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購買部門の重要性

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購買部門の重要性
1-1
購買部門の重要性
■購買業務は利益を生み出す“宝の山”
とを表しています。逆にいうならば、同程度の利
企業における利益創出のためには、図1の施策
益を得ようとすれば原価を下げるBの方策は 32
がありますが、①と②の達成には非常な困難が伴
分の1の努力ですむわけです。
います。そこで③原価の低減の取り組みがあります。
このことからも、原価の中で、ウエイトの高い
製造業の原価構成は、資材・購買費、労務費、
材料費、購入部品費、外注費などを担当している
経費の3つに大別されます。その構成割合は業務
購買部門が利益の創出、資金繰りの面でいかに重
や業態により多少の差異はありますが、だいたい
要であるかが判断できるかと思います。
図2のような傾向にあります。
どの企業も、長期的にも短期的にも、繁栄、発
6
も、利益の絶対額は実に 32 倍もの差が生じるこ
■利益創出部門への脱皮
展するための礎として、収益を確保するという基
これまで製造現場では“乾いたタオルをさらに
本的な命題を背負わされています。今日のような
絞る”といった考え方で合理化がはかられてきま
内外の激しい企業競争の中で製造コストの引き下
した。一方、事務・間接部門では、OA 化、IT 化
げが受注獲得の大前提になっています。毎年確実
の活用がはかられているといっても、その歩みは
に利益をあげていくことは大変なことといえます。
かんばしくないようです。
損益計算に用いられる計算式
購買部門においても仕事の質が問われ、単に後
Ⓐ
追い的に品質やコスト、納期を管理するのではな
↑
く、前向きな仕事が期待されています。
売上高-原価=利益
図4には、購買で発生するであろう「機会損失
↓
項目」を示しました。ここで機会損失とは、あの
Ⓑ
時、あの案を採用していれば損をしないですんだ
を基に利益を大きくする方策を考えてみましょう。
のに、ということです。購買損失には、購入先で
まず式から、Ⓐ売上高を大きくするか、Ⓑ原価
発生している損失、買い方で発生している損失の
を小さくするかの2つの方法が見い出されます。
2つに大別できます。このリストを基に現状の業
今、仮に年間 100 億円の売上高を上げている企
務をチェックしてみてください。
業があって、売上に対する利益率が3%であると
想定します。すなわち、図3の中段の欄がこの企
■バイヤーは経営者の分身
業の売上原価の内訳となります。利益を増大させ
購買活動を実際に推進する担当者でバイヤ
るために、Ⓐの方策の拡大策を採用すると、図の
ー(Buyer)とも称されています。経営者の代
上段のように、売上高の伸びを 10%、原価率が
行者として、会社を代表して、購入先の企業か
変わらないとの前提に立てば、利益は 3,000 万円
ら、必要とする品質の資材を適正価格で、必要と
増加することになります。
する量を、必要な時にタイミングよく調達し、
これに対して、原価を低減するⒷの方策でコス
双方の収益の増大を図る責務を負っています。
トダウンを 10%ねらうとすれば、売上高はその
バイヤーは購買倫理にもとづいて行動し、商道
ままでも、利益は 12.7 億円となり、9.7 億円増加
徳に反する行為をしてはなりません。その役割を
することになります。これは同じ 10%の努力で
図2に、必要な能力と責務には図5に示します。
第1章 利益を出すための購買革新
製造原価の構成
営業マン
経費
①売価の値上げ
労務費
②販売量の拡大
購入 外注費
部品費
バイヤー
③原価の低減
労務費の低減
経費の低減
図1 企業における利益アップの方策
14)
バイヤーの役割
資材・購買費の低減
資材・購買費
50 ∼ 75%
材料費
企業の最大支出
しかも外部流出費用
①企業の窓口、顔
②コスト責任大
③社内各部門への情報提供
④社内の P/T、自主研活動
への支援
⑤外製メーカーの指導
⑥競争相手より安く継続的
に入手する
図2 製造原価の構成とバイヤーの役割
3.3
原価 106.7
A 売上拡大
原価 97
原価 10%ダウン
購買損失
12.7
100
図3 利益創出の2つの方策
加工段階選択損失
購買先選定損失
原価 87.3
B 原価低減
内外製設定損失
購入経路損失
購買先調査不足損失
複数社購買未実施損失
購買先技術指導不足損失
購入品仕様過剰損失
購入先仕様過剰損失
信頼性にもとづく適正な商取引
発注仕様過剰損失
標準品未採用損失
購買単価見積方法損失
単価見積基準不備損失
見積帳票不備損失
発注方法選定損失
責
務
発注単位選定損失
・的確な購入先を選定し
・必要とする品質の資材を
・適正な価格で
・必要な量を必要な時に
・タイミングよく調達し
・双方の収益に貢献する
不適量発注損失
納期選定損失
発注条件選定損失
発注在庫方式設定損失
材料支給方法設定損失
納入方法選定損失
運搬経路損失
能
運搬方法設定損失
担当制選定損失
梱包過剰損失
力
調達品の技術的知識
価格見積、価格査定能力
情報収集、活用能力
経営的な知識、能力
実践的な指導力
納入単位設定損失
図4 購買の機会損失
4)
110
売上高
10%アップ
100
3
(売上)
利益
現 状
14)
図5 購買担当者に必要な能力と責務
7
1-2
8
購買部門の役割
購買とは、企業活動に必要な諸資材や役割を外
購買部門でも設計図をもとに購買活動を開始し
部から調達することであると定義されています。
ます。かって、購入先との単価交渉は、担当者の
こ の 定 義 を 消 極 的 に 受 け 止 め る な ら ば、 社 内
過去の経験と限られた個人的情報をベースとする
の 各 部 門 か ら の 要 請 に も と づ き、 適 正 な 品 質
狭い範囲内だったようです。コストダウン活動は
(Quality)のものを最適なコスト(Cost)を満た
購買部門や製造部門を中心とした量産移行後の製
しながら、必要な時期(Delivery)までに購入す
造原価低減活動でした。下流での活動では設備変
るということもできます。
更や型変更を伴い、その結果はしれています。
この業務が十分その機能を果たさないと、例え
コストの大半が設計仕様で決まってしまうなら
ば、過剰な在庫で資金が不足する、発注ミスによ
ば、設計仕様が決まる前段階で安くて良い材料や
ってラインがストップする、顧客から品質に関す
新技術、関連企業の新加工方法などの情報を、あ
るクレームが続発し、社内の人たちが走り回った
らかじめ設計部門へ流すことが大切です。
りする、といった事態が生じてしまいます。購買
こうした購買情報や技術情報が、あらかじめ盛
部門も単に後追い的な納期、品質、コストを管理
り込まれた設計仕様であり、上流での共同の低減
するのではなく、もっと前を向いた内容が期待さ
活動であれば、購買段階で狙いどおり安くて良い
れています。図6は購買活動におけるモノと情報
ものが入手できるはずです。これが大きな製造原
の流れを示したものです。
価低減になり、開発購買の取り組みになります。
購買業務については、品質、コスト、納期はい
新材料や新技術の提供が、付加価値の高い製品
うに及ばず、業者選定と発注系列の改善、また業
開発に貢献することになるわけです。
者がもたらす情報活用とさらに踏み込んだ創造的
な活動が要請されています。
■あらゆる部門と接点をもつ
外部から調達する原材料や用役には、常に新技
術や新材料が出現しています。また、市況や需給
動向によってコストは激しく変動しています。購
■購入価格の低減による利益の確保
同じ品質・仕様のものであれば、1個につき1
円といわず、1銭でも、安く調達できれば、それ
は即企業利益につながります。
■調達期間の短縮
買部門は外部の企業と日頃接している部門として
顧客の要望する製品を、必要とする時に出荷す
入手した情報を社内各部門に素早く提供し、活用
るには、原材料や部品を必要な時までに必要な量
させていきます。常に最適な供給源を開拓し、そ
だけ調達できなければなりません。調達期間を短
の積極的な活用を関連部門に促し、総合的なコス
縮し、仕掛り品・製品在庫の無在庫化を実現すれ
トダウンを図っていきます。図7は他部門や受注
ば、経営の効率化と売上高の増加に直接貢献する
企業との関連性を示したものです。
ことになります。
■新製品開発や新分野開発への貢献
通常、コストの大半は設計開発段階で決定する
といわれています。図8はその構成割合を示した
一例です。
これからの購買部門は、企業の将来に目を据え
て、長期的展望で利益を創出する部門として再構
築をはかるべきです。
第1章 利益を出すための購買革新
組織
工程 顧 客
営 業
開発設計
購 買
購入先・
外注先
生産技術
製 造
物 流
型・治具・設備仕様書
発注前
製品図面
発注時
検討・発注先決定
発注後
製 造
検収
購入段階
保
管
・
輸
送
生 産
生 産
納 品
図6 購買活動におけるモノと情報の流れ
5)
〈問合せ〉 図面・仕様書について
設計部門
〉
〈問合せ
生産計画部門
納期について
材料支給部門
支給品の遅れについて 〈問
合せ
〉
生産部門(工場)
不良品の発生について
生産技術部門
計画の変更について
〈指導〉
品質管理部門
発注先のレベルアップ
CR〉
9
購入先
〈共同
〈返答〉
発注担当者
〈返答〉
図7 他部門との関連性
購入部品
外注部品
コスト構成
要 因
内部発生
費 用
外注先
10)
仕様で決まるコスト
40∼50
開発技術力(設計部門)
買い方で決まるコスト
価格交渉(購買部門)
開発経費
設計の技量(設計部門)
製作人件費
作業性、加工性(設計部門)
生産性(生産技術、製造)
トラブル対応費用
設計者の技術力
図8 コストの 70 ~ 80%は設計段階で決まる
10)
5
5
20
10
5
1-3
購買部門の組織の位置づけ
一般的には、部門別役割として、
とができます。しかし、各工場の日々の活動に対
どんなモノを───────────設計部門
するフォローが弱くなりがちです。
いつまでに、いくつ──────生産管理部門
どんな組織がよいのか、それぞれの長短を配慮
どこから、いくらで、買うべきか──購買部門
し、自社の規模、発注方針、発注先の規模や水準
に分けられ、“何を買うべきか”は生産部門の領
などをふまえて、効率のよい組織はどうあるべき
域であり、“どこから買うべきか”が購買部門の
かを十分検討したうえで決定していくということ
領域です。購買部門は業者の選定および購買とい
になります。
う商取引を行うという権限を有しています。トッ
図9は購買部門の位置づけ、つまり、Aは独立
プおよび各部門からの信頼を勝ち得てから、十分
購買部、Bは事業部内、Cは本社と工場の混合組
に権限を行使できることになります。
織の例を示しました。混合組織の場合、本社は全
その運用されている組織形態としては、
社的なもの集購品、標準品、これに対して工場購
①工場分散型か本社集中型
買は工場独自品、設備ということになります。
②購買部か資材部、調達部などの独立型
③生産管理部門所属型
10
10
■職務分担は機種別かメーカー別に
④製造部門所属型
機種別担当にするか発注別担当にするかは、そ
⑤その他の部門所属型
れぞれ一長一短があります。P社のA部品担当者
などがあります。③、④の生産管理部門や製造部
とB部品担当者が同じ発注先に発注している場合
門所属の場合、目先のコストダウンや納期管理が
では、受注先Q社にとって納期の催促が異なる担
優先し、受身の管理となる傾向が強いようです。
当者のためにどちらを優先すべきか迷ってしまい
■工場ごとの分散型と本社集中型
ます。同じ会社なのに連絡は良くないと評価を受
けることになります。反対に、発注先ごとの担当
① 工場購買(分散購買方式)
制をとれば同じ部品なのに単価が異なる事態も生
工場ごとに配置してある場合、工場の日々の生
じることがあります。図 10 はその例です。
産の状況もつかみやすい、運搬費用が安い、連絡
取引先の育成や共通のコストダウン指導につい
も密にとれるなどのプラス面があげられます。地
ても機種別かメーカー別かで同様の差異が生じて
域に合った特徴ある資材を独自に選定できます。
きます。
地域への貢献、共栄を高めることができます。こ
ケースバイケースで決めるしかないでしょう。
れに反して、各工場ごとに離れて同じ仕事をする
と、全社的に政策、方針は確立していても、価格
の交渉、管理などに差異を生じてきます。本社で
しっかり管理しないと、統一もとれなくなりま
す。
② 本社購買(集中購買方式)
逆に本社で担当する場合では、全社的計画や統
制の面では有利です。各工場で共通している資材
まとめ買いによる大量購入で購入価格をさげるこ
第1章 利益を出すための購買革新
A 独立購買組織
B 事業部内購買組織
社長
社長
総務部
品質保証部
製造部
購買部
生産管理部
開発部
営業部
総務部
企画部
事業部
□□
△△ 事業部
◎◎ 事業部
事業部
××
海外調達課
外注課
部品購買課
購買管理課
購買部
C 本社と工場の混合組織
社長
資材部
総務部
︵本社︶
利は
元にあり
購 買
科学的
手法
11
工場
××
︵工場︶
選定
と
指導
購買部
図9 購買部門の位置づけ
○○を急いで!
○○を急いで!
△△を先に!
△△を先に!
・発注メーカーごとの欠点
P社
P社
僕は
僕は B 工業
B 工業
の担当
の担当
僕は A 製作所の担当
僕は A 製作所の担当
受注先︵Q社︶
受注先︵Q社︶
どっちも急げ急げ
どっちも急げ急げ
では、どちらを優
では、どちらを優
先すればいいのか
先すればいいのか
困ってしまいます
困ってしまいます
同系統の部品なのに
同系統の部品なのに
単価が異なっている
単価が異なっている
図 10 機種(製品)別と発注メーカー別のプラスマイナス
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