...

特集 伊藤鉄工鋳造所(概要なし).indd

by user

on
Category: Documents
8

views

Report

Comments

Transcript

特集 伊藤鉄工鋳造所(概要なし).indd
3 社でベトナムへ展開
蛭 田 博 ㈱ 伊藤鋳造鉄工所
1.海外展開の背景と事業概要
㈱ 伊藤鋳造鉄工所は、伊藤鉄工 ㈱(川口市)と
また、ベトナムを選択した理由は次の点を考慮し
㈱ ケーエム(大田区)と共同でベトナム ハノイの
たからである。
ノイバイ工業団地に銑鉄鋳物製造業の IKI CAST
VIETNAM Co., Ltd(以降 IKI と略す)を 2007 年 3
(1)安価な労働力
月に設立し、2008 年 5 月に操業を開始した。
2010 年 1 月のジェトロ資料でも一般作業者の賃金
まず、ベトナムへ進出した背景と当初の期待、選
は中国(上海)の約 30 %、タイ(バンコク)の約 50 %
定国(市や街含む)の魅力などを述べる。
で約 75 ドル。中間管理職は中国(上海)の約 75 %、
3 社のベトナム進出目的は、伊藤鉄工 ㈱ は管材製
タイ(バンコク)の約 61 % で約 750 ドルと魅力的で
品等を生産しており中国一極集中リスクの回避策と
あった。更に、電気を大量に使用するため、電気料
して、中国に近く緩やかな且つ安定した経済成長の
金が中国(上海)の約 68 %、0.07 ドル /kWh でしかも
ベトナムに日本、中国以外の拠点確保と東南アジア
従量性で基本料金がないことも魅力であった。ただ
の需要開拓のために、㈱ ケーエムはベトナムでの生
し、今は時間帯性の電気料金となっている。更に、
産拠点確保と需要開拓のために、そして ㈱ 伊藤鋳造
25 才以下が人口の大体 50% と若年者が多く市場の
鉄工所は当時の増産対応による日本持帰りと原価低
成長性が高く、ハノイ工科大学が『世界ロボコン大
減を推進することであった。
会』で優勝するなど優秀な人材も魅力であり、親日
派が多いことも理由であった。
�������
���������
����
����������������
����������������
����
�����
��������������
���
�����������
�����
������
��������������
������
��������������
IKI CAST VIETNAM Co.,Ltd ���
IKI CAST VIETNAM Co., Ltd 外観
Vol.54(2013)No.11
SOKEIZAI
29
オペラハウス
元気な子供達
(2)優遇税制
への中小企業の投資が増加している状況であった。
当時は輸出加工企業(EPE)の場合、優遇税率で
進出に際してのベトナム政府との折衝は現地の日系
10%、減免期間は 4 年間免税、7 年間は半減を 15 年
会計事務所(投資コンサルティングを兼務)を活用
間適用と特典が大きかった(表 1)。もちろん、部材、
し、あらゆる情報の入手から投資申請等の手続き全
設備の輸入税、付加価値税とも免税であった。そし
般の支援を得た。現在も会計業務を委託している。
て、当時はベトナムへの大企業を中心とした大規模
日本国内では川口商工会議所から管理職、通訳の紹
な投資が一巡し、部品産業や労働集約型産業の分野
介や日本での研修など多くを援助していただいた。
表 1 ベトナムにおける輸出加工企業への優遇税率
新規の場合
↓
優遇条件
工業団地(IZ)
進出製造業
輸出加工区(EPZ)
輸出加工企業(EPE)
2)
進出製造業
2004 / 8 ∼
2009 / 1 ∼
税率
15%
25%
減免税
3免7減
なし
期間
12 年間
税率
10%
減免税
4免7減
25%
1)
―
期間
15 年間
輸入税
免税
免税
付加価値税
免税
免税
1)利益が出てから 4 年間は免税、次の 7 年間は半分の税率。
2)IKI CAST VIETNAM
2.進出形態
30
海外進出の方法として共同進出か現地法人との共
の独資である。当社の場合は 100% 輸出で考えてい
同経営等が考えられるが、今回の進出は、ベトナム
たので現地法人との共同経営は当初より考えていな
進出を考えた 3 社が均等に出資し 100% 日本勢のみ
かった。
SOKEIZAI
Vol.54(2013)No.11
特集 鋳造業の海外展開の課題と期待
3.現地の設備、主要生産品目等
工場の概要は表 2 のとおりである。当初 200トン / 月
ル蓋等の管材である。導入設備を表 3 に示す。実績
の生産能力で始め 2012 年に設備増強により 500 ト
がある設備で構成しなければならないので必然的に
ン / 月の生産能力となった。生産品目は建設機械用
日本製とした。
部品、ホイスト部品、電車モーター部品及びマンホー
表 2 工場の概要
表 3 設備概要
敷地面積
10,250 m2
溶解
高周波溶解炉( 2 トン)× 2 基
建家面積
3,440 m2
生型の造型
造 型 法
自硬性フラン樹脂鋳型法と生型鋳型法
F1 生型造型機 × 6 台
FD 生型造型機 × 2 台
製品材質
小物部品 FC200 ∼ FC300
大物部品 FCD450 ∼ FCD600
砂処理
自硬性 砂処理装置
20 t ミキサー、5 t ミキサー
従 業 員
約 50 名(内、間接員 4 名、駐在員 1 名)
品質管理
CE メータ、発光分光分析計、
超音波探傷機、引張試験機、
球状化率自動判定装置
工場レイアウト(概略)
������
�����
������
����
�����
���������
�����
��
��
�
����
�
�
���
�����
����
ハ ブ
��
�
�
������
�����
���
���������
����������
������������
�������������
������������������������
�������������
2 トン溶解炉と CE メータ
発光分光分析計
�������
球状化率自動判定装置
�����������
������
マンホール蓋
�����
注湯作業
引張試験機
������
現地の設備と主要製品
Vol.54(2013)No.11
SOKEIZAI
31
4.現地生産の利点と問題点
(1)利点
鋳物業に使用する切断した鉄材であることを説明す
海外へ進出し現地生産をして良かったことはいく
るのに 3 か月も掛かった。もちろん、正式な説明資料、
つかある。まず、第一に当初計画していた生産増へ
現品の分析結果、当局による現品の確認等々を行っ
対応できた。お客様の要求にスムーズに対応できて
て現在は問題なく輸入通関できているが、今思い返
いることは製造会社として当然ではあるが実際は困
しても冷や汗ものであった。『スクラップ』という
難な場合もある。ある程度余裕をもって対応できて
言葉の現地での意味を事前に掴んでおれば適切な名
いることはお客様との信頼関係に大事なことであ
称で輸入でき、当初の混乱はなかったのではないか
る。また、当時の円高に対応できたことも利点と考
と反省している。一般的に通関業務が煩雑であり時
えている。
間もかかるが、同じ工業団地内の通関業者に固定化、
日本の伊藤鋳造鉄工所は『マザー工場』として海
専従化することで対応している。日本側での通関業
外工場に技術を移転し、技術指導を実施することに
者も同じ通関業者に固定しており設備・部材の輸出
より、伊藤鋳造鉄工所の社員の意識がそれまでと変
入がスムーズに動いている。輸出入の度に通関業者
化して、ノウハウの伝え方等を実際に経験しながら
を変更することは混乱を招くだけで得策ではないと
学ぶことができたのは大きな利点ととらえている。
思うので参考にしていただきたい。
同じ工業団地内の日系 27 社との異業種交流に参
生産実務上では電力不足の問題がある。計画停電
加でき、鋳造業として先に進出しておられた他社と
が月に 2 回程、突発停電は 2 か月に一回程度発生し
も情報交換を行っていることは海外での会社運営に
た。計画停電は事前にわかるので会社の就業日をそ
大いに参考になり助かっている。
れにあわせて変更すれば済む。日本側の独資なので
日系の金融機関もほとんど進出しており安心し
このような変更も比較的容易にできる。突発停電は、
て送金等を依頼している。海外に製造会社がある
電気炉を使用しているので本当に困ったものであ
ことにより、顧客から直接に海外会社への商談が
る。殆どが雷雲によるので数時間前には予測がつく
発生してきたことも、顧客の要望に答えられる体
ようになってきたが本当に突発で停電したときには
制を構築できていることであり今後の展開が楽し
電気炉の冷却水循環用のエンジンポンプを即座に稼
みである。
動させて対応している。これも、訓練しておかない
といざという時に失敗するので定期的な訓練が必要
(2)問題点および苦労した点
である。
苦労した点は何と言っても諸手続きが良く掴めな
製品を日本に輸出する場合、当然日数と費用がか
かったことである。工場建設時の手続き、部材輸入
かる。ハノイから東京港は 14 日、常陸那珂港には
時の事前申請と通関、会社制度の違いである。
21 日かかる。また、輸送費は 10 円 /kg 程かかるが、
例を 1 つ上げると、原材料の『スクラップ』の輸
人件費他の費用差を考えると充分対応できている。
入時に発生した通関当局の勘違いである。鉄材やア
現在は日本での製造費用の約 82% で持帰ることがで
ルミ、樹脂、鋼材等が交じったいわゆるゴミと思え
きている。
るスクラップと通関当局が勘違いして、それらが、
5.現地での原料等の調達状況
32
原材料、副資材も日本で調達していたものと同じ
とすれば、接種材や一部の副資材のみが日本からの
ものを調達している。もちろん、銑鉄、副資材もベ
調達部材であり、銑鉄、スクラップ、樹脂、硬化剤、
トナム国内にあるが品質を確認するとどうしても採
塗型等主要な部材は現地調達を実施している。銑鉄
用できない品質のものであった。日本での調達品も
は南アフリカから、スクラップは近隣諸国から、樹脂・
元々は輸入品であるので、ベトナムで輸入してそれ
硬化剤はタイから輸入している。塗型は日本からタ
らを調達する費用は日本と大きく変わりはない。日
イへの切り替えを検討中である。鋳物砂はベトナム
本以外から調達することを『現地調達』と表現する
が輸出国であるので現地業者より調達している。
SOKEIZAI
Vol.54(2013)No.11
特集 鋳造業の海外展開の課題と期待
6.人材育成の課題
ベトナムは親日的で安全、清潔そして豊かな食生
活で知られている。現在は若い女性だけでなく熟年
夫婦にも人気のある観光地である。人々は 80% 以上
が仏教を信仰しており日本に似ている。国民性は勤勉
で若くて優秀な人が多い。一生懸命働き貪欲である。
指示したことは概ねきちんとやるが日本人のよう
に『言わなくても解る』ということはない。これは、
どちらかというと我々がベトナム語をきちんと話せ
ないことに起因していると考える。通訳を介して指
示するので行き違いが発生していると考えている。
したがって、従業員に日本語を覚えてもらうことに
し、習熟度合いにより手当を支給している。現場の
リーダーには日本での研修の機会を与えて業務も日
本語も学ばせている。伊藤鋳造鉄工所ではベトナム
からの研修生を毎年 3 名程度受入れており、彼らが
ベトナムに戻った時には是非 IKI へ就職する(でき
る)よう考えている。実際に就職したものもおり双
方満足している。日本側にもベトナムのハノイ工科
大学を卒業した従業員がおり技術をベトナムに伝承
するのに大いに役立っている。ベトナム会社の幹部
は全員が大学卒で労働意欲が高く安心して業務をま
かせられている。
重点を置いている。日本語の勉強会は定期的に実施
7.設備メンテナンス
先にも述べたが、設備は全て日本製である。問題
はメンテナンスであるが、電気炉、ホイストは日本
メーカーの営業拠点がハノイにあり補修の際には現
地での対応が可能である。但し、現地のメーカース
タッフでも見つけられない不具合などを事前に対処
しておくために、日本での保守担当者や業者の技術
者を半年に 1 回の頻度で設備の PM のために派遣し
て重大事案の発生を予防している。日本で起こって
いる事案と同じことが起こるので IKI においても的
確な判断ができている。部品の入手等はどうしても
日本からの空輸になるが、通関書類を正しく、写真
等を活用して解り易く作成することにより、ベトナ
ムでの通関業務を短時間に通過させ生産停止時間を
短時間にする努力を怠っていない。問題は模型(木
型)の管理である。現在、模型(木型)は全て日本
で作成、試作・完成させたものを無償貸与している。
日々の問題に対して、当初は日本から出張して修理
や改造に対応していたが、日々のことであり対応が
追いつかなかった。そこで、木型管理の担当を決め
日本で研修させた。IKI でもメンテナンス用の木工
設備を導入する等専門部署を設けて対応しているが
実力はまだまだで今後強化してゆかねばならない項
目である。
8.まとめ
電話だけの時代、FAX だけの時代、パソコンだ
ことになる。新製品や試作品立上、生産管理手法、
けの時代を経て今はテレビ電話が無料でできる時代
品質管理手法等ノウハウ部分が日本側の役割とな
となり、現地とは直に言葉と画像でやりとりできる
る。製造でも世界をリードし続けるためには日本で
ので従前と比較してはるかに便利に意思疎通が図
の技術革新が最も重要であることには代わりがない
られている。製造する場所がたまたま遠い、たまた
と考える。将来は IKI の生産管理、品質管理の手法
ま海外にあるという時代になり『ものづくり』の場
やデータを日本で一元管理して世界中どこで製造し
所は世界中のどこでも可能な時代となった。そうし
ても品質は同じとなるようにしていきたいと考えて
た中、日本国内はまさに『マザー工場』化していく
いる。
Vol.54(2013)No.11
SOKEIZAI
33
Fly UP