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http://repository.osakafu-u.ac.jp/dspace/ Title Author(s) Editor(s
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同時通訳におけるメタ表象 : 「わけだ」・「のだ」の認知語用論
的分析
南津, 佳広
Editor(s)
Citation
Issue Date
URL
人間文化学研究集録. 2002, 11, p.39-52
2002-03-31
http://hdl.handle.net/10466/11727
Rights
http://repository.osakafu-u.ac.jp/dspace/
同時通訳におけるメタ表象
一「わけだ」・「のだ」の認知語用論的分析一
南 津 佳 広
1.はじめに
同時通訳とは周知のとおり,原発言を理解した順にできる限り早い段階で起点言語(Source
Language:SL)から目標言語(Target Language:TL)へと変換訳出する,複数同時的(con−
current)な言語活動である。時間の制約が極めて厳しく,発話の理解と産出が絶えずオーバーラ
ップしている中,通訳者は瞬時に訳出表現を選択している(qepHoB 1987,船山2000,水野2㎜,
Setton 2000, Shlesinger 1995)。このことから,通訳者がオンラインでSLを聴取して,どのタイミ
ングで,いかに変換訳出したのかをスクリプトにした,同時通訳のデータを言語学的に分析して
ゆくことは,人間の言語使用に貴重な貢献をするものと思われる。
さて,同時通訳者は,基本的には原発言を客観的にとらえている。SしとTLを辞書的に対応さ
せて言語変換し,そのまま産出しているのである。ところが,ときには言語の線状性の制約
(lineadty constraint), SしとTしの組み合わせから不随意に生じる表面テクストの文法構造の変化
など,さまざまな障害に直面することもある。その際,通訳者は原発言者の発話を咄嵯の判断で
解釈する。つまり,問題となる発話をそのまま解釈するのではなく,推論を働かせて原発言者の
伝達意図を把握して,主観的に解釈して訳出するのである。このような通訳者の咄嵯の判断に,
船山のいう「有意義性確保の原則」(船山2000)が当てはまると考えられる。
(1)有意義性確保の原則 (Pdnciple of Secu㎡ng MeaningfUlness)
通訳者は,自分の訳を構成する全ての表現が有意義なものであるようにする。(船山2000:5)
この「有意義性の確保」は様々なかたちで,訳出表現として言語化される。英日同時通訳の場合,
その典型のひとつが日本語のモダリティ「わけだ」・「のだ」である。(2)からわかるように,英
日同時通訳では,「わけだ」・「のだ」が多用されている。
(2)
E17 THIS IS OFCOURSE……. THIS HAS BEEN AN EXTRAORDINARY CRISIS, BUT THE
J17 これは,勿論非常に大変な危機な[わけでづ]が,
E18 HEART OF THE MAπER WAS A MISS MATCH BETWEEN THE FINANCIAL
J18 しかし,核心はですね,
E19 SYSTBMS IN INDIVIDUAL COUNTRIES AND THIS LARGE GLOBAL CAPITAL
J19 個々の金融制度とそれから大きなグロー
一39一
E20 MARKETS WHERE MORE AND MORE MONEY MOVES AROUND THE WORLD
J20 バルな資本市場のミスマッチ[なんです]ね。 世界市場
E21 AND THOSE COUNTRY SYSTEMS DH)NOT HAVE THE STRENGTH AND THE…. IN
J21 ではお金が動いて います。1国のシステムは
E22 THE SENSE THE CAPAB皿,ITIES TO DEAL, TO MONrrOR, TO UNDERSTAND
J22 ある意味で,能力,強さがない[亟]ね。
E23 T田S HUGE BUILD UP OF SHORT TERM DEBT, WmCH WAS THEIR SOURCE
J23 しゅ,巨額の短期の際に対応できな・・匝亟ヨ]・[資料1]
日本語学の先行研究によると,「わけだ」・「のだ」は「説明」をあらわすモダリティとして
一般的に認められている。その一方,船山(2000)は,同時通訳における「わけだ」には当該情
報を先行文に関連付けさせ,追加的な表現が文脈上有意義な情報であることを示す機能があると
示唆している。そこで本稿では,いくつかの先行研究を踏まえ,どのような命題間の関連付けが
なされているのかをより詳細に検証して,英日同時通訳におけるモダリティ「わけだ」・「のだ」
を認知語用論の観点から統一的な見解を示していく。なお,本稿で取り扱う言語材料には,人間
のオンラインでの言語使用を反映させるために,いわゆるぶっつけ本番の「生」の影画同時通訳
のデータを採用した。また,考察の対象にするモダリティ「わけだ」・「のだ」は,平叙文の文
末に用いられているものに限定し,「のだ」については,その変形「んだ」とも含めることにした。
2.「説明」のモダリティ
モダリティとは命題に対する話し手の発話様式を示したもの,つまり,表現主体が想定した命
題を主観的に言語化したものである。特に日本語では,表現主体が事態(事象)をいかに把握し
ているのか,モダリティを通して文構造に如実に反映される。
(3.)風邪をひいた[亟]。
命題 モダリティ
(3)では命題「風邪をひいた」という部分を,表現主体の主観的な判断,表現態度をあらわすモダ
リティ「のだ」が後ろから修飾する構造となっている。これら「わけだ」・「のだ」は,「説明」
を意味すると一般的に認識されている。益岡(1991)によると,「説明項」から(非)明示的文
脈に基づく課題を表現主体が心的に設定し,「わけだ」・「のだ」を含む「被説明項」でその設
定課題に対する解答を与えるという。
(4)太郎と次郎が来た。これで全員集まった[璽。
この場合の関係は(4’)に示してあるとおり,命題「太郎と次郎が来た」から,「それが何を意味
するのか」という課題を表現主体が心の中に設定する。その課題に対し,「全員が集まったわけ
だ」と発話することで解答を付与している。
一40一
(4’) 課題「それが何を意味するのか」の設定
/ \
命題「太郎と次郎が来た」の叙述 課題に対する命題「全員が集まった」の付与躍解答
益岡によれば,「説明」には2種類あり,説明項が事実文か判断文かで以下のように「背景説
明」と「帰結説明」に分けられるとしている。
(5)①背景説明:与えられた命題に対する理由や事情を述べたもの。この際,説明項は真偽性
を主張するものではなく,真であることが確定している。もっぱら「のだ」
に見られる。
②帰結説明:与えられた命題から何が帰結するかを述べたもの。「わけだ」「のだ」の双方
に起こる。
例えば,以下のような発話があったとする。
(6)私は国立大学を2つ受験した。当時は,一期校と二期校に分かれていた國。
(7)当時は,国公立大学を2度受験できた。とても幸運な時代だった國。
(8)当時は,一期校と二期校に分かれていた。チャンスは2度あった[互憂圃。
(益岡1991:143∼145)
(6)では「私は国立大学を2つ受験した。」という命題に対して,「それはどのような事情があった
のか」との課題が設定されると考えるのが妥当であろう。この課題に対する解答が,「当時は,
一期校と二期校に分かれていたのだ。」によって付与されている。「背景説明」の「のだ」は事態
の背景に対する適切な叙述をしょうとするものであることがわかる。(7)では,「当時は,国公立
大学を2度受験できた。」という命題に対して,「そのことは何を意味するのか」といった課題設
定が考えられる。その課題に対する答えが,「とても幸運な時代だったのだ。」となるのである。
被説明項の叙述だけでは不十分であり,説明項が加わることでまとまりのある叙述となるといえ
る。(8>も(7洞様の解釈プロセスが考えられるのだが,ここで,「わけだ」と「のだ」による「帰
結説明」の違いは何かという疑問が生じる。益岡は「のだ」は表現主体の主観的な判断という要
素が強い場合に用い,「わけだ」は常識的に考えればそのような帰結が導き出せるはずだといっ
た客観性を強調する場合に用いるとしている。また,「わけだ」に関して,寺村(1984)は「必
ずしも理由を説明するというのではなくて,むしろQ(いわゆる説明項)という事実に特別の意
味があることを相手に気づかせようとするために使われることが多い」(寺村1984:278*カッコ
は筆者注)という側面を挙げ,以下の3つに分類している。
(9)①あるQという事実に対し,なぜそうなのかを説明するために,明らかな既定の事実P
をあげ,そこから推論すれば当然Qになる,ということを言いたかった。「…コトニナ
ル」と言いかえができる。
②Pという聞き手に身近な事実をあげ,その事実は,ある角度観点から見るとQとい
う意味,意義がある,ということを聞き手に気づかせようとする言い方。「言いかえる
一41一
と…」というぐらいの軽い感じの場合もある。
③P→Qという推論の過程は示さず,Qということを,自分がただ主観的にそう言って
るのではなく,ある確かな根拠があっての立言なのだということを言外に言おうとする
言いかた。乱用すると独断的な,押し付け的な印象を与える。(寺村1984:285)
「わけだ」・「のだ」と主・客観性の問題は曖昧であり,各々の機能は「説明」と一まとめにで
きるものではないことがわかる。そこで本稿では,認知語用論の観点からは「わけだ」・「のだ」
がどのように分析されているかを次章で取り上げる。
3.認知語用論からの視点
Sperber&Wilson(1986/1995)の関連性理論(Relevance Theory二RT)で1ま,発話とは曖昧か
つ漠然としたものであることが前提となっている。聞き手は,話し手の伝達意図の理解に際して
最適な関連性(optimal relevance)をもたらす解釈を求め,問題となる発話から明示的に得られる
言語情報や推論をもとに解釈的仮説(interpretive hypotheses)を立てる。その仮説から,曖昧性
の除去(disambiguation)や富化(enrichment),そして指示付与(reference assignment)などの操
作を行い,表意(explicature)を導出する。 RTでは,発話上の意味と表意の違いに着目し,命題
形式は現実世界を表象するほか,誰かに帰属する思考や知識などをも表象することから,前者の
ことを描写的用法(descdptive use),後者を解釈的用法(interpretive use)とすることで区別した。
特に解釈的用法の中でも一次レベルの表象(lower−order representation)を表意(explicature),そ
れより高次レベルの表象(higher−order representation)を高次表意(higher−level explicature)とし,
モダリティなどの一次表象に対する態度をあらわすもの高次表意,メタ表象となる。
⑳Am・t・・ep・e・ent・ti・n i・a・ep・e・ent・ti・n・f・・ep・e・ent・ti・n・a揃gher一・・d・・rep・e・ent・ti・n with・
1。wer一・・der rep・e・ent・ti・n・mb・dd・d withi・it.(Wil・・n 2000)
(メタ表象は表象の表象である。つまり,高次表象は一次表象が埋め込まれた構造をとる)
日本語では命題態度が明確に文構造に現れる特性を持つ。(3)では,太字「のだ」が表出命題に対
する話しての心的態度,つまりメタ表象となる。
(3)風邪をひいたのだ。
RTの枠組みでは,人間には認知的な情報を表象的に形成するメタ表象能力が備わっていると考
える。発話などの公共的表象(public representation)や,信念などの心的表象(mental
representation),そして命題などの抽象的表象(abstract representation)などの一次表象からスター
トし,自己の内部からの刺激(知覚・発話・信念など)を捉える二次表象を形成する。このこと
から,すべての発話はその他の発話,思考などをメタ表象したものともいえる。
内田(1998)はこの関連性理論の枠組みから,「のだ」の機能について考察している。
(11)A:スーザンはなんて言ったの?
B:君の財布が落ちたって。/君の財布が落ちたと言った。(内田1998:243)
吻A:スーザンはなんて言ったの?
・・君の財布縮ちた國って・/君の財布力・落ちた匝圏と言った・(内田・998・2必)
一42一
⑳Bではスーザンの発話を客観的に描写しているのに対し,「のだ」が押入されている。働Bで
は,スーザンが主張しているとの発話者の主観的な判断が認められる。このことから「のだ」と
は,何かしらの話し手の関与を示す手続き的意味(procedural meaning)であり,話し手が「解釈」
したとの高次表意を聞き手が復元するのに貢献しているのである。
ところで,本稿では上記のような,一般の言語理解における最適な関連性を求めた発話解釈と,
そのプロセスに含まれるメタ表象の原理は,同時通訳のプロセスにも当てはまると考える。同時
通訳では,発話理解の過程で構築された表象をオンラインで言語変換して表出するという違いは
あるものの,一般の言語理解と同様に,原発言から導出した表意を表象することを基本としてい
るからである。では,通訳者が主観的に判断して訳出をしなくてはならない場合はどうか。
Wilson(2000)は,発話者の主観的判断が含まれる引用におけるメタ表象を考察している。引用
には言い換えや精緻化,そして誇張などが含まれるため,メタ表象は「類似的な表象
representation by resemblance」(Wi霊son 2000:425)という観点から分析されるべきであると主張
している。通訳とは原発言をそのまま言語変換して訳出することを基本としているので,ある程
度引用に近いともいえる。通訳者が主観的な判断して訳出する場合も,一般発話における引用表
現と同様に,メタ表象能力を用いて原発言と論理的,文脈的な含意を共有する解釈をして類似的
な表象を構築し,それを変換訳出しているといえよう。つまり,このような場合でも関連性の原
理を適応できるのである。
以上のことからから,「わけだ」・「のだ」を以下のように統一的に整理できるのではないか。
㈲ 「わけだ」「のだ」はともに表現主体が先行する(非)明示的文脈をもとにメタ的に解釈
仮設を立て,その仮説に対し何らかの主観的な解釈を行ったことを示すメタ表象で,同時に
聞き手に注意を促すマーカー一である。
同時通訳のデータを観察していると,“because of”に相当する,「解釈」したことをメタ表象し
ている例がいくつか見受けられる。
(14>
E30 EH, rr IS, UH, STARTING TO SPREAD OUTSIDE THE USUAL BOUNDARIES,
J30 そうです。
E31 PARTLY FOR THE REASONS THAT WE HAVE DISCUSSED一一POPULATION
J31普通の境界を超えて広がりはじめています。 今言ったような
E32 MOVEMENTS, OW−UH WEAKENING HEALTH SYSTEM. BUT IT IS ALSO
J32理由,人口移動などもその理由ですね。 それから医療制度の弱体化
E33 POSSIBLE THAT MALARIA IS STARTING TO SPREAD OUTSH)E THESE AREAS,
J33 も原因ですが,しかし原因として,マラリアが 拡大しているのが,
一43一
E34 BECAUSE OF GLOBAL WARMING. AND WE KNOW THAT FLOOpING AND
J34 この地域から拡大しているのが,地球温暖化の影響もある[んでづ]ね。 [資料2]
ここでSLは,マラリア蔓延の原因についての理由を3つあげている。先の2つの理由「人口
移動」,「医療制度の弱体化」については,原発言者が述べたそのままを訳出しているが,最後の
「地球温暖化の影響」のみ「のだ」の変形「んです」がついている。通訳者は“But it is also….”
を聞いた時点で後続する発話の訳出を行いつつ,「原発言者が最も強調したい理由をもうじき述
べるのではないか」との解釈仮設を立てたと考えられる。“starting to spread”まで聞いて,いっ
たん「拡大しているのが」と訳出し“outside these areas”と付加情報が続いたことから,「この地
域から拡大しているのが」と言い直しているものの,“because of”以降の原発言によって,仮説
が間違えていなかったと解釈したのではないだろうか。「んです」はそのことを示すメタ表象で
ある。
4.英日同時通訳における「わけだ」・「のだ」の展開
英日同時通訳のデータをつぶさに観察していると,「解釈」では分類できない「わけだ」・
「のだ」の使用例が意外と数多く見られる。通訳者が立てる解釈仮設は必ずしも後続する発話が,
先行発話についての具体的な内容に深く踏み込むことを想定しているわけではない。解釈仮説が
誘導する具体性には程度差があり,なかには「この次にはどういうことを述べるのか」という程
度のものもある。その場合にも「わけだ」・「のだ」を用いているのである。
4−1.“and”に相当する「わけだ」・「のだ」
次の例㈲・(1⑤をそれぞれ見てほしい。
(1勾
E40 as且ercely fought, with their own challenges to the popular wilL Other
J40沢山の例があります。 今回のような 大変な 戦い,そして それぞれの課題
E41 disputes have dragged on for weeks before reaching resolution, 塑
J41があったというものです。 他の騒乱もありました。 一週間もかかりました。そして
E42 each time, both the victor and the vanquished have accepted the result peacefully
J42 ようやく 決着を見ました。 それぞれの時に, 勝者も そして 敗者も
E43 and in a spirit of reconciliation. So let it be with us.
J43その結果を平和的に受け入れてきた匝]。 その和解の精神のもとにです[資料4]
一般の発話理解でも言えることだが,特に同時通訳ともなると通訳者は処理をスムーズに行える
ように,常に後続発話の展開に対して,意識的に注意を向けるものである。「だから何なのか」
といった具体的な仮設を立てるまでには至らないまでも,「原発言者はこの次に何を述べるのか」
一44一
という程度の仮説を立てることもある。何らかの理由で別の談話の展開が起こるであろうと想定
していた矢先に付加的発話が後続すると,結束性を確保しようと通訳者は意図して「わけだ」
「のだ」を述部で用いる。㈲では,原発話者が“before reaching resolution”と言い終わった段階で,
通訳者は情報の切れ目を意識し訳出をはじめている。それと同時に,後続する発話では新たな情
報が来ると課題設定し注意を向けていたはずである。その直後,原発言者はポーズをおいて
“and each time”と続けて推論への制約をかけた。通訳者は論理的含意を情報付加と判断し,先行
している訳出表現との結束性を確保しようと意図し,「のだ」メタ表象していることがわかる。
4−2.“but”に相当する「わけだ」・「のだ」
Sしで先行発話に対しbutを用いて反意的,反立的発話が後続している場合にも,結束性を確保
するメタ表象「わけだ」・「のだ」を用いている。
(1の
EO212 量egitimate use of our military power?[B]:Yes, I think it孟s, absoluteiy. I don’t think
JO212 しなければ, このまま居座っていたと。
EO213 he would had fallen had we not used force. And I know there’s some in my party that
JO213 [B]:はい,私は そうだと思います。 我々が 力を使わなければ,
EO214 disagreed with thaI sentiment,堅Isupported the president. I thought he made the
JO214 ミロシェビッチ 大統領は,辞任には追い込まれなかったでしょう。まあ,
EO215 right decision to do so. I didn’t think he necessarily made the right decision to take
JO215 この決定を アメリカ政府が 出したときに, 私は
EO216 1and troops off the table right be60re we committed ourselves offensively, but
JO216それを支持した[璽]ね・ [資料5]
(1⑤では“And I㎞ow there’s some in my party that disagreed with that sentiment”の箇所で訳出のタイ
ミングがずれてしまい,時間が押し迫っているために通訳者は訳出していない。その次の情報を
待って整合性をつけようとし解釈仮設を立てたかも知れないが,Sしでは“but”と続いた。通訳
者は反立的な情報が続くと判断し,「わけです」を用いて訳出することで結束性を確保しようと
メタ表象している。
(17)
EO892 not the most efficient way to get people health care. But I want to remind you, the
JO892 47億ドルを 使ってですね, え,ヘルスケアの,お,保険を持たない人のため
EO893 number of uninsured
in America during their watch has increased. And so he
一45一
JO893 に 支援をしているんです。
EO894 can make any excuse that he wants, h玉些the facts are that we’re reducing the
JO894 まあ, なんとでも
EO895 number of uninsured as a percentage of our population and as a percentage of
JO895 おっしゃれるんでしょうけれども, あの, テキサスでは, 市民の 中で
EO896 the population is increasing nationally, But somehow the allegation that we don「t
JO896保険に 入って いない, その数を減らしてきた区壺]。 [資料5]
⑳の場合,“And so he can make any excuse that he wants,”を聞いて,しばらく訳出にポーズがあ
る。この間,通訳者は先行文脈から,「次の発話で原発言者は反論しようとしているかもしれな
い」と通訳者は解釈仮設を立てるが,まだ訳出するほど確信にはいたっていなかったのであろう。
次の発話でどのような情報がくるのか待っている。その後,通訳者は“but”を聞いてようやく反
論であると確信することができたらしく,“And so he can make any excuse that he wants,”に相当
する箇所を「まあ,なんとでもおっしゃれるんでしょうけれども」と訳出しはじめ,そのセンテ
ンスに「んです」を用いて結束性の確保をメタ表象している。
4−3.関係代名詞に相当する「わけだ」・「のだ」
何らかの解釈を与えるには前提となる事象がある。04)では表現主体が了解した上で課題設定す
るsemantic−pragmatic levelなものを扱ったが,そればかりではない。英日の同時通訳では文法構
造レベルsurface structure levelでもおこる。言語の組み合わせからSしの英語での関係詞節など不
可避的に文法構造の違いが生じる。原発言者は事象認知とそれを反映する情報の展開を維持すべ
く,原発言の情報構造に沿った訳出をすることが多い。その際,Sしでの先行詞(句)は船山
(1997)のいう「不確定認知要素」として機能して新情報が来ることを予告するマーカーとして
Tしで訳出しつつ,「どのような新情報がくるか」という解釈仮設を立てる。通訳者はSしの関係
詞節を聴取しながら,それが新情報を与えると同時に,仮説に対する答えだと理解し新たなセン
テンスとして訳出するものと考えられる。
(1鋤
E26 THAT ROAD. IN ADDI皿ON, AS YOU KNOW, WE HAVE TO CONCLUDE WORK ON
J26 え一,それからさらに,
E27 KYOTO KEY ELEMENTS THAT WERE AGREED IN THE VERY PRODUCTIVE
J27 我々は, もっと,お, この一 いろいろな
E28 MEETING IN AH, IN WHICH THE JAPANESE GOVERNMENT DID SUCH
一46一
J28
京都での生産的な会議で, これは日本政府が非常に活躍したのですけれども,
E291MPORTANT WORK. THOSE INCLUDE THE MECHANISMS THAT ALLOW US
J29 そこで決まった鍵となるような主要な事を,この作業も詰めていか
E30 TO AH TAKE ON THIS GLOBAL PROBLEM IN A COST−EFFECTIVE WAY.
J30 なければなりません。それはいろいろなそのメカニズムですね一,これをコスト効果のよい
E31
J31やり方でできるようにしょうという[のでづ]。どんな問題であれ,使えるお金が…[資料3]
⑯では,Sしにおける“that”節の箇所を,通訳者はTしで,「不確定認知要素」である“THE
MECHANISMS”についての具体的な展望を述べる新たなセンテンスとして訳出していることが
わかる。通訳者は「いろいろなそのメカニズムですね」と訳しつつ,同時に「どういうメカニズ
ムか」という仮説を立てたと考えられる。Sしの関係詞節が先ほど立てた仮説への「解説」をお
こなっているという通訳者主観的な判断が,メタ表象「のです」に反映されている。
4−4.付け足し,言い換えの「わけだ」・「のだ」
通訳者は先行発話までを訳し終え,次の発話でどのような情報がくるのかと談話の展開に備え
ることはこれまでに述べてきた。ところが,何らかの理由で直前の訳では不十分ではないかと不
安が生じ,通訳者が「訳し忘れた」と判断したり,「言い換えなくては」と判断した場合にも,
「わけだ」・「のだ」を用いることがある。
(19)
EO338 it or not, we are now the the United States is now the natural leader
JO338お互いに 近くなっている。 好むと 好まざるとに 関わらず,アメリカは
EO339 0f the world. All these other countries are Iooking to us. Now, just
JO339 いまは, 世界の 指導者なのです。 そして,世界が我々のほうに目を
EO340 because we cannot be involved everywhere, and shouldn’t be, doesn’t
JO340向けている。いろうしゃ,指導者として,目を向けている匹壺]。[資料5]
⑳
EO769 And we can enforce law. Buuhere seems to be a Iot of preoccupation on,
JO769 あの, 文化を,促進していかなけ,なければならない。もちろん法律を
EO770 not necessa盃ly in this debate, but just in general on law. But there’s a larger
JO770 実施するということは 大切なことなんですけれども,そういう文化を創ってゆく
一47一
EO771 1aw:Love your neighbor like you’d like to be loved yourself And thaゼs where
JO771 ということが大切だと思います。 しかし法律はありますよ。
EO771 0ur society must head if we電re going to be a peaceful
and prosperous society・
JO771隣人を愛せよという,もっとそれ以前の法律,
EO772 [G]:Ialso believe in the Golden Rule,
JO772があるわけですよね,法がある[亟]・ [資料5]
(19では通訳者が,「世界が我々のほうに目を向けている」だけでは十分に伝わっていないと判断
したのであろう。通訳者は,欠けている要素を付加しようとしたのであるが,その矢先,「いろ
うしゃ」と自らの想定にはない訳語を発話してしまった。この間違いに気がついた通訳者は,急
いで訂正すべく「指導者」といいなおし,「んです」を用いることで結束性を確保しようとメタ
表象していることがわかる。⑳では,「もっとそれ以前の法律」と述べたあとポーズを置いてい
る。ここから「以前の」という訳語で果たしてSしの“the larger law”を上手く伝えきったか,内
省していると思われる。しかし上手く判断がつかなかったのか,理由はこのデータを見る限り説
明することは出来ない。抽象化した「法」と言い直すことで情報を付加し,「わけです」を用い
ることで,聞き手に対して不安を与えずに結束性を確保しようと通訳者はメタ表象している。
4−4.Sしでの論理関係が非明示的な場合の「わけだ」・「のだ」
4−1∼4−3にて扱ったのは,SL表面構造でその論理関係が明示されている「わけだ」「のだ」で
あった。ところが,Sしでは論理関係が明示されていなくてもTしで「わけだ」「のだ」を用いる
例も数多く見られる。その場合,SL発話での問題となる箇所の明示された論理的つながりや接
続などの情報がないために通訳者自身が解釈して復元していかなくてはならない。
⑳
E52 President−elect Bush inherits a nation whose citizens will be
J52 しかしそんな必要はないと私は思っています。 次期大統領となった
E53 ready to assist him
J53 ブッシュ氏は
in the conduct of his large responsibilities・
このアメリカの国, アメリカの国民, 自分の
E54 1personally will be at his disposal and I call on all
J54大きな責任を支持してくれる国民とともに受け入れることになります。私も彼の
E55 Americans I particularly urge all who stood with us to unite
J55 ためにできることをしたいと考えています。また全部のアメリカ人国民, 私達と
一48一
E56 behind our next resident. This is America.
J56 ともに 戦った人たちにも 一致団結を,次の大統領の元で 結束することを呼びかける
E57 Just as we fight hard when the stakes are high, we close ranks and come together
J57 ものです。 ここは アメリカな[のでサ]。 [資料4]
⑳でも基本的にはこれまでのように,通訳者は原発言“Ip韻icularly urge all who stood with us to
unite behind oumext resident.”を聞いて「なぜ呼びかけるのか」と解釈仮説を立てると考えられる。
そして“This is America”という原発言がその仮説に解釈を与えているものと判断したことを
「のです」を用いてメタ表象している。
吻
E47 0f the world commun孟ty: Let no one see this contest as a sign of American
J47 私は アメリカの, また世界の人たちに対して こう言いたいのです。
E48 weakness. The strengtk of American democracy is shown most clearly through
J48 この争いをアメリカの弱さとしては見ていただきたくない,アメリカの民主主義の強さ
E49 the dif最culties it can overcome. Some have expressed concem that
J49 というのが 最も明白に, この困難なときに克服できるということに示されて
E50 the unusual naωre of this election might hamper the next president
J50 いる[のでづ]・ [資料4]
この場合,Sしでは“Ame歯an weakness.”と発話されていることから,通訳者は「どのように見
るのかを述べる」との解釈仮設を立てたとみられる。そして後続する“The strength of American”
を聞いて,反立の論理関係を認識した。「示されているのです」と訳出することで,その結束性
をメタ表象している。
以上観察してきた同時通訳データから帰納されることは,「わけだ」「のだ」は付加や反立,反
意,言い換えをも意図する発話にも用いられていることから,発話者が課題を心的に設定し,先
行発話との結束性を確保しようとメタ表象しているのではないかということである。
5、まとめ
本稿では,英日同時通訳者が日本語のモダリティ「わけだ」・「のだ」を用いて自らの訳出表
現の有意義性を確保するために,どのようにして先行文脈に対し関連付けを行うのかという,通
訳者の姿勢をメタ表象しているのか認知語用論の観点から検証した。これまでの分析結果を帰納
すると,先行研究では言及されていなかった「わけだ」「のだ」の機能を見出すこともでき,そ
の結果を以下のように統一概念で再定義できるのではないか。
㈲「わけだ」「のだ」:表現主体が前提となる(非)明示的先行文脈に基づいて解釈仮説を立
一49一
て,その課題をもとに先行文脈に対しての関連付けを復元するメタ表象で,聞き手に注意を
促すマーカーである。
このように「わけだ」「のだ」のメタ表象は多岐にわたることが以上の分析でわかった。しか
し,まだ分析すべきことはたくさん残っている。例えば本稿で扱ったのは平叙文の文末用法だけ
でしかない。その他の疑問文,否定文でも「わけだ」「のだ」は多用されている。そのほかにも
本稿ではあえて取り扱わなかったが,Sしの英語のいわゆる相関構文にも「わけだ」「のだ」を用
いて訳出している。これらを網羅して分析するには稿を改めなくてはならない。
[同時通訳資料]
1.ニエル・ヤーギン:「市場」対「国家」:1998年11月16日NHK BS l
2.トーレ・ゴダール:マラリア対策:1998年8月24日 NHK BS 1
3.レイフ・ポメランス:温暖化防止国際会議:1998年11月13日 NHK BS 1
4.アル・ゴア:敗北宣言:2000年12月13日 CNN
5.ジョージ・W・ブッシュ,アル・ゴア:アメリカ合衆国大統領選挙討論会 第二回:2000
年10月12日目HK BS1
*資料1,2,3は宮畑一範編(2000)『同時通訳における情報フローの認知言語学的検
証:平成10−11年度科学研究費補助金(研究基盤(C)(2)研究成果報告書)』(大阪府立大学
総合科学部)より。資料4,5は船山仲他編(2002)『同時通訳における対訳遅延の認知
言語学的研究:平成12−13年度科学研究費補助金(基盤研究(C)(2)研究成果報告書)』(大
阪府立大学総合科学部)より引用した。
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43−57。
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船山仲他(2000)「同時通訳の認知的側面を構成する要素について」『同時通訳における情報フ
ローの認知言語学的検証:平成10−11年度科学研究費補助金(基盤研究(C)(2))研究成果報
告書」 大阪府立大学総合科学学部:3−26。
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一50一
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一51一
Metarepresentation in Simultaneous Interpretation
Cognitive Pragmatic approach
Yoshihiro MINAMITSU
This study aims to examine the usefulness of the Principle of Securing Meaningfulness that
FUNAYAMA (2000) suggested, where interpreters intend to make all expressions in their
translations meaningful.
It has been pointed out that simultaneous interpreters frequently use the two expressions:
"WAKEDA" and "NODA". Here, through the scrutiny of actual English-Japanese
Simultaneous Interpreting data, and seeking what kind of intention they have when they use
these forms of Japanese modality, I aim to propose an alternative to the "explanation"
function of these two modality, based on Sperber and Wilson's theoretical framework of
metarepresentation is argued for.
-52-
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