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石川県陶磁器商工業協同組合(石川県能美郡寺井町)
陶器ワインカップ: 九谷物語
○ 長年の不振に苦しんでいた産地組合が、デザインを活用した異素材との組み合せ
による新商品開発に成功して、平均単価 1 万円のワインカップを発売直後は年間
3 万セット以上、その後 10 年間では、合計 15 万セット(約 15 億円)以上の販
売に成功した事例。
キーワード
パイロットデザイン開発事業、異素材の組み合せ(陶器と金属)、産地と素材に詳しいデザイナ
ー、高価格帯をターゲット、パッケージ・デザインにも工夫
1.デザイン開発の背景
<産地を取り巻く状況>
○ 高度成長期以降のライフスタイルの変化により、日本の家屋の洋風化等が進んだ。それに伴
い、一般家庭から床の間がなくなる等、陶器を飾る場所や機会が徐々に少なくなっていた。
伝統的な陶器の産地として国内でも広く知られている石川県の九谷焼においても、当時、こ
のようなライフスタイルの変化の影響を受けていた。特に花器等の伝統的な置物に対する需
要の低下を背景に、年々市場規模全体が縮小する傾向にあった。
○ 昭和 59 年、このような産地を取り巻く状況を背景に、石川県能美郡寺井町泉台に「石川県
立九谷焼技術研修所」が開設された。この施設は、将来の九谷焼を担う人材を養成すること、
そしてそれを通じて産地全体の底上げを目指すことを目的に設立された機関である。
○ 同研修所は、昭和 62 年より、九谷焼の事業者が現代のライフスタイルに合った九谷焼商品
の開発を支援するため、
「パイロットデザイン開発事業」を導入した。この事業は、研修所の
職員の他、第一線で活躍するプロダクト・デザイナーを講師に迎えて、事業者に対して、商
品企画からデザイン、販売方法に至るまでの各プロセスについての実践的な指導を行うもの
で、最終的には市場で十分に競争力のある商品開発を行うことを目標としている。
図表 石川県立九谷焼技術研修所
(資料)石川県立九谷焼技術研修所 web サイトより抜粋
2.デザイン開発プロジェクト
<パイロットデザイン開発事業>
○ 現代のライフスタイルに合った商品を目指す、同研修所の「パイロットデザイン開発事業」
は、1 年をタームにカリキュラムが編成されており、参加する各企業が講師のアドバイスを
もとに自主開発する形式とされている。
○ また、同事業では、協同組合など複数で参加する場合は、
(一社のみがデザイン権を取得して
生産するのではなく)産地全体の底上げを実現するため、開発した商品について、組合の単
位で各社が生産するとともに、自社独自の販売ルートを通じての商品流通が可能であるもの
としている。このような方式の背景には、市場に各社が製造・販売する商品が流通すること
によって、商品の多様性、そしてそれを通じての産地全体の競争力強化等の相乗効果を実現
する意図がある。
○ 下表は、同事業の参加企業、主な開発商品、その内容である。同事業を通じての商品開発を
通じて、ほぼ毎年、新たな商品が市場に送り出され、その内の幾つかの商品は産地の売上を
支える程のヒット商品になっている。
図表 パイロットデザイン開発事業実施状況
年度
企業数
開発商品数
主な商品名
S62
9
2
徳利及び盆(注口、高台を六角形にした商品)
、灰皿(蓋付きの灰皿)
S63
6
3
時計(10 点)
、食器(友禅風加飾を施した器)
、アイスベール
H1
9
3
郵便受け、テーブル(テーブルトップに九谷陶板)
、食器(陶重セット)
H2
7
3
ミニ花器(異素材活用)
、カップ、脚立・屏風・風炉先
H3
12
3
照明器具(透光性磁器使用)
、ワインカップ、ゴブレット
H4
14
2
和食器・キャンドルスタンド・コーヒーカップ、2人用ポット(多目的)
H5
17
3
酒器類(透光性磁器使用)
、ジュエリーボックス、骨壺
H6
6
4
和皿、置物(童女モチーフ)
、キャンドルスタンド、カップ&ソーサー
H7
7
5
九谷玉手箱、表札、フォトフレーム、割烹食器、蹲踞
H8
6
6
公共のゴミ箱、灰皿、灯り(異素材活用)
、燭台、手あぶり、洋皿
H9
5
5
ガラス DE 九谷、ギャラリー、アロマライト、業務用食器、食器
H10
4
6
プランターカバー、アクセサリー、間仕切り、食器、割烹食器、置物
H11
6
6
蓋者、花器、置物、食器、インタリア商品、パネルボックス
H12
6
5
ローソク立て、食器(インテリア)
、花器、食器、業務用食器
H13
9
6
茶香炉、食器、子供用器、コーヒーカップ、マグカップ、蓋物
(資料)九谷焼技術研修所資料より UFJ 総合研究所作成
<陶器のワインカップ「九谷物語」>
○ 同事業の中から数多くのヒット商品が生まれた。中でも、平成 3 年のプロジェクトを通じて
商品化されたワインカップは、累計で 15 万本を売る大ヒット商品となった。
○
同商品は、器の部分に陶器を使用し、脚部分に金属を使用している点が、これまでには無い
特徴である。
図表 ワインカップ「九谷物語」
(資料)九谷焼作家北村利夫 web サイトより抜粋
<開発プロジェクト>
○ 開発プロジェクトの当初には、オールセラミックで一体となった商品開発を進めることを考
えた。しかしこの方法では、焼く度に脚部が曲がることが判明した結果、この方法を採用す
ることを断念し、最終的には脚部と器の部分を別素材にすることとなった。
○ 以降の同商品の開発プロセスでは、この脚の部分の素材開発、そして脚と器の一体化のとこ
ろが大きな課題になった。いずれも伝統の陶器の技術、素材ではクリアできない部分であっ
たことから、講師のプロダクト・デザイナーの助言(アイディア、人脈等)を通じて、これ
らの諸点の解決方法が検討された。
・脚部分に使用する金属: 九谷産地近辺には九谷焼の事業者と取引関係にある金属加工業者が
いなかったため、金属加工の産地として広く知られている新潟県三
条の業者に試作を依頼することとなった。これは産地相互の強みを
生かすという講師のアイディアによるものであった。(量産化して
いる現在は東京の金属加工業者がこの部分を製造している。
)
・陶器と金属を一体化させる接着剤: デザイナーがかつて手がけたプロジェクトで開発した接
着剤であれば、24 時間の固定で金属と陶器を永久に接
着することが可能であることから、この素材を取り入れ
ることとした。
<成功要因>
○ 商品の発売後、同商品は、そのデサイン性の高さ、ユニークなアイディア等が市場で広く評
価され、商品のライフサイクルが短い陶器の中では異例の、10 年以上も売れつづける大ヒッ
ト商品となった。
○ 同商品の成功要因について、パイロットプロジェクト担当者は、次のように分析している。
・商品コンセプトの持つ意外性: デサイン性に優れた伝統の九谷の陶器の器と金属の脚の組み
合せの持つ意外性が高く評価された。
・パッケージにも工夫: 従来の陶器の包装に用いていた木箱ではなく、デザイン性を重視した
パッケージを採用し、その表面に商品名「九谷物語」をプリントする
等、ブランドイメージをより一層高めることを意図した。
・高価格帯にターゲットを設定: デザイン性の高い商品開発と、息の長い商品流通を当初から
意図して、同商品の価格帯を¥5,000∼¥300,000 に設定し
た。
(平均単価は約¥10,000)
3.デザイン活用の成果
<産地全体を支える売上規模>
○ 既述のように、同商品は発売以降、10 年以上に亘り売れつづける等、陶器の分野では異例の
大ヒット商品となった。
○ また、平均すると毎年約 10,000 本以上を売る等、産地全体の売上規模の内の約 1%弱を支
えている。
図表 ワインカップ「九谷物語」の販売本数の推移
16,000
14,000
12,000
10,000
8,000
6,000
4,000
2,000
0
H4
H5
H6
H7
H8
H9
H10
H11
H12
H13
(資料)九谷焼技術研修所資料より UFJ 総合研究所作成
<継続的な商品開発の進展>
○ 産地全体の底上げを目指す、パイロットデザイン開発事業では、上記ワインカップ「九谷物
語」以外にも、数多くのヒット商品を生みだす等、才能、アイディアの発掘と経済的な成功
の双方の同時達成を実現した。
○ 同事業を機軸とする「石川県立九谷焼技術研修所」の機能・役割を通じて、産地全体の資源
を活用して、継続的に新規商品を生みだすモデルは既に定着していると言えよう。
○ 平成 13 年には、同研修所に隣接したインキュベーション型の支援施設として「石川県立九
谷焼技術者自立支援工房」が完成する等、このモデルの一層の強化が図られている。
九谷焼技術者自立支援工房完成
陶芸の技さらに磨いて
起業家目指し7人が製作開始へ
九谷焼の若手後継者を育成するための「石川県立九谷焼技術者自立支援工房」が、同県寺井町泉台の県立九
谷焼技術研修所隣に完成した。
九谷焼技術者の養成は、1984年に開設された同研修所で、高校卒業者以上を対象に陶芸の基礎を学ぶ2年間の「本科」、
本科修了者を対象にした1年間の「研究科」で行われている。しかし、同課程を修了しても、工房を構え、陶芸家として自立
するには、技術面、資金面など様々な問題で困難なのが現状。
同工房は、研修所卒業後、窯元などで4、5年間働いた技術者を対象に、低料金で工房を提供、3年をめどに、
陶芸の技を磨いてもらうと同時に、経営学なども指導、起業家として自立を支援する。すでに利用者7人が決ま
っており、今月から製作活動を開始する。
同研修所を卒業後、吉野谷村の陶芸家のもとで、4年間修業を積んだ小野内俊夫さん(27)は、
「若手が陶芸
家として自立するためには、技術もさることながら、卸元などにどう認知してもらえるかなど難しい問題がある。
工房のすぐ隣に卸元が店を並べる九谷焼団地があり、作品を販売するなど交流していきたい」と話している。
工房は、鉄骨造り平屋建て約1,174平方メー
トルで、総事業費は3億5,000万円。電気窯、
作業台を備え、成形から上絵付まで一貫製作出来る
個室工房(約60平方メートル)5室と、窯場、釉
薬室、石こう室、研磨室などを備え、大型作品の制
作に取り組める共同工房(約480平方メートル)
からなる。
また、共同工房内には、作品の展示や、製作風景をガラス窓越しに見学出来るギャラリー(約140平方メー
トル)も整備され、自由に見学出来るようになっている。開館時間は午前9時−午後5時まで。月曜休館。
2001年4月2日
読売新聞記事より抜粋
4.基礎データ等
石川県陶磁器商工業協同組合
本社: 石川県能美郡寺井町寺井よ 25 番地
創業: 昭和 25 年 7 月
売上: 16.3 百万円(斡旋手数料)
組合員: 117 名
事業内容: 需要開拓・振興・教育・安全対策・伝産及び産地表示・商品斡旋・IT推進・
福祉事業等
デザイナー: 株式会社コボ・デザイン 代表取締役 山村真一氏
出典:(財)国際経済交流財団の平成15年度「中小企業におけるデザインの成功事例の把
握と要因分析に係る調査研究」より。
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