍以上に限局的に拡張した状
が重要である.
態と定義される 338).腹部大動脈の外径は約 2.0cm であ
50 歳 以 上 の 無 症 候 性 の 末 梢 動 脈 疾 患(peripheral
,一般的には外径が 3.0cm 以上となった状態
artery disease:PAD)も含めた検討では,初期臨床症状
が腹部大動脈瘤と定義される.両疾患ともに男性,喫煙
として,下肢疼痛が 30 ∼ 40%,典型的間歇性跛行が 10
者に多く加齢に伴って増加するのは共通であるが,閉塞
∼ 35%,重症虚血肢(安静時疼痛及び虚血性潰瘍・壊疽)
性疾患に固有の危険因子として,高血圧,糖尿病,脂質
が 1 ∼ 3%であり,無症候性が 20 ∼ 50%を占める.重症
異常症などが挙げられる.一方,拡張性疾患では家族歴
虚血肢以外の 5 年後の転帰は,下肢合併症としては,70
るので
337)
が危険因子としてあげられている
1
339)
.
閉塞性動脈硬化症(ASO)
∼ 80 %の症例が間歇性跛行のまま安定しており,間歇
性跛行の悪化が 10 ∼ 20 %,重症虚血肢に到るのは 5 ∼
10%である.しかし,5 年間での心筋梗塞や脳梗塞など
の心血管系合併症の発生率は 20%にのぼり,5 年死亡率
①頻度と危険因子
は 10 ∼ 15%である.死因の 75%が心血管系合併症に起
我が国における閉塞性動脈硬化症に関する大規模な調
査では,男性比率が 84 %,平均年齢 72.7 歳であり 340),
近年報告された海外(日本を含む世界 44 カ国:REACH
Registry)における閉塞性動脈硬化症患者の男性比率:
70.7%,平均年齢:69.2 歳と比較すると,我が国では高
2)
齢者が多く男性に高頻度である .REACH Registry に
おける日本人 5,193 例のサブ解析では,閉塞性動脈硬化
症症例 627 例における男性比率は 83.7%,平均年齢 72.2
歳であり,前述の報告 9)とほぼ一致していた 2).また,
閉塞性動脈硬化症による間歇性跛行の罹患率は,60 歳
前後の男性で 3 ∼ 6 %と報告されている 2).末梢血管障
害の危険因子としては,性(男性に多い),年齢,喫煙,
高血圧,糖尿病,脂質異常症,炎症マーカー,過粘稠度
と凝固能亢進状態,高ホモシステイン血症,慢性腎不全
図 9 症候性末梢動脈疾患の危険因子のオッズ比 336)
(閉塞性動脈硬化症の診断・治療指針Ⅱより引用:日本脈管学会編)
オッズ比
1 2 3 4
男性
(女性と比較して)
年齢(10 年単位)
糖尿病
喫煙
高血圧
異常脂質血症
高ホモシステイン血症
人種(アジア系 / ヒスパニック系 / 黒色人種 対 白色人種)
C 反応性蛋白質
腎不全
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
1515
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006−2007 年度合同研究班報告)
)
因する 231(図
10).
あり,5.5 年後に新たな AAA を認めた率は 2 %である
重症虚血肢の症例では,1 年生存率は 75%と不良であ
346)
り,肢の予後として大切断に至る症例が 30%にのぼる.
クリーニングでは 0.3% 347),50 歳以上の日本人を対象と
また ABI は閉塞性動脈硬化症症例の生命予後を予測す
した CT では 0.48%の診断率が報告されている 348).腹部
る有力な因子とされており,McDermott らは ABI が 0.3
大動脈瘤の危険因子としては,性別(男性に多い),年齢,
以下の症例では,ABI:0.5 ∼ 0.9 の症例と比較して死亡
喫煙,家族歴が報告されている 339).腹部大動脈瘤の罹
率が 1.8 倍であると報告している 343).
患率は 50 歳以上で増加し,男性が女性の 2 ∼ 6 倍の危険
我が国では,血管造影にて閉塞性動脈硬化症と診断し
率である.
た症例 791 例(平均年齢 66 歳,男性 678 例)を対象とし
て生命予後及び日常生活状況について検討した報告があ
.一方,60 歳以上の日本人を対象とした超音波のス
②病態
る 344).平均観察期間は 7 年で,死亡例が 229 例(29 %)
腹部大動脈瘤は動脈硬化のみでは発生機序を説明しき
に認められ,死因には心疾患,脳血管障害が多くみられ
れないことより,現在では変性ないしは非特異的要因に
た.日常生活状況は 562 例から得られ,「不自由なし」
起因するとされている.本疾患では中膜の弾性線維や平
が 49.1%,「日常生活に制限あり」が 38.3%,「不自由で
滑筋細胞の減少による中膜の破壊が慢性炎症とともに発
ある」が 10.3 %,「大変不自由である」が 2.3 %であり,
生し,インターロイキン -6(IL-6),マトリックスメタ
何らかの日常生活制限が約半数に認められた.
ロプロテアーゼ -9(MMP9),Jun N 末端キナーゼ(JNK)
2
などの活性化が動脈瘤の増大につながる 349).また動脈
腹部大動脈瘤(AAA)
瘤を形成後は,高血圧により瘤の増大傾向が強まるが,
瘤径の増大により破裂の危険性も高くなる.
①頻度と危険因子
瘤壁にかかる力は LaPlace の法則に従い,瘤径(最大
腹部大動脈瘤を治療または診断した症例数からの推定
短径)が増大するほど大きくなるが血圧が高い程壁応力
では,羅患率は人口 10 万人年あたり 3 ∼ 117 人とされて
も大となる.UK small aneurysm trial では 7 年間の破裂
いる 345).50 歳以上の男性を対象としたスクリーニング
頻 度 は, 瘤 径 3 ∼ 3.9 cm で 2.1 %,4 ∼ 5.5 cm で 4.6 %,
では,新たな AAA の診断率は 1,000 人年あたり 3.5 人で
5.5 cm 以上では 20%と報告されている 350).種々の報告
図 10 5 年間での閉塞性動脈硬化症の自然経過 336)
アテローム性動脈硬化性下肢 PAD 症候群の自然経過
PAD 集団(50 歳以上)初期臨床症状
他の下肢疼痛
30∼40%
無症候性 PAD
20∼50%
典型的跛行
10∼35%
CLI
1∼3%
1 年後の転帰
両下肢生存
45%
切断
30%
死亡
25%
5 年後の転帰
下肢合併症発生率
安定した跛行
70∼80%
跛行の悪化
10∼20%
CV 合併症発生率および死亡率
CLI
5∼10%
切断
(CLI データ参照)
1516
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
非致死的心血管イベント
(MI または脳卒中)
20%
死亡
10∼15%
CV 原因
75%
非 CV 原因
25%
脳血管障害,腎機能障害,末梢血管障害を合併した心疾患の管理に関するガイドライン
から推定した年間破裂率が大動脈瘤の最大短径別に報告
費により生じる播種性血管内凝固(DIC)がある.DIC
されているが (表 25),最大短径以外に,高血圧,慢
の発生頻度は約 0.5 ∼ 6 %とされている 353).Blue toe 症
性閉塞性肺疾患,喫煙が瘤破裂の独立した危険因子とさ
候群として足趾部の点状壊死やチアノーゼを認めた場合
れている.また大動脈瘤径が 5.4cm になるまで手術せず
は,腹部大動脈瘤からの塞栓症を疑って精査する.また,
に経過観察した研究結果では,年間の破裂頻度は男性で
腹部大動脈瘤症例において出血傾向を有する場合や手術
0.6%であり,男性を 1.0 とした場合の女性のオッズ比は
を施行する前には,血小板数,フィブリノーゲン,FDP
4.0 であり,女性で破裂の危険性が高い結果であった.
値を測定し,凝固因子の消費が生じていないかどうかを
この結果から,無症候性の腎動脈分岐部及び腎動脈下の
検討する.
腹部大動脈瘤において,男性では大動脈瘤径 5.0cm 以下,
まれに腹部動脈瘤の血栓性閉塞,大動脈下大静脈瘻,
女性で大動脈瘤径 4.5cm 以下の場合には経過観察が望ま
大動脈腸管瘻を合併することがある.腹部大動脈瘤が血
しいと考えられる(レベル B) .我が国では,4.0cm
栓性閉塞した場合は,身体所見及び無侵襲検査のみでは
以上の腹部大動脈瘤 260 例を対象として,5.0cm 以上で
腹部大動脈腸骨動脈閉塞症として診断されるので,腹部
351)
231)
手術治療をした報告があるが,5.0cm 未満での経過観察
エコーや腹部 CT にて腹部大動脈瘤の有無を確認してお
群 135 例 で は 破 裂 例 は な く, 破 裂 し た 14 例 は 全 例 で
く必要がある.大動脈下大静脈瘻の症例では,腹部に連
5.0cm 以上であった 352).経過観察症例が 135 例と少ない
続性血管雑音を聴取し,造影 CT では動脈相において下
ものの,4.0 ∼ 4.9cm の瘤径の場合,欧米での結果から
大静脈の造影像を認めるので診断が可能である.腹部大
推定された破裂率より低い傾向であった.
動脈瘤を有する症例で吐血や下血をきたし,上部下部内
他方,欧米の健常人における腎動脈下の腹部大動脈の
視鏡検査で異常所見を認めない場合は大動脈腸管瘻を疑
平均直径は,男性 1.41 ∼ 2.39cm,女性 1.19 ∼ 2.16cm と
う.しかしまれに上部消化管内視鏡で十二指腸水平部に
報告されている 338). 健常日本人で男女比 1:1 の集団の腹
瘻孔または粘膜びらんを認め,腹部造影 CT では腹部大
部大動脈径は 1.93 ± 0.26cm(標準偏差)であり
動脈瘤の近位部に空気像を認めることがある.
337)
,健
常人の腹部大動脈径から見る限り,日本人と欧米人で有
意な差があるとは言えない.特に被覆ステントの適応に
3
閉塞性動脈硬化症の
評価と治療
1
症候
おいて,被覆ステントの単回治療のリスクが低いという
理由で,小口径の腹部大動脈瘤に多用される根拠は乏し
い.
腹部大動脈瘤がなく総腸骨動脈瘤が単独で存在する場
合は,総腸骨動脈瘤の直径 3.0cm 未満では破裂すること
閉塞性動脈硬化症における「無症候性」とは,症状は
はないとされており,3.0cm までは経過観察が可能であ
ないが ABI が 0.90 未満である一群を指す.メタ解析に
る.また腹部大動脈瘤の形態が嚢状の場合には紡錘状動
より,この集団は Framingham リスクスコアと関係なく
脈瘤よりも破裂しやすいと一般に考えられているが,そ
総死亡率が高いことが示されている(レベル A)354).無
のエビデンスはなく,形状の変化速度の方が重要であろ
症候性症例と非定型的な下肢症状を有する例を併せると
う.
末梢動脈疾患患者の 3 分の 2 以上を占めているため,多
くの末梢動脈疾患患者で閉塞性動脈硬化症の診断及び治
③合併症
療が不十分となっている 355).したがって,1)労作性の
時に起こる合併症として,壁在血栓からの足趾部への
下肢症状を呈する人,2)50 ∼ 69 歳で心血管系危険因子
塞栓(blue toe 症候群)や血栓形成による凝固因子の消
を有する,または 70 歳以上のすべての人,3)心血管イ
ベントの 10 年危険率が 10 ∼ 20%以上にリスク層別化さ
表 25 腹部大動脈瘤における最大短径別の推定年間破裂率
最大短径
4.0cm 未満
4.0 ∼ 4.9cm
5.0 ∼ 5.9cm
6.0 ∼ 6.9cm
7.0 ∼ 7.9cm
8.0cm 以上
年間破裂率
0%
0.5 ∼ 5.0%
3 ∼ 15%
10 ∼ 20%
20 ∼ 40%
30 ∼ 50%
れる人,のいずれかの項目に該当する場合にはスクリー
ニングとして ABI 測定を考慮すべきである.
「間歇性跛行」とは,動脈病変より末梢側の血流量が
運動時の酸素需要に対して不十分なため,下肢特に下腿
筋の虚血をきたし,歩行時に同領域の筋肉痛や不快な感
じとして自覚されるものを指す.一定時間
(約 10 分以内)
の休息で虚血によって生じた代謝産物の蓄積が解消され
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
1517
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006−2007 年度合同研究班報告)
るため,疼痛が軽快し再度ほぼ同じ距離を歩行できるよ
図 11 ドプラ血流計による足関節血圧の測定
うになる.典型的には腓腹部に生じるが大腿部や臀部に
及ぶこともあり,典型的跛行は末梢動脈疾患患者の約 3
分の 1 に生じる.心疾患や肺疾患により充分な歩行が不
能な患者では典型的な症状が出にくいので注意を要す
る.
「重症虚血肢」は,下肢虚血により足部を主体とした
慢性虚血性安静時痛や潰瘍・壊疽をきたした状態である.
ここで言う「慢性」とは症状が 2 週間以上継続すること
を指す.
2
診断
①問診
通常患者は間歇性跛行の段階で受診することが多い.
計と組み合わせ,両側上腕動脈と足関節動脈(足背,ま
症状の重症度を知るため,跛行が生じるまでの距離,時
たは後脛骨動脈)
の収縮期血圧をドプラ血流計で測定し,
間,歩行速度,平地歩行か坂道・階段の歩行か,などを
左右上腕の高いほうの収縮期血圧を分母とし,足関節収
聴取する.鑑別診断として最も重要なものは脊柱管狭窄
縮期血圧(ankle pressure:AP)を分子として,その比
症による跛行である.一般的に神経原性の跛行では,症
である ABI を算出する.注意点は,上下肢ともにドプ
状の変動がある,歩行開始時に症状が強い,前屈姿勢で
ラ血流計で収縮期圧を測ることと,マンシェットの幅は
症状が緩和する,などの特徴があり,適切な問診で多く
適切なサイズを用い(通常四肢直径の 1.2 倍),緩過ぎ
は鑑別可能である(レベル C).高血圧症,脂質異常症
ず強過ぎず適切な強さで巻くことである.最近では流速
などの危険因子の有無を確認する.特に重症虚血肢では
脈波(pulse wave velocity,PWV,容積脈波で測定)と
糖尿病合併の有無が重要である.
同時に四肢血圧を自動的に測定できる器械が市販されて
②身体所見
おり測定は簡便化されているが,この時用いられる血圧
は通常オキシメトリック法による測定であり,ドプラ法
視診で足部のチアノーゼや蒼白の有無,筋肉の萎縮と
とはよく相関するものの同一ではない.一般的には安静
ともに潰瘍,壊疽の有無と部位を確認する.糖尿病では
時 ABI < 0.9 を有意病変ありとするが,ABI > 1.4 の場
虚血症状がなくても潰瘍,特に踵部潰瘍や趾間の穿通性
合も血管の石灰化が強度であることを示唆し病的と考え
潰瘍を生じることがある.
られる(レベル B).また間歇性跛行肢の重症度を客観
触診で総大腿動脈以下の動脈拍動,聴診で腸骨動脈か
的に測定する方法としては,運動負荷時の下肢痛出現距
ら総大腿動脈領域の血管雑音を評価する.無症状であっ
離と最大歩行可能距離,負荷後の ABI の低下と回復な
ても動脈拍動の減弱(左右差)と血管雑音は,有意な狭
どを指標とすることが最も合理的である.通常我が国で
窄性病変を示唆する(レベル C).この患者群の一部に
はトレッドミルを用い,傾斜 12 度,時速 2.4km/ 時(欧
限局性病変(TASC A 分類,表 27,28 後述)を有する患
米では 3.2km/ 時),5 分間の負荷を用いるが,最近ではよ
者が含まれており治療対象となることがある.潰瘍や壊
り 簡 便 な 方 法 と し て 質 問 票(walking impairment
死を有する重症虚血肢では,部位,大きさ,深さ(腱や
questionnaires,WIQ)で代用することもある.重症虚
骨の露出の有無),感染の有無(周囲の発赤,腫脹,圧痛,
血肢では特に足関節や足趾血圧の絶対値が重要で,足関
膿の貯留)を評価し,細菌培養検査(潰瘍底部からの検
節血圧が 50 mmHg 以下,足趾血圧は 30 mmHg 以下が重
体採取が望ましい)を行う.
症虚血を起こす閾値とされているが,糖尿病患者では足
③無侵襲的診断法
1518
ドプラ血流計を後脛骨動脈か足背動脈にあて,足関節上にマン
シェットを巻いて収縮期血圧を測定する.
趾血圧の閾値はこれより高く 50 mmHg 以下とされてい
る.足関節血圧は,虚血性安静時痛の患者では通常 30
慢性動脈閉塞症では通常末梢動脈拍動は触知できない
mmHg ∼ 50 mmHg である.また虚血性潰瘍の治癒には
ためドプラ血流計を用いて足関節レベルでの動脈のドプ
50 mmHg ∼ 70 mmHg 以上の血圧が必要である(レベル
ラ音を聴取できるか否かを評価する(図 11).また血圧
B).
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
脳血管障害,腎機能障害,末梢血管障害を合併した心疾患の管理に関するガイドライン
米国健康栄養調査の結果では,ABI < 0.90 で定義され
合でも CTA では遅い時相で造影されることがあり,血
た末梢動脈疾患患者の有病率は,50 ∼ 59 歳で 2.5%であ
管撮影より有用なことがある.しかしながら動脈壁の石
るが,70 歳以上では 14.5 %に上昇する
356)
.症候性末梢
灰化や留置されたステントによるアーチファクトが生
動脈疾患患者と無症候性末梢動脈疾患患者の比は 1:3
じ,内腔の開存性を評価することが困難となるため,壁
∼ 1:4 である.
石灰化が多く認められるような患者では,MRA が最初
他の検査方法としては,経皮酸素分圧,レーザー・ド
に施行すべき画像診断法として推奨されている.
プラを用いた皮膚灌流圧が用いられており,経皮酸素分
一方血行再建治療を行う場合には血管撮影を必要とす
圧の閾値は 30 mmHg 未満とされている.特に皮膚潅流
ることが多く,この際には身体所見及び無侵襲検査法や,
圧(skin perfusion pressure,SPP)は足趾血圧とよく相
CT 検査などで大略の病変範囲を判定してから血管造影
関することから今後普及する検査法として期待されてい
を施行することが望ましい.血行再建の適応外と考えら
る
357)
れる場合に安易に血管撮影を行うのは望ましくない.下
.
画像診断としては血管エコーによる動脈病変マッピン
腿動脈より末梢へのバイパス術が適応として考えられる
グ(Duplex scan)が広く施行されるようになってきて
場合は特に経動脈的デジタルサブトラクション血管造影
おり,特に血管内治療を考慮する場合には血管エコーに
(digital subtraction angiography:DSA)検査を追加して
よる評価が有用である(図 12).外科的血行再建術に際
行う方が診断はより正確となる.血管造影では,狭窄の
しては,血管エコーにより動脈の中枢側吻合と末梢側吻
程度,閉塞範囲,側副血行路が的確に評価でき,血管内
合予定部の壁性状(肥厚の程度,石灰化の有無)や各部
治療や手術に関する治療方針の決定には極めて有用であ
位の流速波形を評価するとともに,伏在静脈の太さや性
る.しかしながら,ある一定時間しか撮影できないため
状によりグラフトの選択や手術術式を決定する.
血流が非常に遅い場合は開存していても造影されないこ
とがある.そのような場合でも血管エコーでは血流が認
④侵襲的診断法
められることがあり,浅大腿動脈領域では血管エコーの
最近の画像診断の進歩は目覚しく,かつては必須とさ
併施を推奨する報告や,血管内治療に際して血管エコー
れた血管撮影に比べてより低侵襲である multi-detector
を有用とする報告も散見される.
CT 血管造影(MD-CTA)や磁気共鳴血管造影(MRA)
検査が最初に施行すべき画像診断法として推奨されてい
⑤重症度評価
る 358),359).特に MD-CTA は,解像度の改良と 3 次元像の
古典的には Fontaine 分類が用いられてきが,症状と所
作成,造影剤の減量や撮影時間の短縮など近年特に改善
見が混在しやや客観性に欠けるため最近はより客観的な
されてきており,末梢血管疾患に対して最初に施行すべ
足関節血圧を加味した Rutherford 分類も用いられるよう
き画像診断法として位置づけられている(レベル B).
360)
になってきた(表 26)
.しかし重要なのは,間歇性
血管エコーと同様に,血管撮影で血流の確認できない場
跛行肢(非重症)か重症虚血肢かの区別である(レベル
A).この 2 者では後述するように治療方針のみならず,
図 12 血管エコー
肢の予後,生命予後とも大きく異なる.
表 26 Fontaine 分類及び Rutherford 分類 338)
Fontaine 分類
臨床所見
無症候
軽度の跛行
中等度から重度の
Ⅱb
跛行
Ⅲ 虚血性安静時疼痛
度
Ⅰ
Ⅱa
浅大腿動脈の狭窄部位を示す.カラードプラにより血流に乱れ
があり,流速波形でもピークが尖鋭化し流速が増大することで
狭窄があるのがわかる.
Ⅳ
潰瘍や壊疽
度
0
Ⅰ
Ⅰ
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
Ⅲ
Rutherford 分類
群 臨床所見
0
無症候
1
軽度の跛行
2
中等度の跛行
3
重度の跛行
4
虚血性安静時疼痛
5
小さな組織欠損
6
大きな組織欠損
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
1519
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006−2007 年度合同研究班報告)
3
ル B).糖尿病患者や透析患者では,局所の血流不全や
治療
感染といった局所因子だけでなく,低栄養,貧血,心不
全合併といった全身因子を総合的に判断し,治療法を選
①間歇性跛行
択する 361).
間歇性跛行の治療を行う前に心機能の評価をあらかじ
め行っておくことが望ましい.歩行距離延長に伴う心負
③血行再建術
荷増大によって心不全や狭心症の発症が予測されるよう
血行再建術には大きく分けて,1)バイパス手術と 2)
な場合は,心機能改善の治療を優先させてから下肢の治
血管内治療術がある.同等の短期・長期成績であれば血
療を行うよう心がける.TASC Ⅱ 361)では,ABI が 0.9 未
管内治療を優先するべきとされているが,長期成績の点
満であれば,まず監視下での運動療法と薬物療法(抗血
で優劣が明確でない領域が多いのが現状である.その中
小板薬,後述)の併用を推奨しているが,はじめから効
で大動脈腸骨動脈領域は血管内治療の成績が安定してい
果の期待できない跛行肢にこれらの治療を強いるのは適
るためカテーテルを用いた血管内治療が優先的に行われ
切でない.歩行後に,低下した ABI が回復するまでの
ることが多い.血管内治療の可否や成績はまた病変の部
時間が著しく延長している肢では,運動療法の効果は期
位と範囲,閉塞か狭窄かの違いにも左右される.したが
待できず,最初から血管内治療やバイパス手術を考慮す
って血行再建術を考慮する際には病変の正確な診断が必
362)
べきである (レベル C).間歇性跛行治療の目的は「肢
要であり,そのためには血管撮影を要することが多い.
機能の回復」にあり,歩行後の回復時間評価,身体的・
TASC Ⅱ 361)では,大動脈腸骨動脈領域(表 27),大腿膝
精神的・社会的機能評価(SF-36 など),疾患特異的歩
窩動脈領域(表 28)の病変を A から D までに分類し,A・
行 能 力 評 価(walking impairment questionnaires,WIQ)
B 病変では血管内治療を,C 病変では手術治療ではハイ
363)
リスクとなる患者に血管内治療を,D 病変では手術治療
する.
を優先するべきとしているが,血管内治療の最近の急激
,本人の希望などを総合的に判断して治療法を選択
な進歩を考えると今後は C 病変でも血管内治療が第一選
②重症虚血肢
択となる可能性がある.
重症虚血肢の治療目的は「心血管系リスクの改善」と
ともに「肢切断の回避」にある.重症虚血と診断された
4
予後,心疾患とのかかわり
肢には,血行再建術(バイパス術や血管形成術)が勧め
間歇性跛行患者の肢の予後は一般に良好である(レベ
られるが,その選択は,病変部位と病変のパターン(後
ル A).5 年後に症状が悪化するのは約 25 %で,そのう
述),患者の希望,施設の成績を考慮し決定する(レベ
ち約 3 分の 1 が重症下肢虚血をきたすが切断を要するの
表 27 大動脈腸骨動脈の TASC 分類 338)
A・B 病変では血管内治療を,C 病変では手術治療ではハイリスクとなる患者に血管内治療を,D 病変では手術治療を優先する.
A 型病変
B 型病変
C 型病変
D 型病変
CIA の片側あるいは両側狭窄
EIA の片側あるいは両側の短い(≦ 3cm)単独狭窄
腎動脈下部大動脈の短い(≦ 3cm)狭窄
片側 CIA 閉塞
CFA には及んでいない EIA での 3 ∼ 10cm の単独あるいは多発性狭窄
内腸骨動脈または CFA 起始部を含まない片側 EIA 閉塞
両側 CIA 閉塞
CFA には及んでいない 3 ∼ 10cm の両側 EIA 狭窄
CFA に及ぶ片側 EIA 狭窄
内腸骨動脈及び / または CFA 起始部の片側 EIA 閉塞
内腸骨動脈及び / または CFA 起始部あるいは起始部でない,重度の石灰化片側 EIA 閉塞
腎動脈下部大動脈腸骨動脈閉塞
治療を要する大動脈及び腸骨動脈のびまん性病変
片側 CIA,EIA 及び CFA を含むびまん性多発性狭窄
CIA 及び EIA 両方の片側閉塞
EIA の両側閉塞
治療を要するがステントグラフト内挿術では改善がみられない AAA 患者,あるいは大動脈または腸骨動脈外科
手術を要する他の病変をもつ患者の腸骨動脈狭窄
CIA;総腸骨動脈,EIA;外腸骨動脈,CFA;総大腿動脈,AAA;腹部大動脈瘤
1520
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
脳血管障害,腎機能障害,末梢血管障害を合併した心疾患の管理に関するガイドライン
表 28 大腿膝窩動脈病変の TASC 分類 338)
A・B 病変では血管内治療を,C 病変では手術治療ではハイリスクとなる患者に血管内治療を,D 病変では手術治療を優先する
A 型病変
B 型病変
C 型病変
D 型病変
単独狭窄≦ 10cm 長さ
単独閉塞≦ 5cm 長さ
多発性病変(狭窄または閉塞)
,各≦ 5cm
膝下膝窩動脈を含まない≦ 15cm の単独狭窄または閉塞
末梢バイパスの流入を改善するための脛骨動脈に連続性をもたない単独または多発性病変
重度の石灰化閉塞≦ 5cm 長さ
単独膝窩動脈狭窄
重度の石灰化があるかあるいはない,全長> 15cm の多発性狭窄または閉塞
2 回の血管内インターベンションに,治療を要する再発狭窄または閉塞
CFA または SFA(> 20cm,膝窩動脈を含む)の慢性完全閉塞
膝窩動脈及び近位三分枝血管の慢性完全閉塞
CFA;総大腿動脈,SFA;浅大腿動脈
は 2 %に満たない.死亡率は 10 ∼ 15 %でそのうち 75 %
る診断率は動脈瘤の大きさ,患者の肥満度,検者の技量,
が心血管イベントによる 231).一方,重症虚血肢の予後
検査の主目的によって大きく影響を受ける.最近は,腹
は不良(レベル A)で 1 年後にはその 25%が死亡し,30
部超音波検査や CT 検査で偶然に発見されることも少な
%が切断後生存,20 %は重症虚血が持続し,虚血が回
くない.腹部大動脈瘤の合併症で最も多く,しかも重篤
復するのは 25%に過ぎない 361).
なものは動脈瘤の破裂である.腹部大動脈瘤破裂の 3 主
症候性末梢動脈疾患患者の約 50 %が冠動脈疾患を合
徴は,①腹痛,または腰部痛,②低血圧,③腹部拍動性
併し,逆に虚血性心疾患患者の 10 ∼ 30%に末梢動脈疾
腫瘤であるが,3 者が揃うのは 26%にすぎない 367).
患を合併する
364)
.末梢動脈疾患患者の最大の死亡原因
動脈瘤破裂に影響する因子は動脈瘤の直径である.動
が冠動脈疾患(40 ∼ 60 %)であり,次いで脳動脈疾患
脈瘤の長さや壁在血栓の有無,形状(紡錘状,嚢状)は
である.ABI による末梢動脈疾患の重症度と死亡率には
ほとんど関係がなく,破裂の危険性は,動脈瘤の外径(動
相関が見られ,重症下肢虚血患者の死亡率は間歇性跛行
脈壁の外膜から外膜までの径)で評価する.超音波検査
患者の約 2.5 倍である (レベル A).
は簡便であり,動脈瘤の前後径の計測は正確である 368)
前述したように生命予後の観点からは冠動脈疾患の管
が,横径は不正確であり,動脈瘤破裂の診断や動脈瘤の
理はすべての末梢動脈疾患患者に重要であり,狭心症な
上方進展の診断はやや困難である 369),370).CT 検査は放
どの症状を有する患者では,現行のガイドラインに従い
射線被爆の欠点はあるが,より正確な動脈瘤径の測定が
管理されるべきである 231).末梢動脈疾患に対する治療
できる 371).CT 画像で横断面が楕円形の場合には最大短
として手術や血管内治療による血行再建術を予定してい
径(最大長径に直交する最大径)が真の直径を表してい
361)
る患者は心疾患リスクを術前に評価すべきである
365)
.
る.CT は動脈瘤破裂の診断において特に優れており,
心臓リスクが高い場合は,冠血行再建の必要性を検討す
MDCT による 3D 画像は外科手術に有用である.血栓で
るために冠動脈造影が勧められる.しかし,安定した冠
閉塞した腹部大動脈瘤は,動脈閉塞症と似た症状を呈す
動脈疾患を合併する末梢動脈疾患患者に対する術前冠血
るが,超音波検査や CT 検査で鑑別が可能である.アテ
行再建術は,手術死亡率並びに遠隔生存率を低減しなか
ローム性動脈硬化症よる動脈瘤は通常,紡錘状動脈瘤の
ったと報告されており,一般に予防的な冠血行再建手術
形態を呈するが,嚢状動脈瘤は特殊な動脈瘤の可能性が
)
は推奨されない 366(レベル
A).したがって冠血行再建
あるので,血管外科専門医にコンサルトすることが望ま
手術の適応も末梢動脈疾患治療とは独立して現行のガイ
しい.
ドラインに従うべきである.
4
腹部大動脈瘤の評価と治療
瘤壁にかかる力は LaPlace の法則に従い,瘤径が増大
するほど,また血圧が高いほど増大するため破裂しやす
い.そこで,未破裂動脈瘤の内科的治療としては,禁煙
と血圧管理が重要である(レベル B).腹部大動脈瘤患
1
評価方法
者が,腹部・腰部痛を訴える場合,原因不明の発熱が継
続する場合,あるいは無症状動脈瘤であっても,経過観
腹部大動脈瘤は通常,無症状であり,診断のきっかけ
察で動脈瘤径が半年で 5mm 以上増大した場合や動脈瘤
は日常の腹部触診であることが多い.しかし,触診によ
の形状が変化した場合には,破裂の危険性を考慮し血管
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
1521
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006−2007 年度合同研究班報告)
外科の専門医に相談するべきである.
2
②症状と診断
治療
診断には,pain(疼痛),pulselessness(動脈拍動消失),
腹部大動脈瘤の基本的外科手術は人工血管置換術であ
pallor(皮膚蒼白),paresthesia(知覚異常),paralysis(運
る.待機手術の適応は,破裂リスク,手術リスク,生命
動麻痺)の“5P”が重要であるが,血栓症と塞栓症の
予後,患者の希望などで総合的に判断する.患者を定期
鑑別は,血管外科専門医でもしばしば困難なことがある.
的に観察することが可能であれば,欧米では 5.5cm まで
脈拍の触診や身体所見は精度に欠けるため,急性動脈閉
372),373)
経過観察するのがよいとされている(レベル A)
塞が疑われる患者はすべて末梢の血流をドプラ血流計で
が日本人は体格がやや小さく,女性は破裂のリスクが高
378)
評価すべきである(レベル C)
.虚血の重症度は,感
いため,男性 5.0cm 以上,女 4.5cm 以上を手術適応とす
覚消失,筋力低下,足部ドプラ信号の有無により,救肢
る意見が多い(レベル C).
可能(感覚消失や筋力低下がなく,足部動脈音ドプラ聴
2007 年 4 月から外科手術が困難な患者に限り,ステン
取可),危機的(感覚消失あり,筋力低下軽度,静脈音
トグラフト手術が認可された.ステントグラフト手術は
のみ聴取可),不可逆的(感覚消失,運動神経麻痺,静
リスクの高い患者にも低侵襲で施行可能であり,従来の
脈音聴取不可)に分類される 379).
人工血管置換術に比し,良好な初期成績と遜色のない中
期成績が示されつつある(レベル B)374),375).瘤径に関し
③治療と予後
て,ステントグラフト手術の適応は,従来の人工血管置
不可逆性の神経,筋障害が数時間以内に生ずる可能性
換術とほぼ同じと考えられている.しかしカテーテルを
があるので,冠動脈疾患が重篤でない限り,血流の改善
用いて留置するため形態学的な制約がある.
を優先し,血行再建術を施行できる血管専門医の診断を
3
心疾患との関わりと治療の優先度
冠動脈疾患を合併した腹部大動脈瘤患者の手術適応
は,大動脈瘤手術の緊急性,冠動脈病変の重症度,同時
手術の侵襲度,技術的困難さなどを総合的に判断して決
378)
受けるべきである(レベル C)
.
2
Blue toe syndrome
①病態
定する.大動脈瘤径が 5.0cm 以下の場合は冠動脈疾患の
Blue toe syndrome とは足部動脈拍動が触知できるに
治 療 を 優 先,5.0 ∼ 6.0 cm は 両 疾 患 の 重 症 度 で 判 断,
もかかわらず,突然足趾に発症する微小塞栓症をいう.
6.0cm 以上は大動脈瘤の手術を優先するか,同時手術を
動脈瘤の壁在血栓や,動脈壁の粥腫が剥離し,末梢動脈
376),377)
検討すべきである(レベル B)
.両疾患がともに有
へ飛散する微小塞栓症で,誘因のないこともあるが,カ
症状の場合に,同時手術を行うか,二期的手術を行うか
テーテル操作や手術操作,抗凝固剤薬や血栓溶解薬の使
の結論は出ていない.オフポンプ冠動脈バイパスの普及
用後や,鈍的外傷などに起因する 380),381).特に近年カテ
に伴い,同時手術も良好な成績が得られているが,主た
ーテル操作による医原性が急増しており,術前の大動脈
る訴えのある疾患の手術を先行することが基本である.
壁性状の確認とともに,慎重なカテーテル操作が重要で
5
その他の末梢血管障害
ある.足部,足趾に限局し,疼痛,冷感,チアノーゼが
突然発症すれば本症を疑う.多量の微小塞栓により足部
や下腿に網状斑がみられることがあり,通常数日で軽快
1
急性動脈閉塞症
①病態
急性動脈閉塞症には血栓症と塞栓症がある.血栓症は
1522
するが,潰瘍や壊死化することもある.同様の微小塞栓
症が内臓動脈や腎動脈にも発症することがあり,多臓器
塞栓例の生命予後は不良である 382).
②症状と診断
ほとんど下肢に発生し,粥状硬化性狭窄の血栓症,バイ
診断は足部,足趾に限局した疼痛,冷感,チアノーゼ
パスグラフト閉塞,外傷(医原性),動脈瘤の血栓化な
の突然発症に,足部動脈の拍動を触知できることが特徴
どが原因となる.塞栓症の塞栓源は 80%が心臓由来で,
である.胸部大動脈から末梢主幹動脈の画像診断により,
心房細動が 70%に関与し,塞栓動脈は上肢 14%,大動脈・
塞栓源を同定する 383).皮膚や筋生検による血管内コレ
腸骨 22%,大腿 36%,膝窩 15%,内臓 7%などである.
ステリン結晶の証明は確定診断となる.慢性重症虚血肢
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
脳血管障害,腎機能障害,末梢血管障害を合併した心疾患の管理に関するガイドライン
との鑑別が重要で,足部動脈拍動の有無により鑑別でき
③下腿動脈閉塞がある
る.左房内血栓の流出,膠原病,Raynaud 症候群,真性
④上肢動脈閉塞の存在,または遊走性静脈炎の存在ま
たは既往がある
多血症,本態性血小板増多症との鑑別を要する.
⑤喫煙以外の閉塞性動脈硬化症の危険因子がない
③治療と予後
この 5 項目はいずれも‘and’が条件であり‘or’で
塞栓源が明らかな場合に限り手術適応となるが,ステ
ないことに注意すべきである.この 5 項目を満たし,さ
ントや人工血管を用いた血管内治療の適応も考慮される
らに鑑別すべき疾患が否定された時にはじめて本疾患の
384),385)
(レベル B)
.薬物治療として,再発予防には抗血
小板薬が適応となり 386),足趾の血行動態改善にはプロ
スタグランディン製剤が用いられる.へパリン,ワルフ
診断が確定する.
③治療と予後
ァリンなどの抗凝固薬や,ウロキナーゼ,tPA などの血
禁煙は本疾患治療の根幹をなす.病変の進展や虚血徴
栓溶解薬は,フィブリンや血小板による損傷動脈内膜の
候の増悪は喫煙の継続よる(レベル B)391),392).適応とな
修復を阻害し,コレステリン結晶や粥腫の遊離を促進す
る患者は少ないが,下腿や足部動脈への血行再建術は虚
る恐れがあるため投与すべきではない(レベル B).
血徴候の劇的な改善をもたらす(レベル B)393).グラフ
3
トが閉塞しても大切断に至ることは少ないが,跛行例に
Buerger 病
まで適応を拡大する必要はない.交感神経節切除術は,
血行再建術の適応のない患者に行う(レベル B).短期
①病態
的には皮膚血流増加による潰瘍治癒の促進,長期的には
病因については不明であるが,自己抗体の関与,細胞
側副血行路の発達が期待できる.薬物療法としては,種々
接着因子や T リンパ球の関与する免疫応答,歯周病菌の
の血管作動性薬や抗血小板薬により,症状の再発や増悪
関与などが示唆されている.
は阻止できる(レベル B).
,全国の患者
上肢症状のある患者の約 50 %は指切断となるが,手
数は約 10,000 人程度と推定される.30 ∼ 40 歳代の患者
切断はまれである.大腿・下腿切断は約 10 %,足趾切
が 70 %を占め,性別は男性が圧倒的に多く,ほぼすべ
断は約 30 %に必要となる.症状の再発再燃により四肢
てが喫煙者である.
切断を繰り返す患者は約 20 %と限られており,60 歳を
近年初発患者は著しく減少しており
387)
過ぎれば潰瘍・壊死の発生はまれで,閉塞性動脈硬化症
②症状と診断
併発による症状増悪はない.また,生命予後は良好で一
厚生省特定疾患難治性血管炎調査研究班によるバージ
ャー病の診断基準にみられる症状の多くは慢性動脈閉塞
症に共通するものであるが,上肢の罹患,足底の跛行,
般の日本人の生命予後と差がないと考えてよい 391),392).
4
上肢動脈慢性閉塞症
遊走性静脈炎は本疾患の診断に役立つ.潰瘍・壊死は肢
アテローム性動脈硬化症,大動脈炎症候群,胸郭出口
端に発生し,疼痛や入院による肉体的,精神的,社会的
症候群などが原因となる.上肢慢性動脈閉塞症は閉塞部
QOL の低下は著しい.
位によって原因や臨床症状が異なるが,鎖骨下動脈より
動脈拍動の触知,四肢血圧測定が重要であるが,本疾
末梢の動脈閉塞は Buerger 病や膠原病などが原因となる
患に特異的な血液生化学的検査所見はない.血管造影所
ことが多い.
見は重要で,①下肢では膝関節より末梢,上肢では肘関
節より末梢に必ず病変がある.②その中枢側の動脈壁に
①アテローム性動脈硬化症
不整はなく平滑である.③動脈閉塞様式は途絶型,先細
アテローム性動脈硬化症による鎖骨下動脈閉塞は冠動
り型が多く,コルクの栓抜き状,樹根状・橋状となった
脈疾患患者の 3.0 から 8.5 %に見られる 394)−396).一般的
側副血行路の発達が特徴的である.蛇腹様所見は,本症
に無症状のことが多いが,同側椎骨動脈が側副血行路と
に特有な所見である
388),389)
.鑑別を要するのは膠原病で
なっている場合は,上肢の運動時に TIA を呈する(鎖骨
あり,両者の鑑別は造影所見だけでは難しい.
下動脈盗血症候群:subclavian steal syndrome)ことが
本疾患の臨床診断基準 390)は明解で実用的である.
ある.また,内胸動脈を用いた CABG 患者では,同側
① 50 歳未満の若年発症
の鎖骨下動脈起始部に狭窄があると同様の機序で心筋虚
②喫煙者
397)
血をきたす(coronary-subclavian steal syndrome)
.上
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
1523
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006−2007 年度合同研究班報告)
肢虚血症状よりも脳虚血症状が手術適応の基準となるこ
Duplex 超音波検査による流速及び血流波形から上腸間
とが多い.従来,治療はバイパス術が主流であったが,
膜動脈狭窄の初期診断は可能であるが,治療法の選択に
近年,カテーテルインターベンションで治療されること
は 3D-CT 検査や動脈造影検査が必要である.動脈造影
が多くなっている.
では側面像が診断的に有用である 400).慢性上腸間膜動
②胸郭出口症候群(thoracic outlet syndrome)
解離などによる急性上腸間膜動脈閉塞症は腸管虚血壊死
胸郭出口症候群は神経血管束(腕神経叢,鎖骨下動・
による致死的な転帰をとることが多い.急性と慢性の早
静脈)が鎖骨,第一肋骨,頚肋及び前斜角筋などにより
期鑑別診断が重要である.
機械的に圧迫されて発症する.神経圧迫では手指のしび
れを,動脈圧迫では疲労感や冷感,時に末梢塞栓により
③治療と予後
虚血性潰瘍を,静脈圧迫では上肢腫脹,静脈怒張やチア
外科的治療にはバイパス術や血栓摘除術があり,長期
ノーゼを認める.肩甲帯運動により症状の改善を認める
開存が得られるが侵襲が大きい欠点がある 401).近年で
ことがあるが,頚肋が存在する場合や圧迫症状が強い場
はカテーテルインターベンションの技術が向上し,良好
合には手術適応となり,頚肋切除,第 1 肋骨切除や前斜
な成績が報告されている 402),403)が,長期開存率は外科的
角筋切除が行われる.
治療に劣る.患者の全身状態を把握した上で治療方法を
選択する必要がある.
③ Buerger 病(前述項参照)
6
④膠原病
膠原病のうち全身性エリテマトーデス,進行性全身性
腎血管性高血圧症
①病態
硬化症,結節性動脈周囲炎,多発性筋炎,悪性関節リウ
腎動脈狭窄により腎への血液灌流減少により生じる急
マチなどが末梢循環障害を呈する.主に小・細動脈が傷
性または慢性の高血圧症である.腎血管性高血圧症の頻
害され,寒冷暴露により手指が蒼白となるレイノー症状
度として粥状硬化によるものが 90%と最も多く 404),海
を認める.薬物療法が主に行われる.
外では高血圧患者の 1 ∼ 6%にみられるが 405),我が国で
5
内臓動脈慢性閉塞症
は 0.5%程度と低い 406).日本人の心臓カテーテル検査施
行例の 7%に(6%は片側,1%は両側),また冠動脈 3 枝
病変例の 12%に腎動脈狭窄症が認められている 407).ア
①病態
テローム硬化,線維筋性異形成,高安動脈炎,腎動脈瘤,
腹部内臓の血行動態に関与する血管は腹腔動脈,上腸
大動脈解離などに起因する腎動脈狭窄症のため腎血流が
間膜動脈,下腸間膜動脈及び内腸骨動脈であるが,最も
低下すると,レニン・アンジオテンシン・アルドステロ
重要な血管は上腸間膜動脈である.内臓動脈慢性閉塞症
ン系,カリクレイン・キニン系,プロスタグランディン
の原因はアテローム性動脈硬化症が最も多く,次いで線
系の関与により血圧は上昇する.
維筋性過形成や血管炎などがある.アテローム性動脈硬
化症の場合,脳血管,冠動脈,四肢末梢動脈の閉塞性病
②症状と診断
変を伴うことが多く,高齢者の 17.5%に内臓動脈狭窄が
腎動脈狭窄症診断の糸口として ACC/AHA ガイドライ
認められる 398).また,腹部大動脈瘤と末梢動脈閉塞性
ン 231)では以下の項目を挙げている.① 30 歳以下または
疾患患者の 27 %に内臓動脈狭窄が認められ,このうち
55 歳以上で発症する高血圧,または,②突然増悪する
50%に冠動脈疾患が認められる
399)
.
②症状と診断
1524
脈閉塞症は緩徐な経過であるのに対して,塞栓症や動脈
高血圧,難治性高血圧,悪性高血圧,③ ACE 阻害薬ま
たは ARB 投与後の窒素血症の新たな発症または腎機能
悪化.④原因不明の腎萎縮または両腎のサイズの左右差
上腸間膜動脈狭窄は,空腹時には無症状であっても,
(>1.5 cm),⑤突然発症した原因不明の肺浮腫,⑥原因
食 事 で 誘 発 さ れ る 腹 痛( 腹 部 ア ン ギ ー ナ:visceral
不明の腎不全,⑦血管造影で冠動脈多枝病変や末梢動脈
angina)を生ずることがある.腹痛は食後の腸管血流の
病変,うっ血性心不全または難治性の狭心症のある患者
増加に一致し,食後 30 ∼ 45 分で生じる.腹痛の恐怖か
に は 腎 動 脈 狭 窄 症 を 疑 い 検 査 を す す め る.Duplex
ら小食となり,体重減少をきたす
(small meal syndrome)
.
doppler,3D-CT,MRA,選択的腎血管造影検査はいず
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
脳血管障害,腎機能障害,末梢血管障害を合併した心疾患の管理に関するガイドライン
れもスクリーニング検査として勧められる.カプトプリ
ともに径 2cm 以上を動脈瘤と定義することが多い 338).
ル負荷腎シンチグラフィ,選択的腎静脈レニン活性,血
55 歳以上の男性に発生することが多く 411),両側性の頻
漿レニン活性,カプトプリル負荷試験はいずれもスクリ
度が高く(50%),膝窩動脈瘤と大腿動脈瘤が合併し(約
ーニング検査として勧められない 231).
30%),しかも腹部大動脈瘤を合併することが多い(30
∼ 40%)412)−415).冠動脈疾患における末梢動脈瘤の合併
③治療と予後
頻度は明らかでない.
薬物療法,経皮的腎動脈形成術(PTRA)や外科手術
による腎血行再建術があり,病態により治療法を選択す
②症状と診断
る.薬物療法として,ACE 阻害薬やβ遮断薬はいずれ
臨床的には身体所見で発見されることが多く,画像診
も有効である(レベル A).また,片腎性腎動脈狭窄症
断としては超音波検査と CT 検査が有用である.CT 検
には Ca 拮抗薬(レベル A),ARB(レベル B)が有効で
査を行う場合には,他の動脈瘤の合併を考え,腹部から
ある.腎動脈狭窄に対する PTRA や外科手術の適応は図
膝窩部までスキャンするのがよい.大腿動脈瘤の診断に
13 に示す
231)
おいては,バイパス術後の吻合部動脈瘤やカテーテル穿
.
動脈硬化性腎動脈狭窄は進行性である 408),409).血行再
建術による腎機能温存の可能性は高いが,多臓器の動脈
硬化病変の併存のため生命予後は不良で 5 年生存率は 78
%といわれている 410).
7
刺後の仮性動脈瘤との鑑別が重要である.
③治療と予後
末梢動脈瘤は腹部大動脈瘤と異なり,破裂の危険性は
少ないが,末梢塞栓や瘤自体の血栓閉塞の合併症が多く,
末梢動脈瘤
膝窩動脈瘤では 38%から 90%に認められる 412)−415).自
覚症状がなくても足関節血圧測定や画像診断で末梢塞栓
①病態
の所見を認める場合には手術適応がある(レベル B).
末梢動脈瘤は膝関節や股関節など関節屈曲部位に発生
冠動脈疾患を合併した無症候性動脈瘤では冠動脈疾患治
しやすい.膝窩動脈瘤が最も多く,次いで大腿動脈瘤が
療を優先させるが,下肢急性虚血症状がある場合には動
多い.動脈瘤は瘤径が動脈径の 1.5 倍以上の限局的拡大
脈瘤の手術を優先する(レベル B).手術は人工血管ま
と定義されるが,臨床的には,大腿動脈瘤,膝窩動脈瘤
たは自家静脈置換術が行われる.ステントグラフト手術
図 13 腎動脈狭窄症(RAS)に対する経皮的腎動脈形成術(PTRA)や外科手術の適応
再発性,原因不明の CHF,
又は突然発症した原因不明
の肺水腫を有する血行動態
的に有意な RAS
(クラスⅠ;LOE B)
両側の RAS,又は単腎
は 機 能 し て い る RAS
を有する RAS 及び CRI
(クラスⅡa;LOE B)
血行動態的に有意な
RAS のある無症候性
の両腎又は生存の可
能性のある*単腎
(クラスⅡb;LOE C)
RAS と不安定狭心症
(クラスⅡa;LOE B)
下記を伴う RAS
・増悪する難治性,又は
悪性高血圧
・小片側腎に伴う高血圧
・薬物不耐性の高血圧
(クラスⅡa;LOE B)
腎動脈形成術/ステント留置術
動脈硬化症 RAS
ステントの使用はインターベンションの
診断基準に合致する患者に適応がある
(クラスⅠ;LOE B)
筋性異形成性 RAS
ステントはインターベンションの診
断基準に合致する患者に適応がある
(クラスⅠ;LOE B)
片側性の RAS(両腎
生存)を有する RAS
及び CRI
(クラスⅡb;LOE C)
生存の可能性のある*
腎における片側性の
血行動態に有意な無
症候性 RAS
(クラスⅡb;LOE C)
腎動脈手術
CHF:うっ血性心不全(chronic heart failure)
CRI:慢性腎不全(chronic renal insufficiency)
LOE:エビデンスレベル(level of evidence)
*
生存の可能性あり=長径が 7cm 以上の腎
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
1525
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006−2007 年度合同研究班報告)
は関節屈曲部であるので現時点では適応とはならない
変部は手術上の問題となる.いずれも緊急の場合を除い
416)
て,十分に炎症が消失してから外科手術を行うことが望
.
まれる.
高安病
8
予後を決定する最も重要な病変は,腎動脈狭窄や大動
脈縮窄症による高血圧,大動脈弁閉鎖不全によるうっ血
①病態
性心不全,虚血性心疾患,心筋梗塞,大動脈解離,動脈
高安動脈炎(大動脈炎症候群,脈無し病)は大動脈及
瘤破裂である.早期からの適切な内科治療と重症例に対
びその主要分枝や肺動脈,冠動脈に閉塞性,あるいは拡
する適切な外科治療によって長期予後の改善が期待でき
張性病変をきたす原因不明の非特異的大型血管炎であ
る.
る
.1:9 の割合で女性に多く発症する.我が国にお
417)
いては免疫制御に関わる HLA クラスⅠ分子 B-52,B-39
との有意な相関が知られている
6
心疾患と末梢血管疾患の
関わり
1
心疾患の薬物療法
418)
.病型は那須の分類
があり,Ⅰ型:頭側分枝主幹動脈のみ病変のあるもの,
Ⅱ型:大動脈弓とその分枝主幹動脈に病変のあるもの,
Ⅲ型:主として腹部大動脈に病変のあるもの,Ⅳ型:大
動脈全領域及び各分枝主幹動脈に病変のあるものの 4 型
心疾患に用いられる薬の多くは末梢血管疾患でも使用
に分類される.
されることが多く,末梢血管の機能に影響を与える.し
②症状と診断
症状は,狭窄や閉塞した動脈の支配臓器に特有の虚血
障害,あるいは逆に拡張性動脈病変による.初期症状と
上げ,各薬剤の末梢血管疾患との関連について述べる.
①抗血小板薬
して認められるのは感冒様症状であり,発熱,全身倦怠
虚血性心疾患,特に PCI 後に抗血小板剤を用いている
感,易疲労感などである.病変の生じた動脈の支配領域
患者は多いが,通常用いられるアスピリン製剤やチエノ
により臨床症状が異なり,上肢虚血症状,頭部虚血症状,
ピリジン製剤は心血管イベントのリスクを低下させるが
大動脈弁閉鎖不全症(本症の約 3 分の 1 にみられる),高
)
下肢虚血に有用であるという報告はない 59),419)−421(レベ
血圧など多彩な臨床症状を呈する.
ル B).間歇性跛行の患者に対してはシロスタゾール 422),
③治療と予後
423)
が有用であるとされている.しかし抗血小板薬は重
症下肢虚血に対しては血行再建後のグラフト開存性を高
内科療法は炎症の抑制を目的として副腎皮質ステロイ
めるものの 424),虚血の改善には有効であるとの報告は
ドが最も多く使われる.赤沈,CRP を指標とした炎症
ない(レベル B).したがって抗血小板薬は血行再建手
反応と臨床症状に応じて投与量を加減し,継続的あるい
術後のアジュバント療法として使用されることが多い.
は間歇的に投与される.また易血栓性があるため重大な
大動脈瘤に関して通常抗血小板薬は使用しない.末梢動
合併症を生じることがある.このため,抗血小板薬,抗
脈瘤に対する血栓閉塞の予防効果も不明である.
凝固薬が併用される.外科療法は症状が特定の血管病変
に起因することが明らかで内科的治療が困難な症例に適
1526
たがってここでは心疾患に用いられる代表的薬剤を取り
②抗凝固薬
応される.外科的治療の対象となる症例は全体の約 20
抗凝固薬が間歇性跛行に対して有効性を示した試験成
%である.脳虚血症状に対する頚動脈再建術が行われる
績はない.重症虚血肢に関して抗凝固療法は試みられな
のは,①頻回の失神発作,めまいにより生活に支障をき
いが,血行再建後のアジュバント療法として用いられる
たしている場合,②虚血による視力障害が出現した場合,
ことが多く,明確なエビデンスはないものの,膝下末梢
③眼底血圧が 30 mmHg 前後に低下している場合である.
動脈までのバイパス手術や瀰漫性の広範囲病変に対して
大動脈弁閉鎖不全に対する大動脈弁置換術(Bentall 手
より多く用いられる傾向がある.ただし出血のリスクを
術を含む)は一般の大動脈弁閉鎖不全症の適応を参考に
考え個々の症例によってその適応を考慮すべきである
して行われる.慢性期(瘢痕期)には,内膜は進行性に
59)
肥厚し板状の石灰化を伴い,外膜は著しい線維化を伴い
瘤内血栓からの血栓塞栓症の予防が考えられるがエビデ
肥厚する(磁器様大動脈 porcelain aorta).このような病
ンスはない.逆に,粥腫塞栓症をきたしている症例では
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
.動脈瘤に対しての抗凝固療法は,瘤内血栓の予防,
脳血管障害,腎機能障害,末梢血管障害を合併した心疾患の管理に関するガイドライン
その散布を促進する可能性があり用いるべきではない
(レベル C).
③降圧薬
非薬物療法によっても LDL コレステロールが目標値以
下に下がらない場合は薬物療法を考慮するが,この際ス
タチンが第一選択となる.シンバスタチンにより間歇性
跛行の改善が見られたとの報告がある 426).また高リス
高血圧は末梢動脈疾患のリスクを増大させる.高血圧
クの高 LDL コレステロール血症ではエイコサペント酸
症の治療ガイドライン 2004 では末梢動脈疾患は心血管
(EPA)の併用も考慮すべきである.高中性脂肪血症と
病のひとつとされ,これを合併すると高リスク群に属し,
低 HDL コレステロール血症を伴う場合はフィブラート
高血圧ガイドラインに沿った降圧を行うことが推奨され
やニコチン酸が用いられるが,この治療による効果は
る.降圧療法により下肢の潅流圧が低下し下肢虚血が増
LDL コレステロール低下療法ほどの明確なエビデンス
悪する可能性が危惧されるが,臨床上そのような報告は
は得られていない.我が国では薬物療法抵抗性の高脂血
ない.したがって心血管イベントを減少させるため降圧
症にのみ適応のある LDL-apheresis で下肢虚血が改善し
療法は継続すべきであり,日本高血圧学会のガイドライ
たとの報告がある 427).
ンでは特定の降圧薬ではなく降圧そのものが心血管病の
一方 Heart Protection Study によればシンバスタチン投
抑制に重要としている 66).β遮断薬は末梢血管収縮作用
与により,血管系死亡率が 17 %,冠動脈以外の血行再
があるため末梢動脈疾患患者に対して禁忌とされたこと
建術が 16 %の減少を示したが,これは末梢動脈疾患を
もあったが,そのようなエビデンスはなく使用可能であ
合併したサブグループにおいても同様の結果であり,血
る(レベル B).サイアザイド系利尿薬は末梢動脈疾患
管関連のイベントの 25 %の減少が得られたと報告され
を合併した高血圧患者に対して一般的に用いられる.心
428)
ている(レベル B)
.
不全治療のための利尿剤の使用に関する末梢動脈疾患へ
の影響に関しては不明であるが,利尿作用による脱水に
よって血栓症が惹起されるというエビデンスはなく,む
しろ心機能改善による下肢潅流圧の上昇が期待できるた
め使用は可能と考えられている.
④強心薬
2
心疾患の非薬物療法
① PCI
PCI は,その低侵襲性により虚血性心疾患に対する治
療として広く用いられている.その際用いられる造影剤
は,腎機能障害やアレルギーの副作用を有するが,動脈
カテコラミンは下肢末梢血管を収縮させるが,心機能
瘤,末梢動脈疾患ともに造影剤による直接的な悪影響は
の改善を行う.強心薬が末梢動脈疾患を悪化させるとい
ない.しかしカテーテル操作による塞栓症(下肢,脳な
うエビデンスはなく,末梢動脈疾患の最大死因が心血管
ど)や動脈解離を起こすことがあり,大動脈瘤(腹部,
イベントであるため心機能に応じて使用するべきであ
胸部)や末梢動脈疾患があるときはカテーテル・アプロ
る.
ーチとカテーテル操作に充分な注意が必要である(レベ
⑤抗不整脈薬
ル C).一般的に我が国では経皮的冠血管再建術の合併
症は死亡率 0.4%,穿刺部出血 0.5%とされているが 429),
動脈瘤や末梢動脈疾患に対して抗不整脈薬の効果を調
血管疾患を有する患者ではこれより高いと予想されるも
べた研究はないが,悪化させるという報告もなく必要に
のの正確な頻度は不明である.前述したように心疾患の
応じて使用は継続するべきと思われる.
治療方針は末梢動脈疾患の有無に関係なく該当のガイド
⑥高脂血症薬
ラインに準じるべきと思われ,無症候性であれば血行再
建手術に先駆けて PCI を行う必要はない(レベル A).
動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2007 によれば,末
一方 PCI を先行して行った患者の問題は,PCI から血
梢動脈疾患の合併はそれのみでカテゴリーⅢの高リスク
行再建手術までの期間にある.一般的には 1 ∼ 2 週間前
群に分類され,目標値は LDL コレステロールが 120mg/
後が妥当と思われるもの,最近頻用される薬剤溶出ステ
dl 未満,HDL コレステロールが 40mg/dl 以上,中性脂肪
ントでは強力な抗血小板薬(アスピリン製剤及びチエノ
)
TG が 150mg/dl 未満とされている 425(レベル
A).このた
ピリジン系薬剤の併用)が使用されることが多く末梢動
めにはまず生活習慣の是正が試みられるべきであり,①
脈の血行再建手術の出血リスクは著しく増加する.した
禁煙,②食生活の是正,③身体活動の増加,④適正体重
がって,血行再建手術を予定している患者では,通常の
の維持と内臓脂肪の減少,がその骨子である.これらの
金属ステント(ベアメタル)を用いたり経皮的バルーン
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
1527
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006−2007 年度合同研究班報告)
拡張術(POBA)にとどめる選択が推奨される.薬剤溶
に対して施行した冠血行再建術(CABG + PCI)は,全
出ステントを用いた場合でも重症下肢虚血では可及的速
死亡率あるいは周術期心筋梗塞を低減しなかった 366).
やかに血行再建術が必要である.間歇性跛行では抗血小
さらに,冠血行再建術を受けた患者は,受けていない患
板薬の投与を中断できる時期になってからの手術選択が
者に対して手術時間が有意に長かった.したがって,末
妥当と思われる.
梢血管手術前の予防的冠血行再建術は通常施行すべきで
② IABP,PCPS
ど冠動脈疾患の臨床的徴候を有する患者は,現行のガイ
大動脈瘤または大動脈狭窄などの病変がある場合,
ドライン(心評価スコア)に従って,評価及び管理され
IABP や PCPS の使用は,カテーテル塞栓や動脈閉塞,
るべきである(レベル B).血管手術を検討されている
瘤の破裂の危険性が危惧されるため原則として避けるべ
末梢動脈疾患患者は,さらなるリスク層別化をすべきで
きである.しかし心ポンプ不全が高度の場合は救命を優
あり,ハイリスクであると考えられる患者は,冠血行再
先するためこの限りではない.IABP や PCPS 挿入に伴
建術のためのガイドラインに従って管理されるべきであ
って生じた重症下肢虚血は,不良な全身状態から考えて
る(レベル B).
血行再建の適応外のことが多くしばしば大切断に至る
(レベル C).
⑤ペースメーカ,ICD,CRT,左室補助循環(LVAD)
右心系のカテーテル操作(ペースメーカなど)は特に
③開心術
問題はないが,左心系にカテーテルを挿入する際には,
末梢動脈疾患を有する場合,特に上行大動脈病変(粥
カテーテルやカニューレ挿入による物理的損傷(塞栓症,
状硬化症,石灰化病変)が存在すると開心術における送
破裂)の危険性がある.狭窄部に左室補助循環などのカ
血カニューレの位置に注意が必要で,石灰化病変では解
ニューレを通す場合は,四肢に壊死を生じる可能性があ
離,粥状硬化症では塞栓症(脳梗塞)のリスクが増大す
るが,救命処置なので優先せざるを得ない.
る.これに対する予防として末梢動脈疾患合併患者では,
術前に単純 CT 検査で石灰化の位置を,術中に術野エコ
3
生活習慣の是正
ー検査で粥腫の部位を確認することが望ましい.大腿動
食事や生活習慣についてその是正を行うことは極めて
脈送血を行う場合は,下肢虚血のない側で行う.また,
重要であるが,末梢動脈疾患について特に重要な禁煙と
合併症の発生率は不明であるが,腹部大動脈瘤や腹部大
運動について述べる.
動脈粥状硬化があれば大腿動脈からの逆行性送血により
塞栓症の危険性が大きくなるため,原則として逆行性送
血は避けるべきである(レベル C).
①禁煙
喫煙が動脈硬化症の危険因子であることは広く認めら
れており,喫煙者は非喫煙者に比べて,末梢動脈疾患の
④ CABG
発症率は 4 倍高く 430),間歇性跛行の発症率は 3 倍高く
冠動脈疾患の患者は末梢動脈疾患を 10 ∼ 30%に合併
431)
し,末梢動脈疾患の患者の 40 ∼ 60%に冠動脈疾患を合
)
のリスクも 3 倍高いと報告されている 361(レベル
A).ま
併する 361).CABG による脳血管障害の発生率は約 2%と
た腹部大動脈瘤の発症率も喫煙量に比例して 3 倍から 10
429)
,血行再建術が必要になる頻度も 3 倍,重症下肢虚血
,その定義により頻度は異なる.大動脈の
)
倍へと増加する 432(レベル
B).しかし,禁煙によって
粥状硬化は術後脳梗塞の主要原因である.最近は,人工
バイパスグラフト不全のリスクは低下すると報告されて
心肺使用を避けて off-pump CABG(OPCAB)手術がよ
いるが,禁煙による虚血肢の改善効果は不明である 433).
く行われるが,粥状硬化症を伴うハイリスク患者では脳
一方虚血性心疾患においても喫煙は冠動脈イベントの発
梗塞の抑制効果が認められ,しかも大動脈部分遮断を避
症を男性で 4 倍,女性で 3 倍高める 434).禁煙は循環器疾
けることでさらにリスクが低下する(レベル B).ハイ
患死亡のリスクを 2 年以内に低下させ,心筋梗塞の二次
されるが
1528
はない(レベル B).狭心症や虚血性うっ血性心不全な
リスク群において OPCAB は術後早期の合併症を軽減す
予防にも有効であるのみならず,冠動脈バイパス術後の
るが,遠隔期成績は人工心肺使用の有無ではなく血行再
生存率をも改善する 425).したがって喫煙によるリスク
建の成否に左右される.
を回避し,末梢血管障害の最大の死亡原因である虚血性
CARP(Coronary Artery Revascularization Prophylaxis)
心疾患のイベントを防ぐという意味において,すべての
trial では,末梢動脈疾患に対する周術期のハイリスク群
患者に対して強力に禁煙治療を行うべきである.実際の
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
脳血管障害,腎機能障害,末梢血管障害を合併した心疾患の管理に関するガイドライン
方法については禁煙ガイドラインに詳述されているので
参照されたい
435)
心筋梗塞の心臓リハビリテーションとして始まったが,
現在では包括的リハビリテーションのひとつとして広く
.
認識されている 436).しかし,心臓に対する運動療法は
②運動
心負荷(心拍数や酸素摂取量)により強度が決められる
大動脈瘤に関する運動療法の効果に関しての研究報告
のに対し,間歇性跛行肢の運動療法は歩行可能距離によ
はなく,危惧される血圧上昇による瘤拡大の報告もない.
り負荷の強度を決めており,両者は必ずしも一致しない.
一方末梢動脈疾患に対しては,間歇性跛行に関する運動
また実際の運用上では,虚血性心疾患の合併のため,間
療法の効果は認められており,監視下における運動療法,
歇性跛行肢の運動療法が妨げられたり,間歇性跛行の合
すなわち 1 回 30 分から 60 分,週 3 回を 3 ヶ月間継続,が
併のため心臓リハビリテーションが妨げられたりするこ
361)
.患者は歩行を開始し痛みが中等
とがある.したがって両疾患を合併しているときは施行
度になれば休息する.疼痛が軽快すれば再度歩行を開始
可能な負荷で行うのが現実的対応と思われる.また運動
する,というように歩行と休息を繰り返して行う.この
療法は高血圧や脂質異常症,糖尿病,肥満などに対して
運動療法により,歩行効率の改善,内皮機能や筋代謝の
も有効であることから,心血管病のイベントを防ぐ意味
順応性の改善が期待できる.運動療法は心疾患に対して
でも重要である(レベル A).
治療の基本である
Circulation Journal Vol. 72, Suppl. IV, 2008
1529
循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2006−2007 年度合同研究班報告)
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