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福祉情報活用法 - 日本福祉大学 名古屋キャンパス

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福祉情報活用法 - 日本福祉大学 名古屋キャンパス
福祉情報活用法
∼介護保険制度と連携して∼
福祉情報研究会
後藤順久
1
l
本文中に記載されている製品名、会社名は、すべて関係会社の商標または登録商標です。
2
はじめに
福祉領域において、福祉制度の充実やサービスの質の向上にともなう情報量の増加は著
しいものがあり、福祉情報を効率的に蓄積・加工・発信・活用することが求められている。そ
のために、情報通信システムの導入が欠かせず、目的に応じたソフトウェア開発が必要と
なっている。先進的な自治体では既に福祉総合情報システムを整備して、情報化福祉をあ
る程度実現しているものの、全体としては本格的な活用には程遠いのが現実であろう。福
祉分野の情報化は、その隣接領域である保健・医療分野に比較して一般に遅れている。そ
の理由は、福祉サービスの供給サイドにシステム導入のインセンティブが強く働かなかっ
たことに加えて、財政的な問題もあったからである。現在、人口高齢化に伴い、福祉を取
り巻く状況が大きく変化している。福祉サービスの利用者が増大することにより、利用者
ニーズの正確な把握と福祉サービス資源の効率的運用が強く望まれ、供給サイドの福祉サ
ービスの開発を始め、効率化の主要手段としてこの分野で情報化が急速に進むものと思わ
れる。
2000 年 4 月に介護保険制度が導入されたことを考え合わせると、福祉領域でサービス立
案からサービス提供まで戦略的に活用できる情報通信システムを構築し、運用することは
急務である。福祉サービスを総合的に展開する場合に、サービス供給サイド相互間での連
携がより重要となり、福祉ニーズやサービス情報の共有化は避けて通れず、その情報基盤
(インフラストラクチャ)としてネットワーク型情報システムの導入が進みつつある。さ
らに、インターネットや IC カードを中心とする IT(Information Technology:情報技術)
の進展により、プライバシーに配慮しながら市民との双方向情報のやり取りや市民自身に
よる基本情報の持ち運びが可能となり、情報化の地域的な広がりによって、地域全体で情
報化福祉の実現が図られようとしている。
ここ数年間、私たちは福祉先進都市・愛知県高浜市の福祉関連のシステム構築を担当し
ている。こうした地域福祉関連の情報通信システムの事例を参考にしながら、情報通信シ
ステムが福祉マネジメントと密接に関連し始めた福祉情報システムの構成法について本書
で述べることとする。福祉情報の基本からシステム構築・運用に至る一連の流れ、今後のシ
ステムのあり方まで、いわゆる福祉情報の活用法を分かりやすく解説するものである。ま
ず、一般に福祉領域における情報化の役割とそれを支える IT から解説し、公的な福祉領域
において中心的存在である福祉総合情報システムの現状について説明し、情報通信システ
ム構成上の課題とそのあり方について考察する。さらに、福祉情報の提供システムにおい
て新しいアイディアを示しながら、新しい福祉サービスを担える次世代福祉情報システム
について提案する。また、介護保険に対応した情報通信システムについても言及すること
とする。行政における福祉担当者だけでなく、福祉施設や福祉サービスを展開する民間組
織の方々の業務に貢献し、また、福祉を志す学生の勉学の一助となれば幸いである。
2000 年 12 月
福祉情報研究会
代表
3
後藤順久
目
次
はじめに
1.情報化とは何か
1.1 高度情報化社会の進展………………………………………………………………06
1.2 情報化の目的…………………………………………………………………………07
1.3 パーソナル・コンピュータと周辺機器の実際……………………………………09
1.4 情報システムの形態と役割…………………………………………………………17
2.福祉分野における情報化
2.1 福祉情報とは…………………………………………………………………………24
2.2 福祉業務の課題と情報化……………………………………………………………26
2.3 福祉情報化から地域情報化へ………………………………………………………27
3.システム構築の進め方
∼高浜市地域福祉情報システムを事例として∼
3.1 高浜市の概況…………………………………………………………………………32
3.2 計画策定段階…………………………………………………………………………37
3.3 システム開発段階……………………………………………………………………46
3.4 運用段階………………………………………………………………………………54
4.地域福祉情報システムの構築事例
4.1 西条市保健・医療・福祉情報システム……………………………………………58
4.2 荒川区福祉情報総合オンラインシステム…………………………………………64
4.3 白十字訪問看護支援システム………………………………………………………67
4.4 介護報酬インターネット電子請求システム………………………………………72
5.公的介護保険へ対応
5.1 介護保険と情報化……………………………………………………………………78
5.2 介護保険事務処理システム…………………………………………………………79
5.3 ケアマネジメントと情報化…………………………………………………………80
5.4 介護予防と情報化……………………………………………………………………82
5.5 社会システムナビゲータとニーズの総合把握……………………………………83
おわりに
参考文献
4
1.情報化とは何か
1.1 高度情報化社会の進展
1.2 情報化の目的
1.3 パーソナル・コンピュータと周辺機器の実際
1.4 情報システムの形態と役割
5
1.1 高度情報化社会の進展
1900 年代の後半に出現したコンピュータは、歴史的に見ても非常に大きなインパクトを
与える技術成果である。高度経済成長期に産業活動のコンピュータリゼーションの名のも
とにスタートした我が国の情報化は現在、市民社会も巻き込みながら新たな発展期を迎え
ようとしている。その背景は次の3点に絞られる。
① IT(Information Technology:情報技術)の飛躍的な発展
② 情報関連基盤整備の進展
③ 情報機器とソフトウエアのコスト低下
今後、情報通信ネットワークや各種メディアの融合により、大きな経済社会変革が生み
出されていくと考えられている。我が国の情報化の歴史をたどると以下のようにまとめら
れる。
表 1-1
年
代
我が国における情報化の歴史
情報化の進度
備
考
1950 年代
コンピュータ創生期
1960 年代
情報産業勃興期
情報社会論の提唱
1970 年代
情報化浸透期
「情報の産業化」と「産業の情報化」
汎用大型コンピュータによるシステム構築
1980 年代
情報化の新展開期
コンピュータの小型化・高性能化
パーソナル・コンピュータとネットワークの普及期
通信自由化
ニューメディア・ブーム
1990 年代
インターネットの普及期
インフラ整備と WWW・電子商取引
経済社会の大変革のうねり
1970 年代のマイクロエレクトロニクス技術の急速な発展により、情報機器の小型化・高
性能化・低価格化が可能となり、1980 年代には情報化の矛先が生活分野にも向けられ、ニ
ューメディア、CATV、パソコン通信、多機能電話、家庭用ファクシミリ、携帯電話などが
発展した。また、ホームオートメーションやキャプテンシステムのサービスが提供された
のもこの時期である。しかし、情報化の概念が個人の分野にまで急速に進展したのは 1990
年代半ばである。この時には、携帯電話、PHS の急速な普及が始まったほか、Windows3.1
の後継として Windows95 が発売され、商用開始されたインターネットに誰もがパソコンに
接続できるオープン・ネットワーク環境が提供された。それによって、世界のインターネ
ット人口はうなぎ上りに増え、1999 年末 2 億 7,600 万人を超え、2000 年末には 3 億 7,490
万人に達すると予測される。日本のインターネット人口は、現在 2,690 万人となっている。
女性の割合も初めて 30%(アメリカでは約 50%)を超え、ユーザー層も次第に広がりを見
6
せている(以上、米インターネット市場調査企業 T ポケスツ社の調査による)。また、日本
におけるパーソナル・コンピュータ世帯普及率は約 41%、ネットワーク加入率は 27%を超
え(以上、米 Prudential 社の調査による)、高速なインターネット利用が可能となる光フ
ァイバーを 2005 年までに全国の家庭まで敷設する計画(FTHT)が着実に進められているこ
とから、個人、生活分野の情報化はより現実味を帯びている状況といえる。
これまで家電製品はその制御のためにマイコンが利用されてきたが、最近、テレビ、AV
機器、電子レンジ、冷蔵庫などの家電製品にネットワーク機能が搭載され、新しく「情報
家電」「ネット家電」と呼ばれている。インターネットに接続できるテレビや電子レンジは
既に発売され、大きな話題を呼んでいる。また、冷蔵庫とインターネットを一体化させた
新しいタイプの情報家電も試作され、扉の全面にタッチ・パネルを持ち、ハードディスク、
CCD(電荷結合素子)を備え、音声入力も可能となっている。冷蔵庫の扉には様々な、メモ
が貼られ、家族間のメッセージボードとしても使われている現状に着目した新しい提案で
ある。
福祉領域でも、電気ポットによる高齢者在宅安否確認システムが開発され、電気ポット
の利用状況を通信回線経由で訪問看護ステーションや地域ボランティア団体が閲覧しよう
というものである。通常の生活をしていれば、1 日に何回かはポットを使うという習慣に注
目したアイデア商品である。
インターネット上でセキュリティが確保され、決済機能を持つようになると、クレジッ
トカードや電子キャッシュで、オンラインショッピングなどから財・サービスの提供を受
けること(EC:エレクトロニック・コマース)が可能となり、在宅の高齢者にとって計り
知れない利便性を享受することができる。一般顧客だけでなく、EC は福祉サービスの事業
者間の取引でも拡大していくであろう。ビジネスの世界では「e ビジネス」と呼ばれている
が、福祉領域でも(財)社会福祉・医療事業団主催の福祉・介護の情報化フォーラム(2000
年 6 月 19 日開催)におけるシンポジウムのタイトルに「e-care」という言葉が使われてい
る。
以上に述べた情報化は、今後も情報処理技術と通信技術の発展により、従来の情報処理、
通信、さらには放送といった複合領域もその活動対象となり、福祉領域を含めた社会や経
済に大きな影響を及ぼそうとしている。
1.2 情報化の目的
一般に情報化とは、
① 情報の生成・処理・加工
② 情報の伝達・受発信
③ 情報の蓄積
④ 情報の利用
の4つの局面を情報関連技術の導入によって強化、効率化しようとする活動の総体と定義
7
されている。このような情報化が社会に及ぼす影響は、
① 情報の大量・高速伝達による時間・空間・資源の節約
② 情報の大量・高速伝達による時間的・空間的制約の克服
③ 情報蓄積の効率化、検索の迅速化による時間的・空間的資源の節約
④ 双方向・同報など新機能の導入による新たな情報活動の始動
があるといわれている。こうした効果は日常生活や企業活動で、生産性、利便性、快適性、
信頼性などの向上として現れる。
情報化のもたらす業務の効率化による収益改善について、通商産業省などが試算した結
果を見ると(図 1-1)、経済効果が大きいと見られる 6 業種の中でも、「物流」と「ヘルスケ
ア」の2業種がさらに大きくなっている。不況下にあって、産業構造改革は避けて通るこ
とができないわけで、そのトリガーとして情報化が有効な手段となっていることが理解で
きる。福祉分野でも介護保険制度の導入などで、熾烈な競争にさらされる福祉サービス事
業者は着実な情報化投資が求められよう。
図 1-1
情報化による営業利益改善の予測
出典:文献 30)
情報化は、生産性の向上を主目的にするだけでなく、生活の質の向上にも貢献できる。
高齢社会はお互いに支援する活動、高齢者の知恵、経験、ノウハウを社会が共有する仕
組みなどが必要とされ、空間と時間を超えることができる情報通信ネットワークは、これ
らの活動や仕組みのベースとなる基本的な性格を備えている。高齢者の多くは、足腰が弱
くなって、外出がおっくうになったり、聴覚機能の衰えで、耳が遠くなったりする。しか
し、電子メールによって、新たなコミュニケーションの輪が生まれ、生活の張りやいきが
8
いの一つになる可能性を指摘されている。また、在宅における介護に情報通信システムが
各種サービスに関する情報提供に威力を発揮する。福祉領域の情報システムは、特に介護
保険の導入をきっかけとして、サービスの質の向上と、より広域的な対応という目的に向
かって前進していく。
福祉領域では多種多様のデータを取り扱っている。氏名、性別、生年月日、保険証番号
電話番号などの要介護者や身体障害者の基礎データから、処遇の記録、ADL(Activity of
Daily Living:日常生活動作)、疾病、家族の状況などの詳細なデータまで、関係組織にま
たがりながら蓄積されている。しかし、こうしたデータが活かし切れていない組織が多い
ことも事実である。こうしたデータは、台帳として紙で保管されたり、ワープロ機やパソ
コンなどで別々に電子化されていたり、保管の形は様々である。さらに各組織でバラバラ
に保管されていたのでは、有機的に結合して活用することはできない。こうした「データ」
を「情報」に変えて初めて情報化を推進する基盤ができることになる。こうした情報通信
関連技術の中心はパーソナル・コンピュータとネットワークである。次節ではパーソナル・
コンピュータを中心として福祉領域に役立つ情報通信関連技術を解説する。
高度情報化社会が進展し、情報技術が今まで以上に福祉的な目的に利用され、貢献され
ることが期待されている。
1.3 パーソナル・コンピュータと周辺機器の実際
(パーソナル・コンピュータで何ができるか)
パーソナル・コンピュータというものは、多目的に使えることを特徴としている。まず、
パーソナル・コンピュータで最も利用されることは、ワード・プロセッサー(以下、ワー
プロ)による文書の作成であろう。多様な文字の装飾が可能である。また、簡単な文法チ
ェックも行うことができる。この原稿も実はワープロによって作成し、印刷業者に持ち込
んだものである。
パーソナル・コンピュータを使えば、表の作成も簡単である。そして、合計や平均、さ
らに複雑な計算まで表のセルの中で計算して表示してくれる。個人の小遣い帳や家計管理
などの初歩的なことから統計・複雑なデータ処理など応用範囲が広い。また、結果の表に
基づいた多様なグラフを容易な操作で描くことができる。
パーソナル・コンピュータはお絵かきも得意としており、文章中に先程の表、グラフ、
さらに絵、写真などを同じ紙面にレイアウトすることが可能である。福祉領域の現場で言
えば、外部へ提出する公式文書の他、案内状・パンフレット・見積書・請求書・メニュー
などが簡単に作成できる。素人であっても、専門業者か、印刷業者が作成したような仕上
がりとなる。
個人の住所録を作成して、葉書に宛名書きすることはパーソナル・コンピュータにとっ
て朝飯前といえる。
そして、さまざまな種類の膨大なデータを処理する会計事務などは、計算を得意とするパ
9
ーソナル・コンピュータには打ってつけの仕事である。
パーソナル・コンピュータを「購入して良かった」と思うことの一つはインターネット
の世界に飛び込んだ瞬間である。つまり、パーソナル・コンピュータを単独で使うことで
なく、コンピュータ・ネットワークや電話回線に結線して通信端末として使うことである。
特に、インターネットの中でも文字、画像、動画、音声を巧みに連動させたホームページ
を見ているだけで結構楽しいものである。ページ上に配置されたアイコン、画像、文字列
などをクリックすることによって関連した世界の情報を芋づる式に検索できたりする。国
内だけでなく、世界中の人に高速に電子メールを受発信できるのもインターネットの特徴
である。時間と空間を越えて、郵便や電話に比べて格安で連絡を取ることができるのであ
る。
企業や学校ではそれぞれのパーソナル・コンピュータをネットワークで結び、資源の共
有化を行うことができる。ここで言う資源とは、プリンタであり、サーバーであり、ファ
イルであり、データベースであり、それらをパーソナル・コンピュータ利用者が共同で使
うことができることである。プリンタもそれぞれのパーソナル・コンピュータに一台ずつ
結線されているわけでなく、パーソナル・コンピュータ何台かで一台のプリンタをシェア
することになる。ネットワークはこのようなコスト削減メリットがある。
パ ー ソ ナ ル ・ コ ン ピ ュ ー タ は さ ら に 専 門 的 な こ と も 処 理 で き る 。 DTP(Desk Top
Publishing)、DTM(Desk Top Music)、DTPR(Desk Top Presentation)などと呼ばれるのがそ
れである。DTP とはパーソナル・コンピュータを使って、出版物作成のすべての作業を机上
で行うことをいう。原稿・図版などの作成、デザイン、レイアウト、校正までを行い、高
精度のイメージ・セッターでフィルム出力し、版下にする。簡易な出版物では、レーザー・
プリンタで出力したものを、そのまま版下に用いることもできる。まさしく、机の上(Desk
Top)で「印刷」である。印刷物の多い職場では、コスト削減の救世主となるであろう。先
程も述べたように、印刷業者も顔負けのきれいな紙面を作成することができる。
DTM とはパーソナル・コンピュータを使って作曲したり、編集・加工・再生することをい
う。基本的には、電子楽器などの入力機器、コンピュータとシーケンス・ソフト、音源モ
ジュール、そしてスピーカなどの出力機器を組み合わせて行う。まさしく、机の上(Desk Top)
で「音楽」である。
福祉領域では、学会発表、研究会発表、業績報告、研修など、職場の内外でプレゼンテ
ーションする機会は多い。今日、急速に普及しているのは、パーソナル・コンピュータと
液晶プロジェクタを結んで、パーソナル・コンピュータ上の画面を直接、スクリーンに投
影することである。図やテキストだけでなく、音声や動画の資料も駆使できる「マルチメ
ディア利用のプレゼンテーション」である。こうした目的を果たすために、プレゼンテー
ション 資料を 効 率 良く作 成し 、発表 す る こ と を、DTPR と呼 ん で い る。OHP(Overhead
Projector)やスライドの原稿をパーソナル・コンピュータで作成したり、パーソナル・コ
ンピュータにつないだ液晶プロジェクタから直接投影できる。
10
以上は、通常、私たちが利用しているパーソナル・コンピュータの利用法であり、この
ほかにも特殊な利用法がある。このようにパーソナル・コンピュータは、それを使うユー
ザーの目的に応じて、多様な使い方が可能となっているのである。
(周辺機器の利用)
パーソナル・コンピュータ(以下、パソコン)とは、パーソナルとネーミングされるよ
うに、主に個人での利用を目的に作られたコンピュータのことである。基本的に 1 人で 1
台を使用するように設計されている。一般的にデスクトップ型あるいは、タワー型パソコ
ン(図 1-2)は、①フロッピーディスク・ドライブ、CD-ROM ドライブを含む本体、②キー
ボード、マウス、③ディスプレイ装置などから構成される。パソコンには本体部分が不可
欠であるが、広範な福祉業務の効率化を意図する場合など、その業務課題を解決できる周
辺機器を選択することが重要である。ここでは簡単にパソコンの周辺機器を紹介する。
図 1-2
標準的なタワー型のパソコン
出典:(株)富士通提供
周辺機器とは、パソコン本体と接続して、必要に応じた機能を実現させるための機器全
般のことを指す。正確には、周辺機器にキーボード、マウス、ディスプレイも含まれるが、
一般的には既にパソコンに付属しているものを除いて、新たに購入して付加する機器を意
味する場合が多い。
代表的な周辺機器として、
①
入力装置(デジタル・カメラやイメージ・スキャナなど)
②
出力装置(プリンタや液晶プロジェクタなど)
③
外部記憶装置(ハードディスク・ドライブや CD-ROM ドライブなど)
④
通信装置(モデムやネットワーク・カードなど)
11
に分類できる。
Windows98 という標準的な OS から USB(Universal Serial Bus)に対応しており、周辺
機器は接続端子の形状、接続のタイミングを意識させることなく、自由にパソコンにつな
ぐことができる。
こうした周辺機器を選択し、上手に使いこなすことが、職場の業務の効率化に大きく貢
献することにもなる。それぞれの周辺機器の機能を知っておくことは決して損ではなく、
来るべき時期に業務課題を解決する大きな武器となる可能性がある。ただし、情報分野の
技術革新は他分野に比べて相当速いので、必要になった時にメーカーなどのホームページ
で確認するなり、周りの情報通に尋ねてみることである。
①入力装置
入力装置とはコンピュータに動作の命令やデータを送るための装置の総称である。文字
や数字がデータ処理の中心だったころはキーボードが主な入力装置だった。しかし、最近
では静止画や動画、音声などへも処理の領域は広がっており、それぞれの目的に応じて多
様な入力装置が使われている。具体的にはキーボードのほか、マウス、デジタル・カメラ、
スキャナ、ゲーム用のジョイスティック、ビデオ入力装置、音声認識装置、バーコード・
リーダーなどがある。
表 1-2
主要な入力装置
装置名
装置の説明
イメージ・スキャナ
写真や画像などをイメージ・データとしてコンピュータに取り込む装
置である。複写機でコピーをとるような操作のフラット・ベッド・ス
キャナが主流であるが、イメージ・スキャナを画像の上からなぞるよ
うに動かして取り込むハンディ・タイプや、オプション装置を付ける
ことでプリンタをスキャナとして使用できるものもある。また、入力
されたデータは画像イメージのままであるが、その中にある文字を認
識して、文字データに変換する、OCR(光学文字読取)ソフトも装置に
添付されていることが多い。
フィルムの代わりにCCD(電荷結合素子)を用いて、画像を電気信号に
変換し、そのデータをデジタル化して記録するカメラをいう。静止画
像用のカメラの場合、フィルムを使わず半導体メモリーなどに画像を
データとして記録するため、従来のカメラと異なり画像を消去して何
度でも記録できる。また、記録データはデジタル化されているため、
パソコンへの取り込みが簡単であり、パソコンで画像データの編集が
容易に行える。デジタル・ビデオは動画と音声をすべてデジタル信号
として記録することができる。多くのデジタル・ビデオはデータ出力
端子を備えており、容易にパソコンに取り込み、パソコン上で動画編
集が可能である。
メニューなどが表示されているディスプレイに、指で直接触れること
でポインティングする装置をいう。タッチ・スクリーンとも呼ぶ。
WorkPadやザウルスのようなPDA、銀行のATMなどで多用されている。
ディスプレイの上に感圧式、ないし静電式のパネルを載せ、タッチに
デジタル・カメラ
デジタル・ビデオ
タッチ・パネル
12
よる位置情報を検出して、コンピュータに送る。誰でも簡単に操作で
きることと、キーボードのような設置場所を特に必要としないという
メリットがある。手書き文字なども入力できる。また、単体で発売さ
れているタッチ・パネルをディスプレイに装着することもできる。
タッチ・パネル式パソコン
バーコード・リーダー
黒い線を太さと間隔を変えながら並べて、その組み合わせによってデ
ータを表すコードをバーコードといい、専用の読み取り機によってパ
ソコンへ入力する。コンビニなどのいわゆるPOS端末での利用が一般
的である。生産国、業種、商品コードなどを表している。また、国ご
とに決められたものから、企業内で使用される特定のものなど、多く
の種類のバーコードが利用されている。下に紹介する本格的なICカ
ードを導入しなくとも、バーコードで認識する利用者証程度であれ
ば、低コストで作成可能である。
IC カードリーダー
プラスチック・カードに埋め込まれたICの中の情報を読んだり、書き
込んだりする装置である。従来の磁気カードよりも大容量のデータを
記憶できる。そのため磁気カードよりもセキュリティが高まると同時
に、クレジット、デビット、電子マネーなど複数の機能を1枚のカー
ドに盛り込むことが可能になる。
音声認識装置
人間の音声を自動的に認識するコンピュータや機械のことをいう。一
般的には、音声信号から発声された文字列を認識し、パソコンに操作
の指令をすることや、ワープロに文字入力をさせることができる。
出典:写真は(株)富士通提供
②出力装置
コンピュータの構成要素の1つで、コンピュータが処理した結果を外部に出力する装置の総称で
ある。処理結果は人間が認識できる文字、数字、表、グラフ、画像として出力する。ディスプレイ装
置、プリンタ、液晶プロジェクタなどが一般的であるが、他にもプロッタや音声出力装置など数多く
の種類がある。
13
表 1-3
主要な出力装置
装置名
装置の説明
プリンタ
プリンタはコンピュータでの処理結果である文字や図形、表などを紙
に印刷する装置をいう。コンピュータの代表的な出力装置の1つであ
る。様々な種類があるが、パソコンに接続する代表的なものとして、
ページ・プリンタやインクジェット・プリンタがある。ページ・プリ
ンタは高品質で高速に印刷できる。4色のトナーを用いてカラー印刷
が可能なものもある。インクジェット・プリンタは、本体の小型化が
容易なこと、印字ヘッドやインクの改良により高精細な印刷が可能な
こと、カラーインクによりカラー印刷を低価格で実現できることから
個人向けプリンタの主流となっている。ただし、高精細な印刷を実現
するには、インクのにじみを抑える専用紙が必要である。
液晶プロジェクタ
パソコンに接続して、パソコン上の画面をそのままスクリーンに投影
できる装置である。液晶プロジェクタを用いると、わざわざスライド
やOHPシートに出力せずに、プレゼンテーション・ソフトで作成した
資料をパソコン上に表示するだけでスクリーンに投影できる。
出典:写真は(株)富士通提供
③外部記憶装置
メイン・メモリー以外の記憶装置のことをいう。補助記憶装置ともいう。「外部」と呼
ばれるのは、メイン・メモリーがCPUから直接制御できるのに対し、外部記憶装置が他のイ
ンタフェースを介してコントロールされるためである。ここでは、代表的なフロッピーデ
ィスク・ドライブ、ハードディスク・ドライブ、光磁気ディスク・ドライブ、CD-ROMドラ
イブ、CD-Rドライブ、DVDドライブを紹介する。
表1-4
主要な外部記憶装置
装置名
装置の説明
フロッピーディスク・ドライブ
合成樹脂の円盤(ディスク)に磁性体を塗布し、プラスチック・ケース
に収めたフロッピーディスクを読み書きする装置のことをいう。フロ
ッピのケース内のディスクが回転し、磁気ヘッドがデータの書き込み
と読み出しを行う。ハードディスクと比べるとディスクの回転速度が
低く、磁気ヘッドが直接ディスクに触れることから、アクセス速度は
あまり速くない。ディスクの大きさは3.5インチ、容量は1.44MBのも
のが主流である。
ハードディスク・ドライブ
磁気ディスクを使用した、パソコンの補助記憶装置をいう。ディスク
を高速回転させ、磁気ヘッドがデータの書き込みや読み込みを行う。
フロッピーディスクに比べるとデータへのアクセス時間が短く、記憶
14
容量が大きい。デスクトップ型パソコンには3.5インチのハードディ
スクが、ノート型パソコンには2.5インチのハードディスクがよく利
用されている。最近では、10GB以上の大容量のハードディスクが低価
格で販売されている。
光磁気ディスク・ドライブ
データの読み書きにレーザー光と磁場を利用した補助記憶装置をい
う。一般的にはMOドライブの名で知られる。データの記録/更新が自
由にできることに加え、記憶容量が230MB、640MB、1.3GBと大量のデ
ータを記録することができるという利点がある。現在、主流となって
いる記録媒体の3.5インチ光磁気ディスクでは、やや厚い点を除いて
外見上3.5インチのフロッピーディスクとほぼ同じで携帯性にも優れ
ている。ただし、アクセス速度は読み書きともハードディスクよりは
遅い。バックアップ用や文書/画像など大量データの保存用の媒体と
して使用されている。
CD-ROM ドライブ
CD-R ドライブ
CD-RW ドライブ
DVD ドライブ
CD-ROMは、音楽用に開発/規格化されたCDを用いて、パソコン用のデ
ータの読み込み媒体としたもので、CD-ROMドライブはCD-ROMを読み込
むための装置である。CD-ROMはフロッピーディスクに比べて大容量の
データを収めることができ、取り扱いも簡易であるため、各種のソフ
トウエア流通用媒体として使用されている。CD-ROMは読み込み専用で
あるが、CD-Rは、データの書き込みが一度だけ可能である。CD-RWは
データの書き込みが複数回可能である。12cmのディスク1枚で約600MB
の容量がある。DVDはCD-ROMと外見上、同じサイズでありながら、数
GBから十数GBの容量を持つ光ディスクである。容量の大きさから、映
画1本分以上の動画の記録が可能である。最近ではDVD-ROMドライブ
が低価格になってきたため、CD-ROMドライブに代わって標準で搭載さ
れることが多くなっている。
出典:写真は(株)富士通提供
④通信装置
専用線や公衆回線などの通信回線を利用して、コンピュータが他のコンピュータなどと情報のや
り取りを行う装置のことをいう。現在ではコンピュータ・システムにおける通信機能は様々な分野で
利用されており、重要な機能の1つである。例えば、インターネットやLANなどに接続するシステム
には通信機能が不可欠である。
表 1-5
主要な通信装置
装置名
装置の説明
モデム
ターミナル・アダプタ/DSU
モデムとは、電話回線(アナログ回線)などを通じ、複数のコンピュー
タ間でデータをやり取りするための装置をいう。コンピュータ内で利
用されるデータはデジタル信号であるため、モデム内部でアナログ信
号に変調し、通信回線を通じて相手のモデムに送り出す。アナログ信
号を受け取った相手側のモデムは、内部で再びアナログ信号からデジ
タル信号に復調し、コンピュータに受け渡す。ほとんどのアナログ回
線用モデムは、標準でファックスとの送受信機能も搭載している。
15
ターミナル・アダプタと DSU は同一機種にまとめられることが多い。
両者ともインターネット に接続するために欠かせない通信装置 であ
り、64/128kbps 同期通信モードを中心とした ISDN のデータ通信環境
に対応できる装置である。ISDN とは電話、ファクス、インターネッ
ト接続などのサービスを統合的に取り扱うデジタル通信網である。
ネットワーク・カード
ネットワーク・カードはパソコンを LAN に接続するための通信装置で
ある。LAN とは、オフィス内、ビル内、キャンパス内など限られた地
域で、コンピュータ同士を接続し、情報交換、情報共有、周辺装置の
共有など可能にするネットワークである。複数のコンピュータが結ば
れる通信回線を伝送路といい、この伝送路に各種のノードが接続され
るのが基本的な構成である。ノードとは接続されるクライアントやサ
ーバーなど装置の総称である。
出典:写真は(株)富士通提供
(ソフトウエアの利用)
コンピュータを動作させるための命令や処理の手順をコンピュータが理解できるように記述したも
のをソフトウエアと呼ぶ。コンピュータ本体や周辺機器などを指す「ハードウエア」に対比してこのよ
うに呼ばれる。単にソフトと省略される場合もある。ソフトウエアはハードウエアの制御およびユーザ
ーが容易にハードウエアの機能を利用できるようにするための処理を行う「基本ソフトウエア(オペレ
ーティング・システムあるいは単にOS)」と、ユーザーの業務を処理するための「アプリケーション・ソ
フトウエア(応用ソフトウエア)」に大別される。以下に、よく利用される汎用のソフトウエアを簡単に紹
介する。
表 1-6
ソフトウエア名
主要な汎用ソフトウエア
ソフトウエアの説明
OS(オペレーティング・システム) コンピュータのシステム管理と、基本的なユーザー操作環境を提供す
るソフトウエアである。基本ソフトウエアとも呼ばれる。パソコン向
けOSにはWindows、Mac OSが主流であるが、最近はLinuxやFreeBSDな
ど、自由に配布されているパソコン向けUNIXもある。このほかにも
UNIX機、汎用機、家電などの組み込み機器用のOSなども存在する。OS
が提供するシステム管理機能には、ファイル管理(外部記憶装置への
ファイルの記録や読み出し)、メモリー管理(アプリケーションが使う
メモリー領域の割り当て)、タスク管理(ソフトウエア実行の順序や優
先度の処理)、デバイス管理(キーボード、マウス、プリンタなどハー
ドウエアの制御)などがある。近年では、ネットワークの普及に伴い、
通信管理(ネットワークで交換する信号の制御)や運用管理(障害の発
見や通知)を標準で行うOSも増えている。
日本語入力ソフト
パソコンに日本語を入力するためのソフトウエアである。キーボード
から入力された文字列を文節に分けて、辞書を参照し、文脈に即した
漢字仮名混じり文に、ユーザーと対話しながら変換するものである。
例えばジャストシステムのワープロ「一太郎」は、ATOKという日本語
入力システムの変換効率の良さが人気の理由の1つである。マイクロ
ソフトのWindows版ワープロ「Word」はMS-IMEを備える。ワープロ・
16
ワープロ・ソフト
ソフトに限らず、表計算ソフト・データベース・ソフトなどあらゆる
アプリケーションで日本語入力が可能となる。
文書の作成、編集、印刷を行うためのアプリケーション・ソフトであ
る。正確にはワード・プロセッサーと呼ばれるが、略してワープロと
呼ばれることが多い。作成文書の入力、保存、印刷に至る入力から出
力までの流れを一元的に支援する。複雑なレイアウトを、マウスを使
って簡単に作成でき、長文を効率的に編集する機能を備えているもの
が多い。また、インターネット機能も強化されており、ファイルを
HTML(Hyper Text Markup Language)形式に変換してWebに登録し、リ
ンクを設定するといった機能も備わっている。
表計算ソフト
2次元の表(ワークシートと呼ぶ)を使用しデータの入力、集計、検索
などを行うためのソフトウエアである。本来、集計表を用いて手作業
で行っていた事務処理をソフトウエアで支援するものである。集計し
た結果を視覚的にグラフ表示させるなどの機能も備える。表は行と列
から構成される。行と列の交わるマス目を「セル」と呼び、データや
計算式を設定する。入力したデータを設定した計算式に基づいて計算
し、その結果を表示させることができる。データを変更すると計算値
も自動的に再計算されて結果が表示される。大規模なデータベースか
ら必要な一部のデータを表計算ソフトに抽出し、それを加工すること
によって、必要な表などを容易に作成することもできる。
データベース・ソフト
共有化、統合管理、高い独立性を目的として、大量のデータを効率よ
く管理することができる。条件に合うデータの検索を行ったり、抽出
や加工を行うことができるソフトウエアである。簡易な「カード型」
の構造のものと、「表」を基本に関係のある複数のデータを組み合わ
せて処理できるリレーショナル・データベースなどの種類がある。事
例を示すと、一般形式のファイルを使用したシステムで、住民管理、
利用実績管理、利用料計算の3つがあるとし、各ファイルには住民番
号と氏名が重複して格納されている。もし結婚などで住民の氏名に何
らかの変更が生じた場合には、3つのファイルに格納されている対象
となる住民の氏名をすべて修正しなければならない。一方、データベ
ースを使用したシステムでは、各プログラムはデータベースのデータ
を共有しており、氏名情報に変更があっても、その個所だけを修正す
ればよい。このようにデータベース上ではデータの管理が容易であ
る。高度な機能として、データセキュリティ上、ユーザーごとにデー
タの検索、更新の権限を個別に設定できる。
プレゼンテーション・ソフト
聴衆に対してインパクトを与え、効果のあるドキュメントを作成する
ソフトウエアである。見栄えの良いように多様なフォントや多彩なレ
イアウト機能を持ち、発表資料の作成に最適である。パソコンから直
接、液晶プロジェクタで投影できる。また、別途 OHP 用フィルムの作
成も可能である。
1.4 情報システムの形態と役割
(クライアント・サーバー・システム)
現在、一般企業のホワイトカラーはパソコン一人一台の時代を迎えて、職場のパソコン
はそれ単独で自立して動くスタンド・アローンタイプから、複数のコンピュータが協調し
て動作する情報ネットワーク環境が構築されている。その1つである「クライアント・サ
17
ーバー・システム1」という言葉もビジネスをはじめとする各領域で当たり前に使われるキ
ーワードになった感がある。クライアント・サーバーによるコンピュータの利用法は、集
中処理と分散処理のどちらかに分けるならば、分散処理に分類される。1 つのコンピュータ
でできることをわざわざ複数のコンピュータに分散させて、ソフトウエアを実行させると
ころに特徴がある。安価で高性能なコンピュータが出回り、役割分担して実行する方がい
ろんな面で都合が良いからである。一般的に、業務プログラムは複数パートに分けられ、
ユーザーから指示を受け取る部分、計算処理部分、データベースとの入出力部分などがあ
る。ユーザーから指示を受ける部分はグラフィックを多用してインタフェースを良く設計
すると、その処理を行うコンピュータに大きな負荷がかかることになる。集中型でこうし
たシステムを組むとグラフィック処理だけで手いっぱいとなり、他のユーザーに回す CPU
処理時間が無くなる。クライアント・サーバー・システムではこうした処理部分をグラフ
ィック処理の速いパソコンに任せ、データベース処理にはデータベース・サーバーを使用
し、共通ファイルにはファイルサーバーを使用し、プリント処理にはプリンタ・サーバー
を使用するなどして、各々の処理を効率化し、ひいては全体の処理効率をアップさせよう
とするものである。当然、システム設計段階では負荷の分散を念頭に置いて、オーバーヘ
ッド(無駄な処理)が発生しないように、またスタンドアローンで処理するより効率の悪
いものにならないように、サーバーの性能、ネットワークの性能を決定することになる。
要は、クライアント・サーバー・システムで情報や資源を共有し、あるいは情報を交換
することによってソリューションを得ることである。図 1-3 の上半分のように、各パソコン
がスタンドアローンで独立しながら仕事をして、情報が単独で存在する場合、その個人の
業務の効率化に過ぎないが、同図下半分のように、ネットワークによって、情報を一元化
し、共有すれば、組織全体の効率化、コスト削減につながる。
最近はクライアント・サーバー型のアプリケーションを 3 つの機能モジュールに分けて開発す
る方法が採用されている。これを特に 3 層アーキテクチャーと呼ぶ。
1
18
ファイル・サーバー
グラフィック処理の
使いやすいパソコン
速いパソコン
プリント処理の管理を行う
プリント・サーバー
大量のデータ処理に適する
データベース・サーバー
ラップトップ コンピュータ
各コンピュータの長所
を組み合わせてシステ
ムを構 築するのがクラ
イアント・サーバー・
システム
ラップトップ コンピュータ
図 1-3
ラップトップ コンピュータ
ラップトップ コンピュータ
ラップトップ コンピュータ
ラップトップ コンピュータ
クライアント・サーバー・システムの実現のために
(インターネットと電子メール)
インターネットとは、ネットワークとネットワークを相互に接続することによって、世
界中に広がったネットワーク環境のことをいう。本来は米国の軍事目的の構築であったが、
徐々に大学、研究所などと接続されるようになった。90年代には、企業との接続にまで進
み、商用ネットワークとしてEC(電子商取引)やEDI(電子データ交換)などに利用されるまで
になっている。
インターネット上では、電子メールのやり取りのほか、WWW(World Wide Web)と呼ばれ
る情報発信用のシステムによるホームページの公開や、ニュースグループによる情報交換、
FTP(ファイル転送プロトコル)によるファイルの配信などが行われている。
インターネット・サーバーを有する大学や研究所、企業などの場合は、LAN経由で接続で
きるが、そうでない場合には、プロバイダと呼ばれるインターネット接続サービス事業者
と契約して、電話回線を用いてインターネットと接続することができる。
電子メールとは、パソコンをネットワークに接続することで、希望する一人あるいは複
数の相手とメッセージのやり取りができる機能のことをいう。相手がコンピュータに接続
していない状態でも時間と空間を越えて送信しておくことができる。メールを送受信する
ためには、メール・アドレスが必要となる。最近のそれは「ユーザー名@ドメイン・ネー
ム」の形式が一般的である。メール・アカウントともいう。@の左にある利用者名(ユーザ
19
ー名)は、一目で分かるように氏名やニックネームを使うことが多いようである。
ホームページとは、インターネットを通じて不特定多数の人に対して閲覧してもらうた
めのマルチメディア・コンテンツのことである。ホームページはHTML(Hyper Text Markup
Language)で記述され、WWWブラウザを用いて内容を表示できる。文字だけでなく、静止画、
動画、音声などを含むページがあり、見ているだけでも十分楽しめる。ホームページは世
界中からアクセスされており、インターネット上には情報提供のための個人、企業を問わ
ず無数のページが存在する。
福祉関連のホームページとしては、行政からの情報提供、大学・専門学校の紹介、施設・
サービス紹介、文献紹介、福祉NPO紹介など多様で、徐々にユーザーの情報ニーズに応えら
れるようなページが揃ってきた段階である。代表的な検索サイトのYahooで「福祉」をキー
ワードで検索させると、2000年3月5日時点で1,479件がヒットした(図1-4)。今後は大
規模な福祉ポータルサイト(ゲートウエイ)によって、より整理された形での情報提供が
望まれる。
図1-4
Yahooによる福祉関連サイトの検索
(イントラネットとグループウエア)
マスコミなどで「イントラネット」という言葉が盛んに取り上げられている。これを導
20
入しないと、企業として厳しい生存競争に生き残れないような印象さえ与えている。
イントラネットとは、一言でいえば、社内ネットワークで、いろいろな相手と情報のや
りとりをするための道具である。一対一だけでなく、多対多で情報交換できるし、電話の
自動応答サービスのように事前に作成した内容をコンタクトしてきた人に流すこともでき
る、非常に便利な道具である。電話との違いは、音声だけでなく、文字・画像などの情報
も送信できることである。要するに世界をつなぐインターネットに対し、イントラネット
はインターネット技術を社内のネットワークへ適用していくことである。イントラネット
の最大の特色は、インターネット上にある大量の公共的データベースと組織内のネットワ
ークから生み出される膨大な情報の両方を取り込んでいくことである。やりとりがデジタ
ルデータなので、再利用が非常に簡単である。
WWW サーバーやメールサーバーなど、インターネットとイントラネットは技術的に同じも
のである。しかし、表 1-7 に示すようにイントラネット構築の目的は組織によって異なる
わけで、実際に構築されるシステムも当然組織によって異なる。両者の大きな違いの第一
は、情報の公開が原則のインターネットに対し、イントラネットでは組織内の機密情報を
取り扱い、漏洩してはいけないものである。第二は、インターネット技術だけでなく、組
織内の情報システムと融合した形でイントラネットが構築されることである。第三に、イ
ンターネットが公共の器であるのに対して、イントラネットはあくまでも組織のマネジメ
ントのためにあることである。第四に、インターネットの公開ホームページではアクセス
してくるユーザーがどのような人か、何の興味を持ってアクセスしてきたか予測できない
が、イントラネットは組織内に閉じたシステムであるのでユーザーは関係者に限定される。
表 1-7
情
インターネットとイントラネットの違い
報
技
術
目
的
ユーザー
インターネット
原則的に公開
インターネット技
術のみ
公共の器
不特定多数
イントラネット
組織内の機密情報
インターネット技
術と既存の情報シ
ステムの融合
組織の独自の目的
企業であれば営利
関係者のみ
出典:文献 34)
しかし、企業がイントラネットを導入したからといって、それだけでライバル会社に勝
つことができるわけでない。イントラネットは確かに組織を変えていくが、どう変えてい
くかは、導入した技術でなく、その組織のマネジメントにかかっているといえる。福祉関
連組織では情報化が遅れているため、イントラネットまで導入しているケースはまだ少な
いと考えられる。しかし、サービスの質を上げるためにも、近い将来の導入が望まれ、福
祉関連組織でも同様にマネジメントと情報化のあり方を検討する必要が出てくるであろう。
21
グループウエアは、社内ネットワーク上で複数の人が協力し合って作業することを目的
としたソフトウエアの総称をいう。通常、LAN上で利用することを前提に作られている。
グループウエアの主な機能には、
① 組織内ユーザーまたは外部との間でメッセージのやり取りを行う電子メール機能
② 複数のユーザー間での打合せを行う電子会議室機能
③ 会議室などの施設予約機能
④ 組織内のユーザーへ情報を公開する掲示板機能
⑤ ユーザー間で予定表を共有するスケジューラ機能
⑥ 様々な組織内書式の情報を共有するデータベース機能
⑦ りん議書や回覧などを決まった順序で流すワークフロー機能
などがある。これらの機能を活用することで、情報の共有、情報伝達の迅速化、作業の効
率化や生産性の向上を推進することが可能となる。イントラネットとグループウエアは非
常に似たもので、イントラネットが情報技術からの発想で、グループウエアがユーザーの
「こんなことがしたい」というぼんやりとした概念からの発想という違いがある程度であ
る。グループウエアは各社が製品化しているのに対して、オープンなイントラネットはど
んなアプリケーションも自分で作成する必要がある。その代わり、インターネットとの融
合が容易であるメリットがある。
今後は持ち運びができて、いつでもどこでも情報にアクセスできるモバイル・コンピュ
ーティングに向かうと言われている。移動中や外出先からでも、携帯電話、PHS、公衆電話
などを使って既存のネットワークに接続し、携帯型パソコンやPDA(携帯情報端末)によっ
て情報を電子メールで送受信したり、データの検索などのサービスを利用できる。インタ
ーネットと携帯型パソコンなどの普及により、近年脚光を浴びている。こうしたことで、
どこからでもいつでも自分の組織のイントラネットやグループウエア上の情報をやりとり
することが可能となる。在宅高齢者への対応が多い福祉専門職にとっても業務の効率化と
良好なサービスの提供につながるはずである。
22
2.福祉分野における情報化
2.1 福祉情報とは
2.2 福祉業務の課題と情報化
2.3 福祉情報化から地域情報化へ
23
2.1 福祉情報とは
福祉情報を、「住民や福祉サービスの利用者自体に関することがら、福祉に関わる施策や
サービスあるいは施設やマンパワー自体に関することがらおよびそれら両者の状況関係に
関することがらについての“報せ”であり、社会福祉に関して判断を下したり、行動を起
こしたりするための知識」「地域福祉システムを構成する諸要素の間を相互に行き交う、あ
るいは個々の構成要素内部で流通する、福祉についてのあらゆる情報」と森本(文献 6)は
定義している。本書でもこれを踏襲し、その特性、内容などを整理してみる。
福祉サービスを供給する場合に、サービス供給サイド間での連携がより重要となり、福
祉ニーズやサービス情報の共有化は避けて通れず、その基盤としてネットワーク型情報シ
ステムの導入が進みつつある。さらに、インターネットや IC カードを中心とする IT の進
展により、プライバシーに配慮しながら市民との双方向情報のやり取りや市民自身による
基本情報の持ち運びが可能となり、情報化の地域的な広がりによって、地域全体で情報の
共有化が見られるようになってきた。こうした福祉情報の共有があって初めて効果的な福
祉サービスの供給が可能となる。
福祉サービスを利用するにあたって、ADL、生活状況、病状などをサービス事業者に提示
することの交換で、サービスが提供される。要介護者のプライバシーを関係者に提示にす
ることでサービスの給付が始められる。プライバシーの開示なしにはサービスの開始もな
い。しかし、個人のプライバシーの秘密保持が公務員法などで定められており、関係する
職員はそれを遵守する必要がある。また、ボランティアなどで地域福祉を担っていると想
定される地域住民であっても、倫理教育を施すことにより、要介護者に関わるプライバシ
ーの秘密保持に努める必要がある。そうでないと、住民による活動も思った以上に促進で
きないことになる。
個人に関わる福祉情報はプライバシーとの関係で、取り扱い上、非常にセンシティブな
性質を持つことが大きな特徴であろう。一方で利用促進のために、サービス事業者はサー
ビス内容、施設情報などを積極的に迅速に広報していくことも必要である。
福祉関係組織や関係者の間でどのような種類の福祉情報が流通し、処理されているか、
8種類にまとめた。
表 2-1
福祉情報の種類
内
福祉情報の種類
容
①個人属性情報
氏名・性別・生年月日・住所などの個人に関わる基本的な情報で
ある。
②ADL・生活状況・ニーズ関連
情報
個人の ADL や心身の状況、その個人を取り巻く日常生活の状況、
そして個人の困難を克服するための各種の希望・ニーズに関わる
情報である。
福祉サービスを受給するため、要介護者あるいはその家族がサー
ビス事業者窓口などに申請した内容に関する情報である。受けた
③申請情報
24
④サービス提供者関連情報
⑤サービス内容情報
いサービスや時間指定・場所などの関連情報が含まれる。
福祉サービス を提供する事業者などに関する基本的な情報であ
り、名称・サービス範疇・住所・電話番号・担当者などの情報が
含まれる。
福祉サービス 事業者などが提供するサービス 内容についての詳
細情報である。
⑥運営・管理情報
各種の業務を運営し、要介護者・職員・施設・経営などを管理す
るための情報である。
⑦処遇情報
要介護者のニーズや状況に応じて、各種の福祉サービスを実施し
た際の状況・結果などを含む情報である。
⑧緊急情報
生命の危険に関わるような緊急を要する信号や情報である。
出典:文献 6)をもとに加筆
こうした8種類の福祉情報をコンピュータなどに蓄積して利用する福祉情報化の意義は、
以下のように見いだされる。個々の福祉業務の改善だけでなく、総合的な福祉行政の体制
づくりには欠かすことができないのが情報化である。
表 2-2
福祉情報化の意義
① 福祉業務に関わる統合型データベースの整備により、個別の業務の電算化では実現で
きなかった業務の効率化・高度化を図ることができる。
② 要介護者などの状況・ニーズに適合したサービスの提案が可能となり、QOL(Quality
of Life:生活の質)の向上が可能となる。
③ 統合型データベースにより、福祉サービスの利用状況 や実施をリアルタイムで把握
し、そのデータを基に福祉指標を入手することが可能となる。キャッチシステムとし
ての利用で施策の効果や住民ニーズを正確に把握し、福祉政策の企画・立案に反映で
きる。
④ 情報通信ネットワーク接続の拡大により、民間を含めた福祉関連組織、ボランティア、
場合によっては保健・医療分野などが適切な連携を図ることができ、効果的なサービ
ス体制を構築できる。
⑤ 情報通信 システムの整備にあわせて実施される 、組織変更や相談窓口の一元化 によ
り、複数窓口では実現できないようなサービスの向上を図ることが可能である。
民間企業では、行政に先行して情報化投資を行い、戦略情報システムやイントラネット
を構築してきた。福祉情報システムと他業種にわたる企業情報システムを比較検討するこ
とは慎重を要するが、一般的に企業情報システムには、経営管理情報システム(経営者・
管理者の意志決定支援)と業務情報システム(日常業務の自動化)に大きく分けられる。
25
前者の経営管理情報システムは、「情報の収集・加工→代替案の企画→代替案の選択→代替
案の実施→実績の評価」という一連のフィードバック・ループにおける中核システムとし
て機能し、会社全体の意志決定に貢献するものである。自治体における福祉分野の情報シ
ステムはOA化止まりのものが多く、重要視されてこなかったものは、こうしたフィード
バック・ループ実現のための情報通信システムである。福祉行政が措置制度を中心として
いた中で、政策代替案の選択肢が少なかったことも一因として考えられるが、今後は福祉
環境の不確実性が高まり、住民の多様化する福祉ニーズに確実に応えるために、こうした
フィードバック・ループを支援し、政策立案に貢献する情報通信システムが福祉分野でも
重要となってくるであろう。
また、ある社会学者は、「コンピュータの情報処理の進展は、企業を強い中央集権的管理
体制にする」と主張しているが、企業活動の現実をみると、ダウンサイジング、デパート
メンタル・コンピューティング、イントラネットなどでむしろ管理分権化、創造性の重視
が進んでいる。こうした考え方も、福祉分野の情報通信システム構築の際に念頭に置くべ
き事項である。
2.2 福祉業務の課題と情報化
地域福祉を支える業務は、以下の 8 つのタイプに概ね集約される。そして、それぞれの
抱える課題(情報化との関わる部分のみ)について以下に整理する。これらの業務遂行に
当たっては、2.1 で述べた種類の情報を活用・流通することになるが、全ての業務で一度に
情報化することは予算的にも、マンパワー的にも無理があるので、投資効果の大きなとこ
ろから情報化を始めることが望ましい。
以下の表に含まれない各種業務に共通な課題としては、業務全体を理解するスーパーバ
イザーがおらず、全体の業務と情報通信システムのデザインができないこと、ワープロや
古い情報機器などが混在していて情報化の阻害要因となっていること、自分の職場での具
体的な課題の把握が不充分なため業務改善や情報化に結びつかないこと、システムの入出
力が煩雑であることなどが挙げられる。
表 2-3
福祉業務の課題
業務名
業務遂行上の課題(情報化との関わる部分)
①ニーズ把握業務
申請窓口・相談窓口における業務であったり、サービス提供部門の中で
も対象者の状況の変化に応じて新たなニーズを把握する業務である。サ
ービス供給主体が多元化する中で、相談窓口などの仲介者の果たす役割
が大きくなる。今後、在宅の要介護者・虚弱者が多くなることを考える
と、対象者とニーズを的確にキャッチできる仕組みの構築が望まれると
ともに、個人情報を扱うケースが多く、セキュリティへの配慮が望まれ
る。さらに、ニーズ分析による新たなサービス展開に至る企画力が弱い
という課題もある。
②サービス提供業務
サービス提供に関わる業務である。各サービス事業者別に独立した情報
26
通信システムを構築するケースもあり、データの使い回しや情報の共有
化ができていない。個人情報を扱うケースが多く、共有化の過程でセキ
ュリティへの配慮が望まれる。介護保険の対応が直接的に求められる業
務である。現場の職員の中には情報機器の操作になれていない職員もお
り、使いやすいユーザインタフェースを持つ情報通信システムの構築と
共に、ユーザー教育の徹底化が望まれる。
③ネットワーク業務
各サービス事業者などのサービスを調整するための業務である。特にケ
アマネジメントの実施時に症状、処遇情報を共有することが望まれてい
る。そのためにも異なる部門間でデータフィールドの共通化などの課題
を抱える。
④企画・広報・啓発・
教育業務
行政やサービス事業者が施策やサービス内容について広報し、利用を促
進させるものである。広報誌だけでなく、音声応答型 FAX や CATV など
多様なメディアを利用して広報することが望まれている。
⑤相談・情報提供業務
サービス事業者、仲介者が要支援者やその家族の相談に応じ、要支援者
に適切なサービス情報などを提供する業務である。相談履歴のデータベ
ースの構築により、相談窓口担当者が万一替わっても連続した相談体制
を組むことが可能である。さらに地域の福祉・生活サービスを網羅した
データベースの整備と照会システムの構築が望まれる。特に市民が自ら
検索する場合には、メニュー方式などの簡易な入力方式と的確なマッチ
ング方式が望まれる。
⑥住民参加支援業務
地域住民がサービス の担い手として参加する制度を支援する業務であ
る。ボランティアとしての 登録と要支援者のニーズなどの入力が必要
で、両者の効果的なマッチングが望まれる。
⑦他部門との連携業務
福祉と特に連携が求められるのは、保健・医療部門である。検診データ、
カルテだけでなく、他部門の税務データ、国保データ、住民基本台帳デ
ータなどとの突き合わせなどが制度上困難である。情報共有化による業
務の効率化、対象者の状況把握のために、制度改善が今後望まれる。住
民基本台帳などのデータはホストコンピュータで管理されており、パソ
コンの外字とはコード体系が違うので、特殊な変換作業が必要である。
⑧運営管理業務
それぞれの部署自体が内部に持つ完結型業務であり、担当業務を円滑に
実施するための組織・施設を運営・管理する業務である。関連部署と容
易に連携がとれるようなシステムとしておく配慮が求められる。
出典:文献 6)をもとに加筆
上記であげた福祉業務の課題を効果的に解決するためには、ハードウエアやソフトウエ
アの技術をある程度理解した上で、関係者は福祉情報化に取り組むことが望まれる。
2.3 福祉情報化から地域情報化へ
福祉分野の情報システムは自治体を中心として構築されてきたといえる。自治体の福祉
情報システムの開発状況を実態調査した結果である図 2-1 を見ると、近年特に、各自治体
は総合型のシステムへの対応を進めつつあることが理解できる。この分野が有望市場とい
うこともあり、メーカーやソフトハウスが一斉に参入している。しかし、多くの自治体、
特に人口規模が小さい自治体ほど個別業務ごとの効率化が図られている段階であり、関連
27
業務との連携や他部門との情報共有化の段階まで至っている自治体は少ない。
22
不 明
福祉総合情報システム 稼働中
9
17
福祉総合情報システムとして開発中
64
コンピュータ化が行われている
図 2-1
自治体における福祉分野の情報化
注:重複回答を許すアンケート調査結果(単位:%)
出典:文献 1)
情報化が比較的進んでいる自治体では、個人情報をデータベース化し、福祉業務に関す
る情報の共有化を図った上で、個人に対する相談や情報提供を実現したいという希望が高
い。そのためにも、従来の窓口を一本化し、相談、情報提供、サービスの受付・予約などが
総合的に扱えるように改善しようとする自治体もある。OA 化から地域情報化につながる動
きである。
地域情報化とは、情報化社会を見据えた「地域づくり」を推進するための手段として、「地
域ニーズ」を満たすことを目的として、行政が中心となり情報通信システムや情報インフ
ラを整備することである。行政サイドから見れば、情報化ニーズを 2 つに大別できる。そ
れらは、①行政事務の効率化・高度化と直接関連する「行政のニーズ」と、②市民生活や
経済・産業の発展と関連する「地域のニーズ」である。この 2 つのニーズは、図 2-2 に示
すように互いに交わり、その交わる部分は、「住民サービスの向上」および「生活基盤とし
ての情報通信インフラ整備」の領域である。それは福祉分野と大きく関わる部分でもあり、
近年さらに広がりを見せている。これは、地域情報化推進における「行政情報化」の重要
性が増加してきたことを示すものである。つまり、行政情報化が地域情報化を促進するた
めの基盤となり、また、内部事務の処理を目的とした情報システムやデータベースの中に
は、市民生活や地域の活性化に再活用できるものもある。自治省が「地方公共団体におけ
る行政の情報化の推進に関する指針について」(平成 7 年 5 月)においても述べているよう
に、地域情報化と行政情報化は密接に関連している。特に福祉・生活領域ではそれらの関
連性はより大きく、その地域情報化は市民生活の利便性向上に大きな影響を与える。
28
情報化によるサービス向上
情報通信インフラの整備
行政ニーズ
地域のニーズ
行政の情報化
地域情報化
図 2-2
情報化のニーズと地域情報化
出典:文献 3)
福祉分野の地域情報化は各方面で進展を始めている。その目的を見ると、まず行政の福
祉部門における事務効率化のための OA 化を基本として、ケアマネジメントを支援するため
の情報化や需給調整を支援するため、福祉関連組織の情報化が進んでいる。次に、地域に
おける福祉活動に関わる民間組織の情報化や情報機器を使用した福祉サービスの展開が行
われている。緊急通報システムや情報提供システムなどがこれに相当する。さらに、IT は
バリアーを克服するための機能も備えており、コミュニケーションを保証し、社会参加を
促すための道具としての利用である。
特筆すべきは、次世代型福祉情報提供システムである。1997 年暮れに成立した「介護保険
法」は高齢者福祉サービスの提供を従来のパターナリスティックな「措置」制度から、個人契
約でサービス提供されるという、「社会保険方式」による現物支給にかえるものである。こ
の介護保険は、「利用者自身による選択の尊重」「利用者の積極的な利用を引き出す」「民
間参入や市場原理による介護サービス供給」の実現によって現在の福祉問題を解決しよう
というねらいがある。また、情報化によってこうした動きを支援することを目的としてい
る。
しかし、介護保険などにより多元的サービスが創出されることによって、「サービス供給
主体が多様で、どんなサービスがあるか分からない」といった問題を引き起こす可能性が
ある。特に、高齢者単独世帯や独居老人の場合、必要な情報が必要な時に手に入らないと、
「社会的弱者はなお弱体化する」という状況が起きる恐れがある。福祉サービスが質・量
ともに整備されれば、利用者にとって各種サービスを効果的に組み合わせて活用するケー
29
スと、そうでないケースとでは、後日の QOL が大幅に違ってくる。サービス情報の入手格
差がそのまま個人の QOL 格差あるいは存立条件につながる可能性がある。
住民にとっては、自分の生活状況・ADL に応じた福祉サービスの情報を確実に入手でき
るような情報環境の整備が重要である。量的にも質的にも多様化したサービス供給環境に
なりつつある中で、住民が無駄に迷うことなく、必要なサービスの選択と契約が実現でき
る支援システムが必要となる。これが今後望まれる地域情報化である。自動車のドライバ
ーに道案内のカーナビゲーションシステムがあるように、制度・サービス体系が多様化して
いる福祉分野において、「さて、困ったぞ」という出発地(ニーズの発生)から目的地(サ
ービス選択、申請、契約、供給)まで効率的な道順を示す「社会システムナビゲータ」の
開発が不可欠である。
30
3.システム構築の進め方
∼高浜市地域福祉情報システムを事例として∼
3.1 高浜市の概況
3.2 計画策定段階
3.3 システム開発段階
3.4 運用段階
31
3.1 高浜市の概況
高浜市は、愛知県三河平野の西南部に位置し、この周辺地区は面積的にも人口集積の面
でも中小規模の都市が連担している。中部圏の中核都市である名古屋市から南東へ 25km の
ところにある。JR 名古屋駅より、名鉄三河高浜駅まで、JR・名鉄(刈谷駅乗換)を利用し
て、40∼50 分程度かかる。東は安城市、西は衣浦湾をへだてて半田市、南は碧南市、北は
刈谷市に接している。高浜市の人口は、1985 年まで自然増と社会減が均衡する停滞状況を
続けていたが、1986 年以降、社会増による堅調な増加傾向を示している。1990 年国勢調査
では 3 万 3 千人強、1995 年国勢調査では 3 万 6 千人強となった。また、1995 年国勢調査に
よる高齢化率は 12.5%である。
図 3-1
高浜市の位置図
出典:文献 11)
高浜市は全国の福祉先進自治体が集まる「福祉自治体ユニット」(住民サイドの福祉行政
を積極的に進める市町村の集まりで 1997 年設立)の代表幹事でもあり、現在では「福祉の
まち」として全国にその名が知られるようになった。かつて 1990 年代初頭まで、高浜市は
経済優先政策を採用していたが、徐々に介護サービスの基盤整備に力を注ぐようになった。
政策のカジ取りを経済優先から福祉特化に切り換えつつあった。相談業務の窓口として新
たに在宅介護支援センターを設け、社会福祉協議会にはホームヘルプ事業と訪問入浴サー
ビスを全面的に委託した。また、福祉サービスの充実を目指すため、三河高浜駅前再開発
事業の中でまちづくりの目玉施設を誘致したい意向を持っていた。1991 年秋、日本福祉大
学を中核とする法音寺学園は福祉系専門学校などの設置の検討依頼を受けた。法音寺学園
では、高浜市老人保健福祉計画の策定に関わる中で、まちづくりの拠点としての事業構想
「いきいき広場」に福祉系専門学校の設置だけでなく、
32
① 福祉サービス総合窓口(市役所福祉課、長寿課、社会福祉協議会、在宅介護支援セン
ター)やその福祉情報の中核的拠点である総合福祉サービス部門
② 老人保健法に基づく健康相談・教育、機能回復訓練を行う健康づくり部門
③ 高等教育機関の支援によって、より専門性の高い講座を提供する生涯学習部門
④ 市役所閉庁時でも公的証明書を発行する市民サービス部門(市役所市民課)
⑤ 愛知県最大規模の福祉・介護機器のショールームを設置して、各機能の重層的配置か
ら相乗効果を引き出せるようにすること
を提案し、1996 年 4 月オープンにこぎつけている。総合福祉サービス部門の運営時間は、
平日午前 8 時 30 分から午後 7 時まで、土日祝日は午後 5 時までとなっており、市民本位の
利用しやすさをモットーに運営されている。また、年末年始(6 日間)を除いて年中開業し
ている。「いきいき広場」は様々な組織・職種の寄り合い所帯で、事務室内には仕切りが一
つもない。各部門・職員の密接な連携により、充実した福祉サービスの提供を目指してい
る。市民からもこの施設のおかげで窓口のたらい回しが解消したと好評を博している。一
日平均 240 人の市民が訪れている勘定となる。1999 年 3 月からは保健婦も長寿課に配属さ
れ、福祉・保健の連携も強化されつつある。
この 1996 年 4 月のオープンに先立ち、私たちを中心とするメンバーが、福祉・健康関連
業務を支援する情報システムの基本構想(概要を図 3-2 に示す)を立案し、順次サブシス
テムの構築を行ってきた。また、福祉情報をストックし、健康・福祉行政の計画的な推進に
資するため、1992 年度から 5 ヶ年にわたって、厚生省から補助金を受け、高齢者データバ
ンクの作成を行った。2000 年 4 月の介護保険制度の導入に合わせて、システムのバージョ
ンアップ(介護保険レセプトシステム)と福祉情報ナビゲータプロトタイプ(5 章で詳述)
の新規構築作業を行った。
福祉の先進都市と言われる高浜市の到達点(1999 年夏時点)を表 3-1 にまとめた。居宅
介護サービス、施設サービスとも老人保健福祉計画で提案された目標値を、ホームヘルプ
サービスを除いてクリアしている。ホームヘルプサービスでは要介護者に対してケアプラ
ンに適合した形(24 時間サービスを含む)でサービスが提供されており、市民ニーズに十
分応えられている。「身体介護」を中心とした、高浜市におけるホームヘルプサービスの質
の高さに、全国の福祉専門職が注目している。人材確保面では、福祉系専門学校(介護福
祉科、作業療法科)の他に、高浜市立高等学校に福祉課程の設置、ホームヘルパー養成講
座(2 級・3 級)の開講などで一定の効果がみられ、専門職や多数のボランティアを輩出し
ている。
こうした到達点は、介護保険事業計画で算定された福祉需要もほぼ満たしているといえ
る。さらに、介護保険の対象外である市独自事業として、宅老所、給食サービス事業、軽
度生活援助事業、生活管理指導短期宿泊事業、住宅改善費補助事業、シルバーボランティ
ア活動事業、高齢者日常生活用具給付等事業、寝具洗濯乾燥サービス事業、ガス漏れ警報
器設置事業、銭湯無料解放事業、俳諧高齢者探知支援サービス事業を実施し、同じく社会
33
福祉協議会事業として、ふれあいサービス(家事援助等、移送サービス)、紙おむつ支給サ
ービス、単身高齢者乳酸菌飲料宅配事業などの在宅支援サービスの提供を行っている。
施設サービスにおいては、特別養護老人ホーム(100 床)では市内在住者が約半数であり、
市外在住者が多い。今後は、市内在住者を増やす意向である。また、要支援と想定される
入居者の退所計画も順次実施に移されており、グループホーム「あ・うん」や老人保健施
設「こもれびの里」での処遇に変更していく予定である。
今後、この「いきいき広場」を拠点とし、バリアフリー社会・まちづくりの構築を目指
した検討を開始し、住民のバリアフリーエンジニアリング、ウエルネス関連分野に対する
新たなサービスニーズを把握することを計画している。住民の健康増進、福祉向上および
広域連携の社会システムのあり方、地域住民の広域的サービス供給システムのあり方と、
それを背景とした新しい関連サービスの提供など多方面にわたる新産業創出の方向を検討
しつつある。
34
図 3-2
高浜市における福祉・健康関連情報システム構築基本構想
出典:文献 9)
35
表 3-1
サービスタイプ
高浜市の福祉サービスの到達点
目標水準
(a)
寝たきり高齢者 3 回/週
痴呆性高齢者
3 回/週
虚弱高齢者
1 回/週
ヘルパー常勤換算 22.3 人
寝たきり高齢者 2 回/週
痴呆性高齢者
2 回/週
虚弱高齢者
1 回/週
整備量
(b)
ヘルパー常勤換算 20.7 人
365 日 24 時間体制
整備率
(a)/(b)*100
93%
実施組織
ディサービスセンター
3 カ所
100%
100%
200%
通所リハ
(ディケア)
未記載
1カ所
社会福祉
協議会・社
会福祉法
人・直営
医療法人
短期入所生活介護
(ショートスティ)
1 カ所 11 床
20 床
182%
社会福祉
法人
短期入所療養介護
(ショートスティ)
1 カ所
1 カ所
100%
医療法人
訪問入浴
寝たきり高齢者
入浴車 2 台
2 回/週
267%
社会福祉
協議会
痴呆対応型共同生活
介護
未記載
7人
給食サービス
75 歳以上の一人暮らし高
齢者 3 回/週(昼食)
在宅介護支援
センター
2 カ所
(中学校区に1カ所)
65 歳以上の
一人暮らし 7 回/週(夕食)
高齢夫婦世帯7回/週(〃)
2 カ所
訪問看護
ステーション
未記載
1 カ所
特別養護老人ホーム
65 歳以上入所対象者
52 人
1 カ所
100 床
192%
社会福祉
法人
老人保健施設
65 歳以上入所対象者
52 人
1 カ所
100 人
192%
医療法人
養護老人ホーム
65 歳以上入所対象者
26 人
1 カ所
50 人
192%
市営
軽費老人ホーム
(ケアハウス)
65 歳以上入所対象者
26 人
1 カ所
50 人
192%
社会福祉
法人
療養型病床群
未記載
1 カ所
40 床
訪問介護
(ホームヘルプ)
通所介護
(デイサービス)
3 回/月
出典:文献 11)
注:2000 年 3 月時点の数値である
36
社会福祉
協議会
社会福祉
協議会
233%
社会福祉
協議会
100%
社会福祉
法人
医療法人
市立病院
3.2 計画策定段階
(基本構想のとりまとめ)
コンピュータは、導入してからシステム構築の目的を決定するのではなく、システム構
築の目的を決めてから、それに適合する情報環境をどうするか、どのようなハードウェア
を必要とするか、OS やアプリケーションプログラムをどうするか、ネットワーク形態をど
うするか、などを検討することが鉄則である。システム構築の目的を明確にしないことに
は、その情報化プロジェクトは失敗する可能性もある。なぜなら、小規模なシステムでは、
単体のアプリケーションとして販売されているが、大規模なシステムでは、システム構成
やソフトウェア開発を組織内の専門職に任せるより、外部の専門企業に委託することが多
いからである。システム構築の目的や要件が決まらないと、専門業者であるインテグレー
ターやソフトハウスに提案書作成のお願いができなかったり、逆に業者の言いなりになっ
てしまうケースが多い。忘れてならないのは、その組織や業務形態に最適なシステムの提
案であり、そうした成果を得るために、システムを導入する目的や要件を正確に専門業者
や開発者に伝達することである。そして、システム構築のメリットが誰のためにあるのか
をよく吟味しておく必要がある。福祉の専門職なのか、管理者なのか、要介護者なのか、
市民なのか、ということである。これは実際に誰がシステムを操作するのかということで
あり、そうした関係者と十分なコミュニケーションを取ることが重要である。
高浜市では、駅前に「いきいき広場」の具体的内容を検討する委員会のもとに、福祉分
野の情報化を強力に推進していくために、関係者を幅広く結集した推進体制として、「高浜
市地域福祉情報システム専門部会」を 1993 年に立ち上げた。各組織の抱えている課題、情
報化のニーズ調査から構築すべきシステムの概念まで検討した。構成員としては、市民課、
電算室、福祉課、長寿課、保健センター、社会福祉協議会、在宅介護支援センターが含ま
れるとともに、日本福祉大学が計画策定のオブザーバーとして参加した。全体のまとめ役
(キーパーソン)が任命され、彼の下で全委員が情報化によって、福祉の課題解決を図る
ことに情熱を燃やした。出来合いのアプリケーションではなく、ゼロから作成するシステ
ムの共通イメージがない中で、関係組織が自らの問題として自主的に取り組んでもらうこ
とに腐心し、開発計画を策定したといえる。旭川、伊勢原、加古川など先進事例を視察し、
ヒアリング調査させていただいたのもこの段階であった。そうして、まとめ上げられた成
果物が、「高浜市地域福祉情報システム基本計画」(1995)と、「高浜市地域福祉情報システ
ムの開発と運用」(1997)である。
37
図 3-3
専門部会で作成した報告書
これらにまとめられているものは、
① 地域福祉情報システム構想の基本方針
② システムの全体構成
③ サブシステムの機能
④ システムのコスト試算
⑤ システムの開発スケジュール
⑥ システムの構築・運用面の検討
である。以上の情報化対象の設定・ニーズ調査からシステムの基本構想策定までの一連の
作業は図 3-4 に示すとおりである。
38
ニ
|
ズ
の
洗
い
出
し
情報化の対象を設定
望ましい姿
現状の問題点
課題の明確化
シ
ス
テ
ム
基
本
構
想
情報化での対応
情報化以外での対応
システム開発の計画
図 3-4
システムの基本構想の策定までの流れ
システム構築に当たっては、現状の業務で何が問題なのかを把握し、解決策を見つける
ことから始まる。高浜市では、専門部会によるヒアリング調査の実施によって、現状認識
と問題の把握を行った。高浜市福祉関連部門、高浜市社会福祉協議会、在宅介護支援セン
ターにおいて、以下のような問題の存在が確認された。
当時、これらの組織は全般に情報化の遅れている分野であった。一部の福祉業務の行政
内システムが表計算ソフトなどを利用して自前で作成されているのみで、紙による台帳や
申請書を利用して手作業に頼っている部分が多く、職員はルーチンワーク的に多大な労力
を投下している。また、情報化の遅れの理由には、この分野の業務が細分化され、煩雑で
「他品種少量」業務が比較的多いことも挙げられよう。高齢化の到来もあって、新規ニー
ズに対応する新規サービスの創設・従来サービスの改善などが引き続いて起こり、システ
ムの開発スピードがそれについていけなかったことも一因として考えられる。当時は、シ
ステム化による事務の効率化が福祉部門全体の大きな課題であった。
次に、多様化する住民ニーズに対応した福祉サービスの提供を行うために、援護的福祉
サービスから、より積極的な総合福祉サービスの移行が各種の上位計画で謳われている。
高浜市では三河高浜駅前に1996年4月を目標に、地域の実態にあったきめ細かな総合福祉
サービスを担えるセンター「いきいき広場」の開設を目指していた。こうした計画に応え
られる、地域福祉情報システムを構築し、現在各組織が独自でバラバラに管理している住
民のニーズや基礎的な情報を、横断的な組織で総合的一元的に管理していく必要があった。
その実現のためにも、新しい組織のあり方やサービス体系のあり方などについて市民・職
39
員のコンセンサスを形成していくことが差し迫った課題であった。
(高浜市福祉関連部門の課題)
高浜市福祉部における要介護者・身体障害者・療育対象者に関わるサービスは、関連項
目が非常に多岐に渡るため、職員に高度な専門性が要求される。そのサービスのうち、情
報化しているものは身体障害者台帳、心身障害者台帳、心身障害者見舞金、療育対象者台
帳などであり、それぞれ表計算ソフトで管理されていた。その業務の効率化はかなり限定
的で、事業相互間の情報のやりとりや他の業務の拡大は、システムの制約から難しい。そ
れらの台帳関係以外は、全く情報化されておらず、職員はそれらの情報の収集・加工・管
理に多大な労力を割いており、定常的に職員の残業も多くなっていた。手書きやワープロ
打ちの台帳も事業別の縦割りで管理されているため、業務の流れに応じた情報の多元的な
活用、対象者個人での一元的な活用は充分といえず、ましてや組織間の相互の活用は不十
分であった。
今後、より一層の高齢化の進展とともに、要介護者、心身障害者も増加すると考えられ
るため、各種の新規サービスを関連組織と協力しながら創出していかなければならず、早
急に組織間をまたぐ総合的な地域福祉情報システムの構築が必要となっていた。
多くの福祉サービスのうち、一部は社会福祉協議会への委託業務が多く、今後も外部へ
の委託が増加すると考えられるため、サービス提供体制のあり方、プライバシー保護の問
題など解決しておくことが望まれた。
さらに追加して、高齢者福祉の究極の目標の一つを「寝たきり老人」の予防とするなら、
その予備群である高齢の虚弱者を的確に把握して、彼らに健康サービスを提供する必要が
あろう。そうした虚弱者の情報を把握する方法と窓口での相談業務を充実させるためのシ
ステムなどの仕掛けも重要であった。
(社会福祉協議会の課題)
社会福祉法人高浜市社会福祉協議会は、市民、各種福祉団体、行政などの幅広い参加に
よって構成され、市内民間福祉団体の中核的存在としてホームヘルパー派遣事業をはじめ、
訪問入浴サービス事業、訪問給食サービス事業などの市の委託事業を実施するとともに、
ふれあいサービスなど独自の在宅福祉サービスの推進、拡大に努めていた。当時の課題と
して、サービス利用対象者が「制度を知らない」、また「他人を家に入れたくない」という
一面もあることから、いつでも気軽にサービスが利用できるようサービスそのものの理解
を高めるため、一層の広報活動や、訪問指導などの保健部門や在宅介護支援センターとの
緊密な連携を図り、利用を促進するとともに、潜在的ニーズの掘り起こしに努める必要が
あった。
さらに、県の補助事業である地域福祉サービスセンター事業は、福祉に関する相談に応
じて、関連組織を調整し、サービスを提供するものである。福祉課、長寿課、保健センタ
40
ーなどあらゆる福祉業務に関する情報が必要であり、個人の福祉カルテで情報交換できる
ようなシステムの構築が早急に必要であった。
(在宅介護支援センターの課題)
高浜市在宅介護支援センターの事業内容は、在宅介護に関する各種の相談に対し、電話、
直接面接などにより、総合的に応じることである。そのためには、要介護高齢者の心身の
状況、家族の状況など実態を把握するとともに、介護ニーズなどの評価を行う。また、保
健福祉サービスの円滑な適用に資するため、要介護高齢者およびその家族に関する基礎的
事項、支援・サービス計画の内容および実施状況、処遇目標達成状況および今後の課題な
どを記載した台帳(処遇台帳)を整備しなくてはならない。そして、その処遇台帳を適切
に管理し、継続的支援、処遇の適正な実施を図ることが重要である。
しかし、情報通信システム導入以前では、相談を受け内容を把握し、手作業による相談
記録の記入をした上で、処遇台帳の作成を行っていた。処遇台帳は251冊(当時)に増え、
記入、整理などに多くの時間を費やしたが、時間内は相談業務と連絡調整に割くため、時
間外に作成することも多くあった。在宅介護支援センター内で処遇目標を立てるが、関係
組織による総合的アセスメント、ケア計画は極限られたケースしかできない。従って、福
祉サービスの適用調整を在宅介護支援センターが行った時点で、その後の援助が途切れや
すいという課題があった。
また、モニタリングはケア(ケース)マネジメントの重要な機能の一つで、要介護高齢
者の常に変化するニーズに、最も適切なサービスを提供するために必要である。継続的支
援、処遇の適正な実施を図ることであるが、少数の専門相談員では定期的な訪問(電話対
応を含む)さえ限界であり、現在受けた訪問者が優先となっていた。要介護高齢者にサー
ビスを提供している複数の組織の担当者がそれぞれに定期訪問を行ったとして、その訪問
結果が、ケアマネジメントを行っている担当者に、また、関係している他の組織の担当者
に、正確に迅速に伝えられなければ、ケアマネジメントの重要な機能である円滑な連絡調
整は実現されない。高齢者サービス調整会議は月一回であり、不充分であった。このよう
な困難を克服する手段として、高浜市地域福祉情報システムでネットワークをつくり、ケ
ース記録の共同記入、共同利用をすることが望ましいと考えられた。
在宅介護の継続、または、高齢者の寝たきりの状態を減少させていくためには、公的、
民間を含めてのサービス利用に結び付けることが重要である。そして、各種サービスの実
施状況が常時把握でき、地域の社会資源も含め、最新の情報を把握していかなければなら
ない。当時、電話や訪問による社会資源・サービスの調査を行っており、それらは非常に
有用であるが、調査にも限界がある。こちらから積極的に働きかけなければ、サービスの
実施状況が不明である。こうした社会資源の情報も福祉情報システムに組み込んでほしい
内容の一つであった。
高浜市福祉課、長寿課、保健センター、社会福祉協議会、市養護老人ホーム、ディサー
41
ビスセンター、特別養護老人ホーム、地域福祉サービスセンターなどとの協力連携関係が
高齢者福祉の推進のためには必要であり、それ無くては、良好なケアマネジメントはあり
得ない。要介護高齢者に関わって必要なネットワークを作るためには、情報の共有が必要
であった。
サービス利用についても、情報を共有した上でのケースカンファレンスが必要だと考え
る。地域のネットワークの中で、各組織の要介護高齢者の処遇(援助)に対しての統一的
見解がなされなければならない。各組織がそれぞれの方針のもとにサービスを実施し、ば
らばらの援助をしてきたことを振り返り、福祉情報システムを活用できることが福祉のソ
フト面での目標である。各組織および専門職が、有機的に協力連携することである。そう
すれば、各組織が要援護老人に何回も聞き取りをすることも、処遇方針がちがっていて、
要援護老人や家族が不信感を抱くことも、まして各組織をたらい回しになることもなくな
る。そして、サービス利用にいたるまでの煩わしさから開放されるだろう。
介護保健制度の導入についても、在宅介護支援センターの役割とともに情報システム化
を検討する必要があり、福祉情報システムはその基盤作りにもなると思われる。
(情報システムが目指すもの)
一般的に、情報化社会ではデータを処理するにはコンピュータの活用を考慮する。デー
タベースとして、大量のデータを蓄積して利用でき、所定の計算や判断を高速に行わせる
ことが可能である。コンピュータにそうしたロジックをプログラムとして組み込んである
ため、その通りの処理を行うが、想定外の処理を行わせることはコンピュータにできない。
コンピュータは人間のようにその場に応じた最適な判断ができないのである。コンピュー
タというのは、コピー機、ファクシミリなどと同様で、人間がある業務を行う場合の、1
つのツールである。コンピュータを活用する人に対して限定された機能で手助けをしてく
れると考えた方が良い。コンピュータに多大な期待は禁物である。そういう意味から、全
体業務の中でシステム化をどこまで行うかという作業が当然必要になってくる。高浜市で
は、福祉領域の関係者の多くが、「いきいき広場」の同じフロアで体制作りができると同時
に、高齢者の実態を把握し、多様化するニーズに適切な対応を行うために、地域福祉情報
システムによって福祉情報を総合的に管理し、共有化を図る。このことが組織や分野にと
らわれないで業務間の連携をいっそう強化し、福祉サービスの高度化が可能と考えられた。
また、現在縦割りとなっている市役所などで細分化された窓口をこの「いきいき広場」に
おいてできるだけ集約し、住民に分かりやすく、かつ高速に処理・サービスができるよう
な業務環境を目指した。そして、市民に対しては地域福祉情報システムを基盤とした定型
業務の正確性や迅速性を高めながら、職員に対しては業務処理の簡略化、省略化を図るも
のとした。
情報化も現在の業務体系のままで推進するなら、効果も半減する。民間では戦略情報シ
ステム(SIS)の導入でみられるように、情報化に合わせて組織、業務のあり方を見直すこ
42
とも行われている。公共セクターである高浜市における情報化においても同じようなこと
は適用できる。
今後、福祉サービスの体系は、受益者のニーズとともに大きく変化していくと考えられ、
それらに適合したサービス体系に常に更新(福祉サービスの創出)していくことができる
柔軟な業務体制/環境を備えていることが望まれた。そうしたニーズの変化を正確に把握
するために、福祉情報をストックし、的を射た分析をする能力が職員の資質として必要で
ある。マニュアルにまとめにくく、ルーチンワークでもない、このような非定型業務に対
応できることが情報システムとしても重要な仕様の一つとして具備しておく必要がある。
高浜市の地域福祉情報システムが対象としている業務範囲は、市役所内の福祉課、長寿
課、市民課、保健センター、電算室、外部組織の社会福祉協議会、地域福祉サービスセン
ター、在宅介護支援センターなど多岐に渡っている。
このように非常に広範な業務の中からどの部分を情報化するのかは慎重に検討される必
要がある。最終的な目標は個別システムだけでなく、組織を横断する福祉総合情報システ
ムを構築することにあり、さらに福祉分野の情報化だけでなく、長期的には健康分野や医
療分野の情報化と連携することである。
(情報化のプライオリティとスケジュール)
当初は、特定業務からシステム化を実施し、それは市役所内の OA 化に相当するものであ
ったり、費用対効果の高い業務であったりする。1996 年 4 月に三河高浜駅前に「いきいき
広場」が新設されることを考慮に入れると、このセンターに関連する業務の情報化とこれ
らの業務に関連が深い市役所内の業務の情報化を優先することがオーソドックスな取り組
みであると判断された。
「いきいき広場」の開設時期を1つの時間的区切りとして、福祉行政情報システム/手
当支給品システム/在宅福祉情報システム/情報提供・相談支援システム/高齢者データ
バンクシステムなどのシステムの開発を行い、その後のシステム開発の詳細計画は稼動し
ているシステムの評価を見極めて行うこととした。
43
表 3-2
年次
フェーズ
1992
1993
情報化のスケジュール
イベント
ハードウェアの導入 アプリケーションの開発
老人保健福祉計画立案
高齢者データバンクシステ
高齢者データバンク事業開始
ム
地 域 福 祉 情 報 化 専門部会の立ち上げ
スタート
実態調査による住民ニーズ把握
在宅介護支援センター立ち上げ
1994
1995
「いきいき広場」事業の検討
準備期間
基本構想の策定
関係組織のコンセンサス確立
福祉 LAN の構築デー 福祉行政情報システム
行政内システムの立ち上げ
タベースサーバーの 手当支給品システム
プライバシー問題の検討
導入
ユーティリティ・システム
在宅福祉情報システム
情報提供・相談システム
1996
「いきいき広場」 センターの運営
立ち上げ
福祉 WAN の構築
システムのプロトタイプ稼動
高齢者データバンク事業終了
1997
システムの充実
システム開発報告書の作成
保健 WAN の構築
システムの本格稼働
1999
システムの拡充
介護情報提供システム
福祉ナビゲーションシステム構築
インターネットへの
最終報告書の作成
対応
高齢者ケア未来モデル事業調査
2000
健康分野と連動
高齢者ケア未来モデルシステムの
健康増進システム
構築
:
:
医療・保健・福祉分野の統合
IC カードの配布
IC カードシステム
医療 WAN の構築
保健・医療情報システム
一般に情報システムの構築・運営には多額の費用が必要になる。情報化で最大の問題は
コストに見合った効果が期待できるかである。効果が期待できれば予算の獲得は容易にな
るはずである。高浜市では、費用対効果の良いシステム構築を行うため、以下の点に配慮
した。
① 構築すべきサブシステムのプライオリティ
システム構築の計画やスケジュールを詳細に検討して、サブシステムの開発プライオリ
ティ・開発時期をはっきりさせる必要がある。システム開発・運用に関わるコストを勘案
して盛り込むべき機能を絞り込むことが重要である。100 万円のシステムと1億円のシステ
44
ムとでは当然できることが同じであるわけがない。また、いくら高価なシステムでもでき
ることに限界がある。
情報システムのセールスポイントやそのポイントに的を絞ったプロトタイプを開発し、
具体的な利用体験が受けられるような環境づくりも行う。
このように的を絞ったサブシステム・機能から手がける「小さく産んで大きく育てる」
という考え方で情報化を進める。
② 多様な資金の調達
情報システムの導入は関係組織の関わり具合に応じてコストを分配していく必要がある。
しかし、開発にともなうリスクに応じて中央省庁などが補助金、助成金を提供するケース
もある。高浜市では、1992 年から 1996 年までの 5 年次にわたり、厚生省から高齢者データ
バンク作成に関わり、補助金を受けて、システム全体の基幹的なデータベースを整備した。
また、1999 年には通産省から高齢者ケア未来モデル事業の補助金を受けて、「健康カルテ」
の作成により、保健・福祉の一体的な運営、トータルなサービスの提供を行おうとしてい
る。
③ 関係者のコンセンサス
情報システムの開発過程でいかに多くのユーザーのコンセンサスを得るかが継続的な予
算獲得のポイントとなる。システムに対して正しい理解をしてもらうことがコンセンサス
づくりの基礎になることから、講習会や専門職全体ミーティングなどを開催した。
45
3.3 システム開発段階
(ワークフローの作成)
私たちが対象としている福祉業務の望ましい姿は、それぞれ専門的領域をもった多くの
組織・担当者が関連しあうことで実現される。しかし、現状を調べてみると、各担当者は
自分の業務の範囲外について把握することが非常に困難であった。地域福祉情報システム
を構築するにあたり、各業務が他の業務に対して、どのような手段でどのような情報を共
有しあうかを的確に把握することが求められる。ここでまとめたワークフローは、この課
題を解決する資料として作成したものである。このワークフローを参照することで以下に
挙げる事項が理解できる。
① 業務の作業手順
② 業務において作成・記録される情報
③ 業務に関わる人の動き
ワークフローの書き方は現在様々な手法が編み出されており、それぞれに使用目的が若
干違い、また、表現できる情報が異なっている。一般なシステム開発の現場では複数の手
法(図)を組み合わせ、業務の全体像の把握、システムの仕様書およびシステム開発に繋
げるのが普通である。
この書籍ではそれらの手法のなかで一般に DFD(データフロー・ダイヤグラム)と呼ばれ
るものの事例1枚(報告書では主要な福祉業務に対応する 14 枚を検討した)を載せている。
DFD では先に挙げた 3 つの事柄のほとんどが理解できる。なお開発者の都合で若干本来の
DFD の書き方とは異なっている点はお断りしておく。
どのような業務もシステム化が不可能または不適当な作業も多く発生するため、ワーク
フロー全体が直ちにシステム化には決して結びつかない。そこでワークフローを元に、各
担当者が業務の全体像を検討し、その上でシステム化を優先すべきであると思われる部分
をピックアップした。
46
業務名
サブシステム名
作成日
作成者
ショートステイ事業
ショートステイ システム
1997/4/17
Hideki Kurihara
利用の申し出
ショートステイ
利用手帳交付申
込書
申請の受付
住民基本台帳
内容の確認
ショートステイ
利用手帳交付申
込書
ショートステイ
利用手帳
ショートステイ利
用手帳を発行
各施設 へ利用の
申し出
ショートステイ
利用者台帳
ショートステイ
利用申込書
利用申込書の受付
利用申込書を市役
所へ送付
利用申込書の回収
ショートステイ
利用者台帳
内容の確認
施設一覧表
通知書の作成・送
付
利用申込状況台
帳
決定通知書(そ
の1)
決定通知書(そ
の2)
サービス利用
費用負担額の集計
月末
費用負担額の請求
月次利用者一覧
表
ショートステイ
に関わる費用負
担納入通知書
納入通知書発行
控兼徴収簿
年次利用者一覧
表
年度末
集計
年次利用者別一
覧表
図 3-5
データフロー・ダイヤグラムの事例(ショートステイ事業)
出典:文献 37)
47
図表記号の意味
アクティビティ
-プロセス依存ダイアグラム -
作業の内容
作業の発生するきっかけ
帳票・台帳などのデータ(の集まり)
作業の依存関係
作業の依存関係
同じ作業が複数回行われる
作業の依存関係
条件によって分岐(どちらか一方)
定型業務の範囲
(システム化対象)
非定型業務の範囲
図 3-6
データフロー・ダイヤグラムで使用される記号
具体的な地域福祉情報システムの構築に当たっては、結果とともに開発プロセスを大事
にするため、高浜市地域福祉情報システム専門部会を発展的に解消した上で、若手専門職
と日本福祉大学の開発メンバーが、新たに発足した福祉制度・サービス検討委員会の下に
業務改善作業チームを結成し、十分な議論を行い、作業を進めていった。このチームの構
成メンバーである若手専門職は各組織で情報のエキスパートとして期待される人材で、各
組織である程度の情報に関わる事項の指導を行える能力を持った職員である。
システム構築作業は、以下に示すような標準的な流れがあり、ステップバイステップで
確実にクリアして行くべきであろう。
48
基本構想のレビュー
ハード・ソフトの選定
システム詳細設計
プログラミング
テスト(ユーザーの評価)
本格稼働
図 3-7
システム構築の手順
(クライアント・サーバー・システム)
従来のような汎用機中心のシステム構造では柔軟性が無いために福祉の制度改革に対応
したシステムの構築ができず、エンドユーザー部門からの要求に応えられないで、バック
ログが溜まっていくばかりであろう。
これに対し、柔軟性に富んだクライアント・サーバー・システムでは、多様なハードウ
ェアに投資し、バラバラな仕事を行っている現状を改め、複数のハードウェアをつないで、
もっと効率的な仕事ができる仕組み作りを行うことができる。柔軟性に富むだけでなく、
短期間にプログラム開発を行うことが可能となるといわれている。
福祉専門職全員が使用できる親しみやすさがパソコンには要求され、それを実現するた
めのユーザインタフェースはパソコンのパワーを大量に消費する。
一方、福祉情報の大量データを高速処理するサーバーには、より以上のパワーを要求さ
れるが、画面の美しさは不要である。クライアント・サーバー・システムでは、見てくれ
の良い美しいパソコン画面でサーバーの高速なデータ処理を享受し、システムトータルで
のパフォーマンスを向上させることができる。
従来の汎用機では専任者が業務を集中管理していたが、これでは福祉現場における情報
がすぐ入手できない恐れがある。クライアント・サーバー・システムでは誰でもデータ活
用が可能となるメリットがある。また、ハードウェア、ソフトウェア、メンテナンスの費
用が安くて済むメリットもある。
クライアント・サーバー・システムは、ダウンサイジングの主役であり、以下のリレー
ショナル・データベースをサーバーに導入することにより、複数パソコンから同一データ
49
への同時アクセスが可能となり、福祉データの一元管理・共有が可能となる。
当面のハードウェアの構成としては図に示すように、サーバーを中心として、福祉関連
組織に配置させたパソコンを LAN で結ぶことになる。ネットワーク OS は Netware を導入し
た。
市町村役場
在宅介護支援センター
老人ホーム等 福祉関連施設 _
<業務内容>
相談支援業務
申請業務
ケース記録
福祉サービス立案
その他
サーバー
WAN 回線
(ORACLE)
<システム 名称>
・在宅福祉情報システム
・福祉相談支援システム
・施設入所 システム_
その他
クライアント
ソフトウェア Windows
Access
保健センター等
福祉課
市民課
<業務内容>
相談支援業務
申請業務
福祉政策立案
統計処理・出力業務
システム管理
その他
保健関連施設 _
<業務内容>
相談業務
健康指導
訪問看護 ・検診管理
保健サービス立案
その他
その他関連部署
<システム名称>
・福祉行政情報システム
・手当・支給品システム
・在宅福祉情報システム
・相談支援システム
・施設入所システム _
その他
<システム名称>
・在宅福祉情報システム
・健康増進システム
その他
社会福祉協議会
<業務内容 >
相談支援業務
申請業務
ケース記録
福祉サービス立案
その他
市立病院等 医療関連機関
<システム名称>
・福祉カルテ
・在宅福祉情報システム
・福祉相談支援システム
その他
図 3-8
ハードウェアとネットワークの構成(将来構想を含む)
(リレーショナル・データベースの導入)
福祉情報を個人別などの表形式で管理し、複数の独立した表同士を共通項目(キーフィ
ールド)で関連づけて検索したり、新しい表を作成したりすることができる、柔軟な構造
を持ったデータ構造をリレーショナル・データベースと呼んでいる。各部門の独立したデ
ータを自由に関連付けて自分の業務に便利な資料を作り、福祉業務を大幅に簡素化させる
ことが可能である。それとともに、一度入力した情報を多重に利用することも可能である。
本情報システムでは世界標準といわれる Oracle を導入する。
高浜市の福祉関連組織では多様なデータを取り扱っている。データが情報として活かさ
れるためには、情報化するデータの種類、取り扱う組織、情報化した場合の効果などを総
合的に検討することが必要である。
データの種類には、
①氏名、住所などの文字データ
50
②身長、体重などの数値データ
③障害部位などを示す画像データ
がある。福祉関連部署では①と②のデータが中心である。また、コンピュータで比較的簡
単に扱えるのは、①と②であることから、まず、①と②を中心としたシステムを構築する
のが妥当と考えられる。高浜では、③のデータとして、福祉カルテにて障害部位を表示さ
せる画像データ、在宅の要介護高齢者の住まい平面図の2種類がある。
(ユーザインタフェースに優れたパソコンの導入)
クライアント機となるパソコンは、ユーザインタフェースのプラットホームとなるウイ
ンドウ環境を快適に運用するために、CPU は高速で、メモリも十分な容量で、より自然な画
像表現を得るため、1024×768 ドットの高詳細でフルカラー表示を最低限の条件をする必要が
ある。さらに、拡張するための周辺機器が豊富にそろっていることや、将来のマルチメデ
ィアにも対応していることが重要である。
ユーザインタフェースのプラットホームとして世界標準の Windows 95/98 日本語版を導
入し、統一された操作環境(アイコン、フォント、OLE 機能、オンラインヘルプ機能、ドラ
ック&ドロップ機能など)を構築し、ワープロ感覚で簡単に利用できる環境を作成する。
基本となるアプリケーション・ソフトはワープロに MS-Word、表計算に Excel、データ
ベースのフロントエンドとして Access を採用し、操作性の向上、データの移動の容易性、
データベースからのデータの検索、ハンドリングの可能性などを最大限に望めると考えた。
一般的には、開発ツールとして数え上げられないほどの種類があり、予算、環境、資源、
開発人材など制約条件を考慮しながら決定することになる。
(情報システムの主要機能と効果)
高浜市の地域福祉情報システムとして主要な構成は以下のように考えられる。また、サ
ブシステムの構成は表 3-3 のように示すことができる。
①
福祉行政情報システム
主として行政内部の業務に対応した情報システムで、老人福祉システム、障害者福祉シ
ステム、児童福祉システムなどが含まれる。資格移動(申請、変更、喪失)管理のシステ
ム化を図り、常時対象者を把握するとともに統計出力を可能とする。
51
表 3-3
システム名称
福祉行政システ
ム
サブシステム名称
老人福祉システム
障害者福祉システム
児童福祉システム
民生委員情報システム
手当・支給品シ
ステム
日常生活用具給付・貸与
システム
補装具給付システム
手当・扶助料システム
在宅福祉情報シ
ステム
ホームヘルパーシステ
ム
ショートステイ 情報シ
ステム
訪問入浴サービスシス
テム
ボランティアシステム
介護保険レセプトシス
テム
ふれあいサ ー ビ ス シス
テム
情報提供・相談
支援システム
サブシステムの構成
窓口対応記録システム
福祉相談支援システム
機
能
ねたきり老人、ひとり暮らし老人の台帳を管理する。台帳
の検索・一覧表出力などの機能が用意されている。
身体障害者手帳所持者、療育手帳所持者 の台帳を管理す
る。台帳の検索・一覧表出力などの機能が用意されている。
児童手当、母子家庭および保育園の入園者の台帳を管理す
る。台帳の検索・一覧表出力などの機能が用意されている。
民生委員の台帳を管理する。台帳の検索・一覧表出力など
の機能が用意されている。
日常生活用具の給付および貸与者の台帳と、用具の品目を
管理する。台帳の検索・一覧表出力などの機能が用意され
ている。
補装具の給付者の台帳と、補装具の品目を管理する。台帳
の検索・一覧表出力などの機能が用意されている。
ねたきり老人手当・心身障害者扶助料・特別障害者手当・
児童手当など各種手当制度の利用者の台帳を管理する。費
用徴収の事務処理を軽減する。
ホームヘルプサービスの利用者 の台帳および ホームヘル
パーの台帳、利用状況を管理する。事務処理を軽減すると
ともにサービス内容の実態把握を行う。
ショートステイの利用者の台帳および提供施設の台帳、利
用状況を管理する。費用徴収などの事務処理を軽減する。
移動入浴サービスの利用者の台帳を管理する。事務処理を
軽減するとともに利用状況を把握する。
ボランティア登録者およびグループの台帳を管理する。事
務処理を軽減するとともに ボランティア の活動状況 を把
握する。
要介護・要支援者のケアプランを作成し、サービス利用料
を算定する。介護給付費用の請求を行う。
高浜市社会福祉協議会で実施している有償ボランティア
制度のボランティア 登録者および利用者 の台帳を管理す
る。サービスの利用状況を記録し、費用徴収などの事務処
理を軽減する。
各窓口で受け付けた相談内容を一元的に管理する。相談者
における関係部署間の情報共有を支援する。
コーディネーターが要援護者の相談内容と、その対応を記
録する。
申請業務情報システム
システムに登録されている各台帳を元に、個人が利用して
いる福祉サービスを即時に把握する。
高齢者データバ
ンク事業
要介護・虚弱者判定 シス
テム
高齢者に対して実施したアンケートデータを管理する。要
介護・虚弱者判定の基礎資料とする。
ユーティリテ
ィ・システム
住民基本台帳メ ン テ ナ
ンスシステム
基幹システム(住民基本台帳)から、住民の異動情報を地
域福祉情報システムに反映させる。
52
②
手当・支給品システム
資格移動(申請、変更、喪失)管理、統計出力および手当などの支給事務をシステム化
し、重複給付の防止と支給事務の効率化を図る。
③
在宅福祉情報システム
介護保険制度に対応する在宅福祉サービスを支援する情報システムである。ホームヘル
パーシステム、ショートステイ情報システム、訪問入浴サービスシステム、ボランティア
システム、ふれあいサービスシステムが考えられる。
④
情報提供・相談支援システム
複雑な福祉業務における情報提供型のシステムであり、一般市民というよりは、職員向
けの業務サポートシステムである。窓口対応記録システム、福祉相談支援システム、申請
業務情報システムが考えられる。窓口対応記録システムは、窓口で受け付けた相談者の内
容を保持するものであり、その後のサービスにつなげるシステムである。福祉相談支援シ
ステムは、要援護者から相談を受けたコーディネーターが一個人を継続的に面接した内容
を記録するものであり、この画面を見れば最新の要援護者の状況を把握でき、しかもホー
ムヘルパーなども利用することになるのでまさに一個人の生きた情報の共有化が図られ、
ニーズに応じたサービス提供を支援することができる。
⑤
高齢者データバンクシステム
65 歳以上全市民の保健福祉に関するデータベースである。厚生省の補助事業により構築
した。
⑥
ユーティリティ・システム
住民基本台帳メンテナンス・システムがこれに含まれる。一般ユーザーが利用するもの
でなく、ネットワーク管理者用のシステムである。
以上の定型業務だけに対応した情報システムを構築するだけでなく、ストックされた福
祉情報をさらに有効に利用するため、企画業務や統計業務などの不定型業務にも対応でき
る高度な情報システムにしておく必要がある。また、その様な環境(表計算ソフトにデー
タベースから必要データを検索して並べ、自動的に計算して台帳を作るようなイメージ)
を簡単に構築できるテクノロジーも比較的安価に実現可能となっている。
一例として、今後の福祉サービスは、住民のニーズに対応して大きく変更した方がよい
場合がある。その福祉サービスを変更・拡充させるための資料提供が情報システムの機能
に求められる。この他にも福祉情報を効果的に活用して多様な利用が考えられよう。
53
3.4 運用段階
(職員の情報リテラシー育成方法)
当然、ユーザー自身の情報活用能力に依存したシステムであるため、ユーザーへの教育、
啓発などの支援、マニュアルの作成が重要となってくる。
高浜市地域福祉情報システムの場合、一般ユーザーが情報リテラシーを獲得していく場
合、以下の3つの段階があると考えられる。全員への講習会開催や OJT による自己啓発、
外部組織による有償セミナー参加などの方法が考えられる。
① Windows 環境の習熟、ワープロ、表計算ソフトなどの基本アプリケーションの習得
② 定型業務をサポートする各種サブシステムのトレーニング
③ 不定型業務の洗い出しと不定型業務をサポートする基本的な操作方法のトレーニング
ほとんどの職員は、①②の講習会を受講するとともに、業務中に問題が発生する都度、
③についての個別指導を OJT 教育によって行ってきた。
(ユーザーによるシステムの評価)
1997 年ユーザーである福祉専門職に構築した情報システムの利用実態とシステムに対す
る評価を行ってもらうためにアンケート調査を行った。この結果から、いくつかの問題も
明らかとなり、業務改善チームで対応策を検討した。主要な問題は以下の通りであった。
表 3-4
ユーザーの評価とシステムが抱える問題
(問題 1)システムの利用者が限定されている。かつ、利用しても業務範囲以外のシステムは利用
していない。システムの評価は全体的に低い。しかし、利用頻度が高い人はシステムに対する評
価も良い傾向にある。
(問題 2)現在の情報共有のニーズが想定しているより少ない。システムの計画が開発者任せにな
っている部分が多い。
(問題 3)システム全体を大まかに理解するスーパーユーザーが職員の中にいない。
(問題 4)ハードウェア・ソフトウェアが一世代前のものもあり、我慢できるスピードでシステム
を動かすことが難しくなっている。定期的な更新が必要となっている。
(情報の移行)
紙で管理していた給付台帳なども、システム構築後、継続的なデータの入力作業によっ
て情報化されることになる。過渡期は紙の情報と電子化された情報が併用されることにな
るが、徐々に情報システムへの比重を高めていく。一端、入力された情報は他組織でも、
他業務でも徹底的に活用することが可能となる。
(システム構築の具体的効果)
これらのシステムが本格的に稼働した場合、以下のような効果が認められよう。
54
表 3-5
不定型/
定型の区別
システム名称
不定型業務
(意思決定支援)
(企画業務支援)
(統計作成支援)
定型業務
高浜市地域福祉情報システムの効果
導
入
効
果
・業務における意思決定支援、企画業務の支援、各種統計作成の支援など
を容易に行う容易に行うことができる
・よりきめ細かな福祉サービスが行える
・情報の高度利用が図られる
・統計作業などの単純作業の軽減
福祉行政情報システム
・転記作業の減少などにより、事務の省力化
・最近の情報が入手できることや、瞬時に情報を台帳イメージで取り出せ
ることにより、事務の迅速化
・帳票の削減やレスペーパーが図られることにより、台帳管理が簡略化
・データの正確性の向上が図られ、情報の二重管理がなくなるとともに、
事務の正確性が向上
・上級官庁へ提出する書類の作成が迅速化
手当・支給品システム ・転記作業の減少などにより、事務の省力化
・最近の情報が入手できることや、瞬時に情報を台帳イメージで取り出せ
ることにより、事務の迅速化
・帳票の削減やレスペーパーが図られることにより、台帳管理が簡略化
・データの正確性の向上が図られ、情報の二重管理がなくなるとともに、
事務の正確性が向上
・対象者への申請を促すことができ、積極的な福祉サービスが可能
在宅福祉情報システム ・転記作業の減少などにより、事務の省力化
・最近の情報が入手できることや、瞬時に情報を台帳イメージで取り出せ
ることにより、事務の迅速化
・帳票の削減やレスペーパーが図られることにより、台帳管理が簡略化
・データの正確性の向上が図られ、情報の二重管理がなくなるとともに、
事務の正確性が向上
・対象者の的確な把握、より細かな福祉サービスの展開、本来のケースワ
ークへの専念などにより積極的な福祉サービスが可能
情報提供・
・申請時の待ち時間減少、問い合わせに対する迅速な回答の可能性、相談
相談支援システム
の的確で迅速な対応など窓口サービスが向上
・事務引継が容易となり、事務の正確性の向上
健康増進システム
・転記作業の減少などにより、事務の省力化
(今後構築予定)
・最近の情報が入手できることや、瞬時に情報を台帳イメージで取り出せ
ることにより、事務の迅速化
・帳票の削減やレスペーパーが図られることにより、台帳管理が簡略化
・データの正確性の向上が図られ、情報の二重管理がなくなるとともに、
事務の正確性が向上
・福祉情報と健康情報の融合により、高度で積極的な健康福祉サービスが
可能
ユーティリティ・シス ・最新の住民基本台帳データを福祉情報システムに転送することで、対象
テム
者の的確な把握が可能となる
(セキュリティ確保の考え方)
福祉サービスの水準を上げるためには、福祉に関連する広域な情報を収集し、データベ
ースとして利用しやすい形に整備して、サービスを評価する必要がある。しかし、福祉に
関連する情報は、他人に知られたくない個人情報も含んでいる。それらの個人情報の無秩
55
序な拡散は、プライバシー保護の問題と密接に関わっており、その取り扱いには細心の注
意を払い、個人情報が定められた業務に限定して利用される必要がある。また、システム
の不用意なダウンなどによるデータの消失からデータベースを守るために、可能な限りの
対策を講じておくことが望まれよう。以下に一般的に考えられるセキュリティ対策(一部
は高浜市でも導入)をまとめた。
図 3-6
セキュリティ保持の考え方
① プライバシー保護の方策として、システムを利用する課・係・グループによって実施できる
業務、アクセスできる情報を限定する。
② 担当者 にユーザーID とパスワードの発行を行い、あらかじめ決められた担当者 しか利用で
きないようにする。
③ パスワードの入力を規定回数以上間違った場合、ユーザーID を切り離し、システムにアク
セスできないようにする。
④ クライアント機の設定場所を部外者が視認できないところとする。
⑤ ネットワーク管理者が利用ユーザー名を適宜監視できるようにするとともに、ユーザーのア
クセス履歴を記録するようにする。
⑥ データ修正を行った場合、担当者氏名、日時の記録ができるようにする。
⑦ 担当者がプライバシー保護の重要性の認識を高められるような研修を実施する。
⑧ 場合によっては プライバシー保護法 など高浜の実状にあった条例の制定について 検討を行
う。
⑨ 外部からの利用を限定するため、NTT 専用線による WAN を構築する。
⑩ システムダウン防止への対処法(デュプレックス、ハードディスクの二重化、ネットワーク
監視など)の確立と、不測の事態に備えてバックアップの励行
56
Fly UP