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1 - ファイザー株式会社

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1 - ファイザー株式会社
セレコキシブ
非臨床概要③
毒
性
アステラス製薬株式会社
ファイザー株式会社
医薬品第一部会用資料
目次
2.6
2.6.6
非臨床概要
毒性試験の概要文
2.6.6.1 まとめ
····································································································
1
···················································································································
2
2.6.6.2 単回投与毒性試験
·································································································
9
2.6.6.3 反復投与毒性試験
·································································································
9
2.6.6.4 遺伝毒性試験
········································································································ 16
2.6.6.5 がん原性試験
········································································································ 19
2.6.6.6 生殖発生毒性試験
2.6.6.7 局所刺激性試験
····································································································· 33
2.6.6.8 その他の毒性試験
2.6.6.9 考察及び結論
2.6.7
································································································· 23
································································································· 34
········································································································ 38
毒性試験概要表 ········································································································ 59
2.6
非臨床概要
2.6.6
毒性試験の概要文
本項で使用した用語及び略号を表 2.6.6.1 に示す.
表 2.6.6.1 用語及び略号一覧
用語及び略号
ASA
AUC24h
AUCinf
BID
BSA
CHO 細胞
COX
DMSO
EM
ENNG
F0
F1
F2
FCA
HGPRT
IgE
IGS
LOAEL
MNPCE
NOAEL
NSAID
PCA
PCE
PEG
PM
QD
*
類縁物質A
SC-60613
SC-62807
内容
能動性全身アナフィラキシー
時間 0 から投与後 24 時間までの血漿中濃度-時間曲線下面積
時間 0 から無限時間まで外挿した血漿中濃度-時間曲線下面積
1 日 2 回投与
牛血清アルブミン
チャイニーズハムスター卵巣細胞
シクロオキシゲナーゼ
ジメチルスルホキシド
extensive metabolizer(血漿中セレコキシブの消失の速い個体)
N-エチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン
親世代
第 1 世代
第 2 世代
フロイントの完全アジュバント
ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ
免疫グロブリン E
International Genetic Standard
最小毒性量
小核を有する多染性赤血球
無毒性量
非ステロイド性抗炎症剤
受身皮膚アナフィラキシー
多染性赤血球
ポリエチレングリコール
poor metabolizer(血漿中セレコキシブの消失の遅い個体)
1 日 1 回投与
セレコキシブの類縁物質
セレコキシブの代謝物(ベンジル水酸化体)
セレコキシブの代謝物(カルボン酸体)
本項に記載した反復投与毒性,がん原性及び生殖発生毒性試験では,マウス,ラット,ウサ
ギ又はイヌにおける曝露量として,投与後 24 時間までの AUC(AUC24h)を用いている.一方,
臨床用量における曝露量は錠剤の薬物動態試験(単回投与)[AKi2](添付資料 5.3.3.1-6)から
引用しており,AUCinf,すなわち時間 0 から無限時間まで外挿した AUC を用いている.したがっ
て,動物とヒトでは AUC の外挿方法が異なり,前者を後者で除した AUC 比は同一の外挿方法
を用いた場合より低くなることから,本文における AUC 比は「〇〇倍以上」と表記した.なお,
このような方法で算出された AUC 比(安全域)は,真の値よりもむしろ狭く見積もったもので
あるため,安全性評価上の問題にはならないと考えられる.
*:新薬承認情報提供時に置き換えた
1
- -
2.6.6.1
まとめ
セレコキシブの安全性をラット及びイヌを用いる単回投与毒性試験及び反復投与毒性試験,
ラット及びウサギを用いる生殖発生毒性試験,細菌,ほ乳類培養細胞及びラットを用いる遺伝
毒性試験,マウス及びラットを用いるがん原性試験,ウサギを用いる局所刺激性試験,マウス
及びモルモットを用いる抗原性試験により評価した.単回投与毒性試験,反復投与毒性試験及
びがん原性試験は日本及び OECD ガイドライン,生殖発生毒性試験は ICH ガイドライン,遺伝
毒性試験は FDA,OECD 及び ICH ガイドライン,局所刺激性試験は FDA 及び EPA ガイドライ
ンに準拠して実施した.抗原性試験は日本国内で一般的に汎用されている方法に準拠して実施
した.試験の一覧を表 2.6.6.2 に示す.
動物種
試験項目
(試験系)
単回投与
毒性
ラット
イヌ(雄)
ラット
反復投与
毒性
イヌ
表 2.6.6.2 セレコキシブの毒性試験一覧(その 1)
投与(処置)
投与量 (mg/kg/day) 又
主たる試験成績
方法,期間
は処置濃度
死亡なし.概略の致死量は 2000
経口,単回
0,1000,2000
mg/kg 超.
死亡なし.概略の致死量は 2000
経口,単回
0,1000,2000
mg/kg 超.
雌 600 mg/kg/day で腹膜炎による
経口,1 カ月+
0,20,80,400,600 瀕 死 例 . 無 毒 性 量 は 雄 600
1 カ月回復性
mg/kg/day,雌 400 mg/kg/day.
被験物質投与に関連した死亡な
経口,3 カ月+
0,20,80,400
し . 無 毒 性 量 は 雌 雄 と も 400
1 カ月回復性
mg/kg.
80 mg/kg/day 以上で死亡/瀕死例
(雌,腹膜炎).投与期間終了時
解剖の雄 80 mg/kg/day,雌 400
経口,6 カ月+
mg/kg/day の各 1 例で空腸壊死・
0,20,80,400
1 カ月回復性
慢 性 炎 症 . 休 薬 動 物 の 雄 400
mg/kg/day で回腸慢性炎症(1例).
無毒性量は雌雄とも 20 mg/kg.
100 mg/kg/day 以上で 2 週以内の
経口,1 カ月
死亡/瀕死例(消化管障害).50
(100,250
0,25,50,100,250 mg/kg/day でも瀕死例や消化管障
mg/kg/day は 2
害発現例あり,変化は可逆性.無
週)
毒性量は雌雄とも 25 mg/kg/day.
経口,3 カ月+ 0,
死亡及び毒性変化なし.無毒性
1 カ月回復性 15(7.5 BID),
量は雌雄とも 35 mg/kg/day.
25(12.5 BID),
死亡及び毒性変化なし.無毒性
経口,12 カ月+ 25 QD,
量は雌雄とも 35 mg/kg/day.
1 カ月回復性 35(17.5 BID)
QD:1 日 1 回投与,BID:1 日 2 回の分割投与
2
- -
表 2.6.6.2 セレコキシブの毒性試験一覧(その 2)
投与(処置)
投与量 (mg/kg/day) 又
主たる試験成績
方法,期間
は処置濃度
ネズミチフス
復帰突然変異 菌の 5 菌株,直
10~5000 μg/プレート 陰性
接法及び代謝
(細菌)
活性化法
ネズミチフス
菌の 4 菌株及び
復帰突然変異
陰性
大腸菌の 1 菌 1~5000 μg/プレート
(細菌)
株,直接法及び
代謝活性化法
遺伝毒性
CHO 細胞,直接
遺伝子突然変
法及び代謝活 4~60 μg/mL
陰性
異(培養細胞)
性化法
CHO 細胞,直接
染色体異常(培
法及び代謝活 5~40 μg/mL
陰性
養細胞)
性化法
経口
0,150,300,600
陰性
ラット小核
1 回/日で 3 日
がん原性なし.雌雄とも全投与量
雄:0,12.5,25,37.5
で消化管障害.雌雄とも高用量群
マウス
混餌,24 カ月
雌:0,25,50,150
を 80 週に解剖.
がん原性なし.雄の 80 mg/kg/day
以上,雌の 5 mg/kg/day 以上で消
がん原性
化管障害.雌の 200 mg/kg/day は
雄:0,20,80,200
79 週に解剖.非腫瘍性病変(消化
ラット
経口,24 カ月
雌:0,5,10,200
管障害)の無毒性量における曝露
は臨床推奨用量における曝露の
約 2 倍以上.
雌への 60 mg/kg/day 以上の投与で
経口
着床後死亡増加及び着床数,生存
雄:15 週(交配
胚数減少,300 mg/kg/day 以上で着
前 4 週間を含
床前死亡増加.無毒性量は 600
む)
0,60,300,600
mg/kg/day(雄の一般毒性及び生殖
雌:交配前 2 週
能),60 mg/kg/day(雌の一般毒
~妊娠 7 日
ラット
性),60 mg/kg/day 未満(雌の受胎
能及び初期胚発生).
生殖発生
受胎能/
毒性
雌で低用量を追加して胚死亡の
経口
初期胚発生
無毒性量を検討.無毒性量は 300
雌:交配前 2 週
(ICH-1)
0,15,30,50,300 及
mg/kg/day(一般毒性),30
~妊娠 7 日
び 0,2.5,5,10
mg/kg/day(受胎能及び初期胚発
生).
経口
胚死亡に対する休薬の効果を検
雌:2 週投与+2 0,60,300
討.休薬後の交配で胚死亡はみら
週休薬で交配
れない.
動物種
試験項目
(試験系)
3
- -
表 2.6.6.2 セレコキシブの毒性試験一覧(その 3)
投与(処置)
投与量 (mg/kg/day) 又
主たる試験成績
方法,期間
は処置濃度
母動物,胎児ともに毒性なし.無
毒性量は母動物の一般毒性及び
経口
0,10,30,100
生殖能,胎児のいずれについても
妊娠 6~17 日
100 mg/kg/day.
ラット
胎児では 30 mg/kg/day 以上で横隔
膜ヘルニア増加.無毒性量は 100
経口
胚・胎児
0,10,30,100
mg/kg/day(母動物の一般毒性及び
妊娠 6~17 日
発生
生殖能),10 mg/kg/day(胎児)
.
(ICH-3)
横隔膜ヘルニアの発生に関する
経口
0,30,100 及び 0,200,検討.100 mg/kg/day 以上で横隔膜
ヘルニアが増加.無毒性量は 30
妊娠 6~17 日 400
mg/kg.
母動物では 150 mg/kg/day 以上で
生殖発生
体重増加量減少及び着床後死亡
ウサギ
毒性
0,60,150,300(妊娠 が増加.無毒性量は母動物の一般
経口
毒性,生殖能及び胚・胎児のいず
7~18 日に投与)
胚・胎児
妊娠 7~18 ある
及び 0,150,300(妊娠 れについても 60 mg/kg/day.150
発生
いは 19 日
7~19 日に投与)
及び 300 mg/kg/day で心室中隔欠
(ICH-3)
損を有する胎児がみられたが,い
ずれも背景データの範囲内.
母動物では 30 mg/kg/day 以上で消
化管障害による死亡/瀕死あり.F1
ラット
出生児及び離乳児に横隔膜ヘル
経口
出生前及び出
ニアあり.他に F1,F2 出産児に
妊娠 6 日~授乳 0,10,30,100
生後の発生/母
F0 への投与の影響なし.無毒性量
21 日
体の機能
は 10 mg/kg/day (母動物の一般毒
(ICH-2)
性),30 mg/kg/day(母動物の生殖
能),100 mg/kg/day(次世代).
ウサギ
皮膚に曝露
0.5 g/動物
刺激性なし
皮膚刺激性
局所
刺激性 ウサギ
軽微な刺激性(洗眼で刺激性軽
眼粘膜に曝露 0.011 g/動物
減)
眼粘膜刺激性
感作:5,25(経口)/25
感作:経口/皮下
モルモット
(皮下)
陰性
ASA
惹起:静脈内
惹起:5
感作:ASA 試験で得ら
感作:皮内
モルモット
れた血清
陰性
PCA
惹起:静脈内
惹起:5
感作:経口/腹腔
マウス-
感作:5,25(経口)/25
,
ラット PCA 内(マウス)
(腹腔内)
陰性
皮内(ラット)
(IgE 抗体
惹起:5
惹起:静脈内
産生)
感作:皮内/皮膚 感作:5 %(皮内)
,25 %
モルモット皮
塗布
(塗布)
陰性
膚感作性
惹起:皮膚塗布 惹起:25 %(塗布)
動物種
試験項目
(試験系)
抗原性
その他の毒性
4
- -
単回投与毒性
ラット及びイヌにおける単回経口投与試験においては死亡は認められなかった.ラットでは
2000 mg/kg,イヌでは 1000 及び 2000 mg/kg で投与翌日に白色便がみられ,被験物質が混入した
ものと考えられた.概略の致死量はともに 2000 mg/kg 超であった.
反復投与毒性
ラットにセレコキシブを 20~600 mg/kg/day の用量で 1 日 1 回,1~6 カ月間反復強制経口投
与した.1 カ月間投与試験では,600 mg/kg/day 群の雌 1 例が投与 10 日に空腸潰瘍による腹膜炎
のため瀕死となった.6 カ月間投与試験では,投与 25 週に 80 mg/kg/day 群の雌 1 例,15~22 週
に 400 mg/kg/day 群の雌 6 例(1 例は瀕死屠殺)が消化管障害に伴う腹膜炎により死亡した.セ
レコキシブの投与により認められた毒性は消化管障害のみであった.消化管障害は主に小腸に
認められ,1 カ月間投与試験では 600 mg/kg,6 カ月間投与試験では 80 mg/kg 以上で認められた.
組織学的には主に空腸における慢性炎症,壊死として観察され,穿孔を経て腹膜炎並びに腹部
臓器の癒着に至るものであった.6 カ月間投与試験の 400 mg/kg/day 群の休薬動物においては,
雌では消化管障害はみられず,雄では 400 mg/kg/day 群の 1 例に回腸における慢性炎症が認め
られたが中等度の変化であった.したがって,消化管障害は休薬により回復することが示され
た.6 カ月間投与試験における無毒性量(雄,雌とも 20 mg/kg/day)での AUC24h は雄が 26.5 μg
•hr/mL,雌が 52.5 μg•hr/mL であり,臨床推奨用量(400 mg/day)における AUC[10.8 μg•hr/mL,
表 2.7.2.5.1 薬物動態試験の要約(その 4)]のそれぞれ 2.5 倍以上(雄)及び 4.9 倍以上(雌)
であった.
イヌにセレコキシブを 25~250 mg/kg/day の用量で 1 日 1 回 1 カ月間及び 15~35 mg/kg/day を
1 日 2 回の分割投与で 3~12 カ月間反復強制経口投与した.1 カ月間投与試験では,投与量依存
性に消化管障害がみられ,50 mg/kg/day 以上の群で十二指腸及び空腸に潰瘍がみられた.250
mg/kg/day 群の雌の死亡例では胃幽門部に穿孔がみられた.100 及び 250 mg/kg/day 群では投与 2
週までに死亡及び瀕死例がみられた.50 mg/kg/day 群でも雄の 1 例が消化管の潰瘍により瀕死
となった.消化管障害に関連した一般状態の変化として黒色便,歯肉の蒼白化がみられた.臨
床病理検査では,赤血球数,ヘマトクリット,ヘモグロビン濃度の減少及び総タンパク,アル
ブミンの減少がみられ,これらは消化管内における出血に関連した所見と考えられた.また,
体重及び摂餌量の減少が観察されたが,これらの変化も消化管障害に起因する変化と考えられ
た.これらの変化は休薬によって回復した.無毒性量(雄,雌とも 25 mg/kg/day)での AUC24h
は雄が 22.2 μg•hr/mL,雌が 71.5 μg•hr/mL であり,
臨床推奨用量における AUC の 2.1 倍以上(雄)
及び 6.6 倍以上(雌)であった.3 及び 12 カ月間試験では,セレコキシブの消化管粘膜におけ
る局所的な影響,すなわち,消化管障害を回避することにより長期間反復投与時のセレコキシ
ブの毒性を評価するため,1 日 2 回の分割投与とした.消化管障害の発生を抑えながら最大の
曝露を達成する 35 mg/kg を投与しても,一般状態,体重,摂餌量,直腸温,呼吸数,心電図検
査,眼科検査,臨床病理検査,剖検及び病理組織学的検査においてセレコキシブ投与の影響を
認めなかった.
5
- -
遺伝毒性
ネズミチフス菌及び大腸菌を用いる復帰突然変異試験,ほ乳類培養細胞を用いる in vitro 遺伝
子突然変異試験,ほ乳類培養細胞を用いる in vitro 染色体異常試験,及び,ラットにおける小核
試験のいずれにおいても,セレコキシブは遺伝毒性を示さなかった.
がん原性
ラット及びマウスのいずれにおいても,24 カ月間セレコキシブを投与しても,がん原性及び
それぞれの動物における自然発生腫瘍の発生率の増加はみられなかった.
マウスでは,
セレコキシブを雄には 25,50 及び 75 mg/kg/day,雌には 50,100 及び 150 mg/kg/day
の投与量で混餌投与を開始した.しかし,雄の全群及び雌の高用量群でセレコキシブ投与によ
る死亡がみられたため,投与 19 週に雄の投与量を 12.5,25 及び 37.5 mg/kg/day に,雌の投与量
を 25,50 及び 75 mg/kg/day に減じた.雌ではこの投与量変更により中間用量群と高用量群にお
ける実質的曝露レベルがほぼ同等となったため,23 週には高用量群の投与量を 150 mg/kg/day
に戻した.高用量群(雄の 37.5 mg/kg/day,雌の 150 mg/kg/day)では雌雄ともに消化管障害に
よる生存率の減少が顕著であったため,生存例を 80 週に解剖した.消化管障害の発生頻度は雌
雄で同様であり,セレコキシブの曝露レベルが雌雄において同様であることを反映していた.
臨床推奨用量に対し 1.5~3 倍以上の曝露量のセレコキシブを投与しても,がん原性は示唆され
なかった.
ラットでは,セレコキシブを雌雄ともに 20,80 及び 400 mg/kg/day の投与量で反復強制経口
投与を開始した.しかし,雄の 80 及び 400 mg/kg/day 群,雌の全投薬群でセレコキシブの投与
による消化管障害及びそれに起因した死亡が認められたため,投与 18 週に雌の高用量を 200
mg/kg に,78 週に雌の低・中間用量及び雄の高用量をそれぞれ 5,10,及び 200 mg/kg に減じた.
雌の高用量群は,その後も消化管障害による死亡率が高かったため,生存動物を 79 週に解剖し
た.消化管障害の発生頻度は雌で高く,雌において高い曝露が達成されたためと考えられた.
生存率が雄の 200 mg/kg/day 群,雌の全投薬群で有意に減少した.雄では 80 mg/kg/day 以上の群
で消化管障害がみられたことから,無毒性量は 20 mg/kg/day と考えられ,無毒性量における
AUC24h(21.7 μg•hr/mL)は臨床推奨用量における AUC の 2.0 倍以上であった.雌においては試
験期間を通じて雄よりも高い曝露が達成されたことから,無毒性量を同定できなかった.しか
し,セレコキシブの投与による毒性や死亡原因に性差はなく,消化管障害の発現が曝露量に依
存することから,雄における無毒性量のレベルは雌でも同様とみなすことが可能であると考え
られた.ラットに臨床推奨用量の 2.0 から 13.2 倍以上の曝露量のセレコキシブを投与しても,
がん原性は示唆されなかった.
生殖発生毒性
ラットにおける受胎能及び着床までの初期胚発生への影響,ラット及びウサギにおける胚・
胎児発生に対する影響,及びラットにおける出生前及び出生後の発生並びに母体の機能に対す
る影響を検討した.
6
- -
ラットにおける受胎能及び着床までの初期胚発生に関する試験では,セレコキシブを雄に 60
~600 mg/kg/day,雌に 15~600 mg/kg/day の用量で,交配 4 週間前(雄)又は 2 週間前(雌)か
ら投与した.セレコキシブは雄の授胎能及び生殖機能に何ら影響を及ぼさなかったことから,
雄に対する無毒性量は一般毒性及び生殖能のいずれについても 600 mg/kg/day であった.一般毒
性及び生殖能に対する無毒性量における AUC24h は臨床推奨用量における AUC の 5.4 倍以上に
相当する.雌では 300 mg/kg/day 以上で消化管障害がみられたことから,一般毒性に対する無毒
性量は 60 mg/kg/day と考えられた.また,50 mg/kg/day 以上の群で着床前及び着床後死亡の増
加,並びに着床数及び生存胚数の減少がみられたことから,生殖能に対する無毒性量は 30
mg/kg/day と考えられた.生殖能に対する無毒性量における AUC24h は臨床推奨用量の AUC の
5.9 倍以上に相当する.初期胚発生に対する影響は,プロスタグランジン生合成阻害というセレ
コキシブの薬理作用により発現したものと考えられた.すなわち,本薬が有する COX-2 阻害作
用によるプロスタグランジン生合成阻害が,着床の成立及び初期胚に影響したものであり,同
様の毒性は NSAID においても報告されている.初期胚発生に対するセレコキシブの影響は,交
配前に休薬することにより認められなかった.
ラットにおける胚・胎児発生に関する試験では,妊娠 6~17 日に最大 400 mg/kg/day までのセ
レコキシブを経口投与した.母動物では 200 mg/kg 以上で消化管障害,摂餌量及び体重の減少
がみられた.胎児では,内臓観察において,30 mg/kg 以上で横隔膜ヘルニアの発生頻度の増加
がみられた.セレコキシブを妊娠ラットの胎児の器官形成期に投与した際の無毒性量は,母動
物に対しては一般毒性及び生殖能のいずれについても 100 mg/kg/day,胎児に対しては 10
mg/kg/day であった.母動物のそれぞれの投与量における AUC24h は 115 及び 47.6 μg•hr/mL であ
り,臨床推奨用量における AUC の 10.6 倍以上及び 4.4 倍以上に相当する.内臓観察においてみ
られた横隔膜ヘルニアの発生頻度の増加は,試験間で発生頻度にばらつきがあり,いずれも母
動物にみられた自然発生性の変化と表現型が同様であったことから,動物の遺伝的特性にも関
連した変化と考えられた.なお,横隔膜ヘルニアはウサギを用いた試験ではみられなかった.
ウサギにおける胚・胎児発生に関する試験では,
妊娠 7~18 あるいは 19 日に最大 300 mg/kg/day
までのセレコキシブを経口投与した.150 mg/kg 以上で低頻度の心室中隔欠損がみられた.心室
中隔欠損は使用した系統のウサギでは自然発生性にみられる奇形であり,本試験における発現
率は背景データの範囲内であった.したがって,セレコキシブを 300 mg/kg/day まで投与しても
催奇形性は認められないと考えられた.母動物の妊娠 20 日以降の体重増加量の減少,着床後死
亡の増加及び生存胎児数の減少が 150 mg/kg 以上で認められた.セレコキシブをウサギの器官
形成期に投与した際の無毒性量は,母動物の一般毒性,生殖能及び胎児のいずれについても 60
mg/kg/day と考えられた.無毒性量における AUC24h(22.5 μg•hr/mL)は臨床推奨用量の AUC の
2.1 倍以上であった.
ラットにおける出生前及び出生後の発生並びに母体の機能に関する試験では,妊娠 6 日から
授乳 21 日にセレコキシブを最大 100 mg/kg/day まで経口投与した.母動物では 30 mg/kg/day 群
で 1 例,100 mg/kg/day 群で 8 例が消化管障害及びこれに伴う腹膜炎により死亡あるいは瀕死と
なった.生存動物では一般状態,体重に変化はみられなかった.妊娠期間が有意に延長したが,
7
- -
投与量依存性は認められず,背景データの範囲内の変化であった.分娩異常や分娩時間の延長
は認められなかった.100 mg/kg/day 群で出生児数の減少及び死亡児数の増加が認められたが,
10 及び 30 mg/kg/day 群では出生率に影響はみられなかった。出生児 F1 については,形態分化,
身体発育,一般状態,生存率,行動発達,感覚及び運動機能の発達,学習及び記憶,生殖能に
異常は認められなかった.離乳時の F1 剖検例及び F1 成熟動物の剖検例の計 6 例に横隔膜ヘルニ
アがみられた.出生児 F2 の生存率,一般状態,体重,剖検所見に異常はみられなかった.以上
より,セレコキシブを妊娠ラットに胎児の器官形成期から周産期及び授乳期を通して投与した
際の母動物 F0 に対する無毒性量は一般毒性については 10 mg/kg/day,母動物の生殖能に対する
無毒性量は 30 mg/kg/day と考えられた.次世代に対する無毒性量は 100 mg/kg/day と考えられた.
母動物の 10 及び 100 mg/kg/day における AUC24h(47.6 及び 115 μg•hr/mL)は臨床推奨用量の
AUC のそれぞれ 4.4 及び 10.6 倍以上であった.
局所刺激性
ウサギにおける皮膚一次刺激性試験において刺激性は認められなかった.
ウサギにおける眼粘膜一次刺激性試験においては軽微な刺激性が認められたが,洗眼により
軽減された.
その他の毒性
抗原性試験として,モルモットにおける能動全身性アナフィラキシー試験,モルモットにお
ける受身皮膚アナフィラキシー試験,マウス IgE 抗体産生を指標とするラットにおける受身皮
膚アナフィラキシー試験,モルモットにおける皮膚感作性試験を実施した.いずれにおいても,
セレコキシブは抗原性を示さなかった.
依存性については,一般毒性試験及び一般薬理試験において中枢神経系の作用は認められず,
退薬症候もみられないことから依存形成能を有する可能性は極めて低いと考え,試験は実施し
なかった.代謝物の安全性に関しては,ヒトに特異的な代謝物が認められず,ラット,イヌ及
びヒトにおける代謝物である SC-60613,SC-62807 は血漿中での比率が低いことから,セレコキ
シブの投与により安全性が評価できていると考えられた.
原薬中の類縁物質の安全性については,毒性試験に使用した原薬中の不純物の含量から,各
毒性試験における無毒性量での不純物の投与量を算出し,規格値の上限に相当する不純物が原
薬に含まれると仮定して,臨床推奨用量における不純物の投与量と比較した.その結果,反復
投与毒性試験及び遺伝毒性試験のいずれにおいても,不純物に起因した毒性発現の可能性は極
めて低いと考えられた.
8
- -
2.6.6.2 単回投与毒性試験 ··································································· 添付資料 4.2.3.1-1~2
2.6.6.2.1 ラットにおける単回経口投与毒性試験 ························ 添付資料 4.2.3.1-1
1 群 5 匹の雌雄の SD 系ラットを投与前に約 19 時間絶食させ,0.1 %ポリソルベート 80 を含
む 0.5 %メチルセルロース水溶液に懸濁したセレコキシブを単回強制経口投与し,14 日間観察
後剖検した.投与量は予備試験(500,1000,2000 mg/kg)において,2000 mg/kg まで死亡がみ
られなかったことから,一般的に単回経口投与における投与量の上限とされている 2000 mg/kg
を最高投与量とし,以下 1000 mg/kg を設定した.
いずれの投与量においても死亡はみられなかった.2000 mg/kg の雄 4 例及び雌全例に投与翌
日に白色便がみられ,被験物質が混入しているものと考えられた.いずれの群においても他に
異常は認められなかった.
以上の結果より,セレコキシブをラットに単回経口投与した際の概略の致死量は 2000 mg/kg
超と考えられた.
2.6.6.2.2 イヌにおける単回経口投与毒性試験
····························
添付資料
4.2.3.1-2
1 群 2 頭の雄ビーグル犬に,ゼラチンカプセルに充填したセレコキシブを単回経口投与し,
14 日間観察後剖検した.一般的に単回経口投与における投与量の上限とされている 2000 mg/kg
を最高投与量とし,以下 1000 mg/kg を設定した.
いずれの投与量においても死亡はみられなかった.1000 及び 2000 mg/kg の全例において,投
与翌日の便中に白色物がみられ被験物質が混入したものと考えられた.また,2000 mg/kg の 1
例において投与後 6 時間まで心拍数の軽度減少が認められた.いずれの群においても他に異常
は認められなかった.
以上の結果より,セレコキシブをイヌに単回経口投与した際の概略の致死量は 2000 mg/kg 超
と考えられた.
2.6.6.3
反復投与毒性試験
·····································
添付資料
4.2.2.1-21,4.2.3.2-1,2~3(参),4~7,8(参),9,10
2.6.6.3.1 ラットにおける 1 カ月間反復経口投与毒性試験
·······························································
添付資料
4.2.2.1-21,4.2.3.2-1,2~3(参)
3 日間反復経口投与試験において,各群雌雄各 3 あるいは 5 匹の SD 系ラットに,セレコキシ
ブを 100,200,400,600 及び 800 mg/kg/day の用量で投与した結果,いずれの群でも死亡はみ
られず,毒性を示唆する変化は認められなかった.血漿中薬物濃度は,600 mg/kg/day 以上の投
与量では上昇がみられなかった.以上より,最高投与量を 600 mg/kg/day とし,以下 400,80,
20 mg/kg/day を設定した.
9
- -
0.1 %ポリソルベート 80 を含む 0.5 %メチルセルロース水溶液に懸濁したセレコキシブを,雌
雄の SD 系ラットに 1 日 1 回 1 カ月間反復強制経口投与した.400 mg/kg/day 群の一部の動物に
ついては投与終了後 1 カ月間の休薬期間を設定して毒性変化の回復性を検討した.
600 mg/kg/day 群の雌 1 例が投与 10 日に一般状態の悪化により瀕死となったため屠殺した.
一般状態悪化の原因はセレコキシブ投与に起因した空腸潰瘍による腹膜炎であった.この群の
AUC24h(315 μg•hr/mL)は臨床推奨用量の約 29.2 倍以上であった.他の動物に死亡及び一般状
態の変化はみられず,体重,摂餌量にセレコシキブ投与の影響はみられなかった.雌の 400
mg/kg/day 以上で血中コレステロールの増加,肝臓重量の増加がみられたが軽度な変化であり,
組織学的検査において肝臓に投与に起因すると考えられる所見が認められていないことから,
毒性学的意義はないと考えられた.なお,ラットにおける予備的な検討によりセレコキシブが
軽度から中等度の酵素誘導を示すことが明らかになっている.雌の 400 あるいは 600 mg/kg/day
群では血中クロライド,アルブミン及びグロブリン,尿 pH に統計学的に有意な変化がみられ
たが,いずれも軽度の変化であり,組織学的検査において腎臓に投与に起因すると考えられる
所見がみられなかったことから毒性学的意義はないと考えられた.血漿中薬物濃度は,雌で高
くセレコキシブの全身的曝露に性差があることが示唆された.
以上の結果より,セレコキシブをラットに 1 カ月間反復経口投与した際の無毒性量は雄では
600 mg/kg/day,雌では 600 mg/kg/day 群の 1 例に空腸潰瘍がみられたことから 400 mg/kg/day と
考えられた.雄の 600 mg/kg/day における AUC24h は 58.2 μg•hr/mL であり,臨床推奨用量の AUC
と比較すると 5.4 倍以上,雌の 400 mg/kg/day における AUC24h は 159 μg•hr/mL であり,臨床推
奨用量の AUC の 14.7 倍以上であった.
2.6.6.3.2 ラットにおける 3 カ月間反復経口投与毒性試験
·································································································
添付資料
4.2.3.2-1,4
1 カ月間反復投与試験において,雌では 600 mg/kg/day 群で瀕死例があった.また,雄では 600
mg/kg/day においても毒性はみられなかったが,400 mg/kg/day と比べて血漿中薬物濃度の上昇が
明らかではなかった.そこで,雌雄いずれにおいても,400 mg/kg/day を最高投与量とし,以下
80 及び 20 mg/kg/day を設定した.
0.1 %ポリソルベート 80 を含む 0.5 %メチルセルロース水溶液に懸濁したセレコキシブを,雌
雄の SD 系ラットに 1 日 1 回 3 カ月間反復強制経口投与した.一部の動物については投与終了
後 1 カ月間の休薬期間を設定して毒性変化の回復性を検討した.また,サテライト動物を別途
設定し,投与 1 日,6 週及び 13 週の血漿中薬物濃度を測定した.
試験期間中,セレコキシブの投与による死亡及び一般状態の変化はみられなかった.体重,
摂餌量及び眼科検査でもセレコキシブ投与の影響はみられなかった.投与 6 週に雌の 20
10
- -
mg/kg/day 以上の群で尿中ナトリウム濃度が対照に比して 60~70 %減少した.同様に雄でも 400
mg/kg/day 群で 43 %まで減少したが統計学的に有意ではなかった.雌雄いずれにおいても尿量
に変化は認められず,また,13 週には尿中ナトリウム濃度の減少はみられなかったことから,
尿中へのナトリウム排泄の減少は一過性の変化と考えられた.また,血中ナトリウム濃度にセ
レコキシブ投与の影響は認められなかった.ナトリウムの尿中への排泄は部分的にはプロスタ
グランジンによる調節を受けることが報告されている 1-3).したがって,尿中へのナトリウム排
泄の減少はセレコキシブによる COX 阻害に基づく変化である可能性が考えられたが,組織学的
検査において腎臓に投与に起因すると考えられる所見が認められていないことから,尿中ナト
リウム濃度の一過性の減少は毒性学的意義のない変化と考えられた.400 mg/kg/day 群では,雌
雄ともに肝臓重量が極めて軽度に増加し,組織学的には小葉中心から中間帯の肝細胞腫大が認
められた.これらの変化は酵素誘導に伴う二次的な所見であると考えられた.また,本試験に
おいては血中コレステロールの増加はみられなかった.休薬により肝臓重量の変化及び組織学
的変化が消失したことから,これらの変化の回復性が示された.血漿中薬物濃度は雌雄とも投
与量に従って上昇したが,雌において高く,セレコキシブの全身的曝露に性差があることが示
唆された.また,いずれの投与量においても反復投与により血漿中濃度に軽度の減少がみられ
た.
以上より,セレコキシブを 400 mg/kg/day の用量でラットに 3 カ月間反復経口投与した結果,
投与に起因した毒性は認められず,無毒性量は雌雄とも 400 mg/kg/day と考えられた.無毒性量
における AUC24h は雄が 58.3 μg•hr/mL,雌が 105 μg•hr/mL であり,臨床推奨用量の AUC と比
較すると,雄で 5.4 倍以上,雌で 9.7 倍以上であった.
2.6.6.3.3 ラットにおける 6 カ月間反復経口投与毒性試験
·································································································
添付資料
4.2.3.2-1,5
1 カ月間反復投与試験において,雌では 600 mg/kg/day 群で瀕死例があった.また,雄では 600
mg/kg/day 群においても毒性はみられなかったが,400 mg/kg/day と比べて血漿中薬物濃度の上昇
が明らかではなかった.そこで,雌雄いずれにおいても,400 mg/kg/day を最高投与量とし,以下
80 及び 20 mg/kg/day を設定した.
0.1 %ポリソルベート 80 を含む 0.5 %メチルセルロース水溶液に懸濁したセレコキシブを,雌
雄の SD 系ラットに 1 日 1 回 6 カ月間反復強制経口投与した.一部の動物については投与終了
後 1 カ月間の休薬期間を設定して毒性変化の回復性を検討した.サテライト動物を別途設定し
て投与 26 週の血漿中薬物濃度を測定した.
投与 25 週に 80 mg/kg/day 群の雌 1 例,15~22 週に 400 mg/kg/day 群の雌 6 例(1 例は瀕死屠
殺)が死亡した.死因はセレコキシブ投与に起因した消化管障害による腹膜炎と考えられた.
これらの動物では,自発運動の減少,削痩,糞排泄の減少,全身性の蒼白化,低体温(触診に
11
- -
よる)等がみられた.剖検では腹水,腹部臓器の癒着,空腸穿孔がみられ,組織学的には空腸
の壊死,腸管における慢性炎症,腹膜炎が認められた.80 mg/kg/day の雌及び 400 mg/kg/day の
雌における AUC24h の群平均は,それぞれ 101,150 μg•hr/mL であり,臨床推奨用量のそれぞれ
約 9.4,13.9 倍以上であった.雄に死亡はみられなかった.
6 カ月間の生存動物では一般状態,体重,摂餌量,眼科検査,臨床病理検査,器官重量に異
常は認められなかった.80 mg/kg/day 群の雄 1 例で空腸における壊死及び慢性炎症が,400
mg/kg/day 群の雌 1 例で空腸における壊死及び慢性炎症,腹膜炎が認められた.休薬後の解剖に
おいては,雌に消化管障害はみられず,400 mg/kg/day 群の雄 1 例で回腸における慢性炎症が認
められたが中等度の変化であった.したがって,消化管障害には回復性が示唆された.
6 カ月間の投与により臨床病理検査値や肝臓重量に変化は認められなかった.したがって,1
及び 3 カ月間反復投与試験でみられた酵素誘導を示唆する変化,並びに,3 カ月間試験で認め
られた尿中ナトリウム濃度の減少については,これらの変化が一過性であることが示された.
血漿中薬物濃度は雌雄とも投与量に従って上昇したが,雌では雄の約 2 倍以上の血漿中濃度
を示した.
以上の結果より,セレコキシブをラットに 6 カ月間反復経口投与した際には,雌雄ともに 80
mg/kg/day 以上で消化管障害がみられたことから,無毒性量は 20 mg/kg/day と考えられた.無毒
性量における AUC24h は雄が 26.5 μg•hr/mL,雌が 52.5 μg•hr/mL であり,臨床推奨用量の AUC
と比較すると,雄で 2.5 倍以上,雌で 4.9 倍以上であった.
2.6.6.3.4 イヌにおける 1 カ月間反復経口投与毒性試験
··········
添付資料
4.2.3.2-6
本試験はイヌにセレコキシブを投与する最初の試験であった.そこで,予想される臨床推奨
用量に基づいて,25,50,100 及び 250 mg/kg/day を設定した.これらの投与量は臨床推奨用量
のそれぞれ 3~4,7~8,15 及び 37 倍以上に相当すると考えられた.
ゼラチンカプセルに充填したセレコキシブを,雌雄のビーグル犬に 1 日 1 回 1 カ月間反復経
口投与した.100 及び 250 mg/kg/day 群では投与 2 週までに死亡及び瀕死例がみられたため,投
与を 15 日間とし一部の動物を途中解剖した.残りの動物は 2 週間休薬して,毒性変化の回復性
を検討した.対照群は雌雄各半数を 2 週間投与後に 2 週間休薬して,また,残りの半数を 4 週
間投与とし解剖した.また,投与 1 日及び 4 週(100 及び 250 mg/kg/day 群は投与 15 日)の血
漿中薬物濃度を測定した.
セレコキシブの投与による主な変化は 50 mg/kg/day 以上で認められた消化管障害であり,十
二指腸,空腸及び胃幽門部における潰瘍が主な変化で,発生率は低いが回腸にもみられた.投
与 5 日から 100 及び 250 mg/kg/day 群の 50~88 %の動物に黒色便がみられ,投与 9 日には一部
の動物では歯肉の蒼白化を呈した.50 mg/kg/day 群においても,投与 2 週には雄 1 例で黒色便
及び歯肉の蒼白化,雌 1 例で黒色便がみられた.25 mg/kg/day 群でも雌雄各 1 例に投与 3 週に
12
- -
黒色便がみられたが,以下の理由によりセレコキシブ投与に起因した変化ではないと考えられ
た.
1. 1 カ月間の反復投与期間中の投与 3 週に 2 日間(雄)あるいは 1 日(雌)観察されたのみ
であり,いずれにおいても剖検及び組織学検査で消化管障害を示唆する所見は認められな
かった.セレコキシブによるイヌにおける消化管障害については,全身及び局所的曝露を
介したプロスタグランジンによる消化管粘膜防御反応の抑制が要因として考えられる.消
化管障害の修復は極めて速いと考えられるが,25 mg/kg/day 群でみられた黒色便が薬効由
来の変化であるとすれば,反復投与の一定時期に極めて短期間に顕在化し,その後消失す
ることは一般的に考え難い.
2. 25 mg/kg/day 群でみられた黒色便が消化管障害に由来するものであるとすれば,肉眼的に
黒色便と記録されたことから明らかな出血が消化管において発生したと考えるのが妥当
である.また,高用量群では穿孔性の潰瘍がみられたことから,粘膜上皮の瀰漫性の障害
というよりは,限局性の深部に及ぶ障害と考えるのが妥当である.そのような障害部位で
は,修復期の反応として,障害後 3 日から 2 週には障害部位底部の線維化,肉芽形成,血
管新生がみられ,その後瘢痕形成に至るということになる.25 mg/kg/day 群で投与 3 週に
黒色便がみられた雌雄各 1 例は,黒色便が認められた 1~2 週後に解剖されているが,い
ずれにおいても消化管障害の修復像は認められず,これらの動物では消化管障害が発生し
なかったことを示唆すると考えられた.
3. イヌにおける 3 カ月試験[2.6.6.3.5 イヌにおける 3 カ月間反復経口投与毒性試験]では,
黒色便が対照群の雄 1 例に投与 77 日に,また,15 mg/kg/day 群の雌 1 例に投与 59 及び 60
日に認められた.25 mg/kg/day(1 日 1 回投与)群では黒色便は認められなかった.また,
25 あるいは 35 mg/kg/day
(1 日 2 回の分割投与)群においても黒色便は認められなかった.
6 カ月及び 12 カ月試験[2.6.6.3.6 イヌにおける 12 カ月間反復経口投与毒性試験]では,
対照群を含むいずれの投与量群においても黒色便がみられたが,セレコキシブ投与群で黒
色便が認められた動物数は,生理的変動範囲を考慮すると,対照群のそれと同様と考えら
れた.したがって,本試験の 25 mg/kg/day 群で雌雄各 1 例に認められた極めて散発的な黒
色便は,1) 同じ投与量のより長期間反復投与の試験において,対照群に比して毒性学的
に意義のある増加は認められなかった,2) より高用量のより長期間の反復投与試験にお
いて,対照群に比して毒性学的に意義のある増加は認められなかった,3) 3 及び 12 カ月
試験において対照群でも黒色便が認められた,ことからセレコキシブ投与に関連した変化
ではなく,偶発的な所見と考えられた.
250 mg/kg/day 群の雌 1 例が投与 12 日に穿孔性の胃幽門部潰瘍及びこれに伴う線維素性腹膜
炎により死亡し,同様に 50 mg/kg/day 群の雄 1 例,100 mg/kg/day 群の雄 2 例,250 mg/kg/day
群の雄 1 例が投与 11~14 日に瀕死となった.これらの動物では,体重及び摂餌量の減少に加え
て,投与 7~14 日の一般状態の変化として黒色便,歯肉の蒼白化,起立困難,横臥,削痩,自
発運動の減少,低体温(触診による),振戦/身震い,水様便等がみられ,臨床病理検査及び剖
13
- -
検所見として,小腸潰瘍,胃幽門部潰瘍,腸管出血,重篤な貧血及び低タンパク血症が認めら
れた.
250 mg/kg/day 群の雄 1 例が休薬 8 日に消化管障害のため瀕死となった.他の動物では,休薬期
間においては黒色便及び歯肉の蒼白化は経時的に消失し,黒色便は休薬 4 日,歯肉の蒼白化は休
薬 11 日にはみられなかった.投与 2 週に雄の 100 及び 250 mg/kg/day 群,雌の 250 mg/kg/day 群で
体重減少がみられたが,2 週間の休薬後には対照群との差はみられなかった.また,250 mg/kg/day
では雌雄ともに投与 2 週まで摂餌量の減少がみられたが,休薬 1 週後には対照群及び投与開始前
と同様であった.休薬期間終了時の血液及び血液生化学検査では,投与期間終了時の異常は軽減
あるいは回復しており,病理検査においても消化管に変化がみられないか,治癒過程にあった.
これらのことから,消化管障害には休薬により回復がみられることが示唆された.
25 mg/kg/day 群では死亡及びセレコキシブの投与による一般状態及び臨床病理検査値の変化
は認められなかった.50 mg/kg/day 群では前述の雄 1 例の瀕死を除いて,投与 3~4 週に一般状
態の変化はみられなかった.また,いずれの投与量においても体重及び摂餌量にセレコキシブ
投与の影響はみられなかった.しかし,50 mg/kg/day 以上では,赤血球数,ヘモグロビン濃度
及びヘマトクリット値の減少,白血球数及び好中球数の増加,総タンパク,アルブミン,カル
シウムの減少,尿素窒素の増加がみられ,消化管障害による消化管出血及びタンパクの喪失を
示すと考えられ,とくに 100 及び 250 mg/kg/day 群では多くの動物で貧血及び低タンパク血症が
みられた.これらの変化の程度は剖検時の消化管障害の重篤度に相関していた.
25 mg/kg/day ではセレコキシブ投与による臓器・組織の肉眼的及び組織学的異常はみられな
かった.50,100 及び 250 mg/kg/day 群における異常の多くは,中等度から重度の空腸潰瘍であ
り,可逆性であった.
血漿中薬物濃度は雌雄とも投与量に従って上昇した.また,投与 1 日よりも 15 あるいは 27
日で高く,反復投与による被験物質の蓄積がみられた.
以上の結果より,セレコキシブをビーグル犬に 1 カ月間反復経口投与した際の無毒性量は,
雌雄ともに 50 mg/kg/day で消化管障害及びそれに関連する所見がみられたことから,25
mg/kg/day と考えられた.無毒性量における AUC24h は雄が 22.2 μg•hr/mL,雌が 71.5 μg•hr/mL
であり,臨床推奨用量の AUC と比較すると,雄で 2.1 倍以上,雌で 6.6 倍以上であった.
2.6.6.3.5 イヌにおける 3 カ月間反復経口投与毒性試験
·················································································
添付資料
4.2.3.2-6~7,8(参)
ビーグル犬における 1 カ月間投与試験では,50 mg/kg/day 以上で死亡がみられ,消化管障害
に基づく無毒性量は 25 mg/kg/day であった.そこで,本試験における最高投与量を 35 mg/kg/day
(17.5 mg/kg の 1 日 2 回投与(BID))とし,以下 25 及び 15 mg/kg/day(それぞれ 12.5,7.5 mg/kg
の BID)を設定し,ゼラチンカプセルに充填して経口投与した.最高投与量は 1 カ月間投与試
験における無毒性量を上回り,消化管障害並びに死亡を起こす 50 mg/kg/day よりもわずかに低
い投与量である.35 mg/kg/day を上回る投与量のセレコキシブは消化管障害を惹起し死に至ら
14
- -
しめるため,イヌにおける亜急性あるいは慢性毒性の評価を妨げると考えられた.
7 日間静脈内投与試験では,セレコキシブの血漿中濃度よりも,消化管における局所的な濃
度のような二次的な要因が消化管障害の発生に重要な役割を果たしていることが示唆されたこ
とから,本試験ではセレコキシブの消化管局所への作用を最小限とするため,投与を 1 日 2 回
に分けて実施した.また,消化管障害は 500 mg/day 以上のセレコキシブを摂取したときに発現
すると考えられたことから,本試験における高用量を 35 mg/kg/day に設定した.更に,1 カ月
間投与試験との結果の比較を可能にするために 1 カ月間投与試験における無毒性量である 25
mg/kg/day[1 日 1 回投与(QD)]を設定した.35 mg/kg/day(BID)は 1 カ月間反復投与試験に
おいて消化管障害がみられた 50 mg/kg/day(QD)における曝露をわずかに下回る全身的曝露を
達成すると考えられた.
ゼラチンカプセルに充填したセレコキシブを,雌雄のビーグル犬に 1 日 1 あるいは 2 回 3 カ
月間反復経口投与した.25 mg/kg/day(QD)及び 35 mg/kg/day(BID)では 1 カ月間の休薬期間
を設定して毒性変化の回復性を検討した.また,投与 1 日,6 及び 13 週に血漿中薬物濃度を測
定した.動物の投与群への割り付けにおいては,イヌにおけるセレコキシブの代謝の
polymorphism を考慮した.すなわち,1 カ月間投与試験においては,消化管障害の程度が群内
でも広範な個体差を示したが,,イヌに血漿中セレコキシブの消失の早い個体[extensive
metabolizer(EM)]と遅い個体[poor metabolizer(PM)]があり,PM においては高濃度のセレ
コキシブが蓄積するためであると考えられた(2.6.4.3.3 セレコキシブを投与したときの血漿中
セレコキシブ濃度).そこで,イヌをあらかじめスクリーニングし,PM と EM の分布が群間で
均等になるように動物を各群に割り付けた.
いずれの投与量においても死亡,一般状態の変化はみられず,体重,摂餌量,直腸温,呼吸
数,心電図検査,眼科検査,血液学検査,血液生化学検査,尿検査,器官重量,剖検,病理組
織学検査においてもセレコキシブ投与の影響は認められなかった.回復性検討群においてもセ
レコキシブ投与に関連する変化はみられなかった.
血漿中薬物濃度は投与量に従って上昇し,雌雄で差はみられなかった.いずれの投与量にお
いても,反復投与による血漿中濃度の増加はみられなかった.また,1 日 2 回(BID)の分割投
与により,15,25,35 mg/kg/day のいずれの投与量においても,25 mg/kg/day の 1 日 1 回投与(QD)
より高い AUC24h が得られた.
以上の結果より,セレコキシブをビーグル犬に 3 カ月間反復経口投与した際の無毒性量は
雌雄とも 35 mg/kg/day(BID)と考えられた.無毒性量における PM の AUC24h は雄が 36.8 μg•
hr/mL,雌が 39.3 μg•hr/mL であり,臨床推奨用量の AUC と比較すると,雄で 3.4 倍以上,雌で
3.6 倍以上であった.
15
- -
2.6.6.3.6 イヌにおける 12 カ月間反復経口投与毒性試験
···················································································
添付資料
4.2.3.2-6~7,9~10
ビーグル犬における 3 カ月間投与試験において,35 mg/kg/day(17.5 mg/kg,BID)で毒性が
みられなかったが,1 カ月間投与試験における 50 mg/kg/day での消化管障害,及び,局所的セ
レコキシブ濃度と消化管粘膜との関連を考慮すると,35 mg/kg/day(17.5 mg/kg,BID)がビー
グル犬における反復投与の上限と考えられた.したがって,投与量は 3 カ月間投与試験と同様
の 35,25 及び 15 mg/kg/day(それぞれ 17.5,12.5,7.5 mg/kg の BID)とし,更に 1 及び 3 カ月
間投与試験との結果の比較を可能にするために 25 mg/kg/day(QD)を設定した.35 mg/kg/day
(BID)は 1 カ月間反復投与試験において消化管障害がみられた 50 mg/kg/day(QD)における曝
露をわずかに下回る全身的曝露を達成すると考えられた.
ゼラチンカプセルに充填したセレコキシブを,雌雄のビーグル犬に 1 日 1 あるいは 2 回 12 カ
月間反復経口投与した.一部の動物については 6 カ月間投与終了時に屠殺して,毒性の中間評
価を行った.35 mg/kg/day(BID)では一部の動物について 1 カ月間の休薬期間を設定して毒性
変化の回復性を検討した.また,投与 1 日,26 及び 52 週に血漿中薬物濃度を測定した.3 カ月
間投与試験と同様に動物の割付は PM と EM の分布が群間で均等になるよう配慮した.
セレコキシブ投与に関連した死亡や一般状態の変化はみられず,体重,摂餌量,直腸温,呼
吸数,心電図検査,眼科検査,血液学検査,血液凝固系検査,生化学検査,尿検査,臓器重量,
剖検,病理組織検査においてもセレコキシブ投与の影響は認められなかった.回復性検討群に
おいてもセレコキシブ投与に関連する変化はみられなかった.
血漿中薬物濃度は投与量に従って上昇し,雌雄で差はみられなかった.いずれの投与量にお
いても,反復投与による血漿中濃度の増加はみられなかった.また,1 日 2 回(BID)の分割投
与により,15,25,35 mg/kg/day のいずれの投与量においても,25 mg/kg/day の 1 日 1 回投与(QD)
より高い AUC24h が得られた.
以上の結果より,セレコキシブをビーグル犬に 12 カ月間反復経口投与した際の無毒性量は雌雄
ともに 35 mg/kg/day と考えられた.無毒性量における PM の AUC24h は雄が 41.3 μg•hr/mL,雌が
33.2 μg•hr/mL であり,
臨床推奨用量の AUC と比較すると,
雄は 3.8 倍以上,
雌は 3.1 倍以上であっ
た.
2.6.6.4
遺伝毒性試験 ······································
添付資料
4.2.3.2-1,4.2.3.3.1-1~4,4.2.3.3.2-1
セレコキシブの遺伝毒性について,ネズミチフス菌及び大腸菌を用いる復帰突然変異試験,
ほ乳類培養細胞を用いる遺伝子突然変異試験,ほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験,並び
に,ラットにおける小核試験により検討した.
16
- -
2.6.6.4.1 細菌を用いる復帰突然変異試験
·····························
添付資料
4.2.3.3.1-1~2
セレコキシブの突然変異誘発性を,ネズミチフス菌及び大腸菌を用いる復帰突然変異試験に
より検討した.
2.6.6.4.1.1 ネズミチフス菌を用いる復帰突然変異試験
·········
添付資料
4.2.3.3.1-1
ネズミチフス菌を用いる復帰突然変異試験によりセレコキシブの遺伝毒性を検討した.
5 種類のネズミチフス菌株(Salmonella typhimurium:TA97a,TA98,TA100,TA1535 及び TA1538)
にセレコキシブを曝露し,代謝活性化系の存在下(+S9,代謝活性化法)及び非存在下(-S9,
直接法)で,プレート法により復帰変異コロニー数の増加の有無を調べた.復帰変異コロニー
数が処置濃度に従って増加し,連続した 2 用量以上で溶媒対照のコロニー数の少なくとも 2 倍
(TA97a,TA98 及び TA100)あるいは 3 倍(TA1535 及び TA1538)以上に増加した場合に陽性
と判定した.
代謝活性化系の有無にかかわらずセレコキシブは突然変異誘発性を示さなかった.
2.6.6.4.1.2 細菌を用いる復帰突然変異試験 ································ 添付資料 4.2.3.3.1-2
ネズミチフス菌及び大腸菌を用いる復帰突然変異試験によりセレコキシブの遺伝毒性を検討
した.
4 種類のネズミチフス菌株(Salmonella typhimurium:TA97a,TA98,TA100,TA1535)及び大
腸菌株(WP2uvrA/pKM101)にセレコキシブを曝露し,代謝活性化系の存在下(+S9,代謝活性
化法)及び非存在下(-S9,直接法)で,プレート法により復帰変異コロニー数の増加の有無を
調べた.復帰変異コロニー数が処置濃度に従って増加し,連続した 2 用量以上で溶媒対照のコ
ロニー数の少なくとも 2 倍(TA97a,
TA98,TA100 及び WP2uvrA/pKM101)あるいは 3 倍(TA1535)
以上に増加した場合に,陽性と判定した.
代謝活性化系の有無にかかわらずセレコキシブは突然変異誘発性を示さなかった.
2.6.6.4.2 ほ乳類の培養細胞を用いる遺伝子突然変異試験
··································································································
添付資料
4.2.3.3.1-3
チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)株におけるヒポキサンチングアニンホスホリボシル
トランスフェラーゼ(HGPRT)遺伝子の突然変異を指標にセレコキシブの遺伝毒性を検討した.
CHO 株に,セレコキシブを代謝活性化系非存在下(-S9)及び存在下(+S9)に曝露した.最高用
量は,用量設定のための細胞毒性試験において代謝活性化系の非存在下では 8 μg/mL 以上で,
代謝活性化系の存在下では 26.27 μg/mL で約 50 %の細胞増殖の抑制が認められ,いずれもそれ
以上の濃度では細胞の増殖がみられなかったことから,代謝活性化系の非存在下では 16 μg/mL
を,代謝活性化系の存在下では 60 μg/mL を設定した.被験物質を曝露した細胞を継代して 7 日
間培養後,播種して 6-チオグアニン培地で培養した。その後,細胞を固定・染色して,50 個
以上の細胞から構成されるコロニー数を計測した.連続する 2 用量以上で 1×106 生存細胞数当
たりの変異コロニー数が 15 以上で,溶媒対照との間に統計学的有意差がある場合に陽性と判定
17
- -
した.
代謝活性化系の有無にかかわらずセレコキシブは遺伝子突然変異誘発性を示さなかった.
2.6.6.4.3 ほ乳類の培養細胞を用いる染色体異常試験 ············· 添付資料 4.2.3.3.1-4
チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)株を用いて,染色体異常誘発能を指標にセレコキ
シブの遺伝毒性を検討した.
CHO 株にセレコキシブを代謝活性化系非存在下(-S9)及び存在下(+S9)に曝露した.最高用量
は,用量設定試験において代謝活性化系の非存在下,存在下のいずれにおいても 26.67 μg/mL
で細胞増殖の抑制が認められ,それ以上の濃度では細胞の増殖がみられなかったことから,代
謝活性化系の非存在下,存在下のいずれにおいても 80 μg/mL を設定した.それぞれの試験系,
処理濃度について 200 個の分裂中期の細胞について,染色体の数的及び構造的異常の有無を検
査した.連続する 2 用量以上で異常の頻度が対照群よりも統計学的に有意に高いか,ある用量
で統計学的に有意に高く用量依存性が示唆される場合に陽性と判定した.
代謝活性化系の有無にかかわらず,いずれの処理濃度及び時間においても染色体の構造異常
はみられなかった.代謝活性化系の存在下セレコキシブを 4 時間曝露する条件では 40 μg/mL で
核内倍加細胞の増加が認められたが,これは細胞毒性が認められる濃度であった.一方,代謝
活性化系非存在下では核内倍加細胞の増加は認められず,セレコキシブそれ自体が影響してい
る可能性はないと考えられた.また,代謝活性化系存在下,細胞毒性が認められない濃度では
核内倍加細胞の増加が認められないことから,セレコキシブは DNA に対し直接的影響を及ぼさ
ないと考えられた.
以上のことから,代謝活性化系の有無にかかわらず,いずれの処理濃度及び時間においても,
セレコキシブは染色体異常誘発性を示さないと判断された.
2.6.6.4.4 ラットにおける小核試験 ································· 添付資料 4.2.3.2-1,4.2.3.3.2-1
ラットを用いて小核誘発能を指標にセレコキシブの in vivo における遺伝毒性を検討した.
ラットにおける 1 カ月間反復経口投与試験において,600 mg/kg/day で消化管障害による瀕死
例がみられたが,3 日間の反復投与は可能と考えられたことから,高用量を 600 mg/kg/day とし,
以下 300 及び 150 mg/kg/day を設定した.
0.1 %ポリソルベート 80 を含む 0.5 %メチルセルロース水溶液に懸濁したセレコキシブを 0,
150,300 及び 600 mg/kg/day の投与量で雌雄の SD 系ラットに 1 日 1 回 3 日間強制経口投与した.
最終投与後 24 時間に脛骨より骨髄を採取し,塗抹標本を作製した.アクリジン・オレンジ染色
後,蛍光顕微鏡により 1000 個の細胞について全赤血球(多染性及び正染性赤血球)に対する多
染性赤血球(PCE)の比率を求め,2000 個の多染性赤血球中の小核を有する多染性赤血球
(MNPCE)比率を求めた.小核を有する多染性赤血球比率に投与量に依存した統計学的に有意
な増加がみられるか,再現性を有する統計学的に有意な増加が少なくとも 1 用量でみられる場
合に陽性と判断した.
雌雄ともに,いずれの用量においても小核を有する多染性赤血球頻度の増加は認められず,
18
- -
セレコキシブは in vivo で染色体異常誘発性を有さないと判断された.
2.6.6.5
がん原性試験
································ 添付資料
4.2.2.1-21, 4.2.3.2-1,4.2.3.2-3(参),4.2.3.4.1-1,2~3(参),4.2.3.4.2-1
2.6.6.5.1 マウスにおける 24 カ月間混餌投与がん原性試験
··············································································
添付資料
4.2.3.4.1-1,2~3(参)
投与量は CD-1(ICR)マウスにおける 3 カ月間混餌投与試験の結果に基づいて設定した.3
カ月間混餌投与試験において,消化管障害による死亡がみられない投与量は,雄で 75 mg/kg/day,
雌で 150 mg/kg/day であった.したがって,雄では 75 mg/kg/day を高用量とし,以下 50 及び 25
mg/kg/day を,雌では 150 mg/kg/day を高用量とし,以下 100 及び 50 mg/kg/day を設定した.
雌雄の CD-1 マウスを対照群及びセレコキシブの 3 用量群に割り付けて雌雄各群 90 匹とした.
更に,血漿中薬物濃度測定を目的として,対照群には雌雄各 20 匹,セレコキシブ投与群には雌
雄各 65 匹のサテライト動物を設定した.雄には 0,25,50 及び 75 mg/kg/day,雌には 0,50,
100 及び 150 mg/kg/day となるようにセレコキシブを少なくとも 24 カ月間混餌投与し,毒性及
びがん原性を一般状態観察,腫瘤の触診,体重,摂餌量,生化学検査,剖検,器官重量及び組
織学検査により評価した.腫瘍性病変の発生率は,セレコキシブ投与群のいずれかにおける発
生数が対照群のそれより 2 以上多い病変について統計学的に解析した.非致死性腫瘍について
は途中死亡例によるバイアスを考慮する方法,致死性腫瘍は生命表解析を用いた.
投与 13~18 週に雄の全投薬群及び雌の高用量(150 mg/kg/day)群でセレコキシブの投与によ
る死亡がみられた.死亡原因は消化管の穿孔及び腹部臓器の癒着であり,これらの投与量が最
大耐量を超えていると考えられた.そのため,19 週にすべての群の投与量を半減し,雄は 12.5,
25,37.5 mg/kg/day,雌は 25,50,75 mg/kg/day とした.雌では,この投与量の変更により中間用
量群と高用量群における実質的曝露レベルがほぼ同等となったため,23 週には高用量群の投与
量を 150 mg/kg/day に戻した.しかし,高用量群(雄の 37.5 mg/kg/day,雌の 150 mg/kg/day)で
は雌雄ともに消化管障害による生存率の減少が顕著であったため,生存例を 80 週に解剖した.
雄のセレコキシブ投与全群及び雌の高用量群では死亡率が有意に高かったが,試験期間中の
生存動物数を維持し,最終剖検時に病理学的に十分な評価が可能な動物数を確保するために,
前述のように投与量を下げることに加え,サテライト動物の一部を本試験動物に組み入れ,ま
た,27 週に予定していた中間屠殺を中止した.これにより,最終剖検時の動物数はがん原性を
評価するための統計学的解析に十分と考えられた 4).
53 週の中間屠殺において,器官重量にセレコキシブに関連した変化はみられなかった.消化
管障害が,雄の低用量群の 1 例,中間用量群の 1 例,高用量群の 2 例,雌の中間用量群の 1 例,
高用量群の 1 例の計 6 例にみられ,肉眼的には小腸の癒着あるいは腫瘤,結節が,組織学的に
は粘膜及び漿膜の慢性炎症(腹膜炎)がみられた.他にセレコキシブの投与に関連した病変は
みられなかった.53 週及び 80 週での計画屠殺例及び瀕死例の生化学検査値にセレコキシブ投
19
- -
与に関連した影響はみられなかった.
腫瘍性病変の発生率は,細気管支-肺胞腺腫及びがん(雌雄),肝細胞腺腫(雌雄)及びがん
(雄),肝血管肉腫(雌雄),ハーダー腺腺腫(雄),副腎被膜下細胞腺腫(雄),下垂体前葉腺腫
(雌),子宮内膜間質ポリープ及びリンパ腫(雌雄)が統計学的解析(Dinse-Lagakos の Logistic
Prevalence Test)の対象となったが,下垂体前葉腺腫以外の腫瘍性病変については発生率の増加
はみられなかった.下垂体前葉腺腫については雌で発生率の有意な増加傾向が示された.腫瘍
発生率の解析は,雌の高用量群において生存率に統計的に有意な減少が認められたことから,
途中死亡によるバイアスを考慮した用量依存性の検定を用いたが,投与 80 週までの途中死亡例
及び投与 80 週の屠殺解剖例について,評価時点(投与終了時)まで生存したと仮定した際の腫
瘍発生率の増加を加味して雌高用量群における腫瘍発生率が見積もられたこと,及び用量依存
性の検定においては高用量群に相対的に大きな重み付けが行われることに起因するものと考え
られた.また,下垂体前葉腺腫はマウスによくみられる腫瘍性病変(レンジ:0~8%,平均約
4%)であるが 5),腫瘍発生率の検定結果の評価においては,偽陽性確率(第一種の過誤)の上
昇を抑えることを目的として,腫瘍の発生率に応じて適当な有意水準を設定する必要があると
考えられており,よくみられる腫瘍に適用される統計学的有意水準(p≦0.01)6)では有意ではな
いことから,セレコキシブの投与とは関連のない変化と考えられた.また,累積生存率に差が
ある場合に一般的に用いられる Peto 検定でも有意な差は認められなかった(P=0.2057).した
がって,セレコキシブの投与による腫瘍性病変の発生は認められず,また,マウスにおいて一
般的にみられる自然発生腫瘍の発生率についてもセレコキシブの投与による増加は認められな
かった.
非腫瘍性病変としては,雌雄の高用量群(80 週まで)及び中間用量群でみられた消化管障害
が主なものであった.計画解剖例における剖検所見としては,胃及び空腸の癒着,潰瘍あるい
はびらんが,高用量群の雄 3 例と雌 6 例,及び,中間用量群の雄 3 例と雌 1 例にみられた.他
の剖検所見はすべて,同一週齢の CD-1 マウスにおいて一般的にみられる型及び重篤度であり,
対照群とセレコキシブ投与群で発生率が同様であることから,セレコキシブの投与とは関連の
ない偶発的変化と考えられた.セレコキシブ投与による組織学的変化は概ね肉眼的な病変に一
致しており,胃腺部,十二指腸,空腸,回腸,盲腸及び結腸にみられた.それらの多くはびら
んあるいは潰瘍であり,穿孔による二次的変化,すなわち,腹腔内への消化管内容物の漏出が
原因と考えられる腹膜炎がみられた.また,臓器の漿膜表面に認められた炎症性所見,肝臓及
び脾臓に認められた髄外造血の亢進,肝臓及び肺に認められた白血球増多,腸間膜リンパ節に
認められたリンパ濾胞過形成は,セレコキシブ投与による消化管障害(腹膜炎)の二次的所見
である.大腿骨及び胸骨骨髄の過形成,すなわち,骨髄における顆粒球系細胞の増加は白血球
前駆細胞の増加であり,瀰漫性の造血亢進像として観察された.したがって,消化管障害によ
る慢性炎症に対する反応性の変化と考えられた.途中死亡/屠殺例においては,消化管障害が,
低用量群では雌雄ともに 3 例,中間用量群では雄 14 例,雌 8 例,高用量群では雄 27 例,雌 33
例にみられており,最終剖検に付された動物にみられた消化管障害は,死亡例あるいは瀕死屠
殺例に比べて頻度が低く,また,重篤度も低かった.セレコキシブの投与に関連した消化管障
20
- -
害の総発生数は,雄では低用量,中間用量,高用量群でそれぞれ 4,17,30 例であり,雌では
それぞれ 4,9,39 例であった.他の組織学的所見には,セレコキシブの投与に関連した有意な
増加はみられなかった.
24 カ月間生存した中間用量群における AUC24h の平均は雄が 21.1 μg•hr/mL,雌が 16.3 μg•
hr/mL であり,雄では臨床推奨用量のそれの 2.0 倍以上,雌では 1.5 倍以上であった.また,80
週に途中解剖した高用量群の AUC24h は雄が 33.3 μg•hr/mL,雌が 22.9 μg•hr/mL であり,雄では
臨床推奨用量のそれの 3.1 倍以上,雌では 2.1 倍以上であった.ラットに比べて相対的に低い全
身的曝露により消化管障害がみられたが,混餌投与における被験物質の消化管における直接的
かつ局所的な影響の可能性が考えられた.
以上の結果より,セレコキシブをマウスに 24 カ月間混餌投与した際には,臨床推奨用量にお
ける曝露の 1.5~3 倍以上の曝露を達成する用量のセレコキシブを投与しても,がん原性は示唆
されなかった.また,非腫瘍性病変については,低用量群においても消化管障害が認められた
ため,無毒性量を同定することはできなかった.
2.6.6.5.2 ラットにおける 24 カ月間反復経口投与がん原性試験
······································
添付資料
4.2.2.1-21,4.2.3.2-1,4.2.3.2-3(参),4.2.3.4.2-1
ラットにおける 3 日間反復経口投与試験及び 1 カ月間反復投与試験の成績をもとに本試験に
おける投与量を設定した.1 カ月間反復投与試験において雄では消化管障害及び他の毒性はみ
られなかったが,血漿中薬物濃度は 400~800 mg/kg/day でプラトーに達しており,400 mg/kg/day
群と 600 mg/kg/day 群で差はみられなかった.雌ではこれらの投与量では曝露が最大に達しては
いないが,600 mg/kg/day の 1 例で消化管障害による瀕死屠殺がみられた.そこで,本試験にお
ける最高投与量を雌雄ともに 400 mg/kg/day とし,以下 80 及び 20 mg/kg/day を設定した.
雌雄の SD 系ラットを対照群及びセレコキシブの 3 用量群に割り付け各群 80 匹とし,更にセ
レコキシブ投与群には,血漿中薬物濃度測定を目的として,雌雄各 26 匹のサテライト動物を設
定した.セレコキシブ投与群には 0.1 %ポリソルベート 80 を含む 0.5 %メチルセルロース水溶液
に懸濁したセレコキシブを,対照群には媒体を 1 日 1 回少なくとも 24 カ月間反復強制経口投与
し,毒性及びがん原性を一般状態観察,腫瘤の触診,体重及び摂餌量,臨床病理検査,剖検所
見,器官重量及び病理組織学検査により評価した.
腫瘍性病変の発生率は,セレコキシブ投与群のいずれかにおける発生数が対照群のそれより
3 以上多い病変について統計学的に解析した.非致死性腫瘍については途中死亡例によるバイ
アスを考慮する方法,致死性腫瘍及び表在性腫瘍は生命表解析を用いた.
雌では高用量(400 mg/kg/day)群において消化管障害による死亡が 14~15 週以降に増加した
ため,消化管障害による死亡を回避し,24 カ月間投与後の病理学的評価に十分な動物数を確保
21
- -
することを目的として 18 週に投与量を 200 mg/kg に減じた.しかし,その後も消化管障害によ
る死亡率が高かったため,生存動物を 79 週に解剖した.雌の中間用量(80 mg/kg/day)群にお
いても 25 週以降に消化管障害による死亡がみられたため,78 週に投与量を 10 mg/kg/day に減
じた結果,消化管障害及びそれによる死亡が減少した.雌の低用量(20 mg/kg/day)群において
は消化管障害の発生率は高くはなかったが,78 週に投与量を 5 mg/kg/day に減じた.雄では 78
週に高用量(400 mg/kg/day)群のみ投与量を 200 mg/kg/day に減じた.投与量の減量に加えてサ
テライト動物の一部を毒性及びがん原性の評価に組み入れたことにより,24 カ月間投与後の病
理学的検討が行われた動物数はがん原性の評価に十分と考えられた 4).
セレコキシブの投与に関連した死亡が,雄では中間及び高用量群に,雌ではセレコキシブ投
与の全群でみられた.本試験における死因は雄では 55 %,雌では 87 %が消化管障害,慢性腎症,
下垂体腫瘍,乳腺腫瘍,リンパ腫のいずれかであり,消化管障害を除く死因については,いず
れの群においても発現数は同様でセレコキシブ投与量の増加に伴う死亡数の増加は認められな
いことから,セレコキシブ投与群でみられた死亡数の増加は消化管障害,すなわち,消化管に
おける炎症及び壊死とそれらの二次的な変化としての腹膜炎によるものであり,ラットにおけ
る 6 カ月間投与試験で認められた毒性に一致していた.消化管障害は,肉眼的には腹水及び胸
水,胸腹部臓器の癒着を伴う消化管の穿孔であり,組織学的には慢性炎症が消化管障害の二次
的な影響として多くの組織でみられた.穿孔は主に空腸でみられた.障害には雌雄間で形態学
的及び組織学的な違いはみられず,これらの所見は,本試験における雄の中間及び高用量,並
びに,雌の全用量が最大耐量を超えていることを示唆すると考えられた.
体重及び摂餌量には消化管障害に関連した変化はなかったが,消化管障害に関連して呼吸困
難,糞排泄の減少,活動性の減少,低体温(触診による)等がみられた.他の一般状態の変化
はラットにおいて一般的にみられるものであり,それらの頻度は対照群と同様であった.
53 週の中間解剖では,セレコキシブ投与によるがん原性及び毒性を示唆する剖検所見及び組
織所見はなかった.器官重量にセレコキシブ投与の影響はみられなかった.
セレコキシブ投与による腫瘍の増加はみられなかった.腫瘍性病変については,雄では脳の
良性顆粒細胞腫,下垂体腺腫,膵島細胞腺腫及びがん,精巣間細胞腫瘍,甲状腺の C 細胞腺腫,
及びリンパ腫について,雌では,乳腺におけるがん及び他のいくつかの腫瘍型,子宮ポリープ
について統計学的に解析したが,これらの腫瘍には対照群とセレコキシブ投与群間に発生率の
差はみられなかった.他の腫瘍型については雌雄いずれにおいても,発生率において背景デー
タの範囲内と考えられた.
非腫瘍性病変でセレコキシブ投与に関連すると考えられたものは,腹膜炎を伴う消化管の壊
死と炎症のみであった.計画解剖例では,雄では中間用量群で 1 例,高用量群で 2 例,雌では
低用量群で 2 例に,これらの変化が認められた.また,漿膜,被膜等の臓器表面に認められた
炎症性所見は,セレコキシブ投与による消化管障害(腹膜炎)の二次的所見と考えられた.雌
の胸腺におけるリンパ球枯渇及び壊死は死戦期のストレスにより認められた変化と考えられた.
以上の結果から,消化管における障害がセレコキシブを 24 カ月間投与した際の唯一の毒性と結
論された.
22
- -
53 及び 79 週にすべての群,及び 105 週に雄の全投薬群と雌の対照群,低用量群及び中間用
量群,また,瀕死動物の一部において血液学検査,血液凝固系検査,血液生化学検査及び尿検
査を実施したところ,毒性学的に意義のある変化はみられなかった.白血球数,好中球数,血
清グロブリン分画の増加が瀕死動物及び計画屠殺動物の少数例にみられたが,消化管障害の二
次的変化と考えられた.
低用量群において試験期間を通じた平均 AUC24h は雄が 21.7 μg•hr/mL,雌が 45.4 μg•hr/mL で
あり,臨床推奨用量におけるそれの雄で 2.0 倍以上,雌で 4.2 倍以上であった.雄の高用量群に
おける平均 AUC24h は 73.0 μg•hr/mL で臨床推奨用量におけるそれの 6.8 倍以上であり,雌
(AUC24h は 143 μg•hr/mL)では 13.2 倍以上であった.中間用量群においては雄(AUC24h は 32.9
μg•hr/mL)で 3.0 倍以上,雌(AUC24h は 83.5 μg•hr/mL)で 7.7 倍以上であった.
以上の結果から,セレコキシブをラットに 24 カ月間投与した際の無毒性量は,雄では 80
mg/kg/day 以上の群で消化管障害による死亡がみられたことから 20 mg/kg/day と考えられた.無
毒性量における AUC24h は 21.7 μg•hr/mL であり,臨床推奨用量におけるそれの 2.0 倍以上であっ
た.雌においては雄よりも高い曝露が長期間維持されたことから,本試験においては無毒性量を
同定できなかった.しかしながら,被験物質による毒性及び死亡原因は雌雄で一致しており,消
化管障害は曝露量に依存して起こると考えられることから,雄の無毒性量における曝露量の 21.7
μg•hr/mL を雌における無毒性量の曝露量とみなすことが可能である.
ラットに臨床推奨用量の約 2.0~13.2 倍以上の曝露に相当するセレコキシブを 24 カ月間反復
強制経口投与しても,がん原性は示唆されなかった.
2.6.6.6
生殖発生毒性試験
·······
添付資料
4.2.3.2-1,4.2.3.5.1-1~2,3(参),4~5,4.2.3.5.2-1~5,6(参),7,4.2.3.5.3-1
2.6.6.6.1 ラットにおける受胎能及び着床までの初期胚発生に関する試験
·····················································
添付資料
4.2.3.2-1,4.2.3.5.1-1~2,3(参),4~5
セレコキシブを雌雄の SD 系ラットに投与した際の受胎能及び初期胚発生に及ぼす影響を検
討した.初めに実施した試験において雌に投与した際の初期胚発生に対する影響の無毒性量が
確認できなかったため,より低用量において追加試験を実施した.また,上記毒性に対する休
薬の効果について検討した.
2.6.6.6.1.1 ラットにおける受胎能及び着床までの初期胚発生に関する経口投与試験
·························································································
添付資料 4.2.3.2-1,4.2.3.5.1-1
ラットにおける 1 カ月間反復経口投与試験において,雌雄ともに 600 mg/kg/day を最高用量と
してセレコキシブを投与したところ,600 mg/kg/day 群の雌で 10 例中 1 例に消化管障害による
瀕死がみられたが,他に毒性はみられなかった.そこで,本試験における最高投与量を雌雄い
ずれにおいても 600 mg/kg/day とし,以下 300 及び 60 mg/kg/day を設定した.
各群雌雄各 25 匹の SD 系ラットに,0.1 %ポリソルベート 80 を含む 0.5 %メチルセルロース
23
- -
水溶液に懸濁したセレコキシブを投与した.雄には 4 週間,雌には 2 週間反復強制経口投与し
た後に交配させ,雌については妊娠 7 日まで投与を継続し,妊娠 13 日に剖検して受胎能及び初
期胚発生に対する影響を検討した.雄にはセレコキシブ投与の雌との交配後も投与を 5 週間継
続して無処置の雌と交配させ,雄の授胎能に対する影響を検討した.更に,雄では 1 週間投与
を継続し,精子の数,運動性及び形態を観察した.雄の投与期間は交配期間を含め 15 週間であ
る.また,雄については投与最終週の血漿中薬物濃度を測定した.
セレコキシブを投与した雄では被験物質投与に起因する死亡はみられず,いずれの投与量に
おいても,投与期間を通じて毒性は認められなかった.雌では,600 mg/kg/day 群の 1 例が投与
9 日(交配前)に,また,300 mg/kg/day 群の 1 例が妊娠 11 日に瀕死となった.いずれも腹膜炎
が一般状態悪化の原因と考えられ,600 mg/kg/day 群の瀕死例では空腸穿孔が認められた.他に
セレコキシブ投与の影響はいずれの投与量においてもみられなかった.
セレコキシブを雌雄のラットに投与して交配させた際には,交尾率,雄の授胎率,性周期,
黄体数,雌の受胎率,交尾までに要した日数に異常はみられなかった.300 及び 600 mg/kg/day
群で着床前死亡の有意な増加がみられた.また,いずれの投与量においても着床後死亡の有意
な増加が認められた.生存胚数の減少は,着床後死亡と着床後の早期吸収胚数の増加に起因し
た変化と考えられた.300 及び 600 mg/kg/day 群における着床数の有意な減少は着床前死亡の増
加を反映したものと考えられた.
セレコキシブを投与した雄と無処置の雌を交配させた場合には,着床数,着床前死亡率,着
床後死亡率,吸収胚数,死亡胚数,生存胚数に変化は認められなかった.したがって,初期胚
発生に対する影響は雌へのセレコキシブ投与によるものと考えられた.
精子検査においては,いずれの投与量においても数,運動性及び形態学的所見にセレコキシ
ブ投与の影響はみられなかった.
雄における血漿中薬物濃度は用量に伴って増加した.
以上の結果より,雄にセレコキシブを 600 mg/kg/day まで投与しても授胎能に対する影響がみ
られなかったことから,雄における無毒性量は一般毒性及び生殖能ともに 600 mg/kg/day と考え
られた.この投与量における曝露量(58.2 μg•hr/mL)は臨床推奨用量における AUC の 5.4 倍以
上である.雌については,300 mg/kg/day 以上で消化管障害による死亡がみられたことから,一
般毒性に対する無毒性量は 60 mg/kg/day と考えられた.また,60 mg/kg/day で着床後死亡の増
加及び生存胚数の減少がみられたことから,受胎能及び初期胚発生に対する無毒性量は確認で
きなかった.本試験においては雌における血漿中薬物濃度の測定を行っていないが,ラットに
おける 1 カ月間反復投与試験の成績から推定が可能である.すなわち,1 カ月間反復投与試験
の投与 4 週における AUC24h は 80,400 及び 600 mg/kg/day で,それぞれ 82,159,315 μg•hr/mL
であり,臨床推奨用量における AUC のそれぞれ 7.6,14.7,29.2 倍以上であった.
24
- -
2.6.6.6.1.2 雌ラットにおける低用量追加試験
··········································································
添付資料
4.2.3.5.1-1~2,3(参),4
ラットにおける受胎能及び着床までの初期胚発生に関する経口投与試験では,雄における無
毒性量は同定されたが,雌では 60 mg/kg/day 以上の群で着床後死亡の増加及び生存胚数の減少
が認められたため,雌動物における受胎能及び初期胚発生に対する無毒性量が確認されなかっ
た.そこで,雌ラットにセレコキシブをより低用量投与した際の受胎能及び初期胚発生に及ぼ
す影響を検討した.
ラットにおける受胎能及び着床までの初期胚発生に関する経口投与試験における低用量であ
る 60 mg/kg 以下の用量として,50,30 及び 15 mg/kg/day を設定し,更に,確実に雌動物の生殖
能に対する影響が発現すると考えられた 300 mg/kg/day を設定した.また,別試験にて,更に低
用量である 10,5 及び 2.5 mg/kg/day を設定して,上記変化の無毒性量を確認した.
各群 25 匹の SD 系雌ラットに,0.1 %ポリソルベート 80 を含む 0.5 %メチルセルロース水溶
液に懸濁したセレコキシブを 2 週間反復強制経口投与した後に無処置の雄と交配させた.投与
は同居期間及び妊娠 7 日まで継続し,妊娠 13 日に剖検して,受胎能及び初期胚発生に対する影
響を検討した.
いずれの投与量においても,セレコキシブ投与に関連した死亡及び一般状態の変化はみられ
なかった.また,体重,摂餌量,性周期,交尾率,受胎率,交尾までに要した日数にも影響は
みられなかった.
300 mg/kg/day 群では,着床数及び生存胚数の減少,着床前死亡及び着床後死亡の増加がみら
れ,先に実施した試験の結果に一致していた.50 mg/kg/day 群でも同様の変化がみられた.30
mg/kg/day 以下の群では黄体数,着床数,生存胚数,吸収胚数,着床前死亡及び着床後死亡率に
統計学的に有意な変化はみられず,いずれも背景データ 7)の範囲内であった.
以上の結果より,雌ラットにおいては 300 mg/kg/day まで投与しても母動物に対する毒性が認
められなかったことから,一般毒性に対する無毒性量は 300 mg/kg/day と考えられた.また,50
mg/kg/day 以上で着床後死亡の増加がみられたことから,受胎能及び初期胚発生に対する無毒性
量は 30 mg/kg/day と考えられた.30 mg/kg/day における AUC24h(63.3 μg•hr/mL)は臨床推奨用
量のそれの 5.9 倍以上に相当する.
2.6.6.6.1.3
雌ラットに投与した際の受胎能及び初期胚発生への影響に対する休薬
効果の検討 ································································· 添付資料 4.2.3.5.1-1~2,5
先に実施した試験において着床前及び着床後死亡の増加,並びに着床数及び生存胚数の減少
がみられたことから,雌にセレコキシブを投与し,休薬期間をおいて無処置の雄と交配させた
際の初期胚発生への影響を検討した.先に実施した試験において,着床数,生存胚数,着床後
死亡に影響が認められた 60 mg/kg/day,及びそれらに加えて着床前死亡に影響が認められた 300
25
- -
mg/kg/day を投与量として設定した.
各群 25 匹の SD 系雌ラットに,0.1 %ポリソルベート 80 を含む 0.5 %メチルセルロース水溶
液に懸濁したセレコキシブを 2 週間反復強制経口投与した後に 2 週間の休薬期間をおいて無処
置雄と交配させた.妊娠 13 日に剖検して受胎能及び初期胚発生に対する影響を検討した.
いずれの投与量においても,死亡及び被験物質投与に関連した一般状態の変化はみられず,
体重,摂餌量への影響もみられなかった.性周期,交尾率,受胎率,交尾までに要した日数,
剖検所見にも被験物質投与の影響はみられなかった.また,いずれの投与量においても,黄体
数,着床数,生存胚数,着床前及び着床後死亡率に被験物質投与の影響は認められなかった.
以上の結果より,雌ラットにセレコキシブを 2 週間反復投与し,その後 2 週間の休薬期間を
おいて交配させた際には,セレコキシブ投与による初期胚発生に対する影響はみられなかった.
2.6.6.6.2 ラットにおける胚・胎児発生に関する試験
·········································································
添付資料
4.2.3.5.1-1,4.2.3.5.2-1~4
セレコキシブを妊娠ラットの胎児の器官形成期に投与した際の母動物及び胎児に及ぼす影響
について検討した.初めの試験において,妊娠動物数が毒性試験ガイドラインを満たさなかっ
たため,同一のデザインで再試験を実施した.その結果,再試験において胎児に横隔膜ヘルニ
アが観察されたため,セレコキシブ投与との関連について追加試験で検討した.
2.6.6.6.2.1 ラットにおける胚・胎児発生に関する経口投与試験
···············································································
添付資料
4.2.3.5.1-1,4.2.3.5.2-1
ラットにおける受胎能及び初期胚発生に関する試験において,300 mg/kg/day 以上で瀕死例が
あったことから,100 mg/kg/day を最高用量とし,以下公比 3 で 30 及び 10 mg/kg/day を設定した.
各群 20 匹の SD 系雌ラットに,0.1 %ポリソルベート 80 を含む 0.5 %メチルセルロース水溶
液に懸濁したセレコキシブを妊娠 6~17 日まで 1 日 1 回反復強制経口投与した.妊娠 20 日に帝
王切開し,母動物の剖検及び胎児の外表,内臓及び骨格検査を実施した.また,サテライト動
物を別途設定して同様にセレコキシブを投与し,妊娠 6 日(初回投与)及び妊娠 16 日の血漿中
薬物濃度を測定した.
母動物の一般状態,体重及び摂餌量にセレコキシブ投与の影響はみられず,生殖器官にも肉
眼的な異常は認められなかったことから,セレコキシブを胎児の器官形成期に投与しても母動
物に対する毒性はみられないことが示された.
胎児においては,体重,外表及び内臓検査において異常はみられなかった.骨格検査において,
100 mg/kg/day 群で波状肋骨の発現例数の増加が認められたが,軽度の増加であることに加え,骨
化に伴い消失する変化であることが報告されている 8,9)ことから,毒性学的意義は少ないと考えら
26
- -
れた.血漿中薬物濃度は投与量に従って上昇したが,増加は非線形であった.
以上の結果より,セレコキシブを妊娠ラットの胎児の器官形成期に投与した際の無毒性量は,
母動物の一般毒性,生殖能及び胎児のいずれにおいても 100 mg/kg/day と考えられた.母動物の
100 mg/kg/day における AUC24h(115 μg•hr/mL)は臨床推奨用量における AUC の 10.6 倍以上で
あった.
2.6.6.6.2.2 ラットにおける胚・胎児発生に関する経口投与試験(再試験)
····························································································
添付資料
4.2.3.5.2-1~2
セレコキシブを妊娠ラットの胎児の器官形成期に投与した際の母動物及び胎児に及ぼす影響
について検討した.本試験は先に実施した試験において,妊娠動物数が毒性試験ガイドライン
を満たさなかったため,再試験として実施した.投与量は先の試験と同様に 100,30 及び 10
mg/kg/day を設定した.
各群 30 匹の SD 系雌ラットに,0.1 %ポリソルベート 80 を含む 0.5 %メチルセルロース水溶液
に懸濁したセレコキシブを妊娠 6 日から 17 日まで 1 日 1 回反復強制経口投与した.妊娠 20 日に
帝王切開し,母動物の剖検及び胎児の外表,内臓,骨格検査を実施した.また,サテライト群を
別途設定して同様にセレコキシブを投与し,妊娠 6 及び 17 日(初回及び最終投与)の血漿中薬物
濃度を測定した.
母動物にセレコキシブ投与による死亡及び一般状態の変化は認められず,体重にも影響はみ
られなかった.100 mg/kg/day で投与初期に摂餌量の軽微な減少がみられたが,一過性の変化で
あった.剖検所見にセレコキシブ投与による異常はみられなかった.
いずれの投与量においても胎児死亡はみられず,性比,胎児体重,胎児の外表検査において
異常はみられなかった.骨格検査において,先の試験でみられた波状肋骨の増加はみられず,
他の異常もみられなかった.内臓検査においては,30 mg/kg 以上の群の胎児に横隔膜ヘルニア
の増加がみられ,その発現率は 0,10,30,100 mg/kg/day 群でそれぞれ 0,0,8(3.7 %),31
(14 %)であった.胎児に異常のみられた母動物数は,それぞれ 0,0,6(20 %),13(43 %)と
投与量依存性がみられた.ほとんどの胎児で横隔膜ヘルニアの部位は右側であった.横隔膜ヘ
ルニアは先に実施した試験では認められず,両試験におけるセレコキシブの曝露量はほぼ同様
であった.また,本試験で用いた母動物 1 例にも横隔膜ヘルニアが認められた.母動物におけ
る血漿中薬物濃度は投与量に従って上昇した.
以上の結果より,セレコキシブを妊娠ラットの胎児の器官形成期に投与した際の無毒性量は,
母動物については毒性がみられなかったことから一般毒性及び生殖能のいずれについても 100
mg/kg/day,胎児に対しては,30 mg/kg/day 以上で横隔膜ヘルニアがみられたことから 10
mg/kg/day と考えられた.母動物における 100 及び 10 mg/kg/day の AUC24h はそれぞれ 115,47.6
27
- -
μg•hr/mL であり,臨床推奨用量における AUC のそれぞれ 10.6 及び 4.4 倍以上であった.
2.6.6.6.2.3 ラット胎児における横隔膜ヘルニア発生に関する検討
····························································································
添付資料
4.2.3.5.2-1~4
再試験において,30 及び 100 mg/kg/day 群で横隔膜ヘルニアの発生数が増加した.一方,初
めの試験ではセレコキシブ投与による横隔膜ヘルニアの増加はみられなかった.本試験ではセ
レコキシブ投与と横隔膜ヘルニア発生の関連について検討した.
先に実施した再試験で横隔膜ヘルニアの発生が増加した 30 及び 100 mg/kg/day,並びに,母
動物に毒性を示す用量の 200 及び 400 mg/kg/day を設定した.
各群 22 匹の SD 系 IGS 雌ラットに,0.1 %ポリソルベート 80 を含む 0.5 %メチルセルロース
水溶液に懸濁したセレコキシブを妊娠 6 日から 17 日まで 1 日 1 回反復強制経口投与した.対照
群の動物数はセレコキシブ投与群の 2 倍とした.妊娠 21 日に帝王切開し,母動物の剖検及び胎
児の外表,内臓検査を実施した.また,サテライト群を別途設定して同様に被験物質を投与し,
妊娠 17 日(最終投与)の血漿中薬物濃度を測定した.
30 及び 100 mg/kg/day 群では母動物にセレコキシブの投与に関連する死亡はみられず,一般
状態及び体重にもセレコキシブ投与の影響はみられなかった.100 mg/kg/day 群では投与初期に
摂餌量の軽微な減少がみられたが,その後回復した.胎児においては生存胎児数,死亡胎児数,
性比,体重,外表にセレコキシブ投与の影響はみられなかった.横隔膜ヘルニアは 100 mg/kg/day
群の 3 胎児(3 母動物)にみられたが,対照群の母動物 1 例にもみられた.
200 mg/kg/day 群では母動物の 1 例が妊娠 19 日に膣及び尾部の赤褐色汚れ,呼吸困難,自発
運動の減少を示し瀕死となった.この動物には,腹水及び肝臓表面に白色巣がみられ,消化管
に対する毒性が示唆された.また,400 mg/kg/day 群では 1 例に自発運動の減少,呼吸数増加,
低体温(触診による)がみられた.これらの群では母動物の体重及び摂餌量が有意に減少した.
胎児体重も 200 及び 400 mg/kg/day のいずれの群においても有意に減少した.いずれの投与量に
おいても,胎児の外表に異常はみられなかったが,内臓検査においては,横隔膜ヘルニアが 200
mg/kg/day 群で 7 胎児(5 母動物),400 mg/kg/day 群で 32 胎児(13 母動物)にみられた.また,
400 mg/kg/day 群では横隔膜ヘルニアがみられた 1 胎児に消化管及び肝臓の胸郭内への脱出によ
る肺葉の形成不全がみられた.ほとんどの胎児では横隔膜ヘルニアは右側に認められた.
以上より,セレコキシブを SD 系 IGS 妊娠ラットの胎児の器官形成期に投与した際には,100
mg/kg/day 以上で横隔膜ヘルニアがみられ,横隔膜ヘルニアに関する無毒性量は 30 mg/kg であっ
た.
28
- -
2.6.6.6.3 ウサギにおける胚・胎児発生に関する試験
················································································
4.2.3.5.2-5,6(参),7
添付資料
セレコキシブを妊娠ウサギの胎児の器官形成期に投与した際の,母動物及び胎児に及ぼす影
響について検討した.初めの試験において,胎児に心室中隔欠損が低頻度ながらみられたため,
追加試験においてセレコキシブ投与との関連について検討した.
2.6.6.6.3.1 ウサギにおける胚・胎児発生に関する経口投与試験
····················································································
添付資料
4.2.3.5.2-5,6(参)
投与量設定試験において,300 mg/kg/day までは母動物及び胎児に投与の影響はみられなかっ
たが,600 mg/kg/day では母動物で体重及び摂餌量の減少,着床後死亡数の増加及び生存胎児数
の減少がみられた.そこで,本試験における高用量を 300 mg/kg/day とし,以下 150 及び 60
mg/kg/day を設定した.
各群 20 匹のニュージーランドホワイト雌ウサギに,0.1 %ポリソルベート 80 を含む 0.5 %メ
チルセルロース水溶液に懸濁したセレコキシブを妊娠 7 日から 18 日まで 1 日 1 回反復強制経口
投与した.妊娠 29 日に帝王切開し,母動物の剖検,胎児の外表,内臓及び骨格検査を実施した.
また,サテライト群を別途設定して妊娠 7 日から 19 日までセレコキシブを投与し,妊娠 7 日(初
回投与)及び妊娠 19 日に血漿中薬物濃度を測定した.
母動物にセレコキシブ投与に起因した死亡及び一般状態の変化は認められず,体重及び摂餌
量にも影響はみられなかった.いずれの投与量においても,黄体数,着床数,着床前死亡数,
死亡胎児数に異常はみられなかった.
300 mg/kg/day で着床後死亡数の増加及び生存胎児数の減少がみられた.
60 及び 150 mg/kg/day
で生存胎児数に統計学的に有意な減少が認められたが,ウサギの生殖発生毒性試験では,生存
胎児数が顕著に少ない母体が散見され,このような母体由来のデータが群の平均値に大きな影
響を与える場合が多い.60 及び 150 mg/kg/day 群では生存胎児数の減少した母体数に対照群と
の差はなく,また,両群の生存胎児数に投与量との相関がみられなかった.また,本試験では
すべてのセレコキシブ投与群で黄体数が対照群に比べて少ない傾向があり,着床前死亡数に差
がないことから,結果としてセレコキシブ投与群の着床数には,黄体数と同様に,対照群に比
べて少ない傾向があった.更に,着床後においても 60 及び 150 mg/kg では死亡数に増加が認め
られないことから,60 及び 150 mg/kg/day において生存胎児数が低値を示した原因はセレコキ
シブの影響を受けない黄体数に求めることが妥当と考えられた.
いずれの投与量においても胎児体重にセレコキシブ投与の影響はみられなかった.胎児の外
表検査ではセレコキシブ投与に関連した異常は認められなかった.内臓検査では大動脈縮窄及
び肺動脈狭窄を伴う心室中隔欠損が 150 mg/kg/day 群で 1 胎児に,300 mg/kg/day 群で 2 胎児に
みられたが背景データ 10)の範囲内であった.骨格検査では 150 及び 300 mg/kg/day 群で胸骨分節
癒合の発現頻度が増加したが,150 mg/kg/day 群で 50 %の母動物にみられたのに対し,対照群で
29
- -
5 %,300 mg/kg/day 群で 25 %と用量依存性が明らかではなかった.胸骨分節癒合は本試験系に
おいて一般的にみられる異常であり
11)
,セレコキシブ投与との関連はないと考えられた.血漿
中薬物濃度は投与量に従って上昇した.
以上の結果より,本試験においてセレコキシブを妊娠ウサギの胎児の器官形成期に投与した
際の無毒性量は,母動物に対して毒性がみられなかったことから,一般毒性については 300
mg/kg/day であった.また,母動物の生殖能及び胎児に対する無毒性量は,300 mg/kg/day で着
床後死亡の増加及び生存胎児数の減少がみられたことから,いずれも 150 mg/kg/day と考えられ
た.母動物の 150 mg/kg/day における AUC24h(41.5 μg•hr/mL)は臨床推奨用量の AUC の 3.8 倍
以上であった.
2.6.6.6.3.2
ウサギにおける胚・胎児発生に関する経口投与試験(心室中隔欠損の
検討) ·················································································· 添付資料 4.2.3.5.2-5,7
ウサギにおける胚・胎児発生に関する経口投与試験において,150 及び 300 mg/kg/day 群でそ
れぞれ1例及び 2 例の胎児に心室中隔欠損がみられた.そこで,セレコキシブ投与による心室
中隔欠損発生数の増加の再現性について検討した.投与量は先の試験で胎児に心室中隔欠損が
認められた 150 及び 300 mg/kg/day を設定した.
各群 22 匹のニュージーランドホワイト雌ウサギに,0.1 %ポリソルベート 80 を含む 0.5 %メ
チルセルロース水溶液に懸濁したセレコキシブを妊娠 7 日から 19 日まで 1 日 1 回反復強制経口
投与した.対照群の動物数はセレコキシブ投与群の 2 倍とした.妊娠 29 日に帝王切開し,母動
物の剖検,胎児の外表及び内臓検査を実施した.また,サテライト群を別途設定して同様に被
験物質を投与し,妊娠 19 日(最終投与)の血漿中薬物濃度を測定した.
母動物においては,妊娠 20 日以降,いずれの投与量においても体重の増加抑制が認められ,
着床後死亡数の増加及び生存胎児数の減少を反映した変化と考えられた.本試験では先に実施
した試験でみられたような黄体数の低値がみられないにもかかわらず,生存胎児数の減少及び
生存胎児数が減少した母体数の増加が認められたことから,150 及び 300 mg/kg/day はセレコキ
シブ投与による胎児に対する毒性が認められた投与量と考えられた.両試験において 150
mg/kg/day 群の所見に差がみられた原因の一つとして,本試験における曝露量(AUC24h)が先に
実施した試験と比較して約 20 %高かったことが考えられる.
母動物の一般状態及び摂餌量にはセレコキシブ投与の影響はみられなかった.血漿中薬物濃
度は投与量に従って上昇した.
胎児検査においては,心室中隔欠損が 150 mg/kg/day 群で 2 胎児,300 mg/kg/day 群で 4 胎児
に認められた.心室中隔欠損は本系統のウサギでは自然発生的に認められ,本試験における発
生頻度は,背景データの範囲内であった 10).
以上,ウサギにおける胚・胎児発生に関する 2 試験の成績を総合的に考察すると,母動物の
30
- -
妊娠 20 日以降の体重増加量の減少,着床後死亡の増加及び生存胎児数の減少が 150 mg/kg 以上
で認められたことから,セレコキシブをウサギの器官形成期に投与した際の無毒性量は,母動
物の一般毒性,生殖能及び胎児のいずれについても 60 mg/kg/day と考えられた.無毒性量にお
ける母体への曝露は AUC 比で臨床推奨用量の 2.1 倍以上である.
2.6.6.6.4
ラットにおける出生前及び出生後の発生並びに母体の機能に関する経
口投与試験 ························································ 添付資料 4.2.3.5.1-1,4.2.3.5.3-1
SD 系雌ラットにセレコキシブを胎児の器官形成期,周産期及び授乳期を通して投与した際の
母動物の妊娠,分娩,哺育能に及ぼす影響を検討するとともに,F1 出生児の生後の成長及び発
達,生殖機能に及ぼす影響を検討した.
ラットにおける受胎能及び初期胚発生に関する試験において,300 mg/kg/day 以上で瀕死例が
みられたことから,本試験では 100 mg/kg/day を高用量とし,以下 30 及び 10 mg/kg/day を設定
した.
各群 25 匹の SD 系雌ラットに,0.1 %ポリソルベート 80 を含む 0.5 %メチルセルロース水溶
液に懸濁したセレコキシブを妊娠 6 日から授乳 21 日まで 1 日 1 回反復強制経口投与した.出生
児は出生後 21 日に離乳し,F1 として各同腹児から雌雄各 1 匹を無作為に選択し,それ以外は屠
殺して肉眼的に検査した.F1 については,身体的発達,反射及び知覚の発達,行動,生殖機能
を検査した.母動物の一部とその出生児について離乳日の血漿中薬物濃度を測定した.
母動物(F0)では 30 mg/kg/day 群で 1 例,100 mg/kg/day 群で 8 例が死亡あるいは瀕死となっ
た.これらの動物では,削痩,脱水,低体温(触診による),自発運動の減少,皮膚の蒼白化,
浅呼吸,膣分泌物,腹部に硬結部位等がみられ,死亡原因はセレコキシブ投与に起因した消化
管障害及びそれに伴う腹膜炎と考えられた.
生存動物では一般状態及び体重にセレコキシブ投与の影響はみられなかった.10 及び 30
mg/kg/day 群で妊娠 6~9 日に軽度の摂餌量の減少がみられたが,有意差はなかった.100
mg/kg/day 群では妊娠 6~9 日に摂餌量の減少がみられた.この摂餌量の減少は統計学的に有意
な変化でありセレコキシブ投与に起因すると考えられるが,一過性の軽度な減少であり毒性学
的意義は小さいと考えられた.
いずれの投与量においても,妊娠期間の有意な延長がみられたが,背景データ(21.4~22.0
日)7)の範囲内の軽度な変化であり,かつ,投与量依存性も明確でないことから毒性学的意義は
ないと考えられた.分娩異常を示す母動物は認められず,分娩時間にも対照群との間に有意な
差はみられなかった.
出産児(F1)では,10 mg/kg/day 群においては出生児数及び死産児数に対照群との差はみられ
なかったが,30 及び 100 mg/kg/day 群では出生児数の有意な減少がみられた.100 mg/kg/day に
おいては,出生児数の減少に加え平均死産児数の有意な増加及び死産児を有する母体数の増加
が認められることから,セレコキシブ投与が出生児の生存能に影響したと考えられた.一方,
31
- -
30 mg/kg/day 群における出生児数の減少については,死産児数には有意な増加がみられないこ
とから,この群の着床数の低値及び対照群において死産児が全く認められなかったことに起因
する偶発的変化と推察された.また,30 mg/kg/day 群における着床数の低値については,本試
験と同様の投与開始時期を設定した胚・胎児発生に関する試験において着床数に変化がみられ
ていないこと,及び,背景データ
7)
の範囲内の用量相関のみられない変化であることから,セ
レコキシブ投与とは関連のない偶発的な変化と考えられた.30 mg/kg/day 群では死産児を有す
る母動物数が有意に増加したが,背景データ 7)及び本試験の F1 対照群における死産児数[0.29
±0.66(Mean±SD)]の範囲内の軽度な変化で,対照群における発生率が 0 であったことによ
る有意差であることから毒性学的意義はないと考えられた.10 及び 30 mg/kg/day では出生率に
セレコキシブ投与の影響はみられなかった.
以上のように,本試験で認められた妊娠期間の延長,並びに,30 mg/kg/day 群における出生
児数の減少及び死産児を有する母体数の増加は,生物学的変動範囲内の偶発的な変化であり,
セレコキシブ投与と関連している可能性は低いと考えられた.
出生児の生存率,離乳率,体重に対照群との差はみられず,また,一般状態にセレコキシブ
投与の影響はみられなかった.
形態分化では 10 mg/kg/day 以上で眼瞼開裂,30 mg/kg/day 以上で耳介開展が対照群に比して早
くみられたが,これらの群における同腹児数の軽度減少に伴い分化が早くなることに関連した変
化であると考えられた.歯芽萌出にはセレコキシブ投与の影響はみられなかった.出生児の行動
発達の指標である正向反射,負の走地性,驚愕反射に被験物質投与の影響はみられなかった.
離乳後の F1 にセレコキシブ投与の影響による死亡,一般状態及び体重の変化はみられなかっ
た.視覚性置き直し反応,瞳孔反射,膣開口,聴覚性驚愕馴化及び水迷路学習等,行動・機能
及び性成熟に伴う形態的変化に投与の影響はみられなかった.生後 35 日の自発運動量は 100
mg/kg/day の雄で有意に増加したが,生後 60 日には変化がみられないことから,毒性学的に意
義のある変化ではないと考えられた.30 mg/kg 以上で陰茎亀頭と包皮の分離が遅延したが,生
殖機能に影響はみられなかった.
離乳時の F1 剖検例における 30 mg/kg/day 群の雌 1 例,100 mg/kg/day 群の雌雄各 1 例,及び,
F1 成熟動物における 10 mg/kg/day 群の雄 1 例,100 mg/kg/day 群の雌 2 例の計 6 例に横隔膜ヘル
ニアがみられた.
F1 の生殖能検査において,着床数,交尾率,交配までに要した日数,受胎率,妊娠率,妊娠
期間,分娩時間,生存児数,死産児数,外表異常を有する出生児数,出生率に群間で差はみら
れなかった.F2 の生後 4 日までの生存率,一般状態,体重,剖検所見のいずれにも,セレコキ
シブ投与の影響はみられなかった.
血漿中薬物濃度の測定により,いずれの投与量においても出産後 21 日の母動物及び出生児の
血漿中にセレコキシブが検出され,母動物に投与されたセレコキシブが乳汁中に分泌され,哺
育中の出生児が全身的に曝露されたことが示された.
以上の結果より,セレコキシブを妊娠ラットの胎児器官形成期,周産期及び授乳期を通して
投与した際には,母動物 F0 においては 30 mg/kg/day 以上で消化管障害による死亡あるいは瀕死
32
- -
がみられたため,一般毒性に対する無毒性量は 10 mg/kg/day と考えられた.また,生殖能に対
する無毒性量は,100 mg/kg/day で死産児を有する母動物数が増加したため,30 mg/kg/day と考
えられた.10 mg/kg/day における AUC24h(47.6 μg•hr/mL)は臨床推奨用量における AUC の 4.4
倍以上に相当する.次世代に対しては,最高用量までセレコキシブ投与の影響がみられなかっ
たことから,無毒性量は雌雄とも 100 mg/kg/day と考えられた.100 mg/kg/day における AUC24h
(115 μg•hr/mL)は臨床推奨用量における AUC の 10.6 倍以上に相当する.
2.6.6.7 局所刺激性試験 ······································································· 添付資料 4.2.3.6-1~2
2.6.6.7.1 ウサギにおける皮膚一次刺激性試験 ···························· 添付資料 4.2.3.6-1
セレコキシブの皮膚一次刺激性をウサギを用いて Draize 法に従って検討した.曝露量は米国
環境保護局(EPA)のガイドラインに従って 0.5 g とした.
6 匹のニュージーランドホワイト雄ウサギの背部皮膚にセレコキシブを塗布した.曝露時間
を 4 時間とし,ガーゼで半閉塞状態にして皮膚に接触させた.曝露終了時にガーゼをはがし,
残った被験物質を水で湿らせたペーパータオルを用いて皮膚から拭いとり,4,24,48 及び 72
時間後に塗布部位の皮膚病変を観察し,Draize の基準に従ってスコア化した.
セレコキシブを 4 時間,半閉塞状態でウサギの皮膚に塗布しても皮膚反応はみられず,各動
物のスコアの平均値は 0.0 であった.
以上の結果より,本試験の条件下ではセレコキシブはウサギの皮膚に対する刺激性を有さな
いと考えられた.
2.6.6.7.2 ウサギにおける眼粘膜一次刺激性試験 ························
添付資料
4.2.3.6-2
セレコキシブの眼粘膜一次刺激性をウサギを用いて Draize 法に従って検討した.曝露量は
Draize 法に準じて,セレコキシブ 0.1 mL 相当量である 0.011 g とした.
ニュージーランドホワイト雄ウサギを各 3 匹からなる非洗眼群又は洗眼群に分け,右眼結膜
嚢にセレコキシブを曝露し,左眼は無処置対照とした.洗眼群はセレコキシブ曝露 30 秒後から,
右眼を微温湯で 1 分間洗眼した.セレコキシブ曝露後約 1,24,48 及び 72 時間に刺激性反応を
観察し,Draize の方法に従ってスコア化し,Kay and Calandra の分類に従ってセレコキシブの刺
激性を判定した.曝露後 72 時間には,フルオレスセインナトリウムを用いて角膜の損傷につい
て検討した.
非洗眼群では,セレコキシブ曝露後 1 時間の観察で,軽度から中等度の結膜炎(発赤及び腫脹)
が全例にみられた.結膜に対する刺激は時間の経過とともに減少し,曝露後 48 時間までに完全に
消失した.洗眼群では刺激性反応の程度及び持続時間が明らかに減少した.すなわち,セレコキ
33
- -
シブ曝露後 1 時間には軽度から中等度の結膜炎(発赤のみ)が全例にみられたが,結膜に対する
刺激はすべての動物で曝露後 24 時間までに完全に消失した.曝露後 72 時間のフルオレスセイン
ナトリウムを用いた検査において,すべての動物の角膜に異常は認められなかった.
以上の結果から,セレコキシブをウサギの眼粘膜に曝露した際には軽微な刺激性が認められ
たが,洗眼により回復性が促進されることが明らかとなった.
2.6.6.8
その他の毒性試験
························
2.6.6.8.1 抗原性試験
添付資料
4.2.3.2-1,4~7,10,4.2.3.3.1-2~4,4.2.3.3.2-1,4.2.3.7.1-1~2
·····································································
添付資料
4.2.3.7.1-1~2
セレコキシブの抗原性をモルモットにおける能動性全身アナフィラキシー試験(ASA)及び
受身皮膚アナフィラキシー試験(PCA),マウス IgE 抗体産生を指標とするラット PCA 試験,
モルモットを用いる maximization 法による皮膚感作性試験により検討した.
2.6.6.8.1.1 モルモットにおける能動性全身アナフィラキシー(ASA)試験
··································································································
添付資料
4.2.3.7.1-1
セレコキシブの経口感作量は臨床用量にほぼ相当する 5 mg/kg 及びその 5 倍量の 25 mg/kg と
した.皮下感作では,臨床用量のほぼ 5 倍量の 25 mg/kg とした.惹起量はセレコキシブの単回
静脈内投与により顕著なアナフィラキシー様症状が認められなかった 5 mg/kg とした.
Hartley 系雄モルモットに,0.1 %ポリソルベート 80 を含む 0.5 %メチルセルロース水溶液に懸
濁したセレコキシブを 1 日 1 回 15 日間反復経口投与,あるいはフロイントの完全アジュバント
(FCA)と混合乳化したセレコキシブを週 2 回の計 5 回背部皮下投与して感作した.陽性対照と
してウシ血清アルブミン(BSA)を FCA と混合乳化して同様に背部皮下投与した.投与経路は臨
床適用経路である経口投与に加えて,抗体産生が起きやすいとされ,モルモットによる抗原性
試験において一般的な感作経路である皮下投与を選択した.初回感作 31 日後にポリエチレング
リコール(PEG) 400 と注射用蒸留水の混液(2:1)に溶解したセレコキシブを後肢静脈内投与し
て惹起した.陽性対照群は BSA 溶液にて惹起した.誘発された症状を観察し,アナフィラキシー
反応の有無を判定した.
セレコキシブの経口投与,皮下投与のいずれの感作においても,アナフィラキシー反応はみ
られず,セレコキシブは抗原性を示さなかった.
2.6.6.8.1.2 モルモットにおける受身皮膚アナフィラキシー(PCA)試験
··································································································
添付資料
4.2.3.7.1-1
ASA 試験における感作モルモットから,初回感作 29 日後に眼窩静脈叢から採血し,得られ
た血清を無処置モルモットの背部皮内に注射した.皮内接種の 4 時間後に惹起抗原としてセレ
コキシブあるいは BSA 溶液を,1 %エバンス・ブルー溶液との等量混合液として静脈内投与し
34
- -
た.30 分後に動物を放血致死させ,剥離した背部皮膚の漏出斑の長径及び短径を測定した.漏
出斑の平均直径(長径及び短径の平均)が 5 mm 以上を陽性と判定した.
セレコキシブの経口及び皮下感作血清のいずれにおいても漏出斑は認められなかった.した
がって,セレコキシブに起因する PCA 反応はみられず,セレコキシブは抗原性を示さなかった.
2.6.6.8.1.3 マウス IgE 抗体産生を指標とするラットにおける受身皮膚アナフィラ
キシー(PCA)試験 ························································· 添付資料 4.2.3.7.1-1
セレコキシブの経口感作量は臨床用量にほぼ相当する 5 mg/kg 及びその 5 倍量の 25 mg/kg とし
た.腹腔内投与による感作では,臨床推奨用量のほぼ 5 倍量の 25 mg/kg とした.惹起量はセレコ
キシブの単回静脈内投与によりアナフィラキシー様症状が認められなかった 5 mg/kg とした.
C3H/He 系雄マウスに,0.1 %ポリソルベート 80 を含む 0.5 % メチルセルロース水溶液に懸濁
したセレコキシブを 1 日 1 回 15 日間反復経口投与,あるいは,水酸化アルミニウムゲルに懸濁
したセレコキシブを週 1 回の計 3 回腹腔内投与して感作した.陽性対照として BSA の水酸化ア
ルミニウムゲル懸濁液を同様に腹腔内投与した.投与経路は臨床適用経路である経口投与に加
えて,抗体産生が起きやすいとされ,マウスを用いる抗原性試験において一般的な感作経路で
ある腹腔内投与とした.感作マウスから初回感作 29 日後に外頸静脈又は後大静脈より採血して
得られた血清をラットの背部皮内に注射し,48 時間後に惹起抗原としてセレコキシブあるいは
BSA 溶液を,1 %エバンス・ブルー溶液との等量混合液として尾静脈内投与し,30 分後に動物
を放血致死させ,剥離した背部皮膚の漏出斑の長径及び短径を測定した.漏出斑の平均直径(長
径及び短径の平均)が 5 mm 以上を陽性と判定した.
セレコキシブの経口及び腹腔内感作血清のいずれにおいても漏出斑は認められなかった.し
たがって,セレコキシブに対する IgE 抗体の産生はみられず,セレコキシブは抗原性を示さな
かった.
2.6.6.8.1.4 モルモットにおける皮膚感作性試験 ······················· 添付資料 4.2.3.7.1-2
投与量はセレコキシブの皮膚刺激性の検討に基づいて設定した.すなわち,セレコキシブを
ワセリンに混ぜてモルモットの肩甲部皮膚に塗布しても,25 %(w/w)まで皮膚反応がみられな
かったことから,感作及び惹起におけるセレコキシブの塗布濃度を 25 %とした.
試験は Magnusson 及び Kligman の方法に準じて実施し,投与経路もこれに従った.Hartley 系雄
モルモットをセレコキシブ感作群と対照群に分け,セレコキシブ感作群には,FCA と滅菌水の乳
化物,セレコキシブのプロピレングリコール懸濁液,セレコキシブの FCA 懸濁液と滅菌水の乳化
物を肩甲部に左右対称に皮内投与して一次感作した.対照群には,FCA と滅菌水の乳化物,プロ
ピレングリコール,プロピレングリコールと FCA の乳化物を同様に皮内投与した.6 日後に,両
群の皮内投与部位にラウリル硫酸ナトリウムを塗布し,翌日,同一部位にセレコキシブ感作群に
35
- -
はセレコキシブ-ワセリン混合物(25 %)を,対照群にはワセリンを 48 時間閉塞貼布して二次
感作した.閉塞貼布(被験物質塗布)2 週間後に,全動物にセレコキシブ-ワセリン混合物(25 %)
を側腹部の右列側,対照物質としてワセリンを左列側に 24 時間閉塞貼布して惹起した.閉塞貼布
剥離後 24 及び 48 時間に惹起部位における皮膚反応を観察し,スコア化した.
セレコキシブ感作群のいずれの動物においても,セレコキシブによる皮膚反応がみられな
かったことから,セレコキシブは皮膚感作性を示さないと考えられた.
2.6.6.8.2 不純物の毒性 ··············· 添付資料 4.2.3.2-1,4~7,10,4.2.3.3.1-2~4,4.2.3.3.2-1
原薬中の類縁物質の安全性については,「新有効成分含有医薬品のうち原薬の不純物に関する
ガイドライン」(平成 7 年 9 月 25 日付薬審第 877 号)では,“原薬中に 0.1 %以上含まれる不純物
について,反復投与試験と遺伝毒性試験により安全性を評価すること”,及び“安全性試験や臨
床試験で十分安全であることが確かめられている新原薬中に存在しているすべての不純物につ
いては,試験に用いられた試料中に存在するレベルまでは安全性が確認されたものと考えるこ
とができる”とされている.これに基づいて,毒性試験に使用した原薬中の不純物の含量から,
各毒性試験における無毒性量における不純物の投与量を算出し,規格値の上限に相当する不純
物が原薬に含まれると仮定して,臨床推奨用量(400 mg/day = 8 mg/kg/day)における不純物の
投与量と比較した.
*
安 全 性 の 確 認 が 必 要 と さ れ る 閾 値 以 上 の 規 格 値 が 設 定 さ れ て い る 不 純 物 は類縁物質A
(2.3.S.4.5 規格及び試験方法の妥当性)であった.表 2.6.6.3 に各毒性試験に使用した原薬中の
不純物の含量及び無毒性量から算出した不純物の投与量を示した.
表 2.6.6.3 各毒性試験に使用した原薬中の不純物の含量及び
毒性試験
反復投与毒性
遺伝毒性
無毒性量から算出した不純物の投与量
*
類縁物質A
原薬の
含量(%) 曝露量(mg/kg/day)
ロット番号
0.20
L013-A1A
0.8
ラット 1 カ月間投与試験
0.20
0.8
K014-A4A
ラット 3 カ月間投与試験
K014-A4A
0.04
0.20
ラット 6 カ月間投与試験
0.06
K014-A2B
0.30
L013-A1B
0.47
0.12
イヌ 1 カ月間投与試験
K014-A2B
0.30
0.11
イヌ 3 カ月間投与試験
0.07
GDS-4695-042
0.20
イヌ 12 カ月間投与試験
K001-A4A
0.13
NC
復帰突然変異試験
K014-A1B
0.23
NC
in vitro 染色体異常試験
K014-A1B
0.23
NC
in vitro 遺伝子突然変異試験
0.23
1.38
K014-A1B
ラット小核試験
NC:算出不可
ヒトへの曝露量:類縁物質A* 限度値(
%)と臨床推奨用量(400 mg/day)から算出,400(mg/day) / 50(kg) ×
=
mg/kg/day
*:新薬承認情報提供時に置き換えた
36
- -
*
反復投与毒性試験において,それぞれの無毒性量において投与された類縁物質A の量は,臨床
推奨用量における曝露量を上回っていた.したがって,反復投与時の不純物の安全性について
は適切に確認されたと考えられた.遺伝毒性については,復帰突然変異試験,in vitro 染色体異
常試験,in vitro 遺伝子突然変異試験のいずれにおいても変異原性が認められず,表中に示した
含量までは安全性が確認されたと考えられた.更に,ラット小核試験においては 600 mg/kg/day
まで変異原性が認められないことが明らかになっており,これから計算される不純物の実際の
投与量は臨床推奨用量における曝露量をはるかに上回っていた.したがって,遺伝毒性につい
ても,不純物の安全性は確認されたと考えられた.
*:新薬承認情報提供時に置き換えた
37
- -
2.6.6.9 考察及び結論
2.6.6.9.1 反復投与毒性試験で認められた消化管障害について
ラットにおいては消化管に対する毒性は主に小腸の障害として認められ,投与量依存性を有
する変化であった.ラットを用いた各試験における消化管障害の無毒性量を表 2.6.6.4 に示す.
試験
1 カ月(2.6.6.3.1)1)
3 カ月(2.6.6.3.2)2)
6 カ月(2.6.6.3.3)3)
表 2.6.6.4 ラットにおける消化管障害の無毒性量
雄
臨床推奨量との
無毒性量
無毒性量
(mg/kg/day)
(mg/kg/day)
曝露比
600
400
×5.4 以上
400
400
×5.4 以上
20
20
×2.5 以上
雌
臨床推奨量との
曝露比
×14.7 以上
×9.7 以上
×4.9 以上
1):ラットにおける 1 カ月間反復経口投与毒性試験(添付資料 4.2.3.2-1)
2):ラットにおける 3 カ月間反復経口投与毒性試験(添付資料 4.2.3.2-4)
3):ラットにおける 6 カ月間反復経口投与毒性試験(添付資料 4.2.3.2-5)
消化管障害は,空腸を中心とした小腸における慢性炎症及び壊死として観察され,穿孔を経
て腹膜炎及び腹部臓器の癒着に至るものであった.
1 カ月間投与試験(添付資料 4.2.3.2-1)では,600 mg/kg/day 群の雌の 10 例中 1 例が消化管障
害により瀕死となり,この群の AUC24h(315 μg•hr/mL)は臨床推奨用量の 29.2 倍以上であった.
また,6 カ月間投与試験(添付資料 4.2.3.2-6)では 80 mg/kg/day 群の雌 1 例及び 400 mg/kg/day
群の雌 6 例が消化管障害で死亡した.これらの群の AUC24h はそれぞれ 101,150 μg•hr/mL であ
り,臨床推奨用量のそれぞれ 9.4 倍以上及び 13.9 倍以上であった.したがって,セレコキシブ
投与により消化管障害が惹起されるのは臨床用量よりも十分高い曝露が達成されたときであり,
また,6 カ月間投与試験の 400 mg/kg/day 群の休薬動物において,雌では消化管障害はみられず,
雄の 1 例に回腸に中等度の慢性炎症が認められたのみであり,消化管障害が可逆性であること
を示唆している.
NSAID はヒト及びラットの胃,十二指腸,小腸に障害を起こすことが知られている.セレコ
キシブ及び NSAID のラットにおける消化管障害と投与量との関連を表 2.6.6.5 に示す.セレコ
キシブの単回投与試験(添付資料 4.2.3.1-1)では投与可能な最大量である 2000 mg/kg を投与し
ても消化管障害はみられなかった.一方,NSAID では,ラットにイブプロフェンを 1000 ある
いは 1600 mg/kg 単回経口投与したときに,それぞれ投与 4~8 あるいは 1~6 日後に穿孔性の消化
管潰瘍による死亡が,ナプロキセンでは 250 mg/kg の単回経口投与により,投与 6~8 日後に穿
孔性の消化管潰瘍による死亡が,また,エトドラクでは 45 mg/kg 以上の単回投与で腹腔内臓器
の癒着が,68 mg/kg 以上では消化管障害による死亡がみられることが報告されている 12,13).こ
れらの NSAID では投与期間が長くなると消化管障害のリスクが増大することも報告されてお
り,セレコキシブに比べて障害が認められる投与量と臨床推奨量との比が小さい
14,15)
.また,
単回投与における消化管障害については,NSAID が薬効量においても消化管粘膜障害を惹起す
るのに対し,セレコキシブでは抗炎症,鎮痛作用を示す用量において消化管粘膜障害作用は認
38
- -
められなかった(2.6.2.2.5 消化管粘膜に対する作用).これらの結果は,選択的 COX-2 阻害薬
が,COX-1 及び COX-2 を同程度あるいは COX-1 をより強く阻害する NSAID に比べて消化管障
害が弱いという報告と一致しており
16,17)
,NS-398,SC-58125,L-745337,ロフェコキシブ等の
選択的 COX-2 阻害薬においても,同様の傾向がみられることが報告されている 18-23).
表 2.6.6.5 COX 阻害薬のラットにおける消化管障害 -毒性が認められる投与量-
選択的 COX-2
NSAID
試験
阻害薬
セレコキシブ
イブプロフェン ナプロキセン インドメタシン エトドラク
>2000 mg/kg
1000 mg/kg
250 mg/kg
45 mg/kg
単回投与
(>250)
(83)
(21)
(5.6)
180 mg/kg/day
30 mg/kg/day
2 mg/kg/day
8 mg/kg/day
6~12 カ月 80 mg/kg/day
(1.3)
(10)
(15)
(2.5)
(1.0)
投与
( )は本邦における臨床最高用量に対する比,臨床最高用量はヒトの体重を 50 kg として換算.
セレコキシブ,NSAID ともに炎症性疾患における臨床最高用量に対する比を示す.
セレコキシブの反復投与時の消化管障害についての無毒性量は 20 mg/kg/day であり,臨床推奨用量の 2.5 倍以上.
NSAID による消化管障害の機序は,消化管における COX-1 阻害によるプロスタグランジン
合成阻害,すなわち,プロスタグランジンが有する粘液分泌促進作用や粘膜血流量増加作用,
重炭酸イオン分泌促進作用,細胞保護作用が低下・消失することに基づくものと考えられてい
る
17,21,24)
.また,分裂増殖を盛んに繰り返す消化管,とくに腸上皮細胞においては,細胞分裂
とアポトーシスのバランスが腸粘膜の正常構造を維持する上で重要であり,COX-1 がこれに関
与しているとの報告もみられる 25).一方,セレコキシブは炎症部位において COX-2 を選択的に
阻害するため,非炎症部位における COX-1 が関与する生理機能への影響は NSAID に比べて小
さいと考えられている.
NSAID の長期使用が,プロスタグランジン生合成阻害による消化管障害を引き起こすことは
良く知られているが,NSAID の投与期間に依存した消化管障害に関する無毒性量の変化が齧歯
類を用いた試験において観察されている.すなわち,フルルビプロフェンをラットに 3 カ月及
び 2 年間投与した際に,表 2.6.6.6 に示すように,投与期間の延長により無毒性量の低下が認め
られている
12)
.ナプロキセンにおいても,ラットへのより長期の反復投与により無毒性量の顕
著な低下がみられた 14).
表 2.6.6.6 フルルビプロフェンのラット 3 カ月及び 2 年試験における消化管障害の発生頻度
動物数
投与量 (mg/kg/day)
無毒性量
試験期間
0.5
2.0
4.0
8.0
(/性/群)
対照
10
0
0
0
3
1
2.0 mg/kg/day
3 カ月
50
0
6
18
18
< 0.5 mg/kg/day
2年
-a)
a):2 年試験では検討されず
セレコキシブではラット 3 カ月試験の投与量は 20,80 及び 400 mg/kg/day であり,最高投与
量の 400 mg/kg/day 群においても消化管障害は認められず,無毒性量は 400 mg/kg/day である.
39
- -
量の 400 mg/kg/day 群においても消化管障害は認められず,無毒性量は 400 mg/kg/day である.
一方,ラット 6 カ月試験では投与量は 3 カ月試験と同様の 20,80 及び 400 mg/kg/day であるが,
80 mg/kg/day 群の雌 1 例が投与 25 週に消化管障害により死亡した.400 mg/kg/day 群では,投与
15,16,17,18,21,22 週にそれぞれ雌 1 例(計 6 例)が消化管障害により死亡し,26 週解剖
の雌 1 例にも空腸における壊死,慢性炎症及び腹膜炎が認められた.したがって,本試験にお
ける無毒性量は 20 mg/kg/day であり,投与期間の延長により消化管障害が発現し,その結果と
して無毒性量の低下が認められた.消化管障害は投与 15 週以降,散発的に認められており,あ
る特定の時期に急激に発現した兆候は認められない.薬物による曝露の量及び期間は,それに
よって惹起される消化管障害の程度に関与する重要な要因である.ラット 3 カ月試験及び 6 カ
月試験におけるセレコキシブの曝露量を表 2.6.6.7 に示す.雌ラットでは,いずれの投与量にお
いても雄に比べて AUC24h が高値を示したが,雌でセレコキシブの全身クリアランスが低く,消
失半減期が長いことに起因すると考えられた.
表 2.6.6.7 ラット 3 カ月及び 6 カ月試験におけるセレコキシブの曝露量の比較
20 mg/kg/day
80 mg/kg/day
400 mg/kg/day
投与量
性別
雄
雌
雄
雌
雄
雌
18.9
34.2
36.3
75.4
58.3
105
3 カ月間反復投与
26.5
52.5
41.5
101
54.6
150
6 カ月間反復投与
表中の数字は AUC24h(μg・hr/mL)
セレコキシブの 6 カ月試験で雌ラットにおいて認められた消化管障害は,長期間の高用量の
薬物曝露によると考えられた.本試験の 80 mg/kg/day 群における AUC24h は 3 カ月試験の 400
mg/kg/day 群と同様であり,雌 1 例で消化管障害による死亡がみられたが,本所見は雌において
長期間の高い曝露が維持されたことによるものと考えられた.400 mg/kg/day 群においても,雌
のみに投与 15 から 22 週に消化管障害が認められたが,これも雌における高い曝露の持続によ
るものと考えられた.したがって,ラットにおける 6 カ月間反復投与毒性試験の結果は,消化
管障害の発現にはある投与期間が必要であるが,それを超えると急激に消化管障害が起こるこ
とを示すデータではなく,その主因は曝露量が 3 カ月試験より高かったことと考えられた.
イヌを用いた各試験における消化管障害の無毒性量を表 2.6.6.8 に示す.イヌにおいてもセレ
コキシブ投与による消化管障害が投与量依存性にみられた.消化管障害は 1 カ月間投与試験(添
付資料 4.2.3.2-6)の早期にみられ,十二指腸,空腸及び胃幽門部における潰瘍が主な変化であ
り,発生率は低いが回腸にもみられた.死亡は胃-十二指腸境界部における穿孔によるもので
あり,胃底部には障害はみられなかった.消化管障害のマーカーとなる変化として,黒色便,
歯肉の蒼白化がみられた.赤血球数,ヘマトクリット及びヘモグロビン濃度の減少,総タンパ
ク及びアルブミンの減少は消化管における出血を示唆するものであり,また,体重及び摂餌量
の減少は消化管障害が重篤であることを示唆すると考えられた.1 カ月間投与試験でみられた
消化管粘膜の障害をはじめとする病理所見は,休薬により消失しているか,あるいは,治癒過
40
- -
程にあることを示し,加えて,関連する臨床症状及び臨床病理所見等の変化が,休薬により軽
減あるいは回復していることから,イヌにおける消化管障害は休薬により回復することが示唆
された.
試験
1 カ月(2.6.6.3.4)1)
3 カ月(2.6.6.3.5)2)
12 カ月(2.6.6.3.6))3)
表 2.6.6.8 イヌにおける消化管障害の無毒性量
雄
臨床推奨量との
無毒性量
無毒性量
(mg/kg/day)
(mg/kg/day)
曝露比
25
25
×2.1 以上
35
35
×3.4 以上
35
35
×3.8 以上
雌
臨床推奨量との
曝露比
×6.6 以上
×3.6 以上
×3.1 以上
1):イヌにおける 1 カ月間反復経口投与毒性試験(添付資料 4.2.3.2-6)
2):イヌにおける 3 カ月間反復経口投与毒性試験(添付資料 4.2.3.2-7)
3):イヌにおける 12 カ月間反復経口投与毒性試験(添付資料 4.2.3.2-10)
1 カ月間投与試験において消化管障害による死亡がみられた投与量,すなわち,雄の 50
mg/kg/day 以上及び雌の 250 mg/kg/day では,AUC24h(雄の 50 mg/kg/day では 60.6 μg•hr/mL,雌
の 250 mg/kg では 135 μg•hr/mL)を用いた曝露比としては臨床推奨用量のそれぞれ 5.6 倍以上及
び 12.5 倍以上に達しており,ラットと同様に臨床用量よりも高い曝露が達成されたときに消化
管障害がみられた.イヌにおいてはセレコキシブのクリアランスに多型が認められ,血漿中セ
レコキシブの消失の遅い個体[poor metabolizer(PM)]に高用量のセレコキシブを投与すると
血漿中への蓄積がみられることが明らかにされた.これを考慮していない 1 カ月間投与試験で
は,PM において反復投与によるセレコキシブの血中への蓄積が認められ,瀕死例で顕著であっ
た.血中からの消失における多型を考慮した 3 カ月間投与試験(添付資料 4.2.3.2-7)及び 12
カ月間投与試験(添付資料 4.2.3.2-10)では,血漿中セレコキシブの消失の速い個体[extensive
metabolizer(EM)]と PM の数が等しくなるように動物を各群に割り付けた.また,次項で詳述
するように,イヌにおける消化管障害については,全身的な曝露量よりも消化管における局所
的なセレコキシブ濃度の影響が強いことが示唆されている.すなわち,ゼラチンカプセルに充
填して経口投与された高用量のセレコキシブ原薬が,局所的に高濃度に達して,たとえば COX-1
阻害を介して障害を惹起するというものである.1 カ月間投与試験において消化管障害の有無
と AUC24h 及び 1 回投与あたりのセレコキシブの摂取量との関係を精査すると,AUC24h とは無
関係に 500 mg/day 以上の摂取量で消化管障害がみられるという強い因果関係が示唆された.潰
瘍をはじめとする消化管障害は,粘膜局所におけるプロスタグランジン欠乏による症候群と考
えられており 26),局所的なセレコキシブ濃度の上昇が消化管障害に大きく影響する可能性が示
唆された.以上より,イヌにおいてみられた消化管障害はイヌを用いた毒性試験における固有
の状況により惹起された変化と考えられた.臨床的には,用量が低いこと,及び,分散/湿潤/
溶解を容易にする賦形剤を含む製剤で使用されることから,局所的な曝露量は低くなると考え
られ,消化管障害のリスクは小さいと思われた.
セレコキシブ及び NSAID のイヌにおける消化管障害と投与量との関連を表 2.6.6.9 に示す.
41
- -
イブプロフェン,ナプロキセン,インドメタシン,アスピリンは臨床用量,あるいはそれを下
回る用量で消化管障害を示す 14).,一方,セレコキシブは臨床用量を上回る用量をより長期間投
与しても消化管障害はみられなかった.したがって,COX-2 阻害の選択性が COX 阻害薬によ
る消化管障害の程度の軽減に大きく寄与していることが示された.
表 2.6.6.9 COX 阻害薬のイヌにおける消化管障害 -毒性が認められる投与量-
選択的 COX-2
NSAID
投与期間
阻害薬
セレコキシブ
イブプロフェン ナプロキセン インドメタシン アスピリン
50 mg/kg/day
8 mg/kg
≦15 mg/kg
≦2 mg/kg
1 カ月
(6.3)
(0.7)
(≦1.3)
(≦1.3)
>35 mg/kg/day
5 mg/kg
≦60 mg/kg
3 カ月
(>4.4)
(0.4)
(≦0.7)
( )は本邦における臨床最高用量に対する比,臨床最高用量はヒトの体重を 50 kg として換算.
セレコキシブ,NSAID ともに炎症性疾患における臨床最高用量に対する比を示す.
セレコキシブの 1 カ月間反復投与時の消化管障害についての無毒性量は 25 mg/kg/day であり,臨床推奨用量の 3.1
倍以上.
2.6.6.9.2 イヌ 3 カ月及び 12 カ月反復投与試験の最高投与量の設定について
イヌにおける 1 カ月間投与試験では,50 mg/kg/day 以上で消化管障害による死亡がみられ,
無毒性量は 25 mg/kg/day であった.しかし,図 2.6.6.1 に示すように消化管障害と AUC24h に明
らかな関連は認められず,消化管障害にはセレコキシブの全身曝露以外の要因も関与している
ことが示唆された.
500
450
AUC24h (μg•hr/mL)
400
消化管障害あり
消化管障害なし
350
300
250
200
150
100
50
0
25
50
100
250
投与群 (投与量,mg/kg/day)
図2.6.6.1 イヌを用いた1カ月投与試験におけるAUC24hと消化管障害の関連
42
- -
全身曝露以外の要因として,セレコキシブの局所的曝露が考えられた.すなわち,イヌにお
ける試験では,セレコキシブをゼラチンカプセルに充填して投与されたため,セレコキシブ原
末が消化管において局所的に高濃度に達し,COX-1 阻害作用を惹起する可能性があるという仮
説である.図 2.6.6.2 は 1 カ月反復投与試験における 1 日当たりのセレコキシブ投与量と AUC24h
を個体ごとにプロットしたものである.図中の水平方向の 3 本の直線は,50,100,250 mg/kg/day
群について投与量(mg/kg/day)と体重の平均から算出したそれぞれのセレコキシブ投与量
(mg/day)を示す.また,垂直方向の 4 本の直線は縦軸に近い方からそれぞれ 12 カ月試験にお
いて消化管障害がみられなかった 35 mg/kg/day 群における AUC24h,1 カ月試験において消化管
障害がみられなかった 25 mg/kg/day 群における AUC24h,12 カ月試験において消化管障害がみら
れなかった動物における最も高い AUC24h,7 日間反復静脈内投与試験において消化管障害が認
められた動物の AUC24h を示す.1 カ月試験では 500 mg/day 以上のセレコキシブ投与により消化
管障害がみられ,消化管障害の発生頻度はセレコキシブの投与量にしたがって増加している.7
日間静脈内投与試験では,全身的曝露としては高いにもかかわらず,1 例に幽門部-十二指腸
接合部に潰瘍が認められたのみであり,セレコキシブの全身的曝露以外の要因が消化管障害の
発生に関与していることを示している.一方,1 カ月間経口投与試験の投与 2 週までにみられ
た消化管障害及びそれに伴う死亡が,いずれも 500 mg/day を超えるセレコキシブ投与を受けた
動物に認められたことから,消化管粘膜における直接かつ局所的なセレコキシブ曝露が COX-1
阻害を惹起した可能性が示唆された.
No Effect
(12 Months)
No Effect
(1 Months)
Toxicity
(IV 7 Days)
消化管障害あり
3500
消化管障害なし
Poor Metabolizer
(12 Months)
3000
1日当りの投与量 (mg)
2500
2000
1500
1000
500
0
0
50
100
150
200
250
300
350
AUC24h (mg•hr/mL)
400
450
500
550
図2.6.6.2 イヌを用いた1カ月投与試験におけるセレコキシブの1日あたり投与量とAUC24h
43
- -
また,イヌにおいてはセレコキシブの血漿中からの消失に多型が認められることが,1 カ月
投与試験後に明らかになった.イヌに高用量のセレコキシブを反復投与すると,とくに PM に
おいて血漿中セレコキシブ濃度が顕著に増加することが予想される.1 カ月試験においては,
これらの多型の分布が不均等であり,消化管障害と血漿中薬物濃度の関係を不明確にしたもの
と考えられる.
以上の検討に基づき,3 カ月及び 12 カ月反復投与試験においては,1) 消化管局所におけるセ
レコキシブの影響の考慮がとくに 500 mg/day を超える投与量で重要であり,消化管障害を回避
し得る最大量を投与するために BID とし,2) 1 カ月試験において,1 カ月間の反復投与が可能
であった 25 及び 50 mg/kg/day 群の動物では,25 mg/kg/day 群の 1 例が最も高い血漿中セレコキ
シブ濃度(11.9 μg/mL)を示したことから,この用量の BID では PM において血漿中セレコキ
シブの著しい増加を引き起こし,消化管障害を惹起することが考えられたことから,最高投与
量を 35 mg/kg/day(17.5 mg/kg の BID)とした.これを超える用量の投与では PM 個体において
消化管障害を不必要に再現させ,セレコキシブの毒性について新たに付加される情報が得られ
ないまま動物を死に至らしめるだけのことである.なお,最高投与量の 35 mg/kg/day 群の PM
個体における AUC24h は 1 カ月試験で消化管障害が認められた最小の投与量である 50 mg/kg/day
群における AUC24h よりわずかに低かった(図 2.6.6.3).また,図 2.6.6.4 に示すように,3 カ月
及び 12 カ月試験における 35 mg/kg/day 群の PM 個体の AUC24h は,1 カ月試験において消化管
障害がみられた動物の AUC24h の平均より低かったが,その差はわずかであった.
100
90
1カ月試験で消化管障害が認められた最小の曝露量
80
70
AUC24h (μg•hr/mL)
60
50
40
30
20
10
0
3
6
12
試験期間 (months)
図2.6.6.3 イヌ3カ月及び12カ月投与試験における個体別セレコキシブ曝露量 (高用量群)
44
- -
死亡/消化管障害がみられた群の平均曝露量
PM個体における平均曝露量
PM個体における最大曝露量
80
AUC24h( μg•hr/mL)
70
60
50
40
30
20
10
0
1/50
3/35
6/35
12/35
投与期間(months)/投与量(mg/kg/day)
図2.6.6.4 イヌ3カ月及び12カ月投与試験における消化管障害とセレコキシブ曝露量
したがって,イヌにおける 3 カ月及び 12 カ月投与試験では,消化管障害を回避し得る最大量
のセレコキシブを曝露しても毒性がみられないことが明らかになった.無毒性量における
AUC24h は,臨床推奨用量の AUC と比較して,雄で 3.4~3.8 倍以上,雌で 3.1~3.6 倍以上であっ
た.なお,1 カ月投与試験では 50 mg/kg/day を 1 カ月間投与しても消化管障害及びそれに関連
する所見以外は認められていない.50 mg/kg/day 群における AUC24h は臨床推奨用量の 5.6 倍以
上(雄),7.8 倍以上(雌)であった.したがって,イヌにおける 3 カ月及び 12 カ月試験の結果
に基づいて,ヒトにおける安全性は評価されていると考えられる.
2.6.6.9.3 雌ラットの受胎能及び初期胚発生に対する影響について
受胎能及び初期胚発生に対する影響としては,50 mg/kg/day 以上で着床前・着床後死亡の増
加,着床数及び生存胚数の減少がみられ,セレコキシブ投与が初期胚及び着床に影響したと考
えられた.したがって,雌ラットにセレコキシブを投与した際の受胎能及び初期胚発生に対す
る無毒性量は 30 mg/kg と考えられ,無毒性量における AUC24h(63.3 μg•hr/mL)を臨床推奨用
量の AUC と比較すると 5.9 倍以上であった.これらの受胎能及び初期胚発生に対する影響は,
プロスタグランジンが関与する生殖発生過程の抑制あるいは阻害,すなわち,本薬が有する
COX-2 阻害作用によるプロスタグランジン生合成阻害が着床の成立及び着床後の初期胚に影響
したものと考えられ 27),同様の毒性は COX-1 及び COX-2 をともに阻害する NSAID においても
報告されている 14,28).
選択的 COX-2 阻害薬である NS-398 が排卵数を減少させる 29)こと,及び,COX-2 ノックアウ
トマウスは排卵が阻害され結果的に不妊となる 24)ことから,排卵に COX-2 が不可欠であること
45
- -
が示唆されている.また,インドメタシン等の NSAID についても,排卵を阻害することが報告
されている 30).セレコキシブを消化管障害のみられる投与量,すなわち,臨床推奨用量の約 30
倍以上の AUC24h に達する量まで投与しても排卵への影響はみられなかった.
2.6.6.9.4 ラット胎児における横隔膜ヘルニアの増加並びに催奇形性について
セレコキシブは胎盤を通過し,胎児も曝露されることが明らかにされている(2.6.4.4.5 胎盤
通過性).ラットにおける胚・胎児発生に関する試験(添付資料 4.2.3.5.2-2)では,胎児におけ
る横隔膜ヘルニアの増加が 30 mg/kg/day 以上でみられた.横隔膜ヘルニアの発生頻度を表
2.6.6.10 に示す.
表 2.6.6.10 妊娠ラットの胎児器官形成期にセレコキシブを投与した際の
試験
2.6.6.6.2.1
試験系
1)
2.6.6.6.2.22)
2.6.6.6.2.33)
2.6.6.6.2.33)
SD
ラット
SD
ラット
SD (IGS)
ラット
SD (IGS)
ラット
横隔膜ヘルニアの発生
試験系の
起源
0
10
Charles River
0/93
0/72
*
(0/13)
(0/10)
生産場A
Charles River
0/209
0/215
*
(0/29)
(0/29)
生産場B
0/503
Charles River
NE
(0/42)
0/569
Charles River
NE
(0/43)
投与量(mg/kg/day)
30
100
0/98
0/89
(0/14)
(0/14)
31/221*
8/216*
(6/30)*
(13/30)*
0/266
3/270
(0/21)
(3/21)
NE
NE
200
400
NE
NE
NE
NE
NE
NE
7/277
(5/21)
32/298**
(13/22)**
胎児における観察数(胎児に異常のみられた母動物数)を示す,NE:検査せず
*:p<0.05(Cochran-Armitage test 及び Fisher の直接確率法),**:p<0.01(Jonckheere の傾向検定)
SD ラット胎児における横隔膜ヘルニア発生(%)に関する背景データは,平均±標準偏差が 0.026±0.14 であり,最大値が
1.04 %である.
1):ラットにおける胚・胎児発生に関する経口投与試験(添付資料 4.2.3.5.2-1)
2):ラットにおける胚・胎児発生に関する経口投与試験(再試験)(添付資料 4.2.3.5.2-2)
3):ラット胎児における横隔膜ヘルニア発生に関する検討(添付資料 4.2.3.5.2-3~4)
横隔膜ヘルニアの発生頻度は,2 つの試験[2.6.6.6.2.1 ラットにおける胚・胎児発生に関す
る経口投与試験及び 2.6.6.6.2.2 ラットにおける胚・胎児発生に関する経口投与試験(再試験)
]
で同一系統のラットを用いたにもかかわらず,供給元の違いにより著明に変動した(0~3.7%)
.
横隔膜ヘルニアはラットに自然発生する先天的奇形であり,胎児及び成獣のいずれにも自然発
生し,その発生頻度は胎児においては最大 3.77 %,成獣では最大 7 %である 31,32).また,ラッ
トにおいては,多遺伝子性の奇形と考えられており,その発生頻度は選択的近親交配により
2.7 %(非選択的近親交配)から 33 %にまで増加する 33).更に,2.6.6.6.2.2 ラットにおける胚・
胎児発生に関する経口投与試験(再試験)においては親動物の 1 例にも先天的に横隔膜ヘルニ
アが観察された.すなわち,胎児に認められた横隔膜ヘルニアの発生頻度には試験間でばらつ
きがあることから,横隔膜ヘルニアがラットの遺伝的特性に関連する可能性が考えられた.そ
こでセレコキシブと横隔膜ヘルニアの発現との関係を国際的に遺伝子を標準化した IGS ラット
*:新薬承認情報提供時に置き換えた
46
- -
を用いて検討した(添付資料 4.2.3.5.2-3~4).その結果,IGS ラットにおいても横隔膜ヘルニ
アは母動物 1 例に先天異常として認められた.また,IGS ラットの胎児では 100 mg/kg/day 以上
の投与群で横隔膜ヘルニアが認められたが,2.6.6.6.2.2 ラットにおける胚・胎児発生に関する
経口投与試験(再試験)において横隔膜ヘルニアが発現した 30 mg/kg/day では認められず,整
合性のない結果となった.
ラットにおける胚・胎児発生に関する試験で胎児に認められた横隔膜ヘルニアは,表 2.6.6.11
に示すように,右側に発生し,発生頻度が高かった 2 つの試験(SA4599 及び
-1939-03)のい
ずれにおいても着床後死亡の増加がみられないことから非致死性であると考えられた.横隔膜
ヘルニアの病態生理では肺の形成不全の有無と呼吸・循環状態が重要と考えられるが,セレコ
キシブを投与したラットの胎児においては肺の低形成は認められず,胚・胎児発生に関する試
験と同じ投与量で実施した出生前及び出生後の発生並びに母体の機能に関する試験では,出生
児に呼吸の異常,あるいは,それを示唆する一般状態の変化は認められなかった.また,複合
奇形に関しては,たとえば,ビタミン A 欠乏においては横隔膜ヘルニアの他に,水頭,無脳,
外脳,二分脊椎等の中枢神経系の異常や頭蓋顔面骨形成異常,耳,胸腺,心円錐分岐部の異常
等の神経細胞の分化異常が認められる
33)
.また,ニトロフェンをラットの器官形成期に投与す
ると,横隔膜ヘルニアの他に水腎症が多発する
40)
.セレコキシブをラットに投与した際には,
母動物に重篤な毒性を示す投与量においても,横隔膜ヘルニアに複合する奇形は認められな
かった.したがって,セレコキシブを投与したラットの胎児において認められた横隔膜ヘルニ
アは,いわゆる催奇形性を有する化合物により誘発される横隔膜ヘルニアとは異なる表現型を
有し,かつ,自然発生性のそれと同様の表現型を有するものであった.また,胎児に横隔膜ヘ
ルニアが認められた 2 試験(SA4599 及び
-1939-02)では,母動物 2 例にも横隔膜ヘルニアが
観察され,1 例は対照群であった.母動物にみられた横隔膜ヘルニアも自然発生性の変化と表
現型が同様であったことから,これらの試験に供されたラットは横隔膜ヘルニアの遺伝的特性
*
を有していると考えられた.
生産場A 生産場から供されたラットを用いた試験(SA4362)では横
隔膜ヘルニアが発生していないことからも生産場の違いによる遺伝的特性の差が示唆された.
表 2.6.6.11 セレコキシブを投与したラット胎児にみられた横隔膜ヘルニアと
発生率 (%)
発生部位
肝以外の腹部
内臓の嵌入
肺低形成
他の奇形のク
ラスタリング
参考文献
自然発生あるいは催奇形性を有する化合物による横隔膜ヘルニアの比較
ストレス性
Celecoxib
Nitrofen
Bis-Diamine TP Blocker
自然発生
自然発生
19
59
0.02~3.77
0~14
~100
~100
左側,右側,
左側,右側,
左側
右側
右側
右側
完全型
完全型
まれ
まれ
まれ
あり
あり
あり
まれ
まれ
なし
あり
あり
あり
なし
なし
なし
あり
あり
あり
31
33
-
34-36
37,38
39
*:新薬承認情報提供時に置き換えた
47
- -
以上,1)横隔膜ヘルニアは SD ラットに自然発生する奇形であること,2)その発現率は供給源
により顕著に変動すること(0~3.7 %),3)セレコキシブを投与したラットの胎児において認め
られた横隔膜ヘルニアは,いわゆる催奇形性を有する化合物により誘発される横隔膜ヘルニア
とは異なる表現型を有し,かつ,自然発生性のそれと同様の表現型を有するものであった,こ
とから,横隔膜ヘルニアの発生頻度の増加はセレコキシブがその発生を増強した可能性は否定
できないものの,動物の遺伝的特性にも関連した変化と考えられた.
セレコキシブを妊娠ラットの胎児の器官形成期に投与した際の無毒性量は,母動物に対して
は 100 mg/kg/day,胎児に対しては 10 mg/kg/day であり,それぞれの投与量における母動物の
AUC24h は 115,47.6 μg•hr/mL であり,臨床推奨用量における AUC の 10.6 倍以上及び 4.4 倍以
上に相当する.横隔膜ヘルニアを惹起した最少用量である 30 mg/kg/day における AUC24h
(104 μg
•hr/mL)を臨床推奨用量における AUC と比較すると 9.6 倍以上となる.なお,横隔膜ヘルニア
はウサギを用いた試験ではみられなかった.
ラットにおける横隔膜ヘルニアについては,上述の考察に加えて,母動物に消化管障害ある
いは他の毒性が認められる高用量まで投与しても,これらの変化が単一で他の奇形を合併しな
いことにも注目すべきと考えられた.横隔膜ヘルニアが認められた投与量におけるセレコキシ
ブの AUC24h(104 μg•hr/mL)は臨床推奨用量の AUC の 9.6 倍以上であり,NSAID においては
母動物に対する重篤な毒性のためにこのような高いレベルの曝露は達成できていない
がって,NSAID においても催奇形性は認められている
41,42)
14)
.した
ものの,投与量が限定されているた
めに得られる情報は限られていることになる.また,COX 阻害と催奇形性の関連を示唆する報
告はない.ヒトにおいては,妊娠中の NSAID 使用に関する疫学的検討は乏しく,アスピリンに
ついてデータがある
43-45)
のみである.しかし,妊娠中のアスピリン使用が新生児の先天的異常
発生のリスクを増大させるデータは得られておらず,動物でみられた催奇形性とヒトにおける
先天的異常のリスクの関連は示されていない.したがって,セレコキシブを妊娠早期に使用し
ても,奇形を発生させる可能性は小さいと考えられた.
[2.6.6.6.2.1 ラットにおける胚・胎児発生に関する経口投与試験]では,胎児において波状
肋骨の発現例数の増加がみられた.表 2.6.6.12 に本試験及び[2.6.6.6.2.2 ラットにおける胚・
胎児発生に関する経口投与試験(再試験)]の胎児における波状肋骨の発生頻度を示す.また,
両試験に用いた SD ラットの波状肋骨に関する背景データを表 2.6.6.13 に示す.
表 2.6.6.12 ラットを用いた胚・胎児発生に関する試験における波状肋骨の発生
母動物への投与量 (mg/kg/day)
SA4362 評価母体数
骨格異常
検査胎児数
波状肋骨 胎児数 (%)
母体数 (%)
SA4599 評価母体数
骨格異常
検査胎児数
波状肋骨 胎児数 (%)
母体数 (%)
0(対照)
13
178
5 (2.8)
2 (15.4)
29
207
0
0
48
- -
10
10
137
3 (2.2)
2 (20.0)
29
218
3 (1.4)
3 (10.3)
30
14
189
7 (3.7)
4 (28.6)
30
211
0
0
100
14
169
23 (13.6)
7 (50.0)
30
222
1 (0.5)
1 (3.3)
表 2.6.6.13 ラットを用いた胚・胎児発生に関する試験における波状肋骨発生の背景データ
胎児における発生率
胎児に異常がみられた母体の割合
試験数
平均±標準偏差(%)
最大値(%)
試験数
平均±標準偏差(%)
最大値(%)
53
0.445±0.72
3.30
45
2.781±4.15
21.40
Historical Control Data (1992-1994) for Developmental and Reproductive Toxicity Studies using the Crl:CD(SD) Rat,
Charles River Laboratories, Inc.
両試験とも Charles River Laboratories, Inc.より購入した SD ラットを使用しているが,先の試
*
*
験では 生 産 場 A ,再試験では 生 産 場 B 生産場から動物を入手している.先の試験に
おいて 100 mg/kg/day 群でみられた波状肋骨の発生頻度は背景データを越えているが,両試験を
*
比較すると, 生 産 場 A から入手したラットにおける波状肋骨の発生頻度は,生 産 場 B
*
から入手したラットのそれを上回ることが明らかであり,対照群においても背景データの最大
値に近似している.両試験における母動物の TK データを表 2.6.6.14 に示す.両試験間にセレ
コキシブの曝露に大きな相違はなく,むしろ波状肋骨の増加がみられなかった再試験の方がわ
ずかに高い AUC24h を示している.
表 2.6.6.14 ラットにおける胚・胎児発生に関する試験における母動物の TK データ
母動物への投与量 (mg/kg/day)
SA4362
AUC24h (μg•hr/mL)
SA4599
AUC24h (μg•hr/mL)
10
20.3
37.1
45.7
47.6
妊娠 6 日
妊娠 16 日
妊娠 6 日
妊娠 16 日
30
43.9
67.0
54.3
104
100
134
115
140
115
結論として,[2.6.6.6.2.1 ラットにおける胚・胎児発生に関する経口投与試験]で認められ
た波状肋骨の発生頻度の増加は,以下の理由から毒性学的意義がないと考えられた.
1)
対照群においてもその発生頻度は背景データの最大値に近似する.
2)
SA4599 ではこの変化が再現しなかった.
3)
SA4599 の方が,わずかではあるが,高い AUC24h を示している.
4)
波状肋骨は変異に分類される異常であり,生後の骨化の進行に伴い消失する変化である
ことが報告されている 8,9).
ラットを用いた胚・胎児発生に関する試験では口蓋裂,眼裂開存,外脳症等胎児の外表異常
が認められた.これらの変化は最高投与量群にのみ観察されたが,いずれの所見も 443 胎児中
の 1 あるいは 2 胎児にのみ観察された異常であり,その発現率は極めて低い(表 2.6.6.15).
*:新薬承認情報提供時に置き換えた
49
- -
表 2.6.6.15 ラットを用いた胚・胎児発生に関する試験における胎児の外表異常
投与量 (mg/kg/day)
評価母体数
検査胎児数
頭蓋骨の変形
胎児数
母体数
口蓋裂
胎児数
母体数
眼裂開存
胎児数
母体数
外脳症
胎児数
母体数
脊椎裂
胎児数
母体数
(%)
(%)
(%)
(%)
(%)
(%)
(%)
(%)
(%)
(%)
0(対照)
29
416
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
10
29
433
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
30
30
427
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
100
30
443
1 (0.2)a
1 (3.3)
1 (0.2)b
1 (3.3)
2 (0.5)ab
2 (6.7)
1 (0.2)a
1 (3.3)
1 (0.2)a
1 (3.3)
a, b:同一胎児にみられた異常
表 2.6.6.16 に Charles River Laboratories, Inc.由来の SD ラットにおける胎児の外表異常の背景
データを示す.頭蓋骨の変形及び脊椎裂については当該背景データはないが,当該試験で認め
られた口蓋裂,眼裂開存及び外脳症はいずれも無処置ラットにみられる範囲内の発生頻度であ
る.
表 2.6.6.16 ラットを用いた胚・胎児発生に関する試験における胎児の外表異常の背景データ
胎児における発生頻度
胎児に異常がみられた母動物
%,Mean±SD
最大値(%)
%,Mean±SD
最大値(%)
口蓋裂
0.036±0.22
2.91
0.323±1.22
9.10
眼裂開存
0.006±0.04
0.36
0.097±0.66
5.00
外脳症
0.029±0.23
2.91
0.206±1.1
9.10
Historical Control Data (1992-1994) for Developmental and Reproductive Toxicity Studies using the Crl:CD(SD) Rat,
Charles River Laboratories, Inc.
以上より,ラットを用いた胚・胎児発生に関する試験における胎児の外表異常はセレコキシ
ブ投与により惹起された異常ではなく,これらのデータはセレコキシブの催奇形性を示唆する
データではないと考えられた.
さらに,国内臨床試験及び海外臨床試験を含む海外市販後報告で 20
年
月
日までに報
告された子宮内曝露症例において,セレコキシブとの関連が明らかな奇形などの異常は認めら
れておらず,これらのことからもセレコキシブを妊娠早期に使用しても,ヒトで横隔膜ヘルニ
アなどの奇形を発生させる可能性は小さいと考えられた.
2.6.6.9.5 妊娠末期に投与した際の影響について
ロキソプロフェン,ナプロキセン等のプロピオン酸系の NSAID をはじめとして,ジクロフェ
ナク,エトドラク,ピロキシカム等多くの NSAID では,妊娠末期のラットに投与した実験で,
プロスタグランジン生合成抑制作用による子宮収縮抑制により分娩遅延,分娩障害が報告され
ている 14,46,47).セレコキシブ投与においては,これらの障害は認められなかった.
50
- -
2.6.6.9.6 動脈管収縮について
プロスタグランジン生合成抑制作用を有する薬剤については,胎児の動脈管を収縮あるいは
閉鎖させることが知られている 48,49).また,ヒツジ 50)及びマウス 51)胎児を用いた実験において,
セレコキシブが胎児の動脈管を収縮させることが報告されている.ラットにおける出生前及び
出生後の発生並びに母体の機能に関する試験では,動脈管収縮に関連するパラメータを測定し
ていないが,出生児の一般状態にセレコキシブ投与による動脈管収縮を示す変化は認められな
かった.
多くの NSAID では,妊娠末期の動物を用いた実験においてプロスタグランジン生合成阻害作
用による分娩遅延や胎児の動脈管収縮がみられることが知られており,妊娠末期の婦人は禁忌
とされている.セレコキシブについては,表 2.6.6.17 に示すように,マウス 52),ラット 51)及び
ヒツジ 50)において妊娠末期の胎児の動脈管収縮が認められる一方,ウサギ 53)及びヒト 54)では認
められないことが報告されている.
動物種
マウス
ラット
ウサギ
ヒツジ
ヒト
表 2.6.6.17 セレコキシブの動脈管に及ぼす影響
投与時期
試験成績
妊娠末期(18 日)
動脈管収縮
妊娠後・末期(19,21 日) 動脈管収縮:妊娠 19 及び 21 日での収縮率はそれぞれ約 20 %
及び 72 %.
妊娠中期(13~20 日)
いずれも動脈管に対して影響なし.
妊娠中~後期(13~28 日)
妊娠末期(125~137 日)
In vitro 及び in vivo で動脈管収縮.インドメタシンより軽度.
妊娠 24~34 週
動脈管に対して影響なし.インドメタシンは動脈管収縮.
胎生期において動脈管の正常な発生が妨げられた場合,あるいは,動脈管に収縮又は閉鎖等
の異常が起こった場合は,胎児に十分な循環血及び酸素が供給されないばかりか,動脈管は肺
及び右心室の正常な発達に寄与していると考えられるため,胎児には心肺系及び主要な血管の
形成異常のような障害が認められる
55)
.セレコキシブのラット及びウサギを用いた胚・胎児発
生に関する試験では,心臓,肺あるいは主要血管に異常は認められず,また,早期流産を示唆
する変化も認められていないことから,セレコキシブが胎児の動脈管の発生や機能に影響を及
ぼさなかったことが示唆された.
胎児及び出生児における COX-1 及び COX-2 の発現についての報告は多いが,ラット器官形
成期の胚あるいは胎児の心臓等,種々の組織において COX-2 の発現は報告されておらず,COX-2
は妊娠早期の胚又は胎児において機能を有さないことが示唆されている
56)
.妊娠後期のブタ胎
児及び妊娠後期から末期にかけてのヒツジ胎児の動脈管には主に COX-1 の発現が認められ,一
方,ブタ新生児には COX-1 及び COX-2 のいずれもが認められている
57,58)
.したがって,妊娠
末期以前の動脈管においては COX-1 が重要であり,COX-2 はそれ以降の時期に重要性を帯びて
くる可能性が考えられている.ヒト胎児の動脈管においても主に発現しているのは COX-1 であ
り,COX-2 の発現は軽度である 59,60).Stika らが実施した臨床試験では,妊娠 24 から 34 週に早
期陣痛が認められた妊婦にセレコキシブあるいはインドメタシンを投与し,動脈管の血流速度
51
- -
等に及ぼす影響が評価されている.この試験ではそれぞれの薬物投与群で投与後の観測値を投
与前値と比較しているため,薬物間の比較のみならず,薬物個々についての評価が可能である.
その結果,インドメタシンが動脈管収縮の指標である最大血流速度を有意に増大させた一方,
セレコキシブでは変化がなかったことから,セレコキシブはヒト胎児の動脈管収縮作用を有さ
ないことが示された 54).
以上,セレコキシブに関するヒト及び動物における文献報告並びにラット及びウサギを用い
た生殖発生毒性試験成績を総合的に考察すると,末期以外の妊婦を禁忌とする必要性は示唆さ
れていないと考えられた.
2.6.6.9.7
ほ乳類の培養細胞を用いる染色体異常試験における核内倍加細胞の増
加について
CHO 細胞を用いる染色体異常試験は,代謝活性化系(ラット肝 S9)非存在下あるいは存在下
にセレコキシブを 4 時間曝露する系,代謝活性化系非存在下にセレコキシブを 24 時間曝露する
系の 3 条件で実施された.いずれの条件においても染色体の構造異常は認められなかったが,
代謝活性化系の存在下セレコキシブを 4 時間曝露する条件では,表 2.6.6.18 に示すように,核
内倍加細胞の増加が認められた.代謝活性化系非存在下では核内倍加細胞の増加は認められず,
セレコキシブそれ自体が DNA に影響している可能性はないと考えられた.
表 2.6.6.18 核内倍加細胞の出現比率(代謝活性化系存在下,セレコキシブ 4 時間曝露)
Assay No.
1
濃度(μg/mL)
0 (DMSO)
20
40
細胞生存率(%)
100
100
41
核内倍加細胞比率(%)
0
4
14
2
0 (DMSO)
30
40
100
70
46
1
10
9
3
0 (DMSO)
20
30
40
100
116
97
45
0.5
0
3
17
核内倍加細胞は 3 回実施した試験のいずれにおいても 40 μg/mL で増加しているが,この濃度
での細胞生存率は 41~46 %であり,細胞毒性が認められる濃度である.一方,細胞毒性が認め
られないと考えられる濃度においては核内倍加細胞の増加は認められなかった.
核内倍加細胞の増加は,代謝活性化系の存在下,細胞毒性が認められる用量においてのみ認
められたことから,セレコキシブ曝露との関連において生物学的意義はないと考えられた.核
内倍加のメカニズムについては不明な点が多く,数的異常についてはこの試験の結果だけでな
く他の試験系をあわせて総合的に評価する必要がある.ラットを用いる小核試験ではセレコキ
シブに染色体異常誘発性は認められず,マウス及びラットにおけるがん原性試験において,セ
52
- -
レコキシブはがん原性を示さなかった.
以上から,核内倍加細胞の増加は in vitro の試験系において,細胞毒性がみられる用量で特異
的にみられた変化であり,セレコキシブが染色体異常誘発性を有することを示す所見ではない
と考えられた.
2.6.6.9.8 結論
得られた毒性学的所見はセレコキシブを大量投与した際にみられる COX 阻害によるプロス
タグランジン合成阻害に基づくものと考えられた.すなわち,それらはすべて COX 阻害薬によ
るプロスタグランジン合成阻害の結果としての毒性としてすでに知られているものであり,か
つ,選択的 COX-2 阻害作用を有するセレコキシブにおいては,表 2.6.6.19 に示すように,臨床
における曝露よりも高い曝露が達成されたときにのみみられた毒性であった.
ラット及びイヌにおける一般毒性として,小腸を中心とした潰瘍,炎症,穿孔がみられた.
これらの消化管障害は,NSAID では臨床用量と同じか,あるいはそれ以下の曝露でも認められ
るのに対し,セレコキシブで消化管障害がみられた曝露レベルは,臨床推奨用量における曝露
に対してラットで 3.8 倍以上,イヌで 5.6 倍以上であった.なお,NSAID で知られているアナ
フィラキシー,腎乳頭壊死をはじめとする腎障害,血小板凝集抑制による出血傾向は示唆され
なかった.
生殖発生毒性試験では,初期胚発生への影響に関する試験において,着床及び着床後の初期
胚に対する影響が認められた.また,出生前及び出生後の発生に関する試験において,死産児
数が増加した.これらの毒性は,COX 阻害によりプロスタグランジン合成が阻害される結果,
着床及び妊娠の維持に影響したものとして NSAID で知られており,セレコキシブにおいては臨
床推奨用量のそれぞれ 8.4 倍以上,10.6 倍以上の曝露においてみられた毒性であった.NSAID
でみられる排卵への影響,妊娠期間延長,分娩異常はセレコキシブの投与においては認められ
なかった.
53
- -
試験
ラット
1 カ月 1)
ラット
3 カ月 2)
ラット
6 カ月 3)
イヌ
1 カ月 4)
イヌ
3 カ月 5)
イヌ
12 カ月 6)
ラット
ICH-17)
ラット
ICH-38)
ウサギ
ICH-39)
ラット
ICH-210)
表 2.6.6.19 各毒性試験における無毒性量,最小毒性量における AUC24h
及び臨床推奨用量における AUC に対する比
LOAEL
NOAEL
AUC24h
臨床推奨用量における
(mg/kg
(mg/kg
(μg•hr/mL)
AUC に対する比
/day) NOAEL
/day)
LOAEL
NOAEL
LOAEL
600
58.2
雄
-
-
× 5.4 以上
-
400
600
159
315
雌
× 14.7 以上
× 29.2 以上
400
58.3
雄
-
-
× 5.4 以上
-
400
105
雌
-
-
× 9.7 以上
-
20
80
26.5
41.5
雄
× 2.5 以上
× 3.8 以上
20
80
52.5
101
雌
× 4.9 以上
× 9.4 以上
25
50
22.2
60.6
雄
× 2.1 以上
× 5.6 以上
25
50
71.5
83.7
雌
× 6.6 以上
× 7.8 以上
35
36.8
雄
-
-
× 3.4 以上
-
(17.5 BID)
35
39.3
雌
-
-
× 3.6 以上
-
(17.5 BID)
35
41.3
雄
-
-
× 3.8 以上
-
(17.5 BID)
35
33.2
雌
-
-
× 3.1 以上
-
(17.5 BID)
一般毒性
600
58.2
-
-
× 5.4 以上
-
雄
生殖能
NA
NA
一般毒性
60
300
NA
NA
雌
30
50
63.3
90.9
× 5.9 以上
× 8.4 以上
生殖能
母
一般毒性
100
115
-
-
× 10.6 以上
-
動
生殖能
物
10
30
47.6
104
胎児
× 4.4 以上
× 9.6 以上
母
一般毒性
60
150
22.5
53.4
× 2.1 以上
× 4.9 以上
動
生殖能
物
60
150
22.5
53.4
胎児
× 2.1 以上
× 4.9 以上
一般毒性
× 4.4 以上
× 9.6 以上
10
30
47.6
104
F0
30
100
104
115
生殖能
× 9.6 以上
× 10.6 以上
F1
100
115
-
-
× 10.6 以上
-
NOAEL:無毒性量,LOAEL:最小毒性量,NA:対応するデータなし,BID:1 日 2 回投与
1):2.6.6.3.1 ラットにおける 1 カ月間反復経口投与毒性試験
2):2.6.6.3.2 ラットにおける 3 カ月間反復経口投与毒性試験
3):2.6.6.3.3 ラットにおける 6 カ月間反復経口投与毒性試験
4):2.6.6.3.4 イヌにおける 1 カ月間反復経口投与毒性試験
5):2.6.6.3.5 イヌにおける 3 カ月間反復経口投与毒性試験
6):2.6.6.3.6 イヌにおける 12 カ月間反復経口投与毒性試験
7):2.6.6.6.1.1 ラットにおける受胎能及び着床までの初期胚発生に関する経口投与試験,及び,2.6.6.6.1.2 雌ラッ
トにおける低用量追加試験
8):2.6.6.6.2.2 ラットにおける胚・胎児発生に関する経口投与試験(再試験)
9):2.6.6.6.3.1
ウサギにおける胚・胎児発生に関する経口投与試験,及び,2.6.6.6.3.2
ウサギにおける胚・胎児
発生に関する経口投与試験(心室中隔欠損の検討)
10):2.6.6.6.4 ラットにおける出生前及び出生後の発生並びに母体の機能に関する経口投与試験
54
- -
引用文献
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